(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052522
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08F 212/08 20060101AFI20220328BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C08F212/08
H05K1/03 610H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158959
(22)【出願日】2020-09-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 汰玖哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 美伽
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢志
(72)【発明者】
【氏名】大西 敏之
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB02P
4J100AB07Q
4J100BA62Q
4J100BC43H
4J100BC43Q
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA55
4J100HA62
4J100HB39
4J100HC17
4J100JA38
(57)【要約】
【課題】優れた誘電特性を持つ硬化物が得られる熱硬化性樹脂を提供する。
【解決手段】実施形態に係る熱硬化性樹脂は、モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位およびジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位を有し、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwがそれぞれ1万以上10万以下であり、前記ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量が5~20モル%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位およびジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位を有し、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwがそれぞれ1万以上10万以下であり、前記ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量が5~20モル%である、熱硬化性樹脂。
【請求項2】
直鎖状のビニル共重合体である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂。
【請求項3】
ビニルベンジルホスホニウムハライドをモノビニル芳香族化合物と共重合させてなる共重合体をホルムアルデヒドと反応させて得られる、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂を硬化してなる硬化物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂を含む熱硬化性組成物。
【請求項6】
プリント基板材料である請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱硬化性樹脂、およびその硬化物に関し、また該熱硬化性樹脂を含む熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化が進んでおり、これに伴って使用される各種材料の要求性能が向上している。例えば、高周波通信に対応できる低誘電正接のプリント基板材料が求められている。
【0003】
特許文献1には、耐熱性、電気特性に優れた熱硬化性樹脂材料として、2官能PPE(ポリフェニレンエーテル)系オリゴマーの末端をビニル基に変換したビニル化合物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、誘電特性、長期環境信頼性、耐熱性、密着性を改善する硬化性樹脂組成物として、ジビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位2~95モル%とモノビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位5~98モル%含有する多官能ビニル芳香族共重合体と、熱可塑性樹脂と、熱硬化性架橋剤とを含む硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-067727号公報
【特許文献2】特開2019-178310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、比較的低誘電正接であり、反応性良好なPPE系樹脂を用いているが、誘電正接は十分であるとはいえない。特許文献2では、スチレン系の熱硬化性樹脂を開示しているが、具体的に開示された熱硬化性樹脂は数平均分子量Mnが低く、またジビニル芳香族化合物由来の繰り返し単位の含有量が高いため、誘電正接が十分であるとはいえず、また硬化収縮による割れが発生して成形性が悪化することが判明した。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、成形性の悪化を抑えることができるとともに優れた誘電特性を持つ硬化物が得られる熱硬化性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位およびジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位を有し、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwがそれぞれ1万以上10万以下であり、前記ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量が5~20モル%である、熱硬化性樹脂。
