(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053504
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】コイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148249
(22)【出願日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】202011013663.9
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110307606.X
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(71)【出願人】
【識別番号】512010122
【氏名又は名称】田村(中国)企業管理有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAMURA CORPORATION OF CHINA LIMITED
【住所又は居所原語表記】13F,Block A,International Shopping Centre Shanghai No.527 Huaihai Zhong Road,Shanghai,China
(74)【代理人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 聖
(72)【発明者】
【氏名】近藤 潤二
(72)【発明者】
【氏名】文 桂君
(72)【発明者】
【氏名】潘 小露
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より少ない溶接工数で作成することができるコイル装置を提供する。
【解決手段】コイル装置1は、複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コア22と第2の積層コア24とを有するコア20と、コアを基板に固定するための固定金具30と、を備える。固定金具は、コアが載置される基部32と、基部をなす板金の一部を折り曲げることによって基部に対して起立した形状となっており、第1の積層コアと第2の積層コアとの突き合せ部分28に近接しかつ基部に対して起立する起立方向と直交する各積層コアが有する板状コアの積層方向に幅を持つ第1部34と、を有する。このコイル装置は、第1部と突き合せ部分とを共付けしたことにより、第1部、第1の積層コア及び第2の積層コアの三部が接合されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コアと第2の積層コアとを有するコアと、
前記コアを基板に固定するための固定金具と、
を備え、
前記固定金具は、
前記コアが載置される基部と、
前記基部をなす板金の一部を折り曲げることによって前記基部に対して起立した形状となっており、前記第1の積層コアと前記第2の積層コアとの突き合せ部分に近接しかつ前記基部に対して起立する起立方向と直交する方向であって、各前記積層コアが有する前記板状コアの積層方向に幅を持つ第1部と、を有し、
前記第1部と前記突き合せ部分とを共付けしたことにより、前記第1部、前記第1の積層コア及び前記第2の積層コアの三部が接合され、
前記板金の一部を折り曲げることによって形成された曲げ形状の曲率中心は、前記第1部に対して前記コアの反対側に位置する、
コイル装置。
【請求項2】
複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コアと第2の積層コアとを有するコアと、
前記コアを基板に固定するための固定金具と、
を備え、
前記固定金具は、
前記コアが載置される基部と、
前記基部をなす板金の一部を折り曲げることによって前記基部に対して起立した形状となっており、前記第1の積層コアと前記第2の積層コアとの突き合せ部分に近接しかつ前記基部に対して起立する起立方向と直交する方向であって、各前記積層コアが有する前記板状コアの積層方向に幅を持つ第1部と、を有し、
前記第1部と前記突き合せ部分とを共付けしたことにより、前記第1部、前記第1の積層コア及び前記第2の積層コアの三部が接合され、
前記板金を貫通する切り込みであって、前記第1部を象る切り込みが前記板金に形成されており、前記第1部は、前記切り込みによって前記第1部を象る部分のうち、前記基部とつながっている部分を折り曲げることにより、前記基部に対して起立した形状となっている、
コイル装置。
【請求項3】
複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コアと第2の積層コアとを有するコアと、
