(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053790
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】人工椎間板
(51)【国際特許分類】
A61F 2/44 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
A61F2/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160607
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 満
(72)【発明者】
【氏名】高岡 栄治
(72)【発明者】
【氏名】澤田 毅
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA10
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC03
4C097CC15
4C097CC16
4C097DD01
4C097DD04
4C097DD06
4C097DD09
4C097DD10
4C097EE02
4C097EE06
4C097EE13
(57)【要約】
【課題】荷重を支持する弾性部材の脱落を抑制して優れた衝撃吸収性を発揮するとともに隣り合う椎体の相対移動に対して高い自由度で追従する人工椎間板を提供すること。
【解決手段】脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体UVと下方側の椎体DVとの間に装着し、上方側の椎体UVに連結する上側板状部分110と、下方側の椎体DVに連結する下側板状部分120と、上側板状部分110と下側板状部分120との上下間に配置される弾性部材130と、上側板状部分110と下側板状部分120に連結して弾性部材130を囲繞した状態で上側板状部分110と下側板状部分120とを相対移動自在に変位させる筒状部分140とを備えている人工椎間板100。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体と下方側の椎体との間に装着される人工椎間板であって、
前記上方側の椎体に連結して前記上方側の椎体から荷重を受ける上側板状部分と、
前記下方側の椎体に連結して前記下方側の椎体から荷重を受ける下側板状部分と、
前記上側板状部分と前記下側板状部分との上下間に配置される弾性部材と、
前記上側板状部分に上端を連結するとともに前記下側板状部分に下端を連結して前記弾性部材を囲繞した状態で前記上側板状部分と前記下側板状部分とを相対移動自在に変位させる筒状部分とで構成されていることを特徴とする人工椎間板。
【請求項2】
前記筒状部分が、
前記上側板状部分または前記下側板状部分のいずれか一方に固定される筒状の外側壁体と、
前記上側板状部分または前記下側板状部分のいずれか他方に固定されて前記弾性部材を取り囲む筒状の内側壁体と、
前記外側壁体の内周面に一体に外接する外側弾性層体と、
前記内側壁体の外周面に一体に内接する内側弾性層体と、
前記外側弾性層体の内周面と前記内側弾性層体の外周面との相互間に一体に配置されて前記外側弾性層体および前記内側弾性層体よりも変形しにくい剛性壁体とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の人工椎間板。
【請求項3】
前記上側板状部分と前記下側板状部分とが、円盤状に形成され、
前記弾性部材が、円柱状に形成され、
前記筒状部分が、円筒状に形成され、
前記上側板状部分と前記下側板状部分と前記弾性部材と前記筒状部分との中心軸が、一致していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の人工椎間板。
【請求項4】
前記弾性部材が、前記上側板状部分および前記下側板状部分に固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工椎間板。
【請求項5】
前記弾性部材より摩擦係数の小さい滑り部材が、前記弾性部材の上面または下面の少なくとも一方に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工椎間板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体と下方側の椎体との間に装着されて椎体から受ける荷重を支持するとともに上方側の椎体と下方側の椎体との相対移動に追従する人工椎間板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、椎間板が外傷や加齢等により機能不全に陥った場合、椎間板の機能を代替する人工椎間板への置換術が行われている。
