(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053001
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】導電部材及び導電部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20220329BHJP
H01B 5/12 20060101ALI20220329BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220329BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20220329BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
H01B7/00
H01B5/12
H01B7/02 Z
H01B5/02 A
H01B13/00 523
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159566
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】508264841
【氏名又は名称】有限会社 宮脇工房
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓佐敏
【テーマコード(参考)】
5G307
5G309
【Fターム(参考)】
5G307BA02
5G307BB02
5G307BB09
5G307BC06
5G307BC09
5G309LA04
5G309LA05
5G309LA13
5G309MA08
5G309MA10
5G309MA11
5G309MA13
(57)【要約】
【課題】複雑な導電経路を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性の高い導電部材を提供することを目的とする。
【解決手段】
線状の導電性基材12によって編み込まれた編組線10と、導電性基材12の周囲に形成された水溶性塗布膜20とを備える導電部材1であって、編組線10は、所定の形状でフォーミングされており、導電部材1は、少なくとも導電性基材12同士の間の空隙14が水溶性塗布膜20で埋められており、かつ、編組線10が所定の形状を維持した状態で硬化されていることを特徴とする導電部材1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導電性基材によって編み込まれた編組線と、
前記導電性基材の周囲に形成された水溶性塗布膜とを備える導電部材であって、
前記編組線は、所定の形状でフォーミングされており、
前記導電部材は、少なくとも前記導電性基材同士の間の空隙が前記水溶性塗布膜で埋められており、かつ、前記編組線が前記所定の形状を維持した状態で硬化されていることを特徴とする導電部材。
【請求項2】
前記水溶性塗布膜は、絶縁性塗布膜であることを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項3】
前記水溶性塗布膜は、導電性塗布膜であることを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項4】
前記水溶性塗布膜は、導電性塗布膜と絶縁性塗布膜とが積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項5】
前記水溶性塗布膜は、熱硬化性塗布膜であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の導電部材。
【請求項6】
前記水溶性塗布膜は、電着塗布膜であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の導電部材。
【請求項7】
前記導電性基材は、少なくとも一部にカーボン材を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の導電部材。
【請求項8】
線状の導電性基材によって編み込まれた編組線を所定の形状にフォーミングするフォーミング工程と、
前記編組線の前記導電性基材同士の間の空隙に水溶性塗布膜を埋め、前記所定の形状を維持した状態で前記編組線を硬化する硬化工程とをこの順序で含むことを特徴とする導電部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材及び導電部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、航空機、船舶などの主駆動モータや、電源、電力変換器等のように大電流を必要とする電気機械装置等に用いるために大電流を導通可能な導電部材が知られている。このような導電部材としては、従来、銅などの板材を用いた導電部材(従来の導電部材。図示せず。)が用いられている。
