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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052948
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】移動プラットフォーム
(51)【国際特許分類】
   A01B 39/18 20060101AFI20220329BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20220329BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20220329BHJP
【FI】
A01B39/18 Z
A01B69/00 303B
G05D1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159493
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】714000024
【氏名又は名称】西野 貴幸
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釜道 紀浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 明生
(72)【発明者】
【氏名】西野 貴幸
【テーマコード(参考)】
2B034
2B043
5H301
【Fターム(参考)】
2B034AA07
2B034BA01
2B034BA05
2B034BB02
2B034BB08
2B034BC03
2B034BG01
2B034BG02
2B034BG05
2B034HA12
2B034HB01
2B034HB23
2B034HB27
2B034HB46
2B043AA04
2B043AB15
2B043BA09
2B043BB07
2B043DC03
2B043EA23
2B043EA35
2B043EB18
2B043EB22
2B043EB28
2B043EC12
2B043EC13
2B043EC14
2B043EC16
2B043ED12
2B043ED14
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG09
5H301LL01
5H301LL06
5H301LL11
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、作物株が植えられた圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行するとともに、作物株を回避して条間および株間の雑草を掃討する移動プラットフォームを提供する。
【解決手段】圃場10の畝もしくは条を回避して畦を走行する移動プラットフォーム100であって、移動プラットフォームが、操舵手段140と、畝もしくは条を挟む複数の畦間の土壌に接地しながら移動プラットフォームの幅方向を往復移動する掃討手段150と、走行方向前方の土壌表面を撮像する撮像手段110と、撮像手段が取得した画像から予め設定された対象物を認識し、畝もしくは条にある該対象物の位置を記憶する画像処理手段と、対象物の位置を回避するように、走行方向を設定して操舵手段に指示するとともに、移動プラットフォームの走行速度に応じて掃討手段の幅方向への往復移動の速度を設定する制御手段130と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行する移動プラットフォームであって、
前記移動プラットフォームが、
操舵手段と、
前記畝もしくは前記条を挟む複数の前記畦間の土壌に接地しながら前記移動プラットフォームの幅方向を往復移動する掃討手段と、
前記走行方向前方の前記土壌表面を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が取得した画像から予め設定された対象物を認識し、前記畝もしくは前記条にある該対象物の位置を記憶する画像処理手段と、
前記対象物の位置を回避するように、前記走行方向を設定して前記操舵手段に指示するとともに、前記移動プラットフォームの走行速度に応じて前記掃討手段の幅方向への往復移動の速度を設定する制御手段と、を備えることを特徴とする移動プラットフォーム。
【請求項2】
前記移動プラットフォームは、少なくとも3以上の車輪を備えた車両であり、
