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特開2022-52479回転電機用ロータ製造方法、回転電機用ロータシャフト及びロータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052479
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】回転電機用ロータ製造方法、回転電機用ロータシャフト及びロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/14 20060101AFI20220328BHJP
   H02K 1/28 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
H02K15/14 A
H02K1/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158899
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安立 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】河島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
(72)【発明者】
【氏名】三好 功記
(72)【発明者】
【氏名】牧尾 信平
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 真梨子
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601CC01
5H601CC11
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601EE17
5H601GA02
5H601JJ05
5H601KK01
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP24
5H615SS03
5H615SS19
(57)【要約】
【課題】ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を確保する。
【解決手段】ロータコアに固定される固定用部位を有するロータシャフトであって、固定用部位の軸方向の範囲(SC1)のうちの端部の剛性が、軸方向の範囲内の他の部位よりも低い中空状のロータシャフト(34、34A、34B)を準備する工程と、ロータシャフトを円筒状のロータコア(32)の径方向内側にセットする工程と、ハイドロフォーミングにより軸方向の範囲でロータコアにロータシャフトを固定する工程とを含む、回転電機用ロータ製造方法が開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアに固定される固定用部位を有するロータシャフトであって、前記固定用部位の軸方向の範囲のうちの、端部の剛性が、前記軸方向の範囲内の他の部位よりも低い中空状のロータシャフトを準備する工程と、
前記ロータシャフトを円筒状の前記ロータコアの径方向内側にセットする工程と、
ハイドロフォーミングにより前記軸方向の範囲で前記ロータコアに前記ロータシャフトを固定する工程とを含む、回転電機用ロータ製造方法。
【請求項2】
前記ロータシャフトは、更に、前記端部に軸方向外側から隣接する部位の剛性が、前記他の部位の剛性よりも低い、請求項1に記載の回転電機用ロータ製造方法。
【請求項3】
前記ロータシャフトは、前記端部又は前記端部に軸方向外側から隣接する部位において、外周面又は内周面に凹部を含む、請求項1又は2に記載の回転電機用ロータ製造方法。
【請求項4】
前記ロータシャフトは、前記他の部位において、内周面から径方向内側に突出する凸部を有する、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ロータ製造方法。
【請求項5】
前記ロータシャフトは、相対的に外径の小さい小径部と、相対的に外径の大きい大径部とを有し、
前記大径部に、前記軸方向の範囲が設定される、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ロータ製造方法。
【請求項6】
前記他の部位は、前記軸方向の範囲のうちの軸方向の中心を含む中央部である、請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ロータ製造方法。
【請求項7】
円筒状のロータコアの径方向内側にハイドロフォーミングにより固定される中空状のロータシャフトであって、
前記ロータコアに固定される軸方向の範囲のうちの、端部の剛性が、前記軸方向の範囲内の他の部位よりも低い、回転電機用ロータシャフト。
【請求項8】
円筒状のロータコアの径方向内側に中空状のロータシャフトをハイドロフォーミングにより固定してなるロータであって、
前記ロータシャフトは、前記ロータコアに固定される軸方向の範囲のうちの、端部の剛性が、前記軸方向の範囲内の他の部位よりも低い、回転電機用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ロータ製造方法、回転電機用ロータシャフト、及び回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄管部材に凸部をハイドロフォーミングで成形する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-184573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を確保するためには、圧入や焼き嵌めが利用されており、ハイドロフォーミングを利用する技術は知られていない。
