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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053212
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】セグメントリングの計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
G01C15/00 104D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159908
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西森 昭博
(72)【発明者】
【氏名】松原 健太
(72)【発明者】
【氏名】上田 潤
(72)【発明者】
【氏名】林 成卓
(72)【発明者】
【氏名】東野 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】白坂 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】土本 真史
(72)【発明者】
【氏名】松本 壮馬
(57)【要約】
【課題】セグメントリングの中心の位置を精度良く求めることを目的とする。
【解決手段】計測システム50は、セグメントリング30Aの内周面から離れるようにして、前記セグメントリング30Aの軸方向に延びる2つの軸方向目地39又は2つの把持孔37にそれぞれ設置された2つのターゲット53,54と、前記2つのターゲット53,54を視準することによってこれらのターゲット53,54の三次元的な座標値を計測する測量器51と、前記測量器51によって計測された座標値に基づいて前記セグメントリングの中心の座標値を算出するコンピュータ60と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントリングの内周面から離れるようにして、前記セグメントリングの軸方向に延びる2つの軸方向目地又は2つの把持孔にそれぞれ設置された2つのターゲットと、
前記2つのターゲットを視準することによってこれらのターゲットの三次元的な座標値を計測する測量器と、
前記測量器によって計測された座標値に基づいて前記セグメントリングの中心の座標値を算出する処理装置と、
を備えるセグメントリングの計測システム。
【請求項2】
前記処理装置が、前記セグメントリングが設計通りの組立から周方向にずれて組み立てられることによって生じるローリング誤差を、前記2つのターゲットの高さの差に基づいて算出する
請求項1に記載のセグメントリングの計測システム。
【請求項3】
前記処理装置が、前記測量器によって計測された座標値と前記ローリング誤差とに基づいて前記セグメントリングの中心の座標値を算出する
請求項2に記載のセグメントリングの計測システム。
【請求項4】
前記2つの軸方向目地は、前記セグメントリングが設計通りに組み立てられた場合に、前記セグメントリングの軸を通る鉛直面に関して互いに面対称に配置されるものである
請求項1から3の何れか一項に記載のセグメントリングの計測システム。
【請求項5】
前記測量器によって計測された座標値を(X1,Y1,Z1)、(X2,Y2,Z2)とし、前記セグメントリングの中心の座標値を(X,Y,Z)とすると、前記処理装置は次式(1)に従って、(X1,Y1,Z1)及び(X2,Y2,Z2)から(X,Y,Z)を算出することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のセグメントリングの計測システム。
【数1】
但し、式(1)におけるx、y及びzは次式(2)、(3)又は(4)により求まり、次式(2)及び(4)におけるx1、y1及びz1は次式(5)、(7)及び(8)によりX1、Y1及びZ1から求まり、次式(3)及び(4)におけるx2、y2及びz2は次式(6)、(7)及び(8)によりX2、Y2及びZ2から求まり、次式(2)、(3)及び(4)におけるδθは次式(9)によりZ1及びZ2から求まり、式(1)並びに次式(5)及び(6)におけるφは次式(7)及び次式(8)によりX1、Y1、Z1、X2、Y2及びZ2から求まり、次式(2)、(3)、(4)及び(9)におけるrは前記セグメントリングの半径から、前記セグメントリングの内周から前記ターゲットまでの距離を減じて得られる値であり、次式(2)、(3)、(4)及び(9)におけるθは前記セグメントリングの設計値から得られる既知の値である。
【数2】
【請求項6】
前記測量器によって計測された座標値を(X1,Y1,Z1)、(X2,Y2,Z2)とし、前記セグメントリングの中心の座標値を(X,Y,Z)とすると、前記処理装置は次式(1)に従って、(X1,Y1,Z1)及び(X2,Y2,Z2)から(X,Y,Z)を算出することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のセグメントリングの計測システム。
