(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053707
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】生体情報測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20220330BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61B5/02 A
A61B5/022 400A
A61B5/022 100A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160493
(22)【出願日】2020-09-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】518444613
【氏名又は名称】LaView株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】益田 博之
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA07
4C017AA08
4C017AA20
4C017AB01
4C017AC03
4C017BC11
4C017DE01
4C017EE01
4C017EE15
4C017FF05
(57)【要約】
【課題】簡易且つ小型の構成としながらも、血管のトーヌス情報を測定することのできる生体情報測定装置を提供する。
【解決手段】生体情報測定装置10は、生体の一部に巻き付けられる圧迫帯20と、圧迫帯20の内圧を変化させる圧力調整部51と、圧迫帯20の内圧が変化している期間における、当該内圧及び圧迫帯20の容量のそれぞれの変化を示す時系列データ、を取得するデータ取得部52と、生体の血管壁100にかかる圧力を示す第1指標と、血管壁100の内側における容量を示す第2指標と、の対応関係を示すトーヌス情報を、時系列データに基づいて算出するトーヌス情報算出部53と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部に巻き付けられる圧迫帯と、
前記圧迫帯の内圧を変化させる圧力調整部と、
前記圧迫帯の内圧が変化している期間における、当該内圧及び前記圧迫帯の容量のそれぞれの変化を示す時系列データ、を取得するデータ取得部と、
前記生体の血管壁にかかる圧力を示す第1指標と、前記血管壁の内側における容量を示す第2指標と、の対応関係を示すトーヌス情報を、前記時系列データに基づいて算出するトーヌス情報算出部と、
を備えることを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項2】
前記トーヌス情報算出部により算出される前記トーヌス情報には、
複数の前記第1指標の値、のそれぞれに対応した前記第2指標の値が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記トーヌス情報算出部は、
心臓の拍動に応じて変動する、前記圧迫帯の容量の変動幅を、前記第2指標の変動幅として算出し、当該変動幅を用いて前記トーヌス情報を算出することを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記トーヌス情報算出部は、
前記圧迫帯の内圧の変化に対応する、前記第2指標の変化の傾き、であるコンプライアンス値を、前記圧迫帯の内圧について所定値まで積分することで、当該所定値に対応した前記第2指標の値を算出することを特徴とする、請求項3に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
心臓が拡張し血圧が極小となっている際においても前記血管壁の内側を閉口させないような前記圧迫帯の内圧、の最大値を第1圧力とし、
心臓が収縮し血圧が極大となっている際において前記血管壁の内側を閉口させるような前記圧迫帯の内圧、の最小値を第2圧力としたときに、
前記トーヌス情報算出部は、
前記第1圧力及び前記第2圧力のそれぞれを予め算出した上で、
前記圧迫帯の内圧が、前記第1圧力よりも小さくなるような範囲においては、前記第2指標の変動幅を、前記第2圧力から前記第1圧力を差し引いた値で除することにより、前記コンプライアンス値を算出し、
前記圧迫帯の内圧が、前記第1圧力よりも大きく且つ前記第2圧力よりも小さくなるような範囲においては、前記第2指標の変動幅を、前記第2圧力の値で除することにより、前記コンプライアンス値を算出することを特徴とする、請求項4に記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
前記トーヌス情報算出部は、
前記圧迫帯の内圧と、前記圧迫帯の容量の変動幅と、の対応関係に基づいて、前記第1圧力及び前記第2圧力のそれぞれを算出することを特徴とする、請求項5に記載の生体情報測定装置。
【請求項7】
前記トーヌス情報を出力する出力部、を更に備えることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体情報測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりや医療の高度化等に伴って、生体情報を簡易に測定する必要性が高くなってきている。「生体情報」としては、例えば血圧等が挙げられる。下記特許文献1には、オシロメトリック法を用いて血圧を測定する装置について記載されている。
【0003】
オシロメトリック法では、上腕等に圧迫帯を巻き付けて加圧した後、圧迫帯の内圧を徐々に下げて行きながら、圧迫帯の容量の変動等に基づいて血圧が測定される。このような装置は、その構成が比較的シンプルであるため、簡易に使用することのできる生体情報測定装置として一般家庭にも広く普及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、血管壁の状態を示すトーヌス情報を、簡易に測定することのできる生体情報測定装置について研究を進めている。「トーヌス情報」とは、血管壁に対しこれを押し広げる方向に働く圧力と、血管壁の内側における容量と、の対応関係を示す生体情報である。このようなトーヌス情報を測定するための従来の装置としては、例えば、血管の径を測定するために超音波画像装置や歪みゲージを用いるもの等、比較的複雑で且つ大型の装置が知られている。しかしながら、一般家庭などにおいてトーヌス情報を手軽に測定するためには、上記特許文献1に記載の血圧計のように、簡易且つ小型の生体情報測定装置とすることが好ましい。