【0003】
ところで、狭く複雑な空間に電極が配置されている場合や、ねじれた位置に電極が配置されている場合等には、曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な導電経路を形成する必要がある。しかしながら、板材を用いた従来の導電部材においては、曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な導電経路を形成することは難しい、という問題がある。
【0004】
仮に、板材を用いた導電部材で複雑な導電経路を形成しようとすると、銅等の板材を切削加工・プレス加工・折り曲げ加工等することによって製造することになるが、工程が多く、かつ、複雑になるため、所望の形状を高い精度で製造することが難しい、という問題がある。また、工程が多くなるため、生産性を高くすることが難しくなるという問題もある。さらには、切削加工による端材が多くなり、製造コストを低減し難くなる、という問題もある。
【0005】
そこで、従来、線状の導電性基材によって編み込まれた編組線を用いた導電部材が知られている(従来の他の導電部材900。例えば、特許文献1参照。
図12参照。)。
図12は、従来の他の導電部材900を示す図である。
図12中、符号950は端子部を示す。
【0006】
従来の他の導電部材900によれば、線状の導電性基材912によって編み込まれた編組線910を用いるため、導電性基材912同士の間に形成される空隙や編み目が伸縮することにより、柔軟に折り曲げた状態で配線することができ、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の他の導電部材900においては、導電性基材912同士の間の空隙や編み目が伸縮するため、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することが難しく、モータ等の外部の振動に共振することにより導電部材に伸縮が生じて導電部材900の接続が外れる等の不具合を生じるおそれがあることから、信頼性を高くすることが難しい、という問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記した問題を解決するためになされたものであり、複雑な導電経路を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性の高い導電部材を提供することを目的とする。また、このような導電部材を製造する導電部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、所定の形状にフォーミングすることが容易で、かつ、所定の形状を維持した状態で硬化された導電部材が提供される。この導電部材は、線状の導電性基材によって編み込まれた編組線と、前記編組線の周囲に形成された水溶性塗布膜とを備える導電部材であって、前記編組線は、所定の形状でフォーミングされており、前記導電部材は、少なくとも前記導電性基材同士の間の空隙が水溶性塗布膜で埋められており、かつ、前記編組線が前記所定の形状を維持した状態で硬化されている。
【0011】
なお、本明細書中、「硬化」とは、編組線を構成する導電性基材を容易に動かすことができず、編組線を所定の形状から別の形状に折り曲げることが難しい程度に硬く固めた状態をいう。また、「フォーミング」とは、板材や線材を折り曲げる、ねじる、丸める等の加工をして所定の形状に成形することをいう。
【0012】
本発明の一態様によれば、所定の形状にフォーミングすることが容易で、かつ、所定の形状を維持した状態で硬化された導電部材の製造方法が提供される。この導電部材の製造方法は、線状の導電性基材によって編み込まれた編組線を所定の形状にフォーミングするフォーミング工程と、前記編組線の前記導電性基材同士の間の空隙に水溶性塗布膜を埋め、前記所定の形状を維持した状態で前記編組線を硬化する硬化工程とをこの順序で含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電部材及び導電部材の製造方法によれば、線状の導電性基材によって編み込まれた編組線を備えるため、編組線を柔軟に折り曲げることができ、所定の形状にフォーミングすることができる。従って、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電経路を比較的容易に形成することができる。
【0014】
また、本発明の導電部材及び導電部材の製造方法によれば、導電部材は、少なくとも導電性基材同士の間の空隙が水溶性塗布膜で埋められており、かつ、編組線が所定の形状を維持した状態で硬化されているため、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、導電性基材同士の間の空隙や編み目が伸縮し難く、モータ等の外部の振動に共振して導電部材の接続が外れる等の不具合を防ぐことができ、その結果、信頼性が高い導電部材となる。
