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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053796
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20220330BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20220330BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
H01B12/06
C01G1/00 S
C01G3/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160613
(22)【出願日】2020-09-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋
【テーマコード(参考)】
4G047
5G321
【Fターム(参考)】
4G047JA04
4G047JA05
4G047JC02
4G047JC10
4G047KG01
4G047KG04
4G047LA02
4G047LA07
5G321AA02
5G321AA04
5G321AA05
5G321BA01
5G321CA18
5G321CA24
5G321CA41
5G321CA50
5G321CA99
(57)【要約】
【課題】超電導層と保護層との間の層間抵抗を低減する酸化物超電導線材を提供する。
【解決手段】酸化物超電導線材1Aは、基材10と、超電導層12と、保護層13と、を備える。保護層13は、超電導層12と接する。超電導層12は、基材10の主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含み、超電導層12を構成する結晶粒の全体に対するa軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率は4.1~11.9%の範囲にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する基材と、
前記基材の上方に設けられ、希土類系高温超電導体によって構成された超電導層と、
前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接する保護層と、
を備え、
前記超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含み、
前記超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率は、4.1~11.9%の範囲にある、
酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記a軸配向粒率は、8.2%以下である、
請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
主面を有する基材と、
前記基材の上方に設けられ、希土類系高温超電導体によって構成された第1超電導層と、
前記第1超電導層上に設けられ、希土類系高温超電導体によって構成された第2超電導層と、
前記第2超電導層上に設けられ、前記第2超電導層に接する保護層と、
を備え、
前記第2超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含み、
前記第2超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率は、4.1~11.9%の範囲にある、
酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記第1超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒である第1a軸配向粒を含み、
前記第2超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒である第2a軸配向粒を含み、
前記第1超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記第1a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率を第1率と定義し、
前記第2超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記第2a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率を第2率と定義すると、
前記第1率は、前記第2率よりも小さい、
請求項3に記載の酸化物超電導線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材上に、中間層、超電導層、及び保護層が順に積層された構造を有する酸化物超電導線材が開示されている。