前記コアを基板に固定するための固定金具と、
を備え、
前記固定金具は、
前記コアが載置される基部と、
前記基部をなす板金の一部を折り曲げることによって前記基部に対して起立した形状となっており、前記第1の積層コアと前記第2の積層コアとの突き合せ部分に近接しかつ前記基部に対して起立する起立方向と直交する方向であって、各前記積層コアが有する前記板状コアの積層方向に幅を持つ第1部と、を有し、
前記第1部と前記突き合せ部分とを共付けしたことにより、前記第1部、前記第1の積層コア及び前記第2の積層コアの三部が接合され、
前記第1部は、少なくとも一部分が前記突き合せ部分に近接するように、前記基部に対して傾斜した角度で起立する、
コイル装置。
【請求項4】
前記第1の積層コア、前記第2の積層コアは、それぞれ、前記板状コアの端面が並ぶ第1の端面、第2の端面を有し、
前記第1部の前記積層方向の幅は、前記第1の端面と前記第2の端面よりなる前記コアの端面の前記積層方向の厚みよりも小さい又は前記厚みと実質的に等しい、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のコイル装置。
【請求項5】
前記第1の積層コアと前記第2の積層コアは、前記基部上にて前記起立方向に積み重ねられている、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のコイル装置。
【請求項6】
前記第1の積層コア、前記第2の積層コアは、それぞれ、前記板状コアの端面が並ぶ第1の端面、第2の端面を有し、
前記コアは、前記第1の端面と前記第2の端面よりなる端面を有し、
前記起立方向の高さが前記コアの前記端面上の前記第1の端面と前記第2の端面との境界の高さよりも低い前記第1部を前記突き合せ部分と共付けしたことにより、前記三部が接合されている、
請求項5に記載のコイル装置。
【請求項7】
前記基部上に前記第1の積層コアが配置され、前記第1の積層コア上に前記第2の積層コアが配置される、
請求項5又は請求項6に記載のコイル装置。
【請求項8】
前記コアは、Iコアである前記第1の積層コアと、Eコアである前記第2の積層コアよりなるEIコアである、
請求項1から請求項7の何れか一項に記載のコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯機や冷蔵庫等の家庭用電気機械器具にリアクトル等のコイル装置が組み込まれている。例えば特許文献1に、この種のコイル装置の具体的構成が記載されている。特許文献1では、2つのコア部品が溶接により接合されることによって1つのコアが作成される。作成されたコアには、コアを基板に固定するための固定金具が溶接により接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、コア部品の溶接後にコアに固定金具を溶接する必要があるため、溶接工数が多いという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、より少ない溶接工数で作成することができるコイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るコイル装置は、複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コアと第2の積層コアとを有するコアと、コアを基板に固定するための固定金具と、を備える。固定金具は、コアが載置される基部と、基部をなす板金の一部を折り曲げることによって基部に対して起立した形状となっており、第1の積層コアと第2の積層コアとの突き合せ部分に近接しかつ基部に対して起立する起立方向と直交する方向であって、各積層コアが有する板状コアの積層方向に幅を持つ第1部と、を有する。このコイル装置は、第1部と突き合せ部分とを共付けしたことにより、第1部、第1の積層コア及び第2の積層コアの三部が接合されている。また、板金の一部を折り曲げることによって形成された曲げ形状の曲率中心は、第1部に対してコアの反対側に位置する。
【0007】
このように構成されたコイル装置では、一度の溶接により、第1部、第1の積層コア及び第2の積層コアの三部が接合されている。そのため、このコイル装置は、従来と比べて少ない溶接工数で作成可能である。
【0008】
