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  • 特開-既存の瓦屋根の補強工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051405
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】既存の瓦屋根の補強工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220324BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20220324BHJP
   E04D 1/30 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
E04G23/02 G
E04G23/03
E04D1/30 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157858
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】595031731
【氏名又は名称】株式会社神清
(74)【代理人】
【識別番号】100150533
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 雅登
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昭範
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA23
2E176BB01
2E176BB25
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】既存の瓦屋根を活かした耐震及び耐風補強を、最小限の加工の手間と安価な費用で行うことができる工法を提供すること。
【解決手段】既存の瓦屋根10において、平部13の軒瓦16の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材15を水平方向に留め付け、平部13のけらば瓦17の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材15を軒棟方向に留め付け、平部13の任意の水平方向の桟瓦14の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材15を水平方向に留め付けた工法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の瓦屋根において、
棟部の長手方向の両側の最下段ののし瓦の側面に接しながら、最下段ののし瓦の直ぐ下の瓦の上から野地板に対して一対の棒状部材を棟部の長手方向に沿って留め付けたことを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法。
【請求項2】
棟部の冠瓦とのし瓦との葺き重ねられた境界部分と共に、
のし瓦同士の葺き重ねられた境界部分を接着剤によって固定することを特徴とする請求項1記載の既存の瓦屋根の補強工法。
【請求項3】
前記一対の棒状部材同士を、金属線によって、棟部の冠瓦とのし瓦とを跨ぐように締め付けながら結ぶことを特徴とする請求項1又は2記載の既存の瓦屋根の補強工法。
【請求項4】
既存の瓦屋根において、
平部の軒瓦の上から野地板に対して棒状部材を水平方向に留め付け、
平部のけらば瓦の上から野地板に対して棒状部材を軒棟方向に留め付け、
平部の任意の水平方向の桟瓦の上から野地板に対して棒状部材を水平方向に留め付けたことを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法。
【請求項5】
上から棒状部材を留め付けていない平部の桟瓦同士の葺き重ねられた境界部分を接着剤によって固定することを特徴とする請求項4記載の既存の瓦屋根の補強工法。
【請求項6】
平部の任意の桟瓦の上から野地板に対してパッキン付きビスを留め付けたことを特徴とする請求項4又は5記載の既存の瓦屋根の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の瓦屋根の耐震及び耐風補強の工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、瓦の水返し凸部に設けられた釘孔に釘を通して、この釘により瓦を瓦桟又は野地板に固定する際に、釘頭と瓦表面の間に介在する金具であって、釘孔が設けられた固定部と、下側に瓦表面を押圧する押圧部を備えた腕部とからなることを特徴とする瓦用耐風補強金具がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の瓦用耐風補強金具は、瓦の表面を腕部の押圧部及び固定部の二点で押さえることができるため、耐風性能が向上し、瓦頭側から風が侵入して瓦に浮力が発生した場合でも、この浮力に耐えて瓦の浮き上がりや飛散を防止することができた。
