(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053804
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20220330BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220330BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160630
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】大河 弘志
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 祐太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168FB02
4E168JA02
4E168KA04
(57)【要約】
【課題】ワークの加工品質の向上を図る。
【解決手段】アシストガスとして酸素を用い、軟鋼からなるワークKに対してレーザ切断加工を行うレーザ加工方法であって、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctに至る間に、切断速度Vを所定の第1速度V
1からゼロまで減速する。レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctから所定箇所SRaに至る間に、切断速度Vを所定の第1速度V
1まで加速する。レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctから所定箇所SRaに至る間における、切断速度Vを加速する加速度の絶対値に対して、減速する加速度は、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctまで至る間における、切断速度Vを減速する加速度の絶対値をより小さく設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシストガスとして酸素を用い、軟鋼からなるワークに対してコーナ部を含む加工経路に沿ってレーザ切断加工を行うレーザ加工方法であって、
レーザビームの照射位置が前記加工経路における前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間に、切断速度を所定の第1速度からゼロまで減速し、
レーザビームの照射位置が前記加工経路における前記コーナ部の先端から所定箇所に至る間に、切断速度を前記所定の第1速度まで加速し、
レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間における、切断速度を減速する加速度は、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間における、切断速度を加速する加速度よりも小さく設定されている、レーザ加工方法。
【請求項2】
レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間に、切断速度をゼロから前記所定の第1速度よりも低い所定の第2速度まで加速してその速度を維持し、その後、切断速度を前記所定の第1速度まで加速する、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記コーナ部の先端に達すると、レーザ出力を所定の第1出力から前記所定の第1出力よりも低い所定の第2出力若しくはゼロに切り替えるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第2出力に切り替え、
レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記所定箇所に達すると、前記レーザ出力を前記所定の第2出力若しくはゼロから前記所定の第1出力に切り替えるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第1出力に切り替える、請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
レーザビームを発振するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器に光学的に接続され、軟鋼からなるワークに向かってアシストガスとして酸素を噴射しつつレーザビームを照射する加工ヘッドと、
前記加工ヘッドをワークに対して相対的に水平方向へ移動させるヘッド移動部と、
前記レーザ発振器及び前記ヘッド移動部を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
レーザビームの照射位置が前記加工経路におけるコーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間に、切断速度が所定の第1速度からゼロまで減速するように前記ヘッド移動部を制御し、
レーザビームの照射位置が前記加工経路における前記コーナ部の先端から所定箇所に至る間に、切断速度が前記所定の第1速度まで加速するように前記ヘッド移動部を制御し、
レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間における、切断速度を減速する加速度を、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間における、切断速度を加速する加速度よりも小さく設定する、レーザ加工機。
【請求項5】
前記制御装置は、
レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間に、切断速度がゼロから前記所定の第1速度よりも低い所定の第2速度まで加速してその速度を維持するように前記ヘッド移動部を制御し、その後、切断速度が前記所定の第2速度から前記所定の第1速度まで加速するように前記ヘッド移動部を制御する、請求項4に記載のレーザ加工機。
【請求項6】
前記制御装置は、
レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記コーナ部の先端に達すると、レーザ出力が所定の第1出力から前記所定の第1出力よりも低い所定の第2出力若しくはゼロに切り替わるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第2出力に切り替わるように前記レーザ発振器を制御し、
レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記所定箇所に達すると、前記レーザ出力が前記所定の第2出力若しくはゼロから前記所定の第1出力に切り替わるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第1出力に切り替わるように前記レーザ発振器を制御する、請求項5に記載のレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに対してレーザ切断加工を行うレーザ加工方法及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
軟鋼からなる厚板のワークに対して加工経路に沿ってレーザ切断加工を行う場合には、アシストガスとして酸素を用いる酸素加工が選択される。酸素加工は、レーザビームのエネルギーの他に酸化反応熱によってワークを溶融させることができる。また、加工経路にコーナ部(鋭角部やエッジ部)が含まれている場合には、レーザビームの照射位置が加工経路のコーナ部の先端に達すると、レーザ加工機のコーナ部の加工方法として、レーザ加工機の切断速度及びレーザ出力を下げて、バーニングの発生を抑制している(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3211902号公報
【特許文献2】特開平7-195186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワークの板厚の増大に伴い、レーザビームの照射位置の軌跡に対するワークの裏面側の溶融金属の軌跡(切断位置の軌跡)の遅れが大きくなると、ワークの裏面におけるコーナ部側に大きな凹みが発生する。特に、レーザ加工機の切断時間の短縮化を図るために、レーザ加工機の切断速度及びレーザ出力を上げると、その凹みがより大きくなる。
【0005】
また、ワークの裏面側の溶融金属の軌跡の遅れを低減するために、レーザ加工機の切断速度及びレーザ出力を下げるコーナ部の加工方法に加えて、レーザビームの照射位置がコーナ部の先端に達した後に、レーザビームの照射位置をコーナ部の先端に所定時間だけ停止させることがある。この手法を採ると、ワークの裏面におけるコーナ部の内角側の凹みを小さくできるものの、ワークの裏面におけるコーナ部の外角側の凹みが大きくなる。
【0006】
つまり、軟鋼からなる厚板のワークに対してレーザ切断加工を行う場合に、ワークの裏面におけるコーナ部の外角側及び内角側の凹みを小さくすることは困難であるという問題がある。更に、コーナ部の前後において切断速度及びレーザ出力を下げる加工を行う場合には、コーナ先端通過後の切断面(コーナ部の先端に後続する部分)が粗くなるという問題が発生する。
【0007】
そこで、本発明は、前述の場合に、ワークの切断面におけるコーナ部の先端に後続する部分が粗くなることを抑えつつ、ワークの裏面におけるコーナ部の外角側及び内角側の凹みを小さくすることで、ワークの加工品質の向上を図る、レーザ加工方法及びレーザ加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1実施態様に係るレーザ加工方法は、アシストガスとして酸素を用い、軟鋼からなるワークに対してコーナ部を含む加工経路に沿ってレーザ切断加工を行うレーザ加工方法であって、レーザビームの照射位置が前記加工経路における前記コーナ部の先端(頂部)の手前側から前記コーナ部の先端に至る間に、切断速度(加工速度)を所定の第1速度からゼロまで減速する。レーザビームの照射位置が前記加工経路における前記コーナ部の先端から所定箇所に至る間に、切断速度を前記所定の第1速度まで加速する。レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間における、切断速度を減速する加速度(減速時の加速度)は、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間における、切断速度を加速する加速度(加速時の加速度)よりも小さく設定されている。
