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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052281
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20220328BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20220328BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20220328BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T13/122 A
B60T13/138 A
B60T8/17 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158558
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB06
3D048CC54
3D048HH15
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH37
3D048HH53
3D048HH59
3D049BB04
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH30
3D049HH34
3D049HH43
3D049HH45
3D049QQ06
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB37
3D246JA12
3D246LA04Z
3D246LA15Z
3D246LA43B
3D246LA57Z
3D246LA63A
3D246MA19
(57)【要約】
【課題】液路が破損した際のリザーバ内のフルード漏れを抑制でき、且つ非制動時におけるフルード膨張による制動力の発生を抑制することができる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、シリンダ21に形成された、出力室24とリザーバ45とを接続するリザーバ接続ポート211と、リザーバ接続ポート211を介するリザーバ45から出力室24へのフルードの流れを許容する第1状態と、リザーバ接続ポート211を介するリザーバ45から出力室24へのフルードの流れとリザーバ接続ポート211を介する出力室24からリザーバ45へのフルードの流れとを遮断する第2状態と、リザーバ接続ポート211を介するリザーバ45から出力室24へのフルードの流れを遮断しつつ、出力室24内の液圧に応じて出力室24からリザーバ45へのフルードの流れを許容する第3状態とを切り替える切替部9と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータにより駆動されるピストンと、前記ピストンによって内部に出力室が区画されていて且つ前記出力室とリザーバとを連通するリザーバ接続ポートが形成されているシリンダとを有し、前記出力室に液路を介して接続されたホイルシリンダを前記ピストンの駆動に応じて加圧する電動シリンダと、
前記リザーバ接続ポートを介する前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れを許容する第1状態と、前記リザーバ接続ポートを介する前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れと前記リザーバ接続ポートを介する前記出力室から前記リザーバへのフルードの流れとを遮断する第2状態と、前記リザーバ接続ポートを介する前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れを遮断しつつ、前記出力室内の液圧に応じて前記出力室から前記リザーバへのフルードの流れを許容する第3状態とを切り替える切替部と、
を備える、車両用制動装置。
【請求項2】
前記シリンダには、前記リザーバ接続ポートとして、第1接続ポートと、前記第1接続ポートよりも前記ピストンの前進方向に位置する第2接続ポートと、が形成されていて、
前記第1接続ポートと前記第2接続ポートは、それぞれ前記ピストンの位置に応じて開閉され、
前記切替部は、
前記第1接続ポートと前記リザーバとを接続する第1リザーバ液路と、
前記第2接続ポートと前記リザーバとを接続する第2リザーバ液路と、
前記第2リザーバ液路に設けられていて、前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れを遮断する逆止弁と、
前記ピストンを移動させることで、前記第1接続ポートが開放される第1位置に前記ピストンが位置する前記第1状態と、前記第1接続ポート及び前記第2接続ポートが閉鎖される第2位置に前記ピストンが位置する前記第2状態と、前記第1接続ポートが閉鎖され且つ前記第2接続ポートが開放される第3位置に前記ピストンが位置する前記第3状態とを切り替える制御部と、
を備える、請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記リザーバ接続ポートは、前記ピストンの位置に応じて開閉されるように設けられていて、
前記切替部は、
前記リザーバ接続ポートに前記リザーバを接続するリザーバ液路と、
前記リザーバ液路に設けられた電磁弁と、
前記電磁弁に並列に設けられ前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れを遮断する逆止弁と、
前記ピストンと前記電磁弁を制御することで、前記リザーバ接続ポートが開放される位置に前記ピストンが位置し且つ前記電磁弁が開いている前記第1状態と、前記リザーバ接続ポートが閉鎖される位置に前記ピストンが位置する前記第2状態と、前記リザーバ接続ポートが開放される位置に前記ピストンが位置し且つ前記電磁弁が閉じている前記第3状態とを切り替える制御部と、
を備える、請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
マスタシリンダと前記ホイルシリンダとを接続するマスタ液路に設けられていて、前記マスタ液路において前記電動シリンダと接続された部分よりも前記マスタシリンダ側に設けられたマスタカット弁をさらに備え、
前記切替部は、前記マスタカット弁が閉じた状態において、制動要求がない場合に前記第3状態を形成し、前記制動要求がある場合に前記第2状態を形成する、請求項1~3の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記電動シリンダと前記ホイルシリンダとの間に配置され、前記出力室から入力されたフルードを利用して前記ホイルシリンダに液圧を出力する液圧出力部を備え、
