(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051095
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20220324BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20220324BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/662
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157370
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】平本 藍子
(72)【発明者】
【氏名】滝 共人
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA26
3J552RA01
3J552RB03
3J552RC01
3J552RC02
3J552SA08
3J552SA09
3J552SA36
3J552VA07W
3J552VA18W
3J552VA76W
(57)【要約】
【課題】発進クラッチの係合ショックを軽減可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】ECUは、電源がオン状態からオフ状態にされるまでの期間にあって、内燃エンジンのアイドルストップ制御された状態から駆動状態に復帰する復帰時において油圧制御装置を制御することにより前進用クラッチを係合状態にする復帰係合制御を実行する。ECUは、復帰係合制御の実行時に、初期上昇フェーズと待機フェーズと係合フェーズとを実行する第1モードと、初期上昇フェーズと係合フェーズとを続けて実行する第2モードと、を選択実行可能である。復帰係合制御の実行時に、セカンダリプーリ圧が所定値に達するまでの時間が所定時間以上のときは(S3のYES)、次のアイドルストップ制御に第1モードを実行し(S4)、所定時間未満のときは(S3のNO)、次のアイドルストップ制御に第2モードを実行する(S8)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンに駆動連結された入力部材と、
車輪に駆動連結された出力部材と、
油圧サーボに係合圧が給排されることで係脱され、係合により前記内燃エンジンと前記車輪との間の動力伝達経路の動力伝達を可能にする係合要素と、
前記動力伝達経路に介在されていると共に、プーリ圧が供給されることにより、入力された回転を無段的に変速して出力する無段変速機構と、
前記内燃エンジンにより駆動され、油圧を発生する機械式オイルポンプと、
前記機械式オイルポンプにより発生された油圧に基づいて、前記係合要素の前記油圧サーボに供給する係合圧と、前記無段変速機構に供給する前記プーリ圧と、を制御する油圧制御装置と、
前記油圧制御装置を電気信号により制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、少なくとも電源がオン状態にされてからオフ状態にされるまでの期間にあって、前記内燃エンジンのアイドルストップ制御された状態から駆動状態に復帰する復帰時において前記油圧制御装置を制御することにより前記係合要素を係合状態にする復帰係合制御を実行するときに、
前記油圧サーボに供給する係合圧を各フェーズで設定した指令値とし、前記油圧サーボに油圧を充填して実際の前記係合圧を上昇させる初期上昇フェーズと、前記指令値を前記初期上昇フェーズでの指令値よりも低い値とし、前記油圧サーボに供給される実際の前記係合圧が前記指令値に達するまで待機する待機フェーズと、前記指令値を上昇して前記係合要素における差回転を無くしていく係合フェーズと、を実行する第1モードと、
前記初期上昇フェーズと前記係合フェーズとを続けて実行する第2モードと、を選択的に実行可能であり、
前記復帰係合制御を実行する場合において、前記プーリ圧が所定値に達するまでの時間が所定時間以上のときは、次の前記アイドルストップ制御から前記駆動状態に復帰する際に前記第1モードを実行し、前記プーリ圧が所定値に達するまでの時間が前記所定時間未満のときは、次の前記アイドルストップ制御から前記駆動状態に復帰する際に前記第2モードを実行する、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、電源がオン状態にされてからオフ状態にされるまでの期間にあって前記復帰係合制御を前記第2モードにより実行した後に行う前記復帰係合制御において、前記プーリ圧が前記所定値に達するまでの時間が前記所定時間以上のときは、次の前記アイドルストップ制御から前記駆動状態に復帰する際に前記第1モードを実行する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記復帰係合制御を前記第1モードにより実行する場合において、前記初期上昇フェーズの実行時間を所定長さに制限する、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車等の車両に搭載される無段変速機構を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車両に用いて好適な車両用駆動装置として、プライマリプーリ及びセカンダリプーリとこれらプーリに巻き回される金属製ベルトを備えたベルト式の無段変速機構と、当該無段変速機が介装された駆動系に設けられた係合要素である発進クラッチと、内燃エンジンにより駆動されて発進クラッチへ油圧を供給する機械式オイルポンプと、を備えた車両用駆動装置が普及している。このような車両用駆動装置において、車両の減速時や停止時などに所定の開始条件が成立すると内燃エンジンを停止させるアイドルストップ機能を有するものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
