(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052809
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】牛用鼻輪
(51)【国際特許分類】
A01K 15/00 20060101AFI20220329BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A01K15/00 A
A01K29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159266
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】李 根浩
(57)【要約】
【課題】種々の条件に基づき牛の異常状態を正確に判定することができる牛用鼻輪を提供する。
【解決手段】牛の鼻の両鼻腔を隔てる隔壁部Sを貫通して形成された孔Hに長手方向の一方端を挿通させ、該一方端と他方端とを連結することにより略環状を成す牛用鼻輪1であって、牛用鼻輪1に、牛の活動情報を取得する活動センサ5と、牛にかかるストレス因子の計測を行うために牛の周囲の気温や気圧、ガスセンサなどを用いた環境センサ6と、牛の体内の体温を測ることや牛の間質グルコース値を計測すること、血液の成分を採血することなどを可能とする体内センサ7と、を備えた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛の鼻の両鼻腔を隔てる隔壁部を貫通して形成された孔に長手方向の一方端を挿通させ、該一方端と他方端とを連結することにより略環状を成す牛用鼻輪であって、
前記牛用鼻輪は、牛の活動情報を取得する活動センサと、牛にかかるストレス因子の計測を行うために牛の周囲の気温や気圧、ガスセンサなどを用いた環境センサと、牛の体内の体温を測ることや牛の間質グルコース値を計測すること、血液の成分を採血することなどを可能とする体内センサと、を備えることを特徴とする牛用鼻輪。
【請求項2】
前記活動センサと前記環境センサとは、前記牛用鼻輪を構成する筐体に内蔵されていることを特徴とする請求項1に記載の牛用鼻輪。
【請求項3】
前記筐体には、前記活動センサと前記環境センサと前記体内センサの各計測データと、日時データと対応させる処理基板が内蔵されていることを特徴とする請求項2に記載の牛用鼻輪。
【請求項4】
前記体内センサは、牛の皮下に刺して利用される電極と、前記電極に連結され前記筐体の外周面に遊嵌するクリップ部とを有する端子部を具備していることを特徴とする請求項2または3に記載の牛用鼻輪。
【請求項5】
前記筐体は長手方向の端部が留め具により連結されており、前記環境センサは前記筐体のいずれか一方の端部側に偏在していることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の牛用鼻輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛の飼養管理にかかる情報を取得する牛用鼻輪に関する。
【背景技術】
【0002】
牛の飼育にあたり、牧場では、各牛の日常生活における健康状態の管理、及び分娩・発情、疾病といった牛の異常状態を監視する、飼養管理を行っている。詳しくは、適宜行われる体温測定や採血により健康状態を時系列的に記録するのが一般的であり、このような血液検査では、特定の成分を検証することで牛の異常状態を発見できることが知られている。例えば、血中のグルコースの数値は、特に分娩・発情、疾病といった牛の異常状態を検知できる成分として広く知られている。ただし、採血には時間も人手も必要であることに加え、牛にとってもストレスがかかることから、十分に期間を置いたタイミングで行われるのが通例であり、牛の異常状態を早期に発見する用途には最適とはいえない。
【0003】
