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特開2022-511773次元プリンタ用のホットエンド、3次元プリンタ、及び加熱手段
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051177
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】3次元プリンタ用のホットエンド、3次元プリンタ、及び加熱手段
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/295 20170101AFI20220324BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20220324BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20220324BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220324BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220324BHJP
   B22F 3/115 20060101ALI20220324BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20220324BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B29C64/295
B29C64/118
B29C64/209
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F3/115
H05B3/20 310
H05B3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157516
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】502072374
【氏名又は名称】谷口 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀夫
【テーマコード(参考)】
3K034
3K092
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
3K034AA16
3K034BA06
3K034BB06
3K034BB14
3K034BC14
3K034CA01
3K092PP18
3K092QA06
3K092QB43
3K092QC02
3K092RF03
3K092VV40
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL27
4F213WL32
4F213WL74
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA14
4K018AA40
(57)【要約】
【課題】発熱効率の良い3次元プリンタ用のホットエンド、3次元プリンタ、及び加熱手段の提供。
【解決手段】実施形態の3次元プリンタ用のホットエンド10は、フィラメント状の造形材料が供給される供給口111を有する供給部11、供給部11から供給された造形材料を融解する加熱手段15が取付けられた融解部13、融解部13で融解された造形材料を吐出する吐出口141を有する吐出部14、及び、供給口111と吐出口141とを連通する通路2、を備えている。加熱手段15は、絶縁基板151及び絶縁基板151上に設けられた発熱抵抗体層152を有する加熱板150が、複数積層されてなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント状の造形材料が供給される供給口を有する供給部、前記供給部から供給された前記造形材料を融解する加熱手段が取付けられた融解部、前記融解部で融解された造形材料を吐出する吐出口を有する吐出部、及び、前記供給口と前記吐出口とを連通する通路、を備える3次元プリンタ用のホットエンドであって、
前記加熱手段は、絶縁基板及び前記絶縁基板上に設けられた発熱抵抗体層を有する加熱板が、複数積層されてなることを特徴とする、3次元プリンタ用のホットエンド。
【請求項2】
複数積層された前記加熱板の前記発熱抵抗体層が電気的に並列接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の3次元プリンタ用のホットエンド。
【請求項3】
複数積層された前記加熱板のうち少なくとも一対の前記加熱板は、前記絶縁基板の前記発熱抵抗体層が形成されている側の面が対向するように配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の3次元プリンタ用のホットエンド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の3次元プリンタ用のホットエンドと、前記加熱手段を発熱させるための前記発熱抵抗体層に電力を供給する電圧印加手段と、を備える3次元プリンタであって、
前記電圧印加手段は、前記発熱抵抗体層に極性交番電圧を印加することを特徴とする、3次元プリンタ。
【請求項5】
