(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053282
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】シアニン系色素、標識試薬および検出方法
(51)【国際特許分類】
C09B 23/08 20060101AFI20220329BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220329BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20220329BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C09B23/08 CSP
G01N33/543 595
G01N21/78 C
G01N21/64 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160036
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】乾 智惠
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 高敏
(72)【発明者】
【氏名】小島 駿
(72)【発明者】
【氏名】村松 新一
(72)【発明者】
【氏名】草野 創
(72)【発明者】
【氏名】矢野 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】永池 宏
(72)【発明者】
【氏名】有安 利夫
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA14
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA01
2G043GA02
2G043GB03
2G043HA15
2G043KA02
2G043KA09
2G043LA02
2G043NA13
2G054AA07
2G054AB04
2G054CA23
2G054EA03
2G054FA12
2G054GA03
2G054GA05
2G054GB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SPFSを利用した検出方法における標識に好適で、消光が少なく、十分な検出感度が得られるシアニン系色素を提供する。
【解決手段】シアニン系色素は、式(1)で表され、吸収極大波長が650nm以上であり、かつ蛍光極大波長が670nm以上である。
(式(1)において、環Z1および環Z2は、それぞれ単環芳香族炭化水素または縮合多環芳香族炭化水素であり、かつ環Z2の炭素原子数は、環Z1の炭素原子数よりも多く、R
1~R
6、1以上のR
7および1以上のR
8のうち少なくとも4つは、親水性基または親水性基を含有する基であり(但し、R
2、R
3、R
5およびR
6は、アルキルスルホン酸基ではない)、lおよびmは、それぞれ1以上の整数であり、nは、1~3の整数である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシアニン系色素であって、
吸収極大波長が650nm以上であり、かつ蛍光極大波長が670nm以上である、
シアニン系色素。
【化1】
(式(1)において、
環Z1および環Z2は、それぞれ単環芳香族炭化水素または縮合多環芳香族炭化水素であり、かつ環Z2の炭素原子数は、環Z1の炭素原子数よりも多く、
R
1~R
6、1以上のR
7および1以上のR
8のうち少なくとも4つは、親水性基または親水性基を含有する基であり(ただし、R
2、R
3、R
5およびR
6は、アルキルスルホン酸基ではないものとする)、それ以外は、親水性基を含有しない基であり、
lおよびmは、それぞれ1以上の整数であり、
nは、1~3の整数であり、
複数のR
7および複数のR
8は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なってもよい)
【請求項2】
前記親水性基は、酸性基である、
請求項1に記載のシアニン系色素。
【請求項3】
前記酸性基は、カルボキシル基、スルホン酸基および硫酸エステル基からなる群より選ばれる、
請求項2に記載のシアニン系色素。
【請求項4】
前記酸性基は、スルホン酸基である、
請求項3に記載のシアニン系色素。
【請求項5】
R1~R6のうち少なくとも1つは、-(CH2)j-L-Xまたは-(RO)j-L-Xである(Xは、被検出物質もしくは被検出物質に特異的に結合できる結合物質と結合する官能基であり、jは、それぞれ1~10の整数であり、Rは、アルキレン基であり、Lは、連結基である)、
請求項1~4のいずれか一項に記載のシアニン系色素。
【請求項6】
jは、それぞれ3~6の整数である、
請求項5に記載のシアニン系色素。
【請求項7】
Xは、スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、マレイミド基または4-スルホテトラフルオロフェニルエステル基である、
請求項5または6に記載のシアニン系色素。
【請求項8】
R1~R6のうち少なくとも他の1つは、-(CH2)k-W(kは、1~10の整数であり、Wは、酸性基である)であり、
R1~R6のうち残りは、親水性基を含有しないアルキル基である、
請求項5~7のいずれか一項に記載のシアニン系色素。
【請求項9】
R7およびR8は、それぞれ親水性基または-(CH2)k-W(kは、1~10の整数であり、Wは、酸性基である)である、
請求項5~7のいずれか一項に記載のシアニン系色素。
【請求項10】
前記シアニン系色素は、式(2A)で表される、
請求項1~9のいずれか一項に記載のシアニン系色素。
【化2】
(式(2A)において、
A
1~A
4のうち1以上は、式(1)のR
7であり、
A
5~A
10のうち1以上は、式(1)のR
8であり、
A
1~A
4およびA
5~A
10のうち上記以外の残りは、水素原子である)
【請求項11】
A2、A8およびA10は、スルホン酸基であり、
R4は、-(CH2)k-W(kは、1~10の整数であり、Wは、スルホン酸基である)である、
請求項10に記載のシアニン系色素。
【請求項12】
前記シアニン系色素は、フッ素原子を含まない、
請求項1~11のいずれか一項に記載のシアニン系色素。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のシアニン系色素と、
前記シアニン系色素で標識された、被検出物質と特異的に結合する結合物質と、
を有する、
標識試薬。
【請求項14】
検体に含まれる被検出物質の検出方法であって、
前記被検出物質を、請求項13に記載の標識試薬と結合させる工程と、
前記被検出物質と結合した前記標識試薬におけるシアニン系色素を励起させた際に発せられる蛍光を検出する工程とを有する、
検出方法。
【請求項15】
前記蛍光の検出は、表面プラズモン共鳴励起増強蛍光分光法(SPFS)により行う、
請求項14に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアニン系色素、標識試薬および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアニン系色素は、タンパク質、核酸、ホルモンおよび薬物などの生物学的に重要な分子の蛍光標識用の試薬として広範に使用されている。
【0003】
蛍光標識に用いられるシアニン系色素としては、例えばフルオロ置換基を有するシアニン系色素や(例えば特許文献1参照)、インドレン環の3位にアルキレンスルホン酸基を有するシアニン系色素(例えば特許文献2参照)が知られている。
【0004】
ところで、色素を蛍光標識として用いた検出方法には、種々のものがある。中でも、微量の被検出物質を高感度かつ定量的に測定する方法として、表面プラズモン共鳴励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon field-enhanced Fluorescence Spectroscopy:以下「SPFS」と略記する)が知られている。これらの方法では、所定の条件で光を金属膜に照射すると表面プラズモン共鳴(SPR)が生じることを利用するものである。
【0005】
たとえば、SPFSでは、被検出物質に特異的に結合できる結合物質(例えば1次抗体)を金属膜上に固定化して、被検出物質を特異的に捕捉するための反応場を形成する。この反応場に被検出物質を含む検体(例えば血液)を提供すると、被検出物質は反応場に補足される。次いで、蛍光物質で標識された結合物質(例えば2次抗体)を反応場に提供すると、反応場に補足された被検出物質は間接的に蛍光物質で標識される。この状態で金属膜に励起光を照射すると、被検出物質を標識する蛍光物質は、SPRにより増強された電場により励起され、蛍光を放出する。したがって、蛍光を検出することで、被検出物質の存在またはその量を検出することが可能となる。SPFSでは、SPRにより増強された電場により蛍光物質を励起するため、高感度に被検出物質を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008-538382号公報
【特許文献2】特表2007-510031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SPFSを利用した検出方法において、特許文献1および2のシアニン系色素を標識試薬として使用しても、色素間の相互作用や色素と抗体(被検出物質と特異的に結合する結合物質)との間の相互作用により、色素間または色素と抗体との間でエネルギー遷移が生じ、消光しやすいという課題があった。
【0008】