【0009】
レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間に、切断速度をゼロから前記所定の第1速度よりも低い所定の第2速度まで加速してその速度を維持し、その後、切断速度を前記所定の第1速度まで加速してもよい。この場合に、レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記コーナ部の先端に達すると、レーザ出力を所定の第1出力から前記所定の第1出力よりも低い所定の第2出力若しくはゼロに切り替えるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第2出力に切り替えてもよい。レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記所定箇所に達すると、前記レーザ出力を前記所定の第2出力若しくはゼロから前記所定の第1出力に切り替えるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第1出力に切り替えてもよい。
【0010】
第1実施態様に係るレーザ加工方法によると、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端に達した後における、切断速度の加速度を標準(通常)の加速度と同一又は同程度に保ちつつ、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間における、切断速度の加速度(減速時の加速度)のみを下げることができる。これにより、切断速度を加速させる際にワークへの入熱が過多になることを抑えつつ、レーザビームの照射位置の軌跡に対するワークの裏面側の溶融金属の軌跡(切断位置の軌跡)の遅れを低減することができる。
【0011】
第2実施態様に係るレーザ加工機は、レーザビームを発振(出力)するレーザ発振器と、前記レーザ発振器に光学的に接続され、軟鋼からなるワークに向かってアシストガスとして酸素を噴射しつつレーザビームを照射する加工ヘッドと、前記加工ヘッドをワークに対して相対的に水平方向へ移動させるヘッド移動部と、前記レーザ発振器及び前記ヘッド移動部を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、レーザビームの照射位置が前記加工経路におけるコーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間に、切断速度(加工速度)が所定の第1速度からゼロまで減速するように前記ヘッド移動部を制御する。前記制御装置は、レーザビームの照射位置が前記加工経路における前記コーナ部の先端から所定箇所に至る間に、切断速度が前記所定の第1速度まで加速するように前記ヘッド移動部を制御する。そして、前記制御装置は、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間における、切断速度を減速する加速度を、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間における、切断速度を加速する加速度よりも小さく設定する。
【0012】
前記制御装置は、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端から前記所定箇所に至る間に、切断速度がゼロから前記所定の第1速度よりも低い所定の第2速度まで加速してその速度を維持するように前記ヘッド移動部を制御し、その後、切断速度が前記所定の第2速度から前記所定の第1速度まで加速するように前記ヘッド移動部を制御してもよい。この場合に、前記制御装置は、レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記コーナ部の先端に達すると、レーザ出力が所定の第1出力から前記所定の第1出力よりも低い所定の第2出力若しくはゼロに切り替わるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第2出力に切り替わるように前記レーザ発振器を制御してもよい。前記制御装置は、レーザビームの照射位置が前記加工経路の前記所定箇所に達すると、前記レーザ出力が前記所定の第2出力若しくはゼロから前記所定の第1出力に切り替わるか、又は一旦ゼロにした後に前記所定の第1出力に切り替わるように前記レーザ発振器を制御してもよい。
【0013】
第2実施形態に係るレーザ加工機の構成によると、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端に達した後における、切断速度の加速度を標準の加速度と同一又は同程度に保ちつつ、レーザビームの照射位置が前記コーナ部の先端の手前側から前記コーナ部の先端に至る間における、切断速度の加速度(減速時の加速度)のみを下げることができる。これにより、切断速度を加速させる際にワークへの入熱が過多になることを抑えつつ、レーザビームの照射位置の軌跡に対するワークの裏面側の溶融金属の軌跡の遅れを低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軟鋼からなる厚板のワークに対してレーザ切断加工を行う場合に、ワークの切断面におけるコーナ部の先端に後続する部分が粗くなることを抑えつつ、ワークの裏面におけるコーナ部の外角側及び内角側の凹みを小さくすることで、ワークの加工品質の向上を図る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置の模式図である。