[2] 直鎖状のビニル共重合体である、[1]に記載の熱硬化性樹脂。
[3] ビニルベンジルホスホニウムハライドをモノビニル芳香族化合物と共重合させてなる共重合体をホルムアルデヒドと反応させて得られる、[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂。
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂を硬化してなる硬化物。
[5] [1]~[3]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂を含む熱硬化性組成物。
[6] プリント基板材料である[5]に記載の熱硬化性組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態に係る熱硬化性樹脂であると、成形性の悪化を抑えることができるとともに、優れた誘電特性を持つ硬化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂は、モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位およびジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位を有するビニル共重合体であって、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwがそれぞれ1万以上10万以下であり、前記ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量が5~20モル%である。かかる本実施形態によれば、硬化物の誘電正接を低くすることができる。また、架橋密度の上昇を抑えて、硬化収縮による割れの発生を抑制することができるため、成形性の悪化を抑えることができる。
【0011】
モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位とは、ビニル共重合体の構成単位であって、モノビニル芳香族化合物をモノマーとして付加重合させることで形成される構造を持つ構成単位であり、当該モノビニル芳香族化合物に対応する構造を持つものであれば、必ずしも当該モノビニル芳香族化合物を用いて重合してなるものには限定されず、重合後に更に反応させることでモノビニル芳香族化合物に対応する構造としたものでもよい。
【0012】
モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位としては、下記一般式(1)で表されるようにモノビニル芳香族化合物のビニル基が付加重合により単結合となった構造を持つ繰り返し単位が挙げられる。
【化1】
【0013】
式(1)中、R1は、炭素数6~30の一価の芳香族炭化水素基を表し、より詳細には、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有していてもよいビフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、及び置換基を有していてもよいターフェニル基からなる群から選ばれる炭素数6~30の一価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0014】
このような繰り返し単位を形成するモノビニル芳香族化合物としては、ビニル基を1つ有する芳香族化合物であればよく、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニルなどのビニル芳香族化合物、アルキルスチレン(例えばo-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレンン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン)、ジアルキルスチレン(例えば3,5-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、2,5-ジエチルスチレン)、アルキルビニルビフェニル(例えばエチルビニルビフェニル)、アルキルビニルナフタレン(例えばエチルビニルナフタレン)などの核アルキル置換ビニル芳香族化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でもスチレンが好ましい。
【0015】
ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位とは、ビニル共重合体の構成単位であって、ジビニル芳香族化合物をモノマーとして付加重合させることで形成される構造を持つ構成単位であり、当該ジビニル芳香族化合物に対応する構造を持つものであれば、必ずしも当該ジビニル芳香族化合物を用いて重合してなるものには限定されず、重合後に更に反応させることでジビニル芳香族化合物に対応する構造としたものでもよい。
【0016】
ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位としては、下記一般式(2)で表されるようにジビニル芳香族化合物の1つのビニル基が付加重合により単結合となった構造を持つ繰り返し単位が挙げられる。
