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  • 特開-医療用セメント組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051701
(43)【公開日】2022-04-01
(54)【発明の名称】医療用セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/853 20200101AFI20220325BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20220325BHJP
   A61K 6/71 20200101ALI20220325BHJP
   A61K 6/72 20200101ALI20220325BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20220325BHJP
【FI】
A61K6/853
A61K6/60
A61K6/71
A61K6/72
A61K6/76
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151629
(22)【出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0121240
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】520159226
【氏名又は名称】マルチ コンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】チャン スン ウク
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA08
4C089BA14
4C089BA20
4C089BC03
4C089BC07
4C089BC10
4C089CA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】硬化後に除去が容易であり、保管安定性に優れており、生体活性が高い医療用セメント組成物を提供する。
【解決手段】ケイ酸カルシウムが組成物全体重量の20重量%未満で含まれ、前記ケイ酸カルシウムの含有量を100質量%基準として、リチウム塩を1.5質量%以下で含む、医療用セメント組成物であって、前記リチウム塩は、ケイ酸リチウム、窒化リチウム、炭酸リチウムおよび水酸化リチウムからなる群より選択されたいずれか一つ以上である、医療用セメント組成物とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸カルシウムが組成物全体重量の20重量%未満で含まれ、
前記ケイ酸カルシウムの含有量を100質量%基準として、リチウム塩を1.5質量%以下で含む、
医療用セメント組成物。
【請求項2】
前記リチウム塩は、ケイ酸リチウム、窒化リチウム、炭酸リチウムおよび水酸化リチウムからなる群より選択されたいずれか一つ以上である、
請求項1に記載の医療用セメント組成物。
【請求項3】
前記ケイ酸カルシウムは、三ケイ酸カルシウム(tricalcium silicate)である、
請求項1または2に記載の医療用セメント組成物。
【請求項4】
硬化後の圧縮強度が3MPa以上であり、12MPa以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用セメント組成物。
【請求項5】
N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)およびジエチレングリコールモノエチルエーテル(diethylene glycol monoethyl ether、DEGEE)の中から選択されたいずれか一つ以上をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用セメント組成物。
【請求項6】
前記医療用セメント組成物は、プレミックス(premix)されたものである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の医療用セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用セメント組成物に関するものであり、より詳細には、神経、血管、細胞組織および硬組織などが除去された空間に充填される医療用セメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、医療用セメント組成物は、治療を目的として、神経、血管、細胞組織および硬組織などが除去された空間に充填される物質であって、様々な分野で適用されている。
【0003】
