(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051317
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】スプリント
(51)【国際特許分類】
G10G 7/00 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
G10G7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157734
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】小幡 哲史
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 廉人
(72)【発明者】
【氏名】上野 俊明
(72)【発明者】
【氏名】中禮 宏
(72)【発明者】
【氏名】田邊 元
【テーマコード(参考)】
5D182
【Fターム(参考)】
5D182CC10
(57)【要約】
【課題】管楽器の演奏性を向上できるスプリントを提供できるようにする。
【解決手段】左右に並ぶ複数の歯のうち少なくとも一つの対象歯TTの裏側を覆う被覆部2と、被覆部2の左側に接続されて対象歯TTの左側の歯TLSに取り付けられる左側取付部3と、被覆部2の右側に接続されて対象歯TTの右側の歯TRSに取り付けられる右側取付部4と、を備えるスプリント1を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に並ぶ複数の歯のうち少なくとも一つの対象歯の裏側を覆う被覆部と、
前記被覆部の左側に接続されて前記対象歯の左側の歯に取り付けられる左側取付部と、
前記被覆部の右側に接続されて前記対象歯の右側の歯に取り付けられる右側取付部と、を備えるスプリント。
【請求項2】
前記被覆部は、前記対象歯の裏側全体を覆う請求項1に記載のスプリント。
【請求項3】
前記被覆部は、前記対象歯の裏側の基端部分を覆う請求項1に記載のスプリント。
【請求項4】
前記被覆部は、前記対象歯の裏側の先端部分を覆う請求項1に記載のスプリント。
【請求項5】
前記被覆部の厚さは、1.5mm以下である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスプリント。
【請求項6】
前記被覆部の弾性率は、100MPa以上である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスプリント。
【請求項7】
前記被覆部は、中切歯、側切歯及び犬歯のうち少なくとも一つの歯を覆い、
前記左側取付部は、左側小臼歯に取り付けられ、
前記右側取付部は、右側小臼歯に取り付けられる請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスプリント。
【請求項8】
前記対象歯の裏側に対向する前記被覆部の前面は、前記対象歯の裏側の凹凸に対応する凹凸形状を有し、
前記前面と反対側に向く前記被覆部の背面は、平坦な形状を有する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のスプリント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に装着するスプリントに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、管楽器の演奏時に演奏者が口で咥える管楽器のマウスピースと混同しないように、口腔内に装着するマウスピースをスプリントと呼ぶ。
非特許文献1には、管楽器の演奏性向上を目的として、スプリント(アダプター)を口腔内の歯列の表側(外側)に装着し、当該スプリントによって歯列の表側の凹凸形状を補正することが開示されている。なお、特許文献1には、口腔内に装着してスポーツ中における歯の欠損を防ぐためのスプリント(スポーツ用マウスピース)が開示されている。特許文献1のスプリントでは、その板状片が左右臼歯の咬合面を覆うことで、歯を強くかみ合わせても歯が板状片に均等かつ安定に当たるため、歯の欠損を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】根本俊男、「管楽器吹奏のための歯科治療」、日本歯科医師会雑誌、2000年1月、第52巻、第10号、p.1168-1178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
