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特開2022-53441うつ症状の予防、治療及び/又は緩和用組成物並びに運動量増加組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053441
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】うつ症状の予防、治療及び/又は緩和用組成物並びに運動量増加組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/58 20060101AFI20220329BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 36/81 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20220329BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220329BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20220329BHJP
【FI】
A61K31/58
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/00
A61K36/81
A61K31/706
A23L33/105
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020218866
(22)【出願日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020159283
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】出山 諭司
(72)【発明者】
【氏名】金田 勝幸
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018LE06
4B018MD18
4B018MD42
4B018MD53
4B018ME14
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA12
4C086EA19
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA12
4C088AB48
4C088AC04
4C088CA03
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA12
(57)【要約】
【課題】うつ症状を示す疾患に対して治療又は予防効果を有する化合物を提供することである。
【解決手段】トマチジン又はトマチンが抗うつ作用、さらにはトマチンが運動量増加作用を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト抽出物を有効成分として含有する、又は、トマチン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害の予防、治療及び/又は緩和用組成物。
【請求項2】
トマト抽出物を有効成分として含有する、又は、トマチジン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、うつ症状の予防、治療及び/又は緩和用組成物。
【請求項3】
前記組成物が、予防用食品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、トマチン又はその薬理学的に許容される塩を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、予防用食品である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、トマチジン又はその薬理学的に許容される塩を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、予防用治療剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、トマチン又はその薬理学的に許容される塩を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、予防用治療剤である、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、トマチジン又はその薬理学的に許容される塩を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
トマト抽出物を有効成分として含有する、又は、トマチン若しくはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、運動量増加組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うつ症状の予防、治療及び/又は緩和用組成物並びに運動量増加組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は、精神的・身体的ストレスで脳に機能障害が起きている状態であり、眠れない、食欲がない、一日中気分が落ち込んでいる、動きたくない、といった表現型を呈する。
患者数は、世界で2億6400万人以上(非特許文献1)、国内で127.6万人(躁うつ病含む;非特許文献2)。
【0003】
既存の抗うつ薬としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)、三環系抗うつ薬及び四環系抗うつ薬が知られている。
【0004】
いずれもセロトニンやノルアドレナリンの細胞外濃度を高める薬であり、即効性がない遅効性であり、抗うつ効果発現までに数週間~数ヶ月必要である。また、治療抵抗性うつ病患者が存在し、約3割の患者に無効である。
【0005】
ケタミンは、2000年代の臨床研究により、単回静脈内投与によって即効性(投与後数時間以内)かつ持続性(約1週間持続)の抗うつ作用を示すことが見出された。これらは、既存薬が無効なうつ病患者にも有効性を示す。2019年3月、エスケタミン点鼻スプレーが米国で治療抵抗性うつ病治療薬として承認された(既存の抗うつ薬との併用)。
しかし、ケタミンおよびエスケタミンには、薬物依存の懸念や、統合失調症様症状の惹起などの重大な副作用がある。
【0006】
トマチジンの筋萎縮抑制効果が報告されており(非特許文献3)、特許文献1において、トマチジンを投与することを含む、筋萎縮を阻害する方法が記載されている。
また、トマチジン投与によるアテローム性動脈硬化病変のサイズの減少が報告されており(非特許文献4)、特許文献2において、トマチジンを有効成分として含む、動脈硬化の予防・治療剤が記載されている。
トマトの生産において、果実重量の20%程度が廃棄されていることから、廃棄トマト(未完熟トマト)の有効利用が期待できる。
しかし、トマチジンによる中枢神経系疾患に対する効果は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-226670
【特許文献2】特開2009-209099
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】WHO、"うつ病"、[online]、2020年1月30日、[令和2年7月21日検索]、インターネット<URL:https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/depression/>
【非特許文献2】厚生労働省、"平成29年(2017)患者調査の概況"、[online]、平成31年3月1日、[令和2年7月21日検索]、インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/kanja.pdf>
【非特許文献3】DYLE, Michael C., et al.Journal of BiologicalChemistry, 2014, 289.21: 14913-14924.
