(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050965
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】自走式研削装置および自走式研削方法、ならびに金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 27/00 20060101AFI20220324BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20220324BHJP
B24B 27/033 20060101ALI20220324BHJP
G01S 3/789 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B24B27/00 L
B24B49/10
B24B27/033 A
G01S3/789
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157175
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】枡田 健太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 成人
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034BB93
3C034CA11
3C034CA30
3C034CB04
3C158AA03
3C158AA12
3C158AA14
3C158AA16
3C158AC02
3C158BA07
3C158BB02
3C158BC02
3C158CA01
3C158CB01
(57)【要約】
【課題】自己位置制御に関して精度が高く、かつ研削部分の深さを調整して均一化できるとともに、狙い研削深さに対して精度良く研削することができ、さらに研削深さの急峻な変化を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】自走式研削装置300は、金属板10上を走行する台車14と、台車14に搭載され、研磨工具を金属板10に接触させて研削する研削部22と、研削部22を金属板10の表面と平行な二軸方向に走査させる走査アクチュエータ15と、研削部22を金属板10に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータ16と、制御部19とを有し、制御部19は、研削部22により金属板10の表面を研削する際に、走査アクチュエータ15の走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御し、かつ昇降アクチュエータ16の押付荷重を走査アクチュエータ15の動きと連動してセットアップするように制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置測定手段からの情報に基づいて金属板上を自走し、金属板表面を研削する自走式研削装置であって、
金属板表面上を走行する台車と、
前記台車に搭載され、研磨工具を前記金属板に接触させて研削する研削部と、
前記研削部を前記金属板の表面と平行な方向に走査させる走査アクチュエータと、
前記研削部を昇降させ、前記研削部を前記金属板に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータと、
前記走査アクチュエータの走査と前記昇降アクチュエータの押付荷重を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記研削部により前記金属板の表面を研削する際に、前記走査アクチュエータの走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御するとともに、前記昇降アクチュエータの押付荷重を前記走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御することを特徴とする自走式研削装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記走査アクチュエータの前記研削開始位置から前記研削定常部までの走査速度をV0、前記研削定常部の移動速度をV1とした場合に、前記走査アクチュエータの走査速度がV0>V1となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の自走式研削装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記研削開始位置から前記研削定常部までの間の走査速度が、前記研削定常部に向けて走査速度が小さくなるような複数段階となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の自走式研削装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記昇降アクチュエータの研削開始位置の押付荷重をP0、研削定常部の押付荷重をP1とした場合に、P0≦P1となるように前記昇降アクチュエータの押付荷重を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自走式研削装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記押付荷重がP0からP1まで徐々に変化するように前記昇降アクチュエータを制御することを特徴とする請求項4に記載の自走式研削装置。
【請求項6】
前記研削部の前記研磨工具は、研磨布紙を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の自走式研削装置。
【請求項7】
前記研削部の前記研磨工具は、前記研磨布紙を研削方向に対して垂直方向に複数枚積層して構成されることを特徴とする請求項6に記載の自走式研削装置。
【請求項8】