また、色素で抗体を標識する際に、色素が、抗体の抗原認識部位に近づくか、もしくは結合すると、抗体の機能が阻害されやすく、十分な検出感度が得られにくい。そのため、抗体の機能を阻害することなく、色素で標識できることが望まれる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、SPFSを利用した検出方法における標識に好適なシアニン系色素であって、消光が少なく、十分な検出感度が得られるシアニン系色素および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記のシアニン系色素、標識試薬および検出方法に関する。
【0011】
本発明のシアニン系色素は、下記式(1)で表されるシアニン系色素であって、吸収極大波長が650nm以上であり、かつ蛍光極大波長が670nm以上である。
【化1】
(式(1)において、
環Z1および環Z2は、それぞれ単環芳香族炭化水素または縮合多環芳香族炭化水素であり、かつ環Z2の炭素原子数は、環Z1の炭素原子数よりも多く、
R
1~R
6、1以上のR
7および1以上のR
8のうち少なくとも4つは、親水性基または親水性基を含有する基であり(ただし、R
2、R
3、R
5およびR
6は、アルキルスルホン酸基ではないものとする)、それ以外は、親水性基を含有しない基であり、
lおよびmは、それぞれ1以上の整数であり、
nは、1~3の整数であり、
複数のR
7および複数のR
8は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なってもよい)
【0012】
本発明の標識試薬は、本発明のシアニン系色素と、前記シアニン系色素で標識された、被検出物質と特異的に結合する結合物質と、を有する。
【0013】
本発明の検出方法は、検体に含まれる被検出物質の検出方法であって、前記被検出物質を本発明の標識試薬と結合させる工程と、前記被検出物質と結合した本発明の標識試薬におけるシアニン系色素を励起させた際に発せられる蛍光を検出する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、SPFSを利用した検出方法における標識に好適なシアニン系色素であって、消光が少なく、十分な検出感度が得られるシアニン系色素および検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係るSPFSを利用した検出方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2Aは、PC-SPFS用の検出チップの構成を説明するための断面模式図であり、
図2Bは、GC-SPFS用の検出チップの構成を説明するための断面模式図である。
【
図3】
図3は、PC-SPFS用の検出チップの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、シアニン系色素の骨格を「非対称」にすることで、SPFSで用いられる励起光源で効率良く励起され得ることを見出した。また、本発明者らは、シアニン系色素に、親水性基を多く導入することで、水系媒体中での色素の分散性を高めて、色素の凝集を抑制しうること、および、(親水性を示す)色素が(疎水性を示す)抗体の抗原認識部位に近づくことによる抗体の機能阻害を抑制しうることを見出した。
【0017】
すなわち、非対称な骨格を有し、かつ親水性基を多く含むシアニン系色素は、色素同士の凝集に起因する消光を抑制するとともに、抗体の機能阻害に起因する検出感度の低下を抑制することができる。以下、本発明の構成について、具体的に説明する。
【0018】
1.シアニン系色素
本発明のシアニン系色素は、SPFSで用いられる励起光の波長の範囲に吸収極大を有することが好ましい。具体的には、シアニン系色素の吸収極大波長は、650nm以上であることが好ましく、650~670nmであることがより好ましい。
【0019】
また、シアニン系色素の蛍光極大波長は、670nm以上であることが好ましく、670~690nmであることがより好ましい。
【0020】
シアニン系色素の吸収極大波長および蛍光極大波長は、JISK0115:2004、JISK0120:2005に準拠して、それぞれ分光光度計および蛍光分光光度計により測定することができる。
【0021】
シアニン系色素の吸収極大波長および蛍光極大波長は、主に、シアニン系色素の主骨格によって調整されうる。吸収極大波長および蛍光極大波長を上記範囲にする観点では、シアニン系色素の主骨格は、非対称な構造を有することが好ましい。
【0022】
具体的には、シアニン系色素は、下記式(1)で表される。
【化2】
【0023】
式(1)において、環Z1と環Z2は、それぞれ単環芳香族炭化水素または縮合多環芳香族炭化水素である。ただし、環Z2の炭素原子数は、環Z1の炭素原子数よりも多い。
【0024】
単環芳香族炭化水素の例には、ベンゼン環が含まれる。縮合多環芳香族炭化水素の例には、ナフタレン(C10)が含まれる。縮合多環芳香族炭化水素の炭素原子数が上記程度であると、疎水性部分が増えすぎないため、疎水性相互作用による凝集を生じにくい。
【0025】
式(1)において、R1~R6、1以上のR7および1以上のR8のうち少なくとも4つ、好ましくは4または5つは、親水性基または親水性基を含有する基である。複数のR7および複数のR8は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
【0026】
このように、少なくとも4つの親水性基または親水性基を含有する基を有するシアニン系色素は、高い親水性を有する。そのため、水系媒体中で色素同士の凝集(スタッキング)およびそれによる消光を抑制しうる。また、抗体(結合物質)の抗原認識部位は、通常、疎水性を示すが、シアニン系色素は高い親水性を示すため、シアニン系色素が抗体の抗原認識部位に近づきにくい。そのため、色素-抗体間のエネルギー遷移による消光や抗体の機能阻害による検出感度の低下を抑制しうる。
【0027】
親水性基は、酸性基であることが好ましい。酸性基は、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基および硫酸エステル基からなる群より選ばれる基であることが好ましく、スルホン酸基であることがより好ましい。酸性基は、アニオン(例えばSO3
―など)であってもよいし、各種カウンターカチオン(例えばNa+、K+などの無機カチオン、あるいはトリエチルアンモニウム塩(HN+Et3)、ジアザビシクロウンデセニウム塩(HDBU+)などの有機カチオン)と塩を形成していてもよい。これらの酸性基、特にスルホン酸基は、シアニン系色素に適度な親水性を付与しうる。
【0028】
親水性基を含有する基は、特に制限されないが、-(CH2)k-W(kは、1~10の整数であり、Wは、酸性基である)、または親水性基を含有するリンカー基でありうる。Wで示される酸性基は、前述の酸性基と同様であり、好ましくはスルホン酸基、カルボキシル基であり、より好ましくはスルホン酸基である。
【0029】
親水性基を含有するリンカー基は、結合物質(抗体など)に結合する官能基を有する基であればよく、特に制限されないが、好ましくは-(CH2)j-L-Xまたは-(RO)j-L-Xでありうる。
【0030】
Xは、タンパク質(後述する被検出物質や被検出物質に特異的に結合できる結合物質)などと結合する官能基である。タンパク質(後述する被検出物質や被検出物質に特異的に結合できる結合物質)などと結合する官能基の例には、NHSエステル(スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステルなど)、イミドエステル、STPエステル(4-スルホテトラフルオロフェニルエステル基など)、ペンタフルオロフェニルエステル、ヒドロキシメチルホスフィンなどのアミン反応性基;マレイミド、ハロ酢酸(ブロモ酢酸またはヨード酢酸)、ピリジルジスルフィド、チオスルフォン、ビニルスルホンなどのスルフヒドリル反応性基が含まれる。中でも、当該官能基は、スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、マレイミド基、および4-スルホテトラフルオロフェニルエステル基であることが好ましい。
【0031】
Rは、アルキレン基、好ましくは炭素原子数1~4のアルキレン基である。アルキレン基の例には、エチレン基およびプロピレン基が含まれ、好ましくはエチレン基である。
【0032】
jは、それぞれ1~10の整数であり、好ましくは3~6の整数である。
【0033】
Lは、連結基である。連結基は、例えば炭素原子、窒素原子、水素原子、硫黄原子からなる群より選ばれる一つ以上を組み合わせた基であり、そのような連結基の例には、-R-、―C(=O)-NHR-、-RC(=O)-NHR-、-S(=O)2―NHR-、-C(=O)-NHR-C(=O)-NHR-(Rは、炭素原子数2~10のポリアルキレンオキサイド基またはアルキレン基)が含まれる。
【0034】
ただし、R2、R3、R5およびR6が親水性基を含有する基である場合、R2、R3、R5およびR6は、アルキルスルホン酸基以外の基である。その理由は、以下のように考えられる。
【0035】
色素分子に導入する、スルホン酸基などの親水性基を含有する基の数を増やすことで、色素分子の会合を抑制することができる。しかしながら、結合物質がタンパク質である場合、親水性基を含有する基を増やし過ぎると、タンパク質にラベル化した際にタンパク質の等電点を下げ、タンパク質の生理活性やリガンドに対する結合能などを低下させる恐れがある。したがって、親水性基を含有する基の導入数をなるべく低くしつつ、効果的に色素の分子会合を抑制することが望まれる。分子会合抑制に効果の高い親水性基を含有する基の置換位置は、R1、R4、R7およびR8であることを本発明者らは鋭意検討した結果により見出しており、これらの位置に対して偏りなく親水性基を含有する基を配置することで、分子会合抑制の効果を最大化しうると考えられる。