該車輪が前記対象物を迂回するように前記走行方向が設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の移動プラットフォーム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記畝もしくは前記条に延在する複数の前記対象物の株間が所定値以下であるとき、前記掃討手段の前記往復移動を停止する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の移動プラットフォーム。
【請求項4】
前記対象物が、葉物野菜である、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の移動プラットフォーム。
【請求項5】
前記掃討手段の前記土壌と接地する端部は、前記土壌の状態に応じて交換できる、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の移動プラットフォーム。
【請求項6】
前記掃討手段を複数備える、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の移動プラットフォーム。
【請求項7】
全球測位衛星システムを備える、ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の移動プラットフォーム。
【請求項8】
通信装置を備える、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の移動プラットフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物株が植えられた圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行するとともに、作物株を回避して条間の雑草を掃討する移動プラットフォームであり、例えば、露地ものの葉物野菜圃場の移動除草装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、葉物野菜の需要が拡大しており、国内生産の安全・安心な野菜が安定した価格で消費者の食卓や飲食店に並ぶことが大きく望まれている。しかし、農業全般において農業従事者の高齢化や労働力不足が深刻化しており、概ね10年弱後に大量離農が懸念される状況にあり、また、農業という業界全般が経験則などを基にした、言わば「伝承」に近い継承法に依存していることから、若者の就農促進や新規参入者への技術の継承難・定着難が大きな問題となっている。さらに気候・気象の急激な変化等も相まって、野菜の価格が乱高下し、生産者は不安を抱える状況にある。農作業は、現状において手作業に頼らざるを得ない作業も多く、省力化や効率化が喫緊の課題である。
【0003】
このような問題に直面し、国内への葉物野菜の安定供給、および、国内外への競争力強化のための施策として、大規模・高効率・高品質化を目指し、さらには、将来の輸出の増加も見据えて、ロボット技術やICTを活用する新たな農業(スマート農業)の実現を目指した取り組みがなされている。平成28年11月29日に農林水産省・地域の活力創造本部にて決定された農業競争力強化プログラムにおいては、ICTやロボット技術等を活用した現場実証型の技術開発の推進が重要視されている。
【0004】
本発明者等は、農業従事者の減少や高齢化、また、個人経営から法人化による経営体の変化や産業構造を大きく変える6次産業化など、農業が大きく変遷する中で農業の競争力を高めるための効率化・省力化をねらいとして研究開発を進めている。そして、本発明者等は、農業ロボットのニーズを持つ生産者とモノづくり企業とのマッチングを通じて新たな製品開発の創出につなげるべく、現場のニーズヒアリングの分析とテーマ別検討、構想案の策定を行ってきた。
【0005】
現場のニーズヒアリングの分析とテーマ別検討、構想案の策定を進めていく過程で、社会の環境意識の高まりから有機農業への転換を余儀なくされる中で、3K作業の除草は簡便な薬品での対応ができないことが明らかになった。しかし、人手による作業は人手不足の中、対応が難しく農業規模の拡大を妨げている。雑草の成長後は除草が難しくなるため成長前の段階で株間も含め自律的に除草するロボットが必要とされていることが判明した。
【0006】
一方、農業の省力化、自動化に伴い、最新のメカトロニクスやAIを利用した除草を目的としたロボット技術が開発されている。例えば、稲株等の作物株の条間及び株間を機械的に除草する除草装置において、除草作業のたびにデータ入力する必要がなく、低コストで、作物株に対する除草手段の除草操作を自動的に回避する技術が開示されている(特許文献1参照)。同様に、自律走行によって作物の条間の除草作業ができ、低コストで製造可能な電動作業車両が提案されている(特許文献2参照)。さらに、圃場の状態を撮像して、詳細な画像解析により、作物株と雑草とを識別する技術が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-146748号公報
