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特開2022-51188ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051188
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220324BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20220324BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20220324BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220324BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220324BHJP
   A23L 7/104 20160101ALI20220324BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P3/00
A61P43/00 105
A61K36/48
A61K36/899
A23L33/17
A23L2/00 F
A23L2/38 D
A23L2/38 J
A23L7/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157528
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】502310416
【氏名又は名称】株式会社ラフィーネインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】冨永 隆生
(72)【発明者】
【氏名】小川 暁郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 厚志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和晃
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
4B117
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018MD49
4B018MD58
4B018MD85
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF13
4B023LC09
4B023LG00
4B023LK10
4B023LK12
4B023LK18
4B023LP16
4B023LP20
4B117LC04
4B117LG11
4B117LG15
4B117LK15
4B117LK23
4B117LP01
4B117LP05
4C088AB61
4C088AB74
4C088AC16
4C088AD15
4C088BA16
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB21
4C088ZC54
(57)【要約】
【課題】ヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導することができるヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞傷害から細胞を保護することができる細胞保護用組成物、臓器障害から臓器を保護することができる臓器保護用組成物、及び熱中症を治療、改善、又は予防することができる熱中症の治療、改善、又は予防用組成物の提供。
【解決手段】少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた大豆米糠発酵物の抽出物を含有するヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた大豆米糠発酵物の抽出物を含有することを特徴とするヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を含有することを特徴とする細胞保護用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を含有することを特徴とする臓器保護用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を含有することを特徴とする熱中症の治療、改善、又は予防用組成物。
【請求項5】
飲食品又は医薬品である請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、並びに前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を含有する細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝不全、腎不全、敗血症に認められる多臓器不全などの急性臓器不全は炎症性の疾患であり高い死亡率を示す。しかし、その治療において決め手となる薬物は未だ開発されていない。これら急性臓器不全の組織障害は酸化ストレスによって発生する活性酸素による細胞傷害が関与している。
【0003】
一方、この侵襲を回避するために、ヘムオキシゲナーゼ-1(Heme Oxygenase-1)(以下、「HO-1」と称することがある)が細胞内に誘導される。ヘムオキシゲナーゼ-1は、ヘムをビリベルジン、一酸化炭素、鉄に分解するが、前者は還元されビリルビンとなる。ビリルビンは抗酸化作用、一酸化炭素は情報伝達や抗炎症作用、鉄はフェリチン誘導作用があり、ヘムオキシゲナーゼ-1によるヘム代謝物は臓器保護作用など多彩な生理作用を有する。
【0004】
四塩化炭素による肝障害モデル、又は虚血再灌流障害による腎障害モデルにおいてヘムオキシゲナーゼ-1活性抑制剤の処理により症状が悪化することが示されている(非特許文献1及び2参照)。また、lipopolysaccharide(LPS)投与による敗血症モデルではヘムオキシゲナーゼ-1が誘導された部位は、誘導されなかった部位に比べて酸化ストレスによる障害が緩和されていることが確認されている(非特許文献3参照)。胃潰瘍形成においてもヘムオキシゲナーゼ-1による抑制作用が示されており、NSAIDs、エタノール、塩酸などによって誘発される胃潰瘍モデルにおいてヘムオキシゲナーゼ-1誘導による有効性が示されている(非特許文献4及び5参照)。