【
図2】
図2は、コーナ部を含む加工経路を説明する図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るレーザ加工方法を説明する図であって、切断速度とレーザ出力と時間との関係を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、本実施形態に係るレーザ加工方法によってレーザ切断加工を行ったワークの裏面の一部を示す写真である。
図4(b)は、本実施形態に係るレーザ加工方法によってレーザ切断加工を行ったワークの切断面の一部を示す写真である。
【
図5】
図5は、切断速度を減速させる加速度(減速時の加速度)と、ワークの裏面におけるコーナ部側の凹みの凹み量との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例1に係るレーザ加工方法を説明する図であって、切断速度とレーザ出力と時間との関係を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、比較例1に係るレーザ加工方法によってレーザ切断加工を行ったワークの裏面の一部を示す写真である。
図7(b)は、比較例1に係るレーザ加工方法によってレーザ切断加工を行ったワークの切断面の一部を示す写真である。
【
図8】
図8は、比較例2に係るレーザ加工方法を説明する図であって、切断速度とレーザ出力と時間との関係を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、比較例2に係るレーザ加工方法によってレーザ切断加工を行ったワークの裏面の一部を示す写真である。
図9(b)は、比較例3に係るレーザ加工方法によってレーザ切断加工を行ったワークの裏面の一部を示す写真である。
【
図10】
図10は、比較例3に係るレーザ加工方法を説明する図であって、切断速度とレーザ出力と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について
図1から
図5を参照して説明する。なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「加工経路」とは、加工プログラムに設定されたレーザビームの照射位置の移動経路のことである。本願の明細書において、「X軸方向」とは、図面に矢印で示す水平方向の1つであり、左右方向ともいう。「Y軸方向」とは、図面に矢印で示す水平方向の1つでかつX軸方向に直交する方向であり、前後方向ともいう。「及び/又は」とは、2つのうちのいずれか一方又は両方を含む意である。
図1中、「FF」は前方向、「FR」は後方向、「L」は左方向、「R」は右方向、「U」は上方向、「D」は下方向をそれぞれ指している。
【0017】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るレーザ加工機10は、板状のワーク(板金)Kに対して加工経路SRに沿ってレーザ切断加工を行う加工機である。レーザビームLBを照射するレーザ切断加工によってワークKに幅Swで示す二点鎖線の切断スリットSが連続的に形成される。レーザ加工機10は、ワークKを支持する加工テーブル12を備えており、加工テーブル12から離隔した位置には、レーザビーム(レーザ光)LBを発振(出力)するレーザ発振器としてのファイバレーザ発振器14が設けられている。なお、レーザ発振器としてファイバレーザ発振器14の代わりに、炭酸ガスレーザ発振器、YAGレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、又はダイレクトダイオードレーザ発振器等を用いてもよい。
【0018】
加工テーブル12の上方には、ワークKに向かってアシストガスを噴射しつつレーザビームLBを照射する加工ヘッド16が支持フレーム(図示省略)等を介して設けられている。加工ヘッド16は、その先端部に、レーザビームLBを照射するためのノズル18を有している。ノズル18のX軸方向及びY軸方向の位置は、レーザビームLBの照射位置に相当する。加工ヘッド16は、加工テーブル12に対してX軸方向及びY軸方向へ移動可能に構成されている。加工ヘッド16は、ファイバレーザ発振器14に光学的に接続されている。加工ヘッド16は、アシストガスを供給するガスボンベ等のアシストガス供給源(図示省略)に接続されている。
【0019】
レーザ加工機10は、加工ヘッド16を加工テーブル12上のワークKに対して相対的にX軸方向及びY軸方向へ移動させるヘッド移動部20を備えている。ヘッド移動部20は、加工ヘッド16をX軸方向へ移動させるためのX軸モータ22と、加工ヘッド16をY軸方向へ移動させるためのY軸モータ24とを有している。加工ヘッド16のX軸方向及び/又はY軸方向の移動速度は、切断速度(加工速度)に相当する。なお、ヘッド移動部20が加工ヘッド16をX軸方向及びY軸方向へ移動させる代わりに、加工ヘッド16をX軸方向へ移動させかつ加工テーブル12をY軸方向へ移動させてもよい。
