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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052277
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】屋根の改修方法及び屋根
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/00 20060101AFI20220328BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
E04D5/00 B
E04G23/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158553
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 智史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 弘三
(72)【発明者】
【氏名】丸子 貴則
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA23
2E176BB25
(57)【要約】
【課題】建物の使用を中断することなく、しかも、低コストで既存の防水層の改修が行えるようにする。
【解決手段】屋根の改修方法において、既設防水シートの上であり、かつ、平面視で複数の固定用金属板の間の部分に対応するように剛性部材を配置した後、既設防水シートの上に新設防水シートを敷設して剛性部材を既設防水シートと新設防水シートとの間に位置付け、新設防水シートを既設防水シートに接着固定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属下地の上方に複数の固定用金属板が水平方向に互いに間隔をあけて固定され、当該固定用金属板に既設防水シートが接着固定されている屋根の改修方法において、
前記既設防水シートの上であり、かつ、平面視で複数の前記固定用金属板の間の部分に対応するように剛性部材を配置した後、
前記既設防水シートの上に新設防水シートを敷設して前記剛性部材を前記既設防水シートと前記新設防水シートとの間に位置付け、前記新設防水シートを前記既設防水シートに接着固定することを特徴とする屋根の改修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の屋根の改修方法において、
前記剛性部材は、前記屋根の傾斜方向に沿って延びるように配置することを特徴とする屋根の改修方法。
【請求項3】
請求項1に記載の屋根の改修方法において、
前記剛性部材は、平面視で前記屋根上の水の流れ方向に対して所定の角度を持って延びるように配置することを特徴とする屋根の改修方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の屋根の改修方法において、
前記剛性部材と前記新設防水シートとが接着されていることを特徴とする屋根の改修方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1つに記載の屋根の改修方法において、
前記剛性部材と前記既設防水シートとが接着されていることを特徴とする屋根の改修方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の屋根の改修方法において、
前記剛性部材は鋼板からなり、
前記剛性部材の長手方向に延びる縁部は当該剛性部材の裏側へ折り曲げられて当該剛性部材の裏面に重ね合わされていることを特徴とする屋根の改修方法。
【請求項7】
金属下地の上方に水平方向に互いに間隔をあけて固定される複数の固定用金属板と、
前記固定用金属板に接着固定された第1防水シートと、
前記第1防水シートの上であり、かつ、平面視で複数の前記固定用金属板の間の部分に対応するように配置された剛性部材と、
