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特開2022-53734熱可塑性樹脂成形部材およびその表面加工方法ならびに熱可塑性樹脂成形割型およびその表面加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053734
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂成形部材およびその表面加工方法ならびに熱可塑性樹脂成形割型およびその表面加工方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/26 20060101AFI20220330BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C45/27
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160531
(22)【出願日】2020-09-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】506406836
【氏名又は名称】日本エイブル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511102192
【氏名又は名称】株式会社オカノブラスト
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】浅川 泰広
(72)【発明者】
【氏名】岡野 俊博
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AF01
4F202AF16
4F202AM32
4F202AM33
4F202AM36
4F202CA11
4F202CB01
4F202CD07
4F202CD22
4F202CK02
4F202CK83
4F202CP05
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、不良品の発生率を低減することができる熱可塑性樹脂成形部材を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る熱可塑性樹脂成形部材は、例えば、金型やインジェクション部材等の部材であって、少なくとも熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、熱可塑性樹脂流路部には、熱可塑性樹脂の融解物が流れる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す熱可塑性樹脂成形部材。
【請求項2】
熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、前記表面を加工する方法。
【請求項3】
前記表面の加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面の加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
少なくともパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す熱可塑性樹脂成形割型。
【請求項6】
熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、前記パーティング面を加工する方法。
【請求項7】
前記パーティング面の加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パーティング面の加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形部材、特に樹脂流路部を有する熱可塑性樹脂成形部材に関する。また、本発明は、熱可塑性樹脂成形部材の表面加工方法にも関する。さらに、本発明は、熱可塑性樹脂成形割型に関する。また、本発明は、熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面の加工方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に、「樹脂封止金型のランナにおける樹脂に接する壁面を粗面状に形成すること」が提案されている(例えば、特開昭62-140426号公報等参照)。このようにランナの壁面を粗面状に形成することによって、移送樹脂の温度分布を一様とすることができ、延いてはキャビティへの樹脂の移送を円滑にすることができるだけでなく、キャビティへの気泡の流入を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-140426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従前から、熱可塑性樹脂の成形分野においてウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカスの発生による不良品の発生が十分に低減されたとは言い難い。
【0005】
本発明の課題は、不良品の発生率を低減することができる熱可塑性樹脂成形部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る熱可塑性樹脂成形部材は、例えば、金型やインジェクション部材等の部材であって、少なくとも熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、熱可塑性樹脂流路部の表面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、熱可塑性樹脂流路部の表面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0007】
本願発明者が鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂流路部の表面が上述の粗さを有する熱可塑性樹脂成形部材を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカス等の発生が抑制され、その結果、不良品の発生率を低減することができると共に熱可塑性樹脂成形部材を延命することができることが明らかとなった。
【0008】
本発明の第2局面に係る方法は表面加工を施す方法であって、この方法では、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面が、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面が加工される。なお、熱可塑性樹脂流路部の表面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、熱可塑性樹脂流路部の表面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0009】
本願発明者が鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂流路部に上記表面加工を施した熱可塑性樹脂成形部材を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカス等の発生が抑制され、その結果、不良品の発生率を低減することができると共に熱可塑性樹脂成形部材を延命することができることが明らかとなった。
【0010】
本発明の第3局面に係る方法は第2局面に係る方法であって、表面加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0011】
このため、この方法では、ショットや研削材等の比重、粒度、硬さ、衝突スピード、衝突角度等を適宜調整することによって上記表面加工を行うことができる。
【0012】
本発明の第4局面に係る方法は第2局面に係る方法であって、表面加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0013】
ここでは、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理が行われる前に研磨処理が行われる。このため、この方法では、加工対象となる熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面状態が良好でない場合において研磨処理により表面状態を良好にしてからショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理を行うことができる。
【0014】
本発明の第5局面に係る熱可塑性樹脂成形割型は、例えば、少なくともパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、パーティング面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、パーティング面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0015】
ところで、割型を用いて熱可塑性樹脂を成形した場合、そのパーティング面にガス汚れが付着することが少なくない。そして、そのガス汚れが堆積していくと、キャビティの形状が徐々に変わってしまうおそれがあり、好ましくない。そこで、本願発明者が鋭意検討した結果、パーティング面が上述の粗さを有する熱可塑性樹脂成形割型を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ガスの排出性が向上し、その結果、ガス汚れを低減することができることが明らかとなった。
【0016】
