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特開2022-52192アルコキシ末端ポリシロキサン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052192
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】アルコキシ末端ポリシロキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/18 20060101AFI20220328BHJP
   C08G 77/08 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C08G77/18
C08G77/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158425
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】上等 和良
(72)【発明者】
【氏名】釜谷 康平
(72)【発明者】
【氏名】秋元 宣人
(72)【発明者】
【氏名】田口 大輔
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246AB01
4J246BA020
4J246BA02X
4J246BB020
4J246BB021
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA140
4J246CA14E
4J246CA14X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246CA530
4J246CA53E
4J246CA53X
4J246CA560
4J246CA56E
4J246CA56X
4J246FA141
4J246FA281
4J246FA291
4J246FA321
4J246FC091
4J246FE26
4J246FE35
4J246GA01
4J246GA02
4J246GA11
4J246GB02
4J246HA56
(57)【要約】
【課題】強酸を用いず、触媒の添加量が少なく、短時間でアルコキシ末端ポリシロキサンを得ることができる製造方法、及びその製造方法によって得られたアルコキシ末端ポリシロキサンを提供すること。
【解決手段】上記課題は、一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表されるアルコキシ末端ポリシロキサンの製造方法であって、A)一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、及び/又は一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物、B)一般式(4)-1で表される1級アルコール、及び/又は一般式(4)-2で表される2級アルコール、並びに、C)セシウム塩及びカリウム塩からなる群より選択される塩基性触媒を含有する混合物を加熱及び脱水する工程を含む、前記製造方法によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表されるアルコキシ末端ポリシロキサン。
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表し、
Q、Q及びQは、それぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素基を表し、Q及びQは、互いに結合して酸素原子を含んでいてもよい炭素数2~20の脂環式炭化水素基を形成してもよく、
nは、3以上30以下の整数を表し、
mは、2以上10,000以下の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表されるアルコキシ末端ポリシロキサンの製造方法であって、
A)下記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、及び/又は下記一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物、
B)下記一般式(4)-1で表される1級アルコール、及び/又は下記一般式(4)-2で表される2級アルコール、並びに、
C)セシウム塩及びカリウム塩からなる群より選択される塩基性触媒
を含有する混合物を加熱及び脱水する工程を含む、前記製造方法。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表し、nは、3以上30以下の整数を表す。)
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表し、mは、2以上10,000以下の整数を表し、Xは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~10のアルコキシ基もしくはシロキシ基、置換基を有していてもよく、酸素原子もしくは窒素原子を有していてもよい合計炭素数1~10の炭化水素基、又は、置換基を有していてもよいアミノ基を表す。)
【化4】
(式中、Q、Q及びQは、それぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素基を表し、Q及びQは、互いに結合して酸素原子を含んでいてもよい炭素数2~20の脂環式炭化水素基を形成してもよい。)
【請求項3】