前記第1防水シート及び前記剛性部材の上に敷設され、前記第1防水シートに接着固定された第2防水シートとを備えていることを特徴とする屋根。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水シートが固定された屋根の改修方法及び屋根に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、屋根下地の上に防水シート固定用の固定用ディスクが固定され、さらにこの固定用ディスクの上に防水シートが固定されてなる防水層を備えた屋根構造が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、屋根下地として金属製の板材からなる金属下地が用いられており、この金属下地の上に固定用ディスクを配置し、この固定用ディスクを固定用ビスによって金属下地に固定している。固定用ディスクの上面には、ホットメルト接着層が設けられている。固定用ディスクの上には合成樹脂製の防水シートが敷設され、この防水シートが固定用ディスクのホットメルト接着層に接着固定されている。
【0003】
一方、特許文献2の屋根下地は屋上スラブであり、この屋上スラブに特許文献1と同様な固定用ディスクを固定し、防水シートを接着固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-75109号公報
【特許文献2】特許第4628093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2のように固定用ディスクを用いて防水シートを固定することによって防水層を構築する場合、防水シートのうち、固定用ディスクが存在している部分のみが屋根下地に固定されることになり、それ以外の広い範囲が屋根下地に対して固定されない状態になる。
【0006】
ここで、屋根の上に風が吹いている状態を想定すると、風によって防水シートの表面に負圧が生じることがあり、この負圧は防水シートを吸い上げるように作用する。この力が強まると防水シートにおける固定用ディスクに固定されていない部分が持ち上げられ、その後、屋根下地の上に落ちる。これが繰り返されて、防水シートの固定されていない部分が波打つように動く、いわゆるフラッタリング現象が発生することがある。フラッタリング現象によって防水シートが大きく波打つと、固定用ディスクへの固定部分と非固定部分との境界に亀裂が生じて防水シートが裂けるおそれがある。
【0007】
このことを抑制するためには、固定用ディスクを密に配置して、防水シートの波打ちを小さくすればよいのであるが、既設の防水層を改修する場合に固定用ディスクを増やそうとすると、既存の防水シートを除去して屋根下地に新たな固定用ディスクを止めるための固定用ビスを打つ必要が生じ、改修が大がかりになってコストが高騰する。また、天井のない金属下地の場合、屋上で固定用ビスを打つと、金属下地の切屑がフロアに落ちるので、その建物を改修期間中に使用できなくなるという問題が発生する。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、建物の使用を中断することなく、しかも、低コストで既存の防水層の改修が行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、金属下地の上方に複数の固定用金属板が水平方向に互いに間隔をあけて固定され、当該固定用金属板に既設防水シートが接着固定されている屋根の改修方法において、前記既設防水シートの上であり、かつ、平面視で複数の前記固定用金属板の間の部分に対応するように剛性部材を配置した後、前記既設防水シートの上に新設防水シートを敷設して前記剛性部材を前記既設防水シートと前記新設防水シートとの間に位置付け、前記新設防水シートを前記既設防水シートに接着固定することを特徴とする。
【0010】
例えば経年劣化によって既設防水シートの改修が必要になった場合、既設防水シートの上に剛性部材を配置した後、既設防水シートの上に新設防水シートを敷設して新設防水シートを既設防水シートに接着固定すると、剛性部材を既設防水シートと新設防水シートとで挟むことができ、新設防水層が完成する。新設防水層では、剛性部材が既設防水シートと新設防水シートとの間で保持されているので、剛性部材を屋根に保持するにあたり、既設防水シートを除去したり、金属下地に新たな固定用ビスを打つ必要がなくなる。したがって、低コストな改修が可能になるとともに、改修作業中に建物の使用を中断せずに済む。
【0011】
改修後に強い風が吹いた時を想定すると、新設防水シートの表面に負圧が生じて新設防水シートに対して吸い上げられるような力が作用する。このとき、既設防水シートにおける複数の固定用金属板の間の部分が金属下地に非固定な状態であることから新設防水シートが既設防水シートと共に大きく持ち上げられるおそれがあるが、本構成によれば、剛性部材が複数の固定用金属板の間の部分に対応するように配置されていて、新設防水シート及び既設防水シートと一体化されているので、剛性部材によって新設防水シート及び既設防水シートが持ち上げられるのを抑制できる。これにより、新設防水層のフラッタリング現象が抑制されるので、新設防水シート及び既設防水シートが裂けにくくなる。