【0015】
ところで、一般に、交流電流が導体を流れる場合には、表皮効果によって導体の表面で電流密度が高くなり、表面から離れると低くなる。特に、電流が高周波成分を含む場合(例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御による高速スイッチングによる電力制御で、大容量の高トルクモータや電力源間での急速充電(回生制御)、急速放電(駆動制御)の場合等)には、電流が表面に集中するので、導体の交流抵抗は高くなる傾向にある。本発明の導電部材及び導電部材の製造方法によれば、線状の導電性基材によって編み込まれた編組線を備えるため、同じ断面積の板状の導電部材の場合と比較して、表面の面積が大きく、電流が所定の領域に集中することを防ぐことができ、その結果、導体抵抗を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態1に係る導電部材1を示す図である。
【
図2】
図1(a)の破線Bで囲まれた領域を示す図である。
【
図3】実施形態1における編組線10を説明するために示す平面図である。
【
図4】実施形態1に係る導電部材の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【
図5】実施形態1に係る導電部材の製造方法を説明するために示す図である。
【
図6】実施形態1における硬化工程を説明するために示す図である。
【
図7】実施形態1における取付工程を説明するために示す図である。
【
図8】実施形態2に係る導電部材2を示す図である。
【
図9】実施形態3に係る導電部材3を示す図である。
【
図10】実施形態4に係る導電部材4の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【
図11】実施形態4に係る導電部材4の製造方法を説明するために示す図である。
【
図12】従来の他の導電部材900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る導電部材及び導電部材の製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。各図面は一例を示した模式図であり、必ずしも実際の寸法、比率等を厳密に反映したものではない。また、各実施形態において、基本的な構成及び特徴が実施形態1と同じ構成については、実施形態1と同じ符号を使用し、又は、符号を付すことを省略し、それらの構成要素の説明を省略する。
【0018】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る導電部材の構成
(1)導電部材1の概要
実施形態1に係る導電部材1は、自動車、航空機、船舶などの主駆動モータ、電源、電力変換器等のように大電流を必要とする電気機械装置等に用いる電気接続用の導電部材であり、例えば、制御ユニットと主駆動モータとを接続する導電部材である。実施形態1において、導電部材1は、電力線回路ベースbase(
図7参照)の表面にボルト40(
図7参照)で固定することによって取り付けることによって用いられる。なお、電力線回路ベースbaseは、モータの複数の相(3相)に対応した回路配線が表面又は内部に形成されている部材である。
【0019】
図1(a)は導電部材1の一例を示す斜視図及び部分拡大図である。実施形態1に係る導電部材1は、細長い板状の部材(編組線10)がフォーミングされたものである。導電部材1の一方端と他方端には、電力線回路ベースbaseと接続する端子部としての取付孔30が設けられている。導電部材1の一方端と他方端の間には段差(一方端から水平な方向に延び、中途で略垂直に立ち上がったのちに斜めに伸びており、さらに中途で水平方向に折れ曲がっている)が設けられており、さらに当該段差と他方端との間には、平面的に見て斜めに折り曲げられ、所定区間延びた後、再び斜めに折り曲げられている。なお、このフォーミングの形状は、電力線回路ベースbase(
図7参照)の形状に対応したものである。
【0020】
図1(a)の右下図は、導電部材1の一例を示す部分拡大図である。導電部材1は、線状の導電性基材12によって編み込まれた編組線10と、導電性基材12の周囲に形成された水溶性塗布膜20とを備える。導電部材1においては、少なくとも導電性基材12同士の間の空隙14(平面的に見て導電性基材12同士の間に形成される空隙)が水溶性塗布膜20で埋められて硬化されることにより、編組線10が所定の形状を維持した状態で硬化されることとなり、導電部材1は、所定の形状で硬化されたものとなる。
【0021】
