(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053535
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】シナプス形成を促進するための組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/15 20160101AFI20220329BHJP
A61P 21/06 20060101ALI20220329BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220329BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20220329BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20220329BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20220329BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220329BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20220329BHJP
C07D 417/06 20060101ALN20220329BHJP
【FI】
A23L33/15
A61P21/06 ZNA
A61P43/00 111
C12N5/0793
C12N5/0797
A61K31/51
A61K31/506
A61K31/505
C07D417/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154987
(22)【出願日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2020159977
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020191758
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519109036
【氏名又は名称】株式会社Jiksak Bioengineering
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100221361
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】湯本 法弘
(72)【発明者】
【氏名】川田 治良
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD23
4B018ME14
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB20
4B065BC41
4B065CA41
4B065CA44
4C063AA01
4C063BB03
4C063CC62
4C063DD29
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC82
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
【課題】 本発明は、簡便に利用可能なシナプス形成を促進するための手段を提供することを目的とする。
【解決手段】 チアミンまたはその誘導体またはその塩、チアミンまたはその誘導体またはその塩を含む、シナプス形成を促進するための組成物、チアミンまたはその誘導体またはその塩、またはチアミンまたはその誘導体またはその塩を含む組成物を、神経細胞に接触させるステップを含む、シナプス形成を促進するための方法等を提供することにより、上記課題が達成された。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化1】
式中、
R
1は、H、OH、NH
2、またはAlkであり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、H、CHO、CO-Alk、またはAlkであるか、またはそれぞれが結合する窒素と一緒になって複素環を形成し、ここで、複素環は、1以上のAlkで任意に置換されていてもよく、
R
4は、HまたはAlkであり、
Alkは、それぞれ独立して、炭素数が1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であり、ここで、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、-OH、-OCOC(CH
3)
2、-S-S-R
5、-SCO-R
5、一リン酸、二リン酸、三リン酸、アデノシン二リン酸、およびアデノシン三リン酸からなる群から選択される1以上の置換基で任意に置換されていてもよく、および、
R
5は、
【化2】
からなる群から選択され、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、
で表される化合物またはその塩を含む、シナプス形成を促進するための組成物。
【請求項2】
R1が、NH2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R2およびR3が、それぞれが結合する窒素と一緒になって芳香族複素環を形成し、ここで、芳香族複素環は、メチル基およびヒドロキシエチル基で置換されている、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
R
2およびR
3が、それぞれが結合する窒素と一緒になって
【化3】
を形成し、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
R4が、メチル基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
化合物が、チアミンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
塩が、チアミン塩酸塩である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
食品組成物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
筋肉を増強するための、請求項8に記載の食品組成物。
【請求項10】
筋肉を短期間で増強するための、請求項8または9に記載の食品組成物。
【請求項11】
筋肉が、健常者のものである、請求項9または10に記載の食品組成物。
【請求項12】
健常者が、スポーツ選手である、請求項11に記載の食品組成物。
【請求項13】
筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための、請求項8~12のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項14】
筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための、請求項8~12のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項15】
医薬組成物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物を含む、シナプス形成促進剤。
【請求項17】
式
【化4】
式中、
R
1は、H、OH、NH
2、またはAlkであり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、H、CHO、CO-Alk、またはAlkであるか、またはそれぞれが結合する窒素と一緒になって複素環を形成し、ここで、複素環は、1以上のAlkで任意に置換されていてもよく、
R
4は、HまたはAlkであり、
Alkは、それぞれ独立して、炭素数が1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であり、ここで、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、-OH、-OCOC(CH
3)
2、-S-S-R
5、-SCO-R
5、一リン酸、二リン酸、三リン酸、アデノシン二リン酸、およびアデノシン三リン酸からなる群から選択される1以上の置換基で任意に置換されていてもよく、および、
R
5は、
【化5】
からなる群から選択され、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、
で表される化合物またはその塩を含む、筋肉を増強するための組成物。
【請求項18】
化合物が、チアミンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
塩が、チアミン塩酸塩である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
食品組成物である、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
医薬組成物である、請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物を含む、筋肉増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シナプス形成を促進するための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
神経は、中枢神経および末梢神経から構成され、種々の情動、筋肉および内蔵諸臓器の機能等を調節している。かかる神経機能は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得、これにより、心身の健康が害され、社会生活を営む上で甚大な影響を受ける場合が多い。すなわち、神経機能を維持および改善することは、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の維持および改善に直結するため、極めて重大な課題といえる。
