(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051586
(43)【公開日】2022-04-01
(54)【発明の名称】グラフェン膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/186 20170101AFI20220325BHJP
【FI】
C01B32/186
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157980
(22)【出願日】2020-09-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 応用物理学会秋季学術講演会(開催日: 令和2年9月8日から11日まで) (1)予稿集 9a-Z29-7(発行日 令和2年8月26日、口頭発表日 令和2年9月9日 発行者:公益社団法人応用物理学会) (2)講演の概要 9a-Z29-7(発行日 令和2年7月16日 ウェブ 発行者: 公益社団法人応用物理学会)
(71)【出願人】
【識別番号】517297393
【氏名又は名称】シーズテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】梅野 正義
(72)【発明者】
【氏名】リテシュクマー ビシュワカーマ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD03
4G146AD22
4G146BA12
4G146BC09
4G146BC15
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC26
4G146BC27
4G146BC32B
4G146BC33B
4G146DA16
(57)【要約】
【課題】厚さの制御できる良質なグラフェン膜を得る。
【解決手段】少なくとも炭素と水素とを有する化合物の原料気体を基板上に流し、マイクロ波励起により原料気体のプラズマを生成して、グラフェン膜を製造する方法であって、基板の表面をプラズマの非平衡プラズマの領域に置いて、基板を融解させない電力密度のレーザを照射させながら、グラフェン膜を基板の表面上に横方向に成長させることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素と水素とを有する化合物の原料気体を基板上に流し、マイクロ波励起により前記原料気体のプラズマを生成して、グラフェン膜を製造する方法であって、
前記基板の表面を前記プラズマの非平衡プラズマの領域に置いて、基板を融解させない電力密度のレーザを照射させながら、前記グラフェン膜を前記基板の表面上に横方向に成長させることを
特徴とするグラフェン膜の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ波を放射する導波管に対して、前記基板の距離を調整することで、前記基板の表面に前記非平衡プラズマを照射させることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項3】
前記基板の表面における前記非平衡プラズマの状態は、前記レーザを照射させない場合には前記グラフェン膜が成長しない状態とし、この状態において、前記レーザの電力密度はレーザ照射により前記グラフェン膜が成長する強度に調整されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項4】
前記レーザの電力密度は前記基板の比抵抗を増加させない範囲に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項5】
前記グラフェンの前記基板の表面での成長時には、前記表面には原料元素のラジカルが支配的に存在することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項6】
前記原料気体の供給、前記プラズマの供給、前記レーザを照射した後、前記グラフェンが成長開始する前には、前記グラフェンを成長させないで基板表面を処理する揺籃期を存在させ、該揺籃期が経過した後に前記グラフェンを成長させることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項7】
前記グラフェン膜の厚さは、前記レーザの照射時間又は電力密度で制御されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項8】