熱溶解積層方式の3次元プリンタ用のホットエンドにおいて、造形材料を融解するための加熱手段であって、
絶縁基板及び前記絶縁基板上に設けられた発熱抵抗体層を有する加熱板が、複数積層されてなることを特徴とする加熱手段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層方式を用いた3次元プリンタ用のホットエンド、これを搭載する3次元プリンタ、及び、ホットエンド用の加熱手段に関し、特に400℃以上の作業温度での立体造形でも好適に用いることができる加熱手段、ホットエンド、及び3次元プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータを利用して3次元プリンタにより立体造形物を製造することが盛んに行われている。このような3次元プリンタによる主要な造形方式として、熱溶解積層方式(FDM)がよく知られている。この種の3次元プリンタに用いられるホットエンド(吐出ヘッド)として、本出願人は、先に造形材料を融解するための加熱手段に、絶縁基板上に発熱抵抗体(層)を形成した加熱板を用いたものを提案している(特許文献1)。
【0003】
このホットエンドは、従来のヒートブロックを加熱手段に用いたホットエンドを格段に小型化かつ省エネルギー化でき、しかもオンデマンド造形をも可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-66056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加熱板によって例えば400℃以上の高温に加熱を行なう場合、比較的薄い絶縁基板と発熱抵抗体で構成されている加熱板では放熱性が高く、造形材料を所望の温度に加熱するために比較的大きい電力が必要となる。また、3次元プリンタ用のホットエンドを、加熱板を用いて加熱する場合、発熱抵抗体に一般に適用される直流電圧(DC)を印加すると、加熱板を400℃以上の高温で加熱を続けると、発熱抵抗体の抵抗値が大きく変化してしまうという現象が生じることがある。この現象は、製造工程において発熱抵抗体に異物が付着したり不純物が混入してしまったりすると、高温加熱下では、迷走電流による電蝕作用により電極金属が発熱抵抗体に移動することが原因と考えられ、傷や厚みが異なる部分などにより不適切なパターンの部分があっても発生しやすい傾向がみられる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、その目的は、造形材料の加熱手段として加熱板を用いたホットエンドを搭載した3次元プリンタにおいて、PEEK等の高温で融解(溶解)する造形材料を用いたときであっても、つまりは加熱板を高温に加熱する必要があるとしても、比較的小さい電力で高温に加熱可能で、しかも、耐久性に優れたホットエンド、3次元プリンタ、及び加熱手段、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、上述の、加熱板による加熱に比較的大きい電力が必要とされる原因が、加熱板における造形材料の流路と反対側からの放熱量が比較的大きいことにあることを見出した。そして、ホットエンド用の加熱手段として加熱板を複数枚積層して構成したものを用いたときには、加熱板のサイズを小型軽量に保ちつつ、比較的小さい電力で造形材料を高温に加熱可能であり、高温加熱下においても上記抵抗値が大きく変化する現象の発生を抑制できることを見出した。また、上記の発熱抵抗体の抵抗値の変化は、高温では絶縁体は導電体に近くなり、DC印加すると絶縁体へのリーク電流が増え荷電体の移動が多くなり一方向に偏って集中する結果、発熱抵抗体が電蝕変質して抵抗値が大きく変化してしまうことに原因があると考え、高温時において絶縁体の荷電体が一方方向に移動して集中しないように、発熱抵抗体に交流電圧を印加すれば発熱抵抗体の抵抗値の変化をより一層抑制し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の3次元プリンタ用のホットエンドは、フィラメント状の造形材料が供給される供給口を有する供給部、前記供給部から供給された前記造形材料を融解する加熱手段が取付けられた融解部、前記融解部で融解された造形材料を吐出する吐出口を有する吐出部、及び、前記供給口と前記吐出口とを連通する通路、を備える3次元プリンタ用のホットエンドであって、前記加熱手段は、絶縁基板及び前記絶縁基板上に設けられた発熱抵抗体層を有する加熱板が、複数積層されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明において、複数積層される各加熱板は、発熱抵抗体層の形成パターンを同じとされるのが好ましい。また、同じ形成パターンの発熱抵抗体層を上下にできるだけズレなく積層するのが好ましい。さらに、発熱抵抗体層の厚みや抵抗値もできるだけ同じとなるように形成(調整)しておくのが好ましい。小型化のために小さな絶縁基板上で抵抗値が同じようになるように発熱抵抗体層を形成するためには、発熱抵抗体層の形成パターンとしては特に限定されないが、例えば、同じ厚さ、同じ幅で、つづら折りのように蛇行させて発熱抵抗体層の長さを長くして形成するのが抵抗値を調整するうえでより好ましい。
【0010】
