(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051717
(43)【公開日】2022-04-01
(54)【発明の名称】溶接用アルミニウム系電極
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20220325BHJP
B23K 35/368 20060101ALI20220325BHJP
B23K 35/365 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
B23K35/30 320Z
B23K35/30 330Z
B23K35/368 B
B23K35/365 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】34
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021152921
(22)【出願日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】63/081,623
(32)【優先日】2020-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/090,867
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/446,778
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヴィヴェック セングプタ
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084BA17
4E084BA20
4E084BA29
4E084CA19
4E084CA23
4E084DA01
4E084DA10
4E084GA09
4E084HA04
4E084HA06
4E084HA07
(57)【要約】
【課題】 溶接用アルミニウム系電極を提供する。
【解決手段】 本開示の技術は、一般的には溶接に関し、より特定的にはアルミニウム系消耗電極に関する。一態様では、溶接用消耗電極は、マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、スマット抑制金属と、を含む。1600K以上の温度における平衡条件下でのスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)は、Mgの酸化によるMgOの生成のΔGoよりも負であり、スマット抑制金属は、溶接用消耗電極から生成される溶接金属の表面上にMgOよりも熱力学的に有利なスマット抑制酸化物を生成するように構成される。スマット抑制金属は、溶接用消耗電極の0.05~0.50重量%の量で存在する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、
スマット抑制金属であって、1600K以上の温度における平衡条件下での前記スマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)が、Mgの酸化によるMgOの生成のΔGoよりも負であり、前記スマット抑制金属が、溶接用消耗電極から生成される溶接金属の表面上にMgOよりも熱力学的に有利な前記スマット抑制酸化物を生成するように構成される、スマット抑制金属と、
を含む、溶接用消耗電極であって、
前記スマット抑制金属が、前記溶接用消耗電極の0.05~0.50重量%の量で存在する、溶接用消耗電極。
【請求項2】
平衡条件下、1600Kにおいて<-192kcal/gfw及び>-215kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)で前記スマット抑制酸化物を生成するように前記スマット抑制金属が構成される、請求項1に記載の溶接用消耗電極。
【請求項3】
前記スマット抑制金属が、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、エルビウム(Er)、ストロンチウム(Sr)、セリウム(Ce)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の溶接用消耗電極。
【請求項4】
平衡条件下において≦-215kcal/gfw及び>-225kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)で前記スマット抑制酸化物を生成するように前記スマット抑制金属が構成される、請求項1に記載の溶接用消耗電極。
【請求項5】
前記スマット抑制金属が、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、トリウム(Th)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の溶接用消耗電極。
【請求項6】
前記スマット抑制金属が、平衡条件下において≦-225kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)で前記スマット抑制酸化物を生成するように構成される、請求項1に記載の溶接用消耗電極。
【請求項7】
前記スマット抑制金属が、ルテチウム(Lu)、ホルミウム(Ho)、カルシウム(Ca)、テルビウム(Tb)、スカンジウム(Sc)、ツリウム(Tm)、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の溶接用消耗電極。
【請求項8】
前記スマット抑制金属が、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せから選択する化合物形である、請求項1に記載の溶接用消耗電極。
【請求項9】
前記化合物形がオキサイド又はハイドロオキサイドである、請求項8に記載の溶接用消耗電極。
【請求項10】
溶接金属の生成時にMgOを含むスマット層が前記溶接金属上に生成するように前記溶接用消耗電極が構成され、前記スマット層の生成を抑制して前記スマット層中のMg量が前記溶接用消耗電極中のMg量の10重量%未満になるように前記溶接用消耗電極が構成される、請求項1に記載の溶接用消耗電極。
【請求項11】
前記ベース金属組成物が亜鉛(Zn)をさらに含み、及び前記スマットがZnOをさらに含み、前記スマット層の生成を抑制して前記スマット層中のZn量が前記溶接用消耗電極中のZn量の10%未満になるように前記溶接用消耗電極が構成される、請求項1に記載の溶接用消耗電極。
【請求項12】
以下:
マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、
カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属と、
を含む溶接用消耗電極であって、
前記スマット抑制金属が、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せから選択される化合物形で存在する、溶接用消耗電極。
【請求項13】
前記化合物形がオキサイド又はハイドロオキサイドである、請求項12に記載の溶接用消耗電極。
【請求項14】
溶接金属の生成時にMgOを含むスマット層が前記溶接金属上に生成する量で前記スマット抑制金属が存在し、前記スマット層の生成を抑制してMgO層中のMg量が前記溶接用消耗電極中のMg量の10重量%未満になるように前記溶接用消耗電極が構成される、請求項12に記載の溶接用消耗電極。
【請求項15】
前記スマット抑制金属が、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、エルビウム(Er)、ストロンチウム(Sr)、セリウム(Ce)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の溶接用消耗電極。
【請求項16】
前記スマット抑制金属が、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、トリウム(Th)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の溶接用消耗電極。
【請求項17】
前記スマット抑制金属が、ルテチウム(Lu)、ホルミウム(Ho)、カルシウム(Ca)、テルビウム(Tb)、スカンジウム(Sc)、ツリウム(Tm)、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の溶接用消耗電極。
【請求項18】
前記スマット抑制金属が前記溶接用消耗電極の0.05~0.50重量%で存在する、請求項12に記載の溶接用消耗電極。
【請求項19】
以下:
マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、
スマット抑制金属であって、1600K以上の温度における平衡条件下での前記スマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)が、Mgの酸化によるMgOの生成のΔGoよりも負であり、前記スマット抑制金属が、前記溶接用消耗電極から生成される溶接金属の表面上にMgOよりも熱力学的に有利な前記スマット抑制酸化物を生成するように構成される、スマット抑制金属と、