管楽器の演奏には、音出しに必要な空気の流れをコントロールするために、歯並びやアンブシュアを整えることが重要である。非特許文献1のスプリントを用いたとしても、歯列の裏側(内側)の形状によっては、依然として管楽器を演奏し難い場合がある。このため、管楽器の演奏性をさらに向上する余地がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、管楽器の演奏性を向上できるスプリントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、左右に並ぶ複数の歯のうち少なくとも一つの対象歯の裏側を覆う被覆部と、前記被覆部の左側に接続されて前記対象歯の左側の歯に取り付けられる左側取付部と、前記被覆部の右側に接続されて前記対象歯の右側の歯に取り付けられる右側取付部と、を備えるスプリントである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スプリントにより口腔内の形状が調整されるため、演奏者が管楽器の演奏時に空気の流れをコントロールしやすくなる。また、管楽器の演奏に際して対象歯の裏側に対する演奏者の舌の当たり方を改善して、管楽器のタンギングに起因する演奏性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスプリントを示す斜視図である。
【
図2】
図1のスプリントを口腔内で左右に並ぶ複数の歯に装着した状態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るスプリントの被覆部が歯の裏側を覆う様子を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るスプリントの被覆部の前面及び背面の形状を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るスプリントの製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るスプリントの被覆部の前面及び背面の形状を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係るスプリントの被覆部が歯の裏側を覆う様子を示す模式図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るスプリントの被覆部が歯の裏側を覆う様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~8を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1,2に示すように、本実施形態に係るスプリント1は、被覆部2と、左側取付部3と、右側取付部4と、を備える。
【0011】
被覆部2は、左右に並ぶ複数の対象歯TTの裏側を覆う。本明細書において、対象歯TTの裏側は口腔内において主に口腔の内側(舌側)に向く歯の面を意味する。なお、対象歯TTの表側は主に口腔の外側に向く歯の面を意味する。被覆部2は板状に形成され、対象歯TTの裏側に重ねて配置される。
【0012】
本実施形態の被覆部2は、左右に連続して並ぶ複数の対象歯TTの裏側を覆う。このため、被覆部2は、左右に湾曲状に配列された複数の対象歯TTに沿うように湾曲している。被覆部2によって覆われる対象歯TTは、中切歯TL1,TR1、側切歯TL2,TR2及び犬歯TL3,TR3である。すなわち、対象歯TTは全ての前歯である。被覆部2によって覆われる対象歯TTは、上顎の歯及び下顎の歯のいずれであってもよい。
【0013】
本実施形態の被覆部2は、
図2,3に示すように、対象歯TTの裏側の基端部分(歯茎G(歯肉)から延びる対象歯TTのうち歯茎Gに近い部分)を覆う。さらに、被覆部2は、歯茎Gの裏側のうち対象歯TTの近くの領域も覆う。被覆部2は、対象歯TTの裏側の先端部分(対象歯TTのうち歯茎Gから離れた部分)を覆わない。
【0014】