【0006】
本開示は、簡易且つ小型の構成としながらも、血管壁のトーヌス情報を測定することのできる生体情報測定装置ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る生体情報測定装置は、生体の一部に巻き付けられる圧迫帯と、圧迫帯の内圧を変化させる圧力調整部と、圧迫帯の内圧が変化している期間における、当該内圧及び圧迫帯の容量のそれぞれの変化を示す時系列データ、を取得するデータ取得部と、生体の血管壁にかかる圧力を示す第1指標と、血管壁の内側における容量を示す第2指標と、の対応関係を示すトーヌス情報を、時系列データに基づいて算出するトーヌス情報算出部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成の生体情報測定装置では、トーヌス情報算出部が、時系列データに基づいてトーヌス情報を算出する。時系列データは、圧迫帯の内圧が変化している期間における、当該内圧及び圧迫帯の容量のそれぞれの変化を示すデータである。つまり、従来のオシロメトリック法を用いた血圧計で取得されるデータと同様のデータである。このため、上記構成の生体情報測定装置では、従来の血圧計等と同様に比較的簡易且つ小型の構成としながらも、トーヌス情報を測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、簡易且つ小型の構成としながらも、血管壁のトーヌス情報を測定することのできる生体情報測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、血管壁をモデル化して示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る生体情報測定装置の構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、生体情報測定装置によって取得される時系列データの例を示す図である。
【
図6】
図6は、圧迫帯の内圧と、第2指標の変動幅との対応関係の例を示す図である。
【
図7】
図7は、圧迫帯の内圧と、第2指標の変動幅との対応関係の例を示す図である。
【
図8】
図8は、圧迫帯からの圧力により血管壁が閉口している状態を示す図である。
【
図9】
図9は、圧迫帯の内圧と、血管壁の状態との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、生体情報測定装置により実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
本実施形態に係る生体情報測定装置10は、生体情報として、血管壁のトーヌス情報を測定するための装置として構成されている。生体情報測定装置10の構成の説明に先立ち、測定される「トーヌス情報」について先ず説明する。
【0013】
図1には、人体の動脈における血管壁100の構成が示されている。同図に示されるように、血管壁100は、内膜110、中膜120、及び外膜130からなる三層構造となっている。これらはいずれも、主にエラスティン繊維及びコラーゲン繊維を含んでいる。
【0014】
内膜110は、血管壁100のうち最も内側の層である。内膜110のうち最も内側にある血管内皮細胞には、血液の状態を検知するための様々な受容体(不図示)が存在している。
【0015】
中膜120は、血管壁100のうち内膜110の外側にある層である。中膜120には、血管壁100の弾性状態を調整するための平滑筋が存在している。内膜110にある上記受容体が、血液中の血管作用因子を感知すると、それに伴って平滑筋の緊張・弛緩状態が変化し、これにより血管壁100の弾性状態が調整される。外膜130は、血管壁100のうち中膜120の更に外側にある層である。
【0016】
図2は、血管壁100を、その弾性特性を説明するためにモデル化して描いた図である。同図において符号210が付されているのは、中膜120にある平滑筋を表すものである。符号220が付されているのは、血管壁100の各層を構成するエラスティン繊維の弾性を表すものである。符号230が付されているのは、血管壁100の各層を構成するコラーゲン繊維の弾性を表すものである。
【0017】
血管壁100の内部における圧力が上昇し、血管壁100が延ばされる場合、すなわち、
図2におけるLが大きくなる場合について説明する。血管壁100が延ばされ始めた初期の段階においては、血管壁100の弾性特性は、主に平滑筋210及びエラスティン繊維220によって影響を受ける一方、コラーゲン繊維230によってはあまり影響を受けない。血管壁100が更に延ばされると、コラーゲン繊維230によっても影響を受けるようになる。血管壁100の弾性特性に対するコラーゲン繊維230の影響は、血管壁100の延ばされる程度によって変化する。
【0018】
このように、血管壁100の弾性特性は、エラスティン繊維220及びコラーゲン繊維230によって支配され、中膜120の平滑筋210によって調整されるものである。つまり、血管壁100の弾性特性は、例えば弾性係数のような単一の数値のみで表現できるものではなく、血管壁100に加えられる圧力や、血液中の血管作用因子により複雑に変化するものとなっている。
【0019】
図3には、血管容量(横軸)と、血管圧力(縦軸)との対応関係の例が示されている。ここでいう「血管容量」とは、血管壁100の内側における容量のことである。所定長さの血管壁100の内側に存在する血液の体積といってもよい。
【0020】
ここでいる「血管圧力」とは、血管壁100を押し拡げる方向に、血管壁100に加えられる圧力のことである。血管圧力は、例えば、(血管壁100に外側から加えられる圧力)-(血圧)と定義することができる。
【0021】
図3の線L1に示されるように、血管容量と血管圧力との対応関係を示すグラフは、直線状とはならず、独特の曲線状となる。これは、血管壁100の弾性特性が、平滑筋210、エラスティン繊維220、及びコラーゲン繊維230の影響を受けるからである。