【0012】
第2の発明は、前記剛性部材は、前記屋根の傾斜方向に沿って延びるように配置することを特徴とする。
【0013】
すなわち、新設防水シートが既設防水シートに接着固定されると、剛性部材が配置されている部分は、当該剛性部材の厚み分だけ、新設防水シートが盛り上がった形状になる。本構成では、剛性部材が金属下地の傾斜方向に沿って延びているので、盛り上がった形状が新設防水シートの傾斜方向に長い形状になる。これにより、新設防水シート上の水が、その盛り上がった形状によって屋根の低い側へ自然に導かれるようになり、新設防水シートの上に水が溜まりにくくなる。
【0014】
第3の発明は、前記剛性部材は、平面視で前記屋根上の水の流れ方向に対して所定の角度を持って延びるように配置することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、金属下地の傾斜方向とは異なる方向に延びるように剛性部材が配置されることになるので、例えばフラッタリング現象を起こしやすい箇所に対応するように剛性部材を配置してフラッタリングを効果的に抑制できる。
【0016】
第4の発明は、前記剛性部材と前記新設防水シートとが接着されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、剛性部材を新設防水シートとを一体化することができるので、剛性部材の位置ずれを抑制してフラッタリング現象を狙い通りに抑制できる。
【0018】
第5の発明は、前記剛性部材と前記既設防水シートとが接着されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、剛性部材を既設防水シートとを一体化することができるので、剛性部材の位置ずれを抑制してフラッタリング現象を狙い通りに抑制できる。
【0020】
第6の発明は、前記剛性部材は鋼板からなり、前記剛性部材の長手方向に延びる縁部は当該剛性部材の裏側へ折り曲げられて当該剛性部材の裏面に重ね合わされていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、剛性部材として鋼板を用いることで、薄くしながら、フラッタリング現象を抑制するのに必要十分な剛性を得ることができる。この場合に、長手方向に延びる縁部を裏側へ折り曲げているので、鋼板のエッジが新設防水シートに接触しにくくなり、長期間に亘って新設防水シートの破れを抑制できる。また、折り曲げられた縁部が剛性部材の裏面に重ね合わされているので、剛性部材の剛性、特に曲げ剛性をより一層高めることができ、フラッタリング現象の抑制効果を高めることができる。
【0022】
第7の発明は、金属下地の上方に水平方向に互いに間隔をあけて固定される複数の固定用金属板と、前記固定用金属板に接着固定された第1防水シートと、前記第1防水シートの上であり、かつ、平面視で複数の前記固定用金属板の間の部分に対応するように配置された剛性部材と、前記第1防水シート及び前記剛性部材の上に敷設され、前記第1防水シートに接着固定された第2防水シートとを備えていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、第1防水シートが古く、改修が必要であった場合に、その第1防水シートの上に、固定用金属板の間の部分に対応するように剛性部材を配置し、さらに、新設防水シートである第2防水シートを配置して第1防水シートに接着固定することができる。これにより、改修の際に、第1防水シートを除去したり、金属下地に新たな固定用ビスを打つ必要がなくなるので、低コストな改修が可能になるとともに、改修作業中に建物の使用を中断せずに済む。
【0024】
また、強い風が吹くと、第2防水シートの表面に負圧が生じて第2防水シートに対して吸い上げられるような力が作用する。これに対し、本構成によれば、剛性部材が複数の固定用金属板の間の部分に対応するように配置されていて、第1防水シート及び第2防水シートと一体化されているので、剛性部材によって第1防水シート及び第2防水シートが持ち上げられるのを抑制できる。これにより、フラッタリング現象が抑制されるので、第1防水シート及び第2防水シートが裂けにくくなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、既設防水シートの上に剛性部材を配置し、さらに新設防水シートを敷設して既設防水シートに接着固定するようにしたので、建物の使用を中断することなく、しかも、低コストで既存の防水層を改修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係る屋根を示す部分断面図である。
