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特開2022-51618電極、電極コーティング剤、電池、導電性部品及び電極の製造方法
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  • 特開-電極、電極コーティング剤、電池、導電性部品及び電極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051618
(43)【公開日】2022-04-01
(54)【発明の名称】電極、電極コーティング剤、電池、導電性部品及び電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220325BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220325BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220325BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20220325BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220325BHJP
   C08G 79/08 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/139
H01M4/1395
H01M10/052
C08G79/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158020
(22)【出願日】2020-09-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「特殊機能高分子バインダー/添加剤を用いたリチウムイオン2次電池用高性能電極系の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100190300
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 修
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】パトナイク サイゴウラング
(72)【発明者】
【氏名】ピンディ ジャヤクマル テジュキルン
【テーマコード(参考)】
4J030
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J030CB02
4J030CB17
4J030CC06
4J030CC16
4J030CD11
4J030CE02
4J030CG01
4J030CG20
5H029AJ01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029HJ02
5H029HJ11
5H029HJ12
5H050AA01
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA09
5H050DA18
5H050EA23
5H050FA04
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA11
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】
本発明は、リチウムイオン電池において、自己修復性電極コーティング剤を利用することにより、理論容量が極めて高いシリコン負極が、安定的に高容量な充電サイクルを産業的に提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明においては、次の式(I)のユニット
-[Si(X)-O-B(Y)-O-]- 式(I)
を有し、置換基X1、X2及びYが、それぞれ独立に、水素、フェニル基等、nは1以上の整数であるポリ(ボロシロキサン)を含有する膜を表面に形成した電極を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を表面に形成した電極。
-[Si(X)-O-B(Y)-O-]- 式(I)
[但し、nは1以上の整数であり、置換基X、X及びYは、それぞれ独立に、水素、フェニル基、若しくはフェニル基であって1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基、アルキル部分が炭素数1~3であるアルコキシ基若しくはハロゲンで置換されたフェニル、ハロゲン、炭素数1~3のアルキル基、若しくは、アルキル部分が炭素数1~3であるアルコキシ基、又は、1以上の水素がハロゲンによって置換された炭素数1~3のアルキル基若しくはアルコキシ基である。]
【請求項2】
式(II)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を表面に形成した電極。
-[(SiX-O)-(BY-O)- 式(II)
[但し、n,a,bは1以上の整数であり、置換基X、Xは、それぞれ独立に、フェニル基、又はフェニル基であって1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基で置換されたフェニル基であり、置換基Yは、1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基で置換されたフェニル基である。]
【請求項3】
膜を表面に形成した電極の表面が、Si又はSiOを含む請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
電極用塗布剤が含有する式(I)のポリボロシロキサンにおいて、
式(I)のポリボロシロキサンの主鎖ユニットにおける