その上で、R2、R3、R5およびR6にアルキルスルホン酸基をさらに導入すると、親水性基過多による結合物質の特性や結合物質のリガンドに対する結合能などの低下につながる恐れがある。あるいは、親水性基の総数を変えずに、R1、R4、R7およびR8に親水性基を含有する基を導入する代わりに、R2、R3、R5およびR6にアルキルスルホン酸基を導入したとしても、十分な会合抑制効果が得られにくいと考えられる。
【0036】
R1~R6、1以上のR7および1以上のR8のうち上記以外の残りは、親水性基を含有しない基でありうる。親水性基を含有しない基は、特に制限されないが、親水性基を有しないリンカー基、または、親水性基を含有しないアルキル基でありうる。
【0037】
親水性基を含有しないリンカー基は、Xが親水性基を有しない以外は上記リンカー基と同じものである。
【0038】
親水性基を含有しないアルキル基は、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましい。親水性基を含有しないアルキル基の例には、メチル基、エチル基などが含まれる。
【0039】
中でも、R1~R6および1以上のR7および1以上のR8のうち少なくとも1つは、リンカー基(-(CH2)j-L-Xまたは-(RO)j-L-X)であることが好ましい。特に、R1~R6のうち少なくとも1つ、好ましくはR1~R3(またはR4~R6)のうち少なくとも1つ、より好ましくはR1もしくはR2(またはR4もしくはR5)が、リンカー基(-(CH2)j-L-Xまたは-(RO)j-L-X)でありうる。リンカー基がこれらの位置にあると、被検出物質や被検出物質に特異的に結合できる結合物質(抗体など)と結合した状態で励起された際に、シアニン系色素から結合物質へのエネルギー遷移を少なくし、消光をさらに生じにくくしうる。なお、リンカー基のXは、親水性基を有してもよいし、有しなくてもよい。
【0040】
すなわち、R1~R6のうち、
少なくとも1つは、-(CH2)j-L-Xまたは-(RO)j-L-Xであり、
それ以外の少なくとも1つは、親水性基または親水性基を含有する基(好ましくは-(CH2)k-W)であり、
残りは、親水性基を含有しないアルキル基であり、かつ
R7およびR8は、親水性基または親水性基を含有する基(好ましくは親水性基)であることが好ましい。
【0041】
さらに、R1~R6のうち、
R1またはR3は、-(CH2)j-L-Xまたは-(RO)j-L-Xであり、
それ以外の1または2つは、親水性基を含有する基(好ましくは-(CH2)k-W)であり、
残りは、親水性基を含有しないアルキル基であり、かつ
R7およびR8は、親水性基または親水性基を含有する基(好ましくは親水性基)であることが好ましい。
【0042】
式(1)において、lおよびmは、それぞれ1以上の整数である。中でも、lは、1または2、好ましくは1である。mは、1または2である。
【0043】
式(1)において、nは、1~3の整数である。nが大きいほど、吸収極大波長は長波長化する傾向がある。SPFSに適した吸収極大波長に調整しやすい観点では、nは、好ましくは2である。
【0044】
式(1)で表されるシアニン系色素は、式(2)で表されることがより好ましい。
【化3】
【0045】
式(2)で表されるシアニン系色素は、式(2A)で表されることがより好ましい。
【化4】
【0046】
式(2A)において、A1~A4のうち1以上は、式(1)のR7であり、好ましくは親水性基または親水性基を含有する基である。A5~A10のうち1以上は、式(1)のR8であり、好ましくは親水性基または親水性基を含有する基である。A1~A4およびA5~A10のうち上記以外の残りは、水素原子である。なお、複数のR7および複数のR8は、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0047】
R7またはR8で表される親水性基を含有する基は、上記と同様である。すなわち、親水性基は、酸性基であることが好ましく、スルホン酸基(塩を形成していてもよい)であることがより好ましい。親水性基を含有する基は、-(CH2)k-Wであることが好ましく、-(CH2)k-W(kは、1~10の整数、Wは、スルホン酸基)であることがより好ましい。
【0048】
中でも、A2、A8およびA10はスルホン酸基であり、かつR4は-(CH2)k-Wであること、あるいはA2およびA10はスルホン酸基であり、かつR1、R4は-(CH2)k-Wであることが好ましい。
【0049】
シアニン系色素は、親水性を損なわないようにする観点から、フッ素原子を含まないことが好ましい。
【0050】
式(1)で表されるシアニン系色素の例には、以下の表に記載の色素が含まれる。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
(合成方法)
本発明のシアニン系色素は、式(1a)で表される第1化合物と、式(1b)で表される第2化合物と、これらを結合させるための第3化合物とを反応させて得ることができる。
【化5】
【化6】
【0061】
式(1a)または(1b)のR1~R8、lおよびmは、式(1)のR1~R8、lおよびmとそれぞれ同義である。
【0062】
第3化合物は、第1化合物の複素環と第2化合物の複素環とを結合するポリメチン結合を形成するための化合物であり、公知のもの、例えばHamer,F.M.,“The Cyanine Dyes and Related Compounds”,Interscience(1964)に記載のものを使用できる。
【0063】
具体的には、置換N,N’-ジフェニルホルムアミジンやオルトエステルを使用することができる。例えば、ペンタメチンシアニン系色素を調製する場合(式(1)のn=2の場合)、マロンアルデヒドジアニルを使用することができる。ヘプタメチンシアニン系色素を調製する場合(式(1)のn=3の場合)、グルタコンアルデヒドを使用することができる。
【0064】
上記反応は、1段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。例えば、式(1a)で表される第1の化合物と、第3の化合物(例えば置換N,N’-ジフェニルホルムアミジンまたはマロンアルデヒドジアニル)を無水酢酸の存在下で反応させて、2-アニリノビニルまたは4-アニリン-1,3-ブタジエニル第四級塩を形成した後;得られた第四級塩と、式(1b)で表される第2化合物とを反応させて、式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0065】
2.標識試薬
本発明の標識試薬は、本発明のシアニン系色素で標識された結合物質である。
【0066】
標識試薬に含まれる結合物質の種類は、被検出物質に特異的に結合することができれば特に限定されない。標識試薬に含まれる結合物質の例には、被検出物質に特異的に結合できる抗体、被検出物質に特異的に結合できる核酸、被検出物質に特異的に結合できる脂質、被検出物質に特異的に結合できる抗体以外のタンパク質および被検出物質に特異的に結合できるアプタマーなどが含まれる。
【0067】
中でも、後述する免疫反応を利用した検出方法において、標識試薬に含まれる結合物質は、被検出物質に特異的に結合することができる抗体もしくはレクチンであることが好ましい。たとえば、被検出物質がPSA-Gi(Prostate specific antigen glycoisoform、前立腺特異抗原糖鎖修飾異性体)などの抗原である場合、標識試薬に含まれる結合物質は、PSA-Giに特異的に結合することができるレクチンであることが好ましい。標識試薬に含まれる結合物質の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0068】
結合物質1分子に結合するシアニン系色素の分子の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。検出感度を高める観点では、結合物質1分子に結合するシアニン系色素の分子の数は、複数であることが好ましい。
【0069】
結合物質をシアニン系色素で標識する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択されうる。たとえば、結合物質としてのタンパク質とシアニン系色素とを共有結合させる場合は、通常、室温下で、水性緩衝媒体、例えば炭酸水素塩中(pH9.0)で1時間程度反応させればよい。標識されたタンパク質は、サイズ排除クロマトグラフィーによって、例えば固定相としてSephadex(登録商標)を、溶離液としてホスフェート緩衝剤(pH7.0)を使用して、未反応の色素から分離することができる。標的生体分子の多重標識のために、色素の量又は濃度と標的材料の比をそれに応じて調節することが好ましい。
【0070】
3.検出方法
本発明のシアニン系色素は、検体に含まれる被検出物質の検出方法における、標識試薬の蛍光物質として使用することができる。すなわち、本発明の検出方法は、被検出物質を本発明の標識試薬と結合させる工程(被検出物質を間接的に標識する工程)と、被検出物質と結合した標識試薬におけるシアニン系色素を励起させた際に発せられる蛍光を検出する工程とを有する。
【0071】
被検出物質の種類は、特に制限されないが、核酸、たんぱく質、ホルモン、ペプチド、糖鎖などが含まれる。好ましくはタンパク質でありうる。タンパク質は、例えば病理診断の対象となる疾病に関連する抗原(腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモン、癌の増殖制御因子、転移制御因子、増殖制御因子など)であってよく、例えばPSA-Giなどでありうる。
【0072】