図4に示すように、対象歯TTの裏側には凹凸がある。対象歯TTの裏側の凹凸には、単一の対象歯TTの裏側における凹凸、及び、左右に配列された複数の対象歯TTの相対的な位置によって生じる凹凸がある。これに対し、対象歯TTの裏側に対向する被覆部2の前面2aは、対象歯TTの裏側の凹凸に対応する凹凸形状を有する。すなわち、被覆部2の前面2aの凸部分が対象歯TTの裏側の凹部分に入ったり、対象歯TTの裏側の凸部分が被覆部2の前面2aの凹部分に入ったりする。これにより、互いに対向する被覆部2の前面2aと対象歯TTの裏側との隙間を小さくする、あるいは、当該隙間を無くすことができる。また、対象歯TTの裏側の歯の長軸に対する角度を変更することができる。
【0015】
図1,2,4に示すように、前面2aと反対側に向く被覆部2の背面2bは、対象歯TTの裏側の凹凸に対応する凹凸形状を有する。ただし、背面2bにおける凹凸形状の高低差は、前面2aや対象歯TTの裏側における凹凸の高低差よりも小さい。すなわち、被覆部2の背面2bは、対象歯TTの裏側よりも滑らかに形成されている。
【0016】
さらに、本実施形態の被覆部2では、その前面2a及び背面2bのうち歯茎Gの裏側に対応する領域が、歯茎Gの裏側の凹凸に対応する凹凸形状を有している。被覆部2の背面2bにおいて歯茎Gの裏側に対応する凹凸形状の高低差は、歯茎Gの裏側における凹凸の高低差よりも小さく、被覆部2の背面2bは、歯茎Gの裏側よりも滑らかに形成されている。
【0017】
図1,2に示すように、左側取付部3は、被覆部2の左側に接続されている。左側取付部3は、対象歯TTの左側の歯TLSに取り付けられ、また、当該歯TLSに取り付けられた状態に維持される。本実施形態において、左側取付部3を取り付ける左側の歯TLSは、左側犬歯TL3に隣り合う左側第一小臼歯TL4(左側小臼歯)である。左側取付部3は、左側第一小臼歯TL4に取り付けられた状態で、左側第一小臼歯TL4に固定されて被覆部2を対象歯TTの裏側に保持するように構成されている。本実施形態の左側取付部3は、左側第一小臼歯TL4の表面全体を包む箱状又は筒状に形成されている。左側取付部3の内面及び外面は、左側第一小臼歯TL4の表面の凹凸に対応する凹凸形状を有する。
【0018】
右側取付部4は、被覆部2の右側に接続されている。右側取付部4は、対象歯TTの右側の歯TRSに取り付けられ、また、当該歯TRSに取り付けられた状態に維持される。本実施形態において、右側取付部4を取り付ける右側の歯TRSは、右側犬歯TR3に隣り合う右側第一小臼歯TR4(右側小臼歯)である。右側取付部4は、右側第一小臼歯TR4に取り付けられた状態で、右側第一小臼歯TR4に固定されて被覆部2を対象歯TTの裏側に保持するように構成されている。本実施形態の右側取付部4は、右側第一小臼歯TR4の表面全体を包む箱状又は筒状に形成されている。右側取付部4の内面及び外面は、右側第一小臼歯TR4の表面の凹凸に対応する凹凸形状を有する。
【0019】
以上のように構成される本実施形態のスプリント1(特に被覆部2)の厚さは、1.5mm以下となっている。スプリント1の厚さは、0.125mm以上であることが好ましい。
また、本実施形態におけるスプリント1(特に被覆部2)の弾性率は、100MPa以上となっている。スプリント1の弾性率は、150MPa以下であることが好ましい。
上記した厚さ及び弾性率を有する本実施形態のスプリント1は、PET(PolyEthylene Terephthalate)などの樹脂材料によって構成されている。
【0020】
次に、本実施形態のスプリント1の製造方法について説明する。
スプリント1の製造に際しては、
図5に示すように、はじめにスプリント1を装着する対象者の歯列の型採り工程S1を実施する。型採り工程S1では、歯列及び歯茎の印象採得を行う。具体的には、ペースト状の印象材を歯型採取用のトレーに盛り、これを対象者の口腔内に入れて歯列及び歯茎に被せる。本実施形態の印象材には、アルジネート印象材が用いられるが、例えばシリコーン印象材などが用いられてもよい。印象材が固まった後に当該印象材を対象者の口腔から取り出すことで、印象材からなる歯列及び歯茎の凹型が得られる。
【0021】
型採り工程S1の後には、得られた凹型を基に歯型模型を成形する歯型模型の成形工程S2を実施する。歯型模型の成形工程S2では、凹型に模型材を流し入れる。本実施形態の模型材には、硬質石膏が用いられるが、例えば超硬質石膏や普通石膏などが用いられてもよい。模型材が硬化した後に当該模型材を凹型から取り外すことで、歯型模型が得られる。本実施形態の歯型模型には、歯列の他に歯茎のうち歯列に近い部分が含まれるが、例えば歯茎が含まれなくてもよい。歯型模型の成形工程S2では、歯型模型を凹型から取り外した後に、歯型模型から隣り合う歯の間や歯と歯茎との間の窪みに入った気泡を取り除く等して、歯型模型の形状を整えることがある。
