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特開2022-52963地山状況学習装置、地山状況判定装置、地山状況学習方法および地山状況判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022052963
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】地山状況学習装置、地山状況判定装置、地山状況学習方法および地山状況判定方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/14 20060101AFI20220329BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20220329BHJP
【FI】
E21D9/14
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159514
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
(57)【要約】
【課題】短時間で精度の良い地山判定を実現可能である地山状況学習装置、地山状況判定装置、地山状況学習方法および地山状況判定方法を提供する。
【解決手段】学習データ取得部31と学習処理部32とを備えたトンネル切羽の状況を学習する地山状況学習装置3であって、学習データ取得部31は、トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データと、地山等級との組を学習データとして取得し、学習処理部32は、学習器を有しており、前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって前記地山等級を出力するように前記学習器を機械学習させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
学習データ取得部と学習処理部とを備えたトンネル切羽の状況を学習する地山状況学習装置であって、
前記学習データ取得部は、トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データと、地山等級との組を学習データとして取得し、
前記学習処理部は、学習器を有しており、前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって前記地山等級を出力するように前記学習器を機械学習させる、
ことを特徴とする地山状況学習装置。
【請求項2】
前記調査データは、前記トンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、土被りおよび岩種のうちの何れか一つを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の地山状況学習装置。
【請求項3】
前記施工時データは、切羽の押出し変位量および落石頻度の何れか一つを含む、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地山状況学習装置。
【請求項4】
前記弾性波速度および前記土被りは、トンネル軸方向に分割した所定区間の基準値または統計値であり、
前記岩種は、トンネル軸方向に分割した所定区間の代表岩種である、
ことを特徴とする請求項2に記載の地山状況学習装置。
【請求項5】
前記落石頻度は、掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内に前記トンネル切羽で落石が発生した落石回数であり、
前記切羽の押出し変位量は、掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内に前記トンネル切羽を測定した計測値である、
ことを特徴とする請求項3に記載の地山状況学習装置。
【請求項6】
判定データ取得部と推定処理部とを備えたトンネル切羽の状況を判定する地山状況判定装置であって、
前記判定データ取得部は、トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データとを取得し、
前記推定処理部は、前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって地山等級を出力するように機械学習を行った学習済みの学習器を有する、
ことを特徴とする地山状況判定装置。
【請求項7】
トンネル切羽の状況を学習する地山状況学習方法であって、
前記トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データと、地山等級との組を学習データとして取得する学習データ取得ステップと、
前記調査データおよび前記施工時データを学習器に入力することによって前記地山等級を出力するように前記学習器を機械学習させる学習処理ステップと、を有する、
ことを特徴とする地山状況学習方法。
【請求項8】
トンネル切羽の状況を判定する地山状況判定方法であって、
トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データとを取得する判定データ取得ステップと、
前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって地山等級を出力するように機械学習を行った学習済みの学習器を用いて取得したデータから地山等級を推定する推定処理ステップと、を有する、
ことを特徴とする地山状況判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山状況学習装置、地山状況判定装置、地山状況学習方法および地山状況判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの建設プロジェクトでは、事前調査として物理探査やボーリング調査等の地質調査を行い、例えば地山分類表を用いた地山評価により地山等級を決定する。設計段階では、事前調査で決定された地山等級に対応する標準支保パターンを適用するのが一般的である。一方、施工段階では、切羽の地質状況を切羽観察記録として記録し、切羽観察記録を基に評価点をつけて、その評価点を用いた地山評価により地山等級を選定する(新切羽評価点法)。
【0003】
このように、施工段階における地山評価は、主に、掘削中・掘削直後に技術者が切羽近傍で観察または撮影した写真をベースに行われている。切羽近傍は危険が多いうえ、地質の専門技術者による評価は必ずしも一定とならず、後に地山評価を修正する場合がある。施工段階における地山評価を支援する技術として、例えば特許文献1に記載される技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載される評価支援装置は、坑内観察における切羽の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力データに用い、切羽の観察項目に対する評価区分を出力するように機械学習により生成したモデルを記憶する学習結果記憶部と、入力部と出力部とに接続された制御部とを備える。そして、制御部が、入力部から取得した評価対象の切羽画像の評価領域を、基準画素数で分割し、分割した評価対象分割画像に学習結果を適用して個別評価区分を取得し、個別評価区分に基づいて、評価領域の評価区分を予測する。
【0005】
また、事前調査段階における地山評価を支援する技術として、非特許文献1に記載される地山評価手法が研究されている。非特許文献1に記載される地山評価手法は、ニューラルネットワーク(ANN:Artificial Neural Network)を用いて地山等級を予測するものである。具体的には、入力データとして「弾性波速度」、「岩種」、「土被り」を用い、出力データとして「地山等級」が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-023392号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】増田 千胤、他3名、「ニューラルネットワークを用いた堆積岩および火成岩に分類した山岳トンネルにおける地山評価結果」、第47回岩盤力学に関するシンポジウム講演集、公益社団法人土木学会、2020年1月、講演番号7、p.34-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に係る技術は、学習用に品質の良い撮影画像(高解像度、撮影時の照度が適切な画像)を大量に使用する必要があるので、準備に多くの時間を費やさなければならないという問題がある。また、切羽の撮影画像は、地山判定に影響する地山の変形性・安定性に関する情報が間接的に表現されているものなので、切羽の撮影画像に基づく地山判定の精度は必ずしも高いとはいえず、依然として地山評価を後に修正する場合があった。また、非特許文献1に係る技術は、地山の事前調査で得られる情報のみから地山判定を行うので、施工段階で要求される地山判定の精度を実現するものではない。つまり、事前調査にかける予算や時間には制約あり、また地質調査の技術的限界によって事前調査で得られるデータ量が不十分な現場が多いという現状がある。
【0009】
このような観点から、本発明は、短時間で精度の良い地山判定を実現可能である地山状況学習装置、地山状況判定装置、地山状況学習方法および地山状況判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る地山状況学習装置は、学習データ取得部と学習処理部とを備えたトンネル切羽の状況を学習する地山状況学習装置である。
前記学習データ取得部は、トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データと、地山等級との組を学習データとして取得する。
前記学習処理部は、学習器を有しており、前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって前記地山等級を出力するように前記学習器を機械学習させる。
【0011】
