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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052747
(43)【公開日】2022-04-04
(54)【発明の名称】蓄熱材組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20220328BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C09K5/06 B
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152699
(22)【出願日】2021-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2020158088
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303030209
【氏名又は名称】株式会社ヤノ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 直達
(57)【要約】      (修正有)
【課題】迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能な蓄熱材組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄熱材組成物は、所定の温度範囲において固体と液体との間で相変化を行う固液相変化材と、水と、核形成材と、黒鉛粉末と、水の比重に近い比重を有し、水に濡れにくく、熱伝導率が高い微粉末と、を含有する。蓄熱材組成物は、更に、親水性増粘材を添加すると好ましい。蓄熱材組成物は、更に融点調整材を適宜添加しても構わない。これにより、迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能となる。本発明に係る蓄熱材組成物は、様々な分野における蓄熱資材に有用である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度範囲において固体と液体との間で相変化を行う固液相変化材と、
水と、
核形成材と、
黒鉛粉末と、
水の比重に近い比重を有し、水に濡れにくく、熱伝導率が高い微粉末と、
を含有する蓄熱材組成物。
【請求項2】
前記微粉末は、カーボンブラックである、
請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項3】
前記黒鉛粉末の濃度は、全蓄熱材組成物に対して0.5重量%~5.0重量%の範囲内であり、
前記黒鉛粉末と前記カーボンブラックとの混合比率は、重量比で1.0:0.2~1.0:5.0の範囲内である、
請求項2に記載の蓄熱材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の温度範囲における固体と液体との間の相変化(固液相変化)を利用して蓄熱(熱吸収)及び放熱(熱放出)を行う蓄熱材(潜熱蓄熱材、顕熱蓄熱材、蓄熱資材等)が知られている。蓄熱材は、例えば、多くの冷熱や温熱を必要とする建物(住宅やオフィスビル等)の冷暖房設備や工場の排熱回収設備等の様々な分野に幅広く利用されている。
【0003】
蓄熱材に関する技術として、例えば、特開平11-323319号公報(特許文献1)には、酢酸ナトリウム3水塩に、相分離防止材として親水性フュームドシリカ、親水性フュームドアルミナ及びカルシウム塩を配合した潜熱蓄熱材組成物が開示されている。これにより、長期に亘って融解-凝固のヒートサイクルを繰り返しても相分離が起こらないとしている。
【0004】
又、特開2000-63810号公報(特許文献2)には、一般式CaCl・nHO(ここでnは4.5~6.5)の組成を有する塩化カルシウム水和物100重量部に対し、多価アルコール10~35重量部と、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物(但し、塩化ストロンチウムと塩化バリウムを除く)の一種又は複数の1~30重量部と、塩化ストロンチウム及び/または塩化バリウム0.1~20重量部とを混合し、更に必要に応じてアタパルジャイト、ワラストナイト、セピオライトなどの繊維状鉱物の一種又は複数の0.1~20重量部を混合してなる潜熱蓄熱材組成物が開示されている。これにより、凝固点が比較的低温領域(5~25℃)にあり、空調用冷暖房システムの蓄熱材として使用できるとしている。
