(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051106
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】化合物、ポリマー、パターン形成材料、パターン形成方法および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 12/14 20060101AFI20220324BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20220324BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
C08F12/14
C07C69/76 Z CSP
H01L21/30 563
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157383
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 典克
(72)【発明者】
【氏名】浅川 鋼児
(72)【発明者】
【氏名】杉村 忍
【テーマコード(参考)】
4H006
4J100
5F146
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB46
4H006BJ20
4H006BJ50
4J100AB07P
4J100AJ03P
4J100AJ10P
4J100AL08P
4J100BA20P
4J100BC43P
4J100CA01
4J100JA38
4J100JA43
4J100JA46
5F146HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パターン形成材料として有用なポリマーを作製可能な重合性の化合物、該化合物を用いて得られるポリマー、パターン形成材料、パターン形成材料を用いたパターン形成方法および半導体装置の製造方法の提供。
【解決手段】式(3)で示されるモノマーユニットを含むポリマー。
【選択図】
図1E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】
(ただし、上記一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はそれぞれ独立して、α炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で示される化合物。
【化2】
(ただし、上記一般式(2)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はα炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、Xは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数2~4の炭化水素基であって、少なくとも1つが炭素数2~4の炭化水素基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)または(2)において、R2は、それぞれ独立して、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)または(2)において、XおよびYが有する炭化水素基が、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基である請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物に由来するモノマーユニットを含むポリマー。
【請求項6】
被加工膜を有する基板の前記被加工膜上に、パターン形成材料を用いて有機膜を形成しパターニングした後、前記有機膜に金属化合物を含浸させた複合膜をマスクパターンとして、前記被加工膜を加工する際に用いる、前記パターン形成材料であって、
下記一般式(3)または(4)で示されるモノマーユニットを含むポリマーを含有するパターン形成材料。
【化3】
【化4】
(ただし、上記一般式(3)および(4)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はそれぞれ独立して、α炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。)
【請求項7】
前記一般式(3)または(4)において、R2は、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基である請求項6に記載のパターン形成材料。
【請求項8】
基板上にパターン形成材料を用いて有機膜を形成し、
前記有機膜をパターニングした後、前記有機膜に金属化合物を含浸させて複合膜を形成して、前記複合膜からなるマスクパターンを得るパターン形成方法であって、
前記パターン形成材料は、下記一般式(3)または(4)で示されるモノマーユニットを含むポリマーを含有するパターン形成方法。
【化5】
【化6】
(ただし、上記一般式(3)および(4)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はそれぞれ独立して、α炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。)
【請求項9】
前記一般式(3)または(4)において、R2は、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基である請求項8記載のパターン形成方法。
【請求項10】
被加工膜を有する基板の前記被加工膜上にパターン形成材料を用いて有機膜を形成し、
前記有機膜をパターニングした後、前記有機膜に金属化合物を含浸させて複合膜を形成して、前記複合膜からなるマスクパターンを得、
前記マスクパターンを用いて前記被加工膜を加工する、
半導体装置の製造方法であって、
前記パターン形成材料は、下記一般式(3)または(4)で示されるモノマーユニットを含むポリマーを含有する半導体装置の製造方法。
【化7】
【化8】
(ただし、上記一般式(3)および(4)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はそれぞれ独立して、α炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。)
【請求項11】
前記一般式(3)または(4)において、R2は、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基である請求項10記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、化合物、ポリマー、パターン形成材料、パターン形成方法および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程において、アスペクト比が高いパターンを形成する技術への要望が高まっている。このような工程に用いられるマスクパターンは長時間エッチングガスに曝されるため、高いエッチング耐性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、パターン形成材料として有用なポリマーを作製可能な重合性の化合物、該化合物を用いて得られるポリマーを提供することを目的とする。さらに、本発明の実施形態は、高いエッチング耐性を有する金属含有有機膜からなるマスクパターンが作製可能なパターン形成材料、該パターン形成材料を用いたパターン形成方法および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態は下記一般式(1)で示される化合物(以下、化合物(1)と称する。)、および化合物(1)に由来するモノマーユニットから選ばれるモノマーユニットを含むポリマーを提供する。
【0006】
【0007】
また、本実施形態は下記一般式(2)で示される化合物(以下、化合物(2)と称する。)、および化合物(2)に由来するモノマーユニットから選ばれるモノマーユニットを含むポリマーを提供する。
【0008】
【0009】
ただし、上記一般式(1)および(2)中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はそれぞれ独立して、α炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。
【0010】
さらに、本実施形態は、化合物(1)および(2)に由来するモノマーユニットから選ばれるモノマーユニットを含むポリマーを含有するパターン形成材料、それを用いたパターン形成方法および半導体装置の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】実施形態にかかる半導体装置の製造方法の一工程を示す図である。
【
図1B】実施形態にかかる半導体装置の製造方法の一工程を示す図である。
【
図1C】実施形態にかかる半導体装置の製造方法の一工程を示す図である。
【
図1D】実施形態にかかる半導体装置の製造方法の一工程を示す図である。
【
図1E】実施形態にかかる半導体装置の製造方法の一工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
ポリマーはモノマーが重合してなる重合体であり、モノマー由来の繰り返し単位により構成される。本明細書においては、ポリマーを構成する繰り返し単位をモノマーユニットと呼ぶ。モノマーユニットはモノマー由来の単位であり、モノマーユニットの構成モノマーとは、重合により該モノマーユニットを形成するモノマーをいう。
【0014】
本明細書において一般式(1)で示される化合物を化合物(1)ともいう。また、一般式(3)で示されるモノマーユニットをモノマーユニット(3)ともいう。さらに、化合物(1)に由来するモノマーユニットをモノマーユニット(1)とも示す。同様に、モノマーユニット(3)の構成モノマーをモノマー(3)とも示す。他の一般式または化学構造式で示される化合物およびモノマーユニットの場合も同様に一般式または化学構造式の記号で化合物およびモノマーユニットを示すことがある。
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み、パターン形成材料として有用なポリマーを作製可能な重合性の新規な化合物を見出した。さらに、該化合物を含む特定の部分構造を有する重合性化合物のポリマーを含有するパターン形成材料を用いて有機膜を形成しパターニングした後、該有機膜に金属化合物を含浸させた複合膜をマスクパターンとすることで、高いエッチング耐性を有するマスクパターンが得られることを見出した。有機膜に金属化合物を含浸させることを「メタライズ」という。メタライズは、具体的には、金属化合物が結合可能な部位を有する有機膜の該部位に金属化合物を結合させることで行うことができる。金属化合物には、結合後、例えば、酸化等の後処理が施されてもよい。以下に、本発明の実施形態に係る特定のポリマーを含有するパターン形成材料について説明する。
【0016】
[化合物]
実施形態の化合物は、例えば、下記一般式(1)および(2)で示される化合物が挙げられる。
【0017】
【0018】
ただし、上記一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はα炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。
【0019】
【0020】
ただし、上記一般式(2)中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2はα炭素が1級炭素、2級炭素または3級炭素である炭素数2~14の炭化水素基であり、Qは、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基であり、Xは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基であって、それらのうち少なくとも1つが炭素数1~4の炭化水素基である。