前記切替部は、前記電動シリンダが失陥した場合に前記第1状態を形成する、請求項1~4の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許6202741号公報で開示されているブレーキシステムは、リザーバと電動シリンダとホイルシリンダとを備えている。このシステムにおいて、リザーバとホイルシリンダとは、電動シリンダを介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6202741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記システムにおいて、例えば電動シリンダとホイルシリンダとを接続する液路が破損してしまった場合、当該破損個所からフルードが外部に漏れる。この場合、リザーバと当該破損個所が液圧的に接続されていると、リザーバ内のフルードが当該破損個所から全て漏れてしまう可能性がある。あるいは、リザーバと電動シリンダとを接続する液路にエアが混入する可能性がある。そのため、リザーバとホイルシリンダとは液圧的に遮断されていることが好ましい。これを実現するために、電動シリンダのピストンを前進させることで、電動シリンダとリザーバとを液圧的に遮断することが考えらえる。この場合、電動シリンダとホイルシリンダとの間の液路は密閉される。
【0005】
しかし、このように液路が密閉された状態で、例えば走行時にブレーキパッドとディスクロータの摩擦等でホイルシリンダ内のフルード温度が上昇してしまうと、フルード膨張によって制動中でないのに制動力(ホイール圧)が発生してしまうことになり得る。
【0006】
本発明の目的は、液路が破損した際のリザーバ内のフルード漏れを抑制でき、且つ非制動時におけるフルード膨張による制動力の発生を抑制することができる車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用制動装置は、電気モータにより駆動されるピストンと、前記ピストンによって内部に出力室が区画されていて且つ前記出力室とリザーバとを連通するリザーバ接続ポートが形成されているシリンダとを有し、前記出力室に液路を介して接続されたホイルシリンダを前記ピストンの駆動に応じて加圧する電動シリンダと、前記リザーバ接続ポートを介する前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れを許容する第1状態と、前記リザーバ接続ポートを介する前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れと前記リザーバ接続ポートを介する前記出力室から前記リザーバへのフルードの流れとを遮断する第2状態と、前記リザーバ接続ポートを介する前記リザーバから前記出力室へのフルードの流れを遮断しつつ、前記出力室内の液圧に応じて前記出力室から前記リザーバへのフルードの流れを許容する第3状態とを切り替える切替部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切替部が第2状態を形成することで、ホイルシリンダを加圧することが可能となる。また、切替部が第3状態を形成することで、リザーバから出力室へのフルード流通が禁止され、出力室からリザーバへのフルード流通は許容される。これにより、電動シリンダの出力室とホイルシリンダとを接続する液路が破損してしまった場合でも、出力室を介したリザーバから破損箇所へのフルード流通が防止され、リザーバ内のフルードの漏れは防止される。さらに、非制動時にフルード膨張が発生した場合でも、出力室を介したホイルシリンダからリザーバへのフルード流通により、ホイルシリンダの液圧の上昇は抑制される。このように、本発明によれば、液路が破損した際のリザーバ内のフルード漏れを抑制でき、且つ非制動時におけるフルード膨張による制動力の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の車両用制動装置の構成図(第1状態)である。
図2】第1実施形態における第3状態を説明するための概念図である。
図3】第1実施形態における第2状態を説明するための概念図である。
図4】第1実施形態の下流ユニットの構成図である。
図5】第1実施形態の制御フローチャートである。
図6】第2実施形態の車両用制動装置の構成図(第1状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
図1図5を参照して、第1実施形態の車両用制動装置1を説明する。図1に示すように、車両用制動装置1は、上流ユニット11と、下流ユニット3と、第1ブレーキECU901と、第2ブレーキECU902と、電源装置903と、を備えている。車両用制動装置1は、車両の車輪に設けられたホイルシリンダWC1、WC2、WC3、WC4にフルードを供給可能な装置である。
【0011】
上流ユニット11は、マスタシリンダ装置4と、ストロークシミュレータ43と、シミュレータカット弁44と、リザーバ45と、第1液路51と、電動シリンダ2と、第2液路52と、連通路53と、リザーバ液路54と、マスタカット弁62と、連通制御弁61と、ストロークセンサ71と、圧力センサ72、73と、レベルスイッチ74、と、第1ブレーキECU901と、を備えている。第1ブレーキECU901は、少なくとも上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU902は、少なくとも下流ユニット3を制御する。図1は、車両用制動装置1の非通電状態を示す。
【0012】
マスタシリンダ装置4は、ドライバの操作に応じて液圧を出力可能に構成された装置である。マスタシリンダ装置4は、マスタシリンダ41と、マスタピストン42と、マスタ室41aと、付勢部材41bと、を備えている。
【0013】
マスタシリンダ41は、有底円筒状の部材である。マスタシリンダ41には、入力ポート411と出力ポート412が形成されている。入力ポート411と出力ポート412については後述する。
【0014】
マスタピストン42は、マスタシリンダ41内に配置されたピストン部材であり、ブレーキ操作部材Zと機械的に接続されている。マスタピストン42は、ブレーキ操作部材Zの操作に応じてマスタシリンダ41内で摺動する。マスタピストン42には貫通孔421が形成されている。マスタピストン42は、後述する付勢部材41bによって初期位置に向けて付勢されている。初期位置とは、マスタ室41aの容積が最大となる場合のマスタピストン42の位置である。マスタピストン42が初期位置に位置する場合、貫通孔421と入力ポート411とは連通する。
【0015】
