(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052390
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】電極触媒層、及び膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220328BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220328BHJP
【FI】
H01M4/86 M ZNM
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158762
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】浜田 直紀
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE16
5H018EE18
5H018HH05
5H018HH06
5H126EE03
(57)【要約】
【課題】起動停止の繰り返しによる劣化を抑制し、耐久性に優れた電極触媒層及び、その電極触媒層を用いた膜電極接合体を提供することを目的とする。
【解決手段】電極触媒層3は、固体高分子形燃料電池1に用いられる電極触媒層であって、触媒を担持した炭素粒子11、及び高分子電解質12を含むと共に、炭素繊維13及び有機電解質繊維14のうち少なくとも一方の繊維材料を含み、1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後の電極触媒層3の厚みが、起動停止試験前の電極触媒層3の厚みに対して70%以上となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒層であって、
触媒を担持した炭素粒子、及び高分子電解質を含むと共に、炭素繊維及び有機電解質繊維のうち少なくとも一方の繊維材料を含み、
1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後の前記電極触媒層の厚みが、前記起動停止試験前の前記電極触媒層の厚みに対して70%以上となる、
電極触媒層。
【請求項2】
前記電極触媒層の厚みが20μm以下である、
請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記炭素繊維として、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホーンのうち少なくとも一種を含有する、
請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
前記有機電解質繊維は、平均繊維径が2μm以下であり、平均繊維長が1μm以上200μm以下の範囲内である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項5】
前記炭素粒子の質量に対する前記繊維材料の質量の比は、0.3以上1.5以下の範囲内である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項6】
前記炭素粒子の質量に対する前記高分子電解質の質量比は、0.5以上1.0以下の範囲内である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項7】
前記請求項1から6のいずれか1項に記載の電極触媒層を用いる、
膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池の電極触媒層、及びその電極触媒層を用いた膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜をカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層で挟持する構造を持つ。そのような構造の固体高分子形燃料電池は、常温で作動し、起動時間が短いことから、自動車用電源、定置用電源などとして期待されている。
【0003】
特に固体高分子形燃料電池を自動車電源として用いる際においては、頻繁な起動停止(電位変化)による性能の低下が生じる事のない、耐久性が求められる。
【0004】
従来の電極触媒層は、例えば、触媒を担持した炭素粒子、高分子電解質からなる。しかし、従来の電極触媒層において使用される炭素粒子は、起動停止の繰り返しにより腐食が進行しやすく、電極触媒層に膜厚減少が生じて耐久性が低下するという問題がある。
上記課題に対し、特許文献1では、炭素粒子を熱処理する事で、電極触媒層の耐久性を向上させている。しかしながら、この方法によると、初期性能が低下するという問題が生じる。
【0005】
一方、特許文献2では、アノード触媒層をカソード触媒層より薄くすることで、起動停止に対する耐久性を向上させている。
この方法によると、電極触媒層の耐久性の向上はわずかにみられるものの、実際の用途での使用を想定した厳しい起動停止試験においては、まだ耐久性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-129023号公報
【特許文献2】特開2011-3552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような点に着目したものであり、起動停止の繰り返しによる劣化を抑制し、耐久性に優れた電極触媒層及び、その電極触媒層を用いた膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る電極触媒層は、固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒層であって、触媒を担持した炭素粒子、及び高分子電解質を含むと共に、炭素繊維及び有機電解質繊維のうち少なくとも一方の繊維材料を含み、1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後の前記電極触媒層の厚みが、前記起動停止試験前の前記電極触媒層の厚みに対して70%以上となる、電極触媒層であることを要旨とする。