【0005】
更に、ヘムオキシゲナーゼ-1は熱ストレス障害に対する予防作用についても示されており、熱による脳神経ダメージに対する保護としてヘムオキシゲナーゼ-1が重要な役割を担っていることが報告されている(非特許文献6参照)。こうしたことから熱中症予防においてもヘムオキシゲナーゼ-1誘導による緩和効果が期待される。
【0006】
以上のように、ヘムオキシゲナーゼ-1は重要な役割を担っているものであり、このヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導することは、細胞保護、臓器保護、及び熱中症の治療、改善、又は予防に非常に効果的である。しかしながら、これまでにそのような組成物は得られていないのが現状である。
【0007】
したがって、ヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導することができ、細胞保護、臓器保護、及び熱中症の治療、改善、又は予防においてより効果的に作用を発揮することができる組成物の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nakahira Kら、Biochem.Pharmacol.66(6):1091-1105、2003
【非特許文献2】Toda Nら、Crit.Care.Med.30(7):1512-1522、2002
【非特許文献3】Fujii Hら、Crit.Care.Med.31(3):893-902、2003
【非特許文献4】Aliye Ucら、J.Pediatr.Gastroenterol.Nutr.54(4):471-476、2012
【非特許文献5】Mohamed SAら、PloS One 14(6):e0216737、2019
【非特許文献6】Ya-Ting Wら、Int.J.Med.Sci.12(9):737-741、2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような現状に鑑み、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導することができるヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞傷害から細胞を保護することができる細胞保護用組成物、臓器障害から臓器を保護することができる臓器保護用組成物、及び熱中症を治療、改善、又は予防することができる熱中症の治療、改善、又は予防用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた大豆米糠発酵物の抽出物(以下、「OE-1」と称することがある)が、ヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導する活性を有することを見出した。また、前記OE-1が、マクロファージ細胞株からの炎症性サイトカインの産生を抑制し、熱又は酸化ストレスによる細胞障害を改善し、さらにエタノールによる胃潰瘍の形成を抑制することを確認し、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた大豆米糠発酵物の抽出物を含有することを特徴とするヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物である。
<2> 前記<1>に記載のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を含有することを特徴とする細胞保護用組成物である。
<3> 前記<1>に記載のヘムオキシゲナーゼ1誘導用組成物を含有することを特徴とする臓器保護用組成物である。
<4> 前記<1>に記載のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を含有することを特徴とする熱中症の治療、改善、又は予防用組成物である。
<5> 飲食品又は医薬品である前記<1>から<4>のいずれかに記載の組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導することができるヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞傷害から細胞を保護することができる細胞保護用組成物、臓器障害から臓器を保護することができる臓器保護用組成物、及び熱中症を治療、改善、又は予防することができる熱中症の治療、改善、又は予防用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、試験例1において大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)をマクロファージ細胞株(Raw264)に添加して培養したときのHO-1誘導作用を示した図である。
図2図2は、試験例2においてLPS刺激マクロファージ細胞株(Raw264)からのTNF-α産生に対する大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)の抑制作用を示した図である。
図3図3は、試験例3において熱処理した線維芽細胞株(NIH-3T3)の生細胞数の減少に対する大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)の回復作用を示した図である。
図4図4は、試験例4において酸化ストレスを与えた線維芽細胞株(NIH-3T3)の生細胞数の減少に対する大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)の回復作用を示した図である。
図5図5は、試験例5においてエタノール/塩酸を経口投与して胃潰瘍を誘発したマウスにおける大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)の胃粘膜保護作用を示した潰瘍形成率の図である。
図6図6は、試験例5においてエタノール/塩酸を経口投与して胃潰瘍を誘発したマウスにおける大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)の胃粘膜保護作用を示した胃の解剖写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物)