蛍光の検出は、任意の方法で行うことができる。中でも、本発明の検出方法では、SPFSを利用して、被検出物質を検出する。SPFSは、SPRにより増強された電場によりシアニン系色素を励起して蛍光を放出させるため、一般的な蛍光免疫測定法よりも被検出物質を高感度に検出することができる。また、SPFSは、検体として全血など様々な被測定試料を対象とすることができる。
【0073】
本実施の形態に係る被検出物質の検出方法について、具体的に説明する。
図1は、本実施の形態に係る被検出物質の検出方法の一例を示すフローチャートである。
【0074】
図1に示されるように、本実施の形態に係る被検出物質の検出方法は、金属膜と、金属膜に固定化された、被検出物質に特異的に結合する結合物質とを含む検出チップを準備する工程(工程S10)と、2)金属膜上に検体を提供して、検体に含まれる被検出物質を金属膜上に固定化した結合物質に結合させる工程(一次反応工程;工程S20)と、3)結合物質に結合する前または結合した後の被検出物質を、シアニン系色素で標識された(被検出物質と特異的に結合する)結合物質を有する標識試薬と結合させる工程(二次反応工程;工程S30)と、4)シアニン系色素で標識された結合物質が被検出物質に結合している状態で、金属膜でSPRが生じるように金属膜に励起光を照射したときに、シアニン系色素から放出される蛍光を検出する工程(工程S40)とを含む。
【0075】
(検出チップを準備する工程(工程S10))
まず、金属膜と、被検出物質(本実施の形態では、例えばPSA-Giなどの腫瘍マーカー)に特異的に結合する結合物質とを含む検出チップを準備する(工程S10)。
【0076】
SPFSでは、金属膜に励起光を照射したときに生じるエバネッセント波と表面プラズモンとを結合させてSPRを生じさせる。SPRを生じさせる手法としては、金属膜の一方の面上にプリズムを配置する手法(Kretschmann配置)や、金属膜に回折格子を形成する手法などが知られている。前者の手法を採用したSPFSは、プリズムカップリング(PC)-SPFSと称され、後者の手法を採用したSPFSは、格子カップリング(GC)-SPFSと称される。本実施の形態に係る被検出物質の検出方法は、PC-SPFSおよびGC-SPFSのどちらを採用してもよい。
【0077】
上述のとおり、金属膜は、励起光を照射されたときにSPRを生じさせる。金属膜を構成する金属の種類は、SPRを生じさせうる金属であれば特に限定されない。金属膜を構成する金属の例には、金、銀、銅、アルミニウムおよびこれらの合金が含まれ、好ましくは金である。
【0078】
結合物質は、被検出物質に特異的に結合することができ、検体中の被検出物質を捕捉するために、金属膜上に固定化されている。通常、結合物質は、金属膜上の所定の領域(反応場)に均一に固定化されている。
【0079】
金属膜に固定化される結合物質の種類は、被検出物質に特異的に結合することができれば特に限定されず、上記標識試薬に用いられる結合物質と同様のものを用いることができる。たとえば、被検出物質がPSA-Giである場合、金属膜に固定化された結合物質は、例えば、PSA-Giに特異的に結合できる抗体(抗PSA-Gi抗体)、PSA-Giに特異的に結合できる核酸、PSA-Giに特異的に結合できる脂質、PSA-Giに特異的に結合できる抗体以外のタンパク質およびPSA-Giに特異的に結合できるアプタマーなどが含まれる。また、金属膜に固定化される結合物質の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0080】
被検出物質の検出感度を向上させる観点から、金属膜に固定化する結合物質として、被検出物質の特定の領域に特異的に結合する抗体を採用することが好ましい。
【0081】
結合物質の固定化方法は、特に限定されない。例えば、金属膜上に、結合物質(例えば抗体)を結合させた自己組織化単分子膜(以下「SAM」という)または高分子膜を形成すればよい。SAMの例には、HOOC-(CH2)11-SHなどの置換脂肪族チオールで形成された膜が含まれる。高分子膜を構成する材料の例には、ポリエチレングリコールおよびMPCポリマーが含まれる。また、結合物質(例えば抗体)に結合可能な反応性基(または反応性基に変換可能な官能基)を有する高分子を金属膜に固定化し、この高分子に結合物質(例えば抗体)を結合させてもよい。
【0082】
検出チップは、好ましくは各片の長さが数mm~数cmの構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれないより小型の構造物またはより大型の構造物であってもよい。
【0083】
図2Aは、PC-SPFS用の検出チップの構成を説明するための断面模式図であり、
図2Bは、GC-SPFS用の検出チップの構成を説明するための断面模式図である。説明の便宜上、これらの図において、各構成要素の大きさおよび形状は、正確ではない。また、これらの図では、結合物質として抗体を使用する例を示している。
【0084】
図2Aに示されるように、PC-SPFS用の検出チップ100は、プリズム110、金属膜120および結合物質(例えば抗体)130(の層)を有する。プリズム110は、励起光L1に対して透明な誘電体からなり、励起光L1が入射する入射面111と、励起光L1が反射する成膜面112と、反射光L2が出射する出射面113とを有する。プリズム110の形状は、特に限定されない。
図2Aに示される例では、プリズム110の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面112であり、一方の脚に対応する面が入射面111であり、他方の脚に対応する面が出射面113である。プリズム110の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム110の材料は、好ましくは、励起光に対する屈折率が1.4~1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。金属膜120は、プリズム110の成膜面112上に配置されている。金属膜120の形成方法は、特に限定されない。金属膜120の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、めっきが含まれる。金属膜120の厚みは、特に限定されないが、30~70nmの範囲内であることが好ましい。
【0085】
図2Aに示されるように、金属膜120においてSPRが生じるようにプリズム110を介して金属膜120に励起光L1を照射すると、SPRにより増強された電場が金属膜120近傍に生じる。このとき、金属膜120上の結合物質(例えば抗体)130に、シアニン系色素150を有する標識試薬が結合した被検出物質(例えば抗原)140が結合していると、シアニン系色素150が増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。
【0086】
図2Bに示されるように、GC-SPFS用の検出チップ200は、回折格子211を形成された金属膜210および結合物質(例えば抗体)130(の層)を有する。金属膜210の形成方法は、特に限定されない。金属膜210の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、めっきが含まれる。金属膜210の厚みは、特に限定されないが、30~500nmの範囲内であることが好ましい。回折格子211の形状は、エバネッセント波を生じさせることができれば特に限定されない。例えば、回折格子211は、1次元回折格子であってもよいし、2次元回折格子であってもよい。例えば、1次元回折格子では、金属膜210の表面に、互いに平行な複数の凸条が所定の間隔で形成されている。2次元回折格子では、金属膜210の表面に、所定形状の凸部が周期的に配置されている。凸部の配列の例には、正方格子、三角(六方)格子などが含まれる。回折格子211の断面形状の例には、矩形波形状、正弦波形状、鋸歯形状などが含まれる。回折格子211の形成方法は、特に限定されない。例えば、平板状の基板(不図示)の上に金属膜210を形成した後、金属膜210に凹凸形状を付与してもよい。また、予め凹凸形状を付与された基板(不図示)の上に、金属膜210を形成してもよい。いずれの方法であっても、回折格子211を含む金属膜210を形成することができる。
【0087】
図2Bに示されるように、金属膜210(回折格子211)においてSPRが生じるように金属膜210(回折格子211)に励起光L1を照射すると、SPRにより増強された電場が金属膜210(回折格子211)近傍に生じる。このとき、金属膜210(回折格子211)上の結合物質(例えば抗体)130に、シアニン系色素150を有する標識試薬が結合した被検出物質140が結合していると、シアニン系色素150が増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。
【0088】
図3は、PC-SPFS用の検出チップの一例を示す断面模式図である。
【0089】
図3に示されるように、検出チップ300は、入射面111、成膜面112および出射面113を有するプリズム110と、プリズム110の成膜面112に形成された金属膜120と、プリズム110の成膜面112または金属膜120上に配置された流路蓋310とを有する。
図3において、入射面111および出射面113は、紙面の手前および奥にそれぞれ存在している。検出チップ300は、さらに、流路320と、流路320の一端に接続された液体注入部330と、流路320の他端に接続された貯留部340も有する。本実施の形態では、流路蓋310は、両面テープなどの接着層350を介して金属膜120(またはプリズム110)に接着されており、接着層350は流路320の側面形状を規定する役割も担っている。
