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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053110
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】車両のアクティブサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20220329BHJP
   B60G 3/18 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159732
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】釜井 一仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 章人
(72)【発明者】
【氏名】山本 丈晴
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA04
3D301AA05
3D301AA10
3D301AA33
3D301EA17
3D301EB13
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC07
3D301EC08
3D301EC53
(57)【要約】
【課題】車両の回転挙動に対する減衰力可変ダンパの減衰力の調整を容易とし、調整コストを抑えるとともに完成度高く調整することが可能で、かつ生産コストを抑えた車両のアクティブサスペンション装置を提供する。
【解決手段】加速度センサ15、16、17によって検出した車両のばね上の上下挙動からばね上のロール角及びばね下のロール角を演算し、ばね上のロール角とばね下のロール角との差に基づいてロール減衰力制御値を演算するロール抑制制御部26と、ばね上の上下挙動からばね上のピッチ角及びばね下のピッチ角を演算し、ばね上のピッチ角とばね下のピッチ角との差に基づいてピッチ減衰力制御値を演算するピッチ抑制制御部27と、を有し、ロール減衰力制御値及びピッチ減衰力制御値に基づいて複数の減衰力可変ダンパ12a~12dの減衰力を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪毎にばね上とばね下との間に設けられた振動減衰装置の減衰力を、車両の走行状態に基づいて制御する車両のアクティブサスペンション装置において、
前記車両のばね上の重心位置における回転挙動を検出するばね上回転挙動検出部と、
前記ばね上の重心位置における回転挙動に基づいて、前記車両のばね下の重心位置における回転挙動を演算するばね下回転挙動演算部と、
前記ばね上の前記重心位置における回転挙動と前記ばね下の前記重心位置における回転挙動との差に基づいて前記車両の回転挙動を抑制する回転減衰力制御値を演算し、当該回転減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置の減衰力を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする車両のアクティブサスペンション装置。
【請求項2】
前記回転挙動は、前記車両のロールセンタ周りのロール角、及び前記車両の重心位置周りのピッチ角の少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の車両のアクティブサスペンション装置。
【請求項3】
前記ばね上回転挙動検出部は、
前記ばね上に前記重心位置から前記車両の前後左右方向に互いに離間した3個以上の加速度検出部と、
前記3個以上の加速度検出部により検出された加速度に基づいて前記ばね上の前記重心位置における回転挙動を演算するばね上回転挙動演算部と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車両のアクティブサスペンション装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記ばね上の前記ロールセンタ周りのロール角と前記ばね下の前記ロールセンタ周りのロール角との差に基づいて、スカイフック制御にしたがって前記車両のロールを抑制するロール減衰力制御値を演算し、前記ロール減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置における減衰力制御値を設定するロール抑制制御部と、