図1(b)は、導電部材1の右下図のA-A断面図である。導電部材1において、編組線10は、一方向に延びる導電性基材12と、他方向に伸びる導電性基材12とが互い違いに編まれており、一方向に延びる導電性基材12と、他方向に伸びる導電性基材12との間に隙間18(例えば、断面で見て、一方の導電性基材12が交差する他方の導電性基材12の下方に潜り込むときに、一方の導電性基材12上に形成される隙間)が生じている。導電部材1においては、当該隙間18にも水溶性塗布膜20が形成されており、形状安定性が高くなっている。
【0022】
図2は、
図1(a)の破線Bで囲まれた領域を示す図である。導電部材1において、編組線10は、複数段の導電性基材12が重ねられており、各導電性基材12同士の間に隙間16が形成されている。当該隙間16にも水溶性塗布膜20が形成されており、より一層形状安定性が高くなっている。
【0023】
(2)編組線10の構成
図3は、編組線10を説明するために示す平面図である。編組線10は、複数の線状の導電性基材12を平編みで編み込んだものであり、導電性基材12の本数、断面積等を調整することにより、導電部材1を数百Aの電流を流す電流導通路とすることができる。編組線10の導電性基材12同士の間には空隙14が存在し、当該空隙14は水溶性塗布膜20で埋められている(
図1(a)参照)。従って、編組線10は、水溶性塗布膜20が形成される前は、導電性基材12が移動する余地があり可とう性に優れているものの、水溶性塗布膜20が形成された後は、導電性基材12が移動する余地がなくなり、可とう性が失われている。なお、実施形態1において、編組線10は、導電性基材12を複数段重ねた編組線を用いたが、導電性基材12を1段平編みされたものを用いてもよい。
【0024】
導電性基材12は、適宜のものを用いることができ、例えば、銅を主原料とした銅線、炭素を用いたカーボン線、銅線等にニッケルめっき、錫めっき等が施されためっき線等を採用することができる。実施形態1において、導電性基材12は、複数の導体線(例えば、裸銅線)を撚った撚糸を編んだものを用いるが、1本の導体線でもよい。導電性基材12の太さは、適宜のものを用いることができるが、表皮効果の影響を低減するために、実施形態1においては、平均半径が100μm以下のものが好ましく、平均半径が50μm以下のものがより好ましい。
【0025】
(3)水溶性塗布膜20の構成
水溶性塗布膜20は、編組線10の導電性基材12の周囲に形成(被覆)されている。水溶性塗布膜20は、導電性基材12同士の間の空隙14、隙間16を埋めているように形成されており(
図1(a)及び
図2参照。)、さらには、導電性基材12を平編みする際に導電性基材12が交差する領域に生じる隙間18(
図1(b)参照)にも形成されている。水溶性塗布膜20は硬化されており、フォーミングされた所定の形状に編組線10を維持することができる。
【0026】
水溶性塗布膜20は、金属粉末を含む電着塗料を電着塗装によって導電性基材12それぞれの表面に塗布したものである。水溶性塗布膜20は、絶縁電着塗布膜である。水溶性塗布膜20に用いられる樹脂液としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミン樹脂等を挙げることができる。
【0027】
2.実施形態1に係る導電部材の製造方法
図4は、実施形態1に係る導電部材の製造方法を説明するために示すフローチャートである。実施形態1に係る導電部材の製造方法は、
図4に示すように、編組線準備工程と、取付孔形成工程と、成形工程(フォーミング工程)と、電着塗装工程(硬化工程)と、取付工程とをこの順序で含む。
図5は、実施形態1に係る導電部材の製造方法を説明するために示す図である。
【0028】
(1)編組線準備工程
編組線準備工程は、線状の導電性基材12によって平板状に編み込まれた編組線10を準備する工程である。複数の導体線(例えば、裸銅線)を撚った撚糸を編んだ導電性基材12を平編みし、所定の長さ寸法でカットして編組線10を形成する(
図5(a―1)及び
図5(b-1)参照。)。
【0029】
(2)取付孔形成工程
取付孔形成工程は、棒状の編組線10の一方端と他方端にそれぞれ、後述するボルト40で電力線回路ベースbaseと接続するための取付孔30を形成する工程である(
図5(a―2)及び
図5(b―2)参照。)。
【0030】
(3)成形工程(フォーミング工程)
成形工程(フォーミング工程)は、線状の導電性基材12によって編み込まれた編組線10を成形型に入れてプレスすることによって所定の形状にフォーミングする工程である(
図5(a―3)及び
図5(b―3)参照。)。このとき、編組線10は空隙14が水溶性塗布膜20で埋められていないため、可とう性を有し、自在に形状を変えることができる。
【0031】
(4)電着塗装工程(硬化工程)
硬化工程は、電着塗装によって、導電性基材12同士の間の空隙14が水溶性塗布膜20で埋められた状態となるように編組線10に水溶性塗料20’の水溶液を浸透させて、所定の形状を維持した状態で編組線10を硬化する工程である(