【特許文献2】特開2014-51号公報
【特許文献3】国際公開第2018/208947号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された除草作業ができる電動作業車両は、作物の条間の除草作業を行えるが、作物の株間にある雑草を除去することは困難であった。特許文献2に開示された除草装置は、条に沿うように回転部材を移動させることで、株間の除草を行うことを可能にしているが、一つの条に二つの駆動源を有する回転部材を備えるため、サイズ・コストが大きくなる可能性があった。また、非接触センサおよび接触センサによって、株間の位置情報を認識することから、先の回転部材の作動制御の計算負荷が高くなるおそれがあるとともに、誤認識等によって、作物に損傷を与える、もしくは雑草を除去できないことが発生する可能性があった。特許文献3に開示された技術は、詳細かつ高度な画像認識技術であるが、装置の大型化、複雑化、コスト大となるおそれがあった。
【0009】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものである。すなわち、成長前の段階で株間も含め自律的に除草するために、簡易な構成で、作物株が植えられた圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行するとともに、作物株を回避して条間および株間の雑草を掃討する移動プラットフォームであり、例えば、露地ものの葉物野菜圃場の移動除草装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行する移動プラットフォームである。本発明の一態様である移動プラットフォームは、操舵手段と、前記畝もしくは前記条を挟む複数の前記畦間の土壌に接地しながら前記移動プラットフォームの幅方向を往復移動する掃討手段と、前記走行方向前方の前記土壌表面を撮像する撮像手段と、前記撮像手段が取得した画像から予め設定された対象物を認識し、前記畝もしくは前記条にある該対象物の位置を記憶する画像処理手段と、前記対象物の位置を回避するように、前記走行方向を設定して前記操舵手段に指示するとともに、前記移動プラットフォームの走行速度に応じて前記掃討手段の幅方向への往復移動の速度を設定する制御手段と、を備える。
【0011】
はじめに、本発明の一態様における用語を説明する。畝(うね)とは、野菜の種をまいたり、野菜の苗を植えたりする時に土を盛って地面より高くするものであり、これを「畝を作る」という。畦(あぜ)とは、畝と畝の間のこといい、人や移動プラットフォーム等が通るための通路となる。作物を植えつけた列を条(じょう)と呼び、条と条の間隔を条間と呼ぶ。なお、条間は、一つの畝に2列の種を蒔いたときには、列と列の幅になる。株間とは、畝に苗を植えたとき、苗と苗の間隔となる。
【0012】
前記構成は、移動プラットフォーム走行方向の前方を撮像することで、対象物である作物株及びその作物株に基づき圃場の畝もしくは条を画像認識して、作物株を損傷させないように移動プラットフォームを走行させることができる。さらに、移動プラットフォームの横方向(進行方向に向かって水平の直角方向)を往復移動する除草のための掃討手段を、作物株の画像認識を利用して作物株を回避するように移動させることができる。
【0013】
前記構成によれば、走行方向と走行と直角方向への移動を組み合わせることで、例えば八の字状の軌跡等、直線と曲線の軌跡を自在に実現し、対象物である作物株を損傷させることなく、条間、株間の雑草を除去することができる。そして、この構成では、従来技術と比べて、掃討手段を駆動させるためのモータ、電源等の構成を少なくできるため、簡易な構成によるコンパクト化、エネルギ消費量の減少による長時間の駆動、低コスト化を実現させることができる。
【0014】
背景技術で記載したように、近年、収穫物の認識や自律走行機能を有する除草ロボットが研究・開発されているが、除草機能を牽引するものは、株間除草ができず、3割程度の限られた面積しか除草できなかった。そして、収穫物を認識して除草するものは、比較的大型で、かつ、導入コストが高額であり、認識精度の向上や作業時間の短縮が課題であった。例えば、小松菜などの条間が狭く高密度で栽培する圃場において株間除草を実現するためには、小型でシンプルな構造の自動ロボットが必要であり、前記構成の技術はこれらの課題を実現するものである。
【0015】
前記した本発明の一態様において、前記移動プラットフォームは、少なくとも3以上の車輪を備えた車両であり、該車輪が前記対象物を迂回するように前記走行方向が設定される構成することができる。
【0016】
