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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053551
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】リーン車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/16 20060101AFI20220330BHJP
   F16H 59/50 20060101ALI20220330BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20220330BHJP
   F16H 59/36 20060101ALI20220330BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
F16H61/16
F16H59/50
F16H61/682
F16H59/36
F16H59/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019019427
(22)【出願日】2019-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】大畑 忍
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA04
3J552MA13
3J552MA17
3J552NA08
3J552NB01
3J552NB08
3J552PA34
3J552PA51
3J552RB21
3J552SA23
3J552SB12
3J552SB27
3J552SB30
3J552SB33
3J552TA10
3J552TB02
3J552TB13
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VB01W
3J552VB04W
3J552VB07W
3J552VC01W
3J552VE03Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リーン車両が傾斜状態で旋回する際に、変速によるリーン車両の姿勢変化を低減可能なリーン車両を提供する。
【解決手段】リーン車両である車両は、複数の変速段及びクラッチを有し、前記複数の変速段を自動で段階的に切り換えることにより、エンジンから前輪及び後輪の少なくとも一方に伝達する駆動力を変更する歯車式の多段自動変速機と、多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、車両が傾斜状態で旋回している際に、車両の車両状態に基づいて、前記複数の変速段の切り換えによって生じる、車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の変化を予測し、車両が傾斜状態で旋回するときの前記リーン角の変化が予測された場合に、前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記リーン角の変化を抑制する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左に旋回する際には左に傾斜し且つ右に旋回する際には右に傾斜するリーン車両であって、
車体と、
前輪及び後輪を含む複数の車輪と、
前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方に駆動力を供給する駆動源と、
複数の変速段及びクラッチを有し、前記複数の変速段を自動で段階的に切り換えることにより、前記駆動源から前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方に伝達する駆動力を変更する歯車式の多段自動変速機と、
前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを制御する変速制御装置と、
を備え、
前記変速制御装置は、
リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両の車両状態に基づいて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の変化を予測し、
前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときの前記リーン角の変化が予測された場合に、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記駆動力の変化を抑制する、リーン車両。
【請求項2】
請求項1に記載のリーン車両において、
前記変速制御装置は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両に作用する遠心力に関連する物理量及び前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の少なくとも一方に基づいて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときの前記リーン角の変化を予測する、リーン車両。
【請求項3】
請求項2に記載のリーン車両において、
前記遠心力に関連する物理量は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している状態において、前記リーン車両の車速、前記リーン車両のヨーレート、及び前記リーン車両が傾斜状態で旋回するコーナーの曲率半径の少なくとも一つを含む、リーン車両。
【請求項4】
請求項3に記載のリーン車両において、
前記変速制御装置は、前記リーン車両が傾斜状態で異なる曲率半径を有する複数のコーナーを旋回するときの前記リーン角が同じ場合に、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記コーナーの曲率半径に応じて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記駆動力の変化を抑制する、リーン車両。
【請求項5】
請求項3に記載のリーン車両において、
前記変速制御装置は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回する前記コーナーの曲率半径が閾値以下の場合、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記駆動力の変化を抑制する、リーン車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左に旋回する際には左に傾斜し且つ右に旋回する際には右に傾斜するリーン車両に関する。
【背景技術】
【0002】
変速制御装置の変速を制御する自動2輪車の変速制御装置が知られている。このような変速制御装置として、例えば特許文献1には、車体のロール角に応じて駆動力伝達の態様が異なる変速制御を実行可能な自動2輪車の変速制御装置が開示されている。
【0003】
詳しくは、前記特許文献1に開示されている前記変速制御装置は、自動2輪車のロール角を検知するロール角検知手段と、前記ロール角が第1のロール角を超えた場合には通常変速制御を行わないようにした制御部とを備えている。前記制御部は、前記ロール角が、前記第1のロール角から該第1のロール角よりも大きい第2のロール角までの領域では、前記通常変速制御よりも駆動力の経時的変化が小さいソフト変速制御によって変速動作を行う。
【0004】
また、前記特許文献1に開示されている前記変速制御装置では、前記制御部は、前記ソフト変速制御の際に、ヨー角と前記ロール角との関係に基づいて自動2輪車がコーナー進入時であるかコーナー脱出時であるかを判定する。前記制御部は、コーナー進入時であると判定された場合にはシフトアップを禁止してシフトダウンのみ前記ソフト変速制御を実行するとともに、コーナー脱出時であると判定された場合にはシフトダウンを禁止してシフトアップのみ前記ソフト変速制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-197809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示されている変速制御装置では、制御部は、自動2輪車がコーナー進入時であるかコーナー脱出時であるかによって、変速制御を変える。
【0007】
ところで、リーン車両が傾斜状態で旋回している際には、変速による前記リーン車両の姿勢変化を低減することが望まれている。すなわち、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際には、車両の姿勢変化が生じないように、変速制御を行うことが望まれている。
【0008】
本発明は、リーン車両が傾斜状態で旋回する際に、変速によるリーン車両の姿勢変化を低減可能なリーン車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、リーン車両が傾斜状態で旋回する際に、変速によるリーン車両の姿勢変化を低減可能なリーン車両について検討した。
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下のような構成に想到した。
【0011】
本発明の一実施形態に係るリーン車両は、左に旋回する際には左に傾斜し且つ右に旋回する際には右に傾斜するリーン車両である。このリーン車両は、車体と、前輪及び後輪を含む複数の車輪と、前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方に駆動力を供給する駆動源と、複数の変速段及びクラッチを有し、前記複数の変速段を自動で段階的に切り換えることにより、前記駆動源から前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方に伝達する駆動力を変更する歯車式の多段自動変速機と、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを制御する変速制御装置と、を備える。前記変速制御装置は、リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両の車両状態に基づいて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の変化を予測し、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときの前記リーン角の変化が予測された場合に、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記駆動力の変化を抑制する。
【0012】
リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、多段自動変速機における複数の変速段を切り換えた場合、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角が変化する可能性がある。これにより、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記多段自動変速機の変速動作によって前記リーン車両の姿勢が変化する可能性がある。
【0013】