【非特許文献4】特定非営利活動法人日本食品機能研究会、"トマトに含まれるトマチジンに筋萎縮抑制効果~内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 公開シンポジウム"、[online]、2017年11月30日、[令和2年7月21日検索]、インターネット<URL:http://www.jafra.gr.jp/f402.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、うつ症状を示す疾患に対して治療又は予防効果を有する化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トマチジンとトマチンが抗うつ作用を示すことを見出し、さらにはトマチンが運動量増加作用を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.トマト抽出物を有効成分として含有する、又は、トマチン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害の予防、治療及び/又は緩和用組成物。
2.トマト抽出物を有効成分として含有する、又は、トマチジン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、うつ症状の予防、治療及び/又は緩和用組成物。
3.前記組成物が、予防用食品である、前項1に記載の組成物。
4.前記組成物が、トマチン又はその薬理学的に許容される塩を含む、前項3に記載の組成物。
5.前記組成物が、予防用食品である、前項2に記載の組成物。
6.前記組成物が、トマチジン又はその薬理学的に許容される塩を含む、前項5に記載の組成物。
7.前記組成物が、予防用治療剤である、前項1に記載の組成物。
8.前記組成物が、トマチン又はその薬理学的に許容される塩を含む、前項7に記載の組成物。
9.前記組成物が、予防用治療剤である、前項2に記載の組成物。
10.前記組成物が、トマチジン又はその薬理学的に許容される塩を含む、前項9に記載の組成物。
11.トマト抽出物を有効成分として含有する、又は、トマチン若しくはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、運動量増加組成物。
【発明の効果】
【0012】
トマチジン又はトマチンは、うつ症状を示す精神疾患の予防および/または治療に有効である。したがって、トマチジン若しくはトマチンまたはその薬理学的に許容される塩を含む組成物は、うつ症状の予防および/または治療用組成物となる。
加えて、トマチンが運動量増加に有効である。したがって、トマチン若しくはその薬理学的に許容される塩を含む組成物は、運動量増加組成物となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トマチジン予防的投与によるリポポリサッカライド(LPS)誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与前から投与23時間後の体重変化率(%)、(C)LPS投与の24時間後のLMA、(D)LPS投与の26時間後のTST、(E)LPS投与の28時間後のFSTの結果を示す。*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001(Tukey’s post hoc test)。トマチジンのVehicleは2% DMSO/salineである。図B、C、D、E中のバーグラフは左から順にVehicle投与群及びTomatidine投与群を示す。
図2】トマチジン予防的投与前の内側前頭前野(mPFC)内mTORC1阻害薬ラパマイシン投与によるLPS誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与の24時間後のLMA、(C)LPS投与の26時間後のTST、(D)LPS投与の28時間後のFSTの結果、(E)mPFC内投与部位の模式図を示す。*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001(Tukey’s post hoc test)。ラパマイシンのVehicleは10% DMSO/PBSであり、トマチジンのVehicleは2% DMSO/salineである。なお、図B、C、D中のバーグラフは左から順にVehicle+Vehicle投与群、Vehicle+Tomatidine投与群、Rapamycin+Vehicle投与群及びRapamycin+Tomatidine投与群を示す。
図3】トマチジンの治療的投与によるLPS誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与前から投与22時間15分後の体重変化率(%)、(C)LPS投与の24時間後のLMA、(D)LPS投与の26時間後のTST、(E)LPS投与の28時間後のFSTの結果を示す。*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001(Tukey’s post hoc test)。トマチジンのVehicleは2% DMSO/salineである。図B、C、D、E中のバーグラフは左から順にVehicle投与群及びTomatidine投与群を示す。