牛の異常状態を発見する他の方法としては、牛の首に取り付ける首輪に活動センサを内蔵し、牛の行動をモニタリングできるようにし、モニタリングした行動と異常状態が疑われる際の行動パターンとを照会させ、分娩・発情、疾病といった牛の異常状態を検知する技術がある(例えば、特許文献1参照。)この技術では、牛の首に首輪を装着させる態様であるため、牛の行動を逐次モニタリングすることができ、牛の異常状態を早期に検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2019-122368号公報(第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、活動センサを用いて牛の行動をモニタリングする技術では、異常状態が疑われる際の行動パターンとの比較により牛の異常状態を判定するが、牛の行動には、前述の採血などによる体内情報からわかる健康状態や、飼育環境の気温や湿度などから計算できる不快指数THIなどの牛にかかるストレス因子が複合的に影響するため、これら他の要因が大きく影響する場合にあっては、牛の異常状態を正確に判定することができない虞がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、種々の条件に基づき牛の異常状態を正確に判定することができる牛用鼻輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の牛用鼻輪は、
牛の鼻の両鼻腔を隔てる隔壁部を貫通して形成された孔に長手方向の一方端を挿通させ、該一方端と他方端とを連結することにより略環状を成す牛用鼻輪であって、
前記牛用鼻輪は、牛の活動情報を取得する活動センサと、牛にかかるストレス因子の計測を行うために牛の周囲の気温や気圧、ガスセンサなどを用いた環境センサと、牛の体内の体温を測ることや牛の間質グルコース値を計測すること、血液の成分を採血することなどを可能とする体内センサと、を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、活動センサを用いて牛用鼻輪を装着した牛の行動をモニタリングして牛の異常状態を予見するとともに、当該牛の周囲の気温や湿度気圧などが引き起こす牛にかかるストレス因子と、当該牛の体温や間質グルコース値(ホルモン)や血液成分など牛の体内情報から牛の健康状態を確認することができ、牛用鼻輪が備える各センサから計測されたデータを複合的に用いることで、牛の異常状態を正確に判定することができる。
【0008】
前記活動センサと前記環境センサとは、前記牛用鼻輪を構成する筐体に内蔵されていることを特徴としている。
この特徴によれば、活動センサと環境センサとが牛用鼻輪を装着する際に邪魔にならない。
【0009】
前記筐体には、前記活動センサと前記環境センサと前記体内センサの各計測データと、日時データと対応させる処理基板が内蔵されていることを特徴としている。
この特徴によれば、各センサの計測データと日時とが一致し、これら計測データから複数の条件を適宜組み合わせて牛の健康状態の管理、異常状態の早期発見を正確に行うことができる。
【0010】
前記体内センサは、牛の皮下に刺して利用される電極と、前記電極に連結され前記筐体の外周面に遊嵌するクリップ部とを有する端子部を具備していることを特徴としている。
この特徴によれば、クリップ部を筐体の外周面に沿って移動させることで、牛の鼻内部における皮の薄い孔の近傍に電極を案内でき、確実に突き刺すことができる。
【0011】
前記筐体は長手方向の端部が留め具により連結されており、前記環境センサは前記筐体のいずれか一方の端部側に偏在していることを特徴としている。
この特徴によれば、環境センサが筐体のいずれか一方の端部側に偏在されることで、牛の鼻の外部に環境センサを位置させ、牛の周囲の気温や湿度を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例にかかる牛用鼻輪を示す斜視図である。
【
図2】牛用鼻輪を構成する筐体内部の収容空間内に収められた各種機器の配置関係を断面により示す概念図である。
【
図3】活動センサによって得られた牛の動きのグラフである。
【
図4】活動センサによって得られた牛の頭部の軌跡に関するデータを示すグラフである。
【
図5】(a)は、不快指数THIと初回人工授精受胎率との関係を示すグラフであり、(b)は、不快指数THIと子牛の平均疾病発生件数との関係を示すグラフである。
【
図6】頭絡により牛用鼻輪を牛に装着した状態を示す図である。
【