図3では省略しているが、流路320内に露出している金属膜120の一部の領域(反応場)には、結合物質(抗体)130が固定化されている。液体注入部330は、液体注入部被覆フィルム331により塞がれ、貯留部340は、貯留部被覆フィルム341により塞がれている。貯留部被覆フィルム341には、通気孔342が設けられている。
【0090】
流路蓋310は、蛍光L3に対して透明な材料で形成されている。ただし、蛍光L3の取り出しの妨げにならない限り、流路蓋310の一部は蛍光L3に対して不透明な材料で形成されていてもよい。蛍光L3に対して透明な材料の例には、樹脂が含まれる。流路蓋310は、接着層350を用いずに、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより、金属膜120(またはプリズム110)に接合されていてもよい。この場合は、流路320の側面形状は、流路蓋310により規定される。
【0091】
液体注入部330には、ピペットチップが挿入される。このとき、液体注入部330の開口部(液体注入部被覆フィルム331に設けられた貫通孔)はピペットチップの外周に隙間なく接触する。このため、ピペットチップから液体注入部330内に液体を注入することで流路320内に液体を導入することができ、液体注入部330内の液体をピペットチップに吸引することで流路320内の液体を除去することができる。また、液体の注入および吸引を交互に行うことで、流路320内において液体を往復送液することもできる。
【0092】
液体注入部330から流路320内に流路320の容積を超える量の液体が導入された場合、貯留部340には流路320から液体が流入する。また、流路320内において液体を往復送液するときにも、貯留部340には液体が流入する。貯留部340に流入した液体は、貯留部340内で攪拌される。貯留部340内で液体が攪拌されると、流路320を通過する液体(検体や洗浄液など)の成分(例えば被検出物質や洗浄成分など)の濃度が均一になり、流路320内で各種反応が生じやすくなったり、洗浄効果が高まったりする。
【0093】
(1次反応を行う工程(工程S20))
次に、検出チップの金属膜上に検体を提供して、検体に含まれる被検出物質を結合物質に結合させる(1次反応;工程S20)。
【0094】
検体を提供する方法は、特に限定されない。たとえば、ピペットチップを先端に装着したピペットを用いて金属膜上に検体を提供すればよい。通常は、1次反応を終えた後、金属膜の表面を緩衝液などで洗浄して、結合物質に結合していない成分を除去する。
【0095】
検体の種類は、特に限定されない。検体の例には、血液、血清、血漿、リンパ液、組織液、体腔液、脳脊髄液、唾液、胃液、尿、鼻腔粘液、口腔内粘膜液およびこれらの希釈液が含まれる。
【0096】
(2次反応を行う工程(工程S30))
次に、検出チップの金属膜上に、上記標識試薬を提供して、結合物質に結合した被検出物質を、シアニン系色素で標識された結合物質を有する標識試薬と結合させる(2次反応、工程S30)。
【0097】
標識試薬を提供する方法は、特に限定されない。例えば、ピペットチップを先端に装着したピペットを用いて金属膜上に標識試薬を提供すればよい。通常は、2次反応を終えた後、金属膜の表面を緩衝液などで洗浄して、被検出物質と結合していない標識試薬を除去する。
【0098】
標識試薬は、本発明の標識試薬であり、シアニン系色素で標識された、被検出物質に特異的に結合する結合物質である。
【0099】
標識試薬に含まれるシアニン系色素は、上記した通り、本発明のシアニン系色素である。標識試薬に含まれる結合物質の種類は、金属膜に固定化される結合物質の種類と同一であってもよいし、異なっていてもよい。標識試薬に含まれる結合物質の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0100】
なお、上記の説明では、金属膜に固定化された結合物質に被検出物質を結合させてから、被検出物質を標識試薬と結合させたが、金属膜に固定化された結合物質に被検出物質を結合させる前に、被検出物質を標識試薬と結合させてもよい。この場合は、検体を金属膜上に提供する前に、検体と標識試薬を混合すればよい。また、金属膜に固定化された結合物質に、被検出物質を結合させる工程と被検出物質を標識試薬と結合させる工程を同時に行ってもよい。この場合は、検体と標識試薬を金属膜上に同時に提供すればよい。
【0101】
(蛍光を検出する工程(工程S40))
次に、SPFSにより被検出物質の存在または量を示す蛍光を検出する(工程S40)。
【0102】
具体的には、シアニン系色素で標識された(被検出物質と特異的に結合する)結合物質が結合した被検出物質が、金属膜に固定化された結合物質に結合している状態で、金属膜でSPRが生じるように金属膜に励起光を照射し、これによりシアニン系色素から放出される蛍光を検出する。例えば、測定された蛍光値を、予め測定された光学ブランク値で割って、被検出物質の量に相関するシグナル値(S/N比)を算出する。あるいは、測定された蛍光値から、予め測定された光学ブランク値を引いて、被検出物質の量に相関するシグナル値を算出してもよい。必要に応じて、予め作成しておいた検量線などにより、シグナル値を被検出物質の量や濃度などに換算してもよい。
【0103】
図2Aに示されるように、PC-SPFS用の検出チップ100を用いる場合は、励起光L1は、プリズム110を介して金属膜120に照射される。これにより、金属膜120においてSPRが生じ、金属膜120近傍に存在するシアニン系色素150は、増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。金属膜120に対する励起光L1の入射角は、金属膜120でSPRが生じるように設定されるが、共鳴角または増強角であることが好ましい。ここで「共鳴角」とは、金属膜120に対する励起光L1の入射角を走査した場合に、反射光L2の光量が最小となるときの入射角を意味する。また、「増強角」とは、金属膜120に対する励起光L1の入射角を走査した場合に、金属膜120の上方(プリズム110の反対側)に放出される励起光L1と同一波長の散乱光(プラズモン散乱光)の光量が最大となるときの入射角を意味する。
【0104】
図2Bに示されるように、GC-SPFS用の検出チップ200を用いる場合は、励起光L1は、直接金属膜210(回折格子211)に照射される。これにより、金属膜210(回折格子211)においてSPRが生じ、金属膜210(回折格子211)近傍に存在するシアニン系色素150は、増強電場により励起され、蛍光L3を放出する。金属膜210に対する励起光L1の入射角は、金属膜210でSPRが生じるように設定されるが、SPRにより形成される増強電場の強度が最も強くなる角度が好ましい。励起光L1の最適な入射角は、回折格子211のピッチや励起光L1の波長、金属膜210を構成する金属の種類などに応じて適宜設定される。
【0105】
励起光の種類は、特に限定されないが、通常はレーザー光である。たとえば、励起光は、出力が15~30mWのレーザー光源から出射されたレーザー光である。出力を15mW以上とすることで、蛍光強度を高めて蛍光を適切に検出することができる。また、出力を30mW以下とすることで、金属膜に固定化されている結合物質などへの悪影響を抑制することができる。励起光の波長は、使用するシアニン系色素の励起波長に応じて適宜設定される。
【0106】
蛍光の検出器は、検出チップに対して蛍光の強度が最も高い方向に設置されることが好ましい。たとえば、
図2Aに示されるように、PC-SPFS用の検出チップ100を用いる場合は、蛍光L3の強度が最も高い方向は金属膜120の法線方向であるので、検出器は、検出チップの直上に設置される。一方、
図2Bに示されるように、GC-SPFS用の検出チップ200を用いる場合は、蛍光L3の強度が最も高い方向は金属膜120の法線に対してある程度傾斜した方向であるので、検出器は、検出チップの直上ではない位置設置される。検出器は、例えば、光電子増倍管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)などである。
【0107】
以上の手順により、検体に含まれる被検出物質の存在または量を検出することができる。
【0108】
[効果]
以上のように、本実施の形態に係る、SPFSを利用した被検出物質の検出方法では、上記のシアニン系色素を用いる。そのため、消光が少なく、高い感度で被検出物質を検出することができる。
【実施例0109】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
<実施例1:シアニン系色素1の合成>
[原料1の合成]
【化7】
【0111】
2L四つ口フラスコに7-アミノ-1,3-ナフタレンジスルホン酸モノカリウム水和物43.5g(127mmol)、水696ml、濃塩酸39.3ml(471mmol)を仕込んだ。そこに氷冷撹拌下、亜硝酸ナトリウム9.23g(135mmol)/水27.7ml溶液を滴下した。氷浴を外し、室温で50分間撹拌し、ジアゾニウム塩溶液を調製した。
【0112】
別の2L四つ口フラスコに無水亜硫酸ナトリウム40.1g(319mmol)、水80.2mlを仕込み、室温撹拌、分散下、調製したジアゾニウム塩溶液を滴下し、水10mlで洗い込んだ。水浴50℃で1時間撹拌し、さらに水浴60℃で1時間撹拌した。5Lポリエチレン製ジョッキに反応液を移し、氷冷下撹拌し、2-プロパノール1.7Lを加え、晶析させた。結晶をろ取し、2-プロパノール100ml、アセトニトリル100mlで結晶を洗浄した。
粗結晶をアセトニトリル261ml中で、30分間室温撹拌、分散し、結晶をろ取し、アセトニトリル150mlで洗浄した。得られた結晶は乾燥させずに、次反応に用いた。得られた原料1の収量は58.02g(dry換算重量)、収率100%、LC98.3%であった。
【0113】
【0114】