【化2】
【0017】
式(2)中、R2は、炭素数6~30の二価の芳香族炭化水素基を表し、より詳細には、置換基を有してもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいビフェニルジイル基、置換基を有していてもよいナフチレン基、及び置換基を有していてもよいターフェニルジイル基からなる群から選ばれる炭素数6~30の二価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0018】
このような繰り返し単位を形成するジビニル芳香族化合物としては、ビニル基を2つ有する芳香族化合物であればよく、例えば、ジビニルベンゼン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)、ジビニルナフタレン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)、ジビニルビフェニル(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)が挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ジビニルベンゼン(m-体、p-体又はこれらの位置異性体混合物)が好ましい。
【0019】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂において、モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位とジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の配列順序は、規則的に配列されてもよく、ランダムに配列されてもよい。好ましくはランダムに配列されたランダム共重合体である。
【0020】
また、該熱硬化性樹脂は、モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位およびジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の他に、その効果が損なわれない範囲で、他のモノマーに対応する繰り返し単位を含んでもよい。そのような他のモノマーとしては、例えば、トリビニル芳香族化合物、トリビニル脂肪族化合物、ジビニル脂肪族化合物、モノビニル脂肪族化合物などが挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂は、数平均分子量Mnが1万以上10万以下である。数平均分子量Mnが1万以上であることにより、重合開始剤由来の末端基の濃度を下げて誘電特性を向上することができる。また、数平均分子量Mnが10万以下であることにより、熱硬化性樹脂を溶液としたときの高粘度化を抑えて取り扱い性を向上することができる。数平均分子量Mnは、1.5万以上であることが好ましく、より好ましくは2万以上であり、また、5万以下であることが好ましく、より好ましくは4万以下であり、更に好ましくは3万以下である。
【0022】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂は、重量平均分子量Mwが1万以上10万以下である。重量平均分子量Mwが1万以上であることにより、重合開始剤由来の末端基の濃度を下げて誘電特性を向上することができる。また、重量平均分子量Mwが10万以下であることにより、熱硬化性樹脂を溶液としたときの高粘度化を抑えて取り扱い性を向上することができる。重量平均分子量Mwは、2万以上であることが好ましく、より好ましくは2.5万以上であり、更に好ましくは3万以上であり、更に好ましくは4万以上であり、また、7万以下であることが好ましく、より好ましくは6万以下であり、更に好ましくは5万以下である。
【0023】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂において、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比である分子量分布Mw/Mnは、特に限定されないが、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.2~3.0であり、更に好ましくは1.5~1.9である。
【0024】
ここで、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量および重量平均分子量である。
【0025】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂において、ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量は5~20モル%である。すなわち、ビニル共重合体を構成する全繰り返し単位を100モル%として、ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量が5モル%以上20モル%以下である。ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量が5モル%以上であることにより、熱硬化性を高めて良好な硬化物を得ることができ、また、該含有量が20モル%以下であることにより、硬化収縮による割れの発生を抑制して成形性を向上することができる。ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量は7モル%以上であることが好ましく、また15モル%以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂において、モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量は、ビニル共重合体を構成する全繰り返し単位を100モル%として、80~95モル%であることが好ましい。モノビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位の含有量は、85モル%以上であることが好ましく、また93モル%以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂の製造方法は、特に限定されず、例えば、モノビニル芳香族化合物とジビニル芳香族化合物を含むモノマーを、重合開始剤の存在下に重合することにより得ることができる。
