(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051044
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】中空スプラインシャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 3/02 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
F16C3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157297
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】591275687
【氏名又は名称】ナミテイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村尾 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】村尾 耕一
(72)【発明者】
【氏名】村尾 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小山田 憲
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 充則
(72)【発明者】
【氏名】田中 匠
(72)【発明者】
【氏名】中西 崇
【テーマコード(参考)】
3J033
【Fターム(参考)】
3J033AA01
3J033AB03
3J033AC01
3J033BA01
3J033BA07
3J033BC02
(57)【要約】
【課題】中空スプラインシャフトを製造するにあたり、フローティングプラグを用いてパイプコイル材の全長引抜加工を行うものとし、所定の減面率となるようにパイプ材の内径及び外径を制御して、中空孔を円形状に保持することで、軽量で且つねじり強さが高く、高品質で生産性良好な中空スプラインシャフト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の中空スプラインシャフト1は、軸心方向に貫通状の孔部6が形成された長尺のパイプコイル材5を元に芯引き加工で製造される中空スプラインシャフト1であって、中空スプラインシャフト1の外周面には、ダイス7を用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部2と凹条部3とが交互に形成されていて、中空スプラインシャフト1の中心には、芯材8を使用した引抜加工により、軸心方向に沿って貫通状に円形状の中空孔4が形成されていて、中空スプラインシャフト1は、所定の減面率X,Yを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向に貫通状の孔部が形成された長尺のパイプ材を元に芯引き加工で製造される中空スプラインシャフトであって、
前記中空スプラインシャフトの外周面には、ダイスを用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部と凹条部とが交互に形成されていて、
前記中空スプラインシャフトの中心には、芯材を使用した引抜加工により、軸心方向に沿って貫通状に円形状の中空孔が形成されていて、
前記中空スプラインシャフトは、所定の減面率を有する
ことを特徴とする中空スプラインシャフト。
【請求項2】
前記パイプ材の孔部に対する前記中空スプラインシャフトの中空孔の減面率Xを、60%以上70%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の中空スプラインシャフト。
【請求項3】
前記パイプ材に対する前記中空スプラインシャフトの減面率Yを、45%以上50%以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空スプラインシャフト。
【請求項4】
軸心方向に貫通状の孔部が形成された長尺のパイプ材を元に中空スプラインシャフトを製造するに際して、
所定の減面率を有するように制御しながら芯引き加工を行い、
前記パイプ材の外周面に、ダイスを用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部と凹条部とを交互に形成するとともに、