【0005】
本開示は、ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ロータコアに固定される固定用部位を有するロータシャフトであって、前記固定用部位の軸方向の範囲のうちの、端部の剛性が、前記軸方向の範囲内の他の部位よりも低い中空状のロータシャフトを準備する工程と、
前記ロータシャフトを円筒状の前記ロータコアの径方向内側にセットする工程と、
ハイドロフォーミングにより前記軸方向の範囲で前記ロータコアに前記ロータシャフトを固定する工程とを含む、回転電機用ロータ製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ロータ30の製造方法の流れを示す概略フローチャートである。
図3A図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その1)である。
図3B図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その2)である。
図3C図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その3)である。
図3D図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その4)である。
図3E図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その5)である。
図3F図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その6)である。
図4】比較例の説明図である。
図5】実施例2によるロータを説明する概略的な断面図である。
図6】実施例2に対する変形例によるロータを説明する概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
[実施例1]
図1は、実施例1によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸Iが図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)Iが延在する方向を指し、径方向とは、回転軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸Iに向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなり、ステータ21の内周部には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸Iを画成する。
【0015】
ロータシャフト34は、車輪に動力を伝達する動力伝達機構60に連結される。すなわち、ロータシャフト34には、モータ1の回転トルクを車軸(図示せず)に伝達するための動力伝達機構60が接続される。図1には、当該動力伝達機構60の一部を形成する軸部材61が図示されている。なお、動力伝達機構60は、減速機構や、差動歯車機構、クラッチ、変速機等を含んでよい。図1に示す例では、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向外側にスプライン結合される。この場合、ロータシャフト34の端部の径方向外側の周面には、スプライン結合部(複数の軸方向の凸条からなる歯車部)を形成する動力伝達部345を有することになる。なお、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側にスプライン結合されてもよい。
【0016】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなる。ロータコア32の内部には、永久磁石321が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石321は、ロータコア32の外周面に埋め込まれてもよい。なお、永久磁石321が設けられる場合、永久磁石321の配列等は任意である。
【0017】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0018】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部343を有する。中空部343は、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。
【0019】
ロータシャフト34は、図1に示すように、軸方向で、ロータコア32が設けられる区間SC1(ロータコアに固定される軸方向の範囲の一例)の部位と、ベアリング14a、14bが設けられる区間SC2の部位と、後述する第1噴出孔341及び第2噴出孔342が設けられる区間SC3の部位とを含む。区間SC2は、軸方向の両端部にそれぞれ延在し、区間SC3は、軸方向で区間SC1と区間SC2との間に延在する。従って、区間SC3における区間SC1側の境界は、ロータコア32の軸方向の端面位置に対応する。ロータシャフト34は、区間SC1及び区間SC3の部位が大径部を形成し、区間SC2の部位が小径部を形成する。