アイドルストップ機能を有する車両用駆動装置では、アイドルストップ時に所定の終了条件が成立すると内燃エンジンを再始動させてアイドルストップから復帰させ、機械式オイルポンプによってライン圧などの元圧を上昇し、速やかに発進クラッチを係合するように動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載した車両用駆動装置で、内燃エンジンの長時間の停止により、機械式オイルポンプが停止して、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの各プーリから作動油が抜け落ちて、プーリに空気が入り込むことがある。そして、内燃エンジンの始動後、プーリに空気が残っている状態でアイドルストップが実行されると、そのアイドルストップからの復帰時に、プーリ内に残った空気によりライン圧などの元圧の上昇が遅れてしまう虞がある。この場合、発進クラッチは、タービン回転速度が十分に高くなってから急係合されることになり、係合ショックを発生してしまう虞がある。
【0006】
そこで、発進クラッチの係合ショックを軽減可能な車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る車両用駆動装置は、内燃エンジンに駆動連結された入力部材と、車輪に駆動連結された出力部材と、油圧サーボに係合圧が給排されることで係脱され、係合により前記内燃エンジンと前記車輪との間の動力伝達経路の動力伝達を可能にする係合要素と、前記動力伝達経路に介在されていると共に、プーリ圧が供給されることにより、入力された回転を無段的に変速して出力する無段変速機構と、前記内燃エンジンにより駆動され、油圧を発生する機械式オイルポンプと、前記機械式オイルポンプにより発生された油圧に基づいて、前記係合要素の前記油圧サーボに供給する係合圧と、前記無段変速機構に供給する前記プーリ圧と、を制御する油圧制御装置と、前記油圧制御装置を電気信号により制御する制御部と、を備え、前記制御部は、少なくとも電源がオン状態にされてからオフ状態にされるまでの期間にあって、前記内燃エンジンのアイドルストップ制御された状態から駆動状態に復帰する復帰時において前記油圧制御装置を制御することにより前記係合要素を係合状態にする復帰係合制御を実行するときに、前記油圧サーボに供給する係合圧を各フェーズで設定した指令値とし、前記油圧サーボに油圧を充填して実際の前記係合圧を上昇させる初期上昇フェーズと、前記指令値を前記初期上昇フェーズでの指令値よりも低い値とし、前記油圧サーボに供給される実際の前記係合圧が前記指令値に達するまで待機する待機フェーズと、前記指令値を上昇して前記係合要素における差回転を無くしていく係合フェーズと、を実行する第1モードと、前記初期上昇フェーズと前記係合フェーズとを続けて実行する第2モードと、を選択的に実行可能であり、前記復帰係合制御を実行する場合において、前記プーリ圧が所定値に達するまでの時間が所定時間以上のときは、次の前記アイドルストップ制御から前記駆動状態に復帰する際に前記第1モードを実行し、前記プーリ圧が所定値に達するまでの時間が前記所定時間未満のときは、次の前記アイドルストップ制御から前記駆動状態に復帰する際に前記第2モードを実行する。
【発明の効果】
【0008】
本車両用駆動装置によると、発進クラッチの係合ショックを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る車両用駆動装置のスケルトンを示す概略図である。
【
図2】実施の形態に係る車両用駆動装置の概略の油圧回路図である。
【
図3】実施の形態に係る車両用駆動装置において、アイドルストップから復帰する際の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態に係る車両用駆動装置のエア混入状態において、アイドルストップから復帰する際の各油圧及び各回転速度を示すタイムチャートである。
【
図5】実施の形態に係る車両用駆動装置のエア混入状態からエア抜け状態に変化した場合において、アイドルストップから復帰する際の各油圧及び各回転速度を示すタイムチャートである。
【
図6】実施の形態に係る車両用駆動装置のエア抜け状態において、アイドルストップから復帰する際の各油圧及び各回転速度を示すタイムチャートである。
【