前記基板はSi、GaN、又は、SiCであることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のグラフェン膜の製造方法。
【請求項9】
前記基板と前記グラフェン膜とを有する光起電力素子の製造方法において、請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載のグラフェン膜の製造方法を用いることを特徴とする光起電力素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に、レーザを照射しながら、マイクロ波励起プラズマCVDにより、高結晶性のグラファイト膜(以下、「グラフェン」という)を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、ベンゼン環が同一平面内で多数縮合した巨大π共役系である。多層のグラフェンは、単層の単結晶グラフェンが、法線方向に積層されたものである。各層のグラフェンは、弱いファンデルワールス力のみにより引き合っており、このため多層のグラフェンは、各層のグラフェン間(C面)で極めて容易に「完全に」劈開する。良く知られているように、単層のグラフェンを切り取って筒状に結合させたものが「カーボンナノチューブ」であると言える。
【0003】
下記特許文献1のように、グラフェンの膜の成膜方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は基板表面上に直接、グラフェンを成膜する方法である。しかしながら、太陽電池のp層に用いるには、未だ特性が十分ではなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、例えば、光起電力素子(たとえば、太陽電池)に用いることができる特性が良好なグラフェン膜を容易に製造することである。グラフェン膜を光起電力素子に用いる場合には、変換効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも炭素と水素とを有する化合物の原料気体を基板上に流し、マイクロ波励起により原料気体のプラズマを生成して、グラフェン膜を製造する方法であって、基板の表面をプラズマの非平衡プラズマの領域に置いて、基板を融解させない電力密度のレーザを照射させながら、グラフェン膜を基板の表面上に横方向に成長させることを特徴とするグラフェン膜の製造方法である。ここでの非平衡プラズマの物理定数は、基板を溶解させない範囲であれば、限定されないが、例えば、電子温度が3eV以上、20eV以下、イオン温度は300K以上、500K以下、電子密度は1011cm-3以上、1013cm-3以下の範囲である。
【0008】
本発明において、マイクロ波を放射する導波管に対して、基板の距離を調整することで、基板の表面に非平衡プラズマを照射させるようにしても良い。また、基板の表面における非平衡プラズマの状態は、レーザを照射させない場合にはグラフェン膜が成長しない状態とし、この状態において、レーザの電力密度はレーザ照射によりグラフェン膜が成長する強度に調整されることが望ましい。基板の表面における非平衡プラズマの状態は、プラズマの温度、密度等であり、基板と導波管との距離の調整、マイクロ波の電力の調整により実現できる。また、レーザの電力密度は基板の比抵抗を増加させない範囲に設定されることが望ましい。また、グラフェンの基板の表面での成長時には、表面には原料元素のラジカルが支配的に存在することが望ましい。原料気体の供給、プラズマの供給、レーザを照射した後、グラフェンが成長開始する前には、グラフェンを成長させないで基板表面を処理する揺籃期を存在させ、揺籃期が経過した後にグラフェンを成長させるようにしても良い。また、グラフェン膜の厚さは、レーザの照射時間又は電力密度で制御することができる。また、基板はSi、GaN、又は、SiCを用いることができる。また、基板はガラス、その他の絶縁体、半導体としても良い。さらに、基板とグラフェン膜とを有する光起電力素子の製造方法において、上記のグラフェン膜の製造方法を用いても良い。特に、基板にn型Siを用いると、グラフェン膜はp型であるので、ショットキー接合の光起電力素子を得ることができる。
【0009】
