(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053246
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159962
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】515134276
【氏名又は名称】サンデン・オートモーティブクライメイトシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】柴岡 芳樹
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA03
3L211DA28
3L211EA45
3L211EA83
3L211FB05
3L211GA26
3L211GA34
3L211GA84
(57)【要約】
【課題】車両用空調装置において、冷媒の熱交換経路が増える運転モードに移行する際に、冷房能力の低下による乗員の不快を解消する。
【解決手段】車両用空調装置は、冷媒を循環させ車室内を冷房する空調冷媒回路と、空調冷媒回路から分岐して発熱機器の冷却を行う分岐冷媒回路と、分岐冷媒回路に設けられ、空調冷媒回路から分岐冷媒回路に入る冷媒の流通を制御する分岐制御弁と、空調冷媒回路の動作と分岐制御弁を制御する制御部とを備え、制御部は、空調冷媒回路による車室内の冷房と分岐冷媒回路による発熱機器の冷却を並行させる動作への移行後、空調冷媒回路の冷房能力状況に応じて、分岐制御弁を開閉制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を循環させ車室内を冷房する空調冷媒回路と、
前記空調冷媒回路から分岐して発熱機器の冷却を行う分岐冷媒回路と、
前記分岐冷媒回路に設けられ、前記空調冷媒回路から前記分岐冷媒回路に入る冷媒の流通を制御する分岐制御弁と、
前記空調冷媒回路の動作と前記分岐制御弁を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記空調冷媒回路による車室内の冷房と前記分岐冷媒回路による発熱機器の冷却を並行させる動作への移行後、前記空調冷媒回路の冷房能力状況に応じて、前記分岐制御弁を開閉制御することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記空調冷媒回路の冷房能力状況を示す検出温度を目標値にする制御を行い、
前記検出温度が前記目標値又は前記目標値より低い設定値より高い場合に前記分岐制御弁を閉じ、前記検出温度が前記目標値又は前記目標値より低い設定値より低い場合に前記分岐制御弁を開くことを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記検出温度は、前記空調冷媒回路における吸熱器温度又は吹き出し温度であることを特徴とする請求項2記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記設定値は、所定の温度差を有する上限値と下限値が設定され、
前記制御部は、
前記検出温度が前記上限値以上に上昇すると前記分岐制御弁を閉じ、前記検出温度が前記下限値以下に低下すると前記分岐制御弁を開くことを特徴とする請求項2又は3記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記分岐制御弁の開閉制御を始める前に、
前記空調冷媒回路における圧縮機を設定回転数まで上昇させることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記設定回転数は、前記発熱機器の冷却要求能力を考慮して設定されることを特徴とする請求項5記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記分岐冷媒回路による前記発熱機器の冷却は、冷媒による直接冷却である請求項1~6のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記分岐冷媒回路による前記発熱機器の冷却は、前記分岐冷媒回路と熱交換する熱媒体による冷却であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記分岐冷媒回路の冷媒温度又は前記発熱機器の温度を監視し、
前記冷媒温度又は前記発熱機器の温度が設定された低温状態になった時、
前記分岐制御弁の開閉制御を、前記空調冷媒回路の冷房能力状況に応じた制御から前記冷媒温度又は前記発熱機器の温度を目標値にする制御に切り換えることを特徴とする請求項7記載の車両用空調装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記分岐冷媒回路と熱交換する熱媒体の熱媒体温度又は前記発熱機器の温度を監視し、前記熱媒体温度又は前記発熱機器の温度が設定された低温状態になった時、
前記分岐制御弁の開閉制御を、前記空調冷媒回路の冷房能力状況に応じた制御から前記熱媒体温度又は前記発熱機器の温度を目標値にする制御に切り換えることを特徴とする請求項8記載の車両用空調装置。
【請求項11】
前記制御部は、
前記空調冷媒回路による車室内の冷房と前記分岐冷媒回路による発熱機器の冷却を並行させる動作を行うに際して、
冷房能力の一時的な低下が予測されることを報知することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内を空調する車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両(所謂ハイブリッド車両を含む)に適した車両用空調装置として、ヒートポンプ方式の冷媒回路を備えるものが知られている。この冷媒回路は、圧縮機、放熱器(凝縮器)、膨張弁、吸熱器(蒸発器)が順次冷媒配管で接続された冷媒の循環回路であり、これを備える空調装置は、車外熱交換器を備え、圧縮機にて圧縮された冷媒を車外熱交換器において吸熱させて放熱器の放熱で暖房を行い、圧縮された冷媒を車外熱交換器において放熱させ、吸熱器の吸熱で冷房を行う(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
また、電動車両においては、バッテリの性能維持や安全性を担保するために、自己発熱や周辺温度の上昇で高温になるバッテリを適正な温度に冷却することが必要になる。このため、電動車両においては、バッテリを冷却するためのバッテリ用冷媒回路を設け、空調用の冷媒回路を循環する冷媒とバッテリ用冷媒(チラー水)とを熱交換してチラー水の温度を下げることで、効果的にバッテリを冷却することがなされている(下記特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-213765号公報
【特許文献2】特許第5860360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用空調装置において、冷媒回路の冷媒で、バッテリなどの空調以外の温調対象を冷却する場合に、車室内を空調している運転モードからバッテリなどの温調対象の冷却が必要になって温調対象用の熱交換器にも冷媒を送る運転モードに移行すると、冷媒が流れる熱交換の経路が増えることになるため、移行直後に圧縮機の能力(回転数)が不足する状態になって、車室内に吹き出される空気の温度が一時的に高くなる現象が生じる。
【0006】
また、逆に温調対象用の熱交換器に冷媒を送っている運転モードから車室内の冷房が必要になって吸熱器に冷媒を送る運転モードに移行する際にも、移行の直後は、同様に圧縮機の能力が不足する状態になり、車室内の空調が遅延する事態が生じる。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。即ち、車両用空調装置において、冷媒の熱交換経路が増える運転モードに移行する際に、冷房能力の低下による乗員の不快を解消すること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
冷媒を循環させ車室内を冷房する空調冷媒回路と、前記空調冷媒回路から分岐して発熱機器の冷却を行う分岐冷媒回路と、前記分岐冷媒回路に設けられ、前記空調冷媒回路から前記分岐冷媒回路に入る冷媒の流通を制御する分岐制御弁と、前記空調冷媒回路の動作と前記分岐制御弁を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記空調冷媒回路による車室内の冷房と前記分岐冷媒回路による発熱機器の冷却を並行させる動作への移行後、前記空調冷媒回路の冷房能力状況に応じて、前記分岐制御弁を開閉制御する車両用空調装置。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を備えた本発明の車両用空調装置によると、冷媒の熱交換経路が増える運転モードに移行する際に、空調冷媒回路の冷房能力状況に応じて分岐制御弁を開閉制御することで、冷房能力の低下を抑制することができる。これにより、冷房能力の低下による乗員の不快を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態にかかる車両用空調装置のシステム構成を示す説明図。
【
図3】制御部における圧縮器制御に関する制御ブロック図。
【
図4】制御部における圧縮機制御に関する他の制御ブロック図。
【
図5】制御部における圧縮機制御に関する他の制御ブロック図。
【
図6】制御部の圧縮機回転数上昇制御を説明する説明図。
【
図7】制御部の圧縮機回転数上昇制御を説明する他の説明図。
【
図8】制御部の圧縮機回転数上昇制御と分岐制御弁の開閉制御を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態の車両用空調装置1のシステム構成を示している。本発明の実施形態を適用する車両の一例は、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電動車両(EV)であって、車両に搭載されているバッテリ55に充電された電力を走行用モータ(電動モータ、図示せず)に供給することで駆動し、走行するものであり、その際、車両用空調装置1の後述する圧縮機2も、バッテリ55から供給される電力で駆動される。
【0013】
車両用空調装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電動車両において、空調冷媒回路Rを用いたヒートポンプ運転により暖房モード、除湿暖房モード、除湿冷房モード、冷房モード、除霜モード、空調(優先)+バッテリ冷却モード、バッテリ冷却(優先)+空調モード、及び、バッテリ冷却(単独)モードの各運転モードを切り換えて実行することで車室内の空調やバッテリ55などの発熱機器の温調(冷却)を行うものである。
【0014】
尚、車両としては電動車両に限らず、エンジンと走行用モータを供用する所謂ハイブリッド車両にも本発明の実施形態は有効である。また、図示の車両用空調装置1を適用する車両は外部の充電器(急速充電器や普通充電器)からバッテリ55に充電可能とされているものである。更に、前述したバッテリ55や走行用モータ、それを制御するインバータ等が車両に搭載された発熱機器であって、これらが温調対象となるが、以下の説明ではバッテリ55を例にして説明する。
【0015】
車両用空調装置1は、電動車両の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内の空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒がマフラー5と冷媒配管13Gを介して流入し、この冷媒を車室内に放熱(冷媒の熱を放出)させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁(電子膨張弁)から成る室外膨張弁6と、冷房時には冷媒を放熱させる放熱器として機能し、暖房時には冷媒を吸熱(冷媒に熱を吸収)させる蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる機械式膨張弁から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱(蒸発)させる蒸発器としての吸熱器9と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、空調冷媒回路Rが構成されている。