しかし、既存の瓦屋根に対しては、瓦用耐風補強金具を瓦に施工することが困難であるという問題があった。
【0004】
その他の従来の技術として、既存の屋根の上に軒棟方向に沿って所定間隔毎に桟木を並設し、隣り合う各桟木間に断熱材を配置し、桟木及び断熱材にて構成される新規の屋根下地材の上に波瓦を葺設して新規の屋根を形成する工法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記の工法は、老朽化あるいは地震や台風等の災害によって屋根部分が破損した場合でも、既存の屋根上に既存の屋根を残すようにして新規の屋根を、断熱性及び通気性を持たせた上で構築することができた。
【0006】
しかし、上記の工法は、破損した既存の屋根上に既存の屋根を残すようにして新規の屋根を構築し直すものであり、既存の瓦屋根を活かした上で耐震及び耐風補強を施すものではないため、大変な手間が発生すると共に、構築費用が高価となる問題があった。
【0007】
さらにその他の従来の技術として、既設の瓦屋根の瓦同士の葺き重ねられた境界部分をコーキングによって接着して固定するラバーロック工法がある。
このラバーロック工法は、瓦同士を接着して固定することにより、瓦屋根全体を補強することができたが、瓦と野地板との留め付けの補強がほとんど期待できないことから、地震や台風等の災害時に、瓦の大部分が一緒に野地板からずれるほか、めくり上がるなどの問題が発生することが予想された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-138370号公報
【特許文献2】特開平9-125604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するため、既存の瓦屋根を活かした耐震及び耐風補強を、最小限の加工の手間と安価な費用で行うことができる工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の課題解決手段は、既存の瓦屋根において、棟部の長手方向の両側の最下段ののし瓦の側面に接しながら、最下段ののし瓦の直ぐ下の瓦の上から野地板に対して、補強部材としての一対の棒状部材を棟部の長手方向に沿って留め付けたことを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法である。
【0011】
本発明の第2の課題解決手段は、本発明の第1の課題解決手段であって、棟部の冠瓦とのし瓦との葺き重ねられた境界部分と共に、のし瓦同士の葺き重ねられた境界部分を接着剤によって固定することを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法である。
【0012】
本発明の第3の課題解決手段は、本発明の第1又は第2の課題解決手段であって、前記一対の棒状部材同士を、金属線によって、棟部の冠瓦とのし瓦とを跨ぐように締め付けながら結ぶことを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法である。
【0013】
本発明の第4の課題解決手段は、既存の瓦屋根において、平部の軒瓦の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材を水平方向に留め付け、平部のけらば瓦の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材を軒棟方向に留め付け、平部の任意の水平方向の桟瓦の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材を水平方向に留め付けたことを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法である。
【0014】
本発明の第5の課題解決手段は、本発明の第4の課題解決手段であって、上から棒状部材を留め付けていない平部の桟瓦同士の葺き重ねられた境界部分を接着剤によって固定することを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法である。
【0015】
本発明の第6の課題解決手段は、本発明の第4又は第5の課題解決手段であって、平部の任意の桟瓦の上から野地板に対してパッキン付きビスを留め付けたことを特徴とする既存の瓦屋根の補強工法である。
【0016】
なお、本発明の第1~6の課題解決手段の各種瓦は、日本工業規格(JIS)の粘土がわら(A5208)に規定されたものを対象に含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の課題解決手段は、棟部の長手方向の最下段ののし瓦の側面を補強部材としての一対の棒状部材で挟むと同時に、最下段ののし瓦の直ぐ下の瓦の上から野地板に対して補強部材としての一対の棒状部材を棟部の長手方向に沿って留め付けたことにより、棟部全体が強固に補強され、棟部の耐震性及び耐風性を高めることができる。