数kmにも及ぶ長尺の超電導線材を製造するには、一般的に、短尺の複数の超電導線材をはんだ接続により繋ぎ合わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-110125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、はんだ接続により酸化物超電導線材を接続した場合、接続部における接続抵抗が高くなり、接続部においてジュール熱が発生するという問題がある。特に、はんだ接続に起因する接続抵抗は、超電導層と保護層との間の層間抵抗が支配的であり、ジュール熱を低減するには、層間抵抗を低減することが重要である。また、接続抵抗が高くなると、クエンチ時に電流をバイパスする際に、超電導層から保護層へバイパス電流が流れ難くなるという問題もある。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、超電導層と保護層との間の層間抵抗が低減された酸化物超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、主面を有する基材と、前記基材の上方に設けられ、希土類系高温超電導体によって構成された超電導層と、前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接する保護層と、を備える。前記超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含む。前記超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率は、4.1~11.9%の範囲にある。
【0007】
ここで、文言「基材の上方に設けられた超電導層」とは、基材上に超電導層が設けられていることを意味するだけでなく、基材と超電導層との間に中間層等の層膜が配置されている構造において基材の上方に超電導層基材が設けられていることも意味する。
【0008】
a軸、b軸、及びc軸に沿って結晶が配向する超電導層の結晶構造において、従来では、基材の主面に対する垂直方向に結晶粒のc軸が配向することが多いことが知られている。これに対し、本発明者は、超電導層を構成する結晶粒のうち、基材の主面に対する垂直方向にa軸が配向するa軸配向粒が超電導層と保護層との間の層間抵抗に影響を及ぼすことを見出した。さらに、鋭意検討の結果、本発明者は、超電導層の結晶粒の全体に対して4.1~11.9%の割合でa軸配向粒を有するように超電導層を形成することで、超電導層と保護層との間の層間抵抗が低減する効果が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
本発明の一態様によれば、超電導層と保護層との間の層間抵抗が低減された酸化物超電導線材を製造することができる。この酸化物超電導線材を複数用意し、酸化物超電導線材どうしをはんだ接続すれば、接続抵抗が低減された長尺の超電導線材を製造することができる。
【0010】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記a軸配向粒率は、8.2%以下であってもよい。
この構成によれば、層間抵抗の低減だけでなく、酸化物超電導線材の長手方向における臨界電流密度を確保することができる。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、主面を有する基材と、前記基材の上方に設けられ、希土類系高温超電導体によって構成された第1超電導層と、前記第1超電導層上に設けられ、希土類系高温超電導体によって構成された第2超電導層と、前記第2超電導層上に設けられ、前記第2超電導層に接する保護層と、を備える。前記第2超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含む。前記第2超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率は、4.1~11.9%の範囲にある。
【0012】
本発明の一態様によれば、第2超電導層と保護層との間の層間抵抗が低減された酸化物超電導線材を製造することができる。この酸化物超電導線材を複数用意し、酸化物超電導線材どうしをはんだ接続すれば、接続抵抗が低減された長尺の超電導線材を製造することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記第1超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒である第1a軸配向粒を含む。前記第2超電導層は、前記基材の前記主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒である第2a軸配向粒を含む。前記第1超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記第1a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率を第1率と定義し、前記第2超電導層を構成する結晶粒の全体に対する前記第2a軸配向粒の割合を表すa軸配向粒率を第2率と定義する。この場合、前記第1率は、前記第2率よりも小さくてもよい。
【0014】
この構成によれば、第2超電導層によって、超電導層と保護層との間の層間抵抗を低減することができ、第1超電導層によって、酸化物超電導線材の長手方向における臨界電流密度を確保することができる。つまり、酸化物超電導線材が、互い異なるa軸配向粒率を有する2つの超電導層を備えることで、層間抵抗の低減と、酸化物超電導線材の長手方向における臨界電流密度の確保、という両方の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記態様によれば、超電導層と保護層との間の層間抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を示す拡大断面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る酸化物超電導線材を示す拡大断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材を用いて形成された接続構造体を示す図であって、複数の酸化物超電導線材のうち2つの線材がはんだ接続された接続構造体を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材について、図面を参照して詳細に説明する。説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするため、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る酸化物超電導線材について図1を参照して説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導線材1Aは、基材10と、基材10上に設けられた中間層11と、中間層11上に設けられた超電導層12と、超電導層12上に設けられた保護層13と、保護層13上に設けられた安定化層14とを備える。酸化物超電導線材1Aは、基材10、中間層11、超電導層12、保護層13、及び安定化層14を覆う絶縁被覆層を備えてもよい。