【0005】
又、特開2015-218212号公報(特許文献3)には、潜熱蓄熱物質(イ)を主成分とし、融点調整剤(ロ)、微細結晶生成作用および過冷却防止作用および増粘作用を有する相分離防止剤(ハ)および/または微細結晶生成作用を有する融点調整剤(ロ’)、過冷却防止剤(ニ)を必須成分として所定量配合した潜熱蓄熱材組成物であって、潜熱蓄熱物質と融点調整剤、相分離防止剤、過冷却防止剤を所定量配合して溶融混合冷却して得られる潜熱蓄熱材組成物が開示されている。これにより、常温-常圧下で柔軟性ないし流動性を有する微細な粒子の集合体を主成分として構成し、相分離せず、過冷却現象が発生せず、優れた蓄熱~放熱を安定して繰り返すことができ、流動可能な熱搬送媒体としても利用できるとしている。
【0006】
又、特開2016-108535号公報(特許文献4)には、糖アルコールと、過冷却安定化剤と、を含有し、過冷却安定化剤は、(i)20℃の水100mLに対する溶解度が9g以上であり、かつ、1価のアニオンである塩、(ii)塩をモノマーとするポリマー、又は(iii)20℃の水100mLに対する溶解度が9g以上であるアルコールをモノマーとする、7000~400万の分子量を有するポリマーである、蓄熱材組成物が開示されている。これにより、室温又は室温に近い温度で過冷却状態を安定的に保つことができるとしている。
【0007】
本出願人は、例えば、国際公開第2007/099798号(特許文献5)に、主成分として塩化カルシウムを含有する蓄熱材組成物であって、核形成材として塩化ストロンチウムと塩化バリウムとを含有し、且つ増粘材としてセルロース系材料を含有する蓄熱材組成物を開示している。これにより、常温を超えるような高温状態に何度も晒されるような条件下においても、劣化し難く、高い耐久性と耐熱性を有するとしている。
【0008】
又、本出願人は、特開2019-137854号公報(特許文献6)に、所定の温度範囲において固体と液体との間で相変化を行う固液相変化材と、水と、塩化ストロンチウムを主成分とする核形成材と、黒鉛粉末とを含有する蓄熱材組成物を開示している。これにより、迅速な固液の相変化を実現するとともに、繰り返し使用を可能となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-323319号公報
【特許文献2】特開2000-63810号公報
【特許文献3】特開2015-218212号公報
【特許文献4】特開2016-108535号公報
【特許文献5】国際公開第2007/099798号
【特許文献6】特開2019-137854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した固液相変化を利用した蓄熱材組成物では、通常、熱伝導率が全体として低いため、周囲環境からの蓄熱や周囲環境への放熱が迅速に行われ難く、蓄熱・放熱に時間が掛かるという課題がある。
【0011】
本出願人は、特許文献6に記載の技術のように、熱伝導率が高い黒鉛粉末を蓄熱材組成物に添加することで、蓄熱・放熱の時間を短縮するように試みている。
【0012】
しかしながら、黒鉛粉末の熱伝導率は良好であるものの、黒鉛粉末の比重が水の比重よりも高いため、黒鉛粉末を蓄熱材組成物に添加しても、黒鉛粉末が蓄熱材組成物の下方へ沈殿し、蓄熱材組成物の上方部分には、黒鉛粉末が存在しない状態となり、蓄熱材組成物の全体の熱伝導率の向上に繋がり難いという課題がある。これらの課題に対して、上述した特許文献1-6に記載の技術では解決することは出来ない。
【0013】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能な蓄熱材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る蓄熱材組成物は、所定の温度範囲において固体と液体との間で相変化を行う固液相変化材と、水と、核形成材と、黒鉛粉末と、水の比重に近い比重を有し、水に濡れにくく、熱伝導率が高い微粉末と、を含有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1と、比較例1-2の蓄熱材組成物の成分表である。
図2】5回目のヒートサイクルにおける実施例1と、比較例1-2の蓄熱材組成物の温度変化のグラフである。
図3】実施例2-3と、比較例1の蓄熱材組成物の成分表である。
図4】6回目のヒートサイクルにおける実施例2-3と、比較例1の蓄熱材組成物の温度変化のグラフである。