基板の温度は150℃以上、600℃以下とすることが望ましい。レーザの波長は任意であるが、波長400nm帯のGaNレーザ、波長1μmのレーザを用いることができる。この時、基板面上にビームを一様に拡大するためにコリメータレンズを使用することが望ましい。レーザの照射角や、照射ビームの本数は任意で良い。また、原料気体には、沸点又は昇華点が100℃以上の有機化合物から得られる気体を用いることができる。また、有機化合物は、分子中に芳香環又は共役π結合を有さず、歪を有する炭素環を有する物質とすることができる。また、有機化合物は、構成元素が炭素、水素及び酸素である物質とすることができる。また、有機化合物は、1分子中の酸素原子が2個以下の物質とすることができる。また、有機化合物は、多環構造を有し、炭素数が20以下の物質とすることができる。また、原料気体には、ショウノウ(樟脳、C10H16O、Camphor)から得られる気体を用いることができる。また、原料気体には、テレビン油、ナフタリンから得られる気体を用いることができる。また、原料気体には、芳香族化合物から得られる気体を用いることができる。芳香族化合物は、芳香族炭化水素、ベンゼンを代表とするベンゼン系芳香族化合物、縮合環芳香族化合物、ベンゾ縮合環化合物、複素芳香族化合物、非ベンゼン系芳香族化合物、芳香族ケトン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ペンタセン、などを用いることができる。
【0010】
また、原料気体にはメタン、エタン、エチレン、アセチレン等の炭化水素を用いても良い。また、基板には、半導体、合成樹脂、セラミックス、又は、ガラスを用いることができる。グラフェン膜はこれらの基板上に直接成膜されることができ、透明導電膜とすることができる。また、グラフェン膜は光起電力素子におけるショットキー障壁を形成する膜であっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、少なくとも炭素と水素とを有する化合物の原料気体を基板上に流し、マイクロ波励起により原料気体のプラズマを生成して、グラフェン膜を製造する方法であって、基板の表面をプラズマの非平衡プラズマの領域に置いて、基板を融解させない電力密度のレーザを照射させながら、グラフェン膜を基板の表面上に横方向に成長させることにより、良質な移動度の高いグラフェン膜を均一一様に厚く形成することができる。また、グラフェン膜と基板とによるショットキー接合光起電力素子(太陽電池)とした場合には、短絡電流を向上させることができる。また、本発明ではレーザの照射時間又は電力密度でグラフェン膜の厚さを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に実施例の製造方法に用いられるグラフェン膜の製造装置を示す構成図。
【
図2】実施例1の製造方法で製造されたグラフェン膜の測定されたラマン分光特性。
【
図3】実施例1の製造方法によるレーザの電力とグラフェン膜の移動度、厚さとの関係を示した測定図。
【
図4】実施例1の製造方法による成長時間とグラフェン膜の厚さとの関係を示した測定図。
【
図5】実施例1の製造方法によるレーザの電力とグラフェン膜の移動度との関係を示した測定図。
【
図6】実施例1の製造方法による揺籃時間とラマン分光の2D線の相対ピーク強度との関係を示した測定図。
【
図7】実施例1の製造方法によるグラフェン膜のラマン分光の2D線の相対ピーク強度とレーザ電力との関係を示した測定図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0014】
図1は本発明に係るグラフェン膜の製造装置100の構成を示す構成図である。
図1に示されるように、製造装置100は、CVD反応容器1と、その上部に配設された導波管2とを有する。CVD反応容器1と導波管2との間には、石英から成るプラズマ励振板3が設けられている。プラズマ励振板3のCVD反応容器1側に面した面には多数の微小な凹部が形成されている。この凹部に電界が集中することにより、凹部がプラズマの発生起点となり、低電力でのプラズマの発生が容易になる。また、CVD反応容器1の内部及び石英ホロー板のプラズマ励振板3をマイクロ波で励振するために導波管2の下部にスロットアンテナ4が設けられている。導波管2には2.45GHzのマイクロ波が供給され、スロットアンテナ4を介して、CVD反応容器1の内部及びプラズマ励振板3に電磁波が供給される。電力1000W、2.45GHzのマイクロ波が導波管2に供給される。
【0015】