本発明に係る地山状況学習装置においては、施工前の調査段階で得られる情報および施工段階で得られる情報の両方を含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させる。そのため、従来に比べて学習データとしての有効性が高く、短時間での学習が可能であり、また当該方法で学習した学習器を用いると、精度の良い地山判定を実現可能である。
【0012】
地山等級は、例えば地山の状態を段階的に分類したものであり、実際の施工で最終的に採用されたもの(実施した支保パターンに相当する)であるのが望ましい。
また、調査データおよび施工時データは、例えば地山等級の判定において一般的に使用される情報であってよく、地山等級に何らかの相関を有する情報である。
調査データは、トンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、土被りおよび岩種のうちの何れか一つを含むのが望ましい。施工時データは、切羽の押出し変位量および落石頻度の何れか一つを含むのが望ましい。なお、弾性波速度や岩種は、施工中に測定したものであってもよい(つまり、施工時データに、弾性波速度や岩種が含まれていてもよい)。
【0013】
前記弾性波速度および前記土被りは、トンネル軸方向に分割した所定区間の基準値または統計値であり、前記岩種は、トンネル軸方向に分割した所定区間の代表岩種であってもよい。
前記落石頻度は、掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内に前記トンネル切羽で落石が発生した落石回数であり、前記切羽の押出し変位量は、掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内に前記トンネル切羽を測定した計測値であってもよい。
【0014】
本発明に係る地山状況判定装置は、判定データ取得部と推定処理部とを備えたトンネル切羽の状況を判定する地山状況判定装置である。
前記判定データ取得部は、トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データとを取得する。
前記推定処理部は、前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって地山等級を出力するように機械学習を行った学習済みの学習器を有する。
【0015】
本発明に係る地山状況判定装置においては、施工前の調査段階で得られる情報および施工段階で得られる情報の両方を含んだ学習データを用いて機械学習させた学習器を用いるので、精度の良い地山判定を実現可能である。
【0016】
本発明に係る地山状況学習方法は、トンネル切羽の状況を学習する地山状況学習方法である。この地山状況学習方法は、学習データ取得ステップと、学習処理ステップとを有する。
前記学習データ取得ステップでは、前記トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データと、地山等級との組を学習データとして取得する。
前記学習処理ステップでは、前記調査データおよび前記施工時データを学習器に入力することによって前記地山等級を出力するように前記学習器を機械学習させる。
【0017】
本発明に係る地山状況学習方法においては、施工前の調査段階で得られる情報および施工段階で得られる情報の両方を含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させる。そのため、従来に比べて学習データとしての有効性が高く、短時間での学習が可能であり、また当該方法で学習した学習器を用いると、精度の良い地山判定を実現可能である。
【0018】
本発明に係る地山状況判定方法は、トンネル切羽の状況を判定する地山状況判定方法である。この地山状況判定方法は、判定データ取得ステップと、推定処理ステップとを有する。
前記判定データ取得ステップでは、トンネル切羽の位置における施工前の調査データと、施工時に得られる施工時データとを取得する。
推定処理ステップでは、前記調査データおよび前記施工時データを入力することによって地山等級を出力するように機械学習を行った学習済みの学習器を用いて取得したデータから地山等級を推定する。
【0019】
本発明に係る地山状況判定方法においては、施工前の調査段階で得られる情報および施工段階で得られる情報の両方を含んだ学習データを用いて機械学習させた学習器を用いるので、精度の良い地山判定を実現可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、短時間で精度の良い地山判定を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の概要を説明するための図であり、(a)はこれまでの標準的な判定手法を示すイメージであり、(b)は本発明による判定手法を示すイメージである。
図2】本発明の実施形態に係る地山状況学習システムの構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る地山状況判定システムの構成図である。
図4】切羽押出し変位計の外観図である。