【0020】
前述の構成により、ヘッド移動部20の駆動により加工ヘッド16をX軸方向及び/又はY軸方向へ移動させる。すると、加工ヘッド16のノズル18を加工テーブル12に支持されたワークKに対して位置決めすることができる。そして、加工ヘッド16のノズル18の位置決めを行いながら、加工ヘッド16のノズル18からワークKに向かってアシストガスを噴射しながらレーザビームLBを照射することで、ワークKに対して所望のレーザ切断加工を行う。
【0021】
レーザ加工機10は、加工プログラムに基づいてファイバレーザ発振器14及びヘッド移動部20を制御する制御装置26を備えている。制御装置26は、コンピュータによって構成されており、加工プログラム等を記憶するメモリと、加工プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)とを有している。そして、制御装置26の特徴部分の構成は、次の通りである。
【0022】
図1から
図3に示すように、制御装置26は、所定の場合に、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端(頂部)Ctの手前側に達するまで、切断速度(加工速度)Vが所定の第1速度V
1を維持するようにヘッド移動部20を制御する。所定の場合とは、アシストガスとして酸素を用い、軟鋼からなる板厚12mm以上のワークKに対してコーナ部Cを含む加工経路SRに沿ってレーザ切断加工を行う場合のことである。本実施形態においては、所定の第1速度V
1は、例えば15mm/sである。また、制御装置26は、前記所定の場合に、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctの手前側の所定位置からコーナ部Cの先端Ctまで至る間に、切断速度Vが所定の第1速度V
1からゼロまで徐々に減速するようにヘッド移動部20を制御する。所定位置とは、一定の減速する加速度(減速時の加速度)で減速させたときにコーナ部Cの先端Ctで速度がゼロになる減速開始位置のことである。なお、
図3中におけるT
1は、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctに達する時間である。
【0023】
制御装置26は、前記所定の場合に、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctからその近傍の所定箇所SRaに至る間に、切断速度Vがゼロから所定の第1速度V
1よりも低い所定の第2速度V
2まで加速度(加速時の加速度)で徐々に加速するようにヘッド移動部20を制御する。そして、制御装置26は、その所定の第2速度V
2を維持するようにヘッド移動部20を制御する。本実施形態においては、所定の第2速度V
2は、例えば、0.83mm/sである。制御装置26は、前記所定の場合に、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRの所定箇所SRaから所定時間だけ所定の第2速度V
2を維持した所定箇所SRbに達すると、切断速度Vが所定の第2速度V
2から所定の第1速度V
1まで徐々に加速するようにヘッド移動部20を制御する。このときの加速度は、コーナ部Cの先端Ctから所定箇所SRaまでの加速時の加速度と同じである。なお、
図3中におけるT
2は、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの所定箇所SRbに達する時間である。
【0024】
ここで、制御装置26は、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctまで至る間における、切断速度Vを減速する加速度(減速時の加速度)の絶対値を、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctから所定箇所SRaに至る間における、切断速度Vを加速する加速度(加速時の加速度)の絶対値よりも小さく設定する。本実施形態においては、前記減速時の加速度の絶対値は、標準(通常)の加速度の絶対値よりも小さく、例えば、20mm/s
2である。前記加速時の加速度の絶対値は、標準の加速度の絶対値と同一又は同程度であり、例えば、4900mm/s
2である。通常の場合、加速時の加速度と減速時の加速度の絶対値は同一に制御されるが、本実施形態においては各加速度の絶対値を大きく異ならせている。なお、
図3において、本実施形態との比較のために、切断速度Vを標準の加速度で減速させる様子を二点鎖線で示している。減速する加速度の絶対値を標準の加速度の絶対値より小さく設定するので、コーナ部Cの先端Ctの手前側の減速を開始する所定位置はより手前側となる。
【0025】
なお、加速時の加速度はプラスの値になり、減速時の加速度はマイナスの値になるので、本件発明では加速時の加速度と減速時の加速度を比較して、いずれかが小さい、大きい、又は同一若しくは同一程度との記載に関しては、すべてそれぞれの加速度の絶対値を比較しているものとする。
【0026】