前記ばね上の重心位置周りのピッチ角と前記ばね下の重心位置周りのピッチ角との差に基づいて、スカイフック制御にしたがって前記車両のピッチを抑制するピッチ減衰力制御値を演算し、前記ピッチ減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置における減衰力制御値を設定するピッチ抑制制御部と、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載の車両のアクティブサスペンション装置。
【請求項5】
前記3個以上の加速度センサにより検出された加速度に基づいて、前記車両の重心位置の上下挙動を演算し、当該重心位置の上下挙動に基づいて、スカイフック制御にしたがって当該重心位置におけるばね上の上下動を抑制する上下動減衰力制御値を演算する上下挙動演算部を備え、
前記制御部は、前記ロール減衰力制御値、前記ピッチ減衰力制御値及び前記上下動減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置の減衰力制御値を夫々設定することを特徴とする請求項4に記載の車両のアクティブサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置に係り、詳しくは、アクティブサスペンション装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置において、減衰力可変ダンパを使用したアクティブサスペンション装置が知られている。アクティブサスペンション装置は、例えば車体の各種方向の車両挙動を検出して、四輪に夫々備えられた減衰力可変ダンパの減衰力を制御することで、操安性や乗り心地を改善することができる。
アクティブサスペンション装置は、例えばスカイフック制御に基づいて各輪のサスペンション装置における減衰力可変ダンパを夫々制御して、ばね上、即ち車体の上下動を抑制する。
【0003】
このようにばね上の上下動を抑制するスカイフック制御を実現させるために、各手法が研究されている。例えば特許文献1では、車速、車輪速、減衰力可変ダンパのストロークを検出して、これらの検出値に基づいて、減衰力可変ダンパの減衰力を制御する。
また、特許文献2では、各輪においてばね上の加速度を検出し、このばね上の加速度に基づいて、夫々の減衰力可変ダンパの減衰力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-241813号公報
【特許文献2】特開平6-106937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、各車輪の減衰力可変ダンパにストロークセンサを備えるので、部品コストが増加するとともに、サスペンション装置のレイアウトに制約を受けるといった問題点がある。
また、上記特許文献2では、減衰力可変ダンパのストロークセンサが不要であるものの、各輪の支持位置において車体の加速度を検出して減衰力可変ダンパの減衰力を制御するため、四輪夫々で演算、制御を必要とし、計算コストの高いものとなってしまう。これにより、応答性が低下する可能性がある。
【0006】
更に、車両の挙動としては、バウンス(上下動)と、ピッチやロールといった回転挙動とがあるが、特に回転挙動を抑制し、減衰力可変ダンパの減衰力の調整を容易にすることが要求されている。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両の回転挙動を抑制し、減衰力可変ダンパの減衰力の調整が容易であることによって調整コストを抑え、完成度高く調整された商品を早期に提供でき、かつコストを抑えた車両のアクティブサスペンション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の車両のアクティブサスペンション装置は、車両の複数の車輪毎にばね上とばね下との間に設けられた振動減衰装置の減衰力を、車両の走行状態に基づいて制御する車両のアクティブサスペンション装置において、前記車両のばね上の重心位置における回転挙動を検出するばね上回転挙動検出部と、前記ばね上の重心位置における回転挙動に基づいて、前記車両のばね下の重心位置における回転挙動を演算するばね下回転挙動演算部と、前記ばね上の前記重心位置における回転挙動と前記ばね下の前記重心位置における回転挙動との差に基づいて前記車両の回転挙動を抑制する回転減衰力制御値を演算し、当該回転減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置の減衰力を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