図5】落石検知装置の外観図である。
図6】本発明の実施形態に係る地山状況学習装置および地山状況判定装置の機能構成図である。
図7】ニューラルネットワークのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0023】
[本発明の概要]
図1を参照して本発明の概要を説明する。図1は、本発明の概要を説明するための図である。図1(a)に示すように、これまでは、切羽の地質状況を切羽観察記録として記録し、切羽観察記録を基に評価点をつけて、その評価点を用いた地山評価により技術者が地山等級を選定していた(新切羽評価点法)。また、施工時の計測結果を地山等級の選定の参考にすることもあった。一方、図1(b)に示すように、本発明の発明者は、事前の地質調査で得られる調査データ(例えば弾性波速度、岩種、土被り)に加えて、施工段階で取得可能であって地山判定に影響する地山の変形性・安定性に直結する施工時データ(例えば切羽の押出し変位量、落石頻度)を用いて機械学習させることを考え出した。以下、詳細に説明する。
【0024】
<実施形態に係る地山状況学習システムの構成について>
図2を参照して、実施形態に係る地山状況学習システム1Aについて説明する。図2は、実施形態に係る地山状況学習システム1Aの構成図である。地山状況学習システム1Aは、トンネル切羽の状況を学習するシステムである。地山状況学習システム1Aは、トンネルの種類を限定せずに様々な種類のトンネルに用いることができる。本実施形態では、トンネルの一例として山岳トンネルを例示して説明する。
【0025】
図2に示すように、地山状況学習システム1Aは、各々のトンネルの工事現場に設置される管理用端末2,2・・と、地山状況学習装置3とを主に備える。管理用端末2と地山状況学習装置3とはネットワーク4を介して通信可能である。地山状況学習システム1Aは、クラウドシステムとして構成することも可能であり、その場合に地山状況学習装置3はクラウドサーバに対応する。なお、図2に示す地山状況学習システム1Aの構成はあくまで例示である。
【0026】
管理用端末2は、例えばトンネル坑外の事務所内に設置され、トンネル工事の管理者などによって操作される。管理用端末2には、トンネル工事に関する様々な情報が記憶されている。管理用端末2には、例えば事前調査として行った物理探査やボーリング調査等の地質調査の結果が記憶されている。管理用端末2が記憶する情報は、例えば地山の弾性波速度、土被り、岩種などの情報である。また、管理用端末2には、トンネル施工中に取得したトンネル切羽に関する情報が記憶されている。管理用端末2が記憶する情報は、例えばトンネル切羽の押出し変位量、落石頻度、地山等級などである。地山等級は、地山の状態を段階的に分類したものであり、例えば実際の施工で最終的に採用されたもの(実施した支保パターンに相当する)である。
【0027】
地山状況学習装置3は、地山状況学習システム1Aの中心的な役割を担う装置であり、各工事現場から収集した情報を用いてトンネル切羽の状況を学習する。地山状況学習装置3は、例えば施工中のトンネルの工事現場で使用されている管理用端末2からトンネル切羽の位置における弾性波速度、土被りおよび岩種、ならびにトンネル切羽の押出し変位量、落石頻度および地山等級を収集する(図2の白抜き矢印参照)。そして、地山状況学習装置3は、収集した情報を用いて学習器(モデル)を機械学習させる。なお、学習方法の詳細は後述する。地山状況学習装置3によって学習された学習済み学習器(学習済みモデル)は、例えば新たなトンネルの工事現場に配信され、トンネルの地山判定に使用される(図2のドット柄矢印参照)。
【0028】
地山状況学習装置3によって学習された学習済み学習器が配信され、学習済み学習器を用いてトンネル切羽の状況を判定可能な装置を「地山状況判定装置」と称する。本実施形態では、管理用端末2に学習済み学習器を反映することを想定しているので「地山状況判定装置2B」と表記する。なお、地山状況学習装置3は、地山状況判定装置2Bから収集した情報を用いて学習器を機械学習させることもできる(図2のストライプ柄矢印参照)。また、クラウドサーバに対応する地山状況学習装置3が学習済み学習器を用いてトンネル切羽の状況を判定する構成にしてもよく、その場合、地山状況学習装置3が「地山状況判定装置」である(つまり、地山状況判定装置がクラウド上にあってもよい)。
【0029】
<実施形態に係る地山状況判定システムの構成について>
図3を参照して、実施形態に係る地山状況判定システム1Bについて説明する。図3は、実施形態に係る地山状況判定システム1Bの構成図である。地山状況判定システム1Bは、トンネル切羽の状況を判定するシステムである。地山状況判定システム1Bは、トンネルの種類を限定せずに様々な種類のトンネルに用いることができる。本実施形態では、トンネルの一例として山岳トンネルを例示して説明する。なお、地山状況判定システム1Bで判定するトンネルは、地山状況学習システム1Aで学習を行ったトンネルに類似しているのが望ましい。トンネルの類似とは、例えば断面形状や断面積が類似することや、地山状況が類似することなど、様々な類似性を含む意図である。