なお、上記一般式(2)のようにベンゼン環に結合したカルボニル基が1つの場合、Xが比較的大きな置換基であると、この化合物由来のポリマーを用いて後述する複合膜とした際に安定性が高く、エッチング耐性も良好となる点から、Xの炭化水素基は炭素数2~4が好ましい。
【0021】
R2は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であってよく、例えば、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基が好ましい。
XおよびYの炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であってよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基が好ましい。このXおよびYは、それらのうち少なくとも1つが炭化水素基であればよく、これは、一般式(1)の化合物では、Yの1つ以上が炭化水素基でXが水素原子、Yが全て水素原子でXが炭化水素基、Yの1つ以上が炭化水素基でXが炭化水素基、の組み合わせ、一般式(2)の化合物では、Xの1つ以上が炭化水素基であること、を意味する。
【0022】
Qが、炭化水素基である場合、直鎖状、分岐鎖状、または環状であってよいし、脂肪族基または芳香族基のいずれであってもよい。芳香環を有すると、得られる複合膜のエッチング耐性の点から好ましい。炭化水素基の炭素数は、環を有しない場合、1~10が好ましく、環を有する場合、6~18が好ましい。この炭化水素基においては、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよく、ハロゲン原子としては、F、Cl、Brが挙げられる。
【0023】
このような炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフタレン基、1,4-アントラセン基等が挙げられる。
【0024】
Qが、有機基である場合、上記炭化水素基の炭素-炭素原子間、もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を少なくとも1つ含む構造の基であればよい。すなわち、この有機基中に、-O-結合、-S-結合または-N-結合を有していればよく、さらに、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合のような結合を形成してもよい。
【0025】
化合物(1)において、2個のR2は、同じであっても異なってもよいが、製造容易性の観点から同じであることが好ましい。
【0026】
この化合物(1)および(2)において、Qが単結合である化合物として、例えば、次の一般式(1a)および(2a)で示される化合物が例示できる。
【0027】
【0028】
ここで、一般式(1a)において、置換基R1、R2、XおよびYは、上記一般式(1)の説明と同じ基を表す。
【0029】
【0030】
ここで、一般式(2a)において、置換基R1、R2およびXは、上記一般式(2)の説明と同じ基を表す。
【0031】
これら化合物(1a)および(2a)を製造する方法は特に限定されない。例えば、化合物(1a)は、具体的には、公知の方法により、一般式(1a)におけるR2が水素原子である、化合物(1a)の前駆体を得、該水素原子をエチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基に置換することで製造でき、以下に化合物(1a)の例を挙げ説明する。これは、その有する置換基が異なるだけで化合物(2a)も同様の合成操作により製造できる。
【0032】
例えば、化合物(1a)において、R1が水素原子、Xがメチル基、Yが水素原子の場合、上記前駆体は、Yiding Xuらの報告(Macromolecules 2009, 42(7), 2542-2550)にしたがって、以下の製造工程により合成できる。まず、上記報告にしたがって前駆体を得る工程から化合物(1a)(R1が水素原子、Xがメチル基、Yが水素原子)を得るまでの例を、以下の反応経路(1)に示す。なお、反応経路(1)中、前駆体は化学構造式Fで示される。反応経路(1)においてR2は、上記一般式(1a)中のR2と同じ意味である。
【0033】
【0034】
反応経路(1)においては、たとえば化合物A(2,5-ジメチル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを出発物質とする。まず、化合物Aに還流により塩化チオニルを作用させて化合物B(2,5-ジメチル-1,3-ジカルボン酸ジクロリド)ベンゼンを得る。次いで、化合物Bにトリエチルアミン存在下でメタノールを作用させ化合物C(2,5-ジメチル-1,3-ジカルボン酸ジメチル)ベンゼンとしてカルボン酸を保護する。さらに、化合物Cに、四塩化炭素溶媒中でN-ブロモスクシンイミド(NBS)を作用させて5位のメチル基を臭素化してベンジルブロモ誘導体(化合物D)とした後、トリフェニルホスフィン(PPh3)を作用させ化合物E(ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド誘導体)を得る。
【0035】
化合物Eに水酸化ナトリウム存在下、ホルムアルデヒドでビニル基を形成すると同時にメチル基で保護されたジカルボン酸の脱保護も行い、化合物(1)(R1が水素原子)の前駆体として化合物F(2-メチル-5-ビニル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを得る。
【0036】
得られた(2-メチル-5-ビニル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンに対して、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)を小過剰同居させ、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)の存在下、R2OHで示すアルコールを室温で作用させることで、2-メチル-5-ビニル-1,3-ビスアルキルイソフタル酸(アルキル基はR2)が得られる。R2OHで示されるアルコールに制限はないが、特に1級か2級アルコールが好ましく、より好ましくは2級アルコールが好ましい。具体的には、エタノール、イソプロピルアルコール、s-ブチルアルコールなどが好ましいものとして挙げられる。
【0037】
また、上記化合物(1)および(2)において、Qが-COO-CH2-で表される基である化合物として、例えば、次の一般式(1b)および(2b)で示される化合物が例示できる。
【0038】
【0039】
ここで、一般式(1b)において、置換基R1、R2、XおよびYは、上記一般式(1)の説明と同じ基を表す。
【0040】
【0041】
ここで、一般式(2b)において、置換基R1、R2およびXは、上記一般式(2)の説明と同じ基を表す。
【0042】
これら化合物(1b)および(2b)を製造する方法は特に限定されない。例えば、化合物(1b)において、Xがメチル基、Yが水素原子の場合、具体的には、酸クロリド反応などの公知の反応を用いた、以下に示した反応式(2)により、化合物I((メタ)アクリル酸塩化物)と、たとえば化合物G(4-メチル-3,5-ジカルボン酸ジアルキルエステル)ベンジルアルコール(アルキル基はR2)とをトリエチルアミンの存在下で反応させることで化合物(1b)を製造できる。
また、化合物Gは、(4-メチル-3,5-ジカルボン酸ジアルキルエステル)フェノール(アルキル基はR2)とすることもできる。このとき、得られる化合物(1)中のQは-COO-となる。
【0043】
【0044】
なお、化合物Gは、前述の化合物Dを出発物として、アセトンと水の混合溶媒に溶解し、イオン交換樹脂と作用させ、(4-メチル-3,5-ジカルボン酸)ベンジルアルコール(化合物P)とし、DMF中、CDIを小過剰同居させ、DBUの存在下、R2OHで示すアルコールを室温で作用させることで得られる。
【0045】
反応式(2)において、R1およびR2は、上記一般式(1)中のR1およびR2と同じ意味である。なお、本明細書における(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸の総称である。(メタ)アクリレートは、アクリルレートおよびメタクリルレートの総称である。
【0046】
[ポリマー]
実施形態のポリマーは、化合物(1)で示される化合物に由来するモノマーユニット(1)を含むポリマー(以下、ポリマー1ともいう。)および/または化合物(2)で示される化合物に由来するモノマーユニット(2)を含むポリマー(以下、ポリマー2ともいう。)である。
【0047】
(ポリマー1)
ポリマー1は、ポリマー1を構成する全モノマーユニット中に化合物(1)に由来するモノマーユニット(1)(下記一般式(3)で示されるモノマーユニット(3)と同じ)を含むポリマーであればよい。
【0048】
【化11】
(ただし、R
1、R
2、Q、XおよびYは上記一般式(1)と同じである。)
【0049】
ポリマー1は、より具体的には、化合物(1a)で示される化合物に由来するモノマーユニット(1a)および化合物(1b)で示される化合物に由来するモノマーユニット(1b)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。すなわち、ポリマー1は、モノマーユニット(1a)を含みモノマーユニット(1b)を含まないポリマー(以下、ポリマー1a)であってもよく、モノマーユニット(1b)を含みモノマーユニット(1a)を含まないポリマー(以下、ポリマー1b)であってもよく、モノマーユニット(1a)とモノマーユニット(1b)の両方を含むポリマー(以下、ポリマー1ab)であってもよい。
【0050】
ポリマー1aは、モノマーユニット(1a)の1種のみを含んでもよく、2種以上を含んでもよい。ポリマー1aにおけるモノマーユニット(1a)の含有割合は、ポリマー1aを構成する全モノマーユニットに対して、50~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0051】
同様に、ポリマー1bは、モノマーユニット(1b)の1種のみを含んでもよく、2種以上を含んでもよい。ポリマー1bにおけるモノマーユニット(1b)の含有割合は、ポリマー1bを構成する全モノマーユニットに対して、50~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0052】
ポリマー1abに含まれるモノマーユニット(1a)およびモノマーユニット(1b)は、それぞれ、1種のみでもよく、2種以上でもよい。ポリマー1abにおけるモノマーユニット(1a)およびモノマーユニット(1b)の合計の含有割合は、ポリマー1abを構成する全モノマーユニットに対して、50~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0053】
ポリマー1がモノマーユニット(1a)およびモノマーユニット(1b)以外のその他のモノマーユニットを含有する場合、その他のモノマーユニットは特に制限されない。その他のモノマーユニットとしては、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、グリシジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられる。
【0054】
ポリマー1の製造は、モノマーユニットの構成モノマーを用いて通常の方法、例えば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等で行える。重合後に溶剤に再溶解すること、乳化剤や水分などの不純物を極力排除することの点から溶液重合が好ましい。ポリマー1を溶液重合で合成する場合、通常、所定のモノマーを重合溶媒に溶解し、重合開始剤の存在下、重合する。重合溶媒の量、重合温度、重合時間等の重合条件は、モノマーの種類、合成するポリマー1の分子量等に合わせて適宜選択される。
