(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051630
(43)【公開日】2022-04-01
(54)【発明の名称】超音波診断装置用プローブ
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20220325BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R17/00 330H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158044
(22)【出願日】2020-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】512117683
【氏名又は名称】永井 清
(72)【発明者】
【氏名】永井 清
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601EE01
4C601GB01
4C601GB50
5D019BB30
(57)【要約】
【課題】超音波診断装置用プローブにおいて、超音波の発信源である圧電材料と人体との音響インピーダンスが大きく異なるため一般的には整合層を設ける。この場合、圧電材に設ける電極の取り扱いに問題があった。本特許は、この課題を解決する手段を提案した。
【解決手段】解決の手段として圧電体に設ける電極材料に着目し、電極材料の音響インピーダンスと同等の、それを保有する金属‐有機材料複合材料で電極を構成した。これにより理論に基付いた理想的な整合層を提供可能となった。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波診断装置用のプローブに於いて超音波の発信源である圧電素子に設けた電極材料の音響インピーダンスを圧電素子の、それと同一としたことを特徴とするプローブ。
【請求項2】
請求項1を包含し、電極材料は金属微粒子または非金属微粒子で構成され、これら材料の単位一または二種類以上の混合材と有機材料との複合材料からなることを特徴とするプローブ。
【請求項3】
請求項1および2を包含し、使用する金属微粒子の一つは銀、金または銅であり、他の金属微粒子はタングステン、モリフ゛テ゛ン等、または合成ダイヤモンド等の高音響インピーダンスを保有する微粒子と有機樹脂との複合材料を使用したことを特徴とするプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に使用するプローブ(探触子)の電極および音響整合層の製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は他の診断装置と異なり放射線等の被曝がない事、無侵襲であることから内科外科を問わず医療機関で診断のため広く利用されてきた。
超音波診断装置は電気信号を超音波信号に変換するプローブ(探触子)により被検体に超音波信号を送信し、被検体部の密度変化により発生する超音波の反射を再度プローブで受け、これを電気信号に変換後これら情報を可視画像として映像化し、これを被検体の診断に使用する診断装置である。
【0003】
超音波診断装置のキーデバイスであるプローブは代表的キーマテリアルであるチタン酸ジルコン酸鉛(通称PZTと言われている)圧電素子で構成されている。圧電素子(PZT)は電気信号を超音波に変換する機能が高い(電気機械結合係数)事から頻用されてきた。特に変換後の超音波を効率よく被検体に伝搬させる機能を併せて保有することが重要かつ欠くべからざる必須の特性である。
【0004】
一般論として音波は色々な媒質の中を伝搬するが異なる媒質の境界面では両者の音響インピーダンスの差に応じ反射が起こる。このため異なる媒質を超える場合には音波の伝搬が大きく阻害される。
【0005】
現在実用化されている圧電素子としてはPZT(チタン酸鉛・ジルコン酸鉛)および、これをベースとし微量成分としてマグネシウム(Mg)やニオビウム(Nb)を加えた三成分PZTやPM-NT系の単結晶圧電材料である。
これ等の音響インピーダンス(Z0)は20~30MRaylsである。一方、人体の音響インピーダンス(Zm)は1.5MRayls程度とプローブを構成する圧電材料の、それと比べて極めて低い。
音響インピーダンスが異なり相接する物質の境界面で反射する超音波の割合は(Z0-Zm)/(Z0+Zm)で規定される。従ってPZT系の素材で構成されたプローブを直接人体に接したケースで計算してみると、その境界面で90%余りの超音波が反射されてしまう結果となる。
【0006】
逆に、被検体から反射された超音波も受信デバイスであるプローブに到達する過程は同じ論理で極めて効率が悪いことが判る。
【0007】
