(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052371
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】錠剤分光測定方法、錠剤分光測定装置、錠剤検査方法及び錠剤検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/85 20060101AFI20220328BHJP
【FI】
G01N21/85 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158727
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】太田 彩
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA02
2G051AB20
2G051BA06
2G051BA08
2G051BA10
2G051BB15
2G051BB17
2G051CB02
2G051DA06
2G051EA09
2G051EB01
(57)【要約】
【課題】 全数検査も可能にする高速且つ高精度の錠剤分光測定技術を提供する。
【解決手段】 移動機構400により直線移動している錠剤Pに対し、パルス内の経過時間と光の波長とが1対1で対応しているパルス光がパルス光照射系1により照射され、錠剤Pからの透過光を受光した受光器2の出力が、ADコンバータ21、積算手段6としてのFPGA61を介して演算手段3に入力され、分光透過スペクトルが算出される。分光特性のばらつき等を測定する場合には、異なる箇所への複数回のパルス光照射についてグループ分けがされ、別々に積分がされて分光透過スペクトルが算出されて比較される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤の分光透過スペクトルを測定する錠剤分光測定方法であって、
パルス内の経過時間と光の波長とが1対1で対応しているパルス光を錠剤に照射する照射工程と、
照射工程においてパルス光が照射された錠剤からの透過光を受光した受光器からの出力を演算処理して当該錠剤の分光透過スペクトルを得る演算処理工程と
を備えており、
照射工程において照射するパルス光のビームの錠剤の光入射面での大きさは、錠剤の当該光入射面の大きさより小さいことを特徴とする錠剤分光測定方法。
【請求項2】
前記パルス光のビームは、前記光入射面内に互いに重ならない状態で2個以上入る大きさであることを特徴とする請求項1記載の錠剤分光測定方法。
【請求項3】
前記照射工程は、一つの錠剤に対して前記パルス光を複数回照射する工程であり、複数回の照射は前記光入射面内の互いに異なる箇所であることを特徴とする請求項1又は2記載の錠剤分光測定方法。
【請求項4】
前記照射工程は、一つの錠剤に対して前記パルス光を複数回照射する工程であり、
前記受光器からの出力を積分する積分工程が設けられており、
積分工程は、前記パルス光が複数回照射された際の前記受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分する工程であり、
前記演算処理工程は、積分された各値に従って分光透過スペクトルを得る工程であることを特徴とする請求項1又は2記載の錠剤分光測定方法。
【請求項5】
前記受光器からの出力を積分する積分工程が設けられており、
複数回の前記パルス光の照射は、前記光入射面内の第一の領域に対する照射である第一のグループと、前記入射面内の第一の領域とは別の第二の領域に対する照射である第二のグループとに分けられており、
積分工程は、第一のグループの照射による前記受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分するとともに、第二のグループの照射による前記受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を第一のグループとは別に積分する工程であり、
前記演算処理工程は、各グループにおいて積分された各値に従ってそれぞれ分光透過スペクトルを得る工程であることを特徴とする請求項3記載の錠剤分光測定方法。
【請求項6】
前記照射工程は、移動している前記錠剤に対して前記パルス光を照射する工程であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の錠剤分光測定方法。
【請求項7】
錠剤の分光透過スペクトルを測定する錠剤分光測定装置であって、
パルス内の経過時間と光の波長とが1対1で対応しているパルス光を出射するパルス光源を含み、パルス光を錠剤に照射するパルス光照射系と、
パルス光照射系によりパルス光が照射された錠剤からの透過光を受光する位置に配置された受光器と、
受光器からの出力を演算処理して錠剤の分光透過スペクトルを得る演算手段とを備えており、
パルス光照射系が照射するパルス光のビームの錠剤の光入射面での大きさは、錠剤の当該光入射面の大きさより小さいことを特徴とする錠剤分光測定装置。
【請求項8】
前記パルス光のビームは、前記光入射面内に互いに重ならない状態で2個以上入る大きさであることを特徴とする請求項7記載の錠剤分光測定装置。
【請求項9】
前記パルス光照射系による前記パルス光の照射位置に錠剤を配置する錠剤配置機構が設けられており、
錠剤配置機構は、一つの錠剤に対して前記パルス光が複数回照射されるよう錠剤を配置する機構であり、複数回の前記パルス光の照射は前記光入射面内の互いに異なる箇所であることを特徴とする請求項7又は8記載の錠剤分光測定装置。
【請求項10】
前記パルス光照射系による前記パルス光の照射位置に錠剤を配置する錠剤配置機構が設けられており、
錠剤配置機構は、一つの錠剤に対して前記パルス光が複数回照射されるよう錠剤を配置する機構であり、
前記受光器からの出力を積分する積分手段が設けられており、
積分手段は、前記パルス光が複数回照射された際の前記受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分する手段であり、
前記演算手段は、積分された各値に従って分光透過スペクトルを得る手段であることを特徴とする請求項7又は8記載の錠剤分光測定装置。
【請求項11】
前記受光器からの出力を積分する積分手段が設けられており、
複数回の前記パルス光の照射は、前記光入射面内の第一の領域に対する照射である第一のグループと、前記光入射面内の第一の領域とは別の第二の領域に対する照射である第二のグループとに分けられており、
積分手段は、第一のグループの照射による前記受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分するとともに、第二のグループの照射による前記受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を第一のグループとは別に積分する手段であり、
前記演算手段は、各グループにおいて積分された各値に従ってそれぞれ分光透過スペクトルを得る手段であることを特徴とする請求項9記載の錠剤分光測定装置。
【請求項12】
前記錠剤を移動させる移動機構が設けられており、
前記パルス光照射系は、移動機構により移動している前記錠剤に対して前記パルス光を照射する照射系であることを特徴とする請求項7又は8に記載の錠剤分光測定装置。
【請求項13】
前記錠剤配置機構は、錠剤を移動させる移動機構であり、
前記パルス光照射系は、前記錠剤配置機構により移動している前記錠剤に対して前記パルス光を照射する照射系であることを特徴とする請求項9乃至11いずれかに記載の錠剤分光測定装置。
【請求項14】
請求項1乃至6いずれかに記載の錠剤分光測定方法を実施することで錠剤の分光透過スペクトルを得る測定ステップと、
測定ステップで得られた分光透過スペクトルに基づいて当該錠剤の良否を判断する判断ステップとを備えていることを特徴とする錠剤検査方法。
【請求項15】
請求項7乃至13いずれかに記載の錠剤分光測定装置と、
錠剤分光測定装置による測定結果である分光透過スペクトルに基づいて錠剤の良否を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする錠剤検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、錠剤の分光測定技術に関するものであり、特に、製造された錠剤の検査技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、錠剤についての品質保持の要請が特に厳しくなってきている。この傾向は、薬剤としての錠剤のみならず、健康食品としての錠剤にも及んできている。例えば、米国では、薬剤のみならず健康食品としての錠剤についてもeGMP(current Good Manufacturing Practice)の取得が義務づけられている。日本でも、GMPの取得を義務化する検討が関係機関において進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-155422号公報
