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特開2022-53427ニットマスク、及びニットマスクの編成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053427
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ニットマスク、及びニットマスクの編成方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220329BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20220329BHJP
   D04B 1/22 20060101ALI20220329BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20220329BHJP
   D04B 7/30 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A41D13/11 H
D04B1/00 B
D04B1/22
D04B1/00 Z
A62B18/02 C
A41D13/11 E
D04B7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160263
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(71)【出願人】
【識別番号】520371596
【氏名又は名称】有限会社ジェイ・フィールド
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 匡規
(72)【発明者】
【氏名】笹井 吉樹
【テーマコード(参考)】
2E185
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA08
2E185BA16
2E185BA18
2E185CC32
2E185CC36
4L002BA00
4L002BA03
4L002BB01
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA00
4L054AA01
4L054BD05
(57)【要約】
【課題】装着時に顔の所定位置から経時的にずれ難いニットマスクを提供する。
【解決手段】着用者の顔の所定箇所を覆う本体部と、前記本体部を前記所定箇所に保持するように前記着用者の耳の各々に掛けられる一対の耳掛け部とを備えるニットマスクにおいて、前記一対の耳掛け部の各々は、前記耳の上部側に配置される上部耳掛け部と、前記耳の下部側に配置される帯状の下部耳掛け部とを有し、前記本体部と前記一対の耳掛け部の各々とをつなぐ連結編地部を備え、前記連結編地部は、前記耳掛け部につながる外側領域を有し、前記下部耳掛け部及び前記外側領域は、前記上部耳掛け部よりも伸縮性が低い、ニットマスク。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の顔の所定箇所を覆う本体部と、
前記本体部を前記所定箇所に保持するように前記着用者の耳の各々に掛けられる一対の耳掛け部とを備えるニットマスクにおいて、
前記一対の耳掛け部の各々は、
前記耳の上部側に配置される上部耳掛け部と、
前記耳の下部側に配置される帯状の下部耳掛け部とを有し、
前記本体部と前記一対の耳掛け部の各々とをつなぐ連結編地部を備え、
前記連結編地部は、前記耳掛け部につながる外側領域を有し、
前記下部耳掛け部及び前記外側領域は、前記上部耳掛け部よりも伸縮性が低い、
ニットマスク。
【請求項2】
前記下部耳掛け部及び前記外側領域は、二枚の編地が編糸でつながれた二層構造である請求項1に記載のニットマスク。
【請求項3】
前記連結編地部は、前記本体部と前記外側領域との間に配置される内側領域を備え、
前記内側領域は、前記外側領域よりも伸縮性が高い請求項1又は請求項2に記載のニットマスク。
【請求項4】
前記内側領域は、ガーター組織で構成された複数の区画領域を備え、
前記複数の区画領域は、編目のウエール方向が互いに交差している領域を備える請求項3に記載のニットマスク。
【請求項5】
少なくとも前後一対の針床を備える横編機を用いて、着用者の一方の耳に掛けられる第一耳掛け部を編成する工程Aと、前記着用者の顔の所定箇所を覆う本体部を編成する工程Cと、前記着用者の他方の耳に掛けられる第二耳掛け部を編成する工程Eとを順に行い、ニットマスクを編成するニットマスクの編成方法において、
前記工程Aと前記工程Cとの間に、前記第一耳掛け部と前記本体部とをつなぐ第一連結編地部を編成する工程Bと、
前記工程Cと前記工程Eとの間に、前記本体部と前記第二耳掛け部とをつなぐ第二連結編地部を編成する工程Dとを備え、
前記工程Aは、
前記一対の針床の少なくとも一方の針床に編出し部を形成する工程A1と、
前記編出し部におけるコース方向の一方側の一部の編目に続けて往復編成を行い、前記一方の耳の上部側に配置される第一上部耳掛け部を形成する工程A2と、
前記編出し部におけるコース方向の他方側の残部の編目に続けて、前記コース方向の他方側に寄せながら帯状となるように往復編成を行い、ウエール方向の端部の一部の編目に伏目処理を行い、前記一方の耳の下部側に配置される第一下部耳掛け部を形成する工程A3とを備え、
前記工程Bは、前記第一下部耳掛け部における伏目処理を行っていない編目に続けて増やし編成を行いながら、前記第一上部耳掛け部と前記第一下部耳掛け部とをつなぐ第一外側領域を形成する工程B1を備え、