このように構成した車両のアクティブサスペンション装置によれば、複数の振動減衰装置の減衰力が、重心位置における回転挙動より演算される回転減衰力制御値に基づいて制御されるので、重心位置における回転挙動に基づいて複数の振動減衰装置の減衰力を一度に設定して、車体の回転挙動を抑制するように制御することが可能となる。重心位置における回転挙動は、車体の上下動等の他の挙動の影響が含まれないため、回転挙動を制御するための振動減衰装置の減衰力の演算を簡単にすることができるとともに、減衰力を適切に設定するための調整作業を簡易にすることができる。
【0009】
特に、ばね上回転挙動検出部によって検出したばね上の重心位置における回転挙動に基づいて、ばね下の重心位置における回転挙動を演算し、ばね上の重心位置における回転挙動とばね下の重心位置における回転挙動との差に基づいて回転減衰力制御値を演算するので、回転減衰力制御値を容易にかつ精度良く演算することができる。
また、好ましくは、前記回転挙動は、前記車両のロールセンタ周りのロール角、及び前記車両の重心位置周りのピッチ角の少なくともいずれか一方であるとよい。
【0010】
これにより、車両のロール角またはピッチ角に基づいて複数の振動減衰装置の減衰力を一度に設定して、車両のロールやピッチを抑制するように制御することが可能となる。
また、好ましくは、前記回転挙動検出部は、前記ばね上に前記重心位置から前記車両の前後左右方向に互いに離間した3個以上の加速度検出部と、前記3個以上の加速度検出部により検出された加速度に基づいて前記ばね上の前記重心位置における回転挙動を演算するばね上回転挙動演算部と、を備えるとよい。
【0011】
これにより、3個以上の加速度センサにより重心位置における回転挙動を検出することができる。したがって、例えば車両の上下動を検出するために備えた3個以上の加速度センサを利用して、重心位置における回転挙動を検出することができ、部品点数の増加を抑制しつつ振動減衰装置の減衰力の制御を可能にすることができる。
また、好ましくは、前記制御部は、前記ばね上の前記ロールセンタ周りのロール角と前記ばね下の前記ロールセンタ周りのロール角との差に基づいて、スカイフック制御にしたがって前記車両のロールを抑制するロール減衰力制御値を演算し、前記ロール減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置における減衰力制御値を設定するロール抑制制御部と、前記ばね上の重心位置周りのピッチ角と前記ばね下の重心位置周りのピッチ角との差に基づいて、スカイフック制御にしたがって前記車両のピッチを抑制するピッチ減衰力制御値を演算し、前記ピッチ減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置における減衰力制御値を設定するピッチ抑制制御部と、を備えるとよい。
【0012】
これにより、ロール抑制制御部において、車両のロールセンタ周りのロール角に基づいて、スカイフック制御にしたがって車両のロールを抑制するロール減衰力制御値が演算されて、複数の振動減衰装置における減衰力制御値が設定されるので、車両のロールが抑制される。
また、ピッチ抑制制御部において、車両の重心位置周りのピッチ角に基づいて、スカイフック制御にしたがって車両のピッチを抑制するピッチ減衰力制御値が演算されて、複数の振動減衰装置における減衰力制御値が設定されるので、車両のピッチが抑制される。
【0013】
これにより、車両の操安性及び乗り心地を改善することができる。
また、好ましくは、前記3個以上の加速度センサにより検出された加速度に基づいて、前記車両の重心位置の上下挙動を演算し、当該重心位置の上下挙動に基づいて、スカイフック制御にしたがって当該重心位置におけるばね上の上下動を抑制する上下動減衰力制御値を演算する上下挙動演算部を備え、前記制御部は、前記ロール減衰力制御値、前記ピッチ減衰力制御値及び前記上下動減衰力制御値に基づいて前記複数の振動減衰装置の減衰力制御値を夫々設定するとよい。
【0014】
これにより3個以上の加速度センサにより検出された加速度に基づいて、スカイフック制御による車体の上下動の抑制制御、ロールの抑制制御及びピッチの抑制制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両のアクティブサスペンション装置によれば、車体の上下動の影響が抑制されて、簡単な構成及び制御で車体の回転挙動を抑制するように振動減衰装置の減衰力の制御が可能となり、減衰力可変ダンパの減衰力の調整を容易にすることができる。これにより、アクティブサスペンション装置における調整コストを抑え、完成度高く調整された商品を早期に提供できるとともに装置コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態のアクティブサスペンション装置の概略構成図である。
図2】本実施形態のアクティブサスペンション装置のブロック図である。
図3】バウンススカイフック制御のモデル図である。
図4】ロールスカイフック制御のモデル図である。