CVD反応容器1の内部には、グラフェン膜を成長させる基板5が設置されるサセプタ6及び基板5を加熱するための加熱装置7が設けられている。サセプタ6は上下方向、すなわちプラズマ励振板3に近づいたり遠ざかったりする方向に移動可能に構成されている。これにより、基板5の表面のプラズマに対する位置が調整可能になっている。原料気体はメタン(CH4 )である。キャリアガスはアルゴン(Ar)と水素(H2 )である。ヘリウム(He)を用いても良い。これらのガスはボンベからマスフローコントローラ16により供給量が調整されて、CVD反応容器1の右側に設けられた導入口11からCVD反応容器1内に導入される。CVD反応容器1の左側には、アルゴンガス等のガスを外部へ排出する排出口12が設けられている。CVD反応容器1の内部は、図示しない真空ポンプにより10-3torr程度に減圧できるようになっている。基板温度は500℃とした。
【0016】
CVD反応容器1の外部にレーザ20とレーザビームを拡大するコリメータレンズ21が設けられている。レーザは、CVD反応容器1の壁面に設けられたレーザ20の波長に対して透明な窓部材22を介して、基板5の表面上一様に照射される。レーザ20から出力されたレーザ(波長400~406nm)は、コメリータレンズ21によって、拡散角8度、基板5上のスポット面積は2×1cmに拡大され、基板5に対する入射角が約20度となるように調整されている。レーザは複数のLDの出力光を複数の束ねたファイバーで導き最大出力10Wとした。また、レーザの出力や照射時間を変化させてグラフェンの成膜状態を測定した。レーザの基板5への照射は、一つの方向からとしたが、両側の斜め方向から行っても良い。
【0017】
C CVD反応容器1の内部の圧力は、30~500Paの範囲でグラフェン膜の成膜が可能である。また、温度は、150℃以上、600℃以下の範囲で、グラフェン膜の成膜が可能である。
【0018】
次に、グラフェン膜を基板5上に製造する方法について説明する。基板5には、n型Si基板が用いられた。Si基板の主面の大きさは1cm×1cmである。比抵抗は1Ωcmである。基板5の表面は、アセトン及びメタノール中で超音波洗浄され、その後乾燥され、その基板5はサセプタ6上に設置された。グラフェン膜の製造において、加熱装置7により基板5は加熱されて、基板5の温度は目的温度500℃に設定された。次に、CVD反応容器1の内部にメタン(CH4 )、Ar(Ar)と水素(H2 )の流量がマスフローコントローラ16により制御されて、供給された。CVD反応容器1の内部の圧力は10-3Torrに設定された。次に、電力1000W、2.45GHzのマイクロ波が導波管2に供給され、CVD反応容器1の内部においてメタン、アルゴン気体、水素気体とのプラズマが生成された。マイクロ波の電力は500W~2000Wの範囲とすることができる。特に、基板5の表面上に、これらの気体の表面波プラズマが生成された。
【0019】
基板5の高さは、Si基板の表面が、生成されたプラズマの下方のイオン温度が電子温度よりも遥に低い非平衡プラズマ領域(「マイルドプラズマ」、又は、「コールドプラズマ」ともいう)に位置するように調整された。非平衡プラズマ領域は、たとえば電子密度1013cm-3以下の領域である。一般的には、電子温度が3eV以上、20eV以下、イオン温度は300K以上、500K以下、電子密度は1011cm-3以上、1013cm-3以下の範囲である。非平衡プラズマ領域にSi基板を置いた場合には、Si基板の比抵抗は変化しなかった。一方、比較のためにSi基板を導波管2に近づけて平衡プラズマ(ホットプラズマ)領域においた場合には、100倍の100Ωcmと増加した。Si基板の表面を非平衡プラズマ領域に置いた場合には、グラフェンは成長しなかった。この非平衡プラズマのエネルギーではグラフェンをSi基板上に合成することが不十分であると考えられる。
【0020】
次に、プラズマの生成と同時に、基板5上に、成膜の全期間において、入力電力6W、光スポットの光電力密度3W/cm2 、波長400-406nmのレーザを照射した。これにより、基板5の上で、メタンガス熱分解されて、炭素原子から成るグラフェン膜が基板5上に成膜された。基板5上にグラフェン膜が、所定時間、成長された後、加熱装置7の通電が停止され、基板5の温度は室温まで低下された。
なお、基板5の温度は、150~600℃の範囲の任意の温度にすることができる。また、基板5の温度を150~300℃の低温にしても、良質で広い面積のグラフェン膜を得ることができる。
【0021】
本実施例では、原料気体にメタンを用いた場合において、グラフェン膜の成膜中にレーザを照射することにより、グラフェン膜の結晶性が改善される。原料気体がメタンの場合に効果があるので、エタン、エチレンを原料気体に用いて、レーザを照射してプラズマCVDによりグラフェン膜を成長させた場合も同様な効果が期待される。