【数3】
但し、式(1)におけるx、y及びzは次式(2)、(3)又は(4)により求まり、次式(2)及び(4)におけるx1、y1及びz1は次式(5)、(7)及び(8)によりX1、Y1及びZ1から求まり、次式(3)及び(4)におけるx2、y2及びz2は次式(6)、(7)及び(8)によりX2、Y2及びZ2から求まり、次式(2)、(3)及び(4)におけるδθは次式(9)によりZ1及びZ2から求まり、式(1)並びに次式(5)及び(6)におけるφは次式(7)及び次式(8)によりX1、Y1、Z1、X2、Y2及びZ2から求まり、次式(2)、(3)、(4)及び(9)におけるrは前記セグメントリングの半径から、前記セグメントリングの内周から前記ターゲットまでの距離を減じて得られる値であり、次式(2)、(3)、(4)及び(9)におけるθ及びθは前記セグメントリングの設計値から得られる既知の値である。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントリングの計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法では、シールドマシンによって掘進しながら、シールドマシンのテールの内側にセグメントリングを組み立てる。シールドマシンのテールとセグメントリングとの間の隙間はテールクリアランスと呼ばれる。セグメントリングの組立精度の検証を目的として、またシールドマシンの自動化を目的として、セグメントリングの中心の位置を計測する必要がある。特許文献1には、同一セグメントの端面の内周の2箇所にターゲットを設置し、これら2つのターゲットの後方からトータルステーションによって視準することによってこれらターゲットの三次元座標値を計測し、これらターゲットの三次元座標値から求まるこれらターゲット間の距離と、セグメントの直径と、セグメントピッチング値とに基づいてセグメントリングの中心の位置を計算する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-94549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の方法では、ターゲットの設置位置はセグメントの端面の内周に定められているものの、その内周における周方向の位置は定められておらず、任意である。そのため、計測されたターゲットの三次元座標値から求まる中心の位置は誤差が大きい。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、セグメントリングの中心の位置を精度良く求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するためのセグメントリングの計測システムは、セグメントリングの内周面から離れるようにして、前記セグメントリングの軸方向に延びる2つの軸方向目地又は2つの把持孔にそれぞれ設置された2つのターゲットと、前記2つのターゲットを視準することによってこれらのターゲットの三次元的な座標値を計測する測量器と、前記測量器によって計測された座標値に基づいて前記セグメントリングの中心の座標値を算出する処理装置と、を備える。
【0007】
好ましくは、前記処理装置が、前記セグメントリングが設計通りの組立から周方向にずれて組み立てられることによって生じるローリング誤差を、前記2つのターゲットの高さの差に基づいて算出する。
【0008】
好ましくは、前記処理装置が、前記測量器によって計測された座標値と前記ローリング誤差とに基づいて前記セグメントリングの中心の座標値を算出する。
【0009】
好ましくは、前記2つの軸方向目地は、前記セグメントリングが設計通りに組み立てられた場合に、前記セグメントリングの軸を通る鉛直面に関して互いに面対称に配置されるものである。
【0010】
前記測量器によって計測された座標値を(X1,Y1,Z1)、(X2,Y2,Z2)とし、前記セグメントリングの中心の座標値を(X,Y,Z)とすると、前記処理装置は次式(a)に従って、(X1,Y1,Z1)及び(X2,Y2,Z2)から(X,Y,Z)を算出する。
【0011】
【数1】
【0012】
但し、式(a)におけるx、y及びzは次式(a2)、(a3)又は(a4)により求まり、次式(a2)及び(a4)におけるx1、y1及びz1は次式(a5)、(a7)及び(a8)によりX1、Y1及びZ1から求まり、次式(a3)及び(a4)におけるx2、y2及びz2は次式(a6)、(a7)及び(a8)によりX2、Y2及びZ2から求まり、次式(a2)、(a3)及び(a4)におけるδθは次式(a9)によりZ1及びZ2から求まり、式(a)並びに次式(a5)及び(a6)におけるφは次式(a7)及び次式(a8)によりX1、Y1、Z1、X2、Y2及びZ2から求まり、次式(a2)、(a3)、(a4)及び(a9)におけるrは前記セグメントリングの半径から、前記セグメントリングの内周から前記ターゲットまでの距離を減じて得られる値であり、次式(a2)、(a3)、(a4)及び(a9)におけるθは前記セグメントリングの設計値から得られる既知の値である。