図2図1のII-II線に相当する断面図である。
図3】剛性部材の平面図である。
図4】剛性部材の端面図である。
図5】変形例1に係る図1相当図である。
図6】変形例2に係る剛性部材周辺の断面図である。
図7】変形例3に係る剛性部材周辺の断面図である。
図8】変形例4に係る図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る屋根1を示すものである。また、屋根1の断面を図2に示す。屋根1は、デッキプレート(金属下地)10と、断熱材11と、断熱パネル12と、固定用ディスク(固定用金属板)13と、固定用ビス14と、既設防水シート15と、新設防水シート20と、剛性部材21とを備えている。この屋根1は、平部が一方向に傾斜した勾配屋根である。勾配の方向は任意に設定することができるが、本実施形態では、図1に示す矢印Cが向かう方が低くなるような勾配がつけられている。
【0029】
図1図2に示す屋根1は、本発明の屋根の改修方法が適用されて改修工事が完了した屋根である。改修前の屋根は、図示しないが、新設防水シート20と剛性部材21とが無く、デッキプレート10の上方に複数の固定用ディスク13が水平方向に互いに間隔をあけて固定され、当該固定用ディスク13に既設防水シート15が接着固定されていて、既設防水シート15によって既設防水層が構成されている。
【0030】
デッキプレート10は、例えば板厚が1.0mm~1.5mm程度の金属板を折り曲げることによって構成されており、金属製であることから金属下地とも呼ばれている。また、デッキプレート10は、防水層の下地にもなることから、防水下地と呼ぶこともできる。この屋根1には天井がなく、デッキプレート10の下面が屋内に臨んでいる。
【0031】
断熱材11は、従来から周知の板状の部材からなるものであり、デッキプレート10の上面に複数枚が互いに隣接するように並設されている。この断熱材11は省略することもできるが、断熱材11を設ける場合には、断熱材11も防水下地の一部とすることができる。
【0032】
断熱パネル12は、断熱材11の上に互いに隣接するように複数枚並設されている。各断熱パネル12の構造は同じにすることができるが、外形状は変更してもよい。断熱パネル12は略矩形状とすることができ、その外形状は長方形であってもよいし、正方形であってもよい。断熱パネル12の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5mm以上50mm以下の範囲で設定することができる。また、断熱パネル12の幅や長さは、数十cm以上の任意の寸法に設定することができる。
【0033】
断熱パネル12は、断熱材12aと、金属外皮12bとを備えている。断熱材12aは、樹脂発泡体で構成されている。樹脂発泡体としては、例えば、押し出し法ポリスチレンフォーム(XPS)、ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)、フェノールフォーム、硬質ポリウレタンフォーム、発泡ポリエチレン等をあげることができる。断熱パネル12を防水下地に締結固定する場合は、耐候性、耐熱性の高い硬質ポリウレタンフォームが好ましく、さらに、難燃性の高いイソシアヌレート環を含むいわゆるポリイソシアヌレートフォームが好ましい。断熱パネルを接着固定する場合は、下地の不陸を吸収するために、断熱材の中では比較的硬度の低い発泡ポリエチレンを用いることもできる。
【0034】
金属外皮12bは、断熱材12aの上面に接着されている。金属外皮12bは、例えば鋼鈑等で構成されており、厚みは特に限定されるものではないが、例えば0.5mm以上1.5mm以下の範囲で設定することができる。金属外皮12bは、例えば軟質塩化ビニル樹脂またはポリオレフィン樹脂等の樹脂材で被覆することができる。
【0035】
固定用ディスク13は、略円形の鋼板と該鋼板の上面に設けられた樹脂層とを備えている。樹脂層は、金属外皮12bを被覆している樹脂材と同じ材料で構成することができる。複数枚の固定用ディスク13を使用しており、これら固定用ディスク13は、互いに水平方向に間隔をあけて断熱パネル12の上面、即ちデッキプレート10の上方に配置されている。固定用ディスク13の真下にデッキプレート10の凸形状部分が位置するように、固定用ディスク13の配設位置が設定されている。複数の固定用ディスク13の間隔は、例えば500mm以上700mm以下の範囲で設定することができるが、この範囲に限られるものではない。