【0030】
図3に示すように、地山状況判定システム1Bは、学習済み学習器を有する地山状況判定装置2Bと、三点式の切羽押出し変位計5と、落石検知装置6,6と、作業員が使用する作業員用端末7とを備える。地山状況判定装置2Bと作業員用端末7とは例えば坑内に設けられたネットワークを介して通信可能である。なお、切羽押出し変位計5や落石検知装置6,6は、地山状況判定装置2Bや作業員用端末7と通信可能に構成されていてもよい。なお、図3に示す地山状況判定システム1Bの構成はあくまで例示である。
【0031】
切羽押出し変位計5は、トンネル切羽の押出し変位量(つまり、トンネル軸方向の変位量)を計測する装置である。切羽押出し変位計5は、トンネル切羽から所定距離だけ離れた位置に配置され、例えば掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内(例えば10分間)に生じたトンネル切羽の押出し変位量を測定する。図4は、切羽押出し変位計5の外観図である。図4に示すように、本実施形態の切羽押出し変位計5は、三つのレーザー式変位計51を備え、トンネル切羽の中央部分の三点の押出し変位量を測定する。作業員は、例えば測定した三点の変位量の平均値をトンネル切羽の押出し変位量として地山状況判定装置2Bに登録する。トンネル切羽の押出し変位量は、トンネル切羽の変形性を示す指標の一例である。トンネル切羽の変形性を示す指標は、例えば計測工(坑内計測)の内空変位量や天端沈下量(およびこれらの初期変位)などであってもよい。例えばターゲット設置から1日間の変位量、または決められた掘削長(例えば、1日で掘削できる長さである3mや4mなど)での変位量である。
【0032】
なお、本実施形態では、作業員用端末7を用いて押出し変位量の登録を行うことを想定しているが、例えば作業員の操作によらずに切羽押出し変位計5が自動で地山状況判定装置2Bへの登録を行うものであってもよい。また、切羽押出し変位計5は、一点または三点以外の複数点の変位量を測定するものであってもよく(つまり、測定点数の限定はない)、複数点を測定した場合に登録する情報は代表値(つまり、何れか一つの測定値)や統計値であってよい。また、本実施形態の切羽押出し変位計5は、脚部52を備える自立式のものであるが、トンネルの天井や壁に取り付けるものであってもよい。
【0033】
落石検知装置6は、トンネル切羽の落石を検知する装置である。落石検知装置6は、トンネル切羽の近くに配置され、トンネル切羽の落石を監視する。本実施形態では、二つの落石検知装置6を用いてトンネル切羽を監視している。つまり、第一落石検知装置6aでトンネル切羽の右側半分を監視し、第二落石検知装置6bでトンネル切羽の左側半分を監視している。落石検知装置6は、例えば掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内(例えば掘削ズリ出し作業の完了からの10分間)を監視期間として設置し、その監視期間内に発生する落石を検知する。
【0034】
図5は、落石検知装置6の外観図である。図5に示すように、本実施形態の落石検知装置6は、カメラ61と、カメラ61の上下に設けられた照明具62,62とを備え、カメラ61で撮影した映像を用いて落石を検知する。照明具62は、例えばLED(Light Emitting Diode)照明や有機EL照明(OLED)であり、カメラ61の感度(カメラ感度)に対応した波長成分を少なくとも含む。カメラ61は、例えばデジタルビデオカメラであり、1秒間に数十枚の画像(「フレーム」とも呼ばれる)を撮影する。落石検知装置6の図示しない制御部は、例えばフレーム間差分法を用いて落石を検出する。フレーム間差分法では、連続する二つのフレーム間でのフレーム間差分画像を生成し、フレーム間差分画像を用いて落石を検出する。なお、映像から落石を検出する技術はこれに限定されない。
【0035】
作業員は、例えば第一落石検知装置6aおよび第二落石検知装置6bが監視期間内に落石を検出した回数の合計値を、トンネル切羽で落石が発生した回数(落石回数)として地山状況判定装置2Bに登録する。トンネル切羽の落石回数は、トンネル切羽の安定性を示す指標の一例である。
【0036】
なお、本実施形態では、作業員用端末7を用いて落石回数の登録を行うことを想定しているが、例えば作業員の操作によらずに落石検知装置6が自動で地山状況判定装置2Bへの登録を行うものであってもよい。また、一台または三台以上の落石検知装置6を用いてトンネル切羽の落石を検知してもよく、落石検知装置6を用いずに作業員が目視でトンネル切羽の落石を検知してもよい。また、所定時間あたりの落石回数(単位時間あたりの落石回数も含む)以外の落石の頻度を示す情報(例えば、落石の回数をレベル分けした情報)を地山状況判定装置2Bへ登録してもよい。また、本実施形態の落石検知装置6は、脚部63を備える自立式のものであるが、トンネルの天井や壁に取り付けるものであってもよい。
【0037】