前記構成によれば、例えば3輪の移動プラットフォームでは、高速走行における安定性を考慮する必要が無く、小回りが利くとともに、部品点数を少なくすることができる。また、4輪以上の移動プラットフォームでは、走行安定性を向上させるとともに移動プラットフォーム上に搭載する機器の重量を増加させることができる。操舵手法については、操舵輪に舵取り機構を設けても良いし、例えば、3輪の移動プラットフォームであって、並行して備えられた2輪の駆動輪のそれぞれを独立に駆動することで操舵するようにしても良い。
【0017】
なお、それぞれの車輪は畦を走行するものとし、例えば3輪の移動プラットフォームであれば、二つの畝もしくは条を挟んだ外側の畔に並行して備えられた2輪の駆動輪が回転走行し、中央の畔には移動プラットフォームのバランスをとるべく備えられた非駆動車輪が自在な操舵を実現させるように回転走行するようにすることができる。
【0018】
前記した本発明の一態様において、前記制御手段は、前記畝もしくは前記条に延在する複数の前記対象物の株間が所定値以下であるとき、前記掃討手段の前記往復移動を停止する構成とすることができる。
【0019】
移動プラットフォームが走行する畝は、道路のように平坦ではなく、多くの凹凸が存在する。この畝を移動プラットフォームは、多少左右にブレながら走行することが想定される。本発明においては、移動プラットフォームの走行方向と、この走行方向と直角に移動する掃討手段との組み合わせで、除草する軌跡を設定している。したがって、株間の間隔が狭い場合には、移動プラットフォームの左右のブレによって、掃討手段が作物株を損傷させるおそれがある。前記構成によれば、株間の間隔が畝の状況や、移動プラットフォームの走行速度を考慮して、所定値以下であれば、掃討手段の往復移動を停止して、作物株の損傷を防止する。
【0020】
前記した本発明の一態様において、前記対象物が、葉物野菜である構成とすることができる。
【0021】
前記構成によれば、例えば、小松菜やホウレンソウなどの葉物野菜に本発明の一態様を適用することができる。小松菜を例にとると、適度な収量を得るために人間が踏み込めるスペース以下の狭い株間で栽培されるため、雑草を除草できない他、株間に生える雑草を手で取り除く作業が非常に手間となっており、大量繁殖の場合は、半ば繁殖エリアを捨てることもままならない。栽培初期段階での雑草繁殖は、栄養分が取られ、生育不良や、出荷時期に大きさが不揃いとなり問題となる。本発明の一態様のように、簡易な構成によるコンパクト化、エネルギ消費量の減少による長時間の駆動、低コスト化とすることで、一般的な露地もの葉物野菜の栽培における除草作業に好適となる。
【0022】
前記した本発明の一態様において、前記掃討手段の前記土壌と接地する端部は、前記土壌の状態に応じて交換できる構成とすることができる。
【0023】
前記構成によれば、圃場の土壌に応じて掃討手段の土壌接地部分を交換することで、除草作業の効率を向上させることができる。なお、端部は、例えば、熊手状の爪や、先端がギザギザとなった平板や、土壌に応じて材質を変えたブラシ等を適用することができる。
【0024】
前記した本発明の一態様において、前記掃討手段を複数備える構成とすることができる。
【0025】
前記構成によれば、横方向に移動する掃討手段を複数備えることで、一つ一つの掃討手段の移動ストロークをより小さくすることができ、除草する軌跡をより確実にするとともに、作物株を誤って損傷させる危険性を減少させることができる。
【0026】
前記した本発明の一態様において、全球測位衛星システムを備える構成とすることができる。
【0027】
前記構成によれば、全休測位衛星システム(GPS)と、別途圃場のマップとを組み合わせることにより、移動プラットフォームの自律運転を実現することができる。
【0028】
前記した本発明の一態様において、通信装置を備える構成とすることができる。
【0029】
前記構成によれば、移動プラットフォームを遠隔操作することができるとともに、異常発生等の情報を取得することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、簡易な構成で、作物株が植えられた圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行するとともに、作物株を回避して条間および株間の雑草を掃討する移動プラットフォームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る移動プラットフォーム外観の説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る移動プラットフォームの除草プロセスを示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る移動プラットフォームの掃討手段の一実施例の説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る移動プラットフォームの動作説明図である。