前記工程Cは、前記第一連結編地部の終端編目列に続けて、増やし編成、減らし編成、及び引き返し編成を行い、前記本体部を立体形状に形成し、
前記工程Dは、前記本体部につながるように、編幅方向に並ぶ編目列に減らし編成を行って第二外側領域を形成する工程D1を備え、
前記工程Eは、
前記第二外側領域の終端編目列におけるコース方向の他方側の一部の編目に続けて、前記コース方向の一方側に寄せながら帯状となるように往復編成を行い、ウエール方向の端部の一部の編目に伏目処理を行い、前記他方の耳の下部側に配置される第二下部耳掛け部を形成する工程E1と、
前記第二外側領域の終端編目列におけるコース方向の一方側の残部の編目に続けて往復編成を行い、前記他方の耳の上部側に配置される第二上部耳掛け部を形成する工程E2と、
前記第二下部耳掛け部と前記第二上部耳掛け部とをつなげる工程E3とを備える、
ニットマスクの編成方法。
【請求項6】
前記工程A3、前記工程B1、前記工程D1、及び前記工程E1は、前記一対の針床の双方を用いて、編糸でつながれた二層構造の編地を編成する請求項5に記載のニットマスクの編成方法。
【請求項7】
前記工程Bは、前記第一外側領域の終端編目列に続けてガーター編成を行い、第一内側領域を形成する工程B2を備え、
前記工程Dは、前記本体部の終端編目列に続けてガーター編成を行い、第二内側領域を形成する工程D2を備える請求項5又は請求項6に記載のニットマスクの編成方法。
【請求項8】
前記工程B2及び前記工程D2の各々は、編目のウエール方向が互いに交差する複数の区画領域を形成する請求項7に記載のニットマスクの編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニットマスク、及びニットマスクの編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、繊維を編むことにより形成された繊維編成マスクを開示する。繊維編成マスクは、例えば、横編機、丸編機、その他の公知の編機等で編成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-170801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ニットマスクには、以下の特性が求められる。
(A)フィット性:装着時にニットマスクが顔に沿った状態に密着し易いか否か。
(B)装着安定性:装着したニットマスクが顔の所定位置から経時的にずれ難いか否か。
(C)快適性:装着時に顔や耳の周囲に不快な圧迫感や痛みを感じないか否か。
(D)装着性:顔にニットマスクを装着し易いか否か。
(E)サイズの汎用性:適度なフィット性を有しつつ顔のサイズの個人差に対応できるか否か。
【0005】
長時間の使用やスポーツ時の使用では、上記特性のうち、特に装着安定性が求められる。特許文献1に記載の技術では、装着安定性に関して、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的の一つは、装着時に顔の所定位置から経時的にずれ難いニットマスクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、装着時に顔の所定位置から経時的にずれ難いニットマスクが得られる編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明のニットマスクは、
着用者の顔の所定箇所を覆う本体部と、
前記本体部を前記所定箇所に保持するように前記着用者の耳の各々に掛けられる一対の耳掛け部とを備えるニットマスクにおいて、
前記一対の耳掛け部の各々は、
前記耳の上部側に配置される上部耳掛け部と、
前記耳の下部側に配置される帯状の下部耳掛け部とを有し、
前記本体部と前記一対の耳掛け部の各々とをつなぐ連結編地部を備え、
前記連結編地部は、前記耳掛け部につながる外側領域を有し、
前記下部耳掛け部及び前記外側領域は、前記上部耳掛け部よりも伸縮性が低い。
【0008】
(2)本発明のニットマスクの一形態として、
前記下部耳掛け部及び前記外側領域は、二枚の編地が編糸でつながれた二層構造である形態が挙げられる。
【0009】
(3)本発明のニットマスクの一形態として、
前記連結編地部は、前記本体部と前記外側領域との間に配置される内側領域を備え、
前記内側領域は、前記外側領域よりも伸縮性が高い形態が挙げられる。
【0010】
(4)連結編地部に内側領域を備える本発明のニットマスクの一形態として、
前記内側領域は、ガーター組織で構成された複数の区画領域を備え、
前記複数の区画領域は、編目のウエール方向が互いに交差している領域を備える形態が挙げられる。
【0011】
(5)本発明のニットマスクの編成方法は、
少なくとも前後一対の針床を備える横編機を用いて、着用者の一方の耳に掛けられる第一耳掛け部を編成する工程Aと、前記着用者の顔の所定箇所を覆う本体部を編成する工程Cと、前記着用者の他方の耳に掛けられる第二耳掛け部を編成する工程Eとを順に行い、ニットマスクを編成するニットマスクの編成方法において、
前記工程Aと前記工程Cとの間に、前記第一耳掛け部と前記本体部とをつなぐ第一連結編地部を編成する工程Bと、
前記工程Cと前記工程Eとの間に、前記本体部と前記第二耳掛け部とをつなぐ第二連結編地部を編成する工程Dとを備え、
前記工程Aは、
前記一対の針床の少なくとも一方の針床に編出し部を形成する工程A1と、