を含む溶接用消耗電極であって、
前記溶接金属の生成時にMgOを含むスマット層が前記溶接金属上に生成する量で前記スマット抑制金属が存在し、前記スマット層の生成を抑制して前記スマット層中のMg量が前記溶接用消耗電極中のMg量の10重量%未満になるように前記溶接用消耗電極が構成される、溶接用消耗電極。
【請求項20】
前記溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属が、前記スマット抑制金属を含まない同一のベース金属組成物を有する溶接用消耗電極を用いて実質的に同一の溶接条件下で生成される溶接金属上に生成されるスマット層と比べて、少なくとも10重量%少ないMgOを含むスマット層を上に生成して有するような量及び形態で、前記スマット抑制金属が存在する、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項21】
平衡条件下、1600Kにおいて<-192kcal/gfw及び>-215kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)で前記スマット抑制酸化物を生成するように前記スマット抑制金属が構成される、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項22】
前記スマット抑制金属が、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、エルビウム(Er)、ストロンチウム(Sr)、セリウム(Ce)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項21に記載の溶接用消耗電極。
【請求項23】
平衡条件下において≦-215kcal/gfw及び>-225kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)で前記スマット抑制酸化物を生成するように前記スマット抑制金属が構成される、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項24】
前記スマット抑制金属が、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、トリウム(Th)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項23に記載の溶接用消耗電極。
【請求項25】
前記スマット抑制金属が、平衡条件下において≦-225kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)で前記スマット抑制酸化物を生成するように構成される、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項26】
前記スマット抑制金属が、ルテチウム(Lu)、ホルミウム(Ho)、カルシウム(Ca)、テルビウム(Tb)、スカンジウム(Sc)、ツリウム(Tm)、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項25に記載の溶接用消耗電極。
【請求項27】
前記スマット抑制金属が、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せから選択される化合物形で存在する、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項28】
前記化合物形がオキサイド又はハイドロオキサイドである、請求項27に記載の溶接用消耗電極。
【請求項29】
前記ベース金属組成物が亜鉛(Zn)をさらに含み、及び前記スマットがZnOをさらに含み、前記スマット層の生成を抑制して前記スマット層中のZn量が前記溶接用消耗電極中のZn量の10%未満になるように前記溶接用消耗電極が構成される、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項30】
前記スマット抑制金属が、Mg、Zn、及びAlの1つ以上よりも高い沸点を有する、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項31】
前記スマット抑制金属が、前記溶接用消耗電極中のMg量の1%超の量で存在する、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項32】
前記溶接用消耗電極が、前記ベース金属組成物を含むコアワイヤと、前記コアワイヤの周囲に前記スマット抑制金属を含む被覆と、を含む、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項33】
前記溶接用消耗電極が、コアとシースとを含むコアードワイヤであり、前記コアが前記スマット抑制金属を含み、及び前記シースが前記ベース金属組成物を含む、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【請求項34】
前記溶接用消耗電極が、前記ベース金属組成物と前記スマット抑制金属との均一混合物を含むソリッドワイヤである、請求項19に記載の溶接用消耗電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、「溶接用アルミニウム系電極」という名称の2020年9月22日出願の米国仮特許出願第63/081,623号、及び「溶接用アルミニウム系電極」という名称の2020年10月13日出願の米国仮特許出願第63/090,867号、及び「溶接用アルミニウム系電極」という名称の2021年9月2日出願の米国非仮特許出願第17/446,778号(それらの内容はその全体が本願をもって参照により本明細書に組み込まれる)に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
本開示の技術は、一般的には溶接に関し、より特定的にはアルミニウム系消耗電極及びそれを用いた溶接方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム及びその合金の工学的使用は、このユニークな材料の各種有利な性質が理由で、増加し続けている。アルミニウム及びその合金の有利な特徴として、いくつか挙げると、低重量、比較的広範囲のチューナブルな強度特性、優れた耐食性、熱伝導率、反射率、並びに広範に利用可能な形状及び組成が挙げられる。これらの及び他の性質に起因して、アルミニウムは、航空宇宙から熱交換器、トレーラー製造、ごく最近では自動車車体パネル及びフレームまで、多くの用途で優れた選択肢でありうる。しかしながら、アルミニウムの溶接は、溶接欠陥の抑制及び溶接金属の性能向上をはじめとするユニークな課題をもたらしうる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様では、溶接用消耗電極は、マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、スマット抑制金属と、を含む。1600K以上の温度における平衡条件下でのスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)は、Mgの酸化によるMgOの生成のΔGoよりも負であり、スマット抑制金属は、溶接用消耗電極から生成される溶接金属の表面上にMgOよりも熱力学的に有利なスマット抑制酸化物を生成するように構成される。スマット抑制金属は、溶接用消耗電極の0.05~0.50重量%の量で存在する。
【0005】
他の一態様では、溶接用消耗電極は、マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、スマット抑制金属と、を含む。スマット抑制金属は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、又はそれらの組合せからなる群から選択される。スマット抑制金属は、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せから選択される化合物形で存在する。
【0006】
他の一態様では、溶接用消耗電極は、マグネシウム(Mg)と少なくとも70重量%のアルミニウム(Al)とを含むベース金属組成物と、スマット抑制金属と、を含む。1600K以上の温度における平衡条件下でのスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)は、Mgの酸化によるMgOの生成のΔGoよりも負であり、スマット抑制金属は、溶接用消耗電極から生成される溶接金属の表面上にMgOよりも熱力学的に有利なスマット抑制酸化物を生成するように構成される。スマット抑制金属は、溶接金属の生成時にMgOを含むスマット層が溶接金属上に生成する量で存在し、溶接用消耗電極は、スマット層の生成を抑制してMgO層中のMg量が溶接用消耗電極中のMg量の10重量%未満になるように構成される。
【0007】