ここで、従来用いられている人工椎間板として、生体活性セラミックス材料からなる2枚の略板状体が生体適合性のある高分子弾性材料からなる略板状体の上面および下面に接着剤で一体的に取り付けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された人工椎間板では、椎体に荷重や衝撃が加わって高分子弾性材料からなる略板状体が、生体活性セラミックス材料からなる2枚の略板状体の間で弾性変形を繰り返すことがある。
この場合、高分子弾性材料からなる略板状体と生体活性セラミックス材料からなる略板状体との接合が剥がれてしまい、高分子弾性材料からなる略板状体が生体活性セラミックス材料からなる2枚の略板状体の間から脱落するおそれがあった。
さらに、この脱落による機能損失を防止するために人工椎間板の装着部位を固定する必要があり、この固定施術によって装着部位の運動機能が著しく制限されるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、荷重を支持する弾性部材の脱落を抑制して優れた衝撃吸収性を発揮するとともに隣り合う椎体の相対移動に対して高い自由度で追従する人工椎間板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体と下方側の椎体との間に装着される人工椎間板であって、前記上方側の椎体に連結して前記上方側の椎体から荷重を受ける上側板状部分と、前記下方側の椎体に連結して前記下方側の椎体から荷重を受ける下側板状部分と、前記上側板状部分と前記下側板状部分との上下間に配置される弾性部材と、前記上側板状部分に上端を連結するとともに前記下側板状部分に下端を連結して前記弾性部材を囲繞した状態で前記上側板状部分と前記下側板状部分とを相対移動自在に変位させる筒状部分とで構成されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載された人工椎間板の構成に加えて、前記筒状部分が、前記上側板状部分または前記下側板状部分のいずれか一方に固定される筒状の外側壁体と、前記上側板状部分または前記下側板状部分のいずれか他方に固定されて前記弾性部材を取り囲む筒状の内側壁体と、前記外側壁体の内周面に一体に外接する外側弾性層体と、前記内側壁体の外周面に一体に内接する内側弾性層体と、前記外側弾性層体の内周面と前記内側弾性層体の外周面との相互間に一体に配置されて前記外側弾性層体および前記内側弾性層体よりも変形しにくい剛性壁体とで構成されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された人工椎間板の構成に加えて、前記上側板状部分と前記下側板状部分とが、円盤状に形成され、前記弾性部材が、円柱状に形成され、前記筒状部分が、円筒状に形成され、前記上側板状部分と前記下側板状部分と前記弾性部材と前記筒状部分との中心軸が、一致していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された人工椎間板の構成に加えて、前記弾性部材が、前記上側板状部分および前記下側板状部分に固定されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された人工椎間板の構成に加えて、前記弾性部材より摩擦係数の小さい滑り部材が、前記弾性部材の上面または下面の少なくとも一方に設けられていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
なお、本明細書において、「上下」とは、人の頭側を上、足側を下とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明は、脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体と下方側の椎体との間に装着される人工椎間板であって、上方側の椎体に連結して上方側の椎体から荷重を受ける上側板状部分と、下方側の椎体に連結して下方側の椎体から荷重を受ける下側板状部分と、上側板状部分と下側板状部分との上下間に配置される弾性部材とで構成されていることにより、上側板状部分に加わる上方側の椎体からの荷重や衝撃および下側板状部分に加わる下方側の椎体からの荷重や衝撃が弾性部材に伝達されて弾性部材が弾性変形するため、人工椎間板が椎体から受ける荷重や衝撃を吸収することができる。