図4】トマチジン治療的投与前の内側前頭前野(mPFC)内mTORC1阻害薬ラパマイシン投与によるLPS誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与の24時間後のLMA、(C)LPS投与の26時間後のTST、(D)LPS投与の28時間後のFSTの結果、(E)mPFC内投与部位の模式図を示す。*P<0.05,**P<0.01(Tukey’s post hoc test)。ラパマイシンのVehicleは10% DMSO/PBSであり、トマチジンのVehicleは2% DMSO/salineである。なお、図B、C、D中のバーグラフは左から順にVehicle+Vehicle投与群、Vehicle+Tomatidine投与群、Rapamycin+Vehicle投与群及びRapamycin+Tomatidine投与群を示す。
図5】トマチン予防的投与によるリポポリサッカライド(LPS)誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与前から投与23時間後の体重変化率(%)、(C)LPS投与の24時間後のLMA、(D)LPS投与の26時間後のTST、(E)LPS投与の28時間後のFSTの結果を示す。*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001(Tukey’s post hoc test)。トマチンのVehicleは2% DMSO/salineである。なお、図B、C、D、E中のバーグラフは左から順にVehicle投与群、Tomatidine投与群及びTomatine投与群を示す。
図6】トマチンの治療的投与によるLPS誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与前から投与22時間15分後の体重変化率(%)、(C)LPS投与の24時間後のLMA、(D)LPS投与の26時間後のTST、(E)LPS投与の28時間後のFSTの結果を示す。*P<0.05,***P<0.001(Tukey’s post hoc test)。トマチンのVehicleは2% DMSO/salineである。なお、図B、C、D、E中のバーグラフは左から順にVehicle投与群、Tomatidine投与群及びTomatine投与群を示す。
図7】トマチン予防的投与前の内側前頭前野(mPFC)内mTORC1阻害薬ラパマイシン投与によるLPS誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与の24時間後のLMA、(C)LPS投与の26時間後のTST、(D)LPS投与の28時間後のFSTの結果、(E)mPFC内投与部位の模式図を示す。*P<0.05,**P<0.01(Tukey’s posthoc test)。ラパマイシンのVehicleは10% DMSO/PBSであり、トマチンのVehicleは2% DMSO/salineである。なお、図B、C、D中のバーグラフは左から順にVehicle+Vehicle投与群、Vehicle+Tomatine投与群、Rapamycin+Vehicle投与群及びRapamycin+ Tomatine投与群を示す。
図8】トマチン治療的投与前の内側前頭前野(mPFC)内mTORC1阻害薬ラパマイシン投与によるLPS誘発うつ病様行動の評価結果。(A)実験スケジュール、(B)LPS投与の24時間後のLMA、(C)LPS投与の26時間後のTST、(D)LPS投与の28時間後のFSTの結果、(E)mPFC内投与部位の模式図を示す。*P<0.05,**P<0.01(Tukey’s posthoc test)。ラパマイシンのVehicleは10% DMSO/PBSであり、トマチンのVehicleは2% DMSO/salineである。なお、図B、C、D中のバーグラフは左から順にVehicle+Vehicle投与群、Vehicle+Tomatine投与群、Rapamycin+Vehicle投与群及びRapamycin+ Tomatine投与群を示す。
図9】トマチン及びトマチジンの抗不安・抗強迫性障害作用の評価結果。トマチジン及びトマチンのVehicleは2% DMSO/salineである。*P<0.05(Dunnett’s posthoc test)。図中のバーグラフは左から順にVehicle投与群、Tomatidine投与群及びTomatine投与群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の対象)
本発明は、うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害の予防、治療及び/又は緩和用組成物並びに運動量増加組成物に関する。
【0015】
(トマチジン)