【0028】
好ましい製造方法として、ビニルベンジルホスホニウムハライドをモノビニル芳香族化合物と共重合させ、得られた共重合体をホルムアルデヒドと反応させることにより、熱硬化性樹脂を得る方法が挙げられる。これにより熱硬化性樹脂として分岐を持たない直鎖状のビニル共重合体を合成することができるので、重合開始剤由来の末端基の濃度を下げて誘電特性を向上することができる。また、直鎖状構造により分子鎖の絡み合いを生じて成形性が向上する。
【0029】
上記ビニルベンジルホスホニウムハライドにおけるホスホニウム基としては、例えば、トリアルキルホスホニウム、トリアリールホスホニウム、トリアラルキルホスホニウムなどの第四級ホスホニウム基が挙げられる。また、ホスホニウム基と塩を形成するハロゲンとしては、例えば塩素、臭素などが挙げられる。
【0030】
ビニルベンジルホスホニウムハライドをモノビニル芳香族化合物と共重合させる方法としては、公知のビニル重合法を用いることができ、特に限定されない。例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物などのラジカル重合開始剤を用いて共重合させることにより、ビニルベンジルホスホニウムハライドに由来する繰り返し単位とモノビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位を有する共重合体が得られる。
【0031】
そして、得られた共重合体をホルムアルデヒドと反応させる方法としては、公知のウィッティッヒ反応を用いることができ、該共重合体を塩基で処理してホルムアルデヒドと反応させることにより、ホスホニウム基が外れてビニル基が導入される。
【0032】
この製造方法であると、共重合工程ではビニルベンジルホスホニウムハライドがモノビニルであるため、分岐を持たない共重合体が得られ、共重合後にビニルベンジルホスホニウムハライドに由来する繰り返し単位にビニル基を導入するため、ジビニル芳香族化合物に対応する繰り返し単位を有するものでありながら、分岐のない直鎖状のビニル共重合体を得ることができる。
【0033】
本実施形態に係る熱硬化性組成物は、上記熱硬化性樹脂を含むものである。熱硬化性組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、当該組成物が熱により硬化する性質を有する限り、特に限定されない。例えば、熱硬化性組成物の固形分(後述する有機溶媒を含む場合は当該有機溶媒を除いた量であり、有機溶媒を含まない場合は当該組成物全体の量)100質量%に対して、1~99質量%でもよく、10~95質量%でもよい。
【0034】
熱硬化性組成物には、上記熱硬化性樹脂の他に、例えば、他の熱硬化性樹脂(熱硬化性架橋剤)、熱可塑性樹脂、充填剤、難燃剤、硬化促進剤、重合開始剤、消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、分散剤などの種々の成分を含有してもよい。
【0035】
また、熱硬化性組成物はその粘度を調整するために有機溶媒を含んでもよく、熱硬化性組成物は上記熱硬化性樹脂を含む溶液であってもよい。有機溶媒としては、上記熱硬化性樹脂を溶解させることができるものが用いられ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられ、これらをいずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
本実施形態の熱硬化性樹脂または熱硬化性組成物は、ビニル共重合体の分子鎖中にビニル基を有することから重合による架橋が可能であり、熱硬化により硬化物を得ることができる。該硬化物は誘電正接が低く誘電特性に優れるため、例えば、プリント基板材料、半導体封止材料などの電子材用途に用いることができる。
【0037】
プリント基板材料としては、片面基板、両面基板、多層基板、ビルドアップ基板などのリジッドプリント基板材料や、フィルム状ないしシート状のフレキシブルプリント基板材料などが挙げられる。また、誘電正接が低いことから高周波通信機器に用いられる高周波基板材料として好適に用いられる。
【実施例0038】
以下、実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
<測定・評価方法>
[スチレン/ジビニルベンゼンのモル比、ジビニルベンゼン比率]
実施例1~2および比較例1~3で得た生成物について重水素化クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(JEOL製)により1H-NMR測定を行って、スチレンに対応する繰り返し単位とジビニルベンゼンに対応する繰り返し単位のモル比を求め、全繰り返し単位100モル%に対するスチレンに対応する繰り返し単位の含有量(スチレン比率)とジビニルベンゼンに対応する繰り返し単位の含有量(ジビニルベンゼン比率)を算出した。
【0040】
[数平均分子量、重量平均分子量]
