(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052539
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】回転電機用のロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/14 20060101AFI20220328BHJP
H02K 1/28 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
H02K15/14 A
H02K1/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020158978
(22)【出願日】2020-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安立 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】河島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】三好 功記
(72)【発明者】
【氏名】牧尾 信平
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 真梨子
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601EE17
5H601GA02
5H601JJ05
5H601KK14
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP24
5H615SS19
5H615SS57
(57)【要約】
【課題】ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代が確保できるように、ロータシャフトの中空部を外部に対して適切にシールする。
【解決手段】回転電機用のロータの製造方法であって、ロータコアと、中空のロータシャフトとを準備する工程と、ロータコアとロータシャフトとを製造装置に配置し、製造装置においてロータコアの径方向内側にロータシャフトが位置する状態を形成する配置工程と、配置工程の後に、製造装置によりロータシャフト及びロータコアを支持しつつ、ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、ロータシャフトとロータコアとを締結する一体化工程と、一体化工程によるロータコアの径方向の変形量を測定する測定工程とを含む、製造方法が開示される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用のロータの製造方法であって、
ロータコアと、中空のロータシャフトとを準備する工程と、
前記ロータコアと前記ロータシャフトとを製造装置に配置し、前記製造装置において前記ロータコアの径方向内側に前記ロータシャフトが位置する状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記製造装置により前記ロータシャフト及び前記ロータコアを支持しつつ、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、前記ロータシャフトと前記ロータコアとを締結する一体化工程と、
前記一体化工程による前記ロータコアの径方向の変形量を測定する測定工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記測定工程は、前記変形量に関連するパラメータの値を取得する工程を含み、
前記測定工程は、前記一体化工程において前記内圧を高める前から前記内圧を高めて解除した後までの期間内における少なくとも2時点で取得した前記パラメータの値に基づいて、前記変形量を測定する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記測定工程は、異なる少なくとも3つ以上の周方向の位置において前記パラメータの値を取得する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一体化工程において、前記ロータシャフトの中空部の内圧は、前記パラメータの値に基づいて、制御される、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記測定工程により測定された前記変形量に基づいて、前記一体化工程による前記ロータシャフトと前記ロータコアとの間の径方向の締め代を評価する工程を更に含む、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用のロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄管部材に凸部をハイドロフォーミングで成形する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を確保するためには、圧入や焼き嵌めが利用されており、ハイドロフォーミングを利用する技術は知られていない。ハイドロフォーミングでは、ロータシャフトの中空部の内圧を高めてロータシャフトを拡径させることができるが、かかるハイドロフォーミングを利用する技術では、ロータシャフトとロータコアとの間の締め代が適切に確保されているかどうかを検査することが難しい。
【0005】
本開示は、ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を適切に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機用のロータの製造方法であって、
ロータコアと、中空のロータシャフトとを準備する工程と、
前記ロータコアと前記ロータシャフトとを製造装置に配置し、前記製造装置において前記ロータコアの径方向内側に前記ロータシャフトが位置する状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記製造装置により前記ロータシャフト及び前記ロータコアを支持しつつ、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、前記ロータシャフトと前記ロータコアとを締結する一体化工程と、
前記一体化工程による前記ロータコアの径方向の変形量を測定する測定工程とを含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な締め代を適切に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
【
図2】ロータの製造方法の流れを示す概略フローチャートである。
【
図3A】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その1)である。
【
図3B】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その2)である。
【
図3C】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その3)である。
【
図3D】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その4)である。
【
図3F】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その5)である。
【