トマチジンは、下記式(1)で表される化合物であり、遊離塩基、またはその薬理学的に許容される塩の両方の形態で用いることができる。薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸の付加塩が好ましく、より好ましくは塩酸塩である。
トマチジンは、単回投与により、LPS投与によるうつ病モデルマウスにおいて、予防効果(実施例1参照)および治療効果(実施例3参照)を示した。
【0016】
【化1】
【0017】
(トマチン)
トマチン(α-トマチン)は、下記式(2)で表される化合物であり、遊離塩基、またはその薬理学的に許容される塩の両方の形態で用いることができる。薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸の付加塩が好ましく、より好ましくは塩酸塩である。
トマチンは、単回投与により、LPS投与によるうつ病モデルマウスにおいて、予防効果(実施例5参照)および治療効果(実施例6参照)を示した。
【0018】
【化2】
【0019】
(うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害の予防および/または治療用組成物)
本発明の予防又は治療用組成物(予防又は治療剤)は、うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害について、症状の発症の予防、症状の改善・緩和、症状の憎悪の抑制、症状の再発防止等の効果を奏する。
【0020】
うつ症状は、抑うつ気分、睡眠障害、興味・喜びの喪失、食欲の障害、思考力・集中力・決断力低下、無価値観や自責感、疲労感や気力の低下等を意味する。本発明におけるうつ病又はうつ状態には、診断基準では、うつ病と診断されない程度の比較的症状の軽いうつ状態、及び、他の疾患に伴ううつ状態(例えば、不安障害に伴う抑うつ、癌に伴う抑うつ)等も含まれる。
【0021】
本発明の予防又は治療剤は、経口的または非経口的に投与することができる。経口投与には、錠剤、カプセル、コーティング錠、トローチ、溶液または懸濁液などの液剤といった既知の投与用剤形を用いることができる。また、非経口投与は、注射による静脈内、筋肉内、または皮下への投与、スプレーやエアロゾルなどを用いた経鼻腔や口腔などの経粘膜投与、坐剤などを用いた直腸投与、パッチやリニメントやゲルなどを用いた経皮投与などを挙げることができる。好ましくは経口投与、経鼻腔投与を挙げることができる。
【0022】
本発明の予防又は治療剤は、トマチジン若しくはトマチンまたはその薬理学的に許容される塩に加え、うつ症状、不安症状、強迫性障害に効果のある他の薬効成分を含有していてもよい。また、これら薬効成分の他に、適宜、投与形態などに応じて、当業者によく知られた適切な薬理学的に許容される担体を含有していてもよい。薬理学的に許容される担体としては、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤、およびpH調整剤などを例示できる。
【0023】
本発明の予防又は治療剤を注射用製剤として調製する場合は、溶液剤または懸濁剤の製剤の形態が好ましく、経鼻腔や口腔などの経粘膜投与用の場合は、粉末、滴剤、またはエアロゾル剤の製剤の形態が好ましい。また、直腸投与用の場合は、クリ-ムまたは坐薬のような半固形剤の製剤の形態が好ましい。これらの製剤はいずれも、例えばレミントンの製薬科学(マック・パブリッシング・カンパニー、イーストン、PA、1970年)に記載されているような製薬技術上当業者に知られているいずれかの方法によって調製することができる。注射用製剤は担体として、例えば、アルブミンなどの血漿由来タンパク、グリシンなどのアミノ酸、およびマンニトールなどの糖を加えることができ、さらに緩衝剤、溶解補助剤、および等張剤などを添加することもできる。また、水溶製剤または凍結乾燥製剤として使用する場合、凝集を防ぐためにTween(登録商標)80、Tween(登録商標)20などの界面活性剤を添加するのが好ましい。さらに、注射用製剤以外の非経口投与剤形は、蒸留水または生理食塩液、ポリエチレングリコ-ルのようなポリアルキレングリコ-ル、植物起源の油、および水素化したナフタレンなどを含有してもよい。例えば、坐薬のような直腸投与用の製剤は、一般的な賦形剤として、例えば、ポリアルキレングリコ-ル、ワセリン、およびカカオ油脂などを含有する。膣用製剤では、胆汁塩、エチレンジアミン塩、およびクエン酸塩などの吸収促進剤を含有してもよい。吸入用製剤は固体でもよく、賦形剤として、例えば、ラクト-スを含有してもよく、さらに、経鼻腔滴剤は水または油溶液であってもよい。
【0024】