【0022】
歯型模型の成形工程S2の後には、得られた歯型模型を用いてスプリント1を成形するスプリント1の成形工程S3を実施する。スプリント1の成形工程S3では、はじめに、PETなどの樹脂材料からなる熱可塑性シートを、吸引又は加圧によって歯型模型に圧接成形する。歯型模型への熱可塑性シートの吸引や加圧には、例えば歯科技工用の加熱成型器を用いることができる。その後、歯型模型に圧接成形された熱可塑性シートから、被覆部2、左側取付部3及び右側取付部4となる部位を切り出すことで、スプリント1が得られる。スプリント1の成形工程S3では、熱可塑性シートからスプリント1を切り出した後に、スプリント1の辺縁を研磨してもよい。
【0023】
スプリント1の成形工程S3の後には、スプリント1の検査工程S4を実施する。検査工程S4では、スプリント1を対象者の口腔内に装着し、装着状態における問題(例えば息もれや異物感など)の有無を確認する。検査工程S4後のステップS5において、スプリント1の装着状態に問題があると判定された場合には、スプリント1の調整工程S6に進む。調整工程S6では、樹脂材料(歯科用のアクリル樹脂)をスプリント1に添加したり、スプリント1の各部を削ったり研磨したりして、スプリント1の形状を修正する。調整工程S6後には、再度検査工程S4を実施する。そして、検査工程S4後のステップS5において、スプリント1の装着状態に問題がないと判定されることで、スプリント1の製造が完了する。
【0024】
上記したスプリント1の製造方法において、スプリント1の成形工程S3では、例えば歯型模型に対して常温重合レジンを直接圧接することでスプリント1を得てもよい。
また、スプリント1の成形工程S3では、例えば義歯の作成要領と同様に、歯型模型に対して溶かしたワックスを盛る(塗る)ワックスアップを実施して、歯型模型及び塗られたワックスに対応する凹型を作成し、歯型模型からワックスを除去した上で、ワックスによる歯型模型と凹型との隙間にPETなどのように熱可塑性を有する樹脂材料を入れて加温、加圧成形することで、スプリント1が成形されてもよい。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のスプリント1は、口腔内に装着した状態で対象歯TTの裏側を覆う被覆部2を備える。スプリント1の被覆部2が対象歯TTの裏側を覆うことで、口腔内の形状を調整し、歯並びやアンブシュアを整えることができる。これにより、演奏者は、管楽器の演奏時に口腔内における空気の流れをコントロールしやすくなる。また、管楽器の演奏者がこのスプリント1を装着した状態で管楽器を演奏すると、演奏者の舌は対象歯TTの裏側に当たる代わりに、主にスプリント1の被覆部2の背面2bに当たるようになる。これにより、被覆部2の背面2bの形状を対象歯TTの裏側の形状(特に凹凸形状)から変えることで、対象歯TTの裏側において演奏者の舌(先端)が当たる面の凹凸と角度を整えることができる。したがって、管楽器の演奏に際して対象歯TTの裏側に対する演奏者の舌の当たり方を改善して、管楽器の演奏性を向上することができる。
また、対象歯TTの裏側に対する演奏者の舌の当たり方を改善できることで、舌の筋肉疲労を軽減して、管楽器をより長く演奏し続けることも可能となる。
【0026】
また、本実施形態のスプリント1では、被覆部2によって対象歯TTの裏側を覆った状態で口腔の内側(舌側)に向く被覆部2の背面2bが、対象歯TTの裏側における凹凸形状の高低差よりも小さい凹凸形状を有する。このため、スプリント1を装着した演奏者が管楽器を演奏する際には、演奏者の舌(特に先端)が対象歯TTの裏側の凹凸形状よりも高低差が小さい被覆部2の背面2bに当たる。このため、対象歯TTの裏側に対する演奏者の舌の当たり方を改善して、管楽器の演奏性向上や舌の筋肉疲労の軽減を図ることができる。
また、演奏者の舌が当たる被覆部2の背面2bは、対象歯TTの裏側に対応する凹凸形状を有するため、被覆部2の背面2bに当たる舌の感触が、対象歯TTの裏側に当たる舌の感触に近づけることができる。これにより、スプリント1の有無による管楽器の演奏時の違和感を緩和することができる。
【0027】
また、本実施形態のスプリント1において、被覆部2は対象歯TTの裏側の基端部分を覆い、先端部分を覆わない。これにより、舌によって対象歯TTの先端部分に触れることができるため、スプリント1を口腔内に装着することによる違和感を小さく抑えることができる。
