(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051349
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】マットレス用の保護カバー及びマットレス
(51)【国際特許分類】
A47C 31/00 20060101AFI20220324BHJP
A47C 27/14 20060101ALI20220324BHJP
A47C 27/08 20060101ALI20220324BHJP
A61G 7/057 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
A47C31/00
A47C27/14
A47C27/08
A61G7/057
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157778
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000138244
【氏名又は名称】株式会社モルテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 隆司
(72)【発明者】
【氏名】村武 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】安原 修平
(72)【発明者】
【氏名】草場 大地
【テーマコード(参考)】
3B096
4C040
【Fターム(参考)】
3B096AB08
4C040AA01
4C040GG01
(57)【要約】
【課題】ハンモック現象を軽減することで体圧分散性能を向上させることが可能なマットレス用の保護カバー及びマットレスを提供する。
【解決手段】マットレス100用の保護カバー30は、静止型又は圧切替型のインナーマット10と、インナーマット10を被覆するマットレスカバー20との間においてインナーマット10を覆って配置され、インナーマット10の断面全周Aに対し一定の余裕分を加えた断面全周Bを有し、滑り性を有する素材をもって形成される、ことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マットレス用の保護カバーであって、
静止型又は圧切替型のインナーマットと、前記インナーマットを被覆するマットレスカバーとの間において前記インナーマットを覆って配置され、
前記インナーマットの断面全周Aに対し一定の余裕分を加えた断面全周Bを有し、滑り性を有する素材をもって形成される、ことを特徴とする保護カバー。
【請求項2】
前記保護カバーの前記断面全周Bが前記インナーマットの前記断面全周Aに対し、少なくとも+10cm以上の余裕分を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の保護カバー。
【請求項3】
前記保護カバーの前記断面全周Bが前記インナーマットの前記断面全周Aに対し、少なくとも+4%以上の余裕分を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の保護カバー。
【請求項4】
袋状、筒状及びシート状から選択される形状をもって形成される、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の保護カバー。
【請求項5】
前記インナーマットが静止型の場合、前記インナーマットを覆った状態で圧縮され、かつ、前記保護カバーの周縁部が封止されることにより、前記インナーマットの圧縮梱包材とされ、前記周縁部に開封用の切込みを有する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の保護カバー。
【請求項6】
前記インナーマットが静止型の場合、前記インナーマットを覆った状態で圧縮され、かつ、前記保護カバーの周縁部が封止されることにより、前記インナーマットの圧縮梱包材とされ、前記周縁部の一部に前記周縁部を二重に形成した重複部を有する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の保護カバー。
【請求項7】
マットレスであって、
静止型又は圧切替型のインナーマットと、
前記インナーマットを被覆するマットレスカバーと、
前記インナーマットと前記マットレスカバーとの間において前記インナーマットを覆って配置される保護カバーと、を備え、
前記保護カバーが、前記インナーマットの断面全周Aに対し一定の余裕分を加えた断面全周Bを有し、滑り性を有する素材をもって形成される、ことを特徴とするマットレス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マットレス用の保護カバー及びマットレスに関する。
