(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053418
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】最適レギュレータ
(51)【国際特許分類】
F24F 11/62 20180101AFI20220329BHJP
F24F 11/47 20180101ALI20220329BHJP
【FI】
F24F11/62
F24F11/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160253
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 忠三
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AA01
3L260BA42
3L260BA75
3L260CA12
3L260CB61
3L260CB78
3L260EA24
3L260FA03
3L260FA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電力料金を直接計算可能な評価関数を用いた最適レギュレータを提供する。
【解決手段】共通空間の室温及び消費電力を調整するように構成される空調システムを、制御する最適レギュレータであって、その評価関数が式であらわされることを特徴とする最適レギュレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通空間の室温及び消費電力を調整するように構成される空調システムを、制御する最適レギュレータであって、
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートグリッド(次世代電力網)で想定される、時々刻々変動するリアルタイム電力料金単価に合わせて、需要家設備の本来機能とリアルタイム電力料金のトレードオフを最適制御するための方法を提供するものであり、特にビルに備えられた空調設備を集中管理して運転制御を行う場合に、ビルマルチ空調設備群の消費電力フィードバック制御方法に係る最適レギュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からビルの各部屋に備え付けられたビルマルチ空調機の運転を集中管理システムが知られている。ビルマルチ空調機は、1台の室外機と複数台の室内機の構成が最小単位の1つの設備となり、この設備が必要に応じて複数備え付けられる。通常、このビル内に備え付けられるビルマルチ空調設備は、空調機内部の組込み制御に加えて、集中管理システムホストコンピュータからの管理指示に応じて運転制御されるため、空調装置とホストコンピュータの間を取り持つ空調通信措置が備えられている。一般に、空調機組込み制御は冷媒制御を担当し、消費電力ひいては電力料金の管理は集中管理システムが担当する。
【0003】
最近、数十分刻みで電力料金を変更するスマートグリッド技術であるリアルタイムプライシング(Real-Time Pricing: RTP)が注目されている。RTPを考慮して消費電力を制御する対象設備としては、ビル空調設備が有望である。しかし、ビル空調設備は電力料金だけでなく空調快適性を総合して管理されることが必要である。しかし、これまで室温にほとんど影響がない範囲で RTP料金が高ければ一部空調機を停止させ、低くなれば再度運転させてRTPに応答するといった単純なものであった。
【0004】
RTP制度により、電力料金単価が10分程度の時間刻みで数倍~数十倍変動する環境下においては、電力料金単価の変更予定順列に対応する空調圧縮機インバータ電力制限指令順列として指令する制御方法を用いて、ある期間の合計電力料金と空調快適度を代表する「平均室温偏差」からなる評価関数を最小化する電力制限指令順列を、Simulated Annealingアルゴリズムにより最適解探索して制御する方式が提案されている。
【0005】
ところで、古典フィードバック制御例(非特許文献1)では、電力抑制値は古典制御理論の比例積分(PI)制御方式により制御可能であることを示しているが、その副作用である空調室温の悪化に対しては評価されていない。古典制御ではトレードオフ関係にある複数の制御変数を総合的最適状態に制御することができないためである。
【0006】
さらに、現代フィードバック制御例(非特許文献2)では、現代制御理論によりトレードオフにある空調電力と室温偏差という複数の制御変数を、評価関数を使って数十分間にわたり総合評価する最適レギュレータ方式を提案している。これにより、電力量の2乗と室温偏差の2乗の評価時間積分値で評価して最適(評価関数最小)の制御が可能である。
【0007】
ここで,最適レギュレータは、原理上評価関数が線形2次形式であることが必須なので、電力量ペナルティは2乗で評価される。しかし、電力料金は電力量の1乗に比例(単価比例)するため、金額評価ができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Akihisa Kiyota, Morio Takahama, Chuzo Ninagawa, "Wide Area Network Discrete Feedback Control on FastADR of a Cluster of Building Air-conditioning Facilities",電気学会共通英文論文誌, IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering, Vol.11, pp.826?828, 2016.