【0003】
中枢神経および末梢神経は、それぞれ神経細胞から構成され、同細胞はシナプスを介して相互にシグナルを交換する。シナプスは、シナプス前部である軸索と、シナプス後部である樹状突起(中枢神経系)または骨格筋や臓器等の標的細胞(末梢神経系)との間に形成される間隙であり、シナプス前部から放出される化学物質がシナプス後部に存在する受容体に結合することでシグナルを伝達する。シナプス形成は、シナプス前部および後部に発現する特異的な膜型タンパク質の相互作用が引き金となってなされる。
【0004】
近年、かかるシナプス形成に着目した、神経機能を維持および改善する方法が開発されている。例えば、静脈投与した間葉系幹細胞(MSC)が、海馬に到達し、神経細胞に分化して神経突起を伸ばしてシナプスを形成し、神経回路を再建するとともに、脳の可塑性を促進させることが実証されている(特許文献1)。また、特定のペプチドが、皮質ニューロン初代培養細胞(PCN)において樹状突起伸長促進作用およびシナプス形成促進作用を有することが実証されている(特許文献2)。そして、アミロイド前駆体タンパク(APP)がβセクレターゼによって切断されることにより生成するC末端フラグメントβ(CTFβ)が、シナプス形成を促進することが実証されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/188457
【特許文献2】特開2012-092048号公報
【特許文献3】特開2008-143867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便に利用可能なシナプス形成を促進するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シナプス形成を促進するための方法を研究する中で、従来の神経機能を維持および改善する方法に見られる細胞、ペプチド等は摂取が容易ではなく、簡便にシナプス形成を促進することが困難であると考えた。そして、簡便に利用可能なシナプス形成を促進するための手段を提供すべく鋭意研究を進めたところ、栄養素の1つであるチアミン(「ビタミンB1」と記す場合がある)がシナプス形成を促進することを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]式
【化1】
式中、
R
1は、H、OH、NH
2、またはAlkであり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、H、CHO、CO-Alk、またはAlkであるか、またはそれぞれが結合する窒素と一緒になって複素環を形成し、ここで、複素環は、1以上のAlkで任意に置換されていてもよく、
R
4は、HまたはAlkであり、
Alkは、それぞれ独立して、炭素数が1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であり、ここで、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、-OH、-OCOC(CH
3)
2、-S-S-R
5、-SCO-R
5、一リン酸、二リン酸、三リン酸、アデノシン二リン酸、およびアデノシン三リン酸からなる群から選択される1以上の置換基で任意に置換されていてもよく、および、
R
5は、
【化2】
からなる群から選択され、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、
で表される化合物またはその塩を含む、シナプス形成を促進するための組成物。
【0009】
[2]R
1が、NH
2である、[1]の組成物。
[3]R
2およびR
3が、それぞれが結合する窒素と一緒になって芳香族複素環を形成し、ここで、芳香族複素環は、メチル基およびヒドロキシエチル基で置換されている、[1]または[2]の組成物。
[4]R
2およびR
3が、それぞれが結合する窒素と一緒になって
【化3】
を形成し、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、[1]~[3]のいずれかの組成物。
【0010】
[5]R4が、メチル基である、[1]~[4]のいずれかの組成物。
[6]化合物が、チアミンである、[1]~[5]のいずれかの組成物。
[7]塩が、チアミン塩酸塩である、[6]の組成物。
[8]食品組成物である、[1]~[7]のいずれかの組成物。
[9]筋肉を増強するための、[8]の食品組成物。
[10]筋肉を短期間で増強するための、[8]または[9]の食品組成物。
[11]筋肉が、健常者のものである、[9]または[10]の食品組成物。
[12]健常者が、スポーツ選手である、[11]の食品組成物。
[13]筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための、[8]~[12]のいずれかの食品組成物。
[14]筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための、[8]~[12]のいずれかの食品組成物。
[15]医薬組成物である、[1]~[7]のいずれかの組成物。
[16][1]~[7]のいずれかの組成物を含む、シナプス形成促進剤。
【0011】
[17]式
【化4】
式中、
R
1は、H、OH、NH
2、またはAlkであり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、H、CHO、CO-Alk、またはAlkであるか、またはそれぞれが結合する窒素と一緒になって複素環を形成し、ここで、複素環は、1以上のAlkで任意に置換されていてもよく、
R
4は、HまたはAlkであり、
Alkは、それぞれ独立して、炭素数が1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であり、ここで、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、-OH、-OCOC(CH
3)
2、-S-S-R
5、-SCO-R
5、一リン酸、二リン酸、三リン酸、アデノシン二リン酸、およびアデノシン三リン酸からなる群から選択される1以上の置換基で任意に置換されていてもよく、および、
R
5は、
【化5】
からなる群から選択され、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、
で表される化合物またはその塩を含む、筋肉を増強するための組成物。
【0012】
[18]化合物が、チアミンである、[17]の組成物。
[19]塩が、チアミン塩酸塩である、[18]の組成物。
[20]食品組成物である、[17]~[19]のいずれかの組成物。
[21]医薬組成物である、[17]~[19]のいずれかの組成物。
[22][17]~[19]のいずれかの組成物を含む、筋肉増強剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便に利用可能なシナプス形成を促進するための手段を提供することができる。特に、チアミンまたはその誘導体またはその塩は低分子であることから、例えば食品、医薬等として簡便に経口摂取することができる。そして、本発明によれば、簡便にシナプス形成を促進することにより、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善し、心身の健康、社会生活を営む上でのQOLの維持および改善を図ることができる。さらに、本発明によれば、シナプス形成を促進することにより、筋肉増強効果をも示し、これによってフレイルを予防または改善することや、外傷または外科手術後に筋力を回復または維持することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、LRRTM2分子が表面に固定されたマイクロビーズを模式的に示す。
【
図2】
図2は、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(LRRTM2-Fcリンカー(+))またはコントロールであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(コントロール-Fcリンカー(+))をグルタミン酸作動性神経細胞と共培養し、シナプス前部の形成を確認した結果を示す。
【
図3】
図3は、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(LRRTM2-Fcリンカー(+))またはコントロールであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(コントロール-Fcリンカー(+))を運動神経細胞と共培養し、シナプス前部の形成を確認した結果を示す。
【
図4】
図4は、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(LRRTM2-Fcリンカー(+))を運動神経細胞と共培養し、マーカーVAChT(vesicular acetylcholine transporter)を用いてシナプス前部の形成を確認した結果を示す。
【0015】
【
図5】
図5は、FDA承認薬化合物のライブラリーに掲載されている化合物1814種類のシナプス形成に対する影響を確認した結果を示す。
【
図6】
図6は、チアミンまたはコントロールとしてのDMSOの存在下、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(LRRTM2-Fcリンカー(+))またはコントロールであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(コントロール-Fcリンカー(+))を運動神経細胞と共培養し、陽性ビーズ率を確認した結果を示す。
【
図7】