本発明の第6局面に係る方法は表面加工を施す方法であって、この方法では、熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面が、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面が加工される。なお、パーティング面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、パーティング面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0017】
本願発明者が鋭意検討した結果、パーティング面が上述の粗さを有する熱可塑性樹脂成形割型を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ガスの排出性が向上し、その結果、ガス汚れを低減することができることが明らかとなった。
【0018】
本発明の第7局面に係る方法は第6局面に係る方法であって、パーティング面の加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0019】
このため、この方法では、ショットや研削材等の比重、粒度、硬さ、衝突スピード、衝突角度等を適宜調整することによって上記パーティング面の表面加工を行うことができる。
【0020】
本発明の第8局面に係る方法は第6局面に係る方法であって、パーティング面の加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0021】
ここでは、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理が行われる前に研磨処理が行われる。このため、この方法では、加工対象となる熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面の状態が良好でない場合において研磨処理によりパーティング面の状態を良好にしてからショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
-第1実施形態-
本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材は、例えば、金型やインジェクション部材等の部材であって、少なくとも熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、熱可塑性樹脂流路部の表面の算術平均粗さRaは0.15μm以上0.45μm以下の範囲内であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂流路部の表面の最大高さRzは1.0μm以上5.5μm以下の範囲内であることが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内であることがより好ましい。また、ここで、熱可塑性樹脂流路部とは、熱融解した熱可塑性樹脂を流す部位であって、例えば、スプルーブッシュ部位や、ランナ部位、ゲート部位等である。また、ここにいう熱可塑性樹脂とは、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、フッ素系樹脂等である。
【0023】
ところで、本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材は、粗面化工程を経て製造される。なお、必要に応じて、粗面化工程前に前処理工程が実施されてもかまわないし、粗面化工程後に後処理工程(例えば、表面平滑化工程等)が実施されてもかまわない。以下、これらの工程について詳述する。
【0024】
(1)粗面化工程
粗面化工程では、例えば、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部に対してショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一つの処理が実施される。
【0025】
ショットピーニング処理では、熱可塑性樹脂流路部に、仕上げ表面粗さに応じた球形粒子が圧縮空気で高速衝突させられて、その表面に円孔状または突起状の凹凸が形成される。なお、ここで、球形粒子としては鋼球であることが好ましい。また、その球形粒子の直径および圧縮空気の圧力は、例えば、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.1μm以上0.3μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.0μm以上2.5μm以下の範囲内とする場合、50μm以上100μm以下の範囲内および0.2MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.2μm以上0.4μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.5μm以上3.0μm以下の範囲内とする場合、50μm以上100μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.3μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.0μm以上3.5μm以下の範囲内とする場合、100μm以上150μm以下の範囲内および0.2MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.4μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.5μm以上4.0μm以下の範囲内とする場合、100μm以上150μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましい。また、球形粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して60°以上90°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は15分以上30分以下の範囲内であることが好ましい。
【0026】
ブラスト処理では、熱可塑性樹脂流路部に、仕上げ表面粗さに応じた多角形粒子または球形粒子が圧縮空気で高速衝突させられて、その表面に円孔状または突起状の凹凸が形成される。なお、ここで、粒子としてはセラミック粒子であることが好ましい。また、その球形粒子の直径および圧縮空気の圧力は、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.1μm以上0.3μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.0μm以上2.5μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.4MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.2μm以上0.4μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.5μm以上3.0μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.4MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.3μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.0μm以上3.5μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.4μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.5μm以上4.0μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましい。また、粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して60°以上90°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は15分以上30分以下の範囲内であることが好ましい。
【0027】
(2)前処理工程
前処理工程は、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面の算術平均粗さRaが1.0μm以上である場合に行われることが好ましい。これは、後工程の粗面化工程において所望の粗面度の表面を得るためである。前処理としては、例えば、特殊研磨等の研磨処理等が挙げられる。特殊研磨処理では、熱可塑性樹脂流路部に、樹脂やゴム等の弾性コア材に微細な砥粒を積層した粒子が圧縮空気または遠心力で滑走させられて、切削や研磨等により形成された凹凸痕が除去されて表面粗さが低減される。なお、ここで、粒子としては樹脂製のコアに砥粒を被覆した粒子であることが好ましい。また、そのコアの直径は0.1mm以上0.8mm以下の範囲内であることが好ましく、砥粒の直径は1μm以上8μm以下の範囲内であることが好ましく、圧縮空気の圧力は0.2MPa以上0.5MPa以下の範囲内であることが好ましい。また、粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して45°以上60°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は30分以上45分以下の範囲内であることが好ましい。
【0028】
(3)後処理工程
後処理工程は、微細なレベルで所望の粗面度の表面を調整するため工程であって、例えば、凸部の研磨やザラツキの除去を目的として行われる。後処理としては、例えば、特殊ブラスト処理等が挙げられる。特殊ブラスト処理では、熱可塑性樹脂流路部に、弾性コア材に微細な砥粒を被覆した粒子が圧縮空気または遠心力で滑走させられて、切削や研磨等により形成された凹凸痕が除去されて表面粗さが低減される。なお、ここで、粒子としてはゴム製または樹脂製のコアに砥粒を被覆した粒子であることが好ましい。また、そのコアの直径は0.1mm以上1.0mm以下の範囲内であることが好ましく、砥粒の直径は1μm以上5μm以下の範囲内であることが好ましい。また、粒子を圧縮空気により噴霧される際、その圧縮空気の圧力は0.3MPaであることが好ましい。また、粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して45°以上60°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は30分以上45分以下の範囲内であることが好ましい。