実施例1~2および比較例1~4で得た生成物をテトラヒドロフランに溶解し、ポリスチレン系ゲルを充填剤とした4本のカラム(Shodex GPCカラム KF-601、KF-602、KF-603、KF-604、昭和電工製)を連結したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(Prominence、島津製作所製)によりポリスチレン換算の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwを測定した。カラムオーブン温度40℃、THF流量0.6mL/minとし、示差屈折率検出器(Shodex RI-504、昭和電工製)を用いた。
【0041】
[誘電率、誘電正接]
実施例1~2および比較例1~4で得た生成物を試料として用いた。試験用単動圧縮成形機(安田精機製作所製)を用いて圧力10Pa、温度220℃で試料1.5gを15分間プレスし、30mm×30mm×厚さ1mmの平板を作成した。得られた平板を裁断して幅2mm、厚さ1mm、長さ30mmの試験片を作成し、空洞共振器法誘電率測定装置(KEYSIGHT製)を使用して、10GHzでの誘電率及び誘電正接を測定した。
【0042】
[熱硬化性]
実施例1~2および比較例1~4で得た生成物を試料として、示差走査熱量測定装置(リガク製)を用い、昇温速度10℃/分で室温から350℃まで昇温した。発熱ピークの発熱量が40J/g以上のものを「◎」(熱硬化性良好)、20~40J/gのものを「○」、20J/g未満のものを「×」(熱硬化性不良)とした。
【0043】
[成形性]
実施例1~2および比較例1~4で得た生成物を試料として、試験用単動圧縮成形機(安田精機製作所製)を用いて圧力10Pa、温度220℃で試料7.0gを10分間プレスし、110mm×60mm×厚さ1mmの自立板が得られたものを「〇」(成形性良好)、硬化物が破断するなどして自立板が得られなかったものを「×」(成形性不良)とした。
【0044】
(合成例1)化合物1:トリフェニルビニルベンジルホスホニウムクロライドの合成
ビニルベンジルクロライド(商品名:CMS-14、AGCセイミケミカル社製)1.5モル(228.9g)、トリフェニルホスフィン1.8モル(472.1g)、およびジメチルホルムアミド622.4gを2.0Lの反応器内に投入し、窒素条件下70℃で3時間反応させることで白色の固体が析出した。固体をアセトンで十分洗浄した後、92℃で減圧乾燥して化合物1を490g回収した。
【0045】
(合成例2)共重合体Aの合成
スチレン552.12g、169.2gの化合物1、アゾビスイソブチロニトリル3.27g、およびジメチルホルムアミド1682.68gを、3.0Lの反応器内に投入し、窒素条件下70℃で9時間反応させた。この反応溶液を減圧濃縮した後、ジクロロメタンに溶解させ、大過剰のイソプロピルアルコール中に再沈殿した。次いで上澄みをデカンテーションし、残った固体を92℃で減圧乾燥することで共重合体Aを285.0g回収した。
【0046】
(合成例3)共重合体Bの合成
スチレン110g、62.6gの化合物1、アゾビスイソブチロニトリル0.78g、およびジメチルホルムアミド258.9gを、1.0Lの反応器内に投入し、窒素条件下70℃で9時間反応させて、共重合体Bをジメチルホルムアミド溶液として得た。
【0047】
(比較合成例1)共重合体Cの合成
スチレン1.37モル(142.7g)、0.051モル(21.2g)の化合物1、アゾビスイソブチロニトリル0.75g、およびジメチルホルムアミド245.9gを、1.0Lの反応器内に投入し、窒素条件下70℃で9時間反応させた。この反応溶液を減圧濃縮した後、ジクロロメタンに溶解させ、大過剰のイソプロピルアルコール中に再沈殿した。次いで上澄みをデカンテーションし、残った固体を92℃で減圧乾燥することで共重合体Cを102.4g回収した。
【0048】
(比較合成例2)共重合体Dの合成
スチレン0.53モル(55.2g)、0.041モル(16.9g)の化合物1、アゾビスイソブチロニトリル3.24g、およびジメチルホルムアミド108.17gを、500mLの反応器内に投入し、窒素条件下70℃で5時間反応させて共重合体Dをジメチルホルムアミド溶液として得た。
【0049】
(比較合成例3)共重合体Eの合成
スチレン0.48モル(50.2g)、0.12モル(50.0g)の化合物1、アゾビスイソブチロニトリル0.45g、およびジメチルホルムアミド186.09gを、500mLの反応器内に投入し、窒素条件下68℃で8時間半反応させて共重合体Eをジメチルホルムアミド溶液として得た。
【0050】
(実施例1)
合成例2で得られた285.0gの共重合体A、37%ホルマリン169.83g、28%水酸化カリウム水溶液209.66g、およびテトラヒドロフラン665.0gを、3Lの反応器内に投入し、室温で4時間反応させた。反応溶液を大過剰のメタノールに再沈殿し、ろ過にて固体を取り出した後、ジクロロメタンに溶解させ、蒸留水で有機層を洗浄し、大過剰のメタノール/水=7/3に再沈殿した。次いでろ過にて固体を取り出した後、92℃で減圧乾燥することで生成物1を回収した。生成物1のMnは24700、Mwは39800、スチレン比率は92.1モル%、ジビニルベンゼン比率は7.9モル%であった。
【0051】
(実施例2)
合成例3で得られた共重合体Bのジメチルホルムアミド溶液20g、37%ホルマリン3.8g、28%水酸化カリウム水溶液9.4g、およびジメチルホルムアミド24gを、50mLの反応器内に投入し、室温で1時間反応させた。析出した固体をジクロロメタンに溶解させ、イソプロピルアルコールに再沈殿し、ろ過にて固体を取り出した。再度ジクロロメタンに溶解させ、蒸留水で有機層を洗浄しメタノール/水=7/3に再沈殿した。次いでろ過にて固体を取り出した後、92℃で減圧乾燥することで生成物2を回収した。生成物2のMnは26600、Mwは48900、スチレン比率は85.3モル%、ジビニルベンゼン比率は14.7モル%であった。