特に、歯科分野中で、歯の内部の神経、血管およびその他の組織を除去した後、その空間に材料を充填し、密封して歯の機能を維持させる根管(神経)の治療(endodontic treatment)分野において、医療用セメント組成物は必須的である。
【0004】
医療用セメント組成物の一つとして、MTA(mineral trioxide aggregate)は、根管治療のために広範囲に使用される物質であって、主に歯根穿孔の修復、歯髄切断術、部分歯髄切断術、歯髄覆罩(pulp capping)、根管充填(root canal filling)、歯根端逆充填(root-end retrofilling)などの治療で使用され、密閉性および生体親和性に優れた利点があり、生活歯髄治療に主に適用される水酸化カルシウムより三次象牙質の形成や炎症細胞の浸潤の面で優位に存在する。
【0005】
一般的に、MTAは、ポルトランドセメントと類似してケイ酸カルシウム(calcium silicate)、カルシウムアルミネート(calcium aluminate)および石膏を主成分として含んで構成され、体液、唾液、その他の液体などが存在する環境で、ケイ酸カルシウムが水と反応することにより、ケイ酸カルシウム水和物(calcium silicate hydrate、C-S-H)と水酸化カルシウム(calcium hydr oxide)を生成することになる。
【0006】
ケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)は、粗い繊維結晶状のものから、不規則で、ツイスト網状に連結されたものまで、様々な形態を有しており、コロイド状で非常に高い表面積と内部空隙を有する層構造からなり、MTA硬化体内で約50~60%の体積を占めている。
【0007】
一方、水酸化カルシウムは、六角板状型の結晶を有し、MTA硬化体内で約20~25%の体積を占めている。水酸化カルシウムの量は、MTAに含まれたケイ酸カルシウムの種類および水和反応の程度に連関する。
【0008】
MTAは、高度の密閉性および生体親和性を有するので、MTAの以前に治療が困難であった多くの場合で、画期的な臨床結果を示しながら、脚光を浴びている一方で、水酸化カルシウムの生成によって歯質が弱化することがあるという懸念がある。
【0009】
一般的な水酸化カルシウム製剤と同様に、MTAを用いて根管充填をすると、歯根の破折可能性が増加し、根管治療過程で、物理的な歯質の除去と共に、根管治療の長期予後を悪くする。
【0010】
このような問題を解決するために、米国登録特許第8801846号には、ポゾラン物質を含んで水酸化カルシウムを中和させる技術を提示している。
【0011】
MTAは、従来使用されたアマルガム、IRM、Super EBAより密閉性は優れているが、硬化時間が長く、操作性が不便であり、変色が生じるなどの問題点が存在する。また、MTAの水和過程で周辺の酸性環境に大きな影響を受け、物理的性質や構造が弱まる問題があり、硬化した後にも、MTA硬化体が口腔内の唾液や炎症性産物に曝されると、内部の水酸化カルシウムと反応して構造が急激に弱くなり、密閉性が低下する。
【0012】
水酸化カルシウムが唾液や炎症性滲出物と反応し、硫酸カルシウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化マグネシウムを生成することにより、体積が増加し、これにより、膨張圧が生じるからである。
【0013】
実際に、水酸化カルシウムのモル体積は、33.2cm3であるのに対し、硫酸カルシウムのモル体積は、74.2cm3であり、したがって、水酸化カルシウムが硫酸カルシウムに変わると、約2.2倍の体積増加が生じることになる。
【0014】
また、硫酸カルシウムは、アルミン酸カルシウム水和物、モノスルフェート並びにトリカルシウムアルミネート(C3A)と再び反応し、エトリンガイト(ettringite)を生成するが、この過程でも体積が増加し、これにより、膨張圧が生じることにより、硬化体の亀裂をもたらすことになる。これを産業界では、alkali-aggregation reaction(AAR)とする。
【0015】
これまで、これを解決するために、水が存在する環境で、活性シリカと活性アルミナ成分が水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウム水和物を生成する反応であるポゾラン反応を用いて、水酸化カルシウムを中和する方法が産業界を中心に研究されてきたが、ポゾラン反応は、耐久性を向上させ、密閉性が良くなるという利点があるのに対し、生体活性や生体親和性に及ぶ影響は僅かである。
【0016】
また、根管治療は、複雑な根管系を消毒して密閉する治療であって、装備と材料の発達にもかかわらず、歯の内部の根管系を完全に消毒して密閉することは非常に難しいと知られている。特に、根管治療に使用される医療用セメント組成物は、施術が完了し、完全に硬化がなされた以降にも再感染などにより、再治療が必要な場合、容易に除去できる必要がある。