【0013】
【数2】
【0014】
又は、式(a)におけるx、y及びzは次式(b2)、(b3)又は(b4)により求まり、次式(b2)及び(b4)におけるx1、y1及びz1は次式(b5)、(b7)及び(b8)によりX1、Y1及びZ1から求まり、次式(b3)及び(b4)におけるx2、y2及びz2は次式(b6)、(b7)及び(b8)によりX2、Y2及びZ2から求まり、次式(b2)、(b3)及び(b4)におけるδθは次式(b9)によりZ1及びZ2から求まり、式(a)並びに次式(b5)及び(b6)におけるφは次式(b7)及び次式(b8)によりX1、Y1、Z1、X2、Y2及びZ2から求まり、次式(b2)、(b3)、(b4)及び(b9)におけるrは前記セグメントリングの半径から、前記セグメントリングの内周から前記ターゲットまでの距離を減じて得られる値であり、次式(b2)、(b3)、(b4)及び(b9)におけるθ及びθは前記セグメントリングの設計値から得られる既知の値である。
【0015】
【数3】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セグメントリングの中心の位置を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】シールドマシン及びセグメントリングの概略水平断面図である。
図2】セグメントリング及びその内側に設置された計測システムの概略斜視図である。
図3図1に示すIII-IIIに沿った断面図である。
図4図1に示すIV-IVに沿った断面図である。
図5】計測システムのブロック図である。
図6】ターゲットの側面図である。
図7】変形例における断面図である。
図8】変形例におけるターゲットの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0019】
1. シールドマシン及びセグメントリング
図1は、トンネル施工工事に用いられるシールドマシン10及びセグメントリング30の概略水平断面図である。図2は、セグメントリング30及びその内側に設置された計測システム50の概略斜視図である。図2では、セグメントリング30の内側の見やすくするために、一部のセグメントリング30の上部の図示を省略する。図3は、図1に示すIII-IIIに沿った断面図である。図4は、図1に示すIV-IVに沿った断面図である。
【0020】
円筒状のスキンプレート11は、シールドマシン10の外殻体を構成するものであり、リングガータ12によって補強されている。スキンプレート11の先端部に回転カッター13が設けられている。スキンプレート11の内側に、カッター駆動機構14、シールドジャッキ15及びエレクタ20等が設けられている。
【0021】
トンネル施工工事では、シールドマシン10の掘進工程とセグメントリング30の組立工程を交互に繰り返して実施する。
シールドマシン10の掘進に際しては、回転カッター13がカッター駆動機構14によって回転駆動されると、地山が掘削される。掘削により発生した土砂はチャンバー19に貯められて、排土装置によってチャンバー19から排土される。地山の掘削中、シールドジャッキ15を施工済みのセグメントリング30に押し当てた状態で、シールドジャッキ15を伸張させることによってセグメントリング30から反力をとって、シールドマシン10が推進力を得る。
【0022】
シールドマシン10を掘進させた後、シールドジャッキ15を収縮させる。そして、エレクタ20を用いて既設のセグメントリング30の前にセグメント31をリング状に組み立てることによって新たなセグメントリング30を組み立てる。以下、セグメントリング30の半径の値をR[mm]で表す。セグメントリング30の半径Rは既知である。
【0023】
以上のようにシールドマシン10の掘進工程とセグメントリング30の組立工程を交互に繰り返し実施することによって、これらセグメントリング30をトンネルの軸方向に配列させる。セグメントリング30の配列の内周面には、軸方向に隣り合うセグメントリング30の継ぎ目となる目地38が形成されているとともに、周方向に隣り合うセグメント31の継ぎ目となる目地39が形成されている。目地38は周方向に延在してリング状に成しており、目地39は軸方向に延在して線分状に成している。以下、目地38を周方向目地38といい、目地39を軸方向目地39という。
【0024】