前記編出し部におけるコース方向の一方側の一部の編目に続けて往復編成を行い、前記一方の耳の上部側に配置される第一上部耳掛け部を形成する工程A2と、
前記編出し部におけるコース方向の他方側の残部の編目に続けて、前記コース方向の他方側に寄せながら帯状となるように往復編成を行い、ウエール方向の端部の一部の編目に伏目処理を行い、前記一方の耳の下部側に配置される第一下部耳掛け部を形成する工程A3とを備え、
前記工程Bは、前記第一下部耳掛け部における伏目処理を行っていない編目に続けて増やし編成を行いながら、前記第一上部耳掛け部と前記第一下部耳掛け部とをつなぐ第一外側領域を形成する工程B1を備え、
前記工程Cは、前記第一連結編地部の終端編目列に続けて、増やし編成、減らし編成、及び引き返し編成を行い、前記本体部を立体形状に形成し、
前記工程Dは、前記本体部につながるように、編幅方向に並ぶ編目列に減らし編成を行って第二外側領域を形成する工程D1を備え、
前記工程Eは、
前記第二外側領域の終端編目列におけるコース方向の他方側の一部の編目に続けて、前記コース方向の一方側に寄せながら帯状となるように往復編成を行い、ウエール方向の端部の一部の編目に伏目処理を行い、前記他方の耳の下部側に配置される第二下部耳掛け部を形成する工程E1と、
前記第二外側領域の終端編目列におけるコース方向の一方側の残部の編目に続けて往復編成を行い、前記他方の耳の上部側に配置される第二上部耳掛け部を形成する工程E2と、
前記第二下部耳掛け部と前記第二上部耳掛け部とをつなげる工程E3とを備える。
【0012】
(6)本発明のニットマスクの編成方法の一形態として、
前記工程A3、前記工程B1、前記工程D1、及び前記工程E1は、前記一対の針床の双方を用いて、編糸でつながれた二層構造の編地を編成する形態が挙げられる。
【0013】
(7)本発明のニットマスクの編成方法の一形態として、
前記工程Bは、前記第一外側領域の終端編目列に続けてガーター編成を行い、第一内側領域を形成する工程B2を備え、
前記工程Dは、前記本体部の終端編目列に続けてガーター編成を行い、第二内側領域を形成する工程D2を備える形態が挙げられる。
【0014】
(8)本発明のニットマスクの編成方法の一形態として、
前記工程B2及び前記工程D2の各々は、編目のウエール方向が互いに交差する複数の区画領域を形成する形態が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のニットマスクは、装着安定性、快適性、及び装着性に優れる。上記ニットマスクが後述する比較マスクに比べて装着安定性に優れるのは、着用者の耳の下部及びその周辺、並びに耳から口元にかけての広範囲にわたって下部耳掛け部と外側領域とを密着させ易いからである。比較マスクとは、上記外側領域を有さず、かつ全長にわたって一様な伸縮性を有する耳掛け部を有するマスク、又は上記外側領域を有し、かつ全長にわたって一様な伸縮性を有する耳掛け部を有するマスクのことである。上記広範囲に下部耳掛け部と外側領域とを密着できるのは、(A)外側領域だけでなく、帯状の下部耳掛け部が紐状の編地に比べて着用者への接触面積を確保し易く、(B)下部耳掛け部及び外側領域が上部耳掛け部に比べて伸縮性が低く、上部耳掛け部に比べて動き難いからである。
【0016】
上記ニットマスクが耳掛け部をゴム紐等で構成したマスクに比較して快適性に優れるのは、耳の周辺に痛みを感じ難いからである。この理由は、上部耳掛け部が柔軟性に優れる編地で構成されることに加え、下部耳掛け部に比べて伸縮性に優れるからである。
【0017】
上記ニットマスクが装着性に優れるのは、着用時のマスクの動作に合わせて上部耳掛け部を引き伸ばせるからである。一般的に、マスクは、本体部を顔の所定箇所に当て、耳掛け部を上方かつ後方に引き伸ばして装着される。相対的に下部耳掛け部よりも上部耳掛け部の伸縮性が高いことで、耳掛け部を容易に上方かつ後方に引き伸ばすことができる。
【0018】
上記(2)の形態は、下部耳掛け部及び外側領域が二層構造であることで、下部耳掛け部及び外側領域の伸縮性を低減し易い。その結果、上記(3)の形態は、着用者の耳の下部及びその周辺、並びに耳から口元にかけての広範囲でニットマスクをより動き難くできる。
【0019】
上記(3)の形態は、外側領域よりも伸縮性が高い内側領域を備えることで、フィット性、及び汎用性に優れる。上記(4)の形態は、内側領域が顔に沿った状態に密着し易いため、フィット性に優れる。特に、上記(4)の形態は、外側領域を顔の所定箇所からずれ難くできる。相対的に伸縮性に優れる内側領域と上部耳掛け部との間に伸縮性が低い外側領域が設けられることで、顔の動き、特に顎の動きを内側領域と上部耳掛け部の伸縮により吸収し、外側領域に顔の動きが伝達されることを抑制できるからである。汎用性に優れるとは、特定寸法のニットマスクにおいて、適正範囲のフィット性を有しつつ、顔の形状やサイズの異なる着用者に適用できる範囲が広いことである。上記(4)の形態は、着用者の顔の形状や大きさが異なっていても、同じサイズで多くの着用者にフィットさせることができるため、汎用性に優れる。
【0020】
上記(4)の形態は、内側領域がガーター組織であることで、内側領域のウエール方向に沿った伸縮性を高め易い。特に、上記(4)の形態は、伸縮方向が異なる複数の領域を備えることで、内側領域が顔に沿った状態により密着し易く、フィット性により優れる。
【0021】