そこで音響インピーダンスが異なる媒体間で超音波の反射を如何に減らして、その減衰を最小限に食い止めるか数々の工夫がなされてきた。すなわち大きく異なった音響インピーダンス媒体の間に音響整合層と命名された中間的な音響インピーダンスを持つ層を設け、可能な限り超音波の反射量を小さくし、トータルで超音波を効率良く透過させる手法である。あわせて、超音波エネルギィーの透過率にも配慮が必要である。
【0008】
整合層は複数設けて超音波の透過率を大きくすることが可能である。通常、経済性との絡みで通常は2~3層のことが多い。
【0009】
大きく音響インピーダンスが異なる媒体に於いて、最適な整合層を設けるために理論的な考察が(非特許文献2~4)等において提案されてきた。これらの中でS.Gesilet等の提案した設計基準式がシミュレーション結果と併せて評価の結果、その信頼性が高く評価されて、整合層の設計に多く利用されてきた。
すなわち、整合層が単一の場合は(Z0*ZM^2)^1/3、二重整合層の場合いに於いては第一整合層を(Z0^4*ZM^2)^1/7、第二整合層を(Z0*ZM^6)^1/7と定めた提案である。
また、整合層ZMLは式:ZML=(Z0*ZM)^1/2を満足するとき超音波エネルギィーの透過率が最大となる。
【0010】
プローブの性能を最大限引き出すために整合層に関して大きな関心と理論的な考察を払ってきた。しかし
図1に示した通りプローブの構成はキーマテリアルである圧電素子2に対して先ず信号用電極3および接地用電極4を設ける。これ等の電極形成には大別して二つの方式が常用されてきた。
一つはエポキシ系樹脂中に微細銀粒子を混入した銀導電ペーストと呼称される接着機能を保有した硬化性の導電ペーストで、これを圧電素子2の電極構成部分3および4に塗布し硬化させ電極とする方法である。
もう一つは真空蒸着法により圧電素子2の電極構成部分3および4に一例として予めクローム、銅および金を順次蒸着して電極とする方法である。
【0011】
一方で整合層に要求された音響インピーダンスを満足させる手段として樹脂に金属のナノ粒子、金属微粉末を均一に分散させた複合材料が多く供されてきた。
エポキシ樹脂やシリコーン樹脂自体の音響インピーダンスは極めて低い。これに対し多くの金属の中には極めて高い音響インピーダンスを持っている物が有る。従って、これら金属の中から適当な金属の選択と、その量をコントロールし、目的とする音響インピーダンスを持った複合材料の製造をしてきた。それ故、この複合材料を整合層として利用する事例は特許文献1~5に示されている様に多岐に亘る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許公報昭60-100950
【特許文献2】特開2011-77572
【特許文献3】特許第5415086号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「ネットワーク ポリマー」 Vol.25 No.4(2004) pp181-191 日立化成工業(株)増子ほか、
【非特許文献2】Jeffrey H.Goll:"The design of broad-band fluid-loadeo ultra-sonic transducers" IEEE transc,on Su,Vol.SU-26No.6(Nov.1979)
【非特許文献3】Jaques Souquet,Philippe Defranoud,Jean Desbois: "Design of low-loss wide-band urutrasonic transducer for noninvasive medical application" IEEE, transc. onSU Vol. SU-26, No.2(Mar.1979)
【非特許文献4】Charles. S. Desilets, John D.Fvaser, Gordon S. Kino:"The design of efficient broad-band piezoelectric transducer"IEEE transc, onSU. Vol. SU-25. No.3(May1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
先ず、現状のプローブに於ける課題について触れる。
既に触れてきた通り、超音波診断装置に於いてプローブの役割は極めて重要である。また、その性能を発揮させるためにはセンサーと人体の音響インピーダンスの差を可能な限り、効率よくブリッジする最適な音響整合層を設ける必要が有る。
それ故、整合層に関する関心は極めて高く、重点的に開発がなされてきた実績は評価する。ところが電極に関しては余り関心が無く技術的な検討が疎かになっていた。それ故、技術的観点から重大な課題を指摘せざるを得ない。
