(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052850
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】乳化香料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 9/00 20060101AFI20220329BHJP
C09K 23/14 20220101ALI20220329BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20220329BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20220329BHJP
B01F 25/42 20220101ALI20220329BHJP
【FI】
C11B9/00 B
C11B9/00 C
B01F17/14
B01J13/00 A
C11B9/00 S
B01F3/08 A
B01F5/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159344
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】518207351
【氏名又は名称】ライラックファーマ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷 道子
【テーマコード(参考)】
4D077
4G035
4G065
4H059
【Fターム(参考)】
4D077AA02
4D077AA09
4D077AB08
4D077AB11
4D077AC01
4D077BA01
4D077CA12
4D077CA18
4D077DC68X
4D077DC68Z
4G035AB37
4G035AB40
4G035AC06
4G065BA07
4G065BB01
4G065CA02
4G065DA01
4G065DA02
4G065EA03
4H059BA02
4H059BA12
4H059BA30
4H059BB45
4H059BC10
4H059BC23
4H059DA09
4H059EA35
(57)【要約】
【課題】ホモジナイザー等の機械的撹拌を使用せず、安定で、かつ添加剤の使用が不要となる乳化香料の製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流路内で乳化剤の有機溶媒溶液を水等で希釈して乳化剤を自己集合化及び粒子化させることで乳化液を調製する。この際に香料を例えば乳化剤溶液側に溶かしておけば乳化剤の粒子形成に伴って粒子内に香料が封入され乳化香料が得られる。希釈速度や希釈倍率を変えることで最初から狙った粒径の粒子を含む乳化香料を得ることができ、不安定な粒径の粒子の混在を抑制することができるため、結果的に安定な乳化香料を得ることが可能となる。またその結果、従来必須であった添加剤が不要となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化香料の製造方法であって、次の工程からなる製造方法。
工程1:乳化剤を含有する溶液1と溶液1を希釈する溶液2を調製する工程。
工程2:工程1の後又は工程1と同時に、香料を溶液1又は溶液2に配合する工程。
工程3:溶液1と溶液2をマイクロ流路内で接触させて溶液1を溶液2で希釈し乳化香料を調製する工程。
【請求項2】
マイクロ流路が2液混合のためのミキサー部分を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ミキサーがバッフルミキサーである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
調製した乳化香料を更に希釈する工程を含む、請求項1~3に記載の製造方法。
【請求項5】
調製した乳化香料の分散媒を別の分散媒に置き換える工程を含む、請求項1~4に記載の製造方法。
【請求項6】
乳化剤が1種類のみである、請求項1~5に記載の製造方法。
【請求項7】
乳化剤の一つがレシチンである、請求項1~6に記載の製造方法。
【請求項8】
香料が低分子化合物である、請求項1~7に記載の製造方法。
【請求項9】
香料が油溶性の低分子化合物を含有する、請求項1~8に記載の製造方法。
【請求項10】
油溶性の低分子化合物がゲラニオール、リモネン、酸化リナリルから選択される、請求項1~9に記載の製造方法。
【請求項11】
溶液1の希釈倍率が2~10倍である、請求項1~10に記載の製造方法。
【請求項12】
乳化香料に含まれる粒子の粒径が100nm以上300 nm以下である請求項1~11に記載の製造方法。
【請求項13】
次の成分のみからなる乳化香料。
1)香料
2)乳化剤
【請求項14】
乳化剤の種類が1種類のみである、請求項13に記載の乳化香料。
【請求項15】
乳化剤の一つがレシチンである、請求項13~14に記載の乳化香料。
【請求項16】
香料が低分子化合物である、請求項13~15に記載の乳化香料。
【請求項17】
香料が油溶性の低分子化合物を含有する、請求項13~16に記載の乳化香料。
【請求項18】
油溶性の低分子化合物がゲラニオール、リモネン、酸化リナリルから選択される、請求項13~17に記載の乳化香料。
【請求項19】