-[(SiX-O)-(BY-O)- 式(II)
の繰り返し単位が、n=20~1,000、aおよびbはそれぞれ独立してユニットごとに定まる1~5の整数である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
式(I)のポリボロシロキサンの重量平均分子量が、Mw=2,000~100,000である請求項1~4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
リチウムイオン電池の負極に塗布して用いる式(I)のポリボロシロキサンを含有する、
式(I)のポリボロシロキサンの主鎖ユニットにおける
-[(Si(X)-O)-(B(Y)-O)
の繰り返し単位が、n=20~1,000、n=20~1,000、aおよびbはそれぞれ独立してユニットごとに定まる1~5の整数である電極コーティング剤。
【請求項7】
式(I)のポリボロシロキサンの重量平均分子量が、Mw=2,000~100,000である請求項6の電極コーティング剤。
【請求項8】
揮発性溶媒を含む、請求項6又は7のいずれか1項に記載の電極コーティング剤。
【請求項9】
電解質と電極を有する構造であり、前記電解質がリチウムイオンを含み、電極のうちの少なくとも1つが、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極である電池。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の電極コーティング剤によりポリボロシロキサンを含有する膜を表面に形成した導電性部品。
【請求項11】
請求項1~5に記載の電極において、式(I)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を重合反応により形成する電極の製造方法。
【請求項12】
請求項1~5に記載の電極において、式(I)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を塗布又はキャストにより形成する電極の製造方法。
【請求項13】
電極が、リチウムイオン電池用の電極である請求項1~5のいずれか1項に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池等に用いる電極、電極用コーティング剤、それらを用いた電池及び導電性部品、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池における固体電解質界面形成は、長期的に電池の良好な性能に不可欠である。しかしながら、高い体積膨張(Si、Snなどのように)を示す電極については、連続的なSEI形成は、電解質含有量を消耗させるだけでなく、電池インピーダンス、従って、内部抵抗を増加させる可能性がある。
従来の商用のリチウムイオンニ次電池用負極の活性物質としてはグラファイトが多年にわたり用いられてきたが、放電容量には限界がある。これを、理論容量が極めて高いシリコン負極に置き換えることが期待されているが、安定的に高容量な充電サイクルを産業的に供する系は見いだされていない。
そうした中、シリコンを充電環境において安定化する自己修復性高分子バインダーの利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
例えば、特許文献1には、不純物の混入が少なく、安定性に優れた高品質のリチウムイオン二次電池用負極のための黒鉛材料を生産性よく低コストで製造できる方法が記載されている。しかし、上述の通り、黒鉛、すなわちグラファイト電極では、放電容量に限界がある。
特許文献1:特開2018-166107
【非特許文献】
【0004】
非特許文献1には、ポリ(ボロシロキサン)の合成法及びその電気的物性が記載されている。
非特許文献1:Electrochemical evaluation of the rapid self-healing behavior of poly(borosiloxane) and its use for corrosion protection of metals, Puhup Puneet, Raman Vedarajan,b, Noriyoshi Matsumi, Electrochemistry Communications 93 (2018) 1-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした中、放電容量の高いシリコンを電極に用いることが検討されているが、シリコンの場合の最大の問題点は充電サイクル中の体積変化が非常に大きい(最大で400Vol%)ことにある。充電中の膨張にシリコン粒子自体が耐え切れずに粒子の破損が起きるほか、シリコン粒子上に形成される固体電解質界面の破壊が起こる。
表面被膜の破壊やシリコン表面のクラッキングが起こると、その部位からさらなる電解質の分解・新たな被膜形成が起こり、厚い被膜の形成につながり内部抵抗の増加、電池性能の低下につながる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の発明者らは、リチウムイオン電池において、自己修復性高分子バインダーを利用することで、高放電容量かつ高安定性を可能にする電極を発明するに至った。
ここで、本発明は、以下の(1)から(14)を含み得る。
(1) 式(I)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を表面に形成した電極。
-[SiX-O-BY-O-]- 式(I)
[但し、nは1以上の整数であり、置換基X、X及びYは、それぞれ独立に、水素、フェニル基、若しくはフェニル基であって1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基、アルキル部分が炭素数1~3であるアルコキシ基若しくはハロゲンで置換されたフェニル、ハロゲン、炭素数1~3のアルキル基、若しくは、アルキル部分が炭素数1~3であるアルコキシ基、又は、1以上の水素がハロゲンによって置換された炭素数1~3のアルキル基若しくはアルコキシ基である。]
