(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053912
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20220330BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20220330BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20220330BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C08J5/00 CEV
C08J5/00 CEY
C08L27/06
C08L33/12
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160805
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 宏之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA24
4F071AA33
4F071AA81
4F071AA88
4F071AF25Y
4F071AF32Y
4F071AH03
4F071AH07
4F071AH12
4F071BB05
4F071BC03
4F206AA15
4F206AA21
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JM05
4F206JQ81
4J002BD03W
4J002BG06X
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】光沢度が高く、かつ耐傷付き性に優れた成形品、及び前記成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂が配合されたアロイ樹脂が成形された成形品において、前記塩化ビニル系樹脂と前記メチルメタクリレート系樹脂の質量比を60:40~80:20とし、表面の光沢度を65%以上、鉛筆硬度をH以上とする。また、塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂とが質量比60:40~80:20で配合されたアロイ樹脂をヒートアンドクール成形して成形品を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂が配合されたアロイ樹脂が成形された成形品であって、
前記塩化ビニル系樹脂と前記メチルメタクリレート系樹脂の質量比が60:40~80:20であり、表面の光沢度が65%以上であり、鉛筆硬度がH以上である、成形品。
【請求項2】
前記塩化ビニル系樹脂が硬質塩化ビニル系樹脂である、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の成形品を製造する方法であって、
塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂とが質量比60:40~80:20で配合されたアロイ樹脂をヒートアンドクール成形して成形品を得る、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質塩化ビニル系樹脂は、一般に難燃性及び耐薬品性に優れるため、パイプ、一般建材等の用途に広く用いられている。また、硬質塩化ビニル系樹脂の特性を改善する目的で、塩化ビニル系樹脂にアクリル樹脂やABS樹脂等をアロイとして添加することも知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来では、アロイ樹脂を用いて光沢度が高く、かつ耐傷付き性に優れた成形品が得られにくい傾向がある。
【0005】
本発明は、光沢度が高く、かつ耐傷付き性に優れた成形品、及び前記成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂が配合されたアロイ樹脂が成形された成形品であって、前記塩化ビニル系樹脂と前記メチルメタクリレート系樹脂の質量比が60:40~80:20であり、表面の光沢度が65%以上であり、鉛筆硬度がH以上である、成形品。
[2]前記塩化ビニル系樹脂が硬質塩化ビニル系樹脂である、[1]に記載の成形品。
[3][1]又は[2]に記載の成形品を製造する方法であって、塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂とが質量比60:40~80:20で配合されたアロイ樹脂をヒートアンドクール成形して成形品を得る、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光沢度が高く、かつ耐傷付き性に優れた成形品、及び前記成形品の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[成形品]
本発明の成形品は、塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC系樹脂」と記す。)とメチルメタクリレート系樹脂(以下、「MMA系樹脂」と記す。)とが質量比60:40~80:20で配合されたアロイ樹脂が成形された成形品である。また、本発明の成形品は、表面の光沢度が65%以上であり、鉛筆硬度がH以上である。
【0009】
成形品の表面の光沢度は、65%以上であり、70%以上90%以下が好ましい。光沢度が前記範囲の前記下限値以上であれば、外観が良く、強度も強くなる。光沢度が前記範囲の前記上限値以下であれば、表面が硬くなり傷つきにくくなる。
なお、光沢度は、JIS Z8741-1997に準拠して測定される入射角65°での光沢度を意味する。
【0010】
成形品の鉛筆硬度は、H以上であり、2H以上が好ましい。鉛筆硬度が前記下限値以上であれば、成形品の耐傷付き性に優れる。アロイ樹脂の鉛筆硬度は、PVC系樹脂とMMA系樹脂との質量比等によって調節できる。
なお、アロイ樹脂の鉛筆硬度は、JIS K5600-5-4に準拠して測定される。
【0011】
PVC系樹脂とMMA系樹脂との質量比は、60:40~80:20であり、50:50~70:30が好ましい。PVC系樹脂の割合が高いほど、耐溶剤性が向上する。MMA系樹脂の割合が高いほど、光沢度、耐傷付き性が向上する。