前記パイプ材の中心に、芯材を使用した引抜加工により、軸心方向に沿って貫通状に円形状の中空孔を形成し、
前記パイプ材の孔部に対する前記中空スプラインシャフトの中空孔の減面率Xを、60%以上70%以下とし、
前記パイプ材に対する前記中空スプラインシャフトの減面率Yを、45%以上50%以下とする
ことを特徴とする中空スプラインシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面側に凹凸が形成された円筒形状の中空スプラインシャフト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外周面側に凹凸を備えるスプラインシャフトを製造する場合、棒材にホブなどの切削加工、または、プレス成形を用いることが一般的であった。この場合、シャフトの端部から必要とされる範囲のみスプライン加工することで、加工時間、加工費用などの低減が図られている。
また近年では、顧客の要望により、スプラインシャフトの軽量化やコストダウンなどが求められる。そのため、外周面側に凹凸が形成された円筒形状の中空スプラインシャフトも製造されている。そのシャフトの中心に中空孔を設けるにあたっては、ブローチ等の切削加工、または、パイプ材のプレス成形が用いられている。
【0003】
特に、中空孔を改めて加工する必要がない、パイプ材のプレス成形は、材料ロス低減の観点からも、中空スプラインシャフトを製造する際に好適な工法である。このような中空スプラインシャフトを製造する技術としては、例えば、特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-141677号公報
【特許文献2】特開平8-109918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パイプ材をプレス成形してスプラインシャフトを製造した場合、パイプ材の外周面にスプライン歯底に相当する凹部を成形する過程で、パイプ材の内周面側を圧迫するため、その内周面側に形成される中空孔が、外周面に形成されるスプライン形状に応じた略星形の形状に変形してしまう虞がある。つまり、スプライン部分に所望のRが形成されないことや、型通りに形成されないといった問題が生じる。
【0006】
中空孔の断面が略星形形状に変形することによる問題点は、次の通りである。
(1)中空孔の略星形形状の尖端部(先端部)に応力が集中するため、スプラインシャフトにねじりモーメントが加わると、尖端部から亀裂が生じ易くなる。
(2)中空孔が略星形形状に変形することにより、加工圧が逃げてしまうので、外周面に形成されるスプライン形状の高い精度を得ることが困難となる。
【0007】
(3)中空孔が略星形形状に変形することを緩和するために、元材となるパイプ材の肉厚を増やすと、本来の目的であるシャフトの軽量化を達成することができなくなる。
また、シャフト端部より必要な長さのみスプライン加工した場合、合わせて以下のような問題が生じる。
(4)スプライン形状を設けない未加工部分に必要とされる寸法の制約があり、スプライン加工する部分の材料として加工に最適なパイプ材の内径外径を、自由に決めることができない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、中空スプラインシャフトを製造するにあたり、フローティングプラグを用いてパイプコイル材の全長引抜加工を行うものとし、所定の減面率となるようにパイプ材の内径及び外径を制御して、中空孔を円形状に保持することで、軽量で且つねじり強さが高く、高品質で生産性良好な中空スプラインシャフト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる中空スプラインシャフトは、軸心方向に貫通状の孔部が形成された長尺のパイプ材を元に芯引き加工で製造される中空スプラインシャフトであって、前記中空ス
プラインシャフトの外周面には、ダイスを用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部と凹条部とが交互に形成されていて、前記中空スプラインシャフトの中心には、芯材を使用した引抜加工により、軸心方向に沿って貫通状に円形状の中空孔が形成されていて、前記中空スプラインシャフトは、所定の減面率を有することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記パイプ材の孔部に対する前記中空スプラインシャフトの中空孔の減面率Xを、60%以上70%以下とするとよい。