地山状況判定装置2Bは、地山状況判定システム1Bの中心的な役割を担う装置であり、事前に行った地質調査の結果ならびに切羽押出し変位計5および落石検知装置6で施工中に検出した情報を用いてトンネル切羽の状況を判定する。地山状況判定装置2Bには、例えばトンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、土被り、岩種の情報が記憶されている。また、地山状況判定装置2Bは、例えば切羽押出し変位計5からトンネル切羽の押出し変位量を取得し、また、落石検知装置6からトンネル切羽の落石頻度を取得する。そして、地山状況判定装置2Bは、これらの情報を学習済み学習器に入力することでトンネル切羽の地山等級を求める。なお、判定方法の詳細は後述する。地山状況判定装置2Bは、判定した地山等級の情報を例えば作業員用端末7に送信する。
【0038】
作業員用端末7は、例えばタブレット端末であり、管理用端末2に格納されるトンネル工事に関する情報を閲覧することができる。また、切羽押出し変位計5で測定した押出し変位量および落石検知装置6で検出した落石頻度を作業員が作業員用端末7に入力し、トンネル切羽の判定の実行を作業員が指示することで、入力したこれらの情報が地山状況判定装置2Bに送信される。また、トンネル切羽の状況の判定結果(地山等級の情報)が作業員用端末7に表示され、作業員は、判定結果(地山等級の情報)に基づいて実施する支保パターン(実施支保パターン)を決定する。
【0039】
<実施形態に係る地山状況学習方法について>
図6を参照して、実施形態に係る地山状況学習方法について説明する。図6は、実施形態に係る地山状況学習装置3および地山状況判定装置2Bの機能構成図である。なお、地山状況学習装置3自身がトンネル切羽の状況を判定する場合、地山状況学習装置3と地山状況判定装置2Bとを一つの装置として構成することができる。
【0040】
地山状況学習装置3は、学習データ取得部31と学習処理部32とを備え、また学習処理部32は、学習器を有する。学習器は、機械学習における学習システムであり、与えられたデータを基に分類・予測・判定した結果と正答となる実際の結果とを比較し、各種パラメータを調整することで良い結果を導くことが可能になる。学習器は、例えばニューラルネットワークであり、本実施形態でもニューラルネットワークを想定して説明する。なお、学習器は、「学習モデル」などとも呼ばれる。
【0041】
ニューラルネットワークは、周知のように人間の脳の動きをコンピュータに模倣させる目的で生まれた情報処理手法である。ニューラルネットワークは、複雑な非線形処理を得意とし、学習機能を用いることで説明変数と目的変数の関係を定式化する必要がないという特徴を持つ。図7に示すように、ニューラルネットワークは、一般的に入力層、中間層、出力層で構成される。図7は、ニューラルネットワークのイメージ図である。入力層には説明変数が入力され、出力層からは目的変数が出力される。中間層は、両者を関係づける役割を担っている。中間層の層数および各中間層のニューロン数には制約が無く、任意に設定することができる。
【0042】
学習データ取得部31は、学習器を学習させるための学習データを取得する。学習データは、トンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、岩種、土被り、押出し変位量、落石頻度および地山等級の組として構成される。学習データの対応関係は厳密であることが望ましいが、必ずしも厳密でなくてもよく、各データ間でトンネル切羽の位置の多少のずれがあってもよい。学習データは、例えば類似するトンネルを施工した際の施工実績に基づいて作成されるのがよい。
【0043】
弾性波速度は、トンネル軸方向に分割した所定区間の基準値または統計値である。弾性波速度は、事前の地質調査から取得した値でもよいし、例えばトンネル軸方向に10m間隔で測定した測定値、当該測定値を統計的な処理によって算出した値などであってもよい。
岩種は、トンネル軸方向に分割した所定区間の代表岩種である。岩種は、事前の地質調査から決定してもよいし、トンネル内に露出した地山や掘削ズリを観察して決定してもよい。岩種には数値を対応させておき、対応させたその数値を学習データに利用する。岩種と数値との対応関係は、例えば「火成岩」が「1」、「堆積岩」が「2」などである。
土被りは、ンネル軸方向に分割した所定区間の基準値または統計値である。土被りは、事前の地質調査の結果(縦断図など)から取得した値を使用する。
【0044】
押出し変位量は、トンネル施工中にトンネル切羽に生じた所定時間あたりの変位量である。押出し変位量は、例えば掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内(例えば10分後)に測定する。
落下頻度は、トンネル施工中にトンネル切羽周辺で発生した所定時間あたりの落石回数であり、例えば掘削ズリ出し作業の完了後予め決められた時間内(例えば掘削ズリ出し作業の完了からの10分間)にトンネル切羽で落石が発生した落石回数である。
地山等級は、トンネル施工現場において実際に採用された地山等級であり、例えばトンネル軸方向に分割した所定区間ごとに取得する。地山等級には数値を対応させておき、対応させたその数値を学習データに利用する。地山等級と数値との対応関係は、例えば「D地山」が「1」、「CII地山」が「2」、「CI地山」が「3」、「B地山」が「4」などである。