また、本発明の一態様に係る膜電極接合体は、前記触媒層を用いた膜電極接合体であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、起動停止の繰り返しによる劣化を抑制し、耐久性に優れた電極触媒層及び膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池用の内部構造を示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、本実施形態は、以下に記載する実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づく設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本実施形態の範囲に含まれるものである。
また、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態について、完全な理解を提供するように、特定の細部について記載する。しかしながら、かかる特定の細部が無くとも、一つ以上の実施形態が実施可能であることは明確である。また、図面を簡潔なものとするために、周知の構造及び装置を、略図で示す場合がある。
【0012】
(固体高分子形燃料電池の構造)
図1を参照しつつ、本実施形態に係る膜電極接合体20を備えた固体高分子形燃料電池1の具体的な構成例を説明する。
図1は、膜電極接合体20を装着した固体高分子形燃料電池1の構成例を示す分解斜視図である。なお、
図1は、単セルの構成例であるが、固体高分子形燃料電池1は、この構成に限られず、複数の単セルを積層した構成であってもよい。
【0013】
図1に示すように、固体高分子形燃料電池1を構成する高分子電解質膜2には、その両面に、高分子電解質膜2を挟んで互いに向かい合う一対の電極触媒層3A、3Fが配置されている。電極触媒層3Aの高分子電解質膜2に対向する面とは反対側の面には、ガス拡散層4Aが配置されている。また、電極触媒層3Fの高分子電解質膜2に対向する面とは反対側の面には、ガス拡散層4Fが配置されている。ガス拡散層4A,4Fは、高分子電解質膜2及び一対の電極触媒層3A,3Fを挟んで互いに向かい合うように配置されている。膜電極接合体20は、高分子電解質膜2と、高分子電解質膜2のそれぞれの面に接合された電極触媒層3A,3Fとで構成される。詳しくは後述するが、本実施形態に係る電極触媒層3A,3Fは、触媒を担持した炭素粒子(触媒担持炭素粒子)、及び高分子電解質を含むと共に、炭素繊維及び有機電解質繊維の少なくとも一方の繊維材料を含んでいる。
【0014】
固体高分子形燃料電池1には、ガス拡散層4Aの電極触媒層3Aに対向する面とは反対側の面に、この面に対向する主面に反応ガス流通用のガス流路6Aを備え、ガス流路6Aを備える主面に相対する主面に冷却水流通用の冷却水通路7Aを備えたセパレーター5Aが配置されている。更に、固体高分子形燃料電池1には、ガス拡散層4Fの電極触媒層3Fに対向する面とは反対側の面に、この面に対向する主面に反応ガス流通用のガス流路6Fを備え、ガス流路6Fを備える主面に相対する主面に冷却水流通用の冷却水通路7Fを備えたセパレーター5Fが配置されている。以下、区別する必要がない場合には、電極触媒層3A及び電極触媒層3Fを単に「電極触媒層3」と記載する場合がある。本実施形態において高分子電解質膜の両面それぞれに設けられた電極触媒層3のうち一方(例えば電極触媒層3A)がアノード電極触媒層であり、他方(例えば電極触媒層3F)がカソード電極触媒層である。
【0015】
図2は、本実施形態に係る膜電極接合体及び電極触媒層の構成例を示す模式的断面図である。
図2に示すように、本実施形態に係る電極触媒層3は、高分子電解質膜2の両表面それぞれに接合されている。電極触媒層3は、触媒10、導電性担体としての炭素粒子11、高分子電解質12及び炭素繊維13、有機電解質繊維14から構成されている。そして、触媒10、炭素粒子11、高分子電解質12及び炭素繊維13、有機電解質繊維14のいずれの構成要素も存在しない部分が、空孔となっている。
【0016】
(触媒インクの製造)
次に、本実施形態に係る電極触媒層形成用の触媒インクの製造方法について説明する。電極触媒層形成用の触媒インクは、固体高分子形燃料電池1の電極触媒層3(固体高分子形燃料電池用電極触媒層)を形成するために用いられる。
まず、触媒10を担持した触媒担持炭素粒子を構成する炭素粒子11、及び、高分子電解質12を分散媒中(溶媒中)に混合・分散させ、触媒粒子スラリーを得る。
【0017】
触媒10としては、例えば、金属及びこれらの金属の合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることができる。金属としては、白金族元素(白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム)、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等が例示できる。
炭素粒子11としては、導電性を有し、触媒に侵されずに触媒を担持可能なものであれば、どのようなものでも構わないが、一般的にカーボン粒子が使用される。
【0018】
分散媒(溶媒)としては、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール等のアルコール類のうちから、いずれか一種を選択して用いることが可能である。また、分散媒として、上述した分散媒のうち二種以上が混合された分散媒を用いることも可能である。混合・分散には、例えば、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等を使用することができる。
【0019】
高分子電解質膜2や高分子電解質12の材料としては、プロトン伝導性を有するものであれば、どのようなものでもよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質、例えば、デュポン社製の「Nafion(登録商標)」を用いることができる。高分子電解質12は、高分子電解質が凝集した状態となっている。
