(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051123
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】試料分析方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20220324BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220324BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220324BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20220324BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALN20220324BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
G01N33/50 P
G01N33/48 H
C12M1/28
C12Q1/6806 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】77
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157417
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】500004069
【氏名又は名称】アイオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】山下 公太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 剛
(72)【発明者】
【氏名】土岐 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】木下 健司
(72)【発明者】
【氏名】井上 純
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】真野 稔正
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA26
2G045DA13
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC10
4B029FA12
4B063QA01
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4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 生体試料の固定材料として試料の一定量を固定できる材料を用いることによって、精製工程を省いた迅速な生体試料分析方法を提供すること。
【解決手段】 本開示において、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行う方法であって、前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程とを含む、方法が提供される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行う方法であって、
前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、
前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥が自然乾燥である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が定量的分析である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記被験者が食道癌患者である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
体液固定器具を含む、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行うためのキットであって、
前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、
前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法において用いられる、キット。
【請求項17】
前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、請求項16~20のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、請求項16~21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記乾燥が自然乾燥である、請求項16~20のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が定量的分析である、請求項16~23のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、請求項16~24のいずれか一項に記載のキット。
【請求項26】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、請求項16~25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項27】
前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、請求項16~25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項29】
前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記被験者が食道癌患者である、請求項16~29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項31】
被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行うシステムであって、
前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する手段と、
前記血漿及び/または血清を保持し乾燥させる体液固定器具と、
前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を用いて遺伝子分析を行うための装置と
を含む、システム。
【請求項32】
前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項31~33のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項35】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、請求項31~35のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項37】
前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、請求項31~36のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項38】
前記乾燥が自然乾燥である、請求項31~35のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項39】
前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が定量的分析である、請求項31~38のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項40】
前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、請求項31~39のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項41】
前記遺伝子分析は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、請求項31~40のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項42】
前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
前記遺伝子分析は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、請求項31~40のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項44】
前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、請求項43に記載のシステム。
【請求項45】
前記被験者が食道癌患者である、請求項31~44のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項46】
癌患者の体液中の循環核酸の分析を行う方法であって、
前記癌患者の体液を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記体液を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法。
【請求項47】
前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項46~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、請求項46~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記乾燥が自然乾燥である、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記体液中の循環核酸の分析が定量的分析である、請求項46~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記体液中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、請求項46~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、請求項46~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、請求項46~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記癌患者が食道癌患者である、請求項46~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記体液が血漿及び/または血清である、請求項46~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
体液固定器具を含む、被験者の体液中の循環核酸の分析を行うことによって前記被験者が癌に罹患しているかどうか、または癌が再発しているかどうかを診断するための体外診断用医薬品であって、
前記被験者の体液を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記体液を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法において用いられる、体外診断用医薬品。
【請求項63】
前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、請求項62に記載の医薬品。
【請求項64】
前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、請求項63に記載の医薬品。
【請求項65】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項62~64のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項66】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、請求項65に記載の医薬品。
【請求項67】
前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、請求項62~66のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項68】
前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、請求項62~67のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項69】