【0020】
本実施例では、一例として、ロータシャフト34は、区間SC2において、外周面が径方向内側に凹む形態である。ベアリング14a、14bは、ロータシャフト34の外周面の凹部344に設けられる。なお、凹部344は、図1に示すように、軸方向でロータシャフト34の両端部に位置する。
【0021】
ロータシャフト34は、径方向内側に凸となる凸部の形態の厚肉部347を周方向に沿って有する。厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の略中心位置(区間SC1における軸方向の略中心位置)に形成される。ただし、変形例では、厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の中心位置に対して軸方向でわずかにオフセットされてもよい。例えば、区間SC1を軸方向に6等分したとき、端部は、両側のそれぞれ1/6の部位に対応し、その他の2/3の部位のいずれかに、厚肉部347が設けられてもよい。厚肉部347は、例えば鋳造やフローフォーミング、摩擦圧接等により形成されてもよい。フローフォーミングによる厚肉部347の形成方法は、後述する。なお、摩擦圧接の場合、ロータシャフト34は、当該中心位置で軸方向に分割される2ピースにより形成されてもよい。
【0022】
このように本実施例では、ロータシャフト34は、厚肉部347を備えることで、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。ここで、厚肉の円筒状部材に係る剛性とは、内圧負荷時(図3Eの矢印R30参照)における円筒状部材の変形の容易性に関連し、剛性が高いほど、変形し難い関係となる。例えば、同一の内圧が発生した状態で径方向の変位(又は応力)が大きいほど剛性が低い。
【0023】
ロータシャフト34は、第1噴出孔341を有する。第1噴出孔341は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第1噴出孔341は、中空部343に開口する開口341aと、コイル22のコイルエンド22Aに対向する開口341bとを有し、開口341a及び開口341b間に延在する。第1噴出孔341の開口341bは、コイル22のコイルエンド22Aに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第1噴出孔341は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0024】
ロータシャフト34は、更に、第1噴出孔341とは異なる軸方向の位置に、第2噴出孔342を有する。第2噴出孔342は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第2噴出孔342は、中空部343に開口する開口342aと、コイル22のコイルエンド22Bに対向する開口342bとを有し、開口342a及び開口342b間に延在する。第2噴出孔342の開口342bは、コイル22のコイルエンド22Bに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第2噴出孔342は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0025】
ロータシャフト34内は、油供給源90に接続される。油供給源90は、ポンプ94を含んでよい。この場合、ポンプ94の種類や駆動態様は任意である。例えば、ポンプ94は、モータ1の回転トルクにより動作するギアポンプであってもよい。ロータシャフト34内には、ロータシャフト34の一端(図の右側の端部)側から油が供給される。なお、ポンプ94は、モータハウジング10内に配置されてもよい。
【0026】
図1では、一例として、油供給源90は、管路部材92と、管路部材92の一端(図の右側の端部)側に接続されるポンプ94とを含む。
【0027】
管路部材92は、中空に形成され、内部が油路801を画成する。すなわち、管路部材92は、油路801として機能する中空部92Aを有する。中空部92Aは、管路部材92の軸方向の全長にわたり延在する。ただし、中空部92Aは、一端側(図の左側の端部であって、ポンプ94側とは逆側の端部)は開口しない。すなわち、管路部材92は、一端(図の左側の端部)が閉塞される。
【0028】
管路部材92は、ロータシャフト34の内周面340に対して径方向で隙間を有する態様でロータシャフト34内に延在する。具体的には、管路部材92は、外径r4を有する。外径r4は、ロータシャフト34の内周面340の、区間SC1、SC3での内径r1、r3よりも有意に小さい(なお、図1では、区間SC1、SC3での内径r1、r3は同じである)。外径r4は、例えばロータシャフト34の内周面340の、区間SC2での内径r2と略等しい。
【0029】
なお、管路部材92は、ロータシャフト34と一体に回転する態様でロータシャフト34に固定されてもよいし、ロータシャフト34に対して回転が可能な態様でモータハウジング10に固定されてもよい。
【0030】
管路部材92は、内部から外部へと径方向に貫通する吐出孔93を備える。吐出孔93は、ロータコア32の軸方向の略中心位置に対応する軸方向の位置と、その両側とに設けられる。なお、吐出孔93の軸方向の位置や数等は任意である。
【0031】
次に、図1に示す矢印R1~R6を参照して、油供給源90からの油の流れについて概説する。図1には、油の流れが矢印R1~R6で模式的に示されている。