図5】本発明が適用される圃場の一例の説明図である。
図6】本発明の一実施形態に係る画像認識の一実施例を示した説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る除草プロセスの一実施例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の移動プラットフォームに係る好適な実施形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0033】
本発明に係る一態様である、圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行する移動プラットフォームは、操舵手段と、前記畝もしくは前記条を挟む複数の前記畦間の土壌に接地しながら前記移動プラットフォームの幅方向を往復移動する掃討手段と、前記走行方向前方の前記土壌表面を撮像する撮像手段と、前記撮像手段が取得した画像から予め設定された対象物を認識し、前記畝もしくは前記条にある該対象物の位置を記憶する画像処理手段と、前記対象物の位置を回避するように、前記走行方向を設定して前記操舵手段に指示するとともに、前記移動プラットフォームの走行速度に応じて前記掃討手段の幅方向への往復移動の速度を設定する制御手段と、を備える構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0034】
発明者等は、本発明を創出するにあたり、露地もの野菜に係る農業の現状を調査している。この調査によって、以下に示す重点となるいくつかの要望が抽出された。すなわち、1)ロボット化(自動化)の要望が高いのは除草、出荷工程である、2)当初予想した防除(除草剤散布)や散水に対する要望は少ない、3)除草は作物の違いや、雑草の違いによりそれぞれ異なる可能性がある、4)出荷も作物により異なるが省人化効果の出る作業に対応する必要がある、5)ロボットは小型軽量で軽4輪に積載できるサイズ・重さで有って欲しい、6)栽培する作物(植物)の「科目」と雑草の「科目」が一致すると作物及び雑草の両方が死滅するため農薬が使えない、旨の要望が抽出されている。そこで、農業現場の要望に適合した製品開発であること、省力化・効率化に資する性能・機能を実現可能であること、小規模、あるいは分散圃場でも使いやすい小型・軽量構成で実現可能なシステムであること、を考慮して、発明者等は本発明に係る除草機能を備えた移動プラットフォームに係る技術を創出した。
【0035】
<移動プラットフォームの説明>
以下、本発明の実施形態に係る移動プラットフォームについて図1図4を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る移動プラットフォーム外観の説明図である。図2は、本発明の一実施形態に係る移動プラットフォームの除草プロセスを示すブロック図である。図3は、本発明の一実施形態に係る移動プラットフォームの掃討手段の一実施例の説明図である。図4は、本発明の一実施形態に係る移動プラットフォームの動作説明図である。
【0036】
まず、図2のブロック図を参照すると、本実施形態に係る移動プラットフォーム100は、撮像手段110と、画像処理手段120と、制御手段130と、操舵手段140と、掃討手段150と、を備えている。これらの各手段は図1の機体101内に搭載、もしくは、撮像手段110や操舵手段140の一部のように機体101に備え付け、または装着されている。
【0037】
撮像手段110は、図1の矢印方向に進行する移動プラットフォーム100の走行方向前方の表面(例えば、圃場の土壌表面)を撮像する。撮像手段110には、撮像装置112や図示しないドライバ等が含まれる。撮像装置112には、CCDイメージセンサ等の撮像素子を適用することができる。検出する光線は、可視光、赤外光など、撮像する状況に応じて選択することができる。例えば、赤外光、特に近赤外光を適用すれば、外部からの光源が少ない場面であっても、照準を定めるための画像を取得することができる。
【0038】
画像処理手段120は、撮像手段110が取得した画像から予め設定された対象物(例えば図4に示す対象物P)を認識し、対象物Pの位置を記憶する。画像処理手段120には、画像処理部122及び画像処理部122の処理結果に基づき移動プラットフォーム100の前方表面のマップを作成するマップ作成部124が含まれる。
【0039】
画像処理部122は、撮像装置112の情報をもとに対象物Pの株位置・列を正確に認識する。認識にあたっては、ディープラーニング等のAI技術と画像処理を用いて、対象物Pである作物株と雑草(例えば図5、7の雑草W)を判別し、作物の中心位置を出力する認識システムを適用することができる。
【0040】