【背景技術】
【0002】
特に、医療や介護の現場において使用されるマットレスにおいては、長時間横たわることによって生じ得る褥瘡(床ずれ)を抑制するため、体圧分散性能の向上が求められている。体圧分散性能は種々の要因によって影響を受けるが、マットレスカバーに伸縮性がない場合、身体との接触面積が減り、体圧分散性能が低下することがある。その結果、骨突出部にハンモック現象(
図1参照)が生じ、マットレスカバーの張力によって圧力が上昇する。このハンモック現象は、例えば、マットレスカバーとその内部のインナーマット(ウレタンフォームやエアセルなど)との滑りが悪いためにマットレスカバーの伸縮が阻害される状態、すなわち、マットレスカバーが突っ張った状態となることによって生じる。
【0003】
また、マットレスカバー以外にも、マットレスの外部からの汚染(失禁・血液・薬剤など)を防ぐ目的として、マットレスカバーの表面に防水性のある保護カバー(フィルム)が取り付けられることがあるが、その保護カバーによってもハンモック現象が生じ、体圧分散性能が低下してしまうことがある。
【0004】
このようなマットレスの使用において生じ得る褥瘡(床ずれ)を抑制するため、以前より、体圧分散性能を向上させることを目的とする種々の体圧分散マットレスが提案されているが、例えば、インナーマット自体の改良として、特定の条件下で生成したポリウレタンからなる圧力分散マットが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1によれば、この圧力分散マットは、良好な感触を有し、長時間使用時の接触部の痛みを緩和することができ、「底づき」、「沈み」がなく、回復が遅いため押し返し感がなく、身体の保持性に優れており、床ずれ防止用に適している、とされている。
【0005】
上記に加え、特にウレタンフォームで構成されるインナーマットについては、その復元力低下や空気中の水分や汚染物の影響により、経時的に劣化していくことが指摘されている。さらには、マットレスはどれもサイズが大きく、運送費が高くなってしまうという点についても課題とされている。この運送費の点については、例えば、マットレスの一部であるクッション部を圧縮して収容体に収容する体圧分散構造体が開示されている(特許文献2参照)。特許文献2によれば、複数のクッション部構成体がそれぞれ、クッション部の弾発する方向において圧縮された状態で、単一の収容体に収容されることから、体圧分散構造体の運送及び搬入等の作業がより効率的に実行される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-238705号公報
【特許文献2】実用新案登録第3184215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、インナーマット(圧力分散マット)を構成するポリウレタンを保護し、耐久性を向上させるために、インナーマット(圧力分散マット)を熱可塑性ウレタンエラストマーフィルムで覆ってもよいとしているものの、同フィルムによって生じ得るハンモック現象を起因とする褥瘡(床ずれ)を抑制するにはどのようにすればよいか、との観点は言及されていない。
【0008】
また、特許文献2では、マットレスが、複数のクッション部と、それらに積層される1枚の支持部と、クッション部と支持部を被覆するマットレスカバー部から構成される場合を前提とし、分割された複数のクッション部をそれぞれ単に圧縮するとしているのみであり、特許文献1と同様に、ハンモック現象を起因とする褥瘡(床ずれ)を抑制するにはどのようにすればよいか、との観点は言及されていない。特に、保護カバーに関する言及はない。
【0009】
本発明は上述のような課題に鑑み、ハンモック現象を軽減することで体圧分散性能を向上させることが可能なマットレス用の保護カバー及びマットレスを提供することを目的とする。また、副次的に、保護カバーによってインナーマットを保護するとともに、圧縮梱包材として活用することによって運送費の削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の第1の観点は、マットレス用の保護カバーであって、静止型又は圧切替型のインナーマットと、前記インナーマットを被覆するマットレスカバーとの間において前記インナーマットを覆って配置され、前記インナーマットの断面全周Aに対し一定の余裕分を加えた断面全周Bを有し、滑り性を有する素材をもって形成される、ことを特徴とする。
【0011】
