(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051429
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】溶融物送りパイプの通路区画構造、及び、金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/00 20060101AFI20220324BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20220324BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
C25C7/00 302B
C25C3/04
C25C7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157909
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 純也
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA21
4K058BA05
4K058BA10
4K058BB05
4K058CB05
4K058CB19
4K058CB27
4K058DD03
4K058DD06
4K058DD11
4K058DD27
4K058FA03
(57)【要約】
【課題】塩化マグネシウムの供給時や金属マグネシウムの回収時における溶融塩電解槽内への外気の流入に起因する陽極の損傷を良好に抑制することができる、溶融物送りパイプの通路区画構造、及び、金属マグネシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の通路区画構造は、溶融塩電解槽1に設けられ、前記溶融塩電解槽1の内部に、外部から挿入される溶融物送りパイプ51の通路12を区画する通路区画構造11であって、内側に前記通路12が区画される筒状の本体部13と、前記本体部13の軸方向の一端側で前記外部に位置する開閉端部14と、前記本体部13の軸方向の他端側で前記内部の溶融浴に浸漬される開口端部15と、前記本体部13を前記溶融塩電解槽1に連結する連結部16と、前記本体部13に設けられた通気口17a、17bとを備えるものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解槽に設けられ、前記溶融塩電解槽の内部に、外部から挿入される溶融物送りパイプの通路を区画する通路区画構造であって、
内側に前記通路が区画される筒状の本体部と、前記本体部の軸方向の一端側で前記外部に位置する開閉端部と、前記本体部の軸方向の他端側で前記内部の溶融浴に浸漬される開口端部と、前記本体部を前記溶融塩電解槽に連結する連結部と、前記本体部に設けられた通気口とを備える通路区画構造。
【請求項2】
前記通気口にそれぞれ接続され、不活性ガス供給源に接続されるガス供給管、及び、前記本体部の内側を外気と連通させる連通管をさらに備え、
前記ガス供給管及び前記連通管のそれぞれがバルブを含む請求項1に記載の通路区画構造。
【請求項3】
前記開閉端部に取り付けられ、当該開閉端部の開放及び密閉が可能なカバー部をさらに備える請求項1又は2に記載の通路区画構造。
【請求項4】
前記連結部が、前記本体部の外周面から該外周面の周方向の少なくとも一部で外周側に延びるフランジ状を有し、
前記本体部が、前記溶融塩電解槽の蓋体に設けられる貫通穴を通って配置され、フランジ状の前記連結部が、当該貫通穴の周囲の周縁部に連結される請求項1~3のいずれか一項に記載の通路区画構造。
【請求項5】
溶融塩電解槽内にて、塩化マグネシウムを含む溶融塩の溶融浴で塩化マグネシウムを電気分解し、該電気分解により金属マグネシウムを製造する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の通路区画構造を備える溶融塩電解槽を用いる、金属マグネシウムの製造方法。
【請求項6】
前記通路区画構造を使用していないとき、前記開閉端部が閉塞した状態で、前記本体部の内側に不活性ガスが充満している不活性ガス充満工程を含む、請求項5に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【請求項7】
前記本体部の内側から前記溶融塩電解槽の内部に挿入した溶融物送りパイプ内に、溶融物の塩化マグネシウムを送って通し、溶融浴に塩化マグネシウムを供給する塩化マグネシウム供給工程、及び/又は、
前記本体部の内側から前記溶融塩電解槽の内部に挿入した溶融物送りパイプ内に、溶融浴に含まれる溶融物の金属マグネシウムを吸引して通し、金属マグネシウムを回収する金属マグネシウム回収工程
を含む、請求項5又は6に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【請求項8】
塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程が、