【0032】
油供給源90から供給される油は、管路部材92の中空部92Aを通って軸方向に流れ(矢印R1参照)、吐出孔93から径方向外側へと吐出される(矢印R2参照)。吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ロータシャフト34の内周面340に当たり、ロータシャフト34の内周面340を伝って第1噴出孔341及び第2噴出孔342へと軸方向に流れる(矢印R3、R4参照)。なお、この場合、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れる油は、区間SC1においてロータコア32の径方向内側から熱を奪うことができ、ロータコア32を効率的に冷却できる。
【0033】
ここで、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと略均等に分配される。これにより、コイルエンド22A、22Bへと分配して導かれる油の均等化を図ることができる。この結果、ロータコア32を径方向内側から、軸方向に沿って均一に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bをそれぞれ同様に冷却できる。ただし、変形例では、吐出孔93の軸方向の位置と厚肉部347の軸方向の位置とにズレを設けること等によって、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと流れる油の流量の間に、差(すなわち分配量に関する差)を積極的に設定することも可能である。
【0034】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ある程度の厚みを有しつつ、ロータシャフト34の内周面340を伝うことができる。すなわち、厚肉部347が堰部として機能し、ロータシャフト34の内周面340における油の溜まりが促進される。
【0035】
ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出される(矢印R5参照)。第1噴出孔341の開口341bは、上述のようにコイルエンド22Aに径方向で対向する。従って、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Aに当たり、コイルエンド22Aを効率的に冷却できる。
【0036】
また、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出される(矢印R6参照)。第2噴出孔342の開口342bは、上述のようにコイルエンド22Bに径方向で対向する。従って、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Bに当たり、コイルエンド22Bを効率的に冷却できる。
【0037】
このように、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340を伝う油の流れを促進することが可能となる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝う油によりロータコア32を径方向内側から効率的に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bを効率的に冷却できる。
【0038】
特に、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340は、区間SC1での内径r1が、区間SC2での内径r2よりも有意に大きい。すなわち、ロータシャフト34の内周面340は、ロータコア32が設けられる区間SC1において拡径されている。これにより、ロータシャフト34の軽量化が図られるとともに、ロータシャフト34の内周面340と永久磁石321との間の径方向の距離を短くでき(内径r1≒内径r2の場合に比べて短くでき)、磁石冷却性能を効果的に高めることができる。
【0039】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、中空部343を有するロータシャフト34を備える限り、任意である。従って、例えば、管路部材92は省略されてもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、ロータコア32に油路が形成されてもよいし、モータハウジング10内の油路により径方向外側からコイルエンド22A、22Bに向けて油が滴下されてもよい。また、図1では、油供給源90は、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側に設けられるが、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側とは逆側に設けられてもよい。
【0040】
次に、図2及び図3A図3Fを参照して、上述した実施例のモータ1におけるロータ30の製造方法の例について説明する。
【0041】
図2は、ロータ30の製造方法の流れを示す概略フローチャートであり、図3A図3Fは、図2に示す工程におけるロータシャフト形成部材700の状態を概略的に示す断面図である。
【0042】