本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた大豆米糠発酵物の抽出物を含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物は、細胞におけるヘムオキシゲナーゼ-1の産生を誘導する活性を有する。
【0015】
<大豆米糠発酵物の抽出物>
前記大豆米糠発酵物の抽出物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた大豆米糠発酵物の抽出物である。
【0016】
<<大豆米糠発酵物>>
前記大豆米糠発酵物は、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させた発酵物である。
前記大豆米糠発酵物は、大豆蛋白質と、米糠と、必要に応じてその他の成分を含む組成物を発酵させた発酵物であってもよいし、大豆蛋白質と、米糠と、必要に応じてその他の成分とを、それぞれ別々に発酵させた発酵物を混合した発酵物であってもよい。また、少なくとも大豆蛋白質及び米糠を発酵させたものを含む限り、発酵していない成分が含まれていてもよい。
【0017】
-大豆蛋白質-
前記大豆蛋白質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分離大豆蛋白質、濃縮大豆蛋白質、脱脂豆乳、脱脂大豆などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記大豆蛋白質としては、適宜調製したものを用いても、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、ニューフジプロSE、ニューフジプロ1700、フジプロE(以上、粉末状大豆蛋白質、不二製油株式会社製)、ニューフジニックP50、アペックス600(以上、粒状大豆蛋白質、不二製油株式会社製)などが挙げられる。
【0018】
前記大豆蛋白質としては、原料として大豆又はその類縁種を用いた大豆摩砕物の固形画分を用いてもよい。前記大豆摩砕物の固形画分は、例えば、豆腐を製造する過程で副生されるオカラであり、原料となる大豆の種類、製造条件などは特に制限されない。前記固形画分としては、その製造過程において濾過されたままのものでも、それを乾燥したものでもよい。
【0019】
前記大豆固形画分の組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾物における含有量が、粗蛋白質20質量%~30質量%、粗脂肪10質量%~15質量%、可溶無窒素物25質量%~35質量%、粗繊維10質量%~20質量%であることが好ましく、前記固形画分における水分含有量が、75質量%~80質量%であることが好ましい。
【0020】
-米糠-
前記米糠としては、米糠、脱脂米糠、米胚芽、及び脱脂米胚芽の少なくともいずれかを含む限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、玄米を白米に精米する過程で除去される米の果皮、種皮、糊粉層、胚芽等を含む通常の米糠をそのまま用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記米糠としては、適宜調製したものを用いても、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、オリザジャーム-DLP、オリザジャーム-DLS、オリザドリム、脱脂コメヌカ(以上、脱脂米糠、オリザ油化株式会社製)、脱脂糠(築野食品工業株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
前記大豆蛋白質と前記米糠との質量比(大豆蛋白質/米糠)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1/5~10/1が好ましく、1/2~5/1がより好ましい。
【0022】
-その他の成分-
前記大豆米糠発酵物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニン、食物繊維、ビタミン類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分は、発酵前に配合してもよいし、発酵後に配合してもよい。
【0023】
前記大豆蛋白質及び前記米糠に対する前記その他の成分の質量比(その他の成分/大豆蛋白質及び米糠)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0024】
-発酵-
前記大豆蛋白質及び前記米糠を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、飲食品用途、菌自体の有する栄養素、発酵香などの観点から、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵させることが好ましい。
なお、前記納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、及び酵母菌としては、安全性が保証されている限り、自然的に、又は人為的な変異手段により生成し、菌学的性質が変異した変異株も用いることができる。
【0025】