位置測定手段からの情報に基づいて金属板上を自走する自走式研削装置により、金属板表面を研削する自走式研削方法であって、
前記自走式研削装置は、金属板表面上を走行する台車と、前記台車に搭載され、研磨工具を前記金属板に接触させて研削する研削部と、前記研削部を前記金属板の表面と平行な方向に走査させる走査アクチュエータと、前記研削部を昇降させ、前記研削部を前記金属板に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータとを有し、
前記研削部により前記金属板の表面を研削する際に、前記走査アクチュエータの走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御するとともに、前記昇降アクチュエータの押付荷重を前記走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御することを特徴とする自走式研削方法。
【請求項9】
前記走査アクチュエータの前記研削開始位置から前記研削定常部までの走査速度をV0とし、前記研削定常部の走査速度をV1とした場合に、前記走査アクチュエータの走査速度をV0>V1となるように制御することを特徴とする請求項8に記載の自走式研削方法。
【請求項10】
前記研削開始位置から前記研削定常部までの間の走査速度が、前記研削定常部に向けて走査速度が小さくなるような複数段階となるように制御することを特徴とする請求項8に記載の自走式研削方法。
【請求項11】
前記昇降アクチュエータの研削開始位置の押付荷重をP0、研削定常部の押付荷重をP1とした場合に、P0≦P1となるように前記昇降アクチュエータの押付荷重を制御することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の自走式研削方法。
【請求項12】
前記押付荷重がP0からP1まで徐々に変化するように前記昇降アクチュエータを制御することを特徴とする請求項11に記載の自走式研削方法。
【請求項13】
前記研削部の前記研磨工具として、研磨布紙を用いることを特徴とする請求項8から請求項12のいずれか一項に記載の自走式研削方法。
【請求項14】
前記研削部の前記研削工具として、前記研磨布紙を研削方向に対して垂直方向に複数枚積層して構成されたものを用いることを特徴とする請求項13に記載の自走式研削方法。
【請求項15】
表面に疵が存在する金属板に対して、位置測定手段からの位置情報に基づいて金属板上を自走する自走式研削装置により、該疵の研削除去を行って金属板を製造する金属板の製造方法であって、
前記自走式研削装置は、金属板表面上を走行する台車と、前記台車に搭載され、研磨工具を前記金属板に接触させて研削する研削部と、前記研削部を前記金属板の表面と平行な方向に走査させる走査アクチュエータと、前記研削部を昇降させ、前記研削部を前記金属板に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータとを有し、
前記研削部により前記金属板の表面を研削する際に、前記走査アクチュエータの走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御するとともに、前記昇降アクチュエータの押付荷重を前記走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御することを特徴とする金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内で金属板上を自走して金属板の研削を行う自走式研削装置および自走式研削方法、ならびに金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厚板鋼材等の金属板の表面に存在する疵の手入れを自動的に行う研削装置としては、厚板鋼材の両側にレール等のリニアスライド装置を敷設し、このガイドに沿って厚板の圧延方向(長手方向)を走行する台車に、幅方向に移動可能なスライダに1つまたは複数の研削装置を設けた門型研削装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【0003】
特許文献1,2に示されたような門型研削装置は、装置全体が大型になり、しかも、既存の工場のレイアウトを含めた極めて大掛りな投資を必要とする。
【0004】
特許文献3には、事前に厚板鋼材表面の疵位置を、ワイヤを経由して研削装置に入力し、その位置情報のもとに研削装置を移動させて疵の研削手入を行う自走式表面研削装置が提案されている。これにより、特許文献1および特許文献2の装置よりも小型化できるとされている。
【0005】
しかし、特許文献3に示された自走式表面研削装置は、装置自体を小型化することができるが、次のような問題がある。事前に疵位置を入力する必要があるため、研削装置への位置情報および疵深さ情報の事前計測とその入力作業などの付随作業を必要とする。リニアスライド装置、軌道レール等の付帯装置を敷設しないことを前提とした場合、厚板鋼材表面における研削装置の自己位置を十分な精度で測定できない。装置を疵位置に導く必要性から、厚板鋼材の長手方向に敷設される台車と軌道レールが必要になり、その付帯作業が発生する。また、疵位置情報の精度は、この台車用軌道レールの敷設時精度の影響を受けるため、厚板サイズの変更や厚板反転時、あるいは新しい厚板ごとに軌道レールを設置する必要があり、極めて煩雑な作業を伴う。
【0006】
そこで、特許文献4には、三角測量の原理に基づいて屋内空間内での自己位置測定を行う屋内位置測定システムを構成し、屋内位置測定システム信号を発信または受信する航法用信号発信機もしくは航法用信号受信機を、研削装置を備えた台車に設置し、屋内位置測定システム信号を用いて自己位置を認識し、かつ疵位置を教示する自走式研削装置が提案されている。この技術によれば、教示された疵位置に基づいて、金属板のマーキングや画像処理用のマークを用いることなく、金属板上における台車の位置および角度を高精度で認識することができ、そのように認識した自己位置と目標位置からの偏差を演算し、その偏差に応じて台車を所定の目標位置に自律走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51-58988号公報