【0055】
(ポリマー2)
ポリマー2は、ポリマー2を構成する全モノマーユニット中に化合物(2)に由来するモノマーユニット(2)(下記一般式(4)で示されるモノマーユニット(4)と同じ)を含むポリマーであればよい。
【0056】
【化12】
(ただし、R
1、R
2、QおよびXは上記一般式(2)と同じである。)
【0057】
より具体的には、化合物(2a)で示される化合物に由来するモノマーユニット(2a)および化合物(2b)で示される化合物に由来するモノマーユニット(2b)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。すなわち、ポリマー2は、モノマーユニット(2a)を含みモノマーユニット(2b)を含まないポリマー(以下、ポリマー2a)であってもよく、モノマーユニット(2b)を含みモノマーユニット(2a)を含まないポリマー(以下、ポリマー2b)であってもよく、モノマーユニット(2a)とモノマーユニット(2b)の両方を含むポリマー(以下、ポリマー2ab)であってもよい。
【0058】
ポリマー2aは、モノマーユニット(2a)の1種のみを含んでもよく、2種以上を含んでもよい。ポリマー2aにおけるモノマーユニット(2a)の含有割合は、ポリマー2aを構成する全モノマーユニットに対して、50~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0059】
同様に、ポリマー2bは、モノマーユニット(2b)の1種のみを含んでもよく、2種以上を含んでもよい。ポリマー2bにおけるモノマーユニット(2b)の含有割合は、ポリマー2bを構成する全モノマーユニットに対して、50~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0060】
ポリマー2abに含まれるモノマーユニット(2a)およびモノマーユニット(2b)は、それぞれ、1種のみでもよく、2種以上でもよい。ポリマー2abにおけるモノマーユニット(2a)およびモノマーユニット(2b)の合計の含有割合は、ポリマー2abを構成する全モノマーユニットに対して、50~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0061】
ポリマー2がモノマーユニット(2a)およびモノマーユニット(2b)以外のその他のモノマーユニットを含有する場合、その他のモノマーユニットは特に制限されない。その他のモノマーユニットとしては、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、グリシジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられる。
【0062】
ポリマー2の製造は、モノマーユニットの構成モノマーを用いて通常の方法、例えば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等で行える。重合後に溶剤に再溶解すること、乳化剤や水分などの不純物を極力排除することの点から溶液重合が好ましい。ポリマー2を溶液重合で合成する場合、通常、所定のモノマーを重合溶媒に溶解し、重合開始剤の存在下、重合する。重合溶媒の量、重合温度、重合時間等の重合条件は、モノマーの種類、合成するポリマー2の分子量等に合わせて適宜選択される。
【0063】
[パターン形成材料]
実施形態のパターン形成材料(以下、「本パターン形成材料」という。)は、上記一般式(3)で示されるモノマーユニット(3)および/または上記一般式(4)で示されるモノマーユニット(4)を含むポリマー(以下、ポリマーZともいう。)を含有するパターン形成材料である。これは、上記の対応関係から、化合物(1)に由来するモノマーユニット(1)および/または化合物(2)に由来するモノマーユニット(2)を含むポリマーを含有するパターン形成材料とも言える。
【0064】
モノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)が上記のような側鎖を有することで、以下のとおり、本パターン形成材料から得られる有機膜に金属化合物が強固に結合した複合膜が得られる。
【0065】
本パターン形成材料は、被加工膜を有する基板の被加工膜上に有機膜を形成するのに用いられる。本パターン形成材料は、例えば、有機溶媒とともに後述する実施形態のパターン形成用組成物に含有され、該組成物を用いて被加工膜上に塗布され有機膜を形成する。
【0066】
有機膜は、本パターン形成材料自体からなってもよく、本パターン形成材料が含有する成分が反応して形成されてもよい。有機膜はパターニングされた後、有機膜が有するモノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)に金属化合物を結合して複合膜とされる。そして、該複合膜がマスクパターンとして用いられて、上記被加工膜が加工される。
【0067】
ポリマーZにおいて、モノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)に金属化合物が結合する反応は、例えば、モノマーユニット(3)を例にすれば、以下の反応式(F)または反応式(G)に示される反応で示される。これらの反応式において、R1、Q、XおよびYは、一般式(3)中、R1、Q、XおよびYと同じ意味であり、nはポリマーZにおけるモノマーユニット(3)の繰り返し数を示す。この点、モノマーユニット(4)も同様の反応により金属化合物が結合できる。
【0068】
反応式(F)および反応式(G)に示す反応は、金属化合物としてトリメチルアルミニウム(TMA)を用いた場合の反応例である。モノマーユニット(3)におけるR2を、-CR11R12R13(ただし、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基を示し、これらのうち少なくとも1つは炭化水素基であり、これらの合計炭素数は1~13である。)で示す。反応式(F)および反応式(G)においては、モノマーユニット(3)のR11を炭化水素基とし、R12およびR13を水素原子または炭化水素基として、モノマーユニット(3)へのTMAの結合を説明する。
【0069】
反応式(F)に示すように、ポリマーZ中のモノマーユニット(3)にTMAを反応させる場合、TMAのAlが、モノマーユニット(3)が有する2個のカルボニル基の酸素原子の非共有電子対に配位する。その際、モノマーユニット(3)の側鎖末端にエステル結合していた、1級、2級または3級の炭化水素基(-CR11R12R13)との結合力が弱体化すると推測される。その結果、モノマーユニット(3)から-CR11R12R13がそれぞれ脱離し、TMAのAlがエステル結合由来の2個の酸素原子に結合した一般式(3’)で示されるモノマーユニットとなる。
【0070】
反応式(F)では、脱離した炭化水素基は、R11’=CR12R13として回収される。ここで、R11’はR11から水素原子が1つ抜けた基である。なお、反応式(F)中では脱離基を便宜上R11’=CR12R13と記載したが、R11C=R12’R13(R12’はR12から水素原子が1つ抜けた基)や、R11C=R13’R12(R13’はR13から水素原子が1つ抜けた基)の場合もあり得る。このようにして、脱離基からは水素原子が外れ、アルケンとなり脱離してゆく。脱離基から外れた水素はTMAのメチル基に置換し、メタンとしてTMAから脱離すると推測される。
【0071】
ポリマーZにおいて、モノマーユニット(3)に金属化合物が結合する場合、脱離する炭化水素基は上記反応式(F)の行程とは別に、以下の反応式(G)に示す反応もとると考えられる。すなわち、反応式(G)に示すように、便宜上モノマーユニット(3)からR11C+R12R13として脱離し、その後TMAから脱離する(CH3)―と結合し、R11C(CH3)R12R13となり主鎖から離脱することも考え得る。
【0072】
【0073】
【0074】
モノマーユニット(3)の側鎖末端にエステル結合している、1級、2級または3級の炭化水素基(R2)は、モノマーユニット(3)のカルボニル基にTMA等の金属化合物を吸着させない場合においても、特定の条件により脱離する。しかしながら、反応式(F)で示すように、モノマーユニット(3)のカルボニル基にTMA等の金属化合物が配位した場合、炭化水素基(R2(反応式(F)では-CR11R12R13で示す。))の脱離は、上記特定の条件に比べて大幅に温和な条件で達成できる。これは本発明者らにより新たに確認された事象であり、これにより、本パターン形成材料を用いて形成された有機膜のメタライズは、金属化合物が強固に結合できるとともに、生産性にも優れるといえる。
【0075】
なお、実施形態においてメタライズは本パターン形成材料を用いて形成される有機膜に対して行われる。上記のとおり本パターン形成材料を用いて形成される有機膜は、本パターン形成材料自体からなってもよく、本パターン形成材料が含有する成分が反応して形成されてもよい。
【0076】
本パターン形成材料においては、ポリマーZから形成される有機膜は、少なくともモノマーユニット(3)およびモノマーユニット(4)から選ばれるモノマーユニットの側鎖の構造をそのまま有することが好ましい。これにより、有機膜をメタライズして得られる複合膜は、例えば、モノマーユニット(3’)に示すように金属化合物であるAl(CH3)x(Xは0~2の数、モノマーユニット(3’)においては2)がモノマーユニット(3’)の2個の酸素原子に強固に結合した構造を有することができる。
【0077】
また、下記一般式(5)に示すような金属化合物である、例えば、TMA(Al(CH3)3)に由来するAl(CH3)を2つのカルボニル基で挟持するような形態も考え得る。この場合、上記反応式(F)および(G)中の一般式(3’)に示すような、一つのカルボニル基でAl(CH3)2を挟持するよりも強固な結合を形成すると考えられる。なお、配位するカルボニル基の数は、中心金属の種類とそれを取り巻くポリマーマトリクスの立体障壁に依存する。なお、一般式(5)において、R1、Q、XおよびYは、一般式(3)中、R1、Q、XおよびYと同じ意味であり、nはポリマーZにおけるモノマーユニット(3)の繰り返し数を示す。
【0078】
【0079】
モノマーユニット(3)において、R2のα炭素は1級炭素、2級炭素または3級炭素である。R2を-CR11R12R13(ただし、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基を示し、これらのうち少なくとも1つは炭化水素基であり、これらの合計炭素数は1~13である。)で示した場合を例にR2について説明する。
【0080】
-CR11R12R13のCが1級炭素の場合、R11、R12およびR13のうちいずれか1つが炭化水素基であり、残りの2つが水素原子である。-CR11R12R13のCが2級炭素の場合、R11、R12およびR13のうちいずれか2つが炭化水素基であり、残りの1つが水素原子である。-CR11R12R13のCが3級炭素の場合、R11、R12およびR13はいずれも炭化水素基である。なお、R11、R12およびR13の合計炭素数は1~13であり、-CR11R12R13としての合計炭素数は2~14である。
【0081】
本発明者は、一般式(3)において側鎖の末端にエステル結合する基(R2)がCH3であるモノマーユニットの場合、すなわち、実施形態の範囲外の場合、例えば、TMAを用いたメタライズにおいて、TMAのAlがカルボニル基の酸素原子の非共有電子対に吸着するが、CH3基は、側鎖の末端から脱離しづらいことを確認した。したがって、このようなモノマーユニットにおいては、TMAのAlがエステル結合由来の2個の酸素原子に結合したモノマーユニット(3’)の構造を取ることが実質できない。