図5】実施例3-4と、比較例1の蓄熱材組成物の成分表である。
図6】6回目のヒートサイクルにおける実施例3-4と、比較例1の蓄熱材組成物の温度変化のグラフである。
図7】実施例4-7と、比較例1の蓄熱材組成物の成分表である。
図8】3回目のヒートサイクルにおける実施例4-7と、比較例1の蓄熱材組成物の温度変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0018】
本発明者は、所定の温度範囲において固体と液体との間で相変化を行う固液相変化材と、水と、核形成材と、黒鉛粉末と、を含有する蓄熱材組成物では、黒鉛粉末の熱伝導率が高いため{黒鉛の熱伝導率は約2000W/(m・K)、銅の熱伝導率は約400W/(m/K)}、蓄熱や放熱の速度がある程度向上することを確認している。ここで、黒鉛とは、グラファイトを意味する。
【0019】
しかしながら、蓄熱材組成物(水溶液)の比重は約1.5であり、黒鉛粉末の比重が約2.0であり、黒鉛粉末の比重が水の比重よりも高いことから、黒鉛粉末が蓄熱材組成物の下方へ沈殿し、蓄熱材組成物の上方部分には、黒鉛粉末が存在しない状態となり、蓄熱材組成物の全体の熱伝導率の向上に繋がり難いことが判明した。
【0020】
本発明者は、長年、上述の蓄熱材組成物について研究しており、水の比重に近い比重を有し、水に濡れにくく、熱伝導率が高い微粉末に着目し、後述する実施例に基づいて、本発明を完成させたのである。
【0021】
即ち、本発明に係る蓄熱材組成物は、所定の温度範囲において固体と液体との間で相変化を行う固液相変化材と、水と、核形成材と、黒鉛粉末と、水の比重に近い比重を有し、水に濡れにくく、熱伝導率が高い微粉末と、を含有する。これにより、迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能となる。
【0022】
つまり、微粉末を添加することで、微粉末が蓄熱材組成物の下方に沈降せずに、蓄熱材組成物の上方に滞留して均一に分散し、蓄熱材組成物の上方部分の熱伝導率を高める。一方、蓄熱材組成物に黒鉛粉末を添加すると、黒鉛粉末が蓄熱材組成物の下方に滞留して均一に分散し、蓄熱材組成物の下方部分の熱伝導率を高める。このように、黒鉛粉末と微粉末との組み合わせにより、蓄熱材組成物の全体の熱伝導率を高めることが出来るため、蓄熱材組成物の蓄熱・放熱の速度を速めることが可能となる。
【0023】
又、高温から低温へ下げた後に再度高温へ上げるヒートサイクルにおいて、蓄熱材組成物の融解と凝固を繰り返しても、黒鉛粉末と微粉末が固液相変化材への熱伝導の媒体となり、蓄熱材組成物の蓄熱・放熱が安定して行われ、過冷却現象を抑える。そのため、長期間の繰り返し使用も可能となる。
【0024】
ここで、固液相変化材の種類に特に限定は無いが、例えば、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等を挙げることが出来る。塩化カルシウムとは、周囲の環境の温度が変化することで、蓄熱材組成物中において、塩化カルシウム6水和物結晶(固体)と塩化カルシウム水液体(液体)との間を相変化する成分である。蓄熱材組成物の塩化カルシウムは、無水物(CaCl)やその水和物{CaCl・nHO(n=1~6)}を採用することが出来る。特に、塩化カルシウム二水和物は比較的入手し易く、好ましい。尚、蓄熱材組成物に添加される水の量は、塩化カルシウム6水和物の生成に必要な量であり、他の成分の添加による水の量の変化等により若干変動するが、1モルのCaClに対して6モル程度である。又、水の量は、塩化カルシウムとして水和物を用いた場合には、その水和物中の結晶水も含めて6モル程度である。
【0025】
尚、他の固液相変化材についても、相変化の温度範囲が異なるものの、所定の温度範囲において、塩化カルシウムと同様の相変化を行い、蓄熱及び放熱を生じさせる。これらの種類の固液相変化材は適宜組み合わせても良い。
【0026】
又、核形成材の種類に特に限定は無いが、例えば、塩化バリウム(BaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、硫化バリウム(BaS)等を挙げることが出来る。ここで、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、リン酸二水素ナトリウム、硫化バリウムは、水和物を形成するため、例えば、それぞれの無水物を用いても良いし、これらの化合物の水和物を用いても良い。又、その他の核形成材として、リン酸水素二ナトリウム12水和物(NaHPO・12HO)やフライアッシュ等を含有しても構わない。