【特許文献2】特開昭52-111093号公報
【特許文献3】特開昭62-124864号公報
【特許文献4】特開2018-75707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献4の自走式研削装置は、屋内位置測定システムを用いて予め測定した情報に基づいて、金属板の表面に分散して存在する疵を高精度でかつ煩雑な作業を伴うことなく短時間で手入れすることができるが、研削部分の深さの違いにより段差が生じ、研削後の品質を十分に保てないことがある。
【0009】
また、重研削時に研削開始時から狙い研削深さに合わせて押付荷重を設定すると研削端部に「段付き」ができてしまい、一方、工具の送り速度を遅くすることで狙い研削深さを達成する方法では研削効率の低下が避けられない。
【0010】
研削深さは送り速度変更点付近において変わるので、特に、定常部の狙い研削深さをより深くする重研削時にはそれが急峻で研削目として目で見てわかる程度に現われてしまう懸念があり、研削深さの急峻な変化を抑制することが求められる。
【0011】
したがって、本発明は、自己位置制御に関して精度が高く、かつ研削部分の深さを調整して均一化できるとともに、狙い研削深さに対して精度良く研削することができ、研削深さの急峻な変化を抑制することができる自走式研削装置および自走式研削方法、ならびに金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)~(15)を提供する。
【0013】
(1) 位置測定手段からの情報に基づいて金属板上を自走し、金属板表面を研削する自走式研削装置であって、
金属板表面上を走行する台車と、
前記台車に搭載され、研磨工具を前記金属板に接触させて研削する研削部と、
前記研削部を前記金属板の表面と平行な方向に走査させる走査アクチュエータと、
前記研削部を昇降させ、前記研削部を前記金属板に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータと、
前記走査アクチュエータの走査と前記昇降アクチュエータの押付荷重を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記研削部により前記金属板の表面を研削する際に、前記走査アクチュエータの走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御するとともに、前記昇降アクチュエータの押付荷重を前記走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御することを特徴とする自走式研削装置。
【0014】
(2) 前記制御部は、前記走査アクチュエータの前記研削開始位置から前記研削定常部までの走査速度をV0、前記研削定常部の移動速度をV1とした場合に、前記走査アクチュエータの走査速度がV0>V1となるように制御することを特徴とする(1)に記載の自走式研削装置。
【0015】
(3) 前記制御部は、前記研削開始位置から前記研削定常部までの間の走査速度が、前記研削定常部に向けて走査速度が小さくなるような複数段階となるように制御することを特徴とする(1)に記載の自走式研削装置。
【0016】
(4) 前記制御部は、前記昇降アクチュエータの研削開始位置の押付荷重をP0、研削定常部の押付荷重をP1とした場合に、P0≦P1となるように前記昇降アクチュエータの押付荷重を制御することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の自走式研削装置。
【0017】
(5) 前記制御部は、前記押付荷重がP0からP1まで徐々に変化するように前記昇降アクチュエータを制御することを特徴とする(4)に記載の自走式研削装置。
【0018】
(6) 前記研削部の前記研磨工具は、研磨布紙を有することを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の自走式研削装置。
【0019】
(7)前記研削部の前記研磨工具は、前記研磨布紙を研削方向に対して垂直方向に複数枚積層して構成されることを特徴とする(6)に記載の自走式研削装置。
【0020】
(8)位置測定手段からの情報に基づいて金属板上を自走する自走式研削装置により、金属板表面を研削する自走式研削方法であって、
前記自走式研削装置は、金属板表面上を走行する台車と、前記台車に搭載され、研磨工具を前記金属板に接触させて研削する研削部と、前記研削部を前記金属板の表面と平行な方向に走査させる走査アクチュエータと、前記研削部を昇降させ、前記研削部を前記金属板に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータとを有し、
前記研削部により前記金属板の表面を研削する際に、前記走査アクチュエータの走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御するとともに、前記昇降アクチュエータの押付荷重を前記走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御することを特徴とする自走式研削方法。
【0021】
(9)前記走査アクチュエータの前記研削開始位置から前記研削定常部までの走査速度をV0とし、前記研削定常部の走査速度をV1とした場合に、前記走査アクチュエータの走査速度をV0>V1となるように制御することを特徴とする(8)に記載の自走式研削方法。
【0022】
(10)前記研削開始位置から前記研削定常部までの間の走査速度が、前記研削定常部に向けて走査速度が小さくなるような複数段階となるように制御することを特徴とする(8)に記載の自走式研削方法。
【0023】
(11)前記昇降アクチュエータの研削開始位置の押付荷重をP0、研削定常部の押付荷重をP1とした場合に、P0≦P1となるように前記昇降アクチュエータの押付荷重を制御することを特徴とする(8)から(10)のいずれかに記載の自走式研削方法。
【0024】