これに対し、上述の構成では、変速制御装置は、上述のような前記リーン車両の姿勢変化が予測された場合に、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる駆動力の変化を抑制する。これにより、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の変化を抑制できる。したがって、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両に生じる姿勢変化を低減できる。
【0014】
他の観点によれば、本発明のリーン車両は、以下の構成を含むことが好ましい。前記変速制御装置は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両に作用する遠心力に関連する物理量及び前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の少なくとも一方に基づいて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときの前記リーン角の変化を予測する。
【0015】
リーン車両が傾斜状態で旋回している際、前記リーン車両に作用する遠心力に関連する物理量及び前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の少なくとも一方によっては、多段自動変速における複数の変速段の切り換えによる駆動力の変化により、前記リーン車両の前記リーン角が変化する場合がある。そのため、前記遠心力に関連する物理量及び前記リーン車両の前記リーン角の少なくとも一方に基づいて、前記多段自動変速における前記複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両の前記リーン角の変化を予測することができる。
【0016】
他の観点によれば、本発明のリーン車両は、以下の構成を含むことが好ましい。前記遠心力に関連する物理量は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している状態において、前記リーン車両の車速、前記リーン車両のヨーレート、及び前記リーン車両が傾斜状態で旋回するコーナーの曲率半径の少なくとも一つを含む。
【0017】
これにより、リーン車両が傾斜状態で旋回している状態で、前記リーン車両に作用する遠心力に関連する物理量を用いて、多段自動変速における複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角の変化を、予測することができる。
【0018】
他の観点によれば、本発明のリーン車両は、以下の構成を含むことが好ましい。前記変速制御装置は、前記リーン車両が傾斜状態で異なる曲率半径を有する複数のコーナーを旋回するときの前記リーン角が同じ場合に、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記コーナーの曲率半径に応じて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記駆動力の変化を抑制する。
【0019】
リーン車両が傾斜状態で異なる曲率半径を有する複数のコーナーを旋回するときのリーン角が同じ場合でも、曲率半径が小さいコーナーを前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際には、多段自動変速機における複数の変速段の切り換えによって、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角が変化しやすい。よって、上述の構成のように、前記コーナーの曲率半径に応じて、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる駆動力の変化を抑制することにより、前記多段自動変速機における複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両の姿勢変化を低減できる。
【0020】
他の観点によれば、本発明のリーン車両は、以下の構成を含むことが好ましい。前記変速制御装置は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回する前記コーナーの曲率半径が閾値以下の場合、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる前記駆動力の変化を抑制する。
【0021】
コーナーの曲率半径が閾値以下の場合には、前記コーナーを傾斜状態で旋回するリーン車両は、多段自動変速機における複数の変速段の切り換えによって、前記リーン車両が傾斜状態で旋回するときのリーン角が変化しやすい。これに対し、上述のように、前記コーナーの曲率半径が閾値以下の場合、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記多段自動変速機における前記複数の変速段の切り換えを禁止、または、前記複数の変速段の切り換えによる駆動力の変化を抑制することにより、前記多段自動変速機における複数の変速段の切り換えによって生じる、前記リーン車両の姿勢変化を、低減できる。
【0022】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施例のみを定義する目的で使用されるのであって、前記専門用語によって発明を制限する意図はない。
【0023】
本明細書で使用される「及び/または」は、一つまたは複数の関連して列挙された構成物のすべての組み合わせを含む。
【0024】
本明細書において、「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」及びそれらの変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分、及び/または、それらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/または、それらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0025】
本明細書において、「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」、及び/または、それらの等価物は、広義の意味で使用され、“直接的及び間接的な”取り付け、接続及び結合の両方を包含する。さらに、「接続された」及び「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な電気的接続または結合を含むことができる。
【0026】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0027】
一般的に使用される辞書に定義された用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0028】
本発明の説明においては、いくつもの技術および工程が開示されていると理解される。これらの各々は、個別の利益を有し、他に開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
【0029】
したがって、明確にするために、本発明の説明では、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。しかしながら、本明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0030】
本明細書では、本発明に係る動力源付きリーン車両の実施形態について説明する。
【0031】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な例を述べる。しかしながら、当業者は、これらの具体的な例がなくても本発明を実施できることが明らかである。
【0032】
よって、以下の開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0033】
[リーン車両]
本明細書において、リーン車両とは、傾斜姿勢で旋回する車両である。具体的には、リーン車両は、車両の左右方向において、左に旋回する際に左に傾斜し、右に旋回する際に右に傾斜する車両である。リーン車両は、一人乗りの車両であってもよいし、複数人が乗車可能な車両であってもよい。なお、リーン車両は、2輪車だけでなく、3輪車または4輪車など、傾斜姿勢で旋回する全ての車両を含む。
【0034】
[駆動源]
本明細書において、駆動源とは、車輪に対して駆動力を付与する装置を意味する。駆動源は、例えば、エンジン、モータ、エンジン及びモータを組み合わせたハイブリッドシステムなどの駆動力を付与可能な装置を含む。
【0035】
[自動変速機]
本明細書において、自動変速機とは、変速制御装置で生成された信号に基づいて変速動作を行う装置を意味する。よって、前記自動変速機は、運転者が変速操作を行うことなく、変速動作を行う。
【0036】
[車両状態]
本明細書において、車両状態とは、リーン車両が傾斜状態で旋回している際の前記リーン車両の状態に関する情報、すなわち、前記リーン車両の姿勢、前記リーン車両の走行速度(車速)、及び、前記リーン車両に作用する遠心力及び駆動力等を意味する。具体的には、前記車両状態は、リーン車両が傾斜状態で旋回している際の傾斜角度(リーン角度)、前記リーン車両の旋回時の車速、旋回によって前記リーン車両に作用する遠心力に関する物理量、前記リーン車両の駆動源から多段自動変速機を介して車輪に伝達される駆動力に関する物理量などを意味する。前記遠心力に関連する物理量は、前記リーン車両が傾斜状態で旋回している状態において、前記リーン車両の車速、前記リーン車両のヨーレート、及び前記リーン車両が傾斜状態で旋回するコーナーの曲率半径の少なくとも一つを含む。
【0037】
[姿勢変化]
本明細書において、リーン車両の姿勢変化とは、前記リーン車両の左右方向の傾きが変化することにより、前記リーン車両の姿勢が変化することを意味する。すなわち、前記リーン車両の姿勢変化は、例えば前記リーン車両が傾斜状態で旋回している際に、前記リーン車両が左に傾いたり右に傾いたりすることにより、前記リーン車両の姿勢が変化することを意味する。
【0038】
[リーン角]
本明細書において、リーン角とは、リーン車両が、路面の鉛直線に対し、回転軸線を中心として左または右に傾いた傾斜状態で旋回する際に、前記路面の鉛直線と前記リーン車両の上下方向基準線とがなす角度を意味する。前記上下方向基準線は、前記リーン車両の上下方向に延びる基準線である。
【0039】
[ヨーレート]
本明細書において、ヨーレートとは、リーン車両が傾斜状態で旋回する際に、前記リーン車両のヨー角度が変化する速さを意味する。前記ヨー角度は、前記リーン車両が重心点を通る鉛直軸まわりに回転する際の回転角度を意味する。
【発明の効果】
【0040】
本発明の一実施形態によれば、リーン車両が傾斜状態で旋回する際に、変速によるリーン車両の姿勢変化を低減可能なリーン車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、実施形態1に係る車両の左側面図である。
図2図2は、多段自動変速機の概略構成を示す断面図である。
図3図3は、シフト機構の概略構成を示す断面図である。
図4図4は、左方向に旋回する車両を前方から見た図である。
図5図5は、制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図6図6は、変速制御判定データの一例を示す図である。