本発明の一実施形態に係るコイル装置は、複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コアと第2の積層コアとを有するコアと、コアを基板に固定するための固定金具と、を備える。固定金具は、コアが載置される基部と、基部をなす板金の一部を折り曲げることによって基部に対して起立した形状となっており、第1の積層コアと第2の積層コアとの突き合せ部分に近接しかつ基部に対して起立する起立方向と直交する方向であって、各積層コアが有する板状コアの積層方向に幅を持つ第1部と、を有する。このコイル装置は、第1部と突き合せ部分とを共付けしたことにより、第1部、第1の積層コア及び第2の積層コアの三部が接合されている。また、板金を貫通する切り込みであって、第1部を象る切り込みが板金に形成されており、第1部は、切り込みによって第1部を象る部分のうち、基部とつながっている部分を折り曲げることにより、基部に対して起立した形状となっている。
【0009】
本発明の一実施形態に係るコイル装置は、複数の板状コアを積層した積層コアであって、互いに突き合せられた第1の積層コアと第2の積層コアとを有するコアと、コアを基板に固定するための固定金具と、を備える。固定金具は、コアが載置される基部と、基部をなす板金の一部を折り曲げることによって基部に対して起立した形状となっており、第1の積層コアと第2の積層コアとの突き合せ部分に近接しかつ基部に対して起立する起立方向と直交する方向であって、各積層コアが有する板状コアの積層方向に幅を持つ第1部と、を有する。このコイル装置は、第1部と突き合せ部分とを共付けしたことにより、第1部、第1の積層コア及び第2の積層コアの三部が接合されている。また、第1部は、少なくとも一部分が突き合せ部分に近接するように、基部に対して傾斜した角度で起立する。
【0010】
本発明の一実施形態において、第1の積層コア、第2の積層コアは、それぞれ、板状コアの端面が並ぶ第1の端面、第2の端面を有し、第1部の積層方向の幅は、第1の端面と第2の端面よりなるコアの端面の積層方向の厚みよりも小さい又は厚みと実質的に等しい構成としてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、第1の積層コアと第2の積層コアは、例えば基部上にて上記起立方向に積み重ねられている。
【0012】
本発明の一実施形態において、例えば、第1の積層コア、第2の積層コアは、それぞれ、板状コアの端面が並ぶ第1の端面、第2の端面を有し、コアは、第1の端面と第2の端面よりなる端面を有する。この構成において、コイル装置は、上記起立方向の高さがコアの端面上の第1の端面と第2の端面との境界の高さよりも低い第1部を突き合せ部分と共付けしたことにより、第1部、第1の積層コア及び第2の積層コアの三部が接合されたものとしてもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係るコイル装置は、基部上に第1の積層コアが配置され、第1の積層コア上に第2の積層コアが配置された構成としてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、コアは、例えば、Iコアである第1の積層コアと、Eコアである第2の積層コアよりなるEIコアである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、より少ない溶接工数で作成することができるコイル装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコイル装置の外観斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るコイル装置の分解斜視図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係るコイル装置の製造工程を模式的に示す図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に係るコイル装置の製造工程を模式的に示す図である。
【
図3C】本発明の一実施形態に係るコイル装置の製造工程を模式的に示す図である。
【
図3D】本発明の一実施形態に係るコイル装置の製造工程を模式的に示す図である。
【
図3E】本発明の一実施形態に係るコイル装置の製造工程を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るコイル装置の固定金具の立ち上がり部付近を拡大した側面図である。
【
図5】比較例に係るコイル装置の固定金具の立ち上がり部付近を拡大した側面図である。
【
図6】本発明の変形例に係るコイル装置の固定金具の立ち上がり部付近を拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、共通の又は対応する要素については、同一又は類似の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル装置1の外観斜視図である。
図2は、コイル装置1の分解斜視図である。
図3A~