本発明のニットマスクの編成方法は、装着安定性、快適性、及び装着性に優れるニットマスクを無縫製で編成できる。上部耳掛け部を形成する工程A2及び工程E2は、単純な往復編成を行っている。本明細書における単純な往復編成とは、コース方向の編目数がウエール方向に沿って一様となる様な規則的な編成であり、増し目、減らし目、重ね目等を形成しない編成である。下部耳掛け部を形成する工程A3及び工程E1は、コース方向の他方側に寄せて編成しながら伏目処理を行っている。外側領域を形成する工程B1及び工程D1は、増やし編成又は減らし編成を行っている。伏目処理、増やし編成、又は減らし編成によって得られる編地は、上記重ね目等の編地の伸びを阻害する組織を備えるため、単純な往復編成による編地に比較して、伸縮性が低くなり、動き難くなる。よって、上記編成方法によって得られたニットマスクは、下部耳掛け部及び外側領域の伸縮性が上部耳掛け部よりも低くなる。その結果、上記編成方法によって得られたニットマスクは、着用者の耳の下部及びその周辺、並びに耳から口元にかけての広範囲で密着する。よって、上記編成方法によって得られたマスクは、装着時に顔の所定箇所から経時的にずれ難く、装着安定性に優れる。上部耳掛け部は、単純な往復編成により形成されるため、伸縮性が高い。よって、上記編成方法によって得られたニットマスクは、耳掛け部を容易に上方かつ後方に引き伸ばすことができ、装着性に優れる。無縫製でニットマスクを編成することで、縫製等の他の工程を必要とせず、効率的にニットマスクを製造することができる。また、無縫製でニットマスクを編成することで、縫製に伴う編地の継ぎ目もないため、快適性に優れるニットマスクが得られる。工程Bで本体部を立体形状に形成することで、フィット性に優れるニットマスクが得られる。
【0022】
上記(6)の形態は、下部耳掛け部及び外側領域を編糸でつながれた二層構造の編地とすることで、下部耳掛け部及び外側領域の伸縮性を低減し易い。
【0023】
上記(7)の形態は、ガーター編成によって内側領域を形成することで、フィット性、及び汎用性に優れるニットマスクを編成できる。上記(7)の形態によって得られたニットマスクは、内側領域が顔に沿った状態に密着し易いため、フィット性に優れる。また、上記(7)の形態によって得られたニットマスクは、着用者の顔の形状や大きさが異なっていても、同じサイズで顔の大きさの異なるより多くの着用者にフィットさせることができる。
【0024】
上記(8)の形態は、内側領域として伸縮方向が異なる複数の領域を形成することで、顔に沿って密着し易い内側領域を形成できるため、フィット性により優れるニットマスクを編成できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態のニットマスクを表側から見た写真を示す図である。
図2図2は、実施形態のニットマスクにおける耳掛け部及び連結編地部を拡大した写真を示す図である。
図3図3は、実施形態のニットマスクを裏側から見た写真を示す図である。
図4図4は、実施形態のニットマスクの編成手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のニットマスクは、後述するように横編機を用いて編成される。以下では、先に図1から図3を参照して、ニットマスク1の構成を説明し、その後に図4を参照して、ニットマスク1の編成方法を説明する。以下の説明において、「左」、「右」、「上」、「下」、「前」、「後」とは、ニットマスク1を着用した状態での着用者を基準とする方向である。ニットマスク1を着用した状態において、着用者の顔に接する側を「裏側」、着用者の顔に接しない側を「表側」とする。本体部2を左右対称に分断する中心線CLを基準として、左右方向の中心線CL側を「内側」、中心線CLから離れる側を「外側」とする。ニットマスク1は、中心線CLに対して対称である。
【0027】
図1は、実施形態のニットマスク1を広げた状態において、表側から見た正面図である。図1では、分かり易いように、外側領域41と内側領域42との境界、及び内側領域42と本体部2との境界を破線で示している。図2は、実施形態のニットマスク1を表側が見えるように中心線CLで二つ折りした状態において、左の耳掛け部3A及び連結編地部4Aを拡大した図である。図3は、実施形態のニットマスク1を広げた状態において、裏側から見た背面図である。図2に示す実線矢印は、ウエール方向、つまり編成方向を示す。図2に示す二点鎖線は、内側領域42のウエール方向に沿って引いた直線であり、詳細は後述する。本例のニットマスク1は、図3において二色で示すように、機能的に差異がある二種類の編糸を使い分けて編成されている。本例では、二種類の編糸は、色も異なる。具体的には、本体部2、下部耳掛け部32、及び外側領域41は、異なる編糸でそれぞれ編成された二枚の編地が接合されて構成されているが、上部耳掛け部31及び内側領域42は、単一の編糸で編成された単層編地で構成されている。図1及び図3では、編糸の色によって濃さが異なっている。なお、二枚の編地は、単一の編糸で編成されていてもよい。
【0028】
≪ニットマスク≫
ニットマスク1は、図1に示すように、本体部2と、一対の耳掛け部3A、3Bと、一対の連結編地部4A、4Bとを備える。本体部2は、着用者の顔の所定箇所を覆う。各耳掛け部3A、3Bは、着用者の耳に掛けられる。各耳掛け部3A、3Bは、耳の上部側に配置される上部耳掛け部31と、耳の下部側に配置される下部耳掛け部32とを備える。各連結編地部4A、4Bは、各耳掛け部3A、3Bにつながる外側領域41を備え、本体部2と各耳掛け部3A、3Bとをつなぐ。実施形態のニットマスク1の特徴の一つは、上部耳掛け部31に比較して、下部耳掛け部32及び外側領域41の伸縮性が低い点にある。
