(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053870
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】発電機能性プリプレグシート及び発電機能性複合材と発電機能性プリプレグシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/18 20060101AFI20220330BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220330BHJP
H01L 41/37 20130101ALI20220330BHJP
H01L 41/257 20130101ALI20220330BHJP
【FI】
H01L41/18
H01L41/113
H01L41/37
H01L41/257
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160740
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勇希
(57)【要約】
【課題】可撓性を有し、種々の形状に変形可能であり、それ自体で発電機能を有する発電機能性プリプレグシートと、これを用いた発電機能性複合材と、発電機能性プリプレグシートの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂12が熱硬化前の熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂であり、強化繊維14が非導電性の連続繊維14aである発電機能性プリプレグシート10。圧電粒子16が、樹脂内に分散され樹脂内において分極処理されている。シート作製ステップS1~S3では、樹脂と圧電粒子を含む粉末混合液24を連続繊維14aに塗布して混合液含有シート26を作製する。乾燥ステップS4では、混合液含有シートを乾燥して可撓性プリプレグシート28を作製する。電極形成ステップS5では、可撓性プリプレグシートの両面に電極18を形成する。分極処理ステップS6では、可撓性プリプレグシートの両面間に直流電圧を印加し、圧電粒子16を分極処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を強化繊維で強化した複合材用の可撓性を有する発電機能性プリプレグシートであって、
前記樹脂は、熱硬化前の熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂であり、
前記強化繊維は、非導電性の連続繊維であり、
両面に電極を有し、
圧電粒子が、前記樹脂内に分散されかつ前記樹脂内において分極処理されている、発電機能性プリプレグシート。
【請求項2】
前記圧電粒子は、メディアン径が0.5μm以上0.7μm以下のKNN又はPZTのセラミック粒子であり、
非導電性の前記連続繊維は、ムライト繊維、ガラス繊維、又はSiC繊維の織物又は一方向繊維である、請求項1に記載の発電機能性プリプレグシート。
【請求項3】
請求項1に記載の発電機能性プリプレグシートを成形又は積層した、発電機能性複合材。
【請求項4】
樹脂を強化繊維で強化した複合材用の発電機能性プリプレグシートの製造方法であって、
前記樹脂は、成形前の熱硬化性樹脂、又は、柔軟性がある熱可塑性樹脂であり、
前記樹脂と圧電粒子を含む粉末混合液を非導電性の連続繊維に塗布し、又は前記連続繊維を前記粉末混合液に浸して混合液含有シートを作製するシート作製ステップと、
前記混合液含有シートを乾燥して平板状の可撓性プリプレグシートを作製する乾燥ステップと、
前記可撓性プリプレグシートの両面に電極を形成する電極形成ステップと、
前記可撓性プリプレグシートの両面間に直流電圧を印加し、前記圧電粒子を分極処理する分極処理ステップと、を有する、発電機能性プリプレグシートの製造方法。
【請求項5】
前記シート作製ステップは、
前記樹脂に溶媒を加えて樹脂溶液を作製する樹脂溶液作製ステップと、
前記樹脂溶液に前記圧電粒子を混合して前記粉末混合液を作製する混合液作製ステップと、を有する、請求項4に記載の発電機能性プリプレグシートの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂であり、
前記溶媒は、トルエンとイソプロピルアルコールの混合液であり、
前記圧電粒子は、KNNセラミック粒子であり、
重量比率は、前記樹脂:前記溶媒:前記圧電粒子=1:2:2~3.1であり、