図7】実施の形態に係る車両用駆動装置のエア抜け状態からエア混入状態に変化した場合において、アイドルストップから復帰する際の各油圧及び各回転速度を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態に係る車両用駆動装置を、
図1~
図7に沿って説明する。尚、本実施の形態では、車両用駆動装置を、例えば自動車に搭載され、内燃エンジンを駆動源とする自動変速機1に適用した場合について説明している。また、本実施の形態では、自動変速機1は、所謂FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型としている。但し、自動変速機1は、FF型には限られず、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型であってもよい。
【0011】
[自動変速機]
図1に示すように、自動変速機1は、ロックアップクラッチ5を内蔵したトルクコンバータ(流体伝動装置)6と、前後進切換え装置3と、無段変速機構2と、カウンタ軸7と、ディファレンシャル装置9とを備えており、これら装置が一体化されてミッションケース4に収納されている。カウンタ軸7は、車輪に駆動連結された出力部材に相当する。
【0012】
トルクコンバータ6は、内燃エンジン8の出力軸10にフロントカバー17を介して連結されているポンプインペラ11と、中間軸12に連結されているタービンランナ13と、ワンウェイクラッチ15を介して支持されているステータ16とを有しており、更に中間軸12とフロントカバー17との間にロックアップクラッチ5が介在している。ポンプインペラ11には、機械式オイルポンプ21が連結されている。トルクコンバータ6は、内燃エンジン8と後述するプライマリプーリ26との間に介在されている。中間軸12は、内燃エンジン8に駆動連結された入力部材に相当する。機械式オイルポンプ21は、内燃エンジン8により駆動されることで油圧を発生する。
【0013】
前後進切換え装置3は、ダブルピニオンプラネタリギヤ50と、後進レンジ時に係合される後進用ブレーキB1と、前進レンジ時に係合される前進用クラッチC1と、を有している。ダブルピニオンプラネタリギヤ50は、そのサンギヤSが中間軸12に連結されており、第1及び第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRが無段変速機構2の後述するプライマリ側の固定プーリ23に連結されており、そしてリングギヤRが後進用ブレーキB1に連結されており、またキャリヤCRとリングギヤRとの間に前進用クラッチC1が介在している。前進用クラッチC1は、油圧サーボ76(
図2参照)に係合圧が給排されることで係脱され、係合により内燃エンジン8と車輪との間の動力伝達経路の動力伝達を可能にする係合要素である。尚、本実施の形態では、内燃エンジン8と車輪との間の動力伝達経路において、前後進切換え装置3と無段変速機構2とは直列的に配置されており、前後進切換え装置3が無段変速機構2よりも内燃エンジン8側に配置されている場合について説明しているが、これには限られず、無段変速機構2が前後進切換え装置3よりも内燃エンジン8側に配置されるようにしてもよい。
【0014】
無段変速機構2は、動力伝達経路に介在されていると共に、プーリ圧(例えば、セカンダリプーリ圧Pb)が供給されることにより、入力された回転を無段的に変速して出力する。本実施形態では、無段変速機構2は、内燃エンジン8からの回転が伝達可能なプライマリプーリ26と、不図示の車輪に回転を伝達可能なセカンダリプーリ31と、プライマリプーリ26及びセカンダリプーリ31に巻き回される金属製のベルト32と、を有している。プライマリプーリ26は、プライマリ軸(回転軸)22に固定された固定プーリ23と、プライマリ軸22に軸方向に摺動可能かつ回転方向にスプライン等により係合して支持された可動プーリ25とを有している。セカンダリプーリ31は、セカンダリ軸27に固定された固定プーリ29と、セカンダリ軸27に軸方向に摺動可能かつ回転方向にスプライン等により係合して支持された可動プーリ30とを有している。
【0015】
無段変速機構2は、プライマリ側の可動プーリ25の背面に配置されたプライマリ側油圧サーボ33と、セカンダリ側の可動プーリ30の背面に配置されたセカンダリ側油圧サーボ35とを有している。プライマリ側油圧サーボ33は、プライマリ軸22に固定された有底円筒形状の固定側部材36と、可動プーリ25の背面に固定された円筒形状の可動側部材39とを有しており、これら固定側部材36と可動側部材39とによりプライマリ側作動油室41を構成している。プライマリ側作動油室41は、プライマリプーリ圧が供給されることにより、可動プーリ25を押圧制御して変速比を設定する。
【0016】
セカンダリ側油圧サーボ35は、セカンダリ軸27に固定された開放端側にフランジを有する有底円筒形状の固定側部材43と、可動プーリ30の背面に固定された円筒部45とを有しており、これら固定側部材43と円筒部45とによりセカンダリ側作動油室46を構成すると共に、可動プーリ30と固定側部材43との間にプリロード用のスプリング47が縮設されている。セカンダリ側作動油室46は、セカンダリプーリ圧が供給されることにより、可動プーリ30を押圧制御してベルト挟持圧を設定する。無段変速機構2は、内燃エンジン8と車輪とを駆動連結しつつ変速比を連続的に変更可能である。