図5】ピッチスカイフック制御のモデル図である。
図6】本実施形態のアクティブサスペンション装置の制御概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化したアクティブサスペンション装置の一実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態のアクティブサスペンション装置の実施形態の概略構成図である。図2は、本実施形態のアクティブサスペンション装置のブロック図である。図3は、(バウンス)スカイフック制御のモデル図である。図4は、ロールスカイフック制御のモデル図である。図5は、ピッチスカイフック制御のモデル図である。図6は、本実施形態のアクティブサスペンション装置の制御概念図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の一実施形態のアクティブサスペンション装置2は、左右前後に車輪3を備えた四輪自動車(以下、車両1という)に搭載されている。車両1の四つの車輪3は、夫々サスペンションユニット7a、7b、7c、7dによって車体8に懸架されている。
サスペンションユニット7a、7b、7c、7dは、車体8と車輪3との間に、減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12d(振動減衰装置)及びスプリング13a、13b、13c、13d(ばね)を夫々備えている。即ち、車体8は、左右前後の車輪3の夫々において、車輪3に対して減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dとスプリング13a、13b、13c、13dによって支持されている。
【0019】
車体8には、車両1のばね上の重心より前方、例えばエンジンルーム後部に、車両左右方向に離間して、第1の加速度センサ15(加速度検出部、ばね上回転挙動検出部)及び第2の加速度センサ16(加速度検出部)を備えている。また、車体8の後部には、第3の加速度センサ17(加速度検出部)が備えられている。第1の加速度センサ15、第2の加速度センサ16及び第3の加速度センサ17は、これらの取り付け位置における車体8の上下方向の加速度を検出する。
【0020】
減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dは、アクティブサスコントロールユニット10(制御部)により出力に基づく電気信号および、油圧あるいは空圧の制御を介して、減衰力が可変制御される。
アクティブサスコントロールユニット10は、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等から構成されている。アクティブサスコントロールユニット10は、第1の加速度センサ15、第2の加速度センサ16及び第3の加速度センサ17から、夫々車体8の上下方向の加速度を入力するとともに、これらの値に基づき、スカイフック制御によるバウンス抑制(上下動抑制)、ロール抑制及びピッチ抑制(回転挙動抑制)を実行するための各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの減衰力を逐次演算し、各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dを夫々制御する。
【0021】
また、アクティブサスコントロールユニット10は、メインコントロールユニット18から車両速度や操舵角情報・アクセル・ブレーキなどのドライバ操作に連動した情報を入力して、演算・制御を加えて実行しても良い。
図2にスカイフック制御によるバウンス抑制、ピッチ抑制及びロール抑制を行う制御部の例を示す。アクティブサスコントロールユニット10は、ばね上挙動抑制制御部21及び出力調停制御部22を備えている。
【0022】
ばね上挙動抑制制御部21は、ばね上即ち車体8の挙動を抑制するために、各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの減衰力を演算する機能を有し、バウンス抑制制御部25(上下挙動演算部)、ロール抑制制御部26(ばね上回転挙動演算部、ばね下回転挙動演算部)、ピッチ抑制制御部27(ばね上回転挙動演算部、ばね下回転挙動演算部)を備えている。
【0023】
バウンス抑制制御部25は、車体8の上下加速度(バウンス加速度)を抑制するために、スカイフックダンパ理論に基づいてアクティブサスペンション制御であるスカイフック制御を行う。スカイフック制御は、ばね上を空中の架空の線に固定された状態にするために理想的な減衰力を演算する公知の制御である。