図5(a―4)及び
図5(b-4)参照。)。水溶性塗料20’は、絶縁性を有し、かつ、接着性があるものが好ましい。
【0032】
図6は、実施形態1における硬化工程を説明するために示す図である。例えば、以下の方法によって硬化工程を実施してもよい。例えば、液槽・容器等(以下、単に液槽Tとする)の内側に水溶性塗料20’の水溶液を満たす。このとき、電極E2を液槽T内に配置する。そして、電極E1と接続された編組線10を液槽T内に投入する。これにより、水溶性の材料が編組線10を構成する導電性基材12の間に浸透(侵入)する。次に、電極E1と電極E2との間に直流電圧を印加して、編組線10(微視的に言うと編組線10を構成する導電性基材12)の周囲に、水溶性塗布膜20としての電着絶縁塗布膜を析出させる。このように水溶性塗布膜20を形成していき、導電性基材12同士の間の空隙14を水溶性塗布膜20で埋める。このようにして所定の形状を維持した状態で編組線10を硬化する。このようにして導電部材1を製造することができる。
【0033】
なお、直流電圧を印加する際に、液槽内の水溶液に対し超音波を印加してもよい。超音波を印加することで導電性基材12の周囲から気泡や不純物を除去することができ、絶縁品質を向上させることができる。また、実施形態1においては、絶縁電着塗装を用いたが、これに限定されるものではなく、直流電圧を印加することなく、水溶液の浸透によって導電性基材12の表面に水溶性塗料を塗布し、乾燥することによって水溶性塗布膜を形成してもよいし、編組線10に直接水溶性塗料を塗布してもよい。
【0034】
その後、製造された導電部材1を電力線回路ベースbase上に配置する。
図7(a)は、導電部材1を電力線回路ベースbaseに配置する様子を示す図である。なお、実施形態1においては、
図7においては、U相、V相、W相のそれぞれに対応した3本の導電部材1を電力線回路ベースbase上に配置する。
次に、取付孔30を通してボルト40で電力線回路ベースbaseにねじ止めする。
図7(b)は、導電部材1を電力線回路ベースbaseにねじ止めしたときの様子を示す図である。このとき、ボルト40によって、取付孔30の内側面の水溶性塗布膜20が剥がれることで導電部材1とボルト40とが導通し、導電部材1が、ボルト40を介して電力線回路ベースbaseと接続されることとなる。
このようにして、導電部材1を電力線回路ベースbaseに実装することができる(取付工程(
図5(a―5)、
図5(b-5)及び
図7(b)参照。))。
【0035】
3.実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法の効果
実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、線状の導電性基材12によって編み込まれた編組線10を備えるため、編組線10を柔軟に折り曲げることができ、所定の形状にフォーミングすることができる。従って、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電経路を比較的容易に形成することができる。
【0036】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、導電部材1は、少なくとも導電性基材12同士の間の空隙14が水溶性塗布膜20で埋められており、かつ、編組線10が所定の形状を維持した状態で硬化されているため、フォーミングされた導電部材1の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、導電性基材12同士の間の空隙14や編み目が伸縮し難く、モータ等の外部の振動に共振して導電部材1の接続が外れる等の不具合を防ぐことができ、その結果、信頼性が高い導電部材となる。
【0037】
ところで、一般に、交流電流が導体を流れる場合には、表皮効果によって導体の表面で電流密度が高くなり、表面から離れると低くなる。特に、電流が高周波成分を含む場合(例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御による高速スイッチングによる電力制御で、大容量の高トルクモータや電力源間での急速充電(回生制御)、急速放電(駆動制御)の場合等)には、電流が表面に集中するので、導体の交流抵抗は高くなる傾向にある。実施形態1に係る導電部材1によれば、線状の導電性基材12によって編み込まれた編組線10を備えるため、同じ断面積の板状の導電部材1の場合と比較して、表面の面積が大きく、電流が所定の領域に集中することを防ぐことができ、その結果、導体抵抗を低くすることができる。
【0038】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、導電性基材12同士の間の空隙14が水溶性塗布膜20で埋められていることから、導電性基材12が位置ずれし難くなり、安定した形状の導電部材となる。その結果、この観点においても信頼性が高い導電部材となる。