【0029】
<本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材の特徴>
本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材により熱可塑性樹脂を成形した際、ウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカス等の発生が抑制され、その結果、不良品の発生率を低減することができる。
【0030】
-第2実施形態-
第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型は、少なくともパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、パーティング面の算術平均粗さRaは0.15μm以上0.45μm以下の範囲内であることが好ましい。また、パーティング面の最大高さRzは1.0μm以上5.5μm以下の範囲内であることが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
ところで、本発明の第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型は、粗面化工程を経て製造される。なお、必要に応じて、粗面化工程前に前処理工程が実施されてもかまわないし、粗面化工程後に後処理工程(例えば、表面平滑化工程等)が実施されてもかまわない。なお、粗面化工程、前処理工程および後処理工程は、表面処理対象がパーティング面であることを除いて第1実施形態に係る粗面化工程、前処理工程および後処理工程と同じであるため、その説明を省略する。
【0032】
<本発明の第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型の特徴>
本発明の第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型により熱可塑性樹脂を成形した際、ガスの排出性が向上し、その結果、ガス汚れを低減することができる。
【0033】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例0034】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面に対して、特殊研磨処理、ショットピーニング処理、ブラスト処理および特殊ブラスト処理をこの順序で施して、目的の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面構造を得た。
【0035】
特殊研磨処理は前処理として実施された。特殊研磨処理では、50%平均粒径(メジアン径)0.5mmの樹脂製のコア材に50%平均粒径(メジアン径)2μmの砥粒を被覆した粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、熱可塑性樹脂成形割型(寸法:奥行250mm×幅150mm,材質:SKD11,硬度:HRC58)のランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度45°で10分間投射した。
【0036】
ショットピーニング処理では、50%平均粒径(メジアン径)50μmの鋼球を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で2分間投射した。
【0037】
ブラスト処理では、50%平均粒径(メジアン径)50μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、ショットピーニング処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で2分間投射した。
【0038】
特殊ブラスト処理は後処理として実施された。特殊ブラスト処理では、50%平均粒径(メジアン径)0.5mmの樹脂製のコア材に50%平均粒径(メジアン径)2μmの砥粒を被覆した粒子を、0.2MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度45°で10分間投射した。
【0039】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.180μmであった。
【0040】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は1.621μmであった。
【0041】
(3)スパイラルフロー試験
幅3mm、深さ4mmの渦巻状の溝が形成された金型(幅130mm×奥行130mm)の溝表面に対して上述と同様の表面処理を施した。そして、以下に示す条件で射出成形機からその金型の中心孔を介してその金型の溝にポリアミド6T(ナイロン66)を2秒間射出した後に4秒間冷却し、その溝内に形成された渦巻状の樹脂成形品の長さを計測したところ、その長さは203mmであり、ピーク圧は18.2MPaであった。なお、本試験中、金型の温度は80℃に保たれた。
【0042】
・型温度:80℃
・樹脂温度:270℃
・充填速度:100mm/秒
・射出時間:2秒
・冷却時間:4秒
・計量:15.00mm
・保圧:0.3MPa
・リミット速度:10.0mm/秒
・リミット圧:5.0MPa
・デコンプ速度:10.0mm/秒
・デコンプ位置:3.00mm
・スクリュ回転スロー速度:0%
・スクリュ回転スロー距離:0.00mm
・スクリュ背圧:10.0MPa
・スクリュ回転速度:80%
【0043】
(4)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリアミド6Tの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてウエルドラインおよび焼けの発生率が低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0044】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の寸法を奥行150mm×幅150mmとし、特殊研磨処理における粒子の投射時間を8分とし、ショットピーニング処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に鋼球の投射時間を1.5分間とし、ブラスト処理におけるセラミック粒子の投射時間を1.5分とし、特殊ブラスト処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に粒子の投射時間を6分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0045】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.238μmであった。
【0046】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は2.183μmであった。
【0047】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリブチレンテレフタレートの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べて気泡の発生率が低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0048】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の寸法を奥行200mm×幅150mmとすると共に材質をHPM-31(硬度:HRC58)とし、特殊研磨処理における粒子の投射時間を15分とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)100μmの鋼球を、0.2MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射し、特殊ブラスト処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に粒子の投射時間を15分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0049】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.291μmであった。
【0050】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は2.993μmであった。
【0051】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリフェニレンサルファイドの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてバリの発生率が低下しただけでなく、割型のガス汚れが大幅に低減した。
【実施例0052】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の寸法を奥行50mm×幅20mmとし、その材質をSTAVAX(硬度:HRC52)とし、特殊研磨処理における粒子の投射時間を5分とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)50μmの鋼球を、0.2MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、特殊ブラスト処理における粒子の投射時間を3分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0053】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.291μmであった。