(2)上記(1)の構成において、前記保護カバーの前記断面全周Bが前記インナーマットの前記断面全周Aに対し、少なくとも+10cm以上の余裕分を有してもよい。
【0012】
(3)上記(1)の構成において、前記保護カバーの前記断面全周Bが前記インナーマットの前記断面全周Aに対し、少なくとも+4%以上の余裕分を有してもよい。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの構成において、前記保護カバーは、袋状、筒状及びシート状から選択される形状をもって形成されてもよい。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つの構成において、前記保護カバーは、前記インナーマットが静止型の場合、前記インナーマットを覆った状態で圧縮され、かつ、前記保護カバーの周縁部が封止されることにより、前記インナーマットの圧縮梱包材とされ、前記周縁部に開封用の切込みを有してもよい。
【0015】
(6)上記(1)から(4)のいずれか1つの構成において、前記保護カバーは、前記インナーマットが静止型の場合、前記インナーマットを覆った状態で圧縮され、かつ、前記保護カバーの周縁部が封止されることにより、前記インナーマットの圧縮梱包材とされ、前記周縁部の一部に前記周縁部を二重に形成した重複部を有してもよい。
【0016】
(7)本発明の第2の観点は、マットレスであって、静止型又は圧切替型のインナーマットと、前記インナーマットを被覆するマットレスカバーと、前記インナーマットと前記マットレスカバーとの間において前記インナーマットを覆って配置される保護カバーと、を備え、前記保護カバーが、前記インナーマットの断面全周Aに対し一定の余裕分を加えた断面全周Bを有し、滑り性を有する素材をもって形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハンモック現象を軽減することで体圧分散性能を向上させることが可能なマットレス用の保護カバー及びマットレスを提供することができる。また、副次的に、保護カバーによってインナーマットを保護するとともに、圧縮梱包材として活用することによって運送費の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】マットレスカバーにおけるハンモック現象を説明する図である。
【
図2】マットレスカバーの滑りと身体に生じる褥瘡との関係を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る保護カバーを説明する図であって、(a)は斜視図を、(b)は断面図を、それぞれ示す。
【
図4】保護カバーの形状の例を説明する図であって、(a)は袋状を、(b)は筒状を、(c)はシート状を、それぞれ示す。
【
図5】保護カバーについて、実施例の試験結果(通常時圧切替形体圧低減の評価値の最大値P1[kPa])を示すグラフである。
【
図6】保護カバーについて、実施例の試験結果(過荷重時圧切替形体圧低減の評価値の最大値P3[kPa])を示すグラフである。
【
図7】体圧測定データを説明する図であって、(a)は保護カバーがない場合を、(b)は保護カバーがある場合を、(c)は体圧のランクを、それぞれ示す。
【
図8】体圧測定データを被験者が仰臥位の姿勢を取る場合について説明する図であって、インナーマットの硬さ(ハード、ふつう、ソフト、超ソフト)に応じて(a),(c),(e)及び(g)は保護カバーがない場合を、(b),(d),(f)及び(h)は保護カバーがある場合を、それぞれ示す。
【
図9】体圧測定データを被験者が膝立の姿勢を取る場合について説明する図であって、インナーマットの硬さ(ハード、ふつう、ソフト、超ソフト)に応じて(a),(c),(e)及び(g)は保護カバーがない場合を、(b),(d),(f)及び(h)は保護カバーがある場合を、それぞれ示す。
【
図10】保護カバーを圧縮梱包材とする場合を説明する図であって、(a)は保護カバーによってインナーマットを梱包する前の状態を、(b)は梱包した状態を、(c)はプレスした状態を、それぞれ示す。
【
図11】インナーマットの汚れ防止を説明する図であって、(a)は従来のメッシュカバーの場合を、(b)は保護カバーの場合を、それぞれ示す。
【
図12】運送時の出荷形態を説明する図であって、(a)は従来の圧縮梱包をしない場合を、(b)は保護カバーによって圧縮梱包をした場合を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ符号を付している。
【0020】
(実施形態)
まず、
図3及び
図4を用いて、本実施形態に係るマットレス100用の保護カバー30について、説明する。