【非特許文献2】Chuzo Ninagawa, Hidetoshi Asaka, Morio Takahama, "Optimal Regulator with Time-shifted State Space Expression Converted from AR Model for Smart Grid FastADR",電気学会共通英文論文誌, IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、電力料金を直接計算可能な評価関数を用いた最適レギュレータを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、現代制御理論の制御変数ベクトルからなる状態空間モデルにおいて、電力変数P(t)の平方根を取った「平方根電力変数」を定義し、
【数1】
【0011】
本発明は、共通状態空間の室温及び消費電力を調整するように構成される空調システムを制御する最適レギュレータであって、
【数2】
【0012】
なお、最適レギュレータとは、外乱によって状態変数が目標値からずれたときに、式(8)に示す評価関数JTEを最小として状態変数を目標値に戻すための多入力多出力フィードバック制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
ビル空調管理の観点からは、前記3項目のバランスを取る係数、すなわち、電力料金ペナルティ係数q11、室温偏差ペナルティ係数q22、および、操作量変化ペナルティ係数Rを相対的に調整することにより3項目の重要度を選択して、電力量と室温快適度を最適なバランスで制御可能となった。
【0014】
さらに、電力料金ペナルティ係数q11をその時点の電力料金単価そのものに設定することにより、評価関数の電力量ペナルティ項積算値が電力料金(あるいはその定数倍)とすることができる。つまり、需要家側の観点からは、室温の快適さを維持できる範囲で電力料金の削減金額を時々刻々把握可能となる。将来電力料金が数十分で大きく変動するリアルタイム電力料金制度が導入された場合でも、時々刻々、1分毎に電力料金と室温偏差というトレードオフを需要家にとって最も望ましい割合に調整しながら制御ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の最適レギュレータを適用した場合の1分毎の離散時間と電力の変化を示した図である。
【
図2】
図2は、従来技術の最適レギュレータを適用した場合の1分毎の離散時間と電力の変化を示した図である。
【
図3】
図3は、本発明の最適レギュレータを適用した場合の1分毎の離散時間と室温の変化を示した図である。
【
図4】
図4は、従来技術の最適レギュレータを適用した場合の1分毎の離散時間と温度の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、現代制御理論の制御変数ベクトルからなる状態空間モデルにおいて、電力変数P(t)の平方根を取った「平方根電力変数」を定義し、
【数3】
【0017】
その理由は、後述のように現代制御理論の最適レギュレータ方式を採用して、複数の制御変数を状態ベクトルとしてまとめて、それら変数間のトレードオフ関係をバランスよく制御したいためである。初歩的なPID制御など古典制御理論では、制御対象の変数を独立して制御するしかないので、以下の式のように複数の変数を状態ベクトルとしてまとめて数式表現を得る必要はない。
【0018】
一般に、制御対象を古典制御では伝達関数、現代制御では状態方程式で数式モデルを得ることが制御系設計の出発点である。その固有の制御対象の数式モデルが知られてない場合、時系列データから数式モデルを同定することが多い。その際、デジタルの時代となった今では、時系列データは離散型データとしてしか得られない場合が一般的である。したがって、離散時間時系列データから古典制御では伝達関数、現代制御では離散型状態方程式を得る必要がある。
【0019】
以下には、複数の変数からなる離散時間時系列データから、離散変数ベクトルの状態方程式を得る方法を示す。
【0020】
一般に制御対象の振る舞いは、1ステップ前だけではなくて、何ステップ前からの動作の履歴でないとその特性を十分に表現できない場合が多い。したがって、まず最初に何ステップ前からの履歴としてモデル式を得る必要がある。本発明では線形回帰モデリング手法の一般的なものであるAR (Auto Regressive:自己回帰)モデル式を用いる。
【数4】
【0021】
次に、上記(1)式を現代制御理論の離散型状態方程式の形式にするには、
【数5】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
さて、現代制御理論における定番の最適レギュレータ制御方式では、評価関数を、制御期間中を通じて積算値が最小とするように、状態変数をフィードバックして制御する。この評価関数は、状態変数ベクトルおよび操作変数ベクトルの各要素に応じたペナルティ係数をかけて積算し、期間中の積算値を最小となるよう操作変数を出力して制御する。PID制御など古典制御理論では、各時点の被制御量と目標値の差を瞬時瞬時フィードバックして操作量を出力するのと対照的である。
【0027】
現代制御理論の最適レギュレータ制御方式では、評価関数の計算式においてペナルティとなる変数が必ず2乗して積算されるという制約がある。その理由は、最適レギュレータは状態変数がベクトルとなっているため、行列計算の2次形式にすることによりスカラー量の2乗としてペナルティを計算する仕組みとなっているからである。
【0028】