【0082】
なお、複合膜におけるメタライズの度合いは、X線光電子分光分析(XPS)により複合膜中の金属化合物が有する金属の量を測定することで確認できる。また、金属化合物の金属が有機膜中のモノマーユニット(3)が側鎖の末端に有するエステル結合に由来する2個の酸素原子に結合した構造は、赤外分光分析(IR)により推測できる。すなわち、メタライズ前の有機膜には、エステル由来のカルボニルの吸収が見られるのに対し、メタライズ後には当該吸収が減衰し、その一方で、新たにカルボニウムイオン由来ピークが検出されることより、金属化合物の金属が有機膜中のモノマーユニット(3)が側鎖の末端に有するエステル結合に由来する2個の酸素原子に結合した構造であると推測することができる。
【0083】
また、メタライズの際にモノマーユニット(3)の側鎖の末端から脱離して得られる炭化水素、例えば、反応式(F)におけるR11’=CR12R13は、複合膜から除去されることが好ましい。そのために、R11、R12およびR13の合計炭素数は1~13である。
【0084】
本パターン形成材料を用いて得られる複合膜を後述の積層マスク構造の下地膜として用いる場合、-CR11R12R13におけるCが3級炭素の場合、-CR11R12R13は比較的緩和な条件で、モノマーユニット(3)から脱離することがある。すなわち、積層マスク構造のように有機膜上に別の層が形成される場合、-CR11R12R13におけるCが3級炭素の場合、該層を形成する際に有機膜中の-CR11R12R13が脱離するおそれがある。
【0085】
モノマーユニット(3)が有する-CR11R12R13が分解して、カルボン酸を形成した場合、形成されたカルボン酸が酸触媒になり、そこに熱が加わると、周囲のエステル結合をさらに加水分解させることがある。-CR11R12R13におけるCが1級炭素または2級炭素の場合、3級炭素の場合に比べて、-CR11R12R13が脱離しにくいため、下地膜を作製する際に加えられる温度域によっては、-CR11R12R13におけるCが1級炭素または2級炭素であることが好ましい場合もある。
【0086】
モノマーユニット(3)におけるR2は、α炭素が3級の場合は、t-ブチル基である。R2は、α炭素が2級の場合、イソプロピル基またはs-ブチル基である。R2は、α炭素が1級の場合、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基またはイソブチル基である。
【0087】
-CR11R12R13として具体的には、-CR11R12R13におけるCが3級炭素の場合、R11、R12、およびR13が、それぞれ独立に、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基であり、合計炭素数が3~13の炭化水素基が挙げられる。これらのうちでも、-CR11R12R13としては、R11、R12、およびR13が全てメチル基であるt-ブチル基が好ましい。
【0088】
-CR11R12R13におけるCが2級炭素の場合、例えば、R13を水素原子とすると、R11、およびR12が、それぞれ独立に、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基であり、合計炭素数が2~13の炭化水素基が挙げられる。これらのうちでも、-CR11R12R13(ただし、R13はH)としては、R11およびR12がいずれもメチル基であるイソプロピル基、R11およびR12がそれぞれメチル基、エチル基であるs-ブチル基、R11およびR12がそれぞれエチル基である3-ペンチル基、R11およびR12がそれぞれプロピル基である4-ヘプチル基、R11およびR12がそれぞれn-ブチル基である5-ノニル基が好ましい。
【0089】
-CR11R12R13におけるCが1級炭素の場合、R12およびR13を水素原子とすると、R11が、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基であり、合計炭素数が1~13の炭化水素基が挙げられる。これらのうちでも、-CR11R12R13(ただし、R12およびR13はH)としては、R11がメチル基であるエチル基、R11がエチル基であるプロピル基が好ましい。-CR11R12R13(ただし、R12およびR13はH)のR11としては、ベンジル基も好ましい。
【0090】
なお、上記では、TMAがエステル結合由来の酸素原子に配位することで結合が強固になることを説明したが、この酸素原子に過剰のTMAが配位してしまうと、逆に、モノマーユニット(3)の不安定化を招くおそれがあり、本実施形態では、置換基XおよびYのうち少なくとも1つを炭化水素基とすることにより、その不安定化を抑制している。すなわち、モノマーユニット(3)のXおよびYの全てが水素原子である場合と比べて、ベンゼン環のエステル結合が結合した炭素原子に隣接した炭素原子の少なくとも1つに、炭素数1~4の炭化水素基を置換させることで、エステル結合由来の酸素原子に対する過剰TMAの配位を抑制できる。これにより、モノマーユニット(3)を有するパターン形成材料により得られる複合膜は、後述するエッチング時において、高いエッチング耐性を有することができる。
【0091】
また、一般式(3)におけるQは、上記のように、一般式(1)や(2)で説明したものと同一である。なお、このQは、単結合または-COO-CH2-で表される基が好ましい。モノマーユニット(3)において、Qが単結合の場合は、下記一般式(31)に示されるモノマーユニット(31)であり、Qが-COO-CH2-基の場合は、下記一般式(32)に示されるモノマーユニット(32)である。なお、一般式(31)、(32)において、R1、R2およびXは、一般式(3)中、R1、R2、XおよびYと同じ意味である。
【0092】
【0093】
モノマーユニット(31)の構成モノマーのうち、R2がエチル基、イソプロピル基、s-ブチル基、またはt-ブチル基である化合物が好ましく、モノマーユニット(32)の構成モノマーのうち、R2がエチル基、イソプロピル基、s-ブチル基、またはt-ブチル基である化合物が好ましい。
【0094】
ポリマーZは、上記の通り、モノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)を含むポリマーである。以下、モノマーユニット(3)を有する場合を例に説明するが、モノマーユニット(4)を含む場合も同様に適用できる。
ポリマーZは、モノマーユニット(3)の1種を含有してもよく、2種以上を含有してもよい。ポリマーZはモノマーユニット(3)のみからなってもよく、モノマーユニット(3)とモノマーユニット(3)以外のモノマーユニットとの共重合体であってもよい。ポリマーZにおけるモノマーユニット(3)の割合は、ポリマーZの全モノマーユニットに対して、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。
【0095】
ポリマーZはモノマーユニット(3)を有することで、これを含有する本パターン形成材料から得られる有機膜における優れたメタライズ特性と、得られるマスクパターンにおける高いエッチング耐性の両立が可能となる。このようなメタライズ特性とエッチング耐性の観点からは、ポリマーZにおけるモノマーユニット(3)の割合は、50モル%以上が好ましく、後述するような他の特性を考慮しない場合には、100モル%が特に好ましい。
【0096】
ポリマーZの製造は、モノマーユニットの構成モノマーを用いて通常の方法、例えば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等で行える。重合後に溶剤に再溶解すること、乳化剤や水分などの不純物を極力排除することの点から溶液重合が好ましい。ポリマーZを溶液重合で合成する場合、通常、所定のモノマーを重合溶媒に溶解し、重合開始剤の存在下、重合する。ポリマーZの製造に用いるモノマーは、モノマーユニット(3)の構成モノマーを含む。後述のように、ポリマーZがモノマーユニット(3)以外の他のモノマーユニットを含む場合は、ポリマーZを構成する全モノマーユニットの構成モノマーを重合に用いる。重合溶媒の量、重合温度、重合時間等の重合条件は、モノマーの種類、合成するポリマーZの分子量等に合わせて適宜選択される。
【0097】
ポリマーZの重量平均分子量(Mw)は、1、000~1,000,000[g/mol](以下、単位を省略することもある。)が好ましく、2,000~1,000,000がより好ましく、2,000~100,000が特に好ましい。ポリマーZの分子量(Mw)は、ゲル透過性クロマトグラフィ(GPC)により測定できる。
【0098】
なお、上記において有機膜に結合した金属化合物は、その後、適宜処理されてマスクパターンとして使用されてもよい。例えば、反応式(F)で示されるAl(CH3)2の場合、有機膜に結合した後、酸化処理により、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウム等とされてもよい。酸化処理は、通常、水、オゾン、酸素プラズマ等の酸化剤を用いて行う。なお、酸化処理は、特に操作しなくても雰囲気中の水分により自然に行わせてもよい。
【0099】
また、上記において有機膜に結合する金属化合物としてAl(CH3)3を例に説明したが、Al(CH3)3以外のAl化合物であってもよく、Al以外の金属、例えば、Ti、V、W、Hf、Zr、Ta、Mo等の金属化合物であっても同様の結合構造が得られる。
【0100】
本パターン形成材料を用いて得られる複合膜は、有機膜に金属化合物が強固に結合しているため、高いエッチング耐性を有する。エッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)、イオンビームエッチング(IBE:Ion Beam Etching)等が挙げられ、特に高い耐性が要求されるIBEにおいても十分な耐性が実現できる。ここで、被加工膜に対して高アスペクト比の加工形状を実現するため、マスクパターンにおいて、積層マスク構造が採られることがある。本パターン形成材料を用いて形成される複合膜は、積層マスク構造に用いられる場合に、レジスト膜と被加工膜の間に形成される下地膜として好適に用いられる。
【0101】
従来、高エッチング耐性を目的とした積層マスク構造においては、レジスト膜と被加工膜の間に、下地膜として化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を用いたカーボン堆積層が用いられていた。本パターン形成材料を用いて形成される複合膜は、製膜が非常に高コストなCVD法を用いたカーボン堆積層に代替できる機能を有しながら、材料が安価であり容易に製膜できる利点を有する。
【0102】
本パターン形成材料は、ポリマーZにおいて、マスクパターンを形成する材料としてメタライズ特性とエッチング耐性以外に求められる特性(以下、「他の特性」ともいう。)を付与するために、実施形態の効果を損なわない範囲で、モノマーユニット(3)以外のモノマーユニットを含有してもよい。
【0103】
ポリマーZに求められる他の特性として、得られる有機膜を有機溶剤に対して難溶化する特性が挙げられる。これは、本パターン形成材料を、積層マスク構造に適用する場合に特に求められる特性である。積層マスク構造においては、上記のとおり本パターン形成材料を用いて形成される有機膜は、好ましくは、レジスト膜と被加工膜の間に下地膜として形成される。この場合、通常、有機膜の上に、積層マスクを構成する他の層を、該層を構成する材料を有機溶剤等に溶解させて塗工する、いわゆるウエットコーティング法で形成する。その際、ポリマーZを用いて形成された有機膜がウエットコーティング法で用いられる有機溶剤に可溶であると、有機膜が一部溶解し、有機膜の上に形成される層の構成材料と混合した混合層が形成されるおそれがある。
【0104】