図7図7は、制御装置による変速制御の動作フローを示す図である。
図8図8は、実施形態1の変形例に係る図6相当図である。
図9図9は、実施形態1の変形例に係る図7相当図である。
図10図10は、実施形態2に係る車両の多段自動変速機の図2相当図である。
図11図11は、多段自動変速機の構成を模式的に示す図である。
図12図12は、ヨーレートと遠心力との関係を説明するための図である。
図13図13は、ヨーレート及びリーン角を用いた変速制御判定データの図6相当図である。
図14図14は、車両の左側面図、多段自動変速機の断面図及び制御装置のブロック図のそれぞれ一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下で、各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0043】
以下、図中の矢印Fは、車両の前方向を示す。図中のRRは、車両の後方向を示す。図中の矢印Uは、車両の上方向を示す。図中の矢印Rは、車両の右方向を示す。図中の矢印Lは、車両の左方向を示す。また、前後左右の方向は、それぞれ、車両を運転する運転者から見た場合の前後左右の方向を意味する。
【0044】
[実施形態1]
<全体構成>
図1に、本発明の実施形態に係る車両1の左側面図を示す。車両1は、例えば、自動2輪車である。すなわち、車両1は、左に旋回する際には左に傾斜し且つ右に旋回する際には右に傾斜するリーン車両である。
【0045】
車両1は、車体2と、前輪3と、後輪4と、制御装置7と、傾斜検出部61と、車速検出部62と、エンジンユニット10とを備える。なお、傾斜検出部61は、図5に示す。
【0046】
車体2のフレームには、後輪4に対して回転駆動力を供給するためのエンジンユニット10が取り付けられている。エンジンユニット10は、駆動源の一例であるエンジン11と、エンジン11から出力される回転を変速する多段自動変速機12とを含む。エンジンユニット10の詳しい構成は、後述する。
【0047】
車体2には、エンジンユニット10の駆動を制御する制御装置7が配置されている。制御装置7は、いわゆるECU(Electric Control Unit)であり、エンジンユニット10以外にも、車両1における他の構成部品の駆動も制御する。
【0048】
また、車体2には、傾斜検出部61及び車速検出部62も配置されている。傾斜検出部61は、車両1の傾斜姿勢に関する情報を検出する。本実施形態では、傾斜検出部61は、例えば慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であり、車両1が左または右に傾斜した際のリーン角速度を検出する。車速検出部62は、車両1の走行速度(車速)を検出する。傾斜検出部61は、車両1の左右方向に延びる回転軸を中心として前または後ろに傾斜した際の角速度(ピッチ角速度)、及び、車両1を上方から見て車両1が鉛直軸を中心として回転した際の角速度(ヨー角速度)の少なくとも一方を検出してもよい。車速検出部62は、例えば、前輪3の回転速度を検出することにより、車両1の車速を検出する。車速検出部62は、後輪4の回転速度を検出してもよい。車速検出部62は、車両1の車速を検出可能な他の構成を有していてもよい。なお、車体2には、エンジン回転数検出部及びスロットル開度検出部も配置されていてもよい。前記エンジン回転数検出部は、エンジン11の回転数を検出する。前記スロットル開度検出部は、図示しないスロットルバルブの開度を検出する。
【0049】
<エンジンユニット>
次に、エンジンユニット10の構成を説明する。
【0050】
エンジンユニット10は、エンジン11と、多段自動変速機12とを備えている。エンジン11は、一般的なエンジンと同様の構成を有する。そのため、エンジン11の詳しい説明は、省略する。
【0051】
多段自動変速機12は、複数の変速段を有し、前記変速段を自動で段階的に切り換えることにより、エンジン11から後輪4に伝達する駆動力を変更する。具体的には、多段自動変速機12は、変速機構20と、クラッチ40と、シフト機構50とを備えている。
【0052】
なお、変速段を自動で段階的に切り換えるとは、車両1を運転する運転者が変速操作を行うことなく、変速比が大きい次の変速段または変速比が小さい次の変速段に切り替えることを意味する。この際、多段自動変速機12には、車両1を運転する運転者から変速段の切り換えを指示する指示信号が入力されてもよいし、前記指示信号が入力されなくてもよい。
【0053】
図2に、多段自動変速機12の変速機構20及びクラッチ40の概略構成を示す。図3に、多段自動変速機12のシフト機構50の概略構成を示す。図14に、車両1及び多段自動変速機12の概略構成を示す。この図14には、後述する制御装置7のブロック図も示す。なお、図14は、図1図2及び図5と同じ図であるため、図14の詳しい説明は省略する。
【0054】
変速機構20は、エンジン11の図示しないクランクシャフトに接続されている。変速機構20は、前記クランクシャフトから伝達されるトルクを所定のトルクに変更して出力する。
【0055】
クラッチ40は、前記クランクシャフトの回転を、変速機構20に対して伝達可能に構成されている。すなわち、クラッチ40は、変速機構20に対する前記クランクシャフトの回転の伝達及び非伝達を切り換え可能に構成されている。
【0056】
シフト機構50は、後述のシーケンシャルシフト機構30を介して変速機構20の変速動作を行うとともに、変速機構20で次の変速動作が行われるまでの間、変速機構20で選択された変速段を保持するように動作する。
【0057】
以上のように、多段自動変速機12の変速機構20には、クラッチ40を介してエンジン11から駆動力が伝達される。
【0058】
以下で、図2及び図3を用いて、変速機構20と、クラッチ40と、シフト機構50とを備えた多段自動変速機12の詳しい構成について説明する。
【0059】
クラッチ40は、例えば多板摩擦クラッチである。クラッチ40は、有底筒状のクラッチハウジング41と、有底筒状のクラッチボス42と、摩擦板である複数のフリクションプレート43及びクラッチプレート44と、プレッシャプレート45と、入力ギア46とを備える。なお、クラッチ40は、本実施形態のような多板式クラッチに限定されない。クラッチ40は、例えば、遠心ウェイトを用いた自動遠心クラッチであってもよい。
【0060】
クラッチハウジング41は、変速機構20のメインシャフト21に対して、同心状で且つメインシャフト21と相対回転可能に配置されている。有底筒状のクラッチハウジング41の底部は、入力ギア46と接続されている。入力ギア46は、エンジン11の前記クランクシャフトに設けられたギア(図示省略)と噛み合うことにより、該ギアと一体で回転する。クラッチハウジング41及び入力ギア46は、前記クランクシャフトとともに回転する一方、変速機構20のメインシャフト21に対して回転可能である。
【0061】
クラッチハウジング41の内部には、リング状の薄板である複数のフリクションプレート43が配置されている。複数のフリクションプレート43は、クラッチハウジング41内に、厚み方向に並んで配置されている。複数のフリクションプレート43は、クラッチハウジング41の内周面に、クラッチハウジング41とともに回転し且つクラッチハウジング41に対してメインシャフト21の軸方向に変位可能に取り付けられている。
【0062】
クラッチハウジング41の底部には、メインシャフト21の端部が貫通している。クラッチハウジング41を貫通したメインシャフト21の先端部には、クラッチボス42の底部が固定されている。よって、クラッチボス42は、メインシャフト21とともに回転する。
【0063】
クラッチボス42は、クラッチハウジング41の内方に配置されている。クラッチボス42の外周部分には、リング状の薄板である複数のクラッチプレート44が設けられている。すなわち、複数のクラッチプレート44は、クラッチボス42の外周面に、クラッチボス42とともに回転し且つクラッチボス42に対してメインシャフト21の軸方向に変位可能に取り付けられている。
【0064】
複数のフリクションプレート43及び複数のクラッチプレート44は、メインシャフト21の軸方向において交互に配置されている。
【0065】
プレッシャプレート45は、略円盤状の部材である。クラッチハウジング41、クラッチボス42及びプレッシャプレート45は、メインシャフト21に対し、メインシャフト21の軸方向に順に並んで配置されている。プレッシャプレート45は、前記軸方向においてクラッチボス42と対向するように、メインシャフト21の軸方向外方に配置されている。プレッシャプレート45は、クラッチボス42に対してメインシャフト21の軸方向に変位可能に設けられているとともに、クラッチスプリング47によってクラッチボス42に向かって押圧されている。
【0066】
上述のようにプレッシャプレート45がクラッチボス42に対して押圧されることにより、各フリクションプレート43及び各クラッチプレート44は、厚み方向に互いに押し付けられる。すなわち、複数のフリクションプレート43と複数のクラッチプレート44とが接続される。このように複数のフリクションプレート43と複数のクラッチプレート44とが接続された状態で、フリクションプレート43とクラッチプレート44との摩擦により、クラッチボス42とクラッチハウジング41とが一体で回転する。この状態が、クラッチ40の接続状態である。
【0067】
上述のクラッチ40の接続状態において、各フリクションプレート43及び各クラッチプレート44を介して、クラッチハウジング41からクラッチボス42、すなわち、入力ギア46からメインシャフト21に回転を伝達することができる。
【0068】
プレッシャプレート45には、メインシャフト21の軸方向に見た時に、中央部分に、プッシュロッド48が貫通している。プッシュロッド48は、メインシャフト21の軸方向に延びるように配置されている。すなわち、プッシュロッド48の軸方向は、メインシャフト21の軸方向と一致している。プッシュロッド48の一端部には、フランジ部48aが設けられている。プッシュロッド48の他端部は、ロッド49に接続されている。ロッド49は、クラッチアクチュエータ15によって軸線周りに回転可能である。クラッチアクチュエータ15は、制御装置7から出力されるクラッチ信号に応じて駆動制御される。
【0069】
プッシュロッド48は、ロッド49の回転によって、メインシャフト21の軸方向に移動可能に構成されている。プッシュロッド48がメインシャフト21から離間する方向(図2において右方向)に移動する場合、プッシュロッド48のフランジ部48aによって、プレッシャプレート45がクラッチボス42から前記軸方向に離間する方向に力を受ける。これにより、クラッチスプリング47は圧縮する方向に変形を生じるため、プレッシャプレート45がフリクションプレート43及びクラッチプレート44を押す力が低下する。
【0070】
よって、フリクションプレート43とクラッチプレート44との接触圧が低下する。これにより、フリクションプレート43とクラッチプレート44との接続が解除されて、クラッチボス42とクラッチハウジング41とが相対回転する。この状態が、クラッチ40の切断状態である。
【0071】
すなわち、クラッチ40は、プッシュロッド48がメインシャフト21の軸方向に移動することにより、接続状態と切断状態とに切り替えられる。
【0072】
なお、プレッシャプレート45は、プッシュロッド48に対し、軸受45aを介して回転可能である。これにより、クラッチ40が接続状態の場合に、プレッシャプレート45は、クラッチハウジング41及びクラッチボス42と一体で回転する。