好ましくは、前記パイプ材に対する前記中空スプラインシャフトの減面率Yを、45%以上50%以下とするとよい。
本発明にかかる中空スプラインシャフトの製造方法は、軸心方向に貫通状の孔部が形成された長尺のパイプ材を元に中空スプラインシャフトを製造するに際して、所定の減面率を有するように制御しながら芯引き加工を行い、前記パイプ材の外周面に、ダイスを用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部と凹条部とを交互に形成するとともに、前記パイプ材の中心に、芯材を使用した引抜加工により、軸心方向に沿って貫通状に円形状の中空孔を形成し、前記パイプ材の孔部に対する前記中空スプラインシャフトの中空孔の減面率Xを、60%以上70%以下とし、前記パイプ材に対する前記中空スプラインシャフトの減面率Yを、45%以上50%以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の中空スプラインシャフト及びその製造方法によれば、軽量で且つねじり強さが高く、高品質で生産性良好な中空スプラインシャフトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の中空スプラインシャフトと、その元となるパイプコイル材を模式的に示した斜視図である。
【
図2】本発明の中空スプラインシャフトの断面と、その元となるパイプコイル材の断面を示した図であり且つ、中空スプラインシャフトの減面率X,Yの概要を示した図である。
【
図3】中空スプラインシャフトの減面率X,Yの定義について示した図である。
【
図4】中空スプラインシャフトの減面率X,Yの定義について示した図である。
【
図5】中空スプラインシャフトのねじり試験の試験条件(断面形状、断面積、工法など)を示した図である。
【
図6】中空スプラインシャフトのねじり試験の試験条件(寸法)を示した図である。
【
図7】中空スプラインシャフトのねじり試験の結果を示した図である。
【
図8】中空スプラインシャフトのねじり試験の結果をまとめた図である。
【
図9】従来の中空スプラインシャフトのねじり試験後の破断部の亀裂を示す写真である。
【
図10】本発明の中空スプラインシャフトのねじり試験後の破断部の概観を示す写真である。
【
図11】本発明の中空スプラインシャフトを内蔵する電動シートの概略を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる中空スプラインシャフト1及びその製造方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。また、本実施形態においては、本発明の中空スプラインシャフト1の元材として、ドラムにコイル状に巻回された長尺のパイプコイル材5(パイプ材)を用いて例示している。
【0014】
以下に、本発明の中空スプラインシャフト1について、図面を基に詳細に説明する。
本発明の中空スプラインシャフト1は、例えば、電動シート11(詳細は後述)の電動リクライニング機構12などに採用可能である。中空スプラインシャフト1は、軸心に中
空孔4が形成された長尺の軸体であって、電動リクライニング機構12の駆動モータ16から出力された回転駆動力が伝達されることにより、回転するものである。
【0015】
図1、
図2に示すように、本発明の中空スプラインシャフト1(中空異形線材1)は、軸心方向に貫通状の孔部6が形成されたパイプコイル材5(中空線材5)をダイス7(異形ダイス7)で引抜加工して、外周面に周方向に沿って凸条部2と凹条部3を交互に形成すると共に、芯材8(例えば、フローティングプラグ8)を使用して、中心に円形状の中空孔4を形成することにより、製造される。
【0016】
つまり、本発明の中空スプラインシャフト1は、空引き加工ではなく、パイプコイル材5を異形ダイス7に導入するとともに、フローティングプラグ8を孔部6に挿入して引き抜く、芯引き加工により製造されるものである。
本発明の中空スプラインシャフト1は、その軸体の外周面で周方向に沿って凸条部2(スプライン突起)と凹条部3(スプライン歯底)とが交互に形成されていて、軸心方向に沿って軸体の中心に中空孔4が形成されている。