図7は、チアミンまたはコントロールとしてのDMSOの存在下、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(LRRTM2-Fcリンカー(+))またはコントロールであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(コントロール-Fcリンカー(+))を運動神経細胞と共培養し、蛍光強度/陽性ビーズ数を確認した結果を示す。
【
図8】
図8は、チアミンまたはコントロールとしてのDMSOの存在下、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(LRRTM2-Fcリンカー(+))またはコントロールであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(コントロール-Fcリンカー(+))を運動神経細胞と共培養し、シナプス前部の形成を確認した結果を示す。
【0016】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[チアミンまたはその誘導体またはその塩]
本発明の一側面は、
式
【化6】
式中、
R
1は、H、OH、NH
2、またはAlkであり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、H、CHO、CO-Alk、またはAlkであるか、またはそれぞれが結合する窒素と一緒になって複素環を形成し、ここで、複素環は、1以上のAlkで任意に置換されていてもよく、
R
4は、HまたはAlkであり、
Alkは、それぞれ独立して、炭素数が1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であり、ここで、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、-OH、-OCOC(CH
3)
2、-S-S-R
5、-SCO-R
5、一リン酸、二リン酸、三リン酸、アデノシン二リン酸、およびアデノシン三リン酸からなる群から選択される1以上の置換基で任意に置換されていてもよく、および、
R
5は、
【化7】
からなる群から選択され、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す、
で表される化合物またはその塩(「本発明の化合物」と記す場合がある)に関する。
本発明において、「チアミンまたはその誘導体またはその塩」とは、前記式で表される化合物またはその塩を指す。
【0018】
一態様において、R
1は、NH
2である。
一態様において、R
2およびR
3は、それぞれが結合する窒素と一緒になって芳香族複素環を形成し、ここで、芳香族複素環は、メチル基およびヒドロキシエチル基で置換されている。
一態様において、R
2およびR
3は、それぞれが結合する窒素と一緒になって
【化8】
を形成し、ここで、
*は、それぞれ結合先を示す。
一態様において、R
4は、メチル基である。
【0019】
一態様において、化合物は、チアミンである。チアミンは、
【化9】
で表される。
【0020】
本発明において、「塩」とは、生理学的に許容可能な、食品学的に許容可能な、および/または薬学的に許容可能な、チアミンまたはその誘導体の任意の塩を指す。一態様において、塩は、チアミン塩酸塩である。チアミン塩酸塩は、
【化10】
で表される。
【0021】
一態様において、本発明の化合物は、シナプス形成を促進するための化合物である。
一態様において、本発明の化合物は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための化合物である。
一態様において、本発明の化合物は、筋肉を増強するための化合物である。
一態様において、本発明の化合物は、筋肉を短期間で増強するための化合物である。
一態様において、本発明の化合物は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための化合物である。
一態様において、本発明の化合物は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための化合物である。
【0022】
本発明において、「損傷」とは、神経の任意の箇所での損傷を指し、体外から物理的に与えられた損傷、および、がん、腫瘍等による体内に起因する損傷を含む。
本発明において、「疾患」とは、神経の任意の疾患を指し、例えば、以下からなる群から選択される1以上の疾患を指す:アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病、ジストニア、プリオン病、有棘赤血球舞踏病、副腎白質ジストロフィー、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症、痙性対麻痺、脊髄空洞症、シャルコー・マリー・トゥース病、筋ジストロフィー、ミオパチー、遺伝性周期性四肢麻痺、重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、前頭側頭型認知症、てんかん、統合失調症、自閉症、自閉症スペクトラム障害等。
本発明において、「老化」とは、時間の経過とともに生物の個体に起こる種々の機能低下、形態変化、外観変化等およびその過程を指す。
【0023】
[シナプス形成を促進するための組成物]
本発明の別の側面は、本発明の化合物を含む、シナプス形成を促進するための組成物(「本発明の組成物」と記す場合がある)に関する。
一態様において、本発明の組成物は、食品組成物である。
【0024】
一態様において、食品組成物は、任意の食品(動物、植物等、生物そのものは除く)を指し、例えば、以下からなる群から選択される1以上の食品である:乳製品および類似製品(乳脂肪を植物油脂で部分的または完全に置き換えた製品)、油脂および脂肪エマルジョン、シャーベットおよびソルベを含む食用氷、果実および野菜(キノコ類、根・塊茎、豆類・マメ科植物、およびアロエを含む)、海藻、および種実類に由来する製品、菓子類、穀粒、根・塊茎、豆類、マメ科植物およびヤシの中果皮または柔らかい芯に由来する製品、ベーカリー製品、家禽肉および猟鳥獣肉を含む製品、軟体動物、甲殻類、および棘皮動物を含む魚類・水産製品、卵製品、ハチミツを含む甘味料、香辛料、スープ、ソース、サラダ、タンパク質製品、特殊栄養用途食品、ノンアルコール飲料、アルコール飲料、香味製品(ジャガイモ、穀物、穀物粉またはデンプンを主原料とするスナック、ナッツおよびナッツミックス等の加工ナッツ、魚類を主原料とするスナック等)、調理済み食品等、またはこれらの抽出物またはこれらの混合物。
【0025】
一態様において、食品は、健康の保持増進に資する食品であり、例えば、健康食品、サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、機能性食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、機能性表示食品等である。
一態様において、本発明の組成物は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための組成物である。
【0026】
本発明において、「シナプス」とは、神経細胞の軸索と、神経細胞の樹状突起(中枢神経系)または骨格筋、臓器等の標的細胞(末梢神経系)との間に形成される間隙を指す。神経細胞の軸索はシナプス前部と呼ばれ、神経細胞の樹状突起または骨格筋、臓器等の標的細胞はシナプス後部と呼ばれる。シナプス前部から放出される化学物質がシナプス後部に存在する受容体に結合することでシグナルを伝達する。
【0027】
本発明において、「シナプス形成」とは、シナプス後部に発現する特異的な膜型タンパク質の作用が引き金となり、細胞内シグナルへと変換されることに引き続いて、シナプス前部において化学物質の放出に関わるタンパク質が集積すること、および/または、シナプス前部に発現する特異的な膜型タンパク質の作用が引き金となり、細胞内シグナルへと変換されることに引き続いて、シナプス後部において化学物質の放出に関わるタンパク質を受容し下流に伝達するタンパク質が集積することを指す。
本発明において、「シナプス形成を促進する」とは、シナプス前部および/または後部の表面積および/または体積の増加、シナプス前部において集積した化学物質の放出に関わるタンパク質の数、密度、集積速度等の増加および/または定性的な変化、および/または、シナプス後部において集積した化学物質の放出に関わるタンパク質を受容し下流に伝達するタンパク質の数、密度、集積速度等の増加および/または定性的な変化を指す。
【0028】
一態様において、本発明の組成物は、筋肉を増強するための組成物である。
一態様において、本発明の組成物は、筋肉を短期間で増強するための組成物である。
本発明において、「筋肉」とは、哺乳動物の筋肉を指す。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ラット、マウス、コアラ等を挙げることができるが、好ましくはヒトである。筋肉は、例えば、横紋筋および/または平滑筋であり、ここで、横紋筋は、骨格筋および/または心筋であり得る。
【0029】
一態様において、筋肉は、健常者のものである。
本発明において、「健常者」とは、特定の疾患を有しておらず、日常生活に支障のない者を指す。一態様において、健常者は、スポーツ選手である。
本発明において、「スポーツ選手」とは、身体的強さ、俊敏性、スタミナ等を要求される運動に関与している者を指し、例えば、トレーニングを積むことによって同運動に習熟している者である。「スポーツ選手」は、「アスリート」、「運動選手」等と互換的に用いることができる。
【0030】
本発明において、「筋肉を増強する」とは、筋肉の表面積および/または体積の増加、筋束、筋線維、筋原線維、筋節、筋細胞等の筋肉を構成する各要素の数、密度等の増加および/または定性的な変化、および/または筋肉を構成する細胞中の特定のタンパク質の発現量の変化を指す。