また、上側板状部分に上端を連結するとともに下側板状部分に下端を連結して弾性部材を囲繞した状態で上側板状部分と下側板状部分とを相対移動自在に変位させる筒状部分を備えていることにより、上側板状部分または下側板状部分の一方が、筒状部分の弾性変形により他方に対して揺動自在となるため、隣り合う椎体の相対移動に追従することができることに加え、弾性部材の外周が筒状部分で取り囲まれているため、弾性部材が人工椎間板の側方に脱落することを防ぐことができる。
したがって、外部からの荷重や衝撃を吸収する弾性部材の脱落を抑制して優れた衝撃吸収性を発揮するとともに隣り合う椎体の相対移動に対して高い自由度で追従することができる。
【0012】
請求項2に係る発明の人工椎間板によれば、請求項1に係る発明の人工椎間板が奏する効果に加えて、筒状部分が、上側板状部分または下側板状部分のいずれか一方に固定される筒状の外側壁体と、上側板状部分または下側板状部分のいずれか他方に固定されて弾性部材を取り囲む筒状の内側壁体と、外側壁体の内周面に一体に外接する外側弾性層体と、内側壁体の外周面に一体に内接する内側弾性層体と、外側弾性層体の内周面と内側弾性層体の外周面との相互間に一体に配置されて外側弾性層体および内側弾性層体よりも変形しにくい剛性壁体とで構成されていることにより、筒状部分が外側壁体と内側壁体との相互間に複数の弾性層体と少なくとも1つの剛性壁体とを介在させた積層体構造となり、筒状部分が剛性壁体を有さない場合、すなわち、外側壁体と内側壁体との間を弾性体層のみで埋める場合に比べて弾性体層の厚みが小さくなるため、人工椎間板の横方向の変形量が抑制され、隣り合う椎体間の過度の横ずれを防止することができる。
【0013】
請求項3に係る発明の人工椎間板によれば、請求項1または2に係る発明の人工椎間板が奏する効果に加えて、上側板状部分と下側板状部分とが円盤状に形成され、弾性部材が円柱状に形成され、筒状部分が円筒状に形成され、上側板状部分と下側板状部分と弾性部材と筒状部分との中心軸が一致していることにより、人工椎間板の周方向に対する方向性が無くなるため、人工椎間板の置換術を行う際に椎体の相互間に配置する人工椎間板の位置決めを必要とすることなく容易に装着することができる。
【0014】
請求項4に係る発明の人工椎間板によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に係る発明の人工椎間板が奏する効果に加えて、弾性部材が、上側板状部分および下側板状部分に固定されていることにより、上側板状部分と下側板状部分との間隔を拡張する方向の引っ張り力が人工椎間板に加わった際に、上側板状部分と下側板状部分とに連結されている筒状部分の変形に加えて弾性部材も弾性変形するため、人工椎間板の引っ張り強度を増すことができる。
【0015】
請求項5に係る発明の人工椎間板によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に係る発明の人工椎間板が奏する効果に加えて、弾性部材より摩擦係数の小さい滑り部材が、弾性部材の上面または下面の少なくとも一方に設けられていることにより、弾性部材のみが上側板状部分と下側板状部分との間に配置されている場合に比べて、滑り部材に対向する上側板状部分または下側板状部分の少なくとも一方が弾性部材に対して動き易くなるため、人工椎間板が椎体の揺動に対して滑らかに追従することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の人工椎間板を椎体の相互間に装着した使用態様図。
【
図2】本発明の第1実施例である人工椎間板の全体を示す斜視図。
【
図5A】
図2に示す人工椎間板に用いた筒状部分の正面断面図。
【
図6A】
図2に示す人工椎間板の基本的なセッティング状態の説明図。
【
図6B】
図6Aに示す人工椎間板が引っ張り荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図6C】
図6Aに示す人工椎間板が圧縮荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図6D】
図6Aに示す人工椎間板が左側に偏荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図6E】
図6Aに示す人工椎間板が右側に偏荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図7A】本発明の第2実施例である人工椎間板の基本的なセッティング状態の説明図。
【
図7B】
図7Aに示す人工椎間板が引っ張り荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図7C】