【0029】
<本体部>
本体部2は、着用者の呼吸器官を覆う領域である。呼吸器官には、口及び鼻の少なくとも一方を含む。本体部2の面積は、少なくとも口とその周辺を覆う大きさを有することが好ましい。本例の本体部2は、顔の鼻、口、顎等を覆う大きさを有する。ニットマスク1の用途に応じては、本体部2は、鼻が露出されて、口及びその周辺から顎にかけてのみを覆う大きさを有していてもよい。本体部2は、図1に示すように、左右の中央及び上下の中央が前方に膨出し、着用者の顔の形状に沿うような立体形状である。本体部2は、複数の面を構成する編地が連結されて構成されている。立体的な本体部2は、ウエール方向の編目数がコース方向に異なる箇所を有するように編成することで得られる。本体部2の形状は、着用者の顔の所定箇所を覆うことができれば特に問わない。
【0030】
本例の本体部2は、二枚の編地が編糸でつながれた二層構造である。二枚の編地は、上縁部及び下縁部の各々で接合されている。また、二枚の編地は、上縁部及び下縁部以外でも、互いの対向面の分散される複数箇所で接合されている。二枚の編地の接合方法としては、編地の周縁部では給糸口の前後関係を利用した編糸の交差を利用でき、編地の周縁部以外の対向面ではタック編成を利用できる。本体部2以外でも、二枚の編地を接合する際は、この接合方法を利用できる。本体部2が二層構造である場合、表側の編地と裏側の編地とで編地の構造や編糸の色や素材を変えることができる。裏側の編糸として、吸水性や抗菌性に優れる編糸を用いるとよい。
【0031】
<耳掛け部>
各耳掛け部3A、3Bは、図2に示すように、着用者の耳の周囲の一部に掛けられるC字状の長尺部材である。各耳掛け部3A、3Bは、上部耳掛け部31と下部耳掛け部32とを備える。下部耳掛け部32は、上部耳掛け部31よりも伸縮性が低い。各耳掛け部3A、3Bにおける伸縮性とは、各耳掛け部3A、3Bの長手方向の伸縮性のことである。各耳掛け部3A、3Bの伸縮性の相違は、編地の構造又は編成方法の相違に基づく伸縮性の相違であることが挙げられる。この点は、後述する上部耳掛け部31と外側領域41との伸縮性の相違においても同様である。伸縮性は、単位長さ当たりの伸び量の大小で評価する。
【0032】
〔上部耳掛け部〕
上部耳掛け部31は、着用者の耳の上部に掛けられる部分である。上部耳掛け部31は、下部耳掛け部32よりも伸縮性が高い。上部耳掛け部31は、ニットマスク1を装着する際、引っ張られることで容易に変形する。
【0033】
上部耳掛け部31は、後述するように単純な往復編成による編地で構成される。往復編成には、針床上にキャリッジを往復させて一枚の平編地を編成することはもちろん、筒状編地を編成する筒編成を含む。筒編成には、周回編成や折り返し編成を含む。本例の上部耳掛け部31は、筒状編地で構成されている。上部耳掛け部31が筒状編地で構成される場合、上部耳掛け部31は、中空である。上部耳掛け部31は、コース方向及びウエール方向に一様な編地で構成されていることが好ましい。上部耳掛け部31におけるコース方向は、上部耳掛け部31の周方向である。上部耳掛け部31は、コース方向の編目数よりもウエール方向の編目数の方が多い。
【0034】
上部耳掛け部31は、下部耳掛け部32よりも屈曲性が高い。耳掛け部3A、3Bにおける屈曲性とは、各耳掛け部3A、3Bにおける耳の周囲を取り囲む内縁部を内側に曲げたときの屈曲のし易さのことである。
【0035】
〔下部耳掛け部〕
下部耳掛け部32は、着用者の耳の下部から耳後方に掛けられる部分である。下部耳掛け部32は、上部耳掛け部31よりも伸縮性が低い。下部耳掛け部32は、ニットマスク1を装着する際、引っ張られたとしても変形し難い。また、下部耳掛け部32は、ニットマスク1の装着時、所定箇所から動き難い。下部耳掛け部32が動き難いことで、本体部2を所定箇所に保持できる。
【0036】
下部耳掛け部32は、後述するように往復編成による帯状の編地で構成される。帯状とは、ウエール方向の編目数よりもコース方向の編目数の方が多いことを言う。下部耳掛け部32は、後述するように内縁部32i又は外縁部32oに伏目処理が施されている。伏目処理が施されていると、単純な往復編成による編地に対して伸縮性が低くなる。
【0037】
下部耳掛け部32における長手方向の長さは、上部耳掛け部31における長手方向の長さよりも短い。そうすることで、相対的に上部耳掛け部31における上記長さを長くでき、装着性を向上できる。
【0038】
下部耳掛け部32は、二枚の編地が編糸でつながれた二層構造である。二枚の編地は、内縁部32i及び外縁部32oの各々で接合されると共に、他の適当な箇所でも接合されている。
【0039】
下部耳掛け部32は、上部耳掛け部31よりも屈曲性が低い。下部耳掛け部32が帯状編地で構成される場合、下部耳掛け部32の屈曲性とは、帯状編地のエッジワイズ方向への屈曲のし易さのことである。
【0040】
<連結編地部>
各連結編地部4A、4Bは、少なくとも着用者の耳の前部に配置される。本例の各連結編地部4A、4Bは、本体部2と異なる編組織を有する。
【0041】
各連結編地部4A、4Bは、各耳掛け部3A、3Bにつながる外側領域41と、本体部2につながる内側領域42とを備える。外側領域41と内側領域42とは、伸縮性が異なる。各連結編地部4A、4Bにおける伸縮性とは、本体部2と各耳掛け部3A、3Bとをつなぐ方向の伸縮性のことである。本体部2と各耳掛け部3A、3Bとをつなぐ方向は、概ね中心線CLに直交する方向、又は装着時の左右方向に相当する。
