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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053361
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】加工芋の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/10 20160101AFI20220329BHJP
   C12H 6/02 20190101ALI20220329BHJP
   A23B 7/045 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A23L19/10
C12H6/02
A23B7/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160157
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】591155242
【氏名又は名称】鹿児島県
(72)【発明者】
【氏名】冨吉 彩加
(72)【発明者】
【氏名】安藤 義則
(72)【発明者】
【氏名】亀澤 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 眞治
【テーマコード(参考)】
4B016
4B115
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC06
4B016LG06
4B016LP11
4B115NB01
4B115NG10
4B115NP01
4B169CA05
4B169CA08
4B169HA05
(57)【要約】
【課題】冷凍方法及び加熱方法を工夫することにより、生芋を使用した加工芋と同等の品質を有する、冷凍芋を使用した加工芋の製造方法を提供するものである。本発明では芋本来の香りが損なわれることがないよう加熱を1回のみにする。
【解決手段】
生芋類を保存後、加工芋とする加工芋製造方法であって、生芋類を冷凍する生芋冷凍工程と、前記生芋冷凍工程で冷凍させた冷凍生芋を冷凍保存する冷凍生芋保存工程と、前記冷凍生芋保存工程で冷凍保存した冷凍生芋を加熱する冷凍生芋加熱工程と、を含むことを特徴とする加工芋の製造方法とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生芋類を保存後、加工芋とする加工芋製造方法であって、
生芋類を冷凍する生芋冷凍工程と、
前記生芋冷凍工程で冷凍させた冷凍生芋を冷凍保存する冷凍生芋保存工程と、
前記冷凍生芋保存工程で冷凍保存した冷凍生芋を加熱する冷凍生芋加熱工程と、
を含むことを特徴とする加工芋の製造方法。
【請求項2】
前記生芋冷凍工程は、前記生芋類を冷凍する際の外気温度設定において、前記生芋類の温度が15℃から-5℃になるまでの温度変化を24時間以内に行うことを特徴とする請求項1記載の加工芋の製造方法。
【請求項3】
前記冷凍生芋保存工程において、前記外気温度設定を-5℃から-50℃の間の所定の温度で前記冷凍生芋を保存することを特徴とする請求項1又は2に記載の加工芋の製造方法。
【請求項4】
前記生芋冷凍工程は外気温度設定を、一旦目的とする保存温度よりも低い温度にした後に、前記保存温度で冷凍生芋を保存することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の加工芋の製造方法。
【請求項5】
前記冷凍生芋加熱工程は、前記冷凍生芋類を加熱する処理を、60℃から100℃の温水によって加熱する、または蒸煮で加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の加工芋の製造方法。
【請求項6】