1L四つ口フラスコに原料1を57.3g(dry換算量、136mmol)、水172ml、濃塩酸172mlを仕込み、水浴50℃で40分間撹拌した。氷冷下撹拌し、晶析させた。結晶をろ取し、アセトニトリル50mlで2回、結晶を洗浄後、60℃で一晩乾燥させた。得られた原料2の収量は27.78g、収率57.4%、LC95.5%であった。
【0115】
【0116】
1L四つ口フラスコに原料2を27.5g(77.5mmol)、3-メチル―2-ブタノン10.0g(116mmol)、メタノール220ml、濃塩酸4.13ml(77.5mmol)を仕込み、油浴80℃で2時間加熱撹拌した。2-プロパノール220mlを加え、1時間氷冷撹拌し、晶析させた。結晶をろ取し、2-プロパノール60mlで結晶を洗浄した。60℃で一晩乾燥し、粗結晶26.19gを得た。
粗結晶を水52.4mlとエタノール210mlの混液で再結晶した。結晶をろ取し、エタノール50mlで2回洗浄し、結晶を60℃で一晩乾燥させた。得られた原料3の収量は19.72g、収率60.8%、LC99.3%であった。
【0117】
【0118】
500ml四つ口フラスコにN,N’-ジフェニルホルムアミジン塩酸塩20.0g(77.3mmol)、メタノール120mlを仕込み、水浴60℃加熱撹拌、完溶した。水浴を外し、室温撹拌下、水酸化ナトリウム3.2g(79.6mmol)/水20ml溶液を滴下し、晶析させた。再度水浴60℃に浸け、30分間加熱撹拌、分散した。1時間氷冷撹拌後、結晶をろ取、水90mlで洗浄し、60℃で一晩乾燥させた。得られた原料4の収量は13.56g、収率78.9%、LC99.4%であった。
【0119】
【0120】
1200ml四つ口フラスコに原料3を10.0g(23.9mmol)、1,4-ブタンサルトン16.3g(119mmol)、スルホラン5.0ml、N,N-ジイソプロピルエチルアミン9.27g(71.7mmol)を仕込み、油浴130℃で5時間加熱撹拌した。油浴を外し、室温撹拌下、アセトニトリル20mlを加え、晶析させた。水浴で冷却下、30分間撹拌した。結晶をろ取し、アセトニトリル30mlで洗浄後、60℃で一晩乾燥し、粗結晶6.72gを得た。
粗結晶を2-プロパノール34ml中で、水浴80℃で加熱撹拌、30分間分散した。結晶をろ取し、2-プロパノール25mlで洗浄後、60℃で一晩乾燥させた。得られた原料5の収量は6.39g、収率52.9%、LC98.3%であった。
【0121】
【0122】
200ml四つ口フラスコに2,3,3―トリメチルインドレニン-5-スルホン酸10.0g(41.8mmol)、6-ブロモヘキサン酸エチル16.8g(75.2mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン5.4g(41.8mmol)、スルホラン2mlを仕込み、油浴140℃で3時間加熱撹拌した。
【0123】
油浴を外し、室温撹拌下、酢酸エチル50mlを加えると、オイルが析出した。20分間水冷撹拌し、上清をデカントにより除いた。残渣に酢酸エチル50mlを加え、10分間室温撹拌し、上清をデカントにより除いた。残渣にアセトニトリル50mlを加え、室温撹拌し、オイルを溶解した。吸引ろ過して、アセトニトリル10mlで洗い込み、ろ液と洗液を300mlナスフラスコに受けた。エバポレーターで減圧濃縮し、オイル30.40gを得た。オイルにアセトニトリル30mlを加えて溶かし、四級塩溶液とした。
【0124】
200ml四つ口フラスコに、無水酢酸60.5ml、原料4を12.1g(54.3mmol)を仕込み、室温撹拌下、四級塩溶液を滴下し、アセトニトリル10mlで洗い込んだ後、水浴60℃で1時間加熱撹拌した。1Lビーカーにイソプロピルエーテル422mlを仕込み、室温撹拌しながら反応液を注ぎ入れた。10分間室温撹拌後、10分間静置して、上清をデカントした。残渣にイソプロピルエーテル200ml加え、同様のデカント操作を繰り返した。
【0125】
残渣にアセトニトリル30mlを加え、室温撹拌下、アニリン5.7ml(62.7mmol)を滴下し、さらに室温で50分間撹拌した。室温撹拌下、反応液に酢酸エチル120mlを加え、晶析させた。酢酸エチル60mlを加え、1時間室温撹拌し、さらに酢酸エチル60mlを加えて、10分間室温撹拌した。結晶をろ取し、酢酸エチル60mlで洗浄し、結晶を得た。
粗結晶をエタノール200ml中で、30分間室温撹拌、分散した。結晶をろ取し、エタノール70mlで洗浄後、60℃で一晩乾燥した。得られた原料6の収量は12.42g、収率58.2%、LC85.9%であった。
【0126】
【0127】
200ml四つ口フラスコに原料5を6.3g(12.5mmol)、原料6を7.0g(13.7mmol)、メタノール63mlを仕込み、室温撹拌下、無水酢酸2.4ml(24.9mmol)を一度に加え、トリエチルアミン6.9ml(49.8mmol)を滴下した。水浴60℃で4時間加熱撹拌した。さらに、無水酢酸ナトリウム3.07g(37.4mmol)/メタノール37ml溶液を滴下後、10分間同温で加熱撹拌した。水浴60℃加熱撹拌下、2-プロパノール240mlを滴下し、晶析させた。水冷30分間撹拌後、結晶をろ取し、2-プロパノール70ml、アセトン50mlで洗浄した。
粗結晶をエタノール50ml中で、ソニケートした。結晶をろ取し、エタノール50mlで洗浄した。60℃で一晩乾燥した。得られた原料7の収量は8.40g、収率73.0%、LC86.7%であった。
【0128】
【0129】
200ml四つ口フラスコに水酸化ナトリウム0.38g(9.6mmol)、水36.5ml、原料7を7.3g(7.38mmol)を仕込み、水浴40℃で1時間加熱撹拌した。同温で加熱撹拌しながら、エタノール146mlを滴下し、晶析させた。30分間水冷撹拌し、氷冷下でさらに30分間撹拌した。結晶をろ取し、エタノール50mlで洗浄後、60℃で一晩乾燥し、粗結晶6.02gを得た。
粗結晶を水18mlとエタノール92mlの混液で再結晶した。結晶をろ取し、エタノール40ml、アセトン20mlで洗浄した。60℃で一晩減圧乾燥した。得られた原料8の収量は4.63g、収率63.8%、LC94.4%であった。
【0130】
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6) δ=8.93(d,J=2.0Hz,1H),8.45(t,J=13.2Hz,1H),8.32(t,J=12.9Hz,1H),8.19(d,J=8.4Hz,1H),8.17(s,1H),7.87(d,J=9.0Hz,1H),7.71(s,1H),7.59(d,J=8.1Hz,1H),7.17(d,J=8.4Hz,1H),6.58(t,J=12.4Hz,1H),6.45(d,J=13.9Hz,1H),6.11(d,J=13.7Hz,1H),4.30(br,2H),3.97(br,2H),2.57(t,J=6.8Hz,2H),2.15(s,6H),1.90(t,J=7.2Hz,2H),1.86-1.80(m,4H),1.67(s,6H),1.56-1.46(m,J=7.8Hz,2H),1.39-1.30(m,2H)
【0131】
【0132】
50mlナスフラスコに原料8を1.445g(1.47mmol)、DMSO7.2mlを仕込み、室温撹拌しながら、HSTU 0.55g(1.54mmol)、トリエチルアミン41μl(0.294mmol)を加え、30分間室温撹拌した。HSTU0.11g(0.294mmol)を追加し、30分間室温撹拌した。吸引ろ過し、DMSO1mlで洗い込んだ。300mlナスフラスコにアセトン82mlを仕込み、室温で撹拌しながら、ろ過した反応液を滴下して、結晶化した。30分間室温撹拌し、分散した後、結晶をろ取し、アセトン20mlで洗浄した。デシケーターで一晩室温減圧乾燥し、粗結晶1.728gを得た。
粗結晶をエタノール17ml中、室温で30分間撹拌して、分散した。結晶をろ取し、エタノール10mlで洗浄した。結晶を一晩室温で減圧乾燥した。得られたシアニン系色素1の収量は1.507g、収率96.9%、LC82.6%であった。
【0133】
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6) δ=8.93(d,J=1.3Hz,1H),8.45(t,J=13.1Hz,1H),8.32(t,J=13.4Hz,1H),8.20-8.17(m,2H),7.87(d,J=9.2Hz,1H),7.70(s,1H),7.57(d,J=8.1Hz,1H),7.17(d,J=8.4Hz,1H),6.57(t,J=12.3Hz,1H),6.43(d,J=14.5Hz,1H),6.12(d,J=13.4Hz,1H),4.31(br,2H),3.99(br,2H),2.82(s,4H),2.69(t,J=7.1Hz,2H),2.57-2.52(m,2H),2.15(s,6H),1.82(br,4H),1.73-1.67(m,4H),1.67(s,6H),1.52-1.45(m,2H)
【0134】
<実施例2:シアニン系色素2の合成>
[原料9の合成]
【化16】
【0135】
100ml四つ口フラスコに2-メチルアセト酢酸エチル10g(69.4mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド20mlを仕込み、10℃以下に冷却、撹拌下、水素化ナトリウム(60%オイル分散品)2.77g(69.3mmol)を少しずつ、内温15℃以下で加えた。30分間室温で撹拌した後、6-ブロモヘキサン酸エチル15.5g(69.5mmol)を15℃以下で加えた後、油浴80℃で1時間加熱撹拌した。室温まで放冷し、イソプロピルエーテル30mlと1N塩酸30ml加え、分液精製した。有機相を飽和食塩水30mlで洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。エバポレーターで溶媒を減圧留去し、粗オイル20.0gを得た。減圧蒸留(4mmHg,b.p.100~140℃)し、オイル(原料9)を得た。得られた原料9の収量は16.9g、収率85.1%であった。