【特許文献2】特開2011-191129号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】http://www.foocom.net/column/takou/5381/
【非特許文献2】尾崎幸洋編著、株式会社講談社発行、「近赤外分光法」、59~75頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
錠剤の製造プロセスにおいて、製造された錠剤の品質をより高く保持するには、全数検査が望ましい。しかしながら、現状の錠剤の製造ラインにおいて、全数検査を可能にする実用的な技術は開発されていない。多数の錠剤が製造されて流れている製造ラインにおいて全数検査を行うためには、検査を短時間のうちに且つ精度良く行う必要があるが、このような技術は開発されていない。このため、現状では、定期的に抜き取り検査をし、クロマトグラフィ装置のような分析装置で分析して製品の品質を確認することにとどまっている。
【0006】
このような中、特許文献1や特許文献2では、錠剤に光照射した結果に基づいて錠剤の検査を行う技術が開示されている。
しかしながら、これら特許文献のうち、特許文献1では、錠剤のような成形品の品質検査を光照射によって行うとしているが、具体的にどのような光を照射し、どのような原理に基づいて品質を検査するのか、何ら開示されていない。特許文献2では、異品種であるかどうかの検査を行うためにレーザー光を照射する点は開示されているものの、錠剤の品質を検査する点については具体的な開示は何らされていない。
【0007】
本願の発明はこのような状況を鑑みて為されたものであり、経口品として高い品質が要求される錠剤について、品質の検査に応用できる優れた分光測定技術を提供することを目的とするものであり、全数検査も可能にする高速且つ高精度の錠剤分光測定技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この明細書において、錠剤の分光透過スペクトルを測定する錠剤分光測定方法の発明が開示される。
錠剤分光測定方法は、
パルス内の経過時間と光の波長とが1対1で対応しているパルス光を錠剤に照射する照射工程と、
照射工程においてパルス光が照射された錠剤からの透過光を受光した受光器からの出力を演算処理して当該錠剤の分光透過スペクトルを得る演算処理工程と
を備えており、
照射工程において照射するパルス光のビームの錠剤の光入射面での大きさは、錠剤の当該光入射面の大きさより小さい。
錠剤分光測定方法において、パルス光のビームは、光入射面内に互いに重ならない状態で2個以上入る大きさであり得る。
また、錠剤分光測定方法は、照射工程が一つの錠剤に対してパルス光を複数回照射する工程であり、複数回のパルス光の照射は光入射面内の異なる箇所であるという構成を持ち得る。
また、錠剤分光測定方法は、
照射工程が、一つの錠剤に対してパルス光を複数回照射する工程であり、
受光器からの出力を積分する積分工程が設けられており、
積分工程は、パルス光が複数回照射された際の受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分する工程であり、
演算処理工程は、積分された各値に従って分光透過スペクトルを得る工程である
という構成を持ち得る。
また、錠剤分光測定方法は、
受光器からの出力を積分する積分工程が設けられており、
複数回のパルス光の照射は、光入射面内の第一の領域に対する照射である第一のグループと、光入射面内の第一の領域とは別の第二の領域に対する照射である第二のグループとに分けられており、
積分工程は、第一のグループの照射による受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分するとともに、第二のグループの照射による受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を第一のグループとは別に積分する工程であり、
演算処理工程は、各グループにおいて積分された各値に従ってそれぞれ分光透過スペクトルを得る工程であり得る。
また、錠剤分光測定方法において、照射工程は、移動している錠剤に対してパルス光を照射する工程であり得る。
【0009】
また、上記課題を解決するため、この明細書において、錠剤の分光透過スペクトルを測定する錠剤分光測定装置の発明が開示される。
錠剤分光測定装置は、
パルス内の経過時間と光の波長とが1対1で対応しているパルス光を出射するパルス光源を含み、パルス光を錠剤に照射するパルス光照射系と、
パルス光照射系によりパルス光が照射された錠剤からの透過光を受光する位置に配置された受光器と、
受光器からの出力を演算処理して錠剤の分光透過スペクトルを得る演算手段とを備えており、
パルス光照射系が照射するビームの錠剤の光入射面での大きさは、錠剤の当該光入射面の大きさより小さい。
錠剤分光測定装置において、パルス光のビームは、光入射面内に互いに重ならない状態で2個以上入る大きさであり得る。
また、錠剤分光測定装置は、
パルス光照射系によるパルス光の照射位置に錠剤を配置する錠剤配置機構が設けられており、
錠剤配置機構は、一つの錠剤に対してパルス光が複数回照射されるよう錠剤を配置する機構であり、複数回のパルス光の照射は光入射面内の互いに異なる箇所である
という構成を持ち得る。
また、錠剤分光測定装置は、
パルス光照射系によるパルス光の照射位置に錠剤を配置する錠剤配置機構が設けられており、
錠剤配置機構は、一つの錠剤に対してパルス光が複数回照射されるよう錠剤を配置する機構であり、
受光器からの出力を積分する積分手段が設けられており、
積分手段は、パルス光が複数回照射された際の受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分する手段であり、
演算手段は、積分された各値に従って分光透過スペクトルを得る手段である
という構成を持ち得る。
また、錠剤分光測定装置は、
受光器からの出力を積分する積分手段が設けられており、
複数回のパルス光の照射は、光入射面内の第一の領域に対する照射である第一のグループと、光入射面内の第一の領域とは別の第二の領域に対する照射である第二のグループとに分けられており、
積分手段は、第一のグループの照射による受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分するとともに、第二のグループの照射による受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を第一のグループとは別に積分する手段であり、
演算手段は、各グループにおいて積分された各値に従ってそれぞれ分光透過スペクトルを得る手段であるという構成を持ち得る。
また、錠剤分光測定装置は、
錠剤を移動させる移動機構が設けられており、
パルス光照射系は、移動機構により移動している錠剤に対してパルス光を照射する照射系である
という構成を持ち得る。
また、錠剤分光測定装置は、
錠剤配置機構が、錠剤を移動させる移動機構であり、
パルス光照射系は、錠剤配置機構により移動している錠剤に対してパルス光を照射する照射系である
という構成を持ち得る。
【0010】
また、上記課題を解決するため、この明細書において、錠剤検査方法の発明と錠剤検査装置の発明が開示される。
開示された発明に係るこの錠剤検査方法は、上記錠剤分光測定方法を実施することで錠剤の分光透過スペクトルを得る測定ステップと、この測定ステップで得られた分光透過スペクトルに基づいて当該錠剤の良否を判断する判断ステップとを備えている。
また、開示された発明に係る錠剤検査方法は、上記錠剤分光測定装置と、上記錠剤分光測定装置による測定結果である分光透過スペクトルに基づいて錠剤の良否を判断する判断手段とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