前記乾燥が自然乾燥である、請求項62~66のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項70】
前記体液中の循環核酸の分析が定量的分析である、請求項62~69のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項71】
前記体液中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、請求項62~70のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項72】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、請求項62~71のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項73】
前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、請求項72に記載の医薬品。
【請求項74】
前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、請求項62~71のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項75】
前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、請求項74に記載の医薬品。
【請求項76】
前記被験者が食道癌に罹患しているかどうか、または食道癌が再発しているかどうかを診断するための、請求項62~75のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項77】
前記体液が血漿及び/または血清である、請求項62~76のいずれか一項に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物学的または化学的な測定のための試料の採取、保存、保管、並びにその測定に関する。より詳細には、生体試料中の遺伝子分析のための試料の採取、保存、保管、並びにその測定に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の現場では、生体内の状態、疾患への罹患の有無を調べてその診断を行う際に生体から得られる試料を分析することが必要とされる。例えば、生体内の異常や、癌やその再発が疑われる被験者の生体試料を用いて、当該生体内の状態、疾患に関連する核酸の存在を調べることより、当該生体内の状態や、疾患への罹患の有無を調べて診断することが可能になる。
【0003】
一方で、生体から得られた物質(例えば、血液や唾液)には夾雑物が多く含まれており、微量な核酸を検出しなければならないような精密な測定では、その測定に必要な酵素反応等を妨げることがあり、また生体試料からの情報を分析するのには、煩雑な精製工程を踏む必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、生体試料の固定材料として試料の一定量を固定できる材料を用いることによって、精製工程を省いた迅速な生体試料分析方法を提供する。
【0005】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1) 被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行う方法であって、
前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、
前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法。
(項目2) 前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目5) 前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目6) 前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目7) 前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目8) 前記乾燥が自然乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目9) 前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が定量的分析である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10) 前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目12) 前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目13) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目14) 前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、請求項10に記載の方法。
(項目15) 前記被験者が食道癌患者である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A1) 体液固定器具を含む、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行うためのキットであって、
前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、
前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む方法において用いられる、キット。
(項目A2) 前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A3) 前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A4) 前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A5) 前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A6) 前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A7) 前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A8) 前記乾燥が自然乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A9) 前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が定量的分析である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A10) 前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A11) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A12) 前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A13) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A14) 前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目A15) 前記被験者が食道癌患者である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目B1) 被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行うシステムであって、
前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する手段と、
前記血漿及び/または血清を保持し乾燥させる体液固定器具と、
前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を用いて遺伝子分析を行うための装置と
を含む、システム。
(項目B2) 前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B3) 前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B4) 前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B5) 前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B6) 前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B7) 前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B8) 前記乾燥が自然乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B9) 前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が定量的分析である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B10) 前記血漿及び/または血清中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B11) 前記遺伝子分析は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B12) 前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B13) 前記遺伝子分析は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B14) 前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目B15) 前記被験者が食道癌患者である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目C1) 癌患者の体液中の循環核酸の分析を行う方法であって、
前記癌患者の体液を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記体液を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法。
(項目C2) 前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C3) 前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C4) 前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C5) 前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C6) 前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C7) 前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C8) 前記乾燥が自然乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C9) 前記体液中の循環核酸の分析が定量的分析である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C10) 前記体液中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C11) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C12) 前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C13) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C14) 前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C15) 前記癌患者が食道癌患者である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C16) 前記体液が血漿及び/または血清である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D1) 体液固定器具を含む、被験者の体液中の循環核酸の分析を行うことによって前記被験者が癌に罹患しているかどうか、または癌が再発しているかどうかを診断するための体外診断用医薬品であって、