図3Eは、コイル装置1の製造工程を模式的に示す図である。
【0019】
なお、以下の説明において、
図1における右上から左下に向かう方向をX方向とし、左上から右下に向かう方向をY方向とし、下から上に向かう方向をZ方向とする。X方向、Y方向及びZ方向は互いに直交する。また、説明の便宜上、Z方向の矢じりが指す側を上側とも呼び、その反対側を下側とも呼ぶ。なお、これらの方向の呼称は、構成要素の相対的な位置関係を説明するために便宜上用いる呼称であり、絶対的な方向を示すものではない。例えば、Z方向(上下方向)は、必ずしも鉛直方向とは限らず、例えば水平方向であってもよい。
【0020】
コイル装置1は、例えば洗濯機や冷蔵庫等の家庭用電気機械器具用のリアクトルである。コイル装置1は、あくまで本発明の実施形態の一例にすぎない。本発明の実施形態の構成はこれに限定されることなく適宜変更が可能である。コイル装置1は、リアクトル(インダクタ)に限定されず、例えば、トランスやフィルタ等の、コアを有する別の装置に置き換えてもよい。
【0021】
コイル装置1は、コイル10、コア20、固定金具30及びボビン40を備える。コイル装置1は、固定金具30により不図示の基板に固定される。
【0022】
コイル10は、エナメル等で絶縁被覆された導線を螺旋状に巻いたものである。コイル10は、ボビン40の筒状部42の外周に巻き付けられている。導線の線材としては、例えば銅やアルミ等が使用される。コイル10は、丸線を用いたものであってもよく、エッジワイズコイル等の平角線を用いたものであってもよい。また、コイル10は、例えば銅箔コイルや銅条コイル等、箔や条の形態の導体から形成してもよい。
【0023】
コア20は、互いに突き合せられたIコア22とEコア24よりなるEIコアである。Iコア22は、I型の板状コア22aがX方向(積層方向)に複数枚積層された第1の積層コアである。Eコア24は、E型の板状コア24aがX方向(積層方向)に複数枚積層された第2の積層コアである。本実施形態では、板状コア22a及び24aには、要求されるインダクタンス値と材料コストを考慮して、例えばケイ素鋼板が使用される。なお、板状コア22a及び24aには、ケイ素鋼板に代えて、別の材料(例えばアモルファスリボン)が使用されてもよい。
【0024】
Eコア24は、中脚部24Aと、その両側に配置された一対の外脚部24Bと、中脚部24A及び一対の外脚部24Bを連結する連結部24Cよりなる。中脚部24Aは、コイル10が巻き付けられたボビン40の中空部に挿入される。コア20は、Eコア24の中脚部24A及び一対の外脚部24BがIコア22の上面と突き合わされることにより、コイル10が発生する磁束の磁路(より詳細には閉磁路)を構成する。
【0025】
固定金具30は、コイル10、コア20及びボビン40を基板に固定するための金具である。固定金具30は、コア20が載置される基部32、板状コア22a及び24aの積層方向(X方向)と直交するZ方向(積層直交方向)に基部32に対して起立する一対の立ち上がり部34(第1部)、及び基部32と基板とを締結するためのねじを通すねじ孔36を有する。
【0026】
固定金具30は、例えば一枚の板金を加工することによって形成される。具体的には、基部32をなす板金の一部が切断(板金をZ方向に貫通する切り込みであって、X方向に長い切り込み34a及び切り込み34aの両端部のそれぞれから基部32の内方に向けてY方向に延びる切り込み34bが形成されるように板金がパンチング加工)される。切り込み34a及び一対の切り込み34bにより三方が囲われた矩形状部分のうち、基部32とつながっている部分34cが基部32に対して直角に折り曲げられる。これにより、基部32に対して起立する立ち上がり部34が形成される。すなわち、立ち上がり部34は、立ち上がり部34を象る上記矩形状部分のうち、基部32とつながっている部分34cを折り曲げることにより、基部32に対して起立した形状となっている。そのため、基部32と立ち上がり部34は一体に形成されたものとなっている。また、板金の2個所を打ち抜くことにより、一対のねじ孔36を形成する。固定金具30をなす板金には、例えば亜鉛メッキ鋼板が使用される。
【0027】
一対の立ち上がり部34は、X方向に幅を持ちZ方向に高さを持つ板状部であり、Y方向に間隔を空けて互いに対向するように配置されている。基部32上には、この間隔内のスペース(すなわち、一対の立ち上がり部34間のスペース)に、Iコア22が、長手方向がY方向沿いとなる向きで配置されている。一対の立ち上がり部34の配置間隔は、Iコア22の長手方向の長さよりも僅かに広いだけである。そのため、Iコア22が上記スペースに配置されると、各板状コア22aの端面が並ぶIコア22の端面22b(第1の端面)と立ち上がり部34とが近接して位置(Y方向に僅かに離れて位置)する。