また、加熱板の積層パターンとして、例えば2枚の加熱板を用いる場合の積層パターンとしては、例えば、下から上に(絶縁基板-発熱抵抗体層-保護層)-(絶縁基板-発熱抵抗体層-保護層)-保護絶縁基板、又は(絶縁基板-発熱抵抗体層-保護層)-中間絶縁基板-(保護層-発熱抵抗体層-絶縁基板)とすることができる。また、前者の積層パターンの場合、下側の加熱板の絶縁基板の幅寸法を上側の加熱板の絶縁基板よりも大きくして導通用の電極層が露出するようにするのがより好ましい。また、上記保護絶縁基板及び上記中間絶縁基板は、加熱板の発熱抵抗体層の全てを覆い、電極層の一部を露出するような大きさとされて積層されるのがより好ましい。
【0011】
また、本発明の3次元プリンタ用のホットエンドは、複数積層された前記加熱板の前記発熱抵抗体層が電気的に並列接続されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の3次元プリンタ用のホットエンドは、複数積層された前記加熱板のうち少なくとも一対の前記加熱板は、前記絶縁基板の前記発熱抵抗体層が形成されている側の面が対向するように配置されることを特徴とする。
【0013】
本発明の3次元プリンタは、上記ホットエンドと、前記加熱手段を発熱させるための前記発熱抵抗体層に電力を供給する電圧印加手段と、を備える3次元プリンタであって、前記電圧印加手段は、前記発熱抵抗体層に極性交番電圧を印加することを特徴とする。
【0014】
本発明の加熱手段は、熱溶解積層方式の3次元プリンタ用のホットエンドにおいて、造形材料を融解するための加熱手段であって、絶縁基板及び前記絶縁基板上に設けられた発熱抵抗体層を有する加熱板が、複数積層されてなることを特徴とする。
【0015】
本発明の3次元プリンタにおいて極性交番電圧とは、正負の極性が周期的もしくは非周期的に変化する電圧のことを意味する。極性交番電圧は正弦波に限らず、パルス波、矩形波、三角波、鋸歯状波などを含み得る。このような極性交番電圧は、例えば、直流電圧をDC/ACインバータで交流化することで印加することができる。交流化された電圧はPFM(パルス周波数変調)又はPWM(パルス幅変調)などによって変調され、発熱抵抗体層に供給される電力が調整され得る。上記本発明の3次元プリンタによれば、発熱抵抗体層に交流電圧を印加するようにしているので、たとえ400℃以上への発熱を繰り返したとしても、発熱抵抗体層の抵抗値が大きく変化することを軽減でき、ホットエンドの耐久性を格段に向上することができる。
【0016】
また、本発明の加熱手段において、加熱板の絶縁基板上に設けられた発熱抵抗体層上には、これを覆う保護層(例えば、ガラス層)を設けておくのが、製造工程中などに発熱抵抗体層に異物が付着したり、傷が付いたりするのを防止できる点で好ましい。さらに、加熱板を積層したときに最上層又は最下層に発熱抵抗体層(保護層を含む場合を含む)が位置する場合には、保護絶縁基板(保護板)を設けることが好ましい。
【0017】
本発明において上記保護絶縁基板としては、上記絶縁基板と同等の厚みのものを用いるのが好ましく、また、上記絶縁基板と同等の熱膨張率を有するものとするのが好ましい。また、一対の加熱板を、その発熱抵抗体層が形成されている側を対向させて積層するために上記保護絶縁基板を上記のように中間絶縁基板として用いるのが好ましい。したがって、複数の加熱板の発熱抵抗体層間の絶縁、及び、一層の発熱特性の安定化を図ることができ、ホットエンドの耐久性をより一層向上させることができる。
【0018】
また、本発明の3次元プリンタにおいて、前記電圧印加手段は、発熱抵抗体層に極性交番電圧を印加することで加熱板を400℃以上といった高温での造形作業を安定して行うことができるので、例えば、PEEK、フィラー含有PEEKなどの高融点の熱可塑性樹脂、Pb、Al、Sn、Ag、Cu、In、アルミニウム合金、亜鉛合金などの金属類、低融点ガラスなどを造形材料に用いることができる。また、例えば、高低温材料の同時使用が可能となるといったように、融解温度が異なる複数種類の造形材料を用いた立体造形を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加熱手段及びホットエンドの、造形材料を加熱して融解させる効率及び耐久性を向上させることが可能であり、高温での造形作業を繰り返し行うことができる3次元プリンタを提供することができる。特に、本発明の3次元プリンタのように、交流電圧を用いて本発明の加熱手段を加熱する場合には、650℃に加熱した場合であっても劣化現象が発生せず、加熱手段の高温動作での耐久性を一段と向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態の3次元プリンタにおけるホットエンドの(A)正面図及び(B)側面図である。
図2】本発明の一実施形態の3次元プリンタにおけるホットエンドの(A)ヘッド本体の正面図及び(B)側面図である。
図3】本発明の一実施形態の加熱手段の一例を説明する(A)正面図及び(B)側面図である。
図4】本発明の一実施形態の加熱手段の別の例を説明する(A)正面図及び(B)側面図である。
図5】本発明の一実施形態の加熱手段の他の例を説明する(A)正面図及び(B)側面図である
図6】本発明の一実施形態の3次元プリンタを説明する模式図である。
図7】電圧印加手段による電圧印加の制御を説明する回路ブロック図である。