前記納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)としては、特に制限はなく、市販されている一般的な納豆菌を用いることができ、例えば、株式会社成瀬醗酵化学研究所から入手することができる。前記納豆菌は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記テンペ菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Rhizopus oligosporusRhizopus oryzaeRhizopus stoloniferなどが挙げられる。これらの中でも、発酵の容易さの観点から、Rhizopus oligosporusが好ましい。なお、これらのテンペ菌は、インドネシアからの輸入品として、或いは日本の種麹業者から容易に入手することができる。前記テンペ菌は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記乳酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・ビフィズス(Lactobacillus bifidus)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルス・サンフランシスコ(Lactobacillus sanfrancisco)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・ラクチス(Streptomyces lactis)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの乳酸菌は、いずれも公知の菌で、容易に入手することができる。
【0028】
前記酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、カンジダ属、クルイベロミセス属などが挙げられる。これらの中でも、飲食品用途の観点から、サッカロミセス属の酵母が好ましく、清酒酵母、ビール酵母が特に好ましい。これらの酵母菌は、例えば、財団法人日本醸造協会から入手することができる。前記酵母菌は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記菌の接種量としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択できるが、発酵の対象物が液体である場合には、通常1×10個/mL~1×10個/mLであり、発酵の対象物が固体である場合には、通常1×10個/g~1×10個/gである。前記接種量が、1×10個/mL又は1×10個/g未満であると、菌による発酵に時間がかかることがあり、1×10個/mL又は1×10個/gを超えると、菌の増殖が抑制されて発酵が進まないことがある。
【0030】
前記発酵の条件、例えば、発酵温度、発酵時間、発酵の形態、pH、通気条件等も適宜決定されうるが、使用する菌の増殖等の特性に適した条件とすることが好ましい。
【0031】
前記発酵温度としては、前記菌による発酵が進む限り特に制限はなく、使用する菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常10℃~55℃であり、20℃~50℃が好ましく、25℃~45℃がより好ましい。
【0032】
前記発酵時間としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常1時間~5日間であり、3時間~3日間が好ましく、6時間~2日間がより好ましい。
【0033】
前記発酵の対象としては、固体でもよく、液体でもよく、また、適宜通気を行ってもよい。前記発酵の対象が液体である場合、振とう又は攪拌しながら発酵を行ってもよいし、静置で発酵を行ってもよいが、前記菌の増殖を促進し、発酵を促進させる点で、振とう又は攪拌を行うことが好ましい。
前記振とうの条件としては、特に制限はなく、よく攪拌されていればよい。
【0034】
前記発酵時のpHとしては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常4.5~8.5であり、5.5~7.5が好ましい。なお、pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
【0035】
前記大豆米糠発酵物は、発酵した後に発酵物をプロテアーゼで処理したプロテアーゼ処理物であることが好ましい。
本明細書においては、前記プロテアーゼによる処理を「プロテアーゼ消化」又は「蛋白質分解」とも呼ぶ。この処理は、前記発酵物に由来する蛋白質又はペプチドの分解を目的としたものである。
【0036】
前記プロテアーゼは、ペプチド結合加水分解酵素の総称であり、蛋白質分解酵素ともいう。
前記プロテアーゼとしては、前記発酵物に含まれる蛋白質又はペプチドを分解することができる限り特に制限はなく、蛋白質分子のペプチド結合を加水分解するプロテイナーゼを用いてもよいし、ペプチド鎖のアミノ末端或いはカルボキシ末端のペプチド結合を加水分解するペプチダーゼを用いてもよい。また、前記プロテアーゼは、至適pHによって、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、及びアルカリ性プロテアーゼに分類されるが、これらの中でも、酵素処理効率が高く、高い機能性を持った生成物が得られる点で、中性プロテアーゼが好ましい。
前記プロテアーゼの具体例としては、金属プロテアーゼ(サーモライシン等)、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、プラスミン、エラスターゼ、ズブチリシン等)、チオールプロテアーゼ(パパイン、フィシン、ブロメライン、カテプシンB等)、アスパラギン酸プロテアーゼ(ペプシン、キモシン、カテプシンD等)、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼなどが挙げられる。
前記プロテアーゼは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記プロテアーゼの中でも、酵素処理効率が高く、高い機能性を持った生成物が得られる点で、セリンプロテアーゼ及びアミノペプチダーゼを含むものが好ましい。
なお、これらのプロテアーゼは、精製されていても、或いは精製されていなくてもよく、また、それらの起源は、微生物由来、植物由来及び動物由来のいずれであってもよい。
【0037】