以下に説明する通り、開示された発明に係る錠剤分光測定方法又は錠剤分光測定装置によれば、経過時間と光の波長とが1対1に対応したパルス光を錠剤に照射して分光測定するので、非常に高速の分光測定が実現できる。その上、照射するパルス光のビームの錠剤の光入射面での大きさが錠剤の当該光入射面の大きさより小さいので、照射に際して錠剤を精度良く位置決めすることが不要になり、またパルス光のビームが錠剤からずれることによる測定条件のばらつき等の問題が抑制される。
この際、パルス光のビームを光入射面内に互いに重ならない状態で2個以上入る大きさとしておくと、上記効果がより高くなる。その上、光入射面内の少なくとも二つの箇所で分光測定することが可能になるので、測定結果を平均化したり、面内での分光特性のばらつきを測定したりする際に好適となる。
また、一つの錠剤に対してパルス光が複数回照射されるようにし、複数回のパルス光の照射が光入射面内の互いに異なる箇所であると、分光透過特性の分布を測定したり、分光透過特性のばらつき(場所による違い)を測定したりすることが可能になるので、この点で好適となる。
また、一つの錠剤に対してパルス光を複数回照射し、その際の受光器からの出力について同一の波長であると見なされる各時刻の値を積分するようにすると、SN比が高められるので、測定精度が向上する。
また、錠剤の光入射面を第一第二の領域に分け、各領域に入射したパルス光による受光器からの出力について別々に積分するようにすると、分光透過特性の分布を測定したりばらつきを測定したりする際にSN比が向上するという効果が得られる。
また、移動している錠剤に対してパルス光を照射して分光測定する構成では、測定の高速性を活かした構成となり、製造ラインにおいて流れている錠剤について容易に応用することができる。
また、開示された発明に係る錠剤検査方法又は錠剤検査装置によれば、上記効果を得つつ品質検査の一環として錠剤の良否を判断することができる。このため、良質で信頼性の高い錠剤を高い生産性で製造するのに大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の錠剤分光測定装置の概略図である。
【
図2】群分散による時間と光の波長の対応化について示した概略図である。
【
図3】分割素子として使用されたアレイ導波路回折格子の平面概略図である。
【
図4】分光測定装置が備える測定プログラムについて主要部を概略的に示した図である。
【
図5】照射する合成パルス光のビームの大きさと錠剤の大きさとの関係について示した概略図である。
【
図6】錠剤とビームとの大きさの比較について説明した図である。
【
図7】錠剤に対するパルス光の複数回照射のパターンの一例について示した図である。
【
図8】積分手段による積分について示した概略図である。
【
図9】錠剤の成分の場所によるばらつきを測定するためのパルス光照射のグループ分けについて示した概略図である。
【
図10】
図9に示す例において積分手段が行う積分について示した概略図である。
【
図11】複数回照射のバリエーションについて示した図である。
【
図12】第二の実施形態の錠剤分光測定装置の概略図である。
【
図13】実施形態に係る錠剤検査装置の概略図である。
【
図14】良否判断プログラムの概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、実施形態の錠剤分光測定装置の概略図である。この装置の大きな特徴点の一つは、錠剤Pに対し、経過時間と光の波長とが1対1で対応しているパルス光を照射し、その際に錠剤Pから出た透過光を受光して分光測定する装置となっている点である。
具体的には、
図1に示す錠剤分光測定装置は、パルス光照射系1と、受光器2と、演算手段3とを備えている。そして、パルス光照射系1は、パルス光源11と、パルス光源11からのパルス光について時間-波長対応性を実現する対応化手段とを備えている。
【0014】
パルス光源11としては、この実施形態では、スーパーコンティニウム光(以下、SC光という。)を出射するものが使用されている。SC光は、パルスレーザ源(例えば超短パルスレーザ源)からの光をファイバのような非線形素子に通し、自己位相変調や誘導ラマン散乱のような非線形光学効果により波長を広帯域化させることで得られる光である。
【0015】
パルス光源11は、連続したスペクトルのパルス光を出射する光源である。この実施形態では、例えば、900nmから1300nmの範囲において少なくとも10nmの波長幅に亘って連続したスペクトルの光を出射する光源となっている。「900nmから1300nmの範囲において少なくとも10nmの波長幅に亘って連続したスペクトル」とは、900~1300nmの範囲の連続したいずれかの10nm以上の波長幅ということである。例えば、例えば900~910nmにおいて連続していても良いし、990~1000nmにおいて連続していても良い。尚、50nm以上の波長幅に亘って連続しているとさらに好適であるし、100nm以上の波長幅に亘って連続しているとさらに好適である。また、「スペクトルが連続している」とは、ある波長幅で連続したスペクトルを含んでいることを意味する。これは、パルス光の全スペクトルにおいて連続している場合には限られず、部分的に連続していても良い。
【0016】
900nmから1300nmの範囲とする点は、実施形態の錠剤分光測定装置が近赤外域での分光分析を主として行うものとなっているためである。少なくとも10nmの波長幅に亘って連続したスペクトルの光とは、典型的にはSC光である。したがって、この実施形態では、パルス光源1は、SC光源となっている。但し、SC光源以外の広帯域パルス光源が使用される場合もある。
【0017】
SC光源であるパルス光源11は、パルスレーザ111と、非線形素子112とを備えている。パルスレーザ11としては、モードロックレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。また、非線形素子112としては、ファイバが使用される場合が多い。例えば、フォトニッククリスタルファイバやその他の非線形ファイバが非線形素子112として使用できる。ファイバのモードとしてはシングルモードの場合が多いが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、非線形素子112として使用できる。
【0018】
対応化手段は、前述したように、時間と光の波長との関係が1対1になるようにする手段である。この点について、
図2を使用して説明する。
図2は、群分散による時間と波長の対応化について示した概略図である。
ある波長範囲において連続スペクトルであるSC光L1を当該波長範囲で正の分散特性を有する群遅延ファイバ9に通すと、パルス幅が効果的に伸長される。
図2(1)に示すように、SC光L1においては、長波長λ
1と短波長λ
nの光が存在する。この光を、正常分散の群遅延ファイバ9に通すと、正常分散の群遅延ファイバ9では、波長の短い光ほど遅れて伝搬するので、
図2(2)に示すように1パルス内の時間差が生じ、ファイバ9を出射する際には、短い波長の光は長い波長の光に比べて遅れるようになる。この結果、
図2(3)に示すように、出射するSC光L2は、時間対波長の一意性が確保された状態でパルス幅が伸長された光となる。即ち、時刻t
1~t
nは、波長λ
1~λ
nに対してそれぞれ1対1で対応した状態でパルス伸長される。
【0019】
尚、パルス伸長のための群遅延ファイバ9としては、異常分散ファイバを使用することも可能である。この場合は、SC光においてパルスの初期に存在していた長波長側の光が遅れ、後の時刻に存在していた短波長側の光が進む状態で分散するので、1パルス内での時間的関係が逆転し、1パルスの初期に短波長側の光が存在し、時間経過とともにより長波長側の光が存在する状態でパルス伸長されることになる。但し、正常分散の場合に比べると、パルス伸長のための伝搬距離をより長くすることが必要になる場合が多く、損失が大きくなり易い。したがって、この点で正常分散の方が好ましい。
【0020】
実施形態のパルス分光装置は、時間-波長対応性を実現するための構成として、上記のような一本のファイバにおける群分散を利用する構成ではなく、複数の波長に分割する分割素子に対して分割数に対応する複数のファイバを接続し、各ファイバの長さで時間と波長の対応をとるよう最適化する構成を採用している。これは、ファイバにおける意図しない非線形光学効果を抑制し、時間-波長対応性を安定して実現するためである。
【0021】
複数のファイバは、この実施形態ではバンドルファイバ13となっている。バンドルファイバ13の入射側には、バンドルファイバ13を構成する各ファイバ(以下、遅延ファイバという。)131に光を入射させるために光を分割する分割素子が設けられている。分割素子については、波長に応じて光を分割する素子が使用されており、この実施形態ではアレイ導波路回折格子(Array Waveguide Grating,AWG)14が使用されている。即ち、この実施形態では、アレイ導波路回折格子14とバンドルファイバ13とが対応化手段を構成している。