【0022】
人が運動を行ったり、血管に作用する薬液が人体に投与されたりすると、平滑筋210が弛緩する。これにより、血管容量と血管圧力との対応関係を示すグラフは、線L1から線L2や線L3へと、矢印AR1の方向に変化する。逆に、平滑筋210が緊張すると、血管容量と血管圧力との対応関係を示すグラフは、線L3から線L2や線L1へと、矢印AR2の方向に変化する。
【0023】
生体情報測定装置10により測定される「トーヌス情報」とは、例えば
図3の各グラフのように、血管容量と血管圧力との対応関係を示す情報である。
【0024】
尚、
図3の縦軸は、血管壁100にかかる圧力を示す指標であればよく、上記のように定義される「血管圧力」そのものでなくてもよい。例えば、血圧を含む圧力であってもよく、上記の血管圧力を無次元化して、0~1の範囲で変化するパラメータとして表したものであってもよい。このような、血管壁100にかかる圧力を示す指標のことを、以下では「第1指標」とも称する。
【0025】
同様に、
図3の横軸は、血管壁100の内側における容量を示す指標であればよく、上記のように定義される「血管容量」そのものでなくてもよい。例えば、上記の血管容量を無次元化して、0~1の範囲で変化するパラメータとして表したものであってもよい。このような、血管壁100の内側における容量を示す指標のことを、以下では「第2指標」とも称する。
【0026】
生体情報測定装置10により測定される「トーヌス情報」を改めて定義すると、「トーヌス情報」とは、第1指標と第2指標との対応関係を示す情報、ということができる。尚、本実施形態において、生体情報測定装置10により測定される「トーヌス情報」には、
図3のグラフに示される例のように、複数の第1指標(縦軸)の値と、それぞれに対応する第2指標(横軸)の値と、が含まれる。このような態様に替えて、単一の第1指標の値と、これに対応する第2指標の値のみが、トーヌス情報として測定されることとしてもよい。
【0027】
生体情報測定装置10によれば、
図3に示されるようなトーヌス情報を、簡易に且つ迅速に測定することができる。これにより、例えば、
図3に示されるグラフの傾きに基づいて、動脈硬化の進行度合いを判定することが可能となる。また、人体に刺激(例えば運動や薬物)を加える前後における、
図3に示されるグラフの変化に基づいて、平滑筋による調整機能が健全に働いているか否かを判定することが可能となる。
【0028】
更に、例えば、第1指標(縦軸)の値を「P」とし、第2指標(横軸)の値を「V」としたときに、V(dP/dV)の式で表される血管弾性率を用いて、血管壁100の状態を定量化することもできる。また、血管壁100が弛緩した際の第2指標の変化量ΔVと、弛緩前における第2指標の値(V)を用いて、(ΔV/V)として定量化することもできる。このように、生体情報測定装置10で測定されるトーヌス情報を用いれば、血管壁100の健康状態を様々な指標を用いて評価することが可能となる。
【0029】
生体情報測定装置10の構成について、
図4を参照しながら説明する。同図に示されるように、生体情報測定装置10は、圧迫帯20と、空気ポンプ31と、制御弁32と、流量センサ33と、圧力センサ34と、インターフェイス回路40と、制御装置50と、表示装置60と、を備えている。
【0030】
圧迫帯20は、生体である人体の一部、具体的には上腕70に巻き付けられる袋状の部材である。圧迫帯20は、「カフ」とも称されるものである。圧迫帯20の内側に空気が供給され、その内圧が高くなると、圧迫帯20によって上腕70が圧迫された状態となる。
【0031】
空気ポンプ31は、圧迫帯20に向けて空気を送り出す装置である。空気ポンプ31と圧迫帯20との間は、配管30により接続されている。空気ポンプ31により送り出された空気は、配管30を通って圧迫帯20の内側に供給され、これにより圧迫帯20の内圧が上昇する。空気ポンプ31の動作は、後述の制御装置50により制御される。
【0032】
制御弁32は、圧迫帯20に送り込まれる空気の量を調整するための弁であって、配管30の途中となる位置に設けられている。制御弁32は、配管30から外部に排出される空気の量を調整することもできる。このような制御弁32によって、圧迫帯20の内圧を調整することができる。制御弁32の動作は制御装置50により制御される。
【0033】
流量センサ33は、圧迫帯20に供給される空気の流量、及び、圧迫帯20から排出される空気の流量のそれぞれを測定するためのセンサである。流量センサ33は、配管30のうち、制御弁32と圧迫帯20との間となる位置に設けられており、当該位置を流れる空気の流量を測定する。流量センサ33によって測定された流量は、後述のインターフェイス回路40を介して制御装置50へと送信される。これにより、制御装置50は、例えば当該流量を積算することにより、各時点における圧迫帯20の容量を算出し把握することができる。
【0034】
圧力センサ34は、圧迫帯20の内側における空気の圧力、すなわち、圧迫帯20の内圧を測定するためのセンサである。圧力センサ34は、配管30のうち、流量センサ33と圧迫帯20との間となる位置に設けられており、当該位置における空気の圧力を測定する。圧力センサ34によって測定された圧力は、インターフェイス回路40を介して制御装置50へと送信される。これにより、制御装置50は、各時点における圧迫帯20の内圧を算出し把握することができる。
【0035】
インターフェイス回路40は、制御装置50が、各種センサからの信号を受け取るためのインターフェイスとして構成された回路である。インターフェイス回路40には、不図示のA/D変換回路が含まれる。流量センサ33や圧力センサ34から送信されたアナログ信号は、インターフェイス回路40においてデジタル信号に変換された後に、制御装置50へと入力される。
【0036】
制御装置50は、生体情報測定装置10の全体の動作を制御し、且つ、トーヌス情報の測定に必要な各種の演算を行うための装置である。制御装置50は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムとして構成されている。制御装置50は、その機能を表すブロック要素として、圧力調整部51と、データ取得部52と、トーヌス情報算出部53と、出力部54と、を備えている。
