(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051216
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】安全運行支援方法、安全運行支援システム及び安全運行支援サーバ
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
G08G1/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157573
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000153546
【氏名又は名称】株式会社日立物流
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】特許業務法人藤央特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三幣 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 毅
(72)【発明者】
【氏名】栗山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公則
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB13
5H181CC04
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL20
5H181MB12
(57)【要約】
【課題】生体データを用いてドライバ毎の個人差を踏まえた広義の危険事象を検知して発報の有無を判定する。
【解決手段】
プロセッサとメモリを有する計算機が、車両の運行を支援する方法であって、前記計算機が、過去に収集した車両の走行状態を示す第1の車載センサデータと、予め設定された危険発生データを入力して、危険事象が発生する確率を事故リスクとして推定する事故リスク定義モデルを生成し、第2の車載センサデータを事故リスク定義モデルへ入力して、危険事象が発生する確率を事故リスク推定データとして生成し、第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体データと、事故リスク推定データを入力して、所定時間後の事故リスクを予測する事故リスク予測モデルを生成し、第3の生体データを入力して、当人深刻度を算出する生体状態推定モデルを生成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサとメモリを有する計算機が、車両の運行を支援する安全運行支援方法であって、
前記計算機が、過去に収集した車両の走行状態を示す第1の車載センサデータと、予め設定された危険発生データと、を入力として、危険事象が発生する確率を事故リスクとして推定する事故リスク定義モデルを生成する第1のステップと、
前記計算機が、過去に収集した車両の走行状態を示す第2の車載センサデータを前記事故リスク定義モデルへ入力して、危険事象が発生する確率を推定して事故リスク推定データを生成する第2のステップと、
前記計算機が、前記第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体センサデータから予め算出した第1の生体データと、前記事故リスク推定データと、を入力として、所定時間後の事故リスクを予測する、事故リスク予測モデルを生成する第3のステップと、
前記計算機が、予め算出した第3の生体データを入力して、当人深刻度を算出する生体状態推定モデルを生成する第4のステップと、
前記計算機が、前記車両の生体センサから運転中のドライバの第2の生体センサデータを取得して、前記第2の生体センサデータから前記ドライバの状態を示す第2の生体データを算出する第5のステップと、
前記計算機が、前記第2の生体データを前記事故リスク予測モデルに入力して前記事故リスクを予測し、前記第2の生体データを前記生体状態推定モデルに入力して前記当人深刻度を算出する第6のステップと、
前記計算機が、前記予測された前記事故リスク及び算出された前記当人深刻度に基づき警告の発報の有無を判定する第7のステップと、
を含むことを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の安全運行支援方法であって、
前記計算機が、前記警告を発報すると判定された場合に、前記事故リスク予測モデルと、前記事故リスクと、前記事故リスクの予測に寄与した生体データ種別である寄与指標を抽出する第8のステップと、
前記計算機が、前記寄与指標に関する当人深刻度に基づき危険事象を回避するための対策案を生成する第9のステップと、
をさらに含むことを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項3】
請求項2に記載の安全運行支援方法であって、
前記計算機が、前記対策案を含む警告を生成して出力する第10のステップを、さらに含むことを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項4】
請求項1に記載の安全運行支援方法であって、
前記第4のステップでは、
前記第1の生体データと、少なくとも前記第1の生体データのうち前記生体状態推定モデルの生成に用いるための対象期間を含む学習情報データとを入力として、前記当人深刻度を算出する前記生体状態推定モデルを生成することを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項5】
請求項2に記載の安全運行支援方法であって、
前記第6のステップでは、
前記事故リスクと前記寄与指標と前記寄与指標に関する前記当人深刻度とを関連付けて記憶した結合テーブルを生成することを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項6】
請求項3に記載の安全運行支援方法であって、
前記第10のステップでは、
前記当人深刻度に基づく情報と、前記対策案を含む警告を表示することを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項7】
請求項1に記載の安全運行支援方法であって、
前記計算機が、前記第1の生体データを前記生体状態推定モデルに入力して第1の当人深刻度を算出する第12のステップを、さらに含み、
前記第3のステップでは、
前記第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体センサデータから予め算出した第1の生体データと、前記事故リスク推定データと、前記第1の当人深刻度と、を入力として、所定時間後の事故リスクを予測する事故リスク予測モデルを生成し、
前記第6のステップでは、
前記第2の生体データを前記生体状態推定モデルに入力して第2の当人深刻度を算出し、前記第2の生体データと第2の当人深刻度とを前記事故リスク予測モデルに入力して前記事故リスクを予測することを特徴とする安全運行支援方法。
【請求項8】
プロセッサとメモリを有するサーバと、
走行状態を検出する車載センサと、ドライバの生体データを検出する生体センサを有する車両と、を含んで前記車両の運行を支援する運行支援システムであって、
前記サーバは、
過去に収集した車両の走行状態を示す第1の車載センサデータと、予め設定された危険発生データと、を入力として、危険事象が発生する確率を事故リスクとして推定する事故リスク定義モデルを生成する事故リスク定義生成部と、
過去に収集した車両の走行状態を示す第2の車載センサデータを前記事故リスク定義モデルへ入力して、危険事象が発生する確率を推定して事故リスク推定データを生成する事故リスク推定部と、
前記第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体センサデータから予め算出した第1の生体データと、前記事故リスク推定データと、を入力として、所定時間後の事故リスクを予測する事故リスク予測モデルを生成する、事故リスク予測モデル生成部と、
予め算出した第3の生体データを入力して、当人深刻度を算出する生体状態推定モデルを生成する生体状態推定部と、
前記車両の生体センサから運転中のドライバの第2の生体センサデータを取得して、前記第2の生体センサデータから前記ドライバの状態を示す第2の生体データを算出する生体データ算出部と、
前記第2の生体データを前記事故リスク予測モデルに入力して前記事故リスクを予測し、また前記生体状態推定モデルに入力して前記当人深刻度を算出する危険予測部と、
予測された前記事故リスク及び算出された前記当人深刻度に基づき警告の発報の有無を判定する警告呈示部と、
を有することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項9】
請求項8に記載の安全運行支援システムであって、
前記警告呈示部は、
前記警告を発報すると判定された場合に、前記事故リスク予測モデルと、前記事故リスクと、前記事故リスクの予測に寄与した生体データ種別である寄与指標と、前記寄与指標に関する当人深刻度に基づき危険事象を回避するための対策案を生成することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項10】
請求項9に記載の安全運行支援システムであって、
前記警告呈示部は、
前記対策案を含む警告を生成して出力することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項11】
請求項8に記載の安全運行支援システムであって、
前記生体状態推定部は、