前記プロテアーゼとしては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、デナチームAP(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、ナガセケムテックス株式会社製)、プロテアーゼN「アマノ」G、プロチンSD-NY10、プロチンSD-PC10F(以上、Bacillus subtilis由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼA「アマノ」G(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼS「アマノ」G(Bacillus stearothermophilus由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、パパインW-40(パパイヤラテックス由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、プロメラインF(Ananas comosus 由来中性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社製)、PTN(豚の膵臓由来中性プロテアーゼ、ノボザイムズジャパン株式会社製)、オリエンターゼ90N、ヌクレイシン、オリエンターゼ10NL(以上、Bacillus subtilis由来中性プロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社製)、オリエンターゼONS(Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社製)などが挙げられる。
【0038】
前記プロテアーゼ処理における処理条件、例えば、前記発酵物に対するプロテアーゼ量、処理温度、処理時間、pHなどは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
前記発酵物の固形分に対する前記プロテアーゼの質量比(プロテアーゼ/発酵物の固形分)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常1/500~1/10であり、1/200~1/20が好ましい。前記質量比が、1/500未満であると、蛋白質分解反応(プロテアーゼ消化)が不十分であり、或いは反応に長時間を要することがあり、1/10を超えると、経済的に好ましくない。
【0040】
前記プロテアーゼ処理の温度としては、使用するプロテアーゼの至適温度を考慮して決定すべきであるが、通常15℃~70℃であり、40℃~65℃が好ましい。
【0041】
前記プロテアーゼ処理の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜決定されるが、反応性及び雑菌混入防止の観点から、通常、10分間~2日間であり、3時間~24時間が好ましい。
【0042】
前記プロテアーゼ処理のpHとしては、使用するプロテアーゼの至適pHを考慮して決定することができるが、通常3~10である。前記中性プロテアーゼを用いる場合のpHとしては、4.5~8.0が好ましく、5~7.5がより好ましい。
pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
【0043】
前記プロテアーゼ処理においては、前記発酵物の他に、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脱脂米糠、米胚芽、茶カテキンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
<<抽出>>
前記抽出に用いる溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、水;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール;アセトン;ヘキサン;これらの混合物(アルコール水溶液等)などが挙げられる。これらの中でも、人体への悪影響がない点で、水、エタノール、又はこれらの混合物が好ましく、効率的に活性物質を抽出できる点で、熱水、エタノール水溶液がより好ましく、熱水が特に好ましい。
前記熱水とは、温度が70℃以上の水のことを指し、水の温度としては、抽出効率の点で、80℃~100℃が好ましく、90℃~100℃がより好ましい。
前記アルコール水溶液の濃度としては、80体積%以上100体積%未満が好ましく、90体積%以上100体積%未満がより好ましい。
【0045】
前記抽出の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、熱水及びエタノールのいずれかを前記大豆米糠発酵物に加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0046】
前記大豆米糠発酵物の抽出物は、抽出後に、必要に応じて濾過処理を行ったものであってもよい。
前記濾過の方法としては、特に制限はなく、公知の濾過装置を用いることができ、例えば、フィルタープレス、ラインフィルターなどを用いることができる。なお、これらは併用してもよい。
【0047】
また、前記大豆米糠発酵物の抽出物は、必要に応じて、濃縮又は希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよい。
前記濃縮、希釈、乾燥処理の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0048】
前記大豆米糠発酵物の抽出物のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物中の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物は、前記大豆米糠発酵物の抽出物のみからなるものであってもよい。
【0049】
<その他の成分>
前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニン、食物繊維、ビタミン類や、飲食品や医薬品として許容可能な賦形剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、矯味矯臭剤、防腐剤、pH調整剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0050】
前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物におけるその他の成分のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物中の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などが挙げられる。
【0052】