【0028】
Iコア22の上面に中脚部24A及び一対の外脚部24Bが突き合わされた状態でEコア24が配置される。すなわち、Iコア22とEコア24は、基部32上にて、Iコア22、Eコア24の順で積層直交方向(Z方向であって、立ち上がり部34が起立する起立方向)に積み重ねられている。
【0029】
各板状コア24aの端面が並ぶEコア24の端面24b(第2の端面)と、Iコア22の端面22bは、同一平面上に位置する。端面22bと端面24bよりなるコア20の端面を「端面20a」と記す。
【0030】
本実施形態では、Iコア22、Eコア24及び固定金具30(より詳細には立ち上がり部34)の三部が共付けにより接合されている。この三部の接合には、例えば、母体を加熱して母体同士を融合させて冷却とともに凝固させて接合する、ティグ溶接やプラズマ溶接が用いられる。以下、この三部の接合について具体的に説明する。
【0031】
溶接前の立ち上がり部34は、積層直交方向(Z方向)の高さH1が、溶接前の端面22bと端面24bとの境界の高さH2(
図3D参照)よりも僅か(最大でも2.5mm)に低い。なお、溶接前における端面22bと端面24bとの境界の高さH2は、
図1に示されるIコア22とEコア24との境界26の高さH3と同じである。高さH1~H3及び後述の高さH1’は、基部32と基板との取付面からの高さである。
【0032】
溶接機械により、端面22bと端面24bとの境界を含む、Iコア22とEコア24(より詳細には外脚部24B)との突き合せ部分28と、立ち上がり部34とが溶融されると、これらの溶融金属が融合する。融合したIコア22、外脚部24B及び立ち上がり部34が冷却して凝固することにより、Iコア22、Eコア24及び固定金具30の三部が接合される。
【0033】
すなわち、固定金具30は、その先端部がIコア22とEコア24(外脚部24B)との突き合せ部分28に近接し、かつ、各板状コア22a、24aの積層方向(X方向)に沿って形成された(言い換えると、起立する方向(Y方向)と直交する方向であるX方向に幅を持つ)立ち上がり部34(第1部)を有する。積層直交方向(Z方向)の高さH1が端面20a上の端面22bと端面24bとの境界の高さH2よりも低い立ち上がり部34を突き合せ部分28と共付けしたことにより、Iコア22、Eコア24及び固定金具30の三部が接合されている。
【0034】
なお、高さH2よりも低い高さH1の立ち上がり部34を用いて接合したかどうかは、凝固後の立ち上がり部34の高さH1’と、Iコア22とEコア24との境界26の高さH3との関係から把握することができる。具体的には、高さH2よりも低い高さH1の立ち上がり部34を用いて接合すると、凝固後の立ち上がり部34の高さH1’は、高さH3よりも極僅かに高いだけとなる。具体的には、高さH1’は、高さH3よりも1.5mm~2.5mm高いだけとなる。なお、凝固後の立ち上がり部34の高さH1’は、幅方向(X方向)において若干のばらつきがある。そのため、ここでいう高さH1’は、例えば、幅方向(X方向)の各サンプル点(例えばNmm間隔で位置する10点)における立ち上がり部34の高さの平均値である。
【0035】
積層直交方向(Z方向)において立ち上がり部34を端面22bと端面24bとの境界よりも低く形成することにより、溶接前において端面22bと端面24bとの境界が立ち上がり部34に覆われることなく露出する。そのため、この境界を含む突き合せ部分28が、直接、アーク熱によって加熱されて溶融する。突き合せ部分28が直接加熱されるため、突き合せ部分28の溶融不足が避けられて、Iコア22、Eコア24及び固定金具30の三部が強固に接合される。
【0036】
これに対し、積層直交方向(Z方向)において立ち上がり部34を端面22bと端面24bとの境界よりも高く形成する、又は、この立ち上がり部34を上記境界と同じ高さに形成すると、溶接前において端面22bと端面24bとの境界が立ち上がり部34に覆われてしまって露出しない。これらの場合、上記境界がアーク熱によって立ち上がり部34を介して間接的にしか加熱されない。そのため、突き合せ部分28が溶融不足となり、Iコア22、Eコア24及び固定金具30の三部の接合強度を確保することが難しくなる。
【0037】
また、積層直交方向(Z方向)において立ち上がり部34を端面22bと端面24bとの境界よりも低くしすぎると(例えば高さH1と高さH2との差が2.5mmを超えると)、例えば立ち上がり部34の溶融金属と、これと離れて位置する外脚部24Bの溶融金属とが十分に融合せず、Eコア24と固定金具30との接合強度を確保することが難しくなる。
【0038】