そこで、本発明者らは、ポリマーZに、モノマーユニット(3)に加えて、側鎖の末端に架橋性官能基を有する架橋性のモノマーユニットを導入することで、得られる有機膜において膜成分の溶出を抑制することに想到した。これにより、ポリマーZを用いて形成される有機膜の有機溶剤に対する難溶化が可能となり、有機膜の上層をウエットコーティング法で形成した場合においても、混合層が形成されることが殆どない。以下、モノマーユニット(3)に加えて架橋性のモノマーユニットを有するポリマーZを架橋性のポリマーZということもある。
【0105】
架橋性のモノマーユニットが有する架橋性官能基としては、架橋性を有する官能基であれば特に制限されないが、保存安定性の観点からは、外部からのエネルギーによって、例えば、加熱や光照射によって、架橋機能を発現する官能基が好ましい。該架橋性官能基としては、グリシジル基、オキセタニル基、アミノ基、アジド基、チオール基、水酸基、カルボキシル基等が挙げられ、架橋後の構造が金属化合物に対して低活性であることや、架橋反応に要するエネルギーが比較的温和であることの観点から、グリシジル基、オキセタニル基、水酸基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基が特に好ましい。
【0106】
架橋性のモノマーユニットの構成モノマーとしては、エチレン基のいずれかの炭素原子に末端に架橋性官能基を有する1価の有機基が結合したモノマーが挙げられる。架橋性のモノマーユニットとして具体的には、以下の一般式(6)に示されるモノマーユニット(6)が挙げられる。
【0107】
【0108】
一般式(6)中、R20、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、R23は単結合または、炭素数1~20の炭素-炭素原子間、または結合末端に、酸素原子、窒素原子、エステル結合を含んでもよい炭化水素基であり、Lは架橋性官能基である。
【0109】
架橋性のモノマーユニットの構成モノマーとしては、末端に架橋性官能基を有する化合物が(メタ)アクリル酸にエステル結合した(メタ)アクリレートや、末端に架橋性官能基を有する化合物が置換したスチレン誘導体が好ましい。
【0110】
架橋性のモノマーユニットの構成モノマーとなる(メタ)アクリレートのうちグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとして具体的には以下の一般式L1で示される化合物が挙げられる。
【0111】
H2C=C(R31)-C(=O)-O-(R32-O)m-Gly L1
一般式L1において、R31は水素原子またはメチル基であり、Glyはグリシジル基である。mは0~3であり、R32は炭素数1~10のアルキレン基である。L1で示される(メタ)アクリレートとして具体的には、下記一般式L1-1で示されるグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。以下の各一般式におけるR31は水素原子またはメチル基である。
【0112】
【0113】
架橋性のモノマーユニットの構成モノマーとなる(メタ)アクリレートのうちオキセタニル基を有する(メタ)アクリレートとして具体的には以下の一般式L2-1で示される(3-エチル-3-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。以下の一般式におけるR31は水素原子またはメチル基である。
【0114】
【0115】
架橋性のモノマーユニットの構成モノマーとなるスチレン誘導体のうちグリシジル基を有するスチレン誘導体として具体的には以下の一般式L3で示される化合物が挙げられる。
【0116】
【0117】
ポリマーZを構成するモノマーユニット(1)と架橋性のモノマーユニットの共重合体はランダム性に富むことが好ましく、その観点からモノマーユニット(1)と架橋性のモノマーユニットの組合せを決定すればよい。
【0118】
本パターン形成材料が含有するポリマーZが架橋性のモノマーユニットを含有する場合、ポリマーZは、架橋性のモノマーユニットの1種のみを含んでもよく、2種以上を含有してもよい。ポリマーZが1種のモノマーユニット(3)と2種以上の架橋性のモノマーユニットを含有する場合、ポリマーZは、モノマーユニット(3)と各架橋性のモノマーユニットをそれぞれ含む2種以上のコポリマーの混合物であってもよく、1種のモノマーユニット(3)と2種以上の架橋性のモノマーユニットを含む1種のコポリマーであってもよい。
【0119】
また、ポリマーZが2種以上のモノマーユニット(3)と1種の架橋性のモノマーユニットを含有する場合、ポリマーZは、架橋性のモノマーユニットと各モノマーユニット(3)をそれぞれ含む2種以上のコポリマーの混合物であってもよく、2種以上のモノマーユニット(3)と1種の架橋性のモノマーユニットを含む1種のコポリマーであってもよい。
【0120】
ポリマーZがモノマーユニット(3)と架橋性のモノマーユニットを含有する場合、上記のような2種以上のコポリマーの混合物であっても1種のコポリマーからなる場合であっても、異なるポリマー鎖に含まれる架橋性のモノマーユニットの架橋性官能基同士が反応して結合することにより、複数のポリマーのそれぞれの主鎖が架橋され難溶化する。なお、架橋性官能基同士の反応は、有機膜形成時に、例えば、加熱や光照射等により行うのが好ましい。
【0121】
ポリマーZにおける架橋性のモノマーユニットの割合は、ポリマーZを構成するモノマーユニット全体に対し、好ましくは0.5モル%以上20モル%未満、より好ましくは1モル%以上10モル%未満、さらに好ましくは2モル%以上10モル%未満である。
【0122】
架橋性のモノマーユニットがモノマーユニット全体の0.5モル%未満であると、ポリマーZにおける架橋が十分に行えずポリマーの難溶化が十分に達成できずに、有機膜の構成成分が、有機膜の上層を形成するのに用いるウエットコート液に溶出してしまうおそれがある。架橋性のモノマーユニットがモノマーユニット全体の20モル%以上であると、架橋密度が高くなりすぎ、有機膜内への金属化合物の拡散が抑制され、有機膜の奥深くまでメタライズされなくなるおそれがある。
【0123】
以下、架橋性のポリマーZについて、架橋性のモノマーユニットがモノマーユニットL1-1である場合を例に説明する。架橋性のポリマーZは、架橋性のモノマーユニットがモノマーユニットL1-1以外の他の架橋性のモノマーユニットであっても以下の説明が適用される。
【0124】
下記化学構造式Z11は、モノマーユニット(3)とモノマーユニットL1-1を組合せてなるポリマーZの化学構造式を示す。化学構造式Z11で示すポリマーを以下、ポリマーZ11という。以下、他のポリマーについても同様に表記する。化学構造式Z11におけるR1、R2、Q、XおよびYは一般式(3)中、R1、R2、Q、XおよびYと同じ意味であり、R31は水素原子またはメチル基である。
【0125】
【0126】
ポリマーZ11は、モノマーユニット(3)とモノマーユニットL1-1からなる。n2はポリマーZ11におけるモノマーユニット全体に対するモノマーユニットL1-1のモル比を示し、n1はポリマーZ11におけるモノマーユニット全体に対するモノマーユニット(3)のモル比を示す。ポリマーZ11においてはn1とn2の合計が100モル%である。なお、ポリマーZ11において、モノマーユニット(3)とモノマーユニットL1-1は交互に存在してもよく、ランダムに存在してもよい。各モノマーユニットの含有割合に応じて各モノマーユニットが均等に存在するのが好ましい。
【0127】
本パターン形成材料が含有するポリマーZが、架橋性のポリマーZであり、ポリマーZ11のみで構成される場合、ポリマーZ11におけるn2は、上に説明したのと同様に、好ましくは0.5モル%以上20モル%未満、より好ましくは1モル%以上10モル%未満、さらにより好ましくは2モル%以上10モル%未満である。n1は、好ましくは80モル%超99.5モル%以下、より好ましくは90モル%超99モル%以下、更により好ましくは90モル%超98モル%以下である。
【0128】
なお、架橋性のポリマーZは、ポリマーZ11と他の架橋性のポリマーZとの混合物であってもよい。架橋性のポリマーZが、ポリマーZ11と他の架橋性のポリマーZとの混合物である場合、各架橋性のポリマーにおけるモノマーユニット(3)と架橋性のモノマーユニットの含有割合は必ずしも上記範囲になくてもよい。混合物全体として、モノマーユニット(3)と架橋性のモノマーユニットの含有割合が上記の範囲にあるのが好ましい。
【0129】
架橋性のポリマーZにおける各モノマーユニットの割合の調整は、重合時に用いるモノマーの割合を調整することで行える。架橋性のポリマーZの分子量(Mw)は、1,000~100,000,000が好ましく、2,000~100,000がより好ましい。
【0130】
架橋性のポリマーZを架橋する際の条件は、架橋性のモノマーユニットが有する架橋性官能基の種類による。例えば、架橋性官能基がグリシジル基やオキセタニル基の場合、エポキシ環やオキセタン環を開環させることで架橋が行われる。したがって、エポキシ環やオキセタン環が開環する条件で加熱や光照射を行うことでポリマーZが架橋する。なお、架橋性のポリマーZを架橋する際、硬化剤を用いてもよい。
【0131】
硬化剤は、架橋性官能基に対して反応性を有し、硬化剤を介して架橋性官能基同士を結合することができる。硬化剤により、架橋反応が促進され、ポリマーZ同士の架橋がされやすくなる。したがって、好適な硬化剤は、架橋性のモノマーユニットの種類によって異なる。例えば、架橋性のモノマーユニットが有する架橋性官能基がグリシジル基の場合、アミン化合物、酸無水物骨格を有する化合物、カルボン酸を有する化合物、水酸基を有する化合物を硬化剤として好適に使用することができる。
【0132】
アミン化合物は、骨格内に複数の1級アミンもしくは2級アミンを有する。硬化剤に使用可能なアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンジアニリン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル等がある。
【0133】
硬化剤に使用可能な酸無水物骨格を有する化合物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物等がある。
【0134】
硬化剤に使用可能なカルボン酸を有する化合物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、4-メチルヘキサヒドロフタル酸、コハク酸、イタコン酸、ドデセニルコハク酸、クエン酸、テレフタル酸等がある。
【0135】
水酸基を有する化合物は、骨格内に複数の水酸基を含む。硬化剤に使用可能な水酸基を有する化合物としては、例えば、ポリフェノール、1,4-ベンゼンジオール、1,3-ベンゼンジオール、1,2-ベンゼンジオール、エチレングリコール等がある。
【0136】
なお、上記に挙げたアミン化合物以外の硬化剤の反応性を高めるため、3級アミンを有する硬化促進剤を加えてもよい。かかる硬化促進剤としては、例えば、シアンジアミド、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7や1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、エチレングリコール等がある。
【0137】
本パターン形成材料が架橋性のポリマーZとともに硬化剤を含有する場合、硬化剤の量は、架橋性のポリマーZが有する架橋性官能基の1モルに対して、硬化剤が有する架橋性官能基に反応性の基の割合が0.01~1モルとなる量が好ましい。
【0138】
本パターン形成材料が含有するポリマーZは、必要に応じて、さらに、モノマーユニット(3)および架橋性のモノマーユニット以外のその他のモノマーユニット(以下、「異種のモノマーユニット」という)を含んでいてもよい。ポリマーZは、異種のモノマーユニットを有することで、ポリマーZの有機溶媒への溶解性、塗膜時の成膜性、塗膜後の膜のガラス転移点、耐熱性などを調整することができる。
【0139】