前記生芋類が、サツマイモであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の加工芋の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の製造方法によって製造された加工芋を原料として作られた飲食加工品。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の製造方法によって製造された加工芋を原料として作られた芋焼酎。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芋類を冷凍保存して加工芋として利用する際に芋類の品質を保持し、かつ簡便に加工することができる加工芋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芋類は穀物と比べると水分量が多く腐りやすいため、長期間保存するためには温度を厳密に管理しなければならない。例えば、芋類のなかで広く親しまれているサツマイモは、熱帯性の作物で寒さに弱いため、10℃から-1℃で長期保存すると低温障害が生じて腐敗する。また、20℃以上で保存すると出芽してしまうことから、サツマイモの保存は15℃前後で行うのが好ましいとされる。貯蔵に適した温度は芋の種類によってそれぞれ異なるが、適切な環境であれば腐敗や発芽を抑えて保存することが可能である。しかし、保存に適した環境であっても徐々に劣化は進むため、掘り取り直後の品質を長く保つために、冷凍保存が行われることが多い。
【0003】
現在、サツマイモをはじめとする芋類を冷凍保存する場合は、掘り取った芋を洗浄、選別し、不良部分を切除する。その後、冷凍の前処理として加熱が行われる。この加熱操作は、芋の変質の原因となる酵素を失活させるとともに、デンプン粒に水分を含ませ糊化状態にすることによって解凍時のドリップの発生を抑えるために行われる。また、加熱以外の前処理方法としては、冷凍時間を短縮するため芋を細断したり、破断強度の向上効果や褐変防止効果を得るために溶液への浸漬が行われたりすることもある(特許文献1参照)。
【0004】
上に述べた前処理のうち、加熱処理は保存中の変質が特に少なく、簡易な方法であることから広く行われている。ただし、加熱後冷凍した芋すなわち冷凍芋を自然解凍したものはパサついて食感が損なわれるため、通常は冷凍芋を使用する際に再加熱を行い解凍することでパサつきを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-124911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、冷凍芋を使用する場合には、冷凍保存前と使用の際との計2回の加熱が必要であり、加熱を繰り返すことで芋本来の香り等の品質が損なわれる問題があった。そのため、冷凍した芋であっても生芋を使用する場合と同様に加熱処理を1度だけにすることが求められていた。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、生芋を使用した加工芋と同等の品質を有する、冷凍芋を使用した加工芋の製造方法を提供するものである。本発明では芋本来の香りが損なわれることがないよう加熱を1回のみにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の1又はそれ以上の実施形態は、芋類を冷凍保存し、該芋類の使用時に加熱調理して加工芋とする加工芋の製造方法であって、前記冷凍保存する芋類は生芋類であり、該生芋類を冷凍する生芋冷凍工程を含むことを特徴とする。これによって、芋を冷凍保存する前の加熱を省略することができる。
【0009】
(2)前記生芋冷凍工程は、前記生芋類を冷凍する際に前記生芋類の温度が15℃から-5℃になるまでの温度変化を24時間以内に行うことを特徴とする。これによって、低温障害をおこさずに生芋を冷凍保存することができる。
【0010】
(3)前記生芋冷凍工程で冷凍させた生芋を冷凍保存する冷凍生芋保存工程において外気温度が-5℃から-50℃の間で冷凍生芋を保存することを特徴とする。これによって、冷凍保存中の微生物の活動を抑え、保存中の芋の品質低下を防ぐことができる。