(12)前記押付荷重がP0からP1まで徐々に変化するように前記昇降アクチュエータを制御することを特徴とする(11)に記載の自走式研削方法。
【0025】
(13)前記研削部の前記研磨工具として、研磨布紙を用いることを特徴とする(8)から(12)のいずれかに記載の自走式研削方法。
【0026】
(14)前記研削部の前記研削工具として、前記研磨布紙を研削方向に対して垂直方向に複数枚積層して構成されたものを用いることを特徴とする(13)に記載の自走式研削方法。
【0027】
(15)表面に疵が存在する金属板に対して、位置測定手段からの位置情報に基づいて金属板上を自走する自走式研削装置により、該疵の研削除去を行って金属板を製造する金属板の製造方法であって、
前記自走式研削装置は、金属板表面上を走行する台車と、前記台車に搭載され、研磨工具を前記金属板に接触させて研削する研削部と、前記研削部を前記金属板の表面と平行な方向に走査させる走査アクチュエータと、前記研削部を昇降させ、前記研削部を前記金属板に垂直に所与の押付荷重で押付ける昇降アクチュエータとを有し、
前記研削部により前記金属板の表面を研削する際に、前記走査アクチュエータの走査速度を、研削開始位置と研削定常部で変化させるように制御するとともに、前記昇降アクチュエータの押付荷重を前記走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御することを特徴とする金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、位置測定手段からの情報に基づいて金属板上を自走し、金属板表面を研削する自走式研削装置において、研削装置は、研削対象である金属板と研磨布紙を接触させて研削する研削部と前記金属板表面に平行な面に存在する任意の二軸方向に走査させる操作アクチュエータと前記研削部を金属板表面に接触させるための上下昇降アクチュエータを有するともに、前記の二軸方向に走査させるアクチュエータの移動速度を研削開始位置と研削定常部で変化させることにより、研削部分の深さを均一化させることが可能となる。また、併せて昇降アクチュエータの押付荷重を走査アクチュエータの動きと連動してセットアップするように制御するので、非研削部から研削開始部、研削定常部にかけて狙い研削深さに対して精度良く研削することができ、研削深さの急峻な変化を抑制することができる。このため、金属板の先端尾端においても板厚を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】自走式研削装置を含む全体システムの一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る自走式研削装置を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る自走式研削装置を示す側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る自走式研削装置を示す上面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る自走式研削装置に用いる研削部の一例を示す図である。
【
図9】実施例1における、研削開始部からの工具送り方向の距離に対する板厚の変化を示す図である。
【
図10】
図9のうち、研削開始部側の押付荷重を線形に加減算した領域Aと、研削終了部側の押付荷重を線形に加減算した領域Bの工具送り方向の板厚の遷移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<自走式研削装置を含む全体システム>
最初に本発明に係る自走式研削装置を含む全体システムについて説明する。
図1は自走式研削装置を含む全体システムの一例を示す斜視図である。
【0031】
図1に示すように、自走式研削装置を含む全体システム100は、位置測定手段としての屋内位置測定システム200と、自走式研削装置300(以下、単に研削装置300と記す)とを有する。
【0032】
本例において用いる屋内位置測定システム200は、研削装置300の位置測定手段を構成し、三角測量の原理に基づいて屋内空間での自己位置測定を行うものである。具体的には、屋内位置測定システム200は、屋内に設置された複数の航法用送信機11と、航法用受信機12と、位置演算用ソフトウェアを含むホストコンピュータ13とから構成される。
【0033】
研削装置300は、金属板上を自走して金属板の表面の微小な疵(欠陥)を研削除去(疵取り)するものであり、台車14と、台車14に設けられた、疵取対象である金属板10を研削する研削部22と、研削部22を駆動するための駆動系と、研削装置300を別途与えられる所定の目標位置に自律走行させるための制御系とを備えている。研削装置300の詳細な構成は後述する。
【0034】
屋内位置測定システム200には、例えばIGPS(Indoor Global Positioning System)を適用することができる。IGPSは、衛星航法システム(GPS:Global Positioning System)を屋内位置測定システムに適用したものである。IGPSについては、米国特許第6,501,543号明細書に詳細に記載されている。
【0035】
屋内位置測定システム200にIGPSを適用する場合は、各航法用送信機11は、回転ファンビーム(扇形ビーム)を射出する。回転ファンビームはレーザファンビームであってもよく、他の光放射手段であってもよい。航法用受信機12は研削装置300の台車14に搭載され、送信機から射出される回転ファンビームを受信する。このとき、回転ファンビームは所定の角度でずれており、これを受信する受信機の3次元座標値(以下、「座標値」という)、すなわち位置または高さを測定することができる。航法用受信機12が受信した受信情報はホストコンピュータ13に無線伝送され、ホストコンピュータ13により、三角測量の原理に従って、航法用受信機12の位置を演算する。複数の送信機11から受信した信号を用いて、また演算を繰り返すことにより、航法用受信機12を搭載した走行中の研削装置300の位置情報をリアルタイムで得ることができる。