(2) 式(II)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を表面に形成した電極。
-[(SiX-O)-(BY-O)-]- 式(II)
[但し、n,a,bは1以上の整数であり、置換基X、Xは、それぞれ独立に、フェニル基、又はフェニル基であって1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基で置換されたフェニル基であり、置換基Yは、1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基で置換されたフェニル基である。]
(3) 膜を表面に形成した電極の表面が、Si又はSiOを含む上記(1)又は(2)に記載の電極。
(4) 電極用塗布剤が含有する式(I)のポリボロシロキサンにおいて、
式(I)のポリボロシロキサンの主鎖ユニットにおける
-[(SiX-O)-(BY-O)-]]- 式(II)

の繰り返し単位が、n=20~1,000、aおよびbはそれぞれ独立してユニットごとに定まる1~5の整数である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の電極。
(5) 式(I)のポリボロシロキサンの重量平均分子量が、Mw=2,000~100,000である上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の電極。
(6) リチウムイオン電池の負極に塗布して用いる式(I)のポリボロシロキサンを含有する、
式(I)のポリボロシロキサンの主鎖ユニットにおける
-[(SiX-O)-(BY-O)-]
の繰り返し単位が、n=20~1,000、aおよびbはそれぞれ独立してユニットごとに定まる1~5の整数である電極コーティング剤。
【0007】
(7) 式(I)のポリボロシロキサンの重量平均分子量が、Mw=2,000~100,000である上記(6)の電極コーティング剤。
(8) 揮発性溶媒を含む、上記(6)又は(7)のいずれか1つに記載の電極コーティング剤。
(9) 電解質と電極を有する構造であり、前記電解質がリチウムイオンを含み、電極のうちの少なくとも1つが、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の電極である電池。
(10) 上記(6)~(8)のいずれか1つに記載の電極コーティング剤によりポリボロシロキサンを含有する膜を表面に形成した導電性部品。
(11) 上記(1)~(5)に記載の電極において、式(I)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を重合反応により形成する電極の製造方法。
(12) 上記(1)~(5)に記載の電極において、式(I)のユニットを有するポリボロシロキサンを含有する膜を塗布又はキャストにより形成する電極の製造方法。
(13) 電極が、リチウムイオン電池用の電極である上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の電極。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウムイオン電池電極では、リチウムイオン電池における人工固体電解質界面形成により、界面に自己修復性が生じる。これは、PBSの自己修復性能力および電極表面への接着を含む因子の組み合わせに起因し、その結果、リチウムイオン電池のサイクル安定性とレート性能の点で人工SEIによる優れた増強を示す。つまり、リチウムイオン電池が充放電サイクルを繰り返した際、より多いサイクルで高い放電容量を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】CVのグラフとポリ(ボロシロキサン)の構造
図2】Si/SiOスパッタ電極上のPBSの自己修復特性を示すSEM
図3】PVDFとPBSのエネルギー準位と電解質成分との比較。低いLUMO準位との比較。
図4】100サイクル後の異なる研究電極のインピーダンススペクトルの比較
図5】最適化されたポリマー構造のマリケン電化密度分析
図6】1Cレートでのポリマー被覆Siアノードのフルセル性能と、低い電位等
図7】可逆容量保持および対応するクーロン効率に及ぼすPBS被覆の増加の影響
図8】PBSおよびPVDF被覆サンプルとのサイクル安定性の比較
図9】ポリマーのコーティング量の充放電挙動への影響を示す図
図10】充放電サイクルと放電特性との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施態様について記載するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施態様に限定されない。
【0011】
本発明の電極は、ポリ(ボロシロキサン)を含有する膜を表面に形成した電極である。
本発明において、ポリ(ボロシロキサン)は、次の式(I)中に示される-[SiX-O-BY-O-]-ユニットを有する。
-[SiX-O-BY-O-]- 式(I)
[但し、nは1以上の整数とし、置換基X、X及びYは、それぞれ独立に、水素、フェニル基、若しくはフェニル基であって1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基、アルキル部分が炭素数1~3であるアルコキシ基若しくはハロゲンで置換されたフェニル、ハロゲン、炭素数1~3のアルキル基、若しくは、アルキル部分が炭素数1~3であるアルコキシ基、又は、1以上の水素がハロゲンによって置換された炭素数1~3のアルキル基若しくはアルコキシ基である。]