【0036】
固定用ビス14は、例えば、セルフドリリングスクリュー等で構成することができ、固定用ディスク13、断熱パネル12及び断熱材11を上方から貫通してデッキプレート10の凸形状部分にねじ込まれる。固定用ビス14をデッキプレート10の凸形状部分にねじ込むことで、固定用ディスク13を断熱パネル12に押し付け、固定用ディスク13が押し付けられた断熱パネル12は断熱材11をデッキプレート10の凸形状部分に押し付けるようになる。これにより、固定用ディスク13、断熱パネル12及び断熱材11をデッキプレート10に固定することができる。
【0037】
既設防水シート15は、断熱パネル12の上面に敷設される合成樹脂製のシートで構成されており、この屋根1ができたときから敷設されている。既設防水シート15は、金属外皮12bを被覆している樹脂材と同じ材料、即ち軟質塩化ビニル樹脂またはポリオレフィン樹脂で構成することができる。既設防水シート15と、金属外皮12bを被覆している樹脂材と、固定用ディスク13の樹脂層とは、同じ材料とするのが好ましい。既設防水シート15は複数枚を屋根1の幅方向や奥行方向に並べて使用することができる。この場合、隣合う既設防水シート15は厚み方向に重なるように敷設しておき、隣合う既設防水シート15同士を接着して既設防水シート15の下に水が浸入しないようにする。また、既設防水シート15によって固定用ディスク13及び固定用ビス14の頭部が覆われることになる。既設防水シート15と、固定用ディスク13の上面の樹脂層とは接着されている。
【0038】
また、既設防水シート15の下面は、金属外皮12bを被覆している樹脂材に接着されている。既設防水シート15の下面と金属外皮12bの樹脂材とは部分的に接着してもよいし、全体を接着してもよい。
【0039】
既設防水シート15同士の接着方法、既設防水シート15と金属外皮12bの樹脂材との接着方法、既設防水シート15と固定用ディスク13の樹脂層との接着方法は、それぞれ、熱融着、溶剤を使用した溶着等の各種溶着法や、従来から用いられている接着剤を使用した接着法を使用することができる。
【0040】
以上が既設の屋根の構造である。既設の屋根の上面部は既設防水シート15で構成されているので、既設防水シート15は太陽光や風雨にさらされて次第に劣化していく。屋根の施工後、ある期間を経過すると既設防水層の改修が必要になる。
【0041】
また、既設防水シート15のうち、固定用ディスク13が存在している部分のみが固定されることになり、それ以外の広い範囲は非固定状態になる。例えば、屋根の上に風が吹いている状態を想定すると、風によって既設防水シート15の表面に負圧が生じることがあり、この負圧は既設防水シートを吸い上げるように作用する。この力が強まると既設防水シート15がフラッタリング現象によって大きく波打ち、既設防水シート15が裂けるおそれがある。
【0042】
このことを抑制するためには、固定用ディスク13の数を増やして固定用ディスク13を密に配置するによって、既設防水シート15の波打ちを小さくすればよいのであるが、固定用ディスク13を増やそうとすると、既存防水シート15を除去して新たな固定用ディスク13を止めるための固定用ビス14をデッキプレート10に打つ必要が生じ、改修が大がかりになってコストが高騰する。
【0043】
また、この実施形態に係る屋根には天井がなく、デッキプレート10の下面が屋内に臨んでいるので、デッキプレート10に孔を開けるような改修は困難であった。すなわち、デッキプレート10に孔を開けると、そのときに発生した切屑が屋内のフロア等に落下してしまうので、その建物を改修期間中に使用できなくなる。例えば建物が製造工場であった場合、製造設備を一時的に停止して養生しなければならず、金銭的な損失が大きかった。尚、天井のあるデッキプレート10に本発明を適用することも可能である。
【0044】
本実施形態の改修方法によれば、建物の使用を中断することなく、しかも、低コストで既存の防水層の改修を行うことができる。すなわち、まず、図3図4に示すような形状の剛性部材21と、図1等に示す新設防水シート20とを用意する。剛性部材21は、例えば鋼板等で構成されている。この鋼板は、金属板が既設防水シート15等と同様な樹脂材によって被覆された被覆鋼板であってもよい。剛性部材21は、鋼板以外の金属製の板材や、硬質樹脂製の板材等であってもよく、既設防水シート15及び新設防水シート16のフラッタリング現象を抑制するのに十分な曲げ剛性を有していればよい。剛性部材21は、フラッタリング抑制部材と呼ぶこともできる。