図3G】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その6)である。
【
図3H】
図2に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その7)である。
【
図4】締結工程(ステップS506)の流れの一例を示す概略フローチャートである。
【
図5】測定器配置工程(ステップS5060)の説明図であり、基準軸に垂直な平面で切断した際の断面図である。
【
図6】ハイドロフォーミングによる内圧の増加に起因したロータシャフトのバルジ変形の説明用の断面図である。
【
図7】締結工程(ステップS506)の流れの他の一例を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。例えば、図面上、隙間がない部材間であってもわずかな隙間(例えば必要なクリアランス分の隙間)が形成される場合がありえ、また、図面上、隙間がある部材間であっても隙間がない場合もありえる。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸Iが図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)Iが延在する方向を指し、径方向とは、回転軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸Iに向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなり、ステータ21の内周部には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸Iを画成する。また、本実施例では、ロータシャフト34は、円形の断面形状であるが、断面形状は任意である。
【0015】
ロータシャフト34は、車輪に動力を伝達する動力伝達機構60に連結される。すなわち、ロータシャフト34には、モータ1の回転トルクを車軸(図示せず)に伝達するための動力伝達機構60が接続される。
図1には、当該動力伝達機構60の一部を形成する軸部材61が図示されている。なお、動力伝達機構60は、減速機構や、差動歯車機構、クラッチ、変速機等を含んでよい。
図1に示す例では、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向外側にスプライン結合される。この場合、ロータシャフト34の端部の径方向外側の周面には、スプライン結合部(複数の軸方向の凸条からなる歯車部)を形成する動力伝達部345を有することになる。なお、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側にスプライン結合されてもよい。
【0016】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなる。ロータコア32の内部には、永久磁石321が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石321は、ロータコア32の外周面に埋め込まれてもよい。なお、永久磁石321が設けられる場合、永久磁石321の配列等は任意である。
【0017】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0018】
ロータシャフト34は、
図1に示すように、中空部343を有する。中空部343は、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。
【0019】
ロータシャフト34は、
図1に示すように、軸方向で、ロータコア32が設けられる区間SC1の部位と、ベアリング14a、14bが設けられる区間SC2の部位と、後述する第1噴出孔341及び第2噴出孔342が設けられる区間SC3の部位とを含む。区間SC2は、軸方向の両端部にそれぞれ延在し、区間SC3は、軸方向で区間SC1と区間SC2との間に延在する。
【0020】
本実施例では、一例として、ロータシャフト34は、区間SC2において、外周面が径方向内側に凹む形態である。ロータシャフト34は、大径部34Aと、大径部34Aよりも外径が小さい小径部34Bとを含む。小径部34Bは、
図1に示すように、軸方向で大径部34Aの両側に形成される。ベアリング14a、14bは、小径部34Bに設けられる。なお、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、回転軸Iに対して略直角に形成されてもよいし、テーパ状に形成されてもよい。本実施例では、一例として、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、一端側(図の右側)では、回転軸Iに対して略直角に形成され、他端側(図の右側)では、テーパ状に形成されている。
【0021】
また、ロータシャフト34は、軸方向のベアリング支持面34a、34bを有する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ベアリング14a、14bのインナレースの軸方向の端面に軸方向に当接することで、ベアリング14a、14bを支持する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の小径部34Bにおいて外周面が径方向内側に凹むことで形成される。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の周方向の全周にわたり形成されてよい。
【0022】
ロータシャフト34は、径方向内側に凸となる凸部の形態の厚肉部347を周方向に沿って有する。厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の略中心位置(区間SC1における軸方向の略中心位置)に形成される。ただし、変形例では、厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の中心位置に対して軸方向でわずかにオフセットされてもよいし、形成されなくてもよい。厚肉部347は、例えば鋳造やフローフォーミング、摩擦圧接等により形成されてもよい。フローフォーミングによる厚肉部347の形成方法は、後述する。なお、摩擦圧接の場合、ロータシャフト34は、当該中心位置で軸方向に分割される2ピースにより形成されてもよい。なお、ロータシャフト34が厚肉部347を備える場合、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。
【0023】
ロータシャフト34は、第1噴出孔341を有する。第1噴出孔341は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第1噴出孔341は、中空部343に開口する開口341aと、コイル22のコイルエンド22Aに対向する開口341bとを有し、開口341a及び開口341b間に延在する。第1噴出孔341の開口341bは、コイル22のコイルエンド22Aに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第1噴出孔341は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0024】