【0073】
変速機構20は、有段式の変速機構である。変速機構20は、メインシャフト21と、該メインシャフト21と平行に配置された出力軸22と、複数の駆動ギア23と、複数の被駆動ギア24と、シーケンシャルシフト機構30とを備えている。シーケンシャルシフト機構30は、シフトカム31と、シフトフォーク32~34と、シフトフォーク32~34の移動をガイドするガイド軸35,36とを備える。
【0074】
メインシャフト21には、複数の駆動ギア23が設けられている。複数の駆動ギア23は、複数の変速段の一部を構成する変速ギアである。一方、出力軸22には、複数の駆動ギア23と常時噛み合う複数の被駆動ギア24が設けられている。複数の被駆動ギア24は、複数の変速段の一部を構成する変速ギアである。変速機構20は、複数の駆動ギア23と複数の被駆動ギア24とが一対一で常時噛み合う、いわゆる歯車式の変速機構である。
【0075】
変速機構20では、変速段に応じて、シーケンシャルシフト機構30によって、複数の駆動ギア23及び複数の被駆動ギア24のうち、駆動力を伝達する駆動ギア23及び被駆動ギア24の組み合わせが選択される。
【0076】
具体的には、複数の駆動ギア23のうち所定の駆動ギア23aは、メインシャフト21に対して回転方向に固定される一方、メインシャフト21の軸方向に移動可能である。複数の被駆動ギア24のうち所定の被駆動ギア24aは、出力軸22に対して回転方向に固定される一方、出力軸22の軸方向に移動可能である。前記所定の駆動ギア23a及び前記所定の被駆動ギア24aは、変速段に応じて、シーケンシャルシフト機構30により軸方向の位置が決定される。
【0077】
なお、複数の駆動ギア23のうち、前記所定の駆動ギア23aを除く駆動ギア23は、メインシャフト21に対して軸方向に固定され且つメインシャフト21に対して回転可能な駆動ギア23と、メインシャフト21に対して軸方向に固定され且つメインシャフト21と一体で回転可能な駆動ギア23とを含む。複数の被駆動ギア24のうち、前記所定の被駆動ギア24aを除く被駆動ギア24は、出力軸22に対して軸方向に固定され、出力軸22に対して回転可能である。
【0078】
変速機構20の構成は、従来の変速機構の構成(例えば特開2015-117798号公報など)と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0079】
シーケンシャルシフト機構30は、シフトカム31と、シフトフォーク32~34とを備えている。図3に示すように、シーケンシャルシフト機構30のシフトカム31の外周面には、カム溝31a~31cが形成されている。カム溝31a~31cは、それぞれシフトカム31の外周面に周方向に延びるように、シフトカム31の軸方向に並んで設けられている。本実施形態のカム溝31a~31cの構成は従来のカム溝の構成(例えば特開2015-117798号公報など)と同様なので、詳しい説明を省略するが、カム溝31a~31cは、それぞれ、シフトカム31の外周面に、シフトカム31の周方向の位置に応じてシフトカム31の軸方向における位置が変化するように設けられている。カム溝31a~31c内には、それぞれ、シフトフォーク32~34の一端部が位置付けられている。
【0080】
図2に示すように、シフトフォーク32~34は、シフトカム31の軸線と平行に配置されたガイド軸35,36に、ガイド軸35,36の軸方向に移動可能に設けられている。シフトフォーク32~34の他端部は、前記所定の駆動ギア23a及び前記所定の被駆動ギア24aに接続されている。これにより、シフトカム31が回転すると、シフトフォーク32~34は、シフトカム31の外周面に設けられたカム溝31a~31cに沿って、シフトカム31の軸方向に移動する。よって、シフトカム31の回転により、シフトフォーク32~34を介して、前記所定の駆動ギア23a及び前記所定の被駆動ギア24aの軸方向の位置が決定される。
【0081】
前記所定の駆動ギア23a及び該所定の駆動ギア23aに対してメインシャフト21の軸方向に隣り合う駆動ギア23は、それぞれ、互いに噛み合うドグ23b,23cを有する。前記所定の被駆動ギア24a及び該所定の被駆動ギア24aに対して出力軸22の軸方向に隣り合う被駆動ギア24は、それぞれ、互いに噛み合うドグ24b,24cを有する。上述のように、シフトカム31の回転により、シフトフォーク33を介して、前記所定の駆動ギア23aが軸方向に移動すると、前記所定の駆動ギア23aのドグ23bはメインシャフト21の軸方向に隣り合う駆動ギア23のドグ23cと噛み合う。シフトカム31の回転により、シフトフォーク32,34を介して、前記所定の被駆動ギア24aが軸方向に移動すると、前記所定の被駆動ギア24aのドグ24bは出力軸22の軸方向に隣り合う被駆動ギア24のドグ24cと噛み合う。
【0082】
これにより、メインシャフト21から出力軸22に駆動力を伝達する駆動ギア23及び被駆動ギア24の組み合わせが選択される。すなわち、変速機構20では、シフトカム31の回転に応じてシフトフォーク33を介して前記所定の駆動ギア23aが軸方向に移動した場合、複数の駆動ギア23のうち特定の変速段(所定の変速段以外の変速段)に応じた駆動ギア23が前記所定の駆動ギア23aによってメインシャフト21に対して一体で回転するように固定される。また、シフトカム31の回転に応じてシフトフォーク32,34を介して前記所定の被駆動ギア24aが軸方向に移動した場合、複数の被駆動ギア24のうち特定の変速段(所定の変速段以外の変速段)に応じた被駆動ギア24が前記所定の被駆動ギア24aによって出力軸22に対して一体で回転するように固定される。
【0083】
以上より、変速機構20において特定の変速段に対応する駆動ギア23及び被駆動ギア24のみが、メインシャフト21から出力軸22に駆動力を伝達する。これにより、変速機構20は、各変速段における所定の変速比で、エンジン11から出力される駆動力を、メインシャフト21から出力軸22に伝達する。
【0084】
シフト機構50は、制御装置7から出力される変速信号に応じて、変速機構20のシフトカム31を回転させる。シフト機構50は、シフトアクチュエータ16によって駆動される。シフトアクチュエータ16は、制御装置7から出力される変速信号に応じて駆動制御される。
【0085】
シフト機構50は、シフトロッド51と、シフトシャフト52と、間欠送り部53とを備えている。シフトロッド51には、シフトアクチュエータ16の駆動力が伝達される。シフトシャフト52の一端部は、シフトロッド51に接続されていて、シフトシャフト52の他端部は、間欠送り部53を介してシフトカム31に接続されている。シフトアクチュエータ16は、制御装置7から出力される変速信号に応じて、シフトロッド51を介してシフトシャフト52を所定方向に回転させる。この所定方向は、シフトアップ(変速比がより小さい変速段への切り替え)時とシフトダウン(変速比がより大きい変速段への切り替え)時とで、正反対の回転方向である。
【0086】
シフトシャフト52は、シフトアクチュエータ16の駆動力によって回転することで、間欠送り部53を介して、シフトカム31を、軸線を中心として回転させる。間欠送り部53は、シフトシャフト52が所定方向に回転すると、シフトカム31を、前記所定方向に対応する回転方向に、一定の角度、回転させる。間欠送り部53の構成は、従来の構成(例えば特開2015-117798号公報など)と同様である。よって、間欠送り部53の詳しい構成については説明を省略する。
【0087】
上述の構成により、制御装置7から出力される変速信号に応じてシフトアクチュエータ16が駆動すると、シフトアクチュエータ16の駆動力によって、シフトロッド51を介してシフトシャフト52を所定方向に回転させる。間欠送り部53は、シフトシャフト52の回転方向に応じて、シフトカム31を、前記回転方向に対応する回転方向に、一定の角度、回転させる。
【0088】
これにより、変速機構20では、シフトフォーク32~34が、シフトカム31のカム溝31a~31cに沿ってシフトカム31の軸方向に移動する。このようなシフトフォーク32~34の移動によって、前記所定の駆動ギア23aと変速段に対応する駆動ギア23とがそれらのドグ23b,23cを介して接続されるとともに、前記所定の被駆動ギア24aと変速段に対応する被駆動ギア24とがそれらのドグ24b,24cを介して接続される。よって、変速段に対応する駆動ギア23及び被駆動ギア24を介して、メインシャフト21から出力軸22に駆動力を各変速段の変速比で伝達することができる。
【0089】
<制御装置>
制御装置7は、エンジンユニット10などの車両1の各構成部品の駆動を制御する。制御装置7は、例えばECU(Electric Control Unit)である。本実施形態では、制御装置7は、多段自動変速機12に対して変速段の切り換えを指示する変速信号を生成して出力する。本実施形態の制御装置7は、車両1の車速及びリーン角に基づいて、多段自動変速機12の駆動を制御する。すなわち、制御装置7は、変速制御装置を構成する。
【0090】
ここで、車両1は、左に旋回する際には左に傾斜し且つ右に旋回する際には右に傾斜する。図4は、左に旋回する車両1を前方から見た図である。図4に示すように、車両1は、旋回する際に、鉛直軸(図中の破線)に対して所定のリーン角θで傾斜している。
【0091】
このように車両1が左に傾斜した状態で左に旋回または右に傾斜した状態で右に旋回している際に、多段自動変速機12の変速段を切り換えた場合、エンジンユニット10から出力される駆動力が変化する。そうすると、車両1には、リーン角θを変化させる力が生じる。
【0092】
例えば、多段自動変速機12のクラッチ40を切断すると、エンジンユニット10から後輪4に伝達される駆動力が低下するため、車両1に生じる遠心力が低下する。そうすると、車両1は傾斜している方向に倒れるため、リーン角θが大きくなる。
【0093】
その後、多段自動変速機12における変速段を切り換えてクラッチ40を接続すると、エンジンユニット10から後輪4に伝達される駆動力が増加するため、車両1に生じる遠心力が増加する。そうすると、車両1は起き上がるため、リーン角θが小さくなる。特に、多段自動変速機12において、シフトダウンした場合には、エンジンユニット10から後輪4に伝達される駆動力が急激に増加するため、車両1により大きい遠心力が生じる。そのため、車両1のリーン角θはより小さくなる。
【0094】
上述のようにリーン角θが変化すると、旋回時の車両1の姿勢が変化する。これにより、旋回時の車両1の挙動が変化する。
【0095】
これに対し、本実施形態の制御装置7は、多段自動変速機12において変速段の切り換えによって車両1のリーン角θに変化が生じると予測される場合に、多段自動変速機12における変速段の切り換えを禁止する。
【0096】
図5に、制御装置7の概略構成をブロック図で示す。制御装置7は、リーン角算出部72と、変速制御判定部73と、変速信号生成部74と、記憶部75とを備えている。
【0097】
リーン角算出部72は、傾斜検出部61によって検出された車両1のリーン角速度から、リーン角を算出する。
【0098】
変速制御判定部73は、リーン角算出部72で算出された車両1のリーン角と、車速検出部62で検出された車両1の車速とを用いて、記憶部75に予め記憶されている変速制御判定データから、多段自動変速機12における変速段の切り換えの可否について判定する。
【0099】