ここで、従来は、画像認識・AI搭載型により、・機器の大型化・高額化・作業時間増加等の課題があり、かつ本発明の目的の一つとする条間・株間除草を実現することは困難であった。そこで、本発明では、AI化により熟練者レベルの作業実現、画像認識・AIの最適化や組み込み技術を適用することで、小型化実現、作業時間短縮を実現している。
【0041】
マップ作成部124は、例えば、発芽初期の対象物Pである小松菜等の葉物野菜と雑草Wとを識別し、空間座標を取得する。そして、ここで得られた空間座標を基に、列をなして定植されている苗をトレースするとともに、不整地路面が予想される圃場において対象物Pである作物株の位置を座標としてトレースし、自律走行が可能な領域を画定する。
【0042】
さらに、図2に示すように全休測位衛星システム(グローバル・ポジショニング・システム:GPS)GPS160を搭載して、衛星測位によって現在位置を測定し、この測位データをマップ作成部124に送出することで、マッピングの精度を向上させることができる。なお、撮像装置、GPSに限らず、測距や形状把握が可能なセンサ類を適宜適用することができる。例えば、ミリ波レーダーや超音波レーダーなどでは、可視光だけでは判別しにくい状況であっても、画像認識をすることが可能であるが、これらは適用する環境や、コスト等から適宜選択すればよい。
【0043】
制御手段130は、画像処理手段120において処理された情報に基づいて、移動プラットフォーム100の走行・操舵および雑草Wの掃討に係る制御指令を行う。制御手段130には、移動プラットフォーム100の走行・操舵の軌跡等を算出する走行路算出部132と、算出された結果に基づいて制御指令を行う走行操舵制御部134を備える。さらに雑草Wの位置(座標)に基づいて雑草の掃討軌跡を算出する掃討軌跡算出部136と、算出された結果及び走行操舵制御部134が設定した走行条件に基づいて掃討手段150の動作を決定する掃討制御部138を備える。
【0044】
操舵手段140は、走行操舵制御部134からの指令を受けて、移動プラットフォーム100の走行と操舵を行うための信号を図示しないアクチュエータ等に送出する。本実施形態では図1に示す二つの駆動前輪144を独立して駆動することで、走行機能と操舵機能を併せ持つ形態としており、操舵手段140に含まれる操舵駆動装置142から駆動前輪144のそれぞれへ独立した指令を創出する。操舵は特に説明するまでもないが、それぞれの駆動前輪144の回転(駆動出力)を変えることで実現させている。
【0045】
本実施形態では図1のように二つの前輪を駆動させる構成としているため、後輪については、キャスターのように車軸に対して直角方向に回転自在な自在後輪146を備えるものとしている。
【0046】
このような構成にすることで、移動プラットフォーム100は畝のない圃場であっても条間を安定に走行可能である。駆動前輪144の車輪は、例えば、鎖歯車(スプロケット)状のような構造とすることができ、実際に作物株Pの一つである小松菜が栽培されている土壌を数種類の車輪で走行させた結果比較的安定して駆動することを確認している。図1図4のような構成とすれば、2株同時に2条で播種されている圃場において、2株を跨いで作物を踏まずに走行できる。
【0047】
なお、本実施形態は一例であり、操舵手段140が、操舵装置、駆動装置を別々に備えて、前者はかじ取りを備えた車輪のかじをアクチュエータ等で操作し、後者は車輪を回転駆動させるように、一般の自動車に類似した構成としても良い。また、車輪の配置及び数量は、圃場の状態や、除草を行う条の数等に応じて、3輪以上の構成を適宜選択することができる。
【0048】
掃討手段150は、掃討制御部138からの指令に基づいて、畝もしくは条を挟む複数の畦間の土壌に接地しながら移動プラットフォーム100の幅方向を往復移動するものである。図1図3に示すように、機体101の下部に備えられて、少なくとも土壌に設置する複数の掃討端部154とこの掃討端部154を幅方向に往復移動させる掃討駆動装置152を備えている。
【0049】
掃討端部154は、図1図3に示すように本実施形態の一実施例では丈の異なる線状の材料を複数備え付けたブラシ状の形状としている。このような形状とすることで、長めの線状材料で土壌表面から例えば1cm程度の深さまでを耕すように掃いて雑草の根を地表に露出させ、次に短めの線状材料で株間の雑草Wを畔まで掃きだすことができる。
【0050】
なお掃討端部154の形態は、図3に示すようなブラシ状のものに限らず、圃場の土壌に応じて掃討手段の土壌接地部分である掃討端部154を交換することで、除草作業の効率を向上させることができる。掃討端部154は、例えば、熊手状の爪や、先端がギザギザとなった平板や、土壌に応じて金属や、木質、樹脂等の材質で形成されたブラシ等を適用することができる。
【0051】