前記通気口を介して前記本体部の内側を外気と連通させること、
前記開閉端部を開放し、前記本体部の内側に溶融物送りパイプを挿入すること、
前記溶融物送りパイプ内に溶融物を通すこと、及び、
前記本体部の内側から溶融物送りパイプを取り出し、前記開閉端部を閉塞させること
をこの順序で含む、請求項7に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【請求項9】
塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程が、
前記溶融物送りパイプ内に溶融物を通した後であって前記開閉端部を閉塞させる前、又は、前記開閉端部を閉塞させた後、前記本体部の内側に不活性ガスを供給することをさらに含む、請求項8に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【請求項10】
塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程で、溶融物送りパイプの先端部を、前記開口端部よりも溶融浴の深い位置まで浸漬させる、請求項7~9のいずれか一項に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩電解槽を用いた溶融塩電解で使用される溶融物送りパイプの通路区画構造、及び、金属マグネシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロール法による金属チタンの製造では、四塩化チタンに溶融状態の金属マグネシウムを接触させ、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元することにより、スポンジチタン塊を生成させる。スポンジチタン塊は破砕により粒状等のスポンジチタンとした後、チタンインゴット等の鋳造に用いられる。
【0003】
四塩化チタンの還元に用いられる金属マグネシウムは、たとえば四塩化チタンの還元で副次的に生成される塩化マグネシウムを原料とする溶融塩電解により得ることができる。溶融塩電解では、溶融塩電解槽内にて塩化マグネシウムを含む溶融塩を溜めて溶融浴とし、陽極及び陰極を含む電極により溶融浴中の塩化マグネシウムを金属マグネシウムと塩素とに分解する。これにより生成された金属マグネシウムは、溶融塩との密度差によって溶融浴の浴面側に浮上した後に回収される。
【0004】
この金属マグネシウムは、特に溶融状態では大気中の酸素や窒素と反応しやすい。そして、酸素や窒素との反応で生成される酸化物や窒化物は、当該金属マグネシウムを四塩化チタンの還元に用いた際にスポンジチタンに移行することがあり、さらにその後に得られるチタンインゴットに混入すると、その機械的特性を悪化させる。したがって、金属マグネシウムの酸化及び窒化はできる限り抑制することが求められる。
【0005】
これに関連して、特許文献1には、「溶融塩電解槽にて製造された溶融金属マグネシウムや溶融塩化マグネシウムを次工程に移送する間に大気との接触を極力回避し、その結果酸化物や窒化物の混入のない純度の高い金属マグネシウムを製造することのできる方法およびこれを実施するために好適な溶融マグネシウムの抜き出し装置の提供、および、前記溶融金属マグネシウムの製造原料である塩化マグネシウムを還元工程から電解工程に移送する間の純度低下を効果的に抑制できる抜き出し装置および方法の提供を目的としている。」と記載されている。そして、特許文献1では、「溶融塩電解槽または溶体受入容器から溶体を抜き出すための溶体抜き出しノズルと、上記抜き出しノズルから溶体を受け入れる溶体移送容器との接続部をシールした溶体抜き出し装置であって、上記溶体抜き出しノズルの先端部には、接続フランジと接続管が接続され、また、上記接続管の下端部は、上記溶体移送容器に設けた溶体受入ノズルと嵌合して接続するように構成され、前記嵌合部を覆うようにシールカバーが配設されていることを特徴とする溶体抜き出し装置」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶融塩電解槽は、通常蓋体で内部が密閉されているが、溶融浴に塩化マグネシウムを供給する際や、電気分解により生成された金属マグネシウムを回収する際に溶融物送りパイプを挿入するため、一時的かつ部分的に蓋体が開放されることがある。このとき、溶融塩電解槽内に酸素を含む大気(外気)が流入し、これが原因となって黒鉛製の陽極を損傷させるという問題があった。即ち、溶融塩電解槽内への大気(外気)の流入は、金属マグネシウムの酸化物や窒化物の生成だけでなく、黒鉛製の陽極を損傷させるという問題も発生させうる。
【0008】
特許文献1に記載された「溶体抜き出し装置」は、金属マグネシウムの回収中やその後の保管時に金属マグネシウムへの酸化物及び窒化物の混入を抑制できるので有用である。但し、溶融物送りパイプをセットするとき、外部の環境に対して負圧とすることが多い溶融塩電解槽の内部を開放するので、開放部から溶融塩電解槽内に外気が流入しこれが原因となって陽極を損傷しうる。特許文献1に記載された技術は、この点で更なる改善の余地がある。