【0011】
(4)前記生芋冷凍工程は外気温度設定を一旦目的温度よりも低い温度にした後に、前記保存温度で冷凍生芋を保存することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の加工芋の製造方法である。これによって、冷凍に要する時間を短縮することができ、作業効率が向上する。
【0012】
(5)前記冷凍生芋加熱工程は、前記冷凍生芋類を加熱する処理を、60℃から100℃の温水によって加熱する、または蒸煮で加熱することを特徴とする。これによって、解凍によっておこる褐変やドリップの発生といった品質の低下を防ぐことができる。
【0013】
上記(1)乃至(5)に記載の製造方法によって製造された加工芋を原料として作られた飲食加工品。
【0014】
本発明により、冷凍のため加熱などの前処理を行わずに芋類を冷凍保存することが可能となる。また、加熱が1回になることで、芋本来の香りが損なわれることを防ぐことができる。当該方法で得られた芋は焼酎をはじめとする各種飲食品の加工原料として用いることができる。また、当該方法で得られた芋すなわち冷凍生芋を、焼酎をはじめとする各種飲食品の加工原料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)本発明の実施形態おける加工芋の製造方法を表すフロー図である。(B)従来の冷凍芋の製造方法を表すフロー図である。
図2】本発明で得られた冷凍生芋、冷凍芋、及び生芋を用いて製造した焼酎の一般香気成分の比を表す図である。
図3】本発明で得られた冷凍生芋、冷凍芋、及び生芋を用いて製造した焼酎の微量香気成分の比を表す図である。
図4】冷凍生芋で蒸煮開始前の芋を加熱したものと室温で保存した生芋について蒸煮中の温度と時間の推移を示した図である。
図5】加工芋の破断応力最大荷重を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、芋類の冷凍、保存、加熱解凍の3工程からなるものである。以下、各工程について図1を用いて詳細を述べる。
【0017】
芋類は米や麦などの穀類とは異なり、水分を多く含み腐りやすいため長期保存する場合には温度及び湿度を管理する必要がある。しかし適切に温度と湿度を管理した場合でも、徐々に品質は変化する。そのため保存中の品質変化を防ぐ方法として、芋類を加熱後に冷凍保存することが広く行われている。これは一度加熱を行うことによって、品質の変化に関与する酵素を失活させるためである。特に熱帯地方を原産とする芋類においては、低温障害を招く酵素を失活させるという意味合いもある。一方、本発明では冷凍によって酵素反応を停止させることができるため、保存前の加熱処理を必要としない。
【0018】
始めに、収穫された芋類(以下、生芋類という)を洗浄後、両端や傷み部分を切除する。このとき、解凍時のドリップの発生を防ぐために両端や傷み部分以外はなるべくカット処理を行わないことが望ましいが、加熱工程において均一に加熱できるよう大きさを揃えるためにカット処理を行ってもよい。この工程は従来の冷凍芋を作る場合にも同様に行われる。
【0019】
本発明において生芋類を冷凍する工程であるST1の生芋冷凍工程では芋の中心部の温度が15℃から-5℃の温度帯を24時間以内で通過するようにする。貯蔵の適温とされる15℃を下回り、なおかつ完全に冷凍されていない状態が長時間続くと保存性が損なわれるためである。特に、10℃から-5℃の範囲は9時間以内で通過させることとする。10℃から-1℃は芋が低温障害を受ける温度帯である。加えて0℃から-5℃は細胞内の水が凍る温度帯であり、この温度帯をゆっくり通過させると氷の粒が成長して細胞が破壊されるため、解凍時にドリップが発生しやすくなる。低温障害と氷の粒の成長を防ぐため、上記の時間で温度を降下させることが重要である。
【0020】