図7Aに示す人工椎間板が右側に偏荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図8A】本発明の第3実施例である人工椎間板の基本的なセッティング状態の説明図。
【
図8B】
図8Aに示す人工椎間板が引っ張り荷重を受けた状態の動作説明図。
【
図8C】
図8Aに示す人工椎間板が右側に偏荷重を受けた状態の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体と下方側の椎体との間に装着される人工椎間板であって、上方側の椎体に連結して上方側の椎体から荷重を受ける上側板状部分と、下方側の椎体に連結して下方側の椎体から荷重を受ける下側板状部分と、上側板状部分と下側板状部分との上下間に配置される弾性部材と、上側板状部分に上端を連結するとともに下側板状部分に下端を連結して弾性部材を囲繞した状態で上側板状部分と下側板状部分とを相対移動自在に変位させる筒状部分とで構成され、荷重を支持する弾性部材の脱落を抑制して優れた衝撃吸収性を発揮するとともに隣り合う椎体の相対移動に対して高い自由度で追従するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0018】
例えば、上述した上側板状部分、下側板状部分、および、筒状部分の外側壁体と内側壁体の具体的な素材は、金属系材料、生体活性セラミックス材料、高強度樹脂などの、生体と適合する素材であり、あるいは、これらの素材の組み合わせであっても良い。
また、外側弾性層体、内側弾性層体、弾性部材の具体的な素材については、ポリエチレン系樹脂、シリコーン系ゴムなどであれば良いが、椎間板と同程度の弾力特性を発揮して生体と適合するものであれば、これら以外の如何なる素材であっても良い。
さらに、外側弾性層体と内側弾性層体との相互間に配置される剛性壁体の具体的な素材については、前述した外側弾性層体および内側弾性層体よりも変形しにくい素材、すなわち、剛性を発揮するチタン、コバルトクロム、ステンレス等の金属系材料や、上側板状部分、下側板状部分、および筒状部分の外側壁体と内側壁体と同素材を用いると良い。
【0019】
また、本発明の人工椎間板を構成する上側板状部分、下側板状部分、筒状部分の外側壁体と内側壁体、これら外側壁体と内側壁体との間に配置される外側弾性層体と内側弾性層体と剛性壁体の具体的な平面形状については、椎骨の椎体の外周輪郭に沿うようなそら豆状あるいは略円形状であっても良いが、例えば、それぞれ中心軸を一致させた大小の同心円を成す形状であれば、人工椎間板として左右前後ばかりでなく全周のいずれの方向であっても自由度の高い優れた追従性を発揮し、しかも、椎体へ装着する際の周方向の位置決めが簡便となる。
【0020】
また、本発明の人工椎間板は、上側板状部分が上方側の椎体に連結され、下側板状部分が下側の椎体に連結されていれば、本発明の人工椎間板を構成する筒状部分は、外側壁体が上側板状部分から垂下し、内側壁体が下側板状部分から立ち上がってもよいし、外側壁体が下側板状部分から立ち上がり、内側壁体が上側板状部分から垂下してもよい。
【0021】
また、上側板状部分の上面および下側板状部分の下面については、基本的には、椎体から加わる衝撃や荷重を受け易い平坦面、もしくは、椎体のやや窪んだ端面に装着する際に椎体側と合致し易い、椎体側に向かって緩やかに膨出した曲面を備えているが、さらに、上側板状部分の上面および下側板状部分の下面の具体的な形態については、椎体に装着する際に椎体に対して接着結合、凹凸係合などによって確実に固定するために椎体と接合し易い面造作や面加工が施されていてもよい。
【0022】
さらに、本発明の人工椎間板の筒状部分は、基本的には、外側壁体、外側弾性層体、剛性壁体、内側弾性層体、内側壁体からなる5層積層体で構成されるが、積層体の積層数は
5層に限定されるものではなく、例えば、外側壁体、外側弾性層体、剛性壁体、中間弾性層体、剛性壁体、内側弾性層体、内側壁体からなる7層積層体で構成されても良い。
なお、本発明の人工椎間板に用いる筒状部分の外側壁体と内側壁体との相互間には、外側壁体に外接する外側弾性層体と、内側壁体に内接する内側弾性層体と、外側弾性層体と内側弾性層体との間に配置する剛性壁体とを介在させることが望ましいが、筒状部分の外側壁体と内側壁体との相互間において椎体間の相対移動に対する追従性を発揮することができれば剛性壁体を用いることなく単一の弾性層体を介在させた3層積層体で構成されても差し支えない。
【実施例0023】
以下、
図1乃至
図6Eに基づいて、本発明の第1実施例である人工椎間板100を説明する。
ここで、
図1は本発明の人工椎間板100を椎体の相互間に装着した使用態様図であり、