異種のモノマーユニットを構成するモノマーとしては、例えば、スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、9-ビニルアントラセン、ビニルベンゾフェノン、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸、4-ビニル安息香酸メチル、4-ビニル安息香酸、下記一般式(7)で示されるモノマー等がある。異種のモノマーユニットは、これらのモノマーの少なくともいずれか1つから構成されることができる。
【0140】
【0141】
ただし、一般式(7)中、R41、R42およびR43は、それぞれ独立して、水素原子または酸素原子を含んでもよい炭化水素基を示し、これらのうち少なくとも1つは炭化水素基であり、これらの合計炭素数は1~13であり、これらは互いに結合して環を形成していてもよい。R44は、水素原子またはメチル基である。Q1は、単結合、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基、または、水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい炭素数1~20の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは結合末端に、酸素原子、窒素原子もしくは硫黄原子を含んでいる有機基である。
【0142】
異種のモノマーユニットの存在比率は、ポリマーZを構成するモノマーユニット全体に対して50モル%以下であることが好ましく、10モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましい。異種のモノマーユニットを50モル%以下とすることで、有機膜中のモノマーユニット(3)の含有量を高いままに保ち、より多くの金属化合物を有機膜中に強固に結合させることができる。
【0143】
本パターン形成材料は、ポリマーZの他に、本実施形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じてポリマーZ以外の成分を含有してもよい。ポリマーZ以外の成分としては、典型的には、上記した硬化剤、硬化促進剤が挙げられる。硬化剤、硬化促進剤以外の成分としては、熱酸発生剤、光酸発生剤等が挙げられる。本パターン形成材料における、ポリマーZ以外の成分の含有量は、各成分に応じて適宜選択できる。例えば、硬化剤については、上に説明したとおりである。硬化剤以外のポリマーZ以外の成分の含有量は、パターン形成材料全量に対して1質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0144】
本パターン形成材料を用いて有機膜を形成する方法としては、ドライコーティング法であってもウエットコーティング法であってもよい。ドライコーティング法により有機膜を形成する場合、本パターン形成材料そのものを用いてドライコーティング法、例えば、蒸着法により有機膜を形成できる。ウエットコーティング法により有機膜を形成する場合、本パターン形成材料と有機溶媒を含む組成物を被加工膜上に塗布し、乾燥させて、有機膜を形成する方法が好ましい。
【0145】
(パターン形成用組成物の実施形態)
実施形態のパターン形成用組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、被加工膜を有する基板の前記被加工膜上に、パターン形成材料を用いて有機膜を形成しパターニングした後、前記有機膜に金属化合物を含浸させた複合膜をマスクパターンとして、前記被加工膜を加工する際に用いる、前記有機膜を形成するためのパターン形成材料を含む組成物であって、上記一般式(3)で示されるモノマーユニット(3)および/または上記一般式(4)で示されるモノマーユニット(4)を含むポリマーを含有するパターン形成材料と該パターン形成材料を溶解し得る有機溶媒を含有する。
【0146】
実施形態の組成物におけるパターン形成材料としては、本パターン形成材料を使用できる。実施形態の組成物は、本パターン形成材料において上に説明したのと同様の用途に用いることができる。実施形態の組成物における有機溶媒は、本パターン形成材料、特には本パターン形成材料が含有するポリマーZを溶解する有機溶媒であれば特に制限されない。
【0147】
ポリマーZを溶解する有機溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサノン、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のセロソルブ類が挙げられ、セロソルブ類が好ましい。有機溶媒は、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
実施形態の組成物におけるパターン形成材料の含有量は、組成物全体に対して1~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。実施形態の組成物における有機溶媒の含有量は、組成物全体に対して70~99質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましく、85~99質量%がさらに好ましい。実施形態の組成物におけるパターン形成材料と有機溶媒の含有量が上記範囲にあることで、ウエットコーティング法による被加工膜上への有機膜の形成を良好に行える。
【0149】
実施形態の組成物をウエットコーティング法により、被加工膜上に塗布する方法としては、通常の方法が適用できる。具体的には、スピンコート、ディップコートが好ましい。その後、組成物の塗膜から乾燥により有機溶媒を除去することで有機膜が形成できる。ポリマーZが架橋性のポリマーZの場合には、有機膜形成時に用いる架橋性のポリマーZに応じた架橋処理、例えば、加熱や光照射を行い、架橋させる。
【0150】
ここで、実施形態の組成物を用いて有機膜を形成する際には、モノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)からR2が脱離しない条件で有機膜の形成が行われるのが好ましい。有機膜の形成の際にモノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)からR2が脱離すると、その後に行われるメタライズに際して、膜厚方向に対して均一なメタライズが起こらない恐れがある。有機膜と金属化合物との強固な結合が実現できない可能性が高い。
【0151】
(パターン形成方法および半導体装置の製造方法の実施形態)
実施形態のパターン形成方法は、以下の(A1)~(C)の工程を有する。
(A1)基板上に、モノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)を含むポリマーを含有するパターン形成材料を用いて有機膜を形成する工程
(B)(A1)で得られた有機膜をパターニングする工程
(C)パターニングされた有機膜に金属化合物を含浸させて複合膜を形成して、複合膜からなるマスクパターンを得る工程
【0152】
実施形態の半導体装置の製造方法は、以下の(A)~(D)の工程を有する。
(A)被加工膜を有する基板の被加工膜上に、モノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)を含むポリマーを含有するパターン形成材料を用いて有機膜を形成する工程
(B)(A)で得られた有機膜をパターニングする工程
(C)パターニングされた有機膜に金属化合物を含浸させて複合膜を形成して、複合膜からなるマスクパターンを得る工程
(D)マスクパターンを用いて被加工膜を加工する工程
【0153】
実施形態の本パターン形成方法および半導体装置の製造方法において用いるパターン形成材料としては、上に説明した本パターン形成材料が適用可能である。
【0154】
以下に、
図1A~
図1Eを用い、実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。ここで、実施形態のパターン形成方法における(A1)、(B)、(C)の各工程は、実施形態の半導体装置の製造方法における(A)、(B)、(C)の各工程にそれぞれ相当する。したがって、実施形態のパターン形成方法における(A1)、(B)、(C)の各工程については、以下に記載する半導体装置の製造方法における(A)、(B)、(C)の各工程の具体的な方法が同様に適用できる。
【0155】
図1A~
図1Eは、実施形態にかかる半導体装置の製造方法のそれぞれ一工程を示す断面図である。実施形態の半導体装置の製造方法においては、
図1A~
図1Eの順に工程が進行する。
【0156】
図1Aは、(A)の工程、すなわち、被加工膜を有する基板の被加工膜上にパターン形成材料を用いて有機膜を形成する工程を模式的に示す断面図である。本実施形態においては、半導体基板1に形成された被加工膜2を加工するために、パターン形成材料から有機膜3を形成する。
【0157】
(A)の工程においては、まず、被加工膜2が形成された半導体基板1を準備する。被加工膜2は、シリコン酸化膜等の単層膜であってもよく、NAND型フラッシュメモリ等の3次元型メモリセルアレイを構成する積層膜等であってもよい。
図1Aに示す例では、被加工膜2は、窒化膜21と酸化膜22とが交互に積層された積層膜である。
【0158】
ここで、実施形態のパターン形成方法において、半導体基板1は被加工膜2を有してもよいが必須ではない。また、パターン形成方法においては、半導体基板1に代えてガラス、石英、マイカ等の基板を使用することができる。
【0159】
半導体基板1の被加工膜2上に、本パターン形成材料を塗工する。蒸着等のドライコーティング法の場合、例えば、本パターン形成材料自体が塗工される。スピンコート、ディップコート等のウエットコーティング法の場合は、実施形態の組成物が塗工される。次いで、必要に応じて、有機溶媒の除去のための乾燥、架橋のための加熱や光照射が行われ、被加工膜2上に有機膜3を形成する。
【0160】
乾燥は、ウエットコーティング法の場合に行われる。架橋は、本パターン形成材料が含有するポリマーZが架橋性のポリマーZである場合に行われる。架橋は、異なるポリマー間の架橋性官能基同士が結合することにより実現される。硬化剤等を添加した場合には、かかる架橋性官能基の結合は、硬化剤の分子を介して行われる。架橋に際して、反応を促進するために、加熱や光照射が行われてもよい。
【0161】
架橋を加熱により行う場合、加熱温度は、架橋性のモノマーユニットが有する架橋性官能基や硬化剤の種類による。加熱温度は、概ね、120℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。ただし、上述のとおり、加熱はモノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)からR2が脱離しない温度で行うのが好ましい。また、加熱はポリマー主鎖の分解が抑制される温度で行うのが好ましい。
【0162】
例えば、モノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)におけるR2のα炭素が3級炭素の場合、加熱温度は、概ね250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。R2のα炭素が2級炭素の場合、加熱温度は、概ね300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。R2のα炭素が1級炭素の場合、加熱温度は、概ね350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。なお、ウエットコーティング法の場合、通常、この加熱により、乾燥、すなわち実施形態の組成物が含有する有機溶媒の除去が併せて行われる。このようにして、本パターン形成材料からなる、または、本パターン形成材料中のポリマーZが架橋した有機膜3が得られる。
【0163】
図1Bおよび