【0009】
この発明の目的は、塩化マグネシウムの供給時や金属マグネシウムの回収時における溶融塩電解槽内への外気の流入に起因する陽極の損傷を良好に抑制することができる、溶融物送りパイプの通路区画構造、及び、金属マグネシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は鋭意検討の結果、溶融塩電解槽に、溶融物送りパイプを通すための通路区画構造を設けることを案出した。この通路区画構造では、一端側の開閉端部と、溶融浴に浸漬させた他端側の開口端部との間で内部を密閉可能とし、さらに当該内側の雰囲気を調整できるようにする。これにより、溶融塩電解槽の内部への外気の流入を抑制しつつ、溶融物送りパイプを溶融塩電解槽の内部に挿入して塩化マグネシウムの供給や金属マグネシウムの回収を行うことができる。
【0011】
この発明の通路区画構造は、溶融塩電解槽に設けられ、前記溶融塩電解槽の内部に、外部から挿入される溶融物送りパイプの通路を区画する通路区画構造であって、内側に前記通路が区画される筒状の本体部と、前記本体部の軸方向の一端側で前記外部に位置する開閉端部と、前記本体部の軸方向の他端側で前記内部の溶融浴に浸漬される開口端部と、前記本体部を前記溶融塩電解槽に連結する連結部と、前記本体部に設けられた通気口とを備えるものである。
【0012】
この発明の通路区画構造では、前記通気口にそれぞれ接続され、不活性ガス供給源に接続されるガス供給管、及び、前記本体部の内側を外気と連通させる連通管をさらに備え、前記ガス供給管及び前記連通管のそれぞれがバルブを含むことが好ましい。
【0013】
また、この発明の通路区画構造では、前記開閉端部に取り付けられ、当該開閉端部の開放及び密閉が可能なカバー部をさらに備えることが好ましい。
【0014】
この発明の通路区画構造では、前記連結部が、前記本体部の外周面から該外周面の周方向の少なくとも一部で外周側に延びるフランジ状を有するものとすることができる。この場合、前記本体部が、前記溶融塩電解槽の蓋体に設けられる貫通穴を通って配置され、フランジ状の前記連結部が、当該貫通穴の周囲の周縁部に連結されることが好適である。
【0015】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、塩化マグネシウムを含む溶融塩の溶融浴で塩化マグネシウムを電気分解し、該電気分解により金属マグネシウムを製造する方法であって、上記のいずれかの通路区画構造を備える溶融塩電解槽を用いるというものである。
【0016】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、前記通路区画構造を使用していないとき、前記開閉端部が閉塞した状態で、前記本体部の内側に不活性ガスが充満している不活性ガス充満工程を含むことが好ましい。
【0017】
また、この発明の金属マグネシウムの製造方法は、前記本体部の内側から前記溶融塩電解槽の内部に挿入した溶融物送りパイプ内に、溶融物の塩化マグネシウムを送って通し、溶融浴に塩化マグネシウムを供給する塩化マグネシウム供給工程、及び/又は、前記本体部の内側から前記溶融塩電解槽の内部に挿入した溶融物送りパイプ内に、溶融浴に含まれる溶融物の金属マグネシウムを吸引して通し、金属マグネシウムを回収する金属マグネシウム回収工程を含むことが好ましい。
【0018】
より詳細には、塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程は、前記通気口を介して前記本体部の内側を外気と連通させること、前記開閉端部を開放し、前記本体部の内側に溶融物送りパイプを挿入すること、前記溶融物送りパイプ内に溶融物を通すこと、及び、前記本体部の内側から溶融物送りパイプを取り出し、前記開閉端部を閉塞させることをこの順序で含むことがより一層好ましい。
【0019】
さらにここでは、塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程が、前記溶融物送りパイプ内に溶融物を通した後であって前記開閉端部を閉塞させる前、又は、前記開閉端部を閉塞させた後、前記本体部の内側に不活性ガスを供給することをさらに含むことが好適である。
【0020】
また、塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程では、溶融物送りパイプの先端部を、前記開口端部よりも溶融浴の深い位置まで浸漬させることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
この発明の溶融物送りパイプの通路区画構造及び、金属マグネシウムの製造方法によれば、塩化マグネシウムの供給時や金属マグネシウムの回収時における溶融塩電解槽内への外気の流入に起因する陽極の損傷を良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の一の実施形態の通路区画構造を備える溶融塩電解槽の一例を示す、溶融浴の深さ方向に沿う断面図である。
【
図3】
図1の溶融塩電解槽の通路区画構造を拡大して示す断面図である。