【0036】
<研削装置>
次に、本発明の一実施形態に係る研削装置300について説明する。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に係る研削装置300を示すブロック図、
図3は研削装置300を示す側面図、
図4は研削装置300示す上面図である。
【0038】
本実施形態において、研削装置300は、上述したように、台車14と、研削部22と、研削部22を駆動するための駆動系と、研削装置300を所定の目標位置に自律走行させるための制御系とを備えている。台車14は、走行用の車輪20と、車輪を駆動および旋回させるためのモータ21とを有する。研削部22の駆動系は、研削部22を金属板10の表面に平行な方向に走査させる走査アクチュエータ15と、上下にスライドして研削部22を昇降させ、研削部22を金属板10に垂直に所与の押付荷重で押し付ける昇降アクチュエータ16とを有する。
【0039】
図2に示すように、研削装置300の制御系は、搭載コンピュータ18を有する。また、制御系は、I/Oボード17と、コントローラおよびドライバを含み、駆動制御部19とを備えている。駆動制御部19は、車輪用のモータ21、ならびに研削部22の駆動系を構成する走査アクチュエータ15および昇降アクチュエータ16を制御する。上記ホストコンピュータ13もこの制御系の一部として機能する。制御系のホストコンピュータ13以外のものは台車14に搭載される。I/Oボード17は、ホストコンピュータ13と搭載コンピュータとの間の信号の授受を行う。
【0040】
ホストコンピュータ13は、
図2に示すように、上述した屋内位置測定システム200の航法用受信機12の位置を演算するための現在位置演算用ソフトウェア31と、目標研削位置、経路情報を設定し、また搭載コンピュータ18からの検査データ、研削位置情報を評価する設定・評価ソフトウェア32とを有する。なお、研削装置300の制御系として、ホストコンピュータ13を用いずに、搭載コンピュータ18のみで制御するようにしてもよい。
【0041】
図3、
図4に示すように、研削装置300の基部は台車14により構成され、車輪20はその一方の端部近傍に設けられている。そして、台車14の車輪20に対応する部分に航法用受信機12が取り付けられている。台車14の他方の端部には、台車14の長手方向に直交する方向に延在する枠部材41が取り付けられており、走査アクチュエータ15は、金属板10の表面に平行な方向である、枠部材41の延在方向およびそれとは異なる方向(例えば枠部材41の延在方向に垂直な方向)に研削部22を走査させることが可能となっている。すなわち、金属板10の表面に平行な二軸方向に研削部22を走査させることが可能となっている。研削部22は、昇降アクチュエータ16を介して走査アクチュエータ15に取り付けられており、昇降アクチュエータ16とともに走査アクチュエータ15により走査される。
【0042】
車輪20と枠部材41との間の部分には、研削装置300を金属板10に固定するための固定部42が設けられている。固定部42は例えば電磁石からなる。台車14の固定部42に対応する部分には、従動車輪43が設けられている。従動車輪43は、駆動側の車輪20の動きに応じて自由に向きを変えることが可能となっている。
【0043】
搭載コンピュータ18は、駆動制御部19と一体となって、台車14の車輪20側端部に載置されている。
【0044】
研削部22は、例えば、研磨工具を金属板10に接触させて金属板10を研削するものである。研磨工具としては研磨布紙を用いることができる。研磨布紙は、基材に研磨材(砥粒)を接着剤で固定して構成される。基材としては、不織布、布、紙、メッシュ等が挙げられる。研磨布紙は可撓性を有するため、研削部分の深さの違いによる段差を軽減できる。
【0045】
研磨工具として研磨布紙を用いる場合には、研削部22は、例えば
図5に示すように構成することができる。すなわち、研削部22としては、研磨布紙をディスク状にくりぬいた薄い研磨布紙ディスク51を研削方向に対して垂直方向に複数枚積層して構成される研磨工具50を有するものとすることができる。この場合、研削部22は、研磨工具50の両側をディスクホイール52で固定し、支持部53に回転可能に取り付けることにより構成され、研磨工具50を回転機構(図示せず)により回転させることにより金属板10を研削することができる。研磨布紙をエンドレスベルト状にして研削部を構成してもよい。ただし、この場合は、研磨布紙ディスク51を研削方向に対して垂直方向に複数枚積層する構成よりも大型となり、寿命も短くなる。
【0046】
研削装置300は、目標ルートに沿って自律走行する機能と、金属板10の疵取りを行う機能の2つの機能を有する。
【0047】
前者の機能については、例示した屋内位置測定システム200のような位置測定手段からの情報に基づいて、搭載コンピュータ18、駆動制御部19、車輪20、およびモータ21が担う。すなわち、前述のホストコンピュータ13における演算結果である研削装置300の位置情報および目標研削位置に関する情報は、それぞれ無線通信により搭載コンピュータ18に無線伝送され、搭載コンピュータ18において目標研削位置に対する現在位置の偏差を演算する。同偏差のうち研削装置300の位置に依存する偏差が0となるように、駆動制御部19から車輪用のモータ21に速度指令等の制御信号を出力して、車輪20の速度およびステアリング角度のフィードバック制御を行うことで目標走行ルートに沿った自律走行を行わせる。
【0048】
後者の機能については、金属板10と接触させて研削を行う研削部22、研削部22を走査させる走査アクチュエータ15、研削部22を金属板10に押し付ける昇降アクチュエータ16、搭載コンピュータ18、および駆動制御部19が担う。すなわち、搭載コンピュータ18においてホストコンピュータ13からの目標研削位置と現在台車位置情報より、研削部22を走査する走査アクチュエータ15の必要走査量を演算し、駆動制御部19はその必要走査量分だけ走査アクチュエータ15を走査させ、研削部22を初期位置に設定する。走査アクチュエータ15の位置情報は搭載コンピュータ18にフィードバックされ、台車現在位置情報と合わせて研削位置情報として演算される。疵取りのための研削データはI/Oボード17を介して搭載コンピュータ18に取り込み、研削位置情報と合わせて、ホストコンピュータ13に無線送信する。