ここで、nは20~1000、好ましくは、4~500、より好ましくは20~125である。
nは、重合反応の行いやすさの観点から1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは125以下である。
また、nは、少なくとも1つの-[SiX-O-BY-O-]-ユニットを有し、ポリマー鎖が一定の相互作用を有する必要がある観点から、1以上であればよいが、20以上が望ましい。
限定せず本発明における式(I)のポリ(シロキサン)の化学構造式を例示した場合、一例として次の化学構造式が挙げられる。
【化1】
【0012】
本発明の電極は、上記式(I)のユニットを有するポリ(ボロシロキサン)を含有する膜を表面に形成した電極である。
ポリ(ボロシロキサン)を含有する膜は、Si、SiO等から成る電極表面と、固体電解質又は電解質を含有する電解液の間に介在し、電極を保護する作用を有する。
本発明の電極は、ポリ(ボロシロキサン)を含有する膜をSi、SiO等から成る電極表面に有する。斯かるポリ(ボロシロキサン)を含有する膜は、Si、SiO等から成る電極表面と、固体電解質又は電解質を含有する電解液の間に介在し、電極を保護する作用を有する。
本発明において、リチウムイオン電池は、特に限定されないが、負極にSi、及び/又は、SiOを用いたものが放電容量及びポリ(ボロシロキサン)との界面形成の観点から好ましい。
本発明において、リチウムイオン電池の電解質は、リチウムイオンが溶解している一般的なリチウムイオン電池用の電解質を用いることができる。電解質は、固体電解質であっても、電解液に溶解して含有されていてもよい。
本発明において、ポリ(ボロシロキサン)は、高分子の主鎖に、次の式(I)のユニットを有する。
-[SiX-O-BY-O-]- 式(I)
ここで、ユニットとは、高分子中に存在する原子の配列と解してよく、繰り返し単位として、又は、単独で高分子中に存在する。
【0013】
本発明において、ポリ(ボロシロキサン)を含有する膜は、その膜厚は、自己修復性が発揮されることについて特に制限はなく、表面に傷が付いたとき、その傷が表面に達したとしても、自己修復性は維持される。本発明の電極の表面に存在するSiにクラッキングを生じさせないか、生じてもその影響を小さくするためである。これにより自己修復性により電極表面の傷が修復され、放電容量が維持されるか、膜がない場合よりも多くの回数のサイクルにわたり持続する。
本発明において、電極コーティング剤は、揮発性溶媒を含んでもよい。ここで、前記揮発性溶媒は、ポリ(ボロシロキサン)中の高分子鎖の結合に影響しない溶媒が好ましい。
本発明において、のポリ(ボロシロキサン)の粘度は、電極の製造方法、電解質の種類、その媒体である電解液又は固体媒体の種類、電池の用途等によって選択し得るが、発明の目的を阻害しない限り特に制限はない。
本発明において、ポリ(ボロシロキサン)は、式(II)のユニットを有するポリ(ボロシロキサン)として表すこともできる。
-[(SiX-O)-(BY-O)-]- 式(II)
但し、n,a,bは1以上の整数であり、置換基X、Xは、それぞれ独立に、フェニル基、又はフェニル基であって1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基で置換されたフェニル基であり、置換基Yは、1以上の水素が炭素数1~3のアルキル基で置換されたフェニル基である。
ここで、nは20~1000、好ましくは、4~500、より好ましくは20~125である。
nは、重合反応の行いやすさの観点から1000以下、500以下、より好ましくは125以下である。
式(I)のポリボロシロキサンの重量平均分子量は、Mw=2,000~100,000が好ましいが、Mw=400~45,000のポリ(ボロシロキサン)を重合できることが確認されており、この範囲でも本発明の効果は得られると期待される。
本発明の別の側面として、本発明の電極コーティング剤は、式(I)のポリ(ボロシロキサン)であって、主鎖ユニットにおける
-[(SiX-O)-(BY-O)-]
の繰り返し単位が、n=20~1,000、aおよびbはそれぞれ独立してユニットごとに定まる1~5の整数であるものであり、これを、リチウムイオン電池の負極に塗布して用いる。
本発明の電極コーティング剤は、揮発性溶媒を含んでもよい。これにより溶媒キャスト法による膜形成が容易になる。用いる溶媒としては、THF、ジエチルエーテル他、沸点が20℃~80℃で、ポリ(ボロシロキサン)を溶解可能な溶媒が好ましい。
本発明の電池は、固体電解質それ自体を直接用いる構造であっても、固体電解質が固体、ゲル状又は一定の流動性を有する媒体に混合又は含有されたものを用いる構造であっても、電解質が含有された電解液と電極とを有する構造であってもよく、前記電解質がリチウムイオンを含む電池である。電解質は公知のものを用いることができる。
本発明の電極コーティング剤を、ポリ(ボロシロキサン)を含有する膜を表面に形成した導電性部品に用い、本発明の電極と同様、電極表面を保護するために用いてもよい。
本発明のポリ(ボロシロキサン)を含有する膜は、前駆体を塗布し、塗布後の重合反応により形成されてもよい。
また、本発明のポリ(ボロシロキサン)を含有する膜は、重合反応が終了した状態で、塗布又はキャストされ、形成されてもよい。
【0014】
[本発明の意義と可能な適用範囲]
発明者らは、高いサイクル安定性および優れた速度動力学を有するシリコンアノードのための人工SEI層としての明確な構造であるポリ(ボロシロキサン)の成功した適用を報告する。このような増強は、3配位ホウ素からの有益な寄与と結合したポリマーの自己修復性特性に基づいて説明することができる。電気化学的特性と共に計算証拠は、PBSコーティングの増強された界面特性を示す。また、被覆電極のフルセルのサイクルを実証し、高電圧カソードシステムとの併用性を示した。従って、これらの知見は、高性能電池電極のためのコーティングとしての構造が明確なポリ(ボロシロキサン)の可能性を示し、一方、将来評価される官能基の巧妙な分子レベル工学を通して、アノードおよびカソードの両方のための高品質自己修復性バインダーとしてのそれらの可能な適用範囲を広げる。