乳化香料に含まれる粒子の粒径が100nm以上300 nm以下である、請求項13~18に記載の乳化香料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ流路を使用した乳化香料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳化香料は油溶性香料を微粒化した乳化物であり高い水中分散性を有する。この特徴を利用することで、水分を含有する清涼飲料、低アルコール飲料、冷菓、ドレッシング、化粧品等に本来溶けにくい油溶性香料を配合することが可能となる。
【0003】
乳化香料の製造方法は、原料となる香料、乳化剤、及び乳化力や安定性を向上させるための添加材を混合し、ホモジナイザーを使用して機械的に撹拌し微細化するのが一般的である(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ホモジナイザーを使用する乳化方法のように、大径粒子を機械的に破壊して小径粒子を製造する方法では一般に粒径分布が広くなり熱力学的に不安定な粒径の粒子も混在することになるため、それら不安定粒子の凝集、融合等がきっかけとなって乳化状態の破壊が発生する。これを回避するために様々な添加剤が用いられているが、その結果、製造コストの増加が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2012/005347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ホモジナイザー等の機械的撹拌を使用せず、安定で、かつ添加剤の使用が不要となる乳化香料の製造方法を提供することである。本発明ではまた従来に無い乳化香料も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、課題解決の手段を鋭意検討した結果、マイクロ流路を用いる乳化方法に着目し、本発明に至った。
【0008】
マイクロ流路を用いた乳化方法では、エタノール等の有機溶媒に溶解した乳化剤溶液を水等の希釈用溶液で希釈し、その結果溶けきれなくなった乳化剤が自己集合して粒子を形成するプロセスを経て乳化を行う。この際に、香料を例えば乳化剤溶液側に溶かしておけば、乳化剤の粒子形成に伴って粒子内に香料が封入される。またこの時形成される粒子の粒子径は希釈速度や希釈倍率を変えることで変化させることが可能である。
【0009】
希釈速度や希釈倍率を変えることで最初から狙った粒径の粒子を含む乳化香料を得る本手法によって、不安定な粒径の粒子の混在を抑制することができるため、結果的に安定な乳化香料を得ることが可能となる。またその結果、従来必須であった添加剤が不要となる。
【0010】
以上を踏まえて、本発明は次の内容で構成される。
【0011】
1.乳化香料の製造方法であって、次の工程からなる製造方法。
工程1:乳化剤を含有する溶液1と溶液1を希釈する溶液2を調製する工程。
工程2:工程1の後又は工程1と同時に、香料を溶液1又は溶液2に配合する工程。
工程3:溶液1と溶液2をマイクロ流路内で接触させて溶液1を溶液2で希釈し乳化香料を調製する工程。
【0012】
2.マイクロ流路が2液混合のためのミキサー部分を有する、1に記載の製造方法。
【0013】
3.ミキサーがバッフルミキサーである、2に記載の製造方法。
【0014】
4.調製した乳化香料を更に希釈する工程を含む、1~3に記載の製造方法。
【0015】
5.調製した乳化香料の分散媒を別の分散媒に置き換える工程を含む、1~4に記載の製造方法。
【0016】
6.乳化剤が1種類のみである、1~5に記載の製造方法。
【0017】
7.乳化剤の一つがレシチンである、1~6に記載の製造方法。
【0018】
8.香料が低分子化合物である、1~7に記載の製造方法。
【0019】
9.香料が油溶性の低分子化合物を含有する、1~8に記載の製造方法。
【0020】
10.油溶性の低分子化合物がゲラニオール、リモネン、酸化リナリルから選択される、1~9に記載の製造方法。
【0021】
11.溶液1の希釈倍率が2~10倍である、1~10に記載の製造方法。
【0022】
12.乳化香料に含まれる粒子の粒径が100nm以上300 nm以下である1~11に記載の製造方法。
【0023】
13.次の成分のみからなる乳化香料。
1)香料
2)乳化剤
【0024】
14.乳化剤の種類が1種類のみである、13に記載の乳化香料。
【0025】
15.乳化剤の一つがレシチンである、13~14に記載の乳化香料。
【0026】
16.香料が低分子化合物である、13~15に記載の乳化香料。
【0027】
17.香料が油溶性の低分子化合物を含有する、13~16に記載の乳化香料。
【0028】
18.油溶性の低分子化合物がゲラニオール、リモネン、酸化リナリルから選択される、13~17に記載の乳化香料。
【0029】
19.乳化香料に含まれる粒子の粒径が100nm以上300 nm以下である、13~18に記載の乳化香料。
【発明の効果】
【0030】
本発明によって、添加剤等を使用せずとも安定な乳化香料の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1はマイクロ流路を使用した乳化香料の製造方法について装置構成の概略を示すものである。
【
図2】
図2はバッフルミキサーを備えたマイクロ流路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0033】
マイクロ流路
本発明に使用されるマイクロ流路は一般に流路幅及び深さが1000μm以下のものが使用される。流路の長さ方向はマイクロ流路内での希釈が十分に行える範囲で任意に設定される。