図7】体内センサの電極を牛の皮下に突き刺す様子を示す拡大図である。
【
図8】体内センサの端子部における脆弱部でクリップ部と本体部とを破断させた様子を示す拡大図である。
【
図9】本発明の実施例にかかる牛用鼻輪を用いた飼養管理システムの構成図である。
【
図10】飼養管理システムの表示画面を示す図である。
【
図11】牛の後頭部、鼻、耳にそれぞれ活動センサを取り付けた場合において取得した加速度を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る牛用鼻輪を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0014】
実施例における牛用鼻輪は、牧場で飼育される牛の健康状態の管理、特に発情や分娩、疾患などの異常状態を早期に発見することを目的として管理対象の牛に装着されて用いられる。発明者は、これまでの研究により、皮下の間質液中の糖濃度(間質グルコース値)の変動と、牛の行動パターンと、飼育環境の不快指数THIとが、発情や分娩、疾患などの異常状態の発生に関係していることを発見しており、更に、これらの条件を複合的に参酌することで、さらに正確に異常状態を判定することができることを見い出した。
【0015】
図1に示されるように、牛用鼻輪1は、樹脂製の略U字状を成す筐体2と、筐体2の両端部を連結する留め具3とを備えて構成されている。筐体2は両端部が閉塞された中空の円筒状を成し、留め具3は、筐体2の両端部を挿通させる貫通孔3a,3aと、貫通孔3a,3aに対して交差して連通する取付穴3b,3bを備えており、筐体2の両端部を貫通孔3a,3aに挿通させた状態で、取付穴3b,3bにピン4,4を差し込み、取付穴3b,3bを介してピン4,4の先端を筐体2に突き刺すことで、筐体2と留め具3とを環状に一体化した状態を保持することができるようになっている。
【0016】
図2に示されるように、筐体2は内部に収容空間2aを備え、この収容空間2a内には、活動センサ5、環境センサ6、体内センサ7、処理基板8、アンテナである送信手段9、電源となるバッテリー10、スイッチ11、タイマー25、タイマー用電池26が内蔵されている(
図2参照)。処理基板8は、活動センサ5、環境センサ6、体内センサ7で計測したデータを収集し、当該データを時間データと合わせて送信手段9により外部のコンピュータ31(
図9参照)に送信可能になっている。
【0017】
図2に示されるように、スイッチ11には、孔27が形成されており、この孔27は筐体2の取付穴3bに対応する位置に配設されている。ここでは詳述しないが、スイッチ11にはプッシュスイッチが内蔵されており、取付穴3bに差し込まれたピン4の先端が当該プッシュスイッチを押し下げると、バッテリー10の電力が活動センサ5、環境センサ6、体内センサ7、処理基板8、送信手段9に供給される。なお、タイマー25にあっては、タイマー用電池26によって常に電力が供給され、日時データの正確性が維持されている。
【0018】
活動センサ5は、物体の動き、傾き、振動などの度合いを計測することができる加速度センサである。活動センサ5を内蔵した牛用鼻輪1は牛の鼻に装着されるため、活動センサ5では牛の頭の動きを計測することができる。
【0019】
図3は、活動センサ5によって得られた牛の動きをグラフ化したものの一例であり、これにより、加速度の変化によって、牛が立っている状態と、横臥している状態とを判別することができる。また、牛の歩行などの各動作を監視することができる。また、この加速度の変化の周期によって、食餌や飲水を確認することができる。
【0020】
図4は、活動センサによって得られた牛の頭部の軌跡に関するデータの一例であり、この牛の頭部の左右上下方向の動作に基づき、食餌や飲水を確認することができる。更には、この牛の頭部の軌跡が、予め研究された所定の軌跡に相似する場合には、発情、分娩、疾病を疑うことができる。このように、活動センサ5から得られる情報によって、牛の健康状態の監視や、発情、分娩、疾病などの異常状態の早期発見が可能となる。
【0021】
環境センサ6は、筐体2内部に配置される装置本体12と、温度の変化によって電気の抵抗が変化するサーミスタを有する温度センサ13と、電極と感湿剤とを備えて湿度の変化により電気の抵抗が変化する電極と電極に接する感湿剤とを有する湿度センサ14と、を備えた機器である。