【0012】
PVC系樹脂は、塩化ビニル由来の繰り返し単位(以下、「塩化ビニル単位」とも記す。)の割合が全繰り返し単位に対して50質量%超の重合体である。PVC系樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であってもよく、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体であってもよい。PVC系樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。アロイ樹脂に含まれるPVC系樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0013】
PVC系樹脂中の塩化ビニル単位の割合は、全繰り返し単位に対して、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
【0014】
塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体としては、特に限定されず、例えば、脂肪酸ビニルエステル、アクリレート、メタクリレート、シアン化ビニル、ビニルエーテル、α-オレフィン、不飽和カルボン酸又はその酸無水物、塩化ビニリデン、臭化ビニル、各種ウレタンを例示できる。
【0015】
脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニルを例示できる。アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートを例示できる。メタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートを例示できる。シアン化ビニルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルを例示できる。ビニルエーテルとしては、ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテルを例示できる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレンを例示できる。不飽和カルボン酸又はその酸無水物類としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸を例示できる。塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
PVC系樹脂の平均重合度は、400以上1200以下が好ましく、500以上800以下がより好ましく、550以上700以下がさらに好ましい。PVC系樹脂の平均重合度が前記範囲の下限値以上であれば、鉛筆硬度が向上する。PVC系樹脂の平均重合度が前記範囲の上限値以下であれば、成形加工性が向上する。
なお、平均重合度は、JIS K 6720-2によって測定される。
【0017】
PVC系樹脂としては、硬質塩化ビニル樹脂であってもよく、軟質塩化ビニル樹脂であってもよいが、成形品の表面硬度が高く、耐傷付き性に優れる点から、硬質塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0018】
MMA系樹脂は、メチルメタクリレート(MMA)由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」とも記す。)の割合が全繰り返し単位に対して80質量%以上の重合体である。MMA系樹脂は、MMAの単独重合体であってもよく、MMAと、MMA以外の(メタ)アクリレートとの共重合体であってもよい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレートとアクリレートの総称である。MMA系樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。アロイ樹脂に含まれるMMA系樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0019】
MMA系樹脂中のMMA単位の割合は、全繰り返し単位に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。MMA単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、成形性が向上する。
【0020】
MMA以外の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートを例示できる。MMA系樹脂に用いるMMA以外の(メタ)アクリレートは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0021】
MMA系樹脂の重量平均分子量は、10,000以上600,000以下が好ましく、20,000以上400,000以下がより好ましい。MMA系樹脂の重量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、鉛筆硬度が向上する。MMA系樹脂の重量平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、強度が向上する。
【0022】
MMA系樹脂の数平均分子量は、5,000以上300,000以下が好ましく、10,000以上200,000以下がより好ましい。MMA系樹脂の数平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、鉛筆硬度が向上する。MMA系樹脂の数平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、強度が向上する。
重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。
【0023】
MMA系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1.0g/10分以上20g/10分以下が好ましく、2.0g/10分以上15g/10分以下がより好ましい。MMA系樹脂のMFRが前記範囲の下限値以上であれば、加工性が良好となる。MMA系樹脂のMFRが前記範囲の上限値以下であれば、鉛筆硬度が向上する。