【0017】
カウンタ軸7には、大ギヤ51及び小ギヤ52が固定されており、大ギヤ51はセカンダリ軸27に固定されたギヤ53に噛合し、かつ小ギヤ52はディファレンシャル装置9のギヤ55に噛合している。ディファレンシャル装置9は、ギヤ55を有するデフケース66に支持されたデフギヤ56の回転を、左右サイドギヤ57,59を介して左右車軸60,61に伝達する。左右車軸60,61は、それぞれ不図示の車輪に連結されている。従って、セカンダリプーリ31はディファレンシャル装置9を介して車輪に駆動連結され、セカンダリプーリ31の回転は、車輪の回転を停止可能な不図示のフットブレーキ(ブレーキ装置)により停止可能である。
【0018】
自動変速機1には、制御系としてECU(制御部)70及び油圧制御装置(V/B)71が設けられている。ECU70は、例えば、CPUと、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートとを有するマイクロコンピュータからなり、油圧制御装置71を電気信号により制御する。ECU70は、アクセル開度及び車速に基づいて、無段変速機構2の目標変速比を設定する。そして、目標変速比を形成するために、プライマリ制御圧ソレノイドバルブSLPからのプライマリ制御圧PSLPを調圧し、中間軸12の回転速度とカウンタ軸7の回転速度とから、実際の変速比を算出する。
【0019】
[油圧制御装置]
次に、本実施の形態に係る自動変速機1の油圧制御装置71について、
図2を用いて説明する。油圧制御装置71は、例えばバルブボディにより構成されており、プライマリレギュレータバルブ78と、ライン圧モジュレータバルブ72と、マニュアルバルブ73と、プライマリ制御圧ソレノイドバルブSLPと、プライマリプーリ圧調圧バルブ74と、セカンダリ制御圧ソレノイドバルブSLSと、セカンダリプーリ圧調圧バルブ75と、リニアソレノイドバルブSLCと、を有している。油圧制御装置71は、油圧により作動され前進用クラッチC1を係脱制御する油圧サーボ76と、油圧により作動され後進用ブレーキB1を係脱制御する油圧サーボ77と、プライマリ側油圧サーボ33と、セカンダリ側油圧サーボ35と、に接続されている。
【0020】
プライマリレギュレータバルブ78は、入力ポート78aと、フィードバック油室78bと、第1油室78cと、第2油室ポート78e等を備えている。入力ポート78aには、機械式オイルポンプ21で発生された油圧が入力される。フィードバック油室78bには、ライン圧PLが入力される。第1油室78cには、プライマリ制御圧ソレノイドバルブSLPのプライマリ制御圧PSLPが入力される。第2油室78dには、セカンダリ制御圧ソレノイドバルブSLSのセカンダリ制御圧PSLSが入力される。プライマリレギュレータバルブ78は、機械式オイルポンプ21で発生された油圧を元圧として、プライマリ制御圧ソレノイドバルブSLPのプライマリ制御圧PSLP及びセカンダリ制御圧ソレノイドバルブSLSのセカンダリ制御圧PSLSのいずれか一方に基づいて、エンジントルクに応じた油圧値に調圧したライン圧PLを生成して出力する。
【0021】
ライン圧モジュレータバルブ72は、ライン圧PLが入力される入力ポート72aと、モジュレータ圧Pmodが出力される出力ポート72bとを有している。ライン圧モジュレータバルブ72は、ライン圧PLを調圧して、ライン圧PLより低圧の一定圧であるモジュレータ圧Pmodを生成する。
【0022】
マニュアルバルブ73は、不図示のシフトレバーの操作により機械的あるいは電気的に移動される不図示のスプールと、リニアソレノイドバルブSLCから油圧PSLCが入力される入力ポート73aと、スプールがD(ドライブ)レンジ位置の場合に油圧PSLCを係合圧(前進レンジ圧)PDとして出力する出力ポート73bと、スプール73pがR(リバース)レンジ位置の場合に油圧PSLCを後進レンジ圧PRとして出力する出力ポート73cと、を備えている。
【0023】
リニアソレノイドバルブSLCは、モジュレータ圧Pmodが入力される入力ポートSLCaと、マニュアルバルブ73の入力ポート73aに連通される出力ポートSLCbとを有している。リニアソレノイドバルブSLCは、入力ポートSLCaから入力されるモジュレータ圧Pmodを自在に調圧制御して出力ポートSLCbから出力し、マニュアルバルブ73を介して係合圧(前進レンジ圧)PD又は後進レンジ圧PRを前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1の係合圧として生成する。
【0024】
プライマリ制御圧ソレノイドバルブSLPは、モジュレータ圧Pmodが入力される入力ポートSLPaと、プライマリプーリ圧調圧バルブ74の第1作動油室74aに連通される出力ポートSLPbとを有している。プライマリ制御圧ソレノイドバルブSLPは、プライマリプーリ圧調圧バルブ74にプライマリ制御圧PSLPを供給することで、プライマリプーリ圧調圧バルブ74から無段変速機構2のプライマリ側油圧サーボ33に供給されるプライマリプーリ圧Paを調圧する。
【0025】