マスタ室41aは、マスタシリンダ41とマスタピストン42とにより、マスタシリンダ41内に形成されている。本実施形態では、マスタシリンダ41内に形成されたマスタ室41aの数は1つである。マスタ室41aの容積は、マスタピストン42の移動に応じて変化する。マスタピストン42が軸方向一方側に移動すると、マスタ室41aの容積が小さくなり、マスタ室41aの液圧(以下「マスタ圧」という)が増大する。
【0016】
付勢部材41bは、マスタ室41a内に設けられたバネ部材である。付勢部材41bは、マスタピストン42を初期位置に向けて付勢する。本実施形態では、初期位置はマスタ室41aの体積が最大となる場合のマスタピストン42の位置である。マスタピストン42に対して力が作用していない状態では、マスタピストン42は初期位置に位置する。
【0017】
ストロークシミュレータ43は、シミュレータカット弁44を介してマスタシリンダ装置4に接続されている。ストロークシミュレータ43は、ブレーキ操作部材Zの操作に対して反力(負荷)を発生させる装置である。ストロークシミュレータ43は、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を含む。ストロークシミュレータ43は液路43aを介してマスタシリンダ41の出力ポート412に接続されている。
【0018】
シミュレータカット弁44は、液路43aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。後述するマスタカット弁62が閉弁し且つシミュレータカット弁44が開弁した状態でブレーキ操作部材Zが操作された場合、ストロークシミュレータ43によってペダル反力が発生される。
【0019】
リザーバ45は、フルードを貯留する。リザーバ45内の圧力は大気圧に保たれている。リザーバ45の内部には、各々にフルードが貯留された2つの貯留室451、452が形成されている。
【0020】
貯留室451は、マスタシリンダ装置4に接続されている。詳細には、貯留室451はマスタシリンダ41の入力ポート411と接続されている。マスタピストン42が初期位置に位置する場合、貯留室451は入力ポート411と貫通孔421とを介してマスタ室41aに液圧的に接続される。マスタピストン42が所定量摺動した場合、入力ポート411と貫通孔421とは液圧的に非接続となる。この場合、マスタ室41aとリザーバ45とは液圧的に非接続となる。貯留室452は、リザーバ液路54を介して電動シリンダ2に接続されている。なお、リザーバ45は、2つの貯留室でなく、2つの別々のリザーバで構成されてもよい。
【0021】
第1液路51は、マスタシリンダ装置4と下流ユニット3とを接続する液路である。第1液路51は、出力ポート412を介してマスタ室41aに接続されている。マスタ室41aとリザーバ45とが液圧的に非接続な状態で、マスタピストン42がマスタ室41aを小さくするように摺動した場合、マスタ室41aから出力ポート412を介して第1液路51に液圧が発生される。マスタ室で発生された液圧は、第1液路51を介して下流ユニット3に供給される。第1液路51は、後述する連通路53と接続されている接続部50を含む。第1液路51には、マスタカット弁62と圧力センサ72とが設けられている。
【0022】
マスタカット弁62は、第1液路51において、接続部50よりもマスタシリンダ装置4側に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。つまり、マスタカット弁62は、マスタシリンダ41とホイルシリンダWC1、WC2とを接続する第1液路(「マスタ液路」に相当する)51に設けられていて、第1液路51において電動シリンダ2と接続された部分よりもマスタシリンダ41側に設けられた電磁弁である。マスタカット弁62が閉弁されている場合、マスタシリンダ装置4と下流ユニット3とは液圧的に遮断される。
【0023】
圧力センサ72は、第1液路51において、マスタカット弁62よりもマスタシリンダ装置4側に設けられている。圧力センサ72は第1液路51内の圧力を検出する。マスタカット弁62が閉弁されている状態で圧力センサ72が検出する圧力は、マスタ室41a内で発生している圧力であるマスタ圧に相当する。
【0024】
(電動シリンダ)
電動シリンダ2は、シリンダ21と、電気モータ22と、ピストン23と、出力室24と、付勢部材25と、を有する。電動シリンダ2は、シリンダ21内に単一の出力室24が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。以下、説明を簡易とするため、電動シリンダ2において、ピストン23が出力室24を小さくする方向を前進方向(又は前方)と称し、ピストン23が出力室24を大きくする方向を後退方向(又は後方)と称す。
【0025】
シリンダ21は、有底の筒状部材である。シリンダ21には、第1接続ポート211a、第2接続ポート211b、及び出力ポート212が形成されている。第2接続ポート211bは第1接続ポート211aよりも前方に位置し、出力ポート212は第2接続ポート211bよりも前方に位置する。
【0026】
第1接続ポート211aは開口部であり、シリンダ21に設けられたシール部材X1とシール部材X2との間に形成されている(図2、3参照)。第2接続ポート211bは開口部であり、シリンダ21に設けられたシール部材X2とシール部材X3との間に形成されている。シール部材X1~X3は環状シール部材である。出力ポート212は開口部であり、シリンダ21の前端部で第2液路52に接続されている。
【0027】
第1接続ポート211aは、リザーバ液路(「第1リザーバ液路」に相当する)54に接続されている。つまり、リザーバ液路54は、第1接続ポート211aとリザーバ45とを接続している。第2接続ポート211bは、分岐リザーバ液路(「第2リザーバ液路」に相当する)541に接続されている。分岐リザーバ液路541は、第2接続ポート211bとリザーバ液路54とを接続している。つまり、第2接続ポート211bは、分岐リザーバ液路541及びリザーバ液路54を介してリザーバ45に接続されている。第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bは、リザーバ接続ポート211を構成している。
【0028】
分岐リザーバ液路541には、リザーバ45から出力室24へのフルードの流れを遮断する逆止弁81が設けられている。逆止弁81は、出力室24からリザーバ45へのフルードの流れを許容する。第2接続ポート211bが開放されている場合、出力室24の液圧がリザーバ45の液圧(大気圧)より大きくなると、出力室24内のフルードが逆止弁81を介してリザーバ45に流出する。
【0029】