本発明において、「筋肉を短期間で増強する」とは、筋肉を、本発明の化合物の体内への摂取から1ヶ月間以内に増強することを指し、例えば、筋肉を、本発明の化合物の体内への摂取から3週間以内、2週間以内、1週間以内、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、24時間以内、12時間以内、または6時間以内に増強することである。
【0031】
一態様において、本発明の組成物は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための組成物である。
本発明において、「フレイル」とは、加齢とともに、心身の活力(運動機能、認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存等の影響も受けつつ、生活機能に障害が生じ、心身が脆弱化することを指す。心身の活力の低下としては、例えば、認知機能障害、めまい、摂食障害、嚥下障害、視力障害、うつ、貧血、難聴、せん妄、易感染性、体重減少、筋量低下等が挙げられる。慢性疾患としては、高血圧、心疾患、脳血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患、悪性腫瘍等が挙げられる。
本発明において、「フレイルを予防または改善する」とは、適切な介入および支援により、生活機能を維持および向上させ、心身の脆弱化を予防または改善することを指す。
【0032】
一態様において、本発明の組成物は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための組成物である。
本発明において、「外傷」とは、外的要因による組織または臓器の損傷を指し、例えば、創傷、骨折、捻挫、内蔵破裂、熱傷、凍傷等である。
本発明において、「外科手術」とは、外科的機器、メス等を用いて患部を処置することを指し、例えば、外科的機器、メス等を用いて外傷を処置することである。
本発明において、「外傷または外科手術後に筋力を回復または維持する」とは、外傷または外科手術後に、外傷または外科手術前の筋力の状態まで筋力を回復させること、または外傷または外科手術前の筋力の状態で筋力を維持することを指す。
【0033】
一態様において、本発明の組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤である。
本発明において、「錠剤」とは、本発明の化合物、または本発明の化合物に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えたものを圧縮形成等の方法により一定の形にした製剤を指す。錠剤は、内服用錠剤、口腔用錠剤または外用錠剤であり得る。錠剤は、素錠またはコーティング錠であり得る。錠剤は、チュアブル錠、口腔内崩壊錠または持続性錠であり得る。
本発明において、「散剤」とは、本発明の化合物、または本発明の化合物に賦形剤、結合剤、崩壊剤等を加えたものを粉末または微粒状にした製剤を指す。
本発明において、「シロップ剤」とは、本発明の化合物を糖、糖液等の甘味料に溶解または混和し、濃稠な溶液または懸濁液とした製剤を指す。
本発明において、「カプセル剤」とは、本発明の化合物を液状、懸濁状、粉状、顆粒状等の形態でカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成型することによって調製される製剤を指す。
本発明において、「賦形剤」とは、本発明の化合物に、成型、増量、希釈等を目的に加えられる添加剤を指し、例えば、乳糖、結晶セルロース、デンプン等である。
本発明において、「結合剤」とは、本発明の化合物等の原料の粉体粒子同士を結びつけるために加える添加剤を指し、例えば、デンプン糊、アラビアゴム糊、ヒドロキシプロピルセルロース等である。
本発明において、「崩壊剤」とは、体内の水分を吸って膨張する等して錠剤を崩壊させ本発明の化合物の放出を容易にするために加える添加剤を指し、例えば、デンプン、セルロース類、炭酸塩等である。
本発明において、「滑沢剤」とは、本発明の化合物等の粉体の流動性を向上させ圧縮形成を容易にするために加える添加剤を指し、例えば、ワックス、タルク等である。
【0034】
[シナプス形成を促進するための方法]
本発明の別の側面は、シナプス形成を促進するための方法であって、本発明の化合物、または本発明の組成物を、神経細胞に接触させるステップを含む、前記方法(「本発明の方法」と記す場合がある)に関する。本発明の方法において、本発明の組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、神経細胞は、中枢神経細胞および/または末梢神経細胞である。
一態様において、神経細胞は、運動神経細胞である。
一態様において、神経細胞は、ヒト神経細胞である。
一態様において、本発明の方法は、シナプス前部および/または後部を形成するステップをさらに含む。
【0035】
一態様において、シナプス後部は、LRRTM(leucine-rich repeat transmembrane neuronal protein)ファミリー分子を発現している。
一態様において、シナプス後部は、LRRTM2(leucine-rich repeat transmembrane neuronal protein 2)を発現している。
一態様において、本発明の方法は、in vitroの方法である。
一態様において、本発明の方法は、ヒトを除く動物に対してなされる。
一態様において、本発明の方法は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための方法である。
【0036】
一態様において、本発明の方法は、筋肉を増強するための方法である。
一態様において、本発明の方法は、筋肉を短期間で増強するための方法である。
一態様において、本発明の方法は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための方法である。
一態様において、本発明の方法は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための方法である。
【0037】
本発明において、「神経細胞」とは、哺乳動物の神経細胞を指す。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ラット、マウス、コアラ等を挙げることができるが、好ましくはヒトである。本発明の方法で用いることができる細胞は、好ましくはヒト神経細胞である。以下、ヒトの神経細胞を例として本発明を説明するが、本発明はヒト神経細胞に限定されるものではない。ヒト神経細胞として、ヒト末梢神経細胞とヒト中枢神経細胞を挙げることができるが、いずれの細胞も本発明において用いることができる。ヒト神経細胞は、その由来に限らず制限なく用いることができる。例えば、これに限定されないが、ヒトから単離した細胞の初代培養、ヒトから単離され細胞株として樹立された細胞、ヒト由来の多能性幹細胞から分化誘導したヒト神経細胞を挙げることができる。好ましくは、ヒト由来の多能性幹細胞である。本発明で用いる「多能性幹細胞」とは、自己複製能を有しin vitroにおいて培養することが可能で、かつ、個体を構成する細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(GS細胞)、体細胞由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)等を挙げることができるが、本発明で好ましく用いられるのはヒト由来のiPS細胞またはES細胞であり、特に好ましくは、ヒト由来のiPS細胞である。
【0038】
ES細胞は、一般的には、胚盤胞期の受精卵をフィーダー細胞と一緒に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、さらに、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に細胞株として樹立することができる。このように、ES細胞は、受精卵から取得することが多いが、受精卵以外、例えば、脂肪組織、胎盤、精巣細胞から取得することもでき、いずれのES細胞も本発明の対象である。受精卵以外からES細胞を作成する方法は報告されており、それらの報告を適宜参照して用いることができる。例えば、これに限定されないが、WO2003/046141の開示を挙げることができる。
【0039】
iPS細胞は、体細胞に由来する人工的な幹細胞であって、特異的な再プログラム化因子を核酸またはタンパク質の形態で体細胞に導入することにより製造することができ、ES細胞とほぼ同等の特性(例えば、分化多能性および自己複製に基づく増殖能)を示す。再プログラム化因子は、ES細胞で特異的に発現される遺伝子、その遺伝子産物若しくはその非コードRNA、ES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物若しくはその非コードRNA、または低分子量化合物で構成されてもよい。再プログラム化因子に含まれる遺伝子の例としては、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-MYC、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3、Glis1等が挙げられる。これらの再プログラム化因子は、単独で、あるいは組み合わせて使用してもよい。なお、再プログラミング因子としてc-MYCの遺伝子を体細胞に導入して用いる場合は、iPS細胞の作成後に、導入したc-MYC遺伝子が標的細胞の染色体に組み込まれる可能性が低い導入方法を用いるのが好ましく、例えば、これに限定されないが、センダイウイルスベクターやエピゾーマルベクターを用いた導入を挙げることができる。iPS細胞を製造する方法については、多くの報告がなされており、これらの報告を参照し、それらを適宜変更して用いることができる。本発明で用いることができるiPS細胞は、好ましくはヒト由来のiPS細胞であり、例えば、ヒトの線維芽細胞由来のiPS細胞である。
【0040】