【0027】
さて、黒鉛粉末における黒鉛の種類に特に限定は無いが、例えば、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、コークス、膨張黒鉛、球状黒鉛、特殊処理黒鉛、球状黒鉛、炭素繊維(カーボンファイバー)、カーボンナノチューブ等を挙げることが出来る。又、黒鉛粉末は、固液相変化材を含む水溶液中での分散性を向上させるために、親水性表面処理を施されると、好ましい。これらの種類の黒鉛粉末は適宜組み合わせても良い。
【0028】
又、黒鉛粉末の平均粒子径に特に限定は無いが、例えば、平均粒子径が5μm~20μmであると好ましく、平均粒子径が5μm~15μmであると更に好ましい。
【0029】
ここで、微粉末の種類に特に限定は無いが、例えば、カーボンブラックを挙げることが出来る。カーボンブラックの成分は、黒鉛粉末と同等であり、水に濡れにくく、熱伝導率に優れ、且つ、カーボンブラックの比重は、約1.8~1.9であるものの、カーボンブラックの見かけ比重は、微粉末で約0.04~0.08と極めて低い。そのため、蓄熱材組成物にカーボンブラックを微粉末として添加すると、カーボンブラックが蓄熱材組成物の上方に滞留して均一に分散し、蓄熱材組成物の上方部分の熱伝導率を高めることが出来る。
【0030】
ここで、カーボンブラックとは、天然ガス、炭化水素ガスの気相熱分解や不完全燃焼によって生成する微粉の球状又は鎖状の導電性物質を意味する。カーボンブラックの種類に特に限定は無いが、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等を挙げることが出来る。これらの種類のカーボンブラックは適宜組み合わせても良い。
【0031】
又、カーボンブラックの平均粒子径に特に限定は無いが、平均粒子径が10~100nmであると好ましく、平均粒子径が20nm~90nmであると更に好ましい。ここで、カーボンブラックの平均粒子径は、例えば、光子相関法(動的光散乱法)やレーザ回折/散乱法(静的光散乱法)を採用して測定することが出来る。
【0032】
又、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量に特に限定は無いが、DBP吸油量は、30ml/100g~200ml/100gであると好ましく、50ml/100g~150ml/100gであると更に好ましい。カーボンブラックのDBP吸油量は、例えば、JIS K 6217-4に基づいて測定することができる。
【0033】
微粉末は、カーボンブラックの他に、例えば、カーボンファイバを粉砕して、その粉砕物に表面処理を行って、撥水性を付与したものであっても良い。その他に、プラスチックや金属を粉砕して、その粉砕物に表面処理を行って、撥水性を付与したものであっても良い。
【0034】
又、黒鉛粉末と微粉末との合計の濃度が高い程、蓄熱材組成物中の黒鉛粉末と微粉末が相互に接触して、黒鉛粉末と微粉末のネットワークを形成し、蓄熱材組成物全体の熱伝導率を高めるため、好ましいが、黒鉛粉末と微粉末の合計の濃度が高すぎると、固液相変化材の融解と凝固に支障をきたす。そのため、例えば、黒鉛粉末と微粉末の合計の濃度は、全蓄熱材組成物に対して1重量%~10重量%であると好ましく、全蓄熱材組成物に対して2重量%~8重量%であると更に好ましい。
【0035】
又、黒鉛粉末の濃度に特に限定は無いが、例えば、全蓄熱材組成物に対して0.5重量%~5.0重量%の範囲内であると好ましい。更に、微粉末の濃度に特に限定は無いが、例えば、全蓄熱材組成物に対して0.5重量%~5.0重量%の範囲内であると好ましい。そして、黒鉛粉末と微粉末との混合比率に特に限定は無いが、例えば、重量比で1.0:0.2~1.0:5.0であると好ましく、重量比で1.0:0.5~1.0:2.5であると更に好ましい。又、微粉末の濃度は、黒鉛粉末の濃度以上であると好ましい。
【0036】
又、蓄熱材組成物は、更に、親水性増粘材を添加すると好ましい。親水性増粘材を添加することで、蓄熱材組成物中の水と親和し、蓄熱材組成物全体の粘度を増加させ、蓄熱材組成物の比重と黒鉛粉末の比重と微粉末の比重に微少な差異があるとしても、蓄熱材組成物中の黒鉛粉末と微粉末の偏析を抑え、黒鉛粉末を蓄熱材組成物の下方に均一に分散させるとともに、微粉末を蓄熱材組成物の上方に均一に分散させた状態で固定することが可能となる。そのため、蓄熱材組成物全体の熱伝導率を高い状態に保つことが可能となり、固液相変化材の固液相変化を迅速化し、固液相変化材の融解及び凝固の速度を速めることが出来る。