【0037】
圧力調整部51は、圧迫帯20の内圧を変化させる処理を行う部分である。圧力調整部51は、空気ポンプ31及び制御弁32の動作をそれぞれ制御することで、圧迫帯20の内圧を変化させる。具体的には、圧力調整部51は、上腕70に巻き付けられた圧迫帯20の内圧を所定圧力まで上昇させた後、当該内圧を次第に低下させていく処理を行う。
【0038】
データ取得部52は、圧迫帯20の内圧が変化している期間における、当該内圧及び圧迫帯20の容量のそれぞれの変化を示す時系列データ、を取得する処理を行う部分である。データ取得部52は、圧迫帯20の内圧が次第に低下している期間において、圧迫帯20の内圧及び容量のそれぞれを、所定の周期でサンプリングすることにより時系列データを取得する。データ取得部52によって取得される圧迫帯20の内圧とは、圧力センサ34によって測定される圧迫帯20の内圧のことである。また、データ取得部52によって取得される圧迫帯20の容量とは、流量センサ33の測定値に基づいて算出される、圧迫帯20の容量のことである。
【0039】
トーヌス情報算出部53は、
図3を参照しながら説明したトーヌス情報を、データ取得部52により取得された上記の時系列データに基づいて算出する処理を行う部分である。その具体的な算出方法については後に説明する。
【0040】
出力部54は、トーヌス情報算出部53によって算出されたトーヌス情報を、外部へと出力する処理を行う部分である。本実施形態の出力部54は、トーヌス情報を後述の表示装置60に送信し、表示装置60の画面に表示させる処理を行う。これにより、生体情報測定装置10の使用者が、トーヌス情報を目視により確認することが可能となる。
【0041】
尚、出力部54によるトーヌス情報の出力は、上記のような態様に限定されない。例えば、出力部54が、医療機関のサーバーに向けてトーヌス情報を出力することとしてもよい。出力されるトーヌス情報は、
図3のようなグラフとして出力されるのではなく、単なる数値データとして出力されることとしてもよい。
【0042】
表示装置60は、出力部54から出力されるトーヌス情報を、生体情報測定装置10の使用者に通知するためのインターフェイスとして機能する装置である。表示装置60は、不図示の画面を有しており、当該画面に、トーヌス情報を
図3のようなグラフとして表示する。表示装置60は、トーヌス情報を表示するための専用の装置であってもよいが、例えば、使用者が所持している携帯通信端末であってもよい。
【0043】
生体情報測定装置10による、トーヌス情報の測定方法について説明する。先ず、一般的な血圧計と同様に、圧迫帯20が上腕70に巻き付けられた状態とされる。その後、圧力調整部51が、圧迫帯20の内圧を所定圧力まで上昇させる。「所定圧力」としては、血管壁100を圧迫して閉口させるのに十分な圧力が設定される。尚、ここでいう「閉口」とは、圧迫帯20が巻き付けられた部分の血管壁100が、圧迫帯20から受ける力により閉塞され、血流が流れなくなる状態のことを意味する。
【0044】
その後、圧力調整部51は、圧迫帯20の内圧を徐々に低下させて行く。圧迫帯20の内圧が低下して行く期間においては、データ取得部52によって、圧迫帯20の内圧及び容量のそれぞれがサンプリングされ、先に述べた時系列データとして取得される。当該処理は、圧迫帯20の内圧が、血管壁100における血流に影響を与えない程度に低くなるまで継続される。
【0045】
図5の線L10は、データ取得部52によって取得された時系列データの一例を示すグラフである。尚、時系列データは、圧迫帯20の内圧と容量の組み合わせからなる複数のデータの集合であるから、
図5のようなグラフとして表した場合には、実際には複数の点で描かれることとなる。線L10は、これら複数の点を、連続する線として描いたものである。
【0046】
時系列データのグラフが、線L10のように脈動したグラフとなるのは、圧迫帯20の容量が心臓の拍動により影響を受けるからである。心臓が収縮最大期になると、血圧は最も高くなり、血管壁100は拡大して圧迫帯20を押し縮める。また、心臓が拡張末期になると、血圧は最も低くなり、血管壁100が縮小してその分だけ圧迫帯20は拡大する。
【0047】
以上のようであるから、圧力調整部51が、圧迫帯20の内圧を例えば一定の速度で低下させようとしても、当該内圧は、線L10のように脈動しながら低下して行くこととなる。
【0048】
続いて、トーヌス情報算出部53は、
図5に示される2つの包絡線L11及びL12の式を算出する処理を行う。トーヌス情報算出部53は、線L10で示される時系列データにフィルタリング処理を施すことにより、心臓が収縮最大期となるタイミング、すなわち、脈動の各ピークとなるタイミングで取得された時系列データを抽出し、これらのデータを通る線として包絡線L11の式を作成する。同様に、心臓が拡張末期となるタイミング、すなわち、脈動の各ボトムとなるタイミングで取得された時系列データを抽出し、これらのデータを通る線として包絡線L12の式を作成する。
【0049】
図5に示される「ΔV」は、圧迫帯20の内圧がPとなっているタイミングにおける包絡線L11の値から、同タイミングにおける包絡線L12の値を差し引いたものである。このΔVは、圧迫帯20の内圧がPとなっているときの、圧迫帯20の容量の変動幅ということができる。上記のΔVは、血管の拍動に伴う圧迫帯20の容量変化に対応して、圧迫帯20の内圧を一定値(P)に保つように調整している状態下での、圧迫帯20の容量変化ということもできる。換言すれば、上記のΔVは、血管の拍動中に血管壁100にかかる圧力を一定値(P)に保っている状態下での、圧迫帯20の容量変化ということもできる。また、圧迫帯20の容量の変動は、血管壁100の内側における容量の変動により生じるものであるから、ΔVは、圧迫帯20の内圧がPとなっているときの、血管壁100の容量の変動幅、すなわち「第2指標の変動幅」ということもできる。トーヌス情報算出部53は、時系列データに含まれる圧迫帯20の内圧のそれぞれの値について、対応する「第2指標の変動幅」の値を上記と同様の方法で算出する。
【0050】
このように算出された対応関係、すなわち、圧迫帯20の内圧と、第2指標の変動幅との対応関係は、理想的には、