【0016】
そして、室外膨張弁6は放熱器4から出て室外熱交換器7に流入する冷媒を減圧膨張させると共に、全閉も可能とされている。また、機械式膨張弁が使用された室内膨張弁8は、吸熱器9に流入する冷媒を減圧膨張させると共に、吸熱器9における冷媒の過熱度を調整する。
【0017】
尚、室外熱交換器7には、室外送風機15が設けられている。この室外送風機15は、室外熱交換器7に外気を強制的に通風することにより、外気と冷媒とを熱交換させるものであり、これにより停車中(即ち、車速が0km/h)にも室外熱交換器7に外気が通風されるよう構成されている。
【0018】
室外熱交換器7は冷媒下流側にレシーバドライヤ部14と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7の冷媒出口側の冷媒配管13Aは、吸熱器9に冷媒を流す際に開放される開閉弁としての電磁弁17(冷房用)を介してレシーバドライヤ部14に接続され、過冷却部16の出口側の冷媒配管13Bは逆止弁18、室内膨張弁8、及び、吸熱器用弁装置としての電磁弁35(キャビン用)を順次介して吸熱器9の冷媒入口側に接続されている。尚、レシーバドライヤ部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成している。また、逆止弁18は室内膨張弁8の方向が順方向とされている。更に、ここでは、室内膨張弁8と電磁弁35は電磁弁付き膨張弁にて構成している。
【0019】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷媒配管13Dに分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される開閉弁としての電磁弁21(暖房用)を介して吸熱器9の冷媒出口側の冷媒配管13Cに連通接続されている。そして、この冷媒配管13Cがアキュムレータ12の入口側に接続され、アキュムレータ12の出口側は圧縮機2の冷媒吸込側の冷媒配管13Kに接続されている。
【0020】
更に、放熱器4の冷媒出口側の冷媒配管13Eにはストレーナ19が接続されており、更に、この冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前(冷媒上流側)で冷媒配管13Jと冷媒配管13Fに分岐し、分岐した一方の冷媒配管13Jが室外膨張弁6を介して室外熱交換器7の冷媒入口側に接続されている。また、分岐した他方の冷媒配管13Fは除湿時に開放される開閉弁としての電磁弁22(除湿用)を介し、逆止弁18の冷媒下流側であって、室内膨張弁8の冷媒上流側に位置する冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0021】
これにより、冷媒配管13Fは室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18の直列回路に対して並列に接続されたかたちとなり、室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18をバイパスするバイパス回路となる。また、室外膨張弁6にはバイパス用の開閉弁としての電磁弁20が並列に接続されている。
【0022】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(
図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環)と、車室外の空気である外気(外気導入)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0023】
尚、ここでの吸込切換ダンパ26は、吸込口25の外気吸込口と内気吸込口を任意の比率で開閉することにより、空気流通路3の吸熱器9に流入する空気(外気と内気)のうちの内気の比率を0~100%の間で調整することができるように構成されている(外気の比率も100%~0%の間で調整可能)。
【0024】
また、放熱器4の風下側(空気下流側)における空気流通路3内には、ここではPTCヒータ(電気ヒータ)から成る補助加熱装置としての補助ヒータ23が設けられ、放熱器4を経て車室内に供給される空気を加熱することが可能とされている。更に、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、当該空気流通路3内に流入し、吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気(内気や外気)を放熱器4及び補助ヒータ23に通風する割合を調整するエアミックスダンパ28が設けられている。
【0025】
更にまた、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、FOOT(フット)、VENT(ベント)、DEF(デフ)の各吹出口(
図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口からの空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0026】
そして、車両用空調装置1は、空調冷媒回路Rから分岐して、発熱機器(ここではバッテリ55を例にしている)の冷却を行う分岐冷媒回路Rdを備えている。
【0027】
分岐冷媒回路Rdは、分岐配管67と冷媒配管71によって、空調冷媒回路Rに並列接続されている。分岐配管67の一端は、冷媒回路Rの冷媒配管13Fと冷媒配管13Bとの接続部の冷媒下流側であって、室内膨張弁8の冷媒上流側に位置する冷媒配管13Bに接続されている。この分岐配管67には、機械式の膨張弁(例えば、機械式スーパーヒート制御弁)から構成された補助膨張弁68と、電磁弁(チラー用)69が順次設けられおり、補助膨張弁68と電磁弁69とで分岐制御弁60が構成されている。ここで、補助膨張弁68は冷媒-熱媒体熱交換器64の後述する冷媒流路64Bに流入する冷媒を減圧膨張させると共に、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bにおける冷媒の過熱度を調整している。
【0028】
分岐配管67の他端は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに接続されており、この冷媒流路64Bの出口には冷媒配管71の一端が接続され、冷媒配管71の他端は冷媒配管13Dとの合流点より冷媒上流側(アキュムレータ12の冷媒上流側)の冷媒配管13Cに接続されている。
【0029】
分岐冷媒回路Rdにおいて、分岐制御弁60が開いて分岐冷媒回路Rdに冷媒が流れると、冷媒の熱交換経路が増すことになり、空調冷媒回路Rによる車室内の冷房と分岐冷媒回路Rdによる発熱機器の冷却が並行して行われる。
【0030】
分岐制御弁60における電磁弁69が開いている場合、室外熱交換器7から出た冷媒(一部又は全ての冷媒)は分岐配管67に流入し、補助膨張弁68で減圧された後、電磁弁69を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して、そこで蒸発する。冷媒は冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱した後、冷媒配管71、冷媒配管13C、アキュムレータ12を経て冷媒配管13Kから圧縮機2に吸い込まれることになる。
【0031】
発熱機器であるバッテリ55の温調(冷却)は、図示の例では、熱媒体(チラー水)を循環させる熱媒体回路61によって行われる。熱媒体回路61は、熱媒体配管66が冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに接続されており、熱媒体流路64Aを通過する熱媒体が、分岐冷媒回路Rdを流れる冷媒と熱交換する。図示の例では、熱媒体回路61は、循環ポンプ62と熱媒体加熱ヒータ63を備えている。
【0032】
熱媒体回路1を流れる熱媒体としては、例えば水、HFO-1234yfのような冷媒、クーラント等の液体を採用することができる。ここでは、熱媒体回路1の熱媒体と分岐冷媒回路Rdの冷媒を熱交換して、発熱機器であるバッテリ55の冷却を行っているが、これに限らず、分岐冷媒回路Rdの冷媒で発熱機器を直接冷却しても良い。
【0033】
図2は、車両用空調装置1の制御部11のブロック図を示している。制御部11は、何れもプロセッサを備えたコンピュータの一例であるマイクロコンピュータから構成された空調コントローラ45及びヒートポンプコントローラ32から構成されており、これらがCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)を構成する車両通信バス65に接続されている。また、圧縮機2と補助ヒータ23、循環ポンプ62と熱媒体加熱ヒータ63も車両通信バス65に接続され、これら空調コントローラ45、ヒートポンプコントローラ32、圧縮機2、補助ヒータ23、循環ポンプ62及び熱媒体加熱ヒータ63が車両通信バス65を介してデータの送受信を行うように構成されている。
【0034】
更に、車両通信バス65には走行を含む車両全般の制御を司る車両コントローラ72(ECU)と、バッテリ55の充放電の制御を司るバッテリコントローラ(BMS:Battery Management system)73と、GPSナビゲーション装置74が接続されている。車両コントローラ72やバッテリコントローラ73、GPSナビゲーション装置74もプロセッサを備えたコンピュータの一例であるマイクロコンピュータから構成されており、制御部11を構成する空調コントローラ45とヒートポンプコントローラ32は、車両通信バス65を介してこれら車両コントローラ72やバッテリコントローラ73、GPSナビゲーション装置74と情報(データ)の送受信を行う構成とされている。
【0035】
空調コントローラ45は、車両の車室内空調の制御を司る上位のコントローラであり、この空調コントローラ45の入力には、車両の外気温度Tamを検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれて吸熱器9に流入する空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO2濃度センサ39と、車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹き出し温度センサ41と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速VSP)を検出するための車速センサ52の各出力と、車室内の設定温度や運転モードの切り換え等の車室内の空調設定操作や情報の表示を行うための空調操作部53が接続されている。空調操作部53には、表示出力装置としてのディスプレイ53Aが必要に応じて設けられている。
【0036】
空調コントローラ45の出力には、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31が接続され、それらは空調コントローラ45により制御される。
【0037】