図8図7の回路ブロック図における調整部に含まれる変換装置の具体的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施形態の、加熱手段(加熱板)を備える3次元造形装置(3次元プリンタ)用のホットエンドを説明する。図1(A)には本発明の3次元プリンタに用いられるホットエンドの一例であるホットエンド10の正面図が、図1(B)にはホットエンド10の側面図が示されている。図2(A)にはホットエンド10を構成するヘッド本体1の正面図が示され、図2(B)にはヘッド本体1の底面図が示されている。なお、以下、参照される図面において、各構成要素の寸法の正確な比率を示すことは意図されておらず、本発明の特徴が理解され易いように強調されて描かれている。
【0022】
ホットエンド10は、フィラメント状の造形材料が供給される供給口111を有する供給部11、供給部11から供給された造形材料を融解する加熱手段15が取付けられた融解部13、融解部13で融解された造形材料を吐出する吐出口141を有する吐出部14、及び、供給口111と吐出口141とを連通する通路2、を備えている。また、ホットエンド10は、供給部11と融解部13との間であって融解部13の熱が供給部11へ伝導するのを抑制する断熱部12を有している。そして、融解部13と断熱部12との間の境界部又は境界部近傍に温度調整部16が設けられている。
【0023】
本実施形態におけるホットエンド10の融解部13に備えられている加熱手段15は、絶縁基板151、及び、絶縁基板151上に設けられた発熱抵抗体層152を有する加熱板150が、複数積層されることで構成されている。図示される例では、加熱手段15が2つの加熱板150が重ね合わされる(積層される)ことで構成され、加熱板150の表面には発熱抵抗体層152を保護する保護基板154が貼着されている。図示の例では、一対の加熱手段15がヘッド本体1における融解部13の対向する両面に接してヘッド本体1を挟むように設けられている。しかし、融解部13のいずれか一つの面にのみ加熱手段15が設けられる構成が採用されてもよい。
【0024】
続いて、ヘッド本体1について詳しく説明する。図2(A)にはヘッド本体1の正面図、図2(B)にはヘッド本体1の底面図が示されている。ヘッド本体1は、供給部11、断熱部12、融解部13及び吐出部14が、金属やセラミックスなどの耐熱材料から一体的に形成されているものであってもよいし、一部又は全部が独立可能に形成されていてもよいし、各部の間のいずれか或いはすべてに他の部材を介在させるなど非連続的なものであってもよい。図示される例では、ヘッド本体1は、全長が例えば32mmで、直径が例えば4mmφの、例えば64チタン(チタンにアルミニウム6質量%、バナジウム4質量%を混ぜた合金)からなる円柱状の金属棒を、例えば切削加工してなるものである。
【0025】
ヘッド本体1には、一端側のフィラメントの供給口111から他端側の融解された造形材料を吐出する吐出口141へ一直線に延びる、直径が例えば2mmφの通路(貫通孔)2が形成されている。なお、ヘッド本体1及び通路2のサイズは、フィラメントのサイズに応じて適宜変更され得る。
【0026】
ヘッド本体1の供給部11は、例えば長さ5mm、直径4mmφの円柱形状(円筒形状)とされている。供給部11は、先端に供給口111が形成され、例えば2mmφの通路2が供給口111近傍において供給口111側に向けて、例えば3mmφまで拡がるようにテーパ状に形成されている。供給部11は、3次元プリンタに取付けるためのアダプター(図示せず)への取付部としての役割も兼ねている。
【0027】
断熱部12は、融解部13よりも熱抵抗が大きくなるように形成されており、図示される例では、断熱部12は、供給部11と融解部13との間に位置し、例えば長さ11mm、直径3mmφの円柱形状(円筒形状)とされている。断熱部12は、上述のように直径3mmφとされ、その中心部を貫通する直径2mmφの通路2が形成されることから、外壁の肉厚が0.5mmの肉薄部とされている。また、断熱部12の中央部には、断熱部12の断面積を小さくしてその熱抵抗を高くし得る、例えば長さ8mm、幅1.8mmの開口部121が、通路2に対向して一対で形成され得る。開口部121は、ヘッド本体1の長さ方向及び/又は幅方向に1つ又は複数設けてもよく、サイズも適宜決定すればよい。熱抵抗との関係で断面積を、強度が保証される範囲内で適宜決定することができる。
【0028】
融解部13は、例えば長さ13mm、直径4mmφとされている。融解部13には、平面側(図2(A)における紙面の表面側)と背面側(図2(A)における紙面の裏面側)が切削されて2つの平面部が、例えば3mm隔てて対向するように形成されている。平面部の中央部には、例えば長さ8mm、幅1mmの開口部131が、通路2を露出するように形成されている。開口部131は、長さ方向に複数並設するようにしてもよい。なお、加えて、平面部の表面を粗面化してもよいし、開口部131を形成せずに粗面化のみしてもよい。なお、開口部131を設けることなく、融解部13の平面部と加熱板150の絶縁基板151との接着(融着)面積を大きくしたほうが、加熱手段15をヘッド本体1の融解部13により強固に接着できる点で好ましい場合もある。また、融解部13の吐出部14近傍において、通路2は吐出部14に向かってテーパ状に狭くされ、吐出部14内で例えば直径0.6mmφ程度とされる。
【0029】