電気モータ22は、回転運動を直線運動に変換する直動機構22aを介してピストン23に接続されている。ピストン23は有底円筒状部材であり、電気モータ22の駆動によりシリンダ21内を摺動する。ピストン23には貫通孔231が形成されている。貫通孔231は、ピストン23が初期位置に位置する場合、第1接続ポート211aと連通する。詳細は後述する。
【0030】
出力室24は、シリンダ21とピストン23により区画されており、ピストン23の移動に応じて容積が変化する。ピストン23が初期位置に位置する場合、貫通孔231及び第1接続ポート211aを介して出力室24とリザーバ45とが液圧的に接続される(図1参照)。つまり、第1接続ポート211aが開放されていると、出力室24とリザーバ45とが連通する。第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bがピストン23により閉鎖されている場合、出力室24とリザーバ45とは液圧的に遮断される(図3参照)。出力室24は、出力ポート212を介して第2液路52に接続されている。
【0031】
付勢部材25は、出力室24に配置され、ピストン23を初期位置に向けて付勢するばねである。電気モータ22が駆動していない場合、付勢部材25の付勢力によりピストン23は初期位置に位置する。電動シリンダ2は、電気モータ22により駆動されるピストン23と、ピストン23によって内部に出力室24が区画されていて且つ出力室24とリザーバ45とを連通するリザーバ接続ポート211が形成されているシリンダ21とを有する装置であって、出力室24に液路51、52を介して接続されたホイルシリンダWC1~WC4をピストン23の駆動に応じて加圧する。
【0032】
上記のように、車両用制動装置1は、シリンダ21に形成された、出力室24とリザーバ45とを接続するリザーバ接続ポート211を備えている。第1実施形態のリザーバ接続ポート211は、それぞれピストン23の位置に応じて開閉されるように設けられた第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bを含んでいる。まとめると、シリンダ21には、リザーバ接続ポート211として、第1接続ポート211aと、第1接続ポート211aよりもピストン23の前進方向に位置する第2接続ポート211bと、が形成されていて、第1接続ポート211aと第2接続ポート211bは、それぞれピストン23の位置に応じて開閉される。
【0033】
(第1状態、第2状態、及び第3状態)
車両用制動装置1では、第1ブレーキECU901の制御により、第1状態、第2状態、及び第3状態の何れか1つの状態が形成される。第1状態は、リザーバ接続ポート211を介するリザーバ45から出力室24へのフルードの流れを許容する状態である。第2状態は、リザーバ接続ポート211を介するリザーバ45から出力室24へのフルードの流れとリザーバ接続ポート211を介する出力室24からリザーバ45へのフルードの流れとを遮断する状態である。第3状態は、リザーバ接続ポート211を介するリザーバ45から出力室24へのフルードの流れを遮断しつつ、出力室24内の液圧に応じて出力室24からリザーバ45へのフルードの流れを許容する状態である。
【0034】
図1に示すように、ピストン23が初期位置に位置する場合、出力室24は第1接続ポート211aと貫通孔231とを介してリザーバ45に接続される。この状態が第1状態(双方向流通可能状態)である。以下、第1接続ポート211aが開放されるピストン23の位置を第1位置と称する。第1実施形態では、第1状態において、第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bの両方が開放されている。なお、第1状態では、少なくとも第1接続ポート211aが開放されていればよい。
【0035】
電気モータ22の駆動によりピストン23が初期位置から前進方向に所定量移動した場合、図2に示すように、第1接続ポート211aと貫通孔231とは分断され、第2接続ポート211bと貫通孔231とが連通する。つまり、第1接続ポート211aを介したリザーバ45と出力室24との接続が遮断され、第2接続ポート211b及び逆止弁81を介してリザーバ45と出力室24とが接続される。この状態が第3状態(一方向流通可能状態)である。以下、第1接続ポート211aが閉鎖され第2接続ポート211bが開放されるピストン23の位置を第3位置と称する。
【0036】
第3状態からさらにピストン23が前進方向に移動すると、図3に示すように、第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bの両方が閉鎖される。つまり、出力室24とリザーバ45とが液圧的に遮断される。この状態が第2状態(密閉状態、遮断状態)である。以下、第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bの両方が閉鎖されるピストン23の位置を第2位置と称する。
【0037】
第2状態において、出力室24はリザーバ45と液圧的に非接続となる。出力室24とリザーバ45とが液圧的に非接続な状態でピストン23が出力室24をさらに小さくするように摺動した場合(すなわちピストン23が前進方向に移動した場合)、出力室24から出力ポート212を介して第2液路52にフルードが供給され、出力室24及び第2液路52に液圧が発生する。
【0038】
上記のように、第1状態は、第1接続ポート211aが開放される第1位置にピストン23が位置する状態である(図1参照)。第2状態は、第1接続ポート211a及び第2接続ポート211bが閉鎖される第2位置にピストン23が位置する状態である(図3参照)。第3状態は、第1接続ポート211aが閉鎖され且つ第2接続ポート211bが開放される第3位置にピストン23が位置する状態である(図2参照)。
【0039】
(液路等)
第2液路52は、電動シリンダ2と下流ユニット3とを接続する液路である。出力室24で発生された液圧は、第2液路52を介して下流ユニット3に供給される。第2液路52には圧力センサ73が設けられている。
【0040】
圧力センサ73は、第2液路52内の圧力を検出するセンサである。車両用制動装置1がバイワイヤモードで制御されている状態において圧力センサ73が検出する液圧は、電動シリンダ2の出力液圧に相当する。
【0041】
連通路53は、第1液路51と第2液路52とを接続する液路である。連通路53は接続部50で第1液路51と接続されている。連通路53には連通制御弁61が設けられている。
【0042】
連通制御弁61はノーマルクローズ型の電磁弁である。連通制御弁61の弁体は、弁座よりも第1液路51側に配置されている。そのため連通路53において、第1液路51側の圧力が第2液路52側の圧力よりも高い場合、連通制御弁61に対しては閉弁方向に力が作用する。これにより、連通制御弁61閉弁時にホイルシリンダWC1、WC2の液圧が電動シリンダ2の出力液圧よりも高くなっても、弁体には弁座に押し付けられる方向に力が加わるため(セルフシールされ)、閉弁が維持される。