図3は、保護カバー30を説明する図であって、
図3(a)は斜視図を、
図3(b)は断面図を、それぞれ示す。
図4は、保護カバー30の形状の例を説明する図であって、
図4(a)は袋状を、
図4(b)は筒状を、
図4(c)はシート状を、それぞれ示す。なお、
図3以降において、各要素間の間隔などの寸法は実寸と相似ではなく概念的に図示されているので留意されたい。
【0021】
(保護カバー30の全体概要)
保護カバー30は、
図3(a)に示すように、インナーマット10と、インナーマット10を被覆するマットレスカバー20(二点鎖線表示)との間においてインナーマット10を覆って配置されている。保護カバー30の開口部31は、インナーマット10が挿入された後に、溶着などの手段により封止される。
図3(a)では、保護カバー30として、頭側が開口され(開口部31)足元側が閉鎖されている袋状の態様を図示しているが、後述するように、インナーマット10を覆う保護カバー30の形状は、これに限られない。
【0022】
また、
図3(a)では、インナーマット10として、ウレタンフォームによって構成されている静止型(マットレスと身体との接触面積を増加させることによって,身体による荷重を分散させることを目的とした体圧分散マットレス)の態様を図示しているが、インナーマット10はエアセル又はエアセルとウレタンフォームを組合せた圧切替型(セルによって身体による荷重を分散させるとともに,セル内の圧力を周期的に変動させて身体の保持部位を移動させることによって,身体の特定箇所における体圧を変動させることを目的とした体圧分散マットレス)の態様によって構成されてもよい(以下、同様)。
【0023】
図3(b)は、
図3(a)の断面(横断面)を示しており、保護カバー30の断面全周Bがインナーマット10の断面全周Aよりも大きい(B>Aの関係となる)ことを示している。すなわち、保護カバー30は、インナーマット10の断面全周Aに対し、一定の余裕分(ゆとり)を加えた断面全周Bを有する。これは、保護カバー30は、インナーマット10にフィットした状態で配置されているわけではなく、断面方向に“余裕分(ゆとり)のあるサイズ”を有していることを表している。また、保護カバー30は、インナーマット10及びマットレスカバー20との間において摩擦で引っ掛からないようにするため、滑り性を有する素材をもって形成される。
【0024】
保護カバー30の形状は、前述したとおり、
図3(a)に示した袋状のもの(
図4(a)参照)以外にも、筒状のもの(
図4(b)参照)や、シート状のもの(
図4(c)参照)でもよい。筒状のものである場合には、保護カバー30の頭側の開口部31と足元側の開口部32の両方が、インナーマット10が挿入された後に、溶着などの手段により封止される。シート状のものである場合には、図示されているように、インナーマット10の表側及び側面を覆うようにしてもよいし、あるいは、表裏2枚のシート状のものでインナーマット10を挟んだり、又は、1枚のシート状のものでインナーマット10を包んだりするようにしてもよい。いずれの場合も、周縁部33が溶着などの手段により封止される。
【0025】
(ハンモック現象の軽減)
マットレス100におけるマットレスカバー20によるハンモック現象については、上記したように、滑り性を有する保護カバー30が、インナーマット10と、インナーマット10を被覆するマットレスカバー20との間においてインナーマット10を覆って配置されることにより、軽減される。保護カバー30の材質としては、例えば、ポリウレタン(PU)フィルム、ポリ塩化ビニール(PVC)フィルムなどの滑り性の良い素材を採用することができ、これにより、インナーマット10とマットレスカバー20が摩擦で引っ掛かってマットレスカバー20が突っ張った状態にならず、マットレスカバー20の滑りが良くなることで、身体にかかるずれ力も軽減することができる(
図2参照)。
【0026】
マットレス100における保護カバー30によるハンモック現象については、保護カバー30が、インナーマット10に対して一定の余裕分(ゆとり)を加えることにより、軽減される。“余裕分(ゆとり)のあるサイズ”は、保護カバー30に使用する材質、厚みなどによって異なるが、詳しくは実施例として後述するが、例えば、次のように設定することができる。
【0027】
保護カバー30がポリウレタン(PU)フィルムで形成され、厚みを30μmとした場合、保護カバー30の断面全周Bはインナーマット10の断面全周Aに対して、+12cm以上/+5%以上とすることが望ましい。また、保護カバー30がポリ塩化ビニール(PVC)フィルムで形成され、厚みを140μmとした場合、保護カバー30の断面全周Bはインナーマット10の断面全周Aに対して、+10cm以上/+4%以上とすることが望ましい。両者をまとめると、保護カバー30の断面全周Bはインナーマット10の断面全周Aに対し、少なくとも+10cm以上/+4%以上とすることが望ましい。