他の一態様では、溶接用消耗電極は、少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物と、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属と、を含む。スマット抑制金属は、0.01重量%超の量で存在する。
【0008】
他の一態様では、溶接用消耗電極は、少なくとも70重量%のアルミニウムを含むとともに、スマット抑制金属を含まないベース金属組成物を用いて溶接金属を生成すると、生成されたままの溶接金属の光反射性バルクから視覚的に区別可能な黒色、褐色、又は灰色を有する堆積物層を含むスマットがその表面上に生成されるように準備された、ベース金属組成物を含む。溶接用消耗電極は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属を追加的に含む。スマット抑制金属は、溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属がスマット抑制金属を含まないベース金属組成物を用いて生成される溶接ビードと比べてその上に生成されるより少ない量のスマットを有する形態及び量で存在する。
【0009】
他の一態様では、溶接用消耗電極は、少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物と、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属と、を含む。スマット抑制金属は、溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属の光反射性バルクから視覚的に区別可能な黒色、褐色、又は灰色を有する堆積物層が、同一の溶接条件下で、並びに省略されたスマット抑制金属以外は溶接用消耗電極と同一の寸法及び化学元素量を有する参照の溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属と比べて少なくとも10重量%低減される量で、準備されて存在する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】従来の溶接用アルミニウム系ワイヤを用いて生成される溶接金属例の写真である。
【
図1B】不完全融合を示す溶接金属の断面画像である。
【
図2】アルミニウム金属アーク溶接プロセスの模式図である。
【
図3A】2つの仮説酸化反応に関する生成の標準自由エネルギー変化(ΔG
o)の変化対温度の模式図である。
【
図3B】
図3Aに例示される2つの仮説酸化反応の組合せ反応に関する生成の標準自由エネルギー変化(ΔG
o)の変化対温度の模式図である。
【
図4A】実施形態に従ってスマット生成を抑制するように合金化されたスマット抑制金属を中に有する溶接用ソリッドワイヤの模式図である。
【
図4B】実施形態に従ってスマット生成を抑制するように混合されたスマット抑制金属化合物を中に有する溶接用ソリッドワイヤの模式図である。
【
図4C】実施形態に従ってスマット生成を抑制するように構成された溶接用被覆ソリッドワイヤの模式図である。
【
図4D】実施形態に従ってスマット生成を抑制するように構成された溶接用コアードワイヤの模式図である。
【
図5】実施形態に従ってアルミニウム溶接時のスマット生成を低減する方法を例示するフローチャートである。
【
図6】実施形態に従ってスマット生成を抑制するように構成された溶接用ワイヤを用いたアルミニウムの溶接に適合化されたガスメタルアーク溶接(GMAW)システムを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アルミニウムの重量は、鋼の約1/3である。1立方インチのアルミニウムは、0.283lb/in3の重量の鋼と比較して0.098lb/in3の重量である。アルミニウムは、純アルミニウムの引張り強度13,000psiから最強の熱処理可能アルミニウム合金の引張り強度90,000psiまで変動する広範囲の強度特性を有する。アルミニウムは、多くの環境で優れた耐食性を提供する。アルミニウムの表面上に生成する薄い耐火性酸化物は、保護バリアを提供する。アルミニウムは、鋼の最大5倍の熱伝導性である。アルミニウムは、放射熱を反射し、且つアルミニウムの表面仕上げは、この特徴の利点を生かすべく頻繁に使用される。アルミニウムのこれらの及び他の有利な性質に起因して、アルミニウムの工学的用途は、数及び複雑性の点で成長し続けている。それに対応して、溶接欠陥の抑制及び溶接金属の性質向上をはじめとするアルミニウムの溶接の課題は成長し続けている。一般に、アルミニウムは、いくつかある理由の中でもとくに、大気ガスへのアルミニウムのより高い親和性、より高い熱膨張係数、より高い熱伝導率及び電気伝導率、より低い剛性、及びより高い固化温度範囲をはじめとする各種理由に起因して、鋼よりも比較的低い溶接性を有するとみなされている。アルミニウム合金全般のこれらの特性は、アルミニウムの溶接で溶接金属中に欠陥生成をより起こりやすくする可能性がある。
【0012】
アルミニウム溶接の課題の1つは、スマットといわれる溶接金属上の望ましくない堆積物の低減である。スマットとは、アルミニウム系溶接金属上に又はそれに近接して生成する可能性のある薄灰色~黒色の材料層を意味する。
図1Aは、従来の溶接用Al系ワイヤを用いて生成される溶接金属例の画像である。例示された溶接金属12では、溶接金属12それ自体は、一般に明るく輝いており、溶接それ自体に灰色や黒色の被覆を有していない。画像はまた、溶接金属12の両側に幅約1/16~1/8インチの輝くクリーニングストライプ14を示す。クリーニングストライプ14は、スマットが除去された領域を表す。画像はまた、クリーニングストライプ14の外側エッジにスマット16のラインを示す。スマット16は、スタート、ストップ、及びコーナーに存在しうる。例示されたスマット16は典型的なものであるが、いくつかの状況下では、溶接金属それ自体の実質的部分がスマットでカバーされうる。スマットは、黒色、褐色、又は灰色でありうるとともに、溶接金属の表面を不均一に実質的にカバーすることもある。
【0013】
スマットの生成は、各種の理由で望ましくない。スマットの生成はまた、溶接金属に各種欠陥を伴ったり又は引き起こしたりすることもある。
図1Bは、融合不良(LOF)欠陥といわれる矢印により表されたこれらの欠陥の1つを示す、溶接金属の金属組織学的断面画像例である。溶接金属のLOF欠陥は、いくつかある原因の中でもとくに、十分なパス間クリーニングを行わずにスマット上に溶接することが原因になりうる。溶接金属の性能を損なったり又はその障害を引き起こしたりすることもある係る欠陥のほか、スマットはまた、溶接の視覚的訴求力を低減する。そのほか、スマットの除去は、生産性の低減をもたらすパス間クリーニングを必要とする。また、スマットは、Al及びMgを含む溶接用ワイヤの合金化元素の酸化物を含有するので、スマットの生成は、回収されないスマットに応じてこれらの元素の損失をもたらす。さらに、スマットは、手動又はパワー駆動プロセス使用のどちらかでワイヤブラシを用いて除去可能であるが、どちらも時間がかかるうえに困難である可能性がある。これらの及び他の理由で、アルミニウム溶接時のスマットの生成を低減したり又は最小限に抑えたりする必要性が存在する。
【0014】
溶接用アルミニウム系ワイヤを用いたアーク溶接
図2は、実施形態に従って金属アーク溶接プロセスでの溶接用Al系ワイヤ又は電極の構成を示す模式図である。溶接用Al系ワイヤ6は、実施形態に従ってスマット生成を抑制するように構成可能である。例示された金属アーク溶接、たとえば、ガスメタルアーク溶接(GMAW)では、電気アークは、一方の電極4(たとえばアノード(+))に電気接続された溶接用Al系消耗ワイヤ6と他方の電極(たとえばカソード(-))として機能するワークピース2との間で形成される。その後、中性及びイオン化ガス分子さらにはアークにより気化された溶接用Al系ワイヤ6の材料の中性及び荷電クラスター又はドロップレットを含有するプラズマ8が持続される。溶接時、溶接用消耗ワイヤ6は、ワークピース2に向かって前進し、溶接用Al系ワイヤ6から生成される得られた溶融溶接金属ドロップレットは、ワークピース上に堆積して溶接金属又はビーズを生成する。
【0015】
溶接用Al系ワイヤ6は、ソリッド電極ワイヤ(GMAW)又は金属コアードワイヤ(GMAW-C)のどちらかを利用しうるガスメタルアーク溶接プロセスをはじめとする各種アーク溶接プロセスに使用可能である。溶接用Al系ワイヤ6はまた、ガスシールドフラックスコアードアーク溶接(FCAW-G)又はセルフシールドフラックスコアードアーク溶接(FCAW-S)でありうるフラックスコアードアーク溶接プロセス(FCAW)に使用可能である。溶接用Al系ワイヤ6はさらに、いくつかある中でもとくに、シールドメタルアーク溶接(SMAW)プロセス及びサブマージアーク溶接(SAW)プロセスに使用可能である。
【0016】
スマット抑制溶接用アルミニウム系ワイヤ
アルミニウム溶接の上記及び他の課題に対処するために、実施形態に係る溶接用ワイヤは、溶接金属の生成時のスマットの生成を実質的に抑制するように構成される。溶接時のスマットの生成を抑制するために、実施形態に係る溶接用ワイヤ6(