【0015】
[理論的背景]
本発明には、次のような理論的背景が存在し、本発明を完成させるため、実際に生成物を調整して行う化学実験だけでなく、計算機による実験等も併せて行われた。
リチウムイオン電池は、その印象的な特性および低いメンテナンスのために、かなりの関心を集めている。急速な商業的需要と大規模用途への段階的な適用は、同じ設置面積からより多くの容量とより高い電圧限界を得ることに焦点を当ててきた次のレベルへの電池研究を目的としている。この点に関して、シリコンアノードは、従来のグラファイトベースのアノードよりもほぼ10倍高い、それらの異常に高い容量(~3579mAhg-1)のために、電極について最もよく研究されてきた。しかし、体積膨張(~300体積%)の主要な問題とは別に、高不可逆容量、体積膨張から新たに露出したSi表面による連続的な固体電解質生成、低固有伝導率および凝集のような他の深刻な問題があり、Liイオンにおける限られた利用をもたらす。この点に関して、導電率を増加させるためのカーボンコーティング、体積膨張を抑制する優れた結着剤、界面インピーダンス上昇を緩和するための人工固体電解質界面、不可逆電解質劣化の問題を克服するための事前リチウム化手法などの、前述の問題の各々に個々に向けられた取り組みが行われている。
【0016】
ポリ(ボロシロキサン)(PBS)ベースのバインダーは、双極子‐双極子相互作用、自己修復性によりSi/Si表面に良く接着することができるため、Siアノードにおける性能向上のために、Odomらによって以前に報告されている。しかし、ポリ(ボロシロキサン)に関する研究のほとんどと同様に、それらの研究も架橋骨格の利用に基づいており、それによって性能評価の明確なメカニズム的起源を提供するものではなかった。可撓性導体、イオンセンサのような種々の領域における架橋PBSベースの材料のLEDの封入などのための適用に関する多くの報告がある。しかしながら、それらの適用のための明確な機構的起源を有する明確なPBSベースのポリマーに関する報告はわずかしかない。著者らは以前、超高感度フッ化物イオン感知のための調整された直鎖状で、高度にユニット交互性を有する構造の明確なPBS高分子を報告し、また、Tiチップの防食に適用するためのそれらの自己修復性を解明した。Lewis酸性ホウ素部分で優れた自己修復特性を有する本発明者らの構造の明確なPBS材料は、したがって、Siアノードのための理想的な候補であり得る。体積膨張の緩和および強じんな界面の形成におけるそれらの寄与を評価するために、シリコン電極の表面上の高分子人工固体電解質界面(SEI)コーティングとしてそれらを使用した。サイクル特性、速度性能および界面特性の優れた増強が観察され、明確な構造を有するPBSポリマーに関する研究を通して増強の機構的起源を理解するために焦点を合わせた。
理論的研究:幾何学的最適化とシステムの電子的性質をGauss09ソフトウェアを用いて評価した。B3LYPハイブリッド機能を6‐311G(d,p)ベースセットで採用した。
【実施例0017】
PBSの合成: PBSは、次の手順によって合成され、そのまま使用された。
ポリ(ボロシロキサン)の合成手順:ポリ(ボロシロキサン)の合成は、2官能シラノールと、メシチルボランの脱水カップリング重合により、遷移金属触媒を存在させ、テトラヒドロフランを溶媒として用いて行われた(表S1)。
100ml丸底フラスコに、ジフェニルシランジオール(491mg, 2.2mmol)と、塩化ビス(トリフェニルホスフィノ)-パラジウム(II)(78mg, 5mol%)とを、窒素雰囲気下で加えた。
これに、調整したばかりのメシチルボラン(300mg, 2.2mmol)のTHF溶液を定常的に撹拌しながら加えた。H2ガスの発生により、泡立ちを見ることができた。
反応混合物は、48時間室温で撹拌された。THFは減圧下除去され、生成物は、n-ヘキサンで抽出された。その後、抽出物は、減圧下ヘキサンを除去し、真空中で乾燥された。
生成物を、ポリマー1とする。
【0018】
H NMR、11B NMR、29Si-NMRおよび分子量測定のためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等の分析によって、ポリマーを特徴付けた。
ポリマー1: H-NMR: (δ, ppm, 400 MHz): 2.25(s, 3H, CH3), 2.28(s, 6H, CH3), 6.79(s, 2H, aromatic protons); 7.30-7.49(m, 3H, aromatic protons), 7.5-7.7(m, 3H, aromatic protons),
11B-NMR: (δ, ppm, 128 MHz): 32.0(Si-O-B),
29Si-NMR: (δ, ppm, 79.5 MHz): -22.0(Si-O-B)
【0019】
【表1】
A: [トリ(ジメチルフェニルホスフィノ)]-(2,5-ノルボルノジエン)ロジウム(I)
B: 塩化ビス(トリフェニルホスフィノ)ーパラジウム(II)
C: クロロ白金酸六水和物
D: クロロ白金酸
【0020】
モデル化合物2の合成手順:ポリマーモデル2の合成は、2官能シラノールと、メシチルボランの脱水カップリング重合により、遷移金属触媒を存在させ、テトラヒドロフランを溶媒として用いて行われた。100ml丸底フラスコに、トリフェニルシラノール(418mg, 1.5mmol)と、塩化ビス(トリフェニルホスフィノ)-パラジウム(II)(26mg, 0.757mol%)とを、窒素雰囲気下、加えた。これに、調整したばかりのメシチルボラン(300mg, 2.2mmol)のTHF溶液を定常的に撹拌しながら加えた。H2ガスの発生により、泡立ちを見ることができた。反応混合物は、48時間室温で撹拌された。THFは減圧下除去され、生成物は、n-ヘキサンで抽出された。その後、抽出物は、減圧下ヘキサンを除去し、真空中で乾燥された。