前記第1の生体データと、少なくとも前記第1の生体データのうち前記生体状態推定モデルの生成に用いるための対象期間を含む学習情報データとを入力として、前記当人深刻度を算出する前記生体状態推定モデルを生成することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項12】
請求項9に記載の安全運行支援システムであって、
前記危険予測部は、
前記事故リスクと前記寄与指標と前記寄与指標に関する前記当人深刻度とを関連付けて記憶した結合テーブルを生成することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項13】
請求項8に記載の安全運行支援システムであって、
前記危険予測部は、
前記当人深刻度に基づく情報と、危険事象を回避するための対策案を含む警告を表示することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項14】
請求項8に記載の安全運行支援システムであって、
前記危険予測部は、前記第1の生体データを前記生体状態推定モデルに入力して第1の当人深刻度を算出し、
前記事故リスク予測モデル生成部は、
前記第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体センサデータから予め算出した第1の生体データと、前記事故リスク推定データと、前記第1の当人深刻度と、を入力として、所定時間後の事故リスクを予測する事故リスク予測モデルを生成し、
前記危険予測部は、
前記第2の生体データを前記生体状態推定モデルに入力して第2の当人深刻度を算出し、前記第2の生体データと第2の当人深刻度とを前記事故リスク予測モデルに入力して前記事故リスクを予測することを特徴とする安全運行支援システム。
【請求項15】
プロセッサとメモリを有して、車両の運行を支援する運行支援サーバであって、
過去に収集した車両の走行状態を示す第1の車載センサデータと、予め設定された危険発生データと、を入力として、危険事象が発生する確率を事故リスクとして推定する事故リスク定義モデルを生成する事故リスク定義生成部と、
過去に収集した車両の走行状態を示す第2の車載センサデータを前記事故リスク定義モデルへ入力して、危険事象が発生する確率を推定して事故リスク推定データを生成する事故リスク推定部と、
前記第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体センサデータから予め算出した第1の生体データと、前記事故リスク推定データと、を入力として、所定時間後の事故リスクを予測する事故リスク予測モデルを生成する事故リスク予測モデル生成部と、
予め算出した第3の生体データを入力して、当人深刻度を算出する生体状態推定モデルを生成する生体状態推定部と、
前記車両の生体センサから運転中のドライバの第2の生体センサデータを取得して、前記第2の生体センサデータから前記ドライバの状態を示す第2の生体データを算出する生体データ算出部と、
前記第2の生体データを前記事故リスク予測モデルに入力して前記事故リスクを予測し、また前記生体状態推定モデルに入力して前記当人深刻度を算出する危険予測部と、
予測された前記事故リスク及び算出された前記当人深刻度に基づき警告の発報の有無を判定する警告呈示部と、
を有することを特徴とする安全運行支援サーバ。
【請求項16】
請求項15に記載の安全運行支援サーバであって、
前記警告呈示部は、
前記警告を発報すると判定された場合に、前記事故リスク予測モデルと、前記事故リスクと、前記事故リスクの予測に寄与した生体データ種別である寄与指標と、前記寄与指標に関する当人深刻度に基づき危険事象を回避するための対策案を生成することを特徴とする安全運行支援サーバ。
【請求項17】
請求項16に記載の安全運行支援サーバであって、
前記警告呈示部は、
前記対策案を含む警告を生成して出力することを特徴とする安全運行支援サーバ。
【請求項18】
請求項15に記載の安全運行支援サーバであって、
前記生体状態推定部は、
前記第1の生体データと、少なくとも前記第1の生体データのうち前記生体状態推定モデルの生成に用いるための対象期間を含む学習情報データとを入力として、前記当人深刻度を算出する前記生体状態推定モデルを生成することを特徴とする安全運行支援サーバ。
【請求項19】
請求項16に記載の安全運行支援サーバであって、
前記危険予測部は、
前記事故リスクと前記寄与指標と前記寄与指標に関する前記当人深刻度とを関連付けて記憶した結合テーブルを生成することを特徴とする安全運行支援サーバ。
【請求項20】
請求項15に記載の安全運行支援サーバであって、
前記危険予測部は、
前記当人深刻度に基づく情報と、危険事象を回避するための対策案を含む警告を表示することを特徴とする安全運行支援サーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通事故のリスクを予測して交通機関の安全な運行を支援する安全運行支援方法及び安全運行支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物流トラックや長距離バス等においてドライバの健康状態や疲労に起因する交通事故の発生が社会的問題となっている。交通事故を未然に防ぐため、運転中のドライバの状態を生体センサによりモニタリングする技術や、運転中の車両の挙動をモニタリングする技術の適用が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1では、「ドライバの運転操作と外部環境との関連性を随時学習し、ドライバの普段の内部状態からの逸脱を認識して安全な運転を支援することのできる安全運転支援システム」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、移動体の外部環境をセンシングして認識した外部環境に含まれる走行環境リスクと、ドライバの運転操作から内部状態として推定したドライバのリスク認識状態とを比較することで、ドライバの普段の内部状態からの逸脱を認識する手段を提供している。
【0006】
しかし、ドライバの運転操作と外部環境との関連性について状態推定を行ってドライバの普段の内部状態からの逸脱(狭義の危険状態)を認識するだけでは、運転操作に顕在化していないが注意が必要な状態(広義の危険状態)を検知することができない。このため、広義の危険状態を事前に回避する対策を取らせることが困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、広義の危険状態を検知して事前に回避するために、生体データを用いてドライバ毎の個人差を踏まえた広義の危険状態を検知し、その結果に基づいて発報の有無を判定することを目的とする。
【解決手段】
【0008】
本発明は、プロセッサとメモリを有する計算機が、車両の運行を支援する安全運行支援方法であって、前記計算機が、過去に収集した車両の走行状態を示す第1の車載センサデータと、予め設定された危険発生データと、を入力として、危険事象が発生する確率を事故リスクとして推定する事故リスク定義モデルを生成する第1のステップと、前記計算機が、過去に収集した車両の走行状態を示す第2の車載センサデータを前記事故リスク定義モデルへ入力して、危険事象が発生する確率を推定して事故リスク推定データを生成する第2のステップと、前記計算機が、前記第2の車載センサデータを収集したときのドライバの第1の生体センサデータから予め算出した第1の生体データと、前記事故リスク推定データと、を入力として、所定時間後の事故リスクを予測する事故リスク予測モデルを生成する第3のステップと、前記計算機が、予め算出した第3の生体データを入力して、当人深刻度を算出する生体状態推定モデルを生成する第4のステップと、前記計算機が、前記車両の生体センサから運転中のドライバの第2の生体センサデータを取得して、前記第2の生体センサデータから前記ドライバの状態を示す第2の生体データを算出する第5のステップと、前記計算機が、前記第2の生体データを前記事故リスク予測モデルに入力して前記事故リスクを予測し、前記第2の生体データを前記生体状態推定モデルに入力して前記当人深刻度を算出する第6のステップと、前記計算機が、前記予測された前記事故リスク及び算出された前記当人深刻度に基づき警告の発報の有無を判定する第7のステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本発明の一形態によれば、前記事故リスク予測モデルと前記生体状態推定モデルと前記生体データに基づいて広義の危険状態(危険事象)を検知することができるようになる。その結果、広義の危険状態に基づいて発報の要否を判断することができ、さらには、広義の危険状態を回避するための対策案を呈示することができる。
【0010】