すなわち、2つの方式で電極を構成している部分は明らかに音響インピーダンスの観点からは異種媒体で構成されている。従って、此の電極層を無視した整合層の設計では理想からかけ離れたプローブとならざるを得ない。
特許文献2に於いて、導電性銀ペーストを用いた電極はエポキシ樹脂中に銀の金属微粒子からなる複合材料で、正しく整合層を構成する材料に帰属するとの認識を示し、第一整合層として捉えた記述が有る。
然しながら整合層としてλ/4に対応する整合層の厚みを、どの様に担保するか記述はない。また、エポキシの硬化温度と時間により音響インピーダンスの値が大きく変化するとの記述が有る。しかし、その制御と第二および第三の整合層との関連についての記述はない。要するに十分コントロールされた整合層ではないので第二、第三の整合層の設計に関して曖昧な存在となっている。認識はしているが実効的な整合層としての機能を発揮してない点で、プローブ全体の特性に対して悪影響を与えると言っても過言でない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的はプローブを構成するキーマテリアルである圧電素子の電極の構成材料に係わり、整合層の設計に寄与する複合電極材の製造に関するものである。
【0016】
従前の整合層の設計に於いて多くの場合、圧電素子の音響インピーダンスについては大きな注意を払ってきた。然しながら電極構成材料について関心は全く皆無と言っても過言ではない。
【0017】
整合層の理論的な設計基準を担保するために電極構成材料の音響インピーダンスを圧電材料の音響インピーダンスと同じ値にすることを考案した。
すなわち、現状実用化されているPZT系の圧電材料の音響インピーダンスは30~20MRaylsである。先にも言及した通り現在電極用導電ペーストの多くは5~12MRayls程度である。他方、音響インピーダンスは固有物資の密度ρと物質中の音速で決まる。銀の密度ρは10.4g/cm^3音速vは3,650m/sである。電極構成材と言う観点から(イ)電機伝導率が良く、音響インピーダンスを銀微粒子に代わって増加させる条件として(ロ)音速が銀のそれより大きい(ハ)密度が銀より大きい、等々が挙げられる。これ等の条件をクリアする金属としては銅(ρ:8.3-8.93、v:5,010)、タングステン(ρ:18.6~19.1、v:5,410)および金18.6-~9.3、v:3,240)等や合成ダイヤモンド(ρ:3.5、v:18,000)が考えられる。
【0018】
金属微粉末とエポキシ樹脂の複合材料として、ほぼ加成性が成り立つので(非特許文献1)等を参考に所望の特性に近いものを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
電極構成材の音響インピーダンスが圧電素子の音響インピーダンスと同等の数値となったことにより、電極構成材による疑似整合層の存在が無くなった。これにより整合層の理論設計がより確実なものとなった。それ故、音響インピーダンスの見地からも極めて効率の良いプローブを提供できることになった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例を説明するためのプローブ断面斜視図である。(イ)は圧電材料、例えばPZT薄板3の両面に信号用電極2および接地用電極4を設け、バッキング材1に接着した上で、音響整合層5~7を順次張り合わせたプローブ用ブロックを示す斜視断面図である。(ロ)は上記プローブ用ブロックを電気的設計に基付き要求されたエレメント数に切り込みを入れた状態を示す斜視断面図である。(ハ)は(ロ)で用意された各圧電素子エレメントの最上層音響整合層7を音響レンズ8で覆った状態を示す社史断面図である。
【実施例0021】
PZT等圧電材料を使用したプローブの構成断面図の一例は
図1に示した通りである。プローブは一般的には次に示した作業工程を通して製造される。予め圧電材料である薄板状PZT3の両面に信号電極2および接地電極4を設けて置く。信号電極2側にバッキング材1を張り付ける。次に接地電極4面上に音響整合層5、6および7を順次張り合わせる。
上記、所望の加工を施した圧電材料PZTに、目的とする構成エレメント数に見合った切込みを入れて独立したエレメントとする。各エレメントをハウジング端子と電気的な結線を行いプローブのセミアッセンブル体とする。この段階で該セミアッセンブル体をプローブの外筐を形成するハウジング内に収め最終仕上げとして音響レンズ8を最上段の整合層7の上に形成する。
【0022】
本考案は
図1で示した信号電極2および接地電極4の材質に関する発明である。