冷凍する方法として、急速冷凍と緩慢冷凍とがあるがどちらを用いても良い。-1℃から-5℃の温度帯を30分以内に通過させる冷凍方法は、一般的に急速冷凍と呼ばれる。この急速冷凍には液体窒素やブライン液などの冷媒を用いる方法や、冷凍能力の高い冷凍庫を用いる方法がある。実際に芋類を急速冷凍する場合を考えると、液体窒素の利用はコストが高くなるため工業的な利用には適さない。また、ブライン液は食塩水であり、芋類に付着あるいは浸透した食塩が解凍後の味に影響するという問題がある。そのため本発明において急速冷凍を行う場合、冷却能力の高い冷凍庫を使用することが好ましい。
【0021】
また、30分以上かけて冷凍する場合を一般的に緩慢冷凍と呼ぶが、芋類を緩慢冷凍した場合、あまりに長い時間をかけて温度を降下させると細胞膜構造の変化により傷みが生じ、品質低下を引き起こす。緩慢冷凍による品質低下を最小限に抑え、良好な作業性を得るためには8時間以内に芋の内部温度を-5℃以下にすることが望ましい。8時間を越えた場合でも24時間以内に冷凍させれば細胞膜構造にほとんど影響を与えないが、24時間を越えると品質低下を招く恐れがある。特に、48時間以上かけての冷凍は著しい品質低下を招く恐れがあるため避けることが望ましい。
【0022】
ST2の冷凍生芋保存工程においては、冷凍生芋工程で作成した冷凍生芋を外気温度設定-5℃から-50℃として保存する。家庭用冷凍庫の設定温度は-18℃が一般的である。また業務用冷凍庫は設定温度が-20℃から-30℃のものが多いが、-50℃に設定できるものもある。これらのことから、本発明の利用においては冷凍庫内の外気温度-18℃から-50℃を想定している。また、冷凍の際に、目的とする保存温度以下まで一旦冷却した後に、適切な保存温度に移し替えてもよい。この場合の保存温度も-5℃から-50℃が好ましく、さらに好ましくは-18℃から-50℃の範囲である。
【0023】
例えば、外気温度-80℃の冷凍庫で急速に芋類の冷凍を行うことで凍るまでの時間を短縮し、完全に凍ってからは外気温度-20℃の保存用冷凍庫に移すことが可能である。このとき-80℃で保存し続けることはコストが高くなることから避けることが望ましい。加えて、-50℃以下での長期保存は、コスト面だけではなく加熱解凍後の芋類の物性に影響を与えるため好ましくない。さらに、細胞中の水分のほとんどが氷となる-5℃で保存してもよいが、-18℃よりも高い温度での長期保存については、雑菌の活動を十分に抑制することができずに品質低下を招く恐れがある。そのため、-5℃から-18℃の温度帯での保存は、加熱時にかかるコストを軽減するための一時的なものとして行われることが望ましい。よって、一旦-50℃以下にした後に-5℃から-50℃で保存することが望ましく、長期保存する場合には-18℃から-50℃で保存することがより望ましい。
【0024】
冷凍生芋の保存期間は最長でも6か月程度が好ましい。冷凍保存を長期間行うと、冷凍生芋が乾燥し加工芋としたときのパサつきの原因となる。
【0025】
ST3の冷凍生芋加熱工程においては、冷凍生芋を60℃から100℃の温水、または蒸煮によって加熱する。このとき、冷凍生芋の自然解凍や流水解凍を行わず、冷凍設備から取り出した直後に加熱解凍されることが望ましい。自然解凍や流水解凍後に加熱を行うと、芋の褐変や異臭が発生する。これは、解凍時に10℃から-1℃の温度帯を芋が通過したことで、褐変に関係する酵素や分解酵素の活性が増加するが、時間をかけて解凍した場合にこれらの酵素が働く時間を与えてしまうことが原因である。急速な加熱によってこれらの酵素が働く前に失活させることで、褐変や異臭の発生といった変質を防ぐことができる。
【0026】
冷凍保存した芋類の変質を防ぐために、具体的には解凍の際は芋内部の温度を-5℃から85℃まで30分から120分の範囲で昇温させるように加熱解凍することが望ましい。特に、-5℃から60℃の温度帯を20分から80分の範囲で昇温させると、酵素の働きで変質が起こる前に、酵素を失活させることができる。また、60℃まで温度を上げると、芋類のデンプンが糊化して細胞内に水分を留めることができるので、ドリップが抑えられ、芋のパサつきを防ぐことが可能である。-5℃から85℃までは連続的に昇温させることが望ましいが、-5℃から60℃まで昇温させた後、芋類を一度取り出して別の方法あるいは同じ方法で加熱し85℃まで昇温してもよい。