【0039】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、線状の導電性基材12によって編み込まれた編組線10を備えるため、従来の導電部材900の場合のように銅の板材を切削加工・プレス加工・折り曲げ加工等することによって製造しなくてもよくなるため、所望の形状に形成し易くなる。また、編組線10を折り曲げるだけで所望の形状とすることができるため、工程数が増加し難く、生産性を高くすることができる。さらには、編組線10を用いるため、切削加工による端材が少なく、製造コストを低減し易くなる。
【0040】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、導電性基材12の周囲に形成された水溶性塗布膜20を備えるため、製造過程において、浸透による効果で、水溶性塗布膜20の材料である水溶性塗料20’を編組線10の内部の導電性基材12同士の間にまでも行き渡って導電性基材12同士の間の隙間16を埋めることができる。従って、編組線10に直接塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜の偏りを生じ難く、均一な水溶性塗布膜を形成することができる。その結果、安定して高品質の導電部材とすることができる。
【0041】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、導電性基材12の周囲に形成された水溶性塗布膜20を備えるため、導電性基材12を水溶性塗料20’の水溶液に浸すだけで、水溶性塗料20’を導電性基材12の周囲に行き渡らせることができる。従って、塗布による塗布膜形成に比べて少ない工程で水溶性塗料20’を形成することができる。このため、高品質な導電部材を製造することができるだけでなく、作業効率を高めることができ、量産性の高い導電部材となる。
【0042】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、水溶性塗布膜20は、絶縁性塗布膜であるため、浸透による効果で、水溶性塗布膜20の材料である水溶性塗料20’を編組線10の内部の導電性基材12間にまでも行き渡って導電性基材12間の空隙14を埋めることができることから、編組線10に塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜20の偏りを生じ難く、均一な水溶性塗布膜20を形成することができる。その結果、均一な絶縁体静特性を有し、絶縁特性が安定した導電部材となる。これにより、編組線10の導電性基材12の表面を確実に絶縁することができ、塵漏電、電食、大気放電、感電等の不具合が起こり難く、異物金属が接触して短絡することを防ぐこともできる。
【0043】
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、水溶性塗布膜20は、電着塗布膜であるため、電着塗料を含む溶液が入った液槽Tに編組線10を全没させて所定の電圧を印加して水溶性塗布膜20を形成することとなる。従って、水溶性塗料20’が編組線10の内部の狭い箇所や空隙にまで浸透し、かつ、編組線10にあらゆる方向から電着塗料が浸透することになる。このことから、水溶性塗料20’が編組線10の内部の狭い箇所や空隙に水溶性塗布膜20を形成することができるとともに、編組線10のあらゆる方向に均一な水溶性塗布膜20を形成することができる。従って、品質が高い導電部材となる。
特に、水溶性塗布膜20が電着絶縁塗布膜であるため、編組線10の内部の狭い箇所や空隙に電着絶縁塗布膜を形成することができるとともに、編組線のあらゆる方向に均一な電着絶縁塗布膜を形成することができる。従って、絶縁耐性がより一層高い導電部材となる。
また、実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法によれば、水溶性塗布膜20は、電着塗布膜であるため、電着塗料の濃度や印加する電圧を制御することで、容易に水溶性塗布膜20の膜厚を制御することができる。従って、導電部材の使用用途に合わせて絶縁耐性を制御することができ、様々な電気機器に対応可能な導電部材となる。
さらにまた、被塗物との密着性が高くなるため、水溶性塗布膜20が導電性基材12の表面から剥離し難く、信頼性が高い導電部材となる。
【0044】
[実施形態2]
図8は、実施形態2に係る導電部材2を示す図である。
実施形態2に係る導電部材2は、基本的には実施形態1に係る導電部材1と同様の構成を有するが、水溶性塗布膜の材料が実施形態1に係る導電部材1の場合と異なる。すなわち、実施形態2に係る導電部材2において、水溶性塗布膜20aは、導電性塗布膜である。
【0045】