このように、本実施形態に係るコイル装置1では、一度の溶接により、Iコア22、Eコア24及び固定金具30の三部が接合される。そのため、従来のコイル装置と比べてより少ない溶接工数でコイル装置1を作成することができる。
【0039】
溶接前の立ち上がり部34は、幅W1(X方向の寸法)が端面20aの厚みT1(X方向の寸法)よりも小さい又は厚みT1と同じである。具体的には、溶接前の立ち上がり部34の幅W1は、厚みT1の50%以上100%以下の幅である。立ち上がり部34の凝固した部分34’の幅W1’(X方向の寸法)は、厚みT1よりも小さい又は厚みT1と実質的に等しい。なお、幅W1’は、高さ方向(Z方向)において若干のばらつきがある。そのため、ここでいう幅W1’は、例えば、高さ方向(Z方向)の各サンプル点(例えばMmm間隔で位置する10点)における部分34’の幅の平均値である。
【0040】
溶接前の立ち上がり部34の幅W1を広くするほど、X方向において突き合せ部分28と立ち上がり部34とを広い範囲で溶接することができる。但し、幅W1を厚みT1の100%を超える幅とした場合、溶接前の立ち上がり部34のうち、突き合せ部分28よりもX方向において端面20aより突出する突出部分は、突き合せ部分28と融合し難い。突き合せ部分28と融合しない突出部分は、例えば基部32上に流れて凝固する。そのため、コイル装置1の見栄えが悪くなる。また、幅W1を幅広にするため、大きな板金から固定金具30を作成しなければならない。
【0041】
溶接前の立ち上がり部34の幅W1を狭くするほど、アーク熱が突き合せ部分28に伝わって突き合せ部分28が溶融しやすくなる。但し、幅W1を厚みT1の50%未満とすると、突き合せ部分28と立ち上がり部34とのX方向の溶接しろを十分に確保することができない。
【0042】
これらを鑑みると、溶接前の立ち上がり部34の幅W1は、例えば、突き合せ部分28の溶融しやすさと、突き合せ部分28と立ち上がり部34とのX方向の溶接しろの確保を両立することができる、厚みT1の50%以上100%未満の幅であることがより好ましい。
【0043】
図4は、コイル装置1の立ち上がり部34付近を拡大した側面図である。立ち上がり部34は、その根元に相当する部分34cより基部32の中央に近い側の領域(言い換えると、コア20が載置される領域内)で板金を部分的に切断し折り曲げて起立させたものとなっている。その結果、
図4に示されるように、部分34c(板金の一部を折り曲げることによって形成された曲げ形状部分)の曲率中心Cは、立ち上がり部34に対してコア20の反対側に位置することとなる。
【0044】
図5は、比較例に係るコイル装置101の立ち上がり部134付近を拡大した側面図である。比較例では、立ち上がり部134は、その根元に相当する部分134cより基部132の外方に近い側の領域(言い換えると、コア120が載置される領域の外側)で板金を部分的に切断し折り曲げて起立させたものとなっている。その結果、
図5に示されるように、部分134cは、立ち上がり部134よりコア120側に曲率中心C’が位置する曲げ形状となっている。
【0045】
比較例では、立ち上がり部134をコア120に接触させようとしても部分134cがコア120と機械的に干渉する(部分134cがコア120に当たる)ため、
図5に示されるように、立ち上がり部134の略全体を少なくとも部分134cの曲率半径分、コア120の端面120aから離して配置せざるを得ない。端面120aと立ち上がり部134との隙間が広いほど(言い換えると、突き合せ部分128と立ち上がり部134との間の空気層が広いほど)突き合せ部分128と立ち上がり部134の各溶融金属が融合し難くなってしまう。
【0046】
これに対し、本実施形態では、部分34cがコア20と機械的に干渉しないため、
図4に示されるように、立ち上がり部34の略全体をコア20の端面20aに接触して配置することができる。比較例と比べて、突き合せ部分28と立ち上がり部34との隙間を小さくすることができるため、突き合せ部分28と立ち上がり部34の各溶融金属を融合させやすい。
【0047】
本実施形態では、コア20が載置される領域内で板金を部分的に切断し折り曲げて起立させることによって立ち上がり部34が形成されている。これにより、コア20が載置される領域の外側に立ち上がり部34をなす部分を形成する場合と比べて、板金のサイズ(面積)を抑えることができ、材料費を抑えることができる。
【0048】
本実施形態では、基部32上にIコア22が配置され、Iコア22上にEコア24が配置される。Iコア22のZ方向の高さは、外脚部24BのZ方向の長さよりも短い。そのため、Eコア24上にIコア22を配置する構成と比べて、基部32に対する突き合せ部分28の高さ位置を低くすることができる。突き合せ部分28の高さ位置を低くすることに伴い、立ち上がり部34の高さを抑えることができるため、より小さな板金から固定金具30を作成することができる。