まず、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト形成部材700を準備する準備工程(ステップS500)を含む。ロータシャフト形成部材700は、上述したロータシャフト34を形成するための部材である。準備工程で準備されるロータシャフト形成部材700は、図3Aに示すように、中空部701を有し、かつ、径方向外側に取代部(余肉部)702を有する。図3A等では、取代部702とそれ以外の部分(非取代部)との間の境界が、点線703で模式的に示される。
【0043】
また、ロータシャフト形成部材700は、区間SC1に対応する部分の内径r1’が、製品状態の内径r1(図1参照)よりも小さい。
【0044】
ついで、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト形成部材700の内周面に、内径が局所的に小さくなる厚肉部347を形成する凸部形成工程(ステップS502)を含む。厚肉部347は、上述のとおりである。この結果、中空部701は、厚肉部347を有するロータシャフト34の中空部343(図1参照)となる。
【0045】
厚肉部347は、ロータシャフト形成部材700の内周面の切削加工により形成されてもよいが、好ましくは、ロータシャフト形成部材700を径方向内側に押圧することで形成される。具体的には、図3Bに模式的に示すように、ロータシャフト形成部材700を回転軸Iまわりに回転させながら、ロータシャフト形成部材700の外周面に径方向で当接するローラ600により径方向内側に押圧することで(図3Bの押圧力F参照)、厚肉部347が形成されてもよい。このような加工は、フローフォーミング加工又はスピニング加工として知られており、かかる加工方法が利用されてよい。
【0046】
ここで、厚肉部347が形成されると、図3Bに模式的に示すように、ロータシャフト形成部材700の外周面には、凹部341Dが形成されることになる。凹部341Dは、取代部702内で収まる態様で形成される。換言すると、取代部702は、厚肉部347に起因して形成される凹部341Dが、取代部702内で収まるように設定される。
【0047】
ついで、ロータ30の製造方法は、取代部702を除去することで、ロータシャフト形成部材700の外周面をロータシャフト34の外周面へと仕上げる除去工程(ステップS504)を含む。すなわち、図3Bに示す点線703で境界付けられる取代部702を除去する。なお、この場合、点線703は、ロータシャフト34の外周面に対応する。取代部702の除去は、切削等により容易に実現できる。この結果、図3Cに示すようなロータシャフト34が出来上がる。
【0048】
ついで、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト34にロータコア32の径方向内側にセットする工程(ステップS505)を含む。なお、この際、図3Dに模式的に示すように、ロータシャフト34の外径r11は、ロータコア32の内径(軸心の孔の径)r12よりもわずかに小さい。これにより、ロータコア32の径方向内側にロータシャフト34を容易にセットできる。ただし、変形例では、ロータシャフト34の外径r11は、ロータコア32の内径(軸心の孔の径)r12と略同じであってもよい。
【0049】
ついで、ロータ30の製造方法は、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34にロータコア32を固定する固定工程(ステップS506)を含む。例えば、図3Eに模式的に示すように、ロータシャフト34が治具800に押さえられた状態で、中空部343内に流体が導入され、流体を加圧することで、ロータシャフト34の内周面340に対して径方向外側に力(内圧)を付与する(図3Eの矢印R30参照)。これにより、ロータシャフト34が拡径し、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代が確保される(図3F参照)。すなわち、ロータシャフト34の内径r1’が内径r1へと拡大されるのに伴い、その分だけ外径r11が増加し、締め代が確保される。このようなハイドロフォーミングによれば、圧入のような嵌合方法で生じうる不都合(例えば圧入の際のロータコア32の倒れ等)を防止できる。
【0050】
ついで、ロータ30の製造方法は、第1噴出孔341及び第2噴出孔342に対応する孔を形成する噴出孔形成工程(ステップS508)を含む。なお、噴出孔形成工程(ステップS508)が終了すると、ロータシャフト形成部材700からロータシャフト34が出来上がる。
【0051】
ついで、ロータ30の製造方法は、その他の仕上げ工程(ステップS510)を含む。その他の仕上げ工程は、回転バランスを調整する工程等を含んでよい。
【0052】
このようにして、図2及び図3A図3Fを参照して説明したロータ30の製造方法によれば、取代部702を利用することで、中空部701に厚肉部347を形成しつつ、厚肉部347に起因した凹部341Dが除去された外周面を有するロータシャフト34を製造できる。すなわち、中空部701に厚肉部347を有するロータシャフト34を比較的容易に製造できる。
【0053】
なお、図2及び図3A図3Fを参照して説明したロータ30の製造方法では、凹部344に対応する凹部341Eを備えるロータシャフト形成部材700が、準備工程で準備されるが、これに限られない。例えば、準備工程で準備されるロータシャフト形成部材700は、凹部341Eを有していない中空の部材(軸方向に沿って一定断面の部材)であってもよい。この場合、凹部341Eは、凸部形成工程(ステップS502)において、厚肉部347と同様の態様で、ローラ600により形成されてもよい。この場合、凹部341Eと厚肉部347とを同じ工程で形成できるので、効率的な製造工程を実現できる。