【0034】
材質は送液時の圧力によって大きな変形を起こさず、かつ使用する原料や溶媒に対して溶解や腐食等が生じないものであれば何でもよく、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)、COP(シクロオレフィンポリマー)、ガラス、金属などが使用できる。
【0035】
マイクロ流路には送液ポンプからの原料液を受け入れるためのインレット、及びマイクロ流路で形成された乳化香料を排出するためのアウトレットが設けられる。また乳化香料をさらに希釈するための希釈液を導入するための追加インレットを備えることもできる。
【0036】
インレットは乳化剤溶液を導入するためのインレット1と乳化剤溶液を希釈する溶液を導入するためのインレット2の合計2つが通常備えてあり、それぞれの溶液をそれぞれのインレットから導入後、マイクロ流路内で2液が接触するようにマイクロ流路は形成される。一般には
図1に示すようにY字型の流路形状をとるが、これに限定されない。
【0037】
マイクロ流路から排出された乳化香料には、乳化剤を溶解するための溶媒(通常はエタノールなどの有機溶媒)が分散媒部分に10~50%程度含まれる。この溶媒が形成した粒子の膜構造変化を誘起して粒子の凝集等を引き起こす懸念がある場合は、マイクロ流路から排出された乳化香料の分散媒を別の分散媒に置き換える工程を追加してもよい。分散媒を置き換える方法としては透析、ゲルろ過、限外ろ過などが例示されるがこれに限定されない。また分散媒を置き換える方法として、粒子の安定性に影響を及ぼさない分散媒を乳化香料に添加して乳化香料に含まれる分散媒成分を希釈する方法も含まれる。
【0038】
マイクロ流路には希釈速度を調節するためのミキサー構造が含まれていることが好ましい。ミキサー部分ではマイクロ流路内で液体が混合しやすいように流路表面への凹凸付与や流路方向の変化が加えられているのが一般的である。また好適なミキサー構造の1つとして、
図2に示すバッフルミキサー(流路内に邪魔板を配したミキサー)が本発明で使用できる。
【0039】
送液ポンプ
本発明にてマイクロ流路に乳化剤溶液及び希釈液等を導入するための送液ポンプに特に制限は無いが、マイクロ流路内での希釈状態を一定にするために、脈流が少ないタイプのポンプの使用が好ましい。脈流が少ないポンプとしては例えばシリンジポンプが例示される。
【0040】
ポンプの送液量(流量)は乳化香料が得られる範囲で任意に設定してよい。一般的には総流量で0.1~100mL/minの範囲で設定されるがこれに限定されない。また乳化剤溶液と希釈溶液の流量比を調節して、乳化剤溶液の希釈倍率を変更してもよい。一般的な希釈倍率として2~10倍程度が設定されるがこれに限定されない。ただし希釈倍率が低い場合は乳化剤を溶解するための溶媒が乳化香料に多量に含まれることになり粒子の不安定化を引き起こす場合がある。一方、希釈倍率が高い場合は乳化香料に含まれる粒子の濃度が低くなるためその後の濃縮工程が必要になる場合がある。以上の点を踏まえて、希釈倍率は適宜設定される。
【0041】
乳化剤
本発明に使用される乳化剤は希釈溶媒によって希釈されることで自己集合し粒子形成するものであれば特に制限はない。乳化香料は一般に水中分散性が求められるため、水中で自己集合し粒子形成するものが通常用いられる。またその用途から可食性のものが通常用いられ、これらに適合する乳化剤の例としてはレシチンが挙げられる。
【0042】
例えば医薬品として用いられる乳化品では、乳化剤の他に、体内動態改善等を意図した添加剤を加えるのが通常であり先行技術でも多数見受けられる。しかし乳化香料については乳化状態が安定であればその用途から添加剤は必ずしも必要ではない。本発明では1種類の乳化剤のみからなる乳化香料の製造方法も開示しているが、従来技術に鑑みれば「1種類の乳化剤のみからなり且つ安定性を有する乳化香料」の製造は困難であり、また医薬品等用途の先行技術から本発明の動機付けは困難である。
【0043】
希釈溶液
本発明に使用される希釈溶液は、乳化剤溶液との混合によって乳化剤の自己集合が促され粒子化するものであれば特に制限はない。乳化香料は一般に含水品に添加されるため、当該品に添加しやすいように希釈溶液として水が選択されることが多いが、これに制限されない。
【0044】
香料
本発明に使用される香料は一般に油溶性の香料が使用され、ゲラニオール、リモネン、酸化リナリルなどが例示されるがこれに限定されない。なお本発明の製法では水溶性香料の封入も可能であり、その場合は希釈溶液を水とし、当該希釈溶液に水溶性香料を添加することで水溶性香料を封入した乳化香料を形成できる。
【0045】
香料の分子量は特に制限されないが、特に分子量が500以下の低分子香料が好適であり、分子量200以下の低分子香料が更に好適である。香料は単一化合物でもよく、また天然物由来香料のように複数の成分が含有されているものでもよい。
【実施例0046】
リモネン含有乳化香料の製造
リモネン(分子量136.23)と大豆由来レシチンをエタノールで溶解し、マイクロ流路で水と1:3(エタノール:水)の比率で混合して乳化香料(エタノール25%含有)を得た。マイクロ流路はマイクロ流路チップiLiNP1.0(ライラックファーマ株式会社)と同一形状のバッフルミキサーを使用した。得られた乳化香料は乳白色で沈殿や浮遊物の無い均一な乳化液であった。更に得られた乳化香料を透析し分散媒を水に置換したもの(透析後乳化香料)も作製した。