【0017】
中空スプラインシャフト1の外周面には、所定の幅及び高さの凸形状の膨出部(凸条部2)が、等間隔で中空スプラインシャフト1の外周全体に形成されている。本実施形態では、7つの凸条部2(歯数7枚)が形成されている。凸条部2は、断面視で台形状であり、底辺より上辺(頂部の幅)が狭いものとなっている。
凸条部2とそれに隣接する凸条部2との間には、凹形状の突起(凹条部3)が形成されている。すなわち、中空スプラインシャフト1の外周面には、所定の幅及び深さの凹形状の溝(凹条部3)が、等間隔で中空スプラインシャフト1の外周全体に形成されている。本実施形態では、7つの凹条部3が形成されている。凹条部3は、断面視でU字形状であり上方が放射状に開いている。凹条部3の底部は外方膨出状の円弧となっている。
【0018】
なお、凸条部2の頂部は、凹条部3の底部と相似した外方膨出状の円弧となっている。また、凸条部2の頂部と凹条部3の底部との差(凸条部2の高さ)は、電動リクライニング機構12(詳細は後述)の従動ギア18に形成された雌スプラインの凹条部3の深さと略同じである。
つまり、中空スプラインシャフト1の凸条部2の高さは、電動リクライニング機構12の従動ギア18に形成された雌スプラインの凹条部の深さによって決定される。また同様に、中空スプラインシャフト1の凸条部2の幅も、従動ギア18に形成された雌スプラインの凹条部の幅によって決定される。
【0019】
すなわち、本実施形態の中空スプラインシャフト1においては、凸条部2と凹条部3とが中空スプラインシャフト1の外周面に交互に形成され、中空スプラインシャフト1は断面視で星形状に形成されており、凸条部2と凹条部3の数は等しい。
また、凸条部2の頂部を結ぶ円(外接円)は、凹条部3の底部を結ぶ外接円と略同中心となっている。なお、凸条部2、凹条部3は外周に沿って等間隔(等ピッチ)に形成されていてもよいが、不等間隔(不等ピッチ)で形成されていても何ら問題はない。
【0020】
このように、中空スプラインシャフト1の外周面には、複数の凸条部2と凹条部3が交互に形成され、複数の凸条部2が中空スプラインシャフト1の径方向に沿って放射状に並んでいることで、中空スプラインシャフト1に雄スプラインが形成されることとなる。それ故、中空スプラインシャフト1の端部は、電動リクライニング機構12の従動ギア18の中心部に形成されているスプライン(雌スプライン)に嵌り込んで噛み合うようになる。
【0021】
なお、本実施形態では、凸条部2と凹条部3の数(スプラインの歯の数)を7つずつ配置し、凸条部2の形状を台形状としたが、電動リクライニング機構12の駆動モータ16の回転駆動力の大きさによって凸条部2と凹条部3の数及び形状を変更してもよい。また、中空スプラインシャフト1の両端部は、面取りがなされている。
さらに、
図1、
図2に示すように、中空スプラインシャフト1の中心には、芯材8(フローティングプラグ8)を使用した引抜加工(芯引き)により、中空孔4が軸心方向に沿って貫通状に形成されている。中空孔4は、円形状に形成され、所定の減面率(詳細は後述)を有している。なお、中空孔4は、完全な中心にあってもよいし、加工状況によって変わるのでやや偏心しているものでもよい。
【0022】
詳しくは、中空孔4は、その一方端及び他方端が開放状に形成されていて、中空スプラインシャフト1の一方端から他方端へほぼ直線状に連通するように形成された貫通孔である。すなわち、中空スプラインシャフト1の一方端及び他方端のおける開放状の孔が、断面視で現れる中空孔4である。
さて、本実施形態においては、減面率を規定している。すなわち、芯引きにより、パイプコイル材5(元材)に力を加えて変形させて、中空スプラインシャフト1(製品)を製造する際に、変化する断面積の減少率である、減面率を規定している。
【0023】
本実施形態の減面率については、孔部6の断面積に対して、中空孔4の断面積がどれだけ減少したかの比率と、パイプコイル材5(元材)の断面積に対して、中空スプラインシャフト1(製品)の断面積がどれだけ減少したかの比率を、規定している。なお、減面率(%)は、「(変化前(元材)の断面積-変化後(製品)の断面積)=減少した断面積を、変化前(元材)の断面積で割って、×100」で求まる。
【0024】
本発明においては、パイプコイル材5の孔部6に対する、中空スプラインシャフト1の中空孔4の減面率Xについては、60%以上70%以下としている。