ここで、図3は、或るセグメントリング30の前側の周方向目地38に沿った断面図であり、図4は、そのセグメントリング30の後ろ側の周方向目地38に沿った断面図である。図3及び図4に示すように、複数のセグメントリング30を組み立てるに際しては、隣り合うセグメントリング30の軸方向目地39を周方向に違えるように、且つ、セグメントリング30におけるセグメント31の周方向の配置と、その隣のセグメントリング30におけるセグメント31の周方向の配列が互いに左右対称となるように、セグメント31を千鳥配列する。本明細書において左右対称とは、軸を通る鉛直面に関して完全に又は実質的に面対称のこという。「完全に面対称」及び「実質的に面対称」とは次のような場合をいう。
【0025】
・「完全に面対称」
セグメントリング30が設計通りに組み立てられた場合には、セグメントリング30におけるセグメント31の周方向の配置が、その隣のセグメントリング30におけるセグメント31の周方向の配置に対して完全に面対称である。セグメントリング30における軸方向目地39の配置が、その隣のセグメントリング30における軸方向目地39の配置に対して完全に面対称である。
【0026】
・「実質的に面対称」
セグメントリング30が設計通りの組立から周方向にずれて組み立てられた場合、セグメントリング30におけるセグメント31の周方向の配置が、その隣のセグメントリング30におけるセグメント31の周方向の配置に対して完全に面対称でないものの、実質的に面対称である。また、セグメントリング30における軸方向目地39の配置が、その隣のセグメントリング30における軸方向目地39の配置に対して完全に面対称でないものの、実質的に面対称である。
【0027】
本実施形態では、以下に説明する計測システム50を用いて、セグメントリング30の中心の位置及びローリング誤差を計測する。ローリング誤差とは、セグメントリング30が設計通りの組立から周方向にずれて組み立てられた場合に、そのずれ量を回転角で表したものである。セグメントリング30が設計通りに組み立てられた場合、ローリング誤差はゼロ°である。以下、ローリング誤差の値をδθ[°]で表す。
【0028】
2. 計測システム及び計測方法
図1図4に加えて図5を参照して、計測システム50について詳細に説明する。ここで、図5は、計測システム50のブロック図である。
計測システム50は、測量器51、バックターゲット52、計測ターゲット53、計測ターゲット54、コンピュータ60、入力デバイス61、表示デバイス62及び記憶部64を備える。
【0029】
処理装置としてのコンピュータ60は、CPU、GPU、ROM、RAM、システムバス及びハードウェアインタフェース等を有する。
表示デバイス62は、例えば液晶ディスプレイデバイス、有機ELディスプレイデバイス又はプロジェクタである。コンピュータ60が演算処理によって映像信号を生成し、その映像信号を表示デバイス62に出力する。そうすると、映像信号に従った画面が表示デバイス62に表示される。表示デバイス62とコンピュータ60が一体化されていてもよいし、別体であってもよい。
【0030】
記憶部64は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。記憶部64は、コンピュータ60に内蔵されたものでもよいし、コンピュータ60に外付けされたものでもよい。記憶部64には、コンピュータ60によって読取可能且つ実行可能なプログラム64aが格納されている。コンピュータ60の機能及び演算処理は、プログラム64aによって実現される。コンピュータ60はプログラム64aに従って測量器51を制御すると、測量器51が計測処理を実行して、その計測結果をコンピュータ60に転送する。
【0031】
図2に示すように、測量器51は、複数のセグメントリング30のうち測定対象のセグメントリング30A(以下、計測対象リング30Aという。)の後方に設置される。測量器51はトータルステーションである。測量器51は、ターゲットを視準することによって測量器51からターゲットまでの距離、方位角及び極角を計測するとともに、そのターゲットの三次元的な位置を計測する。測量器51によって計測される位置は全体座標系における三次元の座標値、つまりX座標値、Y座標値及びZ座標値によって表される。全体座標系は互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸からなる直交座標系であり、X軸及びY軸は水平であり、Z軸は鉛直である。全体座標系は絶対座標系又はワールド座標系ともいう。
【0032】
バックターゲット52は測量器51の後方に設置される。バックターゲット52が設置される位置が三次元の全体座標系における座標値によって表されるところ、その座標値が既知であるため、バックターゲット52が全体座標系の座標値を特定するための基準となる。測量器51によってバックターゲット52を視準し、バックターゲット52の全体座標系の座標値が測量器51に設定されると、測量器51の内部演算システムにおいて全体座標系及びその原点が設定される。
【0033】