ヒートポンプコントローラ32は、主に空調冷媒回路Rの動作制御と分岐冷媒回路Rdにおける分岐制御弁60の制御を行う。ヒートポンプコントローラ32の入力には、放熱器4の冷媒入口温度Tcxin(圧縮機2の吐出冷媒温度でもある)を検出する放熱器入口温度センサ43と、放熱器4の冷媒出口温度Tciを検出する放熱器出口温度センサ44と、圧縮機2の吸込冷媒温度Tsを検出する吸込温度センサ46と、放熱器4の冷媒出口側の冷媒圧力(放熱器4の圧力:放熱器圧力Pci)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9の冷媒温度:吸熱器温度Te)を検出する吸熱器温度センサ48と、室外熱交換器7の出口の冷媒温度(室外熱交換器7の冷媒蒸発温度:室外熱交換器温度TXO)を検出する室外熱交換器温度センサ49と、補助ヒータ23の温度を検出する補助ヒータ温度センサ50A(運転席側)及び50B(助手席側)の各出力が接続されている。
【0038】
また、ヒートポンプコントローラ32の出力には、室外膨張弁6、電磁弁22(除湿用)、電磁弁17(冷房用)、電磁弁21(暖房用)、電磁弁20(バイパス用)、電磁弁35(キャビン用)及び分岐制御弁60としての電磁弁69(チラー用)の各電磁弁が接続され、それらはヒートポンプコントローラ32により制御される。尚、圧縮機2、補助ヒータ23、循環ポンプ62及び熱媒体加熱ヒータ63はそれぞれコントローラを内蔵しており、ここでは圧縮機2や補助ヒータ23、循環ポンプ62や熱媒体加熱ヒータ63のコントローラは車両通信バス65を介してヒートポンプコントローラ32とデータの送受信を行い、このヒートポンプコントローラ32によって制御される。
【0039】
尚、熱媒体回路61の循環ポンプ62や熱媒体加熱ヒータ63はバッテリコントローラ73により制御されるようにしてもよい。また、このバッテリコントローラ73には熱媒体回路61の冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aの出口側の熱媒体の温度(熱媒体温度Tw)を検出する熱媒体温度センサ76と、バッテリ55の温度(バッテリ55自体の温度:バッテリ温度Tcell)を検出するバッテリ温度センサ77の出力が接続されている。そして、ここではバッテリ55の残量(蓄電量)やバッテリ55の充電に関する情報(充電中であることの情報や充電完了時間、残充電時間等)、熱媒体温度Twやバッテリ温度Tcell、バッテリ55の発熱量(通電量等からバッテリコントローラ73が算出)等はバッテリコントローラ73から車両通信バス65を介してヒートポンプコントローラ32や空調コントローラ45や車両コントローラ72に送信される。バッテリ55の充電時における充電完了時間や残充電時間に関する情報は、急速充電器等の外部の充電器から供給される情報である。また、車両コントローラ72からは走行用モータの出力Mpowerがヒートポンプコントローラ32や空調コントローラ45に送信される。
【0040】
ヒートポンプコントローラ32と空調コントローラ45は車両通信バス65を介して相互にデータの送受信を行い、各センサの出力や空調操作部53にて入力された設定に基づき、各機器を制御するものであるが、ここでは外気温度センサ33、外気湿度センサ34、HVAC吸込温度センサ36、内気温度センサ37、内気湿度センサ38、室内CO2濃度センサ39、吹き出し温度センサ41、日射センサ51、車速センサ52、空気流通路3に流入して当該空気流通路3内を流通する空気の風量Ga(空調コントローラ45が算出)、エアミックスダンパ28による風量割合SW(空調コントローラ45が算出)、室内送風機27の電圧(BLV)、前述したバッテリコントローラ73からの情報、GPSナビゲーション装置74からの情報、空調操作部53の出力は空調コントローラ45から車両通信バス65を介してヒートポンプコントローラ32に送信され、ヒートポンプコントローラ32による制御に供される構成とされている。
【0041】
また、ヒートポンプコントローラ32からも空調冷媒回路Rなどの制御に関するデータ(情報)が車両通信バス65を介して空調コントローラ45に送信される。尚、前述したエアミックスダンパ28による風量割合SWは、0≦SW≦1の範囲で空調コントローラ45が算出する。そして、SW=1のときはエアミックスダンパ28により、吸熱器9を経た空気の全てが放熱器4及び補助ヒータ23に通風されることになる。
【0042】
以上の構成で、車両用空調装置1の動作例を説明する。ここでは制御部11(空調コントローラ45、ヒートポンプコントローラ32、バッテリコントローラ73)は、暖房モード、除湿暖房モード、除湿冷房モード、冷房モード、及び、空調(優先)+バッテリ冷却モードの各空調運転と、バッテリ冷却(優先)+空調モード、バッテリ冷却(単独)モードの各バッテリ冷却運転と、除霜モードを切り換えて実行する。
【0043】
このうち、暖房モードと、除湿暖房モードと、除湿冷房モードと、冷房モードと、空調(優先)+バッテリ冷却モードの各空調運転は、ここではバッテリ55を充電しておらず、車両のイグニッション(IGN)がONされ、空調操作部53の空調スイッチがONされている場合に実行されるものである。但し、リモート運転時(プレ空調等)にはイグニッションがOFFの場合にも実行される。また、バッテリ55を充電中でもバッテリ冷却要求が無く、空調スイッチがONされているときは実行される。一方、バッテリ冷却(優先)+空調モードと、バッテリ冷却(単独)モードの各バッテリ冷却運転は、例えば急速充電器(外部電源)のプラグを接続し、バッテリ55に充電しているときに実行されるものである。但し、バッテリ冷却(単独)モードは、バッテリ55の充電中以外にも、空調スイッチがOFFで、バッテリ冷却要求があった場合(高外気温で走行時等)には実行される。
【0044】
また、ここでは、ヒートポンプコントローラ32は、イグニッションがONされているときや、イグニッションがOFFされていてもバッテリ55が充電中であるときは、熱媒体回路61の循環ポンプ62を運転し、熱媒体配管66内に熱媒体を循環させるものとする。
【0045】
(1)暖房モード
先ず、暖房モードについて説明する。尚、各機器の制御は、制御部11(ヒートポンプコントローラ32と空調コントローラ45の協働)により実行されるものであるが、以下の説明ではヒートポンプコントローラ32を制御主体とし、簡略化して説明する。ヒートポンプコントローラ32により(オートモード)或いは空調コントローラ45の空調操作部53へのマニュアルの空調設定操作(マニュアルモード)により暖房モードが選択されると、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁21を開き、電磁弁17、電磁弁20、電磁弁22、電磁弁35、電磁弁69を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4及び補助ヒータ23に通風される割合を調整する状態とする。
【0046】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒と熱交換して加熱される。一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0047】
放熱器4内で液化した冷媒は当該放熱器4を出た後、冷媒配管13E、13Jを経て室外膨張弁6に至る。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15により通風される外気中から熱を汲み上げる(吸熱)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13D、電磁弁21を経て冷媒配管13Cに至り、更にこの冷媒配管13Cを経てアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、冷媒配管13Kからガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われる。
【0048】
ヒートポンプコントローラ32は、車室内に吹き出される空気の目標温度(車室内に吹き出される空気の温度の目標値)である後述する目標吹出温度TAOから算出される目標ヒータ温度TCO(放熱器4の目標温度)から目標放熱器圧力PCOを算出し、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力Pci(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器出口温度センサ44が検出する放熱器4の冷媒出口温度Tci及び放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力Pciに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。
【0049】
また、ヒートポンプコントローラ32は、必要とされる暖房能力に対して放熱器4による暖房能力(加熱能力)が不足する場合、この不足する分を補助ヒータ23の発熱で補完する。これにより、低外気温時等にも車室内を支障無く暖房する。
【0050】
(2)除湿暖房モード
次に、除湿暖房モードについて説明する。除湿暖房モードでは、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁21、電磁弁22、電磁弁35を開き、電磁弁17、電磁弁20、電磁弁69は閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4及び補助ヒータ23に通風される割合を調整する状態とする。
【0051】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒と熱交換して加熱される。一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0052】
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、冷媒配管13Eを経て一部は冷媒配管13Jに入り、室外膨張弁6に至る。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15により通風される外気中から熱を汲み上げる(吸熱)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13D、電磁弁21を経て冷媒配管13Cに至り、この冷媒配管13Cを経てアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が冷媒配管13Kから圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0053】
一方、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の残りは分流され、この分流された冷媒が電磁弁22を経て冷媒配管13Fに流入し、冷媒配管13Bに至る。次に、冷媒は室内膨張弁8に至り、この室内膨張弁8にて減圧された後、電磁弁35を経て吸熱器9に流入し、蒸発する。このときに吸熱器9で生じる冷媒の吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0054】
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cに出て冷媒配管13Dからの冷媒(室外熱交換器7からの冷媒)と合流した後、アキュムレータ12を経て冷媒配管13Kから圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4や補助ヒータ23(発熱している場合)を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われる。
【0055】
ヒートポンプコントローラ32は、ここでは目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力Pci(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御するか、又は、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)とその目標値である目標吸熱器温度TEOに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、ヒートポンプコントローラ32は放熱器圧力Pciによるか吸熱器温度Teによるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方(後述するTGNChとTGNCcのうちの低い方)を選択して圧縮機2を制御する。また、吸熱器温度Teに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0056】