なお、ペナルティを与える変数(複数)は、互いに相反関係にあったり、優先度が異なる場合がある。本発明の場合でも、電力と室温偏差は優先度で差をつけたい。最適レギュレータ制御方式の評価関数式では、ペナルティを与える状態変数と操作変数に対してそれぞれ優先度係数をかけて計算する仕組みとなっている。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
(7)式の状態変数ペナルティ係数が行列になっているのは、状態変数ベクトルの個々の要素である状態変数ごとに、ペナルティ係数を変えて2乗スカラー量の総和を得るためである。
【0033】
ここまで述べてきた内容は、現代制御理論の公知の従来技術である。本発明の独創的な部分は、
【数13】
【0034】
今回独自に定義した「シフト状態変数ベクトル」は現時刻の変数値と、過去の時刻の変数値から構成されており、過去の値にペナルティはかけないので、(7)式の行列のその部分は0としてある。
【数14】
【0035】
【0036】
その意図を以下に説明する。従来の最適レギュレータでは、全ての変数を一律2次形式で計算する評価関数が、ベクトルからスカラーを得る2次形式演算の仕組み上不可欠であった。しかし、状態変数ベクトルの要素である状態変数(複数)のなかには、応用上、ペナルティを1乗で評価したい場合もある。しかし、従来技術ではやむなく2乗で計算評価されて制御していた。
【0037】
【0038】
【0039】
即ち、フィードバック制御間隔ごとに時々刻々、電力料金と室温偏差2乗値で評価関数を計算評価しつつ、それらのバランスを取って最適レギュレータ制御方式を実行できる仕組みを作ることができた。
【0040】
それでは次に,制御期間を通じて評価関数を最小化するような,状態変数のベクトルフィードバックおよび時々刻々の最適な操作変数値を決定するアルゴリズムを説明する。このアルゴリズムは現代制御理論の最適レギュレータの標準方法であり本発明の独創部分ではない。
【0041】
本発明では、制御時間区間内では空調制御は設定温度近くに整定していくものと仮定する。つまり、対象にたいして適切な空調能力を持っているという仮定なので妥当と言える。制御時間区間内で徐々に整定する場合、最適レギュレータにおける最適状態ベクトルフィードバックは、Riccati方程式を解くことで数学的に求められることは現代制御理論で既知な手続きである。
【0042】
(5)式、(6)式、(8)式を用いて、また、制御期間において定常状態になると近似することにより、以下に示す(9)式の 離散時刻型Riccati方程式が得られることは公知である。
【0043】
【0044】
【0045】
現代制御理論により、Riccati方程式(9)式の解である状態フィードバック行列を満足するように、各状態変数をフィードバック制御すれば、それが、(8)の評価関数を最小化する制御となるということは証明されている。
【0046】
【0047】
【0048】
即ち、最適レギュレータ評価関数の2乗という数式制約のみから平方根電力定義して解決するのみならず、状態変数の過去経歴も考慮して制御するという最適レギュレータの特長を生かせる発明である。
【0049】
つまり、上式(11)で示される状態フィードバックによる操作量で制御することにより、(8)式の評価関数の積算値が制御期間中で最適に制御されることが、現代制御理論で保証されていることになる。
【0050】
【0051】
【0052】
即ち、最適制御レギュレータ制御で、時々刻々制御周期分の電力料金そのものを評価しつつ、制御することを可能とした。最適レギュレータは評価関数内で状態変数が2乗される仕組みなので、本発明を利用しないと状態変数である電力の2乗になってしまい、ペナルティ係数行列要素q11に料金単価を代入していても電力料金そのものにならなかった。つまり、電気料金単価q11を乗じて積算されるので、電力料金金額そのものを時々刻々評価しつつ最適制御することが可能となる。
【0053】
ビル空調管理の観点からは、前記3項目のバランスを取る係数、すなわち、電力料金ペナルティ係数q11、室温偏差ペナルティ係数q22、および、操作量変化ペナルティ係数Rを相対的に調整することにより3項目の重要度を選択して、電力量と室温快適度を最適なバランスで制御可能となった。
【0054】
さらに、電力料金ペナルティ係数q11をその時点の電力料金単価そのものに設定することにより、評価関数の電力量ペナルティ項積算値が電力料金(あるいはその定数倍)とすることができる。つまり,需要家側の観点からは,室温の快適さを維持できる範囲で電力料金の削減金額を時々刻々把握可能となる。将来電力料金が数十分で大きく変動するリアルタイム電力料金制度が導入されたばあいでも、数十分毎に電力料金と室温偏差というトレードオフを需要家にとって最も望ましい割合に調整する制御ができるようになる。
【0055】
次に本発明における「平方根電力変数」を採用したときと、従来の電力変数を使用したときの空調システムの制御における、1分毎離散時間と電力の関係を
図1及び
図2に、1分毎離散時間と室温の関係を
図3及び
図4に示す。
【0056】
図1から
図4に示すように、従来技術に比較して、本発明による最適レギュレータによる制御では、電力(すなわち電気料金)、室温のいずれにおいても滑らかな制御が実現され、空調システムに係る新しい制御方法を提案することができた。
【0057】
以上説明した実施形態では、空調システムにおいて利用する例を説明したが、フィードバック制御を行うものであれば、他の装置やシステムにおいて用いられるものに、本発明の最適レギュレータを適用してもよい。