前記粉末混合液の粘度は、10~50Pa・sである、請求項5に記載の発電機能性プリプレグシートの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂であり、
前記溶媒は、イソプロピルアルコールであり、
前記圧電粒子は、KNNセラミック粒子であり、
重量比率は、前記樹脂:前記溶媒:前記圧電粒子=1:0.3:1.7~2.7であり、
前記粉末混合液の粘度は、10~50Pa・sである、請求項5に記載の発電機能性プリプレグシートの製造方法。
【請求項8】
前記乾燥ステップにおいて、30℃以上100℃以下の温度範囲で、段階的に乾燥する、請求項4に記載の発電機能性プリプレグシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それ自体で発電機能を有する発電機能性プリプレグシートと、これを用いた発電機能性複合材と、発電機能性プリプレグシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、鉄やアルミなどの金属材料よりも低密度でありながら、力学特性に優れ、比強度が高く、軽くて強い特長を有する。
そのため、近年、アルミニウム合金に代わる構造部材として、航空機、小型船舶、自動車、風力発電ブレード、橋梁等に、用いられている。以下、繊維強化複合材を単に「複合材」又は「FRP」と呼ぶ。
【0003】
プリプレグとは、強化繊維(例えば、ガラス繊維や炭素繊維)からなる基材に樹脂を含浸させた中間素材である。樹脂は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である。
成形前の樹脂は、熱可塑性樹脂では柔軟性はあるが固化しており、熱硬化性樹脂では軟化(未硬化)している。
【0004】
圧電材料は、KNNやPZT等のセラミック材料もしくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の高分子材料により構成されている。セラミック系の圧電材料(圧電セラミック)ではひずみを加えることで結晶構造がゆがみ、電圧が生じる。この電位差に対して、結晶構造内の電荷が移動することで発電する。圧電セラミックは、振動等によって発生する電圧を活用したセンサや電力をIoT(Internet of Things)の電源等にするエネルギーハーベスティング技術で活躍が期待されている。
【0005】
しかし、圧電セラミックは脆性材料であり、かつ可撓性に乏しいため、使用範囲が限定される。そのため圧電セラミックは、力学的には引張や曲げといった圧縮以外の応力に対しては、効果的に電圧や電力を出力することが難しい。
そこで、複合材の樹脂中に圧電セラミックを含ませた複合部材が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1の「自己診断機能を有する複合部材とその製造方法」は、合成樹脂と導電性繊維層とから成る複合部材の合成樹脂中に、分極方向を配向させた圧電性粒子を含ませる。この複合部材は、導電性繊維層が電極となり、圧電性粒子の自発分極の電位に比例した電荷を蓄積して静電容量型センサを構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1による複合材(FRP)の製造方法は、以下の通りである。
(1)圧電材料としてPZT圧電体を使用し、分極処理を施したPZTセラミックをサブミクロン以下の粒径に粉砕して圧電セラミック微粒子を生成する。
(2)次に、硬化剤を含むエポキシ樹脂に対してアセトンを加え、この溶液と圧電セラミック微粒子とを混合し、この混合液をカーボンクロスに塗布する。
(3)次いで、カーボンクロスを金属板の上に置き、金属板とカーボンクロスとの間に直流電圧を印加し、荷重を加えながら、この状態を保って溶液を硬化し、FRP単位層を形成する。
【0009】
すなわち、特許文献1では、電圧を印加しながら複合材(FRP)を作製しており、分極処理と複合材の成形を同時に実施している。
そのため、特許文献1の方法では、樹脂が硬化していない圧電粒子含有プリプレグを製造することはできない。
また、特許文献1では硬化過程で電圧を印加しながら、分極処理したセラミック粒子を配向している。そのため、特許文献1の方法では成形前に固化している熱可塑性樹脂を用いたプリプレグを製造することはできない。
【0010】
一方、成形前のプリプレグシートは、成形後の複合材(FRP)と比較して以下の利点を有する。
(1)高い賦形性(可撓性)
(2)異種材料への接着可能性
(3)補強材としての機能