【0049】
実際の研削の際には、研削装置300を停止させ、例えば電磁石からなる固定部42により研削装置300を金属板10に固定し、昇降アクチュエータ16を下方にスライドさせて研削部22の研磨工具を金属板10に押し付ける。そして、駆動制御部19による制御に基づいて、走査アクチュエータ15により研削部22を金属板10表面に平行な方向、例えば二軸方向に走査させることにより、金属板10表面の疵を含む部分を研削除去する。
【0050】
このとき、駆動制御部19は、研削部22により金属板10を研削する際に、二軸方向に走査させる走査アクチュエータ15の走査速度を、研削開始位置と研削定常部とで変化させるように制御するとともに、昇降アクチュエータ16の押付荷重を走査アクチュエータ15の動作と連動してセットアップするように制御する。ここで、研削定常部とは、所定の研削深さで均一に研削することを目標とした部分をいう。
【0051】
研削開始位置から定常部までの間(研削開始部)の走査速度(移動速度)をV0とし、研削定常部での走査速度(移動速度)をV1とすると、V0>V1となるように制御することが好ましい。また、研削開始位置の押付荷重をP0、研削定常部の押付荷重をP1とすると、P0≦P1となるように押付荷重を設定することが好ましい。このとき、P0からP1まで徐々に押付荷重を変化させることが好ましい。
【0052】
また、研削開始位置から研削定常部までの間(研削開始部)の走査速度(移動速度)を、定常部に向けて走査速度が小さくなるような複数段階としてもよい。例えば、研削開始位置を含む第1段階の走査速度をV01、その後の第2段階の走査速度をV02とする場合、V01>V02>V1としてもよい。
【0053】
また、走査アクチュエータ15の走査速度を、研削定常部と研削終了部とで変化させるように制御するとともに、昇降アクチュエータ16の押付荷重を走査アクチュエータ15の動作と連動してセットアップするように制御してもよい。この場合に、研削定常部終了位置から研削終了位置までの間(研削終了部)の走査速度(移動速度)をV2とすると、V2>V1となるように制御することが好ましい。また、研削終了位置の押付荷重をP2とすると、P2≦P1となるように押付荷重を設定することが好ましく、P1からP2まで徐々に押付荷重を変化させることが好ましい。さらに、研削定常部終了位置から研削終了位置までの間(研削終了部)の走査速度(移動速度)を、研削終了位置に向けて走査速度が大きくなるような複数段階としてもよい。
【0054】
<研削動作>
次に、研削装置300における疵取り動作について説明する。
【0055】
最初に、金属板10の位置および姿勢情報を取得し、金属板10の座標系を設定する。次いで、目標疵取り位置を含む目標疵取り範囲の教示(マッピング)を行う。この際には、適宜の手段により金属板10の疵を検出して金属板10上の疵の位置を認識するとともに、それに基づいて、疵取り範囲を設定する。
【0056】
次に、目標疵取り経路を設定し、位置測定手段である屋内位置測定システム200からの情報に基づいて、研削装置300を、金属板10上の目標疵取り経路に沿って自走させ、研削を行う。
【0057】
このとき、ホストコンピュータ13における演算結果である研削装置300の位置情報および目標研削位置に関する情報は、それぞれ位置測定手段である屋内位置測定システム200から無線通信により搭載コンピュータ18に無線伝送され、搭載コンピュータ18において目標研削位置に対する現在位置の偏差を演算する。その偏差に基づいて、研削装置300を所定の目標位置に自律走行させるように制御する。より具体的には、同偏差のうち研削装置300の位置に依存する偏差が0となるように、駆動制御部19から車輪用モータ21に速度指令等の制御信号を出力して、車輪20の正転・逆転・停止を指示するとともに、車輪20の速度、ステアリング角度のフィードバック制御を行うことで目標走行ルートに沿った自律走行を行う。
【0058】
そして、目標疵取り位置近傍で、研削装置300を停止させ、例えば電磁石からなる固定部42により研削装置300を固定し、走査アクチュエータ15により研削部22を目標疵取り位置の初期位置に設定する。次いで、昇降アクチュエータ16を下方にスライドさせて研削部22を金属板10に押し付ける。この状態で、走査アクチュエータ15により研削部22を金属板10表面に平行な二軸方向に走査させるとともに、金属板10表面を研削し、表面の疵を除去する。
【0059】
この際に、駆動制御部19は、走査アクチュエータ15の走査速度(移動速度)を、研削開始位置と研削定常部とで変化させるように制御するとともに、昇降アクチュエータ16の押付荷重を走査アクチュエータ15の動作と連動してセットアップするように制御する。
【0060】
このように、走査アクチュエータ15を金属板10表面に平行な二軸方向に走査させるようにし、その走査速度(移動速度)を研削開始位置と研削定常部とで変化させることにより、研削部分の深さを調整して均一化することが可能となる。また、併せて、走査アクチュエータ15の走査速度の変更に連動させて、昇降アクチュエータ16の押付荷重を、走査アクチュエータ15の動作と連動させてセットアップ制御することにより、狙い研削深さに対して精度良く研削することができ、研削深さの急峻な変化を抑制することができる。このため、金属板の先端尾端においても板厚を均一にすることができる。
【0061】
隣接する2か所において超音波厚み系による板厚を測定した際に、その差分をDμmとすると、この値が許容値D0より大きいときに「段付き」ありと判定され問題となる。一般的な研削では、研削対象となる疵の深さがD0より大きいと、非研削部と研削部との板厚差分DがD>D0となり「段付き」と判定される。本実施形態では、上記構成により、非研削部と研削開始部、研削開始部と研削定常部のそれぞれの板厚差分をD1、D2(D=D1+D2)とした場合に、D1<D0かつD2<D0とすることができ、「段付き」を解消することができる。また、研削深さが深い場合等、押付荷重が一定であると、狙い研削深さで精度良く研削することが困難な場合があるが、昇降アクチュエータ16の押付荷重を、走査アクチュエータ15の動作と連動させてセットアップ制御することにより、狙い研削深さに対して精度良く研削することが可能となる。さらに、非研削部から研削定常部にかけて研削深さの急峻な変化を抑制することができる。