図2)は、少なくとも70重量%のアルミニウムとマグネシウム(Mg)とを含むAl系ベース金属組成物と、スマット抑制金属と、を含む。ベース金属組成物は、ワークピース中のものにオーバーラップしてもよい元素をはじめとする最終溶接金属の所望の特性を提供する働きをしうる、いずれかの他の元素を追加的に含みうる。以下でさらに考察されるように、効果的なスマット抑制金属は、スマット中に存在する酸化物と比較してより強い熱力学的生成駆動力を有する酸化物を生成可能な金属を含むことを、本発明者らは発見した。特定的には、MgOと比べてより強い熱力学的駆動力を有する酸化物を生成可能な金属は、スマット生成の抑制に効果的であることを、発明者らは発見した。
【0017】
熱力学的駆動力は、平衡条件下でのスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)を用いて予測可能である。スマット抑制元素は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、及びガドリニウム(Gd)からなる群から選択可能である。有利には、実施形態に係る溶接用ワイヤは、溶接スマットの生成を実質的に低減する。その代わりに、スマット抑制酸化物は、当技術分野で公知のようにスマットを置き換えるように生成されうる。得られる溶接金属は、スマットの有害作用の影響を受けないこともありうるか、又は有害作用は、有意に軽減されうる。たとえば、溶接スマットの低減は、当技術分野で公知のようにパス間クリーニングの低減又は排除を可能にして、それにより生産性を増加させる。マルチパス溶接では、溶接スマットをより少なくすることによりLOF欠陥などの欠陥を低減又は排除可能である。実施形態に係る溶接用ワイヤはまた、溶接用ワイヤ中のAl、Zn、及びMgをはじめとする金属の回収を増加させる。
【0018】
スマットの構造及び組成は、使用される溶接用ワイヤの化学組成に依存可能である。スマットは、溶接用ワイヤ中の金属元素の酸化物を含みうる。たとえば、スマットは、Al、Mg、及び/又はZnの酸化物を含みうる。いくつかのプロセス例では、スマットは、層又は粒子、たとえば、Al、Mg、及び/又はZnのナノ粒子を含みうる。いずれの理論にも拘束されるものではないが、褐色、灰色、又は黒色でありうるスマットの色は、粒子による光散乱に帰属可能である。
【0019】
理論に拘束されるものではないが、溶接時の金属蒸気の形成は、爆発的金属移行に帰属可能である。スパッターとして知られるワイヤからの高レベルの蒸気及び溶融金属ドロップレットは、爆発的金属移行時に観測可能である。爆発的金属移行は、ひいては使用される溶接のタイプ及び溶接ドロップレットの温度に依存する。スマットの実質的量は、溶接用ワイヤの蒸発金属元素から生成されうると考えられる。いずれの理論にも拘束されるものではないが、溶融溶接用ワイヤから蒸発したMgは、特徴的に以上に記載の褐色、灰色、又は黒色を有する実質的量のスマットの生成を引き起こすと考えられる。溶融溶接金属中の各種元素はそれぞれの酸化物を生成可能であるが、MgOの物理構造は、スマットの生成をとくに起こしやすくしうる。特定的にはMgOは、比較的多孔性の構造を有する。結果として、ドロップレット表面上に生成される多孔性MgOは、溶融溶接金属からのMgの蒸発の抑制に無効である可能性がある。比較的自由な蒸発が許容されるMgは、溶接アーク中で酸化されて溶接金属上及びその周りに堆積されるスマットの生成の原因になると考えられる。
【0020】
スマット生成のこれらの属性を認識して、ある特定のスマット抑制元素を溶接用ワイヤに添加することによりスマット生成を実質的に低減又は排除可能であることを、本発明者らは発見した。各種実施形態によれば、溶接用消耗電極は、少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物とスマット抑制金属とを含む。以上で考察されたように、効果的なスマット抑制金属は、スマット中に存在する酸化物と比較してより強い熱力学的生成駆動力を有する酸化物を生成可能な金属を含むことを、本発明者らは発見した。熱力学的駆動力は、スマット中に存在する酸化物たとえばMgOの生成のΔGoと比べて平衡条件下でのスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)を用いて予測可能であることを、本発明者らはさらに発見した。
【0021】
本明細書で用いられる場合、標準自由エネルギー変化(ΔGo)とは、その標準状態(1atmの圧力を含む)での反応生成物の自由エネルギーの和とその標準状態での反応剤の自由エネルギーの和との差を意味する。本発明者らは、ΔGoの比較が重要であることを発見した。ΔGoは、
ΔGo(T)=ΔHo(T)-TΔSo(T)
として表すことが可能である。ただし、ΔHo及びΔSoは、生成の標準エンタルピー及びエントロピー変化である。
【0022】
溶接用電極に含有されるスマット生成金属(たとえばMg)と比べてより高い熱力学的酸化駆動力を有するスマット抑制金属の同定は、いずれの理論にも拘束されるものではないが、
図3A及び3Bを参照して説明される。
図3Aは、2つの仮説酸化反応に関する生成の標準自由エネルギー変化(ΔG
o)の変化対温度の模式図である。
図3Bは、
図3Aに例示される2つの仮説酸化反応の組合せ反応に関する生成の標準自由エネルギー変化(ΔG
o)の変化対温度の模式図である。
図3Aは、2つの仮説酸化反応、たとえば、
2X+O
2=2XO (i)
及び
Y+O
2=YO
2 (ii)
を模式的に示す。
【0023】
図3Aから、ΔH
o(ii)はΔH
o(i)よりも負であり、ΔS
o(ii)はΔS
o(i)よりも負であることが分かる。反応(ii)から反応(i)を減算すると、
Y+2XO=2×+YO
2 (iii)
が与えられる。
【0024】
これに対するTに伴うΔG
oの変動は、
図3Bに示される通りである。平衡温度T
E未満では、X及びYO
2はY及びXOと対比して安定であり、T
E超では、その逆である。T
Eでは、標準状態で存在するX、Y、XO、及びYO
2は、互いに平衡状態にある。T
Eでの平衡は(いずれかの平衡でも)、エンタルピー要件とエントロピー要件との相殺から生じる。ΔH
o(iii)は負であり(ΔH
o(ii)-ΔH
o(i)に等しい)及びΔS
o(iii)は負であるので(ΔS
o(ii)-ΔS
o(i)に等しい)、系X+Y+O
2は、X+YO
2として存在するときに最小エンタルピーを有し、Y+XOとして存在するときに最大エントロピーを有する。T
Eでは、ΔH
o(iii)はTΔS
o(iii)に等しいので、ΔG
o(iii)はゼロに等しい。T
E未満では、ΔG
o(iii)へのエンタルピー寄与がエントロピー寄与を上回るため、ΔG
o(iii)は負であるので、X+YO
2が安定状態になる。T
E超ではその逆であり、ΔG
o(iii)が正であるので、Y+XOが安定状態になる。そのため、純酸化物YO
2を還元して純Y及び純XOを生成するために純Xが還元剤として使用される場合にはT
Eを超える温度で還元が行われることを、
図3Bは示している。
【0025】
図3A及び3Bをさらに参照して、Yは、通常はスマットを生成するスマット生成金属たとえばMgを表すことが可能であり、及びXは、スマット抑制金属を表すことが可能である。同様に、YO
2は、スマット生成金属の酸化物たとえばMgOを表すことが可能であり、及びXOは、スマット抑制金属のスマット抑制酸化物を表すことが可能である。2つの反応(i)及び(ii)により表されるラインは、必ずしも交差する必要がないが、交差する場合、溶融溶接金属及びスマットが生成される温度は、T
E超の温度に対応する。そのため、スマット抑制酸化物の生成を表すΔG
o(i)は、スマットの生成を表すΔG
o(ii)と比べてより負である。
図3A及び3Bに対して以上で考察されたものに類似した考慮を約1600K以上の温度に対して行って、かかる考慮が実際の溶接条件の正確な指標を提供するようにすべきであることを、本発明者らは見いだした。そのため、各種実施形態によれば、1600K以上の温度での平衡条件下のスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔG
o)は、Mgの酸化によるMgOの生成のΔG
oよりも負である。したがって、スマット抑制金属は、溶接用消耗電極から生成される溶接金属表面上に、MgOよりも熱力学的に有利なスマット抑制酸化物を生成するように構成される。そのため、以上で考察された視覚的及び構造的欠陥の原因になる当業界で公知のスマットの代わりに、スマット抑制酸化物が生成されうる。当技術分野で公知のスマットを置き換えるために生成されるスマット抑制酸化物を上に有する溶接金属は、MgOにより引き起こされる、上記で考察された欠陥を抱えないようにしうるか、又は上記で考察された欠陥は、有意に軽減されうる。MgOよりも負の酸化物生成のΔG