バウンス抑制制御部25では、四輪毎にその支持部における車体8の上下挙動を検出してスカイフック制御用の演算を行うのではなく、車体8の左右前後に計3箇所設けた加速度センサ15、16、17により検出した各上下加速度に基づき、あらかじめ確認した車体8の重心位置での上下加速度を演算する。そして、当該重心位置で仮想的なばね下挙動を推定し、重心位置での上下加速度を抑制するためのスカイフック制御を行う。なお、ここでの重心位置とは、車両1を水平に設置させた状態での、車体8の重心、即ち車両1のばね上の重心である。
【0024】
スカイフック制御によるバウンス抑制制御について、図3を用いて説明する。図3において、スカイフック減衰力Fs(t)(上下動減衰力制御値)、ばね上質量Mb、ばね下質量Ms、ばね定数Ks(ばね上とばね下との間)、ばね定数Kt(ばね下と地面との間)、減衰係数Cs(ばね上とばね下との間)、減衰係数Ct(ばね下と地面との間)、ばね上の変位Xb(t)、ばね下の変位Xs(t)、地面の変位Xin(t)とする。なお、これらの値は、本実施形態では車両の重心地点での仮想値となる。
【0025】
ばね上およびばね下の上下挙動は、下記式(1)および(2)にて記述できる。なお、以下の式(1)~(5)において、A´はAの一階微分、A´´はAの二階微分を示す。
Mb Xb´´(t)+Cs(Xb´(t)-Xs´(t))+Ks(Xb(t)-Xs(t))=Fs(t)・・・(1)
Ms Xs´´(t)+Ct(Xs´(t)-Xin´(t))+Kt(Xs(t)-Xin(t))-Cs(Xb´(t)-Xs´(t))-Ks(Xb(t)-Xs(t))=0・・・(2)
スカイフック減衰力Fs(t)は、下記式(3)により求められる。
【0026】
Fs(t)=Cs(Xb´(t)-Xs´(t))+Ks(Xb(t)-Xs(t))・・・(3)
しかしながら、式(3)において、(Xb(t)-Xs(t))、及び(Xb´(t)-Xs´(t))については、サスストローク情報を検出して得られる値である。
そこで、バウンス抑制制御部25は、スカイフック制御において、ばね下の変位Xs(s)を、式(1)および(2)からばね上とばね下の伝達関数より演算して推定する。
【0027】
このように、バウンス抑制制御部25では、ばね下の変位を、ばね上とばね下の伝達関数より演算して推定することで、サスストローク、即ち減衰力可変ダンパの実際の移動量の検出を不要としている。
バウンス抑制制御部25は、上記のように演算したスカイフック減衰力Fs(t)に基づいて、重心地点での車体8の上下加速度を抑える指示電流Ig(重心位置減衰力制御値)を演算する。
【0028】
ロール抑制制御部26は、車体8のロールを抑制するために、スカイフックダンパ理論に基づいてスカイフック制御(ロールスカイフック制御)を行う。
ロール抑制制御部26では、車体8の左右前後に計3箇所設けた加速度センサ15、16、17により検出した各上下加速度に基づき、車両1のばね上の重心位置でのロール角度(ばね上ロール角)を演算する。そして、ばね下の重心位置でのロール角度(ばね下ロール角)を推定し、車両のロールセンタ周りロールを抑制するためのロールスカイフック制御を行う。なお、車両のロールセンタは、ばね上の重心位置とばね下の重心位置とを結ぶ延長線上で、ばね下の重心位置より低い位置となる。
【0029】
ロールスカイフック制御について、図4を用いて説明する。図4において、ロールスカイフックモーメントMsky roll(回転減衰力制御値)、重心位置ばね上ロール慣性モーメントIroll、重心位置ばね下ロール慣性モーメントiroll、ばね上質量Mb、ばね下質量Ms、ロールセンタ高さからばね上重心高までの距離L、ロールセンタ高さからばね下重心高までの距離l、サス分ロール減衰係数Csroll、サス分ロール剛性Ksroll、タイヤ分ロール減衰係数Ctroll、タイヤ分ロール剛性Ktroll、ばね上ロール角θroll、ばね下ロール角φroll、路面ロール角ψrollとする。なお、これらの値は、本実施形態では車両の重心地点での仮想値となる。
【0030】
車両1がロール運動を生じない、即ちばね上ロール角θrollの加速度が0(θroll´´=0)となるロールスカイフックモーメントMsky rollは、下式(4)で表される。
Msky roll=-(θroll´-φroll´)Csroll-(θroll-φroll))Ksroll・・・(4)
なお、ばね上ロール角θrollは加速度センサ15~17の検出値によって得られる。ばね下ロール角φrollについては、ロールセンタ回りにロール運動が生じるときの、ばね下ロールに関する運動方程式と、ばね上ロールに関する運動方程式により得られる伝達関数を用いて演算すればよい。
【0031】
このように、ロール抑制制御部26は、ばね下ロール角φrollをばね上とばね下の伝達関数より演算して推定することで、サスストロークの検出を不要としている。