前記A)シロキサン化合物が、デカメチルペンタシクロシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン、オクタフェニルテトラシクロシロキサン、及び直鎖状ポリジメチルシロキサンからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記B)モノアルコールが、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、2-フェノキシエタノール、及びデカヒドロ-2-ナフトールからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記C)塩基性触媒が、炭酸セシウム、酢酸セシウム、及び炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項2から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記加熱・脱水工程における加熱温度が、150℃以上300℃以下の範囲である、請求項2から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱・脱水工程における加熱時間が、1~10時間の範囲である、請求項2から6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ末端ポリシロキサン及びその製造方法に関する。本発明は、特に、強酸を用いず、触媒の添加量が少なく、短時間でアルコキシ末端ポリシロキサンを得る新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシ末端のポリシロキサンは、シリコンブロック構造を含む各種化学品原料、例えば機能性オイルやエラストマーなどの原料として有効である。
アルコキシ末端シロキサンの簡便な製造法として、デカメチルペンタシクロシロキサンやオクタメチルテトラシクロシロキサンなどの環状シロキサンとアルコールとを反応させる製造法が特許文献1及び2に開示されている。
特許文献1では、強酸であるトリフルオロメタンスルホン酸を触媒量として0.5%以上も添加する必要がある。
一方、特許文献2では、塩基であるテトラアンモニウムヒドロキシドを触媒として用いているが、触媒の活性が弱く、反応時間が7時間以上必要である。また、反応速度を向上させるために反応温度を150℃以上にすると、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドが分解してしまい、反応が止まってしまうという欠点がある。
このように、環状シロキサンとアルコールとを用いたアルコキシ末端ポリシロキサンの製造方法において、強酸を用いず、触媒の添加量が少なく、短時間でアルコキシ末端ポリシロキサンを得る製造方法はこれまでに例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-143269号
【特許文献2】US2012/0142956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、強酸を用いず、触媒の添加量が少なく、短時間でアルコキシ末端ポリシロキサンを得ることができる製造方法、及びその製造方法によって得られたアルコキシ末端ポリシロキサンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のシロキサン化合物、アルコール、及び塩基性触媒を含む混合物を加熱・脱水することにより、上記課題を解決することができることを見出した。即ち、本発明は、以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表されるアルコキシ末端ポリシロキサンである。
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表し、
Q、Q及びQは、それぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素基を表し、Q及びQは、互いに結合して酸素原子を含んでいてもよい炭素数2~20の脂環式炭化水素基を形成してもよく、
nは、3以上30以下の整数を表し、
mは、2以上10,000以下の整数を表す。)
<2> 上記<1>に記載の一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表されるアルコキシ末端ポリシロキサンの製造方法であって、
A)下記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、及び/又は下記一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物、
B)下記一般式(4)-1で表される1級アルコール、及び/又は下記一般式(4)-2で表される2級アルコール、並びに、
C)セシウム塩及びカリウム塩からなる群より選択される塩基性触媒
を含有する混合物を加熱及び脱水する工程を含む、前記製造方法である。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表し、nは、3以上30以下の整数を表す。)
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表し、mは、2以上10,000以下の整数を表し、Xは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~10のアルコキシ基もしくはシロキシ基、置換基を有していてもよく、酸素原子もしくは窒素原子を有していてもよい合計炭素数1~10の炭化水素基、又は、置換基を有していてもよいアミノ基を表す。)
【化4】
(式中、Q、Q及びQは、それぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素基を表し、Q及びQは、互いに結合して酸素原子を含んでいてもよい炭素数2~20の脂環式炭化水素基を形成してもよい。)
<3> 前記A)シロキサン化合物が、デカメチルペンタシクロシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン、オクタフェニルテトラシクロシロキサン、及び直鎖状ポリジメチルシロキサンからなる群より選択される少なくとも一つである、上記<2>に記載の製造方法である。
<4> 前記B)モノアルコールが、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、2-フェノキシエタノール、及びデカヒドロ-2-ナフトールからなる群より選択される少なくとも一つである、上記<2>または<3>に記載の製造方法である。