【0062】
研削開始位置から定常部までの間の走査速度V0と、研削定常部での走査速度V1とを、V0>V1となるように制御することが好ましい。これにより、過研削になりやすい研削開始部の研削深さを小さくすることができ、研削深さをより均一にすることができる。
【0063】
また、研削開始位置の押付荷重P0と、研削定常部の押付荷重P1とを、P0≦P1となるように設定することが好ましい。これにより、過研削になりやすい研削開始時の押付荷重を小さくして研削深さを小さくし、研削定常部で押し付け荷重を大きくして狙い研削深さにすることができる。
【0064】
さらに、P0からP1まで徐々に押付荷重を変化させることが好ましい。このように押付荷重を線形に加減算することにより、非研削部から研削開始位置を経て研削定常部にかけての研削深さがなだらかに推移し、研削端部において「段付き」をより確実に防止して高精度研削が可能となる。このため、D>2×D0となるような重研削の場合でも、非研削部から研削開始位置を経て研削定常部にかけて、どの二か所の板厚を測定してもD<D0となるような、狙い研削深さに対して精度よく、非研削部から研削定常部にかけてなだらかに研削深さを推移させることが可能となる。
【0065】
さらにまた、研削開始位置から研削定常部までの間の走査速度を、定常部に向けて走査速度が小さくなるような複数段階としてもよい。これにより、非研削部と研削定常部の板厚差分Dが大きい場合にも、「段付き」を抑制しつつ研削深さをより高精度に調整することができる。
【0066】
また、走査アクチュエータ15の走査速度を、研削定常部と研削終了位置とで変化させるように制御するとともに、昇降アクチュエータ16の押付荷重を走査アクチュエータ15の動作と連動してセットアップするように制御してもよい。これにより、研削端部である研削終了部においても研削深さを調整することが可能となるとともに、「段付き」を抑制することができる。
【0067】
この場合に、研削定常部終了位置から研削終了位置までの間の走査速度V2が、V2>V1となるように制御することが好ましい。これにより、研削終了部の研削深さも小さくすることができる。また、研削終了位置の押付荷重をP2とした場合に、P2≦P1となるように設定することが好ましい。これにより、研削終了部と定常部の研削深さを調整することができ、研削深さをより均一にすることができる。さらに、P1からP2まで徐々に押付荷重を変化させることにより、重研削の場合でも、研削定常部から研削終了部を経て非定常部にかけて高精度の研削が可能となる。さらに、研削定常部終了位置から研削終了位置までの間の走査速度を、研削終了位置に向けて走査速度が大きくなるような複数段階とすることにより、研削終了部の研削深さを小さくできるとともに、研削深さをより高精度に調整することができる。
【0068】
また、研削部22の研磨工具として可撓性を有する研磨布紙を用いることにより、研削深さを均一にする効果をより大きくすることができる。
図5に示すように、研磨布紙をディスク状にくりぬいた薄い研磨布紙ディスク51を、研削方向に対して垂直方向に複数枚積層して研削部22を構成することにより、研削部22を小型化することができ、また、寿命も長くすることができる。
【0069】
さらに、研削装置300は、位置測定手段からの情報に基づいて金属板10上を自走するものであるため、特許文献1、2のような装置全体を大型にする必要がなく小型化を実現することができ、特許文献3のような付随作業や、リニアスライド装置、軌道レール等の付帯装置、煩雑な作業が不要である。さらに、位置測定手段として屋内位置測定システム200を用いることにより、金属板のマーキングや画像処理用のマークを用いることなく、金属板上における研削装置300の位置および角度を高精度で認識することができ、かつ認識した自己位置と目標位置からの偏差を演算し、その偏差に応じて研削装置300を所定の目標位置に自律走行させるので、目標走行ルートに対する直進性を確保することができる。
【実施例0070】
ここでは、金属板として厚鋼板を用い、その表面を上記
図1に示すシステムを用いて研削した。研削装置の構成については、
図2~4に示すものを用いた。また、研削部としては
図5に示すような研磨布紙を積層した構造の研磨工具を有するものを用いた。
【0071】
本発明範囲内の実施例1として、
図6に示す条件にて研削実験を行った。
図6では、研削開始位置および研削終了位置の送り速度(走査速度)を10mm/s、定常部の送り速度(走査速度)を5mm/sとし、また、押付荷重を走査アクチュエータの走査と連動するように、研削開始位置および研削終了位置の押付荷重を30N、定常部の押付荷重を60Nとし、研削開始部側では30Nから60Nまで徐々に増加させ、研削終了部側では60Nから30Nまで徐々に減少させた。また、本発明の範囲から外れる比較例1,2として
図7、
図8に示す条件で研削実験を行った。
図7の比較例1では、研削部全体に亘り、送り速度(走査速度)を5mm/sとし、押付荷重を30Nとした。また、
図8の比較例2では、研削開始位置および研削終了位置の送り速度(走査速度)を10mm/s、定常部の送り速度(走査速度)を5mm/sとし、押付荷重は30Nと一定とし、走査速度と連動したセットアップ制御は行わなかった。
【0072】
これらについて研削部分の板厚を超音波厚み計により測定した。この場合、上述したように、隣接する2か所において板厚を測定し、その差分をDμmとすると、この値が許容値D0より大きい時に段付きありと判定され問題となる。
図7に示した比較例1の研削条件では、研削部と非研削部の境界にて研削定常部の狙い研削深さDが許容値D0(例えば100μm)を超え、段付きと判定されることが多かった。
