(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053643
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】パネル材の製造方法及びパネル材
(51)【国際特許分類】
B27N 3/00 20060101AFI20220330BHJP
E04C 2/16 20060101ALI20220330BHJP
B32B 5/12 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B27N3/00 A
E04C2/16 E
B32B5/12
B27N3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160388
(22)【出願日】2020-09-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り International Centre for Numerical Methods in Engineering(CIMNE)、Proceedings of the IASS Annual Symposium 2019 - Structural Membranes 2019 Form and Force、2019年10月7日
(71)【出願人】
【識別番号】320004456
【氏名又は名称】永井 拓生
(71)【出願人】
【識別番号】314008873
【氏名又は名称】株式会社エスウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】永井 拓生
【テーマコード(参考)】
2B260
2E162
4F100
【Fターム(参考)】
2B260AA12
2B260BA07
2B260BA18
2B260CB01
2B260CB04
2B260DA03
2B260DA04
2B260DA05
2B260EB12
2B260EB19
2B260EB21
2E162CC08
2E162FD04
2E162FD08
4F100AJ04A
4F100BA02
4F100BA22
4F100CB00A
4F100DE01A
4F100DG01A
4F100EH46A
4F100EJ08A
4F100EJ17A
4F100GB07
(57)【要約】
【課題】ヨシを主要材料とするパネル材を、容易に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】ヨシの茎を破砕することにより、長さ20mm~70mm、幅長さ4mm~7mmの破砕片とし、接着剤でコーティングした破砕片を加圧成形し接着剤を硬化させることにより、所定厚さのパネル材とする。接着剤でコーティングした破砕片の配向角度を基準線に対して0度~±20度の範囲でそろえた層の複数を、各層の基準線が直交するように積層した後で加圧成形することにより、積層構造とすることができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨシの茎を破砕することにより、長さ20mm~70mm、幅長さ4mm~7mmの破砕片とし、接着剤でコーティングした前記破砕片を加圧成形し接着剤を硬化させることにより、所定の厚さのパネル材とする
ことを特徴とするパネル材の製造方法。
【請求項2】
接着剤でコーティングした前記破砕片の配向角度を基準線に対して0度~±20度の範囲でそろえた層の複数を、各層の前記基準線が直交するように積層した後、加圧成形する
ことを特徴とする請求項1に記載のパネル材の製造方法。
【請求項3】
前記破砕片の配向角度をそろえるために、断面凹状の樋部の複数が連設された供給用部材を使用する
ことを特徴とする請求項2に記載のパネル材の製造方法。
【請求項4】
ヨシの茎の破砕片であって、長さ20mm~70mm、幅長さ4mm~7mmの破砕片同士が、硬化した接着剤によって固着されている
ことを特徴とするパネル材。
【請求項5】
前記破砕片の配向角度が、基準線に対して0度~±20度の範囲でそろえられた層の複数が、各層の前記基準線が直交するように積層されている