図2は本発明の第1実施例である人工椎間板100の全体を示す斜視図であり、
図3は
図2に示す人工椎間板100の正面断面図であり、
図4Aは
図3に示す人工椎間板100の組み立て分解図であり、
図4Bは
図4Aに示す人工椎間板100の正面断面図であり、
図5Aは
図2に示す人工椎間板100に用いた筒状部分の正面断面図であり、
図5Bは
図5AにおけるA-A線で矢視した断面図である。
そして、
図6Aは
図2に示す人工椎間板100の基本的なセッティング状態の説明図であって、
図6Bは
図6Aに示す人工椎間板100が引っ張り荷重を受けた状態の動作説明図であり、
図6Cは
図6Aに示す人工椎間板100が圧縮荷重を受けた状態の動作説明図であり、
図6Dは
図6Aに示す人工椎間板100が左側に偏荷重を受けた状態の動作説明図であり、
図6Eは
図6Aに示す人工椎間板100が右側に偏荷重を受けた状態の動作説明図である。
【0024】
<1.本発明の第1実施例である人工椎間板100の基本構造>
まず、本発明の第1実施例である人工椎間板100は、
図1に示すように、脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体UVと下方側の椎体DVとの間に存在していた本来の椎間板を置換術により切除した後に装着される。
【0025】
そして、この人工椎間板100は、
図2乃至
図3に示すように、上方側の椎体UVに連結する上側板状部分110と、下方側の椎体DVに連結する下側板状部分120と、これらの上側板状部分110と下側板状部分120との上下間に配置される弾性部材130と、この弾性部材130を囲繞した状態で上側板状部分110と下側板状部分120との上下間を連結する筒状部分140とで構成され、これらの上側板状部分110と下側板状部分120と弾性部材130と筒状部分140との中心軸Cが一致する。
これにより、人工椎間板の周方向に対する方向的特異性を無くして椎体に対する装着時の位置決め負担を軽減するとともに、上側板状部分110と下側板状部分120とが上方側の椎体UVと下方側の椎体DVとから荷重を受けた場合、弾性部材130と筒状部分140とが上側板状部分110と下側板状部分120とを相対移動自在に変位させ、本来の椎間板の役割や機能と代替することができる。
【0026】
<2.本発明の第1実施例である人工椎間板100の詳細構造>
次に、
図3乃至
図5Bに基づいて、本実施例の人工椎間板100の詳細構造を説明する。
【0027】
人工椎間板100の上側板状部分110は、
図3乃至
図4Bに示すように、上方側の椎体UVに接合する上面111と、筒状部分140の上端に連結する円形の下面112とを少なくとも備え、全体として円盤状に形成されている。
下面112の略中央には、上方側の椎体UVに向けて凹形状に形成された円形の凹部112aが設けられている。
弾性部材130の上面側がこの凹部112aにはまり込むことで、弾性部材130は上側板状部分110と連結する。
【0028】
他方、人工椎間板100の下側板状部分120は、
図3乃至
図4Bに示すように、下方側の椎体DVに接合する下面121と、筒状部分140の下端に連結する上面122とを少なくとも備え、全体として円盤状に形成されている。
上面122の略中央には、上面122の略中央に上面122の外周周辺から立ち上がる台座状に形成された台座部122aが設けられている。
この台座部122aの表面は、外周から中央に向けて緩やかに窪んでいる。
弾性部材130が台座部122aの表面の窪みに載置されることで、弾性部材130は下側板状部分120と連結する。
【0029】
また、人工椎間板100の弾性部材130は、
図3乃至
図4Bに示すように、本来の椎間板と同程度の弾力特性を発揮して生体と適合するシリコーン系ゴムからなり、全体として円柱状に形成されている。
そして、この円柱状の弾性部材130に形成された上側対向面131が、上側板状部分110に形成された円形状の凹部112aに対向して一体に連結されるとともに、円柱状の弾性部材130に形成された下側対向面132が、下側板状部分120に形成された円錐台状の台座部122aに対向して一体に連結されている。
【0030】
つぎに、人工椎間板100の筒状部分140は、
図3乃至
図5Bに示すように、前述した上側板状部分110から垂下する筒状の外側壁体141と、下側板状部分120から立ち上がって弾性部材130を取り囲む筒状の内側壁体142と、外側壁体141の内周面に一体に外接する外側弾性層体143と、内側壁体142の外周面に一体に内接する内側弾性層体144と、外側弾性層体143の内周面と内側弾性層体144の外周面との相互間に一体に配置する剛性壁体145とで構成され、特に