【0054】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は2.993μmであった。
【0055】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いて液晶ポリマーの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてゲートカスの発生率が著しく低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0056】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の形状をφ65mmの円盤状とし、その材質をNAK55(硬度:HRC42)とし、特殊研磨処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に粒子の投射時間を6分とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)50μmのセラミック粒子を、0.3MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)100μmの鋼球を、0.4MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、特殊ブラスト処理における粒子の投射時間を6分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0057】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.342μmであった。
【0058】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は3.651μmであった。
【0059】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリウレタンの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてショートの発生率が著しく低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0060】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の材質をHPM-31(硬度:HRC52)とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)100μmの鋼球を、0.3MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射した以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0061】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.421μmであった。
【0062】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は5.023μmであった。
【0063】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリ塩化ビニルの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べて焼けの発生率が著しく低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【0064】
(比較例1)
熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面に表面処理を施さず、実施例1と同様にしてランナ部位表面およびパーティング面の表面分析を行った。その結果、熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の算術平均粗さRaは0.032μmであり、最大高さRzは0.281μmであった。
【0065】
また、渦巻状の溝が形成された金型の溝表面に表面処理を施さずに実施例1と同一の条件下でスパイラルフロー試験を行ったところ、樹脂成形品の長さは178mmであり、ピーク圧は29.0MPaであった。
【0066】
また、未処理の熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリアミド6T、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルの射出成形を行った。なお、ポリアミド6Tの射出成形における成形方法および成形条件は実施例1における成形方法および成形条件と同一とし、ポリブチレンテレフタレートの射出成形における成形方法および成形条件は実施例2における成形方法および成形条件と同一とし、ポリフェニレンサルファイドの射出成形における成形方法および成形条件は実施例3における成形方法および成形条件と同一とし、液晶ポリマーの射出成形における成形方法および成形条件は実施例4における成形方法および成形条件と同一とし、ポリウレタンの射出成形における成形方法および成形条件は実施例5における成形方法および成形条件と同一とし、ポリ塩化ビニルの射出成形における成形方法および成形条件は実施例6における成形方法および成形条件と同一とした。
【0067】
ポリアミド6Tの成形では、実施例1の成形試験時に比べてウエルドラインおよび焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリブチレンテレフタレートの成形では、実施例2の成形試験時に比べて気泡の発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリフェニレンサルファイドの成形では、実施例3の成形試験時に比べてバリの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。液晶ポリマーの成形では、実施例4の成形試験時に比べてゲートカスの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリウレタンの成形では、実施例5の成形試験時に比べてショートの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリ塩化ビニルの成形では、実施例6の成形試験時に比べて焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。
【0068】
(比較例2)
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
50%平均粒径(メジアン径)50μmの鋼球を、0.4MPaの圧縮空気で、割型のランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で2分間投射して、同面を8-Sの表面粗度とした。
【0069】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は1.189μmであった。
【0070】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は8.228μmであった。
【0071】
(3)スパイラルフロー試験
幅3mm、深さ4mmの渦巻状の溝が形成された金型(幅130mm×奥行130mm)の溝表面に対して上述と同様の表面処理を施した。そして、実施例1に示される条件と同一の条件下でポリアミド6Tを用いてスパイラルフロー試験を行った。各熱可塑性樹脂について溝内に形成された渦巻状の樹脂成形品の長さは183mmであり、ピーク圧は29.0MPaであった。
【0072】
(4)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリアミド6T、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルの射出成形を行った。なお、ポリアミド6Tの射出成形における成形方法および成形条件は実施例1における成形方法および成形条件と同一とし、ポリブチレンテレフタレートの射出成形における成形方法および成形条件は実施例2における成形方法および成形条件と同一とし、ポリフェニレンサルファイドの射出成形における成形方法および成形条件は実施例3における成形方法および成形条件と同一とし、液晶ポリマーの射出成形における成形方法および成形条件は実施例4における成形方法および成形条件と同一とし、ポリウレタンの射出成形における成形方法および成形条件は実施例5における成形方法および成形条件と同一とし、ポリ塩化ビニルの射出成形における成形方法および成形条件は実施例6における成形方法および成形条件と同一とした。
【0073】
ポリアミド6Tの成形では、実施例1の成形試験時に比べてウエルドラインおよび焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリブチレンテレフタレートの成形では、実施例2の成形試験時に比べて気泡の発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリフェニレンサルファイドの成形では、実施例3の成形試験時に比べてバリの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。液晶ポリマーの成形では、実施例4の成形試験時に比べてゲートカスの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリウレタンの成形では、実施例5の成形試験時に比べてショートの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリ塩化ビニルの成形では、実施例6の成形試験時に比べて焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。