【0017】
再治療の容易性を向上させるために、米国登録特許第9445973号は、全体組成物でジルコニウム酸化物の含有量を45%以上含有する除去可能な根管充填用セメントの組成に関する技術を提示している。
【0018】
そのほかに、MTAの最も大きい欠点としては、施術時の操作が不便であり、これを克服するために、米国登録特許第9668825号にプレミックスされた形態で、MTAを提供する技術が提示されている。
【0019】
これまでの技術発展の動向をみると、人体内で使用される場合、下記の3つの条件を全て満たす医療用セメント組成物に対する開発が依然として求められている。
1)水酸化カルシウムによる遅延膨張を抑制して得られた優れた長期安定性
2)再治療が可能な低い圧縮強度
3)高い生体活性
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国登録特許第8801846号
【特許文献2】米国登録特許第9445973号
【特許文献3】米国登録特許第9668825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
前記のような問題を解決するために、低い圧縮強度を有し、水酸化カルシウム生成量が低いため、体積安定性に優れており、生体活性の高い医療用セメント組成物を提供することに目的がある。
【0022】
特に、医療用セメント組成物の低い圧縮強度は、治療後に感染によって再治療が必要な場合、非常に有用な特性となる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記のような目的を達成するための本発明は、ケイ酸カルシウムが組成物全体重量の20重量%未満で含まれ、リチウム塩を含む医療用セメント組成物を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の医療用セメント組成物は、プレミックスされた状態で提供することができ、治療過程への適用が容易であり、硬化後には低い圧縮強度を有し、再治療が必要な場合、除去が容易である。また、体積安定性に優れており、生体活性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1および比較例2によって製造された医療用セメント組成物硬化体の圧縮強度の測定結果である。
図2】製造例1および実施例1~7によって製造された医療用セメント組成物硬化体の細胞毒性実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照して、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の具現例および実施例を詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な異なる形で具現することができ、ここで説明する具現例および実施例に限定されない。そして、図面で本発明を明確に説明するために説明と関係のない部分は省略する。
【0027】
本発明の明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるものを意味する。
【0028】
本発明の明細書全体において、用語の「約」は、言及された意味で固有の製造および物質許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解のために、正確または絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に用いることを防止するために使用される。
【0029】
根管治療は、治療対象である歯の解剖学的形態が複雑で多様であるだけでなく、治療過程で、長い時間と複雑な装置の使用が必要となるにもかかわらず、成功率に満足できない場合が多く、最初の治療に成功できなかった場合、歯を抜歯する前に、再び神経治療をするか、歯根端手術をする必要がある場合がしばしば生じる。
【0030】
このような再治療のためには、既存の施術した充填材を除去しなければならないが、このとき、根管充填材が硬すぎる場合には、歯科医師が一般的に使用する方法で除去することが困難であり、再治療に困難が生じる。
【0031】
つまり、再治療が必要な場合、硬化した充填材を除去できるように、硬化した充填材の圧縮強度を適切に下げる必要がある。
【0032】
本発明の医療用セメント組成物は、ケイ酸カルシウムを組成物全体重量の20重量%未満で含み、好ましくは5重量%以上20重量%未満で含んでもよい。前記ケイ酸カルシウムは水硬化特性を有することができる。
【0033】
前記ケイ酸カルシウムの含有量がセメント組成物全体重量の5重量%未満の場合、強度や密閉性などの物理的性質だけでなく、生体活性が過度に低下するため、医療用セメント組成物としては適合しない。