【0020】
次に、上記方法で製造した触媒粒子スラリーに、炭素繊維13及び有機電解質繊維14のうち少なくとも一方の繊維材料を加え、混合・分散させ、触媒インクを得る。混合・分散には、例えば、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等を使用することができる。
【0021】
炭素繊維13としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、等が例示できる。本実施形態では、炭素繊維13として、これら三種の繊維材料のうちから選択した一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
高分子電解質12と、有機電解質繊維14を構成する高分子電解質とは、同一材料であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、高分子電解質12及び有機電解質繊維14の各々を構成する高分子電解質と、高分子電解質膜2を構成する高分子電解質とは、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0023】
(膜電極接合体の製造)
高分子電解質膜2の両面それぞれに、上記触媒インクで形成された電極触媒層3を接合することで、膜電極接合体20の製造を行う。
高分子電解質膜2に電極触媒層3を接合する方法としては、例えば、転写基材に触媒インクを塗布した電極触媒層付き転写基材を用い、電極触媒層付き転写基材の電極触媒層の表面と高分子電解質膜とを接触させて加熱・加圧することで、高分子電解質膜2と電極触媒層3の接合を行う方法がある。また、高分子電解質膜2の表面に触媒インクを直接塗布した後に、触媒インクの塗膜から溶媒成分(分散媒)を除去する方法によっても、膜電極接合体20を製造することができる。
【0024】
触媒担持炭素粒子は起動停止(電位変化)の繰り返しにより、腐食の進行が進みやすい。このため、繊維材料を含まない電極触媒層においては、例えば1Vから1.5Vの起動停止試験(電位サイクル試験)を1万サイクル行うと、触媒担持炭素粒子の腐食が進行し、起動停止試験後の電極触媒層の厚みが、起動停止試験前の電極触媒層の厚みに対して大きく減少する。例えば、起動停止試験後における電極触媒層の厚みが、起動停止試験前の電極触媒層の厚みに対して70%未満となると、触媒の電気化学的有効比表面積(ECSA)が大幅に低下し、発電性能が大きく低下する結果となる。
【0025】
これに対し、上述の方法により製造された電極触媒層3は、触媒担持炭素粒子(炭素粒子11)、高分子電解質12、繊維材料(炭素繊維13、有機電解質繊維14)から構成される。繊維材料は、起動停止の繰り返しによる劣化が生じにくい。より詳細には、本実施形態に係る電極触媒層3は、繊維材料が含まれことにより、起動停止を繰り返しても電極材料の腐食による膜厚の低下が生じにくくなる。このため、触媒担持炭素粒子が起動停止の繰り返しにより腐食し、白金が溶出した際においても、腐食を生じていない繊維材料に溶出した白金が付着することで、発電性能の低下が抑制される。
【0026】
例えば1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後においても、本実施形態に係る電極触媒層3では厚みの減少が抑制される。具体的には、本実施形態に係る電極触媒層3は、上記起動停止試験を1万サイクル行った後の厚みが、起動停止試験前の厚みに対して70%以上となる。これにより、電極触媒層3は、起動停止の繰り返しによる劣化を抑制して、優れた耐久性を持つことが可能となる。
【0027】
本実施形態において、電極触媒層3の厚みは、20μm以下が好ましい。厚みが20μmよりも厚い場合にはひび割れが生じ得る。さらに、燃料電池に用いた際にガスや生成する水の拡散性及び導電性が低下して、出力が低下する場合がある。
【0028】
本実施形態において、炭素繊維13としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホーンのうち少なくとも一種を含有することが好ましい。これらの繊維材料は、腐食に強く、また導電性が高いため、発電性能の低下をより確実に抑制する事が出来る。本実施形態では、炭素繊維13としてこれらの三種のうち一種のみを単独で使用してもよいし、あるいは、二種以上を併用してもよい。
【0029】
また、本実施形態に係る電極触媒層3において繊維材料として有機電解質繊維14を用いる場合、有機電解質繊維14の平均繊維径は、2μm以下が好ましい。平均繊維径が2μm以下であれば、電極触媒層3に含有させる繊維材料として適当な細さが確保される。
【0030】
また、固体高分子形燃料電池1の出力向上のためには、電極触媒層3に供給されるガスが、電極触媒層3の有する空孔を通じて電極触媒層3中に適切に拡散されること、及び、特に空気極では電極反応により生成される水が空孔を通じて適切に排出されることが望ましい。また、空孔の存在により、ガスと触媒担持炭素粒子(炭素粒子11)と高分子電解質12とが接する界面が形成されやすくなり、電極反応が促進されるため、これによっても固体高分子形燃料電池1の出力の向上が可能である。
【0031】
以上の観点から、電極触媒層3は、的確な大きさ及び量の空孔を有していることが好ましい。また、有機電解質繊維14の平均繊維径が2μm以下であれば、電極触媒層3において有機電解質繊維14が絡まり合う構造のなかに十分な間隙が形成されて十分に空孔が確保されるため、固体高分子形燃料電池1の出力の向上が可能である。
【0032】
有機電解質繊維14の平均繊維長は、平均繊維径よりも大きく、1μm以上200μm以下の範囲内であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層3中において有機電解質繊維14が凝集することが抑えられ、空孔が形成されやすい。
【0033】