【0074】
実施例1、比較例1および比較例2において測定された算術平均粗さRaおよび最大高さRzならびにスパイラルフロー試験の結果を以下の参考表にまとめた。以下の結果から、実施例1に係る金型は、比較例1および比較例2に係る金型よりも流動長を長くすることができるだけでなく、ピーク圧を低下させることができることが明らかとなった。
【0075】
(参考表)
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2021-01-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂流路部(キャビティ部を除く。)の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す熱可塑性樹脂成形部材。
【請求項2】
熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部(キャビティ部を除く。)の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、前記表面を加工する方法。
【請求項3】
前記表面の加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面の加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
少なくともパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す熱可塑性樹脂成形割型。
【請求項6】
熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、前記パーティング面を加工する方法。
【請求項7】
前記パーティング面の加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パーティング面の加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される、請求項6に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形部材、特に樹脂流路部を有する熱可塑性樹脂成形部材に関する。また、本発明は、熱可塑性樹脂成形部材の表面加工方法にも関する。さらに、本発明は、熱可塑性樹脂成形割型に関する。また、本発明は、熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面の加工方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に、「樹脂封止金型のランナにおける樹脂に接する壁面を粗面状に形成すること」が提案されている(例えば、特開昭62-140426号公報等参照)。このようにランナの壁面を粗面状に形成することによって、移送樹脂の温度分布を一様とすることができ、延いてはキャビティへの樹脂の移送を円滑にすることができるだけでなく、キャビティへの気泡の流入を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-140426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従前から、熱可塑性樹脂の成形分野においてウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカスの発生による不良品の発生が十分に低減されたとは言い難い。
【0005】
本発明の課題は、不良品の発生率を低減することができる熱可塑性樹脂成形部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る熱可塑性樹脂成形部材は、例えば、金型やインジェクション部材等の部材であって、少なくとも熱可塑性樹脂流路部(キャビティ部を除く。)の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、熱可塑性樹脂流路部の表面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、熱可塑性樹脂流路部の表面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0007】
本願発明者が鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂流路部の表面が上述の粗さを有する熱可塑性樹脂成形部材を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカス等の発生が抑制され、その結果、不良品の発生率を低減することができると共に熱可塑性樹脂成形部材を延命することができることが明らかとなった。
【0008】
本発明の第2局面に係る方法は表面加工を施す方法であって、この方法では、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部(キャビティ部を除く。)の表面が、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面が加工される。なお、熱可塑性樹脂流路部の表面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、熱可塑性樹脂流路部の表面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0009】
本願発明者が鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂流路部に上記表面加工を施した熱可塑性樹脂成形部材を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカス等の発生が抑制され、その結果、不良品の発生率を低減することができると共に熱可塑性樹脂成形部材を延命することができることが明らかとなった。
【0010】
本発明の第3局面に係る方法は第2局面に係る方法であって、表面加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0011】
このため、この方法では、ショットや研削材等の比重、粒度、硬さ、衝突スピード、衝突角度等を適宜調整することによって上記表面加工を行うことができる。
【0012】
本発明の第4局面に係る方法は第2局面に係る方法であって、表面加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0013】
ここでは、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理が行われる前に研磨処理が行われる。このため、この方法では、加工対象となる熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面状態が良好でない場合において研磨処理により表面状態を良好にしてからショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理を行うことができる。
【0014】
本発明の第5局面に係る熱可塑性樹脂成形割型は、例えば、少なくともパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、パーティング面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、パーティング面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0015】
ところで、割型を用いて熱可塑性樹脂を成形した場合、そのパーティング面にガス汚れが付着することが少なくない。そして、そのガス汚れが堆積していくと、キャビティの形状が徐々に変わってしまうおそれがあり、好ましくない。そこで、本願発明者が鋭意検討した結果、パーティング面が上述の粗さを有する熱可塑性樹脂成形割型を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ガスの排出性が向上し、その結果、ガス汚れを低減することができることが明らかとなった。
【0016】
本発明の第6局面に係る方法は表面加工を施す方法であって、この方法では、熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面が、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaおよび0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すように、熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面が加工される。なお、パーティング面は0.15μm以上0.45μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すことが好ましい。また、パーティング面は1.0μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示すことがより好ましい。
【0017】
本願発明者が鋭意検討した結果、パーティング面が上述の粗さを有する熱可塑性樹脂成形割型を用いて熱可塑性樹脂を成形した際、ガスの排出性が向上し、その結果、ガス汚れを低減することができることが明らかとなった。
【0018】
本発明の第7局面に係る方法は第6局面に係る方法であって、パーティング面の加工は、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0019】