【0034】
前記ケイ酸カルシウムの含有量が組成物全体重量の20%以上を含む場合、圧縮強度が高くなり、再治療のため除去が困難になる。
【0035】
通常、MTA組成物において、ケイ酸カルシウムの含有量が全体MTA重量の少なくとも20重量%以上である場合、MTAの特有の生体活性が発現すると知られている。
【0036】
このような生体活性の発現は、主に水和特性を有するケイ酸カルシウムの水和反応の生成物であるイオン化した水酸化カルシウムの影響であると把握されている。
【0037】
一方、水酸化カルシウムは、長期的に歯根のコラーゲン繊維を弱化させ、歯根の破折抵抗性を弱化させる問題を誘起し、体内で硬化後にalkali-aggregation reaction(AAR)による遅延膨張を生じさせる。
【0038】
したがって、水和反応生成物である水酸化カルシウムの絶対生成量を減らすために、水和特性を有するケイ酸カルシウムの含有量を下げながらも、生体活性を高めることができる添加物が必要である。
【0039】
本発明の医療用セメント組成物は、前記医療用セメント組成物に20重量%未満で含まれるケイ酸カルシウムの含有量を100質量%基準として、さらにリチウム塩を1.5質量%以下含んでもよい。好ましくは、リチウム塩の含有量は、0.1重量%以上1.5重量%以下であってもよい。
【0040】
リチウム塩は、医療用セメントの生体活性を補完するとともに、人体内で硬化した医療用セメントの長期体積安定性を高める。
【0041】
リチウム塩を0.1重量%未満で使用する場合は、ケイ酸カルシウムの生体活性の補完効果およびalkali-aggregation reaction(AAR)の抑制効果がほとんどなく、リチウム塩を1.5重量%を超えて使用する場合、むしろ医療用セメント組成物の生体活性を低下させ、生産コストを増加させる。
【0042】
また、前記リチウム塩は、ケイ酸リチウム、窒化リチウム、炭酸リチウムおよび水酸化リチウムからなる群より選択されたいずれか一つ以上であってもよい。
【0043】
本発明の前記ケイ酸カルシウムは、三ケイ酸カルシウム(tricalcium silicate、C3S)であってもよい。特に、純粋な三ケイ酸カルシウムをあらかじめ合成して医療用セメント組成物の製造時に使用してもよい。純粋な三ケイ酸カルシウムは、水和反応で高い圧縮強度を有する充填物を作るため、全体医療用セメント組成物の20%以上含むと、硬化後に除去することが困難になることもある。
【0044】
本発明の医療用セメント組成物は、再治療などの場合に除去の容易のために、圧縮強度が好ましくは3MPa以上12MPa以下であってもよい。圧縮強度が3MPa未満の場合、強度が低すぎて、施術後の小さな衝撃にも壊れやすい。また、圧縮強度が12MPaを超える場合、再治療のための医療用セメント組成物硬化物の除去が容易ではない。
【0045】
そのほかに、本発明の医療用セメント組成物は、前記液体成分は、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)およびジエチレングリコールモノエチルエーテル(diethylene glycol monoethyl ether、DEGEE)の中から選択されたいずれか一つ以上をさらに含んでもよい。
【0046】
しかし、特にこれに限定されず、細胞毒性が低い非水性液体であり、極性を有する溶媒中で粘性が低く、水に容易に混ずることができ、浸透促進(penetration enhancing)特性を有し、人体内で安全に使用できる液体であれば、制限なく使用可能である。
【0047】
そのほかに、本発明の医療用セメント組成物は、放射線検査による観察を通じて施術の進行程度を正確に把握することができるように、放射線不透過性を有することが好ましく、そのために放射線不透過性粉末をさらに含むことが好ましい。
【0048】
放射線不透過性粉末は、強誘電体、タングステン酸化物(tungsten oxide)、タングステン酸カルシウム(calcium tungstate)、ジルコニウム酸化物(zirconium oxide)、タンタル酸化物(tantalum pentoxide)、次硝酸ビスマス(bismuth subnitrate)および硫酸バリウム(barium sulfate)の中から選択いずれか一つ以上を含んでなるものが好ましい。
【0049】
一方、このような放射線不透過性粉末は、本発明の医療用セメント組成物の使用目的と放射線不透過性粉末の種類に応じて適合な含有量で含まれることが好ましい。
【0050】
より具体的に、放射線不透過性粉末は、医療用セメント組成物全体重量の40~60重量%含まれることが好ましい。
【0051】