前記被験者の体液を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、
前記体液を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法において用いられる、体外診断用医薬品。
(項目D2) 前記循環核酸が、腫瘍循環核酸である、上記項目のいずれか一項1に記載の医薬品。
(項目D3) 前記腫瘍循環核酸が、cfDNAである、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D4) 前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D5) 前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる繊維構造体、および多孔質メンブレンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D6) 前記乾燥が約60℃以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D7) 前記乾燥が約60℃以上で少なくとも30分以上の加熱乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D8) 前記乾燥が自然乾燥である、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D9) 前記体液中の循環核酸の分析が定量的分析である、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D10) 前記体液中の循環核酸の分析が絶対定量分析である、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D11) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具から抽出した核酸を用いて行われる、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D12) 前記核酸の抽出が前記体液固定器具に蒸留水を滴下することによって行われる、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D13) 前記遺伝子分析に供する工程は、前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して得た容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬を含む液に直接添加することで行われる、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D14) 前記切除の切除径が直径約1~約4mmである、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D15) 前記被験者が食道癌に罹患しているかどうか、または食道癌が再発しているかどうかを診断するための、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
(項目D16) 前記体液が血漿及び/または血清である、上記項目のいずれか一項に記載の医薬品。
【0006】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0007】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、簡便、かつ、好感度の核酸検査(例えば、疾患への罹患の診断)を行うことができる。特に、微量にしか存在しない癌由来の核酸を早期にかつ簡便に検出し、早期の癌診断や再発モニタリングを行える点が有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、本開示の一実施形態における、PVAスポンジに固定した核酸試料を抽出するカラム法による核酸検出プロトコルを表す模式図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示の一実施形態における、PVAスポンジを直接反応試薬に入れるダイレクト法による核酸検出プロトコルを表す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態において、カラム法を用いて健常者、食道がん患者、および食道がん以外のがん患者からそれぞれ血漿サンプルを得て、血漿中cfDNAを検出する際の検出プロトコルを示す模式図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の標準ゲノムDNAの増幅曲線である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態における、標準ゲノムDNAの標準曲線である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の健常者の血漿中cfDNA増幅曲線(標準曲線あり)である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の健常者の血漿中cfDNA増幅曲線(標準曲線なし)である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の食道がん患者の血漿中cfDNA増幅曲線(標準曲線あり)である。
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の食道がん患者の血漿中cfDNA増幅曲線(標準曲線なし)である。
【
図9】
図9は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の食道がん以外のがん患者の血漿中cfDNA増幅曲線(標準曲線あり)である。
【
図10】
図10は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の食道がん以外のがん患者の血漿中cfDNA増幅曲線(標準曲線なし)である。
【
図11】
図11は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の健常者と食道がん患者の血漿中cfDNA量を比較した結果である。
【
図12】
図12は、本開示の一実施形態における、カラム法を用いた場合の健常者と食道がん以外のがん患者の血漿中cfDNA量を比較した結果である。
【
図13】
図13は、本開示の一実施形態において、ダイレクト法を用いた血清希釈ヒトGenomeDNAの検出プロトコルを示す模式図である。
【
図14】
図14は、本開示の一実施形態における、ダイレクト法を用いた場合の標準ゲノムDNAの増幅曲線である。
【
図15】
図15は、本開示の一実施形態において、ダイレクト法を用いた血清または血漿で希釈したヒトGenomeDNAの検出プロトコルを示す模式図である。
【
図16】
図16は、本開示の一実施形態における、ダイレクト法を用いた場合のGenomeDNA/血清溶液の各濃度での増幅曲線である。
【
図17】
図17は、本開示の一実施形態における、ダイレクト法を用いた場合のGenomeDNA/健常者血漿溶液の各濃度での増幅曲線である。
【
図18】
図18は、本開示の一実施形態において、ダイレクト法を用いて健常者および食道がん患者からそれぞれ血漿サンプルを得て、血漿中cfDNAを検出する際の検出プロトコルを示す模式図である。
【
図19】
図19は、本開示の一実施形態における、ダイレクト法を用いた場合の健常者の血漿中cfDNA増幅曲線である。
【
図20】
図20は、本開示の一実施形態における、ダイレクト法を用いた場合の食道がん患者の血漿中cfDNA増幅曲線である。
【
図21】
図21は、本開示の一実施形態における、ダイレクト法を用いた場合の健常者と食道がん患者の血漿中cfDNA量を比較した結果である。
【
図22】
図22は、本開示の一実施形態における、TTX(Tth DNA polymerase)を用いて血清溶液を増幅試薬に直接投入して増幅効率を確認する際の検出プロトコルを示す模式図である。
【
図23】
図23は、本開示の一実施形態における、TTX(Tth DNA polymerase)を用いて血清溶液を増幅試薬に直接投入してGenomeDNAを増幅させた場合の増幅曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0013】
本明細書において「試料採取」、「採取」、または「サンプリング」とは、リキッドバイオプシーなどの検査法において、試料を抽出することをいい、そのための剤および材料は、それぞれサンプリング剤およびサンプリング材料という。
【0014】
本明細書において「多孔質材料」とは、細孔を多く含む材料のことをいい、細孔の大きさは特に限られない。また一つの材料の中に含まれる細孔の大きさは一定であるとは限られない。例えば多孔質材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、繊維素材(例えば、織布、不織布、集合体)とスポンジとの複合品(所謂、綿棒)が含まれるが、これに限られるものではない。多孔質材料は、例えば、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる織布および/または不織布、有機/無機微粒子を賦形剤とともに圧縮成形してなる構造体、アセチルセルロースまたはニトロセルロースからなる多孔質メンブレンも含み得る。賦形剤は、例えば、結晶性セルロース、でんぷん、ケイ酸カルシウムなどを含むが、これらに限定されない。賦形剤は、例えば、圧縮成形によって保形性を有するものであれば単一組成での構成のものも含む。
【0015】
本明細書において「PVAスポンジ」とは、PVAを架橋した多孔質の材料であり、その構造および作製方法は当技術分野で公知である。架橋は、ホルムアルデヒド等で行うことができる(架橋剤にアルデヒドを用いるものとしては特許第2994982号など、その他の例としては特開2001-302840などを参照)。
【0016】
本明細書において「ポリビニルアルコール(PVA)」とは、ビニルアルコール<示性式(-CH2CH(OH)-)n>を重合させた任意の重合体をいい、ポリ酢酸ビニルを酸またはアルカリで加水分解することにより得られる、水酸基を有する水溶性の重合体である。ポバールまたはPVOHとも呼ばれる。任意のPVAがPVAスポンジを製造するために用いることができる。
【0017】
PVAスポンジは、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、水溶性のPVA(ポリビニルアルコール、ポバール)に酸を触媒としてホルムアルデヒドを結合させるホルマール化反応により不溶性物質のPVF(ポリビニルホルマール)を製造し、その工程で気孔生成剤を加え、気孔の形成を行い不溶性のPVFが完成後この気孔生成剤を抽出し、完成したPVFは多孔質体となり立体的樹枝網目状連続気孔を形成する。この多孔質体がPVAスポンジである。
【0018】
PVAスポンジは、その体積の90%近くを空隙で構成することができ、それでも基材として使用可能な構造的な強度を維持することが可能である。また、この空隙(気孔)を形成する基質部は、立体網目構造を成し、個々の気孔は全て連続化されている。このような一体構造がPVAスポンジの最大の特徴であり、これにより、数々の機能がもたらされる。加えて、PVAスポンジは、一般的なウレタンスポンジなどとは異なり、きわめて親水性が高く、また、縦横にめぐる微細気孔によって毛細管現象が生じるため、吸水性・保水性に非常に優れる。また、湿潤状態では柔軟性・弾力性があり、特に洗浄材や拭き取り材として使用する場合、対象物の表面を傷めることを防ぐことができる。
【0019】
PVAスポンジは、市販されているもの(例えば、アイオン株式会社製)を用いることができる。PVAスポンジのパラメータとしては、スポンジの気孔径(平均気孔径)または気孔率を選択することができる。気孔率は、スポンジの体積に占める空隙の体積の割合である。
【0020】
本明細書において「平均気孔径」は、気孔径の(算術)平均値であり、JIS R 1655:2003に基づき測定することができる。
【0021】
本明細書において「気孔率」は、所定量の固体によって占められる、全体積に対する吸着可能な細孔及び空隙の体積の比であり、JIS R 1655:2003に基づき測定することができる。また、気孔率は、JIS Z 8837:2018に基づき測定することもできる。気孔率(ε)は、例えば、見かけ体積(Va)及び真体積(V)を測定した後、式:ε=(1―V/Va)×100(%)を用いて算出される。見かけ体積(Va)は、例えば直方体の場合には3辺(縦、横、高さ)の積により求められる直方体の体積である。また、真体積(V)は、見かけ体積(Va)から細孔及び空隙の体積を除いた体積であり、例えば、島津製作所製の乾式自動密度計アキュビック1330を用いて測定されることが可能である。