H NMR、11B NMR、29Si-NMRおよび分子量測定のためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等の分析によって、モデル化合物2を特徴付けた。
【0021】
モデル化合物2: H-NMR: (δ, ppm, 400 MHz): 2.25 (s, 3H, CH3), 2.28 (s, 6H, CH3), 6.8 (s, 2H, aromatic protons); 7.3-7.4 (m, 3H, aromatic protons), 7.5-7.8 (m, 3H, aromatic protons)
11B-NMR: (δ, ppm, 128 MHz): 32.8 (Si-O-B)
29Si-NMR: (δ, ppm, 79.5 MHz): -22.0 (Si-O-B) m/z = 681.42 g/mol
【0022】
[電極の作成による検証]
電極を作成し、次の結果を得た。
上記合成手順で得たポリマー1又はモデル化合物2のポリ(ボロシロキサン)をシリコン負極にコーティングすることにより、アノード型ハーフセルの充電サイクルが大幅に安定化した。ポリマーを表面コートしていない系の放電容量は100サイクルまでに急速に劣化して500mAhg-1程度になったが、ポリ(ボロシロキサン)をコーティングした場合は350サイクル以上まで1000mAhg-1を上回る放電容量を維持した。また、PVDFをコーティングした系と比較しても顕著に優れた特性が明らかとなった。ポリ(ボロシロキサン)をコーティングしたシリコン負極を用いて、LiNMCと組み合わせたフルセルに関しても構築した。ポリ(ボロシロキサン)をコーティングすることによりフルセルにおいてもPVDFコーティング系よりも大幅に優れたパフォーマンスを示した。さらに、インピーダンス測定よりポリ(ボロシロキサン)をコーティングすることにより界面抵抗が顕著に減少していることが分かった。
【0023】
[実施例に用いた電極の作成方法]
自己修復性の確認:テトラヒドロフラン(THF)中のPBSの50μLの10-2M溶液を調製し、Siスパッタ(~100nm厚)銅箔(~15μm厚)の小さな長方形片上にドロップキャストした。溶媒を室温で蒸発させたままにし、傷を人工的に形成させ自己修復性を観察した。次に、この傷を付けたポリマー被覆電極を45℃で約30分間加熱して、自己修復性を観察した。加熱前後のFE‐SEM画像を比較し、電極表面上の自己修復性を観察した。
物質特性: Hおよび11B NMRスペクトルを、ブルカーアドバンスII -400MHz分光計で得た。化学シフトは、示された重水素化溶媒の残留プロトンに対応するシグナルを内部標準として使用して、ppmで報告される。ポリマーサンプルの分子量を、TSKゲルカラム(G3000H)と屈折率検出器(RID-10A)を搭載したLC20ADゲル浸透クロマトグラフ(島津株式会社)で決定した。THFを流速1.0mL分-1で溶離液として使用した。較正は、ポリスチレン標準を用いて行った。SEM像は日立製作所のS‐4500 FESEM装置で得た。
【0024】
電気化学的測定:電池試験のために、CR-2025サイズのコインセルを、電解質としてEC:DEC (Sigma Aldrich)、ポリプロピレンセパレータ(25μm、Celguard 2500)および1M LiPF6を用いて構築されたアノード半電池中で、対極として上述のスパッタシリコンアノード電極およびLi金属を組み立てることによって使用した。ポリマーの効果を見るために、THF中の異なる量のPBS溶液を電極表面上にドロップキャストし、室温で乾燥させた。THFは、ポリマーを溶解するのに十分な極性を有するが、同時に他の成分に対して非反応性であるので、溶媒として使用された。セルは、湿気汚染を避けるために、アルゴンに充填されたグローブボックス内に組み立てられた(ユニコUN-650F、H2 OおよびO含有量<0.1ppm)。電池充放電試験は、電池サイクラー(HJ-SD8、Hokuto Denko、Japan)を用いて室温で行った。以下に記載される他の全ての電気化学的技術は、VSPポテンショスタット(BioLogic)電気化学分析器/ワークステーションで実施された。電気化学インピーダンス(DEIS)測定を、10 mVの振幅で100kHz~10mHzの周波数範囲にわたって100回の充電放電サイクル後にセルについて行った。
【0025】
サイクリックボルタンメトリー(CV)を用いて、室温でのポリマーコーティング剤の電気化学的挙動を決定した。電気化学的挙動を決定するために、0.1mVs-1の一定速度でOCPと0.0V対Li/Liの間で電圧の走査を行った。充電放電測定のために、Cレート(光の充電速度)は、3579 mAhg-1であるSi陽極の理論容量を使用することによって計算された。長いサイクル実験のために、構築したセルを最初に0.1Cで5サイクル、続いて1Cでサイクルを行った。スパッタSi電極は事前にリチオ化していなかった。フルセル作製の為に、個々の電極は、最初に、フルセル中でそれらを使用する前に、記載されたように、半セル構成で予備サイクルされた。シリコンアノードの事前充放電については、最初、コーティングされたサンプルは、ハーフセル研究に使用される同一の電圧範囲内で、0.1Cで1サイクルされ、その後、0.01V w.r.t.Li/Liでリチオ化され、その状態で60分間維持された。また、4.3V w.r.t Li/Liで定電圧処理を設定したカソードハーフセルにおいて、LiMn1/3Ni1/3Co/3O(NMC)(ピオトレック、日本)に対しても同様のサイクリングを行った。次いで、フルセルを予備サイクル電極で作製し、3.0~4.3Vの間でサイクルした。1C (w.r.t.Siアノード)で長期サイクル研究を行う前に、0.1C (w.r.t.Siアノード)で最初に1サイクルを行った。充電手法としては、定電流充電に30分間4.3Vでさらに定電圧ステップを加えた後、定電流モードのみで放電した。フルセルの研究においては、市販の電解質(EC:DEC中の1M LiPF6)を、それぞれ2mg/mlのビニレンカーボネート(VC)およびフルオロエチレンカーボネート(添加剤としてFEC)と共に使用した。