【0049】
次に、
図3A~
図3Eを用いてコイル装置1の製造方法を説明する。なお、以下に示すコイル装置1の製造方法は、あくまで一例である。コイル装置1の製造方法は、
図3A~
図3Eに示される工程を実施する方法に限らず、適宜変更が可能である。
【0050】
図3Aに示されるように、部分34cより基部32の中央に近い側の領域で、基部32をなす板金の一部が切断されて、切り込み34a及び一対の切り込み34bが形成される。また、板金の2個所を打ち抜くことにより、一対のねじ孔36が形成される。
【0051】
図3Bに示されるように、部分34cが基部32に対して直角に折り曲げられる。これにより、基部32に対して起立する立ち上がり部34が形成される。
【0052】
図3Cに示されるように、基部32上には、一対の立ち上がり部34間に、Iコア22をなす全ての板状コア22aが、長手方向がY方向沿いとなる向きで積層方向(X方向)に隙間なく並べて配置される(言い換えると、全ての板状コア22aが、長手方向をY方向に向けて積層方向に積み重ねられる。)。積層方向に並べて配置された複数の板状コア22aは、基部32上で各板状コア22aが分離しないように、クランプ等の治具によって挟まれて固定される。
【0053】
コイル10が巻き付けられたボビン40の中空部に、Eコア24の中脚部24Aが挿入される。次いで、
図3Dに示されるように、Eコア24の中脚部24A及び一対の外脚部24BがIコア22の上面と突き合わされる。なお、Eコア24をなす全ての板状コア24aは、溶接により予め一体に固定されている。具体的には、Eコア24をなす全ての板状コア24aの中脚部24Aが予め溶接により接合されている。
【0054】
図3Eに示されるように、立ち上がり部34と突き合せ部分28とが共付けされて、Iコア22、Eコア24及び固定金具30の三部が接合される。突き合せ部分28と立ち上がり部34とのX方向の溶接しろを確保するため、例えば、端面20aの厚みT1と同じ幅W1の立ち上がり部34が用いられる。また、突き合せ部分28の溶融しやすさと溶接しろの確保を両立するため、例えば、端面20aの厚みT1に対して50%以上100%未満の幅W1の立ち上がり部34が用いられてもよい。また、端面22bと端面24bとの境界を含む突き合せ部分28がアーク熱によって直接加熱されて溶融するように、この境界の高さH2よりも低い(但し最大でも2.5mm低い)高さH1の立ち上がり部34が用いられる。
【0055】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた構成も本発明の実施形態に含まれる。
【0056】
図6は、本発明の変形例に係るコイル装置1の立ち上がり部34付近を拡大した側面図である。上記の実施形態で説明したように、一対の立ち上がり部34の配置間隔は、Iコア22の長手方向の長さよりも僅かに広い。そのため、Iコア22を一対の立ち上がり部34間に配置すると、Iコア22の端面22bと立ち上がり部34との間に隙間ができる。この隙間が広いほど突き合せ部分28と立ち上がり部34の各溶融金属が融合し難くなる。そのため、
図6に示されるように、立ち上がり部34は、溶接時又は溶接前に、基部32に対して垂直をなす姿勢(言い換えると、基部32に対して直角に折り曲げられた状態)から突き合せ部分28側に若干倒れるように、根元である部分34cが塑性変形されてもよい。すなわち、立ち上がり部34は、少なくとも一部分(具体的には、立ち上がり部34の先端)が突き合せ部分28に近接するように、基部32に対して傾斜した角度で起立したものであってもよい。これにより、突き合せ部分28と立ち上がり部34との隙間を小さくすることができる。
【0057】
立ち上がり部34の幅W1が広いほど立ち上がり部34の剛性が高まるため、立ち上がり部34を突き合せ部分28側に塑性変形させ難い。そこで、立ち上がり部34は、X方向に複数に分割された形状(言い換えると、X方向に並べられた幅の狭い複数の立ち上がり部34)であってもよい。幅の狭い複数の立ち上がり部34を形成することにより、立ち上がり部34を突き合せ部分28側に塑性変形させやすくなるとともに、突き合せ部分28と立ち上がり部34とのX方向の溶接しろを確保することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 コイル装置
20 コア
22 Iコア(第1の積層コア)
22a I型の板状コア(板状コア)
24 Eコア(第2の積層コア)
24a E型の板状コア(板状コア)
28 突き合わせ部分
30 固定金具
32 基部
34 立ち上がり部(第1部)