超音波の発信源である圧電材料(多くの場合、現在はPZT系セラミックが用いられている)の音響インピーダンスは20~30MRaylsである。一方で電極用として用いられている金属銀の微粒子とエポキシ樹脂とを混合して導電性と接着性を持たせた電極材の音響インピーダンスは金属銀とエポキシ樹脂の混合比で決まり、おおよそ5~12MRaylsである。本発明に於いては電極を音響インピーダンスを持った整合層と捉えた観点で見直す。音響インピーダンスを任意に変える場合、複合材料として適当と思われる金属の諸物性を表1に示した。
【表1】
【0023】
プローブに使用している圧電材料(PZT)の音響インピーダンスが30MRaylsの場合を例として実施例を示す。
【0024】
先にも示した通り市販されている電極用銀導電ペーストの音響インピーダンスは5~12MRaylsである。これは銀微粉末と接着用の有機樹脂との配合比率できまる。
一般的には銀の微粒子が有機樹脂中に多く含まれるほど導電性能は高いが、接着性および機械的強度等に対する配慮から配合比率は銀が70~80重量%と言われてる。従って、音響インピーダンス的には12MRaylsが上限となる。他方、下限は伝導性能から限定される。また、銀微粒子の形状を工夫して銀50重量%であっても、従前の電気伝導率を確保できる導電ペーストも開発されてきた。
この導電ペーストを使用した電極の音響インピーダンスは約5MRaylsである。
これ等の制約から、超音波診断装置用のプローブに使用している圧電素子PZTの音響インピーダンスが30MRayls程度の場合、銀系の導電ペーストではPZTの音響インピーダンスの値に合わせることが不可能である。
【0025】
表1に示した各材料の密度、音速および音響インピーダンスを基に、これら材料から選定し複合材料を構成し、本発明所望の電極を得た。
【0026】
電極として導電性を確保し、且つ音響インピーダンスを圧電材料の、それに限りなく近付ける条件に合わせるため複合材料を構成する材料の選定には自ずと制約がある。
すなわち、例えば銀の微粒子を用いたエポキシ樹脂系統の電極材であると先に示した通り、音響インピーダンスは5~12MRaylsである。従って、音響インピーダンスの値を、これより大きくするために少なくとも新たに相当大きな音響インピーダンスを持つ材料を加える必要が有る。
【0027】
エポキシ樹脂を結合剤および接着剤とし、これに電極の使命を果たす主役には銀を、音響インピーダンスの値を大きくする調整の役割を担う材料として合成ダイアモンドやタングステン微粉末が考えられる。
複合材料を構成する個々の材料は、混合攪拌による、均一分散した複合材料の製造を考えると可能な限り密度が、お互い近い値であることが望ましい。その様な観点から、構成材料として合成ダイヤモンドを選定した。
【0028】
合成ダイヤモンド粒子は今日、工業生産され硬度が高い、熱伝導率が極めて優れている等の特性から研磨研削材料として広く利用されている。また、色々な厨房器具に塗布し、熱が均一に高速で拡散する特性を高く評価され家庭用のフライパンとか各種鍋等の火力接触面とは反対側の内面に塗布し広く利用されている。工業用の合成ダイアモンド粒子は、単独の粒子の表面にニッケル、チタニウムや銅を被覆したものも市販されている。
本発明に於いては、(株)グローバルダイヤモンドが市販している粒径30μmの合成ダイヤモンド表面に銅を被膜したFRD-S-C50-400/500を使用した。この様な製品は国内で他からも容易に入手可能である。
【0029】
導電ペーストのフィラーである銀粒子は単体で入手してエポキシ樹脂等と混合して所望の導電ペーストを作成する方法もある。しかし、本特許に於いては非常にユニークな市販の導電ペーストを利用した。
【0030】
化研テック(株)のCR-5200をベースとし本特許所望の複合材料を製造した。この会社のフィラーとして銀粒子の特徴は、その形状が毬栗状の形状をしていることである。通常、導電ペーストとして、その機能を発揮させるためには粒状或いはフレーク状の銀を使用して導電ペースト中の比率が重量比で70~80%が必要とされる。毬栗上のフィラーでは導電パスを有効に形成できるため銀の比率が重量比で50%程度で従来品と同等の性能を発揮できる。
【0031】
化研テック(株)CR-5200を130g秤量し、これに(株)グローバルダイアモンドのカタログ番号FRD-S-C50-400/500、銅被覆ダイアモンド微粒子粉70gを加える。
これを回転式ボールミルで24Hr混合攪拌して複合材料の均一化を計った。
【0032】
製造した導電性複合材料の諸物性を測定した。結果は次の通りであった。密度ρ:3.64g/cc、音速v:7,890m/Sec、導電性:~5×10^-5Ω・cm以下、音響インピーダンス:28.7MRayls。
これ等の数値から導電性を保ち且、圧電素子と同等の音響インピーダンスを持った本発明の初期の目的を満たす電極材を得ることができた。