図6に示されるグラフ上に分布するはずである。同図に示される「PDIA」は、心臓が拡張し血圧が極小となっている際においても血管壁100の内側を閉口させないような圧迫帯20の内圧、の最大値である。当該値のことを、以下では「第1圧力PDIA」とも称する。同図の「PSYS」は、心臓が収縮し血圧が極大となっている際において血管壁100の内側を閉口させるような圧迫帯20の内圧、の最小値である。当該値のことを、以下では「第2圧力PSYS」とも称する。
【0051】
圧迫帯20の内圧が第1圧力PDIA以下であるときには、血管壁100の内側は常に開口した状態となっている。このため、圧迫帯20の内圧の変化に対する、第2指標の変動幅の変化の傾きは、比較的緩やかである。
【0052】
圧迫帯20の内圧が第1圧力PDIAよりも大きくなると、血管壁100の内壁は、脈動のボトムとなるタイミングの近傍において、毎回閉口するようになる。このため、圧迫帯20の内圧の変化に対する、第2指標の変動幅の変化の傾きは急激に大きくなる。
【0053】
その後、圧迫帯20の内圧の増加に伴って上記の傾きは次第に小さくなっていき、第2指標の変動幅は増加から減少に転じる。圧迫帯20の内圧の増加に伴う、第2指標の変動幅のこのような変化は、エラスティン繊維とコラーゲン繊維の関与の違いに伴って、血管壁弾性が変化することに起因している。圧迫帯20の内圧が更に大きくなると、血管壁100に加えられる力が大きくなるので、第2指標の変動幅は次第に小さくなっていく。圧迫帯20の内圧が第2圧力PSYSになると、血管壁100の内壁は常に閉口した状態となるので、第2指標の変動幅は、理想的には
図6のように0となるはずである。
【0054】
圧迫帯20の内圧と、第2指標の変動幅との対応関係は、実際には
図7の各点で示されるものとなる。同図に示されるように、圧迫帯20の内圧が第2圧力PSYSとなっても、第2指標の変動幅は実際には0とならない。その理由について、
図8を参照しながら説明する。
【0055】
図8では、圧迫帯20を巻き付けられた上腕70の断面が、模式的に描かれている。
図8においては、圧迫帯20の内圧が上記の第2圧力PSYSよりも大きくなっており、血管壁100は圧縮されて閉口した状態となっている。このため、
図8に示される部分では、血管壁100の内側において血流が遮断されている。
【0056】
ただし、このように血流が遮断された状態においても、血管壁100のうち圧迫帯20よりも上流側(
図8では右側)の部分では、心臓の拍動に伴って血管壁100の内圧が脈動している。このため、この部分における血管壁100の容量は、矢印AR11で示されるように脈動する。圧迫帯20は、当該脈動により力を受けるので、その容量もまた、矢印AR12で示されるように脈動することとなる。圧迫帯20の内圧が第2圧力PSYS以上となっても、第2指標の変動幅が0とならないのは、このような理由による。
【0057】
図7に戻って説明を続ける。
図7に示される線L23は、
図8の矢印AR11で示されるような、血管壁100のうち上流側部分が脈動してしまうことの影響を表している。
図7に示されるデータの各点は、
図6に示される理想的なグラフに対し、
図8の線L23を重畳したグラフの上に分布している。トーヌス情報算出部53は、
図7の各点のように分布するデータに基づいて、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのそれぞれを算出する。
【0058】
具体的には、トーヌス情報算出部53は、
図7に示されるデータのうち、第2指標の変動幅が最大となる部分及びその近傍のデータを、2次関数を用いて近似する。
図7には、このような近似で得られた2次関数のグラフが線L21として示されている。
【0059】
図7に示される「P1」は、第2指標の変動幅が最大となるときにおける圧迫帯20の内圧である。
図7に示される「P2」は、第2指標の変動幅の変化が変曲点となるときにおける、圧迫帯20の内圧である。この「P2」は、線L23の影響が出始めるときの圧迫帯20の内圧、ということもできる。線L21に示される2次関数としては、
図7に示されるデータのうち、少なくともP1及びP2の2点において、変動幅のデータと一致するような2次関数を採用することが好ましい。
【0060】
トーヌス情報算出部53は、上記のような近似により得られた2次関数の値が0となるときの圧迫帯20の内圧であり、且つP1よりも大きい方の値を、第2圧力PSYSとして算出する。
【0061】
また、トーヌス情報算出部53は、
図7の各点に示されるデータのうち、P1よりも十分に小さな範囲における複数のデータを、上記とは別の2次関数を用いて近似する。
図7には、このような近似で得られた2次関数のグラフが線L22として示されている。トーヌス情報算出部53は、それぞれの近似で得られる各2次関数の交点、すなわち、線L21と線L22における交点に対応する圧迫帯20の内圧を、第1圧力PDIAとして算出する。
【0062】
尚、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSの算出は、上記と異なる方法によって行われてもよい。例えば、線L21や線L22を求めるための近似は、2次関数ではなく3次関数や4次関数など、他の関数を用いて行われてもよい。また、
図7に示される各データの波形を解析し、変曲点となる点における圧迫帯20の内圧を第1圧力PDIAとして算出することとしてもよい。いずれの態様においても、トーヌス情報算出部53は、圧迫帯20の内圧と、圧迫帯20の容量の変動幅と、の対応関係(つまり
図7の各点)に基づいて、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのそれぞれを算出するように構成される。
【0063】
第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのそれぞれを算出した後、トーヌス情報算出部53はコンプライアンス値を算出する。「コンプライアンス値」とは、心臓の拍動に伴う圧迫帯20の内圧の変化に対応する、第2指標の変化の傾きのことである。
【0064】
コンプライアンス値の算出方法について、
図9を参照しながら説明する。
図9(A)乃至(C)のそれぞれにおける上段には、心臓が収縮し血圧が極大となっているとき、すなわち、血管壁100における血圧が第2圧力PSYSに概ね等しくなっているときにおける、血管壁100の断面形状が模式的に示されている。