吐出部14は、例えば長さ3mmとされ、正面側と背面側から切削されて、例えば幅3mmとされ、吐出部14の長さ方向の途中まで、吐出口141に向かってテーパ状に細められ、吐出口141が形成された先端部は、例えば直径1.5mmφとされ、吐出口141は、例えば直径0.6mmφとされる。
【0030】
ホットエンド10において、ヘッド本体1の断熱部12と融解部13との境界部付近に設けられる温度調整部16は、リング状の部材である。温度調整部16は、そのリング形状の中空部にヘッド本体1が嵌め込まれ、融解部13と断熱部12との境界部付近の外周部を覆うように設けられる。温度調整部16は、融解部13と断熱部12との境界部付近の熱容量を増大させ温度上昇を抑制する。この境界部付近の温度上昇が抑制されることで、通路2内における造形材料の高い流動性を有する部分(例えば融解状態)と、流動性が低い部分(例えば固体状態)との境界が断熱部12側へ移動することが抑制され、ホットエンド10の通路2内の造形材料の詰まりが抑制され得る。
【0031】
図3(A)及び(B)にそれぞれ正面図及び側面図が一例として示されるように、本実施形態におけるホットエンド10における融解部13が備える加熱手段15としては、絶縁基板151上に例えば20μm程度の厚膜の発熱抵抗体層152を形成した加熱板150が、複数積層されたものが用いられる。図示される例の加熱手段15は、第1の加熱板150aと第2の加熱板150bとによって構成されている。加熱板150a、150bのそれぞれは、絶縁基板151a、151bと、絶縁基板151a、151bの一方の表面に形成された帯状の発熱抵抗体層152a、152bと、絶縁基板151a、151bの表面において発熱抵抗体層152a、152bの両端部のそれぞれに接続するように形成された電極153a、153bと、を有している。
【0032】
図示される加熱手段15では、加熱板150a、150bが積層された状態で最も表面に露出する発熱抵抗体層152bの露出する面に、絶縁性の保護基板(保護絶縁基板)154が貼着されている。なお、図示しないが、発熱抵抗体層152a、152b上には、ガラスなどからなる絶縁性の保護層が形成されている。図3(B)に示されるように、積層される加熱板150a、150bのうち、第2の加熱板150bの発熱抵抗体層152b上に保護基板154が貼着されている。なお、図3(A)の平面図においては、加熱板150bの発熱抵抗体層152bの表面に貼着され得る絶縁性の保護基板154が、説明のために省略されて描かれている。発熱抵抗体層152b上に貼着され得る保護基板154は、絶縁基板151a、151bと同じものを用いることができ、例えば厚さ0.3mmの矩形板状の電気絶縁性の基板である。
【0033】
絶縁基板151a、151bは、良好な電気絶縁性を有する材料を用いて形成される基板であって、例えば、アルミナ、ジルコニア、又はそれらの複合材料などのセラミック基板である。発熱抵抗体層152a、152b、及び、電極153a、153bは、例えば、Ag、Pd、Ptなどの合金粉末や酸化ルテニウムを含む厚膜用ペーストなどを、絶縁基板151a、151bの表面に、所定のパターンで印刷、乾燥後、所定温度で焼成することで形成され得る。保護基板154は絶縁基板151a、151bと同様のセラミック基板を用いて形成され得る。
【0034】
図示の例では、第1の加熱板150aの発熱抵抗体層152aが設けられている側に、第2の加熱板150bが取り付けられ(積層され)ており、第2の加熱板150bの外形寸法は、第1の加熱板150aの外形寸法よりも小さい。具体的には、第2の加熱板150bを構成する絶縁基板151bの寸法は、第1の加熱板150aを構成する絶縁基板151aの寸法よりも小とされている。第1の加熱板150aを構成する絶縁基板151aは、例えば、厚さ0.3mm、長さ12mm、幅8mmの矩形板状とされ、第2の加熱板150bを構成する絶縁基板151bは、例えば厚さ0.3mm、長さ12mm、幅6mmとされ得る。第2の加熱板150bは、第1の加熱板150aが備える電極153aが露出するように、絶縁基板151bの発熱抵抗体層152bが形成されている面と反対側の面を、第1の加熱板150a側に向けて取り付けられる。
【0035】
第2の加熱板150bの絶縁基板151bは、第1の加熱板150aの発熱抵抗体層152aを被覆して発熱抵抗体層152bとの絶縁を図るとともに保護層として機能し、接着剤としても機能し得るシール材(図示せず)を介して接着され得る。例えば、ガラスなどからなるペースト状のシール材が発熱抵抗体層152a上に塗布され、第2の加熱板150b、具体的には絶縁基板151bで覆ったのちに加熱処理されることでシール材が固化し、第1の加熱板150aと第2の加熱板150bとが貼着される。そして、第2の加熱板150bの発熱抵抗体層152b上に貼着され得る保護基板154も、同様のシール材を介して発熱抵抗体層152bに貼着され得る。
【0036】
実施形態の加熱手段においては、発熱抵抗体層に電力を供給するリード線が、複数積層された加熱板を構成している複数の発熱抵抗体層を、電気的に並列に接続されるように取り付けられ得る。具体的には、図示される例の加熱手段15において露出している、2つの電極153a及び2つの電極153bのうち、1組の電極153a、153bに共通の1本のリードLWが接続されている。リードLWは例えば銅などの良導電性の金属から形成されている。リードLWは、接続発熱抵抗体層152a、152bに電力を供給する電力供給源に接続されている。リードLWは電極153aと電極153bとを一体的に接続しており、従って、一対の電極153a、153a間、及び、一対の電極153b、153b間には同電位が印加され得る。換言すれば、発熱抵抗体層152aと発熱抵抗体層152bとは電気的に並列に接続される。