制御装置26は、前記所定の場合に、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctの手前側に達するまで、レーザ出力Pが所定の第1出力P1に維持するようにファイバレーザ発振器14を制御する。本実施形態においては、所定の第1出力P1は、例えば、5400W(周波数2000Hz、デューティ比90%)である。また、制御装置26は、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctに達すると、レーザ出力Pが所定の第1出力P1から所定の第1出力P1よりも低い所定の第2出力P2に切り替わるようにファイバレーザ発振器14を制御する。なお、レーザ出力Pが所定の第1出力P1から所定の第2出力P2に切り替わる代わりに、ゼロに切り替わるか又は一旦ゼロにした後に所定の第2出力P2に切り替わってもよい。
【0027】
本実施形態においては、所定の第2出力P2は、例えば、1200W(周波数10Hz、デューティ比20%)である。制御装置26は、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRの所定箇所SRbに達すると、レーザ出力Pが所定の第2出力P2から所定の第1出力P1に切り替わるようにファイバレーザ発振器14を制御する。なお、レーザ出力Pが所定の第2出力P2ではなくゼロに切り替わる場合は、ゼロに切り替わった状態から所定の第1出力P1に切り替わる。
【0028】
続いて、本実施形態に係るレーザ加工方法について説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法は、ワークKに対してレーザ切断加工を行う方法である。
【0029】
図1から
図3に示すように、前記所定の場合には、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctの手前側に達するまで、制御装置26がヘッド移動部20を制御して、切断速度Vを所定の第1速度V
1を維持する。また、制御装置26がファイバレーザ発振器14を制御して、レーザ出力Pを所定の第1出力P
1に維持する。
【0030】
次に、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctまで至る間に、制御装置26がヘッド移動部20を制御して、切断速度Vを所定の第1速度V1からゼロまで所定の加速度(減速時の加速度)で徐々に減速する。そして、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctから所定箇所SRaに至る間に、制御装置26がヘッド移動部20を制御して、切断速度Vをゼロから所定の第2速度V2まで所定の加速度(加速時の加速度)で徐々に加速してその速度V2を維持する。また、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctに達すると、制御装置26がファイバレーザ発振器14を制御して、レーザ出力Pを所定の第1出力P1から所定の第2出力P2に切り替える。なお、レーザ出力Pを所定の第1出力P1から所定の第2出力P2に切り替える代わりに、ゼロに切り替えるか又は一旦ゼロにした後に所定の第2出力P2に切り替えてもよい。
【0031】
その後、レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRの所定箇所SRaに達すると、制御装置26がヘッド移動部20を制御して、切断速度Vを所定の第2速度V2から所定の第1速度V1まで所定の加速度(加速時の加速度)で徐々に加速する。また、制御装置26がファイバレーザ発振器14を制御して、レーザ出力Pを所定の第2出力P2から所定の第1出力P1に切り替える。なお、レーザ出力Pを所定の第2出力P2でなくゼロに切り替える場合は、一旦ゼロに切り替わった後に所定の第1出力P1に切り替える。
【0032】
ここで、前述のように、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctまで至る間における、切断速度Vを減速する加速度(減速時の加速度)は、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctから所定箇所SRaに至る間における、切断速度Vを加速する加速度(加速時の加速度)よりも小さく設定されている。
【0033】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。
【0034】
本実施形態の構成によると、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctに達した後における、切断速度Vの加速度を標準の加速度と同一又は同程度に保ちつつ、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctに至る間における、切断速度Vを減速する加速度(減速時の加速度)のみを下げることができる。これにより、切断速度Vを加速させる際にワークKへの入熱が過多になることを抑えつつ、レーザビームLBの照射位置の軌跡に対するワークKの裏面側の溶融金属の軌跡(切断位置の軌跡)の遅れを低減することができる。
【0035】
従って、
図4(a)に示すように、本実施形態によれば、軟鋼からなる厚板のワークKに対してレーザ切断加工を行う場合に、ワークKの裏面におけるコーナ部Cの外角側及び内角側の凹みを十分に小さくすることで、ワークKの加工品質の向上を図る。