また、ヒートポンプコントローラ32は、この除湿暖房モードにおいても必要とされる暖房能力に対して放熱器4による暖房能力(加熱能力)が不足する場合、この不足する分を補助ヒータ23の発熱で補完する。これにより、低外気温時等にも車室内を支障無く除湿暖房する。
【0057】
(3)除湿冷房モード
次に、除湿冷房モードについて説明する。除湿冷房モードでは、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁17、及び、電磁弁35を開き、電磁弁20、電磁弁21、電磁弁22、及び、電磁弁69を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4及び補助ヒータ23に通風される割合を調整する状態とする。
【0058】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒と熱交換して加熱される。一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0059】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13E、13Jを経て室外膨張弁6に至り、暖房モードや除湿暖房モードよりも開き気味(大きい弁開度の領域)で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15により通風される外気によって空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、電磁弁17、レシーバドライヤ部14、過冷却部16を経て冷媒配管13Bに入り、逆止弁18を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、電磁弁35を経て吸熱器9に流入し、蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着し、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0060】
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cを経てアキュムレータ12に至り、そこを経て冷媒配管13Kから圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4や補助ヒータ23(発熱している場合)を通過する過程で再加熱(除湿暖房時よりも加熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0061】
ヒートポンプコントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)と吸熱器9の目標温度(吸熱器温度Teの目標値)である目標吸熱器温度TEOに基づき、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOにするように圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力Pci(冷媒回路Rの高圧圧力)と目標放熱器圧力PCO(放熱器圧力Pciの目標値)に基づき、放熱器圧力Pciを目標放熱器圧力PCOにするように室外膨張弁6の弁開度を制御することで放熱器4による必要なリヒート量(再加熱量)を得る。
【0062】
また、ヒートポンプコントローラ32は、この除湿冷房モードにおいても必要とされる暖房能力に対して放熱器4による暖房能力(再加熱能力)が不足する場合、この不足する分を補助ヒータ23の発熱で補完する。これにより、車室内の温度を下げ過ぎること無く、除湿冷房する。
【0063】
(4)冷房モード(空調(単独)モード)
次に、冷房モードについて説明する。冷房モードでは、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁17、電磁弁20、及び、電磁弁35を開き、電磁弁21、電磁弁22、及び、電磁弁69を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4及び補助ヒータ23に通風される割合を調整する状態とする。尚、補助ヒータ23には通電されない。
【0064】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されるものの、その割合は小さくなるので(冷房時のリヒート(再加熱)のみのため)、ここは殆ど通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て冷媒配管13Jに至る。このとき電磁弁20は開放されているので冷媒は電磁弁20を通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15により通風される外気によって空冷され、凝縮液化する。
【0065】
室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、電磁弁17、レシーバドライヤ部14、過冷却部16を経て冷媒配管13Bに入り、逆止弁18を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、電磁弁35を経て吸熱器9に流入し、蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出されて吸熱器9と熱交換する空気は冷却される。
【0066】
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cを経てアキュムレータ12に至り、そこから冷媒配管13Kを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却された空気は吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房モードにおいては、ヒートポンプコントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0067】
(5)空調(優先)+バッテリ冷却モード(空調(優先)+温調対象冷却モード)
次に、空調(優先)+バッテリ冷却モードについて説明する。空調(優先)+バッテリ冷却モードでは、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁17、電磁弁20、電磁弁35、及び、電磁弁69を開き、電磁弁21、及び、電磁弁22を閉じる。
【0068】
そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4及び補助ヒータ23に通風される割合を調整する状態とする。尚、この運転モードでは補助ヒータ23には通電されない。また、熱媒体加熱ヒータ63にも通電されない。
【0069】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されるものの、その割合は小さくなるので(冷房時のリヒート(再加熱)のみのため)、ここは殆ど通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て冷媒配管13Jに至る。このとき電磁弁20は開放されているので冷媒は電磁弁20を通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15により通風される外気によって空冷され、凝縮液化する。
【0070】
室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、電磁弁17、レシーバドライヤ部14、過冷却部16を経て冷媒配管13Bに入る。この冷媒配管13Bに流入した冷媒は、逆止弁18を経た後に分流され、一方はそのまま冷媒配管13Bを流れて室内膨張弁8に至る。この室内膨張弁8に流入した冷媒はそこで減圧された後、電磁弁35を経て吸熱器9に流入し、蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出されて吸熱器9と熱交換する空気は冷却される。
【0071】
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cを経てアキュムレータ12に至り、そこから冷媒配管13Kを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却された空気は吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。
【0072】
他方、逆止弁18を経た冷媒の残りは分流され、分岐配管67に流入して補助膨張弁68に至る。ここで冷媒は減圧された後、電磁弁69を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入し、そこで蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。この冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管71、冷媒配管13C及びアキュムレータ12を順次経て冷媒配管13Kから圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0073】
一方、循環ポンプ62が運転されているので、この循環ポンプ62から吐出された熱媒体が熱媒体配管66内を冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに至り、そこで冷媒流路64B内で蒸発する冷媒と熱交換し、吸熱されて熱媒体は冷却される。この冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを出た熱媒体は、熱媒体加熱ヒータ63に至る。但し、この運転モードでは熱媒体加熱ヒータ63は発熱されないので、熱媒体はそのまま通過してバッテリ55に至り、当該バッテリ55と熱交換する。これにより、バッテリ55は冷却されると共に、バッテリ55を冷却した後の熱媒体は、循環ポンプ62に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0074】
この空調(優先)+バッテリ冷却モードにおいては、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁35を開いた状態を維持し、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて後述する如く圧縮機2の回転数を制御する。また、ここでは熱媒体温度センサ76が検出する熱媒体の温度(熱媒体温度Tw:バッテリコントローラ73から送信される)に基づき、電磁弁69を以下の如く開閉制御する。尚、熱媒体温度Twは、温調対象であるバッテリ55の温度を示す指標として採用している。
【0075】
即ち、ヒートポンプコントローラ32は、熱媒体温度Twの目標値としての所定の目標熱媒体温度TWOの上下に所定の温度差を有して上限値TULと下限値TLLを設定する。そして、電磁弁69を閉じている状態からバッテリ55の発熱等により熱媒体温度Twが高くなり、上限値TULまで上昇した場合、電磁弁69を開放する。これにより、冷媒は冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発し、熱媒体流路64Aを流れる熱媒体を冷却するので、この冷却された熱媒体によりバッテリ55は冷却される。
【0076】