【0043】
ストロークセンサ71は、ブレーキ操作部材Zのストロークを検出する。本実施形態では、2つのストロークセンサ71が設けられている。2つのストロークセンサ71によって検出されたデータは、各ブレーキECU901、902に送信される。ブレーキECU901、902は、それぞれ対応するストロークセンサ71からストローク情報を取得する。
【0044】
レベルスイッチ74はリザーバ45に設けられていて、リザーバ45の液面レベルが所定位置未満になったことを検出する。レベルスイッチ74はリザーバ45の液面レベルが所定値未満となった場合、液面レベルが低下したことを示すデータを第1ブレーキECU901に送信する。
【0045】
(下流ユニット)
次に、図4を参照して、下流ユニット3を説明する。下流ユニット3は、いわゆるESCアクチュエータであって、各ホイルシリンダWC1~WC4の液圧を独立に調圧することができる。詳細には、下流ユニット3は、ホイルシリンダWC1、WC2を調圧可能に構成された第1液圧出力部31と、ホイルシリンダWC3、WC4を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備えている。
【0046】
下流ユニット3において、上流ユニット11の配置位置を上流とし、ホイルシリンダWC1~WC4の配置位置を下流とする。第1液圧出力部31は、上流側で第1液路51に接続され、下流側でホイルシリンダWC1、WC2に接続されている。第1液圧出力部31と第1液路51とは、第1連結路510を介して接続されている。第2液圧出力部32は、上流側で第2液路52に接続され、下流側でホイルシリンダWC3、WC4に接続されている。第2液圧出力部32と第2液路52とは、第2連結路520を介して接続されている。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、下流ユニット3内で液圧回路上、互いに独立している。
【0047】
第1液圧出力部31には、第1連結路510を介して上流ユニット11からフルードが供給される。第1液圧出力部31は、上流ユニット11が発生させた基礎液圧を基に、ホイルシリンダWC1、WC2の液圧を増大可能に構成されている。第1液圧出力部31は、入力された液圧とホイルシリンダWC1、WC2の液圧との間に差圧を発生させることでホイルシリンダWC1、WC2を加圧するように構成されている。
【0048】
第1液圧出力部31は、液路311と、ポンプ液路315aと、圧力センサ75と、差圧制御弁312と、チェックバルブ312aと、保持弁313と、チェックバルブ313aと、減圧液路314aと、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、リザーバ317と、還流液路317aと、を備えている。
【0049】
液路311は、第1連結路510とホイルシリンダWC1とを接続する液路である。液路311は、ポンプ液路315aと接続された分岐部Xを含む。また液路311は分岐部Xで、各々がホイルシリンダWC1とホイルシリンダWC2に接続する液路に分岐する。
【0050】
圧力センサ75は、液路311において差圧制御弁312よりも上流ユニット11側に設けられている。圧力センサ75は液路311内の圧力を検出する。圧力センサ75が検出する圧力は、第1液路51から第1液圧出力部に入力される液圧に相当する。圧力センサ75によって検出されたデータは第2ブレーキECU902に送信される。
【0051】
差圧制御弁312は、液路311において、分岐部Xと圧力センサ75との間に設けられたノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度が制御されることで、差圧制御弁312を挟んだ上下流間に差圧を発生させることができる。
【0052】
チェックバルブ312aは、差圧制御弁312に対して並列に設けられている。チェックバルブ312aは、上流側から下流側に向けてのフルードの流通のみを許可するよう構成されている。保持弁313は、液路311において、分岐部Xと各ホイルシリンダWC1、WC2との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。チェックバルブ313aは、保持弁313に対して並列に設けられている。チェックバルブ313aは下流側から上流側に向けてのフルードの流通のみを許可するように構成されている。
【0053】
減圧液路314aは、液路311のうち保持弁313とホイルシリンダWC1との間の部分と、リザーバ317とを接続する液路である。減圧液路314a上に、減圧弁314が設けられている。
【0054】
減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧弁314が開弁状態の場合、ホイルシリンダWC1内のフルードは減圧液路314aを介してリザーバ317に流入可能である。したがって、減圧弁314を開弁させることで、ホイルシリンダWC1の圧力を減圧可能である。
【0055】
リザーバ317はフルードを貯留する周知の調圧リザーバであり、減圧液路314aおよび還流液路317aと接続されている。還流液路317aは、液路311において圧力センサ75と差圧制御弁312との間の部分と、リザーバ317と、を接続する液路である。リザーバ317内のフルードは、ポンプ315の作動により吸入される。リザーバ317内のフルード量が減少すると、リザーバ317内の弁が開弁し、リザーバ317に還流液路317aを介して第1液路51からフルードが供給される。
【0056】
ポンプ液路315aは、減圧液路314aにおいて減圧弁314とリザーバとの間の部分と、液路311の分岐部Xと、を接続する液路である。ポンプ液路315aにはポンプ315が設けられている。
【0057】
ポンプ315は、電気モータ316の駆動に応じて作動するポンプであり、例えば周知のピストンポンプやギアポンプである。ポンプ315の吸入側はリザーバ317と接続されていて、ポンプ315の吐出側は分岐部Xに接続されている。ポンプ315が作動すると、リザーバ317内のフルードを吸入して、分岐部Xにフルードを供給する。
【0058】
第1液圧出力部31は、各種電磁弁やポンプの作動により、上流側から入力された液圧を基にホイルシリンダWC1、WC2を加圧可能に構成されている。第2液圧出力部32は圧力センサ75が設けられていない点を除き、第1液圧出力部31と同様の構成であるため、説明を省略する。第2液圧出力部32も第1液圧出力部31と同様に、基礎液圧を基にホイルシリンダWC3、WC4の液圧を増大可能に構成されている。このように、下流ユニット(「液圧出力部」に相当する)3は、電動シリンダ2とホイルシリンダWC1~WC4との間に配置され、出力室24から入力されたフルードを利用してホイルシリンダWC1~WC4に液圧を出力する装置といえる。