ことを特徴とする請求項4に記載のパネル材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨシを主原料としたパネル材の製造方法、及び、該製造方法により製造されるパネル材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヨシは、湖や沼など水際の湿地に群生するイネ科ヨシ族の多年草であり、「アシ」とも称される。ヨシが群生するヨシ原を有する湖沼には、景勝地として知られている場所も多い。かつて、ヨシは、すだれ(葦簀)、かやぶき屋根(かや(萱・茅)はヨシ、チガヤ、アシ等の総称)、生薬、パルプ、肥料などの原料として使用されていたが、近年ではヨシの需要が減少している。そして、ヨシの産業上の需要減少に伴い、ヨシ原は管理不全の状態に陥りつつある。そのため、湖沼などの環境の保全、及び、資源の有効活用の観点から、ヨシの新たな需要を創出することが必要であると考えられる。
【0003】
ヨシは、イネやススキなど他のイネ科の植物とは異なり、非常に硬い茎を有している。本発明者らの過去の検討により、ヨシの茎部分は、約100N/mm2の引張強度を示すことが分かっており、これは竹に匹敵する非常に高い強度である。そこで、このような高い機械的強度を有するヨシを主要材料として建築用、家具用、建具用等のパネル材とすることが想到される。
【0004】
イネ科の植物の茎を原料としたパネル材としては、植物の茎をそのまま平行に配列してシート状物とする工程を経るものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の発明では、植物の茎を平行に配列したシート状物を積層し、その積層体をスライスしたスライス片を、更に接着してパネル材としている。しかしながら、シート状物を製造する段階で、茎が平行に配列している状態を保持するために、茎の端部を糸で結束しているため、その作業が非常に煩雑である。また、シート状物を積層する前の段階で、ローラで圧縮することにより、茎を扁平に押しつぶすと共に皮部に割れ目を発生させている。これは、断面が円形である茎のままでは、接着及び積層が困難であるためと考えられる。そのため、特許文献1の発明では、製造のための作業が煩雑で、且つ、工程の数が多いという問題があった。
【0005】
また、ヨシ(アシ)をストランドとし、樹脂バインダーを添加した後でホットプレスすることにより、パネル材とする方法も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の発明では、ヨシの茎を二段階で切断する工程11,12の後、長手方向に割る(分割する)という工程13を有している。これは、ヨシの茎が硬いために、ストランドとするために、長手方向に沿って“割る”という手段を採用しているものと考えられる。しかしながら、竹のように硬いヨシの茎を長手方向に沿って割る作業は、非常に煩雑である。
【0006】
そのため、ヨシを主要材料とするパネル材を、容易な製造方法で製造できることが要請される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5052435号公報
【特許文献2】特表2017-533359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ヨシを主要材料とするパネル材を、容易に製造できるパネル材の製造方法、及び、該製造方法により製造されるパネル材の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるパネル材の製造方法は、
「ヨシの茎を破砕することにより、長さ20mm~70mm、幅長さ4mm~7mmの破砕片とし、接着剤でコーティングした前記破砕片を加圧成形し接着剤を硬化させることにより、所定の厚さのパネル材とする」ものである。
【0010】
本構成では、ヨシの茎を破砕することにより、長さ20mm~70mm、幅長さ4mm~7mmのサイズとする。これは、従来の木質系ストランドボードに使用されるストランドのサイズと比べると、幅長さが非常に小さく、細長い。このような細長いサイズの破砕片とすることにより、竹のように硬く、断面が円形であるヨシの茎であっても、接着剤をコーティングした状態で加圧することにより、破砕片同士の接触面を増加させることができ、接着剤の硬化により強固に接着した状態でパネル化することができる。
【0011】