【0028】
ただし、余裕分(ゆとり)を大きくしすぎると、保護カバー30がマットレスカバー20内でシワになって寝心地を阻害してしまったり、マットレスカバー20にファスナーなどがある場合、ファスナーに噛み込まれるおそれがでてきたり(取扱性)するなどの現象が発生してしまうため、あまり大きくしすぎないことが望ましい。
【0029】
また、同様の理由から、保護カバー30は、伸縮性に優れていることが望ましい。インナーマット10に対して伸縮性がないと、荷重が加わった際に、突っ張った状態になり、ハンモック現象が発生してしまうことを防止するためである。なお、保護カバー30の厚みが薄い方が伸縮性が良いため、厚みの薄い素材の方が望ましい。
【0030】
保護カバー30は、マットレス100の各所においてハンモック現象を低減させるために、インナーマット10を部分的に覆うだけでなく、インナーマット10の全体を覆うことが望ましい。全体を覆うことにより、インナーマット10の全体を汚染(失禁・血液・薬剤など)から保護することにもつながる。
【0031】
保護カバー30は、インナーマット10に取り付けた状態で圧縮し、保護カバー30の開口部31(態様により、開口部32又は周縁部33)を封止することで圧縮梱包材としても利用可能である。この点については、項を改めて後述する。
【0032】
(実施例)
保護カバー30のサイズ検証、すなわち、保護カバー30の断面全周Bにインナーマット10の断面全周Aに対してどの程度の余裕分(ゆとり)を加えることが適正であるかについて、検証した。
【0033】
検証は、以下の内容に基づいて実施した。
・[保護カバー30]材質:ポリウレタン(PU)フィルム。厚み:30μm。
・[マットレス100]出願人の自社製品である「オスカー(登録商標)」のハイブリッドタイプ(上段がマイクロエアセルで下段がウレタンフォームのインナーマット10を有する圧切替型マットレス)。横幅:91cm。前後長:193cm。インナーマット10の断面全周A:212cm。
・[試験方法及び試験条件]JIS T 9256-3 2016(在宅用床ずれ防止用具-第3部:圧切替形マットレス)に従う。
【0034】
試験結果は、
図5及び
図6に示すとおりである。
図5は、保護カバー30について、試験結果(通常時圧切替形体圧低減の評価値の最大値P1[kPa])を示すグラフ、
図6は、保護カバー30について、試験結果(過荷重時圧切替形体圧低減の評価値の最大値P3[kPa])を示すグラフである。上記したJISの定めに従い、通常時とは負荷質量8kgを印加したときの測定値、過荷重時とは負荷質量23kgを印加したときの測定値である。
【0035】
図5において、図中、上部に示されている横方向点線は保護カバー30がない場合の最大圧力値8.3kPaを、下部に示されている横方向点線は保護カバー30がある場合の最大圧力値7.9kPaを、それぞれ示している。
図6において、図中、上部に示されている横方向点線は保護カバー30がない場合の最大圧力値8.4kPaを、下部に示されている横方向点線は保護カバー30がある場合の最大圧力値7.6kPaを、それぞれ示している。
【0036】
試験結果を考察すると、
図5及び
図6に示すように、保護カバー30の断面全周Bが224cm以上になると、通常時の最大圧力値P1及び過荷重時の最大圧力値P3ともにほぼ変動しない。これにより、体圧分散性能を最大限発揮しようとすると、断面全周Bが224cm以上の保護カバー30が望ましいと考えられる。
図5及び
図6に示すように、断面全周Bは232cm程度まで採用可能である。ここで、インナーマット10の断面全周Aが212cmであることから、保護カバー30の断面全周Bは、インナーマット10の断面全周Aに対し+12cm以上++20cm以下の余裕分(ゆとり)有することが望ましいとこととなる。これを割合で示すと、保護カバー30の断面全周Bは、インナーマット10の断面全周Aに対し+5%以上+9%以下の余裕分(ゆとり)を有することが望ましいこととなる。ただし、前述したように、余裕分(ゆとり)が大きすぎると寝心地や取扱性が損なわれるので、断面全周Bは224cm程度(すなわち、余裕分(ゆとり)+12cm/+5%程度)がより望ましい。
【0037】