oを有するスマット抑制金属は、ドロップレット表面上のMgOの生成を実質的に抑制可能であることを、本発明者らは発見した。以上に記載されたように、MgOは、多孔性層として生成されて溶融溶接金属からのMg蒸発及びスマット生成の抑制に無効である可能性がある。本明細書に記載のスマット抑制金属の存在下では、比較的純粋且つ連続な(非多孔性)スマット抑制酸化物層が溶接金属上に生成可能であるか、又は酸化マグネシウムを含む連続(非多孔性)複合酸化物層がドロップレット表面上に生成可能である。実施形態に係る溶接用電極を用いて生成される溶接金属は、実質的に非多孔性のスマット抑制酸化物層でカバー可能である。たとえば、溶接金属を覆う表面積の20%、10%、5%、2%、1%未満、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値は、実施形態に従って細孔により占有されうる。こうして生成されるスマット抑制酸化物は、溶融溶接金属から蒸発してスマットを生成するMgを効果的に抑制可能である。
【0026】
スマット生成の物理的原因のさらなる要件として、いずれの理論にも拘束されるものではないが、スマットは、ワイヤから蒸発した金属元素の凝縮により溶接時に生成されうる。したがって、スマットの組成は、溶接用ワイヤ中の金属元素の沸点及び/又はベース金属組成物の沸点に関連付け可能である。そのため、比較的低い沸点を有する元素は、より容易にスマットを生成可能である。たとえば、アルミニウムの沸点は、マグネシウム及び亜鉛のそれぞれの1090℃及び910℃と比較して約2470℃である。そのため、溶接用ワイヤ中の各元素の量を規格化したとき、スマットは、それらのすべてが溶接用ワイヤ中に存在するときのアルミニウムと比べて比較的高いマグネシウム及び亜鉛の量を有する可能性がある。これを考慮して、いくつかの実施形態によれば、スマット抑制金属は、望ましくは比較的高い沸点を有する。たとえば、スマット抑制金属の沸点は、少なくともMg並びに任意にZn及びAlのものよりも高い。
【0027】
本明細書に記載の量及び形態で存在するとき、スマット抑制金属はベース金属の蒸発金属元素の量を低減可能であることを、本発明者らは発見した。いずれの理論にも拘束されるものではないが、これはたとえば溶融ベース金属の蒸発温度を増加させることにより発生可能である。追加的又は代替的に、スマット抑制元素は、ベース金属組成物の元素の蒸発によるスマットの生成が実質的に抑制されるように溶接時に保護被覆を生成可能である。それゆえ、いくつかの実施形態では、実施形態に係る溶接用消耗電極を用いて生成される生成されたままの溶接金属は、後で除去可能なスマット抑制金属の酸化物をその表面上に生成した。
【0028】
ベース金属組成物は、各種展伸用アルミニウム合金タイプを表すためにAluminum Association,Inc.により開発された4桁数字系による組成を有しうる。ベース金属組成物は、たとえば、以下の1つを含みうる。
【0029】
スマットを低減するために競合する酸化プロセスのこれらの属性を認識して、ある特定の有効量のある特定のスマット抑制元素を溶接用ワイヤの一部として添加することによりスマット生成を実質的に低減可能であることを、本発明者らは発見した。各種実施形態によれば、溶接用消耗電極は、少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物とスマット抑制金属とを含む。
【0030】
ベース金属組成物は、溶接されるワークピースに類似した組成を有しうる。ベース金属組成物は、各種展伸用アルミニウム合金タイプを表すためにAluminum Association,Inc.により開発された4桁数字系による当技術分野で公知のいずれかの組成を含みうる。ベース金属組成物は、たとえば、以下の1つ以上を含みうる。
【0031】
1XXXシリーズ:これは、電気及び化学産業で主に使用される99パーセント以上の純度のアルミニウムである。この合金は、その電気伝導率及び/又は耐食性が理由で通常使用される。熱間割れに対するその感受性は非常に低い。
【0032】
2XXXシリーズ:銅は、適正に熱処理されたときにきわめて高い強度を提供するこのグループの主要合金化元素である。この合金は、それほど良好な耐食性をもたらさないこともあり、純アルミニウム又は特殊合金アルミニウムでクラッドされることが多い。この合金は、航空機産業で使用される。
【0033】
3XXXシリーズ:マンガンは、非熱処理可能なこのグループの主要合金化元素である。マンガン含有率は、約2.0パーセント未満でありうる。この合金は、中程度の強度を有し、容易に加工可能である。この中程度の強度のアルミニウム-マンガン合金は、比較的耐クラック性である。
【0034】
4XXXシリーズ:ケイ素は、このグループの主要合金化元素である。それは、融点を実質的に低減するのに十分な量で添加可能であり、鑞付け用合金及び溶接用電極に使用される。このグループの合金のほとんどは、非熱処理可能である。
【0035】
5XXXシリーズ:マグネシウムは、中強度の合金であるこのグループの主要合金化元素である。それは、良好な溶接特性及び良好な耐食性を有するが、冷間加工量は、制限されるべきである。このより高強度のアルミニウム-マグネシウム合金は、最も一般的な構造用アルミニウムシート及びプレート合金である。このシリーズは、非熱処理可能アルミニウム合金の中で最も高い強度を有する。それは、その優れた耐食性が理由で、化学品貯蔵タンク及び圧力ベッセル、さらには構造用途、鉄道車両、ダンプトラック、及び橋に使用される。
【0036】
6XXXシリーズ:このグループの合金は、熱処理可能にするケイ素及びマグネシウムを含有する。この合金は、中強度及び良好な耐食性を有する。この中強度の熱処理可能なシリーズは、自動車、パイプ、レール、及び構造押出し用途で主に使用される。
【0037】
7XXXシリーズ:亜鉛は、このグループの主要合金化元素である。マグネシウムもまた、この合金のほとんどに含まれる。全体として、それは、航空機フレームに使用される非常に高い強度の熱処理可能合金を生成する。それは、航空機産業で主に使用される。7XXXシリーズの溶接性は、より高い銅グレードでは損なわれるおそれがあり、このグレードの多くは、広範な融解範囲及び低固相線融解温度に起因してクラック感受性である。それは、自転車フレーム及び他の押出し用途に広範に使用される。
【0038】
各種実施形態によれば、溶接用消耗電極は、スマット抑制金属を含まないベース金属組成物を用いて生成される生成されたままの溶接金属が、生成されたままの溶接金属の光反射性バルクから視覚的に区別可能な黒色、褐色、又は灰色を有する堆積物層を含むスマットをその表面上に生成するように、少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物と追加の元素とを含む。本明細書に開示される各種実施形態に係る溶接用ワイヤのベース金属組成物は、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.01~0.02%、0.02~0.05%、0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、1.0~1.5%、1.5~2.0%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのMnと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、1.0~2.0%、2.0~5.0%、5.0~10%、10~15%、15~20%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのSiと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.02~0.05%、0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのFeと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、1.0~2.0%、2.0~5.0%、5.0~10%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのMgと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.01~0.02%、0.02~0.05%、0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのCrと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.01~0.02%、0.02~0.05%、0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、1.0~2.0%、2.0~5.0%、5.0~10%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのCuと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.02~0.05%、0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのTiと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのZnと、溶接用ワイヤの全重量を基準にして70~75%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、95~99.9%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値の重量パーセントのAlと、を含みうるとともに、これらは、溶接用ワイヤ又はベース金属組成物の残部でありうる。スマットは、Mg、Al、及びZnを主に含みうるが、それはまた、ベース金属中に存在しうるいずれかの他の元素も含有しうることは、分かるであろう。