図1Cは、(B)の工程、すなわち(A)の工程で得られた有機膜3をパターニングする工程を模式的に示す断面図である。
図1Bおよび
図1Cに示すとおり有機膜3は積層マスク構造6の下地層として機能する。
図1Bは、有機膜3上に、パターニングを施す機能膜として酸化ケイ素膜4が形成され、その上にレジストパターン5pが形成された状態を示す。
【0164】
酸化ケイ素膜4は、例えば、以下の方法で有機膜3上に形成されるSOG(Spin On Glass)膜を所定の温度、例えば、150~300℃で加熱することにより形成される。ただし、上記同様に、加熱はモノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)からR2が脱離しない温度で行うのが好ましい。SOG膜は、SOG膜の成分を有機溶剤に溶解したウエットコート液を有機膜3上にスピンコートすることで形成される。
【0165】
このとき、酸化ケイ素膜4上に図示しない反射防止膜を形成してもよい。反射防止膜は、以下の処理で形成されるレジスト膜をパターニングする際に、下地からの反射を防止して精密露光を可能にする。反射防止膜としては、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、ポリヒドロキシスチレン等の材料を用いることができる。
【0166】
次いで、酸化ケイ素膜4上にレジスト膜を形成し、該レジスト膜をリソグラフィ技術またはインプリント技術等を用いてレジストパターン5pとする。インプリント技術では、酸化ケイ素膜4上にレジストを滴下し、微細なパターンが形成されたテンプレートをレジスト膜に押し付けて、紫外線を照射してレジスト膜を硬化させることでレジストパターン5pを形成する。
【0167】
図1Cは、レジストパターン5pをマスクとして酸化ケイ素膜4をエッチング加工し、酸化ケイ素膜パターン4pを形成し、さらに、レジストパターン5pと酸化ケイ素膜パターン4pをマスクとして有機膜3をエッチング加工し、有機膜パターン3pを形成した後の状態を示す断面図である。酸化ケイ素膜4のエッチングはフッ素系ガス(F系ガス)を用いて行われ、有機膜3のエッチングは酸素系(O
2系ガス)を用いて行われる。
図1Cに示すように、有機膜パターン3p、酸化ケイ素膜パターン4p、およびレジストパターン5pがこの順に積層された構造は、積層マスク構造6の一例である。
【0168】
なお、酸化ケイ素膜4上に反射防止膜を形成した場合には、酸化ケイ素膜4のエッチングに先駆けて反射防止膜がパターニングされる。なお、酸化ケイ素膜パターン4pの形成後、レジストパターン5pが消失するようにレジストパターン5pの膜厚が調整されていてもよい。また、有機膜パターン3pの形成後、酸化ケイ素膜パターン4pが消失するように酸化ケイ素膜パターン4pの膜厚が調整されていてもよい。
【0169】
本実施形態に示すように積層マスク構造6により有機膜パターン3pを形成する場合、(C)の工程であるパターニングされた有機膜(有機膜パターン3p)に金属化合物を含浸させて複合膜を形成して、複合膜からなるマスクパターンを得る工程の前に、有機膜パターン3pの上層である酸化ケイ素膜パターン4pおよびレジストパターン5pを除去してもよい。
【0170】
図1Dは(C)の工程の後の状態を示す断面図であり、
図1Cで示した有機膜パターン3pはメタライズされてマスクパターン3mとして、半導体基板1上の被加工膜2の上に存在する。なお、有機膜3の形成から有機膜パターン3pの形成までの過程で、ポリマーZ由来のモノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)が側鎖の末端に有するR
2が脱離することがないように条件を調整する。このようにして形成された有機膜パターン3pのメタライズは、例えば、以下のように行われる。
【0171】
半導体基板1上に、被加工膜2、有機膜パターン3pをその順に有する積層体を真空装置内に搬入し、有機膜パターン3pを金属含有流体としてのTMA等の金属化合物の気体または液体に曝露する。この際、上記反応式(F)に示すように、有機膜パターン3pのポリマーが有するモノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)のカルボニル基に金属化合物の分子が吸着し、R2が脱離する。そして、例えば、反応式(F)中のモノマーユニット(3’)に示すように、金属化合物(Al(CH3)x)が有機膜の2個の酸素原子に強固に結合した構造が形成される。
【0172】
金属化合物を上記のように有機膜パターン3pに強固に結合させるために、有機膜パターン3pへの金属化合物の暴露処理は加熱下で行うのが好ましい。加熱温度は、金属化合物の種類およびモノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)の種類、特にはR2の種類に応じて適宜選択される。例えば、金属化合物がTMAであり、モノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)のR2のα炭素が3級炭素の場合、50℃以上、好ましくは100℃以上の加熱温度とすることでR2が脱離しやすく、TMAを有機膜に強固に結合できる。
【0173】
また、金属化合物がTMAであり、モノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)のR2のα炭素が2級炭素の場合、80℃以上、好ましくは100℃以上の加熱温度とすることでR2が脱離しやすく、TMAを有機膜に強固に結合できる。さらに、金属化合物がTMAであり、モノマーユニット(3)やモノマーユニット(4)のR2のα炭素が1級炭素の場合、100℃以上、好ましくは120℃以上の加熱温度とすることでR2が脱離しやすく、TMAを有機膜に強固に結合できる。この場合の加熱温度の上限は、例えば、有機膜パターン3pのポリマーの主鎖が分解することを防止する観点から400℃とすることが好ましい。
【0174】
金属化合物としては、CVD法や原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法で用いる金属化合物が特に制限なく使用できる。
【0175】
金属化合物に含まれる金属としては、アルミニウム、チタン、タングステン、バナジウム、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン等が挙げられる。これらの有機金属化合物やハロゲン化物のうち、十分に小さい配位子を備えるものが金属化合物として使用可能である。
【0176】
具体的には、使用可能な金属化合物は、AlCl3、TiCl4、WCl6、VCl4、HfCl4、ZrCl4、TMA等のうち、少なくともいずれか1つを含むことができる。本実施形態においてはTMAが好ましい。
【0177】
以上により、有機膜パターン3pを構成するポリマーがメタライズされ、有機膜と金属化合物の複合膜からなるマスクパターン3mとなる。なお、有機膜パターン3p中に金属化合物を結合させたのち、これを水蒸気雰囲気中に曝露する等の酸化処理を行ってもよい。例えば、上記において金属化合物としてTMAを用いた場合には、酸化処理によりTMAは水酸化アルミニウム等となる。酸化処理は、通常、水、オゾン、酸素プラズマ等の酸化剤を用いて行う。なお、酸化処理は、特に操作しなくても雰囲気中の水分により自然に行われることもある。
【0178】
次に、
図1Eに示すようにマスクパターン3mをマスクとして被加工膜2をRIEやIBE等でエッチング加工し、パターニングされた被加工膜2pを形成する。これにより、高アスペクト比の加工形状を備える被加工膜2pが形成される。
【0179】
その後、既知の方法を用い、例えばメモリセルアレイが形成される。例えば、上記処理により、積層膜にホールパターンを形成したとする。かかるホール内にブロック層、電荷蓄積層、トンネル層、チャネル層、コア層を埋め込み、メモリ構造を形成することができる。その後、該メモリ構造を備えたホールパターンとは別に形成されたスリットを介して積層膜のうち窒化膜のみが除去され、代わりに導電膜が埋め込まれる。これにより、絶縁膜(酸化膜)と導電膜とが交互に積層された積層膜となる。積層膜中の導電膜はワード線として機能させることができる。
【0180】
本パターン形成材料は、モノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)を有するポリマーを含有するので、これを用いて得られる有機膜は、メタライズにより金属化合物を強固に結合することができる。そして、メタライズにより得られる複合膜は、高いエッチング耐性、特には高いIBE耐性を有する。これにより、本パターン形成材料を用いれば、高エッチング耐性のマスクパターン3mを得ることができ、被加工膜に対して高アスペクト比の加工形状を付与することが可能となる。
【0181】
本パターン形成材料が含有するポリマーが、モノマーユニット(3)および/またはモノマーユニット(4)に加えて、側鎖の末端に架橋性官能基を有する架橋性のモノマーユニットを備える架橋性のポリマーである場合、有機膜を形成する際にポリマー同士が架橋することで、得られる有機膜を有機溶剤に対して溶解し難くすることができる。これにより、有機膜上にウエットコート液の塗布または滴下等により機能膜等の上層膜またはその前駆膜を形成することが可能となる。このとき、有機膜と上層膜またはその前駆膜とのミクシングを抑制することができる。上層膜またはその前駆膜としては、上述のSOG膜のほか、例えば、SOC(Spin On Carbon)膜、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)膜、レジスト膜等があり、積層マスク構造の設計の自由度が飛躍的に増大する。
【0182】
本パターン形成材料によれば、有機膜を、スピンコート、ディップコート、蒸着等の手法で形成することができる。例えば、従来用いられているCVD法を用いたカーボン堆積層は、膜形成に長時間を有するところ、本パターン形成材料によれば、高エッチング耐性を備える複合膜となる有機膜を、短時間で簡便に形成することができる。有機膜をメタライズにより複合膜とする方法も簡便で経済的な方法である。なお、スピンコート、ディップコート等のウエットコーティング法の場合は、実施形態の組成物が使用できる。
【0183】
なお、上述の実施形態においては、有機膜パターン3pを主として気相中でメタライズする例を示したがこれに限られない。有機膜パターン3pを液相中でメタライズしてもよい。
【0184】
また、上述の実施形態においては、積層マスク構造として、主に、有機膜3、酸化ケイ素膜4、レジストパターン5pを有する構造を示したがこれに限られない。積層マスク構造には、上記以外にも種々の膜を挿入し、または、上記膜の幾つかを削減して、様々な構成が採用され得る。
【0185】
また、上述の実施形態においては、マスクパターン3mが半導体基板1上に形成されることとしたがこれに限られない。マスクパターンは、シリコン等の半導体基板のほか、ガラス、石英、マイカ等の基板上に形成することができる。
【実施例0186】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0187】
[例1]
(2,5-ジメチル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを出発物質として用意し、これを還流させながら、該ジカルボン酸を塩化チオニルで作用させ、その後、トリエチルアミン存在下でメタノールを作用させカルボキシル基を保護した。その後、N-ブロモスクシンイミド(NBS)でメチル基を臭素化し、(2-メチル-5-ブロモメチル-1,3-ジアルキルカルボン酸エステル)ベンゼンを得た。これをトリフェニルホスフィンで作用させた後、水酸化ナトリウム存在下のホルムアルデヒドでビニル基を形成した。同時にメチル基で保護されたジカルボン酸の脱保護も行い、(2-メチル-5-ビニル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを得た。