【0019】
酸化物超電導線材1Aの高さ、すなわち、基材10の下面から保護層13の上面までの長さ(図1の上下方向の長さ)は、例えば、80μmである。
酸化物超電導線材1Aの幅、すなわち、酸化物超電導線材1Aの左端から右端までの長さ(図1の左右方向の長さ)は、例えば、12mmである。
【0020】
(基材10)
基材10は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。
【0021】
(中間層11)
中間層11は、多層構成でもよく、例えば基材10から超電導層12に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。中間層11は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層11の上に超電導層12を成膜することにより、配向性に優れた超電導層12を得ることが容易になる。
【0022】
(超電導層12)
超電導層12は、超電導状態の時に電流を流す機能を有する。
超電導層12は、希土類系高温超電導体によって構成され、保護層13と接するように設けられている。
具体的に、超電導層12に用いられる材料としては、通常知られている組成の酸化物超電導体を広く適用することができ、例えば、Y系超電導体、Bi系超電導体などの銅酸化物超電導体などが挙げられる。
【0023】
Y系超電導体の組成としては、例えば、REBaCu7-x(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素、xは酸素欠損を表す。)が挙げられる。具体的には、Y123(YBaCu7-x)、Gd123(GdBaCu7-x)が挙げられる。
Bi系超電導体の組成としては、例えば、BiSrCan-1Cu4+2n+δ(nはCuOの層数、δは過剰酸素を表す。)が挙げられる。この酸化物超電導体の母物質は絶縁体であるが、酸素アニール処理により酸素を取り込むことで結晶構造の整った酸化物超電導体となり、超電導特性を示す性質を持つ。
【0024】
さらに、超電導層12は、基材10の主面に対する垂直方向にa軸が配向している結晶粒であるa軸配向粒を含む。a軸配向粒においては、超電導状態において電流が流れやすいCu-O面が基材の主面と垂直に存在している。a軸配向粒を含む超電導層12は、a軸配向粒同士の結晶粒界における量子的結合性に優れており、結晶粒界での超電導特性の劣化が殆どない。そのため、超電導層12においては、a軸方向に電気が流れ易くなる。超電導層12に含まれるa軸配向粒の割合(a軸配向粒率Xa)は、超電導層12を構成する結晶粒の全体(100%)に対して4.1~11.9%の範囲内にある。また、この範囲内において、a軸配向粒率Xaは、8.2%以下であることがより好ましい。
超電導層12を形成する際に、成膜温度、成膜レート(成膜速度)等の条件を調整することによって、a軸配向粒率Xaを上記範囲内における所望の値に制御することができる。
【0025】
(保護層13)
保護層13は、酸化物超電導線材1Aへの通電時、何らかの事故により発生する過電流をバイパスする電流路となる。保護層13は、Agあるいは少なくともAgを含む材料から形成されることが好ましい。また、保護層13を形成する材料は、Au、Ptなどの貴金属を含む混合物もしくは合金であってもよく、これらを複数用いてもよい。
【0026】
(安定化層14)
安定化層14の材料としては、銅、Cu-Zn合金(黄銅)、Cu-Ni合金等の銅合金、アルミ、アルミ合金、ステンレス等の材質が選択される。
安定化層14は、複数の層から構成されてもよい。また、安定化層14は、金属めっきにより形成されてもよいし、基材10から保護層13までの層を含む積層体の全体をめっき層で覆う構造を有してもよい。
【0027】
次に、以上のように構成された酸化物超電導線材1Aの作用及び効果について説明する。
保護層13に接する超電導層12が、基材の主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含み、当該a軸配向粒を含むことにより、超電導の電流パスとなるCu-O面が基材10の主面に対して垂直に存在することになる。基材10の主面に対する垂直方向にa軸が配向することで、基材の主面に対する垂直方向には低抵抗となり、電流が容易に流れる。特に、後述するように、a軸配向粒率Xaが4.1~11.9%の範囲に設定されていることで、超電導層12と保護層13との間の層間抵抗を低減する効果が得られる。さらに、a軸配向粒率Xaを8.2%以下に設定することで、層間抵抗の低減だけでなく、酸化物超電導線材1Aの長手方向における臨界電流密度の低下を抑えることもできる。なお、以降の説明では、酸化物超電導線材の長手方向における臨界電流密度を、単に臨界電流密度と称する。
【0028】
一方、従来の酸化物超電導線材においては、基材の主面に対して平行方向にCu-O面が存在するように超電導層を形成することが一般的に行われている。このとき、基材の主面に対する垂直方向には結晶粒のc軸が配向するため、基材の主面に対する垂直方向には電流が流れにくい。
【0029】