【0027】
加熱方法には様々な方法があり、一般的には蒸煮、煮沸、焼く、炙る、揚げる、電子レンジの利用が行われる。また、工業的には電気加熱や光加熱があり、電気加熱では抵抗加熱、誘電加熱、アーク加熱といった方法、光加熱では赤外線ヒーター、ハロゲンヒーターを用いる方法がある。その他の加熱方法として熱風をあてる方法もある。
【0028】
本発明においては、上で述べた加熱方法のうち、簡易に実施でき、食品に対して利用することを考慮して、調理と同様に蒸煮、煮沸、焼く、炙る、揚げる、もしくは電子レンジ利用が好ましく、熱風をあてて加熱してもよい。ただし油で揚げる方法は、加熱後の芋類の加工方法が限定されてしまう。また、焼く、炙る、熱風をあてるといった方法は、加熱後の加工方法が大きく限定されないが、熱源と接する箇所以外は昇温速度が遅くなるという問題がある。以上のことより均一な加熱が可能であり、加熱後の加工方法が限定されることのない蒸煮や煮沸、あるいは電子レンジの利用が望ましい。また、解凍装置の種類についても特に限定されず、解凍槽を用いたバッチ式解凍、連続式解凍などを利用することができる。
【0029】
本発明の加熱後の芋類は、焼酎や、菓子や芋ペーストといった加工食品の原料として用いることができる。例えば焼酎の製造においては芋を冷凍する前の蒸煮処理を省くことができる。もちろん、加工を行わず加熱後の芋類をそのまま食してもよい。
【0030】
本発明による冷凍生芋の製造方法は、現行の冷凍芋製造工程から冷凍保存前の加熱処理や細断等の前処理工程を省略するものである。ここでいう前処理とは、冷凍中の変質を防ぐことを目的として行われる加熱、細断、溶液への浸漬等を指し、芋の洗浄、選別、不良部分の切除は含まない。
【0031】
本発明で保存することが可能な芋類は、特に制限がない。芋の種類はサツマイモをはじめとして、ジャガイモ、サトイモ、ヤマイモ、ヤムイモ、タロイモ、キャッサバ等が挙げられるが、なかでもデンプンを多く含み糊化により水分が保持されやすいサツマイモが好ましい。以下に述べる実施形態では、サツマイモを用いて説明を行うが本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0032】
これまで芋類を保存する際は、保存前と使用前の2回の加熱が必要であったが、本発明を実施することで、加熱を使用前の1回だけにすることが可能となる。また、この方法は芋類の香りの損失が抑えられ、多様な飲食品の原料として用いることができる。
【実施例0033】
〈実施例1〉
生芋を冷凍する際の温度を検討した。収穫直後のサツマイモを洗浄して不良部分をカットしたものを外気温度-20℃及び-80℃の冷凍庫内で静置して、冷凍生芋を作製した。サツマイモの品種はコガネセンガン、重量はおよそ200gから250gである。使用した冷蔵庫と保存温度は、ホシザキ製HF-63ST3を使用して-20℃、カノウ冷機製LAB21を使用して-80℃での冷凍を行った。
【0034】
サツマイモ内部の温度が15℃から-5℃に到達するまでに要した時間は外気温度-80℃のとき約25分間、外気温度-20℃のときは約330分間であった。サツマイモ内部の温度下降が止まったとき、外気温度-20℃で保存したサツマイモ内部の最低温度は-18℃、外気温度-80℃で保存したサツマイモ内部の最低温度は-67℃を示した。
【0035】
外気温度-20℃、外気温度-80℃で保存した冷凍生芋を冷凍庫から取り出して、解凍せずに家庭用蒸し器に投入し、外気温度100℃で1時間蒸煮した。蒸煮後のこれらのサツマイモについて香り、味、見た目を比較した官能検査の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
保冷温度-20℃、-80℃の両方とも蒸煮後のサツマイモの質が悪くなることはなく、生サツマイモを蒸煮した場合とほぼ変わらない香りおよび味を示した。ただし、保冷温度-80℃で保管したサツマイモは、中心部がやや白く硬くなる変化がみられたため、保冷温度-20℃のほうが冷凍生芋の製造により適していると判断した。