【0045】
学習処理部32は、トンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、岩種、土被り、押出し変位量、落石頻度および地山等級の組として構成される学習データを用いて、学習器を機械学習させる。学習器を学習させる方法は特に限定されず、例えば誤差逆伝播法によって学習器を学習させる。具体的には、学習データの弾性波速度、岩種、土被り、切羽押出し変位量および落石頻度の五つの情報が入力層に入力され、出力層から出力される結果と学習データの地山等級との誤差に基づいて中間層を調整する。つまり、学習処理部32は、弾性波速度、岩種、土被り、切羽押出し変位量および落石頻度を入力することによって、適切な地山等級が出力されるように学習器を機械学習させる。学習させる学習データの数は特に限定されず、例えば期待する精度(正答率)に到達することで学習を終了する。学習済みの学習器は、地山状況判定装置2Bに配信される。
【0046】
<実施形態に係る地山状況判定方法について>
図6を参照して、実施形態に係る地山状況判定方法について説明する。
地山状況判定装置2Bは、判定データ取得部21と推定処理部22とを備え、また、推定処理部22は、学習済みの学習器を有する。学習済みの学習器は、地山状況学習装置3によって学習器を機械学習させたものである。つまり、学習済みの学習器は、弾性波速度、岩種、土被り、切羽押出し変位量および落石頻度を入力することによって、適切な地山等級が出力されるように学習されたものである。
【0047】
判定データ取得部21は、地山等級の判定を行う基になる判定データを取得する。判定データは、トンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、岩種、土被り、押出し変位量および落石頻度の組として構成される。判定データの対応関係は厳密であることが望ましいが、必ずしも厳密でなくてもよく、各データ間でトンネル切羽の位置の多少のずれがあってもよい。判定データを構成する弾性波速度、岩種、土被り、押出し変位量および落石頻度の情報は、学習データと同様の方法によって測定等したものであってよい。
【0048】
推定処理部22は、トンネル切羽の位置における地山の弾性波速度、岩種、土被り、押出し変位量、落石頻度の組として構成される判定データを用いて、トンネル切羽の状況を推定する。トンネル切羽の情報の推定には学習済みの学習器が使用される。図7に示すように、入力層には、弾性波速度、岩種、土被り、切羽押出し変位量および落石頻度の五つの情報が入力される。また、出力層からは、地山等級の情報が出力される。出力層から出力される地山等級の情報は、例えば各々の地山等級(例えば、D地山、CII地山、CI地山、B地山)である可能性が確率として出力される。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る地山状況学習装置3では、施工前の調査段階で得られる情報(調査データ)および施工段階で得られる情報(施工時データ)の両方を含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させる。そのため、従来に比べて学習データとしての有効性が高く、短時間での学習が可能であり、また当該方法で学習した学習器を用いる地山状況判定装置2Bは、精度の良い地山判定を実現可能である。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【0051】
実施形態では、弾性波速度、岩種、土被り、押出し変位量および落石頻度の五つを含む学習データを用いて学習を行い、また、この五つの情報を含む判定データを用いて地山の状況を判定していた。しかしながら、学習データおよび判定データの構成はこれに限定されない。
例えば、岩種ごとに学習器を用意しておき、弾性波速度、土被り、押出し変位量および落石頻度の四つを含む学習データを岩種ごとに用意した学習器に入力することで学習を行うことも可能である。その場合、該当する岩種の学習器に、弾性波速度、土被り、押出し変位量および落石頻度の四つを含む判定データを入力することで地山の状況が判定される。
また、地山判定に影響する地山の変形性に関する情報(トンネル切羽の押出し変位量)および安定性に関する情報(落石頻度)の何れか一方を含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させてもよい。安定性に関する情報(落石頻度)を含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させるのが望ましい。
【符号の説明】
【0052】
1A 地山状況学習システム
1B 地山状況判定システム
2 管理用端末
2B 地山状況判定装置
3 地山状況学習装置
5 切羽押出し変位計
6 落石検知装置
7 作業員用端末
21 判定データ取得部
22 推定処理部
31 学習データ取得部
32 学習処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7