【0037】
電極153aと電極153bへのリードLWの接続は、導電性の接合剤を用いて実現され得る。図示の例では、電極153aと電極153bとの上に載置された1本のリードLWが、導電性の接合剤LBによって電極153a及び電極153bに接合されている。導電性の接合剤LBには、例えば、ナノレベルの銀粒子などの微細金属粉末粒子を有機溶剤中に分散させた導電性のペーストが使用され得る。電極153a、153b上に載置されたリードLWを被覆するようにペーストが塗布され、その金属微粒子が焼結する温度以上に加熱されて焼結されることにより、リードLWは電極153a、153bに接続される。
【0038】
ヘッド本体1に加熱手段15が取付けられた、ホットエンド10としての状態では、加熱手段15は、加熱板150aを構成する絶縁基板151aの発熱抵抗体層152aが形成されていない側の面を、ヘッド本体1の融解部13の平面部に向けて接合されている。ヘッド本体1への加熱手段15の接合(接着、融着)は、例えば、電極を形成するのに用いたのと同様の厚膜用ペースト、耐熱性接着剤などにより実現され得る。あるいはネジ止めなどにより接合されてもよい。図1(B)に示されるように、ヘッド本体1の融解部13の外壁面に対向するように研削して設けられた平面部に、一対の加熱手段15が対向して配置され得る。しかしながら、ヘッド本体1に取り付けられる加熱手段15は、1つであってもよく、また、融解部の外壁面に3以上の平面部が設けられて、そのそれぞれに加熱手段15が設けられてもよい。加熱手段15を構成する絶縁基板151aは、ヘッド本体1の融解部13の平面部に形成される開口部131を覆うように配置される。これにより、開口部131から流路2内に露出する加熱手段15の表面(絶縁基板151aの表面)によりフィラメント(造形材料)が直接的に加熱され得る。
【0039】
加熱手段15が、上述したような、加熱板150a、150bが積層された構成を有することにより、発熱抵抗体層152aの一方の面側には絶縁基板151bを介して発熱抵抗体層152aが配置されている構成となる。この構成により、特に発熱抵抗体層152aから発せられる熱は、ヘッド本体1と反対側へ放熱されにくく、効率的にヘッド本体1に、具体的には流路2内の造形材料に熱を加えることが可能となる。換言すれば、同一の消費電力に対する、流路2内の造形材料の加熱に供される熱量が増大し得る。造形材料を融解させる効率が向上し、省電力化が実現され得る。加えて、複数の重ねられた加熱板150が有する発熱抵抗体層152a、152bが並列に接続される場合には、個別に電力を供給するためのリードを接続する必要がなく、配線構造は単純化され、したがって、断線などの不良が発生する虞も低減され得る。
【0040】
図4には、加熱手段15の異なる構成例が示される。図示される加熱手段15においては、積層される複数の加熱板150a、150bが、その発熱抵抗体層152a、152bが形成された側を対向させて取り付けられている。対向して配置される加熱板150a、150bの発熱抵抗体層152aと発熱抵抗体層152bとの間には、絶縁性の保護基板154が中間絶縁基板として配置される。図示の例では、第1の加熱板150aと第2の加熱板150bは同型、同寸法に形成されている。なお、図4(A)に示される平面図では、第2の加熱板150bの一部が透過され、また、保護基板154の一部も透過され、第1の加熱板150aが露出するように描かれている。
【0041】
第1の加熱板150aと第2の加熱板150bとが、発熱抵抗体層152aと発熱抵抗体層152bとを対向させて積層される場合、2つの加熱板150a、150bの電極153aと電極153bは、積層方向において一致するように配置される。そして、発熱抵抗体層152aと発熱抵抗体層152bとの電気的並列接続を実現するように、リードLWが電極153aと電極153bとの間に配され、導電性の接合剤LBで固定される。複数の加熱板150で加熱手段15を構成する場合、少なくとも一対の加熱基板150a、150bを発熱抵抗体層152a、152bを対向させて配置することで、上述のしたように、造形材料の融解させる効率を向上させ得る。なお、本実施形態の加熱手段15においては、積層される加熱板15の枚数は2枚に限定されず、任意の数の加熱板15が積層され得る。
【0042】
図5(A)及び(B)には、加熱手段15の他の構成例の正面図及び側面図が示されている。この構成例では、図3(A)及び(B)に示される例と同様に、第1の加熱板150aの発熱抵抗体層152aが設けられている側に、第2の加熱板150bが積層されており、第2の加熱板150bの外形寸法は、第1の加熱板150aの外形寸法よりも小さい。図5に示される加熱手段15においては、図3の例と比較して、加熱板150a、150bの発熱抵抗体層152a、152bのパターンが、異なっている。具体的には、加熱板150a、150bのそれぞれにおいて、2つの電極153a、153bの間に延在する帯状の発熱抵抗体層152a、152bはミアンダ状(つづら折り状)に形成されている。発熱抵抗体層152a、152bがこのようなパターンを有していることで、発熱抵抗体層152a、152bは比較的長い長さを有し、その長さ調整による抵抗値の調整が簡易になり得る。