このため、この方法では、ショットや研削材等の比重、粒度、硬さ、衝突スピード、衝突角度等を適宜調整することによって上記パーティング面の表面加工を行うことができる。
【0020】
本発明の第8局面に係る方法は第6局面に係る方法であって、パーティング面の加工は、研磨処理、ならびにその後に実施されるショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理によって施される。
【0021】
ここでは、ショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理が行われる前に研磨処理が行われる。このため、この方法では、加工対象となる熱可塑性樹脂成形割型のパーティング面の状態が良好でない場合において研磨処理によりパーティング面の状態を良好にしてからショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一方の処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
-第1実施形態-
本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材は、例えば、金型やインジェクション部材等の部材であって、少なくとも熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、熱可塑性樹脂流路部の表面の算術平均粗さRaは0.15μm以上0.45μm以下の範囲内であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂流路部の表面の最大高さRzは1.0μm以上5.5μm以下の範囲内であることが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内であることがより好ましい。また、ここで、熱可塑性樹脂流路部とは、熱融解した熱可塑性樹脂を流す部位であって、例えば、スプルーブッシュ部位や、ランナ部位、ゲート部位等である。また、ここにいう熱可塑性樹脂とは、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、フッ素系樹脂等である。
【0023】
ところで、本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材は、粗面化工程を経て製造される。なお、必要に応じて、粗面化工程前に前処理工程が実施されてもかまわないし、粗面化工程後に後処理工程(例えば、表面平滑化工程等)が実施されてもかまわない。以下、これらの工程について詳述する。
【0024】
(1)粗面化工程
粗面化工程では、例えば、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部に対してショットピーニング処理およびブラスト処理の少なくとも一つの処理が実施される。
【0025】
ショットピーニング処理では、熱可塑性樹脂流路部に、仕上げ表面粗さに応じた球形粒子が圧縮空気で高速衝突させられて、その表面に円孔状または突起状の凹凸が形成される。なお、ここで、球形粒子としては鋼球であることが好ましい。また、その球形粒子の直径および圧縮空気の圧力は、例えば、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.1μm以上0.3μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.0μm以上2.5μm以下の範囲内とする場合、50μm以上100μm以下の範囲内および0.2MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.2μm以上0.4μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.5μm以上3.0μm以下の範囲内とする場合、50μm以上100μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.3μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.0μm以上3.5μm以下の範囲内とする場合、100μm以上150μm以下の範囲内および0.2MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.4μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.5μm以上4.0μm以下の範囲内とする場合、100μm以上150μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましい。また、球形粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して60°以上90°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は15分以上30分以下の範囲内であることが好ましい。
【0026】
ブラスト処理では、熱可塑性樹脂流路部に、仕上げ表面粗さに応じた多角形粒子または球形粒子が圧縮空気で高速衝突させられて、その表面に円孔状または突起状の凹凸が形成される。なお、ここで、粒子としてはセラミック粒子であることが好ましい。また、その球形粒子の直径および圧縮空気の圧力は、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.1μm以上0.3μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.0μm以上2.5μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.4MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.2μm以上0.4μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを1.5μm以上3.0μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.4MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.3μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.0μm以上3.5μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましく、仕上げ表面の算術平均粗さRaを0.4μm以上0.5μm以下の範囲内とすると共に最大高さRzを2.5μm以上4.0μm以下の範囲内とする場合、20μm以上50μm以下の範囲内および0.3MPaとすることが好ましい。また、粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して60°以上90°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は15分以上30分以下の範囲内であることが好ましい。
【0027】
(2)前処理工程
前処理工程は、熱可塑性樹脂成形部材の熱可塑性樹脂流路部の表面の算術平均粗さRaが1.0μm以上である場合に行われることが好ましい。これは、後工程の粗面化工程において所望の粗面度の表面を得るためである。前処理としては、例えば、特殊研磨等の研磨処理等が挙げられる。特殊研磨処理では、熱可塑性樹脂流路部に、樹脂やゴム等の弾性コア材に微細な砥粒を積層した粒子が圧縮空気または遠心力で滑走させられて、切削や研磨等により形成された凹凸痕が除去されて表面粗さが低減される。なお、ここで、粒子としては樹脂製のコアに砥粒を被覆した粒子であることが好ましい。また、そのコアの直径は0.1mm以上0.8mm以下の範囲内であることが好ましく、砥粒の直径は1μm以上8μm以下の範囲内であることが好ましく、圧縮空気の圧力は0.2MPa以上0.5MPa以下の範囲内であることが好ましい。また、粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して45°以上60°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は30分以上45分以下の範囲内であることが好ましい。
【0028】
(3)後処理工程
後処理工程は、微細なレベルで所望の粗面度の表面を調整するため工程であって、例えば、凸部の研磨やザラツキの除去を目的として行われる。後処理としては、例えば、特殊ブラスト処理等が挙げられる。特殊ブラスト処理では、熱可塑性樹脂流路部に、弾性コア材に微細な砥粒を被覆した粒子が圧縮空気または遠心力で滑走させられて、切削や研磨等により形成された凹凸痕が除去されて表面粗さが低減される。なお、ここで、粒子としてはゴム製または樹脂製のコアに砥粒を被覆した粒子であることが好ましい。また、そのコアの直径は0.1mm以上1.0mm以下の範囲内であることが好ましく、砥粒の直径は1μm以上5μm以下の範囲内であることが好ましい。また、粒子を圧縮空気により噴霧される際、その圧縮空気の圧力は0.3MPaであることが好ましい。また、粒子の投射角度は熱可塑性樹脂流路部の表面に対して45°以上60°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は30分以上45分以下の範囲内であることが好ましい。
【0029】
<本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材の特徴>
本発明の第1実施形態に係る熱可塑性樹脂成形部材により熱可塑性樹脂を成形した際、ウエルドライン、気泡(ボイド)、ショート、バリの発生、焼け、ゲートカス等の発生が抑制され、その結果、不良品の発生率を低減することができる。
【0030】
-第2実施形態-