図9(A)乃至(C)のそれぞれにおける下段には、心臓が拡張し血圧が極小となっているとき、すなわち、血管壁100における血圧が第1圧力PDIAに概ね等しくなっているときにおける、血管壁100の断面形状が模式的に示されている。
【0065】
図9(A)には、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのいずれよりも大きくなっているときの、血管壁100の状態が示されている。この状態においては、心臓が収縮し血圧が極大となっているとき、及び、心臓が拡張し血圧が極小となっているとき、のいずれにおいても、血管壁100は、圧迫帯20からの力により常に閉口した状態となっている。圧迫帯20の内圧がこのような圧力域にあるときには、血管壁100の容量が変化しないので、血管壁100の弾性状態を示す指標、であるコンプライアンス値を得ることができない。このため、トーヌス情報算出部53は、当該圧力域についてはトーヌス情報の算出を行わない。
【0066】
図9(B)には、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIAよりも大きくなっており、且つ、第2圧力PSYSよりも小さくなっているときの、血管壁100の状態が示されている。この状態においては、心臓が収縮し血圧が極大となっているときには、血管壁100が開口した状態となり、心臓が拡張し血圧が極小となっているときには、血管壁100が閉口した状態となる。
【0067】
圧迫帯20の内圧がこの圧力域にあるときにおいては、心臓の拍動に伴う圧迫帯20の内圧の変動幅は(PSYS-0)ということになる。このため、各内圧における第2指標の変動幅を「ΔV」とし、コンプライアンス値を「C」とすると、圧迫帯20の内圧がこの圧力域にあるときについてのコンプライアンス値は、C=ΔV/PSYSの式を用いて算出することができる。
【0068】
図9(C)には、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのいずれよりも小さくなっているときの、血管壁100の状態が示されている。この状態においては、心臓が収縮し血圧が極大となっているとき、及び、心臓が拡張し血圧が極小となっているとき、のいずれにおいても、血管壁100は常に開口した状態となっている。
【0069】
圧迫帯20の内圧がこの圧力域にあるときにおいては、心臓の拍動に伴う圧迫帯20の内圧の変動幅は(PSYS-PDIA)ということになる。このため、上記と同様に、各内圧における第2指標の変動幅を「ΔV」とし、コンプライアンス値を「C」とすると、圧迫帯20の内圧がこの圧力域にあるときについてのコンプライアンス値は、C=ΔV/(PSYS-PDIA)の式を用いて算出することができる。
【0070】
以上のような方法により、トーヌス情報算出部53は、
図9(A)乃至(C)のそれぞれの圧力域について、圧迫帯20の内圧の各値に対応したコンプライアンス値を算出する。コンプライアンス値は、圧迫帯20の内圧Pの関数ともいえるので、コンプライアンス値は「C(P)」と表記することができる。それぞれのコンプライアンス値は、圧迫帯20の内圧に応じて変化する、血管壁100の弾性状態を示す指標として用いることができるものである。
【0071】
続いて、トーヌス情報算出部53は、コンプライアンス値であるC(P)を、圧迫帯20の内圧Pについて所定値まで積分する。積分区間としては、例えば、時系列データに含まれる内圧Pのうち最も低い値から、上記所定値までの区間を設定すればよい。積分計算の際における内圧Pの増分を「ΔP」と表記すると、上記の積分は、内圧Pの値が例えば0から上記所定値となるまでの範囲において、ΔV=C(P)ΔPの値を積算して行くことにより算出される。増分であるΔPの大きさとしては、任意の大きさを設定することができる。
【0072】
当該積分により得られる値は、圧迫帯20の内圧が当該「所定値」となっているときの、血管壁100の内側における容量となる。上記の「所定値」に対応する第1指標と、積分により得られた「容量」に対応する第2指標と、の組み合わせが、トーヌス情報を構成する一要素として用いられる。トーヌス情報算出部53は、様々な値の「所定値」について上記の積分を行うことで、第1指標と第2指標との組み合わせを複数算出する。それぞれの第1指標と第2指標との組み合わせを、例えば2次元のグラフ上にプロットすることで、
図3に示されるトーヌス情報を算出することができる。
【0073】
尚、
図3の縦軸である第1指標としては、血管壁にかかる圧力を示す指標であれば、本実施形態とは異なる指標を用いることもできる。例えば、血圧の値を基準とし、当該基準からの増分となる圧力となるように変換した値を、第1指標としてもよい。この場合の血圧の値は、例えば特許第6651087号に記載の方法を用いて、時系列データに基づいて予め算出しておけばよい。
【0074】
図10は、トーヌス情報を算出するために実行される上記処理の流れを、フローチャートとして描いたものである。当該処理の最初のステップS01では、上腕70に圧迫帯20が巻き付けられる。尚、この時点における圧迫帯20の内圧は、概ね大気圧に等しくなっている。
【0075】
ステップS01に続くステップS02では、圧力調整部51により、圧迫帯20の内圧を上昇させる処理が行われる。圧力調整部51は、空気ポンプ31及び制御弁32の動作を制御することで、圧迫帯20の内圧を所定の速度で上昇させて行く。圧迫帯20の内圧が所定の目標圧力まで到達したことが、圧力センサ34によって検知されると、圧力調整部51は空気ポンプ31の動作を停止させる。目標圧力としては、第2圧力PSYSの平均的な値よりも十分に高い圧力が設定される。このため、ステップS02の処理が完了した時点では、圧迫帯20からの力によって血管壁100は常に閉口した状態となっている。
【0076】
ステップS02に続くステップS03では、圧力調整部51により、圧迫帯20の内圧を次第に低下させる処理が開始される。圧力調整部51は、空気ポンプ31及び制御弁32の動作を制御することで、圧迫帯20の内圧を所定の速度で低下させて行く。当該処理は、圧迫帯20の内圧が、所定の停止圧力に到達するまで継続して行われる。停止圧力としては、第1圧力PDIAの平均的な値よりも十分に低い圧力が設定される。