ロール抑制制御部26は、上記のように演算したロールスカイフックモーメントMsky rollに基づいて、ロールセンタ回りのロールを抑える指示電流Ir(ロール減衰力制御値)を演算する。
【0032】
ピッチ抑制制御部27は、車体8のピッチを抑制するために、スカイフックダンパ理論に基づいてスカイフック制御(ピッチスカイフック制御)を行う。
ピッチ抑制制御部27では、車体8の左右前後に計3箇所設けた加速度センサ15、16、17により検出した各上下加速度に基づき、車両1のばね上の重心位置でのピッチ角度(ばね上ピッチ角)を演算する。そして、ばね下の重心位置でのピッチ角度(ばね下ピッチ角)を推定し、車両の重心周りのピッチを抑制するためのピッチスカイフック制御を行う。
【0033】
ピッチスカイフック制御について、図5を用いて説明する。図5において、ピッチスカイフックモーメントMsky pitch(回転減衰力制御値)、重心位置ばね上ピッチ慣性モーメントIpitch、重心位置ばね下ピッチ慣性モーメントipitch、サス分ピッチ減衰係数Cspitch、サス分ピッチ剛性Kspitch、タイヤ分ピッチ減衰係数Ctpitch、タイヤ分ピッチ剛性Ktpitch、ばね上ピッチ角θpitch、ばね下ピッチ角φpitch、路面ピッチ角ψpitchとする。なお、これらの値は、本実施形態では車両の重心地点での仮想値となる。
【0034】
車両1がピッチ運動を生じない、即ちばね上ピッチ角θpitchの加速度が0(θpitch´´=0)となるピッチスカイフックモーメントMsky pitchは、下式(5)で表される。
Msky pitch=-(θpitch´-φpitch´)Cspitch-(θpitch-φpitch))Kspitch・・・(5)
なお、ばね上ピッチ角θpitchは加速度センサ15~17の検出値によって得られる。ばね下ピッチ角φpitchについては、重心回りにピッチ運動が生じるときの、ばね下ピッチに関する運動方程式と、ばね上ピッチに関する運動方程式により得られる伝達関数を用いて演算すればよい。
【0035】
このように、ピッチ抑制制御部27は、ばね下ロール角φpitchをばね上とばね下の伝達関数より演算して推定することで、サスストロークの検出を不要としている。
ピッチ抑制制御部27は、上記のように演算したピッチスカイフックモーメントMsky pitchに基づいて、重心回りのピッチを抑える指示電流Ip(ピッチ減衰力制御値)を演算する。
【0036】
出力調停制御部22は、バウンス抑制制御部25において演算した指示電流Igに、ロール抑制制御部26で演算した指示電流Irとピッチ抑制制御部27で演算した指示電流Ipを加算して、前後左右の各減衰力可変ダンパ12a、12b、12cの減衰力を設定する指示電流(減衰力制御値)を夫々出力する。
詳しくは、ピッチ抑制制御部27で演算した指示電流Ipのうち、前側の減衰力可変ダンパ12a、12bへの指示電流をIpF、後側の減衰力可変ダンパ12c、12dへの指示電流をIpRとし、ロール抑制制御部26で演算した指示電流Irのうち、右側の減衰力可変ダンパ12a、12cへの指示電流をIrR、左側の減衰力可変ダンパ12b、12cへの指示電流をIrLとした場合、各減衰力可変ダンパへの合計の指示電流(右前減衰力可変ダンパ12aへの指示電流IFR、左前減衰力可変ダンパ12bへの指示電流IFL、右後減衰力可変ダンパ12cへの指示電流IRR、左後減衰力可変ダンパ12dへの指示電流IRL)を、以下の式(6)~(9)により求める。
【0037】
IFR=Ig+IpF+IrR・・・(6)
IFL=Ig+IpF+IrL・・・(7)
IRR=Ig+IpR+IrR・・・(8)
IRL=Ig+IpR+IrL・・・(9)
以上のように求めた各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの指示電流IFR、IFL、IRR、IRLは、スカイフック制御に基づくばね上挙動、ロール及びピッチを抑制するための指示電流である。
【0038】
更に、車速に基づく指示電流Iv及び操舵角情報・アクセル・ブレーキなどのドライバ操作に連動した指示電流Isを求め、これらの指示電流Iv、Isを、上記(4)~(6)で演算したばね上挙動抑制用の指示電流IFR、IFL、IRR、IRLに加算して、各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの最終的な指示電流としてもよい。