<5> 前記C)塩基性触媒が、炭酸セシウム、酢酸セシウム、及び炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも一つである、上記<2>から<4>のいずれかに記載の製造方法である。
<6> 前記加熱・脱水工程における加熱温度が、150℃以上300℃以下の範囲である、上記<2>から<5>のいずれかに記載の製造方法である。
<7> 前記加熱・脱水工程における加熱時間が、1~10時間の範囲である、上記<2>から<6>のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、強酸を用いず、触媒の添加量が少なく、短時間でアルコキシ末端ポリシロキサンを得ることができる製造方法、及びその製造方法によって得られたアルコキシ末端ポリシロキサンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について製造例や実施例等を例示して詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行うこともできる。
【0008】
<アルコキシ末端ポリシロキサンの製造方法>
本発明の一実施形態は、上記一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表されるアルコキシ末端ポリシロキサンの製造方法である。本発明の製造方法は、A)上記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、及び/又は下記一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物、B)上記一般式(4)-1で表される1級アルコール、及び/又は上記一般式(4)-2で表される2級アルコール、並びに、C)セシウム塩及びカリウム塩からなる群より選択される塩基性触媒を含有する混合物を加熱及び脱水する工程を含む。
本発明の製造方法における反応機構の一例を以下に示す。
【化5】
【0009】
[A)環状シロキサン化合物、直鎖状シロキサン化合物]
環状シロキサン化合物は下記一般式(2)で表される。
【化6】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表す。この際、RおよびRは、置換基を有してもよい合計炭素数1~20のアルキル基、合計炭素数6~30のアリール基であることが好ましい。
【0010】
前記置換基を有してもよい合計炭素数1~20のアルキル基としては、合計炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、合計炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、合計炭素数1または2のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0011】
前記合計炭素数6~30のアリール基としては、合計炭素数6~20のアリール基であることが好ましく、合計炭素数6~12のアリール基であることがより好ましく、合計炭素数6~8のアリール基であることがさらに好ましい。
【0012】
前記置換基としては、水酸基、ハロゲン、アミノ基、ビニル基、カルボキシル基、シアノ基、(メタ)アクリルオキシ基、グリシジルオキシ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0013】
およびRの好ましい具体例としては、メチル基、フェニル基、ビニル基、プロピル基などが挙げられる。
【0014】
nは、3~30の整数であり、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~10であり、さらに好ましくは3~8であり、特に好ましくは3~5である。
【0015】
一般式(2)で表される環状シロキサン化合物の分子量は、2,000以下であることが好ましく、1,600以下であることがより好ましく、1,200以下であることがさらに好ましく、1,000以下であることが特に好ましい。また、一般式(2)で表される環状シロキサン化合物の分子量は、100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましい。
【0016】
一般式(2)で表される環状シロキサン化合物の好ましい具体例としては、デカメチルペンタシクロシロキサン(D5)、オクタメチルテトラシクロシロキサン(D4)、オクタフェニルテトラシクロシロキサン(OPTS)などが挙げられる。
【0017】
直鎖状シロキサン化合物は、下記一般式(3)で表される。
【化7】
【0018】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表す。この際、RおよびRは、置換基を有してもよい合計炭素数1~20のアルキル基、合計炭素数6~30のアリール基であることが好ましい。
【0019】
前記置換基を有してもよい合計炭素数1~20のアルキル基としては、合計炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、合計炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、合計炭素数1または2のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0020】
前記合計炭素数6~30のアリール基としては、合計炭素数6~20のアリール基であることが好ましく、合計炭素数6~12のアリール基であることがより好ましく、合計炭素数6~8のアリール基であることがさらに好ましい。
【0021】
前記置換基としては、水酸基、ハロゲン、アミノ基、ビニル基、カルボキシル基、シアノ基、(メタ)アクリルオキシ基、グリシジルオキシ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0022】
およびRの好ましい具体例としては、メチル基、フェニル基、ビニル基、プロピル基などが挙げられる。