【0077】
ステップS03において上記処理が開始されると、圧迫帯20の内圧が停止圧力に到達するのを待つことなく、直ちにステップS04に移行する。ステップS04では、データ取得部52により、時系列データを取得する処理が開始される。先に述べたように、データ取得部52は、圧迫帯20の内圧及び容量のそれぞれを、所定の周期でサンプリングすることにより時系列データを取得する。時系列データの取得は、圧迫帯20の内圧が停止圧力に到達するまで継続して行われる。圧迫帯20の内圧が停止圧力に到達すると、圧力調整部51は空気ポンプ31の動作を停止させる。また、データ取得部52は時系列データの取得を終了する。その後、ステップS05に移行する。
【0078】
ステップS05では、トーヌス情報算出部53によるフィルタリング処理が行われる。先に述べたように、トーヌス情報算出部53は、時系列データにフィルタリング処理を施すことにより、心臓が収縮最大期となるタイミング、すなわち、脈動の各ピークとなるタイミングで取得された時系列データを抽出し、これらのデータを通る線として
図5の包絡線L11の式を作成する。同様に、心臓が拡張末期となるタイミング、すなわち、脈動の各ボトムとなるタイミングで取得された時系列データを抽出し、これらのデータを通る線として同図の包絡線L12の式を作成する。
【0079】
ステップS05に続くステップS06では、
図5を参照しながら説明したように、時系列データに含まれる圧迫帯20の内圧のそれぞれに対応する、第2指標の変動幅の値(
図5のΔV)を算出する処理が、トーヌス情報算出部53によって行われる。これにより、圧迫帯20の内圧と、それに対応する第2指標の変動幅との対応関係として、
図7の各点に示されるようなデータが取得されることとなる。
【0080】
ステップS06に続くステップS07では、第1圧力PDIA、及び第2圧力PSYSのそれぞれの値を算出する処理が、トーヌス情報算出部53によって行われる。その算出方法は、
図7等を参照しながら先に説明した通りである。
【0081】
ステップS07に続くステップS08では、コンプライアンス値を算出する処理がトーヌス情報算出部53によって行われる。コンプライアンス値は、時系列データに含まれる圧迫帯20の内圧のそれぞれの値について算出される。
図9を参照しながら既に説明した通り、トーヌス情報算出部53は、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIAよりも大きくなっており、且つ、第2圧力PSYSよりも小さくなっているときの各データについては、C=ΔV/PSYSの式を用いて、各内圧に対応するコンプライアンス値を算出する。また、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのいずれよりも小さくなっているときの各データについては、C=ΔV/(PSYS-PDIA)の式を用いて、各内圧に対応するコンプライアンス値を算出する。ステップS08の処理により、コンプライアンス値が、圧迫帯20の内圧Pの関数C(P)として算出されることとなる。
【0082】
ステップS08に続くステップS09では、内圧Pの関数C(P)として算出されたコンプライアンス値を、圧迫帯20の内圧Pについて所定値まで積分する処理が、トーヌス情報算出部53によって行われる。先に述べたように、当該処理は、様々な「所定値」について行われる。これにより、それぞれの「所定値」に対応する第1指標と、上記積分により得られた値(血管壁100の内側の容量)に対応する第2指標と、の組み合わせが、トーヌス情報として算出される。
【0083】
ステップS09に続くステップS10では、ステップS10で算出されたトーヌス情報を外部に出力する処理が、出力部54によって行われる。先に述べたように、出力されたトーヌス情報は、表示装置60の画面上に、
図3と同様の2次元グラフとして描かれる。これにより、生体情報測定装置10の使用者へとトーヌス情報が提示される。
【0084】
以上のように、本実施形態に係る生体情報測定装置10では、生体の血管壁100にかかる圧力を示す第1指標と、血管壁100の内側における容量を示す第2指標と、の対応関係を示すトーヌス情報が、時系列データに基づいて算出される。時系列データを取得するための構成としては、従来のような超音波画像装置や歪みゲージ等は不要であり、一般的な家庭用血圧計と同様の比較的簡易且つ小型の構成を採用することができる。このため、本実施形態によれば、簡易且つ小型の構成としながらも、血管のトーヌス情報を測定することが可能となる。
【0085】
本実施形態のトーヌス情報算出部53により算出されるトーヌス情報は、
図3のように2次元のグラフとして表現できるものであるから、当該トーヌス情報には、複数の第1指標の値、のそれぞれに対応した第2指標の値が含まれている。生体情報測定装置10が、このような形式のトーヌス情報を算出し出力するので、先に述べた「V(dP/dV)」の式で表される血管弾性率を用いて血管壁100の状態を定量化したり、血管壁100が弛緩した際の第2指標の変化量ΔVと、弛緩前における第2指標の値(V)を用いて、(ΔV/V)として定量化したりするなど、目的に応じた様々な情報を使用者に提供することが可能となる。
【0086】
本実施形態のけるトーヌス情報算出部53は、心臓の拍動に応じて変動する、圧迫帯20の容量の変動幅を、第2指標の変動幅として算出し、当該変動幅を用いてトーヌス情報を算出するように構成されている。第2指標の変動幅、すなわち、血管壁100の容量を示す指標の変動幅を、圧迫帯20の容量に基づいて算出することができるので、従来のように超音波画像装置などの複雑な装置を用いる必要が無い。
【0087】
トーヌス情報算出部53は、コンプライアンス値C(P)を、圧迫帯20の内圧Pについて所定値まで積分することで、当該所定値に対応した第2指標の値を算出する。超音波画像装置や歪みゲージ等を用いるのではなく、時系列データにより得られるコンプライアンス値C(P)を積分するだけで、血管壁100の内側における容量を示す第2指標を算出することができるので、生体情報測定装置10を簡易且つ小型の構成とすることが可能となる。
【0088】
トーヌス情報算出部53は、圧迫帯20の内圧と、圧迫帯20の容量の変動幅と、の対応関係、すなわち