本発明の予防又は治療剤の投与量および投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病または必要性の程度などに依存して調整できる。投与量は、具体的には年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、および患者の病状などに応じて決めることができ、さらに、その他の要因を考慮して決定してもよい。本発明の予防又は治療剤を、うつ病、不安症状、強迫性障害を示す疾患に投与する場合は、該剤中に含まれる有効成分は、うつ病、不安症状、強迫性障害の症状の軽減に有効な量を含有することが好ましい。トマチジン若しくはトマチンまたはその薬理学的に許容される塩は、安全に使用することができ、その1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路などによって異なる。例えば、有効成分量として、非経口投与の場合は、約0.01~1000 mg/kg/日、好ましくは0.1~500 mg/kg/日、0.1~100 mg/kg/日、1.0~100 mg/kg/日、10~100 mg/kg/日、100~200 mg/kg/日、200~300 mg/kg/日、300~400 mg/kg/日、又は400~500 mg/kg/日で投与され、また、経口の場合は約0.01~500 mg/kg/日、好ましくは0.1~100 mg/kg/日、0.1~1.0 mg/kg/日、1.0~20 mg/kg/日、20~40 mg/kg/日、40~60 mg/kg/日、又は80~100 mg/kg/日で投与されることが望ましい。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
【0025】
さらに、本発明は、本発明の予防又は治療剤を、うつ症状の予防および/または治療を必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
投与対象は、うつ症状を有すると診断されたヒトや非ヒト動物、あるいは、うつ症状の緩和を必要とするヒトや非ヒト動物であり得る。好ましい非ヒト動物として、ペットや家畜等が挙げられる。
【0026】
(うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害の予防および/または緩和用組成物)
本発明の予防又は緩和用組成物(食品(飲料を含む))は、うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害について、症状の発症の予防、症状の改善・緩和、症状の憎悪の抑制、症状の再発防止等の効果を奏する。
【0027】
本発明の食品又は飲料の好ましい例としては、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が挙げられる。食品又は飲料の形態に制限はない。例えば、既存の食品や飲料に混合した混合物の形態や製剤化した形態が挙げられる。例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、ゼリー等が挙げられる。本発明の食品は、経口的に投与することができる。経口投与には、錠剤、カプセル、コーティング錠、トローチ、溶液または懸濁液などの液剤といった既知の投与用剤形を用いることができる。
本発明の食品に含まれる有効成分であるトマチジン若しくはトマチンまたはその薬理学的に許容される塩は、安全に摂取することができる。1日の摂取量は、摂取者の状態や体重、化合物の種類などによって異なる。例えば、有効成分量として、約0.01~500 mg/kg/日、好ましくは0.1~100 mg/kg/日、0.1~1.0 mg/kg/日、1.0~20 mg/kg/日、20~40 mg/kg/日、40~60 mg/kg/日、又は80~100 mg/kg/日で投与されることが望ましい。また、摂取回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
【0028】
(運動量増加組成物)
本発明の運動量増加組成物(運動量増加用治療剤、運動量増加用食品)は、本組成物の摂取者・投与者に、運動量増加(運動者の疲労を低減して運動時間を長くする、運動中の速度を増加させる、運動中の移動距離を増加させる)効果を付与する。
なお、本発明の運動量増加組成物の有効成分及びその含有量、投与量、摂取量、投与経路等は、上記うつ症状、不安症状及び/又は強迫性障害の予防、治療及び/又は緩和用組成物の記載を参照することができる。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(自発運動量測定(LMA))
マウスをテスト用チャンバー(縦38cm×横26cm×高さ24cm)に投入し、10分間チャンバー内を自由に探索させた。10分間の移動距離(m)をSmartソフトウェア(Panlab Harvard Apparatus)を用いて自動計測し、自発運動量とした。
【0031】
(尾懸垂試験 (Tail suspension test: TST))
マウスを6分間逆さ吊りにし、その時の無動時間を測定した。無動時間が長いほど、抑うつ症状が強いとみなした。抗うつ薬投与マウスは無動時間を短縮した。
【0032】
(強制水泳試験 (Forced swim test: FST))
マウスをシリンダー内で強制的に6分間泳がせ、2~6分の間の無動時間を測定した。無動時間が長いほど、抑うつ症状が強いとみなした。抗うつ薬投与マウスは無動時間を短縮した。
【0033】
(ガラス玉覆い隠し試験)