一方、本発明の医療用セメント組成物に適当な粘度を与えてレオロジー特性を調節するために、増粘剤として、メチルセルロース(methylcellulose)、ヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethylcellulose)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropylmethylcellulose)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)およびポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone)の中から選択されたいずれか一つ以上を含んでなるものが好ましい。
【0052】
本発明の医療用セメント組成物の液体成分および増粘剤は、医療用セメント組成物全体重量に対して、15~35重量%で含まれることにより、医療用セメント組成物をペースト化させることが好ましく、これは、15重量%未満ではペースト化させて練るには困難があり、35重量%を超える場合では、過度な液体成分により粉末成分が分離される現象が生じる問題があるからである。
【0053】
また、前記ケイ酸カルシウムの大きさが2μm以下であってもよい。ケイ酸カルシウムの大きさが2μmを超える場合、根管内で互い固まる現象が生じ、GPCONの進行を妨げる問題が生じる。
【0054】
本発明の医療用セメント組成物は、歯科用セメント組成物であってもよい。特に、歯髄覆罩、歯髄切断、逆充填、穿孔部位の修復および根管充填用などに使用可能である。
【0055】
一方、本発明の医療用セメント組成物は、生体内修復および充填が必要な空間への注入が容易であり、保管も容易であるようにペースト状に形成されたことが好ましく、そのために液体物質を含んでなるものが好ましい。すなわち、本発明の医療用セメント組成物は、固体成分が液体成分によって混合および練られてペースト化した形態を有する。
【0056】
また、本発明の医療用セメント組成物は、プレミックスされた(pre-mixed)形態で提供されてもよい。
【実施例0057】
以下、本発明の製造例、比較例および実施例を用いてより詳細に説明する。ここで使用したすべての試薬は、一般的に市販されるものを使用しており、具体的な記載がない場合は、特別な精製なく使用している。また、下記の製造例、比較例および実施例は、本発明の例証のためのものであり、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0058】
製造例1
DMSO溶液にヒドロキシプロピルメチルセルロースを2部添加して完全に溶かした。以後、三ケイ酸カルシウムとジルコニア(ZrO2)を1:7で混合した粉末成分と重量比で3:10で練り、リチウム塩添加剤の調節された量を追加して医療用セメント組成物を製造した。
(製造された医療用セメント組成物の三ケイ酸カルシウムの含有量は、全体組成物の9.6重量%であった。)
【0059】
実施例1~7
下記の表1のように、医療用セメント組成物のリチウム塩(炭酸リチウム)の含有量を全体医療用セメント組成物に含まれるケイ酸カルシウムの含有量を100重量%として、0.3、0.5、0.6、0.7、0.9、1.2および1.5重量%で添加したことを除き、製造例1の製造方法にしたがって、医療用セメント組成物を製造した。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例1
三ケイ酸カルシウムとジルコニア(ZrO2)を1:3で混合した粉末を使用したことを除き、製造例1の製造方法にしたがって、医療用セメント組成物を製造した。つまり、比較例1には、リチウム塩が含まれていない。
(製造された医療用セメント組成物の三ケイ酸カルシウムの含有量は、全体組成物の20.03重量%であった。)
【0062】
実験例1(圧縮強度)
実施例1および比較例1の医療用セメント組成物硬化体の試片をそれぞれ製造し、圧縮強度を測定した(実施例1は、2つの試片を製造して測定し、比較例1は、4つの試片を製造して測定した)。
【0063】
圧縮強度は、用意された試料をアクリルモールド内10mm×10mm×10mmの正方形の溝に注入した後、試料が入ったアクリルモールドを36.5℃、100%条件の恒温恒湿器に入れて硬化させた。
【0064】
以降、万能試験機(Universal Testing Machine、モデル名:Instron 5882)を用いて、試片の圧縮強度を測定した。測定時に、最大荷重を5000Nに、cross head speedは0.85mm/minに設定した。
【0065】
測定した結果は、図1に示した。
【0066】
図1(a)に示したリチウム塩をケイ素カルシウムの含有量に対して、0.3重量%含む医療用セメント組成物に該当する実施例1の硬化体の場合、測定された平均圧縮強度は、約5.034MPaであった。
【0067】
これに対して、図1(b)に示した比較例1の硬化体の場合、測定された平均圧縮強度は約12.374MPaであった。
【0068】