【
図4】他の実施形態の通路区画構造を示す断面図である。
【
図5】
図3の通路区画構造の本体部の内側から溶融塩電解槽の内部に溶融物送りパイプを挿入した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に例示する溶融塩電解槽1には、この発明の一の実施形態の通路区画構造11が設けられている。この通路区画構造11は、溶融塩電解槽1の内部に、外部から挿入される後述の溶融物送りパイプの通路12を区画するものである。より詳細には、通路区画構造11は、内側に通路12が区画される筒状の本体部13と、本体部13の軸方向(
図1では上下方向)の一端側(
図1では上方側)で溶融塩電解槽1の外部に位置する開閉端部14と、本体部13の軸方向の他端側(
図1では下方側)で溶融塩電解槽1の内部の溶融浴に浸漬される開口端部15と、本体部13を溶融塩電解槽1に連結する連結部16と、本体部13に設けられた通気口17a、17bとを備える。
【0024】
(溶融塩電解)
図1に示す溶融塩電解槽1は、たとえば主としてAl
2O
3等の耐火煉瓦その他の適切な材料からなる容器形状を有し、その内部に貯留された塩化マグネシウムを含む溶融塩等で構成される溶融浴で、溶融塩中の塩化マグネシウムの電気分解を行うものである。
【0025】
溶融塩電解槽1を用いて行う溶融塩電解では、塩化マグネシウムの電気分解により、
図1に示すように、溶融金属として金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、ガスとして塩素(Cl
2)が発生する。溶融塩電解で生成された金属マグネシウムは、金属チタンを製造するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。この電気分解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0026】
溶融浴中の溶融塩には、上記の塩化マグネシウム(MgCl2)の他、支持塩が含まれ得る。この支持塩は、塩化マグネシウムと混合した際に晶出温度を低下させ、かつ、粘度を低下させる電解質を意味する。支持塩は具体的には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化カルシウム(CaF2)からなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。晶出温度とは、二種類以上の電解質からなる溶融塩を液体の状態から温度を下げたときに、ある一種類の電解質成分が固体として析出し始める晶出という現象が起きる温度をいう。溶融塩が一種類だけである場合、液体の状態から温度を下げたときに、凝固点で全体が固体となるため、晶出温度は凝固点、すなわち融点に相当する。なお、電気分解で塩化マグネシウムを優先的に分解させるため、支持塩としては、塩化マグネシウムより分解電圧が高い電解質を用いることが一般的である。
【0027】
図示の溶融塩電解槽1は、実質的に深さ方向(
図1の上下方向)に沿って配置されて、内部を電解室2aと回収室2bに区画する隔壁3と、電解室2aに設けられ、溶融浴の深さ方向と平行に並べて配置される部分を有する陽極4a及び陰極4bを含む電極4と、溶融塩電解槽1の上方側の開口部を覆蓋する蓋体5とを備えるものである。なお、溶融塩電解槽1はさらに、図示しないが、回収室2b等に配置されて、溶融浴の温度調整を行う熱交換器としての温度調整管等を備えることがある。
【0028】
ここで、溶融塩電解槽1の内部は、隔壁3により、
図1の右側に位置して電極4が配置された電解室2aと、左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた金属マグネシウムが流れ込んで該金属マグネシウムが溶融塩との密度差により上方側に溜まる回収室2bとに区画される。この隔壁3は具体的には、溶融塩電解槽1の上方側開口を覆蓋するための蓋体5に近接させて配置される。これにより、溶融塩電解槽1の下方側の底部との間に、回収室2bから電解室2aへの溶融浴の移動を可能にする溶融塩循環路3aが形成される。また、隔壁3の上方側に設けた溶融金属流路3bにより、電解室2aから回収室2bへの金属マグネシウムの流入が可能になる。
【0029】
またここで、電解室2aに配置された電極4は、少なくとも、図示しない電源等に接続された陽極4a及び陰極4bを有する。これらの陽極4a及び陰極4bにより、MgCl2→Mg+Cl2の反応に基づいて、陽極4aの表面で酸化反応により塩素ガスを生じさせるとともに、陰極4bの表面で還元反応により金属マグネシウムを生成させる。
【0030】
電極4は、少なくとも陽極4a及び陰極4bを有するものであれば、溶融塩中の塩化マグネシウムの電気分解を行うことができる。一方、電気分解の生成効率向上等の観点より、
図2に示すところから解かるように、陽極4aと陰極4bとの間に、電源に接続されておらず陽極4a及び陰極4b間への電圧の印加によって分極する一枚以上、たとえば二枚のバイポーラ電極4cをさらに有することが好ましい。但し、このようなバイポーラ電極4cは必ずしも必要ではない。なお、陽極4a、陰極4bの下部には、必要に応じて、耐火煉瓦等の絶縁部材を設けることができる。