【0022】
以下の表1は、アイオン株式会社にて提供されているPVAスポンジの物性を示す表である。本明細書の他の箇所において、下記の品番でPVAスポンジについて言及する場合は、アイオン株式会社製の当該品番のPVAスポンジを指す。
【表1】
【0023】
FBとGBとは気孔径が大きいため、他の規格のPVAスポンジの方が生体試料のサンプリングにはより適していると考えられる。本開示の一つの実施形態では、PVAスポンジの気孔径は、約5~700μmである。本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジの気孔径は、約80μm~約200μmである。例えば、スポンジに対して比較的浸透し易い生体試料(例えば、唾液、血液)の場合には、操作性の観点から、PVAスポンジの気孔径は、約40~300μm、より好ましくは80~200μmであることが有効である。
【0024】
PVAスポンジの気孔率は、生体試料の吸収と保持を妨げない程度であれば任意の数値であり得る。本開示の一つの実施形態では、約50~98%であると共に、内部と連通する開口部を表面に多数備えるPVAスポンジが望ましい。本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジの気孔率は、単位体積当たりの保持容量の確保と実用強度の両立を考慮すると、約80~95%であり、より好ましくは、約88~92%であり、最も好ましくは、約89%~91%である。なお、セルローススポンジの気孔率は、例えば、約90~96%であり得、好ましくは約93~95%であり得、ウレタンスポンジの気孔率は、例えば、約90~98%であり得、好ましくは約95~97%であり得る。
【0025】
D(D)~EB(D)のPVAスポンジでは、生体試料のサンプリングにおいて性能の差はあまりないと考えられる。機械的な特性から見るとE(D)およびF(D)が最も取り扱いやすいと考えられる。
【0026】
生体試料(例えば、唾液や血液)をPVAスポンジに滴下して乾燥させることによって、生体試料の生物学的または化学的分析のための試料を調製することができる。1つの実施形態では、生物学的分析は核酸分析または遺伝子分析である。
【0027】
(試料)
本明細書において使用される「体液」とは、特定の対象となる核酸を含むと想定される任意の生体検体をいい、例えば、鼻汁、鼻腔ぬぐい液、眼結膜ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、喀痰、糞便、血液、血清、血漿、髄液、唾液、尿、汗、乳、精液、口腔ぬぐい液、歯間ぬぐい液、湿性耳垢、膣腔ぬぐい液、および細胞組織などの生体試料または臨床試料の他、食品、ミクロソーム、食物、植物、動物などを挙げることができる。「体液」は、細胞、真菌、細菌またはウイルス、あるいはそれらの一部などの実体(entity)に含まれるDNAおよび/またはRNAを包含する試料を含むことができる。
【0028】
増幅の対象となる遺伝子もしくは核酸または検出の対象となる特定遺伝子もしくは核酸はDNAであってもRNAであってもよい。この場合、本開示の一実施形態においては、体液を保持する「体液固定器具」を逆転写酵素およびポリメラーゼを含む反応液に直接添加して核酸増幅反応を行なうことにより、当該体液中に存在する核酸を直に増幅させることができる。体液固定器具はDNAおよび/またはRNAを包含する試料に含まれ得る、逆転写酵素およびポリメラーゼを阻害し得る物質の悪影響を低減または消失させる材料、例えば、PVAスポンジなどであってもよい。ここで、「直接添加」とは、核酸増幅に先立って、この核酸を包含する体液から核酸を抽出する過程が不要という意味である。また本開示の一実施形態において、逆転写酵素およびポリメラーゼを含む反応液に直接添加する体液固定器具は、乾燥させることができ、さらに体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して、容積一定乾燥体液部分を作製してから、その容積一定乾燥体液部分を直接添加することもできる。
【0029】
「容積一定乾燥体液部分」とは、例えば生検トレパンなどにより、パイプに詰めた組織または材料の一定量をパンチして切る取ることで得ることができる。このパンチのパンチ径は特に限られるものではなく、パンチする材料部分に含まれる所望の液体量に応じて、例えば直径約1~約4mmとすることもできる。またパンチする体液固定器具の厚みについても、そこに含まれる所望の体液量に応じて、適宜設定可能である。
【0030】
(リキッドバイオプシー)
本明細書において、「リキッドバイオプシー」とは、液体の生体試料を指し、血液、尿、唾液、精液等の体液の試料が含まれる。リキッドバイオプシーの分析は、従来の生検の採取に比較して、低侵襲性で検査を行うことができるが、従来よりも高感度(例えば、100~1,000倍)の検出を行わなければならない場合が多い。リキッドバイオプシーの分析では、液中に漏れ出た生体分子を分析することになるためである。例えば、リキッドバイオプシーの分析には、ウイルス検出、血中循環がん細胞(CTC)、血中循環異常細胞(CAG)、幹細胞、血中循環がん遺伝子(CTG)、セルフリー遺伝子(cfDNA)、マイクロRNA(miRNA)、血中微量分子、ペプチド、マイクロパーティクル等の分析が含まれる。
【0031】
(遺伝子分析)
本明細書において、「核酸の解析」とは生体試料中の核酸(DNA、RNA等)の状態を調べることをいい、特に断らない限り遺伝子分析と同義で用いられる。一実施形態では、核酸の解析には、核酸増幅反応を利用するものを挙げることができる。これらを含め、核酸解析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。核酸解析の1つの例は、TaqManプローブ法による遺伝子型の判定である。蛍光消光プローブ法については、https://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol08_02/vol08_02_p18_p19.pdf等に記載されている。
【0032】
そのような核酸解析においては、核酸の増幅反応を伴うことが一般的である。生体試料(例えば、血液または唾液)を直接核酸増幅反応(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR))の反応液に添加すると、生体試料中の物質による作用で、増幅反応(例えば、Taq DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ)が阻害される場合がある。PVAスポンジに生体試料(例えば、血液または唾液)を滴下して調製した試料では、かかる増幅反応の阻害が抑制される。理論に拘束されるものではないが、PVAスポンジが、PCR増幅を阻害する物質(ヘム、多糖類、ポリフェノール、フルボ酸、色素、イオンなど)を除去する能力を有しているためであると考えられる。
【0033】
(ポリメラーゼ)
本開示の一実施形態で使用され得る核酸増幅反応においては、核酸ポリメラーゼが用いられる。一実施形態では、核酸解析に用いられるDNAポリメラーゼは、Taq DNAポリメラーゼに代表される、プライマー付加による核酸を合成する耐熱性に優れたポリメラーゼであれば特に制限なく用いることができる。本開示で特に利用される核酸増幅反応は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いるものである。理論に束縛されることを望まないが、KODポリメラーゼを用いると、増幅方法が異なるため、Taqman DNAポリメラーゼのように標識で検出できず、制限酵素での切断パターンでの解析を余儀なくされるため、煩雑な手法であるがTaq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いることで、簡便な解析を実現することができるからである。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼには、Family A(Pol I型)のDNAポリメラーゼが含まれる。
【0034】
このようなDNAポリメラーゼとしては、たとえばThermus aquaticus由来のTaq DNAポリメラーゼの他、Tth DNAポリメラーゼ、あるいは上述したDNAポリメラーゼの少なくともいずれかの混合物などを挙げることができる。なお、Tth DNAポリメラーゼおよびCarboxydothermus hydrogenoformans由来のC.therm DNAポリメラーゼは逆転写(RT)活性も有しているため、RT-PCRをOne tube-One stepで行なうときに、1種類の酵素で賄うことができるという特徴を有している。すなわち、本開示において、ポリメラーゼおよび逆転写酵素は、別々の酵素によって実現されてもよく、単一の酵素によって実現されてもよい。一実施形態では、他のポリメラーゼを用いる方法も利用し得るが、試料を直接Taq DNAポリメラーゼのような5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼに用いることが簡便な方法として推奨される。本開示の一実施形態においては、唾液などの生体試料を直接、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを用いた解析法(例えば、いわゆるTaqman法またはそれと同等の手法)に適用することができる。このようなことは、従来技術では達成できなかったことである。
【0035】
ポリメラーゼを用いた反応としては、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification:ループ介在等温増幅)法、SDA(Strand Displacement Amplification:鎖置換増幅)法、RT-SDA(Reverse Transcription Strand Displacement Amplification:逆転写鎖置換増幅)法、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法、RT-LAMP(Reverse Transcription Loop-Mediated Isothermal Amplification:逆転写ループ介在等温増幅)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification:核酸配列に基づいた増幅)法、TMA(Transcription Mediated Amplification:転写介在増幅)法、RCA(Rolling Cycle Amplification:ローリングサイクル増幅)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids:等温遺伝子増幅)法、UCAN法、LCR(Ligase Chain Reaction:リガーゼ連鎖反応)法、LDR(Ligase Detection Reaction:リガーゼ検出反応)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、SMAP2(Smart Amplification Process Version 2)法、PCR-インベーダー(PCR-Invader)法、Multiplex PCR-Based Real-Time Invader Assay (mPCR-RETINA)、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)などを挙げることができる。好ましくは、いわゆるTaqman法が用いられる。バッファーは特に制限されないが、EzWay(商標)(KOMA Biotechnology)、Ampdirect(登録商標)((株)島津製作所製)、Phusion(登録商標)Blood Direct PCR kitバッファー(New ENGLAND Bio-Labs)、MasterAmp(登録商標)PCRキット(Epicentre社製)などのうち、増幅阻害の除去の効果を減弱しないものを用いることができる。またLAMP法も好ましく用いることができ、LAMP法は(1)遺伝子増幅反応が等温で進行する、(2)6領域を認識する4種類のプライマーを使用するため特異性が高い、(3)増幅効率が高く、短時間に増幅可能、(4)増幅産物量が多く、簡易検出に適しているといった点で好ましい。また対象のRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、得られたcDNAをLAMP法を用いて増幅するRT-LAMP法も同様に好ましく用いることができる。さらに、(1)標的配列を特異的に検出することができ、(2)等温核酸増幅により短時間で高感度に検出することができ、(3)検体RNAに加える試薬が少なく、(4)逆転写から検出まで1ステップで行うことができるSMAP法も好ましく用いることができる。