【0037】
ここで、親水性増粘材の種類に特に限定は無いが、例えば、PEG/PPG等の水溶性コポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒプロメロース(メチルヒドロキシエチルセルロース)等のヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースエーテル、セルロース誘導体、セルロースナノファイバー、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸塩等の架橋型アクリル酸系水溶性ポリマー、キサンタンガム、デュータンガム、多糖体、ポリアクリル酸ナトリウム、微粉末シリカ、シリカフラワー、珪藻土微粉末、グリセリン、寒天等を挙げることが出来る。これらの種類の増粘材は適宜組み合わせても良い。
【0038】
又、増粘材は、蓄熱材組成物中の水と親和してネットワークを形成し、粘度を増加させるため、増粘材の濃度は低くても効果を有するが、増粘材の濃度が高すぎると、固液相変化材の融解と凝固に支障をきたす。そのため、例えば、増粘材の濃度は、全蓄熱材組成物に対して0.1重量%~3.0重量%であると好ましく、0.1重量%~2.0重量%であると更に好ましい。ここで、微粉末がカーボンブラックである場合、カーボンブラック自体に増粘効果があるため、親水性増粘剤を添加しなくても構わない。
【0039】
又、蓄熱材組成物は、更に融点調整材を適宜添加しても構わない。ここで、融点調整材とは、固液相変化材の凝固点(融点)を降下させ、潜熱発生温度を変化させる降下材を意味し、例えば、臭化アンモニウム(NHBr)、塩化アンモニウム(NHCl)等を挙げることが出来る。具体的には、塩化カルシウム6水和物の潜熱発生温度は、その凝固点の約30℃であるが、蓄熱材の使用目的等に応じて、例えば、その凝固点を、20℃前後等、約30℃より低い温度に低下させたい場合がある。そのような場合、蓄熱材組成物に融点調整材を添加することで、蓄熱材組成物の固液相変化材の凝固点を意図的に低下させて、蓄熱材の使用目的に適合させることが出来る。融点調整材の濃度に特に限定は無く、例えば、全蓄熱材組成物に対して1.0重量%~20.0重量%に設定される。
【0040】
又、蓄熱材組成物の使用方法に特に限定は無いが、例えば、蓄熱材組成物を容器に充填・密封した物を蓄熱資材として使用する方法を挙げることが出来る。蓄熱材組成物の熱伝導率が高いため、容器の形状に特に限定は無く、例えば、板状、円柱状等、用途に合わせて適宜設計変更可能である。
【0041】
又、蓄熱材組成物の用途に特に限定は無く、例えば、冷暖房設備、工場の排熱回収設備、ビニールハウス等の農業関連設備、端末装置、携帯端末装置等の電子機器、自動車・バス等に利用される位置特定装置等の蓄熱資材として用いることが出来る。蓄熱資材の利用方法としては、昼間の周囲環境から蓄熱し、夜間の周囲環境へ放熱することで、熱エネルギーの有効利用を図ることが出来る。
【実施例0042】
以下に、本発明における実施例、比較例等を具体的に説明するが、本発明の適用が本実施例などに限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
固液相変化材(塩化カルシウム二水和物)(CaCl・2HO)を54.0重量%、融点調整材(臭化アンモニウム)(NHBr)を10重量%、水を25.5重量%、核形成材を4.5重量%、黒鉛粉末を2.5重量%、カーボンブラックを2.5重量%、親水性増粘材を1.0重量%に調整して蓄熱材組成物を製造した。融点調整剤の添加により、蓄熱材組成物の凝固点(融点)を18℃に設定した。
【0044】
ここで、核形成材は、塩化バリウム二水和物(BaCl・2HO)と塩化ストロンチウム二水和物(SrCl・2HO)とリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)を適度に混合した混合物を用いた。又、黒鉛粉末は、平均粒子径10.3μmの鱗状黒鉛を用いた。又、カーボンブラックは、ファーネスブラックを用いた。親水性増粘材は、セルロースエーテルとポリエチレングリコールとを適度に混合した混合物を用いた。この製造した蓄熱材組成物を実施例1とした。
【0045】
<比較例1>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末とカーボンブラックと親水性増粘材とを添加せずに、水の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を比較例1とした。