本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物は、後述する試験例で示すように、ヘムオキシゲナーゼ-1の発現を誘導することができ、それにより、炎症抑制作用を示す。したがって、本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物は、細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、熱中症の治療、改善、又は予防用組成物などに好適に用いることができる。
【0053】
(細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、熱中症の治療、改善、又は予防用組成物)
本発明の細胞保護用組成物は、本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
前記細胞保護用組成物は、熱及び酸化ストレスの少なくともいずれかによる細胞傷害に対するものであることが好ましい。本明細書において、細胞保護とは、細胞傷害から細胞を保護することをいい、より具体的には、例えば、細胞生存率を改善することをいう。
【0054】
本発明の臓器保護用組成物(「器官保護用組成物」と称することもある)は、本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
前記臓器保護用組成物は、急性炎症による臓器障害に対するものであることが好ましい。本明細書において、臓器保護とは、臓器障害から臓器を保護することをいい、より具体的には、例えば、胃粘膜等の臓器に生じる胃潰瘍等の障害を治療、改善、又は予防することをいう。
【0055】
本発明の熱中症の治療、改善、又は予防用組成物は、本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
本明細書において、熱中症とは、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病、並びに、高温浴による体温上昇に起因する失神(熱失神)、ショック又は意識障害(熱射病)(失神の診断・治療ガイドライン、第37~39頁(2012年改訂版、日本循環器学会)などを含む健康障害の総称を意味する。
【0056】
本明細書において、治療とは、疾患若しくは症状の緩和若しくは好転、疾患若しくは症状の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患若しくは症状の進行の防止、遅延、若しくは逆転をいう。
本明細書において、改善とは、障害がある状態の緩和若しくは好転、障害がある状態の悪化の防止若しくは遅延、又は、障害がある状態の進行の防止、遅延、若しくは逆転をいう。
本明細書において、予防とは、障害の発生の防止若しくは遅延、又は、障害の発生のリスクを低下させることをいう。
【0057】
<ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物>
前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物におけるヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物は、上記した本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物である。
【0058】
前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物におけるヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物は、前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物のみからなるものであってもよい。
【0059】
<その他の成分>
前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記したヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物におけるその他の成分と同様のものが挙げられる。
【0060】
前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物におけるその他の成分の前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物中の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0061】
前記細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などが挙げられる。
【0062】
上記した本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物は、安全性が高いため、飲食品又は医薬品として好適に用いることができる。
【0063】
<飲食品>
前記飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、又は熱中症の治療、改善、又は予防用組成物をそのまま、或いはペレット、粉末、顆粒などの形態として使用してもよく、食品添加物、調味料、ふりかけとして使用してもよい。また、本発明のヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、又は熱中症の治療、改善、又は予防用組成物を食材中に含有せしめて使用してもよい。前記飲食品は、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品、病者用食品などとして用いることもできる。
【0064】
<医薬品>
前記医薬品の投与形態としては、経口投与であってもよいし、非経口投与であってもよい。
前記医薬品の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与用としては、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、トローチ剤、チュアブル剤、ドロップ剤、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤など、非経口投与用としては、静脈内投与のための乳濁形態、経直腸内投与のための坐剤などが挙げられる。