これに対し、本実施形態によれば、基材10の主面に対する垂直方向にa軸が配向したa軸配向粒の割合(a軸配向粒率Xa)を最適化することで、超電導層12と保護層13との相互間の電流パスが増加し、層間抵抗を低減することができる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る酸化物超電導線材について図2を参照して説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導線材1Bは、超電導層が2つの層(第1超電導層及び第2超電導層)で構成されている点で、上述した第1実施形態に係る酸化物超電導線材1Aとは異なる。
図2において、第1実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。
【0031】
本実施形態に係る酸化物超電導線材1Bは、基材10と、基材10上に設けられた中間層11と、中間層11上に設けられた第1超電導層12Aと、第1超電導層12A上に設けられた第2超電導層12Bと、第2超電導層12B上に設けられた保護層13と、保護層13上に設けられた安定化層14とを備える。酸化物超電導線材1Bは、基材10、中間層11、第1超電導層12A、第2超電導層12B、保護層13、及び安定化層14を覆う絶縁被覆層を備えてもよい。
【0032】
第1超電導層12A及び第2超電導層12Bの各々は、希土類系高温超電導体によって構成されている。第1超電導層12Aは、中間層11上に形成されており、保護層13とは接していない。第2超電導層12Bは、第1超電導層12A上に形成されており、保護層13と接している。
【0033】
第2超電導層12Bを構成する結晶粒の全体に対する第2超電導層12Bのa軸配向粒(第2a軸配向粒)の割合(第2超電導層12Bのa軸配向粒率Xa2、第2率)は、上述した第1実施形態の超電導層12と同様に4.1~11.9%の範囲内にある。
一方、第1超電導層12Aを構成する結晶粒の全体に対する第1超電導層12Aのa軸配向粒(第1a軸配向粒)の割合(第1超電導層12Aのa軸配向粒率Xa1、第1率)は、第2超電導層12Bのa軸配向粒率Xa2よりも低い。
【0034】
例えば、第2超電導層12Bのa軸配向粒率Xa2が4.1%であれば、第1超電導層12Aのa軸配向粒率Xa1は4.1%未満であることが好ましい。
また、第2超電導層12Bのa軸配向粒率Xa2が11.9%であれば、第1超電導層12Aのa軸配向粒率Xa1は11.9%未満であればよい。ただし、a軸配向粒率Xaを8.2%以下に設定することで高い臨界電流密度が得られることから、この場合には、第1超電導層12Aのa軸配向粒率Xa1は8.2%以下であることが好ましい。
【0035】
次に、以上のように構成された酸化物超電導線材1Bの作用及び効果について説明する。
保護層13に接する第2超電導層12Bが、基材の主面に対する垂直方向にa軸が配向しているa軸配向粒を含み、当該a軸配向粒を含むことにより、超電導の電流パスとなるCu-O面が基材の主面に対して垂直に存在することになる。基材10の主面に対する垂直方向にa軸が配向することで、基材の主面に対する垂直方向には低抵抗となり、電流が容易に流れる。後述するように、第2超電導層12Bのa軸配向粒率Xa2が4.1~11.9%の範囲に設定されていることで、第2超電導層12Bと保護層13との間の層間抵抗を低減する効果が得られる。また、第1超電導層12Aのa軸配向粒率Xa1の値が第2超電導層12Bのa軸配向粒率Xa2よりも小さい値であることから、酸化物超電導線材1Bの長手方向にa軸またはb軸が配向した結晶粒の割合が確保される。このため、酸化物超電導線材1Bの高い臨界電流密度を得ることができる。特に、第1超電導層12Aのa軸配向粒率Xa1の値を8.2%以下に設定することで高い臨界電流密度を得ることができる。
【0036】
したがって、第2超電導層12Bと保護層13との相互間の電流パスが増加することで層間抵抗を低減することができ、かつ、第1超電導層12Aの臨界電流密度を確保することができる。つまり、酸化物超電導線材1Bが互い異なるa軸配向粒率Xa1、Xa2をそれぞれ有する2つの超電導層を備えることで、層間抵抗の低減及び臨界電流密度の確保という両方の効果を得ることができる。
【0037】
上述した第2実施形態においては、超電導層を構成する層の数は2層であったが、保護層に接する超電導層のa軸配向粒率Xaが4.1~11.9%の範囲であれば、3層以上の層で超電導層が構成されてもよい。
【0038】
(接続構造体)
次に、上述した本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材を用いて形成した接続構造体について図3を参照して説明する。
本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材を用いて形成した接続構造体は、第1実施形態に係る複数の酸化物超電導線材1Aがはんだ接続された構造を有する。特に、図3は、2つの酸化物超電導線材がはんだ接続された接続部分を示している。
【0039】
図3に示すように、一方の酸化物超電導線材(図3において上方に位置する酸化物超電導線材)の保護層13を被覆する安定化層14の表面と、他方の酸化物超電導線材(図3において下方に位置する酸化物超電導線材)の保護層13を被覆する安定化層14の表面とが対向している。この状態で、一方の酸化物超電導線材の端部に位置する安定化層14と、他方の酸化物超電導線材の端部に位置する安定化層14とが、はんだ15を介して電気的に接続されている。
【0040】
なお、図3には示されていないが、2つの酸化物超電導線材の各々の端部には、はんだを介して別の酸化物超電導線材が接続されている。この接続構造においても、図3に示すはんだ15を用いた電気接続構造が採用されている。つまり、酸化物超電導線材の延在方向に沿って、複数の酸化物超電導線材がはんだ接続された長尺の酸化物超電導線材が得られる。