図1及び図2に示すように、計測ターゲット53,54は、計測対象リング30Aとその隣りのセグメントリング30B(以下、隣接リング30Bという。)の間の周方向目地38(以下、この周方向目地38の符号にAを付すことによって、この周方向目地38Aを他の周方向目地38と区別できるようにする。)に設置される。具体的には、計測ターゲット53は、計測対象リング30Aの軸方向目地39(以下、この軸方向目地39の符号にAを付すことによって、この軸方向目地39Aを他の軸方向目地39と区別できるようにする。)と周方向目地38Aとの交差部に設置されている。また、計測ターゲット54は、隣接リング30Bの軸方向目地39(以下、この軸方向目地39の符号にBを付すことによって、この軸方向目地39Bを他の軸方向目地39と区別できるようにする。)と周方向目地38Aとの交差部に設置される。計測ターゲット53,54は、共通の周方向目地38Aに設置されているため、周方向目地38Aによって規定される共通の平面内に存在する。この平面はトンネルの軸方向に対して垂直である。
【0034】
計測ターゲット53が設置される計測対象リング30Aの軸方向目地39Aは、計測ターゲット54が隣接リング30Bの軸方向目地39Bに対して左右対称に配置され、計測ターゲット53,54は互いに左右対称に配置されている。つまり、計測ターゲット53,54は、互いに、軸を通る鉛直面に関して完全に又は実質的に面対称に配置されている。計測ターゲット53,54が互いに完全に面対称に配置されていれば、ローリング誤差がゼロであり、計測ターゲット53,54が互いに実質的に面対称に配置されていれば、ローリング誤差が生じている。
【0035】
図6は、計測ターゲット53の取付状態を示した側面図である。図6に示すように、計測ターゲット53は、吸着具56によって、周方向目地38Aと軸方向目地39Aとの交差部に設置されている。ここで、計測ターゲット53がジンバル57を介して支持ポール58に取り付けられ、その支持ポール58が取付金具59によって吸着具56に取り付けられている。吸着具56が計測対象リング30A又は隣接リング30Bに真空吸着することによって、支持ポール58が計測対象リング30A及び隣接リング30Bの内周面に対して垂直に立てられ、計測ターゲット53が計測対象リング30A及び隣接リング30Bの内周面から離間している。以下、計測ターゲット53から計測対象リング30A又は隣接リング30Bからまでの距離の値をd[mm]で表す。距離dは既知である。
【0036】
計測ターゲット53と同様に、計測ターゲット54も吸着具56によって、周方向目地38Aと軸方向目地39Bとの交差部に設置されている。計測ターゲット54から計測対象リング30A又は隣接リング30Bからまでの距離は、計測ターゲット53から計測対象リング30A又は隣接リング30Bからまでの距離に等しい。従って、計測ターゲット53,54は共通の円周上に配置されている。その円周の半径の値をr[mm]で表すと、r=R-dの関係が成立する。半径rは既知である。
【0037】
測量器51が計測ターゲット53を視準することによって計測ターゲット53の位置、つまり全体座標系の座標値を計測して、それをコンピュータ60に転送する。同様に、測量器51が計測ターゲット54を視準することによって計測ターゲット53の位置を計測して、それをコンピュータ60に転送する。以下では、測量器51によって計測された計測ターゲット53の座標値を(X1,Y1,Z1)とし、測量器51によって計測された計測ターゲット54の座標値を(X2,Y2,Z2)とする。
【0038】
計測ターゲット53,54の全体座標系の座標値を用いて、これらの座標値を個別座標系の座標値に変換することができる。個別座標系は互いに直交するx軸、y軸及びz軸からなる直交座標系であり、y軸はトンネルの軸方向に対して平行であり、x軸及びz軸は周方向目地38Aによって規定される平面に対して平行であり、z軸は鉛直である。個別座標系は相対座標系又はローカル座標系ともいう。
【0039】
全体座標系の座標値を(X,Y,Z)とし、個別座標系の座標値を(x,y,z)とした場合、次式(1)により全体座標系の座標値を個別座標系の座標値に変換することができる。
【0040】
【数4】
【0041】
一方、次式(2)により個別座標系の座標値を全体座標系の座標値に変換することができる。
【0042】
【数5】
【0043】
なお、個別座標系の原点の位置は計測ターゲット53の位置とする。
【0044】
以下、全体座標系における計測ターゲット53の座標値(X1,Y1,Z1)を式(1)により変換して得られる個別座標系の座標値を(x1,y1,z1)とする。全体座標系における計測ターゲット54の座標値(X2,Y2,Z2)を式(1)により変換して得られる個別座標系の座標値を(x2,y2,z2)とする。
【0045】
コンピュータ60は、測量器51から計測ターゲット53,54の座標値(X1,Y1,Z1)及び(X2,Y2,Z2)を入力すると、次式(3)によりローリング誤差δθを算出する。
【0046】