プライマリプーリ圧調圧バルブ74は、プライマリ制御圧PSLPを入力する第1作動油室74aと、プライマリプーリ圧Paを入力する第2作動油室74bと、ライン圧PLを入力する入力ポート74cと、調圧後のプライマリプーリ圧Paをプライマリ側油圧サーボ33及び第2作動油室74bに供給する出力ポート74dとを備えている。プライマリプーリ圧調圧バルブ74は、プライマリ制御圧PSLPにより、ライン圧PLをプライマリプーリ圧Paに調圧可能である。
【0026】
セカンダリ制御圧ソレノイドバルブSLSは、モジュレータ圧Pmodが入力される入力ポートSLSaと、セカンダリプーリ圧調圧バルブ75の第1作動油室75aに連通される出力ポートSLSbとを有している。セカンダリ制御圧ソレノイドバルブSLSは、セカンダリプーリ圧調圧バルブ75にセカンダリ制御圧PSLSを供給することで、セカンダリプーリ圧調圧バルブ75から無段変速機構2のセカンダリ側油圧サーボ35に供給されるプーリ圧の一例であるセカンダリプーリ圧Pbを調圧する。
【0027】
セカンダリプーリ圧調圧バルブ75は、セカンダリ制御圧PSLSを入力する第1作動油室75aと、セカンダリプーリ圧Pbを入力する第2作動油室75bと、ライン圧PLを入力する入力ポート75cと、調圧後のセカンダリプーリ圧Pbをセカンダリ側油圧サーボ35及び第2作動油室75bに供給する出力ポート75dとを備えている。セカンダリプーリ圧調圧バルブ75は、セカンダリ制御圧PSLSにより、ライン圧PLをセカンダリプーリ圧Pbに調圧可能である。また、出力ポート75dとセカンダリ側油圧サーボ35とを連通する油路には、油圧センサ79が接続されている。
【0028】
本実施の形態では、油圧制御装置71は、機械式オイルポンプ21により発生された油圧に基づいて元圧であるライン圧PLを生成し、前進用クラッチC1の油圧サーボ76と、後進用ブレーキB1の油圧サーボ77と、無段変速機構2のプライマリ側作動油室41と、セカンダリ側作動油室46とに供給する油圧を制御する。即ち、油圧制御装置71は、機械式オイルポンプ21により発生された油圧に基づいて、前進用クラッチC1の油圧サーボ76に供給する係合圧PDと、無段変速機構2に供給するセカンダリプーリ圧Pbと、を制御する。本実施の形態では、油圧制御装置71は、係合圧(前進レンジ圧)PD、後進レンジ圧PR、プライマリプーリ圧Pa、セカンダリプーリ圧Pbを共通の元圧であるライン圧PLから調圧する。
【0029】
[アイドルストップ復帰について]
ここで、アイドルストップからの復帰時には、発進のレスポンスを早めるために、前進用クラッチC1を速やかに係合することが好ましい。これに対し、内燃エンジン8を例えば2時間以上等の長時間止めて、機械式オイルポンプ21を停止した場合は、無段変速機構2のプライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46から作動油が抜け落ちて、空気が入ってしまう可能性がある。これに対し、プライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46では多くの油が流入出している訳ではないので、内燃エンジン8を再始動しても空気が油路を通ってすぐに出ることができず、しばらくの間、プライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46に空気が残っている場合がある。
【0030】
このようにプライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46に空気が残っていて作動油にエア混入を発生している場合(以下、エア混入状態という)は、アイドルストップからの復帰時にライン圧PLの立ち上がりが遅くなり、ライン圧PLを元圧として調圧される係合圧(前進レンジ圧)PD、後進レンジ圧PR、プライマリプーリ圧Pa、セカンダリプーリ圧Pbの全ての立ち上がりが遅くなる。このような場合に、前進用クラッチC1を速やかに係合しようとしても、係合圧(前進レンジ圧)PDの立ち上がりが遅いために、係合速度が遅くなり、内燃エンジン8の回転速度が十分に上がってから急係合することになり、ショックを発生してしまう虞がある。
【0031】
その一方、内燃エンジン8をある程度の時間駆動し、プライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46から空気が追い出された場合(以下、エア抜け状態という)では、ライン圧PLや係合圧(前進レンジ圧)PDの立ち上がりが早いため、発進のレスポンスを早めるために、前進用クラッチC1を速やかに係合することができる。
【0032】
そこで、本実施の形態の自動変速機1では、ECU70は、少なくとも電源がオン状態にされてからオフ状態にされるまでの期間にあって、内燃エンジン8のアイドルストップ制御された状態から駆動状態に復帰する復帰時において、油圧制御装置71を制御することにより前進用クラッチC1を係合状態にする復帰係合制御を実行するようにしている。
【0033】
そして、ECU70は、復帰係合制御において、第1モードと第2モードとを選択的に実行可能であるようにしている。第1モードは、油圧サーボ76に供給する係合圧PDを以下の各フェーズで設定した指令値とし、初期上昇フェーズと、待機フェーズと、係合フェーズと、の3つのフェーズを順に実行するモードである(