本発明では、好ましくは、ヒトiPS細胞から分化誘導した神経細胞である末梢神経細胞または中枢神経細胞が用いられる。ヒトiPS細胞を末梢神経細胞へと分化誘導する方法は、多くの報告がなされており、これらの報告を参照し、適宜変更して用いることができる。ヒトiPS細胞から末梢神経細胞、例えば運動神経細胞を分化誘導する方法は、例えばChambers, Stuart M., et al. Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. Nature biotechnology 27.3 (2009): 275.を参照することができる。ヒトiPS細胞を中枢神経細胞へと分化誘導する方法は、多くの報告がなされており、これらの報告を参照し、適宜変更して用いることができる。ヒトiPS細胞から中枢神経細胞、例えば、グルタミン酸作動性神経細胞を分化誘導する方法は、例えばShi, Yichen, et al. Human cerebral cortex development from pluripotent stem cells to functional excitatory synapses. Nature neuroscience 15.3 (2012): 477を参照することができる。あるいは、ヒトiPS細胞から分化誘導した様々な神経細胞は、市販されており、例えば、リプロセル(株)等から購入することができる。
【0041】
本発明において、「中枢神経細胞」とは、例えば、グルタミン酸作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞、アドレナリン作動性神経細胞、ドパミン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、ノルアドレナリン作動性神経細胞を挙げることができ、好ましくは、ヒトグルタミン酸作動性神経細胞である。
本発明において、「末梢神経細胞」とは、例えば、運動神経細胞、感覚神経細胞、交感神経細胞、副交感神経細胞を挙げることができ、好ましくは、運動神経細胞である。
本発明において、「シナプス前部」とは、神経細胞の軸索を指す。
本発明において、「シナプス後部」とは、神経細胞の樹状突起(中枢神経系)または骨格筋、臓器等の標的細胞(末梢神経系)を指す。
【0042】
本発明において、「LRRTMファミリー分子」とは、LRRTMファミリーと呼ばれている分子を指す。LRRTMファミリーは、シナプス後部側のシナプスオーガナイザー分子ファミリーの1つであり、ヒトではLRRTM1、LRRTM2、LRRTM3、およびLRRTM4の4種類が報告されている。本発明においては、これらの4種類のLRRTM分子のいずれも用いることができるが、好ましくはLRRTM2である。シナプス接着分子の1つであるLRRTM分子は、1回膜貫通型の膜タンパク質であり、細胞外ドメインと内部ドメインを含む。本発明で用いることができるLRRTM分子は、少なくとも細胞外ドメインを含む分子である。よって、例えば、本発明においてヒトLRRTM1分子とは、ヒトLRRTM1分子であって、その細胞外ドメインである配列番号1の1番目から392番目のアミノ酸配列を少なくとも有する分子を意味する。
【0043】
ヒトLRRTM1は、配列番号1で示される488個のアミノ酸からなる、膜型タンパク質である。翻訳後は34個のアミノ酸からなるシグナルペプチドをもつ522アミノ酸からなるタンパク質として発現される。LRRTM1の細胞外ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目から392番目と報告されており、この領域がシナプス前部の形成誘導に重要と考えられる。本発明で用いられるLRRTM1分子とは、配列番号1で示される488アミノ酸配列をもつタンパク質に限らず、シナプス前部の形成誘導活性をもつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目から392番目のアミノ酸を含むタンパク質を意味し、神経細胞のシナプス前部の形成を誘導する活性を有する限り、それらの配列において、一部(例えば、全配列の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%以下)が置換・欠失または付加されたものであってもよい。
【0044】
ヒトLRRTM2は、配列番号2で示される483個のアミノ酸からなる、膜型タンパク質である。翻訳後は33個のアミノ酸からなるシグナルペプチドをもつ516アミノ酸からなるタンパク質として発現される。LRRTM2の細胞外ドメインは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の1番目から389番目と報告されており、この領域がシナプス前部の形成誘導に重要と考えられる。本発明で用いられるLRRTM2分子とは、配列番号2で示される483アミノ酸配列をもつタンパク質に限らず、シナプス前部の形成誘導活性をもつ配列番号2で示されるアミノ酸配列の1番目から389番目のアミノ酸を含むタンパク質を意味し、神経細胞のシナプス前部の形成を誘導する活性を有する限り、それらの配列において、一部(例えば、全配列の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%以下)が置換・欠失または付加されたものであってもよい。
【0045】
ヒトLRRTM3は、配列番号3で示される551個のアミノ酸からなる、膜型タンパク質である。翻訳後は30個のアミノ酸からなるシグナルペプチドをもつ581アミノ酸からなるタンパク質として発現される。LRRTM3の細胞外ドメインは、配列番号3で示されるアミノ酸配列の1番目から389番目と報告されており、この領域がシナプス前部の形成誘導に重要と考えられる。本発明で用いられるLRRTM3分子とは、配列番号3で示される551アミノ酸配列をもつタンパク質に限らず、シナプス前部の形成誘導活性をもつ配列番号3で示されるアミノ酸配列の1番目から389番目のアミノ酸を含むタンパク質を意味し、神経細胞のシナプス前部の形成を誘導する活性を有する限り、それらの配列において、一部(例えば、全配列の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%以下)が置換・欠失または付加されたものであってもよい。
【0046】
ヒトLRRTM4は、配列番号4で示される560個のアミノ酸からなる、膜型タンパク質である。翻訳後は30個のアミノ酸からなるシグナルペプチドをもつ590アミノ酸からなるタンパク質として発現される。LRRTM4の細胞外ドメインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列の1番目から394番目と報告されており、この領域がシナプス前部の形成誘導に重要と考えられる。本発明で用いられるLRRTM4分子とは、配列番号4で示される560アミノ酸配列をもつタンパク質に限らず、シナプス前部の形成誘導活性をもつ配列番号4で示されるアミノ酸配列の1番目から394番目のアミノ酸を含むタンパク質を意味し、神経細胞のシナプス前部の形成を誘導する活性を有する限り、それらの配列において、一部(例えば、全配列の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%以下)が置換・欠失または付加されたものであってもよい。
【0047】
[シナプス形成を促進するための医薬組成物]
本発明の別の側面は、本発明の化合物を含む、シナプス形成を促進するための医薬組成物(「本発明の医薬組成物」と記す場合がある)に関する。
一態様において、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む。
一態様において、本発明の医薬組成物は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための医薬組成物である。
【0048】
一態様において、本発明の医薬組成物は、筋肉を増強するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の医薬組成物は、筋肉を短期間で増強するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の医薬組成物は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の医薬組成物は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の医薬組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤である。
【0049】
[シナプス形成促進剤]
本発明の別の側面は、本発明の化合物、または本発明の組成物を含む、シナプス形成促進剤(「本発明の剤」と記す場合がある)に関する。
一態様において、本発明の剤は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む。
一態様において、本発明の剤は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための剤である。
【0050】
一態様において、本発明の剤は、筋肉を増強するための剤である。
一態様において、本発明の剤は、筋肉を短期間で増強するための剤である。
一態様において、本発明の剤は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための剤である。
一態様において、本発明の剤は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための剤である。
一態様において、本発明の剤は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤である。
【0051】
[シナプス形成を促進するための医薬の製造における使用]