ロータシャフト34は、更に、第1噴出孔341とは異なる軸方向の位置に、第2噴出孔342を有する。第2噴出孔342は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第2噴出孔342は、中空部343に開口する開口342aと、コイル22のコイルエンド22Bに対向する開口342bとを有し、開口342a及び開口342b間に延在する。第2噴出孔342の開口342bは、コイル22のコイルエンド22Bに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第2噴出孔342は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0025】
ロータシャフト34内は、油供給源90に接続される。油供給源90は、ポンプ94を含んでよい。この場合、ポンプ94の種類や駆動態様は任意である。例えば、ポンプ94は、モータ1の回転トルクにより動作するギアポンプであってもよい。ロータシャフト34内には、ロータシャフト34の一端(図の右側の端部)側から油が供給される。なお、ポンプ94は、モータハウジング10に隣接するハウジング(図示せず)であって、動力伝達機構60を収容するハウジング内に配置されてよい。
【0026】
図1では、一例として、油供給源90は、管路部材92と、管路部材92の一端(図の右側の端部)側に接続されるポンプ94とを含む。
【0027】
管路部材92は、中空に形成され、内部が油路801を画成する。すなわち、管路部材92は、油路801として機能する中空部92Aを有する。中空部92Aは、管路部材92の軸方向の全長にわたり延在する。ただし、中空部92Aは、一端側(図の左側の端部であって、ポンプ94側とは逆側の端部)は開口しない。すなわち、管路部材92は、一端(図の左側の端部)が閉塞される。
【0028】
管路部材92は、ロータシャフト34の内周面340に対して径方向で隙間を有する態様でロータシャフト34内に延在する。具体的には、管路部材92は、外径r4を有する。外径r4は、ロータシャフト34の内周面340の、区間SC1、SC3での内径r1、r3よりも有意に小さい(なお、
図1では、区間SC1、SC3での内径r1、r3は同じである)。外径r4は、例えばロータシャフト34の内周面340の、区間SC2での内径r2と略等しい。
【0029】
管路部材92は、内部から外部へと径方向に貫通する吐出孔93を備える。吐出孔93は、ロータコア32の軸方向の略中心位置に対応する軸方向の位置と、その両側とに設けられる。なお、吐出孔93の軸方向の位置や数等は任意である。
【0030】
次に、
図1に示す矢印R1~R6を参照して、油供給源90からの油の流れについて概説する。
図1には、油の流れが矢印R1~R6で模式的に示されている。
【0031】
油供給源90から供給される油は、管路部材92の中空部92Aを通って軸方向に流れ(矢印R1参照)、吐出孔93から径方向外側へと吐出される(矢印R2参照)。吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ロータシャフト34の内周面340に当たり、ロータシャフト34の内周面340を伝って第1噴出孔341及び第2噴出孔342へと軸方向に流れる(矢印R3、R4参照)。なお、この場合、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れる油は、区間SC1においてロータコア32の径方向内側から熱を奪うことができ、ロータコア32を効率的に冷却できる。
【0032】
ここで、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと略均等に分配される。これにより、コイルエンド22A、22Bへと分配して導かれる油の均等化を図ることができる。この結果、ロータコア32を径方向内側から、軸方向に沿って均一に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bをそれぞれ同様に冷却できる。ただし、変形例では、吐出孔93の軸方向の位置と厚肉部347の軸方向の位置とにズレを設けること等によって、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと流れる油の流量の間に、差(すなわち分配量に関する差)を積極的に設定することも可能である。
【0033】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ある程度の厚みを有しつつ、ロータシャフト34の内周面340を伝うことができる。すなわち、厚肉部347が堰部として機能し、ロータシャフト34の内周面340における油の溜まりが促進される。
【0034】
ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出される(矢印R5参照)。第1噴出孔341の開口341bは、上述のようにコイルエンド22Aに径方向で対向する。従って、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Aに当たり、コイルエンド22Aを効率的に冷却できる。
【0035】
また、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出される(矢印R6参照)。第2噴出孔342の開口342bは、上述のようにコイルエンド22Bに径方向で対向する。従って、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Bに当たり、コイルエンド22Bを効率的に冷却できる。
【0036】
このように、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340を伝う油の流れを促進することが可能となる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝う油によりロータコア32を径方向内側から効率的に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bを効率的に冷却できる。
【0037】
特に、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340は、区間SC1での内径r1が、区間SC2での内径r2よりも有意に大きい。すなわち、ロータシャフト34の内周面340は、ロータコア32が設けられる区間SC1において拡径されている。これにより、ロータシャフト34の軽量化が図られるとともに、ロータシャフト34の内周面340と永久磁石321との間の径方向の距離を短くでき(内径r1≒内径r2の場合に比べて短くでき)、磁石冷却性能を効果的に高めることができる。
【0038】
なお、
図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、中空部343を有するロータシャフト34にロータコア32が締結される限り、任意である。従って、例えば、管路部材92等は、省略されてもよい。例えば、管路部材92が省略される場合、軸部材61の中空部から油が供給されてもよい。この場合、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側に嵌合されてもよい。
【0039】
また、
図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、ロータコア32に油路が形成されてもよいし、モータハウジング10内の油路により径方向外側からコイルエンド22A、22Bに向けて油が滴下されてもよい。また、