つまり、ケイ酸カルシウム(三ケイ酸カルシウム)の含有量が低くなるほど、圧縮強度が低くなり、比較例1のようにケイ酸カルシウムの含有量が20重量%以上であれば、再治療が必要なとき、生成された硬化体の除去が容易でない、12MPaを超える圧縮強度を示した。
【0069】
したがって、再治療が必要な場合を考慮して、生成された硬化体の圧縮強度を適切に低いレベルに維持するためには、ケイ酸カルシウムの含有量は、全体医療用セメントの20重量%未満に維持しなければならないことが分かった。
【0070】
実験例2(細胞毒性)
医療用セメント組成物硬化体の細胞毒性をMTT分析方法を用いて実験した。具体的な実験方法は、以下の通りである。
【0071】
医療用セメント組成物硬化体を直径10mm、厚さ2mmの試片に作製した後、湿度が維持される37℃の培養器で3~7日間保管した。以降、紫外線(UV light)に一晩中(overnight)露出させて滅菌した後、0.5cm2/mlの濃度で3日間37℃の培養器から抽出し、抽出した培地は、上澄み液のみを集めて別に保管した。細胞毒性実験に使用するMC3T3-E1細胞株は、MEM-α培地に10%FBSを添加して培養し、24ウェルプレート(well plate)に、MT3T3-E1細胞株をウェル(well)の当たり、1.5×104個ずつ分株して一日を培養した。このとき、サンプルは4倍数で用意し、1、2、3日目のプレートをそれぞれ用意した。以降、培養された細胞株の培養液を除去し、抽出した培地をウェル(well)の当たり、1mlずつ分株して培養し、培養1、2、3日目のMTTアセイ(assay)を行った。まず、細胞培養液を除去し、PBSに溶かした0.05%MTT溶液を200μmずつ処理した後、37℃のインキュベーター(incubator)で2時間培養した。以後、DMSO溶液をそれぞれ200μmずつ入れ、10分後、96ウェルプレート(well plate)に200μmずつ分け出し、吸光度(optical density;OD)を測定して細胞生存率を評価した。ここで、細胞生存率は、3つの試験群の測定結果の平均値と標準偏差を用いて導出した。
【0072】
MTT分析方法を通じた医療用セメント組成物硬化体の細胞毒性実験結果を図2に示した。
【0073】
医療用セメント組成物硬化体が適用されていない対照群(CON)と、リチウム塩が含まれていない医療用セメント組成物硬化体(OES、製造例1に該当)および、実施例1~7(それぞれ三ケイ酸カルシウムの含有量を100重量%としたときのリチウム塩の含有量である0.3、0.5、0.6、0.7、0.9、1.2および1.5重量%とした)の細胞生存率を図2に示した。
図2のグラフに示した棒の値の最も左から最も右の順に、それぞれCON、OES、リチウム塩の含有量である0.3、0.5、0.6、0.7、0.9、1.2および1.5重量%含む医療用セメント組成物硬化体の細胞生存率の測定結果を示す。)
【0074】
まず、時間の経過につれて細胞生存率が変化するが、リチウム塩が含まれていない医療用セメント組成物硬化体の場合、リチウム塩が含まれた医療用セメント組成物硬化体に比べて細胞生存率が非常に低いことが確認できた。このような傾向は、時間の経過につれてより顕著にあらわれた。リチウム塩の含有量の増加に伴う生体活性の増加は、少なくとも3日が経過した後にも維持されることが確認できた。
【0075】
また、時間の経過による測定結果、3日目の測定で、0.5~0.9重量%のリチウム塩が含まれた医療用セメント組成物硬化体で、特に細胞活性が高く、0.3重量%および0.9~1.5重量%のリチウム塩を含んだ医療用セメント組成物硬化体では細胞活性がやや低い傾向を示した。
【0076】
以上、前述した実験結果から、リチウム塩の添加を通じて20重量%未満のケイ素カルシウムを含む医療用セメント組成物の細胞活性を向上できることが分かった。また、1.5重量%以下のリチウム塩を含む医療用セメント組成物で細胞活性を最適化できることが確認できた。
【0077】
すなわち、本発明の医療用セメント組成物硬化体の細胞活性が非常に良好であることが分かった。
【0078】
本発明の医療用セメント組成物の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する当業者が、本発明を容易に実施できるようにする好ましい実施例に過ぎず、前述した実施例および添付の図面に限定されるものではないので、これにより、本発明の権利範囲が限定されるものではない。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、添付の特許請求の範囲の技術的思想によって定められるべきである。また、本発明の技術的思想から外れない範囲内で、様々な置換、変形および変更が可能であることは、当業者にとって自明であり、当業者によって容易に変更可能な部分も、本発明の権利範囲に含まれることは自明である。
図1
図2