図4及び
図5参照)。ここで、初期上昇フェーズは、油圧サーボ76に供給する係合圧PDの指令値を設定した値Psとし、油圧サーボ76に油圧を充填して実際の係合圧PDを上昇させるフェーズである。待機フェーズは、油圧サーボ76に供給する係合圧PDの指令値を初期上昇フェーズでの指令値として設定した値Psよりも低い値とし、油圧サーボ76に供給される実際の係合圧PDが指令値に達するまで待機するフェーズと、である。係合フェーズは、係合圧PDの指令値を上昇して前進用クラッチC1における差回転を無くしていくフェーズである。第2モードは、上述した初期上昇フェーズと係合フェーズとの2つのフェーズを続けて実行するモードである(
図6及び
図7参照)。
【0034】
更に、ECU70は、復帰係合制御を実行する場合において、ライン圧PLが所定値PT1に達するまでの時間T1が所定時間未満になるまでは、即ち、時間T1が所定時間以上のときは、エア混入状態であるものと判断して、次のアイドルストップ制御から駆動状態に復帰する際に第1モードを実行するようにしている(
図4参照)。エア混入状態であると判断した場合は、FLAG=0とする(
図4参照)。
【0035】
尚、本実施の形態では、ライン圧PLを直接検知するセンサが設けられていないため、油圧センサ79を用いて、ライン圧PLに基づいて生成されるセカンダリプーリ圧Pbを検知することでライン圧PLが所定値PT1に達するまでの時間を検知するようにしている。従って、例えば、前進用クラッチC1の係合圧PDを検知するセンサや、ライン圧PLを検知するセンサや、プライマリプーリ圧Pa、セカンダリプーリ圧Pbを検知するセンサが設けられていれば、それらのいずれかを適用してもよい。
【0036】
また、ECU70は、内燃エンジン8がある程度の時間、駆動されることで、プライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46から空気が抜け出して、ライン圧PLが所定値PT1に達するまでの時間T3が短くなって所定時間未満になったときは、エア抜け状態であるものと判断して、次のアイドルストップ制御から駆動状態に復帰する際に第2モードを実行するようにしている(
図6参照)。エア抜け状態であると判断した場合は、FLAG=1とする(
図6、
図5のt15参照)。
【0037】
また、ECU70は、電源がオン状態にされてからオフ状態にされるまでの期間にあって復帰係合制御を第2モードにより実行した後に行う復帰係合制御において、ライン圧PLが所定値PT1に達するまでの時間が長くなって所定時間以上になった場合は、次のアイドルストップ制御から駆動状態に復帰する際に第1モードを実行する(
図7のt34参照)。
【0038】
次に、本実施の形態の自動変速機1を搭載した車両において、停車中のアイドルストップ状態から駆動状態への復帰時の動作について、
図3~
図7を用いて詳細に説明する。ここでは、停車中のアイドルストップ状態からの動作について説明している。尚、
図4~
図7において、油圧の実線は、係合圧PDの指令値を示し、破線は、係合圧PDの推測値あるいは実測値を、実際の係合圧PDとして示している。また、走行中のアイドルストップ状態から駆動状態への復帰時の動作についても、以下の説明と同様である。
【0039】
まず、長時間の内燃エンジン8の停止の後、イグニッションをオンにしたばかりで、プライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46に多くの空気が残っているときの動作について、
図3及び
図4を用いて説明する。尚、ここでは、イグニッションオン後の2回目以降のアイドルストップ状態から駆動状態に復帰する動作について説明し、イグニッションオン後の最初のアイドルストップ状態から駆動状態に復帰する動作については、後述する。
【0040】
図3に示すように、ECU70は、アイドルストップ状態から駆動状態に復帰するための要求があるか否かを判断する(ステップS1)。復帰の要求がなければ(ステップS1のNO)、再び判断する。復帰の要求があった場合は(ステップS1のYES)、内燃エンジンの始動制御を開始する(ステップS2、
図4のt1)。
【0041】
ECU70は、FLAGが0であるか否かを判断する(ステップS3)。FLAGは、ECU70の電源がオン状態になった際に0にリセットされる。また、FLAGは、アイドルストップが実行されても維持される。例えば、FLAG=1の状態でアイドルストップが実行された場合、駆動状態への復帰時にはFLAG=1のままである。
【0042】
ここでは、ECU70は、FLAGが0であると判断し(ステップS3のYES)、エア混入状態であるとして、復帰係合制御を第1モードにより実行する(ステップS4)。ここでは、
図4に示すように、ECU70は、油圧サーボ76に供給する係合圧PDの指令値を所定の条件に基づいて設定した値Psとし、油圧サーボ76に油圧を充填して実際の係合圧PD(破線で示す)を上昇させる初期上昇フェーズを実行する(t1~t3)。初期上昇フェーズにおいて、エンジン回転速度Neが上昇するのに伴い、中間軸12(
図1参照)の回転速度であるタービン回転速度Ntが上昇する。また、第1モードでの初期上昇フェーズは、ファストフィルに相当する。