【0018】
また、例え、地震や台風等の災害によって、棟部の一部が破損した場合でも、棒状部材を応急処置の下地として使うことができる。
例えば、破損箇所を覆うために、棒状部材を下地として使い、養生シート(ブルーシートなど)等を留め付けて、簡単に破損箇所を養生することができる。
その際、棒状部材に安全帯のランヤード(胴綱)を引っかけることもできるので、作業員の屋根からの落下を防いで安全に作業をすることができる。
【0019】
本発明の第2の課題解決手段は、棟部の冠瓦とのし瓦との葺き重ねられた境界部分と共に、のし瓦同士の葺き重ねられた境界部分を接着剤によって固定することから、棟部全体をいっそう補強することができ、いっそう棟部の耐震性及び耐風性を高めることができる。
【0020】
本発明の第3の課題解決手段は、前記一対の棒状部材同士を、金属線によって、棟部の冠瓦とのし瓦とを跨ぐように締め付けながら結ぶことから、棟部全体をいっそう補強することができ、いっそう棟部の耐震性及び耐風性を高めることができる。
【0021】
本発明の第4の課題解決手段は、平部の軒瓦、けらば瓦、及び桟瓦の上から野地板に対して補強部材としての棒状部材を留め付けたことにより、平部全体が強固に補強され、平部の耐震性及び耐風性を高めることができる。
【0022】
また、例え、地震や台風等の災害によって、平部の一部が破損した場合でも、棒状部材を応急処置の下地として使うことができる。
例えば、破損箇所を覆うために、棒状部材を下地として使い、養生シート(ブルーシートなど)、板材、波板等を留め付けて、簡単に破損箇所を養生することができる。
その際、棒状部材に安全帯のランヤード(胴綱)を引っかけることもできるので、作業員の屋根からの落下を防いで安全に作業をすることができる。
【0023】
本発明の第5の課題解決手段は、上から棒状部材を留め付けていない平部の桟瓦同士の葺き重ねられた境界部分を接着剤によって固定することから、棒状部材を上から留め付けていない平部の桟瓦についてもしっかりと補強することができ、いっそう平部の耐震性及び耐風性を高めることができる。
【0024】
本発明の第6の課題解決手段は、平部の任意の桟瓦の上から野地板に対してパッキン付きビスを留め付けたことにより、平部全体をいっそう補強することができ、いっそう平部の耐震性及び耐風性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の棟部の斜視説明図である。
図2】本発明の棟部のけらば側から見た正面説明図である。
図3】本発明の平部の一部の斜視説明図である。
図4】本発明の平部の一部の養生シートにより養生した様子の斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明の既存の瓦屋根10の棟部11の補強工法を説明する(図1、2参照)。
【0027】
棟部11の補強工法は、棟部11の長手方向の両側の最下段ののし瓦12の側面Aに接しながら、最下段ののし瓦12の直ぐ下の平部13の桟瓦14の上から野地板(図示しない。以下同じ。)に対して、補強部材としての一対の棒状部材15、15である木の角材を、ステンレス製のビスによって留め付けたものである。
【0028】
なお、棒状部材15の留め付けは、ステンレス製のビスによるものに限定されることなく、その他の留め付け用の金具であっても良い。
【0029】
また、棒状部材15である木の角材は、防腐処理が施されていることが望ましい。
なお、棒状部材15である木の角材は、安価であり、入手し易く、軽量であり、更に加工がし易いため、補強部材として最適な材料である。
【0030】
また、棒状部材15は、木の角材に限定されることなく、材質にも関係なく、棒状の形状であって一定の強度を持つものであれば良く、アングルや平板などであっても良い。
【0031】
なお、上記の工法に加えて、棟部11の冠瓦18とのし瓦12との葺き重ねられた境界部分Bと共に、のし瓦12同士の葺き重ねられた境界部分Bを接着剤によって固定して補強しても良い。
【0032】
なお、上記の工法に加えて、前記一対の棒状部材15、15同士を、金属線(銅線、ステンレス線等)によって、棟部11の冠瓦18とのし瓦12とを跨ぐように締め付けながら、きつく結んで補強しても良い(図示しない)。
【0033】
次に、本発明の既存の瓦屋根10の平部13の補強工法を説明する(図3参照)。
【0034】
平部13の補強工法は、平部13の軒瓦16の桟山部(瓦表面の一番高く盛り上がった部分。以下同じ。)の上から、野地板に対して、補強部材としての棒状部材15である木の角材を、水平方向にステンレス製のビスによって留め付け、更に平部13のけらば瓦17の桟山部の上から、野地板に対して、補強部材としての棒状部材15である木の角材を、軒棟方向にステンレス製のビスによって留め付け、更に平部13の水平方向の桟瓦14の桟山部の上から、野地板に対して、補強部材としての棒状部材15である木の角材を、水平方向にステンレス製のビスによって留め付けたものである。
【0035】