本発明の別の側面は、シナプス形成を促進するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の組成物の使用(「本発明の医薬の製造における使用」と記す場合がある)に関する。本発明の医薬の製造における使用において、本発明の組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、本発明の医薬の製造における使用は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の組成物の使用である。
【0052】
一態様において、本発明の医薬の製造における使用は、筋肉を増強するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の組成物の使用である。
一態様において、本発明の医薬の製造における使用は、筋肉を短期間で増強するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の組成物の使用である。
一態様において、本発明の医薬の製造における使用は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の組成物の使用である。
一態様において、本発明の医薬の製造における使用は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の組成物の使用である。
【0053】
[疾患を処置するための方法]
本発明の別の側面は、疾患を処置するための方法であって、本発明の化合物、または本発明の組成物を、対象に投与するステップ、およびシナプス形成を促進するステップを含む、前記方法(「本発明の処置方法」と記す場合がある)に関する。本発明の処置方法において、本発明の組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、本発明の処置方法は、筋肉を増強するステップをさらに含む。
一態様において、本発明の処置方法は、筋肉を短期間で増強するステップをさらに含む。
一態様において、本発明の処置方法は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するステップをさらに含む。
一態様において、本発明の処置方法は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するステップをさらに含む。
【0054】
本発明において、「対象」とは、哺乳動物を指す。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ラット、マウス、コアラ等を挙げることができるが、好ましくはヒトである。対象は、神経の損傷、疾患、および老化等を有しない健康な対象(ヒトの場合、健常者)であっても、神経の損傷、疾患、および老化等を有し、これによって神経機能が低下した対象であってもよい。対象は、例えば、シナプス形成を促進させようとする部位において正常な機能を有するLRRTM(特に、LRRTM2)を発現する神経細胞を有する者であり得る。ある態様では、神経細胞は、グルタミン酸作動性神経細胞であり得る。ある態様では、シナプス形成を促進させようとする部位において正常な機能を有するLRRTM(特に、LRRTM2)を所定の値以上のレベルで発現する対象であり得る。所定の値は、健常者における発現レベルの第3四分位値以上の値であり得、平均値以上の値であり得、または中央値以上の値であり得る。本発明においては、本発明の化合物、または本発明の組成物の治療上有効量が投与される。治療上有効量は、投与された対象において、投与前よりもシナプス形成促進作用が有意に促進させる化合物または組成物の量であり得る。
【0055】
本発明において、「投与」とは、任意の経路によってなされてよく、例えば、以下からなる群から選択される経路によってなされる:局所投与、経腸投与、非経口投与、局所投与、皮膚上投与、吸入投与、注腸投与、結膜上への点眼、点耳、経鼻投与、膣内投与、経腸投与、経口投与、経管栄養、注腸投与、経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、骨内投与、皮内投与、くも膜下(腔)投与、腹腔内投与、膀胱内投与、経皮投与、経粘膜投与、吸入投与、硬膜外投与、硝子体内投与等。
【0056】
[疾患を処置するための使用]
本発明の別の側面は、本発明の化合物、または本発明の組成物の、シナプス形成を促進することによって疾患を処置するための使用(「本発明の使用」と記す場合がある)に関する。本発明の使用において、本発明の組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、本発明の使用は、筋肉を増強することによって疾患を処置するための使用である。
一態様において、本発明の使用は、筋肉を短期間で増強することによって疾患を処置するための使用である。
一態様において、本発明の使用は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善することによって疾患を処置するための使用である。
一態様において、本発明の使用は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持することによって疾患を処置するための使用である。
【0057】
[被検試料のシナプス形成促進作用の測定方法]
本発明の別の側面は、被検試料のシナプス形成促進作用を測定する方法に関する。この側面において、被検試料を哺乳動物等の対象(例えば、非ヒト哺乳動物またはヒト)に投与するステップ、および当該対象の神経細胞においてシナプス形成の促進の程度を評価するステップを含む、方法が提供され得る。被検試料は、例えば、本発明の化合物、または本発明の組成物であり得る。被検試料は、例えば、シナプス形成促進作用を有する化合物または有しない化合物であり得る。本発明の組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。シナプス形成の促進の程度の評価は、本発明の化合物、または本発明の組成物の非投与群との比較により行われ得る。また、シナプス形成の促進の程度の評価は、シナプス形成促進作用を有する物質(基準物質)の投与群との比較により行われてもよい。シナプス形成の促進の程度を評価することは、例えば、頭皮上電極および脳表電極等の脳波計を用いて測定することができる。あるいは、当該対象において障害された脳機能の回復に基づいて評価することができる。
【0058】
[筋肉を増強するための組成物]
本発明の別の側面は、本発明の化合物を含む、筋肉を増強するための組成物(「本発明の筋肉増強用組成物」と記す場合がある)に関する。
一態様において、本発明の筋肉増強用組成物は、食品組成物である。
【0059】
一態様において、食品組成物は、任意の食品(動物、植物等、生物そのものは除く)を指し、例えば、以下からなる群から選択される1以上の食品である:乳製品および類似製品(乳脂肪を植物油脂で部分的または完全に置き換えた製品)、油脂および脂肪エマルジョン、シャーベットおよびソルベを含む食用氷、果実および野菜(キノコ類、根・塊茎、豆類・マメ科植物、およびアロエを含む)、海藻、および種実類に由来する製品、菓子類、穀粒、根・塊茎、豆類、マメ科植物およびヤシの中果皮または柔らかい芯に由来する製品、ベーカリー製品、家禽肉および猟鳥獣肉を含む製品、軟体動物、甲殻類、および棘皮動物を含む魚類・水産製品、卵製品、ハチミツを含む甘味料、香辛料、スープ、ソース、サラダ、タンパク質製品、特殊栄養用途食品、ノンアルコール飲料、アルコール飲料、香味製品(ジャガイモ、穀物、穀物粉またはデンプンを主原料とするスナック、ナッツおよびナッツミックス等の加工ナッツ、魚類を主原料とするスナック等)、調理済み食品等、またはこれらの抽出物またはこれらの混合物。
【0060】
一態様において、食品は、健康の保持増進に資する食品であり、例えば、健康食品、サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、機能性食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、機能性表示食品等である。
一態様において、本発明の筋肉増強用組成物は、神経の損傷、疾患、および老化等によって低下し得る神経機能を維持および改善するための組成物である。
【0061】
一態様において、本発明の筋肉増強用組成物は、筋肉を短期間で増強するための組成物である。
一態様において、本発明の筋肉増強用組成物は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための組成物である。
一態様において、本発明の筋肉増強用組成物は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための組成物である。
一態様において、本発明の筋肉増強用組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤である。
【0062】
[筋肉を増強するための方法]
本発明の別の側面は、筋肉を増強するための方法であって、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物を、神経細胞に接触させるステップを含む、前記方法(「本発明の筋肉増強方法」と記す場合がある)に関する。本発明の筋肉増強方法において、本発明の筋肉増強用組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、神経細胞は、中枢神経細胞および/または末梢神経細胞である。
一態様において、神経細胞は、運動神経細胞である。
一態様において、神経細胞は、ヒト神経細胞である。
一態様において、本発明の筋肉増強方法は、シナプス前部および/または後部を形成するステップをさらに含む。
【0063】
一態様において、シナプス後部は、LRRTM(leucine-rich repeat transmembrane neuronal protein)ファミリー分子を発現している。
一態様において、シナプス後部は、LRRTM2(leucine-rich repeat transmembrane neuronal protein 2)を発現している。