図1では、油供給源90の管路部材92は、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側から、ロータシャフト34内に挿入されるが、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側とは逆側から、ロータシャフト34内に挿入されてもよい。また、油冷に加えて、冷却水を利用した水冷方式が利用されてもよい。
【0040】
次に、
図2及び
図3A~
図3Hを参照して、上述した実施例のモータ1におけるロータ30の製造方法の例について説明する。
図3Bには、回転軸Iに平行なZ方向とともに、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。以下では、説明上、一例として、製造工程中において、Z方向が上下方向に対応し、Z2側が下側であるとする。また、
図3B等には、製造装置200における基準軸I
0が示される。基準軸I
0は、ワークの芯出しの際の中心軸を構成し、上述した回転軸Iに対応する。
【0041】
図2は、ロータ30の製造方法の流れを示す概略フローチャートであり、
図3A~
図3Hは、
図2に示すいくつかの工程におけるロータシャフト34及びロータコア32の状態を概略的に示す断面図である。なお、
図3B~
図3D、
図3F、
図3G、及び
図3Hは、基準軸I
0を含む平面で切断した際の断面図であり、
図3Eは、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面図である。
【0042】
まず、ロータ30の製造方法は、ワークとして、ロータシャフト34及びロータコア32のそれぞれ(互いに結合されていない状態)を、準備する準備工程(ステップS500)を含む。なお、ロータシャフト34の厚肉部347は、フローフォーミング加工又はスピニング加工等により形成されてよい。
【0043】
図3Aに示すように、本実施例では、ロータシャフト34は、軸方向両側にベアリング支持面34a、34b(
図1も参照)を有する。軸方向のベアリング支持面34aは、ロータシャフト34における軸方向一方側の小径部34Bの外周面における径方向の段差部37Aにより形成され、軸方向のベアリング支持面34bは、ロータシャフト34における軸方向他方側の小径部34Bの外周面における径方向の段差部37Bにより形成される。
【0044】
なお、この段階でのロータシャフト34は、
図3Aに示すように、区間SC1に対応する部分の内径r1’が、製品状態の内径r1(
図1参照)よりもわずかに小さくてよい。ただし、変形例では、内径r1’は、製品状態の内径r1(
図1参照)と略同じであってもよい。この場合、後述する締結工程は、ロータシャフト34とロータコア32との間の締結力を高めるための工程となる。
【0045】
また、ロータシャフト34と同様に、この段階でのロータコア32は、外径が製品状態の外径よりもわずかに小さくてよい。これは、後述する締結工程においてロータコア32は、ロータシャフト34の拡径に伴って径方向外側にわずかに変形するためである。
【0046】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図3Bに示すように、ロータシャフト34及びロータコア32を、製造装置200に対してセットする工程(ステップS501)(配置工程の一例)を含む。製造装置200は、製造設備の形態であり、以下で説明する各種の治具や型を備える。
図3Bに示す例では、製造装置200は、Z2側の固定型201を備え、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ2側の部位(小径部34B及び大径部34Aの端部)が挿入される。このとき、ロータシャフト34は、そのベアリング支持面34bが、固定型201の段差面201bに軸方向に当接することで、固定型201に対して支持される。なお、固定型201の段差面201bは、基準軸I
0に対して垂直であり、基準軸I
0まわりに全周にわたり形成されてよい。なお、変形例では、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ1側の部位(ベアリング14aが設けられる側の小径部34B及び大径部34Aの端部)が挿入されてもよい。
【0047】
固定型201は、ロータコア32のZ2側の端面32bを支持する支持面2012を有する。支持面2012は、ロータコア32のZ2側の端面32b全体を支持してもよいし、端面32bの一部を支持してもよい。
【0048】
このようにして、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、製造装置200の固定型201は、ロータシャフト34及びロータコア32を同時にZ2側から支持し、ロータシャフト34及びロータコア32のZ2側への移動(変位)を拘束する。
【0049】
なお、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、
図3Bに模式的に示すように、ロータシャフト34の外径r11は、ロータコア32の内径(軸心の孔の径)r12よりもわずかに小さい。これにより、ロータコア32の径方向内側にロータシャフト34を容易にセットできる。ただし、上述したように、変形例では、ロータシャフト34の外径r11は、ロータコア32の内径(軸心の孔の径)r12と略同じであってもよい。
【0050】
また、ロータシャフト34及びロータコア32は、必ずしも同時に製造装置200の固定型201に対してセットされる必要はなく、順に製造装置200の固定型201に対してセットされてもよい。
【0051】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図3Cに示すように、ロータシャフト34の中心軸I
1(
図3A参照)を、基準軸I
0に合わせる工程(ステップS502)を含む。すなわち、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト34を、製造装置200において規定される基準軸I
0に対して芯出しする工程を含む。
【0052】
本実施例では、
図3Cに示すように、ロータシャフト34の芯出しは、一例として、製造装置200のシール型202、203により実現される。なお、シール型202、203は、基準軸I
0に対して正確に芯出しされている設備側の構成である。
【0053】
具体的には、Z2側のシール型202は、ロータシャフト34に対してZ2側からZ方向に沿ってZ1側へと移動して、ロータシャフト34に対してセットされる。シール型202は、ロータシャフト34のZ2側の小径部34Bの内径(
図1の内径r2参照)に対応する外径を有する部位2021を有する。部位2021の中心軸は、基準軸I
0に対して正確に一致する。なお、部位2021は、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面の外形が円形であり、当該円形の外径は、ロータシャフト34のZ2側の小径部34Bの内径よりもわずかに小さくてよい。これにより、ロータシャフト34は、基準軸I
0に対して正確に芯出しされたシール型202の部位2021により、径方向内側から芯出しされる。
【0054】
なお、シール型202は、
図3Cに示すように、部位2021のZ2側に径方向外側へのシール面2022を有してよい。シール型202がロータシャフト34に対してセットされた状態では、シール型202のシール面2022は、ロータシャフト34のZ2側の端面348bに対して軸方向に対向又は当接してよい。
【0055】