従って、上述した特許文献1,2のように、ヨシの茎をそのまま平行に並べて、配列を保持するために結束したり、ヨシの茎を長手方向に沿って割ったりする手間を要することなく、ヨシの茎を破砕し、接着剤をコーティングして圧縮するのみの簡易な方法で、ヨシを主要材料とするパネル材を製造することができる。
【0012】
なお、破砕片の長さを40mm~70mmとすることにより、詳細は後述するように、曲げ強度の高いパネル材を製造することができる。すなわち、竹に匹敵する引張強度を有するヨシの特性が有効に活用されたパネル材を製造することができる。また、過去の検討により、ヨシの茎は引張強度が高いものの個体間でのばらつきが大きいものであった。これに対し、本構成では、ヨシの茎を破砕し、加圧成形により多量の破砕片を圧縮してパネル化しているため、物性のばらつきを低減することができる。
【0013】
本発明にかかるパネル材の製造方法は、上記構成に加え、
「接着剤でコーティングした前記破砕片の配向角度を基準線に対して0度~±20度の範囲でそろえた層の複数を、各層の前記基準線が直交するように積層した後、加圧成形する」ものとすることができる。
【0014】
本構成とすることにより、詳細は後述するように、ヤング率(曲げヤング係数)の高いパネル材を製造することができる。つまり、応力を受けても変形しにくく、弾性的に変形するパネル材を製造することができる。
【0015】
本発明にかかるパネル材の製造方法は、上記構成に加え、
「前記破砕片の配向角度をそろえるために、断面凹状の樋部の複数が連設された供給用部材を使用する」ものとすることができる。
【0016】
加圧成形のために破砕片を敷き詰めるに当たり、本構成の供給用部材を介して破砕片を供給すると、断面凹状の樋部を破砕片が通過する際に、自ずと破砕片の長軸方向が樋部の軸方向に一致する。これにより、極めて簡易に、破砕片の配向角度をそろえることができる。
【0017】
次に、本発明にかかるパネル材は、
「ヨシの茎の破砕片であって、長さ20mm~70mm、幅長さ4mm~7mmの破砕片同士が、硬化した接着剤によって固着されている」ものである。これは、上記の製造方法により製造されるパネル材である。
【0018】
また、本発明にかかるパネル材は、上記の構成に加え、
「前記破砕片の配向角度が、基準線に対して0度~±20度の範囲でそろえられた層の複数が、各層の前記基準線が直交するように積層されている」ものとすることができる。これは、破砕片の配向角度を所定の範囲内でそろえた層の複数を、層間で配向の基準となる基準線を直交させつつ積層し、その後に加圧成形するという上記の製造方法により製造されるパネル材である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、ヨシを主要材料とするパネル材を、容易に製造できるパネル材の製造方法、及び、該製造方法により製造されるパネル材を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)~(c)本発明の具体的な実施形態であるパネル材の製造方法の工程を示す工程図である。
【
図2】(a)供給用部材の断面図であり、(b)
図2(a)の供給用部材の斜視図である。
【
図4】パネル材における上面及び下面と三点曲げ試験時の中央載荷面及び反対面の説明図である。
【
図5】(a)Sシリーズの試料の応力-たわみ曲線であり、(b)Lシリーズの試料の応力-たわみ曲線であり、(c)LOシリーズの試料の応力-たわみ曲線である。
【
図6】(a)破砕片の長さに対して三点曲げ強度をプロットしたグラフであり、(b)破砕片の配向角度に対して三点曲げ強度をプロットしたグラフであり、(c)破砕片の長さに対してヤング率をプロットしたグラフであり、(d)破砕片の配向角度に対してヤング率をプロットしたグラフである。
【
図7】(a)反対面における破砕片の長さに対して三点曲げ強度をプロットしたグラフであり、(b)反対面における破砕片の配向角度に対してヤング率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態であるパネル材の製造方法について、図面を用いて説明する。
【0022】
パネル材の製造方法は、
図1(a)に示すように、ヨシの茎を破砕して破砕片とする工程P1と、破砕片に接着剤をコーティングする工程P3と、接着剤がコーティングされた破砕片を型に充填する工程P4と、型に充填された破砕片を加圧成形する工程P5と、を具備している。