【0059】
(ブレーキECU)
第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902(以下「ブレーキECU901、902」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU901、902は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU901と第2ブレーキECU902とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
【0060】
第1ブレーキECU901は、上流ユニットの複数のセンサ71、72、73、74によって検出されたデータに基づいて、電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44を制御可能に構成されている。第1ブレーキECU901は、圧力センサ72、73の検出結果及び下流ユニット3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。
【0061】
第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ75によって検出されたデータに基づいて、下流ユニット3を制御可能に構成されている。また第2ブレーキECU902は、車両に設けられた車輪速度センサ(図示略)や加速度センサ(図示略)等によって検出されたデータも受信する。第2ブレーキECU902は、下流ユニット3によってホイルシリンダWC1を加圧する場合、差圧制御弁312に目標差圧(ホイルシリンダWC1の液圧>第1液路51の液圧)に応じた制御電流を印加し、差圧制御弁312を閉弁させる。この際、保持弁313は開弁しており、減圧弁314は閉弁している。また、ポンプ315を作動させることで、第1液路51からリザーバ317を介して分岐部Xにフルードが供給される。これにより、ホイルシリンダWC1が加圧される。
【0062】
第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等で下流ユニット3によりホイール圧を減圧する場合、減圧弁314を開弁させ且つ保持弁313を閉弁させた状態でポンプ315を作動させ、ホイルシリンダWC1内のフルードをポンプバックさせる。第2ブレーキECU902は、下流ユニット3によりホイール圧を保持する場合、保持弁313及び減圧弁314を閉弁させる。電動シリンダ2又はマスタシリンダ装置4の作動のみによりホイール圧を加圧又は減圧する場合、第2ブレーキECU902は、差圧制御弁312及び保持弁313を開弁し、減圧弁314を閉弁させる。
【0063】
第2ブレーキECU902は、圧力センサ75及び下流ユニット3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。第2ブレーキECU902は、第1差圧(入力圧とホイルシリンダWC1、WC2の液圧との差圧)の目標値である第1目標差圧、及び第2差圧(入力圧とホイルシリンダWC3、WC4の液圧との差圧)の目標値である第2目標差圧を設定する。なお、各種センサの検出値は、両方のブレーキECU901、902に送信されてもよい。
【0064】
電源装置903は、各ブレーキECU901、902に電力を供給する装置である。電源装置903は、バッテリを備えている。電源装置903は、両ブレーキECU901、902に接続されている。つまり、第1実施形態では、2つのブレーキECU901、902に共通の電源装置903から電力が供給される。
【0065】
このように、車両用制動装置1は、シリンダ21内に形成された出力室24に、電気モータ22により駆動されるピストン23の位置に応じた液圧を発生させる電動シリンダ2を備え、電動シリンダ2によりホイルシリンダWC1~WC4を加圧する装置である。さらに詳細に、車両用制動装置1は、マスタシリンダ装置4のマスタ室41aに第1液路51を介して接続され、第1液路51の液圧に基づいてホイルシリンダWC1、WC2に液圧を出力する第1液圧出力部31と、マスタシリンダ装置4とは独立して液圧を発生させる電動シリンダ2と、電動シリンダ2に第2液路52を介して接続され、第2液路52の液圧に基づいてホイルシリンダWC3、WC4に液圧を出力する第2液圧出力部32と、第1液路51と第2液路52との間を接続する連通路53に設けられ、連通路53を開閉するノーマルクローズ型の電磁弁である連通制御弁61と、第1液路51において、連通路53との接続部50よりもマスタシリンダ装置4側に設けられたノーマルオープン型の電磁弁であるマスタカット弁62と、を備えている。
【0066】
車両用制動装置1は、通常制御を実行可能に構成されている。通常制御は、バイワイヤモードとも呼ばれる。通常制御では、上流ユニット11は電動シリンダ2で出力した液圧を出力する。下流ユニット3は上流ユニット11によって出力された液圧に基づいてホイルシリンダWC1、WC2とホイルシリンダWC3、WC4に液圧を出力可能である。以下、第1実施形態の制御について説明する。
【0067】
(通常制御と特定遮断制御)
第1ブレーキECU901は、制御部91を備えている。制御部91は、通常制御と特定遮断制御を実行可能に構成されている。通常制御は、マスタシリンダ装置4とホイルシリンダWC1~WC4とを液圧的に遮断し、電動シリンダ2と下流ユニットとの少なくとも一方によってホイルシリンダWC1~WC4を加圧する制御である。より詳細に、通常制御は、準備制御及び通常加圧制御を含む。
【0068】
準備制御は、いわゆるバイワイヤモードを形成する制御である。準備制御は、車両用制動装置1が設けられている車両が発進可能な状態になった場合に実行される。発進可能な状態になった場合とは、例えば、車両のイグニッションがオンされた場合や、電気自動車が起動された場合である。より詳細に、第1実施形態の準備制御は、第1ブレーキECU901が起動(電源オン)した場合に実行される。
【0069】
準備制御は、マスタカット弁62を閉弁し、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を開弁させる制御である。制御部91は、準備制御が完了すると、特定遮断制御を実行する。特定遮断制御は、ピストン23を第1位置(初期位置)から第3位置に移動させて第3状態を形成する制御である(図2参照)。特定遮断制御は、第1ブレーキECU901が起動した際に、準備制御とともに実行される。特定遮断制御が実行されると、状態が第1状態から第3状態に切り替わる。