第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型は、少なくともパーティング面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、パーティング面の算術平均粗さRaは0.15μm以上0.45μm以下の範囲内であることが好ましい。また、パーティング面の最大高さRzは1.0μm以上5.5μm以下の範囲内であることが好ましく、1.5μm以上5.5μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
ところで、本発明の第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型は、粗面化工程を経て製造される。なお、必要に応じて、粗面化工程前に前処理工程が実施されてもかまわないし、粗面化工程後に後処理工程(例えば、表面平滑化工程等)が実施されてもかまわない。なお、粗面化工程、前処理工程および後処理工程は、表面処理対象がパーティング面であることを除いて第1実施形態に係る粗面化工程、前処理工程および後処理工程と同じであるため、その説明を省略する。
【0032】
<本発明の第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型の特徴>
本発明の第2実施形態に係る熱可塑性樹脂成形割型により熱可塑性樹脂を成形した際、ガスの排出性が向上し、その結果、ガス汚れを低減することができる。
【0033】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例0034】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面に対して、特殊研磨処理、ショットピーニング処理、ブラスト処理および特殊ブラスト処理をこの順序で施して、目的の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面構造を得た。
【0035】
特殊研磨処理は前処理として実施された。特殊研磨処理では、50%平均粒径(メジアン径)0.5mmの樹脂製のコア材に50%平均粒径(メジアン径)2μmの砥粒を被覆した粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、熱可塑性樹脂成形割型(寸法:奥行250mm×幅150mm,材質:SKD11,硬度:HRC58)のランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度45°で10分間投射した。
【0036】
ショットピーニング処理では、50%平均粒径(メジアン径)50μmの鋼球を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で2分間投射した。
【0037】
ブラスト処理では、50%平均粒径(メジアン径)50μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、ショットピーニング処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で2分間投射した。
【0038】
特殊ブラスト処理は後処理として実施された。特殊ブラスト処理では、50%平均粒径(メジアン径)0.5mmの樹脂製のコア材に50%平均粒径(メジアン径)2μmの砥粒を被覆した粒子を、0.2MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度45°で10分間投射した。
【0039】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.180μmであった。
【0040】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は1.621μmであった。
【0041】
(3)スパイラルフロー試験
幅3mm、深さ4mmの渦巻状の溝が形成された金型(幅130mm×奥行130mm)の溝表面に対して上述と同様の表面処理を施した。そして、以下に示す条件で射出成形機からその金型の中心孔を介してその金型の溝にポリアミド6T(ナイロン66)を2秒間射出した後に4秒間冷却し、その溝内に形成された渦巻状の樹脂成形品の長さを計測したところ、その長さは203mmであり、ピーク圧は18.2MPaであった。なお、本試験中、金型の温度は80℃に保たれた。
【0042】
・型温度:80℃
・樹脂温度:270℃
・充填速度:100mm/秒
・射出時間:2秒
・冷却時間:4秒
・計量:15.00mm
・保圧:0.3MPa
・リミット速度:10.0mm/秒
・リミット圧:5.0MPa
・デコンプ速度:10.0mm/秒
・デコンプ位置:3.00mm
・スクリュ回転スロー速度:0%
・スクリュ回転スロー距離:0.00mm
・スクリュ背圧:10.0MPa
・スクリュ回転速度:80%
【0043】
(4)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリアミド6Tの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてウエルドラインおよび焼けの発生率が低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0044】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の寸法を奥行150mm×幅150mmとし、特殊研磨処理における粒子の投射時間を8分とし、ショットピーニング処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に鋼球の投射時間を1.5分間とし、ブラスト処理におけるセラミック粒子の投射時間を1.5分とし、特殊ブラスト処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に粒子の投射時間を6分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0045】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.238μmであった。
【0046】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は2.183μmであった。
【0047】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリブチレンテレフタレートの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べて気泡の発生率が低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0048】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の寸法を奥行200mm×幅150mmとすると共に材質をHPM-31(硬度:HRC58)とし、特殊研磨処理における粒子の投射時間を15分とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)100μmの鋼球を、0.2MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射し、特殊ブラスト処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に粒子の投射時間を15分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0049】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.291μmであった。
【0050】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は2.993μmであった。
【0051】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリフェニレンサルファイドの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてバリの発生率が低下しただけでなく、割型のガス汚れが大幅に低減した。
【実施例0052】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の寸法を奥行50mm×幅20mmとし、その材質をSTAVAX(硬度:HRC52)とし、特殊研磨処理における粒子の投射時間を5分とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)50μmの鋼球を、0.2MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、特殊ブラスト処理における粒子の投射時間を3分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0053】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.291μmであった。
【0054】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は2.993μmであった。