【0046】
<比較例2>
実施例1の蓄熱材組成物において、カーボンブラックを添加せずに、水の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を比較例2とした。尚、図1には、実施例1と、比較例1-2の蓄熱材組成物の成分表を示す。
【0047】
<評価方法>
実施例1と、比較例1-2の蓄熱材組成物について、各蓄熱材組成物の周囲温度を所定の時間で約35℃から約5℃まで下げた(冷却)後に、再び約5℃から35℃まで上げる(加熱)操作のヒートサイクルを所定回数繰り返すことで、各蓄熱材組成物の温度変化を測定した。
【0048】
<評価結果>
図2には、5回目のヒートサイクルにおける実施例1と、比較例1-2の蓄熱材組成物の温度変化のグラフを示す。図2に示すように、ヒートサイクルの冷却時において、実施例1の蓄熱材組成物では、比較例1-2の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの冷却温度が大きく、冷却速度が速くなっていることが理解される。
【0049】
一方、ヒートサイクルの加熱時において、実施例1の蓄熱材組成物では、比較例1-2の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの加熱温度が大きく、加熱速度が速くなり、グラフの立ち上がりが早くなっていることが理解される。
【0050】
<実施例2>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末の濃度を1.0重量%とし、カーボンブラックの濃度を1.0重量%とし、水の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を実施例2とした。
【0051】
<実施例3>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末の濃度を5.0重量%とし、カーボンブラックの濃度を1.0重量%とし、水の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を実施例3とした。尚、図3には、実施例2-3と、比較例1の蓄熱材組成物の成分表を示す。実施例2-3と、比較例1についても、上述と同様の評価方法で評価した。
【0052】
<評価結果>
図4には、6回目のヒートサイクルにおける実施例2-3と、比較例1の蓄熱材組成物の温度変化のグラフを示す。又、図4には、雰囲気温度と、実施例2-3の蓄熱材組成物の外観写真も併せて示した。図4に示すように、ヒートサイクルの冷却時において、実施例2-3の蓄熱材組成物では、比較例1の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの冷却温度が大きく、冷却速度が速くなっていることが理解される。
【0053】
一方、ヒートサイクルの加熱時において、実施例2-3の蓄熱材組成物では、比較例1の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの加熱温度が大きく、加熱速度が速くなり、グラフの立ち上がりが早くなっていることが理解される。尚、実施例2-3の蓄熱材組成物では、いずれも、水の分離が見られず、均一に分散していることが分かる。
【0054】
又、実施例3の蓄熱材組成物では、実施例2の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの冷却温度が大きく、冷却速度が速くなっていた。更に、実施例3の蓄熱材組成物では、実施例2の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの加熱温度が大きく、加熱速度が速くなっていた。つまり、黒鉛粉末の濃度が増加する程、冷却速度や加熱速度が良好になることが分かった。
【0055】
<実施例4>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末の濃度を1.0重量%とし、カーボンブラックの濃度を5.0重量%とし、水の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を実施例4とした。尚、図5には、実施例3-4と、比較例1の蓄熱材組成物の成分表を示す。実施例3-4と、比較例1についても、上述と同様の評価方法で評価した。