【0038】
〈実施例2〉
保存温度よりも低温で冷凍工程を実施し、十分に凍ってから目的の温度で保存することを検討した。生芋を外気温度-40℃で冷凍し、得られた冷凍生芋を外気温度-20℃の冷凍庫に移して保存したものを用意した。一週間保存した後に、蒸煮試験を実施して、外気温度-20℃で冷凍工程及び保存を行った冷凍生芋との比較を行った。このとき、どちらの冷凍生芋についても品質の差はほとんどみられなかった。冷凍工程を保存温度よりも低温で行うことは、冷凍生芋の作製にかかる時間を短縮して作業効率を向上させる方法として有効である。
【0039】
〈実施例3〉
冷凍生芋の解凍条件を検討した。収穫直後のサツマイモを洗浄して不良部分をカットしたもので冷凍生芋を作製した。使用したサツマイモの品種はコガネセンガン、重量は200g~250g、冷凍庫の設定温度は-20℃である。冷凍庫はホシザキ製HF-63ST3を使用した。この冷凍生芋を1か月経過後に取り出して凍ったまま家庭用蒸し器に投入し、外気温度100℃で1時間蒸煮した。また、解凍時間の長短による影響を比較するために冷凍生芋を自然解凍、流水解凍、温水解凍した。完全に解凍されたかどうかは、サツマイモに触れた感触によって判断した。解凍したこれらのサツマイモについても、解凍後に外気温度100℃で1時間の蒸煮を同様に行った。蒸煮後のサツマイモについて香り、見た目を比較した官能検査の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示したとおり、冷凍生芋を自然解凍、流水解凍後、50℃の温水解凍後に蒸煮すると、サツマイモに著しい褐変が確認されたうえ、サツマイモの香りが著しく悪くなる。温水解凍を行う場合には、60℃以上で加熱することで、デンプンが糊化して細胞内に水分を留めることができるので、ドリップの発生を防ぐことができる。80℃の温水で解凍した場合は甘い香りを有し、肉質にもほとんど影響することはなかった。また、100℃の沸騰水中で解凍後に蒸煮した場合には、甘い香りがするものの、果肉が硬くなった。直接蒸煮した場合には甘い香りを有し、肉質も生芋を蒸煮したときと同様であった。このことから、サツマイモの香り及び物性が最も好ましいものは、解凍工程を経ずに直接蒸煮を行ったときであった。
【0042】
〈実施例4〉
実施例1及び3の結果を踏まえて、冷凍芋を用いた焼酎の製造試験を実施した。収穫直後のサツマイモを洗浄して不良部分をカットしたものを外気温度-20℃及び-80℃にて冷凍し、冷凍生芋を作製した。この冷凍生芋を1か月経過後に取り出し、凍ったまま家庭用蒸し器に投入して外気温度100℃で1時間蒸煮し、粗熱をとった後に2cm角以下になるよう破砕した。比較として、蒸煮を行ってから冷凍保存する従来の方法で製造して-20℃で1か月間保存した冷凍芋と、生サツマイモの貯蔵最適温度である15℃で1か月間貯蔵した生サツマイモについても家庭用蒸し器を使用して100℃で1時間の蒸煮を行い、粗熱をとった後に2cm角以下になるよう破砕した。
【0043】
米白麹200gと、鹿児島5号酵母を添加した水200gを混合して1次もろみとし、この1次もろみを30℃で5日間発酵させた。この1次もろみに破砕したサツマイモ1000gと水540gを加えてよく混合し、2次もろみを得た。この2次もろみを30℃で発酵させ、サツマイモを加えてから9日目に蒸留を行い、芋焼酎を得た。得られた芋焼酎のアルコール度数は約37%であった。
【0044】
芋焼酎の製造においては、冷凍生芋を使用した場合も良好な発酵経過をたどった。アルコールができる早さや得られるアルコール量についても、生芋や冷凍芋を使用した場合と比べて大きな差はみられなかった。以上の点より、冷凍生芋を使用しても発酵には影響を与えず、従来通りの製造が可能であることが判明した。
【0045】
得られた芋焼酎は約1か月静置後に濾過、割水を行い、アルコール度数を25%にした。これらの焼酎についてガスクロマトグラフ分析を行い、香気成分を比較した。なお、使用したガスクロマトグラフ分析装置はAgilent製5973MSDである。このときの一般香気成分を図2に、微量香気成分を図3に示す。