図6に示すように、本実施形態のアクティブサスペンション装置2では、車体8の3つの位置での加速度情報から、ばね上の上下加速度(重心点上下G)、ばね上ロール角、ばね上ピッチ角といったばね上の挙動が演算される。更に、ばね下の上下加速度(仮想ばね下挙動)、ばね下ロール角(仮想ばね下ロール角)、ばね下ピッチ角(仮想ばね下ピッチ角)を推定し、これらから、車体8の上下動を抑制するための減衰力に設定する指示電流Ig、車体8のロールを抑制するための減衰力に設定する指示電流Ir、車体8のピッチを抑制するための減衰力に設定する指示電流Ipを演算する。そして、車輪3毎に指示電流Ig、Ir及びIpを加算して、各車輪3の減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの指示電流IFL、IFR、IRL、IRRが演算される。
【0039】
なお、図6に示すロール抑制制御部26におけるばね上ロール角演算が本発明のばね上回転挙動演算部に該当し、仮想ばね下ロール角推定が本発明のばね下回転挙動演算部に該当する。ピッチ抑制制御部27におけるばね上ピッチ角演算が本発明のばね上回転挙動演算部に該当し、仮想ばね下ピッチ角推定が本発明のばね下回転挙動演算部に該当する。
以上のように、本実施形態のアクティブサスペンション装置2は、車両1の4つの車輪3の減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dを可変制御するアクティブサスペンション装置2であり、スカイフック制御に基づいて車体8の上下動、ロール及びピッチを抑制する制御が行われる。
【0040】
本実施形態では、車体8に備えた3個の加速度センサ15、16、17から車体8の重心位置での加速度を演算し、この重心位置の加速度に基づいて、各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dへの指示電流IFL、IFR、IRL、IRRの成分としての指示電流Ig、Ir、Ipが夫々演算されるので、重心位置の加速度に基づいて複数の減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの減衰力を一度に設定して、車体8の上下動、ロール、ピッチを抑制するように制御することができる。これにより、車体全体の上下動、ロール及びピッチが抑制され、操安性及び乗り心地を改善することができる。
【0041】
重心位置においては、車体8の上下動、ピッチ及びロールが互いに影響を及ぼさないので、上下動、ピッチ及びロールを抑制するための夫々の減衰力の演算を簡単にすることができる。また、車両1の製造の際に、各減衰力可変ダンパ12a、12b、12c、12dの減衰力を適切に設定するための調整作業を簡易にすることができる。
特に、アクティブサスコントロールユニット10のロール抑制制御部26及びピッチ抑制制御部27は、加速度センサ15、16、17によって検出した加速度に基づいてばね上のロール角やピッチ角といった回転挙動を演算する。更にこのばね上のロール角やピッチ角からばね下のロール角やピッチ角を演算して、ばね上のロール角とばね下のロール角との差に基づいてロールを抑制する指示電流Irを演算するとともに、ばね上のピッチ角とばね下のピッチ角との差に基づいてピッチを抑制する指示電流Ipを演算する。したがって、ロールを抑制する指示電流Ir及びピッチを抑制する指示電流Ipを容易にかつ精度良く演算することができる。
【0042】
また、本実施形態では、3個の加速度センサ15、16、17の検出値から重心位置の上下加速度、ロール角及びピッチ角を演算する。したがって、この3個の加速度センサ15、16、17の検出値に基づいて、重心位置での上下動抑制制御と、ロール抑制制御、ピッチ抑制制御が可能となり、部品点数の増加を抑制しつつ振動減衰装置の減衰力の制御を可能にすることができる。
【0043】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、車両の上下動、ロール及びピッチについてスカイフック制御を応用した制御を行っているが、ロール及びピッチ、即ち重心位置における回転挙動の少なくとも1つについて本制御を行えばよい。
また、上記実施形態では、重心位置の上下加速度、ばね上ロール角、ばね上ピッチ角を3つの加速度センサの検出値から演算しているが、専用の加速度センサを備えてもよいし、他の検出値から推定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 車両
2 アクティブサスペンション装置
3 車輪
10 アクティブサスコントロールユニット(制御部)
12a、12b、12c、12d 減衰力可変ダンパ(振動減衰装置)
13a、13b、13c、13d スプリング(ばね)
15、16、17 加速度センサ(加速度検出部)
25 バウンス抑制制御部(上下挙動演算部)
26 ロール抑制制御部(ばね上回転挙動演算部、ばね下回転挙動演算部)
27 ピッチ抑制制御部(ばね上回転挙動演算部、ばね下回転挙動演算部、)
図1
図2
図3
図4
図5
図6