【0073】
一方、
図8の比較例2では、工具送り速度を研削開始部で大きくなるように変更することで、非研削部―研削開始部の境界、および研削開始部―研削定常部の境界それぞれの板厚差分D1、D2がそれぞれ許容値D0(例えば100μm)未満とすることができ、ほぼ段付き判定を避けることが可能であったが、押付荷重が30Nと一定であり、走査速度と連動したセットアップ制御は行わなかったため、研削開始部と研削定常部の狙い研削深さの調整が不十分となった。
【0074】
これに対して、
図6の実施例1では、研削開始部および研削終了部と研削定常部で工具送り速度(走査速度)を調整し、押付荷重について走査速度と連動したセットアップ制御を行い、押付荷重を線形に加減算することにより、
図9に示す結果が得られた。
図9の横軸は研削開始部からの工具送り方向の距離であり、縦軸はそれぞれの点における板厚をプロットしたものである。
図9から、段付きもなく、研削開始部と研削定常部の狙い研削深さが十分調整され、かつ昇降アクチュエータの押付荷重を線形に加減算することにより非研削部から研削開始部、研削定常部にかけてなだらかに研削深さが遷移していることがわかる。
図10は研削開始部側の押付荷重を線形に加減算した領域Aと、研削終了部側の押付荷重を線形に加減算した領域Bの工具送り方向の板厚の遷移を示す図である。
図9および
図10から、隣り合う2点間の板厚差分Dはいずれも許容上限値D0未満であり、領域A、Bにおいて板厚は線形に遷移し、研削ワーク全長にわたって、段付きの発生がないことが確認された。
【0075】
次に、狙い研削深さが250μmと深い場合に、
図11に示す比較例3の条件にて研削実験を行った。
図11に示すように、研削開始部における工具の送り速度(走査速度)を段階的に変更させ(研削開始位置を含む第1段階の送り速度を15mm/s、第2段階の送り速度を10mm/s)とし、研削定常部の送り速度(走査速度)を5mm/sとし、押付荷重は30Nと一定とした。その結果、比較例3では、狙い研削深さが250μmと深くても、ほぼ段付き判定を避けることが可能であったが、押付荷重が30Nと一定であり、走査速度と連動したセットアップ制御は行わなかったため、研削開始部と研削定常部の狙い研削深さの調整が不十分であった。また、段階的に変更させる工具の送り速度は研削定常部よりも高速に設定するため、走査アクチュエータのストロークが有限であることを考慮すれば、多段速度切り替えは、研削定常部のストロークを減らしてしまうデメリットもある。
【0076】
一方、実施例2として、
図12に示すように、研削開始部および研削終了部において、
図11と同様送り速度を段階的に変化させ、
図6の実施例1と同様、押付荷重を走査アクチュエータの走査と連動するように、研削開始位置および研削終了位置の押付荷重を30N、定常部の押付荷重を60Nとし、研削開始部側では30Nから60Nまで徐々に増加させ、研削終了部側では60Nから30Nまで徐々に減少させ、狙い研削深さが800μmと極めて深い研削を行った。その結果、上述した段階的な工具送り速度設定のデメリットはあるものの、狙い研削深さが800μmと深くても、段付きもなく、研削開始部と研削定常部の狙い研削深さが十分調整され、かつ昇降アクチュエータの押付荷重を線形に加減算することにより非研削部から研削開始部、研削定常部にかけてなだらかに研削深さが遷移する研削を行うことができた。
【0077】
送り速度を段階的に変化させて研削深さを調整する場合には、速度切り替え点で段付きとならないよう、すなわち許容値D0(例えば100μm)を超えないように設定する必要がある。また送り速度を速めることで研削深さを浅くするため、多段速度切り替えは、定常研削部のストロークを減らしてしまうデメリットがある。走査速度を、徐々に加減させるなど、速度切り替えをより多段にした場合も同様で、定常研削部のストロークを減らしてしまうデメリットがある。
【0078】
図6の実施例1もしくは
図12の実施例2のように押付荷重を走査アクチュエータの走査と連動するように、研削開始部・終了部側では徐々に増加・減少させることで、定常研削部のストロークをなるべく減らすことなく、段付きもなく、研削開始部と研削定常部の狙い研削深さが十分調整され、かつ昇降アクチュエータの押付荷重を線形に加減算することにより非研削部から研削開始部、研削定常部にかけてなだらかに研削深さが遷移する研削を行うことができた。
【0079】
<他の適用>
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、研削装置自身の位置を測定する位置測定手段として、IPGSを適用した例について示したが、これに限らず、IPGSと同じ三角測量の原理に基づいたものとして、例えば、上記実施形態とは逆に、研削装置側に航法用送信機を搭載するものを用いることができる。このような例として、オフィスビル内を自律走行する清掃ロボットに搭載されたレーザ三角測量技術が挙げられる(例えば、http://robonable.typepad.jp/news/2009/11/25subaru.html参照)。具体的には、研削装置の本体に設置された航法用送信機と、屋内に設置された複数のリフレクタと、位置演算用ソフトウェアを含むホストコンピュータとから構成される屋内位置測定システムを挙げることができる。
【0080】
また、位置測定手段としては、以上のような三角測量の原理に基づいて屋内空間での自己位置測定を行う屋内位置測定システム以外に、例えば、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)等の他の測定手段を用いることもできる。
【0081】
さらに、研削装置の制御系を構成するコンピュータとして、自身に搭載されている搭載コンピュータと、位置測定手段との連携制御を行うためのホストコンピュータを用いた例を示したが、搭載コンピュータのみを用いてもよい。
【0082】
さらにまた、上記実施形態では、走査アクチュエータが研削部を金属板の表面に沿った二軸方向に走査させる例を示したが、金属板の表面に沿った任意の方向に走査できれば二軸方向に限定されず、一軸方向に走査可能な構成であってもよい。