【0136】
【0137】
500ml四つ口フラスコに、原料9を16.6g(58.0mmol)、25%水酸化ナトリウム水溶液36ml(290mmol)、メタノール116mlを仕込み、油浴60℃で2時間加熱撹拌した。40℃まで冷却し、3N塩酸145ml(435mmol)を5分間で滴下した。15分間撹拌した後、イソプロピルエーテル140mlを加え、分液精製した。有機相を飽和食塩水70mlで洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。エバポレーターで減圧留去し、9.24gの粗オイルを得た。減圧蒸留(4mmHg,b.p.110~145℃)し、オイル(原料10)を得た。得られた原料10の収量は7.0g、収率64.8%であった。
【0138】
【0139】
200ml四つ口フラスコに4-ヒドラジノベンゼンスルホン酸8.5g(45.2mmol)、原料10 7.0g(37.0mmol)、酢酸35mlを仕込み、油浴130℃で1時間加熱撹拌した。
エバポレーターで減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、固形物(原料11)を得た。得られた原料11の収量は12.6g、収率98.8%、LC79.0%であった。
【0140】
【0141】
100mlナスフラスコに原料11 10g(29.5mmol)、無水酢酸ナトリウム2.9g(35.6mmol)、メタノール100mlを仕込み、水浴60℃で、加熱撹拌し、完溶させた。エバポレーターで減圧留去し、固形物(原料12)を得た。得られた原料12の収量は12.3g、収率100%、LC79.5%であった。
【0142】
【0143】
100mlナスフラスコに、原料12を6.5g(18.0mmol)、1,4-ブタンサルトン12.2g(89.9mmol)、スルホラン6.5mlを仕込み、油浴140℃で5時間加熱撹拌した。60℃まで冷やし、イソプロピルエーテル50mlを加え、15分間撹拌し、上清をデカントした。
残渣に原料4を3.7g(16.6mmol)、無水酢酸11.1mlを加え、室温で15分間撹拌後、水浴60℃で1時間加熱撹拌した。アセトン150ml加え、室温で15分間撹拌後、上清をデカントした。
【0144】
残渣にメタノール30mlを加え、水浴60℃で加熱撹拌、完溶させた。室温撹拌下、アニリン3.3ml(36.1mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。500mlビーカーに2-プロパノール300mlを仕込み、室温撹拌下、反応液を滴下し晶析させた。15分間室温撹拌後、結晶をろ取し、2-プロパノール20mlで洗浄した。200ml四つ口フラスコに、ろ取物とエタノール50mlを仕込み、水浴50℃で10分間撹拌、分散した。結晶をろ取し、エタノール10mlで洗い、60℃で一晩乾燥して、粗結晶7.26gを得た。
シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、結晶(原料13)を得た。得られた原料13の収量は3.0g、収率21.9%、LC79.8%であった。
【0145】
【0146】
100ml四つ口フラスコに原料13を2.0g(2.62mmol)、原料5 1.5g(2.96mmol)、メタノール20ml、無水酢酸0.5ml(5.24mmol)を仕込み、室温撹拌下、トリエチルアミン1.83ml(13.1mmol)を加えた。水浴60℃で1時間加熱撹拌した。無水酢酸ナトリウム1.3g(15.7mmol)/メタノール13ml溶液を加え、同温で30分間加熱撹拌した。エタノール20mlを加え、室温まで冷やし、析出した結晶をろ取し、メタノール/エタノール=1/1(v/v%)2mlで洗浄した。
粗結晶を水4mlとエタノール20mlの混液で再結晶し、結晶をろ取、エタノール2mlで洗浄した。同様の再結晶操作をさらに9回繰り返した後、結晶を60℃乾燥した。得られた原料14の収量は1.36g、収率41.1%、LC88.8%であった。
【0147】
【0148】
20mlナスフラスコに原料14を1.50g(1.19mmol)、メタノール15ml、25%水酸化ナトリウム水溶液2.8ml(3.56mmol)、純水5.6mlを仕込み、水浴60℃で1時間加熱撹拌した。エタノール25ml加え、室温放冷し、析出した結晶をろ取し、メタノール/エタノール=1/1(v/v%)10mlで洗浄した。
粗結晶を水4mlとエタノール20mlの混液で再結晶し、結晶をろ取、エタノール2mlで洗浄した。同様の再結晶操作を繰り返し、結晶を60℃で乾燥した。得られた原料15の収量は0.40g、収率29.9%、LC39.1%であった。
【0149】
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6) δ=8.92(d,J=1.8Hz,1H),8.43(t,J=13.0Hz,1H),8.29(t,J=13.0Hz,1H),8.17(d,J=8.2Hz,1H),8.16(s,1H),7.86(d,J=8.8Hz,1H),7.64(s,1H),7.57(d,J=8.1Hz,1H),7.20(d,J=8.1Hz,1H),6.59(t,J=12.3Hz,1H),6.43(d,J=14.1Hz,1H),6.21(d,J=13.4Hz,1H),4.30(br,2H),3.98(br,2H),2.40(br,4H),2.14(s,3H),2.13(s,3H),2.11(br,2H),1.82(br,2H),1.73(br,4H),1.64(s,3H),1.55(br,4H),1.35(br,2H),1.30-1.40(m,2H),0.81(br,1H),0.50(br,1H)
【0150】
【0151】
10mlナスフラスコに、原料15を350mg(310μmol)、DMSO 28ml、HSTU 334mg(930μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン0.21ml(1240μmol)を仕込み、室温で5時間撹拌した。HSTU 111mg(310μmol)を追加し、さらに1時間室温撹拌した。酢酸エチル42ml、イソプロピルエーテル14mlを順に加え、室温で30分間撹拌した。析出した結晶をろ取、酢酸エチル10mlで洗浄した。
粗結晶をTHF20mlとともに1時間室温で撹拌、分散した。結晶をろ取し、THF 5mlで洗浄し、デシケーターで減圧乾燥した。得られたシアニン系色素2の収量は0.224g、収率60.0%、LC55.8%であった。
【0152】
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6)にて、原料15由来のピークに加え、スクシンイミド由来のピーク(δ=2.77(s,4H))を確認した。
【0153】
<比較例1:シアニン系色素3の合成>
[原料16の合成]
【化24】
【0154】
100ml四つ口フラスコに2,3,3-トリメチル―5-スルホインドレニン5.0g(20.9mmol)、1,4-ブタンサルトン4.27g(31.3mmol)、m-クレゾール2.5ml、N,N-ジイソプロピルエチルアミン3.6ml(20.9mmol)を仕込み、油浴130℃で7時間加熱撹拌した。室温放冷し酢酸エチル25ml-水25mlに溶解し、分液精製した。水相に酢酸エチル25mlを加え再度抽出した後、水相に硫酸1.02gを加え、さらに酢酸エチル25mlで抽出した。200mlナスフラスコに水相を移し、エバポレーターで減圧濃縮した。残渣にアセトニトリル25mlを加えてエバポレーターで減圧濃縮する操作を3回繰り返し、粗結晶を得た。
粗結晶をアセトニトリル25ml中、油浴110℃で30分間加熱撹拌し、結晶を分散した。結晶をろ取し、アセトニトリル20mlで洗浄し、60℃で一晩乾燥した。得られた原料16の収量は5.61g、収率71.5%、LC95.0%であった。
【0155】
【0156】
300ml四つ口フラスコに1,1,2-トリメチルベンゾ[e]インドレニン18.0g(86.0mmol)、5-ブロモ吉草酸15.6g(86.0mmol)を仕込み、油浴110℃で6時間加熱撹拌した。クロロホルム144mlを注ぎ入れ、加熱還流下、30分間分散した。水冷した後、結晶をろ取し、クロロホルム40mlで洗浄し、60℃で一晩乾燥させた。得られた原料17の収量は10.37g、収率30.9%、LC96.8%であった。
【0157】
【0158】
200ml四つ口フラスコに原料4を7.26g(32.7mmol)、無水酢酸36.3mlを仕込み、油浴60℃で加熱撹拌下、原料17を8.5g(21.8mmol)を加えた後、同温で2.5時間加熱撹拌した。室温放冷し、イソプロピルエーテル128ml加え、室温で30分間撹拌した後、デカントして上清を除いた。残渣に酢酸エチル128mlを加え。室温15分間撹拌し、デカントして上清を除く操作を2回繰り返した。アセトン42.5ml加え、水浴50℃で加熱撹拌、溶解した。500ml四つ口フラスコに酢酸エチル340mlを仕込み、室温撹拌下、アセトン溶液を滴下し、晶析させた。水浴50℃で15分間加熱撹拌した後、水冷し、デカントして上清を除いた。酢酸エチル255ml加え、水浴50℃で30分間加熱撹拌、分散した。結晶をろ取し、酢酸エチル50mlで洗浄し、粗結晶を得た。
粗結晶を酢酸エチル255ml中、水浴50℃で30分間加熱撹拌、分散した。結晶をろ取し、酢酸エチル40mlで洗浄した。さらに、同様の操作を繰り返し、精製を行った後、結晶を60℃で一晩乾燥させた。得られた原料18の収量は8.43g、収率68.9%、LC77.2%であった。
【0159】
【0160】