【0023】
Xは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~10のアルコキシ基もしくはシロキシ基、置換基を有していてもよく、酸素原子もしくは窒素原子を有していてもよい合計炭素数1~10の炭化水素基、又は、置換基を有していてもよいアミノ基を表す。このうち、Xは、水酸基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~10のシロキシ基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~10の炭化水素基であることが好ましく、水酸基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~5のシロキシ基、置換基を有していてもよい合計炭素数1~5の炭化水素基であることがより好ましく、水酸基、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、t-ブチルジメチルシリルオキシ基、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチルであることがさらに好ましい。
【0024】
mは、2~10,000の整数であり、好ましくは10~7,000であり、より好ましくは100~2,000であり、さらに好ましくは200~500である。
【0025】
一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物の分子量は、60,000以下であることが好ましく、56,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましく、45,000以下であることが特に好ましい。また、一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物の分子量は、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。
【0026】
一般式(3)で表される直鎖状シロキサン化合物の好ましい具体例としては、直鎖状ポリジメチルシロキサン(直鎖状PDSM)が挙げられる。
【0027】
環状シロキサン化合物及び直鎖状シロキサン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
後述するB)モノアルコールの添加量に対するA)シロキサン化合物の添加量、すなわち、A)シロキサン化合物のSiモル量/B)モノアルコールのモル量は、5~40であることが好ましく、8~35であることがより好ましく、10~30であることが特に好ましい。
【0029】
[B)モノアルコール]
1級アルコールは、下記一般式(4)-1で表され、2級アルコールは、下記一般式(4)-2で表される。
【化8】
式中、Q、Q及びQは、それぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10)の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数6~30(好ましくは炭素数6~20、より好ましくは炭素数6~12)の芳香族炭化水素基を表す。
炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、一価脂肪族炭化水素基であり、特に制限されないが、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基などが挙げられる。
炭素数6~30の芳香族炭化水素基は、炭素数6~30の一価芳香族炭化水素基であり、特に制限されないが、フェニル、インデニル、ナフチル、ビフェニル、アセナフテニル、フルオレニル、フェナレニル、フェナントレニル、アントラセニル、トリフェニレニル、ピレニル、クリセニル、ナフタセニル、ペリレニル等が挙げられる。これらのうち、炭素数6~30の芳香族炭化水素基としては、フェニルであることがより好ましい。
また、Q及びQは、互いに結合して酸素原子を含んでいてもよい炭素数2~20(好ましくは炭素数2~10)の脂環式炭化水素基を形成してもよい。
【0030】
1級アルコール又は2級アルコールの好ましい具体例としては、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、2-フェノキシエタノール、デカヒドロ-2-ナフトールなどが挙げられる。
アルコールは、高分子量のものや、バルキーな構造になると反応性が低下する傾向がある。反対に低分子量のものは、沸点が低下するため、反応中に揮発してしまう傾向がある。そのため、本発明においては、沸点が150℃以上のアルコールを使うことが好ましい。
本発明で用いられるB)モノアルコールは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
[C)塩基性触媒]
C)塩基性触媒は、A)環状シロキサン化合物及び/又は直鎖状シロキサン化合物と、B)モノアルコールと、の反応を促進する機能を有する。
本発明で使用されるC)塩基性触媒は、セシウム塩及びカリウム塩からなる群より選択される。
好ましい塩基性触媒の具体例として、炭酸セシウム、炭酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸カリウム、水酸化セシウム、水酸化カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、炭酸セシウム、酢酸セシウム、及び炭酸カリウムがより好ましく挙げられる。これらの化合物は単独で、もしくは複数の種類を組み合わせて用いることができる。
なお、塩基性触媒は、公知の手法により調製可能であり、また、市販されているものを用いてもよい。
【0032】
A)シクロヘキサン化合物とB)モノアルコールとの合計添加量に対するC)塩基性触媒の添加量、すなわち、C)塩基性触媒の質量/{A)シクロヘキサン化合物の質量+B)モノアルコールの質量}は、30~450ppmであることが好ましく、40~400ppmであることがより好ましく、50~370ppmであることが特に好ましい。