また、炭素粒子11の質量に対する繊維材料(炭素繊維13、有機電解質繊維14)の質量の比が少なすぎると、起動停止の繰り返しに対する耐久性が保てない場合がある。一方、炭素粒子11の質量に対する繊維材料の質量の比が過剰であると、出力が低下し得る。このため、炭素粒子11の質量に対する繊維材料の質量の比は、0.3以上、1.5以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
また、炭素粒子11の質量に対する高分子電解質12の質量比が少なすぎると、プロトン伝導が適切に行われず抵抗が増加し、出力が低下し得る。一方、炭素粒子11の質量に対する高分子電解質12の質量比が過剰であると、発電の際に生成する水を保水しやすくなり、この水により電極触媒層3の腐食が促進されるため、起動停止の繰り返しに対する耐久性が低下し得る。
このため、炭素粒子11の質量に対する、高分子電解質12の質量比は、0.5以上、1.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0035】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る電極触媒層3は、固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒層であって、触媒を担持した炭素粒子、及び高分子電解質を含むと共に、炭素繊維及び有機電解質繊維のうち少なくとも一方の繊維材料を含み、1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後の前記電極触媒層の厚みが、前記起動停止試験前の前記電極触媒層の厚みに対して70%以上となる。
このような構成によれば、触媒担持炭素粒子が起動停止の繰り返しにより腐食し、白金が溶出した際においても、腐食を生じていない繊維材料に溶出した白金が付着することで、発電性能の低下が抑制される。この結果、本実施形態に係る電極触媒層によれば、起動停止の繰り返しによる劣化を抑制し、優れた耐久性を持つ電極触媒層の提供が可能となる。
【0036】
また、本実施形態に係る膜電極接合体20には、本実施形態に係る電極触媒層3を用いる。
このような構成によれば、起動停止の繰り返しによる劣化を抑制し、優れた耐久性を持つ膜電極接合体の提供が可能となる。
【0037】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1を説明する。
(触媒インクの製造)
白金を50wt%担持した触媒担持炭素粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属社製)及び、高分子電解質の分散液(商品名:Nafion分散液、和光純薬工業社製)に、水を加え、プラネタリーミキサーで混合し、触媒粒子スラリーを作製した。
上記触媒粒子スラリーに、炭素繊維(商品名:VGCF-H、昭和電工製)と1-プロパノールを加え、ビーズミル分散機により分散を行い、触媒インクを得た。
この時、炭素粒子の質量に対する繊維材料(ここでは、炭素繊維)の質量の比を、カソード電極触媒層用の触媒インク、アノード電極触媒層用の触媒インクともに0.5とした。
また、炭素粒子の質量に対する高分子電解質の質量比は、カソード電極触媒層用の触媒インク、アノード電極触媒層用の触媒インク、ともに0.8とした。
【0039】
(膜電極接合体の製造)
次いで、上記の触媒インクをダイコーティング法により、高分子電解質膜の両面に直接塗布することで、高分子電解質膜の両面に、それぞれカソード電極触媒層、アノード電極触媒層を有する膜電極接合体を得た。この時、電極触媒層の厚みは、カソード電極触媒層で15μm、アノード電極触媒層で10μmとなるよう塗布した。
【0040】
(実施例1の評価)
実施例1の膜電極接合体を用い、1Vから1.5Vの起動停止(電位サイクル)試験を1万サイクル行った。この起動停止試験として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載の起動停止試験を行った。当該起動停止試験後、SEM(Scanning Electron Microscope)により、実施例1の各電極触媒層の膜厚を計測した。
この結果、起動停止試験の実施後における実施例1の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて90%の厚みを保持しており、実施例1の膜電極接合体は、起動停止試験後においても良好な発電性能を示した。
【0041】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2を説明する。
触媒インク中に繊維材料として、炭素繊維ではなく、高分子電解質繊維を加えた。それ以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例2の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
高分子電解質繊維は、高分子電解質の分散液(Nafion分散液:和光純薬工業社製)を、エレクトロスピニング法を用いて繊維状にした後、冷却粉砕することによって作製した。高分子電解質繊維の平均繊維径は150nmであり、平均繊維長は10μmであった。
実施例2の膜電極接合体を用い、実施例1と同様に1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後、SEMにより、実施例2の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)の膜厚を計測した。この結果、起動停止試験の実施後における実施例2の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて85%の厚みを保持しており、実施例2の膜電極接合体は、起動停止試験後においても良好な発電性能を示した。
(実施例3)
次に、本発明の実施例3を説明する。
炭素粒子の質量に対する炭素繊維の質量の比を、カソード電極触媒層用の触媒インクで0.3、アノード電極触媒層用の触媒インクで1.0とした。それ以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例3の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