【0188】
得られた(2-メチル-5-ビニル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンに対してDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)中、N,N’-カルボニルジイミダゾールを小過剰同居させ、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)存在下、アルコール(R2-OH)を室温下で作用させ、スチレン骨格を有する2-メチル-5-ビニル-1,3-ベンゼンジカルボン酸ジアルキルエステルを得た。
【0189】
なお、R2-OHとしてエタノールを用いることで化合物1a-1を、R2-OHとしてイソプロピルアルコールを用いることで化合物1a-2を、R2-OHとしてs-ブチルアルコールを用いることで化合物1a-3を、それぞれ得た。
【0190】
また、出発物質として、(2-t-ブチル-5-メチル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを用意し、上記と同様の反応を行うことで、化合物1a-4~1a-6を得た。
【0191】
得られた化合物1a-1~1a-6は、一般式(1a)で示される化合物であり、その置換基について、表1にまとめて示した。表1中、Hは水素原子、Meはメチル基、Etはエチル基、i-Prはイソプロピル基、s-Buはs-ブチル基、t-Buはt-ブチル基を表す。
【0192】
【0193】
丸底フラスコに、得られた各化合物1a-1~1a-6と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をそれぞれ10mmolと0.1mmol入れ、重合溶媒としてトルエンを約5mL加えた。フラスコ内の空気を窒素置換した後、100℃下で8時間重合させた。反応終了後、フラスコを大気開放させ重合を停止させた後、大過剰のメタノール中に反応溶液を滴下し、ポリマー成分を再沈殿精製させた。得られた固体を濾別し、この固体を真空中で乾燥させ、所望のポリマー1a-1~1a-6を得た。
【0194】
ここで、ポリマー1a-1は化合物1a-1由来のモノマーユニットのみからなるポリマーであり、その他のポリマーも同一の符号を有する化合物由来のモノマーユニットのみからなるポリマーである。
【0195】
[例2]
上記例1の合成途中で得られた2-メチル-5-ブロモメチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸ジアルキルエステルをアセトンと水の混合溶媒中に溶解し、イオン交換樹脂と作用させ、 2-メチル-5-ヒドロキシルメチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸を得た。DMF中、N,N’-カルボニルジイミダゾールを小過剰同居させ、DBU存在下、アルコール(R2-OH)を室温下で作用させ、2-メチル-5-ヒドロキシルメチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸ジアルキルエステルを得た。
得られた2-メチル-5-ヒドロキシルメチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸ジアルキルエステルに対して、メタクリル酸クロリドをトリエチルアミン存在下で作用させ所望のメタクリレートモノマーを得た。
【0196】
なお、R2-OHとしてエタノールを用いることで化合物1b-1を、R2-OHとしてイソプロピルアルコールを用いることで化合物1b-2を、R2-OHとしてs-ブチルアルコールを用いることで化合物1b-3を、それぞれ得た。
【0197】
また、最後に作用させるメタクリル酸クロリドを、アクリル酸クロリドに変更することでアクリレートモノマー(化合物1b-4~1b-6)を得た。
【0198】
また、上記例1の合成途中で得られた(2-t-ブチル-5-ブロモメチル-1,3-ジメチルカルボン酸エステル)ベンゼンを用い、上記と同様の反応を行うことで、化合物1b-7~1b-12を得た。
【0199】
また、上記例1において、出発物質として(2,4,5,6-テトラメチル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを用いることで、5-ブロモメチル-2,4,6-トリメチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸ジメチルエステルを得ることができ、これを用い、上記と同様の反応を行うことで、化合物1b-13~1b-18を得た。
【0200】
得られた化合物1b-1~1b-18は、一般式(1b)で示される化合物であり、その置換基について、表2にまとめて示した。表1中、Hは水素原子、Meはメチル基、Etはエチル基、i-Prはイソプロピル基、s-Buはs-ブチル基、t-Buはt-ブチル基を表す。
【0201】
【0202】
丸底フラスコに、得られた各化合物1b-1~1a-18と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をそれぞれ10mmolと0.1mmol入れ、重合溶媒としてトルエンを約5mL加えた。フラスコ内の空気を窒素置換した後、100℃下で8時間重合させた。反応終了後、フラスコを大気開放させ重合を停止させた後、大過剰のメタノール中に反応溶液を滴下し、ポリマー成分を再沈殿精製させた。得られた固体を濾別し、この固体を真空中で乾燥させ、所望のポリマー1b-1~1b-18を得た。
【0203】
ここで、ポリマー1b-1は化合物1b-1由来のモノマーユニットのみからなるポリマーであり、その他のポリマーも同一の符号を有する化合物由来のモノマーユニットのみからなるポリマーであり、例番号もこれら符号に対応する。
【0204】
(例3)
比較例として、(5-メチル-1,3-ジカルボン酸)ベンゼンを出発物質として、例1と同様の操作により、スチレン骨格を有する5-ビニル-1,3-ベンゼンジカルボン酸ジs-ブチルエステルを得た。なお、本例では、R2-OHとしてs-ブチルアルコールを用いた。さらに、この化合物由来のモノマーユニットのみからなるポリマーC1aを得た。
【0205】
(例4)
比較例として、例3の合成途中で得られた5-ブロモメチル-1,3-ベンゼンカルボン酸ジアルキルエステルを用い、例2と同様の操作により、メタクリレートモノマーを得た。なお、本例では、R2-OHとしてs-ブチルアルコールを用いた。さらに、この化合物由来のモノマーユニットのみからなるポリマーC1bを得た。
【0206】
(パターン形成材料およびパターン形成用組成物の調製)
上記で得られた各ポリマーについて硬化剤を加えずに、それぞれ、パターン形成材料とした。得られたパターン形成材料のそれぞれについて、各パターン形成材料の含有量が10質量%となるようにPGMEAを加えて、パターン形成用組成物を調製した。
【0207】
[評価]
各パターン形成用組成物を用いて、シリコン基板上に有機膜を作製し、以下の方法でメタライズ処理して複合膜を作製した。有機膜のメタライズ特性および、得られた複合膜のエッチング耐性を評価した。
【0208】
(メタライズ特性)
Si基板は、あらかじめ3分間UV洗浄処理を行ったものを用意した。上記各パターン形成用組成物をSi基板上にスピンコートにより塗工した。回転数はポリマーの種類により、2000~3500rpmに調整し、塗工後、乾燥により溶媒を除去して、全て約300nm厚の有機膜とした。さらに200℃アニールを行い、架橋反応を進行させた。得られた、有機膜付きSi基板を15mm角に切り出し、メタライズ処理用サンプルとした。
【0209】
メタライズは、原子層堆積(ALD)製膜装置で行った。具体的には、メタライズ処理用サンプルをALD装置内に設置し、装置内に気相のTMAを所定の圧力になるまで導入後、バルブを閉めてその状態の圧力を所定の時間保持するExposure Modeで行った。初期圧力は900Paとし、保持時間は600秒間とした。
【0210】
上記TMAによる曝露後、装置内の気相を水蒸気(H2O)に置換して所定の圧力まで上昇させ、そのバルブを閉めてその状態の圧力を所定の時間保持した。初期圧力は300Paとし、保持時間は200秒間とした。温度はTMA暴露時と同じである。なお、装置内の圧力は、H2Oが消費されたり、チャンバー内壁に付着したりするため徐々に低くなった。H2O充填状態での保持時間が経過後、装置内からメタライズされたメタライズ処理用サンプルを取り出した。この操作により、TMAが酸化されて、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムとなる。
【0211】
ここで、上記メタライズ処理にALD装置を使っているが、上記操作はポリマーへのTMAの含浸を目的としており、原子層を基板上に堆積するいわゆる原子層堆積(ALD)ではない。そのため、通常のALDに比べ金属化合物の曝露時間が長く、サイクル数が少ない。
【0212】
(エッチング耐性)
上記でメタライズされた各有機膜付き基板(各複合膜付き基板)について、O2ガスまたはCF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)を行った。RIE前後で各複合膜付き基板の複合膜の膜厚を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定し、RIE前後の膜厚差をエッチング量として、エッチング時間当たりのエッチングレート[nm/sec]を算出した。結果を表3および表4に示す。表3および表4において「as spun」は、メタライズされる前の状態で測定したエッチングレートであり、「MTLZed」がメタライズされた各有機膜に対して測定されたエッチングレートである。
【0213】
(1)O2RIE
O2RIEは、CI-300L(サムコ社製)を用いて、パワー:50W、バイアス5W、Flow:5sccm、圧力:3Paの条件で行った。
【0214】
(2)CF4RIE
CF4RIEは、CI-300Lを用いて、パワー:50W、バイアス10W、Flow:5sccm、圧力:3Paの条件で行った。
【0215】
O2RIE対するエッチング耐性は、メタライズ度が上がると劇的に向上する。側鎖にエステル結合(-C(=O)-O-)を有する高分子材料で構成された複合膜は、O2RIE対するエッチング耐性が高い。これは、構成要素にカルボニル基が多いため、メタライズされやすく、O2RIEに対するエッチング耐性が高くなったと思われる。また、CF4RIE対するエッチング耐性は、メタライズ度が上がると向上する。
【0216】
(3)IBE
上記でメタライズされた各有機膜付き基板(各複合膜付き基板)について、イオンビームエッチング(IBE)を行った。IBE前後で各複合膜付き基板の複合膜の膜厚を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定し、IBE前後の膜厚差をエッチング量として、エッチング時間当たりのエッチングレート[nm/sec]を算出した。
【0217】
(4)メモリホールを想定したRIE耐性
3次元メモリのメモリホールのRIEに近い条件を想定し、C4F6;80sccm、Ar;100sccm、O2;54sccm、N2;50sccmの混合ガスの条件でエッチングを行った。エッチング前後の膜厚差をエッチング量として、エッチング時間当たりのエッチングレート[nm/sec]を算出した。
【0218】
【0219】
【0220】
表3および表4に示すとおり、本パターン形成材料を用いて形成される複合膜は高いエッチング耐性を有することがわかる。とりわけ、3次元メモリのメモリホールを形成するためのRIEプロセスに近い混合ガスでのエッチング条件では、すべてメタライズ後のエッチング耐性が、従来よりも有意に高まったことが確認された。
【0221】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。