【0043】
続いて、ECU70は、油圧サーボ76に供給する係合圧PDの指令値を設定した値Psよりも低い値とし、油圧サーボ76に供給される実際の係合圧PDが指令値に達するまで待機する待機フェーズを実行する(t3~t5)。続いて、ECU70は、係合圧PDの指令値を上昇して、前進用クラッチC1における差回転を無くしていく係合フェーズを実行する(t5~t6)。また、待機フェーズでタービン回転速度Ntが吹き上がった後、係合フェーズでタービン回転速度Ntとプライマリ軸22(
図1参照)の回転速度である入力回転速度Ninとが同期して上昇する。
【0044】
一方、
図3に示すように、ECU70は、第1モードの実行に並行して、エア混入状態であるか否かの判定を行う(ステップS5)。ここでのエア混入状態であるか否かの判定は、セカンダリプーリ圧Pbが所定値PT1に達するまでの時間T1が所定時間未満であるか否かに基づいて判断する(
図4のt2)。そして、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが遅く、時間T1が所定時間以上であれば、エア混入状態であるものと判断し、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが早く、時間T1が所定時間未満であれば、エア抜け状態であるものと判断する。ここでは、ECU70は、エア混入状態であると判断し(ステップS5のYES、
図4のt2)、FLAGを0のまま維持して(ステップS6)、処理を終了する。
【0045】
次に、FLAG=0の状態で、内燃エンジン8がある程度の時間、駆動されることで、プライマリ側作動油室41やセカンダリ側作動油室46から空気が抜け出した場合のアイドルストップ状態から駆動状態への復帰時について、
図3及び
図5を用いて説明する。
【0046】
図3に示すように、ECU70は、FLAGが0であるか否かを判断する(ステップS3)。ここでは、ECU70は、FLAGが0であると判断し(ステップS3のYES)、復帰係合制御を第1モードにより実行する(ステップS4)。
図5に示すように、ECU70は、初期上昇フェーズ(t11~t13)と、待機フェーズ(t13~t14)と、係合フェーズ(t14~t15)とを実行する。
【0047】
一方、
図3に示すように、ECU70は、第1モードの実行に並行して、エア混入状態であるか否かの判定を行う(ステップS5)。ここでは、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが早く、時間T2が所定時間未満であり、ECU70は、エア混入状態ではなくエア抜け状態であると判断し(ステップS5のNO、
図5のt12)、FLAGを1にして(ステップS7、
図5のt15)、処理を終了する。
【0048】
次に、FLAG=1になった後のアイドルストップ状態から駆動状態への復帰時について、
図3及び
図6を用いて説明する。
【0049】
図3に示すように、ECU70は、FLAGが0であるか否かを判断する(ステップS3)。ここでは、ECU70は、FLAGが1であると判断し(ステップS3のNO)、復帰係合制御を第2モードにより実行する(ステップS8)。
図6に示すように、ECU70は、初期上昇フェーズ(t21~t23)と係合フェーズ(t23~t24)とを実行する。初期上昇フェーズでは、所定の条件に基づいて設定した値Psを、例えばそのまま係合するためのフル圧にする。また、初期上昇フェーズにおいてタービン回転速度Ntと入力回転速度Ninとが同期して上昇を開始する。
【0050】
一方、
図3に示すように、ECU70は、第2モードの実行に並行して、エア混入状態であるか否かの判定を行う(ステップS5)。ここでは、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが早く、時間T3が所定時間未満であり、ECU70は、エア混入状態ではなくエア抜け状態であると判断し(ステップS5のNO、
図6のt22)、FLAGを1に維持して(ステップS7)、処理を終了する。
【0051】
次に、FLAG=1の状態でも、イグニッションをオフにする前にエア抜け状態からエア混入状態になった場合のアイドルストップ状態から駆動状態への復帰時について、
図3及び
図7を用いて説明する。ここで、例えば、高速回転や高油温で作動油が撹拌されて気泡が通常より多く発生することがあり、その後、アイドルストップで、かつ、無段変速機構2が停止すると作動油の流れが落ち着いてエア混入状態になる可能性がある。あるいは、例えば、停車中に、無段変速機構2を停止させた状態で2時間以上継続することで、エア混入状態になる可能性がある。このため、本実施の形態では、可能性は低いものの、これらのような場合を想定して、対処可能なようにしている。
【0052】
図3に示すように、ECU70は、FLAGが0であるか否かを判断する(ステップS3)。ここでは、ECU70は、FLAGが1であると判断し(ステップS3のNO)、復帰係合制御を第2モードにより実行する(ステップS8)。
図7に示すように、ECU70は、初期上昇フェーズ(t31~t33)と係合フェーズ(t33~t34)とを実行する。初期上昇フェーズでは、所定の条件に基づいて設定した値Psを、例えばそのまま係合するためのフル圧にする。