【0011】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、可撓性を有し、種々の形状に変形可能であり、それ自体で発電機能を有する発電機能性プリプレグシートと、これを用いた発電機能性複合材と、発電機能性プリプレグシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、樹脂を強化繊維で強化した複合材用の可撓性を有する発電機能性プリプレグシートであって、
前記樹脂は、熱硬化前の熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂であり、
前記強化繊維は、非導電性の連続繊維であり、
両面に電極を有し、
圧電粒子が、前記樹脂内に分散されかつ前記樹脂内において分極処理されている、発電機能性プリプレグシートが提供される。
【0013】
また本発明によれば、樹脂を強化繊維で強化した複合材用の発電機能性プリプレグシートの製造方法であって、
前記樹脂は、成形前の熱硬化性樹脂、又は、柔軟性がある熱可塑性樹脂であり、
前記樹脂と圧電粒子を含む粉末混合液を非導電性の連続繊維に塗布し、又は前記連続繊維を前記粉末混合液に浸して混合液含有シートを作製するシート作製ステップと、
前記混合液含有シートを乾燥して平板状の可撓性プリプレグシートを作製する乾燥ステップと、
前記可撓性プリプレグシートの両面に電極を形成する電極形成ステップと、
前記可撓性プリプレグシートの両面間に直流電圧を印加し、前記圧電粒子を分極処理する分極処理ステップと、を有する、発電機能性プリプレグシートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発電機能性プリプレグシートが樹脂を強化繊維で強化した複合材用の可撓性を有するプリプレグシートであり、樹脂が熱硬化前の熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂なので、可撓性を有し、種々の形状に変形可能である。
また、強化繊維が非導電性の連続繊維であり、圧電粒子が、樹脂内に分散されているので、両面の電極を用いて樹脂内において圧電粒子の分極処理ができる。
従って、発電機能性プリプレグシートは、可撓性を有し、種々の形状に変形可能であり、それ自体で発電機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による発電機能性プリプレグシートの説明図である。
【
図2】発電機能性プリプレグシートの模式的斜視図である。
【
図3】発電機能性プリプレグシートの製造方法の全体フロー図である。
【
図4】切り出し試験片番号と平均重量からのバラつき(%)との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明による発電機能性プリプレグシート10の説明図である。この図において、(A)は発電機能性プリプレグシート10の平面図、(B)は(A)のB-B断面図、(C)は(B)の部分拡大図、(D)は圧電セラミックの発電原理図である。
【0018】
図1(A)(B)(C)において、発電機能性プリプレグシート10は、樹脂12を強化繊維14で強化した複合材用のプリプレグシートである。
【0019】
樹脂12は、成形前の熱硬化性樹脂、又は、柔軟性がある熱可塑性樹脂である。
熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、等である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアミド樹脂である。
成形前の樹脂12は、熱可塑性樹脂では柔軟性はあるが固化しており、熱硬化性樹脂では軟化(未硬化)している。
【0020】
強化繊維14は、非導電性の連続繊維14aである。非導電性の強化繊維14は、例えば、ムライト繊維、ガラス繊維、又はSiC繊維の織物又は一方向繊維である。
「非導電性繊維」を用いるのは導電性繊維の場合、発生した電力(又は電荷)が強化繊維14を通って分散し、電極18からの取り出し効率が低下するためである。そのため電気抵抗率が低い炭素繊維(及びCFRP)は、本発明の対象外である。
「織物又は一方向繊維」を用いるのは、補強材としての機能(後述する)を高めるためである。
またプリプレグに直流電圧をかけて分極処理を実施する際、プリプレグ内に導電性繊維が内在すると、電荷が選択的に導電性繊維上を移動してしまい、セラミックが分極されない。そのため、非導電性繊維とすることで分極処理の際に、電荷を選択的にセラミック粒子上で移動させる必要がある。
【0021】
図1(A)(B)(C)において、圧電粒子16が、樹脂内に分散されかつ樹脂内において分極処理されている。
圧電粒子16は、メディアン径(d
50)が0.5μm以上0.7μm以下のKNN又はPZTのセラミック粒子であるのがよい。
【0022】