これらの剤形の製剤は、公知の方法により製造することができる。
【0065】
前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物を用いる対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ニワトリ、イヌ、ネコ、ウサギ、リス、ハムスターなどが挙げられる。
【0066】
前記ヘムオキシゲナーゼ-1誘導用組成物、細胞保護用組成物、臓器保護用組成物、及び熱中症の治療、改善、又は予防用組成物の使用量、使用期間、使用時期などとしては、特に制限はなく、対象や対象の状態などに応じて適宜選択することができる。
【実施例0067】
以下、製造例、試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの製造例、試験例に何ら限定されるものではない。
【0068】
(製造例1:大豆米糠発酵物の抽出物の製造)
<工程1:大豆固形画分発酵物の調製>
大豆を水に17時間浸漬し十分に吸水させ、豆挽機(スーパーマスコロイダー、増幸産業株式会社製)を用いて水とともに大豆を摩砕した。
前記摩砕された大豆の懸濁液(以下、「摩砕大豆懸濁液」と称することがある)をよく撹拌しながら20分間、100℃で加熱した。加熱後、絞り器(KM-1000、ミナミ産業株式会社製)を用いて摩砕大豆懸濁液から液相を除去し、固相(大豆固形画分)を回収した。このとき、液相の除去は、自然落下によって行った。得られた大豆固形画分100kgを適度に加温し、十分に攪拌した後に、納豆菌(成瀬醗酵化学研究所から入手)0.6L(菌数1.0×1010個)を均一に添加した。納豆菌接種後の大豆固形画分をステンレス容器若しくはポリエチレン袋に移し、通気性を確保した状態で、40℃の恒温培養器若しくは恒温室内で18時間発酵を行った。得られた大豆固形画分発酵物は、使用時まで冷凍保管した。
【0069】
<工程2:大豆米糠発酵液の調製>
原料として、大豆蛋白質(ニューフジプロSE、不二製油株式会社製)、脱脂米糠及び米胚芽(以上、オリザ油化株式会社製)を用いた。ステンレス製のタンクに水3,000Lを入れ、続いて大豆蛋白質200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kgを投入した。その後、90℃になるまで加温し、昇温後1時間攪拌した。攪拌終了後、42℃まで冷却し、得られた大豆米糠液に、前記工程1で用いたものと同じ納豆菌を1L(菌数1.0×1011個)添加した。納豆菌接種後、42℃で28時間撹拌し、大豆米糠発酵液を得た。
【0070】
<工程3:プロテアーゼ処理物の調製>
前記工程2で得られた大豆米糠発酵液に、前記工程1で得られた大豆固形画分発酵物200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kg、及び茶カテキン260gを投入した。
これを3時間攪拌しながら混合した後、50℃になるまで加温した。昇温後、Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ(デナチームAP、ナガセケムテックス株式会社製)を10kg投入し、50℃で15時間撹拌してプロテアーゼ消化を行った。
その後、90℃で10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させ、プロテアーゼ処理物を得た。
【0071】
<工程4:抽出>
前記工程3で得られたプロテアーゼ処理物を2時間攪拌し、熱水(90℃)抽出を行った。抽出後、遠心分離機(デカンター連続式横型遠心分離機、タナベウィルテック社製;3,000rpm、30分間)を用いて固液分離を行った。液相のみを回収し、クエン酸ナトリウムを用いてpHを3.8に調整した。pH調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、10℃で12時間静置させた。
【0072】
<工程5:濾過>
前記工程4で得られた抽出物をフィルタープレス及び0.5μmラインフィルターを組み合わせて濾過を行い、澄明な溶液を回収した。得られた澄明液を大豆米糠発酵物の抽出物(OE-1)とした。
【0073】
以上のようにして得られた大豆米糠発酵物の抽出物を用いて、以下の試験例1~5を行った。
【0074】
(試験例1:HO-1の誘導作用)
フラスコで継代培養してコンフルエントになったRAW264細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手可能)を回収し、10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地(GIBCO社製)に懸濁して1×10個/mLの細胞濃度に調整した。48穴プレートに調整した細胞懸濁液を450μL/穴で播種し、37℃、5%COインキュベーターで2時間培養した。
培養後、12.5mg/mL、25mg/mL、50mg/mL、又は100mg/mLに調整したOE-1検体50μLを添加して(終濃度:1.25mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、又は10mg/mL)、更に18時間培養した。
培養後、上清を捨てHO-1定量キットに付属されている抽出液200μLを加え細胞を溶解させ抽出液を回収した。回収した細胞抽出液はキットに付属の検体希釈バッファーで2倍に希釈してHO-1定量キット(Mouse Heme Oxygenase ELA Kit;タカラバイオ株式会社製)を用いプロトコルに従いHO-1含量を定量した。結果を図1に示す。
なお、対照として、前記OE-1の代わりに純水を添加した対照も同様に評価した。
【0075】
図1より、1.25~10mg/mLのOE-1を添加して培養した細胞において用量に依存した細胞内でのHO-1誘導作用が示された。純水の対照群に比べ最高用量の10mg/mLのOE-1を添加して培養した場合では約2.6倍のHO-1増加が認められた。
【0076】
(試験例2:LPS刺激マクロファージ細胞株(Raw264)からのTNF-α産生抑制作用)
抗炎症作用について炎症性サイトカインであるTNF-αの産生に対する抑制作用について検討した。