【0046】
図2に示した一般香気成分についてはサツマイモの保存条件に関わらず、ほぼ同等の値を示した。冷凍生芋を使用した場合も香りに大きな影響はなく、従来と同様の香りを持つ焼酎を得られるということがわかった。
【0047】
図4に示した微量香気成分は芋焼酎の香りを特徴づける成分であるが、サツマイモが劣化した場合は大幅に増加し、新鮮なサツマイモを使用した場合の数十倍から数百倍の濃度を示す。このような劣化したサツマイモで焼酎を造った場合、微量香気成分はイタミ臭として認識される。ガスクロマトグラフ分析では、冷凍生芋で製造した焼酎について微量香気成分の増加は確認できず、生芋と同程度か低い値を示した。
【0048】
官能評価をきき酒経験者3名で実施したところ、冷凍生芋を用いて製造した焼酎からイタミ臭などの異臭は確認されなかった。生芋を用いた焼酎、あるいは冷凍芋を用いた焼酎との香りの違いについては、きき酒経験者がきき酒してもほとんど差を感じることはできず、このことから冷凍生芋を使用した場合にも、良質な焼酎を製造できることを確認できた。
【0049】
実施例4から、冷凍生芋を用いた焼酎の製造が十分に可能であることが示された。またサツマイモの香りや肉質について、生芋を蒸煮した場合と比較して遜色ないため、用途は焼酎製造に限定されず、香りに加えて色や食感が重視される製菓用としても用いることができる。
【0050】
〈実施例5〉
冷凍生芋を加熱する際に、冷凍生芋の温度が生芋に比べて低いことから生芋よりも長時間加熱する必要がある。実際に、冷凍生芋を蒸煮加熱するときに生芋を蒸煮加熱するときと同様に60分間の蒸煮を行うと、蒸煮後にも関わらず冷凍生芋から青臭さを感じる場合があり、加熱が不十分であることが示唆された。
【0051】
冷凍生芋を十分に加熱するため、庫内温度-20℃で保存した冷凍生芋の蒸煮中の温度を経時的に測定して、生芋を蒸煮した場合と比較した。蒸煮には家庭用蒸し器を用いて行い、蒸気が吹き抜けた後に生芋と冷凍庫から取り出した冷凍生芋を直ちに投入した。蒸煮開始時の冷凍生芋の内部温度は-17℃、生芋の温度は18℃であった。このときの温度経過について、図4に示す。生芋は蒸し器に入れてから60分経過後に取り出した。
【0052】
このとき、生芋を60分間蒸煮するのと同程度に冷凍生芋を蒸煮するためにはおよそ80分間の蒸煮が必要であった。十分に蒸煮した後の冷凍生芋からは、青臭みを感じることはなく、香りの面で焼酎原料としての品質が向上した。
【0053】
〈実施例6〉
冷凍芋で焼酎を製造する場合、仕込み前に行う蒸煮によってサツマイモが潰れやすくなり、製造ラインのつまりが起こりやすく作業性が低下することも問題点として挙げることができる。良好な作業性を得るためには、蒸煮後のサツマイモの硬さが生芋を蒸煮した後と同程度であることが望ましい。そこで、サツマイモの硬さ測定を行うこととした。
【0054】
生のサツマイモを切り、2cm角のブロックを作製した。このブロックを-20℃で冷凍保存して冷凍生芋ブロックとした。また、ブロックを15分間蒸煮したものを、標準の生芋ブロックとして、粗熱がとれた後、直ちに測定に供した。蒸煮後のブロックの一部は-20℃で冷凍保存して冷凍芋ブロックとした。冷凍生芋ブロックと冷凍芋ブロックについては、冷凍した翌日に蒸煮解凍し粗熱がとれた後、直ちに測定に供した。各芋ブロックの蒸煮時間を表3示す。測定にはサン科学製テクスチャーメーターCR-500DX、COMPAC-100を使用した。直径10mmの円柱型アクリル製プランジャーを取り付け、圧縮速度1mm/秒、最大荷重20Nで測定を行った。
【0055】
【表3】
【0056】
生芋15分蒸し(生芋A)を基準にした場合、冷凍蒸芋の破断応力最大荷重は半分以下になった。一方、冷凍生芋を生芋と同じ時間蒸煮した場合はやや硬かったが(冷凍生芋A)、蒸煮時間を延長することで生芋と同程度の硬さとなった(冷凍生芋B)。このときの結果を図5に示す。この結果より、冷凍生芋は冷凍芋に比べて硬く、芋が潰れにくいことが判明した。

図1
図2
図3
図4
図5