【0022】
図3は、分割素子として使用されたアレイ導波路回折格子の平面概略図である。アレイ導波路回折格子は、光通信用として開発された素子であり、分光測定用としては一般に利用されていない。
図3に示すように、アレイ導波路回折格子14は、基板141上に各機能導波路142~146を形成することで構成されている。各機能導波路は、光路長が僅かずつ異なる多数のアレイ導波路142と、アレイ導波路142の両端(入射側と出射側)に接続されたスラブ導波路143,144と、入射側スラブ導波路143に光を入射させる入射側導波路145と、出射側スラブ導波路144から各波長の光を取り出す各出射側導波路146となっている。
【0023】
スラブ導波路143,144は自由空間であり、入射側導波路145を通って入射した光は、入射側スラブ導波路143において広がり、各アレイ導波路142に入射する。各アレイ導波路142は、僅かずつ長さが異なっているので、各アレイ導波路142の終端に達した光は、この差分だけ位相が異なる。各アレイ導波路142からは光が回折して出射するが、回折光は互いに干渉しながら出射側スラブ導波路144を通り、出射側導波路146の入射端に達する。この際、位相差のため、干渉光は波長に応じた位置で最も強度が高くなる。つまり、各出射端導波路146には波長が順次異なる光が入射するようになり、光が空間的に分光される。厳密には、そのように分光される位置に各入射端が位置するよう各出射側導波路146が形成される。
【0024】
バンドルファイバ13における各遅延ファイバ131は、各出射側導波路146に対して接続されている。各遅延ファイバ131の長さは、伝送する光の波長に応じて違っていて波長間で遅延量に差をつけている。これら遅延ファイバ131から出射される光が対象物Sにおいて重ね合わされる(合波される)と、パルス伸長の場合と同様に、時間と波長とが1対1に対応した光が照射された状態となる。
【0025】
尚、上述したように、単純に1本のファイバで伝送した場合でも、適宜の分散特性を有するものを使用すれば、時間対波長の1対1対応性は実現できるが、波長分散は一般に波長に対し一定でないため、波長毎の時間差が均等にはならない。このため、波長分解能が波長に依存してしまう。アレイ導波路回折格子14で波長分割し、波長に応じて遅延ファイバ131の長さを変えた構成は、波長分割と各遅延の際に波長分解能が決まるため、測定波長範囲の全域において波長分解能を均一にする意義がある。
【0026】
パルス光照射系1は、上記のように時間-波長対応性が実現された光を錠剤Pに照射するため、
図1に示すように、出射端ユニット15を備えている。出射端ユニット15は、バンドルファイバ13の出射端に設けられたユニットである。出射端ユニット15は、バンドルファイバ13の各遅延ファイバ131から出射される光が1個の錠剤Pに集められて照射されるようにするユニットであり、レンズ等を適宜含んでいる。以下、1個の錠剤Pに集められた光は、元は一つのパルス光であった光が分割された後に同一の対象物Pに集められて照射されるので、以下、合成パルス光という。
【0027】
パルス光照射系1による合成パルス光の照射位置には、錠剤Pを保持する保持部材が設けられている。この実施形態では、上側からパルス光を照射する構成であるため、保持部材は受け具4である。また、この実施形態の装置は、錠剤Pの分光透過特性を測定する装置であるため、受け具4は透光性であり、透過光を受光する位置に受光器2が設けられている。この他、受け具4に錠剤Pの幅よりも狭い穴やスリットを設け、穴やスリットを通して透過光を受光器2が受光する構成が採用されることもある。
【0028】
また、この実施形態では、参照用の測定値をリアルタイムで取得する構成が採用されている。即ち、
図1に示すように、出射端ユニット15から延びる光路を分岐させるビームスプリッタ51が設けられている。分岐した一方の光路は測定用であり、錠剤Pを介して受光器2に達している。他方の光路50は参照用光路であり、この光路上には参照用受光器52が配置されている。参照用光路50を進んだ光(参照光)は、錠剤Pを経ることなく参照用受光器52に達する。
【0029】
演算手段3としては、この実施形態では汎用PCが使用されている。さらに、受光器2と演算手段3の間には、ADコンバータ21が設けられており、受光器2の出力はADコンバータ21を介して演算手段3に入力される。また、参照用受光器52と演算手段3との間にも参照用のADコンバータ53が設けられており、参照用受光器52の出力もデジタル化されて演算手段3に入力されるようになっている。
演算手段3は、プロセッサ31や記憶部(ハードディスク、メモリ等)32を備えている。記憶部32には、受光器2からの出力データを処理してスペクトルを算出する測定プログラム33やその他の必要なプログラムがインストールされている。
図4は、分光測定装置が備える測定プログラムの一例について主要部を概略的に示した図である。
【0030】
測定プログラム33は、この実施形態では、分光透過スペクトルを測定するプログラムである。分光透過スペクトルの算出に際しては、基準スペクトル強度が使用される。基準スペクトル強度は、分光透過スペクトルを算出するための基準となる波長毎の値である。この実施形態では、基準スペクトル強度は、参照用のADコンバータ53を介して入力された参照用受光器52からの出力である(リアルタイムの基準スペクトル強度)。
この実施形態では、アレイ導波路回折格子14が波長分割した光をバンドルファイバ13の各遅延ファイバ131で時間差を付けて遅延させることで時間対波長の対応性を確保している。アレイ導波路回折格子14で波長毎に分割されて出力される各出射部をチャンネルと呼ぶ。受光器2からの出力については各チャンネルの出力に相当する時間帯で積分される。この点は、参照用受光器52についても同様である。各チャンネルC1,C2,C3,・・・で積分した値である基準強度として記憶される(V1,V2,V3,・・・)。
【0031】
各チャンネルC1,C2,C3,・・・での基準強度V1,V2,V3,・・・は、対応する各波長λ1,λ2,λ3,・・・の強度である。対応する波長λ1,λ2,λ3,・・・は、アレイ導波路回折格子14の各チャンネルC1,C2,C3,・・・における中心波長である。そして、合成パルス光全体における時刻t1,t2,t3,・・・と各チャンネルC1,C2,C3における中心波長λ1,λ2,λ3,・・・と関係が予め調べられており、各チャンネルC1,C2,C3・・・において積分した値V1,V2,V3,・・・が各波長λ1,λ2,λ3,・・・での基準強度であると取り扱われる。
【0032】
そして、錠剤Pを経た光を受光した受光器2からの出力は、ADコンバータ21を経て同様に各チャンネルC1,C2,C3・・・で積分されて各波長λ1,λ2,λ3,・・・の値(測定値)としてメモリに記憶される(v1,v2,v3,・・・)。各測定値は、基準強度と比較され(v1/V1,v2/V2,v3/V3,・・・)、その結果が分光透過スペクトルとなる。そして、必要に応じて逆数の対数を取り吸光度スペクトルとする。上記のような演算処理をするよう、測定プログラム33はプログラミングされている。
尚、実際には、後述するように、図示は省略されているが、測定用のADコンバータ21と、参照用のADコンバータ53とは、サンプリングを同期して行う必要があるため、クロック信号を共有するための同期回路が設けられている。
【0033】
このような錠剤分光測定装置は、測定の対象が錠剤であることを考慮し、照射する合成パルス光のビームの大きさについて最適化している。以下、この点について説明する。
図5は、照射するパルス光のビームの大きさと錠剤の大きさとの関係について示した概略図である。
図5において、合成パルス光のビームをBで示す。
尚、この実施形態では、前述したように、測定光は合成パルス光であり、バンドルファイバ13の各遅延ファイバ131から出射された光である。各遅延ファイバ131から出射されるパルス光が出射端ユニット15により錠剤に集光されて照射されるが、各遅延ファイバ131からのビームが完全には重ならない場合、
図5におけるビームBはそのうちの一つのビームのパターンを示すものとする。また、錠剤が搬送中に位置ずれを生じることなどにより錠剤に対する集光位置が多少ずれて照射される場合もある。多少ずれて照射される場合、
図5におけるビームBの位置は、そのうちの一つの位置を示すものとする。
【0034】