実施例3の膜電極接合体を用い、実施例1と同様に1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後、SEMにより、実施例3の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)の膜厚を計測した。この結果、起動停止試験の実施後における実施例3の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて85%の厚みを保持しており、実施例3の膜電極接合体は、起動停止試験後においても良好な発電性能を示した。
(実施例4)
次に、本発明の実施例4を説明する。
炭素粒子の質量に対する、高分子電解質の質量の比を、カソード電極触媒層用の触媒インクで0.6、アノード電極触媒層用の触媒インクで1.0とした。それ以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例4の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
実施例4の膜電極接合体を用い、実施例1と同様に1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後、SEMにより、実施例4の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)の膜厚を計測した。この結果、起動停止試験の実施後における実施例4の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて80%の厚みを保持しており、実施例4の膜電極接合体は、起動停止試験後においても良好な発電性能を示した。
【0042】
(比較例1)
触媒インク中に繊維材料(炭素繊維、高分子電解質繊維)を添加しなかった。それ以外は、上記実施例1と同様の工程によって、比較例1の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
比較例1の膜電極接合体を用い、実施例1と同様に1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後、SEMにより、比較例1の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)の膜厚を計測した。この結果、起動停止試験の実施後における比較例1の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて、30%の厚みに減少しており、比較例1の膜電極接合体は、起動停止試験後においては、良好な発電性能が得られなかった。
(比較例2)
電極触媒層の厚みを、カソード電極触媒層で25μm、アノード電極触媒層で10μmとなるように、触媒インクを高分子電解質膜に塗布した。それ以外は、上記実施例1と同様の工程によって、比較例2の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
比較例2の膜電極接合体では、初期の発電性能が大きく低下する結果となった。
(比較例3)
炭素粒子の質量に対する炭素繊維の質量の比を、カソード電極触媒層用の触媒インクで0.1、アノード電極触媒層用の触媒インクで0.2とした。それ以外は、上記実施例1と同様の工程によって、比較例3の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
比較例3の膜電極接合体を用い、実施例1と同様に1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後、SEMにより、比較例3の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)の膜厚を計測した。この結果、起動停止試験の実施後における比較例3の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて、60%の厚みに減少しており、比較例3の膜電極接合体は、起動停止試験後においては、良好な発電性能が得られなかった。
(比較例4)
炭素粒子の質量に対する高分子電解質の質量の比を、カソード電極触媒層用の触媒インクで1.2、アノード電極触媒層用の触媒インクで1.0とした。それ以外は、上記実施例1と同様の工程によって、比較例4の電極触媒層、及び膜電極接合体を得た。
比較例4の膜電極接合体を用い、実施例1と同様に1Vから1.5Vの起動停止試験を1万サイクル行った後、SEMにより、比較例4の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)の膜厚を計測した。この結果、起動停止試験の実施後における比較例4の各電極触媒層は、起動停止試験前の膜厚に比べて、65%の厚さに減少しており、比較例4の膜電極接合体は、起動停止試験後においては、良好な発電性能が得られなかった。
【0043】
実施例1~4及び比較例1~4について、触媒インクの組成及び評価結果を表1に示す。なお、表1中の「起動停止試験前後の膜厚比(%)」は、起動停止試験前の各電極触媒層の膜厚に対する、起動停止試験後の各電極触媒層の膜厚の比を示している。また、表1中において、触媒インクに繊維材料が含まれないこと、及び起動停止試験後に電極触媒層の膜厚を計測していないことを「-」で表す。
【0044】
【0045】
表1に示すように、実施例1~4の各電極触媒層(カソード電極触媒層、アノード電極触媒層)は、起動停止試験の実施後の膜厚が、起動停止試験前の膜厚に対して70%以上となった。つまり、各実施例の電極触媒層、及び膜電極接合体は、起動停止の繰り返しによる劣化を抑制し、耐久性に優れていることがわかった。
【0046】
なお、本発明の電極触媒層、及び膜電極接合体は、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 固体高分子形燃料電池
2 高分子電解質膜
3、3A、3F 電極触媒層
10 触媒
11 炭素粒子
12 高分子電解質
13 炭素繊維
14 有機電解質繊維
20 膜電極接合体