本明細書において開示される主題の、少なくとも一つの実施の詳細は、添付されている図面と以下の記述の中で述べられる。開示される主題のその他の特徴、態様、効果は、以下の開示、図面、請求項により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1を示し、安全運行支援システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例1を示し、安全運行支援システムで行われる処理の概要を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1を示し、安全運行支援サーバで行われる事故リスク予測モデルの生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例1を示し、安全運行支援サーバで行われる生体状態推定モデルの生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施例1を示し、安全運行支援サーバで行われる生体データの算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例1を示し、安全運行支援サーバで行われる心拍データを用いた生体データの計算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施例1を示し、安全運行支援サーバで行われる危険予測処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施例1を示し、安全運行支援サーバで行われる警告呈示処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9A】本発明の実施例1を示し、警告呈示画面の一例を示す図である。
【
図9B】本発明の実施例1を示し、警告呈示画面の他の例を示す図である。
【
図10A】本発明の実施例1を示し、生体データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10B】本発明の実施例1を示し、業務・環境データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10C】本発明の実施例1を示し、属性情報データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10D】本発明の実施例1を示し、学習情報データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10E】本発明の実施例1を示し、危険発生データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10F】本発明の実施例1を示し、事故リスク予測データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10G】本発明の実施例1を示し、当人深刻度データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10H】本発明の実施例1を示し、結合テーブルのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10I】本発明の実施例1を示し、アラート定義データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図10J】本発明の実施例1を示し、対策案データのデータ構造の一例を示す図である。
【
図11】本発明の実施例2を示し、安全運行支援システムで行われる処理の概要を示す図である。
【
図12】本発明の実施例3を示し、安全運行支援システムで行われる処理の概要を示す図である。
【
図13】本発明の実施例3を示し、ドライバ管理者へ提供される警告先一覧画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例0013】
まず、本発明の実施例1を説明する。
【0014】
<システム構成>
図1は、本発明の実施例1を示し、安全運行支援システムの主要な構成の一例を示すブロック図である。本実施例の安全運行支援システムは、ネットワーク14を介して1以上の車両7の運行を支援する安全運行支援サーバ1を含む。
【0015】
車両7は、走行状態を検出する車載センサ8と、ドライバの生体データ64を検出する生体センサ12と、ドライバを特定するドライバID読取装置11と、検出された車載及び生体のセンサデータとドライバIDを収集して安全運行支援サーバ1へ送信する運転データ収集装置10と、安全運行支援サーバ1からドライバの交通事故のリスク(以下、事故リスク)に応じた警告を受け付けて、ドライバへ呈示する予測結果報知装置9と、生体データ64の計測状況の入力を受け付ける業務状態入力装置13を含む。
【0016】
なお、図示の例では、運転データ収集装置10と予測結果報知装置9と業務状態入力装置13とドライバID読取装置11を独立した装置とした例を示すが、一つの携帯端末で構成することができる。この場合、携帯端末は、運転データ収集部と予測結果報知部と業務状態入力部とドライバID読取部として機能する。
【0017】
車載センサ8としては、車両の位置情報を検出するGNSS(Global Navigation Satellite System)81と、車両の挙動や速度を検出する加速度センサ82と、走行環境を映像として検出するカメラ83を含むことができる。
【0018】
車載センサ8は、上記に限定されるものではなく、車両の周囲の物体及び/又は距離を検出する測距センサや、運転操作を検出する操舵角センサ、車両の旋回操作を検出する角速度センサ等を用いることができる。また、加速度センサ82は、3軸加速度センサが望ましい。
【0019】
生体センサ12は、心拍データを検出する心拍センサ121と、ドライバの動きを検出する加速度センサ122を含む。心拍センサ121は、心電や脈波あるいは心音などに基づき心拍を検出するセンサを用いることができる。
【0020】
生体センサ12は、上記に限定されるものではなく、発汗量や、体温、まばたき、眼球運動、筋電あるいは脳波等を検出するセンサを採用することができる。生体センサ12としては、ドライバが装着可能なウェアラブルデバイスの他、ハンドル、シート、シートベルト等、車両内部に付属したセンシングデバイスや、ドライバの表情や挙動を撮像して画像を解析する画像認識システム等を用いることができる。
【0021】
ドライバID読取装置11は、ドライバの識別子を記録したカードを読み込む。運転データ収集装置10は、所定の周期で車載センサ8と生体センサ12からデータを収集し、ネットワーク14を介して安全運行支援サーバ1へ送信する。
【0022】
なお、図示の例では、ドライバID読取装置11を、ドライバの識別子を記録したカードを読み込む装置として構成した例を示したが、異なる構成としてもよい。例えば、ドライバID読取装置11を一つの携帯端末で構成し、携帯端末をドライバID読取部として機能させた場合、ドライバの識別子をドライバ自身に入力させることでドライバIDを読み取ったり、携帯端末が有するカメラを用いた公知の顔認証技術によってドライバを同定させることでドライバIDを読み取ったりしてもよい。
【0023】
業務状態入力装置13は、運転や休憩や仮眠等、ドライバの業務の状態を受け付けて安全運行支援サーバ1へ送信する。
【0024】
安全運行支援サーバ1は、プロセッサ2と、メモリ3と、ストレージ装置4と、入出力装置5と、通信装置6を含む計算機である。メモリ3は、生体データ算出部31と、事故リスク定義生成部32と、事故リスク推定部33と、生体状態推定モデル生成部34と、事故リスク予測モデル生成部35と、モデル選択部36と、危険予測部37と、警告呈示部38と、データ収集部39の各機能部をプログラムとしてロードする。各プログラムはプロセッサ2によって実行される。なお、各機能部の詳細については後述する。
【0025】
プロセッサ2は、各機能部のプログラムに従って処理を実行することによって、所定の機能を提供する機能部として稼働する。例えば、プロセッサ2は、生体データ算出プログラムを実行することで生体データ算出部31として機能する。他のプログラムについても同様である。さらに、プロセッサ2は、各プログラムが実行する複数の処理のそれぞれの機能を提供する機能部としても稼働する。計算機及び計算機システムは、これらの機能部を含む装置及びシステムである。
【0026】
ストレージ装置4は、上記各機能部が使用するデータを格納する。ストレージ装置4は、車載センサデータ61と、生体センサデータ63と、業務・環境データ74と、事故リスク予測モデル71と、事故リスク予測データ66と、危険発生データ62と、生体データ64と、事故リスク定義モデル70と、アラート定義データ72と、事故リスク推定データ65と、対策案データ73と、生体状態推定モデル69と、当人深刻度データ67と、結合テーブル68と、属性情報データ75と、学習情報データ76とを格納する。
【0027】
なお、車載センサデータ61は、後述するように、事故リスク定義モデル70を生成する際に使用する車載センサデータ61-1(第1の車載センサデータ)と、事故リスク予測モデル71を生成する際に使用する車載センサデータ61-2(第2の車載センサデータ)とが含まれる。以下の説明では、車載センサデータを区別しない場合には「-」以降を省略した符号「61」を使用する。
【0028】
また、生体データ64は、後述するように、事故リスク予測モデル71を生成する際に使用する生体データ64-1(第1の生体データ)と、事故リスク予測モデル71へ入力して事故リスク予測データ66を生成する際に使用する生体データ64-2(第2の生体データ)と、生体状態推定モデル69を生成する際に使用する生体データ64-3(第3の生体データ)と、が含まれる。以下の説明では、生体データを区別しない場合には「-」以降を省略した符号「64」を使用する。各データの詳細については後述する。
【0029】
入出力装置5は、マウス、キーボード、タッチパネル又はマイク等の入力装置と、ディスプレイやスピーカ等の出力装置を含む。通信装置6は、ネットワーク14を介して車両と通信を行う。
【0030】
<処理概要>
図2は、安全運行支援システムで行われる処理の概要を示す図である。図示の例では、車両7の運行開始以前に実施しておく学習フェーズと、車両7の運行中に実施する運用フェーズで構成した例を示す。
【0031】