【0043】
図示の例では、第2の加熱板150bの発熱抵抗体152bにおける、2つの電極153bの中間部には、中間端子153cが設けられている。この中間端子153cは発熱抵抗体152における部分的な電圧印加を可能にするために設けられ、これにより加熱板15の部位によって温度を異ならせる(温度勾配形成する)ことが可能となる。例えば、加熱手段15の吐出部14に近い側の温度が、断熱部12に近い側の温度よりも高い状態にする温度制御が可能となる。なお、図5(A)に示される正面図では、図3(A)に示される正面図と同様に、保護基板154は、説明のために省略されている。
【0044】
図3~5を参照して上述した加熱手段15における、複数積層された加熱板150a、150bでは、その発熱抵抗体層152a、152bのパターンは同型、同寸法とされ、その厚さ、幅も等しい寸法を有していることが、加熱ムラを抑制する観点から好ましい。同様の観点から、加熱板150a、150bの積層方向において発熱抵抗体層152a、152bのパターンが一致することがさらに好ましい。
【0045】
本発明の実施形態のホットエンドは、3次元プリンタに例えばアダプター(図示せず)を介して取付けられ得る。アダプターに設けられた開口にホットエンド10の供給部11が挿入され、押しネジなどによって固定され得る。アダプターには供給口111に連通する通路が設けられ、フィラメント状の造形材料がこの通路を通じて、ホットエンド10の流路(通路)2に挿通される。供給部11の外周にネジ溝を切って螺合によってアダプターに取付けることもできる。
【0046】
図6を参照して、本発明による実施形態のホットエンド10が取り付けられる3次元プリンタについて説明される。図6には、ホットエンド10が取り付けられた、熱溶解積層方式(FDM)の3次元プリンタの構成の一例が模式的に示されている。図示される例の3次元プリンタ100においては、Y軸方向に可動な造形ステージ101に、ホットエンド10から吐出される融解した造形材料が積層されて、立体造形物が形成される。ホットエンド10の上側には、エクストルーダーが内蔵されたヘッド部103が取り付けられている。ヘッド部103は、X軸方向に可動なX軸ベルト104によって、ホットエンド10とともにX軸方向における任意の位置に移動可能とされている。X軸ベルト104が設置されているX軸フレーム105は、2本のZ軸移動機構106によってZ軸方向に移動可能とされている。造形ステージ101にはY軸方向に移動可能とするY軸ベルト107が取り付けられ、造形ステージ101はY軸方向における任意の位置に移動可能とされている。
【0047】
ヘッド部103が備えるエクストルーダーにはフィラメントリール108からフィラメント状の造形材料(フィラメント)が供給され、エクストルーダーは、その内部に備えるローラの駆動によって、フィラメントをホットエンド10の流路2内へと送り出す。ホットエンド10の流路2内へと送り込まれたフィラメントは、ホットエンド10が有する加熱手段15から与えられる熱によって融解される。図示の例ではホットエンド10の加熱手段15取り付けられた部分を覆うようにカバー102が設けられている。なお、図6に示されている3次元プリンタ100では、ホットエンド10がX軸方向及びZ軸方向で移動し、造形ステージ101がY軸方向で移動するが、本発明のホットエンド10が取り付けられる3次元プリンタは、ヘッド部103がX軸、Y軸、及びZ軸方向で3次元に移動し、造形ステージが固定されている、例えばデルタ式の3次元プリンタであってもよい。
【0048】
本実施形態のホットエンド10が取り付けられた3次元プリンタは、ホットエンド10に設けられている加熱手段15に、具体的には、加熱手段15を構成する加熱板150に設けられている発熱抵抗体層152に、電力の供給を行う電力供給手段(電圧印加手段)300が備えられている。図7には、電圧印加手段300から発熱抵抗体層152への電力を供給する構成の一例が、駆動回路のブロック図として示されている。この駆動回路は、電源21及び調整部から構成される電圧印加手段300により、加熱手段15を構成する発熱抵抗体層152に電力を供給する例で、電源21としては、例えば、60Hz又は50Hzの商用の交流電圧、又は、商用の交流電圧をトランスで変圧した交流電圧が用いられる。
【0049】
実施形態の3次元プリンタにおいては、温度測定手段22によって測定される発熱抵抗体層152付近の温度に応じて、制御手段から制御信号が調整部に送信され、電源21から発熱抵抗体層152に供給される電力が調整部で制御される。これにより、発熱抵抗体層152からの発熱が調整され、融解部13の温度、具体的には、ホットエンド10内の造形材料に供給される熱量が制御される。温度測定手段22は、例えば、測温点が発熱抵抗体層152近傍の絶縁基板151に設置された熱電対である。熱電対に替えてサーミスタが用いられてもよい。
【0050】