・中空孔4の減面率X(%)=((孔部6の断面積B-中空孔4の断面積A)/孔部6の断面積B)×100
ただし、中空スプラインシャフト1を軸心方向(長手方向)に対して直交する方向に切断したときの中空孔4の断面積をAとする。また、パイプコイル材5を軸心方向(長手方向)に対して直交する方向に切断したときの孔部6の断面積をBとする。
【0025】
なお、中空孔4の減面率Xに関し、妥当な軽量化率を得るのに必要とする中空孔4の直径から、パイプコイル材5の内径を導くことができる。
中空孔4の減面率Xについては、以下の通りである。ただし、シャフト自身の減面率については同一としている。
中空孔4の減面率Xが、上限を超える(70%超)場合、略星形形状の尖端部が完全に消えずに残ってしまう状況となる。つまり、中空スプラインシャフト100に似た形状となる虞がある。これは、元材であるパイプコイル材5の内径が大きいことを表している。
【0026】
図3の左図に示すように、パイプコイル材5の内周長が長いので、圧縮(減面)の過程で皺Wが大きくなり、皺Wが消え難くなる。このように、中空孔4の減面率Xが70%超える場合、中空孔4内に問題となる皺が発生してしまうという知見を得た。
中空孔4の減面率Xが下限を下回る(60%未満)場合、中空スプラインシャフトに形成されるスプライン形状(凸条部、凹条部)の精度が悪化する。これは、元材であるパイプコイル材5の内径ひいては外径が小さいことを表している。
【0027】
図3の右図に示すように、元材であるパイプコイル材5の内径が小さいと、フローティングプラグ8の直径を大きくすることができず、異形ダイス7から脱落し易くなる。また、パイプコイル材5の外径が小さいので、加工の過程において、スプラインの加工圧を得ることが難しくなる。このように、中空孔4の減面率Xが60%未満の場合、求めるスプライン形状(凸条部2、凹条部3)を安定して得られないという知見を得た。
【0028】
また、本発明においては、パイプコイル材5に対する、中空スプラインシャフト1の減面率Yについては、45%以上50%以下としている。
・中空スプラインシャフト1の減面率Y(%)=((パイプコイル材5の断面積D-中空スプラインシャフト1の断面積C)/パイプコイル材5の断面積D)×100
ただし、中空スプラインシャフト1を軸心方向(長手方向)に対して直交する方向に切断したときの中空スプラインシャフト1の断面積をCとする。また、パイプコイル材5を軸心方向(長手方向)に対して直交する方向に切断したときのパイプコイル材5の断面積をDとする。
【0029】
なお、中空スプラインシャフト1の減面率Yに関し、中空孔4の直径とパイプコイル材5の内径から、パイプコイル材5の外径を導くことができる。
中空スプラインシャフト1の減面率Yについては、以下の通りである。
中空スプラインシャフト1の減面率Yが、上限を超える(50%超)場合、引抜加工(
芯引き)時に、断線してしまうというリスクが生じる。つまり、中空スプラインシャフト1の減面率Yが高いと、シャフトが絞り込まれていることを表しているので、引き抜き時に大きな力を要することとなる。このように、中空スプラインシャフト1の減面率Yが50%を超える場合、中空スプラインシャフト1が断線してしまう虞があるという知見を得た。
【0030】
中空スプラインシャフト1の減面率Yが、下限を下回る(45%未満)場合、中空スプラインシャフト1に形成されるスプライン形状(凸条部2、凹条部3)について、高い精度を得ることが難しくなる。このように、減面率Yが低いと、緩い加工(凹凸が明確とならない形状)となっていることを表しているので、スプライン突起(凸条部2)の形成に、必要で且つ十分な加工圧を得ることができない。このように、中空スプラインシャフト1の減面率Yが45%未満の場合、求めるスプライン形状(凸条部2、凹条部3)を安定して得られないという知見を得た。
【0031】
図4に示すように、上記の中空孔4の減面率Xと、中空スプラインシャフト1の減面率Yについては、スプライン歯先の差し渡し直径φ10mm、スプライン歯底の差し渡し直径φ8.1mm、中空孔4の直径φ5.5mmである中空スプラインシャフト1より、求めた値である。
ただし、中空スプラインシャフト1(パイプコイル材5)と中空孔4(孔部6)が同様の比率であり、具体的には軽量化率が20%以上40%未満であれば、中空スプラインシャフト1(パイプコイル材5)が太径でも細径でも成り立つと考える。