その後、熱媒体温度Twが下限値TLLまで低下した場合、電磁弁69を閉じる。以後、このような電磁弁69の開閉を繰り返して、車室内の冷房を優先しながら、熱媒体温度Twを目標熱媒体温度TWOに制御し、バッテリ55の冷却を行う。
【0077】
(6)空調運転の切り換え
ヒートポンプコントローラ32は下記式(I)から前述した目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度の目標値である。
TAO=(Tset-Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
【0078】
そして、ヒートポンプコントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて上記各空調運転のうちの何れかの空調運転を選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO、熱媒体温度Twやバッテリ温度Tcell等の運転条件や環境条件、設定条件の変化、バッテリコントローラ73からのバッテリ冷却要求(モード移行要求)に応じ、前記各空調運転を選択して切り換えていく。
【0079】
(7)バッテリ冷却(優先)+空調モード(温調対象冷却(優先)+空調モード)
次に、バッテリ55の充電中の動作について説明する。例えば急速充電器(外部電源)の充電用のプラグが接続され、バッテリ55が充電されているときに(これらの情報はバッテリコントローラ73から送信される)、車両のイグニッション(IGN)のON/OFFに拘わらず、バッテリ冷却要求があり、空調操作部53の空調スイッチがONされた場合、ヒートポンプコントローラ32はバッテリ冷却(優先)+空調モードを実行する。
【0080】
但し、このバッテリ冷却(優先)+空調モードの場合、ここではヒートポンプコントローラ32は電磁弁69を開いた状態に維持し、熱媒体温度センサ76(バッテリコントローラ73から送信される)が検出する熱媒体温度Twに基づいて後述する如く圧縮機2の回転数を制御する。また、ここでは吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づき、電磁弁35を以下の如く開閉制御する。
【0081】
即ち、ヒートポンプコントローラ32は、吸熱器温度Teの目標値としての所定の目標吸熱器温度TEOの上下に所定の温度差を有して上限値TeULと下限値TeLLを設定する。そして、電磁弁35を閉じている状態から吸熱器温度Teが高くなり、上限値TeULまで上昇した場合、電磁弁35を開放する。これにより、冷媒は吸熱器9に流入して蒸発し、空気流通路3を流通する空気を冷却する。
【0082】
その後、吸熱器温度Teが下限値TeLLまで低下した場合、電磁弁35を閉じる。以後、このような電磁弁35の開閉を繰り返して、バッテリ55の冷却を優先しながら、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御し、車室内の冷房を行う。
【0083】
(8)バッテリ冷却(単独)モード(温調対象冷却(単独)モード)
次に、イグニッションのON/OFFに拘わらず、空調操作部53の空調スイッチがOFFされた状態で、急速充電器の充電用のプラグが接続され、バッテリ55が充電されているとき、バッテリ冷却要求があった場合、ヒートポンプコントローラ32はバッテリ冷却(単独)モードを実行する。但し、バッテリ55の充電中以外にも、空調スイッチがOFFで、バッテリ冷却要求があった場合(高外気温で走行時等)には実行される。バッテリ冷却(単独)モードでは、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁17、電磁弁20、及び、電磁弁69を開き、電磁弁21、電磁弁22、及び、電磁弁35を閉じる。
【0084】
そして、圧縮機2、及び、室外送風機15を運転する。尚、室内送風機27は運転されず、補助ヒータ23にも通電されない。また、この運転モードでは熱媒体加熱ヒータ63も通電されない。
【0085】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されないので、ここは通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て冷媒配管13Jに至る。このとき、電磁弁20は開放されているので冷媒は電磁弁20を通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで室外送風機15により通風される外気によって空冷され、凝縮液化する。
【0086】
室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、電磁弁17、レシーバドライヤ部14、過冷却部16を経て冷媒配管13Bに入る。この冷媒配管13Bに流入した冷媒は、逆止弁18を経た後、全てが分岐配管67に流入して補助膨張弁68に至る。ここで冷媒は減圧された後、電磁弁69を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入し、そこで蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。この冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管71、冷媒配管13C及びアキュムレータ12を順次経て冷媒配管13Kから圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0087】
一方、循環ポンプ62が運転されているので、この循環ポンプ62から吐出された熱媒体が熱媒体配管66内を冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに至り、そこで冷媒流路64B内で蒸発する冷媒により吸熱され、熱媒体は冷却されるようになる。この冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを出た熱媒体は、熱媒体加熱ヒータ63に至る。但し、この運転モードでは熱媒体加熱ヒータ63は発熱されないので、熱媒体はそのまま通過してバッテリ55に至り、当該バッテリ55と熱交換する。これにより、バッテリ55は冷却されると共に、バッテリ55を冷却した後の熱媒体は、循環ポンプ62に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0088】
このバッテリ冷却(単独)モードにおいても、ヒートポンプコントローラ32は熱媒体温度センサ76が検出する熱媒体温度Twに基づいて後述する如く圧縮機2の回転数を制御することにより、バッテリ55を冷却する。
【0089】
(9)除霜モード
次に、室外熱交換器7の除霜モードについて説明する。前述した如く暖房モードでは、室外熱交換器7では冷媒が蒸発し、外気から吸熱して低温となるため、室外熱交換器7には外気中の水分が霜となって付着する。
【0090】
そこで、ヒートポンプコントローラ32は室外熱交換器温度センサ49が検出する室外熱交換器温度TXO(室外熱交換器7における冷媒蒸発温度)と、室外熱交換器7の無着霜時における冷媒蒸発温度TXObaseとの差ΔTXO(=TXObase-TXO)を算出しており、室外熱交換器温度TXOが無着霜時における冷媒蒸発温度TXObaseより低下して、その差ΔTXOが所定値以上に拡大した状態が所定時間継続した場合、室外熱交換器7に着霜しているものと判定して所定の着霜フラグをセットする。
【0091】
そして、この着霜フラグがセットされており、空調操作部53の空調スイッチがOFFされた状態で、急速充電器に充電用のプラグが接続され、バッテリ55が充電されるとき、ヒートポンプコントローラ32は以下の如く室外熱交換器7の除霜モードを実行する。
【0092】
ヒートポンプコントローラ32はこの除霜モードでは、空調冷媒回路Rを前述した暖房モードの状態とした上で、室外膨張弁6の弁開度を全開とする。そして、圧縮機2を運転し、当該圧縮機2から吐出された高温の冷媒を放熱器4、室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入させ、当該室外熱交換器7の着霜を融解させる。そして、ヒートポンプコントローラ32は室外熱交換器温度センサ49が検出する室外熱交換器温度TXOが所定の除霜終了温度(例えば、+3℃等)より高くなった場合、室外熱交換器7の除霜が完了したものとして除霜モードを終了する。
【0093】
(10)バッテリ加熱モード
また、空調運転を実行しているとき、或いは、バッテリ55を充電しているとき、ヒートポンプコントローラ32はバッテリ加熱モードを実行する。このバッテリ加熱モードでは、ヒートポンプコントローラ32は循環ポンプ62を運転し、熱媒体加熱ヒータ63に通電する。尚、電磁弁69は閉じる。
【0094】
これにより、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体配管66内を冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに至り、そこを通過して熱媒体加熱ヒータ63に至る。このとき熱媒体加熱ヒータ63は発熱されているので、熱媒体は熱媒体加熱ヒータ63により加熱されて温度上昇した後、バッテリ55に至り、当該バッテリ55と熱交換する。これにより、バッテリ55は加熱されると共に、バッテリ55を加熱した後の熱媒体は、循環ポンプ62に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0095】
このバッテリ加熱モードにおいては、ヒートポンプコントローラ32は熱媒体温度センサ76が検出する熱媒体温度Twに基づいて熱媒体加熱ヒータ63の通電を制御することにより、熱媒体温度Twを所定の目標熱媒体温度TWOに調整し、バッテリ55を加熱する。
【0096】
(11)ヒートポンプコントローラ32による圧縮機2の制御
また、ヒートポンプコントローラ32は、暖房モードでは放熱器圧力Pciに基づき、
図3の制御ブロック図により圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNChを算出し、除湿冷房モード、冷房モード、空調(優先)+バッテリ冷却モードでは、吸熱器温度Teに基づき、
図4の制御ブロック図により圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNCcを算出する。尚、除湿暖房モードでは圧縮機目標回転数TGNChと圧縮機目標回転数TGNCcのうちの低い方向を選択する。また、バッテリ冷却(優先)+空調モード、バッテリ冷却(単独)モードでは、熱媒体温度Twに基づき、
図5の制御ブロック図により圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNCcbを算出する。
【0097】
(11-1)放熱器圧力Pciに基づく圧縮機目標回転数TGNChの算出
先ず、
図3を用いて放熱器圧力Pciに基づく圧縮機2の制御について詳述する。
図3は放熱器圧力Pciに基づいて圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNChを算出するヒートポンプコントローラ32の制御ブロック図である。ヒートポンプコントローラ32のF/F(フィードフォワード)操作量演算部78は外気温度センサ33から得られる外気温度Tamと、室内送風機27のブロワ電圧BLVと、SW=(TAO-Te)/(Thp-Te)で得られるエアミックスダンパ28による風量割合SWと、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度SCの目標値である目標過冷却度TGSCと、ヒータ温度Thpの目標値である前述した目標ヒータ温度TCOと、放熱器4の圧力の目標値である目標放熱器圧力PCOに基づいて圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNChffを算出する。