【0023】
工程P1では、十分に乾燥させたヨシの茎を、チッパーを用いて破砕する。ヨシの茎は、茎の延びる方向である長軸方向の引張強度が高いため、この性質を生かすために破砕片の長さは、ハンドリングのし易い範囲でなるべく長くする。後述するように、破砕片の長さは、20mm~70mmとすることができ、40mm~70mmとすると望ましく、60mm~70mmとすればより望ましい。
【0024】
また、ヨシの茎は、断面が円形で硬い。そのため、幅長さが大きいと、破砕片の断面が円弧状となってしまい、破砕片同士の接着面積が低下するおそれがある。そのため、破砕片の幅長さは、ハンドリングのし易い範囲でなるべく小さくする。破砕片の幅長さは、4mm~7mmとするとよく、4mm~6mmとすればより望ましい。このような幅長さは、従来の木質系ストランドボードのストランドに比べると、非常に小さい。
【0025】
工程P3では、破砕片に接着剤をスプレーガンで吹き付けながら撹拌することにより、破砕片に接着剤をコーティングする。接着剤としては、水性高分子-イソシアネート系接着剤、レゾルシノール樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、ゴム系ラテックス接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、を例示することができる。
【0026】
工程P4では、矩形の枠状の型に、接着剤がコーティングされた破砕片を充填する。
【0027】
工程P5では、型に充填された接着剤付き破砕片を、プレス機で加圧する。圧縮状態で接着剤を硬化させることにより、硬化した接着剤によって破砕片同士が固着しているパネル材が形成される。この工程P5では、加圧しつつ加熱することにより、破砕片が多少湾曲していても平面形状に近づくように変形しやすい。また、接着剤の種類により、その硬化が加熱により促進される。
【0028】
加圧成形されたパネル材は、裁断機を用いて所定のサイズに裁断される。
【0029】
ここで、
図1(b)に示すように、工程P1と工程P3との間に、破砕片のサイズとして目的とする数値範囲内にある破砕片を選別する、或いは、数値範囲外の破砕片を除く分級の工程P2を設けることができる。
【0030】
また、接着剤がコーティングされた破砕片を型に充填する工程P4は、複数のステップからなるものとし、破砕片の配向角度をそろえつつ充填する操作を複数回行うことにより、配向の方向が交差している複数の層が積層された状態となるように、破砕片を型に充填する工程とすることができる。具体的に、
図1(c)を用いて説明すると、破砕片を積層する数をNとしたときにN=n(nは2以上の自然数)となるまで積層するに当たり、まず、破砕片の長軸方向が、ある基準線と平行になるように配向させて、破砕片を型に充填する(ステップP4-1)。これで、破砕片の第一層が充填されたため、「N=1」とする(ステップP4-2)。
【0031】
次に、破砕片の配向の基準となる基準線が、第一層の基準線に対して直交するように型に充填する(ステップP4-3)。これで、更に一層が積層されたため「N=N+1」とし(ステップP4-4)、Nがnに達したかどうかが判断される(ステップP4-5)。例えば、五層を積層する場合(n=5)は、まだnに達していないため(ステップP4-5においてNo)、ステップP4-3に戻り、破砕片の配向の基準線が、下の層の基準線に対して直交するように型に充填する。Nがnに達するまで、ステップP4-3からステップP4-5を繰り返し、Nがnに達したら(ステップP4-5においてYes)、加圧成形の工程P5を行う。
【0032】
ここで、配向角度が意図した角度となるように破砕片を型に充填するためには、断面凹状の樋部の複数が連設されている供給用部材を使用することができる。例えば、
図2に示すように、断面がV字形の凹状である細長い樋部15が複数連設されている供給用部材10を使用することができる。このような、供給用部材10を介して破砕片を型に充填すれば、破砕片が樋部15を通過する際に、自ずと破砕片の長軸方向が樋部15の軸方向に一致しやすく、破砕片の配向角度を揃えることができる。この供給用部材10は、薄い平板を蛇腹状に折り曲げることにより、簡易に製造することができる。
【0033】