図1(D)において、左図は分極前、右図は分極後の圧電粒子16の分子を示している。
「分極」とは、分子中の二原子間の結合または分子全体に電荷の分布の偏りがあって、電気双極子モーメントをもっていることをいう。
分極前の分子は、プラスイオンとマイナスイオンが互いに相殺して全体として電荷の分布の偏りがない。これに対し、分極後の分子は、一部の陽イオンが変位して電荷の分布に偏りが生じている。
樹脂内の圧電粒子16は全体が同じように分極している必要がある。そのため、本発明の発電機能性プリプレグシート10は、プリプレグシートの形態ができた後、その両面間に直流電圧を印加することで樹脂内の圧電粒子16が分極化されている。
【0023】
図2は、発電機能性プリプレグシート10の模式的斜視図である。
発電機能性プリプレグシート10は、樹脂12が、成形前の熱硬化性樹脂、又は、柔軟性がある熱可塑性樹脂であるため、全体としてしなやかで賦形性を有する。
熱硬化性樹脂の場合、樹脂12は未硬化であり、発電機能性プリプレグシート10は、それを構成する非導電性の連続繊維14aと実質的に同等のしなやかさを有する。したがってこの状態で、面内変形は強化繊維14によって防止されるが、面外変形は自由にできる。
熱可塑性樹脂の場合、樹脂12は固化しているが、樹脂自体に柔軟性があるので、同様にしなやかさを有し、面外変形ができる。
【0024】
図2において、発電機能性プリプレグシート10の厚さをT、幅をW、長さをLとする。後述する実施例では、厚さ約0.2mm、幅150mm、長さ150mmであった。
また、発電機能性プリプレグシート10は、両面に電極18を有することが好ましい。後述する実施例では、発電機能性プリプレグシート10の両面にスパッタリングで金電極をコーティングした。
【0025】
図3は、本発明による発電機能性プリプレグシート10の製造方法の全体フロー図である。
この方法は、樹脂12を強化繊維14で強化した複合材用の発電機能性プリプレグシート10の製造方法であって、S1~S6の各ステップ(工程)からなる。
【0026】
S1~S3は、シート作製ステップであり、樹脂溶液作製ステップS1、混合液作製ステップS2、及び、混合液含有シート作製ステップS3を有する。
【0027】
樹脂溶液作製ステップS1では、樹脂12に溶媒11を加えて樹脂溶液22を作製する。樹脂12は、成形前の熱硬化性樹脂、又は、柔軟性がある熱可塑性樹脂である。
【0028】
混合液作製ステップS2では、樹脂溶液22に圧電粒子16を混合して粉末混合液24を作製する。
【0029】
樹脂12が、熱可塑性樹脂、例えばポリアミド樹脂である場合、溶媒11は、トルエンとイソプロピルアルコールの混合液であり、重量比率は、樹脂:溶媒:圧電粒子=1:2:2~3.1であるのがよい。
また、樹脂12が、熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂である場合、溶媒11は、イソプロピルアルコールであり、重量比率は、樹脂:溶媒:圧電粒子=1:0.3:1.7~2.7であるのがよい。
【0030】
圧電粒子16が、KNNセラミック粒子16aである場合、粉末混合液24の粘度は、10~50Pa・sであるのがよい。
【0031】
混合液含有シート作製ステップS3では、樹脂12と圧電粒子16を含む粉末混合液24を非導電性の連続繊維14aに塗布して混合液含有シート26を作製する。なお、非導電性の連続繊維14aを粉末混合液24に浸して混合液含有シート26を作製してもよい。
【0032】
乾燥ステップS4では、混合液含有シート26を乾燥して平板状の可撓性プリプレグシート28を作製する。なおこのステップにおいて、30℃以上100℃以下の温度範囲で、段階的に乾燥するのがよい。
【0033】
電極形成ステップS5では、可撓性プリプレグシート28の両面に電極18を形成する。
電極18は、分極処理ステップS6において両面間に直流電圧を印加するために用いる。また電極18は、完成した発電機能性プリプレグシート10又は発電機能性複合材30において、圧電による電圧や電力の出力に用いることができる。
【0034】
分極処理ステップS6では、可撓性プリプレグシート28の両面間に直流電圧を印加し、圧電粒子16を分極処理する。この分極処理により、発電機能性プリプレグシート10が完成する。
なお、プリプレグシートの用途によって、例えば複数枚積層させて複合材とする場合、電極形成ステップS5および分極処理ステップS6はそれらの処理の後で実施してもよい。
【0035】
本発明による発電機能性複合材30は、上述した発電機能性プリプレグシート10を成形又は積層したものであり、以下のステップ(工程)で製造する。
【0036】