厚み140μmのポリ塩化ビニール(PVC)フィルムを保護カバー30として同様の試験を行った場合、厚みに対応して伸縮性がポリウレタン(PU)フィルムよりも相対的に低下するため、保護カバー30の断面全周Bは、インナーマット10の断面全周Aに対し+10cm以上の余裕分(ゆとり)を有することが望ましいとの結果が得られている。これを割合で示すと、保護カバー30の断面全周Bは、インナーマット10の断面全周Aに対し+4%以上の余裕分(ゆとり)を有することが望ましいこととなる。
【0038】
以上の検証結果をまとめると、保護カバー30の材質や厚みによって余裕分(ゆとり)は若干変動するが、保護カバー30の断面全周Bは、インナーマット10の断面全周Aに対し、少なくとも+10cm以上の余裕分(ゆとり)を有することが望ましいこと、割合としては、少なくとも+4%以上の余裕分(ゆとり)を有することが望ましいことが分かった。
【0039】
次に、インナーマット10の断面全周Aに対し+12cm以上の余裕分(ゆとり)有するポリウレタン(PU)フィルムの保護カバー30について、それがない場合とある場合の体圧分散を検証するため、以下の内容に基づいて体圧分布を測定した。
・[保護カバー30]材質:ポリウレタン(PU)フィルム。厚み:30μm。断面全周B:224cm(インナーマット10の断面全周Aに対して+12cm/+5%)
・[マットレス100]出願人の自社製品である「オスカー(登録商標)」のハイブリッドタイプ(上段がマイクロエアセルで下段がウレタンフォームのインナーマット10を有する)。横幅:91cm。前後長:193cm。インナーマット10の断面全周A:212cm。
・[試験方法及び試験条件]測定機器:ドイツABW社製 体圧分布測定装置 エルゴチェック。被験者:年齢27歳、男性、身長176cm、体重62kg、BMI(ボディマス指数):20.02
【0040】
図7は、体圧測定データを説明する図であって、測定した体圧分布のうち、マットレス100(インナーマット10)の硬さ設定をソフトとした場合のデータを例として示しており、
図7(a)は保護カバー30がない場合を、
図7(b)は保護カバー30がある場合を、それぞれ示す。
図7(c)は体圧のランクI~VIを示しており、ランクI:3~7mmHg、ランクII:7~17mmHg、ランクIII:17~25mmHg、ランクIV:25~33mmHg、ランクV:33~40mmHg、ランクVI:40~50mmHgとなっている。
図7に示すように、
図7(b)の方が
図7(a)よりも臀部付近のランクIIIの面積が狭く、保護カバー30を装着した場合の方が、臀部付近の体圧が低いことが読み取れる。
【0041】
図8及び
図9は、
図7の結果を含め、測定された体圧測定データの全部を示しており、
図8は被験者が仰臥位の場合を、
図9は被験者が膝立の場合を、それぞれ示す。両図とも、インナーマット10の硬さ「ハード、ふつう、ソフト、超ソフト」に応じて、(a)、(c)、(e)及び(g)は保護カバー30がない場合を、(b)、(d)、(f)及び(h)は保護カバー30がある場合を、それぞれ示している。
図8及び
図9とも、被験者の臀部付近の最大圧力を対比して評価しており、結果は以下のとおりであった。なお、図中、臀部付近を囲むように小さい枠と大きい枠が表示されているが、以下に示す数値は、大きい枠の範囲での最大圧力である。
【0042】
・
図8における臀部付近の最大圧力(mmHg)
[インナーマット10の硬さ設定「ハード」]
図8(a):28.3
図8(b):26.4 最大圧力差:1.9
[インナーマット10の硬さ設定「ふつう」]
図8(c):27.3
図8(d):25.2 最大圧力差:2.1
[インナーマット10の硬さ設定「ソフト」]
図8(e):22.1
図8(f):20.0 最大圧力差:2.1
[インナーマット10の硬さ設定「超ソフト]」
図8(g):20.0
図8(h):18.4 最大圧力差:1.6
[最大圧力差の平均]
1.925
【0043】
・
図9における臀部付近の最大圧力(mmHg)
[インナーマット10の硬さ設定「ハード」]
図9(a):37.1
図9(b):37.2 最大圧力差:-0.1
[インナーマット10の硬さ設定「ふつう」]
図9(c):35.9
図9(d):35.7 最大圧力差:0.2
[インナーマット10の硬さ設定「ソフト」]
図9(e):37.1
図9(f):35.2 最大圧力差:1.9
[インナーマット10の硬さ設定「超ソフト]」
図9(g):42.1
図9(h):39.8 最大圧力差:2.3
[最大圧力差の平均]
1.075
【0044】
上記の体圧測定データをみると、
図9の[インナーマット10の硬さ設定「ハード」]の設定において、保護カバー30がある場合(
図9(b))の最大圧力が保護カバー30がない場合(