図4Aの斜視図で示すように、全体として纏まり良く円筒状に形成されている。
【0031】
ここで、筒状部分140を形成する内側壁体142の内周面は、
図3および
図4Bに示すように、弾性部材130の外周面133に対して所定の間隙G1を介して下側板状部分120から立ち上がるように設けることにより、弾性部材130が圧縮変形した場合の筒状部分140に対する弾性部材130の弾力的な自由度を確保している。
【0032】
同様に、筒状部分140の一部を形成する内側壁体142、内側弾性層体144、剛性壁体145、外側弾性層体143の上端面は、
図3に示すように、面一に形成して上側板状部分110の下面112に対して所定の間隙G2を空けるように配置することにより、弾性部材130が圧縮変形した場合の筒状部分140に対する上側板状部分110の弾力的な自由度を確保している。
【0033】
筒状部分140の一部を形成する外側壁体141、外側弾性層体143、剛性壁体145、内側弾性層体144の下端面は、
図3に示すように、面一に形成して下側板状部分120の上面122に対して所定の間隙G3を空けるように配置することにより、弾性部材130が圧縮変形した場合の筒状部分140に対する下側板状部分120の弾力的な自由度を確保している。
【0034】
そして、筒状部分140を構成する外側壁体141と内側壁体142とについては、上側板状部分110および下側板状部分120と同様に、生体活性セラミックス材料を用いるが、これ以外の椎骨などと適合する素材であれば良い。
また、本実施例では、外側壁体141は上側板状部分110と、内側壁体142は下側板状部分120とそれぞれ接着剤により一体に接合しているが、一体成型しても良い。
【0035】
筒状部分140を構成する外側弾性層体143、内側弾性層体144の素材については、前述した弾性部材130と同様に、生体と適合するシリコーン系ゴムを採用している。
また、外側弾性層体143と内側弾性層体144との相互間に配置される剛性壁体145の素材については、前述した外側弾性層体143および内側弾性層体144よりも変形しにくい素材、すなわち、剛性を発揮するチタンを採用しているが、これ以外であっても良い。
【0036】
<3.本発明の第1実施例である人工椎間板100の動作説明>
本実施例の人工椎間板100を脊椎の上下方向で隣り合う上方側の椎体UVと下方側の椎体DVとの間に存在していた本来の椎間板を置換術により切除した後に装着して使用した場合の動作を、模式的に示した
図6A乃至
図6Eに基づいて、以下に説明する。
【0037】
まず、
図6Aに示す人工椎間板100は、本来の椎間板を置換術により切除した後に装着した際に基本的なセッティング状態であって、人工椎間板100の置換術後に上方側の椎体UVが下方側の椎体DVに対して上方に向けて引っ張り力を受けた場合、上方側の椎体UVに連結された上側板状部分110も、同様に下方側の椎体DVに連結された下側板状部分120に対して上方に向けた引っ張り力を生じて引っ張られる。
そして、この上側板状部分110に生じた引っ張り力が、弾性部材130と筒状部分140とに伝達され、
図6Bの上向きの矢印で示すように、これらの弾性部材130と筒状部分140とが弾性変形して伸張することにより吸収される。
この時、弾性部材130の外周囲は、筒状部分140に取り囲まれているため、筒状部分140から側方へ飛び出すことはない。
【0038】
他方、人工椎間板100の置換術後に上方側の椎体UVが下方側の椎体DVに向けて荷重や衝撃による押圧を受けた場合、上方側の椎体UVに連結された上側板状部分110も、同様に下方側の椎体DVに連結された下側板状部分120に向けた荷重や衝撃による押圧が負荷される。
この時、この上側板状部分110に負荷された荷重や衝撃による押圧力が、弾性部材130と筒状部分140とに伝達され、
図6Cの下向きの矢印で示すように、これらの弾性部材130と筒状部分140とが弾性変形して圧縮されることにより吸収される。
【0039】
さらに、人工椎間板100の置換術後に上方側の椎体UVが下方側の椎体DVに対して左側に荷重や衝撃などの偏荷重を受けた場合、上方側の椎体UVに連結された上側板状部分110も、同様に下方側の椎体DVに連結された下側板状部分120に対して左側に偏荷重が負荷される。
この時、この上側板状部分110の左側に生じた荷重や衝撃による偏荷重が、弾性部材130と筒状部分140とに伝達され、
図6Dの左向きの矢印で示すように、これらの弾性部材130と筒状部分140の左側とで圧縮変形を生じるとともに右側で伸びを生じることにより吸収される。
【0040】