Raw264細胞を24穴のマイクロプレートに5×10個/穴/800μLで播種し、12.5mg/mL、25mg/mL、50mg/mL、又は100mg/mLの濃度に調整したOE-1検体100μLを添加して(最終濃度:1.25mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、又は10mg/mL)、37℃、5%COインキュベーターで18時間培養した。
0.1μg/mLに調整したLPS(Lipopolysaccharide;シグマ社製)100μLを添加して(最終濃度:0.01μg/mL)、更に18時間培養した。
培養後、各穴の培養上清を回収し、含まれるTNF-α量をTNF-α測定キット(レビスTNFα-マウス;株式会社シバヤギ製)を用いて定量した。培養終了時にトリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)染色により細胞のバイアビリティを確認し、細胞毒性が認められない濃度での評価を行った。結果を図2に示す。
なお、対照として、前記OE-1の代わりに純水を添加した対照(LPS刺激+)、及びLPSを添加しなかった対照(LPS刺激-)も同様に評価した。
【0077】
図2より、Raw264細胞をLPSで刺激することによりTNF-αの産生誘導が認められた。一方、OE-1を添加することにより、用量依存的なTNF-α産生抑制が認められた。
【0078】
(試験例3:熱処理による細胞障害に対する保護作用)
フラスコで継代培養してコンフルエントになったNIH-3T3細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手可能)を回収し、10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地に懸濁して1×10個/mLの細胞濃度に調整した。24穴プレートに調整した細胞懸濁液を900μL/穴で播種し、12.5mg/mL、25mg/mL、50mg/mL、又は100mg/mLに調整したOE-1検体100μLを添加して(終濃度:1.25mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、又は10mg/mL)、37℃、5%COインキュベーターで18時間培養した。
培養温度を43℃に上げて2時間の熱処理を行った後、37℃に戻し、更に18時間培養した。
培養終了後,細胞増殖キット(Cell Proliferation Kit I;ロシュ社製)を用いたMTT法により細胞生存率を求めた。結果を図3に示す。
なお、対照として、前記OE-1の代わりに純水を添加した対照も同様に評価した。
【0079】
図3より、熱処理を行った対照群では未処理群と比べ約25%の生細胞数の減少が認められた、一方、OE-1を添加することにより、用量依存的な細胞障害に対する改善効果が認められた。
【0080】
(試験例4:酸化ストレス障害に対する細胞保護作用)
NIH-3T3細胞を96穴のマイクロプレートに1×10個/穴/80μLで播種し、12.5mg/mL、25mg/mL、50mg/mL、又は100mg/mLの濃度に調整したOE-1検体10μLを添加して(最終濃度:1.25mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、又は10mg/mL)、37℃、5%COインキュベーターで18時間培養した。
酸化ストレス誘導剤として20mM 2,2’-Azobis-2-amidinopropane、Dihydrochloride(AAPH、フナコシ社製)を10μL添加して更に3時間培養した後、細胞の生存率をMTT法により求めた。結果を図4に示す。
なお、対照として、前記OE-1の代わりに純水を添加した対照も同様に評価した。
【0081】
図4より、ラジカル発生剤であるAAPHによる酸化ストレス負荷により細胞生存率の低下が認められた。一方、OE-1を添加することにより用量依存的な細胞生存率の改善が認められ、活性酸素による細胞障害から細胞を保護する作用が示された。
【0082】
(試験例5:胃粘膜傷害に対する保護作用)
1群8匹の6週齢Wistar系雄性ラット(日本エスエルシー株式会社から入手可能)を一晩絶食させた後、塩酸-エタノールの混合溶液(35%塩酸:95%エタノール=1:50)を1mL/匹の割合で経口投与した。経口投与1時間後にエーテル麻酔をかけてラットを致死させ、直ちに胃を摘出し、摘出した胃内に3%ホルマリン溶液10mLを注入して10分間固定した。固定後胃の大彎側に沿って切断し、胃体部に生じた損傷の長さ(mm)を測定し、その総和を潰瘍係数とした。潰瘍抑制率は測定した潰瘍係数を基に次式により算出した。
潰瘍抑制率(%)={(対照群の潰瘍係数-被検サンプル投与群の潰瘍係数)/対照群の潰瘍係数}×100
【0083】
被検サンプル(OE-1)は、塩酸-エタノールの混合溶液の投与30分前に300mg/kg又は1,000mg/kgの投与量で経口投与した。対照群は、精製水を塩酸-エタノールの混合溶液の投与30分前に経口投与した。投与容量はいずれも10mL/kgとした。
結果を図5及び図6に示す。なお、得られた値は平均値±標準誤差で表記し、対照群とOE-1投与群間における統計学的な差の検定は、Dunnettの多重比較検定法を用いて行った。検定での有意水準は5%未満とした。
【0084】
図5及び図6より、塩酸-エタノールの混合溶液を絶食ラットに経口投与すると、対照群は顕著な出血性胃粘膜障害を示し、潰瘍係数は平均112.0mmであった。一方、OE-1を投与したラットでは胃粘膜障害の発生を著明に抑制し、高用量投与群では障害の形成が全く認められないラットも確認された。
【0085】
上記試験例の結果から、本発明に用いられる大豆米糠発酵物の抽出物は、HO-1を誘導することができ、急性炎症による臓器障害、並びに熱中症を効果的、かつ安全に治療、改善、又は予防することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の有効成分である大豆米糠発酵物の抽出物は、HO-1を誘導することにより、炎症抑制作用を示すことから、急性炎症による臓器障害の治療、改善、又は予防において有用であり、急性の肝炎、腎炎、敗血症、及び熱中症の予防、改善又は治療のための飲食品、医薬品などの有効成分として好適に用いることができる。また、大豆米糠発酵物の抽出物は天然物由来であることから、副作用がなく、安全性に優れている。

図1
図2
図3
図4
図5
図6