【0041】
この構成によれば、接続抵抗が低減された長尺の酸化物超電導線材を製造することができる。
なお、第1実施形態に係る複数の酸化物超電導線材1Aに代えて、第2実施形態に係る複数の酸化物超電導線材1Bを用意し、図3に示すように、酸化物超電導線材1Bどうしをはんだ接続してもよい。この場合も、接続抵抗が低減され、かつ、臨界電流密度が確保された長尺の超電導線材を製造することができる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0043】
上述した実施形態では、基材10と超電導層12との間に中間層11が配置されている構造(第1実施形態)と、基材10と第1超電導層12Aとの間に中間層11が配置されている構造(第2実施形態)とについて説明した。
本発明においては、基材の上方に超電導層が設けられていればよく、基材上に超電導層が設けられてもよいし、基材上に超電導層が直接的に接触してもよい。
【実施例0044】
次に、実施例を参照して、本発明を具体的に説明する。
表1は、a軸配向粒率Xa(%、超電導層を構成する結晶粒の全体に対するa軸配向粒の割合)が異なる実験例1~9において、臨界電流密度比、層間抵抗比(R比)、及び層間抵抗R比の評価結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
a軸配向粒率Xa、臨界電流密度比、及び層間抵抗比(R比)の測定方法及び算出方法、及び層間抵抗R比の評価基準は、次の通りである。
【0047】
(a軸配向粒率Xa)
酸素アニール前(アズデポ)のサンプルに対して、a軸配向粒率Xaの測定を行った。
a軸配向粒率Xaは、XRDのθ-2θ法により測定した。(006)ピークのカウント値をxとし、(200)ピークのカウント値をyとしたとき、a軸配向粒率Xaは、関係式「(a軸配向粒率Xa(%))=(100×y)/(x+y)」により算出される。
【0048】
(臨界電流密度比(Jc比))
臨界電流密度Jc(77K、自己磁場中)の測定及び算出においては、まず、酸素アニール後のサンプルを用意し、四端子法により測定値を得た。その測定値を超電導層の厚さで除することによって、臨界電流密度Jcを得た。
表1において、「臨界電流密度比(Jc比)」とは、実験例1の臨界電流密度Jcに対する比、すなわち、実験例1の臨界電流密度Jcを1とした場合の割合を示す。
【0049】
(層間抵抗比(R比))
線材の表裏が入れ替わらないブリッジ接続の状態で、層間抵抗Rを測定した。接続長は、2cmとした。ブリッジ接続は、接続面にSn-Pb共晶はんだを塗布し、接続面どうしを重ね、接続面が重なっている部分にヒータを押し当てることで測定を行った。
表1において、「層間抵抗比(R比)」とは、実験例1の層間抵抗に対する比、すなわち、実験例1の層間抵抗を1とした場合の割合を示す。
【0050】
(層間抵抗R比の評価)
表1において、記号「〇」は、層間抵抗R比が0.7以下であって、評価結果が「良」であることを意味する。記号「◎」は、層間抵抗R比が0.5以下であって、評価結果が「最良」であることを意味する。一方、記号「×」は、層間抵抗R比が0.7を超えており、評価結果が「不可」であることを意味する。
【0051】
表1に示す実験結果から次の点が明らかとなった。
[1]a軸配向粒率Xaが4.1~11.9%の範囲にある場合、層間抵抗R比の評価結果が良(〇)又は最良(◎)となった。このため、この範囲内に超電導層のa軸配向粒率Xaを設定することで、層間抵抗を低減することが明らかとなった。
【0052】
[2]一方、a軸配向粒率Xaが4.1%未満である場合(3.3%、2.9%)、及び、a軸配向粒率Xaが11.9%を超える場合(27.1%、41.7%)では、層間抵抗比が増加しており、層間抵抗R比の評価結果が不可(×)となった。この条件では、層間抵抗の低減を図れないことが明らかとなった。
【0053】
なお、a軸配向粒率Xaが11.9%を超えた場合に層間抵抗比が増加する理由は、a軸配向粒率Xaの増加により縦方向(基材の主面に対して垂直な方向)への電流パスが得られるものの、a軸配向粒が過多になることで超電導層の結晶の並びが乱れ、電流を阻害する他の粒子が生成されてしまい、Cu-O面が揃わなくなり、抵抗が大きくなってしまうため、と考えられる。
【0054】
[3]a軸配向粒率Xaの範囲4.1~11.9%において、a軸配向粒率Xaが8.2%以下であれば、臨界電流密度比が0.85以上となった。このことから、層間抵抗の低減及び臨界電流密度の確保といった両方の効果が得られることが明らかとなった。
【0055】
[4]a軸配向粒率Xaが4.1%以下の場合、臨界電流密度比が0.95以上となった。このことから、保護層に接しない第1超電導層と保護層に接する第2超電導層とを備える構造において、第2超電導層のa軸配向粒率Xa2を4.1~11.9%の範囲内に設定し、かつ、第1超電導層のa軸配向粒率Xa1を4.1%以下に設定することで、層間抵抗の低減及び臨界電流密度の確保といった両方の効果が得られることが明らかとなった。
【0056】
なお、第1超電導層及び第2超電導層を備える構造においては、第2超電導層のa軸配向粒率Xa2を4.1~11.9%の範囲内に設定し、かつ、第1超電導層のa軸配向粒率Xa1を11.9%以下に設定することが考えられるが、高い臨界電流密度を得るためには、第1超電導層のa軸配向粒率Xa1を8.2%以下にすることが好ましいことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0057】
1A、1B…酸化物超電導線材、10…基材、11…中間層、12…超電導層、12A…第1超電導層(超電導層)、12B…第2超電導層(超電導層)、13…保護層、14…安定化層、15…はんだ
図1
図2
図3