【0056】
<評価結果>
図6には、6回目のヒートサイクルにおける実施例3-4と、比較例1の蓄熱材組成物の温度変化のグラフを示す。又、図6には、雰囲気温度と、実施例4の蓄熱材組成物の外観写真も併せて示した。図6に示すように、ヒートサイクルの冷却時において、実施例3-4の蓄熱材組成物では、比較例1の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの冷却温度が大きく、冷却速度が速くなっていることが理解される。
【0057】
一方、ヒートサイクルの加熱時において、実施例3-4の蓄熱材組成物では、比較例1の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの加熱温度が大きく、加熱速度が速くなり、グラフの立ち上がりが早くなっていることが理解される。又、実施例4の蓄熱材組成物でも、水の分離が見られず、均一に分散していることが分かる。つまり、黒鉛粉末と同様に、カーボンブラックの濃度が増加する程、冷却速度や加熱速度が良好になることが分かった。
【0058】
<実施例5>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末の濃度を2.5重量%とし、カーボンブラックをサーマルブラックとし、カーボンブラックの濃度を2.5重量%とし、親水性増粘材を添加せずに、水の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を実施例5とした。
【0059】
<実施例6>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末の濃度を5.0重量%とし、カーボンブラックをサーマルブラックとし、カーボンブラックの濃度を1.0重量%とし、親水性増粘材を添加せずに、水の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を実施例6とした。
【0060】
<実施例7>
実施例1の蓄熱材組成物において、黒鉛粉末の濃度を1.0重量%とし、カーボンブラックをサーマルブラックとし、カーボンブラックの濃度を5.0重量%とし、親水性増粘材を添加せずに、水の添加量を調整した以外は、実施例1と同様にして調整して蓄熱材組成物を製造した。この製造した蓄熱材組成物を実施例7とした。尚、図7には、実施例4-7と、比較例1の蓄熱材組成物の成分表を示す。実施例4-7と、比較例1についても、上述と同様の評価方法で評価した。
【0061】
<評価結果>
図8には、3回目のヒートサイクルにおける実施例4-7と、比較例1の蓄熱材組成物の温度変化のグラフを示す。又、図8には、雰囲気温度も併せて示した。図8に示すように、ヒートサイクルの冷却時において、実施例4-7の蓄熱材組成物では、比較例1の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの冷却温度が大きく、冷却速度が速くなっていることが理解される。
【0062】
一方、ヒートサイクルの加熱時において、実施例4-7の蓄熱材組成物では、比較例1の蓄熱材組成物と比較して、単位時間当たりの加熱温度が大きく、加熱速度が速くなり、グラフの立ち上がりが早くなっていることが理解される。つまり、カーボンブラックの種類にかかわらず、黒鉛粉末とカーボンブラックの組み合わせにより、冷却速度や加熱速度が良好になることが分かった。又、カーボンブラック自体の増粘効果により、親水性増粘剤を添加しなくても、均一に分散させることが出来た。
【0063】
これにより、蓄熱材組成物に黒鉛粉末とカーボンブラックとを添加することで、迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能となることが分かった。
【0064】
尚、本発明における実施例、比較例等では、蓄熱材組成物の凝固点(融点)が18℃となるように、融点調整剤として臭化アンモニウムを添加して、評価を行ったが、融点調整剤を添加しなくても、同様の作用効果を有する。又、黒鉛粉末の燐状黒鉛を他の種類の黒鉛粉末に変更しても、同様の作用効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明に係る蓄熱材組成物は、様々な分野における蓄熱資材に有用であり、迅速な蓄熱・放熱が可能となるとともに、安定的に繰り返し使用が可能な蓄熱材組成物として有効である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8