【0098】
尚、ヒータ温度Thpは放熱器4の風下側の空気温度(推定値)であり、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力Pciと放熱器出口温度センサ44が検出する放熱器4の冷媒出口温度Tciから算出(推定)する。また、過冷却度SCは放熱器入口温度センサ43と放熱器出口温度センサ44が検出する放熱器4の冷媒入口温度Tcxinと冷媒出口温度Tciから算出される。
【0099】
前記目標放熱器圧力PCOは上記目標過冷却度TGSCと目標ヒータ温度TCOに基づいて目標値演算部79が算出する。更に、F/B(フィードバック)操作量演算部81はこの目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciに基づくPID演算若しくはPI演算により圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNChfbを算出する。そして、F/F操作量演算部78が算出したF/F操作量TGNChffとF/B操作量演算部81が算出したF/B操作量TGNChfbは加算器82で加算され、TGNCh00としてリミット設定部83に入力される。
【0100】
リミット設定部83では制御上の下限回転数ECNpdLimLoと上限回転数ECNpdLimHiのリミットが付けられてTGNCh0とされた後、圧縮機OFF制御部84を経て圧縮機目標回転数TGNChとして決定される。通常モードではヒートポンプコントローラ32は、この放熱器圧力Pciに基づいて算出された圧縮機目標回転数TGNChにより圧縮機2の運転を制御する。
【0101】
尚、圧縮機OFF制御部84は、圧縮機目標回転数TGNChが上述した下限回転数ECNpdLimLoとなり、放熱器圧力Pciが目標放熱器圧力PCOの上下に設定された所定の上限値PULと下限値PLLのうちの上限値PULまで上昇した状態が所定時間th1継続した場合、圧縮機2を停止させて圧縮機2をON-OFF制御するON-OFFモードに入る。
【0102】
この圧縮機2のON-OFFモードでは、放熱器圧力Pciが下限値PLLまで低下した場合、圧縮機2を起動して圧縮機目標回転数TGNChを下限回転数ECNpdLimLoとして運転し、その状態で放熱器圧力Pciが上限値PULまで上昇した場合は圧縮機2を再度停止させる。即ち、下限回転数ECNpdLimLoでの圧縮機2の運転(ON)と、停止(OFF)を繰り返す。そして、放熱器圧力Pciが下限値PULまで低下し、圧縮機2を起動した後、放熱器圧力Pciが下限値PULより高くならない状態が所定時間th2継続した場合、圧縮機2のON-OFFモードを終了し、通常モードに復帰するものである。
【0103】
(11-2)吸熱器温度Teに基づく圧縮機目標回転数TGNCcの算出
次に、
図4を用いて吸熱器温度Teに基づく圧縮機2の制御について詳述する。
図4は吸熱器温度Teに基づいて圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNCcを算出するヒートポンプコントローラ32の制御ブロック図である。ヒートポンプコントローラ32のF/F(フィードフォワード)操作量演算部86は外気温度Tamと、空気流通路3内を流通する空気の風量Ga(室内送風機27のブロワ電圧BLVでもよい)と、目標放熱器圧力PCOと、バッテリ温度センサ77が検出するバッテリ温度Tcell(バッテリコントローラ73から送信される)と、走行用モータの出力Mpower(車両コントローラ72から送信される)と、車速VSPと、バッテリ55の発熱量(バッテリコントローラ73から送信される)と、吸熱器温度Teの目標値である目標吸熱器温度TEOに基づいて圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNCcffを算出する。
【0104】
また、F/B操作量演算部87は目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づくPID演算若しくはPI演算により圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNCcfbを算出する。そして、F/F操作量演算部86が算出したF/F操作量TGNCcffとF/B操作量演算部87が算出したF/B操作量TGNCcfbは加算器88で加算され、TGNCc00としてリミット設定部89に入力される。
【0105】
リミット設定部89では制御上の下限回転数TGNCcLimLoと上限回転数TGNCcLimHiのリミットが付けられてTGNCc0とされた後、圧縮機OFF制御部91を経て圧縮機目標回転数TGNCcとして決定される。通常モードではヒートポンプコントローラ32は、この吸熱器温度Teに基づいて算出された圧縮機目標回転数TGNCcにより圧縮機2の運転を制御する。
【0106】
尚、圧縮機OFF制御部91は、圧縮機目標回転数TGNCcが上述した下限回転数TGNCcLimLoとなり、吸熱器温度Teが目標吸熱器温度TEOの上下に設定された上限値TeULと下限値TeLLのうちの下限値TeLLまで低下した状態が所定時間tc1継続した場合、圧縮機2を停止させて圧縮機2をON-OFF制御するON-OFFモードに入る。
【0107】
この場合の圧縮機2のON-OFFモードでは、吸熱器温度Teが上限値TeULまで上昇した場合、圧縮機2を起動して圧縮機目標回転数TGNCcを下限回転数TGNCcLimLoとして運転し、その状態で吸熱器温度Teが下限値TeLLまで低下した場合は圧縮機2を再度停止させる。即ち、下限回転数TGNCcLimLoでの圧縮機2の運転(ON)と、停止(OFF)を繰り返す。そして、吸熱器温度Teが上限値TeULまで上昇し、圧縮機2を起動した後、吸熱器温度Teが上限値TeULより低くならない状態が所定時間tc2継続した場合、この場合の圧縮機2のON-OFFモードを終了し、通常モードに復帰するものである。
【0108】
(11-3)熱媒体温度Twに基づく圧縮機目標回転数TGNCcbの算出
次に、
図5を用いて熱媒体温度Twに基づく圧縮機2の制御について詳述する。
図5は熱媒体温度Twに基づいて圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNCcbを算出するヒートポンプコントローラ32の制御ブロック図である。ヒートポンプコントローラ32のF/F(フィードフォワード)操作量演算部92は外気温度Tamと、目標放熱器圧力PCOと、目標吸熱器温度TEOと、熱媒体回路61内の熱媒体の流量Gw(循環ポンプ62の出力から算出される)と、バッテリ温度Tcellと、走行用モータの出力Mpower(車両コントローラ72から送信される)と、車速VSPと、バッテリ55の発熱量(バッテリコントローラ73から送信される)と、熱媒体温度Twの目標値である目標熱媒体温度TWOに基づいて圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNCcbffを算出する。
【0109】
また、F/B操作量演算部93は目標熱媒体温度TWOと熱媒体温度Twに基づくPID演算若しくはPI演算により圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNCcbfbを算出する。そして、F/F操作量演算部92が算出したF/F操作量TGNCcbffとF/B操作量演算部93が算出したF/B操作量TGNCcbfbは加算器94で加算され、TGNCcb00としてリミット設定部96に入力される。
【0110】
リミット設定部96では制御上の下限回転数TGNCcbLimLoと上限回転数TGNCcbLimHiのリミットが付けられてTGNCcb0とされた後、圧縮機OFF制御部97を経て圧縮機目標回転数TGNCcbとして決定される。通常モードではヒートポンプコントローラ32は、この熱媒体温度Twに基づいて算出された圧縮機目標回転数TGNCcbにより圧縮機2の運転を制御する。
【0111】
尚、圧縮機OFF制御部97は、圧縮機目標回転数TGNCcbが上述した下限回転数TGNCcbLimLoとなり、熱媒体温度Twが目標熱媒体温度TWOの上下に設定された上限値TULと下限値TLLのうちの下限値TLLまで低下した状態が所定時間tcb1継続した場合、圧縮機2を停止させて圧縮機2のON-OFF制御するON-OFFモードに入る。
【0112】
この場合の圧縮機2のON-OFFモードでは、熱媒体温度Twが上限値TULまで上昇した場合、圧縮機2を起動して圧縮機目標回転数TGNCcbを下限回転数TGNCcbLimLoとして運転し、その状態で熱媒体温度Twが下限値TLLまで低下した場合は圧縮機2を再度停止させる。即ち、下限回転数TGNCcbLimLoでの圧縮機2の運転(ON)と、停止(OFF)を繰り返す。そして、熱媒体温度Twが上限値TULまで上昇し、圧縮機2を起動した後、熱媒体温度Twが上限値TULより低くならない状態が所定時間tcb2継続した場合、この場合の圧縮機2のON-OFFモードを終了し、通常モードに復帰するものである。
【0113】
(12)ヒートポンプコントローラ32による圧縮機回転数上昇制御(その1)
次に、
図6を参照しながら前述した冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際、及び、バッテリ冷却(単独)モードからバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行する際に、ヒートポンプコントローラ32が実行する圧縮機回転数上昇制御の一例について説明する。尚、
図6は上記の移行の際の両方について纏めて示している。
【0114】
前述した冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後は、それらを含む熱交換の経路が増えるため、圧縮機2の能力(回転数)が不足する状態となり、車室内に吹き出される空気の温度が一時的に高くなってしまい、使用者に不快感を与えると共に、バッテリ55の冷却も遅延するようになる。
【0115】
ここで、冷房モードを実行しているときに、例えば、熱媒体温度センサ76が検出する熱媒体温度Twが前述した上限値TULまで上昇した場合、或いは、バッテリ温度センサ77が検出するバッテリ温度Tcellが所定の上限値まで上昇した場合、バッテリコントローラ73はバッテリ冷却要求をヒートポンプコントローラ32や空調コントローラ45に出力する。例えば、
図6の時刻t1でヒートポンプコントローラ32にバッテリ冷却要求が入力された場合、これがモード移行要求となり、ヒートポンプコントローラ32はこの場合の圧縮機回転数上昇制御を開始し、先ず目標吸熱器温度TEOを所定値TEO1だけ低下させる。
【0116】
これにより、
図4のF/F操作量演算部86が算出する圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNCcffが上昇していくので、最終的に算出される圧縮機目標回転数TGNCcも通常時の値から上昇していき、圧縮機2の実際の回転数も上昇していく。そして、例えば、
図6の時刻t2で圧縮機目標回転数TGNCcが所定値TGNCc1まで上昇した場合、又は、時刻t1から所定時間ts1が経過した場合、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁69を開き、運転モードを空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行させる。
【0117】
このような圧縮機回転数上昇制御を実行することにより、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後の圧縮機2の能力(回転数)不足を解消し、車室内の空調とバッテリ55の冷却の両立性を高めて、信頼性と商品性を向上させることができるようになる。尚、移行後の圧縮機2の制御は、前述した空調(優先)+バッテリ冷却モードでの回転数制御に復帰する。また、前述した如く電磁弁69と補助膨張弁68は電磁弁付き膨張弁にて構成しているので、圧縮機2の回転数が上昇した状態で電磁弁69を開いたときの差圧が軽減され、騒音も抑制される。