はじめに、安全運行支援システムは、安全運行支援サーバ1において、車両7を運転中のドライバの危険状態を予測するために必要な、事故リスク予測モデル71と生体状態推定モデル69とを生成する。
【0032】
まず、事故リスク定義生成部32が、予め設定された危険発生データ62と、過去に収集した車載センサデータ61-1を入力して、危険が発生する確率を事故リスクとして推定する事故リスク定義モデル70を生成する(S1)。なお、車載センサデータ61-1の時系列と、危険発生データ62の時系列は同一の時系列である。
【0033】
なお、事故リスク定義モデル70は、過去の車両の走行状態を示す車載センサデータ61-2(後述)を入力として、危険事象が発生する確率である事故リスクを推定する。なお、以下では事故リスクの値を百分率で示す。
【0034】
危険発生データ62は、過去に収集した車載センサデータをもとに、危険と判定された事象を抽出して取得したデータであり、具体的には、急ブレーキや急旋回などのインシデントやインシデントに結びつく事象を、ドライバや管理者が判定したり、市販の車載警報機又はAIなどによって判定させたりして、その事象の種別と発生日時とから、予め設定されたデータである。さらに、危険発生データ62は、インシデントごとに重要度が設定されてもよい。
【0035】
なお、本実施例ではインシデントとは交通事故につながる事象と定義する。また、インシデントに結びつく事象とは、ドライバがヒヤリ又はハッとするような状態を示す。さらに、重要度は大きくなるにつれて危険性が増大する例を示す。以下では、インシデント又はインシデントに結びつく事象を危険事象と定義する。
【0036】
また、前記課題で述べた狭義の危険状態は、上記インシデントを含み、広義の危険状態は、上記インシデントに結びつく事象を含むことができる。
【0037】
事故リスク定義モデル70は、機械学習モデルであり、車載センサデータ61-2を入力することにより、危険事象が発生する事故リスクを推定する。機械学習モデルには、サポートベクターマシンやニューラルネットワーク、ロジスティック回帰など周知又は公知の手法を用いることができる。また事故リスク定義モデル70は、危険事象の種別毎に複数生成しておいてもよい。
【0038】
次に、事故リスク推定部33は、過去に収集した車載センサデータ61-2を事故リスク定義モデル70に入力して、危険事象が発生する事故リスクを時系列に推定した事故リスク推定データ65を生成する(S2)。
【0039】
事故リスク推定データ65は、車載センサデータ61-2に対して危険事象が発生する確率を、車載センサデータ61-2と同一の時系列として生成されたデータである。
【0040】
その後、事故リスク予測モデル生成部35は、事故リスク推定データ65と、過去の生体データ64-1と、を入力し、走行中の車両7のドライバの生体データ64-2(後述)から、所定時間後の事故リスクを予測して出力し、事故リスク予測モデル71を生成する(S4)。なお、過去の生体データ64-1とは、過去に収集した車載センサデータ61-2に対応する過去の生体センサデータ63から、生体データ算出部31が算出したものである。
【0041】
過去に収集された生体センサデータ63から算出された生体データ64-1は、本実施例では、例えばドライバの心拍データから算出された平均心拍数、心拍データ系列の非線形解析で算出される最大リアプノフ指数、心拍データから抽出された心拍間隔データの周波数領域解析、又は自律神経機能指標(LF/HFなど)などを用いて、算出することができる。なお、自律神経機能指標(LF/HFなど)は、時間領域解析や非線形解析等の手法により算出することができる。
【0042】
なお、生体データ64-1は、車載センサデータ61-2の時系列に対応する過去の生体センサデータ63から生体データ算出部31が算出した生体指標である。
【0043】
事故リスク予測モデル71は、周知又は公知の機械学習モデルで構成され、走行中のドライバの生体データ64-2を入力として所定時間後の事故リスクを出力する。走行中のドライバの生体データ64-2は、ドライバの生体センサデータ63から生体データ算出部31で算出した生体指標であり、安全運行支援サーバ1が走行中の車両7から受信したものである。
【0044】
なお、事故リスク予測モデル71としては、事故リスクの種別や使用する生体データの種別、予測を適用する車両の走行環境や所定時間に応じて、複数のモデル予めを生成しておくのがよい。複数のモデルを生成しておくことで、危険予測処理において適するものを選択し、使い分けが可能になる。
【0045】
また、ドライバの業務特性(一般道走行、高速走行、昼夜連続で業務従事など)や運転経験(運転年数、運転技能、所持免許種別)や健康特性(性別、睡眠時間の多寡など)を格納した属性情報データ75に応じてモデルを複数生成しておいてもよい。
【0046】
次に、生体状態推定モデル生成部34は、過去に計測した生体データ64-3を入力として、入力(現在の生体データ64-2)が過去に計測した生体データ64-3に対してどの程度乖離しているかを示す当人深刻度を推定して出力する生体状態推定モデル69を生成する(S3)。なお、現在の生体データ64-2が過去に計測した生体データ64-3に対する乖離の度合いは、異常度として表してもよい。
【0047】
生体状態推定モデル69は、周知又は公知の統計的モデルや機械学習モデルで構成される。生体状態推定モデル69は、典型的には、生体データ64-3の種別毎に複数生成されており、ある種別の生体データ64-3を入力として、モデル生成に用いた生体データ64-3を基準とした異常度(当人深刻度)を示す統計量を出力する教師なしモデルである。
【0048】
統計的モデルとしては例えば、モデル生成に用いた生体データ64-3の平均値と標準偏差を用いて入力を正規化したz-scoreを出力する統計的モデルや、モデル生成に用いた生体データ64-3の最大値と最小値を用いて0から1の範囲に出力を正規化する統計的モデルや、モデル生成に用いた生体データ64-3の統計量を基準として、その値からの変化率を出力する統計的モデルや、生体状態推定モデル69の生成に用いた生体データ64-3から推定したデータ分布上における分位点を出力する統計的モデルなどを利用することができる。
【0049】
また、機械学習モデルとしては例えば、生体状態推定モデル69の生成に用いた生体データ64-3からノンパラメトリックにデータ分布を推定しておき、その分布のクラスター中心からの距離を出力する異常検知モデルを利用することができる。
【0050】
また、教師なしの生体状態推定モデル69に加えて、教師ありの生体状態推定モデル69を採用することもできる。この場合、周知又は公知の手法で推定したドライバの眠気やドライバの覚醒状態の指標となるまばたきの回数(瞬目数)、ドライバが主観的な疲労度をVisual Analogue Scale(VAS)で回答した主観疲労度などを収集した学習情報データ76を目的変数として推定する周知又は公知の統計的モデルや機械学習モデルを用いて生体状態推定モデル69を構成することができる。この場合、例えば、統計的モデルとしては回帰モデルなどを採用し、機械学習モデルとしてはサポートベクターマシンやニューラルネットワークなどを採用することができる。
【0051】
なお、生体状態推定モデル69の入力とする生体データ64-3は、典型的には単変量であるが、多変量としてもよい。入力を多変量とする場合には、後述する警告呈示処理における危険状態回避のための対策案生成に活用しやすい生体データ種別の組み合わせを入力とすることが望ましい。この場合、生体状態推定モデル69は、重回帰モデルやマハラノビスタグチ法、多変量統計的プロセス管理などの公知の手法により構成することができる。
【0052】
また、生体状態推定モデル69はドライバ毎に生成してもよいし、複数のドライバ群をまとめて一つの生体状態推定モデル69を生成しておいてもよい。複数のドライバ群をまとめる場合には、生体は個人差が大きいことから、類似の生体応答を示すドライバ群について生体状態推定モデル69を生成することが望ましい。
【0053】
類似の生体応答を示す複数のドライバ群から生体状態推定モデル69を生成しておくことで、生体応答の個人差を吸収し、かつ生体状態推定モデル69を生成するのに要するデータを計測する時間を短縮することができる。
【0054】
さらに、所要データ量が計測された後には、類似の生体応答を示す複数のドライバ群から生成した生体状態推定モデル69から、対象のドライバのみから生成した生体状態推定モデル69へと切り替えて使用することが望ましい。これにより、個人の生体応答をより考慮した当人深刻度を出力することが可能となる。
【0055】
続いて、安全運行支援システムは、安全運行支援サーバ1を用いて、生成された事故リスク予測モデル71と生体状態推定モデル69とを用いて、実際に車両7を運転中のドライバの危険事象の発生確率を予測する。
【0056】
まず、危険予測部37は、データ収集部39が車両7から受信した生体センサ12で計測された心拍データなどの生体センサデータ63を生体データ算出部31へ入力し、生体データ64-2を算出させる(S5)。
【0057】
また、危険予測部37は事故リスク予測モデル71や生体状態推定モデル69が複数存在する場合、モデル選択部36で業務・環境データ74や属性情報データ75に応じた事故リスク予測モデル71や生体状態推定モデル69を選択する。
【0058】
その後、危険予測部37は事故リスク予測モデル71に対して生体データ64-2を入力して事故リスク予測データ66を予測(生成)する(S6A)。また、危険予測部37は生体状態推定モデル69に生体データ64-2を入力して、生体データ種別毎に当人深刻度データ67を算出する(S6B)。
【0059】