【0054】
次に、図4の比較例を参照して、本実施例の効果について説明する。
【0055】
図4は、比較例によるロータ30’の構成の概略的な断面図であり、S400は、ハイドロフォーミングによる固定工程前の状態を示し、S401は、ハイドロフォーミングによる固定工程後の状態を示す。なお、比較例によるロータ30’の構成は、回転軸Iに対して対称であるので、図4では、回転軸Iに対して一方側だけが模式的に示されている。
【0056】
比較例によるロータ30’は、本実施例によるロータ30に対して、ロータシャフト34がロータシャフト34’で置換された点が異なる。ロータシャフト34’は、本実施例によるロータシャフト34に対して、厚肉部347を備えていない点が異なる。
【0057】
このような比較例では、ハイドロフォーミングの圧力(内圧)に起因してロータシャフト34’が拡径する際、図5の状態S400から状態S401への変化で示すように、ロータシャフト34’の径方向外側への変形の仕方(拡径量)が軸方向に沿って均一化しない。より具体的には、中央部の内径r40が端部の内径r41よりも大きくなる樽型のバルジ変形が生じやすくなる。このような樽型のバルジ変形が生じると、締め代が軸方向の位置によって変動し(不均一となり)、その結果、ロータコア32に反りが発生しやすくなる。なお、図4では、状態S401において模式的に反りが表現されている。
【0058】
これに対して、本実施例によれば、上述したように、ロータシャフト34は区間SC1(ロータコア32が固定される軸方向の範囲)の略中心位置に厚肉部347を有するので、上述した比較例によるロータシャフト34’において生じる樽型のバルジ変形を低減できる。すなわち、本実施例によれば、ハイドロフォーミングの圧力(内圧)に起因してロータシャフト34が拡径する際、軸方向の中央部の径方向外側への変形量(拡径量)を比較例に比べて小さくできる。従って、本実施例によれば、上述した比較例によるロータシャフト34’において生じる樽型のバルジ変形に起因した不都合を低減できる。これにより、本実施例によれば、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34とロータコア32を固定する場合において、締め代を軸方向に沿って均一化させつつ、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な締め代を確保できる。
【0059】
また、本実施例によれば、上述したように、厚肉部347は、軸方向両側への油の分配を均一化する機能や、油溜まりを形成する機能を有する。換言すると、本実施例によれば、このような機能を有する厚肉部347を利用して、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34とロータコア32を固定する場合に生じうる不都合を低減できる。
【0060】
[実施例2]
次に、図5を参照して、実施例2について説明する。なお、以下の実施例2の説明においては、上述した実施例と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
【0061】
図5は、本実施例によるロータ30Aを説明する概略的な断面図である。なお、ロータ30Aの構成は、回転軸Iに対して実質的に対称であるので、図5では、回転軸Iに対して一方側だけが模式的に示されている。
【0062】
ロータ30Aは、上述した実施例1によるロータ30に対して、ロータシャフト34がロータシャフト34Aで置換された点が異なる。
【0063】
ロータシャフト34Aは、上述した実施例によるロータシャフト34に対して、区間SC1の端部又はその近傍に、薄肉部348Aを有する点が異なる。なお、図5に示す例では、薄肉部348Aは、区間SC1の端部及び区間SC3に形成されるが、一方のみに形成されてもよいし、区間SC3の一部にのみ形成されてもよい。なお、区間SC1は、上述したように、ロータコア32の軸方向の端面を境界としており、従って、区間SC1の端部は、ロータコア32の軸方向の端面に対応する位置を含む。薄肉部348Aは、区間SC1のうちの厚肉部347が形成される範囲以外の部位よりも肉厚が小さい。薄肉部348Aは、ロータシャフト34の内周面340に形成される凹部の形態である。薄肉部348Aは、周辺の厚肉部(相対的に肉厚となる部位)をフローフォーミング等により形成することで形成されてもよい。薄肉部348Aの軸方向の形成範囲は、ロータコア32の軸方向の端面に対応する位置からの区間SC3の全部又は一部であってもよい。また、薄肉部348Aの形成範囲は、ロータコア32の軸方向の端面に対応する位置から、区間SC1の一部を含んでもよい。
【0064】
薄肉部348Aは、好ましくは、全周にわたり連続的に形成される。ただし、変形例では、薄肉部348Aは、周方向の一部の区間だけ形成されてもよい。薄肉部348Aによる肉厚低減量は、軸方向に沿って一定であってもよいし、変化されてもよい。例えば、薄肉部348Aによる肉厚低減量は、図5に模式的に示すように、軸方向の端部に向かうほど大きくなるように変化されてもよい。
【0065】
このように本実施例では、ロータシャフト34Aは、薄肉部348Aを備えることで、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。
【0066】