ここで、画像処理手段120、制御手段130、操舵手段140および掃討手段150の演算処理や通信処理等の部分は、それぞれマイクロコンピュータで構成されており、演算を行うプロセッサCPU、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブル、マップを格納するROM、およびCPUによる演算結果などを一時記憶するRAMを有する。画像処理手段120、制御手段130は、不揮発性のメモリを備えており、必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き換え可能なROMであるEEPROM、または電源がオフにされていても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。これまで、画像処理手段120、制御手段130を個別の手段として説明したが、一つのマイクロコンピュータとして両方の機能を備える構成としても良い。
【0052】
<移動プラットフォームの動作の説明>
次に、図1図4を参照して、操舵手段140と掃討手段150の動作について説明する。図4は作物株である対象物Pが植えられた圃場10を移動プラットフォーム100が片矢印の進行方向へ移動している状況を表した平面図である。
【0053】
本実施形態に係る移動プラットフォーム100は、独立して駆動される二つの駆動前輪144を前にして進行する。進行方向(片矢印)に向けて撮像装置112が備えられており、前方の圃場10の土壌表面を撮像し、この画像解析結果から、対象物Pを識別する。識別方法の例については後述する。
【0054】
これらの情報をもとに制御手段130は、走路及び掃討軌跡を算出し、駆動前輪144および自在後輪146は対象物Pの列である条の間の畔を走路とし、T1~T4で示す軌跡で表面土壌を掃討するようにT1S,T2S,T3S,T4Sに示すように掃討端部154の移動幅および幅方向へ往復する移動速度を設定する。
【0055】
図4において、軌跡T1~T4は、対象物Pを回り込むように描かれ、すなわち、平面視アラビア数字の8の字を描いている。これは一例であり、作物株である対象物Pの位置によって軌跡の状態は変化する。また、図4では、掃討端部154の幅方向のストローク(T1S~T4S)は、条間から条の中心付近を往復する範囲としているが、例えば図4の状態であっても掃討端部154を二つ(例えば、図3の中央部分の二つを有していない状態)として、幅方向のストロークを大きくとって、一つの条を一つの掃討端部154が正弦波条に対象物Pを回避するような構成としてもよい。
【0056】
このように本実施形態は、従来技術では複雑化していた株間での除草を簡易な構成で実現している。係る簡易な構成にすることで、移動プラットフォーム100自体の小型化、コンパクト化を図れ、部品点数及び制御すべき変数も少ないことから信頼性の高い、かつ低コストの除草装置とすることができる。
【0057】
<移動プラットフォームの実施例>
次に、図5図7を参照して本実施形態に係る移動プラットフォームの一実施例を説明する。図5は、本発明が適用される圃場の一例の説明図である。図6は、本発明の一実施形態に係る画像認識の一実施例を示した説明図である。図7は、本発明の一実施形態に係る除草プロセスの一実施例を示した説明図である。
【0058】
図5は、小松菜栽培の実際の圃場10の写真であり、(A)は播種後10日程度の状況であり、(B)は播種後20日程度の状況を示している。まず(A)を参照すると、対象物Pである小松菜の株は、間隔を置いて列を成す条を形成している。しかしながら、株間は常に同じ間隔とはなっていない。播種は一般的に手作業から播種機を用いることが多くなっているが、(A)のように条は形成されても、株間は一定とはならないことが多い。
【0059】
条と条との間隔は約100mm以下であり、条間を歩行することは足の踏み場が無いころから容易ではなく、人による除草作業を困難にしていた。(A)の条間もしくは株間には雑草Wが成長している。この雑草Wの多くは、外来雑草のゴウシュウアリタソウであり、日本全国に分布し、特に関東地域のニンジン、小松菜、サツマイモなどの露地野菜作でまん延し、問題となっており、一部では作物の収穫を放棄せざるを得ない状況に陥る場合も生じている。
【0060】
ゴウシュウアリタソウの防除については、種子を生産する前にできるだけ早く圃場内から除去する必要がある。ゴウシュウアリタソウの根はあまり深くなく、土壌を掃くような動作で、根を土壌表面に露出させることができる。根が土壌表面に露出すると、乾燥、太陽光による紫外線、温度等から、ゴウシュウアリタソウを死滅させることができる。
【0061】