次に、上記の製造方法で製造した実施例のパネル材について説明する。原料としては、十分に乾燥させたヨシの茎のうち、約100N/mm2の引張強度を示すことを確認している根元から2mの部分を使用した。この部分のヨシの茎を破砕して破砕片とし、水性高分子-イソシアネート系接着剤でコーティングした。破砕片の水分含有率(加圧成形前)は約10質量%であり、接着剤の量は破砕片に対して約5.5質量%とした。加圧成形は、150℃~200℃に加熱した状態で、40MPa~50MPaの圧力で行い、成形後の比重が約0.7で、厚さが10mmとなるように行った。
【0034】
目標とする破砕片の長さを30mmとし、破砕片の配向角度をそろえることなく一層とした試料S1~S8(Sシリーズ)、目標とする破砕片の長さを70mmとし、破砕片の配向角度をそろえることなく一層とした試料L1~L8(Lシリーズ)、及び、目標とする破砕片の長さを70mmとし、破砕片の配向の基準線を直交させて五層とした試料LO1~LO15(LOシリーズ)のパネル材を製造した。Sシリーズ及びLシリーズは一辺が290mmの正方形に裁断し、LOシリーズは一辺が380mmの正方形に裁断した。
【0035】
各試料のパネル材について、破砕片の長さ、幅長さ、及び、配向角度を測定した。測定はパネル材の両面について行い、加圧成形の際の向きで「上面」及び「下面」と区別した。各面について、所定数の縦線と横線で格子状に区切り、区画された同一サイズの正方形の中心にある破砕片について、その長さ、幅長さ、及び、配向角度を測定した。配向角度は、Sシリーズの試料及びLシリーズの試料については、ある基準線を設定し、破砕片の長軸の基準線に対する角度を±90度の範囲で測定し、その絶対値を測定結果とした。また、LOシリーズの試料については、製造時における供給用部材10の樋部15の軸方向の延長線を基準線として、破砕片の配向角度を±90度の範囲で測定し、その絶対値を測定結果とした。各試料について、破砕片の長さ、幅長さ、及び、配向角度の平均値を表1に示す。
【0036】
【0037】
いずれの試料においても、破砕片の長さは上面より下面の方が小さい傾向がある。これは、型に充填する際に、小さな破砕片が底部に移行しやすいためと考えられる。上面における破砕片の長さは、意図した長さに近い値となっている。
【0038】
配向角度は、配向させることを意図していないSシリーズの試料及びLシリーズの試料に比べ、配向させることを意図したLOシリーズの試料では小さくなっており、およそ±20度の範囲内で、意図した方向に破砕片が配向している。
【0039】
各試料について、機械的強度を評価するために三点曲げ強度を測定した。支点間距離は、Sシリーズの試料及びLシリーズの試料では210mm、LOシリーズの試料では300mmとし、配向角度を測定した際に設定した基準線の方向をスパン方向とした。上述したように、各試料の両面では破砕片の長さが多少異なるため、各シリーズについて試料の半数は、加圧成形時の上面が三点曲げ試験時に中央載荷する側の面(以下、「中央載荷面」と称する)となるようにし、残りの半数は加圧成形時の上面が三点曲げ試験時に中央載荷面とは反対側の面(以下、「反対面」と称する)となるようにした(
図4参照)。
【0040】
各試料について、三点曲げ強度試験における応力-たわみ曲線を
図5に示す。たわみは、中央載荷点のたわみである。いずれの試料も、応力-たわみ曲線は最大荷重に達するまでの間で部分的に線形であり、その後は荷重が急激に低下したのち、荷重がゼロになることなく徐々に低下している。これは、弾性的に変形したのち破壊に至るが、破壊によって試料が分断することなく折れ曲がった状態でつながっていることを示している。試験後の試料を観察すると、破壊は反対面において中央載荷点の反対側の点を中心として起きており、両端の支点の部分では試料に損傷は見られなかったことから、破壊は曲げ引張力によるものと考えられた。また、破壊は破砕片と破砕片との剥離を主要因として生じており、破砕片の内部では破断はほとんど生じていなかった。
【0041】
三点曲げ強度試験の結果から、ヤング率(曲げヤング係数)を算出した。ヤング率は、応力-たわみ曲線における線形部分(弾性変形している部分)の傾きとして、最大荷重の0.4倍の荷重点と原点とを結ぶ直線の傾きを算出した。各試料について、三点曲げ強度とヤング率を、表1に合わせて示す。
【0042】
また、各シリーズの測定結果を総合して、破砕片の長さに対して三点曲げ強度をプロットしたグラフを