【0022】
図2は、上記のように製造されたグラフェン膜のラマン分光特性である。スペクトル幅が狭い、強度の大きいG線が観測され、良質なグラフェン膜が製造されていることが分かる。D線の高調波である2次のラマンスペクトル2Dは、単結晶性が高い程大きく、フォノンとの相互作用が大きい程、その大きさは小さくなる。2Dピークがレーザ電力や照射時間に比例して増加することは、単結晶性の高いグラフェンの厚さがレーザ電力や照射時間に比例して増加していることを意味する。
原料気体がメタンの場合に効果があるので、エタン、エチレンを原料気体に用いて、レーザを照射してプラズマCVDによりグラフェン膜を成長させることができる。
【0023】
なお、基板5の温度は、150~600℃の範囲の任意の温度にすることができる。また、基板5の温度を150~300℃の低温にしても、良質で広い面積のグラフェン膜を得ることができる。
【0024】
レーザの電力を変化させて、グラフェン膜を成膜した時の移動度と厚さを測定した。その結果を
図3に示す。
図3の横軸はレーザの入力電力である。入力電力1Wは、レーザスポットの光電力密度0.5W/cm
2 に相当する。以下、
図5、
図7の横軸もレーザの入力電力である。レーザ照射面でのスポットの光電力密度は、軸の値の1/2W/cm
2 である。入力電力が2W(光スポットの電力密度1W/cm
2 )を越えるとグラフェンの成長が開始する。レーザの電力が大きい程、移動度は大きくなっている。また、厚さもレーザの電力が大きい程、厚くなっていることが分かる。移動度は30cm
2 /Vsが得られている。厚さは3.7nmが得られている。
【0025】
次に、成長時間とグラフェン膜の厚さとの関係を測定した。結果を
図4に示す。レーザの入力電力は6W(光スポットの電力密度3W/cm
2 )とした。1分を過ぎた時からグラフェンの成長が開始した。2~5分の間は比較的緩慢に成長し、5分を経過した時点から成長速度は大きくなった。すなわち、2~3分の間は結晶核形成と横方向成長の期間である。
【0026】
次に、レーザの電力とグラフェンの移動度との関係を測定した。結果を
図5に示す。レーザの入力電力3W(光スポットの電力密度1.5W/cm
2 )を越えると入力電力6W(光スポットの電力密度3W/cm
2 )までは、移動度は徐々に大きくなり、6W以上になると移動度は急激に大きくなった。6Wで移動度は30cm
2 /Vsであったが、6.5W(光スポットの電力密度3.25W/cm
2 )で102cm
2 /Vsが測定された。したがって、本発明方法によると、グラフェン膜の移動度を102cm
2 /Vs以上とすることができる。移動度30cm
2 /Vs~102cm
2 /Vsが実現されている。
【0027】
次に、原料ガスの供給、プラズマの発生、レーザ照射を開始した後、グラフェン膜が成長しない揺籃期の時間と、グラフェン膜のラマン分光の2Dピークとの関係を測定した。結果を
図6に示す。揺籃期の時間を1分以下の場合には、グラフェンは成長しない。揺籃時間を2分以上とするとグラフェン膜は成長する。揺籃時間は2分以上あれば良いことが分かる。
【0028】
次に、レーザの電力と成膜されたグラフェン膜のラマン分光の2D線の相対強度との関係を測定した。結果を
図7に示す。レーザの電力が2W以下ではグラフェンが成長しない揺籃期間である。レーザの入力電力が2W(光スポットの電力密度1W/cm
2 )を越えると電力の大きさに比例して2D線の相対強度が大きくなっている。単結晶性の高いグラフェンが成長していることが分かる。
【0029】
次に、Si基板上にグラフェン膜を上記方法により成長させて、ショットキー接合型の光起電力素子(太陽電池)とした。太陽光100mW/cm2 に換算した時の素子特性は以下の通りである。開放電圧は390mV、短絡電流密度は40mA/cm2 であった。最大出力は、15.6mW/cm2 、曲線因子FFは、45.9%、変換効率は、6.9%であった。
比較のためにSi基板を平衡プラズマ(ホットプラズマ)におき、レーザを照射せずにグラフェン膜を成長させた。開放電圧は350mV、短絡電流は50μAであった。また、Si基板を非平衡プラズマ(マイルドプラズマ)におき、レーザを照射せずにグラフェン膜を成長させた。開放電圧は0mV、短絡電流は0μAであった。すなわち、マイルドプラズマに基板を置いても、レーザを照射しない場合には、グラフェン膜は成長しなかった。