【0036】
本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジなどの多孔質材料を用いることが有利である。理論に束縛されることを望まないが、PCR、LAMP法、RT-LAMP法、SMAP法などの各種増幅技術を応用した検出方法が直接行える点で有利であり、特にPVAスポンジを用いる場合、再現性や、簡便性等の点で優れている。
【0037】
本開示における反応に用いられるプライマーは、増幅する対象となる遺伝子または検出する対象となる特定遺伝子を決定した時点で、適宜公知の方法で設計することができる。本開示における反応に用いられるプライマーは、増幅する対象となる遺伝子または検出する対象となる特定遺伝子を特異的に増幅することができるものであれば特に制限されない。
【0038】
本開示における体液に含まれる核酸の増幅または体液に含まれる遺伝子の検出は、プレート状またはチューブ状の不溶性担体上で行うことが好ましい。このような不溶性担体としては、反応液に対して不溶なプラスチック、ガラスなどからなるチューブのほか、96穴ウェルなどを挙げることができる。なお、チューブ状とは、中空状態のものをいい、底があるPCRチューブや、エッペンドルフチューブのような形状であってもよい。
【0039】
具体的には、まず、プレート状またはチューブ状の不溶性担体に反応液を投入する。チューブ状の不溶性担体である場合には、その内部にバッファー、ポリメラーゼおよびプライマー等の試薬を含有する反応液を投入し、プレート状の不溶性担体である場合には、その表面に前記反応液を置く。そして前記反応液に、検査対象となる体液を含む多孔質材料を直接投入し、上述したPCR法、LAMP法、RT-LAMP法、SMAP法などの増幅方法を行う。
【0040】
本明細書で用いられる定量PCRとしては、公知のリアルタイムPCR等の任意の公知の手法を用いて行うことができる。これらの手法は、蛍光試薬などの標識を用いてDNAの増幅量をリアルタイムで検出する方法であり、代表的に、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を必要とする。このような装置は市販されている。用いる蛍光試薬によりいくつかの方法があり、例えば、インターカレンター法、TaqManTMプローブ法、Molecular Beacon法等が挙げられる。いずれも、鋳型ゲノムDNAおよび目的のSNP部位を含むゲノム領域を増幅するためのプライマー対を含むPCR反応系に、インターカレーター、TaqManTMプローブまたはMolecular Beaconプローブと呼ばれる蛍光試薬または蛍光プローブを添加するというものである。本開示で好ましく用いられるTaqManTMプローブ法(TaqManTM法ともいう)では、TaqManTMプローブは両端を蛍光物質と消光物質のそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであり、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズするが消光物質の存在により蛍光を発せず、伸長反応時にDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質が遊離することにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型DNA量を推定することができる。
【0041】
Taqmanアッセイによるコピー数分析は、例えば、当該分野で公知の手法である。Taqmanアッセイは、蛍光発生5’-ヌクレアーゼアッセイとも称される5’-ヌクレアーゼアッセイによるものであり;Holland et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276-7280 (1991);およびHeid et al., Genome Research 6:986-994 (1996)を参照することができる。
【0042】
TaqMan PCRの手順では、PCR反応に特異的なアンプリコンの作製のために、2つのオリゴヌクレオチドプライマーが用いられる。第三のオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)が、2つのPCRプライマーの間に位置するアンプリコン中のヌクレオチド配列とハイブリダイズするように設計される。プローブは、PCR反応で用いられるDNAポリメラーゼによって伸長できない構造を有してよく、通常は(必須ではないが)、互いに近接する蛍光レポーター染料および消光剤部分によって共標識される。レポーター染料からの発光は、蛍光体および消光剤が、プローブ上でそうであるように、近接している場合に、消光部分によって消光される。いくつかの場合では、プローブは、蛍光レポーター染料または別の検出可能部分だけで標識されてよい。
【0043】
TaqMan PCR反応では、5’-3’ヌクレアーゼ活性を持つ熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを用いる。PCR増幅反応の間、DNAポリメラーゼの5’-3’ヌクレアーゼ活性により、鋳型特異的な様式でアンプリコンとハイブリダイズする標識プローブを開裂する。得られるプローブ断片は、プライマー/鋳型複合体から解離し、そして、レポーター染料は、消光剤部分の消光効果から解放される。新たに合成される各アンプリコン分子に対しておよそ1分子のレポーター染料が遊離され、未消光レポーター染料を検出することで、放出される蛍光レポーター染料の量がアンプリコン鋳型の量に正比例するという形でのデータの定量的解釈のベースが提供される。
【0044】
TaqManアッセイデータの1つの尺度は、通常、閾値サイクル(threshold cycle;CT)として表される。蛍光レベルは、各PCRサイクルの間に記録され、増幅反応にてその時点までに増幅された産物の量に比例している。蛍光シグナルが統計的に有意であるとして最初に記録された際の、または蛍光シグナルが他の何らかの任意レベル(例えば、任意蛍光レベル(arbitrary fluorescence level;AFL))を超える場合のPCRサイクルが、閾値サイクル(CT)である。5’-ヌクレアーゼアッセイのためのプロトコルおよび試薬は、当業者に公知であり、様々な参考文献に記載されている。例えば、5’-ヌクレアーゼ反応およびプローブは、米国特許第6,214,979号(Gelfand et al.);米国特許第5,804,375号(Gelfand et al.);米国特許第5,487,972号(Gelfand et al.);Gelfand et al.第5,210,015号(Gelfand et al.)等を参照することができる。
【0045】
TaqManTMPCRは、市販のキットおよび装置を用いて行うことができ、例えば、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems,Foster City,CA、USA)、LightCycler(登録商標)(Roche Applied Sciences,Mannheim, Germany)などである。好ましい実施形態では、5’-ヌクレアーゼアッセイ手順は、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection Systemなどのリアルタイム定量的PCR装置上で行われるがこれに限定されない。このシステムは、代表的に、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合デバイス(CCD)、カメラ、およびコンピュータから構成される。このシステムは、サーモサイクラー上の96ウェルなどのマイクロタイタープレートフォーマット中の試料を増幅する。増幅の間、ウェルすべてについて、レーザー誘導蛍光シグナルが光ファイバーケーブルを通してリアルタイムで集められ、CCDカメラで検出される。このシステムは、機器の運転およびデータの解析のためのソフトウェアを含む。
【0046】
Taqman法の具体的手順の他の例としては、例えば、CYP2D6について報告されたTaqmanアッセイを使用することができる(Bodin et al., J Biomed Biotechnol. 3: 248-53 2005)。この場合、必要に応じて正確なデータを得るために、Primer Express等によって新たなリバースプライマーを設計し、コピー数分析を再度実施することもできる。Taqmanプローブは5’末端がFAMで標識され、3’末端にNo Fluorescence Quencher およびMGBを連結したものを用いることができる。参照遺伝子として、適切な標識(例えば、VIC)で標識したRNase P assay(ThermoFisher)を使用することができる。全てのTaqmanアッセイを製造業者から入手され得る、報告されたプロトコルに従って実施し、コピー数計算をΔΔCt法によって実施することができる(Bodin et al., 2005)。1つの例としては、ΔCt値の中央値を有する試料を2コピーと仮定し、キャリブレータとして使用することができるがこれに限定されない。全ての試料を2連で試験し、平均コピー数値を散布プロット分析で使用することができるが、試料数は必要に応じて増減することができる。
【0047】
本開示におけるリアルタイムPCR試薬として、TaqPathTM ProAmpTM Master Mixを使用することができる。TaqPathTM ProAmpTM Master Mixの特長としては、並外れたデータ品質(PCR阻害物質の存在下でも、ジェノタイピングおよびコピー数多型(CNV)解析において、高い特異性、ダイナミックレンジ、および再現性を提供できる)や、PCR阻害物質に対する耐性(ヒトや動物由来の調製試料(頬腔スワブ、血液、およびカードパンチ)に対応可能であること)が挙げられる。本開示の一実施形態においては、多孔質材料に保持させた体液から、核酸を抽出または精製せずに、多孔質材料のまま反応に供することが可能である。例えば、体液(血液、血清、血漿、唾液等)を接触させた多孔質材料を、反応液に直接添加することもできる。本開示の一実施形態においては、多孔質材料を体液と接触させた後、多孔質材料を必要に応じて乾燥させることができる。
【0048】
デジタルPCRにおいては、核酸の混合物を、あるウェルは1個のターゲット分子を含む一方、他のウェルにはターゲットを含まない程度に多数の反応ウェルに分配する。各反応液で通常のPCRを実施し、ターゲット分子を含まないウェルを同定する。標準的な統計モデルで補正計算を行い最終的な濃度の値を得ることができる。デジタルPCRではコピー数の定量にCt値を使用しないので、絶対定量において既知のスタンダードとの比較が不要となる。
【0049】
本開示の技術は、循環核酸(例えば、循環無細胞核酸)の分析のためのものであり得る。本明細書において、「循環核酸」とは、生体内(特に血中)を循環する核酸を言う。循環核酸のうち、細胞を含まないものを、本明細書において「循環無細胞核酸」という。本明細書において循環核酸は、例えば、腫瘍循環DNAまたは腫瘍循環miRNAであり得る。循環核酸は、場合により、体外に排出される体液(唾液など)にも滲出することがあることから、循環核酸には唾液等の体液に含まれる核酸も包含される。本明細書において「腫瘍循環核酸」とは、循環核酸のうち、腫瘍に関連するかまたは関連することが疑われているものをいい、核酸がDNAの場合は「腫瘍循環DNA」ともいい、核酸がmiRNAの場合は「腫瘍循環miRNA」ともいう。
【0050】
本明細書において、「血中循環腫瘍細胞(CTC)」とは、原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から上皮間葉転換(EMT)を経て血中へ遊離し、血流中を循環する細胞を指す。原発腫瘍部位から遊離した後、CTCは血液内を循環し、その他の臓器を侵襲して転移性腫瘍(転移巣)を形成する。CTCはがん患者の末梢血に存在するため、これを検出することで転移の過程を判断し、治療の予後予測に役立てることが可能である。
【0051】
本明細書において、「cfDNA(セルフリーDNA)」とは、血液中の細胞死によって細胞から放出された遊離DNAを指す。その中で、がん細胞由来のDNAを、「血中腫瘍DNA(circulatingtumorDNA,ctDNA)」と称する。
【0052】
現在、ctDNAは、臨床的に有用な腫瘍マーカーとして、体内腫瘍量のモニタリング、薬剤耐性遺伝子の判定および超早期がんの発見等に使用されている。体内腫瘍量のモニタリングは、現在は血清腫瘍マーカーが最も簡便なツールとして用いられることが多い。実際、腫瘍マーカーは再発がある程度進んだ場合や時系列の変動が治療を反映している場合は有用な補助診断ツールである。がん検診などで威力を発揮する可能性がある超早期がんの発見は、採血のみで高精度のがん検診を提供できるようになる可能性がある。採血に関する制約や、0.1%以下ともいわれる超低頻度変異を正確に計測するための技術の成熟など課題もある。しかしながら、将来的にはctDNAによって日常のがん診断が「見るもの」から「測るもの」へ変化してゆく可能性がある。