図9(a))の最大圧力を上回っているが、それ以外はすべて、保護カバー30がある場合の最大圧力が保護カバー30がない場合の最大圧力を下回っている。これにより、インナーマット10の断面全周Aに対して+12cm/+5%の余裕分(ゆとり)を有する断面全周Bの保護カバー30の有用性が確認できた。なお、上記の測定は、圧切替型のマットレス100(インナーマット10)を用いて行ったが、試験条件を同じとすることにより、静止型のマットレス100でも同様の結果が得られるものと合理的に把握される。
【0045】
(保護カバー30兼用の圧縮梱包材)
上記したように、保護カバー30は、マットレス100(インナーマット10)が圧切替型であっても静止型であっても適用可能であるが、マットレス100(インナーマット10)が静止型である場合、保護カバー30を圧縮梱包材として好適に活用できる。
【0046】
[背景技術]で述べたように、マットレス100(インナーマット10)が静止型の場合、その耐久年数は一般的に3年程度とされている。ウレタンフォームは、その復元力低下や空気中の水分や汚染物の影響により、劣化していくことが多い。また、静止型のマットレス100はサイズが大きく運送費が高くなってしまう。そこで、マットレス100が静止型である場合、インナーマット10を汚れから守るとともに、運送時の圧縮梱包材として保護カバー30を活用する。
【0047】
図10は、保護カバー30を圧縮梱包材とする場合を説明する図であって、
図10(a)は保護カバー30によってインナーマット10を梱包する前の状態を、
図10(b)は梱包した状態を、
図10(c)はプレスした状態を、それぞれ示す。ここでは、袋状の保護カバー30を示しているが、圧縮梱包材として活用する場合の形状や態様はこれに限られることなく、前述した各種のものを適用することができる。
【0048】
保護カバー30は、インナーマット10を覆った状態で圧縮され、かつ、保護カバー30の開口部31(態様により、開口部32又は周縁部33)が封止されることにより、インナーマット10の圧縮梱包材とされる。圧縮の方法としては既知の種々の手段を用いればよく、例えば、機械的なプレスでも、真空梱包でも、その手段は問わない。
【0049】
図11は、インナーマット10の汚れ防止を説明する図であって、
図11(a)は従来のメッシュカバーの場合を、
図11(b)は保護カバー30の場合を、それぞれ示す。
図11(a)に示すように、メッシュカバーの場合、メッシュ生地のため、汚れがインナーマット10まで付着する。これに対し、ポリウレタン(PU)フィルム、ポリ塩化ビニール(PVC)フィルムなどの素材によって形成された保護カバー30でインナーマット10を密閉することで、インナーマット10の汚れを防止できる。保護カバー30の周縁部には、保護カバー30からインナーマット10を取り出す際の便宜のため、開封用の切込み34が設けられている。切込み34があると、工具を用いないで開封することができる。なお、切込み34に代えて、保護カバー30の周縁部の一部に周縁部を二重に形成した重複部を設けておき、開封時に重複部にハサミ等の工具を用いて切込みを入れるようにしてもよい。切込み34及び重複部いずれにおいても、切断することによって空気が流入して保護カバー30及びインナーマット10が膨張する。
【0050】
図12は、運送時の出荷形態を説明する図であって、(a)は従来の圧縮梱包をしない場合を、(b)は保護カバー30によって圧縮梱包をした場合を、それぞれ示す。マットレス100の従来の出荷形態にあたっては、
図12(a)に示すように、運送時の包装用の紙袋40にマットレス100(インナーマット10。例えば、厚みは12cm)を1台入れ、出荷している。これに対し、保護カバー30を圧縮梱包材として活用した場合には、
図12(b)に示すように、紙袋40にマットレス100(圧縮したインナーマット10。例えば、圧縮後の厚みは5cm)を2台入れ、出荷することができる。
【0051】
以上のように、保護カバー30でインナーマット10を覆うことでインナーマット10の保護性が向上し、使用者のもとでマットレス100が不要になった場合、インナーマット10を回収してリサイクル&リユースが可能となる。また、インナーマット10を圧縮することにより、2台1個口で出荷でき、運送費の削減をもたらすことができる。
【0052】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0053】
10…インナーマット
20…マットレスカバー
30…保護カバー
31…開口部(保護カバー頭側の)
32…開口部(保護カバー足元側の)
33…周縁部(保護カバーの)
34…切込み(保護カバーの)
40…紙袋(運送時の包装用)
100…マットレス