【0032】
すなわち、軸心方向の中心に貫通状の孔部6が形成された長尺のパイプコイル材5を元に中空スプラインシャフト1を製造するに際して、上で述べた規定の減面率X,Yを有するように制御しながら芯引き加工を行い、パイプコイル材5の外周面に、異形ダイス7を用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部2と凹条部3とを交互に形成すると共に、パイプコイル材5の中心に、フローティングプラグ8(芯材8)を使用した引抜加工により、軸心方向に沿って、円形状の中空孔4を形成することで、中空スプラインシャフト1を製造する。
【0033】
減面率X,Yを制御するに際しては、フローティングプラグ8と異形ダイス7との関係(例えば、大きさ、形状、引き抜き速度など)を考慮するとよい。
以上述べた、本発明で規定した減面率X,Yを満たすことで、芯引き加工において、空引き加工をする際に用いているパイプコイル材の肉厚よりも、厚みで15%~30%程度厚い、肉厚のパイプコイル材5を使用することができるので、高強度の中空スプラインシャフト1を製造することができる。基本的には、本発明で規定した減面率X,Yの範囲を満たすことが好ましい。より好ましくは、本発明で規定した減面率X,Yの中心値であるとよい。
【0034】
本発明によれば、中空スプラインシャフト1の中心部が円形状の中空孔4とし、芯引き加工において減面率X,Yを満たすように制御することで、中空スプラインシャフト1の強度を向上させ且つ、軽量化を図ることが可能となる。
なお、本実施形態の中空孔4の断面については円形状で説明したが、中空孔4の断面については様々な形状(例えば、略楕円形状など)であってもよい。すなわち、中空孔4の断面形状は、フローティングプラグ8の形状によって変わってくる。
[実施例]
以下に、本発明の製造方法に従って製作した中空スプラインシャフト1のねじり試験の結果と、比較するために製作した中空スプラインシャフト100のねじり試験の結果について、説明する。
【0035】
図5、
図6に、中空スプラインシャフト1,100のねじり試験の試験条件を示す。
ねじり試験の装置については、精密ねじり試験機:TTM-3kN・mA(株式会社 島津製作所製)を使用した(地方独立行政法人 大阪産業技術研究所 和泉センターにて実施)。
ねじり試験の条件については、パイプコイル材5を用いて空引き加工で、中空スプラインシャフト100を3本製作した。また、パイプコイル材5を用いて芯引き加工により、中空孔4が円形状の中空スプラインシャフト1を製作した。それら中空スプラインシャフ
ト1,100を各3本ずつ計測した。中空スプラインシャフト1,100をねじり続けて、負荷状況をトレーサーで記録した。
【0036】
中空スプラインシャフト1,100の形状及びサイズ等については、以下の通りである。
中空スプラインシャフト100は、「識別No.1,2,3、断面形状:中空で且つ星形状、断面積:43.2mm2、工法:空引き」である。
中空スプラインシャフト1は、「識別No.4,5,6、断面形状:中空で且つ円形状、断面積:42.9mm2、工法:芯引き」である。
【0037】
なお、中空スプラインシャフト1,100の外形形状は全く同一であり、断面積の違いは中空形状の違いによるものである。
また、「材質:S20C相当材、軸間距離:約100mm(全長250mm、把持部:75mm)、ねじり速度:120°/min、記録レンジ:150N・m」とした。
図7~
図10に、中空スプラインシャフト1,100のねじり試験の結果を示す。
【0038】
図7においては、ねじり強さの測定結果を示す(縦軸:ねじりトルク=1.5N・m/目盛、横軸:回転角度=32.4°/目盛)。
空引きで製作した中空スプラインシャフト100については、以下のような、ねじり試験結果となった。
・No.1:55.90N・m
・No.2:54.45N・m
・No.3:57.75N・m
・平均:56.03N・m
一方、芯引きで且つ、本発明で規定した減面率X,Yを満たすように製作した、中空孔4が円形状の中空スプラインシャフト1については、以下のような、ねじり試験結果となった。
【0039】
・No.4:72.00N・m
・No.5:72.20N・m
・No.6:72.40N・m
・平均:72.20N・m
図9に示すように、空引きで製作した中空スプラインシャフト100の断面については、不規則な曲面状になっており、亀裂(筋状の隙間)が生じ、それがシャフト100の表面まで到達していることがわかった。