【0028】
また、本実施形態のスプリント1では、被覆部2の厚さを1.5mm以下とすることで、対象歯TTの内側(舌側)において被覆部2が占める容積を小さく抑えて、被覆部2が管楽器の演奏に伴う口腔内の動き(特に舌の動き)を阻害することを抑制できる。また、被覆部2の厚さを0.125mm以上とすることで、被覆部2を含むスプリント1を樹脂成形によって製造することができる。
【0029】
また、本実施形態のスプリント1では、被覆部2の弾性率を100MPa以上とすることで、管楽器の演奏時において被覆部2が舌で押されても変形しにくいため、安定した管楽器の演奏を実現することができる。また、被覆部2の弾性率が100MPa以上である場合には、被覆部2をより薄く形成することが可能となるため、被覆部2が管楽器の演奏に伴う口腔内の動き(特に舌の動き)を阻害することを抑制することもできる。
【0030】
また、本実施形態のスプリント1において、被覆部2は、管楽器の演奏時において演奏者の舌の先端が当たりやすい中切歯TL1,TR1、側切歯TL2,TR2及び犬歯TL3,TR3などの前歯の裏側を覆う。これにより、前歯の裏側に舌の先端を当てるタンギングと呼ばれる奏法を改善できるなど、管楽器の演奏性を効果的に向上することができる。
【0031】
また、本実施形態のスプリント1において、左側取付部3及び右側取付部4は、奥歯である左側第一小臼歯TL4及び右側第一小臼歯TR4にそれぞれ取り付けられ、左側大臼歯TL6,TL7や右側大臼歯TR6,TR7(
図2参照)には取り付けられない。これにより、左側取付部3や右側取付部4が管楽器の演奏に伴う口腔内の動き(例えば舌の動き)を阻害することを抑制できる。したがって、管楽器の演奏性をさらに向上することができる。
【0032】
次に、演奏者のスプリント1の装着有無によるトランペットの演奏のしやすさの評価結果について説明する。前提として、演奏者によって演奏に関する課題が異なる。例えば、ある演奏者は、マウスピースのみでは、タンギングがしにくいと感じている場合がある。また、他の演奏者は、マウスピースのみでは、ロングトーンがしにくいと感じている場合がある。
そこで、マウスピースのみでは演奏がしにくいと感じている演奏者(以下、被験者という)に対して、第1の評価を行った。第1の評価は、スプリント1を装着することによるタンギングのしやすさを評価したものである。その結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
四名の被験者A~Dは、カップが浅いマウスピース(表1における「浅い」)、及び、カップが深いマウスピース(表1における「深い」)のそれぞれにおいて、本実施形態のスプリント1を装着していない状態(表1における「無し」)、スプリント1を上顎の歯に装着した状態(表1における「有り(上)」)、及び、スプリント1を下顎の歯に装着した状態(表1における「有り(下)」)でトランペットをタンギングで演奏した。各被験者A~Dは、これら6種類の条件についてそれぞれタンギングのしやすさを評価した。表1において、「◎」は非常にタンギングがしやすいことを示し、「○」はある程度タンギングがしやすいことを示す。また、「×」はタンギングがし難いことを示している。なお、スプリント1を装着していなくてもタンギングがしやすい場合は、スプリント1を装着した状態の評価対象から除外した。
【0035】
表1に示す評価結果によれば、スプリント1を装着しないときと比較して、スプリント1を上顎又は下顎の歯に装着したときの方がタンギングがしやすいという結果が得られた。また、スプリント1を上顎の歯に装着した方がタンギングがしやすい被験者もいれば、スプリント1を下顎の歯に装着した方がタンギングがしやすい被験者もいた。これは、被験者の口腔形状等が各人で異なるためであると考えられる。この結果から、タンギングがしにくい演奏者は、スプリント1を上顎又は下顎の歯に装着することにより、タンギングがしやすくなるという効果が明らかとなった。また、スプリント1を上顎の歯に装着する方がスプリント1を下顎の歯に装着するよりもタンギングがしやすくなる傾向があった。
【0036】
次に、被験者に対して第2の評価を行った。第2の評価は、スプリント1を装着することによるロングトーンのしやすさを評価したものである。その結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