【0053】
しかしながら、不安定なctDNA研究を標準の技術とするためには、採血後2時間以内に血漿の遠心分離を行うこと、患者間、実験者間のバイアスを最小化すること、バイアス補正のため品質管理・定量、遺伝子検査プロセスの簡略化、コントロールに対する相対定量ではなく絶対定量を可能にすること、などの課題がある。PVAスポンジを用いたサンプリングは、迅速、簡便かつ安価であり、工程短縮による高い信頼性及び人件費削減、サンプル間のDNA品質格差の最小化、絶対定量(モニタリングには必須)、乾燥後の室温でサンプルの保存および輸送を可能にすることによって上記の課題の解決に有用である。
【0054】
本明細書において「デジタルPCR」とは、核酸の検出および定量のための方法であって、内部標準または内因性コントロールに頼らず、標的分子数を直接カウントすることで実現される方法をいう。
【0055】
絶対定量の手法は、当技術分野において公知であり、代表的に、標準試料を用いて検量線を作成し、未知試料の絶対量を測定する方法により実現することができる。通常、絶対量(コピー数)が既知で、未知試料と同じ配列を持った標準試料が必要である。例えば、タカラバイオから入手可能なBacteria(tufgene) Quantitative PCR Kit等を用いることができるがこれらに限定されない。
【0056】
(逆転写酵素)
本明細書において、「逆転写酵素(RT)」という用語は、その最も広い意味で使用されて、本明細書で開示され、または当技術分野で知られている方法によって測定される逆転写酵素活性を示す任意の酵素を指し、RNA鎖を鋳型として利用してDNA鎖(すなわちcDNA)を合成する酵素(例えば逆転写酵素、DNAポリメラーゼをさらに有してもよい)をいう。レトロウイルス、他のウイルス、および細菌由来の逆転写酵素、ならびに、Tth DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ、Tne DNAポリメラーゼ、Tma DNAポリメラーゼなどの逆転写酵素活性を示すDNAポリメラーゼを含む。レトロウイルス由来のRTには、それだけに限らないが、モロニーネズミ白血病ウイルス(M-MLV)RT、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)RT、トリ肉腫白血病ウイルス(ASLV)RT、ラウス肉腫ウイルス(RSV)RT、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)RT、トリ赤芽球症ウイルス(AEV)ヘルパーウイルスMCAV RT、トリ骨髄球腫症ウイルスMC29ヘルパーウイルスMCAV RT、トリ細網内皮症ウイルス(REV-T)ヘルパーウイルスREV-A RT、トリ肉腫ウイルスUR2ヘルパーウイルスUR2AV RT、トリ肉腫ウイルスY73ヘルパーウイルスYAV RT、ラウス随伴ウイルス(RAV)RT、および骨髄芽球症随伴ウイルス(MAV)RT、ならびに(その全体を参照により本明細書に組み込む)米国特許出願第2003/0198944号に記載のものが含まれる。総説については、例えば、Levin, 1997, Cell, 88:5-8;Brosiusら、1995, Virus Genes 11:163-79を参照されたい。ウイルスに由来する既知の逆転写酵素は、RNA鋳型からDNA転写物を合成するのにプライマーを必要とする。逆転写酵素は、RNAをcDNAへと転写するのに主に使用され、次いでそのcDNAをさらなる操作用のベクターにクローン化し、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)、転写媒介性増幅(TMA)や自己保持配列複製(3SR)などの様々な増幅方法で使用することができる。レトロウイルス、他のウイルス、および細菌由来の逆転写酵素、ならびに、Tth DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ、Tne DNAポリメラーゼ、Tma DNAポリメラーゼなどの逆転写酵素活性を示すDNAポリメラーゼを含む。レトロウイルス由来のRTには、それだけに限らないが、モロニーネズミ白血病ウイルス(M-MLV)RT、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)RT、トリ肉腫白血病ウイルス(ASLV)RT、ラウス肉腫ウイルス(RSV)RT、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)RT、トリ赤芽球症ウイルス(AEV)ヘルパーウイルスMCAV RT、トリ骨髄球腫症ウイルスMC29ヘルパーウイルスMCAV RT、トリ細網内皮症ウイルス(REV-T)ヘルパーウイルスREV-A RT、トリ肉腫ウイルスUR2ヘルパーウイルスUR2AV RT、トリ肉腫ウイルスY73ヘルパーウイルスYAV RT、ラウス随伴ウイルス(RAV)RT、および骨髄芽球症随伴ウイルス(MAV)RT、ならびに(その全体を参照により本明細書に組み込む)米国特許出願第2003/0198944号に記載のものが含まれる。総説については、例えば、Levin, 1997, Cell, 88:5-8;Brosiusら、1995, Virus Genes 11:163-79を参照されたい。ウイルスに由来する既知の逆転写酵素は、RNA鋳型からDNA転写物を合成するのにプライマーを必要とする。逆転写酵素は、RNAをcDNAへと転写するのに主に使用され、次いでそのcDNAをさらなる操作用のベクターにクローン化し、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)、転写媒介性増幅(TMA)や自己保持配列複製(3SR)などの様々な増幅方法で使用することができる。
【0057】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0058】
(核酸同定法)
本開示の一局面において、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行う方法であって、前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程とを含む、方法が提供される。
【0059】
本開示において、血漿及び/または血清などの体液を体液固定器具に配置し乾燥させる場合には、体液を配置することができ、その体液を乾燥させることができる形状や構造をしている限り、どのような体液固定器具を用いてもよい。乾燥もまた、どのような手法を用いてもよく、風乾を含む自然乾燥や、高温での加熱乾燥などを用いてもよい。体液固定器具としては、体液を固定するため器具であればよく、対象の体液を固定し、その状態で乾燥することができる限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解され、一体化された器具として提供されてもよく、別々の部品として提供され、その後に組み立てる(アセンブルする)形態で提供されてもよい。あるいは、一体化された器具として提供される場合、さらに包装物(袋など)で包装された形で提供されてもよい。体液固定器具の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製であってもよい。体液固定器具の形状は、体液を乾燥させるための空間を形成することができる限りにおいて任意であり、好ましくは、固定された体液を乾燥させる場所を保護することが可能な形状を有し得る。体液固定器具は、例えば、一部分を折り返して蓋を形成することが可能な形状を有していてもよいし、通気性のある箱型であってもよい。
【0060】
本開示において、体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して、容積一定乾燥体液部分を作製する場合には、体液を含む部分の一定容積を取得し得る手法である限り、どのような手法を用いてもよい。PVAスポンジなどのシートを用いる場合、シート厚が一定であること、およびシートに含ませられる液体の量が一定であることから、一定の面積を切除することで、一定容積の試料を取得することができる。例えば、一定容積を取得し得る手段としては、パンチなどの一定容積切除器具を用いることができ、一定容積切除器具としては、生検トレパンを挙げることができる。生検トレパンを用いる場合には、機器の先端に備えられた刃先付きパイプを体液固定器具に押し付け、パイプに詰まった組織を取り出して容積一定乾燥体液部分を作製することができる。生検トレパンを用いる場合には、必要な体液量に応じて、体液固定器具の厚みや、刃先のパンチ径を1.0mm、1.5mm、2.0mm、3.0mm、4.0mmなどとすることができる。また一定容積切除器具として、自動パンチ装置を使用することもできる。
【0061】
本開示において、血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する場合には、体液に含まれると予想される核酸(RNA、DNAなど)が遺伝子分析や核酸増幅反応試薬(例えば、必要に応じて逆転写酵素、ポリメラーゼ(鎖置換型DNA合成酵素であってもよい)など)に接触される条件であれば、どのような手法を用いてもよく、逆転写酵素およびポリメラーゼ等の2種類以上の酵素を用いる場合、同時に2つの酵素あるいは2つの酵素活性を有する単一の酵素に接触されてもよく、別々の2つの酵素に接触されてもよい。別々の場合、RNAを増幅する場合は逆転写酵素に最初に接触されることが好ましい。容積一定乾燥体液部分の逆転写酵素およびポリメラーゼへの接触は、逆転写酵素およびポリメラーゼを含む溶液に容積一定乾燥体液部分を加えることや、容積一定乾燥体液部分を緩衝液などに入れ逆転写酵素およびポリメラーゼを加えてもよい。
【0062】
本開示の一実施形態において、遺伝子の解析はどのような解析手法を用いてもよく、増幅した核酸を次世代シーケンサー(NGS)等の配列決定装置で個々の配列を決定することで解析してもよく、制限酵素などでの酵素処理による断片の解析であってもよい。あるいは、プローブなどを用いて特定の配列が存在するかどうかを検査してもよく、リアルタイムPCRであれば、増幅曲線を分析することで核酸解析を行うこともできる。核酸解析としては、例えば核酸増幅反応、核酸(例えば、DNA)合成反応や逆転写反応を含む遺伝子解析を挙げることができる。これらを含め、核酸解析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。核酸解析の1つの例は、TaqManプローブ法による遺伝子型の判定である。
【0063】
一実施形態において、前記体液固定器具は多孔質材料を含み、この多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)、繊維素材(例えば、織布、不織布、集合体)とスポンジとの複合品(所謂、綿棒)などを用いることができるが、細孔を多く含む材料であれば特に限られるものではない。多孔質材料は、例えば、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる織布および/または不織布、有機/無機微粒子を賦形剤とともに圧縮成形してなる構造体、アセチルセルロースまたはニトロセルロースからなる多孔質メンブレンも含み得る。賦形剤は、例えば、結晶性セルロース、でんぷん、ケイ酸カルシウムなどを含むが、これらに限定されない。賦形剤は、例えば、圧縮成形によって保形性を有するものであれば単一組成での構成のものも含む。
【0064】
例えば多孔質材料としてPVAスポンジを用いる場合、リキッドバイオプシーを含む生体試料のサンプリングに有用である。PVAスポンジは、生体試料中のポリメラーゼ増幅活性阻害成分の阻害を抑制することができる。PVAスポンジは微生物(例えば、細胞)を捕捉することができ、また核酸の安定化に資することもできる。
【0065】
PVAスポンジを用いたサンプリングは、迅速、簡便、かつ安価に行うことができる。PVAスポンジを用いることにより、工程が短縮され(工程数の減少および時間の短縮などを含む)、これによって、信頼性が高まり、人件費を削減することができる。また、試料間のDNA品質格差が最小化される。PVAスポンジは絶対定量に用いることも可能であり、絶対定量は、複数回の測定を行う場合(例えば、被験体のモニタリング)には重要である。加えて、PVAスポンジは乾燥後、室温で試料の保存、郵送が可能であり、取扱い易さにも優れる。
【0066】
本開示の一実施形態において、体液は唾液、血液、尿、精液、または涙液を含むことができるが、リキッドバイオプシーに利用可能な検体であれば特に限られるものではない。例えばPVAスポンジを利用して唾液サンプリングを行う場合の利点としては、唾液の方が鼻腔ぬぐい液より、病原体やウイルスなどの核酸が微量にしか存在しない場合にも、検出感度および特異性が高いことが挙げられる。鼻腔ぬぐい液の採取方法は、採取試料量が不確定であり、そのため定量性がない。一方で、PVAスポンジを利用して唾液をサンプリングする場合には定量的に採取可能であり、例えば唾液1mL中の病原体やウイルス量を定量することが可能となる。