【0033】
[加熱・脱水工程]
加熱・脱水工程において、加熱温度は、150~300℃の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、160~280℃、さらに好ましくは、180~260℃である。
また、副生成物のアリールアルコールを徐々に生じさせ、除去するために、例えば上述の範囲内で設定された反応温度まで、室温から徐々に昇温させることが好ましい。昇温は1~10℃/分程度のペースで進行させることが好ましく、より好ましくは2~8℃/分、さらに好ましくは3~7℃/分で昇温させる。
【0034】
加熱時間は、目的とするアルコキシ末端ポリシロキサンの種類、圧力、温度などの反応条件も考慮の上で適宜定められるが、加熱時間は1~10時間が好ましく、2~8時間がより好ましく、3~6時間が特に好ましい。
【0035】
反応雰囲気は、特に制限されないが、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。前記不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0036】
次に、本発明のアルコキシ末端ポリシロキサンについて、詳細に説明する。
<アルコキシ末端ポリシロキサン>
本発明の製法により製造されるアルコキシ末端ポリシロキサンは、下記一般式(1)-1から(1)-4のいずれかで表される。
【化9】
一般式(1)-1~(1)-4中、R~Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい合計炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい合計炭素数2~20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい合計炭素数6~30のアリール基を表す。
前記合計炭素数1~20のアルキル基としては、特に制限されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-ペンタデシル、n-イコシル等が挙げられる。これらのうち、合計炭素数1~20のアルキル基は、合計炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、合計炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、合計炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましく、合計炭素数1~2のアルキル基であることが特に好ましく、メチルであることが最も好ましい。
【0037】
前記合計炭素数2~20のアルケニル基としては、特に制限されないが、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(アリル)、イソプロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル、ペンタデセニル、イコセニル等が挙げられる。これらのうち、合計炭素数2~20のアルケニル基としては、合計炭素数2~10のアルケニル基であることが好ましく、合計炭素数2~6のアルケニル基であることがより好ましく、エテニル(ビニル)、2-プロペニル(アリル)であることがさらに好ましい。
【0038】
前記合計炭素数6~30のアリール基としては、特に制限されないが、フェニル、インデニル、ナフチル、ビフェニル、アセナフテニル、フルオレニル、フェナレニル、フェナントレニル、アントラセニル、トリフェニレニル、ピレニル、クリセニル、ナフタセニル、ペリレニル等が挙げられる。これらのうち、合計炭素数6~30のアリール基は、合計炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、フェニルであることがより好ましい。
【0039】
前記R~Rの置換基としては、特に制限されないが、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ビニル基、カルボキシル基、シアノ基、(メタ)アクリルオキシ基、グリシジルオキシ基、メルカプト基等が挙げられる。なお、本明細書において、「アミノ基」は、無置換のアミノ基(-NH)のほか、1個の炭素数1~6のアルキル基に置換されたモノアルキルアミノ基、2個の炭素数1~6のアルキル基に置換されたジアルキルアミノ基が含まれる。当該アミノ基の具体例としては、特に制限されないが、アミノ(-NH);メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、t-ブチルアミノ、n-ペンチルアミノ、n-ヘキシルアミノ等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(n-ペンチル)アミノ、ジ(n-ヘキシル)アミノ、エチルメチルアミノ、メチル(n-プロピル)アミノ、n-ブチルメチルアミノ、エチル(n-プロピル)アミノ、n-ブチルエチルアミノ等のジアルキルアミノ基を挙げることができる。これらのうち、アミノ基は、無置換のアミノ基(-NH)であることが好ましい。
【0040】
一般式(1)-1~(1)-4中、Q、Q及びQは、それぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10)の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数6~30(好ましくは炭素数6~20、より好ましくは6~12)の芳香族炭化水素基を表す。
炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、一価脂肪族炭化水素基であり、特に制限されないが、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基などが挙げられる。