【0026】
[サイクリックボルタンメトリー(CV)]による充放電テスト]
シリコンアノード上の界面膜の形成を理解するためにサイクリックボルタンメトリー(CV)研究を行った。図1左は、未コーティングのスパッタ被覆Si電極のCVを示す。~1.5Vでの初期ブロードピークは、電解質成分の還元とそれに続く~0.3Vで始まるリチオ化の開始に起因し、より低い電位で非晶質Li‐Si合金を形成することができる。これは、内部結晶シリコンドメインを有する非晶質外部Li-Si合金を有するコアシェル構造をもたらす。最初の脱リチウム化過程は単一の広いピークを示し、その後のサイクルでは2つの異なったタイプの非晶質けい素の生成に対応する2つの明確なピークを示す。PVDF被覆電極は、~1.5VでSEI形成が開始するが、1Vまで広い範囲にわたって広がる未コーティングのSi電極と同様の挙動を示した。これは、イオン絶縁性PVdF被覆による結晶Si表面への制限されたアクセスに起因する。これはまた、最初のサイクル後の未被覆ないし未修飾(本発明におけるPBSによるコーティングは、単なる表面被覆でなく、Si表面の高分子による修飾としての側面も有する。但し、以下は未被覆と記すこともある。)の電極の場合に、2つの別個のピークの代わりに単一の広いピークが見られる脱リチウム化サイクルに反映される。PBS被覆電極は、SEI形成に向かって約1.5Vの広い電解質劣化ピークを示し、続いて段階的リチオ化および第1サイクル以降の明確な脱リチオ化ピークを示した。しかし、PBSピークの場合のSEI形成ピークの面積積分は、3つの場合の中で最も高く、電解質成分とPBSとの還元的相互作用を示唆した。PBS中のホウ素原子は、周囲条件下でB-O結合を形成することがよく知られている。したがって、SEI形成中に、酸素原子を含む電解質の還元された成分は、PBSとの架橋ネットワークを容易に形成する。B-O結合形成により電解質由来のSEI層のPBS上への接着を助けることができる(図1右)。
【0027】
図1.(a) PBS被覆Si/SiO薄膜電極
図1.(b)のアノード半電池を用いたCV研究 PBSと他の成分との相互作用の可能な異なる点
【0028】
充放電サイクルと放電特性との関係の図を図10に示す。
対照(Control)サンプル、及びPVDFにより作成されたサンプルでは、サイクル数の増加とともに放電容量が低下し、350サイクルでは500mAhg-1以下にまで下がっているのに対し、ポリ(ボロシロキサン)を用いて作成されたサンプルでは、優に1000mAhg-1を維持し、350サイクル程度のサイクル数では放電容量の低下がほとんど見られないことがわかる。
【0029】
自己修復性として特徴づけられる動的な性質は、フレキシブルな導電性物質の多くの他の文献の中でこれまでも説明されており、電気化学的に修飾されたPBS/SEI層の自己修復性に寄与することとは別に、このケースでは強固なSEIの重要な寄与因子であり得る。著者らの研究グループは、レプテーション運動を介したダングリングポリマー鎖の相互拡散による非架橋PBSの自己修復性を以前報告した。スパッタ被覆Si/SiO電極上のPBSの自己修復特性をこの場合に評価した。ポリマー溶液は電極表面上に直接コーティングされているので、SiO---B(ポリマー鎖)結合が期待でき、これは電極上のポリマー構造の接着に役立つ(図1右)。表面上の機械的傷は、30分未満でほぼ完全に修復した(45℃で加熱してプロセスを促進した)(図2)。これは、PBS鎖の相互拡散ならびに供与結合からの寄与の両方に起因し得る。
図2.Si/SiOスパッタ電極上のPBSの自己修復特性を示すSEM
【0030】
[電極性能に及ぼすPBS被覆の影響]
電極性能に及ぼすPBS被覆の影響を理解するために、異なる量のPBS被覆電極でアノード半電池のサイクルを行った(図9)。25μLのPBS溶液のみを電極上にコーティングした場合、放電容量保持のかなりの減少が観察された。しかし、コーティング量を増加させると、250μLのコーティングを有する電極の場合、1Cで100サイクル後でさえ、サイクル安定性は、可逆性を有したほぼ100%の容量保持の程度で増強される。
本発明者らは、この最適化されたコーティング量の性能を、PVDFの同様のコーティングと、長いサイクル安定性に向けた未被覆の電極と比較した(図8)。未被覆の電極は、サイクル時に放電容量保持の急速な減少を示し、100サイクル後は初期容量の20%未満であった。PVDF被覆電極の場合、初期サイクルに続く放電容量の大幅な低下がある一方及び初期サイクルにおける高い放電容量が観察された。
【0031】
しかし、PBS被覆電極は、350サイクル以上にわたって多くの容量減少なしに安定な可逆容量保持プロファイルを示した。PVDFベースのコーティングした系の充放電速度は、短期間においては、PBSと比較して良好であった(後に説明するように、長期サイクルの間に影響は見られた。)。PBS被覆電極はまた、保持しながら5Cにおいてでさえ>300mAhg-1を有する優れた高速充放電能力(初期サイクルではPVDFよりも低いが)を示した。
【0032】