【0040】
図7、
図8に示すように、中空スプラインシャフト100におけるねじり強さのピークについては、芯引きで製作した中空スプラインシャフト1の試験結果と比較して低く、ピーク後徐々に降下して0になっていることがわかる。また、サンプル(No.1~No.3)間のばらつきは、大きいことがわかる。
一方、
図10に示すように、芯引きで且つ、規定した減面率X,Yを満たすように製作した、中空孔4が円形状の中空スプラインシャフト1の断面については、平面状で且つ、垂直に切り落とされたような、綺麗なねじりせん断面となっていた。
【0041】
中空スプラインシャフト1におけるねじり強さのピークについては、中空スプラインシャフト100の試験結果より高く、ピーク直後に垂直に降下して0になっていることがわかる。また、サンプル(No.4~No.6)間のばらつきは、小さいことがわかる。
ここで、空引きで製作した中空スプラインシャフト100の断面について考察する。
空引きで製作した中空スプラインシャフト100の中空孔は、外周面に形成されたスプライン突起(凸条部)に対応した略星形形状に変形しており、その略星形形状の尖端部(先端部)に応力が集中し易い状態となっている。
【0042】
そのため、ねじり試験を行うと、尖端部を起点とした亀裂が生じ、その亀裂が中空スプラインシャフト100の外周面まで到達すると、円筒形状としての構造強度が保持できなくなると考えられる。
その結果、ねじり強さのピークは、中空スプラインシャフト100が耐える以前に、亀裂がシャフト100の表面に到達した時点となるため、亀裂が発生しない円形状の中空孔
4を有する中空スプラインシャフト1(芯引きで製作し且つ本発明の減面率X,Yを満たす)の試験結果と比べて、早期にピークアウトする。
【0043】
略星形形状の中空孔(空引きで製作した中空スプラインシャフト100)は、加工時に自然発生によって形成される自由形状である。このことより、ねじられることによる亀裂の発生は不規則であり、空引きで製作した中空スプラインシャフト100のねじり強さのピークが、ばらついた要因と考えられる。
以上をまとめると、本実施形態において、中空スプラインシャフト1,100の断面積の広さを同じ程度に合わせたサンプルを製作し、そのサンプルに対してねじり試験を実施した結果、芯引きで製作し且つ、本発明の減面率X,Yを満たし、円形状の中空孔4を備える中空スプラインシャフト1のねじり強さが、空引きで製作した中空スプラインシャフト100に比べて、高いことが分かった。
【0044】
また、ねじり強度が向上するという試験結果に関しては、中空スプラインシャフト1の元となる材料(パイプコイル材5)として、材料の炭素量で示すとS30C相当以下の鋼材を採用することがより好ましいことがわかった。
すなわち、本発明は、軸心方向に貫通状の孔部6が形成された長尺のパイプコイル材5を元に、芯引き加工において、中空スプラインシャフト1を製造するに際して、規定した減面率X,Yを満たすように制御しながら、パイプコイル材5の外周面に、異形ダイス7を用いた引抜加工により、周方向に沿って凸条部2と凹条部3とを交互に形成するとともに、パイプコイル材5の中心に、フローティングプラグ8(芯材8)を挿入する引抜加工により、軸心方向に沿って貫通状に円形状の中空孔4を形成することで、中空スプラインシャフト1を製造する。
【0045】
パイプコイル材5の孔部6に対する、中空スプラインシャフト1の中空孔4の減面率X(=((孔部6の断面積B-中空孔4の断面積A)/孔部6の断面積B)×100)を、60%以上70%以下とする。
また、パイプコイル材5に対する、中空スプラインシャフト1の減面率Y(=((パイプコイル材5の断面積D-中空スプラインシャフト1の断面積C)/パイプコイル材5の断面積D)×100)を、45%以上50%以下とする。
【0046】
なお、減面率X,Yを制御するに際しては、フローティングプラグ8と異形ダイス7との関係(例えば、大きさ、形状、引き抜き速度など)を考慮するとよい。
本発明で規定した減面率X,Yを満たすことで、芯引き加工において、空引き加工をする際に用いているパイプコイル材の肉厚よりも、厚みで15%~30%程度厚い、肉厚のパイプコイル材5を使用することができるので、高強度の中空スプラインシャフト1を製造することができる。
【0047】