そして、危険予測部37は事故リスク予測データ66の予測に寄与していた生体データ64-2の種別(寄与指標)を抽出し、事故リスク予測データ66と、事故リスク予測データ66の算出に用いた事故リスク予測モデル71と、寄与指標と、寄与指標の当人深刻度データ67と、を突合して結合テーブル68に格納する(S7A)。
【0060】
寄与指標の抽出においては、危険予測部37が生体データ64-2と、事故リスク予測データ66と、事故リスク予測データ66の算出に用いた事故リスク予測モデル71と、から寄与指標を抽出する。
【0061】
危険予測部37は、例えば、事故リスク予測モデル71としてロジスティック回帰などの線形モデルを用いた場合には、単純には回帰係数と生体データ64-2との積が最大となる生体データ種別を寄与指標として抽出することができる。
【0062】
また、事故リスク予測モデル71としてニューラルネットワークなどを用いる場合には、例えば機械学習モデルの説明性を担保するために利用される公知の手法であるSHapley Additive exPlanations(SHAP)を用いて危険予測部37が各生体データ64-2の寄与度を算出し、寄与度が最大であったものを寄与指標として抽出することができる。
【0063】
そして、警告呈示部38は結合テーブル68に格納された事故リスクと当人深刻度とに基づいて発報の判定(以下、発報判定)を行う(S7B)。警告呈示部38は、ドライバが広義の危険状態であると判定した場合には、広義の危険状態を回避するための対策案を生成する(S7C)。
【0064】
発報判定では、事故リスク又は当人深刻度がそれぞれ所定の閾値を超過していた場合、或いは、事故リスク及び当人深刻度に関する値が所定の閾値を超過していた場合、警告呈示部38は、広義の危険状態(危険事象)に該当すると判定する。なお、前者の場合、発報判定に際して、警告呈示部38が、事故リスク又は当人深刻度のいずれかの閾値を設定しなくても構わない。
【0065】
例えば、警告呈示部38が、事故リスクのみに閾値を設定した場合には、一般に事故リスクが高いと判定される場面について発報を行うことができる。また、警告呈示部38が、当人深刻度のみに閾値を設定した場合には、ドライバ個人にとっての体調の急変などの生体データ64-2の異常について発報を行うことができる。また、対応する事故リスク及び当人深刻度のレコードのみでなく、事故リスク及び当人深刻度の時系列に対して閾値を設定してもよい。
【0066】
警告呈示部38が実施する対策案の生成では、広義の危険状態を回避するための対策案を結合テーブル68と対策案データ73に基づいて生成する。過去の知見から、ある種別の生体データ64-2が変化した場合を生理学的に解釈する手法や、ある種別の生体データ64-2を変化させるための方法が知られている。
【0067】
対策案データ73には、生体データ64-2の種別毎に値が増減した場合の生理学的解釈や、値を増減させるため生体データ64-2の方法を格納しておく。結合テーブル68には事故リスクの予測に寄与した寄与指標が格納されているため、寄与指標(後述)に該当する生理学的解釈及び寄与指標を増減させるための方法を取得することで、広義の危険状態を回避するための対策案をドライバの状態に応じて生成することができる。
【0068】
例えば、寄与指標が自律神経機能指標のLF/HFで、LF/HFが正の方向に当人深刻度が高い場合は、過緊張にあると生理学的に解釈でき、警告呈示部38は、ドライバのLF/HFを低下させるために「ゆっくりとした呼吸をしてみましょう」など、リラックスを促す対策案を生成してよい。
【0069】
また、寄与指標が平均心拍数で、平均心拍数が低下傾向にあり、当人深刻度が高い場合には、眠気が増大していると生理学的に解釈し、警告呈示部38が「次のコンビニで一旦停車し、車外へ出て体を伸ばしてみましょう」など、眠気の解消を促す対策案を生成してよい。
【0070】
また、対策案の生成においては、警告呈示部38が対策案に寄与指標の当人深刻度に基づく情報を追加することができる。事故リスクに基づく警告だけでは、警告を受けるドライバ本人にとっての危険性が伝わりにくいが、当人深刻度に基づくドライバ本人にとっての理解可能な形で警告を呈示することで、警告に対するドライバの受容度の向上が期待される。さらに、対策案の生成においては、警告呈示部38が対策案に業務・環境データ74や属性情報データ75に基づく情報を追加することができる。
【0071】
対策案の生成の後に、警告呈示部38は、広義の危険状態にあると判定された車両7に対して、対策案を含むアラートやメッセージとして警告を送信する(S8)。また、警告呈示部38は、車両7に対してのみではなく、ドライバ管理者に対し警告を送信し、入出力装置5のディスプレイに表示してよい。この場合、ドライバのディスプレイに表示する内容には、ドライバの位置情報などを含む画像を含むことができる。
【0072】
車両7は、安全運行支援サーバ1から警告を受信すると、予測結果報知装置9でアラートを出力し、ドライバに対してアラート又はメッセージを伝達する。
【0073】
安全運行支援サーバ1は、事故リスク予測モデル71を用いて予測した所定時間後の事故リスクと、生体状態推定モデル69を用いて推定した生体データ64-2の当人深刻度とに基づいて広義の危険状態を判定することで、生体データ64-2に含まれるドライバ毎の個人差を吸収して広義の危険状態を検知することができる。
【0074】
また、安全運行支援サーバ1は、広義の危険状態と判定した際に、寄与指標と寄与指標の当人深刻度とに基づいて広義の危険状態を回避するための対策案を生成し、対策案を含む警告を該当車両の予測結果報知装置や入出力装置5のディスプレイへ送信する。これにより、安全運行支援サーバ1は、事故リスクが増大する前にドライバやドライバ管理者に対して警告を呈示し、広義の危険状態を回避するための対策を取らせることができる。
【0075】
以上により、安全運行支援サーバ1は、広義の危険状態を事前に回避させ、ドライバが狭義の危険状態に陥ることを未然に防いで、各車両7の安全な運行を支援することができる。
【0076】
<処理の詳細>
図3は、事故リスク予測モデル71の生成処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、走行中の危険検知を行う車両7から生体データ64-2を受け付ける以前(
図2の学習段階)に実施して、事故リスク予測モデル71を予め生成しておく。
【0077】
事故リスク定義生成部32は、過去に収集した危険発生データ62と、対応する車載センサデータ61-1を入力として事故リスク定義モデル70を生成する(S1)。
【0078】
続いて事故リスク予測モデル生成部35は、生成された事故リスク定義モデル70へ過去に収集した車載センサデータ61-2を入力して事故リスク推定データ65を生成する(S2)。
【0079】
次に事故リスク予測モデル生成部35は、過去に収集した車載センサデータ61-2に対応する生体データ64-1と、事故リスク推定データ65とから、事故リスク予測モデル71を生成する(S4)。この場合、事故リスク予測モデル生成部35は、業務・環境データ74に基づき、類似の業務特性や環境特性毎に事故リスク予測モデル71を生成し、その情報を事故リスク予測モデル71にメタ情報として付与しておいてもよい。
【0080】
上記処理によって、安全運行支援サーバ1は、事故リスク定義モデル70を生成して事故リスク推定データ65を生成した後に、事故リスク推定データ65と時系列的に対応する生体データ64-1から事故リスク予測モデル71を生成する。
【0081】
また、上記処理は、危険発生データ62の量や種別が一定量増加する度、事故リスクの高い事故リスク推定データ65が一定度増加する度、あるいは一定頻度で行われ、都度事故リスク定義モデル70や事故リスク予測モデル71は更新される。
【0082】
図4は、生体状態推定モデル69の生成処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、ある車両7に対して走行中の危険予測を行う以前(
図2の学習段階)に実施して、生体データ64-3の種別毎に生体状態推定モデル69を生成しておく。
【0083】
生体状態推定モデル生成部34は、まず生体状態推定モデル69の生成に用いるドライバ群として、類似生体応答を示すドライバ群を抽出する(S11)。典型的にはある種別の生体データ64-3の平均や、標準偏差、中央値、分位数といった日毎の統計量や、その週毎や月毎の統計量を用いて、周知又は公知の手法でクラスタリングなどを行って、類似生体応答を示すドライバ群を抽出する。
【0084】
この場合、生体状態推定モデル生成部34は、生体データ64-3に加えて、業務・環境データ74に含まれる情報や、属性情報データ75に含まれる性別や、年齢に基づいて層別化した年代などの情報もクラスタリングのための入力に加えてもよい。
【0085】
また、生体状態推定モデル生成部34は、クラスタリングを行うために入力する生体データ64-3を選択するに際して、学習情報データ76に基づいて同一の計測条件で計測された生体データ64-3のみを選択し、学習情報データ76に格納された期間の生体データ64-3のみを入力してもよい。これにより、計測条件がコントロールされ、生体データ64-3のばらつきが抑えられることが期待される。
【0086】
生体状態推定モデル生成部34は、さらに、特定のドライバに関して十分な量の生体データ64-3が計測できている場合、複数のドライバ群に代えて特定のドライバのみを抽出してもよい。これにより、特定個人の特性により合致した当人深刻度を推定することができる。
【0087】
続いて、生体状態推定モデル生成部34は、抽出されたドライバ群について過去に収集された生体データ64-3を入力として、生体状態推定モデル69を生体データ64-3の種別毎に生成する(S3)。