【0118】
また、バッテリ冷却(単独)モードからバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行した直後も、圧縮機2の能力が不足する状態となるため、車室内の空調が遅延すると共に、バッテリ55の冷却能力も一時的に低下してしまう。
【0119】
ここで、バッテリ冷却(単独)モードを実行しているときに、空調操作部53の空調スイッチがONされた場合、空調コントローラ45は空調要求をヒートポンプコントローラ32に出力する。同じく
図6の時刻t1でヒートポンプコントローラ32に空調要求が入力された場合、これがモード移行要求となり、ヒートポンプコントローラ32はこの場合の圧縮機回転数上昇制御を開始し、先ず目標熱媒体温度TWOを所定値TWO1だけ低下させる。
【0120】
これにより、
図5のF/F操作量演算部92が算出する圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNCcbffが上昇していくので、最終的に算出される圧縮機目標回転数TGNCcbも通常時の値から上昇していき、圧縮機2の実際の回転数も上昇していく。そして、例えば、
図6の時刻t2で圧縮機目標回転数TGNCcbが所定値TGNCcb1まで上昇した場合、ヒートポンプコントローラ32は電磁弁35を開き、運転モードをバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行させる。
【0121】
このような圧縮機回転数上昇制御実行することにより、バッテリ冷却(単独)モードからバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行した直後の圧縮機2の能力(回転数)不足を解消し、バッテリ55の冷却と車室内の空調の両立性を高めて、信頼性と商品性を向上させることができるようになる。尚、移行後の圧縮機2の制御は、前述したバッテリ冷却(優先)+空調モードでの回転数制御に復帰する。また、前述した如く電磁弁35と室内膨張弁8は電磁弁付き膨張弁にて構成しているので、圧縮機2の回転数が上昇した状態で電磁弁35を開いたときの差圧が軽減され、騒音も抑制される。
【0122】
また、ここではヒートポンプコントローラ32が、冷房モードとバッテリ冷却(単独)モードにおいて、吸熱器9と冷媒-熱媒体熱交換器64のうちの何れか一方で冷媒を蒸発させると共に、空調(優先)+バッテリ冷却モードと、バッテリ冷却(優先)+空調モードにおいては、吸熱器9及び冷媒-熱媒体熱交換器64で冷媒を蒸発させるようにしたので、冷房モードとバッテリ冷却(単独)モードでは車室内の冷房とバッテリ55の冷却をそれぞれ行い、空調(優先)+バッテリ冷却モードと、バッテリ冷却(優先)+空調モードでは車室内を冷房しながらバッテリ55の冷却を行うことができるようになる。
【0123】
そして、ここでは冷房モードから空調(優先)+温調対象冷却モードに移行する際、及び、バッテリ冷却(単独)モードからバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行する際、圧縮機回転数上昇制御を実行するようにしているので、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後に車室内に吹き出される空気の温度が上昇し、使用者が不快感を覚える不都合や、バッテリ冷却(単独)モードからバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行した直後にバッテリ55の冷却性能が低下する不都合を未然に回避して、車室内の空調とバッテリ55の冷却の両立性を高めることができるようになる。
【0124】
この場合、ここでは吸熱器9への冷媒の流通を制御する電磁弁35と、冷媒-熱媒体熱交換器64への冷媒の流通を制御する電磁弁69を設け、ヒートポンプコントローラ32が、冷房モードとバッテリ冷却(単独)モードにおいて、電磁弁35と電磁弁69のうちの何れか一方を開き、他方を閉じると共に、空調(優先)+バッテリ冷却モードと、バッテリ冷却(優先)+空調モードにおいては、電磁弁35及び電磁弁69を開くようにしたので、各運転モードを円滑に実行することができるようになる。
【0125】
更に、ここでは電磁弁35を開いて吸熱器温度Teで圧縮機2の回転数を制御し、電磁弁69を閉じる冷房モードと、電磁弁69を開いて熱媒体温度Twで圧縮機2の回転数を制御し、電磁弁35を閉じるバッテリ冷却(単独)モードを実行するようにしているので、車室内の冷房と、バッテリ55の冷却を円滑に行うことができるようになる。
【0126】
また、ここでは電磁弁35を開き、吸熱器温度Teで圧縮機2の回転数を制御し、熱媒体温度Twで電磁弁69を開閉制御する空調(優先)+バッテリ冷却モードと、電磁弁69を開き、熱媒体温度Twで圧縮機2の回転数を制御し、吸熱器温度Teで電磁弁35を開閉制御するバッテリ冷却(優先)+空調モードを実行するようにしているので、車室内の冷房を行いながらバッテリ55の冷却を行うなかで、状況に応じて車室内の冷房を優先するか、バッテリ55の冷却を優先するかを切り換え、快適な車室内冷房と効果的なバッテリ55の冷却を実現することができるようになる。
【0127】
また、この例の如く圧縮機回転数上昇制御で、F/F操作量演算部86、92に入力される目標吸熱器温度TEOや目標熱媒体温度TWOを低下させることにより、圧縮機目標回転数TGNCcやTGNCcbを上昇させるようにすれば、冷房モードやバッテリ冷却(単独)モードにおいて、圧縮機回転数上昇制御により的確に圧縮機2の回転数を上昇させることができるようになる。
【0128】
更に、この例の如く冷房モードや、バッテリ冷却(単独)モードにおいて、バッテリ冷却要求や空調要求(何れもモード移行要求)が入力された場合、ヒートポンプコントローラ32が圧縮機回転数上昇制御により圧縮機2の回転数を上昇させた後、空調(優先)+バッテリ冷却モードや、バッテリ冷却(優先)+空調モードに移行するようにすれば、空調(優先)+バッテリ冷却モードやバッテリ冷却(優先)+空調モードに移行する前に、確実に圧縮機2の回転数を上昇させておくことができるようになる。
【0129】
(13)ヒートポンプコントローラ32による圧縮機回転数上昇制御(その2)
次に、前述した冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際に、ヒートポンプコントローラ32が実行する圧縮機回転数上昇制御の他の例について説明する。冷房モードにおいて走行用モータの出力Mpowerが高くなった場合には、バッテリ55の温度が上昇するため、その後、バッテリ冷却要求が出されて空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行することが予想される。
【0130】
そこで、ヒートポンプコントローラ32は、走行用モータの出力Mpowerが所定の閾値Mpower1以上となった場合、前述した圧縮機回転数上昇制御(目標吸熱器温度TEOを下げる)を実行する。これにより、空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する前に、圧縮機2の回転数を上昇させておき、移行直後の車室内の空調とバッテリ55の冷却の両立性を高めることが可能となる。特に、この場合にはバッテリ冷却要求が入力される前に圧縮機2の回転数を上昇させておくことができるので、早期に空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行することができる。
【0131】
(14)ヒートポンプコントローラ32による圧縮機回転数上昇制御(その3)
次に、
図7を参照しながら前述した冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際に、ヒートポンプコントローラ32が実行する圧縮機回転数上昇制御のもう一つの他の例について説明する。
【0132】
冷房モードにおいて、走行用モータの出力Mpowerが急激に上昇しているときや、バッテリ温度Tcellが急激に上昇しているとき、バッテリ55の発熱量が急激に上昇しているときにも、その後、空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行することが予想される。ヒートポンプコントローラ32は、例えば
図7の時刻t3で、走行用モータの出力Mpowerが上昇する傾きが所定の閾値X1以上となった場合、又は、バッテリ温度Tcellが情報する傾きが所定の閾値X2以上となった場合、若しくは、バッテリ55の発熱量が所定の閾値X3以上となった場合、ヒートポンプコントローラ32はこの場合の圧縮機回転数上昇制御を開始し、先ず目標熱吸熱器温度TEOを所定値TEO1だけ低下させる。尚、上記各閾値X1~X3は予め実験により求めた値である。
【0133】
これにより、前述同様に圧縮機目標回転数TGNCcが上昇していくので、圧縮機2の実際の回転数(実回転数)も上昇していく。ヒートポンプコントローラ32は、圧縮機目標回転数TGNCcを所定値TGNCc1まで上昇させる。その後、時刻t4でバッテリ冷却要求が入力されたら、ヒートポンプコントローラ32は空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行し、この場合は時刻t5まで運転モード切換処理を行う。そして、この運転モード切換処理中に電磁弁69を開く。
【0134】
このような圧縮機回転数上昇制御により、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後の圧縮機2の能力(回転数)不足を解消し、車室内の空調とバッテリ55の冷却の両立性を高めて、信頼性と商品性を向上させることができるようになる。特に、この場合もバッテリ冷却要求が入力される前に圧縮機2の回転数を上昇させておくことができるので、早期に空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行することができる。尚、移行後の圧縮機2の制御は、前述した空調(優先)+バッテリ冷却モードでの回転数制御に復帰する。
【0135】
(15)ヒートポンプコントローラ32による圧縮機回転数上昇制御(その4)
また、冷房モードを実行しているときに、例えば高速道路での高速走行が継続された場合にも、その後、バッテリ55の温度が上昇して空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行することが予想される。そこで、ヒートポンプコントローラ32は、冷房モードにおいてGPSナビゲーション装置74から得られるナビゲーション情報が、例えば、今後高速道路を走ることを示していて、バッテリ55の温度が上昇すると予測される場合、前述した圧縮機回転数上昇制御(目標吸熱器温度TEOを下げる)を実行する。
【0136】
これにより、バッテリ冷却要求が入力される前に圧縮機2の回転数を上昇させておくことができるようになるので、早期に空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行することができるようになる。
【0137】
尚、ヒートポンプコントローラ32は前述した(12)の圧縮機回転数上昇制御に代えて、(13)~(15)の圧縮機回転数上昇制御を実行するものであるが、(13)~(15)の圧縮機回転数上昇制御は、それらの何れか、又は、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てを実行するものとする。
【0138】
(16)圧縮機回転数上昇制御を実行するときの車室内過剰冷房の抑制制御
ここで、冷房モードにおいて圧縮機2の回転数を上昇させると、空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する前の期間、即ち、