実施形態の錠剤分光測定装置において、錠剤全体の分光特性を過不足なく測定するという観点では、測定光(分光測定のために錠剤Pに照射する光)のビームBは、錠剤Pと同じ大きさであることが望ましい。これを示したのが、
図5の(a-1)、(a-2)、(a-3)である。
しかしながら、測定光の大きさと錠剤Pの大きさが同じ場合、測定光の照射箇所に対して錠剤Pを精度良く位置させることが必要になる。即ち、
図5(a-2)や
図5(a-3)に示すように、ビームBがずれて照射されると、一部に測定光が照射されない領域ができ、錠剤Pを透過して受光器2に達する光の量が変わる。この場合、受光器2の出力のばらつきが、ビームBがずれることによる透過光量の変化なのか、錠剤P自体の光透過率の違いなのかの見極めが困難で、結果的に測定の信頼性が低下する。さらに、錠剤Pを外れた光は迷光の発生源となり、受光器2の出力においてノイズ成分を生じさせ易い。
【0035】
このような問題を避けるには、ビームBに対して錠剤Pを位置決め機構により位置決めすれば良いが、錠剤Pの位置決め機構を別途設けることは、装置コストを上昇させる要因となる。また、小さな錠剤Pを精度良く位置決めするには高価な機構が必要で、また位置決めの際に錠剤Pが破損しないようにしなければならず、機構設計の難易度も高い。さらに、生産性を低下させないようにするには、製造ラインで錠剤Pが流れている(移動している)状態で測定光を照射して測定するのが望ましいが、この場合には位置決めは現実的に不可能である。
【0036】
このような問題を考慮して、
図5(b-1)、(b-2)、(b-3)に示すように、錠剤Pよりも少し大きなビームBを照射することが考えられる。この場合には、
図5(b-2)に示すように少しのずれであれば全ての測定光が錠剤Pに照射されるが、ずれが大きくなると、錠剤PがビームBから外れてしまい、上記と同様の問題が生じる。これを避けるためには、ビームBをさらに大きくすることが考えられるが、錠剤Pに照射されない(測定に使用されない)光の量が多くなり、光の利用効率低下の問題が生じる。
【0037】
一方、
図5(c-1),(c-2),(c-3)に示すように、錠剤Pに対して小さいビームBで光を照射して分光測定する場合、照射位置に対して錠剤Pがずれても光は全て錠剤Pに照射され、上記のような問題は生じない。ビームBの大きさを錠剤Pに対して十分に小さくしておけば、錠剤Pについて精度の高い位置決めは不要になる。「十分に小さい」とは、錠剤Pの大きさに対してビームBの大きさが例えば3/4以下、2/3以下、又は1/2以下である。尚、各遅延ファイバ131から出射されるパルス光が多少ずれて照射される場合、それらを全て包絡した大きさが錠剤Pの大きさに対して例えば3/4以下、2/3以下、又は1/2以下ということである。
大きさの比較は、錠剤、ビームとも円形である場合には直径で比較することになる。錠剤については円形でない場合もあるが、この場合には、錠剤の光入射面の中にビームが重ならずに何個入るかということで規定できる。この例が、
図6に示されている。
図6は、錠剤とビームとの大きさの比較について説明した図である。
【0038】
図6(1-1),(1-2)は、錠剤Pの光入射面が円形である例を示す。また、
図6(2-2),(2-2)は、円形以外の例として正六角形の場合を示す。
図6(1-1),(2-1)は、大きさが1/2以下の例であり、錠剤Pの光入射面の中にビームBが少なくとも2個入る例である。また、
図6(1-2),(2-2)は、1/3以下の例であり、ビームBが少なくとも3個入る例である。
【0039】
ビームBが少なくとも2個入るサイズ比率にしておくと、ビームBの大きさが錠剤Pの大きさの1/2以下ということになるので、ビームBの照射位置がずれても錠剤Pを外れてしまう可能性がより低くなる。その上、後述するように異なる2箇所以上にパルス光を照射することができ、錠剤Pの分光透過特性の分布を測定したり、分光透過特性の場所によるばらつきを測定したりするのに好適である。
尚、出射端ユニット15は、集光レンズを含んでいて、集光レンズにより上記のような小さなパターンのビームBとして照射する場合があり得る。
【0040】
実施形態の錠剤分光測定装置の別の大きな特徴点は、上記のように小さいビームの合成パルス光を1個の錠剤Pに対して複数回照射し、複数回照射した際に錠剤Pを透過した光を受光器2で受光してその出力を演算処理して分光測定の結果とする点である。以下、この点について説明する。
錠剤に含まれる特定の成分の量を測定するためには、測定対象である成分が吸収する波長の光を利用する必要がある。そのため、錠剤Pの光透過率は、通常、1%以下の低い値である。この場合の光透過率は、測定する波長範囲における光透過率であり、例えば近赤外域の光の透過率である。
【0041】
このように光透過率が低い錠剤Pについて、1回の合成パルス光の照射のみで分光測定しようとすると、受光器2で受光される透過光の強度が弱いため、迷光やバックグラウンド光等によるノイズ成分の影響でSN比が極度に低下してしまう。したがって、十分に高い精度の測定結果を得ることが難しい。この実施形態では、この点を考慮し、1個の錠剤Pに対して合成パルス光が複数回照射されるようにし、複数回照射された際の受光器2からの出力を積分するようにしている。具体的には、実施形態の錠剤分光測定装置は、1個の錠剤Pに対して合成パルス光が複数回照射されるように照射位置に配置する錠剤配置機構と、複数回照射された際の受光器2からの出力を積分する積分手段6とを備えている。
【0042】
錠剤配置機構としては、種々の機構が考えられる。この実施形態では、錠剤Pに対する合成パルス光の複数回照射をさらに最適化するため、複数回の合成パルス光が1個の錠剤Pに対して異なる箇所で照射となるようにしている。より具体的には、錠剤配置機構は、この実施形態では、合成パルス光の照射位置を通過するように錠剤Pを移動させる錠剤移動機構400となっている。
【0043】
図1に示すように、各受け具4は板状であり、水平方向に並べられており、相互に連結されている。錠剤移動機構400は、各受け具4が並んでいる方向に移動させる機構である。錠剤移動機構400としては、錠剤を置いた輪状のベルトを無限軌道状に回転移動させて錠剤を搬送するベルトコンベア方式や、周面に錠剤を吸着した円盤を回転させて移動させる方式も考えられる。これらの場合、受け具4のような部材を用いる必要はない。ベルト又は円盤に細いスリット又は小径の貫通穴を形成し、錠剤をそのスリット又は穴の上に置く。錠剤を透過した透過光は、このスリット又は穴を通して受光器2に受光される。錠剤は、錠剤移動機構400によって移動されながら、パルス光が錠剤に対して複数回の照射される。
【0044】
尚、照射位置の上流側の移動路上には、錠剤Pを1個ずつ各受け具4に載置する載置機構8が設けられる。載置機構8としては、例えば、多数の錠剤Pが充填されるホッパーから錠剤を一列または数列に整列させるフィーダー(不図示)を経由し錠剤Pが1個ずつ受け具4に渡される構成とされる。この他、先端に錠剤Pを保持することができるアームを備えたロボットにより移載する構成であっても良い。
【0045】
本実施例では、錠剤移動機構400による移動は、定速の直線移動であるが、定速でなくてもよいし直線移動でなくてもよい。各受け具上の錠剤Pは、照射位置を通過する際、複数回のパルス光の照射を受ける。即ち、錠剤移動機構400による移動速度がパルス光の繰り返し周波数との関係で最適化されており、これによって1個の錠剤Pに対してパルス光が複数回照射されるようになっている。
【0046】
図7は、錠剤Pに対する合成パルス光の複数回照射のパターンの一例について示した図である。この例では、1個の錠剤Pに対して合成パルス光が12回照射される設定になっている。1回の照射における合成パルス光のビームを
図7においてBで示す。
図7に示すように、錠剤Pは照射位置を通して停止することなく移動し、この際に各パルスが照射されるので、
図7に示すように、各ビームBは一直線上に並んでいる。
図7では、各ビームBは接触した状態となっているが、これは必須ではなく、多少離間していても良く、多少重なっていても良い。
【0047】
より具体的な一例を示すと、例えば錠剤Pが直径6mm程度の円盤状(タブレット状)である場合、1個のビームBは直径1mm程度とされる。この場合、パルス光の繰り返し周波数が2.4kHz程度であるとすると、錠剤Pの移動速度(受け具4の移動速度)を1m/s程度にしておくと、このように並んだ12個のビーム(12回のパルス光)が照射される。
尚、