次に(B)を参照すると、対象物Pである小松菜は生育して、条間は葉に覆われ、雑草Wを防除することは困難となる。本発明においても、(B)の状態において移動プラットフォーム100を走行させることは、収穫物を損傷させるおそれがあることから、(A)の状態、すなわち播種後10日以内であって、対象物Pが識別できる状態に適用する。
【0062】
次に図6を参照して、図5(A)の圃場10を対象に画像処理手段120によって画像処理を行った一例を説明する。図6(A)は可視光画像であり、(B)は赤外画像であり、(C)は(B)に基づくヒストグラム化して対象物Pと背景とを分離するための画像処理を行った画像であり、(D)は(B)と(C)を目視で検証できるように重ね合わせた画像である。
【0063】
このように本実施形態は、ディープラーニング等のAI技術と画像処理を用いて、作物と雑草を判別し、作物の中心位置を出力する認識システムとしている。
【0064】
ここで、ビニルハウス内での小松菜栽培を前提に、速度・稼働時間の数値目標の算出根拠を示す。実際の圃場を参考に、横5m、縦40mの圃場10に対して、条間120mmで横に40列で栽培されていると想定する。移動プラットフォーム100が200mm/sの速度で除草すると、1列あたり200sを要する。2列同時に除草している構成とすれば、圃場10の全面を除草するためには、20回(10往復)直進移動を繰り返す必要があり、200sx20回=4000s≒67minを要する。端での旋回動作に必要な時間を考慮しても、約70min程度で除草可能となる。また、株間の距離を80mm、移動速度を200mm/sと、株間の通過に0.4s程度である。除草デバイスは2.5Hzで、10mm程度移動させることで実現することができる。画像処理手段120に適用されるカメラ等の画像センサも通常の30fpsのカメラを利用すると、株間は12フレームとなり、撮影は実用的なものといえる。
【0065】
次に、図6に示した画像解析・対象物認識結果を用いた移動プラットフォーム100の掃討端部154の走行軌跡の一例を図7に示す。移動プラットフォーム100は、破線に囲った条(第1条~第4条)を認識し、操舵手段140は、移動プラットフォーム100を条間の畔部分で走行させる。
【0066】
そして、掃討手段150は、株間P11とP12、P22とP23.P31とP32、P32とP33、P41とP42の間の軌跡をたどるように、移動プラットフォーム100の走行に同期させて、掃討端部154を走行方向と直角方向(幅方向)の往復運動させることで、軌跡T1~T4を実現させている。
【0067】
このとき、株間が狭い、すなわちP12とP13,P21とP22、P42とP43の株間は、掃討端部154によって、対象物Pを損傷するおそれがあるため、株間を通過しない軌跡としている。すなわち、制御手段130は、畝もしくは条に延在する複数の対象物Pの株間が所定値以下であるとき、前記掃討手段の前記往復移動を停止するように構成されている。
【0068】
今後は、移動プラットフォーム100が電動の場合にはバッテリーチャージ、そして画像等のデータ収取のためのステーションシステムの構築等について、走行掃討方法に対する除草効果等についてデータを蓄積する。このデータを用いて、AI分析を行い、将来的には、認識・ロボット制御・除草作業の各要素において、精度向上や汎用化を図ることできる。
【0069】
また、画像・センサデータ蓄積とAI解析技術により、・多品種への対応、・広い圃場全体のばらつき、土壌環境の把握、・生育状況(葉の色、形状)の把握、・害虫の見極め、などの機能が拡張でき、精密な生育状況の把握による生育管理支援や栽培計画の厳密化、収穫作業の効率化を進めることができる。これらを見据え、データ授受、除草ロボットのバッテリーチャージ、IoTによる遠隔操作・遠隔データ収集、無線のゲートウェイ機能を兼ね備えたドッキングステーションシステムを構築することが今後の課題となる。
【0070】
以上説明したように、本発明は、本発明は、簡易な構成で、作物株が植えられた圃場の畝もしくは条を回避して畦を走行するとともに、作物株を回避して条間および株間の雑草を掃討する移動プラットフォームを提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
10・・・圃場
100・・・移動プラットフォーム
101・・・機体
110・・・撮像手段
112・・・撮像装置
120・・・画像処理手段
122・・・画像処理部
124・・・マップ作成部
130・・・制御手段
132・・・走行路算出部
134・・・走行操舵制御部
136・・・掃討軌跡算出部
138・・・掃討制御部
140・・・操舵手段
142・・・操舵駆動装置
144・・・駆動前輪
146・・・自在前輪
150・・・掃討手段
152・・・掃討駆動装置
160・・・GPS
T・・・軌跡
P・・・対象物
W・・・雑草
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7