前記変速制御判定データは、多段自動変速機12における変速段の切り換えの許可及び禁止を判定するためのデータである。すなわち、前記変速制御判定データは、多段自動変速機12における変速段を切り換えた場合に、車両1のリーン角が変化するかどうかを判定するためのデータである。変速制御判定部73は、前記変速制御判定データに基づいて、多段自動変速機12における変速段の切り換えによって、車両1のリーン角が変化すると予測される場合には、前記変速段の切り換えを禁止する一方、前記変速段の切り換えによって、車両1のリーン角が変化しないと予測される場合には、前記変速段の切り換えを許容する。
【0100】
より詳しくは、前記変速制御判定データは、車両1のリーン角と車速との関係において、多段自動変速機12における変速段の切り換えを許可する範囲に関する情報と、前記変速段の切り換えを禁止する範囲に関する情報とを含む。
【0101】
本実施形態では、前記変速制御判定データは、図6に一例を示すように、車両1のリーン角を横軸とし且つ車速を縦軸とするグラフにおいて、多段自動変速機12における変速段の切り換えを許可する範囲(図中の“変速許可”の範囲)と、前記変速段の切り換えを禁止する範囲(図中の“変速禁止”の範囲)との閾値に関するデータを含む。
【0102】
前記変速制御判定データでは、車両1のリーン角が大きくなるほど、変速段の切り換えを禁止する車速の閾値は大きい。車両1が傾斜状態で旋回している際には、車両1のリーン角及び車速によって、車両1のリーン角に対する多段自動変速機12における変速段の切り換えの影響が異なる。これに対し、上述の構成のように、車両1のリーン角に応じて、変速段の切り換えを禁止する車速の閾値を変更することにより、車両1が傾斜状態で旋回している際に、前記多段自動変速機における変速段の切り換えによって、車両1のリーン角の変化が生じることをより確実に抑制できる。
【0103】
なお、前記車速及び前記リーン角は、車両1の姿勢に関係する。そのため、上述のように前記リーン角に応じて前記車速の閾値を変更することにより、車両1の姿勢変化が許容される範囲が変わる。すなわち、上述のように前記車速の閾値を変更することにより、リーン角に応じて、多段自動変速機12の変速段の切り換えを禁止する姿勢変化の範囲が変更される。
【0104】
変速制御判定部73は、上述のような変速制御判定データを用いて、リーン角算出部72で算出した車両1のリーン角と、車速検出部62で検出された車両1の車速とから、多段自動変速機12において変速段の切り換えを行うかどうかを判定し、その判定結果を、変速制御判定信号として出力する。
【0105】
変速信号生成部74は、変速制御判定部73から出力された変速制御判定信号が、多段自動変速機12における変速段の切り換えを許可する信号の場合には、車両1の車速、エンジン回転数及びスロットル開度に応じて、変速信号を生成する。変速信号生成部74による前記変速信号の生成は、一般的な変速制御と同様であるため、詳しい説明を省略する。変速信号生成部74によって生成された前記変速信号は、多段自動変速機12に出力される。多段自動変速機12では、前記変速信号に基づいて、クラッチアクチュエータ15及びシフトアクチュエータ16の駆動が制御される。
【0106】
変速信号生成部74は、変速制御判定部73から出力された変速制御判定信号が、多段自動変速機12における変速段の切り換えを禁止する信号の場合には、変速信号を生成しない。
【0107】
次に、上述のような構成を有する制御装置7による変速制御について説明する。図7に、制御装置7による変速制御の動作フローを示す。
【0108】
図7に示すフローがスタートすると、制御装置7は、まず、傾斜検出部61によって検出された車両1のリーン角速度、車速検出部62によって検出された車両1の車速のデータを取得する(ステップSA1)。
【0109】
制御装置7のリーン角算出部72は、前記取得したリーン角速度を用いて、車両1のリーン角を算出する(ステップSA2)。
【0110】
その後、制御装置7の変速制御判定部73は、前記車速及び前記リーン角を用いて、記憶部75に記憶されている変速制御判定データから、多段自動変速機12における変速段の切り換えの可否を判定する(ステップSA3)。
【0111】
前記変速制御判定データは、多段自動変速機12における変速段の切り換えの許可及び禁止を判定するためのデータである。すなわち、前記変速制御判定データは、多段自動変速機12における変速段を切り換えた場合に、車両1のリーン角が変化するかどうかを判定するためのデータである。
【0112】
変速制御判定部73は、前記車速及び前記リーン角に基づいて、多段自動変速機12における変速段を切り換えた場合に車両1のリーン角が変化するかどうかを判定し、車両1のリーン角が変化すると予測される場合には、多段自動変速機12の変速を禁止する一方、車両1のリーン角が変化しないと予測される場合には、多段自動変速機12の変速を許可する。
【0113】
本実施形態では、変速制御判定部73は、前記変速制御判定データにおいて、前記車速及び前記リーン角の組み合わせが、多段自動変速機12の変速を禁止する変速禁止範囲内であるか、多段自動変速機12の変速を許可する変速許可範囲内であるかを判定する。
【0114】
ステップSA3において、前記車速及び前記リーン角の組み合わせが、多段自動変速機12の変速を禁止する変速禁止範囲内であると判定された場合(YESの場合)には、ステップSA4に進んで、多段自動変速機12の変速を禁止する。このとき、変速制御判定部73は、多段自動変速機12の変速を禁止する変速判定信号を生成して出力する。
【0115】
一方、前記車速及び前記リーン角の組み合わせが、多段自動変速機12の変速を禁止する変速禁止範囲内でないと判定された場合(NOの場合)、すなわち、前記組み合わせが、多段自動変速機12の変速を許可する変速許可範囲内であると判定された場合には、ステップSA5に進んで、多段自動変速機12の変速を許可する。このステップSA5では、変速制御判定部73は、多段自動変速機12の変速を許可する変速判定信号を生成して出力する。
【0116】
ステップSA4,SA5の処理の後、このフローを終了する。
【0117】
以上より、制御装置7は、車両1が傾斜状態で旋回している際に、車両1の車速及びリーン角に基づいて、多段自動変速機12における変速段の切り換えによって車両1のリーン角の変化を予測し、車両1のリーン角が予測された場合に、多段自動変速機12における前記変速段の切り換えを禁止する。
【0118】
これにより、車両1が傾斜状態で旋回している際に、車両1に生じる姿勢変化を低減できる。
【0119】
(実施形態1の変形例)
実施形態1では、制御装置7は、多段自動変速機12における変速段の切り換えによって車両1のリーン角が変化すると予測された場合には、前記変速段の切り換えを禁止する。
【0120】
しかしながら、制御装置7は、多段自動変速機12における変速段の切り換えによって車両1のリーン角が変化すると予測された場合に、前記変速段の切り換えによる駆動力の変化を抑制してもよい。すなわち、制御装置7は、前記駆動力の変化を抑制するように、多段自動変速機12における変速段の切り換えを許容してもよい。例えば、制御装置7は、車両1のリーン角の変化が車両1の走行に影響を与えない所定値以下になるように、多段自動変速機12における変速段の切り換えを許容してもよい。
【0121】
具体的には、制御装置7は、多段自動変速機12において変速段を切り換える際に、クラッチ40を切断する速度(切断速度)を通常変速時に比べて低下させてもよい。また、制御装置7は、多段自動変速機12において変速段を切り換える際に、切断されたクラッチ40を接続する速度を通常変速時に比べて低下させてもよい。これにより、多段自動変速機12において変速段を切り換える際に駆動力が急激に変化することを防止できる。なお、前記通常変速時とは、車両のリーン角変化が予測されていない場合に、車速及びスロットル開度によって決まる変速タイミングで変速を行う場合を意味する。
【0122】
また、制御装置7は、多段自動変速機12において変速段を切り換える際に、エンジン11の出力を低下させることによって駆動力を低下させた後、多段自動変速機12のクラッチを切断してもよい。これにより、多段自動変速機12において変速段を切り換える際に駆動力が急激に変化することを防止できる。
【0123】
以上のような制御装置7の制御によって、傾斜状態で旋回している車両1に生じる姿勢変化を低減できる。
【0124】
図8に、車両1のリーン角と車速との関係において、多段自動変速機12の変速を許可する変速許可範囲と駆動力の変化を抑制して変速する駆動力変化抑制範囲とを示す。図9に、本変形例に係る制御装置7の変速制御動作のフローを示す。なお、図9において、ステップSB1,SB2は、実施形態1のステップSA1,SA2と同様なので、詳しい説明を省略する。
【0125】
図8に示すように、本変形例では、変速制御判定データは、多段自動変速機12において、変速段の切り換えの許可、及び、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えのみの許可を判定するためのデータである。
【0126】
前記変速制御判定データでは、リーン角が大きくなるほど、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えのみを許可する車速の閾値は大きい。車両が傾斜状態で旋回している際には、車両のリーン角及び車速によって、車両のリーン角に対する多段自動変速機12における変速段の切り換えの影響が異なる。これに対し、上述の構成のように、車両のリーン角に応じて、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えのみを許可する車速の閾値を変更することにより、車両が傾斜状態で旋回している際に、車両に生じるリーン角の変化をより確実に抑制できる。
【0127】
なお、前記車速及び前記リーン角は、車両1の姿勢に関係する。そのため、上述のように前記リーン角に応じて前記車速の閾値を変更することにより、車両1の姿勢変化が許容される範囲が変わる。すなわち、上述のように前記車速の閾値を変更することにより、リー角に応じて、多段自動変速機12の変速段の切り換えを禁止する姿勢変化の範囲が変更される。
【0128】
制御装置7は、リーン角算出部72で算出した車両1のリーン角と、車速検出部62で検出した車両1の車速を用いて、前記変速制御判定データから、変速段の切り換えの許可、及び、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えの許可を判定する。制御装置7は、それらの判定結果に応じた変速信号を生成する。
【0129】
具体的には、図9のフローに示すように、制御装置7は、ステップSB3において、車両1の車速とステップSB2で求めたリーン角との組み合わせが、図8における駆動力変化抑制範囲内であるかを判定する。
【0130】
前記車速と前記リーン角との組み合わせが前記駆動力変化抑制範囲内であると判定された場合(ステップSB3においてYESの場合)、ステップSB4に進んで、制御装置7は、駆動力の変化を抑制可能な範囲で、多段自動変速機12における変速段の切り換えを行う。一方、前記車速と前記リーン角との組み合わせが前記駆動力変化抑制範囲内でないと判定された場合(ステップSB3においてNOの場合)、ステップSB5に進んで、制御装置7は、多段自動変速機12における変速段の切り換えを行う。
【0131】
以上の構成により、車両1が傾斜状態で旋回している際に、多段自動変速機12における変速段の切り換えによる車両1のリーン角の変化を抑制することができる。
【0132】