なお、棒状部材15の留め付けは、ステンレス製のビスによるものに限定されることなく、その他の留め付け用の金具であっても良い。
【0036】
また、棒状部材15である木の角材は、防腐処理が施されていることが望ましい。
なお、棒状部材15である木の角材は、安価であり、入手し易く、軽量であり、更に加工がし易いため、補強部材として最適な材料である。
【0037】
また、棒状部材15は、木の角材に限定されることなく、材質にも関係なく、棒状の形状であって一定の強度を持つものであれば良く、アングルや平板などであっても良い。
【0038】
なお、平部13の桟瓦14についての望ましい補強工法としては、平部13の各水平方向のすべて(軒棟方向の各段における水平方向のすべて)の桟瓦14の桟山部の上から、野地板に対して、棒状部材15である木の角材を、水平方向にステンレス製のビスによって留め付けたものであるが、任意の水平方向の桟瓦14の桟山部の上から、野地板に対して、棒状部材15である木の角材を、水平方向にステンレス製のビスによって留め付けたものとしても良い。
【0039】
また、上記の工法では、例え、地震や台風等の災害によって、平部の一部が破損した場合でも、棒状部材15を応急処置の下地として使用し、ブルーシートのような養生シートS(板材、波板等でも良い)を、ステンレス製のビスによって棒状部材15に留め付けて、簡単に破損箇所を養生することができる(図4参照)。
【0040】
なお、上記の工法に加えて、上から補強部材としての棒状部材15を留め付けていない平部13の桟瓦14に対しては、それらの桟瓦14同士の葺き重ねられた境界部分Bを接着剤によって固定して補強しても良い。
【0041】
なお、上記の工法に加えて、平部13の任意の桟瓦14の上から野地板に対してパッキン付きビスを留め付けて補強しても良い(図示しない)。
【0042】
次に、本発明の既存の瓦屋根の棟部の補強工法の棟部耐震性能試験(鉛直回転法)の結果について説明する。
【0043】
棟部耐震性能試験(鉛直回転法)の条件は以下のとおりである(表1参照)。
なお、試験方法は「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」第2編第2章標準試験による。
【0044】
【表1】
【0045】
棟部耐震性能試験(鉛直回転法)の結果、本発明の既存の瓦屋根の棟部の補強工法は、脱落を認めず、耐震性の高いことが立証された。
【0046】
次に、本発明の既存の瓦屋根の棟部の補強工法を施さない一般的な棟部の棟部耐震性能試験(鉛直回転法)の結果について説明する。
【0047】
棟部耐震性能試験(鉛直回転法)の条件は以下のとおりである(表2参照)。
なお、試験方法は「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」第2編第2章標準試験による。
【0048】
【表2】
【0049】
棟部耐震性能試験(鉛直回転法)の結果、本発明の既存の瓦屋根の棟部の補強工法を施さない一般的な棟部は、棟全体が脱落し、耐震性の低いことが立証された。
【0050】
次に、本発明の既存の瓦屋根の平部の補強工法の耐風圧性能試験(150サイクル法)の結果について説明する。
【0051】
耐風圧性能試験(150サイクル法)の条件は以下のとおりである(表3参照)。
なお、試験方法は「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」第2編第2章標準試験並びに建設省(現国土交通省)告示第1454号及び第1458号に規定された数値及び構造計算規定による。
また、試験瓦の有効瓦枚数は16枚とする。
【0052】
【表3】
【0053】
耐風圧性能試験(150サイクル法)の結果、本発明の既存の瓦屋根の平部の補強工法は、異常を認めず、耐風性の高いことが立証された。
【0054】
次に、本発明の既存の瓦屋根の平部の補強工法の別の耐風圧性能試験(150サイクル法)の結果について説明する。
【0055】
耐風圧性能試験(150サイクル法)の条件は以下のとおりである(表4参照)。
なお、試験方法は「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」第2編第2章標準試験並びに建設省(現国土交通省)告示第1454号及び第1458号に規定された数値及び構造計算規定による。
また、試験瓦の有効瓦枚数は16枚とする。
【0056】
【表4】
【0057】
耐風圧性能試験(150サイクル法)の結果、本発明の既存の瓦屋根の平部の補強工法は、異常を認めず、耐風性の高いことが立証された。
【0058】
よって、以上の棟部耐震性能試験(鉛直回転法)及び耐風圧性能試験(150サイクル法)の結果から、本発明の既存の瓦屋根の棟部及び平部の補強工法は、耐震性及び耐風性が高いものであることが立証された。
【符号の説明】
【0059】
10 瓦屋根
11 棟部
12 のし瓦
13 平部
14 桟瓦
15 棒状部材
16 軒瓦
17 けらば瓦
18 冠瓦
A のし瓦の側面
B 境界部分
S 養生シート
図1
図2
図3
図4