なお、MFRは、JIS K 7210に準拠し、荷重37.3N、温度230℃の条件で測定される。
【0024】
アロイ樹脂中のPVC系樹脂とMMA系樹脂の合計の割合は、アロイ樹脂の総質量に対して、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0025】
アロイ樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて熱安定剤、光安定剤、滑剤、充填剤等の添加剤を添加することができる。成形に用いるアロイ樹脂の形態は、特に限定されず、例えば、ペレット状を例示できる。
【0026】
[成形品の製造方法]
本発明の成形品の製造方法は、本発明の成形品を製造する方法である。本発明では、塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂とが質量比60:40~80:20で配合されたアロイ樹脂をヒートアンドクール成形して成形品を得る。
【0027】
ヒートアンドクール成形は、射出成形において、金型のキャビティ面を所定の温度に昇温した状態で溶融樹脂を射出した後、金型のキャビティ面を冷却して溶融樹脂を固化させて成形品を得る成形方法である。ヒートアンドクール成形における金型のキャビティ面の温度が下降していくときに成形品の表面に金型キャビティ面が転写され艶が生じ、光沢度が高くなる。また、ヒートアンドクール成形により、金型への射出時に溶融状態のアロイ樹脂が冷却されて固化することが抑制されるため、成形品の表面にウェルドラインが形成されにくくなる。
【0028】
ヒートアンドクール成形に採用する方式は、特に限定されず、例えば、高周波誘導加熱方式、熱媒体加熱方式、電気ヒータ加熱方式、断熱金型方式を例示できる。熱媒体加熱方式における金型加熱用の熱媒体としては、例えば、蒸気、熱水、油を例示できる。金型冷却用の熱媒体としては、例えば、水を例示できる。
【0029】
ヒートアンドクール成形では、例えば、所定温度に昇温した金型に溶融樹脂を射出し、保圧した後、金型を所定温度まで冷却して溶融樹脂を固化させ、金型を開いて成形品を脱型する。
【0030】
溶融樹脂(アロイ樹脂)の射出時の金型のキャビティ面温度は、90℃以上160℃以下が好ましく、120℃以上140℃以下がより好ましい。射出充填時に温調するキャビティ面の温度が前記範囲の下限値以上であれば、成形品にフローマークやウェルドラインが生じることを抑制でき、また転写性が向上する。射出充填時に温調するキャビティ面の温度が前記範囲の上限値以下であれば、成形品にヤケが生じることを抑制できる。
【0031】
溶融樹脂(アロイ樹脂)の射出温度、すなわちキャビティに射出充填する溶融樹脂の温度は、160~200℃が好ましく、170~190℃がより好ましい。溶融樹脂の射出温度が前記範囲の下限値以上であれば、樹脂の流動性が良好となりキャビティ内に樹脂を充填することができる。溶融樹脂の射出温度が前記範囲の上限値以下であれば、金型端部のバリを抑制できる。
【0032】
射出後の保圧時間は、3秒以上30秒以下が好ましく、5秒以上10秒以下がより好ましい。保圧時間が前記範囲の下限値以上であれば、転写性が向上する。保圧時間が前記範囲の上限値以下であれば、成形品にヤケが生じることを抑制しやすい。
【0033】
冷却固化時の金型のキャビティ面温度は、10℃以上50℃以下が好ましく、15℃以上45℃以下がより好ましい。固化時に温調するキャビティ面の温度が前記範囲内の下限値以上であれば、キャビティ面が樹脂に転写され、鏡面であれば光沢が向上し、良好となる。固化時に温調するキャビティ面の温度が前記範囲内の上限値以下であれば、成形品の取り出した後の形状保持が良好となる。
【0034】
以上説明した本発明の成形品は、PVC系樹脂とMMA系樹脂の質量比が特定の比率に制御され、光沢度及び鉛筆硬度が高く制御されているため、光沢度が高く、かつ耐傷付き性に優れている。
本発明の成形品の用途は、特に限定されず、例えば、車両や建材や家電等が挙げられる。
【実施例0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0036】
[光沢度]
成形品の表面の光沢度は、JIS Z8741-1997に準拠し、入射角を65°として測定した。
【0037】
[鉛筆硬度]
成形品の表面の鉛筆硬度は、JIS K5600-5-4に準拠して測定した。
【0038】
[実施例1]
PVC系樹脂としてTJZ-1230(商品名、信越ポリマー社製、塩化ビニル単位の割合:87質量%、平均重合度:700)80質量部と、MMA系樹脂としてアクリルペレット VH-001(商品名、三菱ケミカル社製、MMA単位の割合:90質量%、重量平均分子量:90,000、数平均分子量:50,000、MFR:2.0g/10分)20質量部とを配合したアロイ樹脂を用い、ヒートアンドクール成形によって板状の成形品を作製した。
ヒートアンドクール成形は、金型加熱用の熱媒体として蒸気、金型冷却用の熱媒体として水を用いた熱媒体加熱方式とした。溶融樹脂(アロイ樹脂)の射出時の金型のキャビティ面温度は140℃、射出後の保圧時間は5秒、冷却固化時の金型のキャビティ面温度は45℃、冷却開始から型開きまでの時間は5分とした。
【0039】
[実施例2、3]
PVC系樹脂とMMA系樹脂の質量比を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0040】
[比較例1、2]
PVC系樹脂とMMA系樹脂の質量比を表1に示すとおりに変更し、ヒートアンドクール成形を採用せず、キャビティ面の温度を金型温度と同一とした条件の射出成形とした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0041】
各例の製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示すように、実施例1~3の成形品は、金型キャビティ面の鏡面が転写され表面の光沢度が高く、また鉛筆硬度が高く耐傷付き性にも優れていた。
一方、ヒートアンドクール成形を採用していない比較例1、2は、キャビティ面の鏡面転写が悪く表面の光沢度が低く、鉛筆硬度も低かった。