三名の被験者E~Gは、カップが浅いマウスピース(表2における「浅い」)、及び、カップが深いマウスピース(表2における「深い」)のそれぞれにおいて、本実施形態のスプリント1を装着していない状態(表2における「無し」)、スプリント1を上顎の歯に装着した状態(表2における「有り(上)」)、及び、スプリント1を下顎の歯に装着した状態(表2における「有り(下)」)でトランペットをロングトーンで演奏した。各被験者E~Gは、これら6種類の条件についてそれぞれロングトーンのしやすさを評価した。表2において、「◎」は非常にロングトーンがしやすいことを示し、「○」はある程度ロングトーンがしやすいことを示す。また、「×」はロングトーンがし難いことを示している。なお、スプリント1を装着していなくてもロングトーンがしやすい場合は、スプリント1を装着した状態の評価対象から除外した。
【0039】
表2に示す評価結果によれば、スプリント1を装着しないときと比較して、スプリント2を上顎又は下顎の歯に装着したときの方がロングトーンがしやすいという結果が得られた。また、スプリント1を上顎の歯に装着した方がロングトーンがしやすい被験者もいれば、スプリント1を下顎の歯に装着した方がロングトーンがしやすい被験者もいた。これは、被験者の口腔形状等が各人で異なるためであると考えられる。この結果から、ロングトーンがしにくい演奏者は、スプリント1を上顎又は下顎の歯に装着することにより、ロングトーンがしやすくなるという効果が明らかとなった。
【0040】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0041】
本発明のスプリントにおいて、被覆部2の背面2bにおける凹凸形状の高低差は、例えば対象歯TTや歯茎Gの裏側における凹凸の高低差と同等であってもよい。
【0042】
本発明のスプリントにおいて、被覆部2の背面2bは、例えば
図6に示すように、対象歯TTや歯茎Gの裏側に対応する凹凸の無い平坦な形状を有してよい。この場合、スプリント1を装着した演奏者が管楽器を演奏する際に演奏者の舌(特に先端)が凹凸の無い平坦な被覆部2の背面2bに当たるため、被覆部2の背面2bに凹凸形状がある場合と比較して、対象歯TTの裏側に対する演奏者の舌の当たり方をさらに改善して、管楽器の演奏性向上や舌の筋肉疲労の軽減をさらに図ることができる。
【0043】
本発明のスプリントにおいて、被覆部2は例えば
図7に示すように、対象歯TTの裏側の先端部分を覆い、対象歯TTの裏側の基端部分を覆わなくてもよい。この場合には、舌によって対象歯TTの基端部分に触れることができるため、上記実施形態と同様に、スプリント1を口腔内に装着することによる違和感を小さく抑えることができる。
【0044】
本発明のスプリントにおいて、被覆部2は例えば
図8に示すように、対象歯TTの裏側全体を覆ってもよい。この場合には、演奏者が管楽器を演奏する際に、演奏者の舌が対象歯TTの裏側に当たることを確実に防ぐことができる。
【0045】
本発明のスプリントにおいて、被覆部2によって覆われる対象歯TTは、中切歯TL1,TR1、側切歯TL2,TR2及び犬歯TL3,TR3のうち少なくとも一つの前歯であってもよい。
【0046】
本発明のスプリントにおいて、被覆部2は、対象歯TTの裏側だけではなく、対象歯TTの表側も覆ってよい。
【0047】
本発明のスプリントにおいて、左側取付部3を取り付ける対象歯TTの左側の歯TLSは、例えば左側第一小臼歯TL4及び左側第二小臼歯TL5(
図2参照)の二つの左側小臼歯であってよい。同様に、右側取付部4を取り付ける対象歯TTの右側の歯TRSは、例えば右側第一小臼歯TR4及び右側第二小臼歯TR5(
図2参照)の二つの右側小臼歯であってよい。
【0048】
本発明のスプリントにおいて、左側取付部3や右側取付部4は、例えば対象歯TTの左側の歯TLSや右側の歯TRSに引っ掛ける鉤状に形成されてもよい。
【0049】
本発明のスプリントは、管楽器の演奏時に利用するものとして説明したが、その他の目的で当該スプリントを利用してもよい。本発明のスプリントは、例えば歌唱時や口笛時に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…スプリント、2…被覆部、2a…前面、2b…背面、3…左側取付部、4…右側取付部、TT…対象歯、TLS…左側の歯、TRS…右側の歯、TL1,TR1…中切歯、TL2,TR2…側切歯、TL3,TR3…犬歯、TL4…左側第一小臼歯(左側小臼歯)、TR4…右側第一小臼歯(右側小臼歯)