【0055】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いて液晶ポリマーの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてゲートカスの発生率が著しく低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0056】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の形状をφ65mmの円盤状とし、その材質をNAK55(硬度:HRC42)とし、特殊研磨処理における圧縮空気の圧力を0.3MPaとすると共に粒子の投射時間を6分とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)50μmのセラミック粒子を、0.3MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)100μmの鋼球を、0.4MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で1分間投射し、特殊ブラスト処理における粒子の投射時間を6分間とした以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0057】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.342μmであった。
【0058】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は3.651μmであった。
【0059】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリウレタンの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べてショートの発生率が著しく低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【実施例0060】
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
割型の材質をHPM-31(硬度:HRC52)とし、ショットピーニング処理とブラスト処理との順序を入れ替え、ブラスト処理において50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、特殊研磨処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射し、ショットピーニング処理において50%平均粒径(メジアン径)100μmの鋼球を、0.3MPaの圧縮空気で、ブラスト処理済みのランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で3分間投射した以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面を表面処理した。
【0061】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は0.421μmであった。
【0062】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は5.023μmであった。
【0063】
(3)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の通りにして得られた熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリ塩化ビニルの射出成形を行ったところ、未表面処理の熱可塑性樹脂成形割型(比較例1参照)に比べて焼けの発生率が著しく低下しただけでなく、割型のガス汚れが低減した。
【0064】
(比較例1)
熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面に表面処理を施さず、実施例1と同様にしてランナ部位表面およびパーティング面の表面分析を行った。その結果、熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の算術平均粗さRaは0.032μmであり、最大高さRzは0.281μmであった。
【0065】
また、渦巻状の溝が形成された金型の溝表面に表面処理を施さずに実施例1と同一の条件下でスパイラルフロー試験を行ったところ、樹脂成形品の長さは178mmであり、ピーク圧は29.0MPaであった。
【0066】
また、未処理の熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリアミド6T、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルの射出成形を行った。なお、ポリアミド6Tの射出成形における成形方法および成形条件は実施例1における成形方法および成形条件と同一とし、ポリブチレンテレフタレートの射出成形における成形方法および成形条件は実施例2における成形方法および成形条件と同一とし、ポリフェニレンサルファイドの射出成形における成形方法および成形条件は実施例3における成形方法および成形条件と同一とし、液晶ポリマーの射出成形における成形方法および成形条件は実施例4における成形方法および成形条件と同一とし、ポリウレタンの射出成形における成形方法および成形条件は実施例5における成形方法および成形条件と同一とし、ポリ塩化ビニルの射出成形における成形方法および成形条件は実施例6における成形方法および成形条件と同一とした。
【0067】
ポリアミド6Tの成形では、実施例1の成形試験時に比べてウエルドラインおよび焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリブチレンテレフタレートの成形では、実施例2の成形試験時に比べて気泡の発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリフェニレンサルファイドの成形では、実施例3の成形試験時に比べてバリの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。液晶ポリマーの成形では、実施例4の成形試験時に比べてゲートカスの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリウレタンの成形では、実施例5の成形試験時に比べてショートの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリ塩化ビニルの成形では、実施例6の成形試験時に比べて焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。
【0068】
(比較例2)
1.熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の表面処理
50%平均粒径(メジアン径)50μmの鋼球を、0.4MPaの圧縮空気で、割型のランナ部位表面およびパーティング面に対して投射角度90°で2分間投射して、同面を8-Sの表面粗度とした。
【0069】
2.ランナ部位表面およびパーティング面の表面分析
(1)算術平均粗さRaの測定
JIS B 0601-2001に従って上述のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の算術平均粗さRaを測定したところ、その値は1.189μmであった。
【0070】
(2)最大高さRzの測定
JIS B 0601-2001に従って上述の熱可塑性樹脂成形割型のランナ部位表面およびパーティング面の複数区間の最大高さRzを測定したところ、その値は8.228μmであった。
【0071】
(3)スパイラルフロー試験
幅3mm、深さ4mmの渦巻状の溝が形成された金型(幅130mm×奥行130mm)の溝表面に対して上述と同様の表面処理を施した。そして、実施例1に示される条件と同一の条件下でポリアミド6Tを用いてスパイラルフロー試験を行った。各熱可塑性樹脂について溝内に形成された渦巻状の樹脂成形品の長さは183mmであり、ピーク圧は29.0MPaであった。
【0072】
(4)熱可塑性樹脂の成形試験
上述の熱可塑性樹脂成形割型を用いてポリアミド6T、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルの射出成形を行った。なお、ポリアミド6Tの射出成形における成形方法および成形条件は実施例1における成形方法および成形条件と同一とし、ポリブチレンテレフタレートの射出成形における成形方法および成形条件は実施例2における成形方法および成形条件と同一とし、ポリフェニレンサルファイドの射出成形における成形方法および成形条件は実施例3における成形方法および成形条件と同一とし、液晶ポリマーの射出成形における成形方法および成形条件は実施例4における成形方法および成形条件と同一とし、ポリウレタンの射出成形における成形方法および成形条件は実施例5における成形方法および成形条件と同一とし、ポリ塩化ビニルの射出成形における成形方法および成形条件は実施例6における成形方法および成形条件と同一とした。
【0073】
ポリアミド6Tの成形では、実施例1の成形試験時に比べてウエルドラインおよび焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリブチレンテレフタレートの成形では、実施例2の成形試験時に比べて気泡の発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリフェニレンサルファイドの成形では、実施例3の成形試験時に比べてバリの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。液晶ポリマーの成形では、実施例4の成形試験時に比べてゲートカスの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリウレタンの成形では、実施例5の成形試験時に比べてショートの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。ポリ塩化ビニルの成形では、実施例6の成形試験時に比べて焼けの発生率が高く、割型のパーティング面のガス汚れが目立った。
【0074】
実施例1、比較例1および比較例2において測定された算術平均粗さRaおよび最大高さRzならびにスパイラルフロー試験の結果を以下の参考表にまとめた。以下の結果から、実施例1に係る金型は、比較例1および比較例2に係る金型よりも流動長を長くすることができるだけでなく、ピーク圧を低下させることができることが明らかとなった。
【0075】
(参考表)
【表1】