【0053】
一方、
図3に示すように、ECU70は、第2モードの実行に並行して、エア混入状態であるか否かの判定を行う(ステップS5)。ここでは、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが遅く、時間T4が所定時間以上であり、ECU70は、エア混入状態であると判断し(ステップS5のYES、
図7のt32)、FLAGを0にして(ステップS6)、処理を終了する。
【0054】
ここで、イグニッションオン後の最初のアイドルストップ状態から駆動状態に復帰する動作について説明する。本実施の形態では、イグニッションオン後の最初のアイドルストップ状態から駆動状態に復帰する場合は、第1モードを実行するようにしている。これは、イグニッションオン後の最初の駆動状態に復帰する場合に、仮にライン圧PLの立ち上がりが早かったとしても、立ち上がりが早いことを判定した時点では既に待機フェーズを実行しており、そこから急に上げると急係合になってしまうためである。このため、1回目の復帰時には第1モードを実行し、エア混入状態の判定を行い、2回目以降の実行モードの選択に利用する。
【0055】
また、例えば、アイドルストップ状態になった直後は、セカンダリプーリ圧Pbが比較的高圧で残っているため、その直後に駆動状態に復帰すると、エア混入状態であってもセカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが早いという判定をしてしまう虞がある。このため、アイドルストップ状態になり内燃エンジン8の回転が停止してから、所定時間を経過後でなければエア混入の判定を行わないようにすることが好ましい。
【0056】
また、本実施の形態では、ECU70は、復帰係合制御を第1モードにより実行する場合において、初期上昇フェーズの実行時間をタイマによって所定長さに制限するようにしている。例えば、
図5に示すように、初期上昇フェーズは、セカンダリプーリ圧Pbが閾値PT2に達したとき(t13)まで継続するようにしている。
図5に示す状態では、エア抜け状態であるため、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが早く、初期上昇フェーズが長すぎることはない。
【0057】
これに対し、
図4に示すように、初期上昇フェーズを、セカンダリプーリ圧Pbが閾値PT2に達したとき(t4)まで継続すると、
図4に示す状態では、エア混入状態であるため、セカンダリプーリ圧Pbの立ち上がりが遅く、初期上昇フェーズが長すぎて係合圧PDが待機フェーズの油圧以上に上がってしまう所謂ファストフィル当たりを起こす虞がある。そこで、ECU70は、初期上昇フェーズの実行時間の上限を設定するようにしている(
図4ではt3まで)。また、初期上昇フェーズの実行時間が短すぎると、レスポンスを一定以上確保できなくなる虞があるため、ECU70は、初期上昇フェーズの実行時間の下限を設定するようにしている。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態の自動変速機1によると、ECU70は、エア混入状態では3フェーズの第1モードで復帰係合制御を実行するので、前進用クラッチC1の係合ショックを軽減することができる。また、エア抜け状態では次の復帰係合制御において2フェーズの第2モードで復帰係合制御を実行するので、発進のレスポンスを確保しながらも、前進用クラッチC1の係合ショックを軽減することができる。
【0059】
また、本実施の形態の自動変速機1によると、ECU70は、電源がオン状態にされてからオフ状態にされるまでの期間で、エア抜け状態からエア混入状態になった場合でも、次の復帰係合制御を再び第1モードにより実行する。このため、エア混入状態で第2モードを実行してしまうことを回避し、前進用クラッチC1にショックを発生させることを抑制できる。
【0060】
また、本実施の形態の自動変速機1によると、ECU70は、復帰係合制御を第1モードにより実行する場合において、初期上昇フェーズの実行時間を所定長さに制限する。このため、初期上昇フェーズが長すぎることによる所謂ファストフィル当たりの発生や、短すぎることによるレスポンスの確保不足を回避することができる。
【0061】
上述した本実施の形態の自動変速機1では、エア混入状態を、セカンダリプーリ圧Pbが所定値PT1に達するまでの時間に基づいて判断する場合について説明したが、これには限られず、係合圧PDや、ライン圧PLなどを適用してもよい。あるいは、エア混入状態を油圧に基づいて判断することには限られず、例えば、回転速度に基づいて判断するようにしてもよい。この場合は、回転速度センサを用いてエア混入状態を判断することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…自動変速機(車両用駆動装置)、2…無段変速機構、7…カウンタ軸(出力部材)、8…内燃エンジン、12…中間軸(入力部材)、21…機械式オイルポンプ、70…ECU(制御部)、71…油圧制御装置、76…油圧サーボ、C1…前進用クラッチ(係合要素)、Pb…セカンダリプーリ圧(プーリ圧)、PD…係合圧、PT1…所定値