【0042】
〔外側領域〕
外側領域41は、着用者の耳の前部で上部耳掛け部31と下部耳掛け部32とをつなぐ。外側領域41は、上部耳掛け部31よりも伸縮性が低い。本例の外側領域41は、下部耳掛け部32と同等の伸縮性を有する。よって、外側領域41は、下部耳掛け部32と同様に、ニットマスク1を装着する際、引っ張られたとしても変形し難い。また、外側領域41は、下部耳掛け部32と同様に、ニットマスク1の装着時、所定箇所から動き難い。外側領域41が動き難いことで、本体部2を所定箇所により保持し易い。
【0043】
外側領域41は、後述するように基本的には増やし編成又は減らし編成による編地で構成される。本例の外側領域41は、上部耳掛け部31と下部耳掛け部32とをつなぐ内縁部41iと、下部耳掛け部32の外縁部32oに繋がる外縁部41oと、内側領域42との接合箇所となる縁部とで囲まれる三角形状の編地で構成される。増やし編成又は減らし編成により形成される編地は、単純な往復編成による編地に対して伸縮性が低くなる。外側領域41の編み始めにおけるコース方向の編目数は、下部耳掛け部32の編み終わりにおけるコース方向の編目数よりも少ない。本例では、外側領域41の編み終わりにおけるコース方向の編目数は、下部耳掛け部32の編み終わりにおけるコース方向の編目数よりも多い。
【0044】
外側領域41は、二枚の編地が編糸でつながれた二層構造である。二枚の編地は、内縁部41i及び外縁部41oの各々で接合されると共に、他の適当な箇所でも互いに接合されている。
【0045】
下部耳掛け部32と外側領域41とで構成される耳ホール部の角度θ(図2)は、45°以上90°未満、更に50°以上85°以下であることが好ましい。上記角度θは、以下のように求められる。耳掛け部3A、3Bの一方を無負荷の状態で平面に沿わせて載置する。図2では、耳掛け部3Aが平面に沿った状態に配置されていないため、正確な角度θを示しているわけではない。下部耳掛け部32の内縁部32iと外側領域41の内縁部41iとをつなぐ点X、上部耳掛け部31と外側領域41との接合点Y、及び下部耳掛け部32と上部耳掛け部31との接合点Zを抽出する。上記角度θは、点Xと点Yとを結ぶ線分と、点Yと点Zとを結ぶ線分とで形成される角度とする。
【0046】
〔内側領域〕
内側領域42は、外側領域41と本体部2とをつなぐ。内側領域42は、外側領域41よりも伸縮性が高い。本例の内側領域42は、上部耳掛け部31よりも伸縮性が高い。本例の内側領域42は、ニットマスク1を構成する部位の中で最も伸縮性が高い。内側領域42は、伸縮性が高いことで、ニットマスク1における着用者の顔へのフィット性、及び汎用性を高めることができる。
【0047】
内側領域42は、ガーター組織で構成される。ガーター組織とは、表目のコースと裏目のコースとがウエール方向に交互に並んで配置される組織である。ガーター組織で構成される編地は、伸縮性が高い。本例の内側領域42は、表目のコースと裏目のコースとが2コースずつウエール方向に交互に並んで配置されている。
【0048】
内側領域42は、一枚の編地からなる単層構造である。
【0049】
本例の内側領域42は、複数の区画領域として、矩形領域421と三角形領域422とを備える。矩形領域421と三角形領域422とは、伸縮方向が異なる。矩形領域421と三角形領域422とは形状が異なる。本例では、外側領域41側に矩形領域421が配置され、本体部2側に三角形領域422が配置されている。
【0050】
(矩形領域)
矩形領域421は、コース方向の編目数が外側領域41から三角形領域422に向かって一様である。矩形領域421におけるコース方向及びウエール方向の編目数は、適宜選択できる。本例の矩形領域421は、表目のコースと裏目のコースとの組み合わせが5回繰り返されて構成されている。
【0051】
(三角形領域)
三角形領域422は、コース方向の編目数が矩形領域421から本体部2に向かって漸次的に多くなっている。三角形領域422の下縁部422dは、矩形領域421に接合される。三角形領域422の上縁部422uは、本体部2の上縁部と矩形領域421の上縁部421uとをつなぐ。三角形領域422の頂点の一つは、矩形領域421の下縁部421dに重なっている。三角形領域422によって、上部耳掛け部31と協働して、本体部2と各連結編地部4A,4Bの上方側とを伸縮させ易い。
【0052】
三角形領域422における上縁部422uは、矩形領域421における上縁部421uよりも上方に張り出している。よって、本体部2の上縁部の延長線よりも下方に矩形領域421を位置させることができる。その結果、上部耳掛け部31の連結編地部4Aとの接合点も、上記延長線よりも下方に位置させることができる。この構成により、上部耳掛け部31が耳の上部に掛けられた状態において、下部耳掛け部32が耳後方で耳の上部側に引っ張り上げられるため、下部耳掛け部32が耳後方で着用者に密着し易い。
【0053】
ニットマスク1の装着時、矩形領域421と三角形領域422とは、編目のウエール方向が同一ではなく互いに交差する。具体的には、各領域421、422における中心線CL側に位置する縁部において、コース方向の中心点を通り、ウエール方向に沿って直線を引いたとき、各直線が交差する。各直線は、図2の二点鎖線で示す直線である。各直線が交差することで、矩形領域421の伸縮方向と三角形領域422の伸縮方向とは異なることがわかる。伸縮方向が異なる領域を組み合わせることで、顔の形状や大きさの違いに応じてより複合的な方向への伸縮を実現できる。
【0054】
≪ニットマスクの編成方法≫