従って、本実施例によっても、上述した実施例1と同様の効果が奏される。すなわち、ハイドロフォーミングの圧力(内圧)に起因してロータシャフト34Aが拡径する際、軸方向の端部の径方向外側への変形量(拡径量)を比較的大きくできるので、図4を参照して上述した比較例によるロータシャフト34’において生じる樽型のバルジ変形に起因した不都合を低減できる。これにより、本実施例によれば、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34Aとロータコア32を固定する場合において、締め代を軸方向に沿って均一化させつつ、ロータシャフト34Aとロータコア32との間の必要な締め代を確保できる。
【0067】
また、本実施例によれば、ロータシャフト34Aは、上述した厚肉部347に加えて、薄肉部348Aを有するので、中央部の剛性と端部の剛性との間の差分を効果的に増加できる。すなわち、ハイドロフォーミングの圧力(内圧)に起因してロータシャフト34Aが拡径する際、軸方向の中央部の径方向外側への変形量(拡径量)を比較的小さくしつつ、軸方向の端部の径方向外側への変形量(拡径量)を比較的大きくできる。これにより、図4を参照して上述した比較例によるロータシャフト34’において生じる樽型のバルジ変形に起因した不都合を、より効果的に低減できる。ただし、変形例では、本実施例において、厚肉部347は省略されてもよい。
【0068】
また、本実施例によれば、薄肉部348Aは、油溜まりとして機能できる。従って、薄肉部348Aにおいて上述した第1噴出孔341及び第2噴出孔342(図5には図示せず)が形成される場合、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介して上述したようにコイルエンド22A、22Bへと供給される油に係る油量を安定化することができる。
【0069】
図6は、上述した実施例2に対する変形例によるロータ30Bを説明する概略的な断面図である。なお、ロータ30Bの構成は、回転軸Iに対して実質的に対称であるので、図6では、回転軸Iに対して一方側だけが模式的に示されている。
【0070】
ロータ30Bは、上述した実施例1によるロータ30に対して、ロータシャフト34がロータシャフト34Bで置換された点が異なる。
【0071】
ロータシャフト34Bは、上述した実施例によるロータシャフト34に対して、区間SC1の近傍(すなわち区間SC3内)に、薄肉部348Bを有する点が異なる。薄肉部348Bは、区間SC1のうちの厚肉部347が形成される範囲以外の部位よりも肉厚が小さい。薄肉部348Bは、ロータシャフト34Bの外周面に形成される凹部の形態である。薄肉部348Bは、切削等により形成することで形成されてもよい。薄肉部348Bの軸方向の形成範囲は、ロータコア32の軸方向の端面に対応する位置からの区間SC3の全部又は一部であってもよいし、図6に示すように、区間SC2の一部(ロータシャフト34Bの大径部の端部)を含んでもよい。また、薄肉部348Bの形成範囲は、ロータコア32の軸方向の端面に対応する位置から、区間SC1の一部を含んでもよい。
【0072】
薄肉部348Bは、好ましくは、全周にわたり連続的に形成される。ただし、変形例では、薄肉部348Bは、周方向の一部の区間だけ形成されてもよい。薄肉部348Bによる肉厚低減量は、軸方向に沿って一定であってもよいし、変化されてもよい。例えば、薄肉部348Bによる肉厚低減量は、図6に模式的に示すように、軸方向の端部に向かうほど大きくなるように変化されてもよい。
【0073】
このように本変形例では、ロータシャフト34Bは、薄肉部348Bを備えることで、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。従って、本変形例によっても、上述した実施例2と同様の効果が奏される。
【0074】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0075】
例えば、上述した実施例1(実施例2も同様)では、厚肉部347は、図1等に示すように、三角形の形態の断面形状であるが、断面形状は任意である。
【0076】
また、上述した実施例1(実施例2も同様)では、厚肉部347は、ロータシャフト34と一体に形成されているが、円環状の別部材を嵌合することで実現されてもよい。
【0077】
また、上述した実施例1(実施例2も同様)では、厚肉部347は、軸方向の比較的狭い範囲内に形成されているが、比較的広い範囲に形成されてもよい。この場合、厚肉部347の厚みの増加分は、軸方向に沿って一定であってもよいし、端部に向かうほど小さくなる態様で変化されてもよい。
【0078】
また、上述した実施例1(実施例2も同様)では、厚肉部347は、周方向の全周にわたり形成されるが、これに限られない。例えば、厚肉部347は、周方向の一部の区間だけ形成されてもよい。
【0079】
また、上述した実施例1(実施例2も同様)では、厚肉部347は、軸方向の中央部に1箇所だけ形成されるが、軸方向の2箇所以上に形成されてもよい。この場合、厚肉部347の厚みの増加分は、各厚肉部347で一定であってもよいし、端部の位置する厚肉部347ほど小さくなる態様で異なってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1・・・モータ、21・・・ステータ、30、30A、30B・・・ロータ、32・・・ロータコア、34、34A、34B・・・ロータシャフト、347・・・厚肉部、348A、348B・・・薄肉部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5
図6