樹脂12が熱硬化性樹脂の場合、樹脂12は未硬化であり、最初に発電機能性プリプレグシート10をそのまま成形又は積層して成形体又は積層体を製造する。次いで、熱硬化性樹脂の硬化温度(例えば約180℃)以上まで加熱して樹脂12を硬化させて発電機能性複合材30が完成する。
【0037】
樹脂12が熱可塑性樹脂の場合、樹脂12は固化している。そのため、最初に発電機能性プリプレグシート10を熱可塑性樹脂が軟化する軟化温度以上まで加熱した後、成形又は積層して成形体又は積層体を製造する。次いで、熱可塑性樹脂が固化する固化温度以下(例えば200℃~400℃未満)まで冷却して発電機能性複合材30が完成する。
【0038】
上述した本発明の実施形態によれば、発電機能性プリプレグシート10が樹脂12を強化繊維14で強化した複合材用の可撓性を有するプリプレグシートであり、樹脂12が熱硬化前の熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂なので、種々の形状に変形可能である。
また、強化繊維14が非導電性の連続繊維14aであり、圧電粒子16が、樹脂内に分散されているので、両面の電極18を用いて樹脂内において圧電粒子16の分極処理ができる。
従って、発電機能性プリプレグシート10は、可撓性を有し、種々の形状に変形可能であり、それ自体で発電機能を有する。
【実施例0039】
図3に示した方法により混合液含有シート26を製造した。その際、溶質(樹脂12)と溶媒11の比率調整により粘度調整を実施した。
【0040】
発電機能性プリプレグシート10の試作では粉末混合液24を織物(非導電性の連続繊維14a)に均一に塗布するために、ステップS3において粉末混合液24を織物上に垂らし、次いで、樹脂ヘラで均等に拡げる作業を実施した。この時、適切な粘度および溶液比率とすることで、均一かつしなやかな混合液含有シート26を作製することができた。
作製した混合液含有シート26は、厚さ約0.2mm、幅150mm、長さ150mmである。
【0041】
粉末混合液24の粘度を溶質(樹脂12)と溶媒11の比率にて調整した。この時、溶質が多く溶媒11が少なすぎると粘度が低下し、また乾燥しやすいため、溶液を面内方向に均一に伸ばすことができない。溶質が少なく溶媒11が多すぎると、流動性が高く押し広げる作業にて溶液塗布を制御できず、織物外部へ流出してしまう。
試作の繰り返しにより、塗布性において以下が最適値であることがわかった。調整においては、粉末(圧電粒子16)が入ることで、通常のプリプレグの比率よりも溶媒11が多めとなった。また、実際のプリプレグの製造は塗布ではなく、溶液に織物を浸す手法が用いられるが、塗布した状態では織物を持ちあげても溶液が滴下しないため、下記溶液構成は実際の製造においても適したものであると推察される。
【0042】
溶質(樹脂):ポリアミド樹脂(熱可塑性樹脂)
溶媒:トルエン+IPA(イソプロピルアルコール)
粉末:KNNセラミック粒子
重量比率:溶質:溶媒:粉末=1:2:2~3.1
粘度(推定):10~50Pa・s
【0043】
溶質(樹脂):エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)
溶媒:イソプロピルアルコール
粉末:KNNセラミック粒子
重量比率:溶質:溶媒:粉末=1:0.3:1.7~2.7
粘度(推定):10~50Pa・s
実施例1で得た熱可塑性樹脂の混合液含有シート26を乾燥して平板状の可撓性プリプレグシート28を作製した。その際、粉末(圧電粒子16)が入ることで溶媒11が多めとなったため、段階的な乾燥条件を設けることで、乾燥ムラを抑制した。
溶媒11を多く含む場合、溶媒の単位時間当たりの乾燥量が多いと、溶媒の織物外への拡散に伴い樹脂12および粉末(圧電粒子16)が織物内で移動し、乾燥ムラが発生する。そのため、30℃3時間、50℃3時間、80℃3時間、100℃3時間の段階的な乾燥条件を設けた。
完成した厚さ約0.2mm、幅150mm、長さ150mmの可撓性プリプレグシート28を9分割して幅50mm、長さ50mmの9枚の試験片を得た。
上述したように、均一塗布および段階的な乾燥プロセスにより、面内方向にマクロな偏りがない可撓性プリプレグシート28が得られた。また、この可撓性プリプレグシート28は、厚み方向においても高い均一性を有していた。
上述した均一な可撓性プリプレグシート28を用いることで、品質のよい積層平板の作製が可能となった。厚み方向およびに表面に過不足なく均一に樹脂12が存在しているため、加圧時に空隙の要因となる樹脂不足の箇所が発生しない。
そのため、最大30枚の可撓性プリプレグシート28を用いて厚さ5mm、150×150mmの平板において空隙率5%以下を達成した。