【0052】
(比較例1)
比較合成例1で得られた6.00gの共重合体C、37%ホルマリン5.47g、28%水酸化カリウム水溶液6.00g、およびテトラヒドロフラン150gを、500mLの反応器内に投入し、室温で4時間反応させた。反応溶液をメタノールに再沈殿し、ろ過にて固体を取り出した後、92℃で減圧乾燥することで生成物3を回収した。生成物3のMnは24300、Mwは39200、スチレン比率は95.7モル%、ジビニルベンゼン比率は4.3モル%であった。
【0053】
(比較例2)
比較合成例2で得られた共重合体Dのジメチルホルムアミド溶液29.7g、37%ホルマリン6.1g、28%水酸化カリウム水溶液7.6g、およびテトラヒドロフラン70gを、300mLの反応器内に投入し、室温で2時間半反応させた。反応溶液をメタノールに再沈殿し、ろ過にて固体を取り出した後、ジクロロメタンに溶解させ、蒸留水で有機層を洗浄し、メタノール/水=7/3に再沈殿した。次いでろ過にて固体を取り出した後、92℃で減圧乾燥することで生成物4を回収した。生成物4のMnは3400、Mwは8400、スチレン比率は91.9モル%、ジビニルベンゼン比率は8.1モル%であった。
【0054】
(比較例3)
比較合成例3で得られた共重合体Eのジメチルホルムアミド溶液280.0g、37%ホルマリン48.5g、28%水酸化カリウム水溶液59.5g、およびテトラヒドロフラン93.8gを1Lの反応器内に投入し、室温で7時間反応させた。反応溶液にジクロロメタンを加えた後メタノールに再沈殿し、ろ過にて固体を取り出した後、ジクロロメタンに溶解させ、蒸留水で有機層を洗浄し、メタノール/水=7/3に再沈殿した。次いでろ過にて固体を取り出した後、92℃で減圧乾燥することで生成物5を回収した。生成物5のMnは24200、Mwは43300、スチレン比率は75.0モル%、ジビニルベンゼン比率は25.0モル%であった。
【0055】
(比較例4)ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の合成
温度調節器、撹拌装置、冷却コンデンサー、滴下ロートを備えた2L四つ口フラスコに反応型低分子量ポリフェニレンエーテル(商品名:Noryl SA-90、SABICジャパン合同会社製)を158g(0.1モル)、トルエン221g、イソプロピルアルコール94.8gを仕込み、均一溶液にし、続いて、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド0.96g、ビニルベンジルクロライド(メタ体/パラ体=50/50、商品名:CMSP、AGCセイミケミカル社製)33.6g(0.22モル)を加え、75℃まで昇温した。ここに、48%水酸化ナトリウム水溶液53.3g(0.64モル)を2時間ごとに1/4量ずつを30分かけて滴下し、75℃で計8時間反応を行なったところ、反応率は98%以上であった。その後、50℃まで冷却し、トルエン295g、イソプロパノール31.6g、水79gを加え、35質量%の塩酸水溶液66.7gで中和した。反応溶液が2層に分離するまで静置し、下層の水溶液層を除去した。さらに、イソプロパノール15.8g、水63.2gによる洗浄を5回行なった。この有機層を、70℃、50mmHgで水分を0.05%以下になるまで除去し、さらにこの溶液を濾過し、ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の50%トルエン溶液345g(ポリフェニレンエーテル基準で収率95%)を得た。この溶液を大過剰のメタノールに再沈殿し、ろ過にて取り出した固体を92℃で減圧乾燥した。得られたビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の数平均分子量は2200、重量平均分子量は4000であった。
【0056】
実施例1~2および比較例1~4で得られた生成物について、誘電率、誘電正接、熱硬化性および成形性を評価した。結果を下記表1および表2に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
表1に示すように、比較例1では、ジビニルベンゼン比率が低く、熱硬化性が不十分であり、誘電率・誘電正接評価用の試験片を作製できなかった。そのため、誘電率および誘電正接は測定しておらず、成形性についても評価していない。
【0060】
比較例2では、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwが小さく、そのため、誘電正接が大きく劣っていた。また誘電正接の結果が不良であったため、成形性の評価は実施しなかった。
【0061】
比較例3では、ジビニルベンゼン比率が高く、そのため未反応のビニル基の残存により誘電正接に劣っていた。また、誘電率・誘電正接評価用の試験片については成形可能であったが、試験片の寸法が大きな成形性評価では試験片に割れが発生し、成形性に劣っていた。官能基数が多いことで硬化収縮が発生して成形性が低下したと考えられる。
【0062】
一方、PPE系の熱硬化性樹脂である比較例4では、誘電正接が高く、誘電特性に劣っていた。
【0063】
これに対し、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwが規定範囲内であり、かつジビニルベンゼン比率が規定範囲内である実施例1,2では、熱可塑性樹脂や架橋剤を併用せずとも自立する程の十分なシートを成形することができ、成形性に優れるとともに、比較例4のPPE系熱硬化性樹脂に比べて誘電正接が低く、誘電特性に優れていた。
【0064】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。