【0070】
第3状態が形成されると、例えば上流ユニット11と下流ユニット3とを接続する部分510、520が破損したとしても、当該破損部から電動シリンダ2を介してリザーバ45のフルードが漏れることを防止することができる。
【0071】
通常加圧制御は、バイワイヤモード(少なくとも準備制御が完了した状態)でホイルシリンダを加圧する制御である。通常加圧制御において、制御部91は、ストロークセンサ71及び圧力センサ72が検出したデータを基に、目標出力液圧を設定する。制御部91は、設定された目標出力液圧に基づいて、電動シリンダ2を制御する。つまり、制御部91は、通常加圧制御において、目標出力液圧に応じてピストン23を前進させ、第3状態から第2状態に状態を切り替える。制御部91は、バイワイヤモードにおいて、非制動時に第3状態を形成し、制動時に第2状態を形成する。
【0072】
また、通常加圧制御中、第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等の実行に際して下流ユニット3を作動させる。このように、通常制御では、設定された目標値を基に、電動シリンダ2と第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とが制御されることで、ホイルシリンダWC1~WC4の液圧が調整可能である。
【0073】
制動中に制動要求がなくなる(目標出力液圧=0になる)と、制御部91はピストン23を第3位置まで後退させ、第2状態から第3状態に状態を切り替える。その後、再び制動要求があった場合、目標出力液圧に応じて第2状態が形成される。第3状態は、バイワイヤモードで目標出力液圧が0であるときに形成される状態であって、バイワイヤモードにおける初期状態ともいえる。また、第3状態において、車両起動スイッチ(図示略)がオフされた場合、状態が第1状態に切り替わる。車両起動スイッチは、例えばイグニッション又は電気自動車の電源である。
【0074】
このように、車両用制動装置1は、第1状態と、第2状態と、第3状態とを切り替える切替部9を備えている。切替部9は、リザーバ液路54と、分岐リザーバ液路541と、逆止弁81と、ピストン23を移動させることで第1状態と第2状態と第3状態とを切り替える制御部91と、を備えている。切替部9は、車両起動スイッチがオンされた状態で制動要求がない場合に第3状態を形成し、車両起動スイッチがオンされた状態で制動要求がある場合に第2状態を形成し、少なくとも車両起動スイッチがオフされた場合に第1状態を形成する。
【0075】
第3状態から第1状態への切り替えは、電動シリンダ2への通電停止又は電気モータ22の駆動により実行される。電動シリンダ2への通電が停止されると、付勢部材25によりピストン23が初期位置に戻される。また、電気モータ22が駆動(逆回転)されることで、ピストン23が第3位置から第1位置(初期位置)まで後退する。電気モータ22を駆動することで、通電停止によるピストン23の後退よりも早期に第1状態を形成することができる。
【0076】
第1状態が形成されると、電動シリンダ2を介したリザーバ45と下流ユニット3との間のフルード流通が可能となり、下流ユニット3のみによるホイール圧の加圧制御が可能となる。なお、例えば電動シリンダ2への通電構成が失陥した場合、電気モータ22に電力が供給されないため、付勢部材25によりピストン23が初期位置に戻される。つまり、この場合でも、下流ユニット3のみで加圧可能な状態が形成される。このように、下流ユニット3のみで通常加圧制御を実行する場合、第1状態が形成される。
【0077】
図5に示すように、制御部91は、第1ブレーキECU901が起動すると準備制御を実行し(S101)、さらに特定遮断制御を実行する(S102)。これにより、マスタカット弁62が閉じ、シミュレータカット弁44及び連通制御弁61が開き、ピストン23が第3位置に位置した状態が形成される。そして、制御部91は、制動要求に応じて、通常加圧制御を実行する(S103)。切替部9は、バイワイヤモード(少なくともマスタカット弁62が閉弁した状態)において、制動要求がない場合に第3状態を形成し、制動要求がある場合に第2状態を形成する。
【0078】
(第1実施形態の効果)
車両に設けられた車輪には、ディスクブレーキ(図示略)が設けられている。ディスクブレーキは各車輪に摩擦制動力を発生させるときに、摩擦熱で発熱する。発生した熱はホイルシリンダを介してフルードに伝達する。伝達された熱によってフルードが加熱されることで、フルード温度が上昇する。
【0079】
フルード温度が上昇するとフルードは膨張する。マスタカット弁62が閉弁し且つ電動シリンダ2とリザーバ45とが液圧的に遮断されている状態では、ホイルシリンダに接続する第2液路52は密閉されている。閉じられた液路からはフルードが流出できないため、膨張したフルードによってホイルシリンダ圧は上昇する。温度上昇により増圧されたホイール圧によって、制動要求がないにもかかわらず、車輪に対して制動力が付与される可能性がある。この場合、与えられるべきではない制動力が車両に付与されることとなる。
【0080】
しかしながら、第1実施形態によれば、切替部9が第3状態を形成することで、リザーバ45から出力室24へのフルード流通が禁止され、出力室24からリザーバ45へのフルード流通は許容される。これにより、電動シリンダ2とホイルシリンダWC1~WC4とを接続する液路(例えば液路510、520、310、320)が破損してしまった場合でも、出力室24を介したリザーバ45から破損箇所へのフルード流通が防止され、リザーバ45内のフルードの漏れは防止される。さらに、非制動時にフルード膨張が発生した場合でも、出力室24を介したホイルシリンダWC1~WC4からリザーバ45へのフルード流通により、ホイール圧の上昇は抑制される。このように、第1実施形態によれば、液路が破損した際のリザーバ45内のフルード漏れを抑制でき、且つ非制動時におけるフルード膨張による制動力の発生を抑制することができる。
【0081】
第1実施形態では、第3状態において、高熱によりフルード膨張が発生した場合、出力室24及びホイルシリンダWC1~WC4を含む下流領域内のフルードは、第2接続ポート211b、分岐リザーバ液路541、逆止弁81、及びリザーバ液路54を介してリザーバ45に流出する。これにより、ホイール圧を減圧することができる。
【0082】
第1実施形態では、バイワイヤモードで且つ目標出力液圧が0である場合、第3状態が維持される。つまり、非制動時には、出力室24からリザーバ45へのフルード流通が許容されるため、フルード膨張によるホイール圧の上昇(不要な制動力の発生)は抑制される。