つまり、本発明の中空スプラインシャフト1及びその製造方法によれば、中空スプラインシャフト1を製造するにあたり、フローティングプラグ8を用いてパイプコイル材5の引抜加工(芯引き)を行う際に、規定の減面率X,Yとなるように制御して、中空孔4を円形状に保持することで、生産性が良好で且つ軽量であり、さらにねじり強さが高く、品質が安定したものを得ることができる。
【0048】
ところで、
図11に示すように、本実施形態の中空スプラインシャフト1は、例えば、電動シート11内の電動リクライニング機構12に配備されている。電動シート11は、座部13と背もたれ部14とを有している。電動リクライニング機構12は、背もたれ部14を回動させるギア機構15と、ギア機構15を駆動させる駆動モータ16(電動モータ)とを有している。ギア機構15(リクライナー)は、駆動モータ16の回転駆動力により回転する駆動ギア17と、駆動ギア17の回転により回転し、回転駆動力を中空スプラインシャフト1に伝達する従動ギア18と、を有している。
【0049】
中空スプラインシャフト1(中空異形線材)は、背もたれ部14をリクライニングさせるための駆動枢支軸であり、外周にスプライン(雄スプライン)が形成された長尺の軸体(シャフト)とされる。すなわち、中空スプラインシャフト1は、軸心に対して垂直に切断した断面が、中空で且つ異型とされた中空異型シャフトで構成される。
電動リクライニング機構12において、駆動モータ16から回転駆動力が出力されると
、駆動モータ16の出力軸の先端に配備された駆動ギア17が回転する。駆動ギア17は、噛み合っている従動ギア18を回転させる。中空スプラインシャフト1は、雌スプラインが形成された従動ギア18に嵌り込んでいて、従動ギア18と共に回転する。
【0050】
駆動モータ16から出力された回転駆動力は、駆動ギア17と従動ギア18を介して中空スプラインシャフト1へ伝わり、中空スプラインシャフト1が回転することで、電動シート11の背もたれ部14が座部13に対してリクライニング動作するようになる。
本実施形態の中空スプラインシャフト1によれば、回転駆動力の伝達性能を落とすことなく、軸体の軽量化を図ることができ、ひいては、例えば、電動リクライニング機構12及び電動シート11の軽量化を図ることが可能となる。
【0051】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
本発明の中空スプラインシャフト1を構成する材料は、所望とされる強度を満たすものであれば、どのような材料であってもよい。また、必要とされる強度を確保すべく、中空スプラインシャフト1を、例えば、熱間加工、冷間加工のいずれか又は両方を用いて製造してもよく、表面処理加工を行うようにしてもよい。
【0052】
また、本実施形態の中空スプラインシャフト1は、断面視において凸部、凹部が形成され、この凸部、凹部が略同じ形状をもって、中空スプラインシャフト1の長手方向に連続的に形成されることで、凸条部2(筋状の凸部)、凹条部3(筋状の凹部)となっている。とはいえ、凸条部2、凹条部3は、中空スプラインシャフト1の長手方向に完全に連続していなくてもよく、一部が切り掛かれるなどして断続状であってもよい。
【0053】
また、本実施形態では、自動車用の電動シート11に用いられるものとして例に挙げて説明したが、これに限定されない。また、本発明の中空スプラインシャフト1は、あらゆる部分の軸心(例えば、座部13に備えられているスライド機構の駆動軸など)として使用できる。すなわち、本発明の中空スプラインシャフト1は、あらゆる装置の駆動部品として採用可能である。
【0054】
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、作動条件や操作条件、構成物の寸法、重量などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0055】
1 中空スプラインシャフト
2 凸条部
3 凹条部
4 中空孔
5 パイプコイル材
6 孔部
7 異形ダイス
8 フローティングプラグ(芯材)
11 電動シート
12 電動リクライニング機構
13 座部
14 背もたれ部
15 ギア機構
16 駆動モータ
17 駆動ギア
18 従動ギア
100 中空スプラインシャフト
A 中空孔の断面積
B 孔部の断面積
C 中空スプラインシャフトの断面積
D パイプコイル材の断面積