【0022】
温度センサ13と湿度センサ14との周囲には、筐体2に形成された開口2bから入り込んだ外気が満たされている。これにより、環境センサ6は、牛用鼻輪1が装着された牛の周囲の気温と、牛の周囲の湿度と、を計測することができる。また、処理基板8は環境センサ6で計測された気温と湿度とから不快指数THI(Temperature-Humidity Index)を演算することができる。
【0023】
図5(a)は、不快指数THIと初回人工授精受胎率との関係を示すものであり、不快指数に対応する環境ストレスの大きさが生産性を悪化させることが分かる。
図5(a)では、不快指数THIが60を下回ると、寒冷環境による環境ストレスが大きく、受胎率を下げることが分かる。
図5(b)は、不快指数THIと子牛の平均疾病発生件数との関係を示すものであり、不快指数に対応する寒冷環境による環境ストレスの大きさに伴い疾病の発生を増加させることが分かる。一方で、ここでは図示しないが、不快指数THIが極端に高い場合には、暑熱環境による環境ストレスにより、寄生虫感性症や消化器病が増加する傾向があること、肉用牛である場合には、日令体重を低下させることが分かっている。
【0024】
体内センサ7は、筐体2の内部に配置される装置本体15と、筐体2の外部に露出し装置本体15と伸縮自在なケーブル16により接続されている端子部17と、を備えた機器である。
【0025】
端子部17は、針状の電極18を有し、この電極18を皮下に刺すことにより皮下の間質液中の糖濃度(間質グルコース値)を持続的に測定し、1日の血糖変動を知ることができる。グルコースは牛にとって重要なエネルギー源であり、健康状態を把握する一手法としての代謝プロファイルテスト(MPT)の項目(例えばエネルギ-代謝関連項目)にて幅広く活用できる。
【0026】
また、分娩の24時間程度前から間質グルコース値は上昇し、12時間前から顕著に増加することが研究から判明されており、血糖変動から分娩予測を行うことができる。
【0027】
更に、下痢を引き起こした子牛は間質グルコース値が低下すること、ケトーシスを引き起こした牛は低血糖を示し難産や胎盤停滞が増加すること、がそれぞれ研究から判明されており、血糖変動から早期疾病診断を行うことができる。
【0028】
続いて、牛用鼻輪1の牛への取り付け態様について
図6と
図7を用いて説明する。
図6に示されるように、牛用鼻輪1は、牛の鼻の両鼻腔を隔てる隔壁部S(具体的には鼻柱や鼻中隔)を貫通して形成された孔H(
図8参照)に筐体2を挿通させ、筐体2の両端部を牛の鼻の両穴から露出させた状態で、筐体2の両端部に留め具3を固定させることで牛に取り付けられる。
【0029】
牛の頭部には、牛の鼻筋上から後頭部側に回されて頭絡20が固定される。そして、この頭絡20は牛用鼻輪1の留め具3に括り付けられることによって、牛用鼻輪1は、留め具3側が鼻の両穴よりも上方の鼻筋上に保持され、牛用鼻輪1が牛の鼻の隔壁部Sを貫通して形成された孔Hとの挿通方向の移動及び前後方向への回動がそれぞれ防止される。これによれば、送信手段9と環境センサ6とが確実に牛の鼻の外部に位置する状態が維持され、送信手段9の電波送信が阻害されないことに加え、環境センサ6によって牛の周囲の気温と湿度を正確に計測することができる。
【0030】
図1及び
図2に示されるように、体内センサ7は、装置本体15と、筐体2の外部に露出し装置本体15とケーブル16により接続されている端子部17とを備え、ケーブル16は筐体2の内側の壁部に形成された開口2cから引き出されて端子部17に接続されている。
【0031】
端子部17は、電極18を備える本体部19と、円筒状の筐体2の外周面に沿う内周面を有して筐体2の外周面に遊嵌されるC字状のクリップ部21と、を備えて構成され、これら本体部19とクリップ部21との接続部分は本体部19とクリップ部21よりも強度の弱い脆弱部22となっている。
【0032】
牛の皮下に体内センサ7を計測可能状態にする際には、