【0031】
図示の溶融塩電解槽1を用いた場合の溶融塩電解では、溶融浴の対流により、
図1に示すように、回収室2bから底部側の溶融塩循環路3aを経て電解室2aに流動した溶融塩中の塩化マグネシウムが電気分解される。これにより、電解室2aで金属マグネシウムが溶融状態で生成される。そしてこの金属マグネシウムは、隔壁3の浴面Sb側の溶融金属流路3bを通って回収室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい金属マグネシウムは、回収室2bの浅い箇所に浮上して、そこに溜まることになる。回収室2bで浮上した金属マグネシウムは、図示しないポンプ等により回収することができる。なおこの際には、後述する溶融物送りパイプ51を使用することができる。したがって、これによれば、塩化マグネシウムを含む溶融塩から金属マグネシウムを製造することができる。それとともに塩素ガスが得られる。
【0032】
(通路区画構造)
上述した溶融塩電解槽1では、溶融塩電解を行っている間、内部は一般に蓋体5で密閉される。それ故に通常は、溶融塩電解槽1の内部には外気がほぼ流入しない。また、塩化マグネシウムの電気分解で生成した塩素ガスの漏洩が防止される。
但し、溶融塩電解の最中に、電気分解が進行するに伴って消費される溶融浴中の塩化マグネシウムを補給するときや、電気分解で生成されて回収室2bの浴面Sb側に溜まる金属マグネシウムを回収するときは、塩化マグネシウムの供給や金属マグネシウムの回収に用いる溶融物送りパイプを、溶融塩電解槽1の外部から内部に挿入することが必要になる。多くの場合は、電気分解により生成する塩素ガスの外部への漏出を防ぐ目的等で、溶融塩電解槽1の内部は若干の減圧雰囲気にすることから、溶融物送りパイプを挿入する際の開放で外気が溶融塩電解槽1の内部に引き込まれやすい。従来は、溶融塩電解槽1の陽極4aの浸漬部分の減肉が生じることがあった。溶融物送りパイプを挿入する際の開放で溶融塩電解槽内に外部から酸素が入り込み、この酸素により生成される酸化マグネシウムと、塩素ガスと、溶融浴に浸漬された陽極4aを構成する黒鉛(C)とが反応して、当該黒鉛が一酸化炭素になって陽極の浸漬部分の減肉が生じると考えられ、さらには該減肉により電気抵抗が上昇し電力ロスが増えると考えられる。
【0033】
この問題に対処するため、この実施形態では、
図1及び3に示すように、溶融塩電解槽1に、その内部に溶融物送りパイプの通路12を区画する通路区画構造11を設ける。通路区画構造11は、
図1に示すように、溶融塩電解槽1のなかでも蓋体5に設けることが、設置が容易であって利便性に優れるので望ましい。
【0034】
通路区画構造11は、詳細については後述するが、溶融物送りパイプ用の通路12を区画する他、本体部13の軸方向(
図1、3では上下方向)の一端側(
図1、3では上端側)の開閉端部14を閉塞できるとともに、他端側(
図1、3では下端側)の開口端部15を、溶融浴の浴面Sbで密封できる。本体部13の内側がアルゴンガス等の不活性ガスで充満しているときは、溶融浴の浴面Sbは本体部13が浸漬している部分で深く位置することとなる。また通路区画構造11は、本体部13に設けた通気口17a、17bにより、本体部13の内側の雰囲気を調整することができる。
このような通路区画構造11を用いて溶融物送りパイプを挿入することにより、その際の溶融浴中の金属マグネシウムの酸化及び窒化を良好に抑制することができる。
【0035】
この通路区画構造11は、回収室2b上の蓋体5に設けた貫通穴5aを通って、溶融塩電解槽1の内外にわたり溶融浴の深さ方向と実質的に平行に延びる筒状の本体部13を備えるものとしている。本体部13の内部には、溶融物送りパイプが溶融塩電解槽1の内部に挿入された際に通る通路12が区画されている。この実施形態では本体部13は1層の筒状のものとしているが、部分的に又は全体にわたって多層の構造の筒状のものを採用することも可能である。
【0036】
そして、本体部13の軸方向の一端側には、溶融塩電解槽1の外部に位置して開閉可能な開閉端部14を設けるとともに、他端側には、溶融浴に浸漬させて位置させる開口端部15を設けている。
【0037】
ここで、開閉端部14は、図示は省略するが、たとえば、通路区画構造11に含まれない板状等の部材を載せて配置することにより閉塞させることも可能である。一方、図示の実施形態では、開閉端部14の開放及び密閉が可能な板状等のカバー部18を開閉端部14に取り付けており、通路区画構造11が当該カバー部18を備えるものとしている。カバー部18と開閉端部14との間には、カバー部18による閉塞時のそれらの間の隙間からの気体の通流を抑えるための図示しないシール部材を設けることが好適である。
【0038】