【0088】
この場合、生体状態推定モデル生成部34は、上記ドライバ抽出と同様に、学習情報データ76に基づいて同一の計測条件で計測された生体データ64-3のみを選択し、学習情報データ76に格納された期間の生体データ64-3のみを入力してもよい。
【0089】
また、生体状態推定モデル生成部34は、生体状態推定モデル69として教師ありモデルを生成する場合、学習情報データ76に格納された期間の目的変数と、対応する生体データ64-3を入力として、生体状態推定モデル69を生体データ64-3の種別毎に生成する。
【0090】
この場合、生体状態推定モデル生成部34は、入力とする生体データ64-3の種別や、類似生体特性に関する情報をメタ情報として生体状態推定モデル69に付与してもよい。
【0091】
上記処理によって、類似する生体応答特性を示すドライバ群を抽出した後に、抽出されたドライバ群についての生体データ64-3から生体状態推定モデル69が生体データ64-3の種別毎に生成される。
【0092】
また、複数のドライバから生成する上記処理は、対象のドライバ数が一定量増大する度や、生体データ64-3が一定量増大する度、あるいは一定期間毎に行われて、生体状態推定モデル69が更新される。さらに、特定ドライバから生成する上記処理は、生体データ64-3が一定量増大する度あるいは一定期間毎に行われ、生体状態推定モデル69が更新される。
【0093】
なお、生体状態推定モデル69の生成に用いる生体データ64-3は、事故リスク予測モデル71の生成に用いる生体データ64-1と異なり、車載センサデータ61-2と対応する必要や、事故リスクの高い場合に対応する必要が無く、計測シーンの限定が少ない。
【0094】
よって、生体状態推定モデル69の生成に用いる生体データ64-3の計測が容易であるため、事故リスク予測モデル71の生成に比較して短期間でデータを計測することができ、したがって更新頻度を高く設定することが可能であると期待できる。
【0095】
さらに、広義の危険状態は発生が稀なため、生体応答が類似した複数のドライバ群のみから事故リスク予測モデル71を構築すると時間を要する。一方、本実施例では事故リスク予測モデル71ではなく、生体状態推定モデル69において複数のドライバ間の生体応答の個人差を吸収するため、事故リスク予測モデル71の生成には生体応答が類似しないドライバのデータも活用したモデル生成が可能である。そして、生体状態推定モデル69の生成には運転中に容易に収集可能な生体特性の類似するドライバのデータのみからモデル生成が可能である。
【0096】
以上により、事故リスク予測モデル71の生成において生体応答の個人差を吸収する手法に比較し、本実施例は危険予測処理の実現に必要なモデル生成の所要時間を短縮することができる。
【0097】
図5は、生体データ64の算出処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、車両7からデータを受信する度に生体データ算出部31で行われる。
【0098】
安全運行支援サーバ1のデータ収集部39は、車両7の運転データ収集装置10から、車載センサ8と生体センサ12のデータを受信する(S21)。
【0099】
データ収集部39は、心拍センサ121が検出した心拍データと、加速度センサ122が検出した加速度データとを、生体センサデータ63に格納する(S22)。なお、車載センサ8のデータは車載センサデータ61に格納する。
【0100】
次に、生体データ算出部31が
図6で後述する手法により、生体センサデータ63を入力として生体データ64を算出する(S23)。生体データ算出部31は、算出したデータを生体データ64に格納する(S24)。上記処理によって、生体センサデータ63から生体データ64を算出する。
【0101】
図6は、心拍データを用いた生体データ64の計算処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、生体センサデータ63が生体データ64に格納される度に生体データ算出部31で行われる。
【0102】
心拍データを用いた生体データ64の計算処理は、周知又は公知の手法により行われるため、その概要のみを以下で述べる。まず、生体データ算出部31は、生体センサデータ63のうち、心拍データを読み込む(S31)。なお、心拍データとは、運転中のドライバから心拍センサ121より取得した心拍の間隔を抽出可能なデータを指し、具体的には、心電データ、脈波データ又は心音データ等が挙げられる。
【0103】
続いて、生体データ算出部31は、心拍データから拍動間隔IBI(Inter Beat Interval)を抽出し、その時系列を算出する(S32)。心電データの場合、IBIは特に心電R波の間隔を利用するRRI(R-R Interval)時系列を算出してよい。以下では、例として特にRRIについて言及する。
【0104】
生体データ算出部31は、RRIから必要に応じた解析を行うことで自律神経機能指標を算出する。必要に応じた解析には、周波数領域解析や、時間領域解析、RRI非線形領域解析が例として挙げられる。
【0105】
生体データ算出部31は、周波数領域解析ではRRI時系列からパワースペクトル密度を介して周波数領域指標を算出する(S33)。RRI時系列は、不等間隔時系列データであるため、スプライン補間などで等間隔にリサンプリングしてから自己回帰モデルや最大エントロピー法を用いて、もしくは不等間隔データを利用可能なLomb-Scargle 法など公知の手法を用いてパワースペクトル密度PSD(Power Spectral Density)を算出する。
【0106】
生体データ算出部31は、算出されたPSDのうち、例えば0.05 Hz-0.15 Hzの低周波数領域の積分値LFや、0.15 Hz-0.40 Hzの高周波数領域の積分値HFと、LFとHFの和であるTP、LFをHFで除したLF/HF、LFをTPで除して百分率としたLFnuなどを自律神経機能指標の周波数領域指標として算出する。
【0107】
生体データ算出部31は、時間領域解析では、RRI時系列や隣接するRRIの差分系列であるΔRRI時系列の統計量を算出することで時間領域指標を算出する(S34)。例えば、RRI時系列の平均値の逆数である平均心拍数やRRIの標準偏差であるSDNNを算出する。また、ΔRRI時系列からは例えば、ΔRRI時系列を構成する差分値の絶対値が50msを超過するデータ総数であるNN50や、NN50をΔRRI時系列のデータ総数で除したpNN50や、ΔRRIの標準偏差であるSDSDを算出し、自律神経機能指標の時間領域指標として算出する。
【0108】
生体データ算出部31は、RRI非線形領域解析では、各種手法により非線形特徴量を算出する(S35)。生体データ算出部31は、例えば、RRI時系列RRI(t)をX軸に、RRI時系列を1時刻進めた時系列RRI(t+1)をY軸にプロットするポアンカレプロット解析を通じ、プロットされた領域を楕円近似した楕円面積Sを算出する。また、生体データ算出部31は、相似エントロピーやDetrended Fluctuation Analysisによるα1、α2、トーン-エントロピー解析に基づくトーンやエントロピーを算出し、自律神経機能指標のRRI非線形領域指標として算出する。
【0109】
また、生体データ算出部31は、RRI抽出を行う前の心拍データに対して心拍非線形領域解析を行って心拍非線形領域指標を算出することもできる(S36)。生体データ算出部31は、例えば、心拍データに対してカオス解析を適用することで、心拍データの相関次元や最大リアプノフ指数を算出し、自律神経機能指標の心拍非線形領域指標として算出する。
【0110】
算出された自律神経機能指標は、自律神経系に制御されたドライバの生体状態を反映しているため、ドライバに広義の危険状態を回避するための対策案として呈示するために必要な、ドライバの生体状態を測る指標を算出することで、生体状態に合わせた警告呈示を実現できる。例えば、LF/HFは主としてストレスや緊張状態に亢進する交感神経活動と主としてリラックス状態に亢進する副交感神経活動のバランスを測る指標であるため、生体データ算出部31がLF/HFを算出することでドライバの緊張-リラックス状態を踏まえた警告を呈示できる。
【0111】
その後、生体データ算出部31は、算出された自律神経機能指標群をまとめて生体データ64に格納する(S24)。上記処理によって、生体センサデータ63のうち心拍データから、自律神経機能指標を算出し、生体データ64として格納する。
【0112】
なお、生体データ算出部31は、上記ステップS33~S36の処理を並列的に実行してもよいし、順次実行するようにしてもよい。
【0113】
図7は、安全運行支援サーバ1で行われる、危険予測処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、生体データ64-2が更新される度などの所定のタイミングで実行される。危険予測部37は、最新の期間から所定期間までの生体データ64-2を取得する(S12)。
【0114】
次に、モデル選択部36は、業務・環境データ74から、解析対象のドライバIDと、車両IDとを特定し、業務・環境データ74に基づき事故リスク予測モデル71及び生体状態推定モデル69を選択する(S13及びS14)。事故リスク予測モデル71の選択では、例えば、業務・環境データ74の車体サイズや、天候、渋滞状況などに基づいて使用するモデルを選択する。
【0115】
生体状態推定モデル69の選択では、例えば、属性情報データ75に格納されたドライバIDに対応する生体状態推定モデル69の情報などに基づいてモデル選択部36が使用するモデルを選択する。