図7に示されるように、牛の鼻の孔Hに筐体2を挿通させた状態から、端子部17のクリップ部21を筐体2の外周面に沿って移動させ、電極18を孔Hの近傍の隔壁部S(具体的には鼻柱または鼻中隔)に突き刺す。このようにクリップ部21を筐体2の外周面に沿って移動させることで、牛の鼻腔における皮の薄い部位に電極18を容易に突き刺すことができる。
【0033】
電極18を牛の鼻内部に突き刺した後には、
図8に示されるように、脆弱部22でクリップ部21と本体部19とを破断させる。これにより、本体部19と筐体2とがケーブル16のみで接続された状態となり、筐体2や留め具3を引いて牛を移動させる際や、牛の頭部の動きによる筐体2の揺れが本体部19に伝達されず、電極18の破損を防止でき、電極18を牛の鼻内部に突き刺した状態を維持することができる。
【0034】
本実施例においては、牛用鼻輪1は複数の牛に取り付けられ、各牛用鼻輪1からのデータを一元的に管理する飼養管理システムにて利用される。
図9に示されるように、飼養管理システム30は、複数の牛用鼻輪1,1,…と、これら牛用鼻輪1,1,…と接続されるコンピュータ31とからなり、牛用鼻輪1の送信手段9が無線通信であることから、各牛用鼻輪1の送信手段9からの電波を受信できる受信機32が牛用鼻輪1,1,…とコンピュータ31との間に介在されている。
【0035】
牛用鼻輪1の処理基板8には、タイマー25が接続され、タイマー25の扱う日時データを受信するようになっており、処理基板8は予め設定された指定の日時にて、活動センサ5と環境センサ6、体内センサ7から取得した計測データを送信手段9によりコンピュータ31に送信する自己送信処理を行うようになっている。
【0036】
処理基板8は、活動センサ5と環境センサ6、体内センサ7からそれぞれ計測データを取得し、これらの取得時の日時データを計測データにそれぞれ対応付けた状態としてさらに個別の識別IDを付してコンピュータ31に送信する。また、環境センサ6から計測データを取得した場合、気温と湿度の計測データから不快指数THIを演算し、この不快指数THIも合わせて取得時の日時データと対応付ける。
【0037】
コンピュータ31は、各牛用鼻輪1,1,…から各計測データを受信すると、ディスプレイに
図10に示されるような表示画面33を表示する。
【0038】
図10のように、表示画面33は、行動パターン、頭部軌跡、気温、湿度、不快指数、血糖値のタブ34と、選択されたタブ34に対応する計測データを時系列的に表示するページ35と、を備えている。
図10では、不快指数THIのタブ34が選択され、不快指数THIの計測データを処理基板8で扱われる日時データに対応させてグラフ化されたものが表示されている。なお、ここでは図示しないが、他のタブ34が選択された際にも、同様に計測データを処理基板8で扱われる日時データに対応させてグラフ化されたものが表示される。
【0039】
このように、活動センサ5を用いて牛用鼻輪を装着した牛の行動をモニタリングして牛の異常状態を予見するとともに、環境センサ6により当該牛の周囲の気温や湿度などから不快指数THIが引き起こす環境ストレスと、体内センサ7により当該牛の間質グルコース値とから牛の健康状態を確認することができ、牛用鼻輪が備える各センサから計測されたデータを複合的に用いることで、牛の異常状態を正確に判定することができる。
【0040】
上述したように、全ての計測データは、同一の処理基板8で扱われる日時データに対応するため、行動パターン、頭部軌跡、気温、湿度、不快指数、血糖値の計測データと日時とが一致し、これら計測データから複数の条件を適宜組み合わせて牛の健康状態の管理、異常状態の早期発見を正確に行うことができる。
【0041】
また、表示画面33は複数のタブ34が選択可能に表示される、いわゆるマルチタブであるため、タブ34の選択により、瞬時に閲覧できるデータを切り替え、各種データを迅速に確認することができる。
【0042】
活動センサによって得られる計測データは、牛に取り付けられる位置によって、その正確性に差があることが分かった。例えば、
図11に示されるグラフでは、牛の後頭部、鼻、耳の3箇所にそれぞれ活動センサを取り付け、24時間で加速度を計測したものである。このグラフから、後頭部では加速度の増減が少なく、耳では加速度の増減が多きすぎることが分かった。これは、後頭部に取り付けられた活動センサでは頭部の動きを検出しにくいことが予想され、頭部の動きを含めた行動パターンを得られにくいという問題がある。また、耳に取り付けられた活動センサは、耳自体の揺れを検出してしまい、行動パターンを正確に得にくいという問題がある。