他方、人工椎間板100の置換術後に上方側の椎体UVが下方側の椎体DVに対して右側に荷重や衝撃などの偏荷重を受けた場合、上方側の椎体UVに連結された上側板状部分110も、同様に下方側の椎体DVに連結された下側板状部分120に対して右側に偏荷重が負荷される。
この時、この上側板状部分110の右側に生じた荷重や衝撃による偏荷重が、弾性部材130と筒状部分140とに伝達され、
図6Eの右向きの矢印で示すように、これらの弾性部材130と筒状部分140の右側とで圧縮変形を生じるとともに左側で伸びを生じることにより吸収される。
【0041】
以上の
図6A乃至
図6Eに基づいた人工椎間板100の動作説明から明らかなように、本実施例の人工椎間板100は、上側板状部分110や下側板状部分120に加わる荷重や衝撃が弾性部材130に伝達され、この弾性部材130が弾性変形し、人工椎間板100が受ける荷重や衝撃を吸収するようになっている。
同時に、上側板状部分110に上端を連結されるとともに下側板状部分120に下端を連結された筒状部分140の弾性変形により、上側板状部分110または下側板状部分120の一方が、他方に対して揺動自在となる。
【0042】
また、筒状部分140が、筒状の外側壁体141と筒状の内側壁体142と外側弾性層体143と内側弾性層体144と剛性壁体145とで構成されていることにより、筒状部分140が外側壁体141と内側壁体142との間に2つの弾性層体と1つの剛性壁体145を介在させた積層体構造となり、筒状部分140が剛性壁体145を有さない場合、すなわち、外側壁体141と内側壁体142との間を弾性体層のみで埋める場合に比べて弾性体層の厚みが小さくなる。
【0043】
さらに、上側板状部分110と下側板状部分120とが円盤状に形成され、弾性部材130が円柱状に形成され、筒状部分140が円筒状に形成され、これらの中心軸が一致していることにより、人工椎間板100における如何なる周方向の荷重や衝撃であっても追従可能になっている。
【0044】
<4.本発明の第1実施例である人工椎間板100の奏する効果>
上述したような本実施例の人工椎間板100は、上方側の椎体UVに連結する上側板状部分110と、下方側の椎体DVに連結する下側板状部分120と、上側板状部分110と下側板状部分120との上下間に配置される弾性部材130と、この弾性部材130を囲繞した状態で上側板状部分110と下側板状部分120に連結する筒状部分140とで構成されているため、外部からの荷重や衝撃を吸収する弾性部材130の脱落を抑制して優れた衝撃吸収性を発揮するとともに隣り合う椎体DVの相対移動に対する自由度の高い追従性を発揮することができる。
【0045】
そして、前述した筒状部分140が、上側板状部分110から垂下する筒状の外側壁体141と、下側板状部分120から立ち上がる筒状の内側壁体142と、外側壁体141に外接する外側弾性層体143と、内側壁体142に内接する内側弾性層体144と、外側弾性層体143と内側弾性層体144との間に配置する剛性壁体145とを有しているため、人工椎間板の横方向の変形量が抑制され、隣り合う椎体間の過度の横ずれを防止することができる。
【0046】
また、上側板状部分110と下側板状部分120とが円盤状に形成され、弾性部材130が円柱状に形成され、筒状部分140が円筒状に形成され、上側板状部分110と下側板状部分120と弾性部材130と筒状部分140との中心軸Cが一致していることにより、人工椎間板100の置換術を行う際に椎体UV、DVの相互間に人工椎間板100を容易に装着することができる。
【0047】
さらに、弾性部材130が、上側板状部分110と下側板状部分120とに固定されているため、人工椎間板100の引っ張り強度を増すことができるなど、その効果は甚大である。
また、本発明の第2実施例である人工椎間板200は、上述した本発明の第1実施例である人工椎間板100と比較すると、上側板状部分210と弾性部材230との取付形態のみが異なっており、その他の構成については、基本的に何ら変わることがないため、上述した第1実施例の人工椎間板100と同一の部分、部材について対応する200番台の符号を付すことにより、その重複する説明を省略する。
なお、本発明の第2実施例の人工椎間板200の置換術後に上方側の椎体UVが下方側の椎体DVに対して左側に荷重や衝撃などの偏荷重を受けた場合も、第1実施例の人工椎間板100と同様に、この上側板状部分210の左側に生じた荷重や衝撃による偏荷重が、弾性部材230と筒状部分240とに伝達され、図示しないが、これらの弾性部材230と筒状部分240の左側とで圧縮変形を生じることにより吸収される。
上述したような本実施例の人工椎間板200は、本発明の第1実施例である人工椎間板100と比較すると、隣り合う椎体DVの相対移動に対するより自由度の高い追従性を発揮することができる。