【数6】
【0047】
式(3)において、δHは計測ターゲット53,54の高さの差である。つまり、δH=Z2-Z1=z2-z1である。
また、θは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合(この場合、軸方向目地39Aと軸方向目地39Bが、軸を通る鉛直面に関して完全に面対称に互いに配置される。)、軸方向目地39A又は軸方向目地39Bから計測対象リング30Aの中心までの径と、軸を通る鉛直面とが成す中心角である。つまり、θは、軸方向目地39Aから計測対象リング30Aの中心までの径と、軸方向目地39Bから計測対象リング30Aの中心までの径とが成す中心角の2分の1である。従って、θは、計測対象リング30Aの設計値から得られる既知の値である。θの値は、予めプログラム64aに組み込まれていてもよいし、ユーザーが入力デバイス61を操作することによって入力してもよい。
【0048】
ローリング誤差δθが正であれば、図3及び図4において、計測対象リング30Aが設計通りの組立から時計回りにずれて組み立てられたことを意味し、ローリング誤差δθが負であれば、図3及び図4において、計測対象リング30Aが設計通りの組立から反時計回りにずれて組み立てられたことを意味する。
【0049】
式(3)は図3及び図4を参照して次のように求まる。
【0050】
【数7】
【0051】
δHは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合の計測ターゲット53の高さと実際の計測ターゲット53の高さとの差である。δHは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合の計測ターゲット54の高さと実際の計測ターゲット54の高さとの差である。
【0052】
また、コンピュータ60は、次の式(4)、(5)又は(6)により、個別座標系における計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z)を算出する。また、コンピュータ60は、次の式(4)、(5)又は(6)により算出した座標値(x,y,z)を式(2)の(x,y,z)に当て嵌めることにより、全体座標系における計測対象リング30Aの中心の座標値(X,Y,Z)を算出する。
【0053】
【数8】
【0054】
コンピュータ60は、ローリング誤差δθ及び計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z),(X,Y,Z)を記憶部64に記録する。また、コンピュータ60は、ローリング誤差δθ及び計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z),(X,Y,Z)を数値により表示デバイス62に表示させる。なお、コンピュータ60がネットワークにより他のコンピュータに接続されている場合、コンピュータ60がローリング誤差δθ及び計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z),(X,Y,Z)を他のコンピュータに送信し、ローリング誤差δθ及び計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z),(X,Y,Z)が他のコンピュータによって記憶・管理されてもよい。
【0055】
3. 有利な効果
次の3つの理由により、計測対象リング30Aの中心の位置の計測精度が高い。第1に、測定対象リング30Aが設計通りに組み立てられていなくても、計測ターゲット53,54が互いに実質的に面対称に配置されていること。第2に、計測ターゲット53,54が設置される軸方向目地39A又は軸方向目地39Bから計測対象リング30Aの中心までの径と鉛直面とが成す中心角θが既知であること。第3に、測定対象リング30Aが設計通りに組み立てられていなくても、式(3)から明らかなように既知の中心角θを利用してローリング誤差δθを求めた上で、式(4)、(5)又は(6)から明らかなように、ローリング誤差δθを考慮して、計測対象リング30Aの中心の座標値を求めていること。
【0056】
式(6)のように、式(4)及び(5)で求めた値の平均値を計測対象リング30Aの中心の座標値としたため、計測対象リング30Aの真円度が低いことにより計測対象リング30Aの半径に誤差が生じた場合でもその誤差を無視することができる。よって、計測対象リング30Aの中心の位置の計測精度が高い。
【0057】
目に見える周方向目地38及び軸方向目地39を利用して、計測ターゲット53,54を設置することから、計測ターゲット53,54の設置位置を決めるための測量をしなくても済む。
【0058】
4. 変形例1