図7に示す例で、錠剤Pの直径がビームBのちょうど12倍であると、僅かにタイミングがずれただけでもビームBが錠剤Pを外れて照射されてしまうので、タイミングのずれを考慮したマージンRが設定される。ビームBは、マージンRを含んだ状態で12個入るサイズとされる。
【0048】
また、錠剤Pの移動に対して複数回の合成パルス光照射のタイミングを最適化するため、パルス光照射系においてシャッタを設けたり、パルスレーザ源11に発振のタイミングを制御する制御信号を入力したりする構成が採用され得る。
尚、パルス光の繰り返し周波数を多くすることで積算回数を多くすることができる。ランダムノイズの場合、ノイズ幅は積算回数の平方根に反比例するため、積算回数を多くすることでより高いSNを得ることができる。
【0049】
上記のように複数回のパルス光が1個の錠剤Pの異なる箇所に照射される構成には、幾つかの別の意義が存在している。その一つが錠剤Pの耐熱性に関する意義である。同じ箇所に複数回のパルス光を照射すると、熱が蓄積されて、錠剤Pの耐熱性によっては錠剤Pに変質や焼けといった熱的損傷を引き起こすことが考えられる。異なる箇所に照射するようにすると、熱の蓄積が抑えられ、熱的損傷が防止される。
【0050】
もう一つの意義は、錠剤P内の場所による成分のばらつきに関する意義である。錠剤Pにおいて成分の場所によるばらつきは少ないことが望ましい。錠剤Pは、しばしば割線を有し、この割線で二つ等に割って服用する場合がある。そのため、成分のばらつきがあり、割られた一方において有効成分が特に少なかったり、逆に多すぎたりすること製品不良の原因となることがある。このため、錠剤Pの品質検査の観点では、錠剤Pの異なる複数の箇所について分光測定できるようになっていることが好ましい。実施形態の錠剤分光測定装置は、この点を考慮し、複数回のパルス光照射が錠剤Pの異なる箇所にされるようにしている。
【0051】
次に、積分手段6の構成について説明する。
上述したように、積分手段6は、錠剤Pの光透過率の低さを考慮してSN比を上げるための構成である。そして、実施形態の錠剤分光測定装置は、合成パルス光内の経過時間と光の波長とが1対1で対応している光を錠剤Pに複数回照射する装置である。これらのことから、積分手段6は、複数回の合成パルス光が照射された際の受光器2の各出力(各合成パルス出力)について、同一の波長であると見なされる時刻の各値を積分する手段となっている。積分手段6は、この実施形態ではハードウェアにより積分を行う手段であり、FPGA(Field Programmable Gate Array)61が積分手段6として用いられている。
【0052】
この実施形態では、積分手段6における積分をさらに最適化するため、基準時刻付与部を備えている。基準時刻付与部は、各合成パルス光による受光器2からの出力について、同一波長であると見なされる各時刻を特定するための基準時刻を積分手段6に与える要素である。この実施形態では、受光器2に達する各パルス光に対して一定の時間的関係を有するトリガ信号を発生させるトリガ信号発生部62が、基準時刻付与部として採用されている。より具体的には、パルス光源10が各合成パルス光を出射するのに伴ってトリガ信号を発生させるトリガ信号発生部62が採用されている。
図1に示すように、トリガ信号発生部62は、パルスレーザ源11の出力の一部を取り出して検出することでトリガ信号を発生させるものとなっている。即ち、トリガ信号発生部62は、パルスレーザ源11からの出力の一部を取り出すビームスプリッタ621と、取り出された光を検知するトリガ信号受光器622で構成されている。
【0053】
図8は、積分手段による積分について示した概略図である。
図8において、パルスレーザ源111によるパルスレーザの発振時刻とt
0とする。
図8において、実線で示された各小さなパルス出力Pdは、錠剤Pに照射された各分割パルス光による出力である。一つの分割パルス光は、アレイ導波路回折格子14の一つのチャンネルから出射された光ではあるので、対応するパルス出力Pdはその部分で積分(時間積分)される。即ち、チャンネルC
1~チャンネルC
nの各パルス出力Pdは、そのパルス内で積分され、その値が測定値v
1~v
nとなる。
その上で、合成パルス光は複数回照射されるので、各測定値v
1~v
nを各合成パルス光間で積分する。つまり、次の合成パルス光の照射におけるv
1を前回のv
1に加算し、v
2を前回のv
2に加算し、・・・v
nを前回のv
nに加算する。これを最後の合成パルス照射における出力データまで繰り返す。
【0054】
積分手段6として用いられたFPGA61には、基準時刻t0を示すものとして各トリガ信号trが入力される。FPGA61は、ADコンバータ21からの各出力値について、トリガ信号trを基準にして各チャンネルC1~Cn内の値(パルス出力Pdがデジタル化された値)を特定し、上記のように多重積分(各パルス出力Pd内での積分と合成パルス光間の積分)をするよう予めプログラミングされている。
【0055】
積分手段6,60としての各FPGA61,54は、各チャンネルで積分したデータ(チャンネルC1~チャンネルCnの各値)をデータセットにして演算手段3に出力する。このデータセットは、前述したv1~vn、V1~Vnに相当している。
尚、FPGA61,54に対しては、各チャンネルC1~Cnにおいてパルス間での積分処理をおこなう時間帯(ゲート)を指定するため、不図示のゲート信号が入力される。この実施形態では、演算手段3がFPGA61,54用のゲート信号を発生する構成になっている。
【0056】
上記積分手段6の構成は、1個の錠剤Pに照射された複数回のパルス光について、受光器2からの出力を同一の波長と見なされる時刻において全て積分してしまう構成であるので、1個の錠剤Pについて全体の平均の分光透過スペクトルを得ることになる。この構成には、錠剤Pの成分が場所によってばらついていても、全体の平均の分光透過スペクトルを瞬時に測定できるという意義がある。
【0057】
これとは別に、錠剤Pの成分の場所によるばらつき自体を測定したい場合がある。この場合には、複数回のパルス光についてグループ分けをし、グループ毎に積分をし、その結果をグループ間で比較することになる。
具体的には、錠剤分光測定装置は、複数回のパルス光照射のうち第一のグループのパルス光照射については錠剤Pの光入射面内の第一の領域にされるようにするとともに、第二のグループのパルス光照射については、当該錠剤Pの光入射面内の第一の領域とは異なる第二の領域にされるようにする錠剤配置機構を備えるということになる。上述した錠剤移動機構400は錠剤Pを移動させる機構であり、複数回のパルス光の照射においてビームパターンMが一直線上に並ぶので、積分手段6による積分において容易にグループ分けをすることができる。即ち、錠剤移動機構400は、ばらつき測定のための錠剤配置機構としてもそのまま使用できる。
【0058】
上記の点について、
図9を参照して説明する。
図9は、錠剤の成分の場所によるばらつきを測定するためのパルス光照射のグループ分けについて示した概略図である。
図9に示す例は、錠剤Pの光入射面を二つの領域に分け、パルス光照射を二つのグループに分ける例である。例えば、錠剤Pの中央に割り線が形成されており、それを境に二つの領域に分けることが想定されている。
図9に示す例では、
図7と同様、12回のパルス光照射(12個のビームとなっている。したがって、最初の6回のパルス光照射が第一のグループB1となり、次の6回のパルス光照射が別の第二のグループB2となる。
【0059】
図10は、
図9に示す例において積分手段が行う積分について示した概略図である。
積分手段6は、
図9と同様に、各チャンネルにおいて(即ち、同一の波長を受光したと見なされる時刻の各値について)積分を行う。この際、
図10に示すように、最初の6回までのパルス光照射における積分を行った時点で積分を終了し、その時点での値を第一のグループB1での各チャンネルの積分値とする。そして、次の6回のパルス光照射については別に積分し、それを第二のグループB2での各チャンネルの積分値する。
このような積分を行う積分手段6についても、同様にFPGA61を使用することができ、上記のような演算が行われるようFPGA61が予めプログラミングされる。
【0060】
参照用受光器52から出力を積分する参照用のFPGA54については、特にグループ分けをせず、全てのパルス光照射について各チャンネルで積分して演算手段に出力しても良いが、同様にグループ分けした上で出力するとより好適である。即ち、同様に1回目から6回目までのパルス光照射について各チャンネルで積分して第一のグループB1についての参照用のデータセット(基準スペクトル強度の集まり)とし、7回目から12回目までのパルス光照射について各チャンネルで積分して第二のグループB2についての参照光のデータセットとする。このようにすると、同じ光を分割した参照光の強度で測定光を比較するということにより忠実になるので、測定精度が高められる。