一態様において、本発明の筋肉増強方法は、in vitroの方法である。
一態様において、本発明の筋肉増強方法は、ヒトを除く動物に対してなされる。
【0064】
一態様において、本発明の筋肉増強方法は、筋肉を短期間で増強するための方法である。
一態様において、本発明の筋肉増強方法は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための方法である。
一態様において、本発明の筋肉増強方法は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための方法である。
【0065】
[筋肉を増強するための医薬組成物]
本発明の別の側面は、本発明の化合物を含む、筋肉を増強するための医薬組成物(「本発明の筋肉増強用医薬組成物」と記す場合がある)に関する。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬組成物は、筋肉を短期間で増強するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬組成物は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬組成物は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための医薬組成物である。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤である。
【0066】
[筋肉増強剤]
本発明の別の側面は、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物を含む、筋肉増強剤(「本発明の筋肉増強剤」と記す場合がある)に関する。
一態様において、本発明の筋肉増強剤は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む。
一態様において、本発明の筋肉増強剤は、筋肉を短期間で増強するための剤である。
一態様において、本発明の筋肉増強剤は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための剤である。
一態様において、本発明の筋肉増強剤は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための剤である。
一態様において、本発明の筋肉増強剤は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤である。
【0067】
[筋肉を増強するための医薬の製造における使用]
本発明の別の側面は、筋肉を増強するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物の使用(「本発明の筋肉増強用医薬の製造における使用」と記す場合がある)に関する。本発明の筋肉増強用医薬の製造における使用において、本発明の筋肉増強用組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬の製造における使用は、筋肉を短期間で増強するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物の使用である。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬の製造における使用は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物の使用である。
一態様において、本発明の筋肉増強用医薬の製造における使用は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するための医薬の製造における、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物の使用である。
【0068】
[筋肉増強によって疾患を処置するための方法]
本発明の別の側面は、筋肉増強によって疾患を処置するための方法であって、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物を、対象に投与するステップ、および筋肉を増強するステップを含む、前記方法(「本発明の筋肉増強による処置方法」と記す場合がある)に関する。本発明の筋肉増強による処置方法において、本発明の筋肉増強用組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、本発明の筋肉増強による処置方法は、筋肉を短期間で増強するステップをさらに含む。
一態様において、本発明の筋肉増強による処置方法は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善するステップをさらに含む。
一態様において、本発明の筋肉増強による処置方法は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持するステップをさらに含む。
【0069】
[筋肉増強によって疾患を処置するための使用]
本発明の別の側面は、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物の、筋肉増強によって疾患を処置するための使用(「本発明の筋肉増強による使用」と記す場合がある)に関する。本発明の筋肉増強による使用において、本発明の筋肉増強用組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。
一態様において、本発明の筋肉増強による使用は、筋肉を短期間で増強することによって疾患を処置するための使用である。
一態様において、本発明の筋肉増強による使用は、筋肉を増強することによってフレイルを予防または改善することによって疾患を処置するための使用である。
一態様において、本発明の筋肉増強による使用は、筋肉を増強することによって外傷または外科手術後に筋力を回復または維持することによって疾患を処置するための使用である。
【0070】
[被検試料の筋肉増強作用の測定方法]
本発明の別の側面は、被検試料の筋肉増強作用を測定する方法に関する。この側面において、被検試料を哺乳動物等の対象(例えば、非ヒト哺乳動物またはヒト)に投与するステップ、および当該対象の筋肉増強の程度を評価するステップを含む、方法が提供され得る。被検試料は、例えば、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物であり得る。被検試料は、例えば、筋肉増強作用を有する化合物または有しない化合物であり得る。本発明の筋肉増強用組成物は、錠剤、散剤、シロップ剤、またはカプセル剤であり得る。筋肉増強の程度の評価は、本発明の化合物、または本発明の筋肉増強用組成物の非投与群との比較により行われ得る。また、筋肉増強の程度の評価は、筋肉増強作用を有する物質(基準物質)の投与群との比較により行われてもよい。筋肉増強の程度は、例えば、握力、脚筋力、背筋力、垂直跳び、立ち幅跳び、ボール投げ、上体起こし、懸垂等を測定することによって評価することができる。
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これらは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0071】
細胞種と培地
ヒトiPS誘導グルタミン酸作動性神経細胞およびヒトiPS誘導運動神経細胞は、CDI(Cellular Dynamics International, Inc.)(米国)より購入した。培地は、Neurobasal plus medium, B27 plus supplement(Thermo Fischer Scientific)を用い、20μg/ml BDNF、20μg/ml GDNF、ペニシリン・ストレプトマイシンを添加した。
【0072】
例1.LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズの調製
ストレプトアビジン固相化マイクロビーズ(Bangs Laboratories, Inc;ポリスチレン製、平均直径9.94μm)をwash buffer(PBS、0.01% BSA、0.05% TritonX-100)で2回洗浄し、ビオチン化されたanti-human IgG(Fc specific)抗体(sigma-aldrich社;mouse monoclonal)とbinding buffer(PBS、0.01% BSA)中で反応させ、ストレプトアビジン固相化マイクロビーズにビオチン化anti-human IgG(Fc specific)抗体を固相化した。このビーズをwash bufferで3回洗浄したものをストレプトアビジン-anti-human IgGFc抗体ビーズとした。
【0073】
次にストレプトアビジン-anti-human IgGFc抗体ビーズをbinding bufferに懸濁し、そこにLRRTM2の細胞外ドメイン(配列番号2で示されるアミノ酸配列の1番目から389番目)とヒトIgGのFc部の融合タンパク質(LRRTM2-Fc;R&D systems社)を添加し、LRRTM2-Fcをストレプトアビジン-anti-human IgGFc抗体ビーズに固相化した。反応後、wash bufferで洗浄し、binding bufferに懸濁した。これをLRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ懸濁液とした。
なお、陰性コントロールとして、Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズを、LRRTM2の細胞外ドメインとヒトIgGのFc部の融合タンパク質の代わりにヒトIgGのFc部(Native human IgG Fc fragment protein;Abcam社)を添加して、上記と同様にして作成した。
【0074】