【0039】
各種実施形態によれば、溶接用消耗電極は、実施形態に係る溶接用消耗電極を用いて生成される生成されたままの溶接金属が、スマット抑制金属を含まないベース金属組成物のみを有する溶接用消耗電極を用いて生成される生成されたままの溶接ビードと比べて、その上に生成されるより少ない量のスマットを有する形態及び量で存在する、スマット抑制金属を含む。たとえば、スマット抑制金属は、生成されたままの溶接金属の光反射性バルクから視覚的に区別可能な黒色、褐色、又は灰色を有する堆積物層が、実質的に同一の溶接条件下で及び省略されたスマット抑制金属以外は溶接用消耗電極と同一の寸法及び化学元素量を有する参照の溶接用消耗電極を用いて生成される溶接ビードと比べて少なくとも10重量%低減される量で、準備されて存在する。
【0040】
以下の表1は、スマット抑制酸化物及び1600KでのΔGoに対応するスマット抑制金属例を示しており、これに基づいてAl溶接でスマット生成を実質的に抑制可能である。
【0041】
【0042】
スマット抑制金属は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。表1に示されるように、これらのスマット抑制金属の各々では、1600K以上の計算温度での平衡条件下のスマット抑制金属の酸化による対応するスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔGo)は、Mgの酸化によるMgOの生成のΔGoよりも負である。したがって、スマット抑制金属は、溶接用消耗電極から生成される溶接金属表面上にMgOよりも熱力学的に有利なスマット抑制酸化物を生成するように構成される。
【0043】
いくつかの特定実施形態では、スマット抑制金属は、平衡条件下、1600Kにおいて≦-192キロカロリー(kcal)/グラム式量(gfw)及び>-215kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)でスマット抑制酸化物を生成するように構成される。これらの実施形態では、スマット抑制金属は、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、エルビウム(Er)、ストロンチウム(Sr)、セリウム(Ce)、又はそれらの組合せからなる群から選択される。
【0044】
いくつかの特定実施形態では、スマット抑制金属は、平衡条件下において≦-215kcal/gfw及び>-225kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)でスマット抑制酸化物を生成するように構成される。これらの実施形態では、スマット抑制金属は、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、トリウム(Th)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、又はそれらの組合せからなる群から選択される。
【0045】
いくつかの特定実施形態では、スマット抑制金属は、平衡条件下において≦-225kcal/gfwの生成の標準ギブズ自由エネルギー(ΔGo)でスマット抑制酸化物を生成するように構成される。これらの実施形態では、スマット抑制金属は、ルテチウム(Lu)、ホルミウム(Ho)、カルシウム(Ca)、テルビウム(Tb)、スカンジウム(Sc)、ツリウム(Tm)、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、又はそれらの組合せからなる群から選択される。
【0046】
溶接用ワイヤ中に存在するスマット抑制金属の量は、比較的少量に保持されるべきであるが、スマットの生成を効果的及び実質的に低減又は抑制するのに十分な量に保持されるべきであることは、分かるであろう。したがって、いくつかの実施形態では、スマット抑制金属の量は、Mg及び/又はZnをはじめとする溶接用消耗電極中に存在しうる以上に記載の1種以上のスマット生成元素の量の1%、5%、10%、20%、50%、100%、150%、200%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値を超える。
【0047】
溶接用ワイヤは、溶接用ワイヤの全重量を基準にして0.01~0.02%、0.02~0.05%、0.05~0.10%、0.1~0.2%、0.2~0.5%、0.5~1.0%、1.0~1.5%、1.5~2.0%、2.0~2.5%、2.5~3.0%、3.0~3.5%、3.5~4.0%、4.0~4.5%、4.5~5.0%、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内の値たとえば0.05~0.50%の重量パーセントのこれらの元素の1種以上をスマット抑制金属として含みうる。
【0048】
いくつかの実施形態では、溶接用消耗電極は、溶接金属の生成時にスマット抑制金属の存在にもかかわらず溶接金属上にMgOを含むスマット層が生成されるように構成される。しかしながら、溶接用消耗電極は、スマット層の生成を抑制するように構成されるので、スマット層中のMg量は、比較的少なく保持可能である。同様に、ベース金属組成物が亜鉛(Zn)をさらに含み、及びスマットがZnOをさらに含むとき、溶接用消耗電極は、スマット層中のZn量が比較的少なく保持可能であるように構成される。たとえば、スマット層中のMg及び/又はZnの量は、溶接用消耗電極中のMg及び/又はZnの量の50%、30%、10%、5%、1%(重量基準)、又はこれらの値のいずれかにより定義される範囲内のパーセント未満でありうる。
【0049】
これらの実施形態のいくつかでは、スマット抑制金属は、元素金属形で存在しうる。これらの実施形態の他のいくつかでは、スマット抑制金属は、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せの形態で存在しうる。
【0050】
スマット抑制用として構成された溶接用電極の構造
図4Aは、実施形態に従ってスマットの生成を抑制するように構成された溶接用ソリッドワイヤ40Aの模式図である。例示された実施形態では、スマット抑制金属は、存在するスマット抑制金属が以上に記載のベース金属組成物のアルミニウム及び他の金属元素との金属結合を生成するように、ベース金属組成物と合金化されてたとえば固溶体を形成しうる。これらの実施形態では、溶接用消耗電極は、ベース金属組成物とスマット抑制金属とにより生成される均一な溶体又は混合物たとえば合金を含むソリッドワイヤである。
【0051】
図4Bは、いくつかの他の実施形態に従ってスマットの生成を抑制するように構成された溶接用ソリッドワイヤ40Bの模式図である。溶接用ソリッドワイヤ40A(
図4A)とは異なり、
図4Bに例示される実施形態では、スマット抑制金属は、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せなどの化合物の形態で存在しうる。これらの実施形態では、溶接用消耗電極は、ベース金属組成物とスマット抑制金属の化合物とにより生成させる不均一混合物を含むソリッドワイヤである。スマット抑制金属の化合物は、たとえばベース金属組成物のマトリックス内に分散された粉末形態で存在しうる。
【0052】
図4Cは、実施形態に従ってスマットの生成を抑制するように構成された溶接用被覆ソリッドワイヤ42の模式図である。
図4Dは、実施形態に従ってスマットの生成を抑制するように構成された溶接用コアードワイヤ46の模式図である。これらの実施形態では、スマット抑制金属は、ベース金属組成物から化学的及び/又は物理的に分離されうる。たとえば、溶接用ワイヤ42(
図4C)では、スマット抑制金属は、ベース金属組成物から生成されるコアワイヤ43の外表面上に生成される被覆44として存在しうる。被覆44は、粉末形態などの好適な形態で元素、合金、又は化合物のスマット抑制金属を含みうる。代替的に、
図4Dに例示される実施形態では、コア48とシース49とを含む溶接用消耗ワイヤ46は、コアードワイヤでありうるとともに、コア48は、たとえば粉末形態のスマット抑制金属47を含み、及びシース49は、ベース金属組成物を含む。
【0053】
スマット生成の抑制方法
図5は、実施形態に従ってアルミニウム溶接時のスマット生成を低減する方法を例示するフローチャートである。本方法は、アルミニウム系ベース金属組成物とスマット抑制金属とを含む溶接用消耗電極を提供する工程54を含み、この場合、1600K以上の温度における平衡条件下でのスマット抑制金属の酸化によるスマット抑制酸化物の生成の標準自由エネルギー変化(ΔG
o)は、Mgの酸化によるMgOの生成のΔG