【0067】
また一実施形態において、PVAスポンジを利用して体液をサンプリングする場合には、サンプリング後、輸送中に自然乾燥させることができるという利点も存在する。またアルコールや次亜塩素酸ソーダなどを噴霧することもでき、通常、約60℃以上での約10分~約1時間の加熱乾燥も可能であり、加熱温度は例えば、約60℃~約90℃、約60℃~約85℃、約60℃~約80℃、または約60℃~約75℃であってもよく、約60℃~約70℃や約60℃~約65℃であってもよい。加熱時間は約15分、約20分、約30分、約40分、約50分等であってもよい。
【0068】
また新生児スクリーニング用の自動パンチ機を使用することにより、作業効率が向上し、検査反応液に直接PVAスポンジ片を投入してRT-PCR等の反応を行うダイレクトPCRが可能となる。また単にPVAスポンジに唾液を滴下し、そのスポンジ片を用いるだけであるため、DNA抽出・精製のコストを削減することもできる。また一定容積をパンチすることができるため、唾液や血液中のRNA/DNA(コピー数)を絶対定量することもできる。
【0069】
本開示の一実施形態において、体液を体液固定器具に保持させたのち、当該体液固定器具を乾燥させることができる。この場合、この乾燥は室温での自然乾燥としても良いし、通常、約60℃以上での約10分~約1時間の加熱乾燥としてもよい。加熱温度は例えば、約60℃~約90℃、約60℃~約85℃、約60℃~約80℃、または約60℃~約75℃であってもよく、約60℃~約70℃や約60℃~約65℃であってもよい。加熱時間は約15分、約20分、約30分、約40分、約50分等であってもよい。乾燥の手段としては、特に限られるものではないが、例えば体液固定器具自体の形状を、体液を乾燥させるように構成してもよく、この場合、体液固定器具は、体液を保持するための体液固定部と、蓋部とを備え、前記体液固定器具は、前記体液固定部における体液を乾燥させるための空間を前記蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成されている、体液固定器具が提供される。このような構成によれば、体液固定部における体液を乾燥させるための空間が設けられているため、体液工程部に保持された体液は、体液固定器具が輸送されている最中に自然乾燥されることができる。
【0070】
本開示の一実施形態において、乾燥の手段としては、カラムや体液固定器具に、体液の乾燥を促進させるためのモレキュラーシーブ(合成ゼオライト)や無水硫酸マグネシウムなどの乾燥剤をさらに備えることも可能である。または熱源を設置することもでき、熱源としては、体液固定器具または体液固定部に接着できるものが好ましく、化学反応などで熱を自発的に発するものであってもよく、または蓄えた熱を放出するものであってもよい。例えば熱源としては、鉄の酸化反応による発熱を利用したカイロなどが含まれる。また本開示の他の一実施形態において、乾燥の手段としては、乾燥機などを用いて体液固定器具を通常、約60℃以上での約10分間~約1時間加熱乾燥させることもできる。加熱温度は例えば、約60℃~約90℃、約60℃~約85℃、約60℃~約80℃、または約60℃~約75℃であってもよく、約60℃~約70℃や約60℃~約65℃であってもよい。加熱時間は約15分、約20分、約30分、約40分、約50分等であってもよい。
一実施形態において、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸は、腫瘍循環核酸やcfDNAとすることができる。腫瘍循環核酸やcfDNAは血液中の癌細胞から血液中に放出された核酸であり、アポトーシスなどによる細胞の崩壊に伴い血中に放出されるがん細胞由来のcfDNAをがんの診断や治療へ応用することができる。この腫瘍循環核酸やcfDNAは従来の腫瘍マーカーよりも優れたバイオマーカーになると期待され研究が進められているが、血漿中のcfDNA量は非常に少なく、特に定量においては現在のDNA精製キットなどでは精製工程の多さなどから、cfDNAの回収率は低値となり、正確に定量を行って臨床応用を目指すために研究を進展させるには新たな技術の開発が求められている。本開示はこのようなcfDNAを解析して定量できるという点で有用である。
一実施形態において、解析対象となる癌種はどのような癌であってもよく、上記のような腫瘍循環核酸やcfDNAは血液中に放出するものであれば特に限られるものではない。例えば、本開示の解析対象となる癌としては、肺がん、乳がん、大腸がん、食道がん、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、RCC(腎細胞がん)、GIST(消化管間質腫瘍)などを挙げることができる。
本開示の他の局面において、体液固定器具を含む、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行うためのキットであって、前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する工程と、前記血漿及び/または血清を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程とを含む方法において用いられる、キットが提供される。
またさらに他の局面において、被験者の血漿及び/または血清中の循環核酸の分析を行うシステムであって、前記被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する手段と、前記血漿及び/または血清を保持し乾燥させる体液固定器具と、前記血漿及び/または血清を含む体液固定器具を用いて遺伝子分析を行うための装置とを含む、システムが提供される。
【0071】
被験者の血液から血漿及び/または血清を調整する手段としては、血液から血漿及び/または血清を調整することができる手段や器具であれば、どのようなものを用いてもよい。
【0072】
本開示に用いられる、体液を保持し乾燥させる体液固定器具は、体液を保持し乾燥し得る器具であれば、どのような器具であってもよい。例えば、体液固定器具としては、体液を固定するため器具をいい、対象の体液を固定し、その状態で乾燥することができる限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解され、一体化された器具として提供されてもよく、別々の部品として提供され、その後に組み立てる(アセンブルする)形態で提供されてもよい。あるいは、一体化された器具として提供される場合、さらに包装物(袋など)で包装された形で提供されてもよい。体液固定器具の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製であってもよい。体液固定器具の形状は、体液を乾燥させるための空間を形成することができる限りにおいて任意であり、好ましくは、固定された体液を乾燥させる場所を保護することが可能な形状を有し得る。体液固定器具は、例えば、一部分を折り返して蓋を形成することが可能な形状を有していてもよいし、通気性のある箱型であってもよい。
【0073】
一実施形態において、血漿及び/または血清を含む体液固定器具を用いて遺伝子分析を行うための装置は、体液に含まれると予想される核酸(RNA、DNAなど)が遺伝子分析や核酸増幅反応試薬(例えば、必要に応じて逆転写酵素、ポリメラーゼ(鎖置換型DNA合成酵素であってもよい)など)に接触させて反応を行うものであれば、どのような装置を用いてもよく、逆転写酵素およびポリメラーゼ等の2種類以上の酵素を用いる場合、同時に2つの酵素あるいは2つの酵素活性を有する単一の酵素に接触されてもよく、別々の2つの酵素に接触されてもよい。別々の場合、RNAを増幅する場合は逆転写酵素に最初に接触されることが好ましい。容積一定乾燥体液部分の逆転写酵素およびポリメラーゼへの接触は、逆転写酵素およびポリメラーゼを含む溶液に容積一定乾燥体液部分を加えることや、容積一定乾燥体液部分を緩衝液などに入れ逆転写酵素およびポリメラーゼを加えてもよい。
【0074】
本開示において、核酸増幅反応試薬(例えば、必要に応じて逆転写酵素、ポリメラーゼ(鎖置換型DNA合成酵素を含みうる)など)、並びに核酸増幅が生じる条件(例えば、逆転写および/または重合もしくはDNA合成が生じる条件)を生じるための装置において、逆転写酵素、およびポリメラーゼ等の核酸増幅反応試薬としては、本開示の試料が含むと思われるDNAやRNA等の増幅反応に必要な反応を生じる酵素等(例えば、核酸の逆転写および重合に適切な逆転写酵素およびポリメラーゼ)であれば、どのようなものであってもよい。1つの実施形態では、核酸増幅反応試薬は、ポリメラーゼ(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、鎖置換型DNA合成酵素など)、逆転写酵素、(例えば、必要に応じて逆転写酵素とポリメラーゼの組み合わせ、逆転写酵素と鎖置換型DNA合成酵素、あるいはポリメラーゼもしくは鎖置換型DNA合成酵素および逆転写酵素の両方の機能を有する酵素など)であってもよい。1つの実施形態では、核酸増幅が生じる条件は、逆転写、重合(DNA重合、RNA重合など)、DNA合成が生じる条件であってもよい。
【0075】
核酸増幅が生じる条件(例えば、逆転写および/または重合もしくはDNA合成が生じる条件)は使用する試薬(例えば、逆転写酵素、ポリメラーゼ、鎖置換型DNA合成酵素等)によって変動し得るが、当業者であれば、使用する試薬(例えば、逆転写酵素、ポリメラーゼ、鎖置換型DNA合成酵素等)によって適宜決定することができる。例えば、使用する試薬(例えば、逆転写酵素、ポリメラーゼ、鎖置換型DNA合成酵素等)による重合反応は、約42℃~約60℃で約5分間の逆転写反応から始めることができ、または諸条件の逆転写反応を行う前に、約90℃で約30秒間のプレ変性反応から始めることもできる。あるいは、逆転写酵素およびポリメラーゼが同じ酵素によって実現する場合において、至適温度が同様の場合は、適宜の温度(酵素により、約42℃~約60℃、約90℃等)で開始することができる。
【0076】
本開示における核酸を解析のためのデバイスは、核酸を解析できる限り、どのようなデバイスであってもよい。例えば、次世代シーケンサーや、PCR法、LAMP法、SDA法、RT-SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TMA法、RCA法、ICAN法、UCAN法、LCR法、LDR法、SMAP法、SMAP2法、PCRインベーダー法、mPCR-RETINA法、蛍光消光プローブ法などの各種反応を実行するためのデバイスを用いることができる。
【0077】
本開示の他の局面において、体液固定器具を含む、被験者の体液中の循環核酸の分析を行うことによって前記被験者が癌に罹患しているかどうか、または癌が再発しているかどうかを診断するための体外診断用医薬品であって、前記被験者の体液を体液固定器具に配置し乾燥させる工程と、前記体液を含む体液固定器具を遺伝子分析に供する工程と
を含む、方法において用いられる、体外診断用医薬品が提供される。
【0078】
一実施形態において、被験者の体液中の循環核酸の分析を行うことによって前記被験者が癌に罹患しているかどうか、または癌が再発しているかどうかを診断するための体外診断用医薬品は、本明細書の他の箇所で説明されるような体液固定器具を含むキットの形態で提供されてもよい。
【0079】
本開示において、使用される試料は生体試料であることが好ましいがこれに限定されない。1つの実施形態では、生体試料は、特定の対象となる核酸を含むと想定される任意のものでよく、例えば、鼻汁、鼻腔ぬぐい液、眼結膜ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、喀痰、糞便、血液、血清、血漿、髄液、唾液、尿、汗、乳、精液、口腔ぬぐい液、歯間ぬぐい液、湿性耳垢、膣腔ぬぐい液、および細胞組織などの生体試料または臨床試料の他、食品などを挙げることができる。生体試料は、細胞、真菌、細菌およびウイルスからなる群より選択されるDNAおよび/またはRNAを包含する試料を含むことができる。
【0080】
本開示において、処理は、試料に対する操作であれば、どのようなものでもよいが、試料に含まれる特定の成分を用いてこれを変化させることで、別のものを製造したり、情報を抽出したりすることをいう。処理としては、例えば、核酸増幅反応、酵素反応、遺伝子解析、およびリキッドバイオプシー中の化学物質測定(例えば、HPLC-MS/MSなどによる薬物濃度測定)などを挙げることができるがこれに限定されない。
【0081】
乾燥するために用いる装置または材料は、本開示が目的とする処理に必要な物質(例えば、ポリメラーゼ、逆転写酵素などの酵素、あるいは、抗体等)に実質的に悪影響を与えない(この場合、最終的に処理が目的とする状況に影響を与えなければ、ある程度影響があってもよい)ことが理解される。
【0082】