また、Z1側のシール型203は、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと移動して、ロータシャフト34に対してセットされる。シール型203は、ロータシャフト34のZ1側の小径部34Bの内径(
図1の内径r2参照)に対応する外径を有する部位2031を有する。部位2031の中心軸は、基準軸I
0に対して正確に一致する。なお、部位2031は、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面の外形が円形であり、当該円形の外径は、ロータシャフト34のZ1側の小径部34Bの内径よりもわずかに小さくてよい。これにより、ロータシャフト34は、基準軸I
0に対して正確に芯出しされたシール型203の部位2031により、径方向内側から芯出しされる。
【0056】
なお、シール型203は、
図3Cに示すように、部位2031のZ1側に径方向外側へのシール面2032を有してよい。シール型203がロータシャフト34に対してセットされた状態では、シール型203のシール面2032は、ロータシャフト34のZ1側の端面348aに対して軸方向に対向又は当接してよい。本実施例では、好ましい例として、シール型203がロータシャフト34に対してセットされた状態では、シール型203のシール面2032は、ロータシャフト34のZ1側の端面348aに対して軸方向に離間して対向する。
【0057】
このようにして、ロータシャフト34は、基準軸I0に対して正確に芯出しされたシール型202、203により、径方向内側から芯出しされる。この場合、ロータシャフト34の中心軸I1が基準軸I0に対してずれていると、ロータシャフト34は、シール型202、203により、中心軸I1が基準軸I0に一致するように、位置や姿勢が矯正される。これにより、ロータシャフト34は、ロータコア32が径方向外側に配置された状態においても、シール型202、203により径方向内側から精度良く芯出しされることができる。
【0058】
なお、シール型202、203は、同時にロータシャフト34に対してセットされてもよいし、時間差を有する態様でセットされてもよい。例えば、シール型202がロータシャフト34に対してセットされ、ついで、シール型203がロータシャフト34に対してセットされてもよい。また、シール型202は、固定型201と同様、可動しない型であってもよい。この場合、シール型202は、固定型201と一体であってもよい。
【0059】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図3Dに示すように、ロータコア32の中心軸I
2(
図3A参照)を、基準軸I
0に合わせる工程(ステップS503)を含む。すなわち、ロータ30の製造方法は、ロータコア32を、製造装置200において規定される基準軸I
0に対して芯出しする工程を含む。
【0060】
本実施例では、
図3Dに示すように、ロータコア32の芯出しは、一例として、製造装置200の芯出装置204により実現される。芯出装置204は、
図3D及び
図3Eに示すように、基準軸I
0に対して垂直な平面内で移動可能であり、基準軸I
0に対して進退可能に配置される。芯出装置204は、
図3Eに示すように、好ましくは、3つ以上設けられる。また、芯出装置204は、
図3Dに示すように、好ましくは、ロータコア32の軸方向の全長にわたり作用するように、ロータコア32の軸方向全体にわたり軸方向に延在する。
【0061】
図3D及び
図3Eに示す例では、芯出装置204は、3つ、基準軸I
0まわりに120度の間隔をおいて設けられる。芯出装置204が基準軸I
0に向かって進むと(矢印R300参照)、ロータコア32の外周面に、芯出装置204の径方向内側の先端部2041が当接する。各芯出装置204は、先端部2041の基準軸I
0までの距離が所定半径r30になるまで、基準軸I
0に向かって移動する。所定半径r30は、ロータコア32の正規の外径(回転軸Iを中心とした外径)に対応してよい。これにより、ロータコア32を基準軸I
0に対して精度良く芯出しすることができる。
【0062】
このようにして、ロータコア32は、基準軸I0に向かって正確に規定された所定半径r30まで進む芯出装置204により、径方向外側から芯出しされる。この場合、ロータコア32の中心軸I2が基準軸I0に対してずれていると、ロータコア32は、芯出装置204により、中心軸I2が基準軸I0に一致するように、位置や姿勢が矯正される。これにより、ロータコア32は、ロータシャフト34が径方向内側に配置された状態においても、芯出装置204により径方向外側から精度良く芯出しされることができる。
【0063】
なお、
図3D及び
図3Eに示す例では、芯出装置204は、先端部2041がロータコア32の外周面に対して線接触(軸方向の線接触)するように形成されているが、面接触するように形成されてもよい。この場合、先端部2041は、基準軸I
0に沿った方向に視て、ロータコア32の外周面に沿った湾曲面を有してよい。
【0064】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図3Fに示すように、ロータコア32をステップS503で芯出しされた状態で、製造装置200に対して強固に固定する工程(ステップS504)を含む。
図3Fに示す例では、製造装置200は、Z1側の可動型205を備える。可動型205は、基準軸I
0に平行に並進移動が可能である。可動型205は、ロータコア32のZ1側の端面32aに向かってZ方向に沿って移動し、端面32aに当接することで、ロータコア32を製造装置200に対して固定する。
【0065】
また、本実施例では、可動型205は、上述した固定型201と同様に、径方向内側が中空部2051となる円環状の形態である。可動型205がロータコア32の端面32aに当接する状態では、可動型205の中空部2051内にロータシャフト34のZ1側の部位(小径部34B及び大径部34Aの端部)が位置する。このとき、ロータシャフト34は、そのベアリング支持面34aが、可動型205の段差面205aに軸方向に当接する。この場合、ロータシャフト34は、ベアリング支持面34a及び可動型205の段差面205aによって、可動型205に対してZ方向に沿ったZ1側への変位が拘束される。なお、可動型205の段差面205aは、基準軸I0に対して垂直であり、基準軸I0まわりに全周にわたり形成されてよい。
【0066】
このようにして、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の可動型205に対してセットされた状態では、製造装置200の可動型205は、ロータシャフト34及びロータコア32を同時にZ1側から支持し、ロータシャフト34及びロータコア32のZ1側への移動(変位)を拘束する。
【0067】
また、ロータコア32が製造装置200の可動型205に対してセットされた状態では、ロータコア32は、可動型205と固定型201の間で軸方向に挟持されることで、軸方向の押圧力によって径方向の変位も拘束される。従って、その後、芯出装置204がロータコア32から離れる方向に移動(退避)しても(
図3Fの矢印R401参照)、ロータコア32の芯出しされた状態が維持される。
【0068】