このように、実施形態2に係る導電部材2は、水溶性塗布膜の材料が実施形態1に係る導電部材1の場合と異なるが、実施形態1に係る導電部材1の場合と同様に、少なくとも導電性基材12同士の間の空隙14が水溶性塗布膜20aで埋められており、かつ、編組線10が所定の形状を維持した状態で硬化されているため、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、導電性基材12同士の間の空隙14や編み目が伸縮し難く、モータ等の外部の振動に共振して導電部材の接続が外れる等の不具合を防ぐことができ、その結果、信頼性が高い導電部材となる。
【0046】
また、実施形態2に係る導電部材2によれば、水溶性塗布膜20aは、導電性塗布膜であるため、電流導通路である導電性基材12の表面の面積が疑似的に大きくなり、電流が所定の領域に集中することをより一層緩和することができ、その結果、導体抵抗をより一層低くすることができる。
【0047】
また、実施形態2に係る導電部材2によれば、水溶性塗布膜20は、導電性塗布膜であるため、製造過程において、浸透による効果で、水溶性塗布膜20の材料である水溶性塗料20’を編組線10の内部の導電性基材12間にまでも行き渡って導電性基材12間の隙間や空隙を埋めることができることから、編組線10に塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜の偏りを生じ難く、均一な導電性塗布膜を形成することができる。その結果、均一なメッキ特性を有する導電部材となる。
【0048】
なお、実施形態2に係る導電部材2は、水溶性塗布膜の材料以外の点においては実施形態1に係る導電部材1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る導電部材1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0049】
[実施形態3]
図9は、実施形態3に係る導電部材3を示す図である。
実施形態3に係る導電部材3は、基本的には実施形態1に係る導電部材1と同様の構成を有するが、水溶性塗布膜の構成が実施形態1に係る導電部材1の場合と異なる。すなわち、実施形態3に係る導電部材3において、水溶性塗布膜20bは、導電性塗布膜21と絶縁性塗布膜22とが積層されてなる。実施形態3においては導電性塗布膜21を電着塗装により形成した後で、絶縁性塗布膜22を電着塗装によって形成する。
【0050】
このように、実施形態3に係る導電部材3は、水溶性塗布膜の構成が実施形態1に係る導電部材1の場合と異なるが、実施形態1に係る導電部材1の場合と同様に、少なくとも導電性基材12同士の間の空隙が水溶性塗布膜20bで埋められており、かつ、編組線10が所定の形状を維持した状態で硬化されているため、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、導電性基材12同士の間の空隙や編み目が伸縮し難く、モータ等の外部の振動に共振して導電部材の接続が外れる等の不具合を防ぐことができ、その結果、信頼性が高い導電部材となる。
【0051】
また、実施形態3に係る導電部材3によれば、水溶性塗布膜20bは、導電性塗布膜21と絶縁性塗布膜22とが積層されてなるため、電流導通路である導電性基材12の表面の面積が疑似的に大きくなり、電流が所定の領域に集中することをより一層緩和することができるとともに、導電部材3を周囲から確実に絶縁することができる。
【0052】
また、実施形態3に係る導電部材3によれば、水溶性塗布膜20bは、導電性塗布膜21と絶縁性塗布膜22とが積層されてなるため、製造過程において、浸透による効果で、水溶性塗布膜の材料である水溶性塗料を編組線10の内部の導電性基材12間にまでも行き渡って導電性基材12間の隙間や空隙を埋めることができることから、編組線10に塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜の偏りを生じ難く、均一な導電性塗布膜及び絶縁性塗布膜を形成することができる。その結果、メッキ及び絶縁性被膜の両方について均一な導電部材となる。
【0053】
なお、実施形態3に係る導電部材3は、水溶性塗布膜の構成以外の点においては実施形態1に係る導電部材1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る導電部材1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0054】
[実施形態4]
図10は、実施形態4に係る導電部材の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
図11は、実施形態4に係る導電部材4の製造方法を説明するために示す図である。