【0083】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制動装置1Aは、図6に示すように、第1実施形態と比較して、分岐リザーバ液路541、逆止弁81、及び第2接続ポート211bがなく、電磁弁82及び逆止弁83を備える点で異なっている。以下、異なっている部分について説明する。第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明及び図面を参照することができる。図6は、車両用制動装置1Aの非通電状態を示す。
【0084】
電動シリンダ2のシリンダ21には、第1接続ポート211aが形成されており、第2接続ポート211bは形成されていない。つまり、第2実施形態のリザーバ接続ポート211は、第1接続ポート211aによって構成されている。
【0085】
車両用制動装置1Aには、分岐リザーバ液路541及び逆止弁81も設けられていない。電動シリンダ2とリザーバ45とは、リザーバ液路54によって接続されている。ピストン23の貫通孔231と第1接続ポート211aとが連通した状態において、出力室24とリザーバ液路54とが連通する。リザーバ液路54は、第1接続ポート211aにリザーバ45を接続する液路である。
【0086】
電磁弁82は、リザーバ液路54に設けられている。電磁弁82は、ノーマルオープン型の電磁弁である。逆止弁83は、電磁弁82に並列に設けられている。つまり、逆止弁83は、リザーバ液路54のうち電磁弁82のリザーバ45側の部分と電磁弁82の電動シリンダ2側の部分とを接続する並列液路542に設けられている。逆止弁83は、リザーバ45から出力室24へのフルードの流れを遮断し、出力室24からリザーバ45へのフルードの流れを許容するように構成されている。
【0087】
逆止弁83は、第1接続ポート211aが開放され且つ電磁弁82が閉じている状態で、出力室24内の液圧に応じて出力室24からリザーバ45へのフルードの流れを許容する。つまり、この状態において、出力室24の液圧がリザーバ45の液圧より大きくなると、逆止弁83を介してフルードが出力室24からリザーバ45に流れる。
【0088】
制御部91は、ピストン23を移動させ電磁弁82を制御することで、第1状態と第2状態と第3状態とを切り替える。第2実施形態において、第1状態は、双方向流通可能状態であって、第1接続ポート211aが開放される位置にピストン23が位置し且つ電磁弁82が開いている状態である。第2状態は、密閉状態(遮断状態)であって、第1接続ポート211aが閉鎖される位置にピストン23が位置する状態である。第3状態は、一方向流通可能状態であって、第1接続ポート211aが開放される位置にピストン23が位置し且つ電磁弁82が閉じている状態である。
【0089】
制御部91は、第1実施形態同様にバイワイヤモードを形成する準備制御と、第3状態を形成する特定遮断制御とを実行可能に構成されている。準備制御は、マスタカット弁62を閉弁し、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を開弁させる制御である。特定遮断制御は、電磁弁82を閉じる制御である。なお、第1ブレーキECU901起動時における準備制御と特定遮断制御との実行順は任意に設定できる。
【0090】
第1ブレーキECU901が起動し、特定遮断制御が実行される際には、ピストン23は初期位置に位置しており、第1接続ポート211aは開放されている。したがって、特定遮断制御が完了すると、第1接続ポート211aが開放される位置(ここでは初期位置)にピストン23が位置し且つ電磁弁82が閉じている第3状態が形成される。この状態から制動要求に応じて通常加圧制御が実行され、ピストン23が初期位置から所定量前進すると、第1接続ポート211aが閉鎖され、第2状態が形成される。なお、第1接続ポート211aが閉鎖された状態では、電磁弁82は開弁されてもよい。
【0091】
制動中に制動要求がなくなる(目標出力液圧=0になる)と、ピストン23が初期位置に戻り、電磁弁82が閉じていることで再び第3状態が形成される。第3状態において、再び制動要求があると第2状態に状態が切り替わる。一方、第3状態において、車両起動スイッチ(例えばイグニッション又は電気自動車の電源)がオフされると、電磁弁82が開けられて第1状態に状態が切り替わる。第2実施形態において、状態を切り替える切替部9Aは、リザーバ液路54と、電磁弁82と、逆止弁83と、制御部91と、を備えている。
【0092】
(第2実施形態の効果)
バイワイヤモードにおいて特定遮断制御が実行されることで、非制動時に第3状態が形成される。第3状態では、リザーバ45から出力室24へのリザーバ流通は、閉じた電磁弁82と逆止弁83とにより禁止される。したがって、第1実施形態同様、下流側の液路が破損した場合でも、リザーバ45からのフルード漏れは抑制される。また、非制動時にフルード膨張が発生した場合でも、逆止弁83を介した出力室24からリザーバ45へのリザーバ流通が許容される。このため、ホイルシリンダWC1~WC4のフルードがリザーバ45に逃がされ、ホイール圧の上昇が抑制される。このように、第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が発揮される。
【0093】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、車両用制動装置1、1Aは、下流ユニット3やマスタシリンダ装置4を備えていなくてもよい。また、電動シリンダ2において、電気モータ22の駆動によりピストン23を後退させることができるため、付勢部材25は無くてもよい。この場合、電気モータ22に対する通電構成を冗長構成にすることが好ましい。また、例えば、下流ユニット3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、制御部91が取得する制動要求は、ドライバによるブレーキ操作部材(ブレーキペダル)Zの操作に基づく制動要求に限らず、自動ブレーキ制御・自動運転の制御にかかる制動要求や、他の装置(ECU)からの制動要求であってもよい。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1、1A…車両用制動装置、2…電動シリンダ、21…シリンダ、211…リザーバ接続ポート、211a…第1接続ポート、211b…第2接続ポート、22…電気モータ、23…ピストン、24…出力室、45…リザーバ、51…第1液路、54…リザーバ液路(第1リザーバ液路)、541…分岐リザーバ液路(第2リザーバ液路)、62…マスタカット弁、81、83…逆止弁、82…電磁弁、9、9A…切替部、91…制御部、WC1~WC4…ホイルシリンダ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6