oよりも負であり、スマット抑制金属は、溶接用消耗電極から生成される溶接金属の表面上にMgOよりも熱力学的に有利なスマット抑制酸化物を生成するように構成される。スマット抑制金属は、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、又はそれらの組合せからなる群から選択されうる。溶接用消耗電極は、以上に記載の実施形態のいずれか1つに従いうる。本方法は、溶接用消耗電極を用いて溶接ビードを形成するようにアークを発生する工程58を追加的に含み、この場合、アークのピーク温度は、ベース金属組成物の蒸発温度を超える。たとえば、アーク温度は、ベース金属組成物から少なくともアルミニウムを蒸発させるのに十分である。
図5に例示される方法は、たとえば以下に記載のガスメタルアーク溶接プロセスをはじめとするいずれかの好適な溶接プロセスで実現可能である。
【0054】
ソリッド電極(GMAW)又は金属コアード電極(GMAW-C)を用いたガスメタルアーク溶接では、溶接時に溶接プール及び溶接ビードに大気汚染からの保護を提供するためにシールディングガスが使用される。ソリッド電極が使用されるとき、それは、シールディングガスとの組合せで、得られる溶接金属の所望の物理的及び機械的性質と共に低多孔又は多孔フリー溶接も提供しつつ、以上に記載のスマット生成を抑制するように設計されうる活性成分で、適切に合金化される。金属コアード電極が使用されるとき、スマット抑制金属をはじめとする活性成分のいくつかは、コアードワイヤのコアに添加されうるとともに、ソリッド電極の場合と類似の機能を提供するように設計されうる。
【0055】
ソリッド電極及び金属コアード電極は、適切なガスシールディング下で降伏強度、引張り強度、延性、及び衝撃靱性と共に実質的に多孔フリーのソリッド溶接金属を提供して最終用途で満足な性能を示すように設計される。これらの電極はまた、溶接時に発生するスラグの量を最小限に抑えるように設計されうる。いくつかの用途では、金属コアード電極は、生産性を向上させるためにソリッドワイヤの代替物として使用可能である。本明細書に記載されるように、金属コアード電極とは、少なくとも部分的に充填されて金属外側シースにより包囲されたコアを有する複合電極を意味する。コアは、アーク安定性、溶接濡れ性、及び外観、並びに所望の物理的及び機械的性質に役立つ金属粉末及び活性成分を含みうる。金属コアード電極は、コア材料の成分を混合してそれを生成されるストリップの内側に堆積させ、次いでストリップを閉じで最終直径に延伸することにより製造される。いくつかの用途では、コアード電極は、ソリッド電極と比較して増加された堆積速度及びより広範で比較的一貫性のある溶接浸透プロファイルを提供可能である。本明細書に記載されるように、金属コアード電極(GMAW-C)とは、成分が主に金属であるコアを有する電極を意味する。存在するとき、コア中の非金属成分は、各電極の全重量を基準にして5%、3%、又は1%未満の組合せ濃度を有する。比較的少ない非金属成分であることから、以下でより詳細に説明されるアーク溶接用フラックスコアード電極からGMAW-C電極を区別しうる。GMAW-C電極は、スプレーアーク及び高品質溶接金属により特徴付け可能である。
【0056】
金属コアード電極(GMAW-C)を用いるガスメタルアーク溶接に類似して、フラックスコアードアーク溶接(FCAW、FCAW-S、FCAW-G)を用いる電極もまた、シェルに包囲されたコアを含む。すなわち、フラックスコアードアーク溶接を用いるコアード電極は、以上に記載の金属コアード電極に類似して、少なくとも部分的に充填されて金属外側シースにより包囲されたコアを有する。しかしながら、金属コアード電極(GMAW-C)とは異なり、フラックスコアードアーク溶接(FCAW)に用いられるコアード電極は、少なくとも部分的にシールディングガスの代わりに溶接時に溶接プール及び溶接ビードに大気汚染からの保護を提供するように設計されたフラックス剤を追加的に含む。フラックスコアードアークに用いられるコアード電極は、アーク安定性、溶接濡れ性、及び外観、並びに所望の物理的及び機械的性質に役立つ他の活性成分を追加的に含みうる。一態様では、フラックスコアードアーク電極は、組合せ濃度が各電極の全重量を基準にして5%、3%、又は1%未満でありうるコア中に存在する非金属成分の量により金属コアード電極から区別されうる。
【0057】
アーク安定性の制御、溶接金属組成の修飾、及び大気汚染からの保護の提供のために、フラックスコアード電極用の多数のフラックス剤組成物が開発されてきた。フラックスコアード電極では、アーク安定性は、フラックスの組成を修飾することにより制御されうる。結果として、フラックス混合物中でプラズマチャージキャリアとして良好な働きをする物質を有することが望ましいこともある。いくつかの用途では、フラックスはまた、金属中の不純物をより容易に融合可能にしてこうした不純物と組み合わせうる物質を提供することにより、溶接金属組成を修飾可能である。スラグ融点の低下、スラグ流動性の改善、及びフラックス粒子用バインダーとしての働きのために、他の材料が添加されることもある。FCAWに使用される各種ワイヤは、たとえば、溶接上に保護スラグを生成すること、前進角技術を用いること、より高い堆積速度でアウトオブポジション又はフラット及び水平に溶接する能力を有すること、プレート上の比較的多量の汚染物質を取り扱う能力を有することなど、いくつかの類似の特性を共有しうる。一方、異なるタイプのフラックスコアードアーク溶接プロセス、すなわち、セルフシールドフラックスコアードアーク溶接(FCAW-S)及びガスシールドフラックスコアードアーク溶接(FCAW-G)が存在する。
【0058】
図6は、実施形態に従って溶接用アルミニウム系ワイヤ用として構成されたガスメタルアーク溶接(GMAW)システム例110を模式的に例示する。GMAWシステム110は、電力源112と、ワイヤ駆動アセンブリ114と、シールディングガス供給システム116と、電力送達用のケーブルアセンブリ118と、溶接用スプールワイヤ124と、溶接されるワークピース120に送達されるように構成されたシールドガス源128中のシールディングガスと、を含む。ワイヤ駆動アセンブリ114は、典型的には、連続消耗ワイヤ電極と、さらにはケーブルアセンブリ118を介してスプール124からワークピース120に溶接用ワイヤを駆動するための1つ以上の駆動ホイール(図示せず)を含む駆動機構126と、を含めて、スプール124担持用のリールスタンド122を含む。シールディングガス供給システム116は、通常、シールディングガス源128と、ケーブルアセンブリ118に流体連通するガス供給コンジット130と、を含む。
図6に例示されるように、ケーブルアセンブリ118は、典型的には、一方の端が電力源112、ワイヤ駆動アセンブリ114、及びガス供給システム116に、並びに他方の端が溶接ガン134に、装着された長尺状フレキシブルケーブル132を含む。
【0059】
追加例
1. 以下:
少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物と、
カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、リチウム(Li)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ランタン(La)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属と、
を含む溶接用消耗電極であって、
スマット抑制金属が0.01重量%超の量で存在する、溶接用消耗電極。
2. 以下:
少なくとも70重量%のアルミニウムを含むとともに、スマット抑制金属を含まないベース金属組成物を用いて溶接金属を生成すると、生成されたままの溶接金属の光反射性バルクから視覚的に区別可能な黒色、褐色、又は灰色を有する堆積物層を含むスマットがその表面上に生成されるように準備された、ベース金属組成物と、
カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、リチウム(Li)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ランタン(La)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属と、
を含む溶接用消耗電極であって、
溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属がスマット抑制金属を含まないベース金属組成物を用いて生成される溶接ビードと比べてその上に生成されるより少ない量のスマットを有する形態及び量でスマット抑制金属が存在する、溶接用消耗電極。
3. 以下:
少なくとも70重量%のアルミニウムを含むベース金属組成物と、
カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、リチウム(Li)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ランタン(La)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、ツリウム(Tm)、又はそれらの組合せからなる群から選択されるスマット抑制金属と、
を含む溶接用消耗電極であって、
溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属の光反射性バルクから視覚的に区別可能な黒色、褐色、又は灰色を有する堆積物層が、同一の溶接条件下で及び省略されたスマット抑制金属以外は溶接用消耗電極と同一の寸法及び化学元素量を有する参照の溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属と比べて少なくとも10重量%低減される量で、スマット抑制金属が準備されて存在する、溶接用消耗電極。
4. 溶接用消耗電極を用いて生成される生成されたままの溶接金属が、その表面上にスマット抑制金属の酸化物を生成している、実施形態1~3のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
5. ベース金属組成物が、溶接用消耗電極を用いて生成される溶接金属ビーズ中のアルミニウムと合金化するための合金化元素として亜鉛(Zn)及びマグネシウム(Mg)の一方又は両方をさらに含む、実施形態1~4のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
6. スマット抑制金属が溶接用消耗電極の全重量を基準にして0.01~5.0wt.%の量で存在する、実施形態1~5のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
7. スマット抑制金属が元素金属形で存在する、実施形態1~6のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
8. スマット抑制金属が、オキサイド、ハライド、ハイドロオキサイド、サルファイド、サルフェート、カーボネート、ホスフェート、ナイトレート、ナイトライト、ナイトライド、カーバイド、ボライド、アルミナイド、テルライド、又はそれらの組合せから選択される化合物で存在する、実施形態1~7のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
9. 溶接条件下で溶接用消耗電極から生成される溶接金属上に存在するときにスマットが酸化アルミニウムを含むように溶接用消耗電極が構成される、実施形態1~8のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
10. 溶接条件下で溶接用消耗電極から生成される溶接金属上に存在するときにスマットが酸化アルミニウムと酸化マグネシウム及び酸化亜鉛の一方又は両方とを含むように溶接用消耗電極が構成される、実施形態1~9のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
11. 溶接条件がガスメタルアーク溶接(GMAW)条件である、実施形態9又は10に記載の溶接用消耗電極。
12. 溶接用消耗電極が、ベース金属組成物を含むコアワイヤと、コアワイヤの周囲にスマット抑制金属を含む被覆と、を含む、実施形態1~11のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
13. 溶接用消耗電極が、コアとシースとを含むコアードワイヤであり、コアがスマット抑制金属を含み、及びシースがベース金属組成物を含む、実施形態1~12のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
14. 溶接用消耗電極が、ベース金属組成物とスマット抑制金属との均一混合物を含むソリッドワイヤである、実施形態1~12のいずれか一つに記載の溶接用消耗電極。
15. アルミニウム系ベース金属組成物と、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、リチウム(Li)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ランタン(La)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、トリウム(Th)、ルテチウム(Lu)、及びツリウム(Tm)からなる群から選択されるスマット抑制金属と、を含む溶接用消耗電極を提供する工程と、
溶接用消耗電極を用いて溶接金属を生成するようにアークを発生する工程であって、アークのピーク温度がベース金属組成物の蒸発温度を超える、工程と、
を含む、アルミニウムワークピースの溶接方法。
16. 溶接用消耗ワイヤが実施形態1~14のいずれか一つに記載のものである、実施形態15に記載の溶接方法。
17. ベース金属組成物から生成される溶接金属パドル上にスマット抑制金属の酸化物を生成することをさらに含む、実施形態15又は16に記載の溶接方法。
【0060】
文脈上明らかに必要とされない限り、本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、「comprise(~を含む)」、「comprising(~を含む)」、「include(~を含む)」、「including(~を含む)」などという単語は、排他的意味でも網羅的意味でもなく包括的意味で、すなわち、「including,but not limited to(限定されるものではないが、~を含む)」という意味で解釈されるべきである。本明細書で一般に用いられる「coupled(結合される)」という語は、直接接続されうるか1つ以上の中間要素を介して接続されうるかのどちらかの2つ以上の要素を参照する。同様に、本明細書で一般に用いられる「connected(接続される)」という語は、直接接続されうるか1つ以上の中間要素を介して接続されうるかのどちらかの2つ以上の要素を参照する。そのほか、本願で用いられる「herein(本明細書に)」、「above(以上に)」、「below(以下に)」という語及び類似の意味の語は、全体として本願を参照するものであり、本願のいずれかの特定部分を参照するものではない。文脈上許容される場合、単数又は複数を用いた以上の詳細な説明での語もまた、それぞれ、単数又は複数を含みうる。「or(又は)」という語が2つ以上のアイテムのリストを参照する場合、その語は、次のようなその語の解釈、すなわち、リスト中のアイテムのいずれか、リスト中のアイテムのすべて、及びリスト中のアイテムのいずれかの組合せのすべてをカバーする。
【0061】
さらに、本明細書で用いられる条件語、たとえば、いくつかある中でもとくに、「can(~できる)」、「could(~することもある)」、「might(~かもしれない)」、「may(~しうる)」、「e.g.(たとえば)」、「for example(たとえば)」、「such as(~などの)」などは、とくに明記されていない限り又はとくに用いられる文脈内で理解されない限り、ある特定の実施形態は、ある特定の特徴、要素、及び/又は状態を含むが、他の実施形態はそれらを含まないことを意味することが一般に意図される。そのため、係る条件語は、特徴、要素、及び/又は状態が、1つ以上の実施形態でなんらかの形で必要とされるか、或いはこれらの特徴、要素、及び/又は状態がいずれかの特定の実施形態に含まれるか又はそこで実施されるべきであるか、を示唆することが一般に意図されない。
【0062】
ある特定の実施形態を記載してきたが、これらの実施形態は、単なる例として提示されているにすぎず、本開示の範囲を限定することは意図されない。実際には、本明細書に記載の新規な装置、方法、及びシステムは、さまざまな他の形態で具現化されうるとともに、さらに、本開示の趣旨から逸脱することなく、本明細書に記載の方法及びシステムの形態の各種省略、置換、及び変更を行いうる。たとえば、ブロックが所与の配置で提示されていても、代替実施形態は、異なるコンポーネント及び/又は回路トポロジーを用いて類似の機能を発揮しうるし、いくつかのブロックは、欠失、移動、追加、細分、組合せ、及び/又は修飾が行われうる。これらのブロックの各々は、多種多様な方法で実現されうる。以上に記載の各種実施形態の要素及び作用のいずれかの好適な組合せは、さらなる実施形態を提供するように組合せ可能である。以上に記載の各種特徴及びプロセスは、互いに独立して実現されうるか又は各種方法で組み合わされうる。本開示の特徴のすべての可能な組合せ及び部分的組合せは、本開示の範囲内に含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
2 ワークピース
4 電極
6 溶接用Al系消耗ワイヤ
8 プラズマ
10 金属アーク溶接プロセスの構成
12 溶接金属
14 クリーニングストライプ
16 スマット
40A 溶接用ソリッドワイヤ
40B 不均一混合物を含むソリッドワイヤ
41A スマット抑制金属の化合物
42 溶接用被覆ソリッドワイヤ
43 コアワイヤ
44 被覆
46 溶接用コアードワイヤ
47 粉末形態のスマット抑制金属
48 コア
49 シース
54 溶接用消耗電極を提供する工程
58 アークを発生する工程
110 ガスメタルアーク溶接システム
112 電力源
114 ワイヤ駆動アセンブリ
116 シールディングガス供給システム
118 ケーブルアセンブリ
120 ワークピース
122 リールスタンド
124 スプール
126 駆動機構
128 シールディングガス源
134 溶接ガン
【外国語明細書】