またここで、開口端部15は、溶融塩電解槽1の内部に溶融浴を形成したときに、溶融浴の浴面Sbよりも深い位置に配置されるものとする。これにより、本体部13の内側の通路12は、溶融塩電解槽1の内部の空間1aから遮断される。溶融塩電解槽1は図示省略の塩素ガス回収口を備えており、溶融塩電解槽1の内部の空間1aは常時外部環境に対して負圧になっている。開口端部15が溶融浴の浴面Sbよりも深い位置に配置されることで、通路12内が内部の空間1aから区画されるので、通路12内にアルゴンガス等の不活性ガスを充填することが可能となる。たとえば、溶融浴の深さ方向で、蓋体5の下面から開口端部15の端面までの距離Deが、蓋体5の下面から溶融塩電解槽1の回収室2bの底面2cまでの距離の10%以上であれば、一般的な溶融浴電解で溶融塩電解槽1の内部に溶融浴を構成したときに、開閉端部14が当該溶融浴に十分に浸漬するものと認められる。開口端部15は、溶融浴の浴面Sb付近における金属マグネシウムの貯留領域内に位置させることが好ましい場合がある。
【0039】
連結部16は、本体部13を、溶融塩電解槽1の蓋体5もしくは周囲の壁部等に取り付けることができれば、その具体的な形状や構造は特に問わない。図示の実施形態では、本体部13に、その外周面から外周側に延びるフランジ状の連結部16を設けている。そして、本体部13は、蓋体5に設けた平面視が円形状等の貫通穴5aを通って設けられており、連結部16は、その貫通穴5aの周囲の円環状等の周縁部に当接し、そこに、ねじ等の任意の締結手段で取り付けられ得る。ここでは、通路区画構造11の当該連結箇所での溶融塩電解槽1の内部と外部との間の気体の通過を抑制するため、フランジ状の連結部16は、本体部13の外周側で貫通穴5aを覆うように蓋体5上に配置されることが好ましい。
【0040】
連結部16は、本体部13の外周面の周方向の少なくとも一部で、外周面から蓋体5に延びるものであれば、本体部13を溶融塩電解槽1に連結することができる。仮に連結部16が、外周面の全周にわたって形成された円環その他の環状のものとしたときは、その連結部16で、蓋体5と本体部13との間の隙間を密閉することができる。あるいは、連結部16を、たとえば本体部13の外周面の周方向の複数箇所に設けた棒状等のものとする場合、蓋体5と本体部13との間の隙間を密閉するためのフード等のシール部材等を別途設けることができる。
【0041】
連結部16は、本体部13を溶融塩電解槽1から取外し可能に連結するものとしてもよいが、そこから溶融塩電解槽1内への外気の流入をより一層抑制するとの観点からは、本体部13を溶融塩電解槽1から取外しできないように強固に連結するものであることが好ましい。
【0042】
また、通路区画構造11の本体部13には、必要に応じて不活性ガスその他の気体を通すための通気口17a、17bを設けている。通気口17a、17bは、本体部13の内側の雰囲気の調整に用いられ得る。図示の実施形態では、二個の通気口17a及び17bはそれぞれ、図示しない不活性ガス供給源に接続されるガス供給管19a及び、本体部13の内側を外気と連通させる連通管19bに接続されている。炭素鋼もしくはステンレス鋼製等のガス供給管19a及び連通管19bのそれぞれの途中には、そこを流れるガスの流量を制御する各バルブ20a、20bが設けられている。但し、図示は省略するが、通気口は一個又は三個以上とすることも可能であり、一個の場合は、途中で分岐する管を用いる等してガスが同じ通気口を通るようにすることもできる。この場合であっても、前記分岐する管の少なくとも一つをガス供給管とし不活性ガス供給源を接続すれば前記通気口から不活性ガスを本体部13の内側に供給することができる。また、前記分岐する管の少なくとも一つを本体部13の内側を外気と連通させる連通管とすることもできる。
【0043】
ところで、通路区画構造は、その本体部を、溶融塩電解槽との連結部に対して可動にすることもできる。その一例として、
図4に示す他の実施形態の通路区画構造31は、上述した通路区画構造11とほぼ同様の、通路32を有する本体部33、開閉端部34、カバー部38、開口端部35並びに、通気口37a及び37bを備えるが、連結部36の変更により、本体部33を溶融浴の深さ方向に動かすことができるようにしたものである。
【0044】
より詳細には、
図4の通路区画構造31では、連結部36は、本体部33の外周面に隣接して位置し、本体部33よりも軸方向の長さの短い外側筒体36aと、外側筒体36aを溶融塩電解槽1の蓋体5に連結する連結部材36bとを含む。そして、本体部33は、外側筒体36aに対して軸方向にスライドできるように構成されている。これにより、たとえば、後述する塩化マグネシウム供給工程と金属マグネシウム回収工程とで、本体部33の開口端部35の深さ方向の位置を、それらの各工程に応じた位置に変更することが可能になる。
【0045】
(金属マグネシウムの製造方法)
金属マグネシウムを製造するには、
図1に示すような溶融塩電解槽1内にて、先述したように、塩化マグネシウムを含む溶融塩で塩化マグネシウムを電気分解し、それにより、金属マグネシウムを生成させる。ここで、塩化マグネシウムを補給のために溶融浴に供給する際や、電気分解で生成した金属マグネシウムを回収する際に、上述したような通路区画構造11が使用され得る。なお、