【0061】
上記の例は、12回のパルス光の照射であったが、2回以上のいずれの回数であっても同様である。またグループ分けについても、二つのグループである必要はなく、三つ又はそれ以上のグループに分けて積分しても良い。
図11は、このような複数回照射のバリエーションについて示した図である。パルス光の複数回照射については、
図11(1)に示すように、中央の境界線で分けられた二つの領域の中央に1回ずつ照射するパターンであっても良い。
図11(2)に示すように均等間隔をおいて三つのビームが照射されるようにするパターンであっても良い。
【0062】
次に、このような実施形態の錠剤分光測定装置の全体の動作について説明する。以下の説明は、錠剤分光方法の実施形態の説明でもある。
実施形態の分光測定装置を用いて分光測定する場合、測定条件設定プログラム34が実行され、積分条件を指定する信号がFPGA61,54に入力される。その上で、受け具4に錠剤Pを載置し、パルス光源11を動作させる。パルス光源11において、パルスレーザ源11から出射されるパルス光は、非線形素子112で広帯域化し、アレイ導波路回折格子14で波長分割された後、バンドルファイバ13の各遅延ファイバ131で伝送され、その長さに応じた量で遅延する。そして、各遅延ファイバ131からの光は、出射端ユニット15を経由し、スプリッタ51で分割されてその一方が錠剤Pに合成パルス光として照射される。この際、錠剤Pを透過した合成パルス光は受光器2に達する。また、分割された他方の光は参照用の合成パルス光として参照用受光器52に達する。
【0063】
このような合成パルス光の照射と、各受光器2,52への入射が複数回繰り返され、各受光器2,52からは各合成パルス光による出力が生じる。各出力は、ADコンバータ21,53でそれぞれサンプリングされてデジタル化され、積分手段6,60としての各FPGA61,54で積分される。この際、FPGA61,54は、入力された積分条件での積分を行う。その上で、測定信号のデータセットv1~vnと参照信号のデータセットV1~Vnとが演算手段3に入力される。演算手段3は、測定信号のデータセットv1~vnに含まれる各値を、参照信号のデータセットV1~Vnから取得した同一時刻の基準強度で除算し、分光透過スペクトルの測定結果とする。
【0064】
上記動作の際、グループ分けをする積分を行うよう積分条件が入力されている場合、FPGA61,54は、プログラミングされているようにグループ毎に積分をし、その結果を演算手段6に入力する。測定プログラム33は、グループ毎にv1~vn,V1~Vnを比較し、それぞれ分光透過スペクトルを算出する。即ち、1個の錠剤Pの異なる箇所における分光透過スペクトルを測定結果とする。
【0065】
このような実施形態の錠剤分光測定装置又は錠剤分光測定方法によれば、経過時間と光の波長とが1対1に対応したパルス光を錠剤Pに照射して分光測定するので、1パルス1測定という非常に高速の分光測定が実現できる。その上、同一の波長であるとみなせる時刻の値を積分した上で測定結果とすれば、高SN比化も同時に達成される。
【0066】
上記錠剤分光測定装置、分光測定方法において、錠剤移動機構400は、1個の錠剤Pに対して複数回のパルス光が異なる箇所に照射されるようにする機構であるが、他の機構もあり得る。例えば、連続した移動ではなく、ステップ移動をする機構であっても良い。この場合、各回のパルス光の照射の際には錠剤Pは停止しており、パルス光の照射の合間に錠剤Pは所定距離移動する。このような機構の場合、同じ箇所でパルス光が複数回照射され、別の同じ箇所でさらに複数回照射されるようにすることも容易である。
尚、上記のようにパルス光を小さいビームBで照射する構成としては、出射端ユニット15が集光レンズを含んでいる構成の他、出射される光のビーム径が元々小さい場合があり、その場合には集光レンズが不要な場合もある。
【0067】
また、上記実施形態において、基準スペクトル強度の取得については、錠剤Pを経ない光を参照用受光器52で受光して得る構成としたが、分光透過スペクトルが既知である参照用試料を参照用光路上に配置し、参照用試料を透過した光を参照用受光器52で受光してその出力に基づいて基準スペクトル強度を得る構成であっても良い。この場合、参照用試料は、測定波長域においてフラットな透過特性を持つものであるとより好ましい。
【0068】
次に、第二の実施形態の錠剤分光測定装置について説明する。
図12は、第二の実施形態の錠剤分光測定装置の概略図である。
第二の錠剤分光測定装置は、パルス光照射系1の構成が第一の実施形態と異なっている。即ち、第二の実施形態では、パルス光照射系1は、パルス光源11と、パルス光源11からのパルス光をパルス伸長する伸長素子16とを備えている。伸長素子16は、パルス光源11内の非線形素子112から出射られる広帯域パルス光(SC光)をパルス伸長し、パルス内の経過時間と光の波長とが1対1で対応するようにする素子である。第一の実施形態ではアレイ導波路回折格子14とバンドルファイバ13とから対応化ユニットが構成されていたが、その代わりに伸長素子16が設けられている。波長900-1300nmにおいては通常のシングルモードのシリカファイバは正常分散特性を示すため、伸長素子16として好適に使用される。
【0069】
そして、伸長素子16と受け具4との間には、照射光学系17が設けられる。照射光学系17は、伸長素子16からの光を平行光にするコリメータレンズ171や、第一の実施形態と同様に小さなビームBとする集光レンズ172等を適宜含み得る。
この実施形態においても、受光器2からの出力をパルス間で積分する積分手段6,60が設けられている。この実施形態の場合、測定光は、伸長素子16によりパルス伸長された広帯域パルス光(広帯域伸長パルス光)であり、第一の実施形態と同様に複数回照射される。積分手段6,60は、各回の広帯域伸長パルス光の照射の際に受光器2,52から出力されたパルス出力について、同一の波長と見なされる時刻の値を積分する構成となる。即ち、トリガ信号発生部62から送られたトリガ信号の時刻t0を基準にし、同一の経過時間の値を同一の波長の値であるとして積分する処理を行う。積分手段6は、同様にFPGA61であり、このような処理が行われるよう予めプログラミングされる。
第二の実施形態においても、同様に、高速、高精度の錠剤分光測定が可能である等の効果が得られる。
【0070】
次に、錠剤検査装置の発明の実施形態について説明する。以下の説明は、錠剤検査方法の発明の実施形態の説明でもある。
図13は、実施形態に係る錠剤検査装置の概略図である。
上述した実施形態の錠剤分光測定装置は、錠剤Pの品質を検査するために分光測定する装置として構成され得るため、錠剤検査装置となり得る。錠剤Pの品質検査には、種々のものがあり得るが、例えば錠剤Pの良否の判断があり得る。以下の説明は、この例となっている。
【0071】
具体的には、実施形態の錠剤検査装置は、第一の実施形態の分光測定装置において、錠剤Pの良否を判断する判断手段を設けた構成となっている。但し、第二の実施形態の分光測定装置に対して判断手段を設けた構成であっても良い。
図13に示すように、判断手段は、演算手段に実装された良否判断プログラム35によって構成されている。良否判断プログラム35は、測定プログラム33の実行結果を引数にして実行されるプログラムである。この他、錠剤検査装置は、不良品であるとされた錠剤Pを製造ラインから除外して出荷されないようにする除外機構7を備えている。また、演算手段3には、除外機構7に対して除外信号を出力する除外信号出力プログラム36が実装されている。さらに、演算手段3には、良否判断を含めた検査全体のシーケンスを制御するため、シーケンス制御プログラム37が実装されている。
【0072】
図14は、良否判断プログラムの概略を示した図である。
図14に示すように、良否判断プログラム35は、スペクトル定量モジュール351と、判断モジュール352とを備えている。測定プログラム33は、前述したように、積分された出力データである分光透過スペクトルS
1を、同様に積分された出力データである基準スペクトル強度S
0と比較し、さらに逆数の対数を取って吸光度スペクトルS
2を算出する。そして、良否判断プログラム35は、算出された吸光度スペクトルS
2を引数にして実行される。良否判断プログラム35において、スペクトル定量モジュール351は、吸光度スペクトルS