【0116】
次に、危険予測部37は、選択された事故リスク予測モデル71に、解析対象のドライバIDの生体データ64-2を入力して事故リスクを予測し、事故リスク予測データ66に格納する(S6A)。なお、上記では事故リスク予測モデル71に生体データ64-2を入力する例を示したが、これに限定されるものではなく、業務・環境データ74や属性情報データ75を事故リスク予測モデル71の入力に加えてもよい。
【0117】
例えば、属性情報データ75に含まれる運転適性診断などで得られた運転技能情報や、Temperament and Character Inventory(TCI)、Temperament Evaluation of the Memphis, Pisa, Paris, and San Diego Autoquestionnaire(TEMPS-A)、ビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定するためのTen Item Personality Inventory、NEO―FFIなどで得られた性格気質情報を入力することで、ドライバの運転技能や性格も加味して、より精度の高い事故リスクの予測を実現させることができる。
【0118】
また、危険予測部37は、選択された生体状態推定モデル69に、解析対象のドライバIDの生体データ64-2を入力して生体データ種別毎に複数の当人深刻度を推定し、当人深刻度データ67に格納する(S6B)。なお、上記では単変量で生体データ64-2を入力する例を示したが、以上の他に例えば、危険予測部37が多変量の生体データ64-2を入力して当人深刻度を算出してもよい。
【0119】
続いて、危険予測部37は、予測された事故リスク予測データ66と事故リスクの予測に用いた事故リスク予測モデル71と、解析対象のドライバIDの生体データ64-2と、推定された当人深刻度データ67とを用いて、事故リスクの予測に寄与した寄与指標を抽出し、寄与指標と寄与指標の当人深刻度と事故リスクと事故リスク予測モデル71情報とを突合して結合テーブル68に格納する(S7A)。
【0120】
上記処理によって、生体データ64-2が更新された後などの所定のタイミングにおいて、広義の危険状態を検知して警告を呈示するのに用いる寄与指標と寄与指標の当人深刻度と事故リスクと事故リスク予測モデル情報とが結合テーブル68に格納される。
【0121】
なお、危険予測部37は、上記ステップS13、S14の処理を並列的に実行してもよいし、順次実行してもよい。
【0122】
図8は、安全運行支援サーバ1で行われる、警告呈示処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、結合テーブル68が更新される度などの所定のタイミングで実行される。
【0123】
警告呈示部38は、アラート定義データ72から、警告を呈示する条件である発報定義を読み込む(S41)。発報定義は、事故リスク予測モデル71や生体状態推定モデル69に応じて複数設定してよい。また、ドライバに対する予測結果報知装置9の音声通知を用いる、ディスプレイに表示する、ドライバ管理者の入出力装置5のディスプレイに表示する、入出力装置5を介してメール通知するなど、警告呈示の対象や方法により複数の発報定義を設定してよい。
【0124】
警告呈示部38は、結合テーブル68の各レコードの事故リスク及び当人深刻度を参照(S42)し、発報定義に設定された閾値を超過したドライバの存在を判定する(S7B)。
【0125】
警告呈示部38は、閾値を超過し発報判定に該当するドライバが存在した場合は、呈示する警告に含む対策案を生成する(S7C)。対策案は、結合テーブル68の寄与指標に対応する対策案データ73を参照して生成される。
【0126】
また、対策案には警告を受ける当該ドライバにとっての警告受容性を高めるため、警告呈示部38が結合テーブル68の寄与指標の当該深刻度を用いて、本人にとってどれほど異常な状態であるのかが分かる情報を付与してもよい。例えば、警告呈示部38が「N年に1回しか起こらない状態です」などの情報を付与してもよい。
【0127】
さらに、警告呈示部38は、対策案に業務・環境データ74や属性情報データ75、結合テーブル68に基づく情報を追加することができる。例えば、警告呈示部38は、結合テーブル68に格納された事故リスク予測モデル71の情報から、事故リスクが高まるとされた時刻Nの情報に基づき、対策案としてフィードバックする内容を更新してもよい。また例えば、業務・環境データ74に格納された天気や気温の情報に基づき、警告呈示部38がフィードバックの内容を更新してもよい。
【0128】
そして、警告呈示部38は、業務・環境データ74に基づいてドライバIDから送信対象の車両IDを取得して、その車両7を送信対象とする。なお、ドライバではなくドライバ管理者を送信対象とする場合には、警告呈示部38は、車両IDを取得する代わりに管理者IDを特定し、管理者が操作する安全運行支援サーバ1の入出力装置5を送信対象としてよい。
【0129】
その後、警告呈示部38は生成された対策案に、発報判定に該当した発報定義に基づく事故リスクアラートを付与したアラートやメッセージとして警告を送信する(S8)。
【0130】
上記処理によって、広義の危険状態に該当すると検知されたドライバの車両に対して警告が送信される。警告を受信した車両7では、予測結果報知装置9がドライバに対して警告を通知する。また、安全運行支援サーバ1では、警告呈示部38が入出力装置5のディスプレイに警告を送信した車両を表示する。
【0131】
図9A、
図9Bは、予測結果報知装置9が出力する警告呈示画面の一例を示す図である。予測結果報知装置9は、ディスプレイ(図示省略)を有し、安全運行支援サーバ1からの警告を受信すると、警告呈示画面1000Aを表示する。警告呈示画面1000Aは、事故リスクアラートを表示する領域1010と、広義の危険状態を回避するための対策案などを表示するコメント領域1020とを含む。
【0132】
事故リスクアラートを表示する領域1010には、例えば、事故リスク増大の警告文1011に加え、寄与指標の生体データ64-2の当人深刻度に基づく情報1012を表示することで、単に危険な状態であると通知するだけでなく、「あなたにとっては、半年に1回しか発生しない状態です」など、寄与指標の当人深刻度に基づくドライバ本人にとっての理解可能な形で警告を呈示することができ、警告に対するドライバの受容度の向上が期待される。
【0133】
なお、当人深刻度に基づく情報1012の表示において、対象ドライバ本人の生体データ64-2のみから生成した生体状態推定モデル69に基づいているのか、対象ドライバに類似した生体応答特性を示す複数のドライバの生体データから生成した生体状態推定モデル69に基づいているのかが、分かるような表示をしてもよい。
【0134】
例えば、
図9Bの警告呈示画面1000Bでは、事故リスクアラートを表示する領域1010における当人深刻度に基づく情報1012Bを、「あなたに似たドライバには、半年に1回しか発生しない状態です」、のように複数のドライバのデータと比較していることが分かる文面で表示してもよい。
【0135】
また例えば、複数のドライバと比較している場合には、そのことが分かるように、どのような群のドライバと比較しているのかに関する情報1013を表示してもよい。また、どちらの生体状態推定モデル69を利用しているかを、アイコンなどで表示してもよい。以上により、ドライバが警告を「自分事」として捉えやすくなる効果が期待される。
【0136】
さらに、警告呈示画面1000A、1000Bのコメント領域1020には例えば、寄与指標に基づく生理状態の解釈1021と、広義の危険状態を回避するための具体的な対策案1022を呈示することで、警告の呈示を受けたドライバは警告を受けて終わりではなく、危険状態を解消するために次に取るべき行動を理解し、行動を行うことができる。
【0137】
なお、本例では警告呈示画面による警告の呈示の例を示したが、その他の方法によって警告を呈示してもよい。例えば、警告呈示画面に表示した内容と同等の内容の文章を機械的に読み上げる形式で警告を呈示してもよい。
【0138】
<データ構造>
次に、安全運行支援システムで使用する各データの特徴的な構造について示す。
【0139】
図10Aは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される生体データ64のデータ構造の一例である。生体データ64には、ドライバID401、車両ID402、日時403に加え、生体データ算出部31が算出した各種自律神経機能指標が格納される。ここで、自律神経機能指標としては、例えば、周波数領域指標であるLF/HF404、時間領域指標である平均心拍数405、NN50406又はRRI非線形領域指標であるα1(407)などが挙げられる。
【0140】
図10Bは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される業務・環境データ74のデータ構造の一例である。業務・環境データ74にはドライバの業務中の業務情報や走行環境情報が格納される。
【0141】
典型的には、ドライバID411、情報の継続期間を示す開始日時412及び終了日時413、利用している車両ID414に加え、例えば運転している車両の大きさを示す車両種別415、走行エリアにおける代表地点の天気416と気温417、開始日時412から終了日時413の期間の業務状態を示す業務種別418と、目的地等の業務予定419が格納される。
【0142】
図10Cは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される属性情報データ75のデータ構造の一例である。属性情報データ75には、時変することが少ないドライバの基本情報が格納される。