【0043】
これに対して鼻に取り付けられた活動センサでは、頭部の動きと別の揺れが発生し難く、頭部の動きを正確に検出できるため、頭部の動きを含めた行動パターンを確実に得られることが分かった。
【0044】
また、活動センサ5と環境センサ6とは、牛用鼻輪1を構成する筐体2に内蔵されているため、牛用鼻輪1を牛に装着する際の邪魔にならない。
【0045】
また、環境センサ6が筐体2のいずれか一方の端部側に偏在されることで、牛の鼻の外部に環境センサ6を確実に位置させ、牛の周囲の気温や湿度を正確に計測することができる。
【0046】
また、頭絡20は、牛用鼻輪1の留め具3に括り付けられることに加え、送信手段9は筐体2の一方の端部側に偏在されているため、頭絡20が送信手段9の電波を阻害しにくい。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内における追加や変更があっても、本発明に含まれる。
【0048】
例えば、体内センサは牛の血糖値に加えて体温を計測可能な構成であってもよい。
【0049】
また、前記実施例においては、環境センサ6で計測された気温と湿度とから、処理基板8によって不快指数THIとして算出される構成で説明したが、これに限らず、環境センサによって不快指数THIが演算される構成であってもよい。
【0050】
また、前記実施例においては、処理基板8が活動センサ5、環境センサ6、体内センサ7でそれぞれ計測されたデータにタイマー25の扱う日時データを対応付けて送信する態様で説明したが、これに限らず、例えば活動センサ5、環境センサ6、体内センサ7がそれぞれ日時データを扱うことができるようにし、別体のタイマー25を省略した構成としてもよい。
【0051】
また、前記実施例において処理基板8は、予め設定された指定の日時にて、活動センサ5と環境センサ6、体内センサ7から取得した計測データを送信手段9によりコンピュータ31に送信する自己送信処理を行う構成であるが、これに限らず、例えば処理基板に記憶媒体を備えさせ、予め設定された指定の日時にて記憶媒体に保存し、例えば日に一回のみ送信する態様としてもよい。なお、記憶媒体に外部に計測されたデータを抜き出す、出力ポートを備えた構成とすることで、送信手段9を省略した構成としてもよい。
【0052】
また、本実施例における牛用鼻輪1の形状は一例に過ぎず、多様な形状が考えられるが、例えば、留め具を用いずに筐体の端部同士を直接つなげる形状であってもよい。
【0053】
また、活動センサ5、環境センサ6のいずれか、またはいずれも筐体2の外に設置されてもよいし、これら活動センサ5、環境センサ6を留め具3に内蔵する構成としてもよい。
【0054】
また、飼養管理システム30としては、上述したような表示画面33により、各種計測データを閲覧できる構成に限らず、例えば各種計測データに基づき牛の異常状態を自動的に判定するプログラムを備え、判定した情報のみを閲覧可能に出力する構成としてもよい。
【0055】
また、体内センサ7の電極18は、牛の鼻内部に限らず、突き刺しやすい部分であれば、牛のどこに突き刺されて利用されてもよい。
【0056】
また、スイッチ11は、ピン4の挿入に連動するプッシュスイッチを備えた構成に限らず、例えば指で操作するシーソースイッチを備えた構成であってもよい。
【0057】
また、表示画面33はマルチタブの構成に限らず、分割画面に、行動パターン、頭部軌跡、気温、湿度、不快指数、血糖値をそれぞれ同時に表示する構成としてもよい。
【0058】
また、牛の活動を検知する活動センサは、加速度センサに限らず、例えば気圧センサやジャイロセンサーであってもよい。
【0059】
また、牛にかかるストレス因子の計測を行う環境センサは、牛の周囲の気温と湿度を計測する構成に限らず、例えば気圧を計測できる構成や牛の周囲のガスを計測するガスセンサを備えた構成であってもよい。
【0060】
また、体内センサは、間質グルコース値を計測する構成に限らず、牛の体内の体温を測る構成や血液の成分を採血する構成であってもよい。