2に基づき、基準値と対比できる量(以下、定量値という。)Qを求めるモジュールである。判断モジュール352は、算出された定量値Qを基準値と比較し、良否判断をしてその結果をプログラムの実行結果として出力するモジュールである。
【0073】
引数として渡された吸光度スペクトルS2は、錠剤Pが含有する各成分の吸光度スペクトルの合算である。それら全ての含有成分の量で錠剤Pの良否を判断することも可能であるが、あまりにも煩雑であるので、ある特定の成分の量で良否を判断する。ある特定の成分とは、錠剤Pの良否を判断できる成分であり、例えば錠剤Pが医薬品である場合にはその有効成分である。
【0074】
この実施形態では、近赤外域の吸光度スペクトルS2で良否を判断している。周知のように、近赤外域では、多くの材料の吸収バンドが重なっており、吸光度スペクトルの算出結果から直接的に目的成分の量を求めることは難しい。このため、スペクトル定量モジュール351は、ケモメトリクスの手法を採用する場合が多い。
【0075】
ケモメトリクスは多変量解析を用いた統計学的手法である。成分量の定量を行うには検量線を得る必要がある。検量線を得るには、まず目的成分の量が既知の多数のサンプル(錠剤P)についてスペクトル測定を行い重回帰分析を行うことで検量線を作成しておく。含有量が未知のサンプルの定量の際には、求めておいた回帰係数を使用して目的成分の量を予測し、予測値を定量値とする。回帰分析手法には、PCA(主成分分析)、PCR(主成分回帰分析)、PLSR(partial least square regression,PLS回帰)分析等の手法が知られている。PLSRその他のケモメトリクスについては、非特許文献2やその他の文献において解説されているので、さらなる説明は割愛する。
【0076】
図14に示すように、良否判断プログラム35は、スペクトル定量モジュール351の実行後、判断モジュール352を実行する。判断モジュール352は、スペクトル定量モジュール351で求められた定量値Qを基準値と比較し、良否を判断するモジュールである。判断モジュール352に対しては、基準値と、基準値からの乖離の許容度とが定数として与えられている。判断モジュール352は、これらに従って良否を判断し、その結果を良否判断プログラム35の実行結果として出力する。シーケンス制御プログラム37は、不良品であるとの実行結果が良否判断プログラム35から戻されると、除外信号出力プログラム36を実行し、除外信号を除外機構7に出力する。これにより、当該錠剤P’が製造ラインから除外される。
【0077】
尚、目的成分の量Qは、全体に対する比率(含有比)の場合もあるし、絶対値(含有量)の場合もある。絶対値を算出する場合、絶対値が算出できるように検量線が作成されているか、又は重量比の場合には錠剤Pの重量を別途測定して算出するようにする。
また、実際には、出力データDに対して平滑化、一次微分、二次微分のような前処理をし、その後、PLSRにより求めておいた回帰係数を適用して定量値Qが取得される。この際、目的成分の特徴を有する波数域を選択することもある。
【0078】
除外機構7としては、不良品であるとされた錠剤P’をエアで吸引して先端に吸着させるノズルを備えた機構が採用できる。ノズルは、廃棄ボックスまで錠剤P’を保持して移動させることができる構成とされる。この他、エアブローによって錠剤P’を飛ばして廃棄ボックスに投入する構成や、ロボットで取り上げて除外する構成が採用され得る。
【0079】
次に、このような実施形態の錠剤検査装置の全体の動作について説明する。以下の説明は、錠剤検査方法の実施形態の説明でもある。
製造された錠剤Pは、載置機構8により1個ずつ受け具4の上に載置される。錠剤Pが載置された各受け具4は、錠剤移動機構400により移動し、照射位置を通過する。この際、各錠剤Pにパルス光が複数回照射される。そして、錠剤Pを透過した複数回のパルス光は受光器2に達し、受光器2の出力を生じさせる。受光器2の出力は、ADコンバータ21でデジタルデータとなり、積分手段6としてのFPGA61で積分されて演算手段3に入力される。参照用受光器52の出力も、同様にデジタル化、積分がされて演算手段3に入力される。
【0080】
演算手段3では、測定プログラム33が吸光度スペクトルS2を算出し、これが渡された良否判断プログラム35が錠剤Pの良否を判断する。不良品であるとの実行結果が戻されると、シーケンス制御プログラム37は、除外信号出力プログラム36を実行し、不良品であると判断された錠剤P’を除外機構7が製造ラインから除外する。このようにして、各受け具4上の錠剤Pについて順次良否判断がされ、不良品であるとされた錠剤P’が除外される。
【0081】
上記実施形態の錠剤検査装置又は錠剤検査方法によれば、高速且つ高精度の分光測定装置、分光測定方法を利用して錠剤Pの検査が行われるので、生産性を損なうことなく製造ラインにおいてリアルタイムに高信頼性の検査を実現できる。このため、錠剤Pの全数検査を行うことも十分に可能となっている。
尚、錠剤の分光測定は、製造された錠剤に限られず、製造中の錠剤(半製品)についてされることもあり得る。基本的にコーティング前に成分検査を行うが、コーティング後でもコーティング成分とスペクトル的に分離可能な場合は検査できる可能性がある。
【0082】
上記実施形態において、錠剤Pの良否を判断するために特定成分について定量を行うことは必須ではない。例えば、錠剤Pの分光吸収特性において特徴点な波長があり、その値のみで良否が判断できる場合がある。この場合は、吸光度スペクトルからその波長の値を基準値と比較して良否を判断する。特定波長のみで良いので、スペクトル(ある波長範囲に亘る各波長での値)を得る必要もない。その波長での測定値を基準強度で除算してその結果を基準値と比較するだけで良否が判断できる。
【0083】
尚、グループ分けした積分をした上で測定プログラム33が各吸光度スペクトルを算出する構成の場合、製品検査の一環として、錠剤Pの特定成分の場所によるばらつきをチェックすることも可能である。この場合は、得られた各吸光度スペクトルについて目的成分をそれぞれ定量し、その定量値の差異が所定の範囲内であるかどうかでチェックすることができる。定量を行わず、吸光度スペクトル同士を比較することで品質のチェックを行う場合もあり得る。吸光度スペクトルに大きな違いがあると、錠剤Pが均質でないことを意味するからである。
【0084】
上記各実施形態において、パルス光源11としては、パルスレーザ源111を備えて非線形素子112によってSC光を出射するものの他、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、SLD(Superluminescent diode)光源などを採用しても良い。
【符号の説明】
【0085】
1 パルス光照射系
11 パルス光源
111 パルスレーザ源
112 非線形素子
13 バンドルファイバ
131 遅延ファイバ
14 アレイ導波路回折格子
15 出射端ユニット
16 伸長素子
17 照射光学系
2 受光器
21 ADコンバータ
3 演算処理ユニット
31 プロセッサ
32 記憶部
33 測定プログラム
34 測定条件設定プログラム
35 良否判断プログラム
351 スペクトル定量モジュール
352 判断モジュール
36 除外信号出力プログラム
37 シーケンス制御プログラム
4 受け具
400 錠剤移動機構
50 参照用光路
51 ビームスプリッタ
52 参照用受光器
53 ADコンバータ
54 FPGA
6 積分手段
60 積分手段
61 FPGA
62 トリガ信号発生部
621 ビームスプリッタ
622 トリガ信号受光器
7 除外機構
8 載置機構
P 錠剤
【手続補正書】
【提出日】2021-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
図8は、積分手段による積分について示した概略図である。
図8において、パルスレーザ源111によるパルスレーザの発振時刻
をt
0とする。
図8において、実線で示された各小さなパルス出力Pdは、錠剤Pに照射された各分割パルス光による出力である。一つの分割パルス光は、アレイ導波路回折格子14の一つのチャンネルから出射された光ではあるので、対応するパルス出力Pdはその部分で積分(時間積分)される。即ち、チャンネルC
1~チャンネルC
nの各パルス出力Pdは、そのパルス内で積分され、その値が測定値v
1~v
nとなる。
その上で、合成パルス光は複数回照射されるので、各測定値v
1~v
nを各合成パルス光間で積分する。つまり、次の合成パルス光の照射におけるv
1を前回のv
1に加算し、v
2を前回のv
2に加算し、・・・v
nを前回のv
nに加算する。これを最後の合成パルス照射における出力データまで繰り返す。