1つの実施形態では、遺伝子解析は、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification:ループ介在等温増幅)法、SDA(Strand Displacement Amplification:鎖置換増幅)法、RT-SDA(Reverse Transcription Strand Displacement Amplification:逆転写鎖置換増幅)法、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法、RT-LAMP(Reverse Transcription Loop-Mediated Isothermal Amplification:逆転写ループ介在等温増幅)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification:核酸配列に基づいた増幅)法、TMA(Transcription Mediated Amplification:転写介在増幅)法、RCA(Rolling Cycle Amplification:ローリングサイクル増幅)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids:等温遺伝子増幅)法、UCAN法、LCR(Ligase Chain Reaction:リガーゼ連鎖反応)法、LDR(Ligase Detection Reaction:リガーゼ検出反応)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、SMAP2(Smart Amplification Process Version 2)法、PCR-インベーダー(PCR-Invader)法、Multiplex PCR-Based Real-Time Invader Assay (mPCR-RETINA)、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)などを挙げることができる。好ましくは、いわゆるTaqman法、LAMP法、SMAP法が用いられる。
【0083】
一つの実施形態において、本開示の方法、キットまたは体外診断用医薬品は、体内腫瘍量のモニタリング、薬剤耐性遺伝子の判定、がんの早期検出、または再発モニタリングのために用いることができる。加えて、またはそれに換えて、循環核酸は、cfDNAであり得る。このような場合、本開示のキット、組成物および方法等は、出生前診断、染色体異常の検出、または新生児スクリーニングのために用いられ得る。本開示の方法、キットまたは体外診断用医薬品は、ウイルス感染の検出のためにも使用し得る。また、本開示の方法、キットまたは体外診断用医薬品は、核酸の絶対定量を行うためにも使用し得る。絶対定量は、デジタルPCRによって行われるものであり得る。
【0084】
本開示の方法、キットまたは体外診断用医薬品は、血中循環腫瘍細胞を捕捉するためのものであり得る。そのような方法、キットまたは体外診断用医薬品は、がんの予後予測、または薬物治療法の再検討のために使用し得る。本開示の方法、キットまたは体外診断用医薬品は、デジタルPCRを用いて腫瘍細胞数を定量するためにも使用し得る。核酸分析は、デジタルPCRを含み得る。
【0085】
さらなる局面において、本開示は、血漿または血清中の循環核酸の分析のための、PVAスポンジを含むサンプリング剤またはサンプリング材料を提供し得る。また、本開示において、血漿または血清中の循環核酸の分析のための、かかるサンプリング剤またはサンプリング材料を含むキットも提供され得る。血漿または血清中の循環核酸の分析は、定量的分析であり得る。循環核酸は、腫瘍循環核酸であり得る。PVAスポンジは、血漿または血清の添加後、核酸を遊離させることなく、直接PVAスポンジをPCR等の反応液に添加し、血漿または血清中の核酸の分析(例えば、定量反応)を行うことができる。核酸を遊離させる工程を用いないことは、分析の対象となる核酸の全量をより正確に反映し、定量において非常に有利となり得る。
【0086】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0087】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0088】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0089】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0090】
(実施例1:核酸検出プロトコル)
本実施例では、核酸検出プロトコルを説明する。
図1Aに生体試料として血漿サンプルをカラム内のPVAスポンジに固定した後に加熱乾燥させてから核酸を抽出して核酸解析する場合の検出プロトコル(カラム法)を表す模式図を、
図1Bに生体試料として血漿サンプルをPVAスポンジに固定した後に加熱乾燥させた後に、そのPVAスポンジを直接反応試薬に入れて核酸解析する場合の検出プロトコル(ダイレクト法)を表す模式図を、それぞれ示した。
【0091】
まず
図1Aでは、被験者から得た血漿サンプルをPVAスポンジ入りのカラムに滴下する。その後、60℃で一晩乾燥させてから蒸留水を滴下して95℃に5分間静置した後、10000rpmで3分間遠心してサンプル中のcfDNAを精製する。その後、カラムを取り外し、抽出された核酸を含む溶液を反応試薬と混合させて核酸解析を行う。
【0092】
次に
図1Bでは、被験者から得た血漿サンプルを、PVAスポンジを備えるキャプチャーに滴下し、保持させる。その後、60℃で一晩乾燥させてから、キャプチャーのPVAスポンジ部分の一定の容積が切り取られるように、直径2mmでパンチする。その後、パンチした一定の容積のPVAスポンジを、リアルタイムPCRの試薬を有する容器に直接投入する。
【0093】
(実施例2:カラム法を用いたPVAスポンジによるcfDNAの定量)
健常人7名、食道がん患者7名、がん患者(食道がん以外)4名から血漿サンプルをそれぞれ採取し、標準Genome DNA溶液調整(10
4,10
3,10
2,10
1,DW 5mL(n=3))を調整した。いずれもサンプルの調整は、血漿80mL PVA滴下⇒乾燥⇒PVA/DW 160mL滴下⇒95℃ 5分⇒遠心3000rpm⇒PCR(n=3)とした。標準Genome DNA溶液の組成、並びにPCRサイクルおよび試薬組成は
図2に示すとおりとした。
【0094】
標準ゲノムDNA増幅曲線を
図3に、その標準曲線を
図4に示した。また健常者血漿中cfDNA増幅曲線を
図5(標準曲線あり)および
図6(標準曲線なし)に示した。また食道がん患者7名血漿中cfDNA増幅曲線を
図7(標準曲線あり)および
図8(標準曲線なし)に示した。またがん患者4名(食道がん以外)血漿中cfDNA増幅曲線を
図9(標準曲線あり)および
図10(標準曲線なし)に示した。
【0095】
これらの増幅曲線をもとに、健常者血漿中cfDNAを定量した結果を表2に、食道がん患者7名血漿中cfDNAを定量した結果を表3に、またがん患者4名(食道がん以外)血漿中cfDNAを定量した結果を表4に、それぞれ示した。
【表2】
【表3】
【表4】
【0096】
サンプル中のDNA量を反映するCt値を比較すると、いずれの結果においても、各患者での2回または3回の結果は非常に近いCt値が得られ、PVAスポンジは精製効率としてかなり精度の高いものであることが確認できた。
【0097】
また以上のようにして得たcfDNA量について、健常者7名と食道がん患者7名の血漿中cfDNA量を比較した結果を
図11に、健常者7名とがん患者4名(食道がん以外)血漿中cfDNA量を比較した結果を
図12に、それぞれ示した。縦軸に検体数を、横軸に血漿検体1μLあたりに含まれるcfDNAのコピー数を示した。
図11および
図12をみると、食道がん患者7名および食道がん以外のがん患者4名のいずれの比較結果においても、健常者と比べて血漿1μLあたりのcfDNAコピー数が明らかに高値で検出されており、健常者では1μLあたりのコピー数が20未満であるのに対して、1μLあたりのコピー数が21以上となるのはがん患者のみであることがわかった。
【0098】
(実施例3:ダイレクト法を用いたPVAスポンジによるcfDNAの定量)
次にPVAダイレクト法を用いてcfDNAの定量を行った。この方法では、血漿などの検体をPVAスポンジに添加し乾燥させた後、完全に乾燥したPVAスポンジを直径2mmサイズにパンチして、そのままPCRミックスへ加えた。本実施例では、このダイレクト法で、血清サンプルを阻害なくリアルタイムPCRでcfDNA量を測定できるかを確認するため、ヒトGenomeDNAを目的の濃度に滅菌水で希釈した溶液と、血清で希釈した溶液の2種類を対象に実験を行った。PCRサイクルおよび試薬組成は
図13に示すとおりとした。
【0099】
PVAスポンジ(厚さ2mm×直径2mm)を用いたダイレクト法でのGenomeDNA/血清溶液の各濃度での増幅曲線を
図14に示した。この増幅曲線をもとに、GenomeDNA/血清溶液の各濃度での定量結果を表5に示す。
【表5】
【0100】
いずれのサンプルでも、3回の結果は非常に近いCt値が得られ、ダイレクト法を用いた場合でもPVAスポンジは精製効率としてかなり精度の高いものであることが確認できた。またPVAスポンジを介して、血清をそのままリアルタイムPCRへ投入したことを考慮すると、阻害の影響は少なく高感度に検出できていると考えられる。
【0101】
(実施例4:ダイレクト法での血漿サンプルと血清サンプルの比較)
次にPVAダイレクト法を用いて、血漿サンプルと血清サンプルの比較を行った。この実施例では、血漿などの検体をPVAスポンジに添加し乾燥させた後、完全に乾燥したPVAスポンジを直径2mmサイズにパンチして、そのままPCRミックスへ加えた。血清サンプルおよび血漿サンプルを阻害なくリアルタイムPCRでcfDNA量を測定できるかを確認するため、ヒトGenomeDNAを目的の濃度に滅菌水で希釈した溶液と、血清または血漿で希釈した溶液の3種類を対象に実験を行った。PCRサイクルおよび試薬組成は
図15に示すとおりとした。
【0102】
PVAスポンジ(厚さ2mm×直径2mm)を用いたダイレクト法でのGenomeDNA/血清溶液の各濃度での増幅曲線を
図16に、PVAスポンジ(厚さ2mm×直径2mm)を用いたダイレクト法でのGenomeDNA/健常者血漿溶液の各濃度での増幅曲線を
図17に、それぞれ示した。この増幅曲線をもとに、GenomeDNA/血清溶液およびGenomeDNA/健常者血漿溶液の各濃度での定量結果を表6に示す。
【表6】
【0103】
いずれのサンプルでも、3回の結果は非常に近いCt値が得られ、ダイレクト法を用いた場合でもPVAスポンジは精製効率としてかなり精度の高いものであることが確認できた。またPVAスポンジを介して、血漿または血清をそのままリアルタイムPCRへ投入したことを考慮すると、阻害の影響は少なく高感度に検出できていると考えられる。
【0104】
(実施例5:ダイレクト法を用いたPVAスポンジによるcfDNAの定量)
ダイレクト法を用いて健常人10名と食道がん患者9名の血漿検体を対象にcfDNAの定量を行った。PCRサイクルおよび試薬組成は
図18に示すとおりとした。
【0105】
PVAスポンジ(厚さ2mm×直径2mm)を用いたダイレクト法での健常人血漿でのcfDNAの増幅曲線を
図19に、PVAスポンジ(厚さ2mm×直径2mm)を用いたダイレクト法での食道がん患者血漿での増幅曲線を
図20に、それぞれ示した。
【0106】
これらの増幅曲線をもとに、健常者血漿中cfDNAを定量した結果を表7に、食道がん患者血漿中cfDNAを定量した結果を表8に、それぞれ示した。
【表7】
【表8】
【0107】
また以上のようにして得たcfDNA量について、健常者と食道がん患者の血漿中cfDNA量を比較した結果を
図21に示した。縦軸に検体数を、横軸に血漿検体1μLあたりに含まれるcfDNAのコピー数を示した。この図から、食道がん患者では健常者と比べて血漿1μLあたりのcfDNAコピー数が明らかに高値で検出されていることがわかった。
【0108】
(実施例6:TTX(Tth DNA polymerase)によるGenomeDNAの定量)
本実施例においては、上述の実施例において用いてきたTTX(Tth DNA polymerase)の増幅効率を確認した。採血後、遠心を行って血清を作成し、種々の濃度に希釈し、希釈溶液を作成した。その後、その血清溶液を増幅試薬に直接投入した。PCRサイクルおよび試薬組成は
図22に示すとおりとした。
【0109】
25μLぼPCRmixにそれぞれの濃度のGenomeDNA血清溶液を5μLづつ添加し、実験した。GenomeDNA血清溶液の各濃度での増幅曲線を
図23に示した。この増幅曲線をもとに、GenomeDNA血清溶液の各濃度での定量結果を
図23の右下に示した。この結果から、TTX(Tth DNA polymerase)は血清溶液をそのまま用いた場合でも良好な増幅効率を示し、夾雑物に強いことがわかった。
【0110】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。