【0045】
図3に示すように、剛性部材21は所定方向に長い板状に形成されている。剛性部材21の長手方向に延びる両縁部21b、21bは当該剛性部材21の本体部21aの裏側へ折り曲げられて当該本体部21aの裏面に重ね合わされている。これにより、剛性部材21の側部は板材が2枚重ね合わされた2重構造になるので、剛性部材21が長い形状であても当該剛性部材21の曲げ剛性が高まる。また、剛性部材21の長手方向に延びる部分に鋭いエッジができなくなるので、剛性部材21に接する新設防水シート16の破れを抑制できる。尚、剛性部材21の側部は2枚重ねにすることなく、1枚の板材のみで構成されていてもよい。
【0046】
剛性部材21は、長方形の板状以外にも、例えば正方形、ひし形、五角形以上の多角形状、円形、楕円形、長円形、十字型等の形状であってもよい。剛性部材21の大きさも任意に設定することができるが、例えば400mm以上の長さを有し、30mm以上の幅を有していてもよい。剛性部材21を構成する鋼板の厚みは、例えば0.5mm以上2.0mm以下の範囲で設定することができる。
【0047】
(改修方法)
次に、改修方法について説明する。まず、剛性部材21の配置工程を行う。この配置工程では、剛性部材21を、既設防水シート15の上であり、かつ、平面視で複数の固定用ディスク13、13の間の部分に対応するように配置する。これにより、剛性部材21が既設防水シート15上で、複数の固定用ディスク13、13の間に位置する。剛性部材21の位置の詳細については、例えば、屋根1の幅方向に並ぶ2つの固定用ディスク13、13の中間位置とすることができ、より好ましいのは、幅方向に並ぶ2つの固定用ディスク13、13のどちらからも等距離になる位置である。剛性部材21の向きは、屋根1の傾斜方向に沿って延びる方向である。つまり、屋根1を流れる水の流れ方向と剛性部材21の長手方向とが一致するようになっている。尚、剛性部材21は、固定用ディスク13の真上から外れた所に配置するのが好ましい。
【0048】
剛性部材21の向きは上述した向きに限られるものではなく、図5に示す変形例1のように、平面視で屋根1上の水の流れ方向に対して所定の角度を持った方向であってもよい。すなわち、屋根1上の水は屋根1に勾配が付いているので低い方へ向けて流れることになり、その水の流れ方向が矢印Cで示す方向になる。この矢印Cを平面的に見ると、屋根1の奥から手前に向かう方向になる。この屋根1の奥から手前に向かう方向に対して傾斜するように、剛性部材21を配置することができる。屋根1の奥から手前に向かう方向と、剛性部材21の長手方向とがなす角度は、例えば10゜以上80゜以下の範囲で設定することができる。この例に示す剛性部材21の配置によれば、水の流れ方向とは殆ど関係なく、フラッタリング現象を起こしやすい箇所に対応するように剛性部材21を配置してフラッタリングを効果的に抑制できる。
【0049】
また、図示しないが、屋根1の幅方向に並ぶ2つの固定用ディスク13、13の間に複数の剛性部材21を配置してもよい。この場合、一の剛性部材21と他の剛性部材21とは所定の間隔をあけて配置されていてもよいし、一の剛性部材21の一部に、他の剛性部材21の一部が重なっていてもよい。また、屋根1の幅方向に並ぶ2つの固定用ディスク13、13の間に、形状や厚みが異なる複数の剛性部材21を配置してもよい。以上が剛性部材21の配置工程である。
【0050】
その後、新設防水シート20の接着工程を行う。まず、新設防水シート20を用意する。新設防水シート20は、既設防水シート15と同じシートであってもよいし、異なるシートであってもよい。新設防水シート20を用意した後、既設防水シート15の上に新設防水シート20を敷設して剛性部材21を既設防水シート15と新設防水シート20との間に位置付け、新設防水シート20を既設防水シート15に接着固定する。新設防水シート20を既設防水シート15に接着する方法は、熱融着、溶剤を使用した溶着等の各種溶着法や、従来から用いられている接着剤を使用した接着法を使用することができる。このときに形成された接着層Dを図2に示す。
【0051】
新設防水シート20を既設防水シート15に接着固定することで、剛性部材21が新設防水シート20と既設防水シート15とによって挟まれて位置決めされるので、改修が完了した後に剛性部材21が動かないようにすることができる。
【0052】