500ml四つ口フラスコに原料18を7.09g(12.6mmol)、原料16を4.74g(12.6mmol)、アセトニトリル35.5mlを仕込んだ。室温撹拌下、無水酢酸1.2ml(12.6mmol)を滴下し、さらにトリエチルアミン5.3ml(37.8mmol)を滴下後、水浴60℃で3時間加熱撹拌した。アセトン178mlを加え、室温で15分間撹拌した後、デカントして上清を除いた。同様の操作をさらにもう1回繰り返した。
残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。メインフラクション回収物をアセトン139ml中、水浴60℃で30分間加熱撹拌、分散した。結晶をろ取し、アセトン50mlで洗浄した後、60℃で一晩乾燥させた。得られた原料19の収量は5.17g、収率56.8%、LC84.0%であった。
【0161】
【0162】
100mナスフラスコに原料19を1.6g(2.22mmol)、HSTU 0.80g(2.22mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド16mlを仕込み、室温撹拌下、トリエチルアミン0.31ml(2.22mmol)加え、1.5時間室温撹拌した。HSTU 0.20g(0.557mmol)を追加し、室温で40分間撹拌した。
さらに、1-アミノ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサヘンイコサン-21-酸(以下、アミノ-PEG6-カルボン酸)0.86g(2.44mmol)を加え、室温1.5時間撹拌後、アミノ-PEG6-カルボン酸0.04g(0.113mmol)追加し、室温30分間撹拌した。アセトン96mlを200mlビーカーに仕込み、室温撹拌下、反応液を滴下し、晶析させた。アセトン64ml加え、室温30分間撹拌し、分散した。ろ取、アセトン20mlで洗浄した。結晶をアセトン50ml中で室温20分間撹拌、分散した。ろ取、アセトン20mlで洗浄し、粗結晶を得た。
粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。メインフラクション回収物にアセトンを加えて結晶をろ取し、60℃で一晩乾燥させた。得られた原料20の収量は0.42g、収率17.9%、LC98.9%であった。
【0163】
1H-NMR(300MHz,DMSO)δ=8.46(t,J=12.9Hz,1H),8.35(t,J=12.9Hz,1H),8.24(d,J=8.2Hz,1H),8.09-8.04(m,2H),7.96(t,J=5.4Hz,1H),7.80-7.61(m,4H),7.51(t,J=7.7Hz,1H),7.34(d,J=8.6Hz,1H),6.63(t,J=11.9Hz,1H),6.41(d,J=13.8Hz,1H),6.36(d,J=13.8Hz,1H),4.25(br,2H),4.07(br,2H),3.68-3.16(m,24H),3.20-3.14(m,2H),2.52-2.49(br,2H),2.22(t,J=7.1Hz,2H),2.13(t,J=7.8Hz,2Hz),1.95(s,6H),1.81-1.62(br,8H),1.70(s,6H)
【0164】
【0165】
25mlナスフラスコに原料20を420mg(398μmol)、HSTU 157mg(437μmol)、N,N-ジメチルホルムアミド4.2mlを仕込み、室温撹拌下、トリエチルアミン61μl(437μmol)を加え、1時間室温撹拌した。HSTU 50mg(139μmol)、トリエチルアミン19μl(139μmol)を追加し、室温30分間撹拌した。HSTU 50mg(139μmol)、トリエチルアミン19μl(139μmol)を追加し、室温1.5時間撹拌した。さらに、HSTU 29mg(79.5μmol)、トリエチルアミン11μl(79.5μmol)を追加し、室温1.5時間撹拌した。50mlナスフラスコに酢酸エチル21ml仕込み、室温撹拌下、反応液を滴下し、晶析させた。室温で15分間撹拌し、分散後、ろ取し、酢酸エチル15mlで洗浄した。
2mlエッペンドルフチューブ2本に結晶を分けて入れ、酢酸エチルを加え、ソニケートした。遠沈(10,000rpm、5分間)して結晶を集め、上清をデカントで除いた。同様の操作を2回繰り返し、さらに洗い溶媒をイソプロピルエーテルに変え、同様の操作を3回繰り返した。デシケーター中、室温で8時間減圧乾燥した。得られたシアニン系色素3の収量は0.384g、収率83.7%、LC78.9%であった。
【0166】
1H-NMR(300MHz,DMSO)δ=8.46(t,J=13.1Hz,1H),8.36(t,J=12.9Hz,1H),8.25(d,J=8.4Hz,1H),8.10-8.05(m,2H),7.89(t,J=6.0Hz,1H),7.80-7.62(m,4H),7.52(t,J=7.5Hz,1H),7.34(d,J=8.4Hz,1H),6.62(t,J=12.3Hz,1H),6.41(d,J=13.9Hz,1H),6.36(d,J=13.9Hz,1H),4.25(br,2H),4.09(br,2H),3.70(t,J=5.9Hz,2H),3.50-3.44(m,20H),3.36-3.31(br,2H),3.17(m,2H),2.91(t,J=5.5Hz,2H),2.80(s,4H),2.52-2.49(br,2H),2.15(t,J=6.8Hz,2H),1.95(s,6H),1.80-1.67(br,8H),1.71(s,6H)
【0167】
<比較例2>
Lumiprobe社製Sulfo-Cyanine5(スルホシアニン5 NHSエステル、CAS RN
(R) 2230212-27-6)
【化30】
【0168】
<比較例3>
Biotium社製CF660C(CAS RN(登録商標) 1164239-25-1)
【0169】
CF660Cの構造は、NMR(核磁気共鳴)およびLC/MS(液体クロマトグラフィー質量分析計)の測定結果から[化31]の構造を推定した。
NMRは、ECZ400(JEOL resonance社製)を用いて、試料を重メタノール(CD3OD)に溶解し測定を行った。LC/MSは、Ultimate3000/Q Exactive (サーモフィッシャー社製)を使用し、Inert Sustain Swift C8(2.1×30mm)(GLサイエンス社製)カラムと移動相として0.01M酢酸アンモニウムバッファーおよびメタノールを用いて測定を行った。
【化31】
【0170】
1.吸収極大波長および蛍光極大波長の測定
上記準備したシアニン系色素1~2の蛍光極大波長は、HITACHI製蛍光分光光度計F7100を用いて測定を行った。PBS溶液中に色素を1μMの濃度になるように調整した。シアニン系色素1、2、3、5については660nmの励起波長を用いて、シアニン系色素4については640nmの励起波長を用いて、600~800nmをスキャンし、蛍光強度が最大であった波長を蛍光極大波長とした。吸収極大波長は色素濃度が10~40μMになるように調整し、HITACHI製分光光度計U-0080Dを用いて200~800nmの範囲をスキャンし、吸収極大波長を測定した。その結果を、表10に示す。
【0171】
2.標識試薬の調製
<標識試薬1~5の調製>
シアニン系色素をWFA(Wisteria Floribunda Lectin)溶液に添加し、室温で1時間反応させた。反応後、遠心式限外ろ過(Millipore社製)により精製し、次いで、GE Healthcare社製Superdex(商標)200 Increaseカラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーで精製し、蛍光色素標識WFA溶液を得た。
【0172】
3.SPFSを利用した測定および評価
<試験1~5>
(検出チップの準備)
図3に示される構成の検出チップ300を準備した。流路320内に露出している金(Au)薄膜(金属膜120)の特定の領域(反応部)に、抗PSA-Gi抗体を固定化した。
【0173】
(本測定)
1)0.5ng/mLのPSA-Giを含む検体を、ピペットチップにより、上記検出チップ300の液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(1次反応)。液体注入部330から流路320内の検体を除去した後、流路320内を洗浄液で1回洗浄した。
2)次いで、表1に示される標識試薬(表1で示されるシアニン系色素で標識されたWFA)を、液体注入部330から流路320内に導入し、往復送液させた(2次反応)。液体注入部330から流路320内の標識試薬を除去した後、流路320内を洗浄液で3回洗浄した。
3)そして、この状態で、SPFSにより蛍光値を測定した。すなわち、金属膜120に対する励起光の入射角が増強角となるようにプリズム110側から金属膜120に励起光(レーザー光)を照射し、そのときに放出される蛍光を検出し、シグナル値Sを得た。
【0174】
(ブランク測定)
上記1)の工程で、PSA-Giを含む検体に代えて、1質量%のBSA溶液をブランクサンプルとして用いた以外は上記と同様の測定を行い、シグナル値Nを得た。
【0175】
(評価)
得られたシグナル値Sをシグナル値Nで割って、S/N比を算出した。そして、検出感度を、以下の基準で評価した。
〇:S/N比が100以上
△:S/N比が30以上100未満
×:S/N比が30未満
【0176】
測定結果を、表10に示す。
【0177】
【0178】
表10に示されるように、式(1)で表される構造を有し、親水性基の数が4以上であるシアニン系色素(実施例1および実施例2)を用いた場合、S/N比が高く、感度が良好であることがわかる。
【0179】
これに対し、親水性基の数が4未満であるシアニン系色素(比較例1、2および3)を用いた場合、S/N比は低く、感度が低いことがわかる。
本発明によれば、SPFSを利用した検出方法に有用なシアニン系色素であって、消光が少なく、十分な検出感度が得られるシアニン系色素および検出方法を提供することができる。