図4(b)に示すように、本実施形態によれば、前記の場合に、ワークKの切断面におけるコーナ部Cの先端Ct(
図4(a)参照)に後続する部分が粗くなることを抑えることができる。
【実施例0036】
以下、実施例及び比較例について、
図2、
図5から
図10を参照して説明する。
【0037】
図2に示すように、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctの手前側からコーナ部Cの先端Ctに至る間における、切断速度Vの加速度(減速時の加速度)をパラメータとして変化させ、軟鋼からなる板厚22mmのワークKに対して切断試験を行った。所定の第1出力P
1は、5400W、所定の第2出力P
2は、1200Wにそれぞれ設定した。そして、切断試験の結果として、切断速度Vを減速させる加速度(減速時の加速度)と、ワークKの裏面におけるコーナ部Cの外角側及び内角側の凹みの凹み量との関係をまとめると、
図5に示すようになる。即ち、減速時の加速度が小さい程、コーナ部C側の凹みの凹み量が小さくなる傾向があることが判明した。なお、
図5中における4900mm/s
2は、標準の加速度である。
【0038】
(比較例1)
図2及び
図6に示すように、比較例1に係るレーザ加工方法は、ワークKに対してレーザ切断加工を行う方法であり、本実施形態に係るレーザ加工方法と同様の構成を有している。比較例1に係るレーザ加工方法の構成うち、本実施例に係るレーザ加工方法の構成と異なる点についてのみ説明する。
【0039】
切断速度Vを加速する加速度(加速時の加速度)は、切断速度Vを減速する加速度(減速時の加速度)と同一に設定されている。切断速度Vを加速する加速度、及び切断速度Vを減速する加速度は、それぞれ、標準の加速度よりも小さく設定されている。なお、
図6において、比較例1との比較のために、切断速度Vを標準の加速度で減速及び加速させる様子を二点鎖線で示している。
【0040】
比較例1に係るレーザ加工方法によると、
図7(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ加工方法と同様に、軟鋼からなる厚板のワークKに対してレーザ切断加工を行う場合に、ワークKの裏面におけるコーナ部Cの外角側及び内角側の凹みを十分に小さくすることできる。一方、比較例1に係るレーザ加工方法によると、
図7(b)に示すように、ワークKの切断面におけるコーナ部Cの先端Ct(
図7(a)参照)に後続する部分(一点鎖線で囲む部分)が粗くなることが確認された。これは、切断速度Vを加速させる際にワークKへの入熱が過多になることに起因していると考えられる。
【0041】
(比較例2)
図2及び
図8に示すように、比較例2に係るレーザ加工方法は、ワークKに対してレーザ切断加工を行う方法であり、本実施例に係るレーザ加工方法と同様の構成を有している。比較例2に係るレーザ加工方法の構成うち、本実施例に係るレーザ加工方法の構成と異なる点についてのみ説明する。
【0042】
切断速度Vを加速する加速度(加速時の加速度)は、切断速度Vを減速する加速度(減速時の加速度)と同一に設定されている。前記加速時の加速度及び前記減速時の加速度は、それぞれ、標準の加速度と同一又は同程度に設定されている。
【0043】
そして、比較例2に係るレーザ加工方法によると、
図9(a)に示すように、ワークKの裏面におけるコーナ部の外角側及び内角側に大きな凹みが発生することが確認された。これは、レーザビームLB(
図1参照)の照射位置の軌跡に対するワークKの裏面側の溶融金属の軌跡(切断位置の軌跡)の遅れが大きくことに起因していると考えられる。
【0044】
(比較例3)
図2及び
図10に示すように、比較例3に係るレーザ加工方法は、ワークKに対してレーザ切断加工を行う方法であり、比較例2に係るレーザ加工方法と同様の構成を有している。比較例3に係るレーザ加工方法の構成うち、比較例2に係るレーザ加工方法の構成と異なる点についてのみ説明する。
【0045】
レーザビームLBの照射位置Mが加工経路SRにおけるコーナ部Cの先端Ctに達した後に、レーザビームLBの照射位置Mをコーナ部Cの先端Ctに所定時間Taだけ停止させる。また、レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctに達すると、レーザ出力Pを所定の第1出力P1から所定の第1出力P1よりも低くかつ所定の第2出力P2も高い所定の中間出力Paに切り替える。レーザビームLBの照射位置Mがコーナ部Cの先端Ctに達した後に所定時間Ta経過後に、レーザ出力Pを所定の中間出力Paから所定の第1出力P1に切り替える。
【0046】
そして、比較例3に係るレーザ加工方法によると、
図9(b)に示すように、ワークKの裏面におけるコーナ部Cの内角側の凹みを低減できるものの、ワークKの裏面におけるコーナ部Cの外角側の凹みが大きくなることが確認された。これは、レーザビームLBの照射位置Mをコーナ部Cの先端Ctに停止させる際にワークKへの入熱が過多になることに起因していると考えられる。
【0047】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、適宜の変更を行うことにより、種々な態様で実施可能である。そして、本発明に包含される権利範囲は、前述の実施形態の説明に限定されないものである。