実施形態4に係る導電部材4は、基本的には実施形態1に係る導電部材1と同様の構成を有するが、導電部材の端子の構成が実施形態1に係る導電部材1の場合と異なる。すなわち、実施形態4に係る導電部材4においては、編組線10の一方端及び他方端において、編組線10をはんだで塗布することによって形成された端子部50が形成されている。
【0055】
実施形態4においては、以下の方法で、導電部材4を製造する(実施形態4に係る導電部材の製造方法)。実施形態4に係る導電部材の製造方法は、
図10に示すように、編組線準備工程と、端子形成工程(ハンダメッキ)と、取付孔形成工程と、成形工程と、電着塗装工程(硬化工程)と、乾燥工程とをこの順序で含む。具体的には、まず、編組線10を準備する(
図11(a)参照。)。次に、編組線10の一方端及び他方端をそれぞれはんだ溶液に漬けることではんだ溶液を編組線10の端部に浸透させる。これにより、導電性基材12の周囲や導電性基材12同士の間の空隙(や隙間)をはんだ溶液で埋めることになり、編組線10の一方端と他方端が、導電部材4と他の電極とを接続する端子部50となる(
図11(b)参照。)。次に、端子部50に取付孔32を形成する(
図11(c)参照)。次に、所定の形状にフォーミングした状態で、端子部50をマスクして、水溶性塗料20’の水溶液中に全没させ、電着塗装によって、編組線10における端子部50以外の個所に水溶性塗布膜20を形成する(
図11(d)参照)。次に、この導電部材を乾燥させる(図示せず)。このようにして、導電部材4を製造することができる。
【0056】
このように、実施形態4に係る導電部材4は、導電部材の端子の構成が実施形態1に係る導電部材1の場合と異なるが、実施形態1に係る導電部材1の場合と同様に、少なくとも導電性基材12同士の間の空隙が水溶性塗布膜で埋められており、かつ、編組線10が所定の形状を維持した状態で硬化されているため、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、導電性基材12同士の間の空隙や編み目が伸縮し難く、モータ等の外部の振動に共振して導電部材の接続が外れる等の不具合を防ぐことができ、その結果、信頼性が高い導電部材となる。
【0057】
また、実施形態4に係る導電部材4によれば、編組線10の一方端及び他方端をはんだ溶液に漬けるだけで、はんだ溶液が編組線10に浸透し、容易に端子部50を形成することができる。
【0058】
なお、実施形態4に係る導電部材4は、端子の構成以外の点においては実施形態1に係る導電部材1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る導電部材1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0059】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0060】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0061】
(2)上記各実施形態においては、電力線回路ベースbase上に導電部材を配置したが、本発明はこれに限定するものではない。電力線回路ベースbaseなしで導電部材を配置してもよいし、電力線回路ベースbase以外の部材に配置、接続してもよい。
【0062】
(3)上記各実施形態においては、電着塗装によって水溶性塗布膜を形成したが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、水溶性塗布膜が熱硬化性塗布膜の場合に、以下の方法によって水溶性塗布膜を形成してもよい。例えば、液槽・容器等の内側に熱硬化性樹脂溶液を満たしたうえで、液槽の内側にフォーミングされた編組線10を投入する。これにより、水溶性の材料が編組線を構成する導電性基材12の間に浸透(侵入)する。そして、導電性基材12の周囲に水溶性の材料が付着した状態で編組線10を液槽から引き上げる。この後、編組線10に対して加熱をすることによって導電性基材12の周囲に付着した水溶性の材料に由来する材料を固化する。このような工程としてもよい。このような構成(方法)とすることにより、水溶性塗布膜は、熱硬化性塗布膜であるため、加熱することにより、導電部材をより一層硬化することができる。その結果、形状安定性が高い導電部材となる。
【0063】
(4)上記各実施形態においては、導電性基材として導線を撚った撚線を用いたが、本発明はこれに限定するものではない。導電性基材として、少なくとも一部にカーボン材を有する導電性基材を用いてもよい。この場合、小型で軽量、かつ、耐腐食性に優れた編組線となり、小型で軽量、かつ、耐腐食性に優れた導電部材となる、という効果もある。
【符号の説明】
【0064】
1,2,3,4…導電部材、10…編組線、12…導電性基材、14…空隙、16,18…隙間、20,20a,20b…水溶性塗布膜、20’…水溶性塗料、21…導電性塗布膜、22…絶縁性塗布膜、30,32…取付孔、40…ボルト、50…端子部、B…電力線回路ベース、E1,E2…電極、T…液槽