【0143】
典型的には、ドライバID421と、基本情報が適用される継続期間である開始日422と終了日423、使用している車両の車両ID424に加え、運転者適正診断試験等で測定した運転技能情報(例:技能A425、仮名)、Temperament and Character Inventory(TCI)などで測定した性格気質情報(例:性格A(426)、仮名)、性別427、年齢428、運転経験429などが格納される。以上に加えて、ドライバに対して優先的に使用される各種モデル情報として生体状態推定モデルID430や、事故リスク予測モデルID431などが格納される。
【0144】
図10Dは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される学習情報データ76のデータ構造の一例である。学習情報データ76には、生体状態推定モデル69を生成する際に利用する情報が格納され、典型的にはドライバID441と、学習に利用する生体データ64の期間情報である開始時刻442と終了時刻443が格納される。
【0145】
さらに、学習情報データ76は、生体状態推定モデル69の生成に使用するデータの計測条件を揃える目的で、当該期間情報のデータの計測条件444を格納してもよい。この場合、計測条件444は車載センサデータ61-2などから運転データ収集装置10が自動的に状態を判別して格納(例:高速走行)してもよいし、業務状態入力装置13を介してドライバ自身が定められた条件の中から手動で入力(例:昼休憩)してもよい。
【0146】
また、生体状態推定モデル69を教師ありモデルで生成する場合には、以上に加えて教師ありモデルの生成に必要な目的変数として、例えば主観疲労度をVASにより計測した値445を格納してもよい。
【0147】
図10Eは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される危険発生データ62のデータ構造の一例である。危険発生データ62には、ドライバやドライバ管理者や市販の車載警報機などによって検出された危険事象の種別と発生日時とを設定したデータが格納される。
【0148】
典型的には、車両ID451と、危険事象の発生日時452、危険種別453が格納される。また、検出された危険事象に対して目視確認などで事態の深刻さを記録した事象の重要度454を合わせて格納してもよい。
【0149】
図10Fは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される事故リスク予測データ66のデータ構造の一例である。
【0150】
事故リスク予測データ66には、事故リスク予測モデル71を用いて生体データ64-2から判定された事故リスクが格納される。典型的には、ドライバID461と、日時462と、事故リスクの予測に用いた事故リスク予測モデル71のID463と、予測された危険事象の発生確率(百分率)を示す事故リスク464と、が格納される。
【0151】
図10Gは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される当人深刻度データ67のデータ構造の一例である。
【0152】
当人深刻度データ67には、生体状態推定モデル69を用いて生体データ64-2から判定された当人深刻度が格納される。典型的には、ドライバID471と、日時472、当人深刻度を推定した生体データ64-2の種別473、推定に用いた生体状態推定モデル69のID474、当人深刻度475が格納される。
【0153】
なお、生体状態推定モデル69は生体データ種別毎に生成されており、また当人深刻度の算出方法も生体データ種別毎に異なることが想定されるため、当人深刻度の出力形式も必ずしも一定であるとは限らない。
【0154】
例えば1行目のレコードでは、生体データ64-2の種別473が「平均心拍数」について正規分布で近似した統計量を出力しており、当人深刻度475が、標準偏差(SD)を用いて平均から「+4SD」の値であることを示している。
【0155】
また、例えば2行目のレコードでは、NN50について、データ分布上の分位点を出力しており、当人深刻度475が、モデル構築に利用したデータ集合のうち99%分位点に該当する値であることを示している。
【0156】
図10Hは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される結合テーブル68のデータ構造の一例である。結合テーブル68は警告呈示処理において利用する値を突合して生成されたテーブルである。
【0157】
典型的にはドライバID481と、車両ID482、日時483、予測に利用した事故リスク予測モデルID484、予測された事故リスク485、事故リスク予測に寄与した生体データ種別である寄与指標486、寄与指標に関して生体状態の推定に用いた生体状態推定モデルID487、寄与指標に関する当人深刻度488が格納される。
【0158】
さらに、あるレコードが広義の危険状態にあると判定された場合に、警告呈示部38がすでに警告を呈示したか否かを管理するフラグである発報済フラグ489を格納してもよい。
【0159】
図10Iは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持されるアラート定義データ72のデータ構造の一例である。アラート定義データ72には広義の危険状態に該当するか否かを判定する際に用いる判定条件が格納される。
【0160】
典型的にはアラートID491と、事故リスク閾値492、当人深刻度閾値493が格納される。この他に例えば、当人深刻度閾値493を利用するにあたって寄与指標に限定を加えるための寄与指標条件494や、業務中の対象天候を限定する天候条件495や、アラートの判定を実施する際に特定の出力形式で得られた当人深刻度しか判定対象としないように限定する当人深刻度種別496などを格納してもよい。
【0161】
図10Jは、本発明の安全運行支援システムにおいて保持される対策案データ73のデータ構造の一例である。対策案データには、警告呈示における対策案の生成に用いる情報が格納される。
【0162】
典型的には対策案の案ID501と、当該対策案を呈示する条件となる寄与指標502、寄与指標の状態を示す現象503、寄与指標の現象から想定されるドライバの生理状態の解釈504、該当する広義の危険状態を回避するための対策案505が格納される。
【0163】
また、例えば対策案505は、同一の寄与指標502と、現象503、解釈504に対して複数設定してもよい。この場合、対策案505を呈示する優先度506をさらに格納してもよい。
【0164】
以上のように、本実施例の安全運行支援システムは、生体センサ12の心拍データから安全運行支援サーバ1が算出した生体データ64-2を、事故リスク予測モデル71へ入力して算出された事故リスク予測データ66と、生体状態推定モデル69へ生体データ64-2を入力して算出された当人深刻度データ67とに基づいて広義の危険状態に該当するかを検知する。
【0165】
これにより、本実施例の安全運行支援サーバ1は、生体データ64-2の個人差を吸収した上で、車両7の挙動に現れる以前に危険状態を検知することが可能となる。また、安全運行支援サーバ1は、広義の危険状態に該当する際には事故リスクの予測に寄与した寄与指標に基づいて、広義の危険状態を回避するための対策案を含む警告を呈示することで、警告を受けたドライバ自身が、広義の危険状態を回避するために必要な行動を取ることができる。以上により、安全運行支援サーバ1は、車両7のドライバに対して広義の危険状態を未然に回避させることが可能となる。
【0166】
なお、上記実施例1では、車両7を管理する運行支援システムに本発明を適用する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、車両7に代わって、鉄道車両や船舶あるいは航空機など運転者や操縦者を要する移動体に本発明を適用することができる。
次に、本発明の実施例2を説明する。以下に説明する相違点を除き、実施例2の安全運行支援システムの各部は、実施例1の同一の符号を付された各部と同一の機能を有するため、それらの説明は省略する。
生体データ64-1を生体状態推定モデル69へ入力して当人深刻度データ67A(第1の当人深刻度)を算出して(S6C)、事故リスク予測モデル生成部35へ入力する。
事故リスク予測モデル生成部35は、生体データ64-1と事故リスク推定データ65に加えて当人深刻度データ67Aを入力として事故リスク予測モデル71を生成する(S4)。
そして、危険予測部37は、生体データ64-2を生体状態推定モデル69へ入力して当人深刻度データ67B(第2の当人深刻度)を算出して(S6B)、当人深刻度データ67Bを事故リスク推定部33へ出力する。事故リスク推定部33は、事故リスク予測モデル71の入力に生体データ64-2に加えて当人深刻度データ67Aを入力する(S6A)。
よって、危険予測部37が行う寄与指標の抽出・結合処理では、事故リスク推定に寄与した入力を生体データ64-2及び当人深刻度データ67Bの中から選択して寄与指標とし、生体データ64-2が選択された場合には選択された種別の生体データ64-2の当人深刻度を結合テーブル68に格納し、当人深刻度データ67Bが選択された場合にも選択された種別の当人深刻度データ67Bを結合テーブル68に格納する。
以上により、実施例2では、前述した警告呈示の判定に加え、事故リスク推定においても、生体データ64の個人差を考慮して事故リスクを推定することが可能となり、より精度の高い事故リスクの予測を実現可能とする効果が得られる。