実施形態のニットマスクの編成方法は、少なくとも一対の針床を備える横編機を用いて、図4に示すように、工程A、工程B、工程C、工程D、及び工程Eを順に行う。図4の左側に示す矢印は、編成方向を示す。以下の説明では、図4の右側を一方側、左側を他方側と呼ぶ。
工程A:着用者の一方の耳に掛けられる第一耳掛け部を編成する。
工程B:第一耳掛け部と本体部とをつなぐ第一連結編地部を編成する。
工程C:着用者の顔の所定箇所を覆う本体部を編成する。
工程D:本体部と第二耳掛け部とをつなぐ第二連結編地部を編成する。
工程E:着用者の他方の耳に掛けられる第二耳掛け部を編成する。
【0055】
本体部は、上述した本体部2である。第一耳掛け部及び第二耳掛け部はそれぞれ、上述した耳掛け部3A、3Bである。第一連結編地部及び第二連結編地部はそれぞれ、上述した連結編地部4A、4Bである。以下の説明において、第一上部耳掛け部、第一下部耳掛け部、第一外側領域、第一内側領域、第一矩形領域、及び第一三角形領域は、上述した耳掛け部3Aの上部耳掛け部31、下部耳掛け部32、外側領域41、内側領域42、矩形領域421、及び三角形領域422である。また、第二上部耳掛け部、第二下部耳掛け部、第二外側領域、第二内側領域、第二矩形領域、及び第二三角形領域は、上述した耳掛け部3Bの上部耳掛け部31、下部耳掛け部32、外側領域41、内側領域42、矩形領域421、及び三角形領域422である。
【0056】
<工程A>
工程Aは、工程A1と工程A2と工程A3とを備える。工程A2と工程A3との順序は問わない。工程A1は、工程A2及び工程A3の前に行う。
【0057】
〔工程A1〕
工程A1は、一対の針床の少なくとも一方の針床に編出し部を形成する。編出し部は、複数の編出し編目、又は複数の編出し編目及びそのウエール方向につながる数目の編目である。編出し部は、上部耳掛け部31及び下部耳掛け部32の各々におけるコース方向の編目数に合わせて適宜選択できる。編出し部は、下部耳掛け部32の外縁部32o(図2)を構成する。
【0058】
〔工程A2〕
工程A2は、工程A1で形成した編出し部におけるコース方向の一方側の一部の編目に続けて往復編成となる筒編成を行い、第一上部耳掛け部を形成する。第一端部側は、図2では、下部耳掛け部32の外縁部32oの右側である。工程A2では、増やし編成や減らし編成を行わない。よって、形成される第一上部耳掛け部は、コース方向の編目数がウエール方向に一様である。
【0059】
〔工程A3〕
工程A3は、工程A1で形成した編出し部におけるコース方向の他方側の残部の編目に続けて、上記コース方向の他方側に寄せながら往復編成を行い、ウエール方向の端部の一部の編目に伏目処理を行い、第一下部耳掛け部を形成する。第二端部側は、図2では、下部耳掛け部32の外縁部32oの左側である。伏目処理された箇所は、耳掛け部3Aにおける下部耳掛け部32の内縁部32i(図2)を構成する。
【0060】
工程A3は、双方の針床を用いて編糸でつながれた二層構造の編地を編成する。二枚の編地は、編出し編目及び伏目処理によって接合される。二つの編地の編成過程において、適当な箇所でタック編成等を行って、二つの編地を接合する。
【0061】
<工程B>
工程Bは、工程B1と工程B2とを備える。工程Bは、工程B1の後に工程B2を行う。
【0062】
〔工程B1〕
工程B1は、工程A2において伏目処理を行っていない編目に続けて増やし編成を行いながら、第一上部耳掛け部と第一下部耳掛け部とをつなぐ第一外側領域を形成する。増やし編成としては、割増やし編成を利用できる。増やし編成によって形成された編目は、耳掛け部3Aにおける外側領域の内縁部41i(図2)を構成する。本例では、第一外側領域が三角形状となるように編成を行っている。
【0063】
〔工程B2〕
工程B2は、工程B1で形成した第一外側領域の終端編目列に続けてガーター編成を行って第一内側領域を形成する。本例の工程B2は、工程B21と工程B22とを備える。工程B21と工程B22との位置は入れ替えてもよい。
【0064】
(工程B21)
工程B21は、第一外側領域の終端編目列に続けて、コース方向の編目数がウエール方向に一様となるようにガーター編成を行って、第一矩形領域を形成する。本例のガーター編成は、表目のコースと裏目のコースとが2コースずつウエール方向に交互に並ぶように行う。ガーター編成における表目のコース数と裏目のコース数とは、適宜選択できる。工程B21以外でも、ガーター編成を行う際は、このようなガーター編成を利用できる。
【0065】
(工程B22)
工程B22は、第一矩形領域の終端編目列の一方側の一部の編目に続けて増やし編成を行いながら、第一矩形領域の終端編目列の他方側の残部の編目とつなげて、コース方向の編目数をウエール方向に漸次的に増やしながらガーター編成を行って、第一三角形領域を形成する。第一三角形領域の終端編目列の編目は、後述する本体部につながる。
【0066】
<工程C>