変形例1においては、図7に示すように、計測ターゲット53は計測対象リング30Aの軸方向目地39(以下、この軸方向目地39の符号にCを付す。)に設置され、計測ターゲット54は計測対象リング30Aの軸方向目地39(以下、この軸方向目地39の符号にDを付す。軸方向目地39Dは軸方向目地39Cと異なる。)に設置されている。また、計測ターゲット53,54は、トンネルの軸方向に対して垂直な共通の平面内にある。
【0059】
このように設置された計測ターゲット53,54の座標値(X1,Y1,Z1),(X2,Y2,Z2)が測量器51によって計測されると、コンピュータ60が次式(7)によりローリング誤差δθを算出する。
【0060】
【数9】
【0061】
θは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合、軸方向目地39Cから計測対象リング30Aの中心までの径と、軸を通る鉛直面とが成す中心角である。θは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合、軸方向目地39Dから計測対象リング30Aの中心までの径と、軸を通る鉛直面とが成す中心角である。従って、θ及びθは、計測対象リング30Aの設計値、特にK位置情報から得られる既知の値である。θ及びθの値は、予めプログラム64aに組み込まれていてもよいし、ユーザーが入力デバイス61を操作することによって入力してもよい。
【0062】
ローリング誤差δθが正であれば、図7において、計測対象リング30Aが設計通りの組立から反時計回りにずれて組み立てられたことを意味し、ローリング誤差δθが負であれば、図7において、計測対象リング30Aが設計通りの組立から時計回りにずれて組み立てられたことを意味する。
【0063】
式(7)は図7を参照して次のように求まる。
【0064】
【数10】
【0065】
は、計測対象リング30Aの中心の高さと計測ターゲット53の高さとの差である。Hは、計測対象リング30Aの中心の高さと計測ターゲット54の高さとの差である。
【0066】
また、コンピュータ60は、次の式(8)、(9)又は(10)により、個別座標系における計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z)を算出する。また、コンピュータ60は、次の式(8)、(9)又は(10)により算出した座標値(x,y,z)を式(2)の(x,y,z)に当て嵌めることにより、全体座標系における計測対象リング30Aの中心の座標値(X,Y,Z)を算出する。
【0067】
【数11】
【0068】
5. 変形例2
変形例においては、計測ターゲット53は計測対象リング30Aの把持孔37に設置されている。具体的には、計測ターゲット53がジンバル57を介して支持ポール58に取り付けられ、その支持ポール58が把持孔37に嵌め込まれている。同様に、計測ターゲット54は計測対象リング30Aの把持孔37(この把持孔37は、計測ターゲット53が設置される把持孔37と異なる。)に設置されている。また、計測ターゲット53,54は、トンネルの軸方向に対して垂直な共通の平面内にある。
【0069】
把持孔37は、エレクタ20によってセグメント31を把持する際に利用されるものである。つまり、エレクタ20のチャックが把持孔37に嵌め込まれることによって、セグメント31がエレクタ20に把持される。
【0070】
計測ターゲット53,54が把持孔37に設置されている場合でも、このように設置された計測ターゲット53,54の座標値(X1,Y1,Z1),(X2,Y2,Z2)が測量器51によって計測されると、コンピュータ60が式(7)によりローリング誤差δθを算出する。また、コンピュータ60は、次の式(8)、(9)又は(10)により、個別座標系における計測対象リング30Aの中心の座標値(x,y,z)を算出する。また、コンピュータ60は、次の式(8)、(9)又は(10)により算出した座標値(x,y,z)を式(2)の(x,y,z)に当て嵌めることにより、全体座標系における計測対象リング30Aの中心の座標値(X,Y,Z)を算出する。
なお、式(8)、(9)又は(10)において、θは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合、計測ターゲット53が設置される把持孔37から計測対象リング30Aの中心までの径と、軸を通る鉛直面とが成す中心角である。θは、計測対象リング30Aが設計通りに組み立てられた場合、計測ターゲット53が設置される把持孔37から計測対象リング30Aの中心までの径と、軸を通る鉛直面とが成す中心角である。従って、θ及びθは、計測対象リング30Aの設計値、特にK位置情報から得られる既知の値である。
【符号の説明】
【0071】
30A…計測対象リング(セグメントリング)
39A,39B,39C,39D…軸方向目地
50…計測システム
51…測量器
53,54…計測ターゲット
61…コンピュータ(処理装置)
図1
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