図6(a)に、破砕片の配向角度に対して三点曲げ強度をプロットしたグラフを
図6(b)に、破砕片の長さに対してヤング率をプロットしたグラフを
図6(c)に、破砕片の配向角度に対してヤング率をプロットしたグラフを
図6(d)に示す。各図では、三点曲げ強度の試験時に中央載荷面であった面(加圧成形時の上面または下面)に関する測定結果を白抜きのマーカーで、三点曲げ強度の試験時に反対面であった面(加圧成形時の上面または下面)に関する測定結果を黒塗りのマーカーで示している。
【0043】
図6(a)及び
図6(c)から、三点曲げ強度、ヤング率ともに、破砕片の長さが大きいほど大きな値となっている。また、
図6(b)及び
図6(d)から、三点曲げ強度、ヤング率ともに、破砕片の配向角度が小さいほど大きな値となる傾向がみられる。そこで、三点曲げ強度の試験時に中央載荷面であった面と反対面であった面を区別し、破砕片の長さ及び配向角度のそれぞれについて、三点曲げ強度及びヤング率それぞれとの相関係数を表2に示す。
【0044】
【0045】
表2に示すように、三点曲げ強度は、反対面における破砕片の長さと正の相関係数が大きく、ヤング率は、反対面における破砕面の配向角度と負の相関係数が大きい。このように、三点曲げ強度やヤング率との相関が反対面で大きいのは、曲げ破壊が反対面に作用する曲げ引張力によって生じているためと考えられる。
【0046】
図7(a)に、反対面のみについて、破砕片の長さに対して三点曲げ強度をプロットしたグラフを相関曲線と共に示す。この相関曲線から、破砕片の長さを40mm以上とすれば、三点曲げ強度を30N/mm
2以上とすることができ、破砕片の長さを60mm以上とすれば三点曲げ強度を35N/mm
2以上とすることができると言うことができる。すなわち、パネル材の曲げ強度を高めるためには、破砕片の長さを40mm~70mmとすることが望ましく、60mm~70mmとすればより望ましい。
【0047】
また、
図7(b)に、反対面のみについて、破砕片の配向角度に対してヤング率をプロットしたグラフを相関曲線と共に示す。この相関曲線から、破砕片の配向角度を±20度の範囲とすればヤング率を6500N/mm
2以上とすることができ、破砕片の配向角度を±15度の範囲とすればヤング率を7000N/mm
2以上とすることができると言うことができる。すなわち、パネル材のヤング率を高めるためには、破砕片の配向角度をそろえた層を、層間で配向の基準方向を直交させつつ五層以上積層し、その配向角度を0度~±20度の範囲とすることが望ましく、配向角度を0度~±15度の範囲とすればより望ましい。
【0048】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、ヨシの茎を破砕して得られる破砕片に接着剤をコーティングし加圧成形してパネル化するに当たり、破砕片の長さや配向角度を制御することにより、曲げ強度が高く、且つ、応力を受けても変形しにくく弾性的に変形するパネル材を製造することができる。
【0049】
そして、このように製造されたパネル材は、建築物の壁材(内装、外装)、天井材、ドア材、家具や建具の材料など、種々の用途に使用でき、他のパネル材と積層することにより複合材料として使用することも可能である。また、自然の素材であるヨシの風合いが生かされた意匠性の高いパネル材であるため、上記の用途における表面仕上げ材としても適している。従って、ヨシに新たな需要を創出することができ、現状では管理不全の状態に陥っているヨシ原の環境を、改善することが可能となる。
【0050】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0051】
例えば、上記では、破砕片の配向角度をそろえるための供給用部材として、樋部15の断面がV字形の凹状である供給用部材10を例示した。これに限定されず、
図3に例示するように、樋部15bの断面が半円弧の凹状である供給用部材10bを使用しても、破砕片の配向角度をそろえることができる。
【符号の説明】
【0052】
P1 ヨシの茎を破砕して破砕片とする工程
P3 破砕片に接着剤をコーティングする工程
P4 接着剤がコーティングされた破砕片を型に充填する工程
P5 型に充填された破砕片を加圧成形する工程
10,10b 供給用部材
15,15b 樋部