ついで、ロータ30の製造方法は、図示しないが、シール型202、203によりロータシャフト34の中空部343をロータシャフト34の外部に対してシールするシール工程(ステップS505)を含む。例えば、Z1側のシール型203を、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと更に移動させることで、ロータシャフト34をシール型202、203によりシールできる。具体的には、シール型202のシール面2022とロータシャフト34の端面348bとの間でシールが確保され、かつ、シール型203のシール面2032とロータシャフト34の端面348aとの間でシールが確保される。また、この場合、ロータシャフト34は、シール型202、203により軸方向に挟持されることによって、ステップS502で芯出しされた状態で、製造装置200に対して強固に固定される。このようにして、ロータシャフト34の芯出しは、ステップS502ではある程度のレベルで実現され、本ステップS505において完全なレベルで実現されてもよい。
【0069】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図3Gに示すように、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34にロータコア32を固定(締結)する締結工程(ステップS506)(一体化工程の一例)を含む。例えば、
図3Gに模式的に示すように、ロータシャフト34がシール型202、203に押さえられた状態で、中空部343内に流体が導入され、流体を加圧することで、ロータシャフト34の内周面340に対して内周面340に垂直な力(内圧)を付与する(
図3Gの矢印R31、矢印R32参照)。これにより、ロータシャフト34が拡径し、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代が確保される(
図3H参照)。すなわち、ロータシャフト34の内径r1’が内径r1へと拡大されるのに伴い、ロータシャフト34の外径r11が増加することで、締め代が確保される。このようなハイドロフォーミングによれば、圧入のような、ロータシャフト34とロータコア32の嵌合方法で生じうる不都合(例えば圧入の際のロータコア32の倒れ等)を防止できる。
【0070】
ここで、本実施例では、ステップS506の締結工程の前に、上述したように、ロータコア32は、芯出装置204により芯出しされている。従って、ロータコア32が芯出しされた状態で、ロータコア32とロータシャフト34とを締結できる。また、本実施例では、ステップS506の締結工程は、固定型201と可動型205との間で軸方向及び径方向の変位が拘束された状態が維持される。従って、締結工程中にロータコア32の芯出しされた状態が損なわれてしまう可能性を低減できる。
【0071】
また、本実施例では、上述したように、ロータコア32が芯出しされた状態で、ロータシャフト34が拡径されるので、拡径されたロータシャフト34は、径方向外側においても、芯出しされたロータコア32によって芯出しされることになる。これにより、ロータコア32及びロータシャフト34とを、基準軸I0に対して精度良く芯出しされた状態で締結できる。
【0072】
ついで、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト34において第1噴出孔341及び第2噴出孔342に対応する孔を形成する噴出孔形成工程(ステップS508)を含む。なお、噴出孔形成工程は、ロータシャフト34を製造装置200から取り出してから実行されてよい。噴出孔形成工程(ステップS508)が終了すると、最終的なロータシャフト34が出来上がる。
【0073】
ついで、ロータ30の製造方法は、その他の仕上げ工程(ステップS510)を含む。その他の仕上げ工程は、永久磁石321を固定する工程や、着磁を行う工程や、エンドプレート35A、35Bにより回転バランスを調整する工程等を含んでよい。
【0074】
このようにして、
図2及び
図3A~
図3Hを参照して説明したロータ30の製造方法によれば、ロータコア32及びロータシャフト34が、製造装置200の基準軸I
0に対して芯出しされた状態を形成し、かつ、当該状態を維持しつつ、ハイドロフォーミングによりロータコア32とロータシャフト34を一体化できる。これにより、回転軸Iまわりのアンバランスが低減されたロータ30を製造できる。また、芯出しされた状態でハイドロフォーミングによりロータシャフト34を拡径できるので、ロータコア32とロータシャフト34との締結に係る締め代を周方向に沿って均一化できる。
【0075】
次に、
図4以降を参照して、上述した締結工程(ステップS506)について更に説明する。
【0076】
図4は、上述した締結工程(ステップS506)の流れの一例を示す概略フローチャートである。
図5は、測定器配置工程(ステップS5060)の説明図であり、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面図である。
【0077】
締結工程は、まず、ロータコア32の径方向の変形量を測定するための測定器500を初期位置に配置(セット)する測定器配置工程(ステップS5060)を含む。測定器500は、ロータコア32の径方向の変位量を計測できるものであれば、接触型であってもよいし、非接触型であってもよい。
図5に示す例では、非接触型の測定器500は、先端部がロータコア32の外周面に当接するように配置される。この際、測定器500は、基準軸I
0を通る径方向に沿った変位量(基準軸I
0に対して垂直な平面内の変位量)を測定するように配置される。
【0078】
測定器500は、好ましくは、周方向の3箇所以上の測定点で変位量を測定するように配置される。
図5に示す例では、測定器500は、3つ、基準軸I
0まわりに120度の間隔をおいて設けられる。この場合、測定器500は、ロータコア32の外周面における3つの測定点P500、P501、P502で径方向の変位量(ロータコアの径方向の変形量に関連するパラメータの値の一例)を測定する。なお、測定点P500、P501、P502の軸方向の位置は、任意であり、例えばロータコア32の軸方向の中心位置やその近傍であってもよいし、ロータコア32の端面32a、32bの近傍であってもよい。また、3つの測定点P500、P501、P502を1セットとして、軸方向の異なる位置に、各セットの測定点が設定されてもよい。この場合、セットごとに、測定点P500、P501、P502の周方向の位置が異なってもよいし、同じであってもよい。
【0079】
なお、ロータコア32の外周面に微小な凹凸が設定される場合、測定点P500、P501、P502は、ロータコア32の外周面における当該凹凸を避けた位置に設定されてよい。また、測定点P500、P501、P502は、ロータコア32の外周面における上述した芯出装置204の先端部2041が当接する位置に設定されてもよい。
【0080】
なお、測定器500の初期位置は、変位量の基準点(ゼロ点)を決める位置であり、固定であってもよいし、可変であってもよい。例えば、測定器500の初期位置(セットされる位置)は、測定器500により検出される変位量が0以上となる位置であってよい。
【0081】
ついで、締結工程は、各測定器500により検出される現在の変位量を基準点(ゼロ点)として記憶する工程(ステップS5061)を含む。
【0082】
ついで、締結工程は、ロータシャフト34の中空部343内における内圧(
図3Gの矢印R31、R32参照)を上昇させる内圧付与工程(ステップS5062)を含む。ロータシャフト34の中空部343内における内圧は、例えば目標圧力に向けて徐々に上昇される。目標圧力は、ロータシャフト34の拡径量(径方向の変位量)の目標値に応じて適合されてよい。
【0083】