図6の時刻t1~t2の期間や、
図7の時刻t3~t4の期間は車室内に吹き出される空気の温度が低下する。
【0139】
そこで、ヒートポンプコントローラ32は、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際の圧縮機回転数上昇制御を実行する場合、室内送風機27の運転を抑制する。即ち、室内送風機27の回転数を低下させることで、車室内が過剰に冷房される不都合を解消する。
【0140】
(17)圧縮機回転数上昇制御を実行するときの吹出温度の低下抑制制御
上記に代えて、若しくは、上記に加えて、圧縮機回転数上昇制御を実行する場合、ヒートポンプコントローラ32がエアミックスダンパ28を制御し、放熱器4に通風する空気の割合を高くするようにしてもよい。これにより、車室内に供給される空気の温度低下が抑制されるので、車室内が過剰に冷房される不都合を解消することができるようになる。
【0141】
(18)空調(優先)+バッテリ冷却モードへの移行時の分岐制御弁の開閉制御
上記の説明では、冷房モードから空調(優先)+温調対象冷却モードに移行する際、圧縮機回転数上昇制御を実行することで、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後に車室内に吹き出される空気の温度が上昇し、使用者が不快感を覚える不都合を解消できることを説明した。
【0142】
この際、制御する圧縮機の回転数が上限に達してしまう状況になると、やはり、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モード移行時に、冷媒が流れる熱交換の経路が増える事態に対して圧縮機の能力不足が生じて、車室内の冷房能力が一時的に低下することになる。
【0143】
これを解消するために、ヒートポンプコントローラ32は、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モード移行時に、空調冷媒回路Rの冷房能力状況に応じて、分岐制御弁60である電磁弁69を開閉制御する。これによると、運転モードの移行直後において、分岐冷媒回路Rdに流れる冷媒量を減少させることができ、空調冷媒回路Rの冷房能力低下を抑制することができる。
【0144】
この際、ヒートポンプコントローラ32は、空調冷媒回路Rの冷房能力状況を示す検出温度として、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器温度Te又は吹き出し温度センサ41が検出する吹き出し温度を採用し、この検出温度を目標値にする制御を行い、検出温度が目標値又は目標値より低い設定値より高い場合に電磁弁69を閉じ、検出温度が目標値又は目標値より低い設定値より低い場合に電磁弁69を開く制御を行う。
【0145】
吸熱器温度Teによる制御について説明すると、ヒートポンプコントローラ32は、吸熱器温度Teとその目標値である目標吸熱器温度TEOに基づいて、電磁弁69を開閉制御する。以下の説明で、吸熱器温度Teに換えて吹き出し温度を採用する場合も同様の制御を行うことができる。この際、ヒートポンプコントローラ32は、目標吸熱器温度TEOの上下或いは目標吸熱器温度TEOより低い設定値として、所定の温度差を有して上限値TeULと下限値TeLLを設定し、バッテリ冷却要求に応じて、電磁弁69を開いた後に吸熱器温度Teが高くなって上限値TeUL以上に上昇すると、電磁弁69を閉じる。これにより、分岐冷媒回路Rdに流入する冷媒が止まり、空調冷媒回路Rの冷房能力が復元する。その後、吸熱器温度Teが下限値TeLL以下まで低下すると、電磁弁69を開いて、分岐冷媒回路Rdに冷媒を流す。以後、このような電磁弁69の開閉を繰り返して、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御し、室内冷房の一時的な冷房能力低下を抑えながら、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードへの緩やかな移行を実現する。
【0146】
そして、このような吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御する(或いは、吹き出し温度を目標値に制御する)電磁弁69の開閉制御は、上記(5)における、熱媒体温度Twを目標熱媒体温度TWOに制御する電磁弁69の開閉制御と組み合わせることができる。また、この際、熱媒体温度Twに換えてバッテリ温度センサ77が検出するバッテリ温度Tcellを採用して、これを目標値に制御する電磁弁69の開閉制御と組み合わせても良い。
【0147】
即ち、ヒートポンプコントローラ32は、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードへの移行に際して、熱媒体温度センサ76が検出する熱媒体温度Tw又はバッテリ温度センサ77が検出するバッテリ温度Tcellを監視し、移行直後の熱媒体温度Tw又はバッテリ温度Tcellが高い状態では、上記のような吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御する電磁弁69の開閉制御を行い、熱媒体温度Tw又はバッテリ温度Tcellが設定された低温状態になった時には、熱媒体温度Tw又はバッテリ温度Tcellを目標値に制御する電磁弁69の開閉制御に切り換える。
【0148】
このような切り換え以降にも、ヒートポンプコントローラ32は、目標熱媒体温度TWOの上下或いは目標吸熱器温度TEOより低い設定値として、所定の温度差を有して上限値TULと下限値TLLを設定し、熱媒体温度Twが上限値TUL以上の場合に、電磁弁69を開放し、熱媒体温度Twが下限値TLL以下に低下した場合に、電磁弁69を閉じる。以後、このような電磁弁69の開閉を繰り返して、車室内の冷房を優先しながら、熱媒体温度Twを目標熱媒体温度TWOに制御し、バッテリ55の冷却を行う。
【0149】
尚、ここでは、分岐冷媒回路Rdと熱交換する熱媒体により発熱機器であるバッテリ55を冷却する例を示しているが、発熱機器であるバッテリ55を分岐冷媒回路Rdの冷媒で直接冷却することもできる。この場合には、ヒートポンプコントローラ32は、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードへの移行に際して、分岐冷媒回路Rdにおける冷媒温度又はバッテリ温度Tcellを監視し、移行直後の冷媒温度又はバッテリ温度Tcellが高い状態では、上記のような吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御する電磁弁69の開閉制御を行い、冷媒温度又はバッテリ温度Tcellが設定された低温状態になった時には、冷媒温度又はバッテリ温度Tcellを目標値に制御する電磁弁69の開閉制御に切り換える。
【0150】
(19)分岐制御弁の開閉制御と圧縮機回転数上昇制御との組み合わせ制御
上記(18)に示した分岐制御弁60(電磁弁69)の開閉制御は、上記(12)などに示した圧縮機回転数上昇制御と組み合わせることができる。
【0151】
図8を参照しながら、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際に、ヒートポンプコントローラ32が実行する圧縮機回転数上昇制御と分岐制御弁60の開閉制御の一例について説明する。
【0152】
冷房モードを実行しているときに、例えば、熱媒体温度センサ76が検出する熱媒体温度Twが上限値TULまで上昇した場合、バッテリコントローラ73はバッテリ冷却要求をヒートポンプコントローラ32や空調コントローラ45に出力する。
図8の時刻t1でヒートポンプコントローラ32にバッテリ冷却要求が入力された場合、これがモード移行要求となり、ヒートポンプコントローラ32はこの場合の圧縮機回転数上昇制御を開始し、圧縮機2の回転数を設定回転数に上昇させる。この際の設定回転数は、発熱機器であるバッテリ55の冷却要求能力を考慮して設定される。
【0153】
そして、
図8に示すように、圧縮機2の回転数が設定回転数に上昇した時刻t2を運転モードの移行時として、その時刻t2から、電磁弁(分岐制御弁)69の開閉制御を開始する。そして、運転モードの移行直後は、上記のように、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御する電磁弁69の開閉制御を行い、熱媒体温度Twが設定値以下になった時(時刻t3)には、熱媒体温度Twを目標値(目標熱媒体温度TWO)に制御する電磁弁69の開閉制御に切り換える。この際、圧縮機2の回転数は、運転モードの移行直後は、設定回転を維持し、熱媒体温度Twが設定以下になった時(時刻t3)に、圧縮機2の回転数も、熱媒体温度Twを目標値(目標熱媒体温度TWO)に制御する回転数制御に切り換える。
【0154】
このように、分岐制御弁60(電磁弁69)の開閉制御に先立って、圧縮機2の回転数上昇制御を行うことで、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後の圧縮機2の能力(回転数)不足を抑制することができると共に、分岐制御弁60の開閉制御を行う際に、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOに制御する際の応答性を高めることができる。これにより、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後の冷房能力の低下による乗員の不快感を未然に回避することができる。
【0155】
(20)冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際のユーザへの報知
冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後の吸熱器温度Teや吹き出し温度の上昇は、上記の圧縮機回転数上昇制御や分岐制御弁60の開閉制御で抑止することができる。しかしながら、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行した直後に若干でも吹き出し温の上昇が生じると、乗員は、空調に不具合があると誤解する場合がある。これを解消するためには、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行するに先だって、吹き出し温に一時的な上昇があったとしても故障ではない旨の報知を行うことが有効である。具体的には、動作モードの移行を行うに際して、ヒートポンプコントローラ32が、ディスプレイ53Aに、冷房能力の一時的な低下が予測されることを報知する表示を出力する。
【0156】
尚、上記の説明では、空調冷媒回路による車室内の冷房と分岐冷媒回路による発熱機器の冷却を並行させる動作への移行として、冷房モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードへの移行を例にして説明したが、バッテリ冷却(単独)モードから空調(優先)+バッテリ冷却モードに移行する際にも、同様の制御を採用することができる。
【0157】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0158】
1 車両用空調装置
2 圧縮機
3 空気流通路
4 放熱器
6 室外膨張弁
7 室外熱交換器
8 室内膨張弁
9 吸熱器(蒸発器)
11 制御部
32 ヒートポンプコントローラ(制御部の一部を構成)
35 電磁弁(吸熱器用弁装置)
45 空調コントローラ(制御装置の一部を構成)
55 バッテリ(被温調対象)
60 分岐制御弁
61 熱媒体回路
64 冷媒-熱媒体熱交換器(蒸発器、被温調対象用熱交換器)
68 補助膨張弁
69 電磁弁
72 車両コントローラ
73 バッテリコントローラ
77 バッテリ温度センサ
76 熱媒体温度センサ
R 空調冷媒回路
Rd 分岐冷媒回路