なお、制御装置7は、前記実施形態1のような変速段の切り換えの禁止と、上述のような変速段の切り換えによる駆動力の変化の抑制とを、車両状態に応じて、切り換えて行ってもよい。前記車両状態は、車両1が傾斜状態で旋回している際の車両1の状態に関する情報、すなわち、車両1の姿勢、車両1の車速、及び、車両1に作用する遠心力及び駆動力等を意味する。具体的には、前記車両状態は、車両1が傾斜状態で旋回している際の傾斜角度、車両1の旋回時の車速、旋回によって車両1に作用する遠心力に関する物理量、車両1の駆動源から多段自動変速機を介して車輪に伝達される駆動力に関する物理量などを意味する。前記遠心力に関連する物理量は、車両1が傾斜状態で旋回している状態において、車両1の車速、車両1のヨーレート、及び車両1が傾斜状態で旋回するコーナーの曲率半径の少なくとも一つを含む。
【0133】
(実施形態2)
図10に、実施形態2に係る車両の多段自動変速機312の概略構成を示す。図11に、説明のために、多段自動変速機312の構成を模式的に示す。本実施形態の多段自動変速機312は、第1クラッチ340及び第2クラッチ360の2つのクラッチを有する点で、実施形態1の構成とは異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる部分についてのみ説明する。
【0134】
多段自動変速機312は、複数の摩擦伝動式クラッチを備え、変速段のうち奇数段及び偶数段の動力伝達を、第1クラッチ340及び第2クラッチ360によって交互に行うことで、切れ目のない変速を実現する変速機である。多段自動変速機312は、変速機構320と、第1クラッチ340と、第2クラッチ360と、シフト機構とを備えている。
【0135】
変速機構320は、エンジン11のクランクシャフト11aに接続されている。変速機構320は、クランクシャフト11aから伝達されるトルクを所定のトルクに変更して出力する。
【0136】
第1クラッチ340及び第2クラッチ360は、クランクシャフト11aの回転を、変速機構320に対して伝達可能に構成されている。すなわち、第1クラッチ340及び第2クラッチ360は、変速機構320に対するクランクシャフト11aの回転の伝達及び非伝達を切り換え可能に構成されている。
【0137】
第1クラッチ340は、後述の第1クラッチアクチュエータ315aによって駆動される。第1クラッチ340は、変速機構320の奇数段(1速段、3速段及び5速段)の動力伝達を行う。
【0138】
第2クラッチ360は、後述の第2クラッチアクチュエータ315bによって駆動される。第2クラッチ360は、変速機構320の偶数段(2速段、4速段、6速段)の動力伝達を行う。
【0139】
シフト機構は、後述のシーケンシャルシフト機構330を介して変速機構320の変速動作を行うとともに、変速機構320で次の変速動作が行われるまでの間、変速機構320で選択された変速段を保持するように動作する。シフト機構の構成は、実施形態1のシフト機構50の構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0140】
以上のように、多段自動変速機312の変速機構320には、第1クラッチ340または第2クラッチ360を介してエンジン11から駆動力が伝達される。
【0141】
以下で、変速機構320と、第1クラッチ340と、第2クラッチ360と、シフト機構とを備えた多段自動変速機312の詳しい構成について説明する。
【0142】
第1クラッチ340及び第2クラッチ360は、それぞれ、例えば多板摩擦クラッチである。第1クラッチ340は、有底筒状のクラッチハウジング341と、有底筒状のクラッチボス342と、摩擦板である複数のフリクションプレート343及びクラッチプレート344と、プレッシャプレート345と、入力ギア346とを備えている。第2クラッチ360は、有底筒状のクラッチハウジング361と、有底筒状のクラッチボス362と、摩擦板である複数のフリクションプレート363及びクラッチプレート364と、プレッシャプレート365と、入力ギア366とを備えている。
【0143】
第1クラッチ340及び第2クラッチ360は、同じ構成を有する。また、第1クラッチ340及び第2クラッチ360は、実施形態1におけるクラッチ40の構成と同様である。よって、第1クラッチ340及び第2クラッチ360の詳しい構成の説明は省略する。
【0144】
第1クラッチ340のクラッチボス342は、変速機構320における後述の第1メインシャフト321aの端部に連結されている。第1クラッチ340のクラッチハウジング341には、クランクシャフト11aに設けられたギアと噛み合う入力ギア346が接続されている。クラッチハウジング341の内周面には、複数のフリクションプレート343が取り付けられている。クラッチボス342の外周面には、複数のクラッチプレート344が取り付けられている。フリクションプレート343とクラッチプレート344とを、接続または接続解除することにより、第1クラッチ340は、変速機構320の第1メインシャフト321aに対するクランクシャフト11aの回転の伝達及び非伝達を切り換えることができる。
【0145】
第2クラッチ360のクラッチボス362は、変速機構320における後述の第2メインシャフト321bの端部に連結されている。第2クラッチ360のクラッチハウジング361には、クランクシャフト11aに設けられたギアと噛み合う入力ギア366が接続されている。クラッチハウジング361の内周面には、複数のフリクションプレート363が取り付けられている。クラッチボス362の外周面には、複数のクラッチプレート364が取り付けられている。フリクションプレート363とクラッチプレート364とを、接続または接続解除することにより、第2クラッチ360は、変速機構320の第2メインシャフト321bに対するクランクシャフト11aの回転の伝達及び非伝達を切り換えることができる。
【0146】
なお、第1クラッチ340におけるフリクションプレート343とクラッチプレート344との接続または接続解除は、図11に示す第1クラッチアクチュエータ315aの駆動によって行われる。第2クラッチ360におけるフリクションプレート363とクラッチプレート364との接続または接続解除は、図11に示す第2クラッチアクチュエータ315bの駆動によって行われる。
【0147】
変速機構320は、有段式の変速機構である。変速機構320は、第1メインシャフト321aと、第2メインシャフト321bと、出力軸322と、複数の駆動ギアと、複数の被駆動ギアと、シーケンシャルシフト機構330(図11参照)とを備えている。
【0148】
第1メインシャフト321a及び第2メインシャフト321bは、一端部同士が対向するように同一軸線上に配置されている。第1メインシャフト321a及び第2メインシャフト321bは、独立して回転可能である。第1メインシャフト321aの他端部は、第1クラッチ340のクラッチボス342に連結されている。第2メインシャフト321bの他端部は、第2クラッチ360のクラッチボス362に連結されている。
【0149】
第1メインシャフト321aには、前記複数の駆動ギアの一部として、1速ギア、3速ギア及び5速ギアを含む奇数段をそれぞれ構成する1速固定ギア323a、第1スプラインギア325a及び5速ギア327aが設けられている。なお、1速固定ギア323a、第1スプラインギア325a及び5速ギア327aは、第1メインシャフト321a上に、第1クラッチ340が接続された端部から順に、1速固定ギア323a、5速ギア327a及び第1スプラインギア325aの順で並んでいる。
【0150】
1速固定ギア323aは、第1メインシャフト321aに固定されていて、第1メインシャフト321aとともに回転する。1速固定ギア323aは、出力軸322上に配置された後述の1速ギア323bと噛み合う。
【0151】
5速ギア327aは、第1メインシャフト321aの軸方向への移動が規制された状態で、第1メインシャフト321aに対して回転自在に取り付けられている。5速ギア327aは、出力軸322の後述する第3スプラインギア327bと噛み合う。
【0152】
第1スプラインギア325aは、第1メインシャフト321a上に、第1メインシャフト321aとともに回転し且つ第1メインシャフト321aの軸方向に移動自在に取り付けられている。第1スプラインギア325aは、出力軸322の3速ギア325bと噛み合う。
【0153】
第1スプラインギア325aは、シーケンシャルシフト機構330の後述するシフトフォーク333に接続されていて、シフトフォーク333の移動によって第1メインシャフト321a上を軸方向に移動する。第1スプラインギア325aは、このように第1メインシャフト321a上を移動することにより、5速ギア327aと接続される。これにより、5速ギア327aを第1メインシャフト321aとともに回転させることができる。
【0154】
第2メインシャフト321bには、前記複数の駆動ギアの一部として、2速ギア、4速ギア及び6速ギアを含む偶数段をそれぞれ構成する2速固定ギア324a、第2スプラインギア326a及び6速ギア328aが設けられている。なお、2速固定ギア324a、第2スプラインギア326a及び6速ギア328aは、第2メインシャフト321b上に、第2クラッチ360が接続された端部から順に、2速固定ギア324a、6速ギア328a及び第2スプラインギア326aの順で並んでいる。
【0155】
2速固定ギア324aは、第2メインシャフト321bに固定されていて、第2メインシャフト321bとともに回転する。2速固定ギア324aは、出力軸322上に配置された後述の2速ギア324bと噛み合う。
【0156】
6速ギア328aは、第2メインシャフト321bの軸方向への移動が規制された状態で、第2メインシャフト321bに対して回転自在に取り付けられている。6速ギア328aは、出力軸322の後述する第4スプラインギア328bと噛み合う。
【0157】
第2スプラインギア326aは、第2メインシャフト321b上に、第2メインシャフト321bとともに回転し且つ第2メインシャフト321bの軸方向に移動自在に取り付けられている。第2スプラインギア326aは、出力軸322の4速ギア326bと噛み合う。
【0158】
第2スプラインギア326aは、シーケンシャルシフト機構330の後述するシフトフォーク334に接続されていて、シフトフォーク334の移動によって第2メインシャフト321b上を軸方向に移動する。第2スプラインギア326aは、このように第2メインシャフト321b上を移動することにより、6速ギア328aと接続される。これにより、6速ギア328aを第2メインシャフト321bとともに回転させることができる。
【0159】
出力軸322には、第1クラッチ340に近い順に、1速ギア323b、第3スプラインギア327b、3速ギア325b、4速ギア326b、第4スプラインギア328b、2速ギア324b及びスプロケット329が設けられている。1速ギア323b、3速ギア325b、4速ギア326b及び2速ギア324bは、出力軸322上に、出力軸322の軸方向への移動が規制された状態で、出力軸322に対して回転自在に設けられている。
【0160】
第3スプラインギア327b及び第4スプラインギア328bは、出力軸322上に、出力軸322とともに回転し且つ出力軸322の軸方向に移動自在に取り付けられている。第3スプラインギア327bは、第1メインシャフト321aの5速ギア327aと噛み合う。第4スプラインギア328bは、第2メインシャフト321bの6速ギア328aと噛み合う。
【0161】