締結工程は、上述した内圧付与工程(ステップS5062)中、各測定器500により検出される変位量や、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の各測定値を記憶する工程(ステップS5063)を含む。なお、ロータシャフト34の中空部343内の内圧は、圧力センサ(図示せず)により測定されてよい。この場合、圧力センサは、例えば、流体の供給側に設けられてよい。各測定器500により検出される変位量は、時系列データとして記憶されてよい。また、各測定器500により検出される変位量は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値と対応付けて記憶されてもよい。
【0084】
締結工程は、上述した内圧付与工程(ステップS5062)中、内圧付与工程の終了条件が成立したか否かを判定する工程(ステップS5064)を含む。本実施例では、一例として、内圧付与工程の終了条件は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値が、目標圧力に達した場合に満たされる。
【0085】
このようにして内圧付与工程(ステップS5062)は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値が、目標圧力に達するまで継続される。なお、変形例では、内圧付与工程の終了条件は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧が目標圧力に達した状態が、ある一定時間継続した場合に満たされてもよい。この場合、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値が、目標圧力に達すると、ロータシャフト34の中空部343内における内圧の上昇(ステップS5062)は停止されてよい。すなわち、一定時間だけ目標圧力での内圧の保持状態が形成されてよい。
【0086】
内圧付与工程の終了条件が成立すると、締結工程は、ロータシャフト34の中空部343内における内圧(
図3Gの矢印R31、R32参照)を低下させる解除工程(ステップS5065)を含む。
【0087】
締結工程は、上述した解除工程(ステップS5065)中、各測定器500により検出される変位量や、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の各測定値を記憶する工程(ステップS5066)を含む。本工程(ステップS5066)は、上述した工程(ステップS5063)と内容自体は同じであってよい。ただし、変形例では、解除工程(ステップS5065)中における各種測定値の取得及び記憶処理は省略されてもよい。
【0088】
締結工程は、上述した解除工程(ステップS5065)中、解除工程の終了条件が成立したか否かを判定する工程(ステップS5067)を含む。本実施例では、一例として、解除工程の終了条件は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値が、一定圧力以下になった場合に満たされてもよい。
【0089】
このようにして解除工程(ステップS5065)は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値が、一定圧力以下になるまで継続される。
【0090】
解除工程の終了条件が成立すると、締結工程は、各測定器500により検出される変位量を、最終結果の変位量として記憶する工程(ステップS5068)を含む。なお、各測定器500により検出される変位量が、スプリングバック等により有意に変化する場合は、当該変化が実質的に終了した後の安定した変位量を、最終結果の変位量として記憶してよい。
【0091】
ついで、締結工程は、今回の締結工程において取得された各測定器500により検出される変位量のデータに基づいて、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代を評価する評価工程(ステップS5069)を含む。
【0092】
評価工程は、締結工程において内圧を高める前から内圧を高めて解除した後までの期間内における少なくとも2時点での変位量の測定結果に基づいて、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代を評価する工程を含んでよい。例えば、ステップS5068で得た最終結果の変位量と、ステップS5061で得た変位量(変位量のゼロ点)とに基づいて、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代を評価してもよい。
【0093】
ここで、変位量の基準点に対する最終結果の変位量の差分値は、締結工程に起因したロータコア32の外周面の径方向の変位量であり、締結工程に起因したロータコア32の径方向の変形量に相関する。例えば、測定点P501において、変位量の基準点に対する最終結果の変位量の差分値がα1であった場合、α1は、締結工程に起因したロータコア32の径方向の変形量であって、測定点P501での変形量に相関する。そして、締結工程に起因したロータコア32の径方向の変形量は、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代と相関する。すなわち、締結工程に起因したロータコア32の径方向の変形量が大きいほど、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代が大きい関係である。
【0094】
従って、本実施例では、一例として、ステップS5068で得た最終結果の変位量と、ステップS5061で得た変位量(変位量のゼロ点)との間の差分値に基づいて、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代を評価する。例えば、差分値が閾値TH1以上である場合、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されていると評価してもよい。この場合、閾値TH1は、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代に応じて適合される。閾値TH1は、測定点ごとに、値が異なりうる態様で設定されてもよい。
【0095】
なお、本実施例のように、複数の測定点P500、P501、P502が設定される場合は、複数の測定点P500、P501、P502のそれぞれにおいて、差分値が閾値TH1以上であるか否かが判定されてよい。そして、複数の測定点P500、P501、P502のそれぞれにおいて、差分値が閾値TH1以上である場合に、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されていると評価されてもよい。あるいは、複数の測定点P500、P501、P502のそれぞれの差分値に基づいて、ロータコア32全体としての差分値(例えば各差分値の平均値)を算出し、当該差分値が閾値TH1以上である場合に、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されていると評価されてもよい。
【0096】