発熱抵抗体層152には、極性交番電圧が印加される。電源21から入力された交流電圧を直流電圧に変換するAC/DCコンバータ、変換された直流電圧を平滑化する平滑コンデンサ、及び、平滑化された直流電圧をパルス化して変調(例えば、周波数変調、又は、パルス幅変調)し交流化するDC/ACインバータを含む変換装置Cを備える調整部により、印加電圧や印加時間が調整された電力(交番電圧)が、発熱抵抗体層152に供給される。また、電源21を直流電圧としてもよく、この場合、直流電圧をパルス化して変調し得るDC/ACインバータである変換装置Cを備える調整部で交流(交番)電圧化した電力(交番電圧)が発熱抵抗体層152に供給される。
【0051】
図8に、電源21が交流電圧である場合の、変換装置Cの具体的な構成を示す。AC/DCコンバータC1は入力された交流電圧VINを全波整流し極性を一方向にして平滑コンデンサC2に提供する。平滑コンデンサC2は整流された入力電圧を平滑化し直流電圧をDC/ACインバータに供給する。DC/ACインバータC3は直流電圧をパルス化すると共にパルス幅、又は、パルス周波数の変調を行い、変調された交番電圧VOUTを出力する。すなわち、調整部はPFM(パルス周波数変調)又はPWM(パルス幅変調)などによって、発熱抵抗体層152に供給される実効印加電力を制御し得る。
【0052】
加熱手段15の使用において、発熱抵抗体層152に直流電圧を印加して400℃以上の高温に加熱すると、発熱抵抗体層152の抵抗値が大きく変化し、所定の印加電圧に対して理論上得られるはず昇温が実現できないという現象が生じることがある。この発熱抵抗体層152の抵抗値の変化は、高温において絶縁基板151及び保護基板154に用いられる絶縁体が導電性を有するようになり、直流電圧を印加すると発熱抵抗体層から絶縁体へのリーク電流が増加し、絶縁体中における荷電体の移動が多くなり一方方向に偏って集中する結果、発熱抵抗体層152が電蝕変質することに原因があると考えられる。従って、本実施形態の3次元プリンタにおいては、高温時において絶縁体の荷電体が一方方向に移動して集中しないように、発熱抵抗体層152に極性交番電圧を印加している。従って、たとえ400℃以上への発熱を繰り返したとしても、発熱抵抗体層152の電蝕に起因する抵抗値の変化が抑制される。加熱手段15において加熱板150が複数積層されていることにより効率的な加熱が可能で、さらに、ホットエンド10の耐久性が向上された3次元プリンタが提供される。
【0053】
上述した実施形態のホットエンド10、加熱手段15、3次元プリンタ100は、400~500℃、或いはそれ以上の高温に比較的小さい電力で迅速昇温可能で、造形材料としてPEEKやカーボンファイバーなどの混合物を含有するPEEKなどの樹脂類の他、低融点金属類や低融点ガラス類にも使用することができる。しかも、3次元プリンタにおいては交流電圧が印加されることによってホットエンド10の耐久性に優れていることから、400℃以上に加熱融解される造形材料を用いる3次元造形に好適に使用され得る。
【0054】
加熱板150に直流電圧を印加して650℃に加熱した場合には、発熱抵抗体層152の電蝕による抵抗値の増加に起因すると考えられる20℃程度の温度低下が確認されたのに対し、交流電圧を用いる本実施形態の3次元プリンタでは、加熱板150を650℃の高温に繰り返し昇温させても、発熱抵抗体層152の電蝕に起因すると考えられる抵抗値の増大は確認されず、本実施形態の3次元プリンタの有用性が確認されている。
【0055】
なお、実施形態の加熱板150が複数積層された加熱手段15においては、複数の加熱板150のうちの任意の加熱板150を構成する発熱抵抗体層152の抵抗値を他の加熱板150の発熱抵抗体層152の抵抗値と異ならせる構成とし得る。他の加熱板150の発熱抵抗体層152のものよりも低い抵抗値を有する発熱抵抗体層152がより早く所定の温度に到達することで、加熱手段15の熱応答性が向上し得る。また、他の発熱抵抗体層152による加熱との相互作用で、加熱手段15全体として、より安定的に所望の温度に維持することも可能となり得る。
【0056】
加熱手段15を構成する複数の加熱板150のうちの、任意の加熱板15を構成する発熱抵抗体層152のサイズ(厚さ及び幅)などを調整することによって、発熱抵抗体層152がその焼結温度(例えば700℃)近くの高温に過熱された場合に、瞬時に断線される構成とすることも可能である。異常電流などに起因する加熱手段15の過剰な発熱が継続することが予防され得る。この過熱時の発熱抵抗体層152の断線は、直流電圧を印加する場合では瞬時の断線とならず、時間的になだらかな抵抗値上昇を伴って継続するのに対し、交流電圧を印加する場合では瞬時の断線となり得る。この点においても、発熱抵抗体層152に交流電圧を印加することに利点がある。
【符号の説明】
【0057】
1 ヘッド本体
2 通路
10 ホットエンド
11 供給部
111 供給口
12 断熱部
121 開口部
13 融解部
131 開口部
14 吐出部
141 吐出口
15 加熱手段
150 加熱板
150a 第1の加熱板
150b 第2の加熱板
151、151a、151b 絶縁基板
152、152a、152b 発熱抵抗体層
153、153a、153b 電極
154 保護基板
16 温度調整部
21 電源
22 温度測定手段
100 3次元プリンタ
300 電圧印加手段
101 造形ステージ
102 カバー
103 ヘッド部
LW リード
LB 接合剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8