工程Cは、第一三角形領域の終端編目列の編目に続けて、増やし編成、減らし編成、及び引き返し編成を行い、本体部を立体形状に形成する。工程Cは、例えば、以下のように編成する。まず、第一三角形領域の終端編目列を三つの領域に分け、各領域に続けて第一端部領域、中間領域、第二端部領域を編成する。図4では、分かり易いように、第一端部領域及び第二端部領域にハッチングを付している。中間領域は、二つのハッチング間に位置する二等辺三角形状の領域である。第一端部領域及び第二端部領域は、それぞれコース方向の外側に寄せながら往復編成を行う。本例の中間領域は、割増やし編成を行って増し目を形成する。中間領域は、単純な往復編成を行ってもよい。上述した領域分けによる編成をある程度行ったら、領域分けを行わず増やし編成を行い、その後本体部の左右方向の中心線CLまで引き返し編成を行う。図4中に示す一点鎖線は、本体部の左右方向の中心線CLである。中心線CLまで引き返し編成を行ったら、引き返し編成によって編針に係止された状態の編目に続けて増やし編成を行う。その後、減らし編成を行いつつ、第一端部領域、中間領域、第二端部領域に分け、各領域で編成を行う。第一端部領域及び第二端部領域は、それぞれコース方向の内側に寄せながら往復編成を行う。中間領域は、ウエール方向に漸次的に幅が狭まるように重ね目が形成される。中心線CLを挟んで行う引き返し編成及び増やし編成によって型紙上では互いに離れた編地の縁部同士を連結することで、針床から編地を外したとき、本体部が立体形状となる。このように、本体部を立体形状に形成するには、ウエール方向の編目数がコース方向に異なる箇所を有するように複数の面を構成する編地の各々をつなげればよい。本体部の編成は、本例の編成方法には限定されない。
【0067】
工程Cは、双方の針床を用いて編糸でつながれた二層構造の編地を編成する。二枚の編地は、両端部で接合される。二つの編地の編成過程において、適当な箇所でタック編成等を行って、二つの編地を接合する。本体部は、所望の編組織となるように、編成方法を適宜選択できる。
【0068】
<工程D>
工程Dは、工程D1と工程D2とを備える。工程Dは、工程D1の前に工程D2を行う。
【0069】
〔工程D2〕
工程D2は、本体部の終端編目列に続けてガーター編成を行って第二内側領域を形成する。本例の工程D2は、工程D21と工程D22とを備える。工程D21と工程D22との位置は入れ替えてもよい。
【0070】
(工程D21)
工程D21は、本体部の終端編目列に続けて、コース方向の編目数をウエール方向に漸次的に減らしながらガーター編成を行って、第二三角形領域を形成する。
【0071】
(工程D22)
工程E22は、第二三角形領域の終端編目列に続けて、コース方向の編目数がウエール方向に一様となるようにガーター編成を行いながら、第二三角形領域における編針に係止された編目とつなげて、第二矩形領域を形成する。
【0072】
〔工程D1〕
工程D1は、第二三角形領域の終端編目列に減らし編成を行って第二外側領域を形成し、後述する第二上部耳掛け部及び第二下部耳掛け部における編始めとなる編目列を形成する。
【0073】
<工程E>
工程Eは、工程E1と工程E2と工程E3とを備える。工程E1と工程E2との順序は問わない。工程E3は、工程E1及び工程E2の後に行う。
【0074】
〔工程E1〕
工程E1は、第二外側領域の終端編目列におけるコース方向の他方側の一部の編目に続けて、コース方向の一方側に寄せながら帯状となるように往復編成を行い、ウエール方向の端部の一部の編目に伏目処理を行い、第二下部耳掛け部を形成する。伏目処理された箇所は、耳掛け部3Bにおける下部耳掛け部32の外縁部32o(図2)を構成する。
【0075】
工程E1は、双方の針床を用いて編糸でつながれた二層構造の編地を編成する。二枚の編地は、増やし編成及び伏目処理によって接合される。二つの編地の編成過程において、適当な箇所でタック編成等を行って、二つの編地を接合する。
【0076】
〔工程E2〕
工程E2は、第二外側領域の終端編目列におけるコース方向の一方側の残部の編目に続けて往復編成を行い、第二上部耳掛け部を形成する。工程E2では、増やし編成や減らし編成を行わない。よって、形成される第二上部耳掛け部は、コース方向の編目数がウエール方向に一様である。
【0077】
〔工程E3〕
工程E3は、工程E1で形成した第二下部耳掛け部と工程E2で形成した第二上部耳掛け部とをつなげる。その後、最終の伏目処理を行って、ニットマスク1の編成を完了する。
【0078】
<変形例>
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、上述した実施形態において、以下の変更が可能である。
【0079】
(1)各連結編地部4A、4Bのうち、内側領域42を省略することができる。この場合、ニットマスクの編成方法において、工程B2及び工程D2が省略される。工程B2を省略した場合、工程Cは、第一外側領域の終端編目列の編目に続けて編成を行って本体部を形成する。工程D2を省略した場合、工程D1は、本体部の終端編目列に編成を行って第二外側領域を形成する。また、内側領域42のうち矩形領域421又は三角形領域422のいずれかを省略することもできる。
【0080】
(2)矩形領域421と三角形領域422とは、位置を入れ替えることができる。具体的には、本体部2側に矩形領域421が配置され、外側領域41側に三角形領域422が配置されていてもよい。
【0081】
(3)内側領域42における複数の区画領域の形状は、矩形状、三角形状以外の多角形状でもよい。また、複数の区画領域の個数は、三つ以上でもよい。なお、各区画領域は、使用する編糸の特性に合わせて、伸縮方向、配置、ガーター組織の増減を調整すればよい。
【符号の説明】
【0082】
1 ニットマスク
2 本体部
3A、3B 耳掛け部
31 上部耳掛け部
32 下部耳掛け部
32i 内縁部、32o 外縁部
4A、4B 連結編地部
41 外側領域
41i 内縁部、41o 外縁部
42 内側領域
421 矩形領域
421u 上縁部、421d 下縁部
422 三角形領域
422u 上縁部、422d 下縁部
CL 中心線
図1
図2
図3
図4