第3スプラインギア327bは、シーケンシャルシフト機構330の後述するシフトフォーク332に接続されていて、シフトフォーク332の移動によって出力軸322上を軸方向に移動する。第3スプラインギア327bは、このように出力軸322上を移動することにより、1速ギア323bまたは3速ギア325bに接続される。これにより、1速ギア323bまたは3速ギア325bを出力軸322とともに回転させることができる。
【0162】
第4スプラインギア328bは、シーケンシャルシフト機構330の後述するシフトフォーク335に接続されていて、シフトフォーク335の移動によって出力軸322上を軸方向に移動する。第4スプラインギア328bは、このように出力軸322上を移動することにより、2速ギア324bまたは4速ギア326bに接続される。これにより、2速ギア324bまたは4速ギア326bを出力軸322とともに回転させることができる。
【0163】
スプロケット329は、出力軸322とともに回転する。スプロケット329には、図示しないチェーンが取り付けられている。すなわち、出力軸322の回転は、スプロケット329及びチェーンを介して、出力される。
【0164】
上述の第1スプラインギア325a、第2スプラインギア326a、第3スプラインギア327b及び第4スプラインギア328bは、変速ギアとして機能するとともに、ドグセレクタとしても機能する。第1スプラインギア325a、第2スプラインギア326a、第3スプラインギア327b及び第4スプラインギア328bは、第1メインシャフト321a、第2メインシャフト321bまたは出力軸322上を、軸方向に移動することにより、前記軸方向に隣り合う変速ギアに図示しないドグ機構によって接続される。なお、前記ドグ機構は、従来のドグ機構の構成(例えば特開2010-133555号公報など)と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0165】
例えば、変速機構320の変速段が1速の場合には、第1メインシャフト321a上の第1スプラインギア325aは、出力軸322の3速ギア325bと噛み合う。出力軸322上の第3スプラインギア327bは、1速ギア323bと接続される。これにより、1速ギア323bは、第3スプラインギア327bを介して出力軸322に一体で回転可能に固定される。よって、第1メインシャフト321aに固定された1速固定ギア323aと噛み合う1速ギア323bを介して、第1メインシャフト321aから出力軸322に回転が伝達される。このとき、第1メインシャフト321a上の第1スプラインギア325aと噛み合う3速ギア325bは、出力軸322に対して回転する。
【0166】
変速機構320の変速段が2速の場合には、第2メインシャフト321b上の第2スプラインギア326aは、出力軸322上の4速ギア326bと噛み合う。出力軸322上の第4スプラインギア328bは、2速ギア324bと接続される。これにより、2速ギア324bは、第4スプラインギア328bを介して出力軸322に一体で回転可能に固定される。よって、第2メインシャフト321bに固定された2速固定ギア324aと噛み合う2速ギア324bを介して、第2メインシャフト321bから出力軸322に回転が伝達される。このとき、第2メインシャフト321b上の第2スプラインギア326aと噛み合う4速ギア326bは、出力軸322に対して回転する。
【0167】
変速機構320の変速段が3速の場合には、第1メインシャフト321a上の第1スプラインギア325aは、出力軸322上の3速ギア325bと噛み合う。出力軸322上の第3スプラインギア327bは、3速ギア325bと接続される。これにより、3速ギア325bは、第3スプラインギア327bを介して出力軸322に一体で回転可能に固定される。よって、第1メインシャフト321aとともに回転する第1スプラインギア325aと噛み合う3速ギア325bを介して、第1メインシャフト321aから出力軸322に回転が伝達される。
【0168】
変速機構320の変速段が4速の場合には、第2メインシャフト321b上の第2スプラインギア326aは、出力軸322上の4速ギア326bと噛み合う。出力軸322上の第4スプラインギア328bは、4速ギア326bと接続される。これにより、4速ギア326bは、第4スプラインギア328bを介して出力軸322に一体で回転可能に固定される。よって、第2メインシャフト321bとともに回転する第2スプラインギア326aと噛み合う4速ギア326bを介して、第2メインシャフト321bから出力軸322に回転が伝達される。
【0169】
変速機構320の変速段が5速の場合には、第1メインシャフト321a上の第1スプラインギア325aは、5速ギア327aと接続される。これにより、5速ギア327aは、第1スプラインギア325aを介して第1メインシャフト321aに一体で回転可能に固定される。出力軸322上の第3スプラインギア327bは、1速ギア323b及び3速ギア325bのいずれにも接続されない位置で、第1メインシャフト321a上の5速ギア327aと噛み合う。よって、第1メインシャフト321aとともに回転する第1スプラインギア325aと接続された5速ギア327aと、出力軸322上の第3スプラインギア327bとを介して、第1メインシャフト321aから出力軸322に回転が伝達される。
【0170】
変速機構320の変速段が6速の場合には、第2メインシャフト321b上の第2スプラインギア326aは、6速ギア328aと接続される。これにより、6速ギア328aは、第2スプラインギア326aを介して第2メインシャフト321bに一体で回転可能に固定される。出力軸322上の第4スプラインギア328bは、2速ギア324b及び4速ギア326bのいずれにも接続されない位置で、第2メインシャフト321b上の6速ギア328aと噛み合う。よって、第2メインシャフト321bとともに回転する第2スプラインギア326aと接続された6速ギア328aと、出力軸322上の第4スプラインギア328bとを介して、第2メインシャフト321bから出力軸322に回転が伝達される。
【0171】
シーケンシャルシフト機構330は、シフトカム331と、シフトフォーク332~335とを備えている。図11に示すように、シーケンシャルシフト機構330のシフトカム331の外周面には、カム溝331a~331dが形成されている。カム溝331a~331dは、それぞれシフトカム331の外周面に周方向に延びるように、シフトカム331の軸方向に並んで設けられている。本実施形態のカム溝331a~331dの構成は従来のカム溝の構成(例えば特開2010-133555号公報など)と同様なので、詳しい説明を省略するが、カム溝331a~331dは、それぞれ、シフトカム31の外周面に、シフトカム31の周方向の位置に応じてシフトカム31の軸方向における位置が変化するように設けられている。カム溝331a~331d内には、それぞれ、シフトフォーク332~335の一端部が位置付けられている。
【0172】
シフトフォーク332の他端部は、第3スプラインギア327bに接続されている。シフトフォーク333の他端部は、第1スプラインギア325aに接続されている。シフトフォーク334の他端部は、第2スプラインギア326aに接続されている。シフトフォーク335の他端部は、第4スプラインギア328bに接続されている。これにより、シフトフォーク332~335が、シフトカム331のカム溝331a~331dに沿って軸方向に移動すると、第1スプラインギア325a、第2スプラインギア326a、第3スプラインギア327b及び第4スプラインギア328bも前記軸方向に移動する。なお、シフトカム331には、シフトアクチュエータ316によって、回転方向の駆動力が与えられる。
【0173】
このようにシフトフォーク332~335の移動に応じて、第1スプラインギア325a、第2スプラインギア326a、第3スプラインギア327b及び第4スプラインギア328bが移動することにより、変速機構320では、上述のように、各変速段に切り替わる。
【0174】
上述のような構成を有する多段自動変速機312では、運転者によるシフトスイッチ14の操作に応じて変速段を切り換える際に、シフトアクチュエータ316、第1クラッチアクチュエータ315a及び第2クラッチアクチュエータ315bが、制御装置307によって駆動制御される。すなわち、制御装置307から、シフトアクチュエータ316、第1クラッチアクチュエータ315a及び第2クラッチアクチュエータ315bに制御信号が出力される。
【0175】
制御装置307は、第1クラッチ340及び第2クラッチ360の一方を切断した後、第1メインシャフト321a及び第2メインシャフト321bのうち、切断されたクラッチに接続されるメインシャフト上で変速段を切り換える。その後、制御装置307は、第1クラッチ340及び第2クラッチ360のうち切断されたクラッチを、切断状態から半クラッチ状態を経て接続状態に移行させる一方、第1クラッチ340及び第2クラッチ360のうち接続されているクラッチを、接続状態から半クラッチ状態を経て切断状態に移行させる。
【0176】
多段自動変速機312の変速動作の一例として、変速段を2速から3速にシフトアップする場合について説明する。なお、本実施形態では、車両は、運転者が多段自動変速機312に対して変速段の切り換えを指示するためのシフトスイッチ14を備えている。
【0177】
車両を運転している運転者が2速から3速にシフトアップするようにシフトスイッチ14を操作すると、制御装置307は、第1クラッチ340を切断するように第1クラッチアクチュエータ315aの駆動を制御する。これにより、クランクシャフト11aから第1クラッチ340を介して第1メインシャフト321aへのトルクの伝達が遮断される。この場合、クランクシャフト11aのトルクは、第2クラッチ360、第2メインシャフト321b、2速固定ギア324a、2速ギア324b及び第4スプラインギア328bを介して、出力軸322に伝達される。
【0178】
次に、制御装置307は、シフトアクチュエータ316を駆動制御することにより、シフトカム331を所定角度、回転させる。これにより、シフトフォーク332が軸方向に移動して、出力軸322上の第3スプラインギア327bを3速ギア325bと接続させる。よって、第1メインシャフト321aと出力軸322とは、第1スプラインギア325a、3速ギア325b及び第3スプラインギア327bを介して、トルク伝達可能に接続される。ただし、上述のように、第1クラッチ340は切断されているため、第1メインシャフト321aから出力軸322には、クランクシャフト11aのトルクは伝達されない。
【0179】
制御装置307は、第1クラッチアクチュエータ315a及び第2クラッチアクチュエータ315bを駆動制御することにより、第1クラッチ340を切断状態から半クラッチ状態を経て接続状態に移行させる一方、第2クラッチ360を接続状態から半クラッチ状態を経て切断状態に移行させる。
【0180】
この場合、クランクシャフト11aから、第1クラッチ340、第1メインシャフト321a、第1スプラインギア325a、3速ギア325b及び第3スプラインギア327bを介して、出力軸322に伝達されるトルクは、徐々に大きくなる。一方、クランクシャフト11aから、第2クラッチ360、第2メインシャフト321b、2速固定ギア324a、2速ギア324b及び第4スプラインギア328bを介して、出力軸322に伝達されるトルクは、徐々に小さくなり、第2クラッチ360が切断状態になると、ゼロになる。
【0181】