図1に示すような溶融塩電解槽1は、通路区画構造11が設置された貫通穴5aの他に、回収室2b側の蓋体5に図示省略の開閉可能の貫通穴をさらに有するものであってもよい。このような構造の場合、例えば、溶融浴への塩化マグネシウムの供給及び溶融浴に含まれる金属マグネシウムの回収の一方の作業を通路区画構造11を使用して行い、他方の作業を通路区画構造11を設置していない貫通穴にて実施できる。なお、前記塩化マグネシウムの供給の作業は前記金属マグネシウムの回収の作業よりも実施頻度が高いことがあるので、少なくとも前記塩化マグネシウムの供給の作業を通路区画構造11を使用して実施することとしてよい。
【0046】
通路区画構造11を使用しないときは、たとえば、
図3に示すように開閉端部14を閉塞させた状態で、ガス供給管19aのバルブ20aを開いて通気口17aを介して、不活性ガスを本体部13の内側に予め供給しておく。これにより、通路区画構造11を使用していないときの少なくとも所定の期間は、不活性ガス充満工程として、本体部13の内側に不活性ガスを充満させておくことができる。なおこのとき、本体部13の内側からの不活性ガスの流出を防ぐため、連通管19bのバルブ20bは閉鎖させておくことが望ましい。不活性ガス充満工程の間は、塩化マグネシウムの電気分解が継続して行われ得る。
本体部13の内側は溶融浴の浴面Sb側の金属マグネシウムが入り込むことが起こり得るが、不活性ガスを充満させておくことにより、金属マグネシウムの入込みとそこでの金属マグネシウムの固化を抑制することができる。
図3に示すところでは、本体部13内に充満した不活性ガスにより本体部13の内圧が上昇し、それにより、本体部13の配置部分では浴面Sbの位置が開口端部15の端面の位置まで下がっている。この場合、浴面Sb付近の金属マグネシウムが本体部13内に入り込んで固化することを抑制することができる。
【0047】
そして、電気分解が進行して溶融浴中の塩化マグネシウムが消費されたとき等には、溶融浴に塩化マグネシウムを供給して補給することが必要になる場合がある。このような場合には、塩化マグネシウム供給工程を行うことができる。
また、電気分解により生成された金属マグネシウムが回収室2b内の溶融浴の浴面Sb側に溜まってきたときには、金属マグネシウム回収工程を行い、当該金属マグネシウムを回収することができる。
【0048】
このような塩化マグネシウム供給工程や金属マグネシウム回収工程では、
図5に示すような溶融物送りパイプ51を用いて供給や回収を行うところ、この溶融物送りパイプ51を溶融塩電解槽1の内部に挿入するに当っては、同図に示すように、通路区画構造11の本体部13の内側から挿入する。そしてその状態で、塩化マグネシウム供給工程では、図示しない塩化マグネシウム供給源から溶融物送りパイプ51内に溶融物としての塩化マグネシウムを送って通し、溶融浴に塩化マグネシウムを供給する。また、金属マグネシウム回収工程では、溶融物送りパイプ51内に、溶融浴に含まれる溶融物としての金属マグネシウムを吸引して通し、金属マグネシウムを回収する。塩化マグネシウム供給工程や金属マグネシウム回収工程における通路区画構造11の具体的な使用態様の一例については、次に述べるとおりである。
【0049】
塩化マグネシウム供給工程及び/又は金属マグネシウム回収工程では、はじめに、連通管19bのバルブ20bを開き、通気口17bを介して本体部13の内側を外気と連通させる。これにより、たとえば、上記の不活性ガス充満工程にて本体部13の内側に不活性ガスを充満させておいた場合は、本体部13の内側から連通管19bを介して不活性ガスが外部に排出されて、本体部13の内圧を低下させることができる。その結果、次の開閉端部14の開放時に高温の不活性ガスが本体部13の内側から急激に噴出しなくなるので、開閉端部14の開放を安全に行うことができる。
【0050】
次いで、カバー部18を開くこと等により開閉端部14を開放し、本体部13の内側に、
図5に示すように溶融物送りパイプ51を挿入する。このとき、
図5に示すように、溶融物送りパイプ51の先端部を、開口端部15よりも溶融浴の深い位置まで浸漬させることが好ましい。この場合、溶融浴の浴面Sb側の金属マグネシウムが本体部13の内側に入り込んで固化していたとしても、溶融物送りパイプ51を挿入した際に作業者が挿入不良に基づき、そのことに気が付くことが可能である。それにより、後述するように溶融物を溶融物送りパイプ51に通したときに、本体部13の内側での金属マグネシウムの固化による塩化マグネシウム等の溶融物の逆流のおそれを取り除くことができる。
【0051】
なお、電気分解により生成された金属マグネシウムは、回収室2bの溶融浴の浴面Sb付近にある程度の厚みを有する層になって溜まっている。この金属マグネシウムを回収する場合は、溶融物送りパイプ51をそれほど深く浸漬させないほうが良い。但し、金属マグネシウムの回収に際しても溶融物送りパイプ51の先端部を、開口端部15よりも溶融浴の深い位置まで浸漬させることが好ましい。この場合、溶融浴の浴面Sb側の金属マグネシウムが本体部13の内側に入り込んで固化していたとしても、溶融物送りパイプ51を挿入した際に作業者が挿入不良に基づき、そのことに気が付くことが可能である。それにより、溶融物送りパイプ51に接続された図示省略の金属マグネシウム回収容器内に窒素および酸素を含む大気が混入することを抑制できる。即ち、その後に回収する金属マグネシウムの酸化や窒化、または既に回収容器内部に格納されている金属マグネシウムの酸化や窒化を抑制できる。