例2.ヒトグルタミン酸作動性神経細胞へのシナプス前部形成誘導活性
LRRTM2によるヒトグルタミン酸作動性神経細胞へのシナプス前部形成誘導活性の検討を以下のようにして行った。
ヒトiPS誘導グルタミン酸作動性神経細胞はCDIから購入した。CDIのプロトコルに従い、4x104個の細胞を含むニューロスフェアを作成し、2~3日培養後これらニューロスフェアをマトリックスコートした96ウェルプレートに1つずつ播種した。ニューロスフェアはニューロン培地(Neurobasal plus medium、B27 plus supplement、20μg/ml BDNF、20μg/ml GDNF、ペニシリン・ストレプトマイシン)で7~10日間培養した後、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズまたはFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(陰性コントロール)懸濁液を各ウェル0.5μLずつ加え、20~48時間共培養した。その後共培養細胞を2%PFAで固定し、界面活性剤による細胞膜の透過処理そしてブロッキングの後、シナプス前部のマーカー(シナプシン1)で免疫染色を行なった。また、神経突起を可視化するため、同時にbetaIII tubulin抗体による免疫染色も行なった。免疫染色は以下の抗体を用いた:Anti-betaIII tubulin(Tuj1)、mouse monoclonal(神経突起のマーカー);Anti-synapsin(synaptic systems社)、rabbit polyclonal(前シナプスのマーカー)。ブロッキングは、Blocking Buffer(PBS+2% Normal Goat Serum+1% BSA+0.02% TritonX100)を用いた。
【0075】
その結果、ヒトiPS誘導グルタミン作動性神経軸索とLRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズの接着点において、シナプシン1の集積が引き起こされた一方、陰性コントロールであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ上ではその集積は認められなかった。結果を
図2に示す。この実験から、LRRTM2の細胞外ドメインはヒトiPS誘導グルタミン作動性神経細胞においてシナプス前部の形成誘導活性があることが確かめられた。
【0076】
例3.ヒト運動神経細胞へのシナプス前部形成誘導活性
LRRTM2によるヒト運動神経細胞へのシナプス前部形成誘導活性の検討を以下のようにして行った。
ヒトiPS誘導運動神経細胞は、CDIから購入した。CDIのプロトコルに従い、2x104個の細胞を含むニューロスフェアを作成し、2~3日培養後これらニューロスフェアをマトリックスコートした96ウェルプレートに1つずつ播種した。ニューロスフェアはニューロン培地(Neurobasal plus medium、B27 plus supplement、20μg/ml BDNF、20μg/ml GDNF、ペニシリン・ストレプトマイシン)で10~21日間培養した後、LRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズまたはFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(陰性コントロール)懸濁液を各ウェル0.5μLずつ加え、20~48時間共培養した。免疫染色は上記の実験と同様に行なったが、シナプス前部のマーカーとしてシナプシン1に加えてVAChT(vesicular acetylcholine transporter)も使用した。抗体はAnti-VAChT(synaptic systems社)、rabbit polyclonalを用いた。
【0077】
その結果、ヒトiPS誘導運動神経軸索とLRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズとの接着点においてシナプシン1が強く集積した一方、陰性コントロールビーズであるFc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズとの接着点ではシナプシン1は集積しなかった。結果を
図3に示す。さらに、
図4に示すようにヒトiPS誘導運動神経軸索とLRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズとの接着点ではVAChTの集積が認められたが、一方、陰性コントロールビーズとの接着点ではその集積は認められなかった。これらのことから、LRRTM2の細胞外ドメインはヒト運動神経細胞においてコリン作動性シナプス前部の形成誘導活性があることが実証された。この事実は、これまでの知見に乏しい運動神経細胞のシナプス形成メカニズムにおいて非常に貴重で新規の発見である。
【0078】
例4.ヒト運動神経細胞のシナプス前部形成を促進する化合物のスクリーニング
上記の例3の方法を用いて、ヒト運動神経細胞のシナプス前部形成を促進する化合物のスクリーニングを行った。
FDA承認薬化合物のライブラリーに掲載されている化合物1814種類を用い、上記の例3と同様にして、シナプシン1の形成を確認した。評価すべき各化合物は、マイクロビーズとともに、最終濃度10μMとなるように添加した。シナプシン前部マーカー(シナプシン1)を免疫染色し、マイクロビーズ上の蛍光強度の計測により評価したところ、チアミンを含む7種の化合物についてSSMD(strictly standardized mean difference)が2以上であり、顕著にシナプス形成を促進していることが確認できた(
図5)。
【0079】
例5.チアミンのシナプス形成促進効果
上記の例3の方法を用いて、チアミンのシナプス形成促進効果を測定した。
チアミン塩酸塩(MedChemExpress社)(0.1%DMSOに溶解)またはコントロールとして0.1%DMSOを用い、上記の例3と同様にして、シナプシン1の形成を確認した。チアミン塩酸塩は、マイクロビーズとともに、段階希釈系列となるように添加した。シナプシン前部マーカー(シナプシン1)を免疫染色し、マイクロビーズ上の蛍光強度の計測により評価し、シナプス形成を促進しているか確認した。
陽性ビーズ率は、1つの画像データにおいて、(シナプシン1陽性ビーズの数)/(軸索が近接しているビーズの数)×100(%)として算出した。3つの試料(トリプリケート)それぞれから3つの画像データを取得し、それぞれの画像データについて陽性ビーズ率を算出し、これらの平均値および標準偏差を算出した。
また、蛍光強度/陽性ビーズ数は、1つの画像データにおいて、(蛍光強度を合計した値)/(シナプシン1陽性ビーズの数)として算出した。3つの試料(トリプリケート)それぞれから3つの画像データを取得し、それぞれの画像データについて蛍光強度/陽性ビーズ数を算出し、これらの平均値および標準偏差を算出した。
【0080】
その結果、コントロールとしてDMSOを用いた場合と比較して、チアミン塩酸塩を用いると、いずれの濃度においても、ヒトiPS誘導運動神経軸索とLRRTM2-Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズとの接着点においてシナプシン1が強く集積した。陽性ビーズ率の結果を
図6に、蛍光強度/陽性ビーズ数の結果を
図7に、これらのデータの元になった画像データを
図8に示す。なお、
図6および7において、Fc-抗ヒトIgGFc抗体マイクロビーズ(コントロール-Fcリンカー(+))は陰性コントロールであり、かかる実験系ではもとよりシナプス形成が生じ得ないため、チアミンを添加してもシナプシン1陽性ビーズはほとんど確認されなかった。
以上から、チアミン塩酸塩、すなわちチアミンは、顕著にシナプス形成を促進することが実証された。
【0081】
例6.チアミンの誘導体またはその塩のシナプス形成促進効果
上記の例3の方法を用いて、チアミンの誘導体またはその塩のシナプス形成促進効果を測定する。
チアミンの誘導体(例えば、チアミン一リン酸、チアミン二リン酸、チアミン三リン酸、アデノシンチアミン二リン酸、アデノシンチアミン三リン酸、フルスルチアミン、スルブチアミン、ベンフォチアミン、オキシチアミン、ピリチアミン等)またはその塩を用い、上記の例3と同様にして、シナプシン1の形成を確認する。評価すべき各化合物は、マイクロビーズとともに、一定の最終濃度となるように添加するか、または段階希釈系列となるように添加する。シナプシン前部マーカー(シナプシン1)を免疫染色し、マイクロビーズ上の蛍光強度の計測により評価し、シナプス形成を促進しているか確認する。
【0082】
例7.チアミンまたはその誘導体またはその塩の筋肉増強効果
チアミンまたはその誘導体またはその塩の筋肉増強効果を測定する。
対象に所定の期間、1日に1回または複数回、所定の時間にチアミンまたはその誘導体またはその塩を摂取させる。チアミンまたはその誘導体またはその塩は、任意の食品に混合するか、または飲料水等に溶解し、食品または飲料水等の飲食を通じて対象に摂取させることができる。また、チアミンまたはその誘導体またはその塩の製剤(錠剤、散剤、シロップ剤、カプセル剤等)を対象に摂取させることもできる。対象は、任意の哺乳動物であり、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ラット、マウス、コアラ等を挙げることができるが、好ましくはヒトである。かかる実験の前後で、対象の握力、脚筋力、背筋力、垂直跳び、立ち幅跳び、ボール投げ、上体起こし、懸垂等を測定し、得られた測定結果の比較からチアミンまたはその誘導体またはその塩の筋肉増強効果を測定することができる。筋肉増強効果の測定は、チアミンまたはその誘導体またはその塩の非摂取群との比較によっても行われ得る。また、筋肉増強効果の測定は、筋肉増強作用を有する物質(基準物質)の摂取群との比較によっても行われ得る。
【0083】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。