床敷き上に配したガラス玉をマウスが床敷き内に埋めてしまう行動を指標に不安水準を評価する試験である。また、無害なガラス玉を床敷きで覆い隠そうとする行動が、不合理と認識しつつ繰り返される強迫性障害患者の強迫行為と見かけ上類時していることから、不安、強迫性障害の症状の一端を評価することが可能な試験である(参考文献:山口拓、吉岡充弘. 不安関連行動の評価法, 実践行動薬理学(編集:社団法人日本薬理学会、編集責任者:武田弘志、辻稔、赤池昭紀)p.43-52, 金芳堂 (2010))。本実施例では、床敷き内に埋めるガラス玉の数が多いほど、不安、強迫性障害の症状が強いとみなした。
【実施例0034】
トマチジン(Cayman Chemicalから購入)の予防的投与により、リポポリサッカライド(LPS)誘発うつ病様行動が抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の30分前にトマチジン(0.1 mg/kg, i.p.)を投与した。LPS投与の24時間後に自発運動量測定(LMA)、26時間後に尾懸垂試験(TST)、28時間後に強制水泳試験(FST)を行った。実験スケジュールを図1Aに示す。
LPS投与前から投与23時間後の体重を測定した。LPS投与により有意に体重が減少し、トマチジン投与によりLPSによる体重減少が抑制される傾向が認められた(図1B)。
LMAにおいて、LPSおよびトマチジンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図1C)。
TST(図1D)およびFST(図1E)において、LPSにより無動時間の延長が認められた(抑うつ様行動)が、この無動時間の延長はトマチジンにより有意に抑制された。
以上の結果より、トマチジン予防的投与によるLPS誘発うつ病様行動が抑制され、トマチジンによる抗うつ作用(うつ病予防効果)が確認できた。
【実施例0035】
トマチジン予防的投与による抗うつ作用が、内側前頭前野(mPFC)内mTORC1阻害薬ラパマイシンの投与により抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の30分前にトマチジン(0.1 mg/kg, i.p.)を、その15分前にラパマイシン(0.01 nmol/side, mPFC内)を投与した。LPS投与の24時間後にLMA、26時間後にTST、28時間後にFSTを行った。実験スケジュールを図2Aに示す。
LMAにおいて、ラパマイシンおよびトマチジンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図2B)。
TST(図2C)およびFST(図2D)において、トマチジンの抗うつ作用は、mPFC内ラパマイシン投与により有意に抑制された。
以上の結果より、トマチジン予防的投与による抗うつ作用が、mPFC内mTORC1阻害薬ラパマイシンにより抑制されたことにより、トマチジンによるうつ病予防効果がmPFC内mTORC1を介することで発揮されることを確認した。
【実施例0036】
トマチジンの治療的投与により、LPS誘発うつ病様行動が抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の22時間45分後にトマチジン(0.1 mg/kg, i.p.)を投与した。LPS投与の24時間後にLMA、26時間後にTST、28時間後にFSTを行った。実験スケジュールを図3Aに示す。
LPS投与前から投与22時間15分後の体重を測定した。LPS投与により有意に体重が減少した(図3B)。
LMAにおいて、LPSおよびトマチジンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図3C)。
TST(図3D)およびFST(図3E)において、LPSにより無動時間の延長が認められた(抑うつ様行動)が、この無動時間の延長はトマチジンにより有意に抑制された(抗うつ作用)。
以上の結果より、トマチジン治療的投与によるLPS誘発うつ病様行動が抑制され、トマチジンによる抗うつ作用(うつ病治療効果)が確認できた。
【実施例0037】
トマチジン治療的投与による抗うつ作用が、mPFC内mTORC1阻害薬ラパマイシンの投与により抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の22時間30分後にラパマイシン(0.01 nmol/side, mPFC内)を投与し、その15分後にトマチジン(0.1 mg/kg, i.p.)を投与した。LPS投与の24時間後にLMA、26時間後にTST、28時間後にFSTを行った。実験スケジュールを図4Aに示す。
LMAにおいて、ラパマイシンおよびトマチジンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図4B)。
TST(図4C)およびFST(図4D)において、トマチジンの抗うつ作用は、mPFC内ラパマイシン投与により有意に抑制された。
以上の結果より、トマチジン治療的投与による抗うつ作用が、mPFC内mTORC1阻害薬ラパマイシンの投与により抑制されたことにより、トマチジンによるうつ病治療効果がmPFC内mTORC1を介することで発揮されることを確認した。
【実施例0038】