一方、塩化マグネシウムを供給する場合は、溶融物送りパイプ51を、溶融浴の浴面Sb付近における金属マグネシウムの貯留領域よりも深い位置まで浸漬させることが望ましい。この場合、溶融浴の浴面Sb付近の金属マグネシウムが、溶融物送りパイプ51で供給される塩化マグネシウムに巻き込まれにくくなるので、電流効率の低下を抑制することができる。
【0052】
図示は省略するが、溶融物送りパイプ51の長手方向の途中の外面上には、外周側に向けて延びる円盤状等のフランジ状シール部を設けることができる。この場合、溶融物送りパイプ51を本体部13の内側に挿入した際に、そのフランジ状シール部を開閉端部14に当接させることにより、当該フランジ状シール部と溶融浴の浴面Sbとの間で本体部13の内側を密閉することができる。
【0053】
その後、塩化マグネシウムもしくは金属マグネシウムである溶融物を、溶融物送りパイプ51に通して、塩化マグネシウムの供給又は金属マグネシウムの回収を行う。
さらにその後は、本体部13の内側から溶融物送りパイプ51を取り出し、カバー部18を閉じて開閉端部14を閉塞させる。
【0054】
ここで、溶融物を溶融物送りパイプ51に通すことで塩化マグネシウムの供給又は金属マグネシウムの回収を行った後は、開閉端部14を閉塞させる前又は開閉端部14を閉塞させた後に、バルブ20aを開いて本体部13の内側に不活性ガスを供給することができる。この際には、上述した塩化マグネシウムの供給又は金属マグネシウムの回収時に本体部13の内側に流入し得る外気が、バルブ20bが開いている連通管19b側の通気口17bや、閉塞される前であれば開閉端部14から排出されて、本体部13の内側に入り込んだ外気が不活性ガスで置換される。これに続いて、先述の不活性ガス充満工程が実行される。
【実施例0055】
次に、この発明の通路区画構造を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0056】
(実施例)
図3に示す通路区画構造11を作製し、これを備える溶融塩電解槽1(
図1、2参照)を用いて溶融塩電解を行い、塩化マグネシウムの電気分解により金属マグネシウムを製造した。溶融塩電解の間、塩化マグネシウムを溶融塩電解槽1内の溶融浴に供給する際には、
図5に示すように、溶融物送りパイプ51を、通路区画構造11の内側から溶融塩電解槽1の内部に挿入した状態で、塩化マグネシウムを供給した。
【0057】
塩化マグネシウムの供給では、より詳細には、はじめに、通路区画構造11の通気口17bを介して本体部13の内側を外気と連通させた。次いで、開閉端部14を開放して本体部13の内側に溶融物送りパイプ51を挿入してから、溶融物送りパイプ51内に塩化マグネシウムを通した。その後、本体部13の内側から溶融物送りパイプ51を取り出し、開閉端部14を閉塞させた。溶融物送りパイプ51から塩化マグネシウムを供給した後は、本体部13の内側に不活性ガスを供給した。このように通路区画構造11を使用していないときのほぼ全ての期間では、開閉端部14を閉塞させた状態で、本体部13の内側に不活性ガスを充満させていた。
【0058】
なお溶融塩電解の条件は、次のとおりである。溶融塩電解槽1としては、内壁が耐火煉瓦からなり、電解室2aが2m3、回収室2bが1m3であるものを用いた。電解室2aには、黒鉛製の陽極4a及び炭素鋼製の陰極4bを設置し、それらの陽極4aと陰極4bの間には二枚のバイポーラ電極4cを配置した。溶融浴の浴組成については、MgCl2、CaCl2、NaCl、MgF2がそれぞれ質量比で20%、30%、49%、1%からなる溶融塩とし1年間にわたって運転を行った。
【0059】
溶融塩電解が終了した後、溶融塩電解槽1を解体して陽極4aを取り出し、陽極4aの溶融浴浸漬部について、溶融塩電解を行う前に対する陽極4aの厚みの減少量を評価した。その結果、陽極4aの溶融浴に浸漬させていた部分における最も厚みが減少した箇所で、10μm/日の厚みの減少が確認された。
【0060】
(比較例)
通路区画構造11を備えない溶融塩電解槽を用いたことを除いて、実施例と実質的に同様にして溶融塩電解を行った。溶融浴への塩化マグネシウムの供給は、溶融塩電解槽の回収室上の蓋体を開き、そこから溶融物送りパイプを挿入して行った。
【0061】
溶融塩電解の終了後、陽極の溶融浴に浸漬させていた部分における最も厚みが減少した箇所の厚み減少量は、15μm/日であった。これは、塩化マグネシウムの供給時に蓋体を開いたことにより外部から溶融塩電解槽内に酸素が流入し、陽極の減肉が進んだことによるものと考えられる。
【0062】
以上より、この発明によれば、溶融塩電解槽内での塩化マグネシウムの供給時や金属マグネシウムの回収時における外気の流入に起因する陽極の損傷を良好に抑制できることが解かった。