図7の各点に示される対応関係に基づいて、先に説明した方法で第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのそれぞれを算出する。これにより、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのそれぞれを正確に算出し、これらをコンプライアンス値の算出に用いることができる。
【0089】
トーヌス情報算出部53は、第1圧力PDIA及び第2圧力PSYSのそれぞれを上記のように予め算出した上で、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIAよりも小さくなるような範囲においては、第2指標の変動幅を、第2圧力PSYSから第1圧力PDIAを差し引いた値で除することにより、コンプライアンス値を算出する。つまり、先に述べたようにC=ΔV/(PSYS-PDIA)の式を用いてコンプライアンス値を算出する。
【0090】
トーヌス情報算出部53は、圧迫帯20の内圧が、第1圧力PDIAよりも大きく且つ第2圧力PSYSよりも小さくなるような範囲においては、第2指標の変動幅を、第2圧力PSYSの値で除することにより、コンプライアンス値を算出する。つまり、先に述べたようにC=ΔV/PSYSの式を用いてコンプライアンス値を算出する。
【0091】
このように、本実施形態のトーヌス情報算出部53は、圧迫帯20の内圧について、
図9(B)に示される圧力範囲と、
図9(C)に示される圧力範囲と、のそれぞれに対応した適切な式を用いてコンプライアンス値を算出する。これにより、コンプライアンス値、及びこれに基づくトーヌス情報のそれぞれを、正確に算出することが可能となる。
【0092】
生体情報測定装置10は、トーヌス情報を出力するための出力部54を更に備える。これにより、算出されたトーヌス情報を、使用者に向けて様々な態様で提示することが可能となる。
【0093】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0094】
本開示に記載の制御装置及び制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置及び制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置及び制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0095】
10:生体情報測定装置
20:圧迫帯
50:制御装置
51:圧力調整部
52:データ取得部
53:トーヌス情報算出部
54:出力部
【手続補正書】
【提出日】2021-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部に巻き付けられる圧迫帯と、
前記圧迫帯の内圧を変化させる圧力調整部と、
前記圧迫帯の内圧が変化している期間における、当該内圧及び前記圧迫帯の容量のそれぞれの変化を示す時系列データ、を取得するデータ取得部と、
前記生体の血管壁にかかる圧力を示す第1指標と、前記血管壁の内側における容量を示す第2指標と、の対応関係を示すトーヌス情報を、前記時系列データに基づいて算出するトーヌス情報算出部と、
を備え、
前記トーヌス情報算出部は、
心臓の拍動に応じて変動する、前記圧迫帯の容量の変動幅を、前記第2指標の変動幅として算出し、当該変動幅を用いて前記トーヌス情報を算出するものであり、
前記トーヌス情報算出部は、
前記内圧と前記容量との関係を表すグラフにおいて、脈動の各ピークとなるタイミングで取得された前記時系列データを通る包絡線の式、である第1式と、
前記内圧と前記容量との関係を表すグラフにおいて、脈動の各ボトムとなるタイミングで取得された前記時系列データを通る包絡線の式、である第2式と、を作成し、
前記第1式で得られる値から前記第2式で得られる値を差し引くことにより、それぞれの前記内圧に対応した前記変動幅を算出することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項2】
前記トーヌス情報算出部により算出される前記トーヌス情報には、
複数の前記第1指標の値、のそれぞれに対応した前記第2指標の値が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記トーヌス情報算出部は、
前記圧迫帯の内圧の変化に対応する、前記第2指標の変化の傾き、であるコンプライアンス値を、前記圧迫帯の内圧について所定値まで積分することで、当該所定値に対応した前記第2指標の値を算出することを特徴とする、請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
心臓が拡張し血圧が極小となっている際においても前記血管壁の内側を閉口させないような前記圧迫帯の内圧、の最大値を第1圧力とし、
心臓が収縮し血圧が極大となっている際において前記血管壁の内側を閉口させるような前記圧迫帯の内圧、の最小値を第2圧力としたときに、
前記トーヌス情報算出部は、
前記第1圧力及び前記第2圧力のそれぞれを予め算出した上で、
前記圧迫帯の内圧が、前記第1圧力よりも小さくなるような範囲においては、前記第2指標の変動幅を、前記第2圧力から前記第1圧力を差し引いた値で除することにより、前記コンプライアンス値を算出し、
前記圧迫帯の内圧が、前記第1圧力よりも大きく且つ前記第2圧力よりも小さくなるような範囲においては、前記第2指標の変動幅を、前記第2圧力の値で除することにより、前記コンプライアンス値を算出することを特徴とする、請求項3に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
前記トーヌス情報算出部は、
前記圧迫帯の内圧と、前記圧迫帯の容量の変動幅と、の対応関係に基づいて、前記第1圧力及び前記第2圧力のそれぞれを算出することを特徴とする、請求項4に記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
前記トーヌス情報を出力する出力部、を更に備えることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。