上述した例では、剛性部材21を新設防水シート20や既設防水シート15に積極的に固定していないが、これに限らず、剛性部材21を新設防水シート20に固定してもよいし、剛性部材21を既設防水シート15に固定してもよいし、剛性部材21を新設防水シート20及び既設防水シート15の両方に固定してもよい。
【0053】
具体的には、図6に示す変形例2のように、剛性部材21の樹脂層と新設防水シート20の裏面とを熱融着、溶剤を使用した溶着等の各種溶着法や、従来から用いられている接着剤を使用した接着法を使用して接着してもよい。このときに形成された接着層Aを図6に示す。また、図7に示す変形例3のように、剛性部材21の裏面と既設防水シート15との間の少なくとも一部に接着剤Bを充填し、この接着剤Bによって剛性部材21と既設防水シート15とを接着してもよい。接着剤Bは、例えばエポキシ系接着剤を使用することができる。図6の変形例2と図7の変形例3とを組み合わせてもよい。
【0054】
以上の改修作業を完了すると、図1及び図2に示すように、デッキプレート10の上方に水平方向に互いに間隔をあけて固定される複数の固定用ディスク13と、固定用ディスク13に接着固定された既設防水シート(第1防水シート)15と、既設防水シート15の上であり、かつ、平面視で複数の固定用ディスク13の間の部分に対応するように配置された剛性部材21と、既設防水シート15及び剛性部材21の上に敷設され、既設防水シート15に接着固定された新設防水シート20とを備えた屋根1が構成される。
【0055】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、例えば経年劣化によって既設防水シート15の改修が必要になった場合、既設防水シート15の上に剛性部材21を配置した後、既設防水シート15の上に新設防水シート20を敷設して新設防水シート20を既設防水シート15に接着固定すると、剛性部材21を既設防水シート15と新設防水シート20とで挟むことができる。剛性部材21が既設防水シート15と新設防水シート20との間で保持されているので、剛性部材21を屋根1に保持するにあたり、既設防水シート15を除去したり、金属下地であるデッキプレート10に新たな固定用ビス14を打つ必要がなくなる。したがって、低コストな改修が可能になるとともに、改修作業中に建物の使用を中断せずに済む。
【0056】
改修後に強い風が吹いた時を想定すると、新設防水シート20の表面に負圧が生じて新設防水シート20に対して吸い上げられるような力が作用する。このとき、既設防水シート15における複数の固定用ディスク13の間の部分が非固定な状態であることから新設防水シート20が既設防水シート15と共に大きく持ち上げられるおそれがあるが、本実施形態によれば、剛性部材21が複数の固定用ディスク13の間の部分に対応するように配置されていて、新設防水シート20及び既設防水シート15と一体化されているので、剛性部材21によって新設防水シート20及び既設防水シート15が持ち上げられるのを抑制できる。これにより、フラッタリング現象が抑制されるので、新設防水シート20及び既設防水シート15が裂けにくくなる。
【0057】
また、新設防水シート20が既設防水シート15に接着固定されると、剛性部材21が配置されている部分は、当該剛性部材21の厚み分だけ、新設防水シート20が盛り上がった形状になる。本実施形態では、剛性部材21が屋根1の傾斜方向に沿って延びているので、盛り上がった形状が新設防水シート20の傾斜方向に長い形状になる。これにより、新設防水シート20上の水が、その盛り上がった形状によって屋根1の低い側へ自然に導かれるようになり、新設防水シート20の上に水が溜まりにくくなる。
【0058】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0059】
例えば、図8に示す変形例4のように、傾斜方向に並ぶ固定用ディスク13の間に剛性部材21を配置してもよい。この場合、剛性部材21は屋根1の傾斜方向に対してある角度を持って配置してもよいし、屋根1の傾斜方向と平行に配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、例えば固定用金属板に既設防水シートが接着固定されている屋根を改修する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 屋根
10 デッキプレート(金属下地)
13 固定用ディスク(固定用金属板)
15 既設防水シート(第1防水シート)
20 新設防水シート(第2防水シート)
21 剛性部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8