また、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されているか否かは、他のパラメータに係る判定要素を加味して判定されてもよい。例えば、締結工程中に測定された内圧が目標圧力に向けて正常に上昇したか否かの判定結果が併せて加味されてもよい。この場合、締結工程中に測定された内圧が目標圧力に向けて正常に上昇し、かつ、複数の測定点P500、P501、P502のそれぞれにおいて、差分値が閾値TH1以上である場合に、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されていると評価されてもよい。あるいは、内圧付与工程(ステップS5062)中の径方向の変位量の増加態様や、解除工程(ステップS5065)中の径方向の変位量の減少態様が併せて考慮されてもよい。
【0097】
このようにして、本実施例によれば、締結工程中に検出されるロータコア32の径方向の変位量に基づいて、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されているか否かの評価を適切に行うことが可能となる。
【0098】
ところで、ロータシャフト34とロータコア32との間は、モータ1の回転トルクの伝達経路であるため、締結工程によりロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されたか否かを精度良く評価できることは有用である。
【0099】
特に、ハイドロフォーミングによるロータシャフト34とロータコア32との間の締結では、ロータシャフト34内の内圧について監視できるものの、ロータシャフト34の拡径量や、ロータシャフト34とロータコア32との間の締め代を直接的に測定することは難しい。
【0100】
この点、本実施例によれば、ロータシャフト34の拡径量や、ロータシャフト34とロータコア32との間の締め代を直接的に測定しないものの、これらのパラメータに相関性の高いパラメータとして、ロータコア32の径方向の変位量を測定する。これにより、ハイドロフォーミングを利用しつつ、ロータシャフト34とロータコア32との間の締め代を精度良く評価でき、その結果、締結工程によりロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されたか否かを精度良く評価できる。
【0101】
また、本実施例によれば、周方向の異なる3つの測定点P500、P501、P502が利用されるので、ロータシャフト34とロータコア32との間の締め代が周方向の位置で偏った場合でも、当該偏りを検出できる。なお、本実施例では、周方向の異なる3つの測定点P500、P501、P502が利用されるが、周方向の異なる4つ以上の測定点が利用されてもよい。
【0102】
なお、
図4に示した締結工程において、一部の工程は、コンピュータにより実現されてよい。例えば、測定器500にコンピュータ(図示せず)が接続され、コンピュータが、測定器500からの測定結果を処理することで、上述した差分値等が算出されてよい。また、測定器500により検出される変位量のデータは、測定器500内で記憶されてもよい。この場合、コンピュータが、適宜、測定器500から変位量のデータを読み出すことで、上述した処理を実現できる。
【0103】
次に、
図6を参照して、ロータコア32の径方向の変位量の測定点が軸方向の異なる複数の位置に設定される場合の、各測定点における閾値TH1の設定方法の好ましい例について説明する。
【0104】
図6は、ハイドロフォーミングによる内圧の増加に起因したロータシャフト34のバルジ変形の説明用の断面図である。
図6は、基準軸I
0を含む平面で切断した際の、基準軸I
0よりも径方向一方側の断面を概略的に示す。
【0105】
ところで、ロータシャフト34のような中空の部材をハイドロフォーミングの圧力(内圧)によって拡径させる場合、バルジ変形が生じやすい。具体的には、
図6に模式的に示すように、ハイドロフォーミングの圧力(内圧)に起因してロータシャフト34が拡径する際、
図6の状態S400から状態S401への変化で示すように、ロータシャフト34の径方向外側への変形の仕方(拡径量)が軸方向に沿って均一化しない。より具体的には、中央部の内径r40が端部の内径r41よりも大きくなる樽型のバルジ変形が生じやすくなる。このような樽型のバルジ変形が生じると、ロータコア32の軸方向端部での締め代が、軸方向の中央部よりも小さくなりやすい。
【0106】
この点を考慮して、ロータコア32の径方向の変位量の測定点が軸方向の異なる複数の位置に設定される場合、各測定点における閾値TH1は、ロータコア32の軸方向端部に近いほど小さく設定されてもよい。これにより、ロータシャフト34の変形態様に応じた適切な閾値TH1を用いて、締結工程によりロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保されたか否かを精度良く評価できる。
【0107】
次に、
図7を参照して、上述した締結工程(ステップS506)の他の例について説明する。
【0108】
図7は、上述した締結工程(ステップS506)の流れの他の一例を示す概略フローチャートである。
【0109】
図7に示す例は、上述した
図4に示した例に対して、ステップS5064がステップS5064Aで置換された点が異なる。
【0110】
具体的には、本実施例では、一例として、内圧付与工程(ステップS5062)の終了条件は、各測定器500により検出される変位量が閾値TH2を超えた場合に満たされる。この場合、内圧付与工程の終了条件は、各測定器500により検出される変位量のうちの一部が閾値TH2を超えた場合に満たされてもよいし、全てが閾値TH2を超えた場合に満たされてもよい。
【0111】
この場合、閾値TH2は、上述した閾値TH1よりも有意に大きくてよい。すなわち、各測定点に係る閾値TH2は、同測定点に係る閾値TH1よりも有意に大きくてよい。例えば、ある一の測定点に係る閾値TH2は、当該一の測定点に係る閾値TH1に対して、以下の通りであってよい。
閾値TH2=閾値TH1+D0+β
ここで、D0は、当該一の測定点に係る変位量であり、当該一の測定点についてステップS5061で得た変位量(変位量のゼロ点)である。βは、上述した解除工程(ステップS5065)により生じるスプリングバックに係る変位量に対応し、試験結果等に基づく固定値であってよい。
【0112】
図7に示す例によれば、上述した
図4に示した例と同様の効果が奏される。特に
図7に示す例によれば、内圧付与工程(ステップS5062)の終了条件が、各測定器500により検出される変位量に基づいて判断されるので、ロータシャフト34とロータコア32との間の必要な径方向の締め代が確保された段階で内圧付与工程を終了させることが可能となる。
【0113】
このように、内圧付与工程(ステップS5062)の終了条件は、ロータシャフト34の中空部343内の内圧の測定値、各測定器500により検出される変位量、及び/又は、内圧付与工程の実行時間に基づいて、判断されてもよい。
【0114】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0115】
例えば、上述した実施例では、ロータコア32の径方向の変位量に基づいて、ロータコア32の径方向の変形量を測定しているが、ロータコア32の周方向の変位量に基づいて、ロータコア32の径方向の変形量を測定してもよい。これは、ロータコア32の周方向の変位量が大きいほど、ロータコア32の径方向の変形量が大きくなる関係があり、双方のパラメータが相関するためである。この場合、ロータコア32の周方向の変位量は、例えばロータコア32の外周面に貼り付けられる歪ゲージ等により計測されてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1・・・モータ(回転電機)、32・・・ロータコア、34・・・ロータシャフト、200・・・製造装置