炭素数6~30の芳香族炭化水素基は、炭素数6~30の一価芳香族炭化水素基であり、特に制限されないが、フェニル、インデニル、ナフチル、ビフェニル、アセナフテニル、フルオレニル、フェナレニル、フェナントレニル、アントラセニル、トリフェニレニル、ピレニル、クリセニル、ナフタセニル、ペリレニル等が挙げられる。これらのうち、炭素数6~30の芳香族炭化水素基としては、フェニルであることがより好ましい。
また、Q及びQは、互いに結合して酸素原子を含んでいてもよい炭素数2~20(好ましくは炭素数2~10)の脂環式炭化水素基を形成してもよい。
【0041】
一般式(1)-1及び(1)-2中、nは、3~30の整数であり、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~10であり、さらに好ましくは3~8であり、特に好ましくは3~5である。
一般式(1)-3及び(1)-4中、mは、2~10,000の整数であり、好ましくは10~7,000であり、より好ましくは100~2,000であり、さらに好ましくは200~500である。
【0042】
アルコキシ末端ポリシロキサンの重量平均分子量は、20,000~120,000であることがより好ましく、より好ましくは、25,000~110,000であり、さらに好ましくは、30,000~100,000であり、特に好ましくは、35,000~90,000である。
【0043】
アルコキシ末端ポリシロキサンのMw/Mn(分子量分布)は、1.0~9.0が好ましく、1.0~6.0がより好ましく、1.0~5.0が特に好ましい。
【0044】
次に、上述のアルコキシ末端ポリシロキサンを含む成形体について説明する。
本発明の成形体は、上述のアルコキシ末端ポリシロキサンを成形して得られるものである。成形体の成形方法については、特に限定されず、成形体として、射出成形品、プレス成形品、ブロー成形品、押出成形品、真空成形品、圧空成形品などが挙げられる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<ポリシロキサンのポリスチレン換算重量平均分子量(Mw、Mn、Mw/Mn)>
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用い、クロロホルムを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレン(Shodex STANDARD、SM-105)を用いて検量線を作成した。測定した標準ポリスチレンから各ピークの溶出時間と分子量値をプロットし、3次式による近似を行い、較正曲線とした。
そして、得られた較正曲線を基に、下記式から、重量平均分子量(Mw)をポリスチレン換算値として求めた。
[計算式]
Mw=Σ(Wi×Mi)/Σ(Wi)
Mn=Σ(Ni×Mi)/Σ(Ni)
(上記式中、iは、分子量Mを分割した際のi番目の分割点、Wiはi番目の重量、Miはi番目の分子量、Niはi番目の分子数を表す。また、分子量Mは、較正曲線の同溶出時間でのポリスチレン換算での分子量値を表す。)
尚、Mw/Mnは、分子量分散度を示す。分子量分布が広いか狭いかを判定するパラメータであり、この値が1.0に近い値ほど分子量分布が狭く、大きいほど分子量分布が広いことを示す。
[測定条件]
・装置:株式会社島津製作所社製Labsolutions
・カラム:ガードカラム(Shodex GPC K-G 4A)×1本、分析カラム(Shodex GPC K-805L)×2本
・溶媒:クロロホルム(HPLCグレード)
・注入量:10μL
・試料濃度:2000ppm
・溶媒流速:1mL/min
・測定温度:40℃
・検出器:RI
【0047】
(実施例1)
デカメチルペンタシクロシロキサン3.705g(10mmol、Siモル量:50mmol)、ベンジルアルコール216.3mg(2mmol)、及び、塩基性触媒としての炭酸セシウム1.4mg(4.3μmol)を、窒素雰囲気下に置換して200℃に加熱した。200℃で3時間撹拌、脱水することにより、無色オイル状のアルコキシ末端ポリシロキサンを含む組成物を得た。
得られたオイル状成分をH-NMR分析した結果、ポリシロキサン化合物、デカメチルペンタシクロシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサンに相当するSi上のメチル基由来のピークがそれぞれ、0.1~1.0ppm、0.079ppm、0.094ppmに観測された。0.079ppm及び0.094ppmのピーク面積を環状シロキサン生成量とし、0.1~1.0ppmのピーク面積から0.079ppm及び0.094ppmのピーク面積を差し引いた値をポリシロキサン生成量とし、この値を基にポリシロキサン生成率及び環状シロキサン生成率を求めると、ポリシロキサン生成率は91%、環状シロキサン生成率は9%であった。尚、上記H-NMR分析におけるケミカルシフトは、TMS(テトラメチルシラン)のピークである0ppmを基準として算出した。得られたアルコキシ末端ポリシロキサンを含む組成物の物性を下記表1に示す。
引き続き、アルコキシ末端ポリシロキサンを含む組成物(アルコキシ末端ポリシロキサンと環状シロキサンとの混合物)を減圧下(2hPa)で180℃、2時間加熱することで環状シロキサンを留去し、環状シロキサンを含まない、アルコキシ末端ポリシロキサンを得た。
【0048】
(実施例2~14、比較例1~5)
原料として下記表1に示すシロキサン化合物、アルコール、及び塩基性触媒を用いる以外、実施例1と同様にしてアルコキシ末端ポリシロキサンを含む組成物を得た。得られたアルコキシ末端ポリシロキサンを含む組成物の物性を下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
<表中略語等の説明>
D5:デカメチルペンタシクロシロキサン
D4:オクタメチルテトラシクロシロキサン
OPTS:オクタフェニルテトラシクロシロキサン:
直鎖状PDMS:直鎖状ポリジメチルシロキサン
【化10】
Cs2CO3:炭酸セシウム
CsOAc:酢酸セシウム
K2CO3:炭酸カリウム
Na2CO3:炭酸ナトリウム
NaHCO3:炭酸水素ナトリウム
TMAH・5H2O:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物