図7 (a) 可逆容量保持および対応するクーロン効率に及ぼすPBS被覆の増加の影響(b)PBSおよびPVDF被覆サンプルとのサイクル安定性の比較(c)低い充放電速度でのPBSおよびPVDF被覆サンプルの速度性能はほとんど同様である(図6)。以上は全て、界面特性に対する異なるポリマーコーティングの効果に基づいて説明することができる。第1の場合(ポリマーコーティングなし)の保護コーティングの欠如は、充放電サンプルに伴う大幅な体積膨張をもたらし、容量維持率の劇的な減少をもたらす。活物質層は非常に薄い(~100nm)ため、ほとんど全ての活物質が第1の場合に電解質と直接接触しており、これがさらに状況を悪化させると想定することができる。PVDFの場合、高分子の性質は体積膨張をある程度制限するのに役立つが、PVDFがLiをイオンブロッキングする性質は、その剛性にもより、その問題を長時間緩和するのに役立たない。その結果、劇的な体積膨張が起こり、リチウム化のための新しい表面を提供する。しかし、最初の25サイクルの後、放電容量は、長期的には低下し始める。一方、PBS被覆電極の場合、活物質全体は、保護人工SEI層と接触していると仮定することができる。この場合、初期到達可能放電容量は、前者の場合と比較して相対的に少なかった。これは、Liイオンが電極だけでなく、ポリマーの成分によっても利用されることに基づいて説明することができる。
【0033】
[異なるエネルギー順位を有する他のポリマーとの比較]
PBS被覆Siアノードで構築したフルセルは、予備サイクル後のPVDF被覆サンプルと比較して、はるかに高い放電容量を示した(図3図6)。
【0034】
図3 PVDFとPBSのエネルギー準位と電解質成分との比較、図4 100サイクル後の異なる研究電極のインピーダンススペクトルの比較、図5 最適化されたポリマー構造のマリケン電化密度分析 図6 1Cレートでのポリマー被覆Siアノードのフルセル性能と、低い電位w.r.t Liで電気化学的に反応性になるその低いLUMO準位との比較(図3)。
PBSは、電位範囲で非反応性で高いLUMOを有するPVDFの場合とは異なる。しかしながら、最初のSEI生成の間に利用されるLi+イオンのこの過剰な貯蔵は、Liイオン伝導性ポリマーSEIを生成するのに役立ち、これは頑強であり、その自己修復能力のためにSiアノードの体積膨張を抑制する。これは、初期サイクル中の種々のポリマー被覆サンプルのクーロン効率(CE)プロットによく反映される。
【0035】
未修飾の電極の場合、全ての電解質劣化は、電解質成分と活物質との相互作用によるものであり、最高の初期クーロン効率をもたらした。しかし、(PVDF/PBSのような)いかなる体積変化緩衝剤も存在しないと、その後のサイクルにおいて連続的なSEI形成をもたらし、したがってクーロン効率の低下をもたらす。PVDFは、その表面上の電解質成分を連続的に分解しながら、体積膨張をある程度緩衝する。PBSでは、クーロン効率は、そのLiイオン伝導性のために、および体積膨張による連続SEI生成を部分的に防止するその自己修復性のために、最初のサイクル後に>80%に増加した。PBS中のホウ素の電子的性質を理解するために、マリケン電荷密度分析を行った。これは、ポリマー鎖中の異なる元素上のおおよその電荷密度を示す。ホウ素原子は、電気陰性O原子と交互にSiと共に十分に正電荷を帯びており、これは、高分子網目を通る効率的なLiイオン伝導を助けることができる。界面抵抗も、電気化学インピーダンス分光法(EIS)の結果が示すように低下する傾向である。EIS測定は未修飾の電極の場合に最高の界面抵抗(高周波領域で半円)を示した。PBS系電極と比較して、PVDF被覆電極の場合、抵抗はわずかに高かった。高電圧動作中のPBSの特性を理解するために、LiMn1/3Ni1/3Co1/3(NMC)カソードを用いて、ポリマーコート系のフルセル性能も評価した。
以上は、PBS被覆Siアノードで構築したフルセルが、予備サイクル後のPVDF被覆サンプルと比較して、はるかに高い容量を示したことを示していることの根拠となりえる。
【0036】
[本発明の可能な適用範囲]
本発明の発明者らは、高いサイクル安定性および優れた高速充放電能を有するシリコンアノードのための人工SEI層としての構造が明白なポリ(ボロシロキサン)の成功した適用を報告する。このような増強は、3級ホウ素からの有益な寄与と結合したポリマーの自己修復性特性に基づいて説明することができる。電気化学的特性と共に計算証拠は、PBSコーティングの増強された界面特性を示す。また、被覆電極のフルセルでの有用性を実証し、高電圧カソードシステムとの併用性を示した。従って、これらの知見は、高性能電池電極のためのコーティングとしてのポリ(ボロシロキサン)の可能性を示し、一方、将来評価される官能基の巧妙な分子レベル工学を通して、アノードのための高品質自己修復性コーティング剤としてのそれらの可能な適用範囲を開く。
【0037】
[リチウムイオン電池の作動温度と自己修復性]
ポリ(ボロシロキサン)は45℃程度で自己修復能を発現することが、本研究グループの以前の研究で見出されている。リチウムイオン電池の作動温度が約50℃であるため、電池内で自己修復能を発現するために適切な特性を有している。ポリ(ボロシロキサン)の希薄溶液を溶媒キャスト法によりシリコン負極(バインダーフリーのスパッタリング型電極)にコーティングした後、Li/電解液(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネートLiPF)/Si型のアノードハーフセルを構築し充放電特性を評価した。
充放電サイクルと放電特性との関係を示す画像を図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明では、自己修復性を有する人工高分子SEIとして明確な構造を有するポリ(ボロシロキサン)を用い、リチウムイオン電池の電極の製造等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10