トマチン(東京化成工業株式会社から購入)の予防的投与により、リポポリサッカライド(LPS)誘発うつ病様行動が抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の30分前にトマチン(0.3 mg/kg, i.p.)を投与した。LPS投与の24時間後に自発運動量測定(LMA)、26時間後に尾懸垂試験(TST)、28時間後に強制水泳試験(FST)を行った。実験スケジュールを図5Aに示す。
LPS投与前から投与23時間後の体重を測定した。LPS投与により有意に体重が減少し、トマチン投与によりLPSによる体重減少が抑制される傾向が認められた(図5B)。
TST(図5D)およびFST(図5E)において、LPSにより無動時間の延長が認められた(抑うつ様行動)が、この無動時間の延長はトマチンにより有意に抑制された。
以上の結果より、トマチン予防的投与によるLPS誘発うつ病様行動が抑制され、トマチンによる抗うつ作用(うつ病予防効果)が確認できた。
加えて、トマチンは、図5Cの結果により、運動量増加作用を有することを確認できた。
【実施例0039】
トマチンの治療的投与により、LPS誘発うつ病様行動が抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の22時間45分後にトマチン(0.3 mg/kg, i.p.)を投与した。LPS投与の24時間後にLMA、26時間後にTST、28時間後にFSTを行った。実験スケジュールを図6Aに示す。
LPS投与前から投与22時間15分後の体重を測定した。LPS投与により有意に体重が減少した(図6B)。
LMAにおいて、LPSおよびトマチンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図6C)。
TST(図6D)およびFST(図6E)において、LPSにより無動時間の延長が認められた(抑うつ様行動)が、この無動時間の延長はトマチンにより有意に抑制された(抗うつ作用)。
以上の結果より、トマチン治療的投与によるLPS誘発うつ病様行動が抑制され、トマチンによる抗うつ作用(うつ病治療効果)が確認できた。
【実施例0040】
トマチン予防的投与による抗うつ作用が、内側前頭前野(mPFC)内mTORC1阻害薬ラパマイシンの投与により抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の30分前にトマチン(0.3 mg/kg, i.p.)を、その15分前にラパマイシン(0.01 nmol/side, mPFC内)を投与した。LPS投与の24時間後にLMA、26時間後にTST、28時間後にFSTを行った。実験スケジュールを図7Aに示す。
LMAにおいて、ラパマイシンおよびトマチンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図7B)。
TST(図7C)およびFST(図7D)において、トマチンの抗うつ作用は、mPFC内ラパマイシン投与により有意に抑制された。
以上の結果より、トマチン予防的投与による抗うつ作用が、mPFC内mTORC1阻害薬ラパマイシンにより抑制されたことにより、トマチンによるうつ病予防効果がmPFC内mTORC1を介することで発揮されることを確認した。
【実施例0041】
トマチン治療的投与による抗うつ作用が、mPFC内mTORC1阻害薬ラパマイシンの投与により抑制されるか否かを検証した。
LPS(0.8 mg/kg, i.p.)投与の22時間30分後にラパマイシン(0.01 nmol/side, mPFC内)を投与し、その15分後にトマチン(0.3 mg/kg, i.p.)を投与した。LPS投与の24時間後にLMA、26時間後にTST、28時間後にFSTを行った。実験スケジュールを図8Aに示す。
LMAにおいて、ラパマイシンおよびトマチンは自発運動量に有意な影響を及ぼさなかった(図8B)。
TST(図8C)およびFST(図8D)において、トマチンの抗うつ作用は、mPFC内ラパマイシン投与により有意に抑制された。
以上の結果より、トマチン治療的投与による抗うつ作用が、mPFC内mTORC1阻害薬ラパマイシンの投与により抑制されたことにより、トマチンによるうつ病治療効果がmPFC内mTORC1を介することで発揮されることを確認した。
【実施例0042】
トマチン及びトマチジンが抗不安・抗強迫性障害作用を有するか否かを検証した。
Vehicle(2% DMSO/saline)、トマチジン(0.1 mg/kg)、またはトマチン(0.3 mg/kg)腹腔内投与の2時間後にガラス玉覆い隠し試験を行った。図9の結果が示すように、トマチン投与群において、ガラス玉覆い隠し行動が有意に抑制された。一方、トマチジンはガラス玉覆い隠し行動を抑制しなかった。
これらの結果から、トマチンが抗不安・抗強迫性障害作用を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、うつ症状の予防、治療及び/又は緩和用組成物並びに運動量増加組成物を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9