このように、本実施形態の多段自動変速機312では、第1クラッチ340及び第2クラッチ360の2つのクラッチを用いて変速段を切り換えることにより、変速段を切り換える際にトルクが急激に変化することを防止できる。
【0182】
本実施形態の多段自動変速機312では、常に第1クラッチ340及び第2クラッチ360の少なくとも一方が接続状態であるため、実施形態1の多段自動変速機12のようにクラッチ切断による駆動力の低下は生じない。しかしながら、多段自動変速機312において、変速段をシフトダウンすることによって駆動力が増加するため、傾斜状態で旋回中の車両のリーン角が小さくなる。一方、多段自動変速機312において、変速段をシフトアップすることによって駆動力が低下するため、傾斜状態で旋回中の車両のリーン角が大きくなる。このように、多段自動変速機312の変速段の切り換えによって、車両の姿勢が変化する。
【0183】
なお、前記シフトダウンは、変速比が大きくなるように変速段を切り換える変速動作である。前記シフトアップは、変速比が小さくなるように変速段を切り換える変速動作である。
【0184】
本実施形態のような構成を有する多段自動変速機312の制御装置307も、実施形態1の制御装置7と同様の構成を有する。すなわち、制御装置307は、リーン角算出部72と、変速制御判定部73と、変速信号生成部74とを備えている。これらの各構成は、実施形態1の構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0185】
本実施形態の制御装置307も、実施形態1の制御装置7と同様、車両の車速及びリーン角に基づいて、多段自動変速機312における変速段の切り換えによって車両のリーン角の変化を予測し、車両のリーン角の変化が予測された場合に、多段自動変速機312における変速段の切り換えを禁止する。
【0186】
これにより、車両が傾斜状態で旋回している際に、車両に生じる姿勢変化を低減できる。
【0187】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0188】
前記実施形態1では、制御装置7は、車両1の車速及びリーン角を用いて、車両1が傾斜状態で旋回している際に、多段自動変速機12における変速段の切り換えによって車両1のリーン角が変化するかどうかを予測する。
【0189】
しかしながら、制御装置は、車両のリーン角のみを用いて、車両が傾斜状態で旋回している際に、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両1のリーン角が変化するかどうかを予測してもよい。この場合には、前記制御装置は、前記リーン角がリーン角閾値以上の場合に、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化すると予測してもよい。
【0190】
また、制御装置は、車両が傾斜状態で旋回している際に、前記車両に作用する遠心力に関連する物理量に基づいて、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化するかどうかを予測してもよい。前記遠心力に関連する物理量は、前記車両の車速、前記車両のヨーレート、及び前記車両が傾斜状態で旋回するコーナーの曲率半径の少なくとも一つを含む。この場合には、前記制御装置は、例えば、前記車両の車速が車速閾値以上、前記車両のヨーレートがヨーレート閾値以上、及び前記車両が傾斜状態で旋回するコーナーの曲率半径が曲率半径閾値以下の少なくとも一つの条件を満たす場合に、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化すると予測してもよい。前記車速閾値、前記ヨーレート閾値、前記曲率半径閾値は、例えば、それぞれ、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化して前記車両の走行に影響を与えるような値に設定される。
【0191】
前記車両に作用する遠心力に関連する物理量に基づく変速制御の一例として、制御装置は、車両がリーン角30度で車速20km/hで旋回する場合には、変速段の切り換えを禁止し、車両がリーン角30度で車速60km/hで旋回する場合には、変速段の切り換えを許可する。
【0192】
なお、前記ヨーレートが遠心力に関連する物理量である理由について、以下で説明する。図12に示すように、車両1が旋回半径Rで旋回する場合に、車両1に作用する遠心力Fは下式によって表される。車両1の重量をm(kg)、車速をV(m/s)とする。
F=mV2/R
【0193】
車両1が旋回する際のヨー角をψ(deg)、車両1の旋回角をφ(deg)、車両1の移動距離をL(m)とすると、ヨー角ψ及び旋回角φは、以下の関係を有する。
ψ=φ
【0194】
また、旋回角φ及び移動距離L、車速V及び移動距離Lは、それぞれ、以下の関係を有する。tは、車両1の移動時間である。
L=R×φ
L=V×t
【0195】
よって、旋回角φ及び車速Vは、以下の関係を有する。
φ=V/R×t
【0196】
したがって、ヨー角ψ及び旋回半径Rは、以下の関係を有する。
ψ=V/R×t
【0197】
上記式から求められるヨーレートは、以下の式によって表される。
Y=dψ/dt=V/R
【0198】
よって、車両1に生じる遠心力F及び車両1のヨーレートYは、以下の関係を有する。
F=mV2/R=mRY2
【0199】
以上のように、ヨーレートは遠心力に関連する物理量である。
【0200】
また、制御装置は、車両が傾斜状態で旋回している際に、前記車両のリーン角及び前記車両に作用する遠心力に関連する物理量に基づいて、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化するかどうかを予測してもよい。この場合、変速制御判定データは、図6及び図8において、前記車両のリーン角を横軸とし且つ前記車両に作用する遠心力に関連する物理量を縦軸とするグラフのデータを含む。なお、前記車両に作用する遠心力に関連する物理量がヨーレートの場合、変速制御判定データは、図13に示すデータを含む。制御装置は、図13に示す変速制御判定データを用いて、ヨーレートが閾値よりも大きい場合に、多段自動変速機における変速段の切り換えを禁止または駆動力の変化を抑制して変速し、ヨーレートが閾値よりも小さい場合に、多段自動変速機における変速段の切り換えを許可する。
【0201】
また、制御装置は、車両が傾斜状態で異なる曲率半径を有する複数のコーナーを旋回するときの前記車両のリーン角が同じ場合に、前記車両が傾斜状態で旋回している際に、前記コーナーの曲率半径に基づいて、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化するかどうかを予測してもよい。この場合には、前記制御装置は、例えば、前記コーナーの曲率半径が閾値以下の場合に、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化すると予測してもよい。前記閾値は、例えば、多段自動変速機における変速段の切り換えによって車両のリーン角が変化して前記車両の走行に影響を与えるような値に設定される。
【0202】
なお、前記曲率半径は、地図情報から幾何学的に得られる曲率半径であってもよいし、車両の車速及びヨーレートを用いて演算によって求められる曲率半径であってもよい。
【0203】
また、制御装置は、車両の傾斜状態での旋回を、車両のリーン角、前記車両に作用する遠心力に関連する物理量、地図情報等に基づいて判定した後、車両のリーン角、前記車両に作用する遠心力に関連する物理量、地図情報等に基づいて、多段自動変速機における変速段の切り換えによって前記車両のリーン角が変化するかどうかを予測してもよい。
【0204】
前記実施形態1では、図6に示すように、変速制御判定データは、車両1のリーン角が大きくなるほど、変速段の切り換えを禁止する車速の閾値が小さいデータである。しかしながら、前記変速制御判定データは、変速段の切り換えを禁止する車速の閾値がリーン角に対して変化するデータであれば、どのようなデータであってもよい。前記変速制御判定データは、車両のリーン角に対して、変速段の切り換えを禁止する車速の閾値が一定であるデータであってもよい。
【0205】
前記実施形態1の変形例では、図8に示すように、変速制御判定データは、車両1のリーン角が大きくなるほど、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えのみを許可する車速の閾値が小さいデータである。しかしながら、前記変速制御判定データは、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えのみを許可する車速の閾値がリーン角に対して変化するデータであれば、どのようなデータであってもよい。前記変速制御判定データは、リーン角に対して、駆動力の変化を抑制可能な変速段の切り換えのみを許可する車速の閾値が一定であるデータであってもよい。
【0206】
前記各実施形態では、車両1の後輪4に対してエンジンユニット10から駆動力が伝達される。しかしながら、車両の前輪に対してエンジンユニットから駆動力が伝達されてもよい。この場合、多段自動変速機は、エンジンから前輪に伝達する駆動力を変更する。
【0207】
前記各実施形態では、車両1は、駆動源として、エンジン11を備えている。しかしながら、車両の駆動源は、モータであってもよい。また、前記駆動源は、エンジン及びモータを組み合わせたハイブリッドシステムであってもよい。
【0208】
前記各実施形態では、多段自動変速機の一例を説明している。しかしながら、多段自動変速機は、少なくとも一つのクラッチと、複数の変速段とを備え、変速段を自動で段階的に切り換え可能な構成を有していれば、どのような構造の変速機であってもよい。
【0209】
前記各実施形態では、多段自動変速機12,312は、6速の変速機である。しかしながら、多段自動変速機は、5速以下の変速機であってもよいし、7速以上の変速機であってもよい。
【0210】
前記各実施形態では、車両の例として自動2輪車を説明したが、車両は、多段自動変速機を有するリーン車両であれば、2輪車以外の車両であってもよい。
【符号の説明】
【0211】
1 車両(リーン車両)
2 車体
3 前輪
4 後輪
7、307 制御装置(変速制御装置)
10 エンジンユニット
11 エンジン(駆動源)
11a クランクシャフト
12、312 多段自動変速機
14 シフトスイッチ
15 クラッチアクチュエータ
16 シフトアクチュエータ
20、320 変速機構
21 メインシャフト
22 出力軸
23 駆動ギア
24 被駆動ギア
40 クラッチ
46 入力ギア
50 シフト機構
61 傾斜検出部
62 車速検出部
72 リーン角算出部
73 変速制御判定部
74 変速信号生成部
75 記憶部
315a 第1クラッチアクチュエータ
315b 第2クラッチアクチュエータ
321a 第1メインシャフト
321b 第2メインシャフト
322 出力軸
323a 1速固定ギア
323b 1速ギア
324a 2速固定ギア
324b 2速ギア
325a 第1スプラインギア
325b 3速ギア
326a 第2スプラインギア
326b 4速ギア
327a 5速ギア
327b 第3スプラインギア
328a 6速ギア
328b 第4スプラインギア
329 スプロケット
340 第1クラッチ
350 シフト機構
360 第2クラッチ
P 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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